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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040761
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04746 20160101AFI20240318BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20240318BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240318BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04313
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145324
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】立川 克之
(72)【発明者】
【氏名】富本 尚也
(72)【発明者】
【氏名】中村 健
(72)【発明者】
【氏名】垣見 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】明本 斉
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127AC03
5H127AC11
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA33
5H127BA39
5H127BA57
5H127BA58
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127BB39
5H127BB40
5H127DB37
5H127DC32
5H127EE19
5H127FF10
(57)【要約】
【課題】燃料電池スタックでの生成水の溜まりに起因して燃料電池スタックの発電量に影響が生じることを抑制する。
【解決手段】燃料電池システム20は、アノードガス及びカソードガスが供給されることによって発電する燃料電池スタック22と、燃料電池スタック22での発電によって生成された生成水Wが燃料電池スタック22から排出される排出流路37と、排出流路37に設けられる調圧弁41と、調圧弁41の開度を調整する制御部80と、を備える。排出流路37のうち、調圧弁41より上流側の部分を上流流路38とすると、制御部80は、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留される生成水Wの貯留量を取得する貯留量取得手段を有し、貯留量取得手段によって取得された貯留量が所定貯留量以上である場合に調圧弁41の開度を増大させる開度増大制御を実施する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードガス及びカソードガスが供給されることによって発電する燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックでの発電によって生成された生成水が前記燃料電池スタックから排出される排出流路と、
前記排出流路に設けられる調圧弁と、
前記調圧弁の開度を調整する制御部と、を備える燃料電池システムであって、
前記排出流路のうち、前記調圧弁より上流側の部分を上流流路とすると、
前記制御部は、前記燃料電池スタック及び前記上流流路に貯留される前記生成水の貯留量を取得する貯留量取得手段を有し、前記貯留量取得手段によって取得された前記貯留量が所定貯留量以上である場合に前記調圧弁の開度を増大させる開度増大制御を実施することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記貯留量取得手段は、サンプリング周期内で前記燃料電池スタックによって生成された前記生成水の生成量に前記調圧弁の開度が大きいほど小さくなる係数を乗算して前記貯留量の増大量を取得する増大量取得処理と、前記増大量取得処理によって取得された前記増大量を積算して前記貯留量を取得する貯留量取得処理と、を前記サンプリング周期毎で繰り返し行う請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記排出流路には、前記燃料電池スタックに供給された前記カソードガスが前記燃料電池スタックから排出され、
前記燃料電池システムは、前記燃料電池スタックへの前記カソードガスの供給量を調整する調整手段を備え、
前記制御部は、前記開度増大制御の実施中に、前記供給量が所定供給量以上になるように前記調整手段を制御する請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の燃料電池システムは、燃料電池スタックと、排出流路と、排出流路に設けられる調圧弁と、を備える。燃料電池スタックは、アノードガス及びカソードガスが供給されることによって発電する。排出流路には、燃料電池スタックでの発電によって生成された生成水が燃料電池スタックから排出される。燃料電池スタックの内圧を高めるために、調圧弁の開度が小さくされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-107509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
調圧弁の開度が小さくされるとき、調圧弁の開度によっては、排出流路のうち調圧弁よりも上流側から下流側に生成水が流れにくくなることにより、生成水が燃料電池スタックに溜まるおそれがある。燃料電池スタックに多量の生成水が溜まると、燃料電池スタックの発電量に影響が及ぶおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する燃料電池システムは、アノードガス及びカソードガスが供給されることによって発電する燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックでの発電によって生成された生成水が前記燃料電池スタックから排出される排出流路と、前記排出流路に設けられる調圧弁と、前記調圧弁の開度を調整する制御部と、を備える燃料電池システムであって、前記排出流路のうち、前記調圧弁より上流側の部分を上流流路とすると、前記制御部は、前記燃料電池スタック及び前記上流流路に貯留される前記生成水の貯留量を取得する貯留量取得手段を有し、前記貯留量取得手段によって取得された前記貯留量が所定貯留量以上である場合に前記調圧弁の開度を増大させる開度増大制御を実施することを特徴とする。
【0006】
上記構成によれば、制御部による開度増大制御の実施に伴って、燃料電池スタック及び上流流路に貯留された生成水が、排出流路のうちで調圧弁よりも下流側の部分に排出される。これにより、燃料電池スタックでの生成水の溜まりを解消できる。したがって、燃料電池スタックでの生成水の溜まりに起因して燃料電池スタックの発電量に影響が生じることを抑制できる。
【0007】
燃料電池システムにおいて、前記貯留量取得手段は、サンプリング周期内で前記燃料電池スタックによって生成された前記生成水の生成量に前記調圧弁の開度が大きいほど小さくなる係数を乗算して前記貯留量の増大量を取得する増大量取得処理と、前記増大量取得処理によって取得された前記増大量を積算して前記貯留量を取得する貯留量取得処理と、を前記サンプリング周期毎で繰り返し行ってもよい。
【0008】
上記構成によれば、調圧弁の開度が反映された貯留量を用いることができるため、開度増大制御による調圧弁の開度の増大をより適切なタイミングで行える。
燃料電池システムにおいて、前記排出流路には、前記燃料電池スタックに供給された前記カソードガスが前記燃料電池スタックから排出され、前記燃料電池システムは、前記燃料電池スタックへの前記カソードガスの供給量を調整する調整手段を備え、前記制御部は、前記開度増大制御の実施中に、前記供給量が所定供給量以上になるように前記調整手段を制御してもよい。
【0009】
上記構成によれば、燃料電池スタックから排出流路に排出されるカソードガスによって、燃料電池スタック及び上流流路から、排出流路のうちで調圧弁よりも下流側の部分へと生成水の排出が促される。したがって、燃料電池スタックでの生成水の溜まりを早期に解消できる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、燃料電池スタックでの生成水の溜まりに起因して燃料電池スタックの発電量に影響が生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】燃料電池システムを示す模式図である。
図2】燃料電池システムの一部を示す断面図である。
図3】排水制御の処理手順を示すフローチャートである。
図4】(a)は生成水の貯留量を示す図、(b)は調圧弁の開度を示す図、(c)はカソードガスの量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、燃料電池システムを具体化した実施形態について図面にしたがって説明する。
図1に示すように、産業車両10は、負荷11と、電力変換部12と、キースイッチ13と、燃料電池システム20と、を備える。産業車両10は、例えば、フォークリフト又はトーイングトラクタである。
【0013】
負荷11は、電力によって駆動する装置である。負荷11は、例えば、電力によって駆動する電動機である。この電動機の駆動によって産業車両10は走行する。
電力変換部12は、燃料電池システム20から電力変換部12に入力された電力を変換して出力する。電力変換部12は、DC/DCコンバータ、及びインバータを含む。電力変換部12から出力された電力は負荷11に供給される。これにより負荷11は駆動する。
【0014】
キースイッチ13は、産業車両10のユーザによって操作される。ユーザによる操作によって、キースイッチ13はオンとオフとで切り替えられる。以下の説明において、キースイッチ13がオフされることをキーオフと称し、キースイッチ13がオンされることをキーオンと称する場合がある。
【0015】
<燃料電池システム>
燃料電池システム20は、例えば、カソード系30と、アノード系60と、希釈器69と、を有する。燃料電池システム20は、燃料電池スタック22と、制御部80と、を備える。
【0016】
燃料電池スタック22は、複数の燃料電池セル22aをスタック化したものである。燃料電池セル22aは、例えば、固体分子型燃料電池である。複数の燃料電池セル22aは、筐体21に収容される。燃料電池スタック22は、アノードガス及びカソードガスが供給されることによって発電する。燃料電池セル22aは、アノードガスが供給されるアノード極と、カソードガスが供給されるカソード極と、アノード極とカソード極との間に配置されている電解質膜と、を備える。燃料電池セル22aは、セパレータによって挟まれている。
【0017】
燃料電池セル22aのアノード極においては、以下式1で示す化学反応が起こる。

→2H+2e…(式1)

燃料電池セル22aのカソード極においては、以下式2で示す化学反応が起こる。
【0018】

1/2O+2H+2e→HO…(式2)

上記式1、式2より、燃料電池セル22aにおいては以下式3で示す化学反応が起こることになる。
【0019】

+1/2O→HO…(式3)

上記式3に示すように、燃料電池セル22aにおいては、発電に伴って生成水Wが生成される。生成水Wとは、燃料電池スタック22での発電によって生成される水である。
【0020】
カソード系30は、カソード流路30aを備える。カソード流路30aは、筐体21の内部に位置するカソード内部流路23を備える。カソード内部流路23にはカソードガスが流れる。カソード内部流路23の一部は、例えば、各燃料電池セル22aにおけるカソード極に向かい合うセパレータに設けられている。
【0021】
筐体21には、供給口24が形成されている。カソードガスは、供給口24からカソード内部流路23に供給される。筐体21には、排出口25が形成されている。カソードガスは、排出口25からカソード内部流路23外に排出される。
【0022】
アノード系60は、アノード流路60aを備える。アノード流路60aは、筐体21の内部に位置するアノード内部流路26を備える。アノード内部流路26にはアノードガスが流れる。アノード内部流路26は、例えば、各燃料電池セル22aにおけるアノード極に向かい合うセパレータに設けられている。
【0023】
筐体21には、アノード供給口27が形成されている。アノードガスは、アノード供給口27からアノード内部流路26に供給される。筐体21には、アノード排出口28が形成されている。アノードガスは、アノード排出口28からアノード内部流路26外に排出される。
【0024】
アノード内部流路26を流れるアノードガスと、カソード内部流路23を流れるカソードガスと、が反応することにより、燃料電池スタック22は発電を行う。言い換えると、燃料電池スタック22は、アノード流路60aに供給されたアノードガスとカソード流路30aに供給されたカソードガスとの反応によって発電を行う。なお、カソードガスは、酸化剤ガスである。酸化剤ガスとしては、例えば、空気中の酸素を挙げることができる。アノードガスは、燃料ガスである。燃料ガスとしては、例えば、水素ガスを挙げることができる。
【0025】
アノード系60は、タンク61と、アノードガス供給部62と、気液分離器65と、循環ポンプ66と、アノード排水弁67と、を備える。アノード流路60aは、供給路63と、循環路64と、を備える。
【0026】
タンク61は、アノードガスを貯留している。アノードガス供給部62には、タンク61からアノードガスが供給される。アノードガス供給部62は、燃料電池スタック22に供給されるアノードガスの量を調整するための部材である。燃料電池スタック22に供給されるアノードガスの量は、アノードガス供給部62を制御することで調整可能である。アノードガス供給部62としては、例えば、インジェクタなどの電磁弁を用いることができる。
【0027】
供給路63は、アノードガス供給部62とアノード供給口27とを接続している。アノードガス供給部62から噴射されたアノードガスは、供給路63を通じて燃料電池スタック22に供給される。
【0028】
循環路64は、アノード排出口28と供給路63とを接続している。循環路64には、アノード排ガスが流れる。アノード排ガスは、未反応のアノードガスと、燃料電池スタック22での発電によって生成された生成水Wと、を含む。循環路64は、アノード排ガスに含まれる未反応のアノードガスを供給路63に戻すための通路である。
【0029】
気液分離器65は、循環路64に設けられている。気液分離器65は、アノード排ガスをアノードガスと生成水Wとに分離する。アノード排ガスから分離された生成水Wは、気液分離器65に貯留される。
【0030】
循環ポンプ66は、循環路64に設けられている。循環ポンプ66は、気液分離器65によってアノード排ガスから分離されたアノードガスを供給路63に供給する。これにより、アノードガスが循環する。
【0031】
アノード排水弁67は、気液分離器65に接続されている。アノード排水弁67は、開状態と閉状態に切り替えられる。アノード排水弁67が開状態になると、気液分離器65から生成水Wが排出される。アノード排水弁67は、気液分離器65に貯留される生成水Wの量が閾値を上回った場合に閉状態から開状態に切り替えられてもよい。アノード排水弁67は、所定の時間間隔毎に閉状態から開状態に切り替えられてもよい。
【0032】
気液分離器65は、希釈器69に接続されている。アノード排水弁67が開状態になると、気液分離器65に貯留された生成水W及びアノード排ガスが希釈器69に供給される。
【0033】
希釈器69には、気液分離器65から排出されたアノード排ガス、及び燃料電池スタック22から排出されたカソード排ガスが流入する。希釈器69は、流入したアノード排ガスをカソード排ガスで希釈する。希釈器69は、アノード排ガスにおける水素ガスの濃度を低下させる。希釈器69は、水素ガスの濃度を低下させた排出ガスをガス排出路70に排出する。ガス排出路70からは、排出ガスが排出される。
【0034】
カソード系30は、カソードガス吸入口31と、電動圧縮機32と、インタークーラ33と、封止弁40と、調圧弁41と、を備える。言い換えると、燃料電池システム20は、調圧弁41を備える。燃料電池システム20は、調整手段としての電動圧縮機32を備える。カソード流路30aは、供給流路34と、排出流路37と、を備える。言い換えると、燃料電池システム20は、排出流路37を備える。
【0035】
カソードガス吸入口31は、燃料電池システム20にカソードガスを吸入するための吸入口である。カソードガスとして空気中の酸素を用いる場合、カソードガス吸入口31は大気に開放されていてもよい。カソードガス吸入口31は、カソードガスを貯蔵するガスボンベに接続されていてもよい。
【0036】
電動圧縮機32は、電動モータによって駆動する。電動圧縮機32は、燃料電池スタック22へのカソードガスの供給量を調整する。詳細には、電動圧縮機32は、カソードガス吸入口31から供給されるカソードガスを圧縮して燃料電池スタック22に供給する。燃料電池スタック22に供給されるカソードガスの量は、電動圧縮機32を制御することで調整可能である。カソードガスは、カソードガス吸入口31から不図示のエアクリーナを通って電動圧縮機32に供給されてもよい。電動圧縮機32から燃料電池スタック22に供給されたカソードガスは、カソード内部流路23を流れる。
【0037】
インタークーラ33には、電動圧縮機32から吐出されたカソードガスが供給される。インタークーラ33は、電動圧縮機32から供給されたカソードガスを冷却する。燃料電池スタック22に供給されるカソードガスは、インタークーラ33によって冷却された後のカソードガスである。
【0038】
供給流路34は、カソード流路30aのうち、カソード内部流路23よりも上流側に位置する部分である。供給流路34は、電動圧縮機32と筐体21の供給口24とを接続している。供給流路34は、第1供給流路35と、第2供給流路36と、を含む。第1供給流路35は、電動圧縮機32とインタークーラ33とを接続している。第2供給流路36は、インタークーラ33と筐体21の供給口24とを接続している。
【0039】
封止弁40は、供給流路34に設けられている。本実施形態の封止弁40は、第2供給流路36に設けられている。封止弁40は、第1供給流路35に設けられていてもよい。封止弁40は、例えば供給流路34を封止するバタフライ弁である。封止弁40は、開状態と閉状態とに切り替えられる。封止弁40が開状態になると、供給流路34を介してカソード内部流路23にカソードガスが供給される。封止弁40が閉状態になると、カソード内部流路23が封止される。
【0040】
燃料電池システム20は、開度センサ58と、電流センサ59と、を備える。開度センサ58は、調圧弁41の開度を検出する。開度センサ58としては、例えば、ホール素子を用いることができる。開度センサ58としては、エンコーダを用いてもよい。電流センサ59は、燃料電池スタック22の出力電流Eを測定する。
【0041】
<排出流路>
排出流路37は、カソード流路30aのうち、カソード内部流路23よりも下流側に位置する部分である。排出流路37は、筐体21の排出口25を介して筐体21の内部と連通している。排出流路37は、排出口25と希釈器69とを接続している。
【0042】
排出流路37は、カソード排ガスが流れる流路である。カソード排ガスは、燃料電池スタック22から排出されるカソードガスであって、生成水Wを含んだカソードガスである。言い換えると、排出流路37は、燃料電池スタック22での発電によって生成された生成水Wが燃料電池スタック22から排出される。排出流路37には、燃料電池スタック22に供給されたカソードガスが燃料電池スタック22から排出される。カソード排ガスは、排出流路37から希釈器69に排出される。希釈器69は、気液分離器65から供給されたアノード排ガスをカソード排ガスによって希釈して大気中に排出する。
【0043】
調圧弁41は、排出流路37に設けられている。排出流路37のうち、調圧弁41よりも上流側の部分を上流流路38とする。排出流路37のうち、調圧弁41よりも下流側の部分を下流流路39とする。上流流路38は、燃料電池スタック22に接続されている。上流流路38は、筐体21の排出口25と調圧弁41とを接続している。下流流路39は、調圧弁41と希釈器69とを接続している。
【0044】
図2では、水平方向のうちの一方向をX軸で示している。以下では、水平方向を水平方向Xともいい、重力方向を重力方向Zともいう。水平方向Xと重力方向Zとは互いに直交する。
【0045】
図2に示すように、排出流路37のうち、上流流路38は、排出口25から水平方向Xに延びている。排出流路37のうち、下流流路39は、下流流路39の下流の部分ほど重力方向Zの下方に位置するように、水平方向Xに対して傾くように延びている。
【0046】
<調圧弁>
調圧弁41は、例えばバタフライ弁である。調圧弁41の開度が調整されることにより、燃料電池スタック22の内圧が調整される。調圧弁41の開度が小さいほど、燃料電池スタック22の内圧が高まる。調圧弁41が全閉にされると、カソード内部流路23が封止される。調圧弁41は、例えば、シール部材44と、弁体48と、回転軸51と、を有する。
【0047】
シール部材44は、排出流路37に設けられている。シール部材44は、例えば、ゴム製である。シール部材44は、例えば円環状である。シール部材44は、座面44aを有する。座面44aは、シール部材44の内周面である。弁体48は、排出流路37に設けられている。弁体48は、本体49と、連結部50と、を備える。本体49は、例えば板状である。
【0048】
回転軸51は、連結部50に設けられている。回転軸51の回転に伴い弁体48が回転することによって、調圧弁41の開度が調整される。調圧弁41が全閉の場合、弁体48がシール部材44と密着する。これによってカソード内部流路23が封止される。シール部材44は、弁体48をシールする。不図示の駆動装置によって回転軸51が回転することにより、弁体48が回転する。駆動装置を制御することによって、調圧弁41の開度は調整可能である。
【0049】
図2に二点鎖線で示す弁体48のように、弁体48が座面44aから離れることにより、調圧弁41の開度は大きくなる。調圧弁41において、座面44aに対して弁体48が近づくことで開度が小さくなる。調圧弁41は、弁体48が回転することで座面44aに対して弁体48が近づく。
【0050】
排出流路37の流路断面積のうち、弁体48と座面44aの間でガスが流れる部分の断面積のことを、以下では調圧弁41の有効断面積とも称する。有効断面積は、座面44aに対して弁体48が近づくほど小さくなる。すなわち、調圧弁41の開度が小さくなるほど、調圧弁41の有効断面積は小さくなる。
【0051】
調圧弁41には、調圧弁41の開度が座面44aに弁体48が接する開度であって調圧弁41が全閉ではない領域が存在する。この領域を、以下では低開度領域とも称する。弁体48が座面44aから離れた位置から座面44aに対して近づくように移動した後、弁体48が座面44aに接することで、調圧弁41の開度は低開度領域の開度となる。
【0052】
弁体48が座面44aから離れた位置から座面44aに接したタイミングにおいては、弁体48の周縁部のうちで、弁体48の周方向の一部が座面44aに接する。そのため、低開度領域においては、弁体48の周縁部のうちで座面44aに接していない部分と座面44aとの間にてガスの通過が可能であるため、調圧弁41の有効断面積は0(ゼロ)ではない。
【0053】
低開度領域において、調圧弁41の開度が小さく変更されると、弁体48は座面44aを押圧しながら移動する。このとき、シール部材44は、弁体48からの押圧を受けて変形する。これにより、低開度領域において調圧弁41の開度が小さくなるほど、弁体48の周縁部のうちで座面44aに接する部分の割合が増えるため、調圧弁41の有効断面積が小さくなる。調圧弁41の開度が全閉となると、図2に実線で示す弁体48のように、弁体48の周縁部の全体が座面44aに接することにより、調圧弁41の有効断面積は0(ゼロ)となる。
【0054】
低開度領域に含まれる調圧弁41の開度の中で、最も大きい開度を第1開度A1とする。第1開度A1は、座面44aに弁体48が接する開度であって弁体48と座面44aの間でカソードガスが流れる開度である。
【0055】
調圧弁41の開度が第1開度A1以下であるとき、調圧弁41による有効断面積が小さいために、燃料電池スタック22にて生成された生成水Wが上流流路38から下流流路39に通過しにくくなる。そのため、調圧弁41の開度が第1開度A1以下であるとき、燃料電池スタック22及び上流流路38に生成水Wが貯留される。なお、燃料電池スタック22に貯留される生成水Wとは、筐体21の内部に貯留される生成水Wのことである。燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留される生成水Wの貯留量を以下では貯留量Wtともいう。
【0056】
<制御部>
図1に示すように、制御部80は、プロセッサ81と、記憶部82と、を備える。記憶部82は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を含む。記憶部82は、処理をプロセッサ81に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部82、すなわち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御部80は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である制御部80は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ81、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。
【0057】
制御部80は、例えば、燃料電池スタック22の出力電力[kW]を制御する。燃料電池スタック22の出力電力は、燃料電池スタック22に供給されるカソードガスの量と、燃料電池スタック22に供給されるアノードガスの量と、によって変化する。燃料電池スタック22の出力電力は、燃料電池スタック22の発電電力である。制御部80は、アノードガス供給部62を制御することで、燃料電池スタック22へのアノードガスの供給量を制御する。制御部80は、電動圧縮機32を制御することで、燃料電池スタック22へのカソードガスの供給量を制御する。燃料電池スタック22へのカソードガスの供給量を、以下では供給量Gともいう。
【0058】
制御部80は、燃料電池スタック22の発電についての制御を行う。制御部80は、燃料電池スタック22の発電状態と発電停止状態とを切り替える。発電状態は、低負荷発電状態、中負荷発電状態、及び高負荷発電状態を含む。制御部80は、燃料電池スタック22の発電状態を遷移させることで、燃料電池スタック22の発電電力を段階的に変化させることができる。
【0059】
制御部80は、燃料電池スタック22の発電電力の目標値である目標電力Etを変更することにより、燃料電池スタック22の発電状態を切り替えている。燃料電池スタック22は、第1目標電力E1と、第2目標電力E2と、を含む複数の目標電力Etに切り替えられながら発電している。詳細には、燃料電池スタック22を高負荷発電状態に制御するとき、制御部80は目標電力Etを第1目標電力E1として制御を行う。燃料電池スタック22を中負荷発電状態に制御するとき、制御部80は目標電力Etを第2目標電力E2として制御を行う。燃料電池スタック22を低負荷発電状態に制御するとき、制御部80は目標電力Etを第3目標電力E3として制御を行う。第3目標電力E3は、第2目標電力E2よりも小さい。第3目標電力E3は、例えば、3[kW]である。第2目標電力E2は、例えば、5[kW]である。第2目標電力E2は第1目標電力E1よりも小さい。第1目標電力E1は、例えば、8[kW]である。制御部80は、目標電力Etに応じて、燃料電池スタック22に供給されるカソードガスの量と、燃料電池スタック22に供給されるアノードガスの量と、を変更する。
【0060】
制御部80は、例えば、封止弁40の開度を制御する。制御部80は、キースイッチ13のオンとオフとを判定可能である。例えば、キースイッチ13がオンになった場合、キースイッチ13がオンになったことが産業車両10に搭載された不図示の車両制御装置から制御部80に通知される。同様に、キースイッチ13がオフになった場合、キースイッチ13がオフになったことが車両制御装置から制御部80に通知される。これにより、制御部80は、キースイッチ13のオンとオフとを判定することができる。なお、キースイッチ13のオンとオフは、制御部80に直接認識されるようにしてもよい。
【0061】
図2に示すように、制御部80は、調圧弁41の開度を調整する。制御部80は、駆動装置を駆動することにより、弁体48を移動させて調圧弁41の開度を調整することができる。
【0062】
図1に示すように、制御部80は、産業車両10がキーオフされると、アノードガスの供給、及びカソードガスの供給を停止することによって燃料電池スタック22の発電を停止する。制御部80は、アノード内部流路26を封止することによって、アノードガスの供給を停止する。アノード内部流路26の封止は、アノード排水弁67を閉状態に維持することで行われる。
【0063】
制御部80は、カソード内部流路23を封止することによって、カソードガスの供給を停止する。カソード内部流路23の封止は、封止弁40及び調圧弁41を閉状態に維持することで行われる。
【0064】
制御部80は、産業車両10がキーオンされると、アノードガスの供給、及びカソードガスの供給を行うことによって燃料電池スタック22の発電を行う。カソードガスの供給が行われる際、制御部80は、封止弁40を開状態に維持するとともに、調圧弁41の開度を調整する。
【0065】
制御部80は、燃料電池スタック22の目標電力Etに基づいて、調圧弁41の開度を調整する。制御部80は、例えば、燃料電池スタック22を高負荷発電状態に制御するとき、調圧弁41の開度を第1開度A1以下に制御する。例えば、燃料電池スタック22の発電状態が低負荷発電状態及び中負荷発電状態のいずれかである状態から高負荷発電状態に切り替えられる場合、制御部80は、調圧弁41の開度を低開度領域内の開度に変更する。制御部80は、燃料電池スタック22を高負荷発電状態に制御する間は、低開度領域内で調圧弁41の開度を調整する。これにより、制御部80は、調圧弁41の開度を第1開度A1以下に制御する。調圧弁41の開度が第1開度A1以下であるときは、調圧弁41の開度が第1開度A1より大きいときよりも、燃料電池スタック22の内圧が高まる。制御部80は、燃料電池スタック22の目標電力Etに応じた指令開度Atに調圧弁41の開度を調整する。
【0066】
図2に示すように、制御部80は、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留される生成水Wを下流流路39に排水させるための排水制御を行う。排水制御において、制御部80は、増大量取得処理と、貯留量取得処理と、を行う。制御部80は、増大量取得処理と、貯留量取得処理と、をサンプリング周期T毎で繰り返し行う。サンプリング周期Tとは、予め設定された一定時間である。サンプリング周期Tは、例えば1秒である。また、制御部80は、調圧弁41の開度を増大させる開度増大制御を実施する。制御部80は、増大量取得処理及び貯留量取得処理の実施に際して、調圧弁41の開度が第1開度A1以下であることを条件に、増大量取得処理及び貯留量取得処理を実施してもよい。制御部80は、開度センサ58による検出値に基づいて調圧弁41の開度に係る判断を行う。
【0067】
<増大量取得処理>
増大量取得処理においては、制御部80は、サンプリング周期T内で燃料電池スタック22によって生成された生成水Wの生成量W1に調圧弁41の開度が大きいほど小さくなる係数Cを乗算して貯留量Wtの増大量W2を取得する。詳細には、増大量取得処理において、制御部80は、まず以下式4を用いて生成水Wの生成量W1を算出する。
【0068】

W1={E/(96485×2)}×18×60×N…(式4)

上記式4において、出力電流Eは、電流センサ59によって測定された燃料電池スタック22の出力電流Eである。式4による生成量W1の算出を行う度に、そのときに電流センサ59によって測定された出力電流Eが用いられる。上記式4において、「96485」はファラデー定数(C/mol)を示し、「2」は式2での電子価数である。上記式4において、「18」は水の質量(g/mol)を示し、「60」は生成量W1を1分間(60秒)に生成される生成水Wの量として算出するための値である。上記式4において、「N」は、燃料電池スタック22における燃料電池セル22aの個数を示す。
【0069】
上記式4を用いて算出される生成量W1は、サンプリング周期Tの間で燃料電池スタック22によって生成された生成水Wの量に相当する。上記式4によって算出される生成量W1の単位は「g/min」である。生成水Wの質量が大きいほど生成水Wの体積も大きくなるため、以下では体積を示す値として上記生成量W1を取り扱う。なお、上記式4で算出された値に基づいて生成水Wの体積を算出し、算出された体積を生成量W1として取り扱ってもよい。
【0070】
次に、制御部80は、上記式4にて算出された生成量W1に係数Cを乗算することにより増大量W2を算出する。なお、調圧弁41の開度が大きいほど、上流流路38から下流流路39へと生成水Wが流れやすくなる。そのため、調圧弁41の開度が大きいほど、燃料電池スタック22によって生成された生成水Wの生成量W1のうち、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留される割合が小さくなる。係数Cは、調圧弁41の開度が大きいほど小さくなる値である。そのため、生成量W1に係数Cを乗算することにより算出される増大量W2は、燃料電池スタック22によって生成量W1の生成水Wが生成されるときに、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留される生成水Wの増える量に相当する。なお、係数Cは、実験などによって予め設定された値である。制御部80には、調圧弁41の開度に応じた係数Cが記憶されているとともに、制御部80は、調圧弁41の開度に対応する係数Cを選択して上記式4の算出に用いてもよい。
【0071】
<貯留量取得処理>
貯留量取得処理においては、制御部80は、増大量取得処理によって取得された増大量W2を積算して貯留量Wtを取得する。貯留量Wtは、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留される生成水Wの量である。サンプリング周期T毎に貯留量取得処理が繰り返し行われることにより、積算された増大量W2の分だけ貯留量Wtは増える。これにより、制御部80は、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留される生成水Wの貯留量Wtを取得する。すなわち、制御部80は、貯留量Wtを取得する貯留量取得手段を有するものである。貯留量取得手段は、増大量取得処理と、貯留量取得処理と、をサンプリング周期T毎で繰り返し行うものである。
【0072】
なお、制御部80に取得された貯留量Wtは、調圧弁41の開度が第1開度A1より大きくなったことを条件に、制御部80にてリセットされてもよい。調圧弁41の開度が第1開度A1より大きい状況下では、燃料電池スタック22及び上流流路38に生成水Wが貯留されにくい。燃料電池スタック22及び上流流路38に生成水Wが貯留されていたとしても、調圧弁41の開度が第1開度A1より大きくなると、生成水Wの貯留が解消される。そこで、上記のように制御部80は、取得された貯留量Wtを調圧弁41の開度が第1開度A1より大きくなったことを条件にリセットすることにより、実際に貯留された生成水Wとの量と貯留量Wtとに差異が生じることを抑制している。
【0073】
<開度増大制御>
開度増大制御は、貯留量取得手段としての制御部80によって取得された貯留量Wtが所定貯留量Wp以上である場合に調圧弁41の開度を増大させる制御である。所定貯留量Wpとは、貯留量Wtが所定貯留量Wpである場合に、さらに貯留量Wtが増えると燃料電池スタック22の発電量に影響が生じるおそれがある値である。所定貯留量Wpは、例えば実験等によって予め設定された値である。なお、貯留量Wtが所定貯留量Wp未満である間、制御部80は、開度増大制御による調圧弁41の開度の増大を行わずに、増大量取得処理及び貯留量取得処理を繰り返し行う。これにより、制御部80は、増大量取得処理によって取得された増大量W2を積算して貯留量Wtを取得する。
【0074】
本実施形態の開度増大制御においては、制御部80は調圧弁41の開度を指令開度Atから第2開度A2に設定することによって、調圧弁41の開度を増大させる。第2開度A2とは、第1開度A1よりも大きい開度であって、かつ全開よりも小さい開度である。調圧弁41の開度が第2開度A2以上になると、上流流路38から下流流路39へと生成水Wは早期に流れるため、燃料電池スタック22及び上流流路38への生成水Wの貯留が早期に解消される。第2開度A2は、実験等によって予め設定された値である。第2開度A2は、例えば30degである。
【0075】
開度増大制御において、制御部80は、供給量下限値Gsを第1下限値Gs1から第2下限値Gs2に変更する。供給量下限値Gsとは、燃料電池スタック22へ供給されるカソードガスの供給量Gの下限値である。開度増大制御が行われないとき、供給量下限値Gsは第1下限値Gs1に設定されている。本実施形態の第1下限値Gs1は、0(ゼロ)である。貯留量Wtが所定貯留量Wp以上であるとともに調圧弁41の開度が第2開度A2以上である状況下で、供給量Gが第2下限値Gs2以上に設定されると、燃料電池スタック22から排出流路37にカソードガスが多量に流れる。これにより、上流流路38から下流流路39への生成水Wの流れを促すことができる。なお、第2下限値Gs2は、実験等によって予め設定された値であって、所定供給量に相当する値である。
【0076】
制御部80は、指令値である供給量Gが供給量下限値Gsを下回った場合、燃料電池スタック22に供給するカソードガスの量を供給量下限値Gsに制御する。第1下限値Gs1は0(ゼロ)であるため、供給量下限値Gsが第1下限値Gs1に設定されているとき、制御部80は、燃料電池スタック22に供給するカソードガスの量を供給量Gに制御する。開度増大制御の実施中には、供給量下限値Gsが第2下限値Gs2に設定される。そのため、開度増大制御の実施中において、供給量Gが第2下限値Gs2を下回る値であるときは、燃料電池スタック22に供給するカソードガスの量が第2下限値Gs2に制御される。開度増大制御の実施中において、供給量Gが第2下限値Gs2以上の値であるときは、燃料電池スタック22に供給するカソードガスの量が第2下限値Gs2以上の供給量Gに制御される。こうして、制御部80は、開度増大制御の実施中に、供給量Gが所定供給量としての第2下限値Gs2以上になるように調整手段としての電動圧縮機32を制御する。
【0077】
制御部80は、開度増大制御において、第2開度A2への調圧弁41の開度の設定と、第2下限値Gs2への供給量下限値Gsの設定と、を所定時間Tpの間だけ継続させる。所定時間Tpとは、貯留量Wtが所定貯留量Wp以上であるときに、上記の調圧弁41の開度及び供給量下限値Gsの設定が所定時間Tpだけ継続されると、燃料電池スタック22及び上流流路38での生成水Wの貯留が解消される時間である。所定時間Tpは、実験等によって予め設定された値である。
【0078】
制御部80は、開度増大制御において、上記の調圧弁41の開度及び供給量下限値Gsの設定を所定時間Tpの間だけ継続させた後、調圧弁41の開度を指令開度Atに設定するとともに供給量下限値Gsを第1下限値Gs1に設定する。これにより、制御部80は、調圧弁41の開度及び電動圧縮機32の制御を、開度増大制御の開始前と同様に行う。開度増大制御の実行後、制御部80は、貯留量Wtをリセットする。
【0079】
<排水制御の処理手順>
以下に制御部80によって行われる排水制御の処理手順の一例について、図3を用いて説明する。図3に示す排水制御の処理は、例えば、キーオンされたことを条件に、サンプリング周期T毎に繰り返し行われる。
【0080】
図3に示すように、排水制御が開始されると、制御部80は、調圧弁41の開度が第1開度A1以下であるか否かを判断する(ステップS110)。調圧弁41の開度が第1開度A1より大きいと判断すると(ステップS110:NO)、制御部80は貯留量Wtをリセットした後(ステップS210)、本制御を終了する。
【0081】
調圧弁41の開度が第1開度A1以下であると判断すると(ステップS110:YES)、制御部80は生成量W1を取得する(ステップS120)。ステップS120の処理を行った後、制御部80は、増大量W2を取得する(ステップS130)。ステップS130の処理を行った後、制御部80は、記憶された貯留量Wtに増大量W2を加算させる(ステップS140)。
【0082】
ステップS140の処理を行った後、制御部80は、貯留量Wtが所定貯留量Wp以上であるか否かを判断する(ステップS150)。貯留量Wtが所定貯留量Wp未満であると判断すると(ステップS150:NO)、制御部80は本制御を終了する。貯留量Wtが所定貯留量Wp以上であると判断すると(ステップS150:YES)、制御部80は調圧弁41の開度を第2開度A2に設定する(ステップS160)。ステップS160の処理を行った後、制御部80は供給量下限値Gsを第2下限値Gs2に設定する(ステップS170)。
【0083】
ステップS170の処理を行った後、制御部80は、ステップS170の処理が行われてから所定時間Tpが経過したか否かを判断する(ステップS180)。所定時間Tpが経過していないと判断すると(ステップS180:NO)、制御部80はステップS180の処理を繰り返し実行する。制御部80は、所定時間Tpが経過していないと判断する間は(ステップS180:NO)、ステップS180の処理を繰り返し実行する。
【0084】
所定時間Tpが経過したと判断すると(ステップS180:YES)、制御部80は、調圧弁41の開度を指令開度Atに設定する(ステップS190)。ステップS190の処理を行った後、制御部80は、供給量下限値Gsを第1下限値Gs1に設定する(ステップS200)。ステップS200の処理の後、制御部80は、貯留量Wtをリセットした後(ステップS210)、本制御を終了する。
【0085】
図3に示すフローチャートにおいて、ステップS120及びステップS130が増大量取得処理に相当し、ステップS140が貯留量取得処理に相当する。図3に示すフローチャートにおいて、ステップS150、ステップS160、ステップS170、ステップS180、ステップS190、及びステップS200が開度増大制御に相当する。
【0086】
[実施形態の作用]
本実施形態の作用について説明する。
図4は、制御部80によって排水制御が実行されるときの各種値の時間変化を示す。図4(a)は、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留された生成水Wの量の時間変化を示す。図4(b)は、調圧弁41の開度の時間変化を示す。図4(c)は、電動圧縮機32によって供給されるカソードガスの量の時間変化を示す。図4の横軸は時間を示す。なお、図4は、調圧弁41の開度が第1開度A1以下である状況下での一例を示す。
【0087】
図4に示すように、調圧弁41の開度が第1開度A1以下の状況下では、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留された生成水Wの量が時間経過とともに増えていく。このとき、制御部80は、増大量取得処理及び貯留量取得処理をサンプリング周期T毎に実施する。これにより、制御部80に記憶された貯留量Wtは、実際に貯留された生成水Wの量と同様に増えていく。
【0088】
第1タイミングT1において、制御部80に記憶された貯留量Wtが所定貯留量Wp以上になると、制御部80は、開度増大制御によって調圧弁41の開度を第2開度A2に設定する。これにより、調圧弁41の開度が第2開度A2まで増大されるため、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留されていた生成水Wが下流流路39に排出される。
【0089】
第1タイミングT1において、制御部80は、供給量下限値Gsを第2下限値Gs2に設定する。これにより、供給量下限値Gsは、第1下限値Gs1から第2下限値Gs2に変更される。図4に示す例では、指令値としての供給量Gが第2下限値Gs2よりも小さい値である。そのため、制御部80は、電動圧縮機32によって供給されるカソードガスの量を第2下限値Gs2に制御する。これにより、上流流路38から下流流路39へと流れるカソードガスの量が増大する。
【0090】
第1タイミングT1にて行われた調圧弁41の開度の増大とカソードガスの量の増大とは、第2タイミングT2まで継続される。第1タイミングT1と第2タイミングT2との間の時間は所定時間Tpに相当する。第1タイミングT1と第2タイミングT2との間で、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留されていた生成水Wの量が減る。例えば、第2タイミングT2までに、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留されていた生成水Wの量は0(ゼロ)になる。
【0091】
第2タイミングT2において、制御部80は、調圧弁41の開度を指令開度Atに設定する。これにより、図4に示す例では、調圧弁41の開度が小さくなる。第2タイミングT2において、制御部80は、供給量下限値Gsを第1下限値Gs1に設定する。これにより、供給量下限値Gsは、第2下限値Gs2から第1下限値Gs1に変更される。制御部80は、電動圧縮機32によって供給されるカソードガスの量を供給量Gに制御する。これにより、図4に示す例では、上流流路38から下流流路39へと流れるカソードガスの量が減少する。また、第2タイミングT2において、制御部80は、記憶されていた貯留量Wtをリセットする。
【0092】
[実施形態の効果]
本実施形態の効果について説明する。
(1)制御部80は、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留される生成水Wの貯留量Wtを取得する貯留量取得手段を有する。制御部80は、貯留量取得手段によって取得された貯留量Wtが所定貯留量Wp以上である場合に調圧弁41の開度を増大させる開度増大制御を実施する。そのため、制御部80による開度増大制御の実施に伴って、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留された生成水Wが、排出流路37のうちで調圧弁41よりも下流側の部分である下流流路39に排出される。これにより、燃料電池スタック22での生成水Wの溜まりを解消できる。したがって、燃料電池スタック22での生成水Wの溜まりに起因して燃料電池スタック22の発電量に影響が生じることを抑制できる。
【0093】
(2)貯留量取得手段としての制御部80は、増大量取得処理と、貯留量取得処理と、をサンプリング周期T毎で繰り返し行う。増大量取得処理において、制御部80は、サンプリング周期T内で燃料電池スタック22によって生成された生成水Wの生成量W1に調圧弁41の開度が大きいほど小さくなる係数Cを乗算して貯留量Wtの増大量W2を取得する。貯留量取得処理において、制御部80は、増大量取得処理によって取得された増大量W2を積算して貯留量Wtを取得する。そのため、調圧弁41の開度が反映された貯留量Wtを用いることができるため、開度増大制御による調圧弁41の開度の増大をより適切なタイミングで行える。
【0094】
(3)制御部80は、開度増大制御の実施中に、供給量Gが所定供給量としての第2下限値Gs2以上になるように調整手段としての電動圧縮機32を制御する。そのため、燃料電池スタック22から排出流路37に排出されるカソードガスによって、燃料電池スタック22及び上流流路38から下流流路39へと生成水Wの排出が促される。したがって、燃料電池スタック22での生成水Wの溜まりを早期に解消できる。
【0095】
(4)制御部80は、燃料電池スタック22を高負荷発電状態に制御するときに、調圧弁41の開度を第1開度A1以下に制御する。制御部80は、調圧弁41の開度が第1開度A1以下であるときに調圧弁41の開度を増大させる開度増大制御を実施する。燃料電池スタック22が高負荷発電状態であるとき、燃料電池セル22aの電流電圧特性から、燃料電池スタック22が中負荷発電状態及び低負荷発電状態であるときよりも低い電圧で燃料電池スタック22は発電する。そのため、開度増大制御の実施中に、供給量Gが所定供給量としての第2下限値Gs2以上になるように制御部80が電動圧縮機32を制御して、燃料電池スタック22に供給されるカソードガスの量が増大しても、燃料電池スタック22は高電位になりにくい。したがって、燃料電池スタック22が高電位になることに伴う燃料電池スタック22の劣化を抑制しつつ、燃料電池スタック22での生成水Wの溜まりに起因して燃料電池スタック22の発電量に影響が生じることを抑制できる。
【0096】
[変更例]
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0097】
○ 燃料電池スタック22の目標電力Etには、第1目標電力E1、第2目標電力E2、及び第3目標電力E3に加えて、1以上の目標電力Etが含まれてもよい。燃料電池スタック22の目標電力Etに第3目標電力E3が含まれていなくてもよい。要するに、燃料電池スタック22は、第1目標電力E1と、第1目標電力E1よりも小さい第2目標電力E2と、を含む複数の目標電力Etに切り替えられながら発電するものであればよい。
【0098】
○ 燃料電池スタック22の目標電力Etは、第1目標電力E1及び第2目標電力E2といった異なる値に切り替えられず、一定の電力であってもよい。
○ 調圧弁41としては、グローブ弁やボール弁といったバタフライ弁以外の弁を採用可能である。
【0099】
○ 制御部80による排水制御は、キーオンされたことを条件に行われるものに限らない。例えば、燃料電池システム20に設けられたレバー、スイッチ、押しボタン、及びタッチパネル等、操作部材がユーザによって操作されることを条件に、制御部80は排水制御を行ってもよい。
【0100】
○ 下流流路39は、下流流路39の下流の部分ほど重力方向Zの下方に位置するように延びるものに限らない。例えば、下流流路39は、水平方向Xに延びていてもよい。
○ 上流流路38は、排出口25から水平方向Xに延びるものに限らない。例えば、上流流路38は、上流流路38の下流の部分ほど重力方向Zの下方に位置するように、水平方向Xに対して傾くように延びていてもよい。
【0101】
○ 開度増大制御において、制御部80による供給量下限値Gsの第2下限値Gs2への変更を省略してもよい。この場合、制御部80は、開度増大制御の実施中に、供給量Gを所定供給量以上の値に増やすことにより、電動圧縮機32を制御してもよい。
【0102】
○ 制御部80は、開度増大制御の実施中に、供給量Gを所定供給量以上にするための電動圧縮機32の制御を行わなくてもよい。この場合、例えば開度増大制御の実施中に、制御部80は、開度増大制御の実施直前と同様の供給量Gで電動圧縮機32を制御する。
【0103】
○ 燃料電池システム20は、燃料電池スタック22へのカソードガスの供給量Gを調整する調整手段として、電動圧縮機32以外の手段を備えてもよい。
○ 制御部80は、貯留量取得手段として、燃料電池スタック22及び上流流路38に貯留された生成水Wの量を検出するセンサを有してもよい。この場合、制御部80は、センサによって取得された貯留量Wtが所定貯留量以上である場合に調圧弁41の開度を増大させる開度増大制御を実施する。
【0104】
○ 開度増大制御において、制御部80は、調圧弁41の開度を第2開度A2より大きい所定開度に設定することによって、調圧弁41の開度を増大させてもよい。この場合の所定開度としては、例えば全開が挙げられる。
【0105】
○ 燃料電池システム20は、乗用車、船舶、鉄道などに搭載されていてもよい。
○ 燃料電池システム20は、定置式の発電装置として用いられてもよい。
【符号の説明】
【0106】
C…係数、G…供給量、T…サンプリング周期、Gs2…(所定供給量としての)第2下限値、W…生成水、W1…生成量、W2…増大量、Wt…貯留量、20…燃料電池システム、22…燃料電池スタック、32…(調整手段としての)電動圧縮機、37…排出流路、38…上流流路、41…調圧弁、80…制御部。
図1
図2
図3
図4