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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040733
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240318BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145274
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100166833
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 直子
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
(72)【発明者】
【氏名】大石 潔
(72)【発明者】
【氏名】横倉 勇希
(72)【発明者】
【氏名】小林 勇斗
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA04
5H770EA19
5H770HA02Y
(57)【要約】
【課題】変調可能領域が制限されるコモンモードノイズの励起を抑制する変調方式において、変調可能領域外の電圧ベクトルを変調可能領域のみを用いて、同等の電圧ベクトルを出力することで、変調方式を変えずにコモンモードノイズを抑制する。
【解決手段】電力変換装置1において、インバータ回路27と、スイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置21と、を備える。制御装置21は、インバータ回路27における出力可能な電圧ベクトル領域である基本電圧空間における一部の領域を変調可能領域する変調部50と、電圧ベクトルが基本電圧空間内且つ変調可能領域外に属する場合に、該電圧ベクトルを変調可能領域内に修正した修正電圧ベクトルを算出する相電圧指令修正部40とを備える。これにより、変調部50は、修正電圧ベクトルを利用して出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を交流電圧に変換する電力変換装置において、
各相のスイッチング素子の接続点に生じる相電圧を負荷に印加するインバータ回路と、
前記インバータ回路の前記スイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記インバータ回路における出力可能な電圧ベクトル領域である基本電圧空間の一部の領域を変調可能領域とする変調部と、
指令電圧ベクトルが前記基本電圧空間内且つ前記変調可能領域外に属する場合に、前記指令電圧ベクトルを前記変調可能領域内に修正した修正電圧ベクトルを算出する相電圧指令修正部と、を備え、
前記変調部は、前記修正電圧ベクトルを利用して出力することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記変調部は、
前記変調可能領域となる第一変調可能領域を有する第一変調処理部と、
前記変調可能領域となり、前記第一変調可能領域と異なる領域となる第二変調可能領域を有する第二変調処理部と、を備え、
前記相電圧指令修正部は、
前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域のいずれかの領域内に、前記修正電圧ベクトルを修正すること特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記相電圧指令修正部は、前記指令電圧ベクトルの修正先として、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域のいずれかを選択する変調領域選択部を有し、
前記変調領域選択部は、前記指令電圧ベクトルの位相に基づいて、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域を切り替えることを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第一変調処理部は、奇数電圧ベクトルのみを出力するパルス幅変調を実行し、
前記第二変調処理部は、偶数電圧ベクトルのみを出力するパルス幅変調を実行することを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記相電圧指令修正部は、前記指令電圧ベクトルの修正先として、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域のいずれかを選択する変調領域選択部を有し、
前記変調領域選択部は、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域の切り替えを実行した直後は、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域の切り替えを実行しないことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記変調領域選択部における前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域を切り替える境界となる位相を切替境界位相と定義する際に、
前記変調領域選択部は、前記電圧ベクトルが逆回転方向に前記切替境界位相を通過した場合は、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域の切り替えを実行しないことを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記変調領域選択部において、未来の前記指令電圧ベクトルを予測することで、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域の連続した切り替えを推定し、前記推定の結果、連続して切り替えが行われると推定された場合は、未来の前記指令電圧ベクトルの到来時に、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域の切り替えを実行しないことを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記指令電圧ベクトルを生成する指令演算部を備え、
前記指令演算部は、
前記相電圧指令修正部によって算出される前記修正電圧ベクトルと修正前の前記指令電圧ベクトルの誤差を、次回以降の前記指令電圧ベクトルの演算で補償することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記相電圧指令修正部は、前記変調可能領域を画定する境界線上に、前記修正電圧ベクトルを設定することを特徴とする請求項1から7に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記相電圧指令修正部は、前記電圧ベクトルと前記修正電圧ベクトルの関係について、互いの長さが同じ、且つ、互いの位相が異なるように設定することを特徴とする請求項1から7に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記相電圧指令修正部は、前記電圧ベクトルと前記修正電圧ベクトルの関係について、互いの位相が同じ、且つ、互いの長さが異なるように設定することを特徴とする請求項1から7に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電圧を交流電圧に変換する電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電源に伝搬する伝導ノイズを抑制するためのパルス幅変調(PWM)は種々提案されているが、その手法は大きく二つに分けられる。一つはコモンモードノイズの要因となるコモンモード電圧の変動を完全に抑制する手法であり、もう一つはコモンモード電圧の変動を許容しながら部分的に抑制する手法である。
【0003】
前者の手法としては奇数電圧ベクトルのみ、或いは、偶数電圧ベクトルのみを出力するパルス幅変調が挙げられる。この手法によれば、キャリア周期内におけるコモンモード電圧の変動を完全に抑制することが可能である。また、電気角位相に応じて奇数電圧ベクトルのみを出力するか、偶数電圧ベクトルのみを出力するかを切り換えるパルス幅変調もある。この手法によっても、コモンモード電圧の変動を大きく抑制することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
後者の手法としてはPWMパターンにおいて特定の相の相電圧の立ち上がりと立ち下がりに他の相の相電圧の立ち下がりと立ち上がりのタイミングを合わせるパルス幅変調が挙げられる(例えば、特許文献2参照)。更に、一相のスイッチングを固定し、他の二相をスイッチングする二相変調のパルス幅変調によってもコモンモード電圧の変動を抑制することができる(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5397448号公報
【特許文献2】WO2019/180763
【特許文献3】特許第5298003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前者の手法(特許文献1)はコモンモード電圧変動抑制の方法として最も有効であるものの、使用する電圧ベクトルに制限があるため、線形出力領域(電圧ベクトルが一定の半径で一回転することができる振幅の最大値)が限られ、出力可能な変調率が制限される欠点がある。そのため、コンプレッサのモータを駆動する場合などには適用が困難であるか、或いは、回転数・変調率が高い場合には特許文献3の如く変調方式を切り換える必要がある。しかし、変調方式を切り替えると、切り替え時にコモンモード電圧の変動が生じるほか、より広い線形出力領域をもつ変調法式ではコモンモード電圧変動の抑制効果が劣化してしまう問題がある。
【0007】
これに対して後者の手法(特許文献2、特許文献3)は、線形出力領域を通常の最大まで利用可能であり、高い変調率を実現できるものの、やはりコモンモード電圧の変動抑制効果は、前者の手法よりも劣る。
【0008】
ここで、特許文献3では、二相変調と三相変調を運転領域によって切り換えており、これと同様に前述した前者の手法と後者の手法を切り換えることが考えられるが、パルス幅変調方式の切り換えショックが発生する問題が生じる。
【0009】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、ノイズ抑制効果は高いが変調率が限られるパルス幅変調において、高い変調率動作を可能とする電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、直流電圧を交流電圧に変換する電力変換装置において、各相のスイッチング素子の接続点に生じる相電圧を負荷に印加するインバータ回路と、前記インバータ回路の前記スイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記インバータ回路における出力可能な電圧ベクトル領域である基本電圧空間の一部の領域を変調可能領域とする変調部と、指令電圧ベクトルが前記基本電圧空間内且つ前記変調可能領域外に属する場合に、前記指令電圧ベクトルを前記変調可能領域内に修正した修正電圧ベクトルを算出する相電圧指令修正部と、を備え、前記変調部は、前記修正電圧ベクトルを利用して出力することを特徴とする電力変換装置である。
【0011】
上記電力変換装置に関連して、前記変調部は、前記変調可能領域となる第一変調可能領域を有する第一変調処理部と、前記変調可能領域となり、前記第一変調可能領域と異なる領域となる第二変調可能領域を有する第二変調処理部と、を備え、前記相電圧指令修正部は、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域のいずれかの領域内に、前記修正電圧ベクトルを修正すること特徴としてもよい。
【0012】
上記電力変換装置に関連して、前記相電圧指令修正部は、前記指令電圧ベクトルの修正先として、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域のいずれかを選択する変調領域選択部を有し、前記変調領域選択部は、前記指令電圧ベクトルの位相に基づいて、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域を切り替えることを特徴としてもよい。
【0013】
上記電力変換装置に関連して、前記第一変調処理部は、奇数電圧ベクトルのみを出力するパルス幅変調を実行し、前記第二変調処理部は、偶数電圧ベクトルのみを出力するパルス幅変調を実行することを特徴としてもよい。
【0014】
上記電力変換装置に関連して、前記相電圧指令修正部は、前記指令電圧ベクトルの修正先として、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域のいずれかを選択する変調領域選択部を有し、前記変調領域選択部は、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域の切り替えを実行した直後は、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域の切り替えを実行しないことを特徴としてもよい。
【0015】
上記電力変換装置に関連して、前記変調領域選択部における前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域を切り替える境界となる位相を切替境界位相と定義する際に、前記変調領域選択部は、前記電圧ベクトルが逆回転方向に前記切替境界位相を通過した場合は、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域の切り替えを実行しないことを特徴としてもよい。
【0016】
上記電力変換装置に関連して、前記変調領域選択部において、未来の前記指令電圧ベクトルを予測することで、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域の連続した切り替えを推定し、前記推定の結果、連続して切り替えが行われると推定された場合は、未来の前記指令電圧ベクトルの到来時に、前記第一変調可能領域及び前記第二変調可能領域の切り替えを実行しないことを特徴としてもよい。
【0017】
上記電力変換装置に関連して、前記指令電圧ベクトルを生成する指令演算部を備え、前記指令演算部は、前記相電圧指令修正部によって算出される前記修正電圧ベクトルと修正前の前記指令電圧ベクトルの誤差を、次回以降の前記指令電圧ベクトルの演算で補償することを特徴としてもよい。
【0018】
上記電力変換装置に関連して、前記相電圧指令修正部は、前記変調可能領域を画定する境界線上に、前記修正電圧ベクトルを設定することを特徴としてもよい。
【0019】
上記電力変換装置に関連して、前記相電圧指令修正部は、前記電圧ベクトルと前記修正電圧ベクトルの関係について、互いの長さが同じ、且つ、互いの位相が異なるように設定することを特徴としてもよい。
【0020】
上記電力変換装置に関連して、前記相電圧指令修正部は、前記電圧ベクトルと前記修正電圧ベクトルの関係について、互いの位相が同じ、且つ、互いの長さが異なるように設定することを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、動作可能領域外に属する電圧ベクトルを動作可能領域内に修正してから、変調部が変調制御を行うことができるので、常にコモンモードノイズの励起を抑制する変調方式が利用可能となり、総合的にコモンモードノイズを抑制することができるという優れた効果を奏し得る。また、本発明に関連する他の発明によれば、修正した電圧ベクトルと修正前の電圧ベクトルの誤差を考慮して、次に出力する電圧ベクトルの計算を行うようにしているので、指令電圧ベクトルが、インバータ回路が出力可能な範囲内でかつ変調部の動作可能領域外にある場合においても、直前の指令電圧ベクトルと等価な電圧ベクトルを出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態にかかる電力変換装置の電気回路図である。
図2】三相交流電圧指令値を示す図である。
図3】線形出力領域を説明するための基本電圧空間を表す図である。
図4】電圧ベクトルと相電圧の関係を示す図である。
図5】電圧ベクトル(基本電圧ベクトル)を示す図である。
図6】同電力変換装置の制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図7】奇数電圧RSPWMの出力領域を説明するための電圧空間を表す図である。
図8】出力領域と関数値の相関を示す図である。
図9】奇数電圧RSPWMの線形出力領域を説明する図である。
図10】奇数電圧RSPWMの出力ベクトルと出力時間を示す図である。
図11】奇数電圧RSPWMの出力ベクトルの例を示す図である。
図12】奇数電圧RSPWMのPWMパターンを示す図である。
図13】奇数電圧RSPWMの低変調率時の変調波形を示す図である。
図14】偶数電圧RSPWMの出力領域を説明するための電圧空間を表す図である。
図15】出力領域と関数値の相関を示す図である。
図16】偶数電圧RSPWMの線形出力領域を説明する図である。
図17】偶数電圧RSPWMの出力ベクトルと出力時間を示す図である。
図18】偶数電圧RSPWMの出力ベクトルの例を示す図である。
図19】偶数電圧RSPWMの出力ベクトルの例を示す図である。
図20】偶数電圧RSPWMのPWMパターンを示す図である。
図21】偶数電圧RSPWMの低変調率時の変調波形を示す図である。
図22】全電圧RSPWMの動作領域を示す図である。
図23】位相判定式の全電圧RSPWMにおける奇数電圧RSPWMと偶数電圧RSPWMの適用範囲を電圧空間で表す図である。
図24】位相判定式の全電圧RSPWMにおける奇数電圧RSPWMと偶数電圧RSPWMが適用される各位相範囲を示す図である。
図25】全電圧RSPWMの低変調率時の変調波形を示す図である。
図26】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図27】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図28】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図29】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図30】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図31】全電圧RSPWMにおける、電圧ベクトルの各位相範囲と、電圧ベクトルの修正先の動作可能領域と、修正先で選択される境界の線分の対応関係を示す図である。
図32】同制御装置における相電圧指令修正部の機能構成を示すブロック図である。
図33】同相電圧指令修正部の動作を説明するフローチャートである。
図34】全電圧RSPWMにおける、動作不能領域について、電圧ベクトルの修正先を電圧空間で表す図である。
図35】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図36】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図37】同制御装置における相電圧指令修正部の機能構成の変形例を示すブロック図である。
図38】同相電圧指令修正部の動作の変形例を説明するフローチャートである。
図39】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図40】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図41】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図42】電圧ベクトルの修正手法を電圧空間で表す図である。
図43】本電力変換装置の高変調率時の変調波形を示す図である。
図44】(A)は、本電力変換装置で生成される三相電圧指令値の移動軌跡を平均化した概念図であり、(B)は同移動軌跡の一部を拡大して示す概念図である。
図45】本電力変換装置の高変調率時の変調波形を示す図である。
図46】電圧ベクトルの修正手法の変形例を電圧空間で表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0024】
本発明を適用した実施例の電力変換装置1は、電気自動車等の車両に搭載される車両用空気調和装置の冷媒回路を構成する所謂インバータ一体型電動圧縮機のモータ8(負荷)を駆動するものである。
【0025】
(1)電力変換装置1の回路構成
図1において実施例の電力変換装置1は、三相のインバータ回路27と、制御装置21を備えている。インバータ回路27は、直流電源(車両のバッテリ:例えば、350V)29の直流電圧Vdcを三相の交流電圧に変換してモータ8に印加する回路である。この場合、実施例のモータ8はIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0026】
インバータ回路27は、U相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wを有しており、各相のハーフブリッジ回路19U~19Wは、それぞれ上アームスイッチング素子18A~18Cと、下アームスイッチング素子18D~18Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子18A~18Fには、それぞれ還流ダイオード31が逆並列に接続されている。各上下アームスイッチング素子18A~18Fは、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)から構成されている。
【0027】
そして、インバータ回路27の上アームスイッチング素子18A~18Cのコレクタは、直流電源29及び平滑コンデンサ32の上アーム電源ライン(正極側母線)10に接続されている。一方、インバータ回路27の下アームスイッチング素子18D~18Fのエミッタは、直流電源29及び平滑コンデンサ32の下アーム電源ライン(負極側母線)15に接続されている。
【0028】
この場合、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aのエミッタと下アームスイッチング素子18Dのコレクタが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bのエミッタと下アームスイッチング素子18Eのコレクタが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cのエミッタと下アームスイッチング素子18Fのコレクタが直列に接続されている。
【0029】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点(U相電圧Vu)は、モータ8のU相の電機子コイルに接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点(V相電圧Vv)は、モータ8のV相の電機子コイルに接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点(W相電圧Vw)は、モータ8のW相の電機子コイルに接続されている。
【0030】
(制御装置の基本構成)
次に、制御装置21はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、実施例では車両のECUから回転数指令値を入力し、モータ8からモータ電流(相電流)を取得して、これらに基づき、インバータ回路27の各スイッチング素子18A~18FのON/OFF状態(スイッチング)を制御する。具体的には、各スイッチング素子18A~18Fのゲートに印加するゲート電圧を制御する。
【0031】
実施例の制御装置21は、dq軸電流指令演算部28と、相電圧指令値演算部33と、相電圧指令修正部40と、変調部50と、PWM信号生成部36と、ゲートドライバ37と、モータ8に流れる各相のモータ電流(相電流)であるU相電流iu、V相電流iv、W相電流iwを測定するためのカレントトランスから成る電流センサ26A、26B、26Cを有している。各電流センサ26A~26Cは相電圧指令演算部33に接続されている。
【0032】
尚、実施例では電流センサ26AはU相電流iuを測定し、電流センサ26BはV相電流ivを測定し、電流センサ26CはW相電流iwを測定するが、電流センサ26AによりU相電流iuを測定し、電流センサ26BによりV相電流ivを測定して、W相電流iwはこれらから計算により求めてもよい。また、各相のモータ電流を検出する方法については実施例のように電流センサ26A~26Cで測定する以外に、下アーム電源ライン15の電流値をシャント抵抗により検出し、その電流値とモータ8の運転状態から相電圧指令演算部33が推定する方法などがあることから、各相電流を検出・推定する方法に関しては、特に限定しない。
【0033】
(dq軸電流指令演算部)
dq軸電流指令演算部28は、モータ8を制御するための目標値として、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を出力する。
【0034】
(相電圧指令演算部)
相電圧指令演算部33は、モータ8の電気角、d軸電流指令値Idref及びq軸電流指令値Iqrefと、電流センサ26Bで検出される三相電流をdq軸に変換したd軸電流Id及びq軸電流Iqに基づくベクトル制御により、モータ8の各相の電機子コイルに印加するU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwを生成するための三相変調の相電圧指令値Vuref(以下、U相電圧指令値Vuref)、Vvref(以下、V相電圧指令値Vvref)、Vwref(以下、W相電圧指令値Vwref)を演算し、出力する。具体的に、相電圧指令演算部33は、dq軸電流制御器34、座標変換部35を有する。なお、ここでは相電圧指令演算部33が、三相交流の相電圧指令値(指令電圧ベクトル)を出力する場合を例示しているが、本発明はこれに限定されない。指令演算部が、何らかの指令電圧ベクトルを演算することができれば、他の形態の出力であっても良い。
【0035】
dq軸電流制御器34は、モータ8に流れる三相電流をdq軸に変換したd軸電流Id及びq軸電流Iqと、dq軸電流指令演算部28から出力されるd軸電流指令値Idref及びq軸電流指令値Iqrefを比較して、両者が一致するように電流をフィードバック制御(例えばPI制御)する。更に、このdq軸電流制御器34には、後述する相電圧指令修正部40から出力される修正電圧ベクトルVm'の修正量(Vm'-Vm)が、dq軸電圧に変換したd軸修正量Vderr及びq軸修正量Vqerrとなる形態でフィードバックされており、これらも値も、上記PI制御に反映させている。その結果、dq軸電流制御器34から、d軸電圧指令値Vdref及びq軸電圧指令値Vqrefが出力される。具体例として、dq軸電流制御器34は、下記数式(I)によってPI制御を実行すればよい。
【数1】
【0036】
座標変換部35は、dq軸電流制御器34から得られるd軸電圧指令値Vdref及びq軸電圧指令値Vqrefにより、下記数式(II)を用いてα軸電圧指令値Vαref及びβ軸電圧指令値Vβrefを算出し、これらα軸電圧指令値Vαref及びβ軸電圧指令値Vβrefから数式(III)を用いてUVW各相の電圧指令値Vuref、Vvref、Vwref(相電圧指令値)を算出する。
【数2】
【数3】
【0037】
上記数式(III)を、α軸を基準とした位相θmと、α軸電圧指令値Vαref及びβ軸電圧指令値Vβrefから構成される電圧ベクトル(指令電圧ベクトル)Vmで書き直すと下記数式(IV)のようになる。
【数4】
【0038】
図2は数式(IV)で算出された各相の電圧指令値Vuref、Vvref、Vwrefの波形を示し、図3は線形出力領域kHを示している。線形出力領域とは、図3の電圧空間を表す図において、電圧ベクトルが綺麗に一回転する(円を描く)ことができる振幅の最大値である。三相インバータの電圧空間は図3のように六角形となるため、理論上、線形出力領域は六角形の内接円となる。この出願では一般的な三相変調における線形出力領域kHを1として表記し、他の変調方式の線形出力領域を正規化して論ずる。
【0039】
また、U相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧VwのHigh、Lowの状態を纏めると、図4に示すようなV0~V7の8つの電圧ベクトル(基本電圧ベクトル)の状態に表現することができる。このうち、V1、V3、V5が奇数電圧ベクトル、V2、V4、V6が偶数電圧ベクトル、V0、V7が零電圧ベクトルであり、各電圧ベクトルを電圧空間で示すと図5のようになる。
【0040】
実施例の座標変換部35は、更に下記数式(V)と数式(VI)を用いて各相の二相変調の電圧指令値Vuref2、Vvref2、Vwref2を算出している。
【数5】
【数6】
【0041】
尚、各数式(V)、(VI)中のVmodは、三相変調の電圧指令値Vuref、Vvref、Vwrefから二相変調の電圧指令値Vuref2、Vvref2、Vwref2を算出するための補正値であり、数式(V)では三相の電圧指令値Vuref、Vvref、Vwrefのうち最小の値(min)をVdc/2に加算した値となり、数式(VI)では三相の電圧指令値Vuref、Vvref、Vwrefのうち最大の値(max)をVdc/2から減算した値となる。
【0042】
そして、三相変調の電圧指令値Vuref、Vvref、Vwref(相電圧指令値)のうち振幅が最大となる相の符号が負の場合、数式(VI)を用いて当該振幅が最大となる相の上アームスイッチング素子をON固定する二相変調とし、電圧指令値Vuref、Vvref、Vwrefのうち振幅が最大となる相の符号が正の場合、数式(V)を用いて当該振幅が最大となる相の下アームスイッチング素子をON固定する二相変調とするものである。なお、振幅最大となる相の符号が正の場合、数式(VI)を用いて当該振幅が最大相の上アームスイッチング素子をON固定する二相変調とし、振幅最大となる相の符号が負の場合、数式(V)を用いて当該振幅が最大となる相の下アームスイッチング素子をON固定する二相変調としてもよい。
【0043】
(相電圧指令修正部)
相電圧指令修正部40は、座標変換部35で一時的に変換されるα軸電圧指令値Vαref及びβ軸電圧指令値Vβrefから構成される電圧ベクトルVmを修正して、修正α軸電圧指令値Vα'ref及び修正β軸電圧指令値Vβ'refから構成される修正電圧ベクトルVm'を生成し、これを座標変換部35に受け渡す。また、相電圧指令修正部40は、式(III)を利用して、修正α軸電圧指令値Vα'ref及び修正β軸電圧指令値Vβ'refから三相変調の修正相電圧指令値Vu'ref、Vv'ref、Vw'refを算出し、数式(V)と数式(VI)を用いて、各相の二相変調の修正電圧指令値Vu'ref2、Vv'ref2、Vw'ref2を算出して、これを座標変換部35に受け渡す。なお、相電圧指令修正部40における具体的な修正手法は、変調部50の変調手法と密接に関連するため、ここでは先に変調部50の説明を行うようにし、相電圧指令修正部40の詳細は後述する。
【0044】
(変調部)
変調部50は、奇数電圧変調処理部52と偶数電圧変調処理部54を有する。奇数電圧変調処理部52は、前述した修正電圧ベクトルVm'を利用して、基本電圧ベクトルのうちの奇数電圧ベクトルV1、V3、V5のみを一制御周期中に出力する奇数側パルス幅変調を実行する。偶数電圧変調処理部54は、基本電圧ベクトルのうちの偶数電圧ベクトルV2、V4、V6のみを一制御周期中に出力する偶数側パルス幅変調を実行する。奇数側パルス幅変調では、修正α軸電圧指令値Vα'ref及び修正β軸電圧指令値Vβ'refからから、直接各相の上アームスイッチング素子のON時間tu、tv、twを生成し、電圧ベクトル(V1、V3、V5)とそれらの出力時間を出力する。偶数側パルス幅変調では、修正α軸電圧指令値Vα'ref及び修正β軸電圧指令値Vβ'refから、直接二相の上アームスイッチング素子のON時間tuv、tvw、twuを生成し、電圧ベクトル(V2、V4、V6)とそれらの出力時間を出力する。本出願ではこの奇数側パルス幅変調を以下、奇数電圧RSPWM(Remote State PWM)と称し、偶数側パルス幅変調を以下、偶数電圧RSPWM(Remote State PWM)と称する。尚、係るパルス幅変調は、次のサンプリング点を待たずに空間ベクトル変調を行う瞬時空間ベクトル変調の考え方に基づくものである。
【0045】
変調部50は、最大となる相の正負判定によって、奇数電圧RSPWMと偶数電圧RSPWMを切り替える。本出願では、このパルス幅変調を以下、最大相判定式の全電圧RSPWMと称する。
【0046】
(PWM信号生成部)
PWM信号生成部36は、変調部50が出力する電圧ベクトルと出力時間を入力し、キャリア信号との大小を比較することによって、インバータ回路27のU相インバータ19U、V相インバータ19V、W相インバータ19Wの駆動指令信号となるPWM信号を生成し、出力する。
【0047】
(ゲートドライバ)
ゲートドライバ37は、PWM信号生成部36から出力されるPWM信号に基づき、U相インバータ19Uのスイッチング素子18A、18Dのゲート電圧と、V相インバータ19Vのスイッチング素子18B、18Eのゲート電圧と、W相インバータ19Wのスイッチング素子18C、18Fのゲート電圧を発生させる。
【0048】
そして、インバータ回路27の各スイッチング素子18A~18Fは、ゲートドライバ37から出力されるゲート電圧に基づき、ON/OFF駆動される。即ち、ゲート電圧がON状態(所定の電圧値)となるとスイッチング素子がON動作し、ゲート電圧がOFF状態(零)となるとスイッチング素子がOFF動作する。このゲートドライバ37は、スイッチング素子18A~18Fが前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等から構成される。
【0049】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点の電圧がU相電圧Vu(相電圧)としてモータ8のU相の電機子コイルに印加(出力)され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点の電圧がV相電圧Vv(相電圧)としてモータ8のV相の電機子コイルに印加(出力)され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点の電圧がW相電圧Vw(相電圧)としてモータ8のW相の電機子コイルに印加(出力)される。
【0050】
(変調部の動作の詳細説明)
次に、図6以降を参照しながら、この実施例における変調部50の動作について説明する。図6は変調部50が行うパルス幅変調の全体の流れを説明するフローチャートである。ステップS1では、詳細を後述する相電圧指令修正部40によって修正された修正α軸電圧指令値Vα'ref及び修正β軸電圧指令値Vβ'ref、及び、三相変調の修正相電圧指令値Vu'ref、Vv'ref、Vw'refを、変調部50が受け取る。
【0051】
そして、ステップS2では前述した三相変調の修正相電圧指令値Vu'ref、Vv'ref、Vw'refのうち、振幅が最大となる相の符号が正であるか、負であるかを判別する。そして、三相変調の修正相電圧指令値Vu'ref、Vv'ref、Vw'refのうち、振幅が最大となる相の符号が正の場合、ステップS3に進み、奇数電圧RSPWMを実行する。
【0052】
(奇数電圧RSPWM)
奇数電圧RSPWMのステップS3で、変調部50は、下記数式(VII)と数式(VIII)を用いて、修正α軸電圧指令値Vα'ref及び修正β軸電圧指令値Vβ'refから各相の上アームスイッチング素子18A、18B、18CのON時間tu、tv、twを算出する。尚、数式(VII)のV1、V3、V5は奇数電圧ベクトル、Tsは一制御周期である。この制御周期Tsは一キャリア周期であってもよい。但し、この一制御周期Tsは、電気角一周期よりも十分に短い期間とする。また、Su、Sv、Swは、図7に示す電圧空間の出力領域(Sector)A~Cに対応する関数であり、各出力領域と関数Su、Sv、Swの対応は図8に示される。これら関数Su、Sv、Swは空間ベクトル変調における電圧ベクトルを選択するものである。尚、数式(VIII)の演算結果は数式(V)と同じになるため、ステップS3ではどちらを使用してもよい。
【数7】
【数8】
【0053】
次に、ステップS4では、数式(IX)を用いて、零電圧ベクトルV0を出力する時間である零電圧出力時間tを算出する。なお、ここでは、後述する変調域内判定部42を経て、あらかじめ修正された修正α軸電圧指令値Vα'ref及び修正β軸電圧指令値Vβ'refを採用していることから、この零電圧出力時間t0は、必ず零以上の値となる。
【数9】
【0054】
ステップS5では、算出された零電圧出力時間tに基づいて、下記数式(X)を用いて各相の上アームスイッチング素子のON時間を修正する。これはON時間tu、tv、twの全てにt/3を加算することで行われる。これにより、零電圧出力時間が無くなり、モータ8のコモンモード電圧Vcの変動が解消されることになる。
【数10】
【0055】
そして、ステップS6において、図10に示されるように、変調部50が、各出力領域(Sector)に基づいて、その奇数電圧ベクトル(V1、V3、V5)とそれらの出力時間を決定する。そして、これらの値がステップS14で最終的にPWM信号生成部36に出力される。尚、図10は、奇数電圧RSPWMの出力領域(Sector)と電圧ベクトル、出力時間の関係を示している。
【0056】
図9の円Q1は、奇数電圧RSPWM(odd RSPWM)を単体で利用した場合の線形出力領域を示している。一方、本実施例では、奇数電圧ベクトル(V1、V3、V5)の各頂点を結んだ三角形となる領域(以下、奇数側動作可能領域)Z1の全範囲を利用して出力を行っている。なお、奇数側動作可能領域Z1は、領域を画定する3つの線分Z1a、Z1b、Z1cを有している。図11には例えば出力領域Aにおいて、修正電圧ベクトルVm'に基づいて算出される奇数電圧ベクトルV1、V3、V5の出力時間を示している。更に、図12には、出力領域Aでの奇数電圧ベクトルV1、V3、V5の出力パターンを示している。
【0057】
なお、図9の円Q1の範囲内に、修正電圧ベクトルVm'が収まっている場合は、変調率が低い制御状態が続いていることを意味する。例えば、低変調率において、奇数電圧RSPWM「のみ」で変調する場合を仮定すると、UVW各相の変調波形は図13に示すようになって、コモンモード電圧Vcの変動は無い(低変調率時の奇数電圧RSPWMのみの変調波形)。
【0058】
一方、円Q1の範囲内に、修正電圧ベクトルVm'が収まっていない場合は、変調率が高い制御状態になっていることを意味する。この場合の変調波形の詳細は後述する。
【0059】
(偶数電圧RSPWM)
【0060】
一方、ステップS2で三相変調の修正相電圧指令値Vu'ref、Vv'ref、Vw'refのうち、振幅が最大となる相の符号が負の場合、ステップS8に進み、偶数電圧RSPWMを実行する。このステップS8で、変調部50は、下記数式(XI)と数式(XII)を用いて、修正α軸電圧指令値Vα'ref及び修正β軸電圧指令値Vβ'refから二相の上アームスイッチング素子のON時間tuv、tvw、twuを算出する。
【数11】
【数12】
【0061】
尚、tuvはU相とV相の上アームスイッチング素子18A、18BのON時間、tvwはV相とW相の上アームスイッチング素子18B、18CのON時間、twuはW相とU相の上アームスイッチング素子18C、18AのON時間である。また、数式(XI)のV2、V4、V6は偶数電圧ベクトル、Suv、Svw、Swuは図14に示す電圧空間の出力領域(Sector)A~Cに対応する関数であり、各出力領域と関数Suv、Svw、Swuの対応は図15に示される。これら関数Suv、Svw、Swuは空間ベクトル変調における電圧ベクトルを選択するものである。
【0062】
更に、変調部50は、下記数式(XIII)を用いて、各相の上アームスイッチング素子18A、18B、18CのOFF時間tu(アッパーバー)、tv(アッパーバー)、tw(アッパーバー)を算出する。尚、数式(XIII)の演算結果は数式(XII)と同じになるため、ステップS8ではどちらを使用してもよい。
【数13】
【0063】
次に、ステップS9では、数式(XIV)を用いて、零電圧ベクトルV7を出力する時間である零電圧出力時間tを算出する。なお、ここでは、後述する変調域内判定部42を経て、あらかじめ修正された修正α軸電圧指令値Vα'ref及び修正β軸電圧指令値Vβ'refを採用していることから、この零電圧出力時間tは、必ず零以上の値となる。
【数14】
【0064】
ステップS10では、算出された零電圧出力時間tに基づいて、下記数式(XV)、(XVI)を用いて各相の上アームスイッチング素子のOFF時間を修正する。これはOFF時間tu(アッパーバー)、tv(アッパーバー)、tw(アッパーバー)の全てにOFF時間となるt/3を加算することで行われる。これにより、零電圧出力時間が無くなり、モータ8のコモンモード電圧Vcの変動が解消されることになる。
【数15】
【数16】
【0065】
そして、ステップS11において、図17に示されるように、変調部50が、各出力領域(Sector)に基づいて、その偶数電圧ベクトル(V2、V4、V6)とそれらの出力時間を決定する。そして、それらの値がステップS14で最終的にPWM信号生成部36に出力される。尚、図17は、偶数電圧RSPWMの出力領域(Sector)と電圧ベクトル、出力時間の関係を示している。
【0066】
図16の円Q2は、この偶数電圧RSPWM(even RSPWM)を単体で利用した場合の線形出力領域を示している。一方、本実施例では、偶数電圧ベクトル(V2、V4、V6)の各頂点を結んだ三角形となる領域(以下、偶数側動作可能領域)Z2の全範囲を利用して出力を行っている。なお、偶数側動作可能領域Z2は、領域を画定する3つの線分Z2a、Z2b、Z2cを有している。図18には例えば出力領域Aにおいて、修正電圧ベクトルVm'に基づく偶数電圧ベクトルV2、V4、V6の出力時間を示しており、図19には例えば出力領域Cおいて、修正電圧ベクトルVm'に基づく偶数電圧ベクトルV2、V4、V6の出力時間を示している。更に、図20には出力領域Cでの各電圧ベクトルV4、V2、V6の出力パターンを示している。
【0067】
なお、円Q2の範囲内に、修正電圧ベクトルVm'が収まっている場合は、変調率が低い制御状態が続いていることを意味する。例えば、低変調率状態において、偶数電圧RSPWM「のみ」で変調する場合を仮定すると、UVW各相の変調波形は図21に示すようになって、コモンモード電圧Vcの変動は無い(低変調率時の偶数電圧RSPWMのみの変調波形)。
【0068】
一方、円Q2の範囲内に、修正電圧ベクトルVm'が収まっていない場合は、変調率が高い制御状態になっていることを意味する。この場合の変調波形の詳細は後述する。
【0069】
(最大相判定式の全電圧RSPWM)
なお、本実施形態では、奇数電圧RSPWMと偶数電圧RSPWMを切り替えながら、変調制御を行っているので、結果として、全電圧ベクトルを利用したRSPWMとなる。これを全電圧RSPWMと称する。全電圧RSPWMの中でも、本実施形態は、修正相電圧指令値Vu'ref、Vv'ref、Vw'refのうち、振幅が最大となる相の符号が正であるか負であるかによって、奇数電圧RSPWMと偶数電圧RSPWMを切り替えていることから、最大相判定式の全電圧RSPWMとなる。
【0070】
図22は、最大相判定式の全電圧RSPWMの動作可能領域Z3を示す。全電圧RSPWMの動作可能領域(以下、全電圧動作可能領域)Z3は、奇数側動作可能領域Z1と偶数側動作可能領域Z2を重畳させた領域となる。また、全電圧動作可能領域Z3の周囲を取り囲むようにして、全電圧動作可能領域Z3の範囲外となる領域(以下、動作不能領域)Xが、合計6か所存在している。動作不能領域Xは、二等辺三角形となる。
【0071】
なお、図22の円Q3は、最大相判定式の全電圧RSPWMを単体で利用した場合の線形出力領域を示している。全電圧RSPWMによる線形出力領域となる円Q3は、奇数電圧RSPWMまたは偶数電圧RSPWMのそれぞれを単体で行う場合の線形出力領域となる円Q1、Q2に比して拡大される。一方、本実施例では、この線形出力領域(円Q3)を超えて、全電圧動作可能領域Z3の全範囲を利用して出力を行う。
【0072】
なお、円Q3の範囲内に、修正電圧ベクトルVm'が収まっている場合は、変調率が低い制御状態が続いていることを意味する。一方、円Q3の範囲内に、修正電圧ベクトルVm'が収まっていない場合は、変調率が高い制御状態になっていることを意味する。
【0073】
(位相判定式の全電圧RSPWM)
上記最大相判定式の全電圧RSPWMでは、変調部50が、三相変調の修正相電圧指令値Vu'ref、Vv'ref、Vw'refのうち、振幅が最大となる相の符号が正の場合と負の場合を判定し、これにより奇数電圧RSPWMと、偶数電圧RSPWMを切り換えるようにしている。一方で、本発明はそれに限らず、例えば、修正電圧ベクトルVm'のα軸を基準とした修正後の電圧ベクトルの位相θm'によって、奇数電圧RSPWMと偶数電圧RSPWMを切り換えるようにしてもよい。本出願ではこのパルス幅変調を以下、位相判定式の全電圧RSPWMと称する。
【0074】
図23は、位相判定式の全電圧RSPWMの動作領域において、奇数電圧RSPWMが適用される位相領域oddと、偶数電圧RSPWMが適用される位相領域evenを示している。なお、図24は、各位相範囲と、これに適用される奇数電圧RSPWM及び偶数電圧RSPWMの対応関係を示している。図23及び図24に示すように、電気角一周期を六つの領域(330°<θm'≦30°、30°<θm'≦90°、90°<θm'≦150°、150°<θm'≦210°、210°<θm'≦270°、270°<θm'≦330°)に分け、交互に奇数電圧RSPWMと偶数電圧RSPWMを切り換える。
【0075】
なお、位相判定式の全電圧RSPWMの動作可能領域出力領域Z3は、図22の最大相判定式の全電圧RSPWMと同じである。つまり、全電圧RSPWMの動作可能領域(以下、全電圧動作可能領域)Z3は、奇数側動作可能領域Z1と偶数側動作可能領域Z2を重畳させた領域となる。また、全電圧動作可能領域Z3の周囲を取り囲むようにして、全電圧動作可能領域Z3の範囲外となる領域(以下、動作不能領域)Xが、合計6か所存在する。
【0076】
なお、円Q3の範囲内に、修正電圧ベクトルVm'が収まっている場合は、変調率が低い制御状態が続いていることを意味する。円Q3の範囲内に修正電圧ベクトルVm'が収まっている状況における、全電圧RSPWMによるUVW各相の変調波形は図25に示すようになる。この場合、奇数電圧RSPWMと偶数電圧RSPWMの切り換え時にコモンモード電圧Vcが変動する(低変調率時の全電圧RSPWMによる変調波形)。
【0077】
一方、円Q3の範囲内に、修正電圧ベクトルVm'が収まっていない場合は、変調率が高い制御状態になっていることを意味する。この場合の変調波形の詳細は後述する。
【0078】
(相電圧指令修正部の詳細動作の説明)
図1に戻って、相電圧指令修正部40は、(修正前となる)α軸電圧指令値Vαref及びβ軸電圧指令値Vβrefから構成される電圧ベクトルVmが、全電圧動作可能領域Z3の範囲内か否かを判定する。なお、電圧ベクトルVmが、全電圧動作可能領域Z3の範囲内となる場合は、電圧ベクトルVmの修正が不要となることから、電圧ベクトルVm=修正電圧ベクトルVm'に設定する。一方、図26に示すように、電圧ベクトルVmが、全電圧動作可能領域Z3の範囲外、すなわち、動作不能領域Xに位置する場合は、この電圧ベクトルVmに近い範囲(近似範囲)であって、全電圧動作可能領域Z3の範囲内となる電圧ベクトルを算出し、これを修正電圧ベクトルVm'とする。なお、動作不能領域Xは、ベクトル制御におけるV1~V6基本電圧ベクトルで囲まれる六角形の基本電圧空間Bの範囲内、かつ、全電圧動作可能領域Z3の範囲外となる領域を意味する。なお、この近似範囲は、例えば、電圧ベクトルVmのベクトル長Nに対して、修正電圧ベクトルVm'のベクトル長N'が、0.3N≦N'≦1.7Nとなる範囲や0.5N≦N'≦1.5Nとなる範囲、0.7N≦N'≦1.3Nとなる範囲が挙げられる。また近似範囲は、例えば、電圧ベクトルVmの電圧位相θmに対して、修正電圧ベクトルVm'の電圧位相θm'が、θm-120°≦θm'≦θm+120°となる範囲やθm-90°≦θm'≦θm+90°となる範囲、θm-60°≦θm'≦θm+60°となる範囲、θm-45°≦θm'≦θm+45°となる範囲が挙げられる。
【0079】
この近似範囲Kにおける修正電圧ベクトルVm'の算出手法には、例えば、以下(手法A)~(手法E)が存在する。
【0080】
(手法A:動作不能領域と電圧動作可能領域の境界への修正)
例えば、図27に示すように、電圧ベクトルVmが属する動作不能領域Xと全電圧動作可能領域Z3の境界線Y1,Y2上の任意の座標を、修正電圧ベクトルVm'とする。なお、ここでは全電圧動作可能領域Z3の境界線Y1,Y2上に修正する場合を例示しているが、本発明はこれに限られず、動作不能領域Xと奇数側動作可能領域Z1の境界線上や奇数側動作可能領域Z1内に修正してもよく、また、動作不能領域Xと偶数側動作可能領域Z2の境界線上や偶数側動作可能領域Z2内に修正してもよい。
【0081】
(手法B:電圧位相修正)
図28に示すように、電圧ベクトルVmの長さを変えずに、電圧ベクトルVmの位相θmのみを修正して、動作不能領域Xと全電圧動作可能領域Z3の境界線Y1,Y2と交わる場所を修正電圧ベクトルVm'とする。位相θmを正回転(正方向修正)する場合と、逆回転(負方向修正)する場合の2つの修正電圧ベクトル候補が存在する際は、電圧位相θmの修正量の絶対値が小さいほうを選択することが好ましい。なお、ここでは全電圧動作可能領域Z3の境界線Y1,Y2上に修正する場合を例示しているが、本発明はこれに限られず、動作不能領域Xと奇数側動作可能領域Z1の境界線上や奇数側動作可能領域Z1内に修正してもよく、また、動作不能領域Xと偶数側動作可能領域Z2の境界線上や偶数側動作可能領域Z2内に修正してもよい。
【0082】
(手法C:電圧ベクトルの長さ修正)
図29に示すように、電圧ベクトルVmの位相θmを変えずに、電圧ベクトルVmの長さのみを修正して、動作不能領域Xと全電圧動作可能領域Z3の境界線Y1,Y2と交わる場所を修正電圧ベクトルVm'とする。なお、ここでは全電圧動作可能領域Z3の境界線Y1,Y2上に修正する場合を例示しているが、本発明はこれに限られず、動作不能領域Xと奇数側動作可能領域Z1の境界線上や奇数側動作可能領域Z1内に修正してもよく、また、動作不能領域Xと偶数側動作可能領域Z2の境界線上や偶数側動作可能領域Z2内に修正してもよい。
【0083】
(手法D:電圧ベクトルの座標を動作不能領域Xの最外線と平行移動修正)
図30に示すように、電圧ベクトルVmのα軸座標Vα、β軸座標Vβを、動作不能領域Xの最外線Y3(基本電圧空間Bの輪郭線)と平行に移動させて、全電圧動作可能領域Z3の境界線Y1,Y2と交わる場所を修正電圧ベクトルVm'とする。位相θmを正回転(正方向修正)する場合と、逆回転(負方向修正)する場合の2つの修正電圧ベクトル候補が存在する際は、電圧位相θmの修正量の絶対値が小さいほうを選択することが好ましい。なお、ここでは全電圧動作可能領域Z3の境界線Y1,Y2上に修正する場合を例示しているが、本発明はこれに限られず、動作不能領域Xと奇数側動作可能領域Z1の境界線上や奇数側動作可能領域Z1内に修正してもよく、また、動作不能領域Xと偶数側動作可能領域Z2の境界線上や偶数側動作可能領域Z2内に修正してもよい。
【0084】
(手法E:上記(手法A)~(手法D)の組み合わせ修正)
上記(手法A)~(手法D)を適宜組み合わせて、修正電圧ベクトルVm'を算出してもよい。
【0085】
上記(手法A)~(手法E)では、電圧ベクトルVmを、全電圧動作可能領域Z3の境界上に修正する場合を例示したが、予め、修正先領域として、奇数側動作可能領域Z1と偶数側動作可能領域Z2のいずれかを選択しておくようにし、奇数側動作可能領域Z1と偶数側動作可能領域Z2のいずれか一方の境界上に絞り込んで修正しても良い。例えば、最大相判定式の全電圧RSPWMを適用する場合、修正前の三相変調の相電圧指令値Vuref、Vvref、Vwrefのうち、振幅が最大となる相の符号が負の場合は、偶数側動作可能領域Z2への修正を選択し、振幅が最大となる相の符号が正であれば奇数側動作可能領域Z1への修正を選択しても良い。
【0086】
また例えば、位相判定式の全電圧RSPWMを適用する場合、図31に示すように、α軸を基準とした電圧ベクトルVmの位相θmの範囲に従って、偶数側動作可能領域Z2への修正と、奇数側動作可能領域Z1への修正を切り替えても良い。なお、図31には、位相θmに基づいて、偶数側動作可能領域Z2または奇数側動作可能領域Z1の近傍境界線上に電圧ベクトルVmを修正する場合に、選択される境界の線分(図31参照)を示している。
【0087】
(手法B:電圧位相修正の詳細動作の説明)
【0088】
次に、位相判定式の全電圧RSPWMを適用することを前提として、上記(手法B)を採用する場合における、相電圧指令修正部40の詳細動作例について説明する。図33は相電圧指令修正部40の動作の流れを説明するフローチャートである。図32に示すように、相電圧指令修正部40は、変調域内判定部42、変調領域選択部44、修正指令計算部46、修正指令選択部48、フィードバック処理部49を有する。
【0089】
変調域内判定部42は、電圧ベクトルVmの座標が、全電圧動作可能領域Z3の範囲内か否かを判定する(ステップS41)。電圧ベクトルVmが、全電圧動作可能領域Z3の範囲内となる場合は、電圧ベクトルVmの修正が不要となることから、ステップS42に進み、修正指令計算部46によって、電圧ベクトルVmそのものを修正電圧ベクトルVm'に設定する。次いで、ステップS80に進み、この修正電圧ベクトルVm'を変調部50に出力する。
【0090】
一方、ステップS41において、電圧ベクトルVmの座標が、全電圧動作可能領域Z3の範囲外、即ち、動作不能領域Xに位置する場合は、電圧ベクトルVmの修正が必要となるので、ステップS44に進み、変調領域選択部44が起動される。
【0091】
ステップS44において、変調領域選択部44では、α軸を基準とした電圧ベクトルVmの位相θmを参照し、図31の関係に従って、偶数側動作可能領域Z2への修正と、奇数側動作可能領域Z1への修正のいずれかを選択する。図31の関係を図34に図示すると、動作不能領域Xは、奇数側動作可能領域Z1へ電圧ベクトルを修正する奇数修正領域X1と、偶数側動作可能領域Z2へ電圧ベクトルを修正する偶数修正領域X2を有することになる。電圧ベクトルVmが、奇数修正領域X1に属する場合は、変調領域選択部44が、奇数側動作可能領域Z1の範囲内となるように電圧ベクトルを修正する。電圧ベクトルVmが、偶数修正領域X2に属する場合は、変調領域選択部44が、偶数側動作可能領域Z2の範囲内となるように電圧ベクトルを修正する。この際、奇数修正領域X1の電圧ベクトルVmの修正先は、この奇数修正領域X1に隣接する奇数側動作可能領域Z1であって、かつ、偶数側動作可能領域Z2と重畳していない三角形の単独領域Z1tに修正することが好ましい。同様に、偶数修正領域X2の電圧ベクトルVmの修正先は、この偶数修正領域X2に隣接する偶数側動作可能領域Z2であって、かつ、奇数側動作可能領域Z1と重畳していない三角形の単独領域Z2tに修正することが好ましい。
【0092】
なお、奇数側動作可能領域Z1を区画する3つの線分Z1a、Z1b、Z1cを、α軸β軸の関数で表現すると、下記数式(XVII)となる。この関数は、電圧ベクトルVmの修正先座標を算出する際に利用される。
【数17】
【0093】
同様に、偶数側動作可能領域Z2を区画する3つの線分Z2a、Z2b、Z2cを、α軸β軸の関数で表現すると、下記数式(XVIII)となる。この関数は、電圧ベクトルVmの修正先座標を算出する際に利用される。
【数18】
【0094】
なお、説明の便宜上、以降においては、上記下記数式(XVII)及び数式(XVIII)を、下記数式(XIX)で一般化しておく。
【数19】
【0095】
ステップS44において、電圧ベクトルVmが例えば図35の状態、即ち、位相θmが330°<θm≦30°の範囲内の場合、図31の相関テーブルに基づいて、奇数側動作可能領域Z1が選択される。その後、ステップS50に進み、修正指令計算部46が、電圧ベクトルVmを、奇数側動作可能領域Z1の域内に修正する。
【0096】
修正に先立って、修正指令計算部46では、図35に示すように、電圧ベクトルVmの座標を半径とする正円Pをα軸β軸の関数で定義する。結果、正円Pは下記数式(XX)となる。
【数20】
【0097】
次に、この電圧ベクトルVmの位相θmは、0°<θm≦30°に属しているので、図31の相関テーブルに基づいて、数式(XVIII)の中から線分Z1aを意味する関数を選択し、これと数式(XX)の正円Pを意味する関数の2つの交点(VAα',VAβ')及び(VBα',VBβ')を算出する。なお、線分Z1aが選択される理由は、この電圧ベクトルVmを正逆双方向に回転させた場合、この線分Z1aに最初に交差することに起因している。
【0098】
数式(XIX)によって一般化した関数を利用すると、2つの交点の座標は以下数式(XXI)となる。
【数21】
【0099】
以上の結果、ステップS50において、修正指令計算部46は、奇数側動作可能領域Z1への修正候補となる第一及び第二電圧ベクトル(以下、第一及び第二修正候補電圧ベクトル)VAm',VBm'が算出される。
【0100】
次に、ステップS52に進み、修正指令選択部48が、第一及び第二修正候補電圧ベクトルVAm',VBm'の中から、1つの電圧ベクトルを選択し、これを修正電圧ベクトルVm'とする。この選択に先立って、修正指令選択部48では、電圧ベクトルVmを基準とした第一修正候補電圧ベクトルVAm'の第一位相修正量θAmodと、電圧ベクトルVmを基準とした第二修正候補電圧ベクトルVBm'の第二位相修正量θBmodを、以下数式(XXII)によって算出する。
【数22】
【0101】
修正指令選択部48では、第一位相修正量θAmodと第二位相修正量θBmodを比較して、小さいほうの修正候補電圧ベクトルVAm',VBm'(ここでは第一修正候補電圧ベクトルVAm')を、修正電圧ベクトルVm'に決定する。その後、ステップS80に進み、この修正電圧ベクトルVm'を変調部50に出力する。更に、ステップS82に進み、フィードバック処理部49が、修正電圧ベクトルVm'の修正量(Vm'-Vm)を、dq軸電圧に変換することでd軸修正量Vderr及びq軸修正量Vqerrを生成し、これをdq軸電流制御器34にフィードバックする。
【0102】
ステップS44に戻って、電圧ベクトルVmが例えば図36の状態、即ち、位相θmが30°<θm≦90°の範囲内の場合、図31の相関テーブルに基づいて、偶数側動作可能領域Z2が選択される。その後、ステップS60に進み、修正指令計算部46が、電圧ベクトルVmを、偶数側動作可能領域Z2の域内に修正する。
【0103】
修正に先立って、修正指令計算部46では、図36に示すように、電圧ベクトルVmの座標を半径とする正円Pを上記数式(XX)で定義する。更に、この電圧ベクトルVmの位相θmは、30°<θm≦60°に属しているので、図31の相関テーブルに基づいて、数式(XVIII)の中から線分Z2aを意味する関数を選択し、これと数式(XX)の正円Pを意味する関数の2つの交点(VAα',VAβ')及び(VBα',VBβ')を算出する。なお、線分Z2aが選択される理由は、この電圧ベクトルVmを正逆双方向に回転させた場合、この線分Z2aに最初に交差することに起因している。
【0104】
以上の結果、ステップS60において、修正指令計算部46は、偶数側動作可能領域Z2への修正候補となる第一及び第二電圧ベクトル(以下、第一及び第二修正候補電圧ベクトル)VAm',VBm'が算出される。
【0105】
次に、ステップS62に進み、修正指令選択部48が、第一及び第二修正候補電圧ベクトルVAm',VBm'の中から、1つの電圧ベクトルを選択し、これを修正電圧ベクトルVm'とする。この選択に先立って、修正指令選択部48では、電圧ベクトルVmを基準とした第一修正候補電圧ベクトルVAm'の第一位相修正量θAmodと、電圧ベクトルVmを基準とした第二修正候補電圧ベクトルVBm'の第二位相修正量θBmodを、上記数式(XXII)によって算出する。
【0106】
修正指令選択部48では、第一位相修正量θAmodと第二位相修正量θBmodを比較して、小さいほうの修正候補電圧ベクトルVAm',VBm'(ここでは第二修正候補電圧ベクトルVBm')を、修正電圧ベクトルVm'に決定する。その後、ステップS80に進み、この修正電圧ベクトルVm'を変調部50に出力する。更に、ステップS82に進み、フィードバック処理部49が、修正電圧ベクトルVm'の修正量(Vm'-Vm)を、dq軸電圧に変換することでd軸修正量Vderr及びq軸修正量Vqerrを生成し、これをdq軸電流制御器34にフィードバックする。
【0107】
(手法C:電圧ベクトルの長さ修正の詳細動作の説明)
【0108】
次に、位相判定式の全電圧RSPWMを適用することを前提として、上記(手法C)を採用する場合における、相電圧指令修正部40の詳細動作例について説明する。図38は相電圧指令修正部40の動作の流れを説明するフローチャートである。図37に示すように、相電圧指令修正部40は、変調域内判定部42、変調領域選択部44、修正指令計算部46、フィードバック処理部49を有する。
【0109】
変調域内判定部42は、電圧ベクトルVmの座標が、全電圧動作可能領域Z3の範囲内か否かを判定する(ステップS71)。電圧ベクトルVmが、全電圧動作可能領域Z3の範囲内となる場合は、電圧ベクトルVmの修正が不要となることから、ステップS72に進み、修正指令計算部46によって、電圧ベクトルVmそのものを修正電圧ベクトルVm'に設定する。次いで、ステップS100に進み、この修正電圧ベクトルVm'を変調部50に出力する。
【0110】
一方、ステップS71において、電圧ベクトルVmの座標が、全電圧動作可能領域Z3の範囲外、即ち、動作不能領域Xに位置する場合は、電圧ベクトルVmの修正が必要となるので、ステップS74に進み、変調領域選択部44が起動される。
【0111】
ステップS74において、変調領域選択部44では、α軸を基準とした電圧ベクトルVmの位相θmを参照し、図31の相関テーブルに従って、偶数側動作可能領域Z2への修正と、奇数側動作可能領域Z1への修正のいずれかを選択する。例えば、電圧ベクトルVmが例えば図39の状態、即ち、位相θmが330°<θm≦30°の範囲内の場合、図31の相関テーブルに基づいて、奇数側動作可能領域Z1が選択される。その後、ステップS80に進み、修正指令計算部46が、電圧ベクトルVmを、奇数側動作可能領域Z1の域内に修正する。
【0112】
修正に先立って、修正指令計算部46では、図39に示すように、電圧ベクトルVmと同位相となる径方向線分Eをα軸β軸の関数で定義する。結果、径方向線分Eは下記数式(XXIII)となる。
【数23】
【0113】
次に、この電圧ベクトルVmの位相θmは、0°<θm≦30°に属しているので、図31の相関テーブルに基づいて、数式(XVII)の中から線分Z1aを意味する関数を選択し、これと数式(XXIII)の径方向線分Eを意味する関数との交点(Vα',Vβ')を算出する。なお、線分Z1aが選択される理由は、この電圧ベクトルVmから最も近い境界線となるからである。
【0114】
なお、ここでは説明の便宜上、上記数式(XVII)及び数式(XVIII)を、下記数式(XXIV)によって一般化する。
【数24】
【0115】
この一般化した数式(XXIV)と、数式(XXIII)の交点の座標は以下数式(XXV)となる。
【数25】
【0116】
以上の結果、ステップS80において、修正指令計算部46は、奇数側動作可能領域Z1への修正結果となる修正電圧ベクトルVm'が算出される。その後、ステップS100に進み、この修正電圧ベクトルVm'を変調部50に出力する。更に、ステップS102に進み、フィードバック処理部49が、修正電圧ベクトルVm'の修正量(Vm'-Vm)を、dq軸電圧に変換することでd軸修正量Vderr及びq軸修正量Vqerrを生成し、これをdq軸電流制御器34にフィードバックする。
【0117】
ステップS74に戻って、電圧ベクトルVmが例えば図40の状態、即ち、位相θmが30°<θm≦90°の範囲内の場合、図31の相関テーブルに基づいて、偶数側動作可能領域Z2が選択される。その後、ステップS90に進み、修正指令計算部46が、電圧ベクトルVmを、偶数側動作可能領域Z2の域内に修正する。
【0118】
修正に先立って、修正指令計算部46では、図40に示すように、電圧ベクトルVmと同位相となる径方向線分Eをα軸β軸の関数で定義する。結果、径方向線分Eは上記数式(XXIII)となる。
【0119】
次に、この電圧ベクトルVmの位相θmは、30°<θm≦60°に属しているので、図31の相関テーブルに基づいて、数式(XVIII)の中から線分Z2aを意味する関数を選択し、これと数式(XXIII)の径方向線分Eを意味する関数との交点(Vα',Vβ')を算出する。なお、線分Z2aが選択される理由は、この電圧ベクトルVmから最も近い境界線となるからである。
【0120】
以上の結果、ステップS90において、修正指令計算部46は、偶数側動作可能領域Z2への修正結果となる修正電圧ベクトルVm'が算出される。その後、ステップS100に進み、この修正電圧ベクトルVm'を変調部50に出力する。更に、ステップS102に進み、フィードバック処理部49が、修正電圧ベクトルVm'の修正量(Vm'-Vm)を、dq軸電圧に変換することでd軸修正量Vderr及びq軸修正量Vqerrを生成し、これをdq軸電流制御器34にフィードバックする。
【0121】
(手法D:電圧ベクトルの座標を動作不能領域Xの最外線と平行移動する場合の詳細動作の説明)
次に、位相判定式の全電圧RSPWMを適用することを前提として、上記(手法D)を採用する場合における、相電圧指令修正部40の詳細動作例について説明する。なお、相電圧指令修正部40の内部構成と動作の流れフローチャートは、図37及び図38と同じであるので、これを援用する。
【0122】
変調域内判定部42は、電圧ベクトルVmの座標が、全電圧動作可能領域Z3の範囲内か否かを判定する(ステップS71)。電圧ベクトルVmが、全電圧動作可能領域Z3の範囲内となる場合は、電圧ベクトルVmの修正が不要となることから、ステップS72に進み、修正指令計算部46によって、電圧ベクトルVmそのものを修正電圧ベクトルVm'に設定する。次いで、ステップS100に進み、この修正電圧ベクトルVm'を変調部50に出力する。
【0123】
一方、ステップS71において、電圧ベクトルVmの座標が、全電圧動作可能領域Z3の範囲外、即ち、動作不能領域Xに位置する場合は、電圧ベクトルVmの修正が必要となるので、ステップS74に進み、変調領域選択部44が起動される。
【0124】
ステップS74において、変調領域選択部44では、α軸を基準とした電圧ベクトルVmの位相θmを参照し、図31の相関テーブルに従って、偶数側動作可能領域Z2への修正と、奇数側動作可能領域Z1への修正のいずれかを選択する。
【0125】
ステップS74において、電圧ベクトルVmが例えば図41の状態、即ち、位相θmが330°<θm≦30°の範囲内の場合、図31の相関テーブルに基づいて、奇数側動作可能領域Z1が選択される。その後、ステップS80に進み、修正指令計算部46が、電圧ベクトルVmを、奇数側動作可能領域Z1の域内に修正する。
【0126】
修正に先立って、修正指令計算部46では、図41に示すように、電圧ベクトルVmに対して、数式(VIII)を適用して、各相の上アームスイッチング素子18A、18B、18CのON時間指令値tu、tv、twを算出する。なお、ここでは、数式(VIX)及び(X)による調整を行わない。結果、tu、tv、twのいずれかは常に零となる。なお、図41の電圧ベクトルVmの場合はtwが常に零となる。
【0127】
電圧ベクトルVmの位相θmは、0°<θm≦30°に属していることから、常にtu>tvが成立する。そこで、大きい方の値であるtuを維持しつつ、tv側を、tv'=Ts-tuの関係式で修正する。つまり、Ts=tu+tv'の関係式を利用して、tvをtv'に修正する。結果、図41の通り、修正後のON時間指令値(tu,tv')に基づいて、奇数側動作可能領域Z1の域内となる修正電圧ベクトルVm'が算出される。
【0128】
なお、この修正電圧ベクトルVm'のα軸β軸上の座標(Vα',Vβ')は、修正前の電圧ベクトルVmの座標を通り、かつ、動作不能領域Xの最外線Y3と平行となる線分Fと、図31の相関テーブルに基づいて数式(XVII)の中から選択される線分Z1aを意味する関数との交点となる。
【0129】
なお、上記説明を一般化するために、電圧ベクトルVmに対して、数式(VIII)を適用して算出されるON時間tu、tv、twの中で、零ではない残りの2つの指令値をt1、t2と定義する。この場合、修正電圧ベクトルVm'の奇数側動作可能領域Z1の域内となる座標(t1',t2')は、t1、t2の大きい方の指令値をそのまま維持し、残りの小さい方の指令値を修正するので、以下数式(XXVI)となる。
【数26】
【0130】
以上の結果、ステップS80において、修正指令計算部46は、奇数側動作可能領域Z1への修正結果となる修正電圧ベクトルVm'が算出される。その後、ステップS100に進み、この修正電圧ベクトルVm'を変調部50に出力する。更に、ステップS102に進み、フィードバック処理部49が、修正電圧ベクトルVm'の修正量(Vm'-Vm)を、dq軸電圧に変換することでd軸修正量Vderr及びq軸修正量Vqerrを生成し、これをdq軸電流制御器34にフィードバックする。
【0131】
ステップS74に戻って、電圧ベクトルVmが例えば図42の状態、即ち、位相θmが30°<θm≦90°の範囲内の場合、図31の相関テーブルに基づいて、偶数側動作可能領域Z2が選択される。その後、ステップS90に進み、修正指令計算部46が、電圧ベクトルVmを、偶数側動作可能領域Z2の域内に修正する。
【0132】
修正に先立って、修正指令計算部46では、図42に示すように、電圧ベクトルVmに対して、数式(XIII)を適用して、各相の上アームスイッチング素子18A、18B、18CのOFF時間指令値tu(アッパーバー)、tv(アッパーバー)、tw(アッパーバー)を算出する。なお、ここでは、数式(XIV)による調整を行わない。結果、tu(アッパーバー)、tv(アッパーバー)、tw(アッパーバー)のいずれかは常に零となる。なお、図42の電圧ベクトルVmの場合はtu(アッパーバー)が常に零となる。
【0133】
電圧ベクトルVmの位相θmは、30°<θm≦60°に属していることから、常にtw(アッパーバー)>tv(アッパーバー)が成立する。そこで、大きい方の値であるtw(アッパーバー)を維持しつつ、tv(アッパーバー)側を、tv' (アッパーバー)=Ts-tw(アッパーバー)の関係式で修正する。つまり、Ts=tw(アッパーバー)+tv' (アッパーバー)の関係式を利用して、tv(アッパーバー)をtv' (アッパーバー)に修正する。結果、図42の通り、修正後のOFF時間指令値(tv' (アッパーバー),tw(アッパーバー)に基づいて、偶数側動作可能領域Z2の域内の修正電圧ベクトルVm'が算出される。なお、この修正電圧ベクトルVm'のα軸β軸上の座標(Vα',Vβ')は、修正前の電圧ベクトルVmの座標を通り、かつ、動作不能領域Xの最外線Y3と平行となる線分Fと、図31の相関テーブルに基づいて数式(XVIII)の中から選択される線分Z2aを意味する関数との交点となる。
【0134】
以上の結果、ステップS90において、修正指令計算部46は、偶数側動作可能領域Z2への修正結果となる修正電圧ベクトルVm'が算出される。その後、ステップS100に進み、この修正電圧ベクトルVm'を変調部50に出力する。更に、ステップS102に進み、フィードバック処理部49が、修正電圧ベクトルVm'の修正量(Vm'-Vm)を、dq軸電圧に変換することでd軸修正量Vderr及びq軸修正量Vqerrを生成し、これをdq軸電流制御器34にフィードバックする。
【0135】
なお、上記説明を一般化するために、電圧ベクトルVmに対して、数式(XIII)を適用して算出されるOFF時間tu(アッパーバー)、tv(アッパーバー)、tw(アッパーバー)の中で、零ではない残りの2つの指令値をt1(アッパーバー)、t2(アッパーバー)と定義する。この場合、修正電圧ベクトルVm'の偶数側動作可能領域Z2の域内の座標(t1' (アッパーバー),t2' (アッパーバー))は、t1(アッパーバー)、t2(アッパーバー)の大きい方の指令値を残し、小さい方の指令値を修正することから、以下数式(XXVII)となる。
【数27】
【0136】
以上の通り、本実施形態の電力変換装置1によれば、相電圧指令修正部40によって、動作不能領域Xに属する電圧ベクトルVmを全電圧動作可能領域Z3内の修正電圧ベクトルVm'に変換してから、変調部50が変調制御を行うことから、常に同じ変調方式を利用して変調を行うことが可能となる。結果、高変調率で制御する際に、電圧ベクトルVmが全電圧動作可能領域Z3から部分的に外れたとしても、全て、全電圧動作可能領域Z3内に修正されるので、常にコモンモードノイズを励起しない変調方式で駆動されるため、総合的にコモンモードノイズが大幅に抑制される。
【0137】
また、電力変換装置1では、相電圧指令修正部40において、電圧ベクトルVmを全電圧動作可能領域Z3内の修正電圧ベクトルVm'に変換する際に、電圧ベクトルVmが属する動作不能領域Xに近い範囲を選定している。また、修正電圧ベクトルVm'の修正量をフィードバックして制御を行っていることから、修正電圧ベクトルVm'の修正量を抑制することができるので、変調部50から出力される三相電圧指令Vu、Vv、Vwを、安定させることが可能となる。
【0138】
図43に、本実施形態の電力変換装置1によって変調部50から出力される三相電圧指令Vu、Vv、Vwの波形B(reference)及びコモンモード電圧波形Vcを示す。コモンモード電圧波形Vcの変動が、従来の電力変換装置1よりも大幅に抑制されることが分かる。
【0139】
(変調領域選択部における動作可能領域の選択手法の修正制御)
既に述べたように、変調領域選択部44においてα軸を基準とした電圧ベクトルVmの位相θmを参照し、図31の相関テーブルに従って、偶数側動作可能領域Z2への修正と、奇数側動作可能領域Z1への修正のいずれかを選択する方式において、位相θmの回転速度が常に正である限り、位相θmが60°の位相間隔毎に、変調領域選択部44が偶数側動作可能領域Z2と奇数側動作可能領域Z1を交互に切り替える。
【0140】
ところで、本実施形態では、モータ8の出力制御を安定させるため、数式(I)に示すように、修正電圧ベクトルVm'の修正量を、dq軸電流制御器34にフィードバックして電流制御を行っている。修正電圧ベクトルVm'は、元となる電圧ベクトルVmに対して位相θmが前進・後進したり、ベクトル長が増減したりするので、これらの修正量に関する情報をdq軸電流制御器34にフィードバックして電流制御すると、出力されるd軸電圧指令値Vdref及びq軸電圧指令値Vqrefにその影響が反映される。
【0141】
電圧ベクトルVmの修正による相電圧指令値への影響を図44(A)に示す。図44(A)の線Dは、d軸電圧指令値Vdref及びq軸電圧指令値Vqrefを、数式(II)を用いてαβ軸に座標変換したα軸電圧指令値Vαref及びβ軸電圧指令値Vβref(電圧ベクトルVm)の移動軌跡を平均化して表現した概念図である。なお、この「移動軌跡の平均化」とは、実際にdq軸電流制御器34から出力される電圧ベクトルVmは、αβ軸において回転方向及び径方向に大きく振動しているため、その図示が困難となることから、仮想的に回転方向及び径方向にフィルタをかけて移動軌跡を均した概念である。線Dの領域D1に示すように、電圧ベクトルVmは、図31の相関テーブルにおける偶数側動作可能領域Z2と奇数側動作可能領域Z1を切り替えるための切替境界位相(30°、90°、150°、210°、270°、330°)の近傍で逆回転することがわかる。
【0142】
図44(B)は、この領域D1における移動軌跡の一部について、均すことなく拡大して示す概念図である。実際の電圧ベクトルVmは、細かく振動していることから、電圧ベクトルVmの移動軌跡は、切替境界位相270°の前後を周方向に往復する。電圧ベクトルVmの移動軌跡を、制御周期Ts毎の制御タイミング時系列k1~k7で定義し、このk1~k7において図31の相関テーブルをそのまま適用すると、修正先は、k1:奇数側動作可能領域Z1、k2:奇数側動作可能領域Z1、k3:偶数側動作可能領域Z2、k4:奇数側動作可能領域Z1、k5:偶数側動作可能領域Z2、k6:奇数側動作可能領域Z1、k7:偶数側動作可能領域Z2、k8:偶数側動作可能領域Z2となる。結果、k3~k7の短い制御期間(5制御周期)において、奇数側動作可能領域Z1と偶数側動作可能領域Z2が交互に切り替わることになり、図43の点線Cで示す領域のように、意図しないコモンモード電圧変動が励起されてしまう。
【0143】
そこで、変調領域選択部44では、図31の相関テーブルに修正を加える。具体的には、電圧ベクトルVmが逆回転して、切替境界位相(図44(B)では270°)を、逆回転方向に通過し、逆回転先の動作可能領域(図44(B)では奇数側動作可能領域Z1)が選択されようとする場合、それを強制的に、逆回転前の動作可能領域(図44(B)では偶数側動作可能領域Z2)に置き換える。つまり、制御タイミング時系列のk3→k4のように、電圧ベクトルVmが逆回転して、逆回転前の偶数側動作可能領域Z2→逆回転後の奇数側動作可能領域Z1と選択され得る場合は、k4おける選択を、逆回転前の偶数側動作可能領域Z2に強制的に置き換える。同様に、制御タイミング時系列のk5→k6のように、電圧ベクトルVmが逆回転して、逆回転前の偶数側動作可能領域Z2→逆回転後の奇数側動作可能領域Z1と選択され得る場合は、k6おける選択を、逆回転前の偶数側動作可能領域Z2に強制的に置き換える。つまり、切替境界位相での切替に関して、正転方向の一方向特性を持たせるようにし、逆回転方向の切り替えを禁止する。
【0144】
この修正制御を実行するために、変調領域選択部44は、現在の制御タイミングkから、次の(未来の)制御タイミングk+1における、dq軸電流制御器34から出力されるd軸電圧指令値Vdref及びq軸電圧指令値Vqrefを、以下の数式(XXVIII)で推測する。
【数28】
【0145】
推定されるd軸電圧指令値Vdref及びq軸電圧指令値Vqrefから位相θmを算出することで、次回の制御タイミングk+1で、電圧ベクトルVmが逆回転し、しかも、切替境界位相を逆回転方向に通過するか否かを判定することができる。逆回転方向に通過した場合に限って、逆回転前の動作可能領域を選択すればよい。
【0146】
図45に、変調領域選択部44において修正制御を加えた場合に、変調部50から出力される三相電圧指令Vu、Vv、Vwの波形B(reference)及びコモンモード電圧波形Vcを示す。コモンモード電圧波形Vcの変動が、図43の変動と比較して抑制されることが分かる。
【0147】
以上、本実施形態では、基本ベクトル領域Bの中の一部領域を利用した変調方式として、奇数電圧RSPWM、偶数電圧RSPWM、または、全電圧RSPWMを例示したが、本発明はこれに限定されず、他の変調方式を採用できる。また、本実施形態では、変調部50が、奇数電圧RSPWMを実行する奇数電圧変調処理部52と、偶数電圧RSPWMを実行する偶数電圧変調処理部54の2つの変調方式を有する場合を例示したが、本発明は、これに限られない。変調部50が、単一の変調方式を有しても良い。更に、変調部50が、他の第1変調方式を実行する第一変調処理部と、他の第2変調方式を実行する第二変調処理部を有するようにし、これらを適宜切り替えても良い。また更に、本発明では、変調部50が、3種以上の変調方式を採用し、これらを適宜切り替えることもできる。
【0148】
また、本実施形態では、相電圧指令修正部40における(手法A)として、動作不能領域と電圧動作可能領域の境界上へ電圧ベクトルVmを修正する場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、この境界よりも内側に修正することもできる。また、電圧ベクトルの修正手法となる(手法A)(手法B)(手法C)(手法D)は例示であり、他の修正手法を採用できる。例えば、(手法A)(手法B)(手法C)の組み合わせる事例として、例えば図46に示すように、電圧ベクトルVmの座標から、最も近い境界線Y1に対して垂線Gを定義し、この垂線Gと境界線Y1の交点に、修正電圧ベクトルVm'を修正することも好ましい。
【0149】
また、上記各実施例では電動圧縮機のモータ(負荷)の駆動を例に説明したが、それに限らず、電動圧縮機のモータ以外のモータを駆動する場合も有効である。更に、インバータにより直流電圧を交流電圧に変換して負荷に印加する各種電力変換装置に本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0150】
1 電力変換装置
8 モータ
18A~18F 上下アームスイッチング素子
19U U相インバータ
19V V相インバータ
19W W相インバータ
21 制御装置
27 インバータ回路
28 dq軸電流指令演算部
33 相電圧指令演算部
34 dq軸電流制御器
35 座標変換部
36 PWM信号生成部
37 ゲートドライバ
40 相電圧指令修正部
42 変調域内判定部
44 変調領域選択部
46 修正指令計算部
48 修正指令選択部
49 フィードバック処理部
50 変調部
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