(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040738
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】筒形防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 1/38 20060101AFI20240318BHJP
F16F 1/387 20060101ALI20240318BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
F16F1/38 S
F16F1/387 C
F16F15/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145285
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】縄司 睦
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭宣
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BA19
3J048EA01
3J048EA15
3J059AB11
3J059AD03
3J059BA42
3J059BC04
3J059BC06
3J059CC01
3J059GA01
3J059GA09
(57)【要約】
【課題】合成樹脂製とされたアウタ筒部材のホルダへの圧入固定力を安定して発揮させながら、アウタ筒部材とホルダを軸方向で精度よく位置決めすることができる、新規な構造の筒形防振装置を提供する。
【解決手段】インナ軸部材12と合成樹脂製のアウタ筒部材14とが本体ゴム弾性体16で連結された構造を有する筒形防振装置10であって、アウタ筒部材14は、環板状のフランジ部22の内周端から筒状部20が軸方向に延び出した構造を有しており、筒状部20の外周面に圧入ゴム38が固着されていると共に、フランジ部22における筒状部20が延び出す側の軸方向表面46が圧入ゴムで覆われずに露出しており、フランジ部22を含むアウタ筒部材14の軸方向端部には、径方向に貫通する切欠き24が設けられており、本体ゴム弾性体16と圧入ゴム38とを連結する連結ゴム52が切欠き24に設けられている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材と合成樹脂製のアウタ筒部材とが本体ゴム弾性体で連結された構造を有する筒形防振装置であって、
前記アウタ筒部材は、環板状のフランジ部の内周端から筒状部が軸方向に延び出した構造を有しており、
該筒状部の外周面に圧入ゴムが固着されていると共に、該フランジ部における該筒状部が延び出す側の軸方向表面が該圧入ゴムで覆われずに露出しており、
該フランジ部を含む該アウタ筒部材の軸方向端部には、径方向に貫通する切欠きが設けられており、
前記本体ゴム弾性体と該圧入ゴムとを連結する連結ゴムが該切欠きに設けられている筒形防振装置。
【請求項2】
前記連結ゴムが前記フランジ部に対して軸方向外方へ突出することなく前記切欠き内に設けられている請求項1に記載の筒形防振装置。
【請求項3】
前記本体ゴム弾性体には、前記インナ軸部材の径方向両側に一対のすぐり孔が形成されており、
該本体ゴム弾性体には、周方向における該一対のすぐり孔の間をそれぞれ径方向に延びて該インナ軸部材と前記アウタ筒部材とを相互に連結する一対のゴム腕が設けられており、
各該ゴム腕の外周側に前記連結ゴムが配置されている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【請求項4】
前記連結ゴムには、前記圧入ゴムよりも外周へ突出する外周突出部が、前記切欠きにおける前記フランジ部の周方向端部間に設けられており、
該連結ゴムの成形時におけるゴム材料の注入ゲート痕が該外周突出部に形成されている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【請求項5】
前記筒状部における前記フランジ部と反対側の軸方向端部が、全周に亘って連続する筒状の圧入先端部とされており、該圧入先端部の外周面が前記圧入ゴムで覆われずに露出している請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウント等に適用される筒形防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンマウントやサブフレームマウント、サスペンションブッシュ等として、筒形防振装置が採用されている。筒形防振装置は、例えば、特開2015-161356号公報(特許文献1)等に開示されているように、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結された構造を有している。
【0003】
ところで、従来のアウタ筒部材は金属製であったが、筒形防振装置の軽量化等を目的として、アウタ筒部材の樹脂化が検討されている。特許文献1においても、合成樹脂製のアウタ筒部材が例示されている。
【0004】
ところが、装着用孔に圧入されることで車両ボデー等の他部材に取り付けられるアウタ筒部材を樹脂製にすると、装着用孔への圧入による応力が持続的に作用することで塑性変形し易く、アウタ筒部材のへたりによって圧入反力が低下するおそれがあった。
【0005】
そこで、特許文献1では、アウタ筒部材の外周面に圧入ゴムが設けられており、圧入ゴムの弾性によってアウタ筒部材の装着用孔に対する固定力を発揮させることにより、樹脂製のアウタ筒部材のへたりが装着用孔への圧入による固定力に影響し難くされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の構造では、アウタ筒部材に設けられたフランジ部の表面が、圧入ゴムと本体ゴム弾性体とを一体的に連結するための被覆ゴムで覆われていることから、フランジ部と装着用孔の間に介在する被覆ゴムの弾性によって、アウタ筒部材と装着用孔の軸方向での相対位置にバラつきが生じることも考えられた。
【0008】
本発明の解決課題は、合成樹脂製とされたアウタ筒部材の装着用孔への圧入固定力を安定して発揮させながら、アウタ筒部材と装着用孔を軸方向で精度よく位置決めすることができる、新規な構造の筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0010】
第一の態様は、インナ軸部材と合成樹脂製のアウタ筒部材とが本体ゴム弾性体で連結された構造を有する筒形防振装置であって、前記アウタ筒部材は、環板状のフランジ部の内周端から筒状部が軸方向に延び出した構造を有しており、該筒状部の外周面に圧入ゴムが固着されていると共に、該フランジ部における該筒状部が延び出す側の軸方向表面が該圧入ゴムで覆われずに露出しており、該フランジ部を含む該アウタ筒部材の軸方向端部には、径方向に貫通する切欠きが設けられており、前記本体ゴム弾性体と該圧入ゴムとを連結する連結ゴムが該切欠きに設けられているものである。
【0011】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、合成樹脂製とされたアウタ筒部材の筒状部の外周面に圧入ゴムが固着されており、アウタ筒部材が装着用孔に対して挿入される際に、圧入ゴムがアウタ筒部材と装着用孔の周壁との間で径方向に圧縮されて、圧入ゴムの弾性によってアウタ筒部材が装着用孔に固定される。このようなゴム圧入構造を採用することにより、合成樹脂製とされたアウタ筒部材の経時的な塑性変形(へたり)が筒形防振装置の装着用孔への固定力に影響し難く、筒形防振装置の装着用孔に対する安定した装着状態が維持される。
【0012】
装着用孔の開口端面に重ね合わされるアウタ筒部材のフランジ部には、圧入ゴムが固着されておらず、露出したフランジ部が装着用孔の開口端面に直接重ね合わされる。それゆえ、フランジ部と装着用孔の開口端面との重ね合わせ面間でゴムが圧縮されることがなく、ゴムの弾性によるアウタ筒部材の装着用孔に対する抜け側への位置ずれ等が防止される。
【0013】
本態様では、アウタ筒部材のフランジ部を含む軸方向端部に形成された切欠きに設けられた連結ゴムによって、本体ゴム弾性体と圧入ゴムとが連結されている。これにより、フランジ部における装着用孔の開口端面への重ね合わせ面をゴムで覆うことなく、本体ゴム弾性体と圧入ゴムとを一体的に形成することが可能となる。また、切欠きは、装着用孔に対する筒形防振装置の圧入方向の後方端部に設けられていることから、装着用孔に対する筒形防振装置の圧入初期において、切欠きや連結ゴムが装着用孔の内面に引っ掛かる等して抵抗が大きくなるのを防ぐことができる。
【0014】
第二の態様は、第一の態様に記載された筒形防振装置において、前記連結ゴムが前記フランジ部に対して軸方向外方へ突出することなく前記切欠き内に設けられているものである。
【0015】
例えば、連結ゴムがフランジ部よりも装着用孔の開口端面への重ね合わせ側へ突出していると、装着用孔の開口端面に押し当てられる連結ゴムの弾性によって、アウタ筒部材の装着用孔に対する軸方向での位置がずれてしまうおそれがある。また、連結ゴムがフランジ部よりも装着用孔の開口端面への重ね合わせ側と反対側へ突出していると、例えば、フランジ部を軸方向に押し込んでアウタ筒部材を装着用孔に圧入する場合に、フランジ部よりも軸方向外側へ突出した連結ゴムによって、フランジ部に圧入力を及ぼし難くなるおそれがある。本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、上記のような問題を解決して、アウタ筒部材と装着用孔の軸方向での位置決めや、圧入時のフランジ部への入力等について、連結ゴムが邪魔になり難い。
【0016】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された筒形防振装置において、前記本体ゴム弾性体には、前記インナ軸部材の径方向両側に一対のすぐり孔が形成されており、該本体ゴム弾性体には、周方向における該一対のすぐり孔の間をそれぞれ径方向に延びて該インナ軸部材と前記アウタ筒部材とを相互に連結する一対のゴム腕が設けられており、各該ゴム腕の外周側に前記連結ゴムが配置されているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、一対のゴム腕の外周側に連結ゴムが設けられていることにより、本体ゴム弾性体の加硫成形に際して、ゴム腕と連結ゴムと圧入ゴムとを一体的に形成し易くなる。
【0018】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記連結ゴムには、前記圧入ゴムよりも外周へ突出する外周突出部が、前記切欠きにおける前記フランジ部の周方向端部間に設けられており、該連結ゴムの成形時におけるゴム材料の注入ゲート痕が該外周突出部に形成されているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、ゴムの加硫成形時に少なくとも一部が圧入ゴムよりも外周に位置する外周突出部のキャビティにゴム材料を直接注入することで、筒状部の外周面に固着される圧入ゴムをゴム材料の良好な充填性をもって成形することができる。
【0020】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記筒状部における前記フランジ部と反対側の軸方向端部が、全周に亘って連続する筒状の圧入先端部とされており、該圧入先端部の外周面が前記圧入ゴムで覆われずに露出しているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、装着用孔への圧入に際して圧入先端側となる圧入先端部が、切欠き等を有することなく全周に亘って連続する筒状とされていることから、例えば、圧入先端部が装着用孔の内周面に全周に亘って接することでアウタ筒部材と装着用孔が位置決めされて、アウタ筒部材を装着用孔に対して適切な方向に圧入し易くなる。また、圧入先端部の外周面が圧入ゴムで覆われずに露出していることから、圧入初期の摩擦抵抗が低減される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、合成樹脂製とされたアウタ筒部材の装着用孔への圧入固定力を安定して発揮させながら、アウタ筒部材と装着用孔を軸方向で精度よく位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一の実施形態としての筒形防振装置を示す正面図
【
図7】
図1に示す筒形防振装置を構成するアウタ筒部材の正面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1~
図6には、本発明の第一の実施形態としての筒形防振装置10が示されている。筒形防振装置10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは
図1中の上下方向を、左右方向とは
図1中の左右方向を、前後方向とは
図2中の上下方向を、それぞれ言う。
【0026】
インナ軸部材12は、厚肉小径の略円筒形状とされており、軸方向に貫通する円形断面の中心孔18を備えている。インナ軸部材12は、例えば金属や合成樹脂によって形成されて、硬質の部材とされている。
【0027】
アウタ筒部材14は、
図7,
図8にも示すように、全体として薄肉大径の略円筒形状とされている。アウタ筒部材14は、円筒状の筒状部20と、筒状部20の軸方向一方の端部(前端部)において外周へ突出する円環板状のフランジ部22とを、一体的に備えている。換言すれば、アウタ筒部材14は、円環板状のフランジ部22の内周端から円筒状の筒状部20が軸方向他方(後方)へ向けて延び出した構造を有している。アウタ筒部材14は、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の合成樹脂によって形成された硬質の部材とされている。
【0028】
フランジ部22が設けられたアウタ筒部材14の軸方向一方の端部(前端部)には、一対の切欠き24,24が形成されている。切欠き24は、筒状部20の前端部分とフランジ部22とを径方向に貫通して形成されている。従って、切欠き24は、筒状部20の前端部分において径方向に延びる矩形溝状を呈していると共に、フランジ部22が切欠き24によって周方向に分割されている。本実施形態では、一対の切欠き24,24が径方向に対向して配置されており、フランジ部22が一対の切欠き24,24によって周方向で2分割されている。
【0029】
インナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して内挿状態で配されており、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14の間に本体ゴム弾性体16が形成されている。本体ゴム弾性体16は、全体として略円筒形状とされており、内周面がインナ軸部材12の外周面に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材14の筒状部20の内周面に加硫接着されている。
【0030】
本体ゴム弾性体16には、周方向に環状に延びるすぐり溝26が、軸方向の両端面に開口してそれぞれ形成されている。本体ゴム弾性体16には、軸方向に貫通する一対のすぐり孔28,28が形成されている。すぐり孔28は、インナ軸部材12に対して上下方向の両側に形成されており、左右方向に延びて、左右両端がインナ軸部材12よりも左右方向の外側まで達している。
【0031】
本体ゴム弾性体16における一対のすぐり孔28,28の上下間には、左右方向に延びてインナ軸部材12とアウタ筒部材14とを左右方向で連結する一対のゴム腕30,30が形成されている。一対のゴム腕30,30は、インナ軸部材12の外周面に固着される内周筒部34と、アウタ筒部材14の内周面に固着される外周筒部36とを、左右方向で相互に連結するように設けられている。ゴム腕30の軸方向端面は、すぐり溝26の底面で構成されており、内周筒部34と外周筒部36がゴム腕30の軸方向端面よりも軸方向に突出している。
【0032】
本体ゴム弾性体16における一対のすぐり孔28,28よりも上下外側には、アウタ筒部材14からインナ軸部材12に向けて上下内側へ突出する一対のストッパゴム32,32が形成されており、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との上下方向での相対変位量が、ストッパゴム32とインナ軸部材12との当接によって制限される。
【0033】
アウタ筒部材14の筒状部20の外周面には、圧入ゴム38が固着されている。圧入ゴム38は、
図2~
図6に示すように、周方向に環状に延びる複数の周方向ゴム40と、それら複数の周方向ゴム40の間で軸方向に延びる複数の軸方向ゴム42とを、一体的に備えている。
【0034】
周方向ゴム40は、略一定の断面で周方向全周に亘って連続して延びる環状とされている。本実施形態の周方向ゴム40は、圧入先端側となる後端部分が後方へ向けて小径となるテーパ部44とされていると共に、圧入後端側となる前端部分が略一定の外径寸法で軸方向に延びている。本実施形態では、3つの周方向ゴム40a,40b,40cが軸方向で相互に離隔して設けられている。
【0035】
前側に位置する周方向ゴム40aは、アウタ筒部材14のフランジ部22に対して軸方向で後方に離隔している。そして、フランジ部22の後面は、圧入ゴム38で覆われることなく外部に露出する当接面46とされている。また、フランジ部22の前面は、当接面46と同様にゴムで覆われることなく外部に露出する押圧面48とされている。
【0036】
後側に位置する周方向ゴム40cは、筒状部20の後端に対して前方へ離隔しており、筒状部20における周方向ゴム40cよりも後方が圧入ゴム38で覆われることなく露出している。この圧入ゴム38で覆われずに露出した筒状部20の後端部分が、全周に亘って連続する筒状の圧入先端部50とされている。従って、筒状部20は、軸方向一方の端部(前端部)にフランジ部22が設けられていると共に、軸方向他方の端部(後端部)が圧入先端部50とされている。本実施形態の圧入先端部50の外周面は、軸方向の全長にわたって略一定の径寸法とされているが、例えば、圧入先端となる後端へ向けて小径となるテーパ面を有することによって、後述する装着用孔62への圧入時にガイド機能を発揮するようにしてもよい。
【0037】
軸方向ゴム42は、軸方向に直線的に延びており、複数が周方向で相互に離隔して設けられている。軸方向ゴム42は、周方向ゴム40aと周方向ゴム40bの軸方向間と、周方向ゴム40bと周方向ゴム40cとの軸方向間とに、各複数が設けられている。周方向ゴム40aと周方向ゴム40bの間に設けられた軸方向ゴム42は、軸方向の両端が周方向ゴム40aと周方向ゴム40bに一体的につながっており、それら周方向ゴム40aと周方向ゴム40bを相互に連結している。また、周方向ゴム40bと周方向ゴム40cとの間に設けられた軸方向ゴム42は、軸方向の両端が周方向ゴム40bと周方向ゴム40cに一体的につながっており、それら周方向ゴム40bと周方向ゴム40cを相互に連結している。軸方向ゴム42の筒状部20からの突出寸法は、周方向ゴム40の筒状部20からの最大突出寸法よりも小さくされている。
【0038】
軸方向ゴム42は、成形用金型が左右方向に取り外されることから、周方向の両側面が左右方向の脱型時にアンダーカットとならない形状とされている。上下方向の中央に位置する軸方向ゴム42は、周方向の幅寸法が他の軸方向ゴム42よりも大きくされており、好適には他の軸方向ゴム42の2倍以上とされている。
【0039】
なお、周方向ゴム40と軸方向ゴム42で囲まれた部分では、筒状部20の外周面が露出していてもよいし、筒状部20の外周面が薄肉のゴム層で覆われていてもよい。
【0040】
一対のゴム腕30,30は、アウタ筒部材14における一対の切欠き24,24に対して周方向で位置決めされており、一対の切欠き24,24が一対のゴム腕30,30の各外周側に位置している。切欠き24の周方向幅寸法は、ゴム腕30の外周端の周方向幅寸法以下とされていることが望ましい。切欠き24の周方向中央とゴム腕30の周方向中央は、互いに一致していることが望ましく、本実施形態では上下方向の中央に位置している。切欠き24とゴム腕30は軸直角方向(左右方向)の投影において軸方向で相互に離れていることが望ましく、切欠き24の底面はゴム腕30の前端面(すぐり溝26の底面)よりも前方に位置していることが望ましい。
【0041】
切欠き24には、本体ゴム弾性体16と圧入ゴム38とを連結する連結ゴム52が固着されている。連結ゴム52は、
図4に示すように、切欠き24内を径方向に延びて設けられており、内周側が本体ゴム弾性体16の外周筒部36と一体的につながっていると共に、外周側が圧入ゴム38と一体的につながっている。要するに、本実施形態では、本体ゴム弾性体16と、圧入ゴム38と、連結ゴム52とが、一体形成されている。一対のゴム腕30,30の各外周側にそれぞれ切欠き24が形成されていることからも分かるように、本実施形態の連結ゴム52は一対のゴム腕30,30の外周側にそれぞれ設けられており、それら一対の連結ゴム52,52が相互に略同じ形状(対称形状)とされている。
【0042】
連結ゴム52は、外周へ向けて突出する外周突出部54を備えている。外周突出部54は、フランジ部22の切欠き24による分割部分に設けられており、周方向の両端がフランジ部22の周方向端面に固着されている。外周突出部54は、圧入ゴム38(周方向ゴム40)の外周端よりも更に外周まで突出している。連結ゴム52の外周突出部54は、前後方向の厚さ寸法がフランジ部22の厚さ寸法よりも小さくされて、フランジ部22に対して前後方向の何れの側へも突出することなく、フランジ部22の厚さの範囲内に設けられており、連結ゴム52がフランジ部22から前後方向の外方へ突出することなく切欠き24内に設けられている。
【0043】
連結ゴム52は、
図3,
図4に示すように、切欠き24から軸方向に延びてアウタ筒部材14の筒状部20の外周面に固着された接続ゴム56によって、周方向ゴム40aとつながっている。圧入ゴム38を構成する接続ゴム56は、切欠き24と略同じ周方向幅寸法で軸方向に直線的に延びている。接続ゴム56の筒状部20からの突出寸法は、周方向ゴム40の筒状部20からの突出寸法以下であることが望ましく、本実施形態では軸方向ゴム42の筒状部20からの突出寸法と略同じとされている。連結ゴム52の外周突出部54は、接続ゴム56よりも外周側まで突出している。なお、本実施形態において、連結ゴム52は、筒状部20における切欠き24の形成部位の上端面を覆う部分と、フランジ部22における切欠き24の形成部位の周方向端面に固着された部分(外周突出部54)とを含む。また、本実施形態の外周突出部54は、前述のとおりアウタ筒部材14のフランジ部22において切欠き24による分割部分に設けられるものであって、
図4中で、接続ゴム56の外周面よりも突出している部分だけでなく、接続ゴム56の上方に位置する部分まで含む。
【0044】
図1,
図4に示すように、ゴム材料の注入ゲートの痕跡である注入ゲート痕58が、本体ゴム弾性体16の外周筒部36と連結ゴム52との上面に突出して設けられている。注入ゲート痕58は、内周側に設けられた内周注入ゲート痕58aと、外周側に設けられた外周注入ゲート痕58bとによって構成されており、一対のゴム腕30,30の外周側(左右外側)にそれぞれ設けられている。内周注入ゲート痕58aは、少なくとも一部がアウタ筒部材14の筒状部20よりも内周側に位置しており、好適には全体が筒状部20の外周面よりも内周側に位置している。外周注入ゲート痕58bは、少なくとも一部がアウタ筒部材14の筒状部20よりも外周側に位置しており、好適には全体が筒状部20の内周面よりも外周側に位置している。外周注入ゲート痕58bは、少なくとも一部が外周突出部54から突出して設けられている。外周注入ゲート痕58bは、軸方向の投影において、少なくとも一部が接続ゴム56と重なり合っていることが望ましい。内周注入ゲート痕58aと外周注入ゲート痕58bは、周方向で相互に同じ位置で径方向に並んで設けられており、径方向(左右方向)で相互に離れて配されている。
【0045】
そして、本体ゴム弾性体16と圧入ゴム38と連結ゴム52との一体的な加硫成形に際して、成形用金型にインナ軸部材12とアウタ筒部材14をセットした状態で、成形用金型のキャビティに注入ゲート痕58の位置からゴム材料を注入する。これにより、内周注入ゲート痕58aを形成する内周注入ゲートから注入されたゴム材料が、筒状部20の内周側に位置する本体ゴム弾性体16と連結ゴム52とを主に形成し、外周注入ゲート痕58bを形成する外周注入ゲートから注入されたゴム材料が、筒状部20の外周側に位置する圧入ゴム38と連結ゴム52とを主に形成する。このように、筒状部20の内周側にゴム材料を注入する内周注入ゲートとは別に、筒状部20の外周側にゴム材料を注入する外周注入ゲートを設定することにより、本体ゴム弾性体16よりも薄肉の圧入ゴム38を効率的に形成することができると共に、ゴム材料の注入時に筒状部20の内外周の圧力差が低減されて、筒状部20の変形が抑えられる。
【0046】
かくの如き構造とされた筒形防振装置10は、
図4又は
図5に示すように、アウタ筒部材14が車両ボデー等の取付対象部材60に設けられた装着用孔62に挿入されることによって、取付対象部材60に取り付けられる。装着用孔62は、アウタ筒部材14の筒状部20の外径よりも大径とされており、圧入ゴム38における少なくとも周方向ゴム40の最大外径よりも小径とされている。そして、アウタ筒部材14の筒状部20が装着用孔62に挿入されることで、圧入ゴム38がアウタ筒部材14の筒状部20と装着用孔62の内周面との間で径方向に圧縮されて、圧入ゴム38の弾性によってアウタ筒部材14が装着用孔62に対して固定状態で取り付けられる。このように、アウタ筒部材14は、装着用孔62に対して圧入ゴム38によるゴム圧入で取り付けられることから、装着用孔62への固定力が圧入ゴム38のばね特性や圧縮変形量(径方向の締め代)等によって設定されている。アウタ筒部材14に作用する圧入反力は、圧入ゴム38によって緩和されることから、アウタ筒部材14が合成樹脂製であっても、圧入反力の継続的な作用によるアウタ筒部材14の塑性変形(へたり)が抑えられて、アウタ筒部材14のへたりによる固定力(抜け抗力)の低下が問題になり難い。
【0047】
アウタ筒部材14のフランジ部22は、装着用孔62の開口端面64に当接する。これにより、装着用孔62に対するアウタ筒部材14の軸方向での位置が規定される。装着用孔62の開口端面64に対するフランジ部22の重ね合わせ面は、圧入ゴム38で覆われることなく露出した当接面46とされており、フランジ部22が装着用孔62の開口端面64に直接当接した状態で重ね合わされている。これにより、フランジ部22の当接面46と装着用孔62の開口端面64との重ね合わせ面間でゴムが圧縮されることがなく、ゴムの弾性によるアウタ筒部材14の装着用孔62からの抜けが防止されて、アウタ筒部材14が装着用孔62に対して軸方向で精度よく位置決めされる。
【0048】
フランジ部22の周方向間に設けられた連結ゴム52の外周突出部54は、フランジ部22の当接面46に対して突出しておらず、装着用孔62の開口端面64に対して押し当てられることなく接触又は離隔している。本実施形態では、
図4に拡大して示すように、外周突出部54が装着用孔62の開口端面64に対して強く押し当てられることなく接触している。
【0049】
フランジ部22の当接面46と反対側の押圧面48を治具によって押すことにより、圧入ゴム38が固着されたアウタ筒部材14を装着用孔62にゴム圧入することができる。この場合に、フランジ部22の押圧面48は、ゴムで覆われることなく露出していることから、ゴムの変形によって治具からアウタ筒部材14に及ぼされる力が緩和されてしまうことなく、効率的に力を加えて圧入作業を行うことができる。
【0050】
アウタ筒部材14の圧入先端側の端部は、全周に亘って連続する圧入先端部50とされており、切欠き等が設けられていないことから、圧入先端部50だけが装着用孔62に挿入された圧入初期において、アウタ筒部材14の取付対象部材60に対する傾斜等を防止して、アウタ筒部材14と取付対象部材60とを適切な方向に位置決めすることができる。
【0051】
また、アウタ筒部材14の圧入先端部50は、外周面がゴムで覆われることなく外部へ露出している。それゆえ、圧入初期において、外径寸法が装着用孔62の内径寸法よりも小さくされた圧入先端部50を装着用孔62へ容易に差し入れることができると共に、圧入初期の摩擦抵抗が抑えられる。
【0052】
本実施形態の圧入ゴム38は、複数の周方向ゴム40と複数の軸方向ゴム42とを組み合わせた構造とされていることによって、圧入ゴム38がアウタ筒部材14の筒状部20と装着用孔62の内周面との径方向間で圧縮される際のばね定数が調節されており、必要なゴム圧入による固定力を確保しながら、圧入時に必要な力を低減することもできる。特に、周方向ゴム40の最大突出高さ寸法が軸方向ゴム42の最大突出高さ寸法よりも大きくされていることから、アウタ筒部材14の装着用孔62からの軸方向への抜けに対する抗力が効率的に発揮される。しかも、周方向ゴム40は、圧入方向の先端部分が圧入先端側へ向けて小径となるテーパ部44とされていることから、圧入時の抵抗を抑えながら抜け抗力を確保することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、切欠き24は、何れか一方のゴム腕30の外周側にだけ設けられていてもよい。また、切欠き24は、必ずしも周方向でゴム腕30と位置決めされていなくてもよく、例えばストッパゴム32の外周側に設けることもできる。この場合に、切欠き24に設けられる連結ゴム52は、例えば、ストッパゴム32の外周側に連続して設けられ得る。
【0054】
本体ゴム弾性体16において、一対のすぐり孔28,28と、それらすぐり孔28,28の間を延びる一対のゴム腕30,30は、何れも必須ではなく、例えば、1つのすぐり孔28だけが形成されていてもよいし、すぐり孔28がなくインナ軸部材12とアウタ筒部材14を全周に亘って相互に連結する本体ゴム弾性体を採用することもできる。
【0055】
圧入ゴム38は、必ずしも前記実施形態に示したような周方向ゴム40と軸方向ゴム42とを組み合わせた構造とされていなくてもよく、例えば略一定断面で全周に亘って延びる筒状などであってもよい。
【0056】
注入ゲート痕58は、内周注入ゲート痕58aと外周注入ゲート痕58bとの何れか一方だけであってもよく、例えば内周注入ゲート痕58aだけで構成することもできる。また、内周注入ゲート痕58aと外周注入ゲート痕58bは、周方向で相互に異なる位置に設けられていてもよく、例えば何れか一方をストッパゴム32,32の外周側に設けることもできる。更に、注入ゲート痕58は、内周注入ゲート痕58aと外周注入ゲート痕58b以外の注入ゲート痕を含んでいてもよく、注入ゲートの位置や数は、成形すべきゴムの形状等に応じたゴム材料の充填性等を考慮して適宜に変更設定され得る。また、前記実施形態における内周注入ゲート痕58aと外周注入ゲート痕58bとを径方向でつなげて一つの注入ゲート痕にすることも可能である。
【0057】
内部に非圧縮性流体が封入された流体室を備えた流体封入式の筒形防振装置に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
10 筒形防振装置(第一の実施形態)
12 インナ軸部材
14 アウタ筒部材
16 本体ゴム弾性体
18 中心孔
20 筒状部
22 フランジ部
24 切欠き
26 すぐり溝
28 すぐり孔
30 ゴム腕
32 ストッパゴム
34 内周筒部
36 外周筒部
38 圧入ゴム
40(40a~40c) 周方向ゴム
42 軸方向ゴム
44 テーパ部
46 当接面
48 押圧面
50 圧入先端部
52 連結ゴム
54 外周突出部
56 接続ゴム
58 注入ゲート痕
58a 内周注入ゲート痕
58b 外周注入ゲート痕
60 取付対象部材
62 装着用孔
64 開口端面