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  • 特開-水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法 図1
  • 特開-水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法 図2
  • 特開-水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040690
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20240318BHJP
   B28C 7/00 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
G01N33/38
B28C7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145201
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【弁理士】
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 尚子
(72)【発明者】
【氏名】有馬 冬樹
【テーマコード(参考)】
4G056
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056DA05
4G056DA09
(57)【要約】
【課題】気温が20℃とはならないような海外等の地域においても適用可能であり、コンクリート等の水硬性材の乾燥収縮特性を即座に推定することができる推定方法を提供する。
【解決手段】水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法は、水硬性材料により作製された水硬性材の複数の同質の供試体1(1A、1B、1C)を用いて実際に計測した一定湿度環境(相対温度80~100%)下の3以上の異なる温度(5℃、20℃、40℃)下での長さ変化率から、当該供試体1の温度に対する規定材齢時の長さ変化率の関係を示す検量線情報を生成しておき、この検量線情報に基づいて、任意の温度における当該水硬性材の長さ変化率を推定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材料により作製された水硬性材の温度に対する規定材齢時の長さ変化率の関係を示す検量線情報を生成しておき、この検量線情報に基づいて、任意の温度における当該水硬性材の長さ変化率を推定することを特徴とする水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法において、上記水硬性材の複数の同質の供試体を用いて実際に計測した一定湿度環境下の2以上の異なる温度下での長さ変化率から、当該水硬性材の温度に対する規定材齢時の長さ変化率の関係を示す検量線情報を生成することを特徴とする水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法において、上記の一定湿度環境は、湿気を通さない素材で各供試体を包囲することにより得られる高湿度環境であることを特徴とする水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法において、上記高湿度環境は、相対湿度70~100%の範囲であることを特徴とする水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法。
【請求項5】
請求項2に記載の水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法において、上記の異なる温度は、互いに5℃以上異なる2点以上の温度であることを特徴とする水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法。
【請求項6】
請求項2~請求項5のいずれか1項に記載の水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法において、上記供試体に長さ変化測定器を埋め込んだ状態で当該供試体の養生を行い、上記長さ変化測定器の出力を記録装置に記録することを特徴とする水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート等の水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、セメントペースト硬化体、コンクリート、およびモルタルの、JIS A 1129-1、JIS A 1129-2、JIS A 1129-3に準拠して測定した、乾燥期間が6か月における乾燥収縮ひずみの値を早期に推定する、乾燥収縮ひずみの推定方法が開示されている。
【0003】
また、コンクリートの乾燥収縮迅速評価システムとして、2007年1月に財団法人日本建築総合試験所の性能証明(第06‐19号)を取得した評価システムが知られている。この評価システムでは、
I)埋込ゲージを設置したΦ100×200mm供試体を成形し、型枠のまま20℃封緘養生とする。
II)材齢1日で脱型し、供試体を20℃水中養生する。
III)材齢7日から供試体を20±3℃、相対湿度60±5%の環境下で気乾養生し、収縮ひずみを自動計測する。
IV)外挿法を用いて5週間のひずみデータから乾燥材齢182日の乾燥収縮ひずみを予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-20503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来技術では、標準環境下(20±3℃、相対湿度60±5%)での養生・乾燥が必要であり、このような養生環境を確保できない建設現場や、外部環境が上記標準状態から大きく乖離している海外等の地域において適用することは困難であると思われる。
【0006】
この発明は、気温が20℃とはならないような海外等の地域においても適用可能であり、コンクリート等の水硬性材の乾燥収縮特性を即座に推定することができる推定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法は、水硬性材料により作製された水硬性材の温度に対する規定材齢時の長さ変化率の関係を示す検量線情報を生成しておき、この検量線情報に基づいて、任意の温度における当該水硬性材の長さ変化率を推定することを特徴とする。
【0008】
この方法によれば、上記水硬性材の温度に対する規定材齢時の長さ変化率の関係を示す検量線情報を生成することにおいては、実際に長さ変化率の計測を行うので期間を要するものの、上記検量線情報を生成した後は、温度(気温)を当てはめることで、当該水硬性材について当該温度での長さ変化率を導出することができる。すなわち、気温が20℃とはならないような海外等の地域について、当該地域の気温を当てはめることにより、当該地域でのコンクリート等の長さ変化率の推定が即座に可能となる。
【0009】
上記方法において、上記水硬性材の複数の同質の供試体を用いて実際に計測した一定湿度環境下の2以上の異なる温度下での長さ変化率から、当該水硬性材の温度に対する規定材齢時の長さ変化率の関係を示す検量線情報を生成してもよい。
【0010】
上記方法において、上記の一定湿度環境は、湿気を通さない素材で各供試体を包囲することにより得られる高湿度環境であってもよい。これによれば、簡易な環境試験装置を用いて上記検量線情報を生成することができる。上記高湿度環境は、相対湿度70~100%の範囲であってもよい。
【0011】
上記方法において、上記の異なる温度は、互いに5℃以上異なる2点以上の温度であってもよい。
【0012】
上記方法において、上記供試体に長さ変化測定器を埋め込んだ状態で当該供試体の養生を行い、上記長さ変化測定器の出力を記録装置に記録してもよい。これによれば、人の手による計測を回避し、計測結果の精度を向上できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明であれば、気温が20℃とはならないような海外等の地域について、当該地域の気温を当てはめることにより、当該地位でのコンクリート等の長さ変化率の推定が即座に行えるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法に関する図であって、複数の供試体で実際に計測した場合に予想される3タイプの長さ変化率を示したグラフである。
図2】実施形態の水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法に関する図であって、一定湿度環境下での長さ変化率を実際に計測するための試験装置を示した説明図である。
図3】実施形態の水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法に関する図であって、一定湿度環境下での長さ変化率を、一定湿度環境下で且つ複数の温度で実際に計測することを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一態様に係る実施形態を添付図面に基づいて説明する。
実施形態にかかる水硬性材の乾燥収縮特性の推定方法は、水硬性材料により作製された水硬性材の複数の同質の供試体を用いて実際に計測した一定湿度環境下の3以上の異なる温度下での長さ変化率から、当該供試体の温度に対する規定材齢時の長さ変化率の関係を示す検量線情報を生成しておき、この検量線情報に基づいて、任意の温度における当該水硬性材の長さ変化率を推定する方法である。
【0016】
上記水硬性材料は、例えば、セメントであり、水硬性材はモルタル、コンクリート等である。
【0017】
上記検量線情報は、上記供試体の調合等によって、図1(A)に示す直線タイプ、図1(B)に示す上凸タイプ、図1(C)に示す下凸タイプに分かれることがあると予想される。いずれにしても、或る供試体の検量線情報に基づいて、この或る供試体と同質のコンクリート等における任意の温度における長さ変化率を推定することができる。
【0018】
図2および図3に示すように、この実施形態では、供試体1(同質の供試体1A、1B、1C)の検量線情報を得るための上記の異なる温度は3つの温度としてあり、環境試験装置5を用い、第1の供試体1Aを5±3℃の環境下に置き、第2の供試体1Bを20±3℃の環境下に置き、第3の供試体1Cを40±3℃の環境下に置くこととしている。上記の異なる温度は例示であり、また、この例示のように、互いに10℃以上異なる3点以上の温度とするのが望ましい。
【0019】
ここで、各供試体1A、1B、1Cを、環境試験装置5内で、上記一定湿度環境として、相対湿度60±5%(RT)の一定湿度で規定材齢となるまで養生することも可能である。しかしながら、相対湿度60±5%を長期間簡易に保持することは容易でなく、高価な環境試験装置の設置が必要となる。
【0020】
この実施形態では、上記の一定湿度環境は、湿気を通さない素材で供試体1A、1B、1Cを包囲し密閉することにより得られる高湿度(例えば、相対湿度80~100%)の環境としている。湿気を通さない素材としては、ビニール等の樹脂、ガラス等がある。また、包囲・密閉としては、樹脂フィルムで各供試体1A、1B、1Cをそれぞれ個別に包むこと、樹脂袋に各供試体1A、1B、1Cをそれぞれ個別に入れること、樹脂ケースやガラスケース内に各供試体1A、1B、1Cをそれぞれ個別に入れることが例示される。これにより、高価な環境試験装置の導入を不要にし得る。
【0021】
この実施形態では、ビニール袋2内に1つずつ供試体1(1A、1B、1C)を入れている。供試体1は、例えば、直径Φ100mm、高さ200mmの円柱体である。供試体1内には、長さ変化測定器3として埋め込みゲージ(ひずみゲージ)が埋め込まれている。長さ変化測定器3の出力は、記録装置であるデータロガー4によって記録される。
【0022】
さらに詳細に述べると、この実施形態では、
(1)長さ変化測定器3を埋め込んだΦ100mm×高さ200mmの供試体1A、1B、1Cを型枠成形し、型枠のまま20℃の環境下で封緘養生する。
(2)材齢1日で脱型し、各供試体1を20℃の環境下で水中養生する。
(3)材齢7日から、第1の供試体1Aを5±3℃、相対湿度80~100%の環境下で気乾養生し、第2の供試体1Bを20±3℃、相対湿度80~100%の環境下で気乾養生し、第3の供試体1Cを40±3℃、相対湿度80~100%の環境下で気乾養生し、それぞれの長さ変化率を、6か月に渡って自動計測し記録する。
【0023】
第1の供試体1Aの材齢6か月時点の長さ変化率、第2の供試体1Bの材齢6か月時点の長さ変化率、第3の供試体1Cの材齢6か月時点の長さ変化率の3点から近似線を求めることで、当該コンクリート等の温度に対する規定材齢時(6か月)の長さ変化率の関係を示す検量線情報が得られる(図1(A)、(B)、(C)参照)。
【0024】
このように、各供試体1A、1B、1Cの温度に対する規定材齢時の長さ変化率の関係を示す検量線情報を生成することにおいては、実際に長さ変化率の計測を行うので期間を要する。しかし、上記検量線情報を生成した後は、供試体1と同質のコンクリート等について、温度(気温)を上記検量線情報に当てはめることで当該温度での長さ変化率を導出することができる。すなわち、気温が20℃とはならないような海外等の地域について、当該地域の気温を入力することにより、当該地位でのコンクリート等の長さ変化率の推定が即座に可能となる。
【0025】
上記の一定湿度環境下の3以上の異なる温度下での長さ変化率から、当該水硬性材の温度に対する規定材齢時の長さ変化率の関係を示す検量線情報を生成すると、極力少ない実測数で極力高い精度の検量線情報を生成できる。なお、一定湿度環境下の2以上の異なる温度下での長さ変化率から、当該水硬性材の温度に対する規定材齢時の長さ変化率の関係を示す検量線情報を生成することも可能である。
【0026】
上記の一定湿度環境が、湿気を通さない素材で各供試体1A、1B、1Cを包囲することにより得られる高湿度下の環境であると、簡易な環境試験装置を用いて上記検量線情報を生成することができる。この例では、高湿度環境は、相対湿度80~100%の範囲としたが、相対湿度70~100%の範囲とすることもできる。
【0027】
上記の異なる温度が、互いに10℃以上異なる3点以上の温度であると、極力少ない実測数で極力高い精度の検量線情報を生成することが可能である。なお、上記の異なる温度が、互いに5℃以上異なる2点以上の温度で検量線情報を生成することも可能である。
【0028】
各供試体1A、1B、1Cに長さ変化測定器3を埋め込んだ状態で各供試体1A、1B、1Cの養生を行い、長さ変化測定器3の出力をデータロガー4に記録すると、人の手による計測を回避し、計測結果の精度を向上できる。
【0029】
なお、上記(3)において、供試体1A、1B、1Cのそれぞれの長さ変化率を5週間に渡って自動計測し、この材齢5週間の長さ変化率から、第1の供試体1A、第2の供試体1B、第3の供試体1Cの各々の材齢6か月後における長さ変化率を外挿法によって推定し(財団法人日本建築総合試験所の性能証明(第06‐19号)を取得した評価システム参照)、この3点の推定値から近似線を求めることで、当該供試体1の温度に対する規定材齢時(6か月)の長さ変化率の関係を示す検量線情報を得ることも可能である。
【0030】
また、以上の実施形態では、供試体1と同質のコンクリート等について、上記検量線情報に基づき、任意温度での長さ変化率を導出することができるが、供試体1と配合比等が異なる他のコンクリート等については、供試体1に基づく上記検量線情報をそのまま用いることはできない。例えば、セメントの種類による影響は、普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメント等との間で生じると思われる。また、骨材の種類による影響は、石灰岩系骨材とその他の骨材との間で生じると思われる。多種類のコンクリート等についての実際の計測による検量線情報を得ることで、例えば、普通ポルトランドセメントと早強ポルトランドセメントとの間の影響を係数化することができる。これにより、供試体1と異なる他のコンクリート等の長さ変化率を、供試体1に基づく長さ変化率に上記係数を掛けて得ることが可能となる。
【0031】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 :供試体
1A :第1の供試体
1B :第2の供試体
1C :第3の供試体
2 :ビニール袋
3 :変化測定器
4 :データロガー
5 :環境試験装置
図1
図2
図3