(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040740
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】振動可視化システム、振動可視化方法
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20240318BHJP
G06T 7/20 20170101ALI20240318BHJP
【FI】
G01H9/00 Z
G06T7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145290
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】見村 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 則雄
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆司
【テーマコード(参考)】
2G064
5L096
【Fターム(参考)】
2G064AA05
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB12
2G064BA02
2G064BC02
2G064CC13
2G064CC43
5L096AA06
5L096BA02
5L096BA18
5L096CA04
5L096DA02
5L096FA23
5L096FA77
5L096GA51
(57)【要約】
【課題】測定対象の振動が小さくても全体の振動状態の計測を可能にする。
【解決手段】第1及び第2の測定点を含む第1の領域、及び第2及び第3の測定点を含む第2の領域それぞれの映像データを取得する撮像部と、第1の領域の映像データから第1の測定点における第1の振動データ及び第2の測定点における第2の振動データを抽出するとともに、第2の領域の映像データから第2の測定点における第3の振動データ及び第3の測定点における第4の振動データを抽出する抽出部と、第1~第4の振動データそれぞれに基づいてそれぞれの伝達関数を算出する伝達関数演算部と、第2の振動データに対応する伝達関数と第3の振動データに対応する伝達関数の差分が所定の閾値以下の場合、第1の振動データに対応する伝達関数、第2の振動データに対応する伝達関数及び第4の振動データに対応する伝達関数から固有振動モードを算出する固有振動モード演算部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物上に設けられた第1の測定点及び第2の測定点を含む第1の領域、及び前記第2の測定点及び前記構造物上に設けられた第3の測定点を含む第2の領域それぞれの映像データを取得する撮像部と、
前記第1の領域の映像データから前記第1の測定点における第1の振動データ及び前記第2の測定点における第2の振動データを抽出するとともに、前記第2の領域の映像データから前記第2の測定点における第3の振動データ及び前記第3の測定点における第4の振動データを抽出する抽出部と、
前記第1ないし第4の振動データそれぞれに基づいてそれぞれの伝達関数を算出する伝達関数演算部と、
前記第2の振動データに対応する伝達関数と前記第3の振動データに対応する伝達関数の差分が所定の閾値以下である場合に、前記第1の振動データに対応する伝達関数、前記第2の振動データに対応する伝達関数及び前記第4の振動データに対応する伝達関数を用いて前記構造物の固有振動モードを算出する固有振動モード演算部と
を備えた振動可視化システム。
【請求項2】
前記抽出部は、前記第1ないし第4の振動データを二次元データとして抽出し、
前記伝達関数演算部は、前記第1ないし第4の振動データそれぞれに基づいて、それぞれの二次元データからなる伝達関数を算出し、
前記固有振動モード演算部は、二次元データからなる伝達関数の差分を閾値と比較すること
を特徴とする請求項1記載の振動可視化システム。
【請求項3】
前記撮像部は、前記第1の領域の映像データを取得する第1のカメラと、該第1のカメラの撮影方向と異なる方向から前記第2の領域の映像データを取得する第2のカメラと、を備え、
前記固有振動モード演算部は、前記第2の振動データに対応する伝達関数と前記第3の振動データに対応する伝達関数の差分を三次元のパラメータにより算出すること
を特徴とする請求項1記載の振動可視化システム。
【請求項4】
前記抽出部が抽出した第1ないし第4の振動データそれぞれをフーリエ変換する変換部をさらに備え、
前記伝達関数演算部は、基本固有振動数における伝達関数を算出すること
を特徴とする請求項1記載の振動可視化システム。
【請求項5】
前記撮像部は、前記第1及び第2の領域の映像データそれぞれを複数回分取得し、
前記抽出部は、前記複数回分の映像データに基づいて前記第1ないし第4の振動データを複数回分抽出し、
前記伝達関数演算部は、前記複数回分の前記第1ないし第4の振動データに基づいて、それぞれ複数回分の伝達関数を算出し、
前記固有振動モード演算部は、前記複数回分の伝達関数群のうち、前記第2の振動データに対応する伝達関数と前記第3の振動データに対応する伝達関数の差分が所定の閾値以下となる組み合わせを選択すること
を特徴とする請求項1記載の振動可視化システム。
【請求項6】
構造物上に設けられた第1の測定点及び第2の測定点を含む第1の領域、及び前記第2の測定点及び前記構造物上に設けられた第3の測定点を含む第2の領域それぞれの映像データを取得し、
前記第1の領域の映像データから前記第1の測定点における第1の振動データ及び前記第2の測定点における第2の振動データを抽出するとともに、前記第2の領域の映像データから前記第2の測定点における第3の振動データ及び前記第3の測定点における第4の振動データを抽出し、
前記第1ないし第4の振動データそれぞれに基づいてそれぞれの伝達関数を算出し、
前記第2の振動データに対応する伝達関数と前記第3の振動データに対応する伝達関数の差分が所定の閾値以下である場合に、前記第1の振動データに対応する伝達関数、前記第2の振動データに対応する伝達関数及び前記第4の振動データに対応する伝達関数を用いて前記構造物の固有振動モードを算出すること
を特徴とする振動可視化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、振動可視化システム、振動可視化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント内の機器の稼働率向上を目的として、機器の状態監視のため振動センサによる計測が行われている。振動センサによる計測は、機器によって計測対象箇所が高所にある場合があり、センサの追加設置が困難であったり、測定位置が限定されたりといった課題が存在する。
【0003】
そこで、センサ類の設置を必要とせず、計測対象の現象を面で捉えることができるカメラデバイスによる振動可視化と、それによる測定手法が提案されている。こうした技術によれば、測定対象に対して非接触で状態監視を行うことができる。
【0004】
カメラデバイスを用いた非接触の状態監視では、測定対象によって得られる振動値の絶対値が小さい場合がある。振動値が小さい振動を捉えるためには、カメラデバイスの画角を狭める必要がある。これは、撮影可能な範囲を限定することになるから、測定対象全体の動きの把握が困難となり、故障検知や故障診断の精度が低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許10,459,615号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来の振動可視化システム、振動可視化方法では、小さい振動を捉えることが難しく、測定対象全体の故障検知や故障診断の精度を高めることが難しいという問題がある。本発明はかかる課題を解決するためになされたもので、測定対象の振動が小さくても全体の振動状態の計測を可能にする振動可視化システム、振動可視化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の振動可視化システムは、構造物上に設けられた第1の測定点及び第2の測定点を含む第1の領域、及び第2の測定点及び構造物上に設けられた第3の測定点を含む第2の領域それぞれの映像データを取得する撮像部と、第1の領域の映像データから第1の測定点における第1の振動データ及び第2の測定点における第2の振動データを抽出するとともに、第2の領域の映像データから第2の測定点における第3の振動データ及び第3の測定点における第4の振動データを抽出する抽出部とを有する。さらに、実施形態の振動可視化システムは、第1ないし第4の振動データそれぞれに基づいてそれぞれの伝達関数を算出する伝達関数演算部と、第2の振動データに対応する伝達関数と第3の振動データに対応する伝達関数の差分が所定の閾値以下である場合に、第1の振動データに対応する伝達関数、第2の振動データに対応する伝達関数及び第4の振動データに対応する伝達関数を用いて構造物の固有振動モードを算出する固有振動モード演算部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の振動可視化システムの構成を示す概要図である。
【
図2】第1実施形態に係る伝達関数の一例を示す図である。
【
図3】第1実施形態の振動可視化システムの動作を示す図である。
【
図4】第2実施形態の振動可視化システムの構成を示す概要図である。
【
図5】第3実施形態の振動可視化システムの構成を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態の振動可視化システムでは、測定対象の微小な振動を捉えるため、カメラデバイスによる測定対象の撮影を限定された画角により行う。そのため、測定対象全体を測定するためには複数領域の映像データが必要になる。実施形態の振動可視化システムでは、測定対象(撮影対象)の複数領域それぞれについて、複数回の撮影を実行する。そして、複数回の撮影によって得られた振動データの中で、複数の領域間の同期が可能なものを探索し、それぞれの領域に含まれる測定点の映像データを結合させ、測定対象の振動状態を広域に捉えることを可能にしている。
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。以下の説明において、同一の構成には共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
図1は、第1実施形態の振動可視化システムの構成を示す概略図である。
図1に示す振動可視化システム1は、測定対象Oとその状態を撮影するカメラ2と、カメラ2が撮影した映像データを集積するデータ集積部3と、データ集積部3が集積した映像データを演算処理する演算装置4を備えている。
【0011】
カメラ2は、測定対象Oの外観を撮影し映像データを生成する。測定対象Oには、予め測定点6a~6c,7a~7c、8a~8cが付されている。測定点は、測定対象Oの表面にカメラ2で撮影可能な形態のマークであり、上記の数に限定されない。測定点は、測定対象Oの全体の振動を捉えるのに必要な数を設定し、測定点相互は所定の距離を離間して配置される。測定点は、振動可視化システムのために新たに設けたマークに限定されず、測定対象Oにおける特徴的な部品や部位を測定点としてもかまわない。
【0012】
カメラ2が撮影した映像データは、測定点の微小な振動を含んでいる。想定する測定対象Oの振動が微小であるから、その振動を捉えるため、カメラ2の画角は必ずしも測定対象Oの全体をカバーできるものになるとは限らない。
図1に示す例では、カメラ2の画角により撮影できる領域は、一点鎖線で示される領域Aや二点鎖線で示される領域Bのように測定対象Oの一部である。すべての測定点6a~6c,7a~7c、8a~8cを撮影するため、カメラ2は、領域A,領域B…のように所定時間撮影するごとに撮影領域を変更する。このとき、撮影する複数の領域間で、共通する測定点が含まれるように撮影領域を決定しておく。
図1に示す例では、領域Aが測定点6a~6c,7a~7cを含んでおり、領域Bが測定点7a~7c、8a~8cを含んでいるから、測定点7a~7cが共通する測定点となる。
【0013】
データ集積部3は、カメラ2が撮影した複数の映像データを蓄積する記憶装置である。データ集積部3は、例えばファイルサーバやデータサーバを構成するコンピュータ装置により実現できる。データ集積部3は、さらに、演算装置4の演算結果を保存する領域として機能してもよい。
【0014】
演算装置4は、データ集積部3が蓄積した映像データを周波数分析し、伝達関数を算出し、固有振動モードを算出する機能を有する。演算装置4は、例えばワークステーションなどのコンピュータ装置により実現できる。演算装置4は、映像データ取得部41、フーリエ変換部42、伝達関数演算部43、出力部44及び撮影制御部45を具備している。
【0015】
映像データ取得部41は、データ集積部3に蓄積された映像データを取得し、測定点6a~6c,7a~7c、8a~8cそれぞれの振動を示す振動データを検出する。
図1に示す例では、領域Aの撮影によって測定点6a~6c,7a~7cの振動データが得られる。また、領域Bの撮影によって測定点7a~7c、8a~8cの振動データが得られる。
【0016】
フーリエ変換部42は、映像データ取得部41が検出した振動データをフーリエ変換し、時間軸のデータを周波数軸のデータに変換する。
【0017】
伝達関数演算部43は、フーリエ変換された振動データを用いて伝達関数を算出する。また、伝達関数演算部43は、生成した伝達関数を用いて、測定対象Oの固有振動モードを演算する。
【0018】
出力部44は、伝達関数演算部43が算出した固有振動モードを画像として出力する。出力部44は、例えばディスプレイ装置やプリンタ装置などにより実現することができる。出力部44は、得られた固有振動モードをデータ集積部3などにデータファイルとして出力してもよい。
【0019】
撮影制御部45は、カメラ2の撮影領域を制御する。映像データ取得部41は、測定対象Oについて複数の領域の映像データを取得する。撮影制御部45は、カメラ2を制御して複数の領域の映像データの取得を可能にする。
【0020】
(伝達関数の算出)
カメラ2が測定対象Oの領域Aを撮影すると、領域Aの範囲内の測定点6a,6b,6cにおいて振動データX6aA,X6bA,X6cAが合わせて観測(計測)される。ここで、「X6aA」は、領域Aにおける測定点6aでの振動データを意味する。同様に、領域Aの範囲内の測定点7a,7b,7cにおいて振動データX7aA,X7bA,X7cAが合わせて観測(計測)される。
【0021】
仮に、基準点を測定点6aとした場合、伝達関数演算部43は、測定点6aで計測された振動データX
6aAと他の測定点における振動データとの伝達関数Hを算出する。基準点は、測定範囲内の測定点であれば任意に設定可能である。振動データXは、フーリエ変換部42により周波数領域のデータに変換されているので、周波数をfとすると、伝達関数Hは数式1で表すことができる。
H
n(f)=X
n(f)/X
nbase(f) ・・(1)
ここでX
n(f)、X
nbase(f)は、それぞれ周波数変換された測定点n(
図1では6a~6c,7a~7c)での振動、基準点での振動を表す。
【0022】
図2は、伝達関数Hの一例である。伝達関数の振幅|H|のピーク(極大点)が生じている振動数が固有振動数である。
図2ではf1、f2、f3の3つの固有振動数が示されている。例えば、最も低い固有振動数f1(基本固有振動数)に着目して固有振動モードを求める。
【0023】
固有振動モードは、対応する固有振動数における構造物の各測定点の基準点に対する振幅比で表される。すなわち、伝達関数演算部43は、固有振動数f1における伝達関数の比を算出する。測定点nにおける周波数fでの固有振動モードMn(f)は、
Mn,1(f)=Hn,1(f)/H1,1(f)
={(Xn(f)/Xnbase(f))}/{(X1(f)/Xnbase(f))}
=Xn(f)/X1(f) ・・(2)
数式(2)において、n=1、2、…、と順次算出すれば、測定対象Oで着目した固有振動数f1に対応する固有振動モード{M1,1(f),M2,1(f),…,Mn,1(f)}が求められる。
【0024】
(撮影領域の結合)
測定対象Oの全体の振動を捉えるには、カメラ2が測定対象Oの全体を撮影するのが簡便である。しかし、測定点における振動は微小であるため、カメラ2の画角を狭くして微小な振動をも捉えられるように構成する必要がある。実施形態の振動可視化システム1は、カメラ2の撮影領域を測定対象Oの一部(
図1における領域Aや領域B)とし、得られた複数の撮影領域を結合している。
【0025】
図1において、領域Aと領域Bとを結合する場合を例に説明する。領域Aで算出した固有振動モードと領域Bで算出した固有振動モードを結合させる場合、それぞれの領域が重複する測定点7a、7b、7cの伝達関数を用いる。
【0026】
ここで、領域Aと重複する測定点7a、7b、7cを持つ隣接する領域Bにおいて複数回(k回)計測し、それぞれ算出した伝達関数Hn,1、Hn,2,・・・・Hn,kがあったとする。例えば、測定点7aを基準点として、測定点7b及び7cの領域Aの伝達関数H7bA及びH7cAを求める。領域Bにおいても同様に、測定点7aを基準点として伝達関数H7bB1、H7cB1、H7bB2、H7cB2・・・H7bBk、H7cBkを算出する。ここで、「H7bBk」とは、「7b」が測定点、「B」が撮影した領域、「k」は撮影回数を表す。
【0027】
伝達関数演算部43は、領域Aの着目する固有振動数f1での伝達関数と、隣接する領域Bの着目する固有振動数f1での伝達関数との誤差を、各測定点において数式(3)により算出する。そして、すべての計測点での伝達関数の誤差が例えば1%以下となる数式(3)の分子の第2項の伝達関数H7bBk,H7cBkを探索する。
(H7bA-H7bB1)/H7bA
(H7cA-H7cB1)/H7cA ・・(3)
【0028】
共通する測定点において、領域Aで計算した伝達関数と領域Bで計算した伝達関数との誤差が、例えば1%以下となる場合、伝達関数演算部43は、当該条件を満たした領域Bの撮影回数kにおける伝達関数H7bBk及びH7cBkと領域Aの伝達関数H7bA及びH7cAは同じ振動状態の計測データであるとみなし、当該撮影回数のデータにおける領域A及びBの伝達関数を用いて固有振動モードを算出する。計算した固有振動モードは、出力部44により描画出力することができる。なお、誤差を判定する閾値は1%に限定されない。伝達関数に必要な精度に応じて決定することができる。
【0029】
(第1実施形態の動作)
続いて、
図1及び
図3を参照して、実施形態に係る振動可視化システム1の動作を説明する。
【0030】
撮影制御部45は、カメラ2の撮影領域を領域Aに設定し、カメラ2は領域Aを撮影する(S100)。領域Aには、測定点6a,6b,6c,7a,7b,7cが含まれている。カメラ2は、撮影した映像データをデータ集積部3に蓄積する。
【0031】
映像データ取得部41は、データ集積部3から領域Aの映像データを取得し、取得した映像データから測定点6a,6b,6c,7a,7b,7cにおける振動データX6aA,X6bA,X6cA,X7aA,X7bA,X7cAを抽出する(S105)。抽出された振動データは、データ集積部3に保存される。
【0032】
フーリエ変換部42は、データ集積部3に保存された振動データX6aA,X6bA,X6cA,X7aA,X7bA,X7cAについてフーリエ変換を行う(S110)。
【0033】
伝達関数演算部43は、フーリエ変換された振動データX
6aA,X
6bA,X
6cA,X
7aA,X
7bA,X
7cAを用いて、伝達関数H
6aA,H
6bA,H
6cA,H
7aA,H
7bA,H
7cAを算出する(S115)。このとき、領域Aと領域Bの重複領域に存在する測定点(
図1に示す例では測定点7a,7b,7c)のいずれかを基準として演算を行う。
【0034】
この実施形態では、振動データの抽出を複数回行う。領域Aの撮影を継続する場合(S120のYes)、領域Aの撮影から伝達関数の算出までを繰り返す(S100~S115)。
【0035】
領域Aの撮影を終了する場合(S120のNo)、撮影制御部45はカメラ2の撮影領域を領域Aから領域Bへ変更し、カメラ2は領域Bを撮影する(S125)。領域Bには、測定点7a,7b,7c,8a,8b,8cが含まれている。カメラ2は、撮影した映像データをデータ集積部3に蓄積する。
【0036】
映像データ取得部41は、データ集積部3から領域Bの映像データを取得し、取得した映像データから測定点7a,7b,7c,8a,8b,8cにおける振動データX7aB,X7bB,X7cB,X8aB,X8bB,X8cBを抽出する(S130)。抽出された振動データは、データ集積部3に保存される。
【0037】
フーリエ変換部42は、データ集積部3に保存された振動データX7aB,X7bB,X7cB,X8aB,X8bB,X8cBについてフーリエ変換を行う(S135)。
【0038】
伝達関数演算部43は、フーリエ変換された振動データX
7aB,X
7bB,X
7cB,X
8aB,X
8bB,X
8cBを用いて、伝達関数H
7aB,H
7bB,H
7cB,H
8aB,H
8bB,H
8cBを算出する(S140)。このとき、領域Aと領域Bの重複領域に存在する測定点(
図1に示す例では測定点7a,7b,7c)のうち、領域Aにおける伝達関数を算出する際に用いた基準点を基準として演算を行う。
【0039】
この実施形態では、振動データの抽出を複数回行う。領域Bの撮影を継続する場合(S145のYes)、領域Bの撮影から伝達関数の算出までを繰り返す(S125~S140)。ここまでの動作により、領域A及びBそれぞれについて複数回分の映像データとそれにより算出された伝達関数がデータ集積部3に蓄積される。以下の説明では、領域Aの撮影をM回、領域Bの撮影をN回行ったものとし、m回目の撮影の領域Aの映像データから算出した伝達関数をH7aAm(領域Aの測定点7aについてm回目の撮影の映像データから算出)、n回目の撮影の領域Bの映像データから算出した伝達関数をH7aBn(領域Bの測定点7aについてn回目の撮影の映像データから算出)のように表す。
【0040】
領域Bの撮影を終了する場合(S145のNo)、伝達関数演算部43は、領域Aの任意の撮影回数(例えばm回目)での任意の周波数(例えば基本固有振動数f1)の伝達関数を選択する。併せて、伝達関数演算部43は、領域Bの任意の撮影回数(例えばn回目)での領域Aと共通する周波数の伝達関数を選択する。そして、領域A及びBそれぞれの伝達関数の誤差を計算する(S150)。
図1に示す例では、領域A及びBに共通する測定点7a,7b,7cにおける伝達関数の差分から誤差α1,α2,α3を数式4のように計算する。
α1=(H
7aAm-H
7aBn)/H
7aAm
α2=(H
7bAm-H
7bBn)/H
7bAm
α3=(H
7cAm-H
7cBn)/H
7cAm ・・(4)
【0041】
α1~α3のうちすべてが0.01(1%)以下ではない場合(S155のNo)、領域Bにおいて他の撮影回の伝達関数を選択し、誤差計算を繰り返す(S150)。領域Bのすべての撮影回nの伝達関数において誤差が0.01以下とはならない場合は、領域Aの撮影回mを変更して再度誤差計算を繰り返す。
【0042】
α1~α3のすべてが0.01以下となった場合(S155のNo)、伝達関数演算部43は、対応する領域Aのm回目の撮影データと領域Bのn回目の撮影データそれぞれに基づいて算出された伝達関数は一致しているものとみなす(S160)。
【0043】
伝達関数演算部43は、m回目の撮影データに基づく領域Aとn回目の撮影データに基づく領域Bとを結合し、対応する伝達関数群{H6aAm,H6bAm,H6cAm,H7aAm,H7bAm,H7cAm,H8aBn,H8bBn,H8cBn}を測定対象O全体の伝達関数群と決定する。
【0044】
伝達関数演算部43は、伝達関数群{H6aAm,H6bAm,H6cAm,H7aAm,H7bAm,H7cAm,H8aBn,H8bBn,H8cBn}を用いて固有振動モードを生成し、出力部44は、生成された固有振動モードを描画出力する(S165)。
【0045】
この実施形態では、隣り合う撮影範囲(領域A,B)で重複する測定点(7a,7b,7c)の伝達関数(H7aAm,H7bAm,H7cAm,H7aBn,H7bBn,H7cBn)をそれぞれ算出し、着目する固有振動数fでそれぞれ撮影した伝達関数の誤差(α1,α2,α3)を算出し、すべての測定点(7a,7b,7c)の誤差が小さいデータ同士を同じ振動状態の計測データとみなし、対応する領域A及びB両方のデータを使って固有振動モードを算出している。このように、実施形態の振動可視化システムによれば、測定対象全体を画角におさめることなく全体の固有振動モードを生成することができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、
図4を参照して、第2実施形態に係る振動可視化システムについて説明する。この実施形態の振動可視化システムは、映像データ取得部41が抽出する振動データが二次元パラメータを備えている。以下の説明において、同一の構成には共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0047】
図4は、第2実施形態の振動可視化システムの構成を示す概略図である。
図4に示す振動可視化システム20は、測定対象Oとその状態を撮影するカメラ2と、カメラ2が撮影した映像データを集積するデータ集積部3と、データ集積部3が集積した映像データを演算処理する演算装置4を備えている。
【0048】
映像データ取得部41は、データ集積部3に蓄積された映像データを取得し、測定点6a~6c,7a~7c、8a~8cそれぞれの振動を示す振動データを検出する。このとき、振動データは、xy軸を基準とした二次元データのパラメータを有している。
図4は、測定点7a,7b,7cにおいて、振動データX
7ax,7ay、X
7bx,7by,X
7cx,7cyが抽出され、それぞれx軸方向のパラメータとy軸方向のパラメータが含まれている。
【0049】
xy軸の二次元パラメータをもつ振動データは、フーリエ変換部42によりフーリエ変換され、伝達関数が生成される。ここで、領域Aと領域Bとを結合する際、x軸パラメータとy軸パラメータそれぞれの誤差を計算することになる。すなわち、第2実施形態の振動可視化システムは、第1実施形態の振動可視化システムと比較して伝達関数の誤差の比較項目が増えるから、領域A及びBを結合させる際の精度を高めることができる。
【0050】
(第3実施形態)
次に、
図5を参照して、第3実施形態に係る振動可視化システムについて説明する。この実施形態の振動可視化システム30は、二以上のカメラ2,2aを備え、映像データ取得部41が抽出する振動データが三次元パラメータを備えている。以下の説明において、同一の構成には共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0051】
図5は、第3実施形態の振動可視化システムの構成を示す概略図である。
図5に示す振動可視化システム30は、測定対象Oとその状態を撮影するカメラ2,2aと、カメラ2,2aが撮影した映像データを集積するデータ集積部3と、データ集積部3が集積した映像データを演算処理する演算装置4を備えている。
【0052】
映像データ取得部41は、データ集積部3に蓄積された映像データを取得し、測定点それぞれの振動を示す振動データを検出する。このとき、振動データは、xyz軸を基準とした三次元データのパラメータを有している。
図5は、測定点9a,9b,9cにおいて、振動データX
9ax,9ay,9az,X
9bx,9by、9bz,X
9cx,9cy,9czが抽出され、それぞれx軸方向のパラメータ、y軸方向のパラメータ、z軸方向のパラメータが含まれている。なお、
図5から観測される振動データX
9ax,9ay,9az,X
9bx,9by、9bz,X
9cx,9cy,9czは、カメラ2及び2aそれぞれから撮影される領域A1及びB1それぞれに共通する測定点9a,9b,9cにおける振動データである。
【0053】
xyz軸の三次元パラメータをもつ振動データは、フーリエ変換部42によりフーリエ変換され、伝達関数が生成される。ここで、領域A1と領域B1とを結合する際、x軸パラメータ、y軸パラメータ及びz軸パラメータそれぞれの誤差を計算することになる。すなわち、第3実施形態の振動可視化システムは、第1実施形態の振動可視化システムと比較して伝達関数の誤差の比較項目がさらに増えるから、領域A1及びB1を結合させる際の精度を高めることができる。
【0054】
また、この実施形態の振動可視化システムでは、振動データが三次元パラメータを有しているから、それによって算出される伝達関数、固有振動モードも三次元パラメータを含むものとすることができる。すなわち、測定対象Oの三次元挙動に係る固有振動モードを得ることができる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが,これらの実施形態は,例として提示したものであり,発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は,その他の様々な形態で実施されることが可能であり,発明の要旨を逸脱しない範囲で,種々の省略,置き換え,変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は,発明の範囲や要旨に含まれるとともに,特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1,20,30…振動可視化システム、2…カメラ(撮像部)、3…データ集積部(抽出部)、4…演算装置(固有振動モード演算部)、41…映像データ取得部、42…フーリエ変換部、43…伝達関数演算部、44…出力部、45…撮影制御部、6a~6c,7a~7c,8a~8c…測定点、A,B…領域、O…測定対象。