(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040664
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】プロジェクタ
(51)【国際特許分類】
G03B 21/00 20060101AFI20240318BHJP
H04N 5/74 20060101ALI20240318BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
G03B21/00 D
H04N5/74 A
G03B21/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145148
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴之
【テーマコード(参考)】
2K203
5C058
【Fターム(参考)】
2K203FA22
2K203FA30
2K203FA44
2K203GB02
2K203GC26
2K203HA53
2K203MA01
5C058BA11
5C058EA02
5C058EA11
5C058EA24
5C058EA51
(57)【要約】
【課題】 表示像の焦点深度を調整可能とし、曲面や傾斜面を含むスクリーンであっても、ボケの少ない表示像を投影できるプロジェクタを提供する。
【解決手段】 表示像Vを投影するプロジェクタ1であって、レーザ光を出射するレーザ光源11と、レーザ光を回折して表示像Vを形成する空間位相変調器13と、空間位相変調器13を制御する制御部15と、を備え、制御部15は、空間位相変調器13の表示像形成領域13aを変更することで、表示像Vの焦点深度を調整する焦点深度調整手段を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示像を投影するプロジェクタであって、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光を回折して前記表示像を形成する空間位相変調器と、
前記空間位相変調器を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記空間位相変調器の表示像形成領域を変更することで、前記表示像の焦点深度を調整する焦点深度調整手段を備える、プロジェクタ。
【請求項2】
前記空間位相変調器は、反射型であり、
前記制御部は、前記表示像形成領域を狭くする際、前記表示像形成領域の外周側のマスク領域に、0次光を前記表示像形成領域外に分散可能な分散パターンを表示させる0次光分散手段を備える、請求項1に記載のプロジェクタ。
【請求項3】
前記分散パターンは、格子パターン、縦縞パターン、横縞パターンのいずれかである、請求項2に記載のプロジェクタ。
【請求項4】
前記表示像は、計算機生成ホログラムによるものであり、
前記制御部は、表示する物体データに、物体の表示位置を決めるレンズデータを加算して前記空間位相変調器の表示像形成パターンを算出する表示像形成パターン算出手段を備え、
前記表示像形成パターン算出手段は、前記マスク領域に前記レンズデータを加算しない、請求項2又は3に記載のプロジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
空間位相変調器(SLM:Spatial Light Modulator)を用いて表示像を投影するプロジェクタが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種のプロジェクタでは、曲面や傾斜面を含むスクリーンに表示像を投影すると、焦点が合わない投影領域が発生し、表示像がボケやすいという課題があった。
【0005】
そこで、本開示は、表示像の焦点深度を調整可能とし、曲面や傾斜面を含むスクリーンであっても、ボケの少ない表示像を投影できるプロジェクタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、表示像を投影するプロジェクタであって、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光を回折して前記表示像を形成する空間位相変調器と、
前記空間位相変調器を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記空間位相変調器の表示像形成領域を変更することで、前記表示像の焦点深度を調整する焦点深度調整手段を備えるプロジェクタが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、表示像の焦点深度を調整可能とし、曲面や傾斜面を含むスクリーンであっても、ボケの少ない表示像を投影できるプロジェクタの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施例のプロジェクタの構成を側方からの断面視で示す概略図である。
【
図2】(a)は空間位相変調器の表示像形成領域が広い状態を示す模式図、(b)は空間位相変調器の表示像形成領域が広いことにより、焦点深度が狭く(浅く)なっていることを示す図である。
【
図3】(a)は空間位相変調器の表示像形成領域を狭くした状態を示す模式図、(b)は空間位相変調器の表示像形成領域を狭くしたことにより、焦点深度が広く(深く)なっていることを示す図である。
【
図4】表示像に生じうる0次光の影響を示す図である。
【
図5】空間位相変調器のマスク領域に表示させる分散パターン(一例)を示す図である。
【
図7】空間位相変調器のマスク領域に表示させる分散パターン(他例)を示す図である。
【
図9】(a)は表示像形成パターンから求めた輝度レベルの例を示す図、(b)は
図5の分散パターンを輝度レベルで示した図、(c)は
図7の分散パターンを輝度レベルで示した図である。
【
図10】表示像形成パターンの算出例を示す図である。
【
図11】マスク領域にレンズデータを加算した場合の表示像を示す図である。
【
図12】マスク領域にレンズデータを加算しない場合の説明図である。
【
図13】マスク領域にレンズデータを加算しない場合の効果を示す図である。
【
図14】(a)はマスク領域の実施例を示す図、(b)はマスク領域の第1変形例を示す図、(c)はマスク領域の第2変形例を示す図、(d)はマスク領域の第3変形例を示す図、(e)はマスク領域の第4変形例を示す図である。
【
図15】本実施例によるプロジェクタの適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面では、見やすさのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
図1は、本実施例のプロジェクタ1の構成を側方からの断面視で示す概略図である。
図1に示すように、本実施例のプロジェクタ1は、表示光PLを出射することで、不図示のスクリーンに表示像Vを投影させる。例えば、プロジェクタ1は、計算機生成ホログラム(CGH:Computer-Generated Hologram)を構成する干渉縞を含む表示光PLを出射する。
【0011】
プロジェクタ1は、レーザ光源11と、コリメート部12と、空間位相変調器13と、ケース14と、制御部15とを含む。
【0012】
レーザ光源11は、例えば、緑色のレーザ光を出射するレーザダイオードを含んでなる。なお、本実施例では、一例として、レーザ光源11は、単一(1色)で設けられるが、複数設けられてもよい。例えば、RGB用の3つの光源が利用されてもよい。
【0013】
コリメート部12は、レーザ光源11の光を平行光にし、空間位相変調器13に向けて出射する。コリメート部12は、レーザ光源11の光を実質的に平面波の形態で空間位相変調器13に入射させてよい。
【0014】
空間位相変調器13は、CGHに基づく干渉縞を表示する反射型の変調器(空間光変調器)である。空間位相変調器13は、制御部15による制御下で動作する。空間位相変調器13は、例えば、LCOS-SLM(Liquid Crystal on Silicon-Spatial Light Modulator)が用いられる。
【0015】
ケース14は、レーザ光源11、コリメート部12及び空間位相変調器13を収容する。ケース14は、出射口14aを有し、出射口14aを介して表示光PLがケース14内からスクリーンに向けて出射される。なお、出射口14aは、透明性の防塵カバーでカバーされてよい。
【0016】
制御部15は、CPU、ROM、RAMなどを備える制御用コンピュータであり、入力又は記憶された表示像データに基づいて空間位相変調器13を制御し、スクリーンに表示像Vを表示させる。制御部15は、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される機能構成として、焦点深度調整手段、0次光分散手段、表示像形成パターン算出手段などを備える。以下、これらの機能構成について、
図2~
図13を参照しながら順次説明する。
【0017】
図2の(a)は、空間位相変調器13の表示像形成領域13aが広い状態を示す模式図、
図2の(b)は、空間位相変調器13の表示像形成領域13aが広いことにより、焦点深度が狭く(浅く)なっていることを示す図である。
制御部15は、入力又は記憶された表示像データから空間位相変調器13の表示像形成パターンVPを算出し、算出した表示像形成パターンVPに基づいて空間位相変調器13を制御する。
図2の(a)に示すように、通常の表示像形成パターンVP(空間位相変調器13の全表示領域を表示像形成領域13aとして使用するパターン)では、焦点深度が狭くなり、焦点位置からずれると表示像Vにボケが生じやすい。例えば、
図2の(b)に示すように、プロジェクタ1(空間位相変調器13)からの距離が300mm、400mm、500mm、600mm、700mm、800mm、900mm、1000mmのスクリーンを想定する。これらのスクリーンに対して、焦点距離が600mmの表示像Vを投影した場合、600mmの距離に設置したスクリーンでは、ボケのない表示像Vが表示される。一方、500mmの距離に設置したスクリーンや700mmの距離に設置したスクリーンでは、表示像Vにボケが生じる。また、400mm以下の距離に設置したスクリーンや800mm以上の距離に設置したスクリーンでは、ボケが酷くなって表示像Vの認識が困難になる可能性がある。したがって、焦点深度が狭い場合は、曲面や傾斜面を含むスクリーンに表示像Vを投影すると、焦点が合わない投影領域が発生し、表示像Vにボケが生じる可能性がある。
【0018】
図3の(a)は、空間位相変調器13の表示像形成領域13aを狭くした状態を示す模式図、
図3の(b)は、空間位相変調器13の表示像形成領域13aを狭くしたことにより、焦点深度が広く(深く)なっていることを示す図である。
焦点深度調整手段は、空間位相変調器13の表示像形成領域13aを変更することで、表示像Vの焦点深度を調整する。例えば、
図3の(a)に示すように、空間位相変調器13の全表示領域のうち、表示像形成領域13aを中心部だけに絞り込み、その外周側を表示像Vを形成しないマスク領域13bとすることにより、焦点深度を広くする。このような焦点深度調整によれば、焦点深度を広くすることで、曲面や傾斜面を含むスクリーンであっても、ボケの少ない表示像Vを投影することが可能になる。例えば、
図3の(b)に示すように、プロジェクタ1(空間位相変調器13)からの距離が300mm、400mm、500mm、600mm、700mm、800mm、900mm、1000mmのスクリーンを想定する。これらのスクリーンに対して、焦点距離が600mmで、且つ焦点深度が広い表示像Vを投影した場合、600mmの距離に設置したスクリーンだけでなく、全てのスクリーンにおいてボケのない表示像Vを表示することが可能になる。この原理は、カメラの絞り値を大きくすると、焦点深度が広くなり、ピントの合っている距離範囲が広くなるのと類似の原理である。
【0019】
上記のような原理で焦点深度を広くする場合、表示像形成に使用できる空間位相変調器13の領域が制限されるため、表示像Vの解像度が低下する可能性がある。したがって、要求される表示像Vの解像度と焦点深度との関係に基づいて複数の焦点深度調整パターンを用意し、その中から適合する焦点深度調整パターンを選択できるようにすることが望ましい。例えば、焦点深度は狭いが、表示像Vの解像度が高いパターンと、表示像Vの解像度はやや低下するが、焦点深度が広いパターンとを用意し、いずれかのパターンを選択可能とする。
【0020】
図4は、表示像Vに生じうる0次光の影響を示す図である。
本実施形態の空間位相変調器13は、反射型であるため、その領域に表示像Vを形成しないマスク領域13bを設定したとしても、マスク領域13bからの反射光は発生する。この反射光は、不要光L0となり、表示像Vの画質を低下させる可能性がある。例えば、
図4に示すように、表示像Vの中心に強い輝度の0次光が発生し、これが不要光L0となって表示像Vの画質を低下させる可能性がある。
【0021】
図5は、空間位相変調器13のマスク領域13bに表示させる分散パターンP1(一例)を示す図であり、
図6は、
図5の分散パターンP1の効果を示す図である。
0次光分散手段は、表示像形成領域13aを狭くする際、表示像形成領域13aの外周側のマスク領域13bに、0次光を表示像形成領域13aの外に分散可能な分散パターンP1を表示させる。
図5に示す分散パターンP1は、位相(輝度レベル)の異なる2種類のパターン要素P1a、P1bを格子状に配列し、格子状の位相差(輝度レベル)を生じさせる格子パターンである。このような分散パターンP1によれば、
図6に示すように、不要光L0を表示像形成領域13aの外の4方向に分散させ、表示像Vの画質低下を回避できる。
【0022】
図7は、空間位相変調器13のマスク領域13bに表示させる分散パターンP2(他例)を示す図であり、
図8は、
図7の分散パターンP2の効果を示す図である。
図7に示す分散パターンP2は、位相(輝度レベル)の異なる2種類のパターン要素P2a、P2bを横縞状に配列し、横縞状の位相差(輝度レベル)を生じさせる横縞パターンである。このような分散パターンP2によれば、
図8に示すように、不要光L0を表示像形成領域13aの外の2方向に分散させ、表示像Vの画質低下を回避できる。なお、分散パターンP1、P2は、上記の格子パターンや横縞パターンに限定されず、縦縞パターンなどであってもよい。
【0023】
図9の(a)は、表示像形成パターンVPから求めた輝度レベルの例を示す図、
図9の(b)は、
図5の分散パターンP1を輝度レベルで示した図、
図9の(c)は、
図7の分散パターンP2を輝度レベルで示した図である。
空間位相変調器13において位相型CGHの表示像形成パターンVPを表示する際には、与える位相差を画素の輝度レベルに変換して空間位相変調器13に入力する。例えば、空間位相変調器13の輝度レベルが8ビットの場合、表示像形成パターンVPの位相差を0~255までの輝度レベルに換算する(
図9の(a)参照)。したがって、空間位相変調器13のマスク領域13bに
図5に示す分散パターンP1を表示させる場合は、例えば、輝度レベルが0のパターン要素P1aと、輝度レベルが128のパターン要素P1bとを格子状に配列したデータを用いる(
図9の(b)参照)。また、空間位相変調器13のマスク領域13bに
図7に示す分散パターンP2を表示させる場合は、例えば、輝度レベルが0のパターン要素P2aと、輝度レベルが128のパターン要素P2bとを横縞状に配列したデータを用いる(
図9の(c)参照)。
【0024】
図10は、表示像形成パターンVPの算出例を示す図であり、
図11は、マスク領域13bにレンズデータD2を加算した場合の表示像Vを示す図である。
図10に示すように、表示像形成パターン算出手段は、表示する物体データD1に、物体の表示位置を決めるレンズデータD2を加算して空間位相変調器13の表示像形成パターンVPを算出する。しかしながら、表示像形成領域13a及びマスク領域13bにレンズデータD2を加算した場合、
図11に示すように、ぼけて大きくなった回折光L1が表示像Vに発生し、表示像Vの画質を低下させる可能性がある。
【0025】
図12は、マスク領域13bにレンズデータD2を加算しない場合の説明図であり、
図13は、マスク領域13bにレンズデータD2を加算しない場合の効果を示す図である。
表示像形成パターン算出手段は、
図12に示すように、焦点深度を広げるべくマスク領域13bを設定する際、マスク領域13bにレンズデータD2を加算せず、分散パターンP1、P2のまま使用する。このようにすると、
図13に示すように、焦点深度を広げつつ、回折光L1が発生しない表示像Vを投影することが可能になる。
【0026】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0027】
例えば、マスク領域13bの態様は、
図14の(a)に示すように、表示像形成領域13aを長方形とする態様だけでなく、
図14の(b)~(e)に示すような態様としてもよい。例えば、
図14の(b)に示すマスク領域13bによれば、表示像形成領域13aを正方形とすることができる。また、
図14の(c)に示すマスク領域13bによれば、表示像形成領域13aを円形とすることができる。また、
図14の(d)に示すマスク領域13bによれば、表示像形成領域13aを楕円形とすることができる。また、
図14の(a)~(d)に示すマスク領域13bでは、表示像形成領域13aを2方向(
図14における上下方向及び左右方向)で絞り込んでいるが、
図14の(e)に示すように、1方向(
図14における左右方向)でのみ絞り込んでもよい。
【0028】
また、本実施例によるプロジェクタ1の用途は任意に選択できる。例えば、
図15に示すように、プロジェクタ1を車室100の天井部101に設置し、ステアリングホイール102やメータパネル103に対して表示像Vを投影する用途に好適である。この場合、スクリーンとなるステアリングホイール102やメータパネル103は、プロジェクタ1から見て傾斜面であり、さらに、ステアリングホイール102は、曲面を含むため、通常のプロジェクタでは、投影した表示像Vにボケが生じやすい。また、ステアリングホイール102とメータパネル103とでは、プロジェクタ1からの距離が異なるため、通常のプロジェクタでは、ステアリングホイール102とメータパネル103とに同時に表示像Vを投影することが困難である。一方、本実施例によるプロジェクタ1は、前述した焦点深度調整手段を備えるので、焦点深度を広げれば、ステアリングホイール102やメータパネル103にボケの少ない表示像Vを投影することが可能になる。また、焦点深度をさらに広げれば、ステアリングホイール102とメータパネル103とに同時に表示像Vを投影することも可能になる。
【符号の説明】
【0029】
1 プロジェクタ
11 レーザ光源
13 空間位相変調器
13a 表示像形成領域
13b マスク領域
15 制御部
P1、P2 分散パターン