(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040739
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂ストランド及び積層造形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20240318BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240318BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20240318BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145288
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 鷹
(72)【発明者】
【氏名】竹中 真
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AC02
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL24
4F213WL27
4F213WL67
4F213WL74
(57)【要約】
【課題】曲線造形時の造形精度が向上し、良好な開繊性でストランド間の融着性を向上でき、造形物の強度低下を抑制できる繊維強化樹脂ストランドを提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂ストランド1は、熱可塑性樹脂を含む基材3と、基材3中に配置され、ストランド軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束5と、を備える。ストランド軸方向に沿って繊維又は繊維束5に撚りが付与され、ストランド軸方向の長さ1m当たりの撚りの回数が30以上、80以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタの造形材料として用いられる繊維強化樹脂ストランドであって、
熱可塑性樹脂を含む基材と、
前記基材中に配置され、ストランド軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束と、を備え、
前記ストランド軸方向に沿って前記繊維又は前記繊維束に撚りが付与され、
前記ストランド軸方向の長さ1m当たりの前記撚りの回数は30以上、80以下である、
繊維強化樹脂ストランド。
【請求項2】
前記繊維束は、1000本以上、1500本以下の繊維を含む、
請求項1に記載の繊維強化樹脂ストランド。
【請求項3】
熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に配置され、ストランド軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束と、を備え、前記ストランド軸方向に沿って前記繊維又は前記繊維束に撚りが付与され、前記ストランド軸方向の長さ1m当たりの前記撚りの回数が30以上、80以下である繊維強化樹脂ストランドを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形方法。
【請求項4】
前記繊維束は、1000本以上、1500本以下の繊維を含む、
請求項3に記載の積層造形方法。
【請求項5】
曲率半径2mm~40mmの曲線に沿って造形するパスを含む、
請求項3に記載の積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂ストランド及び積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体的な形状を有する物体を成形する装置として、熱で可塑化状態にある樹脂を1層ずつ積み重ねていく熱融解積層方式を採用した3D(三次元)プリンタが知られている。この3Dプリンタは、金型、治具等を必要とすることなく三次元形状を成形できる。加えて、従来の射出成形技術では形成が困難な三次元形状の物体も造形できる。
【0003】
特許文献1で報告されるストランドは、3Dプリンタで造形材料として用いられる繊維強化樹脂ストランドであり、繊維又は繊維束が熱可塑性樹脂を主成分とする基材中に含浸されて撚られることで、可撓性が高くなり、取扱性を向上させている。加えて、繊維又は繊維束の撚りによって、その繊維強化樹脂ストランドを用いて3Dプリンタで造形した造形物は優れた衝撃強度を呈するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される撚り数10回/m~200回/mの連続繊維強化樹脂ストランドは、可撓性が高いほか、3Dプリンタで造形する際の繊維破断折れの抑制、繊維間の摩擦増大等の寄与により衝撃強度に優れることが報告されている。しかしながら、3Dプリンタで造形物を造形(印刷)する際、造形パスが曲線に沿ったパスの場合、連続繊維が想定通りに形成できない場合がある。
【0006】
例えば、
図4に示すように、一方のパス端部PSsから他方のパス端部PSeまでの曲線に沿って造形する場合、造形材MがパスPSに沿って一定の開繊幅Wを有したまま形成されるのが理想的となる。しかし、
図5に示すように、プリンタヘッドのノズル(吐出部)から加熱溶融され吐出された連続繊維強化ストランドの連続繊維が、パスPSの曲線部で折り返しを生じ、設定したパスからずれることがある。その場合、造形材Mに空隙Gが生じてしまう。また、
図6に示すように、特に曲線部において開繊幅Wの低下や、
図7に示すように開繊幅Wの不安定化が顕在化することがある。
【0007】
このような状態で造形を続けると、造形材M間の融着性が低下して造形物内に空隙が形成され、隣り合うパスPS同士の線間、及び複数のパスPSで形成された造形材層を積層する場合の造形材層間の力学的強度が低下することになる。
【0008】
そこで本発明は、曲線造形時の造形精度が向上し、良好な開繊性でストランド間の融着性を向上でき、造形物の強度低下を抑制できる繊維強化樹脂ストランドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 3Dプリンタの造形材料として用いられる繊維強化樹脂ストランドであって、
熱可塑性樹脂を含む基材と、
前記基材中に配置され、ストランド軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束と、を備え、
前記ストランド軸方向に沿って前記繊維又は前記繊維束に撚りが付与され、
前記ストランド軸方向の長さ1m当たりの前記撚りの回数は30以上、80以下である、
繊維強化樹脂ストランド。
(2) 熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に配置され、ストランド軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束と、を備え、前記ストランド軸方向に沿って前記繊維又は前記繊維束に撚りが付与され、前記ストランド軸方向の長さ1m当たりの前記撚りの回数が30以上、80以下である繊維強化樹脂ストランドを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、曲線造形時の造形精度が向上し、良好な開繊性でストランド間の融着性を向上でき、造形物の強度低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、繊維強化樹脂ストランドの模式的な斜視図である。
【
図2】
図2は、繊維強化樹脂ストランドの製造装置の概略構成図である。
【
図3】
図3は、FDM方式の積層造形装置の概略構成図である。
【
図4】
図4は、造形材の理想的な造形状態を示す説明図である。
【
図5】
図5は、従来の造形材の曲線部で折り返しが生じた造形状態を示す説明図である。
【
図6】
図6は、従来の造形材の曲線部で開繊幅が低下した造形状態を示す説明図である。
【
図7】
図7は、従来の造形材の曲線部で開繊幅が不安定化した造形状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<繊維強化樹脂ストランド>
図1は、繊維強化樹脂ストランド1の模式的な斜視図である。繊維強化樹脂ストランド(以下、「ストランド」ともいう。)1は、造形物を作製する造形材料として用いられ、強化繊維を含む連続した線状の樹脂材料である。
【0013】
このストランド1は、熱可塑性樹脂を含む基材3と、基材3中に含浸されて配置され、ストランド1の軸方向(ストランド軸方向)に連続して延在する1つ又は複数の繊維束5とを有する。繊維束5は、多数の強化繊維を互いに撚り合わせて束ねたものであり、ストランド軸方向に沿って撚りが付与されている。繊維束5が複数本存在する場合は、各繊維束5がストランド1の中心軸に沿って螺線状に配置される。
【0014】
この繊維又は繊維束5に付与される撚りは、ストランド軸方向の長さ1m当たりの前記撚りの回数が30以上、80以下にされている。また、繊維束5は、1000本以上、1500本以下の繊維を含んで構成される。
【0015】
ストランド1を構成する繊維束5の強化繊維には、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ザイロン繊維等の有機繊維、ボロン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、岩石繊維等の無機繊維が使用できる。強化繊維には、樹脂と繊維との密着強度を向上させる為に、表面処理を施した繊維を使用できる。
【0016】
基材3に含まれる熱可塑性樹脂には、ポリプロピレン又はポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート又はポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアリルイミド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン樹脂、液晶ポリマー、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、又はポリフェニレンサルファイド等を使用できる。
【0017】
これら熱可塑性樹脂は、樹脂単独で用いてもよく、熱可塑性樹脂の耐熱性、熱変形温度、熱老化、引張特性、曲げ特性、クリープ特性、圧縮特性、疲労特性、衝撃特性、摺動特性を向上させる為に、複数の樹脂をブレンドした熱可塑性樹脂を用いてもよい。熱可塑性樹脂の一例として、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PEEK/ポリベンゾイミダゾール(PBI)等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂は、炭素繊維、ガラス繊維等の短繊維、タルク等を樹脂に添加したものであってもよい。
【0018】
熱可塑性樹脂に、フェノール系、チオエーテル系、ホスファイト系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系又はトリアジン系等の紫外線吸収剤、ヒドラジド系又はアミド系等の金属不活性化剤等を添加して、造形物の耐久性を向上させてもよい。
【0019】
フタル酸系、ポリエスル系等の可塑剤を熱可塑性樹脂に添加すると、柔軟性が向上し、造形時の造形精度と、造形物の柔軟性とを向上できる。
【0020】
ハロゲン系、リン酸エステル系、無機系、イントメッセント系の難燃剤を熱可塑性樹脂に添加すると、造形物の難燃性を向上できる。
【0021】
リン酸エステル金属塩系、ソルビトール等の核材を熱可塑性樹脂に添加すると、造形時の熱膨張を制御して造形精度を向上できる。
【0022】
非イオン径、アニオン系、カチオン系等の永久帯電防止剤を熱可塑性樹脂に添加すると、造形物の静電気防止性を向上できる。
【0023】
炭化水素系、金属石鹸系等の滑剤を熱可塑性樹脂に添加し、連続繊維強化ストランドの滑性を向上させることで、造形時のストランドの送り出しを円滑にできる。
【0024】
<繊維強化樹脂ストランドの製造装置>
次に、上記したストランド1の製造装置を説明する。
図2は、繊維強化樹脂ストランド1の製造装置100の概略構成図である。製造装置100は、コイル状に巻かれた繊維材料7を所定速度で送り出す複数(
図2では3つ)の繊維材料供給部11と、基材3を混練溶融させる混練押出機21と、繊維材料供給部11から送り出された繊維材料7に混練押出機21で可塑化された基材3を含浸させる樹脂浴部23とを備える。
【0025】
また、製造装置100は、樹脂浴部23の下流側に配設されて樹脂浴部23から送り出された含浸後の繊維材料7を冷却する冷却部31と、この冷却部31の下流側に配設されて、主として冷却前の繊維材料7に軸中心周りの撚りを付与させる撚り部41とを備える。
【0026】
混練押出機21は、内部が空洞とされたチャンバ25内に混練翼を有するスクリュシャフト(不図示)を回転自在に備えており、ホッパ27から投入された基材3を融解して可塑化する。
【0027】
樹脂浴部23は、筒軸方向を上下に向けた円筒状に形成されており、その筒内部には混練押出機21で可塑化された基材3が供給され貯留される。樹脂浴部23の上端部は開口しており、この上端開口から樹脂浴部23内に貯留された基材3に対して繊維材料7を引き入れる可能になっている。
【0028】
図示は省略するが、この樹脂浴部23の内部には、軸心を水平方向へ向けて回転自在に保持された複数本(例えば4本)の含浸ロールが設けられ、これらの含浸ロールを上から下へ向けて蛇行するように繊維材料7が順番に架け渡される。そして、少なくともこれら複数の含浸ロールのうち最下方の含浸ロールよりも下流側において、繊維材料7に撚りが付与される。
【0029】
樹脂浴部23の下端部には、含浸後の繊維材料7を外部に引き出すための出口部28が設けられる。この出口部28には、繊維材料7を被覆状態にしている基材3を整形して、断面形状を形作るためのダイス29が設けられる。
【0030】
冷却部31は、樹脂浴部23から含浸後の繊維材料7が引き出される方向に沿って長い水槽であり、槽内には冷却水33が貯留される。樹脂浴部23の出口部28(ダイス29)に最も近接して対向する槽壁には、含浸後の繊維材料7を導入するための入口部が設けられ、この入口部から最も離れた槽壁に含浸後の繊維材料9を排出するための出口部が設けられる。したがって、この冷却部31では、繊維材料7に含浸及び被覆状態となっている基材3を冷却水33中で冷却し、硬化させることができる。
【0031】
冷却部31の下流側に配設される撚り部41としては、様々な機構等を採用可能である。例えば撚り部41として、図示を省略するが、ストランド1を巻き取るボビンをストランド1の軸心周りに回転させる機構を採用してもよい。一方、
図2に示すように、例えば撚り部41として、互いの外周面を接触させた上下一対の引取ロール43及び引取ロール45を有する構成を採用してもよい。これら引取ロール43及び引取ロール45は、冷却部31から送り出された含浸後の繊維材料9を対向状に挟んで、さらに下流側に送り出せるように、互いに異なる回転方向に回転可能である。
【0032】
すなわち、この撚り部41が備える上下一対の引取ロール43及び引取ロール45は、繊維材料供給部11から樹脂浴部23へと繊維材料9を引き込み、さらに樹脂浴部23から冷却部31及び撚り部41へと含浸後の繊維材料9を引き出す機能を兼ね備える。引取ロール43及び引取ロール45は、製造装置1のなかでは、繊維材料9及びストランド1に対する引取部を構成する。なお、撚り部41の下流側に、別途、巻取部(不図示)を設けて、得られたストランド1をボビンなどに巻き取る巻き取り部を設けてもよい。
【0033】
上下一対の引取ロール43及び引取ロール45は、いずれも、含浸後の繊維材料9の引き取り方向に対して傾斜した方向を向くように配設されており、引取ロール43及び引取ロール45同士が互いに等しい角度で且つ異なる方向を向くようになっている。すなわち、上側の引取ロール45の回転軸心と下側の引取ロール43の回転軸心とが、含浸後の繊維材料9の引き取り軸線を中心とする上面視対称形のX形に交差している。
【0034】
上記の製造装置100によれば、ストランド軸方向に沿って繊維又は繊維束に撚りが付与され、繊維本数が1000本以上の繊維束を有し、ストランド軸方向の長さ1m当たりの撚りの回数が30以上、80以下のストランドを製造できる。
【0035】
<繊維強化樹脂ストランドを用いる積層造形装置>
次に、上記した撚りが付与された繊維強化樹脂ストランド1を造形材料として用いる3Dプリンタの一例として、FDM(Fused Deposition Modeling)方式(熱溶解積層方式)の積層造形装置の構成を説明する。
【0036】
図3は、FDM方式の積層造形装置200の概略構成図である。積層造形装置200は、ストランド1を送給するストランド送給部51と、ヘッド部53と、造形テーブル55と、成形駆動部57と、制御部59とを備える。
【0037】
ストランド送給部51は、ストランド1を挟み込む一対の駆動ローラ51aと、少なくとも一方の駆動ローラ51aを回転駆動させるモータ等の駆動部(不図示)とを備える。
ヘッド部53は、送給されたストランド1を熱溶解する不図示の加熱部と、加熱部により溶解した造形材を吐出するノズル53aを有する。また、図示はしないが、ストランド1に含まれる強化繊維を切断するカッター、レーザー切断装置等の切断部が設けられていてもよい。
【0038】
造形テーブル55は、ヘッド部53のノズル53aに対向して配置され、造形物を積層する造形面55aを有する。
成形駆動部57は、ヘッド部53と造形テーブル55とを相対移動させて、ヘッド部53のノズル53aから吐出される造形材Mを所望のパスに沿って形成する。例えば、成形駆動部57は、ヘッド部53を造形テーブル55の造形面55aの面内で移動させる2軸駆動機構と、造形テーブル55を昇降駆動することで積層高さを調整する昇降機構とを備えた構成でもよい。
【0039】
制御部59は、ストランド送給部51によるストランド1の送給、及び成形駆動部57によるヘッド部53と造形テーブル55との相対移動を制御する機能と、その他の各部を統括して制御する機能とを有する。制御部59には、ストランド送給部51と成形駆動部57を含む各部を制御するプログラムが入力され、そのプログラムを実行することで所望の形状の造形物を積層造形する。この制御部59は、CPU等のプロセッサ、ROM,RAM等のメモリ、ハードディスクドライブHDD、ソリッドステートドライブSSD等のストレージ等を含むコンピュータにより構成される。
【0040】
本構成の積層造形装置200により、前述したストランド1を造形材料として用いて造形した場合、例えば、曲率半径2mm~40mmの範囲で連続的に変化するパスで造形物を造形する際に、
図5に示すような繊維の折り返しを生じることがない。また、
図6に示すような開繊幅の縮小、及び
図7に示す開繊幅の不安定化を招くこともない。これにより、設定したパスからのずれを最小化でき、造形精度を向上できる。
【0041】
また、撚りを設けない撚り無しストランドの開繊幅を基準とした場合、前述したストランド1を用いた造形時の造形材Mの開繊幅は、その低下率を10%以内に抑えられる。さらに、ストランド1の単体での引張特性は、少なくとも撚り数が100回/m以内の範囲において、引張弾性率及び引張強度の最大値が含まれる特性となる。
【0042】
実験的な知見から、ストランド1の撚り回数は、30回/m以上、80回/m以下の範囲で、特に顕著な優れた特性を発揮する。また、繊維束の本数は、1000本以上であり、12000本以下、好ましくは6000本以下、より好ましくは3000本以下、更に好ましくは1500本以下である。
【実施例0043】
<試験例1,2>
熱可塑性樹脂として宇部興産製UBEナイロン(登録商標) UBE Nylon 1010X1を用い、強化用繊維として1本の東レ株式会社製トレカ(登録商標)T300B-1000-50Bを用い、繊維重量含有率70%の繊維強化樹脂ストランド(断面径0.3mmφ)を製造した。この繊維強化樹脂ストランドの製造には、
図2に示すような製造装置100を用い、融解状態の熱可塑性樹脂に繊維材料7を含浸させた複合体を、撚り部41の一対の引取ロール43,45を用い、引き取り方向に対し2°及び4°の撚り角に調整して撚ることで、上記複合体に対して撚りを付与した。1m当たりの撚り回数Nは、前述の撚り角θ及びストランド断面直径Dから、下記の式(1)に基づき計算される値であり、撚り角θが2°では37回/m前後、撚り角θが4°では74回/m前後と計算される。
【0044】
N = tanθ/(πD) ・・・式(1)
【0045】
これにより、試験例1(撚り角θ:2°、撚り回数N:37回/m)及び試験例2(撚り角θ:4°、撚り回数N:74回/m)のストランドを形成した。また、繊維束の繊維本数は、規定数が1000本の製品を使用している。
【0046】
なお、本構成のストランドにおいては、引取ロール43,45によって撚り角1°当たり18.5回/mの撚りがストランドに付与される。そのため、設定撚り角と実撚り角との誤差を考慮すると、撚り数はある程度の範囲を有すると考えられる。例えば、下限としては撚り角θが1.5°で撚り回数Nが28回/m、上限としては撚り角θが4.4°で撚り回数Nが82回/mと計算される。
【0047】
以上より、試験例1,2による撚り回数Nの範囲は、上記した誤差を加味して、30回/m以上、80回/m以下の範囲であるとみなせる。
【0048】
(試験例3)
試験例3のストランドは、撚り部41の引取ロール43,45の引き取り方向に対する傾斜を付けず、撚り角θを0°(撚り回数N:0回/m)に変更した以外は、試験例1,2と同様に形成した。
【0049】
(試験例4)
試験例4のストランドは、撚り角θが6°、撚り回数Nが約111回/mとなるように上記一対の引取ロールの引き取り方向に対する傾斜角度を変更したこと以外は、試験例1~3と同様にして形成した。
【0050】
(造形精度の評価)
得られた試験例1~4のストランドを3Dプリンタ用のフィラメントとして使用し、ノズル温度260℃、テーブル温度45℃、印刷速度8mm/secの造形条件で1層からなる造形物を得た。造形モデルは曲線造形物であり、曲率半径が2mm~40mmの範囲で連続的に変化する長軸半径15mm、短軸半径6mmの楕円形状とした。これは、曲線成型性試験の中で、より緩い条件とより厳しい条件を模したものである。得られた造形物の造形精度は、レーザー顕微鏡及び画像処理ソフトを用いた解析より、設定した造形パスからのずれの大きさとして評価した。ここでは、設定した造形パスからのずれが1%を下回る場合を「○」、上回る場合を「△」と評価した。
【0051】
(開繊性)
試験例1~4のストランドを用い、上記評価と同様の造形条件で直線描くことで、開繊性評価サンプルを得た。レーザー顕微鏡による観察、及び画像処理ソフトによる画像処理により各直線造形物(造形材M)の幅の平均値を算出し、その値を開繊幅とした。同じ造形条件において最も開繊幅の大きいサンプルを基準とし、開繊幅の低下率が10%以内に収まる場合を「○」、それ以上の低下率を示す場合を「△」と評価した。
【0052】
(空隙率)
試験例1~4のストランドを用い、上記評価と同様の造形条件で、曲率半径が2mm~40mmの範囲で連続的に変化する長軸半径15mm、短軸半径6mmの楕円形状を1層、内側に向かって4周分造形した造形物を得た。得られた造形物を、レーザー顕微鏡による観察、及び画像処理ソフトによる画像処理により造形パス間の空隙率を算出した。この空隙率は、全造形パス中の空隙率が2%未満の場合を「○」、それ以上である場合を「△」と評価した。
【0053】
(力学物性)
試験例1~3のストランドをそれぞれ長さ250mmに切断し、両端に25mm×50mmのタブを接着し、伸びを測定する標点間距離を50mmとした条件で引張試験を実施した。破断に至った引張強度が1200MPa以上である場合を「○」、それ未満である場合を「△」と評価した。以上の各試験例の評価結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
試験例1,2のように、熱可塑性樹脂を主成分とする基材に繊維材料を含浸させ、撚り回数Nが37回/m(試験例1)、74回/m(試験例2)の撚りを付与したストランドでは、撚りストランド特有の高い可撓性を維持しつつ、高い力学物性が発現した。試験例1,2のストランドを、
図3に示すような積層造形装置で造形物を造形する際、高い造形精度、良好な開繊性、低い空隙率で造形できることが示された。
【0056】
一方、試験例3,4では、撚り回数Nが0回/m(試験例3)、約111回/m(試験例4)の撚りを付与したストランドでは、造形精度、開繊性が共に試験例1,2よりも低下し、試験例3の力学特性も試験例1,2よりも低くなった。なお、試験例4の力学特性は、略同等の撚り回数のサンプルで試験したところ、試験例1、2よりも低いことを確認している。
【0057】
以上の通り、撚り回数Nが30回/m以上、80回/m以下では、曲率半径が2mm~40mmの範囲の曲線パスで造形する場合に、特に顕著な優れた特性を発揮する。更に、繊維束の繊維本数を1000本、又は1000本以上にすることで、上記した造形精度、開繊性、力学特性が相乗的に向上して、特に良好な特性が得られる。
【0058】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0059】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 3Dプリンタの造形材料として用いられる繊維強化樹脂ストランドであって、
熱可塑性樹脂を含む基材と、
前記基材中に配置され、ストランド軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束と、を備え、
前記ストランド軸方向に沿って前記繊維又は前記繊維束に撚りが付与され、
前記ストランド軸方向の長さ1m当たりの前記撚りの回数は30以上、80以下である、
繊維強化樹脂ストランド。
この繊維強化樹脂ストランドによれば、繊維又は繊維束の撚りの回数を30回/m以上、80回/m以下にすることで、造形物を3Dプリンタで造形する際に、曲線造形時の造形精度が向上し、良好な開繊性が得られる。これにより、ストランド間の融着性を向上させ、造形物の強度低下を抑制できる。
【0060】
(2) 前記繊維束は、1000本以上、1500本以下の繊維を含む、(1)に記載の繊維強化樹脂ストランド。
この繊維強化樹脂ストランドによれば、小さな曲率半径で連続的に変化する造形物であっても、設定した造形パスからのずれを抑制して、高精度に造形できる。
【0061】
(3) 熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に配置され、ストランド軸方向に延在する1本又は複数本の繊維又は繊維束と、を備え、前記ストランド軸方向に沿って前記繊維又は前記繊維束に撚りが付与され、前記ストランド軸方向の長さ1m当たりの前記撚りの回数が30以上、80以下である繊維強化樹脂ストランドを用いて、熱融解積層法により造形物を作製する積層造形方法。
この積層造形方法によれば、繊維又は繊維束の撚りの回数を30回/m以上、80回/m以下にした繊維強化樹脂ストランドを用いることで、造形物を3Dプリンタで造形する際に、曲線造形時の造形精度が向上し、良好な開繊性が得られる。これにより、ストランド間の融着性を向上させ、造形物の強度低下を抑制できる。
【0062】
(4) 前記繊維束は、1000本以上、1500本以下の繊維を含む、(3)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、小さな曲率半径で連続的に変化する造形物であっても、設定した造形パスからのずれを抑制して、高精度に造形できる。
【0063】
(5) 曲率半径2mm以上、40mm以下の曲線に沿って造形するパスを含む、(3)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、曲率半径が2mm以上、40mm以下の曲線状のパスであっても、繊維の折り返し、開繊幅の縮小、不安定化を招くことなく、良好な造形が可能となる。