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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040711
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】整定値候補算出装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/12 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
H02J3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145233
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】友部 修
(72)【発明者】
【氏名】足立 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】久保田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】松田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】三澤 和広
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AE03
5G066AE09
5G066DA01
(57)【要約】
【課題】太陽光発電などが大量に導入された系統でも、限られたタップ動作回数内で配電系統の電圧逸脱を低減できることを目的とする。
【解決手段】配電系統に設置されて配電系統の電圧を設定電圧とすべくタップ位置を調整するタイミングが予め定められているプロコン方式によるタップ付変圧器に対して、タップ位置の整定値を与える整定値候補算出装置であって、予測の対象とする日時の配電系統の電圧の最適値を推定する第1の手段と、最適値に係数を加減算した最適基準電圧の範囲内の時のタップ値を求める第2の手段と、初期時刻でのタップ値に対し基準時間単位でのタップ値を基準日について時系列的に求める第3の手段と、係数を順次変更して基準日におけるタップ値の変更回数が基準回数以下となるタップ操作内容を求める第4の手段を備え、タップ付変圧器に対して、第4の手段で求めたタップ操作内容をタップ位置の整定値として与えることを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統に設置されて配電系統の電圧を設定電圧とすべくタップ位置を調整するタイミングが予め定められているプロコン方式によるタップ付変圧器に対して、タップ位置の整定値を与える整定値候補算出装置であって、
予測の対象とする日時の配電系統の電圧の最適値を推定する第1の手段と、前記最適値に係数を加減算した最適基準電圧の範囲内の時のタップ値を求める第2の手段と、初期時刻でのタップ値に対し基準時間単位でのタップ値を基準日について時系列的に求める第3の手段と、前記係数を順次変更して前記基準日におけるタップ値の変更回数が基準回数以下となるタップ操作内容を求める第4の手段を備え、前記タップ付変圧器に対して、前記第4の手段で求めた前記タップ操作内容を前記タップ位置の整定値として与えることを特徴とする整定値候補算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の整定値候補算出装置であって、
前記係数は、初期値から順次増加させて、その都度のタップ値の変更回数を確認することを特徴とする整定値候補算出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の整定値候補算出装置であって、
前記係数は、前記基準日における日タップ動作回数総数が日タップ動作回数最大数以下であるか、もしくは年間タップ動作回数総数が年間タップ動作回数最大数以下となるように設定されることを特徴とする配電系統の整定値候補算出装置。
【請求項4】
請求項1記載の整定値候補算出装置であって、
初期時刻でのタップ値を可変に設定して、そのときのタップ値の変更回数を求めることを特徴とする配電系統の整定値候補算出装置。
【請求項5】
請求項1記載の整定値候補算出装置であって、
初期時刻でのタップ値に対し基準時間単位でのタップ値を求めるに際し、基準時間前のタップと同タップが前記係数内にある場合には、同タップを選択し、そうでない場合には電圧偏差が最小となるタップを選択することを特徴とする配電系統の整定値候補算出装置。
【請求項6】
配電系統に設置されて配電系統の電圧を設定電圧とすべくタップ位置を調整するタイミングが予め定められているプロコン方式によるタップ付変圧器に対して、タップ位置の整定値を与える整定値候補算出方法であって、
予測の対象とする日時の配電系統の電圧の最適値を推定し、前記最適値に係数を加減算した最適基準電圧の範囲内の時のタップ値を求め、初期時刻でのタップ値に対し基準時間単位でのタップ値を基準日について時系列的に求め、前記係数を順次変更して前記基準日におけるタップ値の変更回数が基準回数以下となるタップ操作内容を求め、前記タップ付変圧器に対して、前記タップ操作内容を前記タップ位置の整定値として与えることを特徴とする整定値候補算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整定値候補算出装置に係り、特に太陽光発電装置などの再エネが多数連系する配電系統の電圧制御を可能とする整定値候補算出装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の配電系統では太陽光発電装置の系統連系が増大しているが、配電系統では、太陽光発電装置の発電量が増加すると、太陽光発電装置設置点周辺の電圧が上昇するという現象がある。これを回避するために、太陽光発電装置には自端子電圧が規定電圧より上昇した場合に太陽光発電装置の発電量を抑制する機能が備えられている。この機能により、太陽光発電装置の発電量が制限されることになる。
【0003】
他方、配電系統の電圧は、配電用変電所に設置された負荷時タップ切替変圧器LRT:Load Ratio Control Transformer)のタップ切替や、配電線上に設置された自動電圧調整器(SVR:Stepvoltage Regulator)などのタップ切替によって制御されている。
【0004】
先に述べた太陽光発電装置における発電量の抑制を回避するためには、電圧調整装置(負荷時タップ切替変圧器LRTや自動電圧調整器SVR)で、配電系統の電圧を調整し、出力抑制を回避することが重要となる。そのためには、太陽光発電装置の発電量に応じて、タップ制御を適切に行う必要がある。
【0005】
電圧調整装置(負荷時タップ切替変圧器LRTや自動電圧調整器SVR)の制御方法として、次のような手法が知られている。
【0006】
例えば、通常の自動電圧調整器SVRにおいては、自端の二次側電圧と通過電流と力率からタップ値を決定する方法が知られている。
【0007】
特許文献1には、電圧調整変圧器の送出電圧から最高電圧点の電圧までの電圧上昇幅と、変圧器の送出電圧から最低電圧点の電圧までの電圧下降幅とを加算した電圧変動範囲の中心値が、規定値となるように、電圧調整装置の送出電圧を選定する制御手法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2014/207849
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、負荷時タップ切替変圧器LRTや自動電圧調整器SVR等の電圧調整器の整定は、子局等から事前に取得した過去の計測データを用いて、整定値を算出し、通信もしくは現地での手動により、電圧調整器に設定する。今後は通信ネットワークの活用によりセンサ計測点からの計測値を取得して蓄積しておき、サーバにおいて整定値を算出し、通信ネットワークを介して設定する方式が考えられる。
【0010】
負荷時タップ切替変圧器LRTの制御方式には、LDC方式とプログラマコントロール方式(以下プロコン方式という)があり、その多くはプロコン方式となっている。LDC方式は、線路電圧降下が負荷中心点における電圧降下と等価となるように、電圧継電器90Ryを動作させ自動電圧調整器SVRタップ位置を制御する方式となっている。また、プロコン方式は、基準電圧を含む整定値を、時間帯毎にスケジューリング設定する方式である。LDC方式においては、負荷電流に応じた細やかな制御が可能であるため、フィーダ単位で制御する場合にはLDC方式が優位となる。
【0011】
特許文献1に記載の方法では、太陽光発電装置の出力抑制により電圧上昇が回避されている状況では、電圧調整装置(負荷時タップ切替変圧器LRTや自動電圧調整器SVR)の適切な整定を行うことができず、太陽光発電の出力抑制を回避できない問題がある。
【0012】
特に、メガソーラの配電系統末端への連系と低圧側への一般需要家の太陽光発電装置連系の拡大に伴い、太陽光発電装置の端子電圧が上昇し、特定の需要家の太陽光発電装置が出力抑制されてしまうことになり、売電機会の損失が不平等に発生してしまう問題があげられる。このため、電力会社による電圧調整業務が煩雑化してしまう懸念がある。
【0013】
さらには、太陽光発電の導入される場所によっては、太陽光発電の傾きや方位、地理的条件による散乱光の違いなどにより、日射量による太陽光発電出力の影響が異なり、適切な電圧調整動作ができないことも、無視できない状況にある。
【0014】
以上のことから本発明は、バンクを一括して整定する場合において有効となるプロコン方式に着目し、太陽光発電や負荷状況による電圧変動を考慮した動的整定によって、配電系統に設置された太陽光発電装置の出力が抑制される場合に、太陽光発電装置設置点の電圧を下げて出力抑制を解消するような制御を可能とする、整定値候補算出装置及び方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上のことから本発明においては、「配電系統に設置されて配電系統の電圧を設定電圧とすべくタップ位置を調整するタイミングが予め定められているプロコン方式によるタップ付変圧器に対して、タップ位置の整定値を与える整定値候補算出装置であって、予測の対象とする日時の配電系統の電圧の最適値を推定する第1の手段と、最適値に係数を加減算した最適基準電圧の範囲内の時のタップ値を求める第2の手段と、初期時刻でのタップ値に対し基準時間単位でのタップ値を基準日について時系列的に求める第3の手段と、係数を順次変更して前記基準日におけるタップ値の変更回数が基準回数以下となるタップ操作内容を求める第4の手段を備え、タップ付変圧器に対して、第4の手段で求めたタップ操作内容をタップ位置の整定値として与えることを特徴とする整定値候補算出装置。」としたものである。
【0016】
また本発明においては、「配電系統に設置されて配電系統の電圧を設定電圧とすべくタップ位置を調整するタイミングが予め定められているプロコン方式によるタップ付変圧器に対して、タップ位置の整定値を与える整定値候補算出方法であって、予測の対象とする日時の配電系統の電圧の最適値を推定し、最適値に係数を加減算した最適基準電圧の範囲内の時のタップ値を求め、初期時刻でのタップ値に対し基準時間単位でのタップ値を基準日について時系列的に求め、係数を順次変更して基準日におけるタップ値の変更回数が基準回数以下となるタップ操作内容を求め、タップ付変圧器に対して、タップ操作内容をタップ位置の整定値として与えることを特徴とする整定値候補算出方法。」としたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の整定値候補算出装置および制御方法により、太陽光発電などが大量に導入された系統でも、限られたタップ動作回数内で配電系統の電圧逸脱を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例に係る整定値候補算出装置が適用される一般的な配電系統と、制御システムの概要を示す図。
図2】負荷時タップ切替変圧器LRTにおける一般的なプロコン方式を示す図。
図3】整定値候補算出装置6のハード構成例を示す図。
図4】整定値候補算出装置6における処理フローを示す図。
図5】最適値αと最適基準電圧Vrefの関係を示す図。
図6】最適値αにより決まる範囲でのLRTタップ位置候補を示す図。
図7】本発明適用前後の時間帯別タップ位置を示す図。
図8】本発明適用前後の時間帯別電圧を示す図。
図9】整定値候補算出装置6のモニタ画面表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例0020】
図1は、本発明の実施例に係る整定値候補算出装置が適用される一般的な配電系統と、制御システムの概要を示す図である。
【0021】
まず一般的な配電系統について、図1には図示左側の電源から図示右側の負荷に至る配電系統が例示されており、線路L上の変電所に負荷時タップ切替変圧器LRTを設置し、線路L上に自動電圧調整器SVRを直列配置している。なお配電系統の適宜の個所に太陽光発電装置PVを配置している。また、配電系統は、送電系統を含むものであってもよい。
【0022】
これに対して制御システムは、プロコン4と本発明に係る整定値候補算出装置6を含んで構成されている。このうちプロコン4は、例えば負荷時タップ切替変圧器LRT2に対して設置されている。配電系統各所に設けた各種センサ2から各種の系統状態量(電圧、電流、など)を子局3、通信ネットワーク5を介してプロコン4に収集する。プロコン4では、各種の系統状態量を用いて理想電圧を算出後、タップ動作回数上限に収まるように負荷時タップ切替変圧器LRT2のタップ位置を設定する。
【0023】
また制御システムには、通信ネットワーク5を介して本発明に係る整定値候補算出装置6が接続されている。整定値候補算出装置6は、子局等から事前に取得した過去の計測データから整定値を算出し、通信ネットワーク5を介して電圧調整器(負荷時タップ切替変圧器LRTや自動電圧調整器SVR)の制御装置(負荷時タップ切替変圧器LRT2の場合にはプロコン4)に算出した整定値を送信し、あるいは手動により電圧調整器に設定する。ここでは通信ネットワーク5によりセンサ2の計測点からの計測値を取得して蓄積しておき、サーバである整定値候補算出装置6において整定値を算出し、通信ネットワーク5を介して設定する事例について説明する。
【0024】
図1の負荷時タップ切替変圧器LRTは、整定値候補算出装置6からの整定値を受けた制御装置(プロコン)4により制御される、プロコン方式による制御が適用されている。このプロコン方式では、配電系統の電圧を所定範囲内の電圧とすべく、負荷時タップ切替変圧器LRTのタップ位置を調整するタイミングを予めスケジューリング設定しておき、そのタイミングにおいてタップ調整を行う。なおこの場合に、タップ位置を調整するタイミングを予めスケジューリング設定しておくための考え方としては種々のものがあり、本発明ではこの点について限定するものではないが、単位期間内でのタップ調整回数は変圧器タップの疲労を抑制するという観点から所定回数以下とされることが望ましい。
【0025】
図2は、負荷時タップ切替変圧器LRTにおける一般的なプロコン方式を説明するための図である。図2では、縦軸に1年間の各月、横軸に各月における日を示し、月と日で定まる各日について、その24時間の各時間帯におけるタップ位置を予め決定するものである。
【0026】
このようにプロコン方式での負荷時タップ切替変圧器LRTにおける整定手法は、1年間のプロコン設定をスケジュール化しており、日ごとに最大6つの時間帯でタップ位置(目標電圧)を変更すべく、タイムリレーで設定する方式となっている。なおタップ位置を変更するスケジューリング設定は、例えばあらかじめ想定された負荷曲線に対して重負荷では高く、軽負荷では低くなるように定めることができる。
【0027】
一方、年間を通して同じ整定値(1日を6時間帯に分け、整定)で運用しているため、電圧変動で誤差が大きくなる時間帯が発生する場合がある。そこで本発明においては、太陽光発電装置PVや負荷による電圧変動に基づき算出したプロコン設定を、日ごとに設定することで、電圧管理の高度化が可能と考えた。
【0028】
図3は、整定値候補算出装置6のハード構成例を示す図である。計算機で構成される整定値候補算出装置6は、通信部61から通信ネットワーク5を介してセンサ2や子局3と通信してデータを授受し、入力部67を介して運転員の操作するキーボードなどの入力手段66からの入力を受け付け、処理結果を画像作成部64において可視化情報に変換してモニタ65の画面90に表示するように外部接続されている。なお、整定値候補算出装置6が定めた整定値候補は、プロコン4以外に、その他の負荷時タップ切替変圧器LRT1や、自動電圧調整器SVRに送られて、利用することも可能である。
【0029】
計算機で構成される整定値候補算出装置6は、通信部61、入力部67、画像作成部64以外に、データベースDB及び演算部であるCPU63が、バス62に接続されることで、各種情報を共有している。なおデータベースDBにはプロコン4での処理に必要なデータを蓄積しているが、このデータベースDBは整定値候補算出装置6内に設置されている必然的な理由はなく、外部設置のデータベースDBから適宜の情報を入手するものであってもよい。
【0030】
なお、図3のシステム構成は、さらに述べるならば、配電系統における日射量についての計測手段から情報を取得する日射量取得手段と、風速についての計測手段から情報を取得する風速取得手段とを備え、データベースDBには日射量取得手段からの情報と風速取得手段と対象とする配電系統の構成の情報と、太陽光発電装置の配置・容量の情報と、負荷パタンの情報と、タップ付変圧器の配置データの情報を記録しておくのがよい。後述する潮流計算による最適電圧導出の際に、これらの情報を加味することがより望ましい。
【0031】
図4は、整定値候補算出装置6における処理フローを示す図であり、これにより負荷時タップ切替変圧器LRTのプロコン4へ設定するタップ位置を決定する。この処理は、図3の演算部であるCPU63において実行される処理を主に記載している。
【0032】
なお負荷時タップ切替変圧器LRTのプロコン設定は、最大6つの時間帯でタップ位置を決定しければならないため、平休日、季節、太陽光発電装置等の電圧変動に対し、6つの時間帯で適切にタップ値を決定する必要がある。また、時間帯ごとに最適な負荷時タップ切替変圧器LRTのタップ位置を決定する際に、最適基準電圧Vrefを求めると同時に、1日の区分パタンを与える必要がある。この場合、1日を6区分するパタンは膨大に存在することとなる。そこで、係数の最適値α(上下限)を設け、αの範囲内でタップ設定を定めることで、少ないステップ数で、最適なタップ設定を抽出することとする。
【0033】
図4に示すフローについて説明する。以下の処理は1年間365日分実施することを例として示す。このフローの最初の処理ステップS301では、整定値候補算出装置6は、配電系統に設置されたセンサ2(センサ付き開閉器を含む)により計測した計測値を取得する。次に処理ステップS302では、その値をベースにフィーダにおける潮流計算を実施し、電圧計算を行う。この処理は1時間単位といった各時間断面に対して行う。
【0034】
処理ステップS303では、この結果に基づき、フィーダの各ノードにおけるタップマップから定まる電圧上下限に対し最も電圧余裕を確保可能なように配電変電所送り出し電圧の理想的な電圧すなわち最適基準電圧Vrefを算出する。このためには重回帰分析により求めても良い。
【0035】
次に処理ステップS304では、係数αを0から、あらかじめ運用者が設定した上限値と刻み幅で増加させ、処理ステップS305では、Vref±αの範囲内のタップ値を抽出する。
【0036】
次に処理ステップS306では、時間帯の初期値である0:00:00について、電圧偏差がn番目となるタップを選択する。このn番目の値は変化させるパラメタであり、初期タップ位置によるその後の時間帯でのタップ位置での電圧偏差が大きくなることを回避することが可能となる。
【0037】
このことから処理ステップS307では、以下に示す一連の処理を実行する。まず処理ステップS307aでは1時間前にて抽出したタップと同タップが±α内にある事の判断処理を行い、範囲内にある場合には、処理ステップS307bに移り、同タップを選択する。そうでない場合には処理ステップS307cに移り、電圧偏差が最小となるタップを選択する。
【0038】
処理ステップS307dでは、この処理を24:00:00の断面まで行い、タップ位置が終了として処理ステップS307eに移行する。なお24:00:00の断面までいかない時には、処理ステップS307の先頭処理に戻り、24:00:00の断面まで繰り返し処理を実行する。24:00:00の断面まで終了した時には、処理ステップS307eにおいて、全ての初期位置に対してタップパターン抽出を行う)。
【0039】
処理ステップS308では、その後タップの設定数を確認し、最大数として運用者が設定したタップ動作回数上限以内に収まっているか否かを判定する。例えばタップ動作回数上限が6回/日である場合には、6回以下となるタップパターンを選択する。処理ステップS309では、その中で最も電圧偏差が最小となるタップパターンを最終的に決定する。
【0040】
このフローにより、1日のタップ動作回数上限範囲内に収めつつ電圧調整が可能となることから、タップ動作による寿命も把握、管理することが可能となる。なお、本実施例では1日ごとにタップ動作回数上限を定めていたが、1年間における年間タップ動作回数上限を定めておき、その範囲でタップパターンを1年分決定することも可能である。このことにより1日のタップ動作回数上限を緩和できることから太陽光発電変動をとらえた電圧調節が可能となるという効果も見込める。
【0041】
以上の処理を要約し、これを実現する処理手段として表すならば、これは「配電系統に設置されて配電系統の電圧を設定電圧とすべくタップ位置を調整するタイミングが予め定められているプロコン方式によるタップ付変圧器に対して、タップ位置の整定値を与える整定値候補算出装置を、予測の対象とする日時の配電系統の電圧の最適値を推定する第1の手段と、前記最適値に係数を加減算した最適基準電圧の範囲内の時のタップ値を求める第2の手段と、初期時刻でのタップ値に対し基準時間単位でのタップ値を基準日について時系列的に求める第3の手段と、前記係数を順次変更して前記基準日におけるタップ値の変更回数が基準回数以下となるタップ操作内容を求める第4の手段により構成し、タップ付変圧器に対して、第4の手段で求めたタップ操作内容をタップ位置の整定値として与えたものということができる。
【0042】
また、上記結果や過去蓄積データはデータベースDBに保存されることになるが、この中には、1日におけるタップ動作回数総数、1日におけるタップ動作回数最大数、1年間におけるタップ動作回数総数、1年間におけるタップ動作回数最大数が区分されて記録されているのが望ましい。
【0043】
図5は、横軸に時間、縦軸に電圧をとって、最適値αと最適基準電圧Vrefの関係を示している。また図6は、この時の最適値αにより決まる範囲におけるタップ位置候補をしめしている。ここでは図5に示したように各時間帯(1時間ごと)の最適値(α)を算出し、最適値の上下限(Vref±α)を設定する。そこで、0時から23時(24個)の最適値の上下限Vref±αの範囲からタップ候補を抽出し、抽出したタップ候補からタップ設定数の制約条件を考慮しつつ、偏差が最小となるタップ値を決定する。これにより、最適値との偏差が最小となるようにプロコンへタップ位置を設定する。
【0044】
また最適値αにより決まる範囲でのLRTタップ位置候補を示す図6では、横軸には各時間帯における最適値との誤差、縦軸には電圧とタップ位置を示している。このLRTタップ位置候補によれば、7:00:00前までの時間帯では、タップ位置5、6600(V)としたときの最適値との誤差が15(V)であり、最適値の上下限Vref±αの範囲はタップ位置4、6700(V)とタップ位置6、6500(V)との間となっている。これに対し、7:00:00の時間帯でも同じ条件(タップ位置5で6600(V))で運転するときの最適値との誤差は30(V)であるが、最適値の上下限Vref±αの範囲における最適値との誤差はタップ位置4、6700(V)で130(V)、タップ位置6、6500(V)で70(V)となっている。7:00:00の時間帯のタップ位置は適切ではなく、改善の余地がある。
【0045】
8:00:00の時間帯では、この結果を受けてタップ位置を5から4に変更したが、最適値との誤差は40(V)になり、むしろ拡大した。しかし9:00:00の時間帯では、同条件の運用でも最適値との誤差は10(V)に低下し、以降も20(V)程度であったので、12:00:の時間帯まで、同じタップ条件で推移している。
【0046】
その後、前の時間帯での最適値との誤差の拡大を受けて、15:00:00、19:00:00、21:00:00の時間帯ではタップ変更が行われることを、図6は表している。
【0047】
図7は、図4に示したLRTのプロコンへ設定するタップ位置を決定するためのフローを適用する前と後における時間帯別タップ位置を示したグラフである。横軸に時間、縦軸にタップ位置を示し、本発明適用後を実線で、適用前を点線で示したように、適用前には5:00,7:00,8:00,9:00,11:00,14:00,17:00,23:00の合計8回のタップ操作をすべきところ、適用後には5:00,7:00,11:00,14:00,18:00の5回に回数が制限されたことを示している。
【0048】
また図8は、横軸に時間、縦軸に電圧を示し、本発明適用後を実線で、適用前を点線で示したように、点線で囲んだ時間部分A1、A2、A3では、矢印の方向(点線を実線のように電圧変更)に電圧変化をするようにタップ操作したことを表している。なおB1で示す矢印は、太陽光発電装置PVによる電圧上昇を下げ制御により改善した事象を示している。
【0049】
このように整定値候補算出装置6において算出した整定値候を用いるプロコン制御によれば、図7のようにタップ制御がされ、図8に示すように系統電圧が改善されることが期待できる。
【0050】
従来手法によれば、負荷時タップ切替変圧器LRTのタップ設定において最適値との偏差が最小となるタップ値を設定した場合、タップ設定がプロコンの制約条件(最大6ゾーン)を超過することが考えられる。この点に関して、図4の本発明手法を適用することにより、タップ制約を超過する場合でも、制約条件を満たすように設定できることを確認できた。
【0051】
図7図8では、一日の中で負荷変動が大きい冷房期である8月(夏)について検討した結果を示している。8月のタップ設定において、偏差が最小となるタップ値を設定した場合、タップ設定数が制約条件を超過していることが分かる。ここで、図4に示すフロー図を基に負荷時タップ切替変圧器LRTの最適整定を実施することで、タップ設定数が制約条件内であってもタップ位置を決定することが可能である。さらに、時系列電圧推移において、朝方や帰宅時間における電圧降下や太陽光発電装置PV等の電圧上昇について、適切にタップ制御できていることを確認することができた。同様に、他の季節についても良好に制御できることを確認しており、有効性も示すことができた。
【0052】
図9は、整定値候補算出装置6のモニタ画面表示例を示している。モニタ画面90に表示されたこの表示例では、左側に項目を選択的に表示し、右側にその選択結果を可視化して例えば数値や状態として表示している。まず左側の項目のうちの「月日選択」にチェックを入れて、表示された年月日の表からタップパターンを決定したい月日を選択する。この処理では、項目「1年分一括」にチェックを入れて、1年分一括してタップパターンを決定することもできる。
【0053】
そのうえで計測値が取得されているもとで「整定実行」を押下し整定を実行する。その結果、潮流計算により「最適電圧計算結果」が表示される。さらに、運用者のほうにて「最適電圧αにおける上限と刻み幅」を設定する。その結果、図4の処理により「最適電圧計算結果」に±αの範囲が決定され、その範囲内でタップ位置を探索した結果が「整定結果」として表示される。
【0054】
なお上記説明は、整定値候補算出装置6を用いて、将来日時の予測的処理にオフライン処理で利用することを主として説明しているが、これはオンライン的に当日制御への適用も可能である。
【0055】
本発明は、配電系統の電圧を調整する電圧調整装置として活用することができる。また、配電系統において、太陽光発電装置PVなどの分散電源の増設に対応した、電圧維持対策、配電設備利用率向上対策として活用することが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
LRT:負荷時タップ切替変圧器
SVR:自動電圧調整器
3:太陽光発電
4:プロコン
5:通信ネットワーク
6:整定値候補算出装置
61:通信部
62:バス
63:CPU
64:画像作成部
65:モニタ
66:入力手段
67:入力部
90:画面
DB:データベース
図1
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図9