(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040762
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】液質改良装置、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法、及びウルトラファインバブル含有液体
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20240318BHJP
B01F 25/452 20220101ALI20240318BHJP
B01F 23/2375 20220101ALI20240318BHJP
【FI】
C02F1/58 A
B01F25/452
B01F23/2375
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145327
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大祐
(72)【発明者】
【氏名】堀内 一輝
【テーマコード(参考)】
4D038
4G035
【Fターム(参考)】
4D038AA01
4D038AA03
4D038AA04
4D038AB07
4D038BA01
4D038BA06
4D038BB20
4G035AB15
4G035AC26
4G035AE02
4G035AE13
4G035AE17
(57)【要約】
【課題】清浄な液体を得ることを目的とする。
【解決手段】液質改良装置1は、混合流体が流れる一次流路70と、一次流路70から送られた混合流体が通過する細孔35を有し、一次流路70内から一次流路70外の外部空間63へと混合流体を放出する経路をなす細孔モジュール33と、一次流路70内と外部空間63との間に差圧を付与しつつ、一次流路70から細孔モジュール33内へ混合流体を送る差圧付与部10と、を備える。液質改良装置1は、一次流路70の容積を100%とした場合の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合を6%以下に調整する調整部80を備え、差圧付与部10が差圧を付与しつつ割合が調整された混合流体を細孔モジュール33内に送りこみ、細孔モジュール33を通過した後の混合流体中の全有機炭素濃度が通過前よりも減少する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃1気圧の常温常圧状態において気体である流体と前記常温常圧状態において液体である流体との混合流体が流れる一次流路と、
前記一次流路から送られた前記混合流体が通過する細孔を有し、前記一次流路内から前記一次流路外の外部空間へと前記混合流体を放出する経路をなす細孔モジュールと、
前記一次流路内と前記外部空間との間に差圧を付与しつつ、前記一次流路から前記細孔モジュール内へ前記混合流体を送る差圧付与部と、
を備える液質改良装置であって、
前記一次流路の容積を100%とした場合の前記容積に対する前記一次流路内の液体の体積の割合を6%以下に調整する調整部を備え、
前記差圧付与部が前記差圧を付与しつつ前記割合が調整された前記混合流体を前記細孔モジュール内に送りこみ、
前記細孔モジュールを通過した後の前記混合流体中の全有機炭素濃度が通過前よりも減少する
液質改良装置。
【請求項2】
前記差圧付与部が前記差圧を付与しつつ前記割合が調整された前記混合流体を前記細孔モジュール内に送ることにより、前記混合流体中にウルトラファインバブルを発生させる、請求項1に記載の液質改良装置。
【請求項3】
前記細孔モジュールは、細孔径1500nm以下の細孔を少なくとも含む、請求項1又は請求項2に記載の液質改良装置。
【請求項4】
前記細孔モジュールの気孔率は、30%以上である、請求項1又は請求項2に記載の液質改良装置。
【請求項5】
前記細孔モジュールは、セラミックス又はガラスのいずれかであり、構成元素として、アルミニウム、ケイ素、及び酸素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含む、請求項1又は請求項2に記載の液質改良装置。
【請求項6】
25℃1気圧の常温常圧状態において気体である流体と前記常温常圧状態において液体である流体との混合流体が流れる一次流路と、
前記一次流路を流れる前記混合流体が通過する複数の細孔を有し、前記一次流路内から前記一次流路外の外部空間へと前記混合流体を放出する経路をなす細孔モジュールと、
前記一次流路内と前記外部空間との間に差圧を付与しつつ、前記一次流路から前記細孔モジュール内へ前記混合流体を送る差圧付与部と、
を備える液質改良装置を用い、
前記一次流路の容積を100%とした場合の前記容積に対する前記一次流路内の液体の体積の割合を6%以下に調整し、
前記差圧付与部によって前記差圧を付与しつつ前記割合が調整された前記混合流体を前記細孔モジュール内に送ることにより、前記細孔モジュールを通過した後の前記混合流体中の全有機炭素濃度を通過前よりも減少させ且つ前記混合流体中にウルトラファインバブルを発生させる
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法。
【請求項7】
前記細孔モジュールは、細孔径1500nm以下の細孔を少なくとも含む、請求項6に記載のウルトラファインバブル含有液体の製造方法。
【請求項8】
前記細孔モジュールの気孔率は、30%以上である、請求項6又は請求項7に記載のウルトラファインバブル含有液体の製造方法。
【請求項9】
対象液体に対して前記液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行い、前記液体中のウルトラファインバブルの平均気泡径が所定値以下であるウルトラファインバブル含有液体を得る
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法。
【請求項10】
前記処理において前記液体中の前記全有機炭素の濃度を50ppb以下にする
請求項9に記載のウルトラファインバブル含有液体の製造方法。
【請求項11】
前記処理により、前記液体中の前記ウルトラファインバブルの平均気泡径が140nm以下である前記ウルトラファインバブル含有液体を得る
請求項9又は請求項10に記載のウルトラファインバブル含有液体の製造方法。
【請求項12】
対象液体に対して前記液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行い、前記液体中のウルトラファインバブルの減少速度を小さくしたウルトラファインバブル含有液体を得る
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法。
【請求項13】
前記処理において前記液体中の前記全有機炭素の濃度を50ppb以下にする
請求項12に記載のウルトラファインバブル含有液体の製造方法。
【請求項14】
前記処理により、前記全有機炭素の濃度が50ppb以下であり、前記ウルトラファインバブルの減少速度が1時間あたり2200000個/mL以下である前記ウルトラファインバブル含有液体を得る
請求項12又は請求項13に記載のウルトラファインバブル含有液体の製造方法。
【請求項15】
ウルトラファインバブル濃度が2×108個/mL以上であり、
ウルトラファインバブルの平均気泡径が140nm以下であり、
ウルトラファインバブルの減少速度が、1時間あたり2200000個/mL以下である、ウルトラファインバブル含有液体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液質改良装置、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法、及びウルトラファインバブル含有液体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多数の細孔を有する多孔質のエレメントに、液体を通過させて、液体中にファインバブルを発生させるファインバブル発生装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全有機炭素(Total Organic Carbon、TOC)濃度は、液体が清浄であることの一つの指標となる。例えば、ウルトラファインバブルの生成に用いる水のTOC濃度は、純水製造装置等の水の製造に係る装置の性能に依存する。ウルトラファインバブル含有液体等の液体のTOC濃度を、生成に用いる液体のTOC濃度よりも低くすることは難しく、清浄な液体を得ることは困難であった。
【0005】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、清浄な液体を得ることを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の液質改良装置は、25℃1気圧の常温常圧状態において気体である流体と前記常温常圧状態において液体である流体との混合流体が流れる一次流路と、前記一次流路から送られた前記混合流体が通過する細孔を有し、前記一次流路内から前記一次流路外の外部空間へと前記混合流体を放出する経路をなす細孔モジュールと、前記一次流路内と前記外部空間との間に差圧を付与しつつ、前記一次流路から前記細孔モジュール内へ前記混合流体を送る差圧付与部と、を備える液質改良装置であって、前記一次流路の容積を100%とした場合の前記容積に対する前記一次流路内の液体の体積の割合を6%以下に調整する調整部を備え、前記差圧付与部が前記差圧を付与しつつ前記割合が調整された前記混合流体を前記細孔モジュール内に送りこみ、前記細孔モジュールを通過した後の前記混合流体中の全有機炭素濃度が通過前よりも減少する。
【0007】
本開示の第1態様のウルトラファインバブル含有液体の製造方法は、25℃1気圧の常温常圧状態において気体である流体と前記常温常圧状態において液体である流体との混合流体が流れる一次流路と、前記一次流路を流れる前記混合流体が通過する複数の細孔を有し、前記一次流路内から前記一次流路外の外部空間へと前記混合流体を放出する経路をなす細孔モジュールと、前記一次流路内と前記外部空間との間に差圧を付与しつつ、前記一次流路から前記細孔モジュール内へ前記混合流体を送る差圧付与部と、を備える液質改良装置を用い、前記一次流路の容積を100%とした場合の前記容積に対する前記一次流路内の液体の体積の割合を6%以下に調整し、前記差圧付与部によって前記差圧を付与しつつ前記割合が調整された前記混合流体を前記細孔モジュール内に送ることにより、前記細孔モジュールを通過した後の前記混合流体中の全有機炭素濃度を通過前よりも減少させ且つ前記混合流体中にウルトラファインバブルを発生させる。
【0008】
本開示の第2態様のウルトラファインバブル含有液体の製造方法は、対象液体に対して前記液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行い、前記液体中のウルトラファインバブルの平均気泡径が所定値以下であるウルトラファインバブル含有液体を得る。
【0009】
本開示の第3態様のウルトラファインバブル含有液体の製造方法は、対象液体に対して前記液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行い、前記液体中のウルトラファインバブルの減少速度を小さくしたウルトラファインバブル含有液体を得る。
【0010】
本開示のウルトラファインバブル含有液体は、ウルトラファインバブル濃度が2×108個/mL以上であり、ウルトラファインバブルの平均気泡径が140nm以下であり、ウルトラファインバブルの減少速度が、1時間あたり2200000個/mL以下である。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、清浄な液体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図2は、液質改良装置の作用を説明するための説明図である。
【
図4】
図4は、推定メカニズムを説明する図である。
【
図5】
図5は、実験1におけるパス量とTOC濃度の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実験1におけるTOC減少率とUFB濃度の関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実験2における累積水量とTOC濃度の関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実験3におけるTOC濃度と濃度変化速度の関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実験4におけるTOC濃度と平均気泡径の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
・上記の液質改良装置において、前記差圧付与部が前記差圧を付与しつつ前記割合が調整された前記混合流体を前記細孔モジュール内に送ることにより、前記混合流体中にウルトラファインバブルを発生させることが好ましい。
・上記の液質改良装置において、前記細孔モジュールは、細孔径1500nm以下の細孔を少なくとも含むことが好ましい。
・上記の液質改良装置において、前記細孔モジュールの気孔率は、30%以上であることが好ましい。
・上記の液質改良装置において、前記細孔モジュールは、セラミックス又はガラスのいずれかであり、構成元素として、アルミニウム、ケイ素、及び酸素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含むことが好ましい。
・上記の第1態様のウルトラファインバブル含有液体の製造方法において、前記細孔モジュールは、細孔径1500nm以下の細孔を少なくとも含むことが好ましい。
・上記の第1態様のウルトラファインバブル含有液体の製造方法において、前記細孔モジュールの気孔率は、30%以上であることが好ましい。
・上記の第2態様において、前記処理において前記液体中の前記全有機炭素の濃度を50ppb以下にすることが好ましい。
・上記の第2態様のウルトラファインバブル含有液体の製造方法において、前記処理により、前記液体中の前記ウルトラファインバブルの平均気泡径が140nm以下である前記ウルトラファインバブル含有液体を得ることが好ましい。
・上記の第3態様のウルトラファインバブル含有液体の製造方法において、前記処理において前記液体中の前記全有機炭素の濃度を50ppb以下にすることが好ましい。
・上記の第3態様のウルトラファインバブル含有液体の製造方法において、前記処理により、前記全有機炭素の濃度が50ppb以下であり、前記ウルトラファインバブルの減少速度が1時間あたり2200000個/mL以下である前記ウルトラファインバブル含有液体を得ることが好ましい。
【0014】
1.液質改良装置1
本実施形態の液質改良装置1は、
図1に示すように、第1タンク3、ガス供給部9、液体供給部11、連通パイプ27、細孔モジュール33、第2タンク5、制御部60を備えている。本実施形態において、一次流路70は、第1タンク3全体、連通パイプ27全体、及び細孔モジュール33の内面で囲まれた部位59によって構成される。差圧付与部10は、一次流路70内に気体を供給する装置としてのガス供給部9、一次流路70内に液体を供給する装置としての液体供給部11、制御部60等によって構成される。調整部80は、一次流路70内に規定量の液体を導入する装置としての液体供給部11、制御部60等によって構成される。
【0015】
(1)第1タンク3
第1タンク3は、液体を収容することができる容器であり、内部を加圧できるように構成されている。つまり、後述する、液体の供給や流出、気体の流入部分以外は、液体や気体が流出しないような気密構造となっている。第1タンク3内には、内部の圧力(気圧)を検出するために、第1圧力センサ29が配置されている。
【0016】
第1タンク3には、ガス供給部9から供給されるガスを内部に取り入れるためのガス導入口17が設けられている。ガス導入口17は、第1タンク3に液体が入れられた場合に、その液面よりも上方に位置するように配置されている。第1タンク3の上部には、液体供給部11から供給される液体を内部に取り入れるため液体導入口21が設けられている。第1タンク3の底部には、流体を第2タンク5側に送り出す送出口25が設けられている。
【0017】
(2)ガス供給部9、液体供給部11、連通パイプ27
ガス供給部9は、第1タンク3に、25℃1気圧の常温常圧状態において気体である流体を供給する。ガス供給部9は、ガスが充填されたガスボンベ43と、ガスボンベ43とガス導入口17とを接続する第1パイプ45と、第1パイプ45の流路を開閉する第1開閉弁47と、ガスボンベ43内の圧力を検出する第3圧力センサ49と、を備えている。
【0018】
本開示において、気体は特に限定されない。気体は、酸素、空気、水蒸気、水素、三重水素、希ガス、二酸化炭素、窒素、フッ化ガスからなる群より選ばれることが好ましい。希ガスとしては、ヘリウム(He),ネオン(Ne),アルゴン(Ar),クリプトン(Kr),キセノン(Xe),ラドン(Rn)が挙げられる。フッ化ガスとしては、CF4,C2F6,C3F8,C4F8,CHF3,SF6,NF3等が挙げられる。
【0019】
液体供給部11は、第1タンク3に、25℃1気圧の常温常圧状態において液体である流体を供給する。液体供給部11は、液体導入口21に接続して液体を第1タンク3側に供給する第2パイプ51と、第2パイプ51の流路を開閉する第2開閉弁53と、第2パイプ51の流路を流れる液体の流量を検出可能な流量センサ54とを備えている。なお、図示しないが、第2パイプ51の上流側には、例えば液体を蓄えるタンク等が配置されている。
【0020】
本開示において、液体は特に限定されない。液体としては、水(例えば、純水、水道水、脱イオン水)、アルコール、海水、水溶液、洗浄液、有機溶剤等を採用できる。なお、液体中には、通常、周囲の気体等の各種の気体が若干溶解している。
【0021】
連通パイプ27は、第1タンク3側と第2タンク5側とを連通する。連通パイプ27は、例えばステンレス製の円筒形のパイプであり、下方に向かって垂直に伸びる形態で送出口25に取り付けられている。第1タンク3内の流体は、連通パイプ27を通って、第2タンク5側に供給される。連通パイプ27には噴射弁31が設けられている。噴射弁31は、連通パイプ27を通る液体及びガスの流量を調節可能に構成されている。
【0022】
(3)細孔モジュール33
細孔モジュール33は、一次流路70から送られた混合流体が通過する細孔35を有する。細孔モジュール33は、一次流路70内から一次流路70外の外部空間63へと混合流体を放出する経路をなす。本実施形態の細孔モジュール33は、下端側(即ち先端側)が閉塞されたパイプ状(詳しくは円筒形状)の部材である。細孔モジュール33の上端は、連通パイプ27に外嵌し、図示しないシール部により接合されて、連通パイプ27に隙間なく密着している。
【0023】
細孔モジュール33は、細孔径1500nm以下の細孔35を少なくとも含むことが好ましい。細孔径とは、細孔35を円孔とした場合の直径である。例えば、細孔モジュール33が複数の細孔35を有する場合には、複数の細孔35における細孔径の平均値(平均細孔径)が1500nm以下の場合には、「細孔径1500nm以下の細孔35を少なくとも含む」とみなし得る。平均細孔径は、例えば、水銀ポロシメトリを用いて測定できる。なお、水銀ポロシメトリとしては、オートポアIV9510(島津製作所製)が例示される。平均細孔径の下限値は特に限定されない。平均細孔径の下限値は、例えば500nm以上、1000nm以上であってもよい。
【0024】
細孔モジュール33の気孔率は、好ましくは30%以上である。気孔率の上限値は特に限定されない。気孔率の上限値は例えば50%以下である。細孔モジュール33の気孔率は、細孔モジュール33の外側(他方の側)の全表面積に対する、細孔モジュール33の外側の表面の開口部分(気孔部分)の面積の合計の割合である。すなわち、細孔モジュール33の気孔率は、細孔モジュール33の有効面積に占める細孔35の表面比率である。細孔モジュール33の気孔率は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)等により、細孔モジュール33の表面の画像を取得し、その画像を二値化(白黒)し、白黒の面積比率(詳しく細孔モジュール33の有効面積における細孔35を示す黒の割合)により求めることができる。
【0025】
細孔モジュール33の素材は特に限定されない。細孔モジュール33は、セラミックス又はガラスのいずれかであることが好ましい。細孔モジュール33は、構成元素として、アルミニウム、ケイ素、及び酸素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含むことが好ましい。細孔モジュール33の一例は、アルミナ(Al2O3)を主成分(例えばアルミナ90質量%以上)とし、残部が、シリカ(SiO2)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)等のセラミックからなる多孔質の焼結体であって、焼結体全体に複数の細孔35(即ち流体が通過可能な連通孔)が形成されている。なお、焼結体は、多数の細孔35が同様な状態(例えば同様な平均細孔径)で存在する一層構造(即ち対称構造)である。
【0026】
ここで、細孔モジュール33の製造方法について説明する。
例えば、細孔モジュール33の固体材料として、平均粒径5μmのアルミナ粉末を97質量%、SiO2、MgO粉末等の焼結助剤粉末を3質量%準備する。
そして、これらの固体粉末に、メチルセルロースと水と離型剤とを加えて坏土を作成し、この坏土を用いて、有底の円筒形状の成形体を作成する。
その後、この成形体を乾燥させた後に、大気雰囲気下で、1500℃にて3時間焼成の条件で焼成して、上述した構成の細孔モジュール33を得る。
なお、平均細孔径については、周知のように、原料粉粒径を制御することによって調整できる。また、表面気孔率については、周知のように、固体粉末量や有機物量や水量を制御することによって調整できる。
【0027】
(4)第2タンク5
第2タンク5は、細孔モジュール33を通過した液体を収容する。第2タンク5における連通パイプ27、細孔モジュール33以外の部位は、細孔モジュール33を通過した混合流体が放出される外部空間63を構成する。外部空間63は、第2タンク5内における連通パイプ27及び細孔モジュール33の外側の空間であり、細孔モジュール33から混合流体が流れ込む空間である。第2タンク5の下部には、液体を第2タンク5から外部に取り出すための液体取出口39が設けられている。液体取出口39には、液体取出部13が接続されている。第2タンク5内には、内部の圧力(気圧)を検出するために、第2圧力センサ41が配置されている。
【0028】
(5)一次流路70
一次流路70は、上記の気体である流体と上記の液体である流体との混合流体が流れる流路である。一次流路70には、細孔モジュール33を通過する前の混合流体が流れる。なお、細孔モジュール33を通過した混合流体は、第2タンク5に放出される。第2タンク5は二次流路を構成するともいえる。
【0029】
(6)差圧付与部10
差圧付与部10は、一次流路70内と外部空間63との間に差圧を付与しつつ、一次流路70から細孔モジュール33内へ混合流体を送る。具体的には、差圧付与部10は、一次流路70内の圧力を一次流路70外の外部空間63の圧力よりも一定値以上高くするように圧力差を生じさせ、細孔モジュール33内において一次流路70側から外部空間63側に向かう流体の流れを生じさせる。一次流路70内と外部空間63との間に差圧を付与する方法は、例えば細孔モジュール33の一方の側に加わる圧力を増加させる方法であっても、細孔モジュール33の一方の側に加わる圧力を、真空引き等によって減少させる方法であってもよい。本実施形態の差圧付与部10は、細孔モジュール33の一方の側に加わる圧力を増加させる方法を採用している。
【0030】
制御部60は、差圧付与部10の動作を制御する。制御部60は、MCU(Micro Controller Unit)であり、CPU,ROM,RAM等を有する。具体的には、制御部60は、一次流路70に供給される気体及び液体の供給量、第1タンク3内の圧力等の計測値に基づいて、第1開閉弁47、第2開閉弁53、噴射弁31等の開閉動作を行い、一次流路70内の圧力があらかじめ設定された値となるように制御する。
【0031】
(7)調整部80
調整部80は、一次流路70の容積を100%とした場合の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合を6%以下に調整する。以下の説明では、一次流路70の容積をV1とする。そして、一次流路70の容積V1に対する一次流路70内の液体の体積の割合をX(%)とする。一次流路70内の液体の体積の割合Xは、6%以下であり、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。一次流路70の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合の下限値は特に限定されず、例えば、0%より大きければよい。
【0032】
本実施形態において、一次流路70の容積は、第1タンク3の容積と、連通パイプ27の容積と、細孔モジュール33の内面で囲まれた部位の容積の合計値である。なお、細孔モジュール33の細孔容積は、一次流路70の容積に含めない。本実施形態の一次流路70は、ガス供給部9の第1開閉弁47と、液体供給部11の第2開閉弁53を閉じた状態において、細孔35以外が気密に密閉された気密構造を構成する。本実施形態では、細孔モジュール33の上流側において、この気密構造をなす空間の容積全体を一次流路70の容積とする。
【0033】
なお、本実施形態とは異なり、液体供給装置及びガス供給装置によって一次流路に対して液体及び気体を一定割合且つ一定圧で継続的に供給して一次流路の液体割合を所定範囲に保ちつつ、細孔モジュールから一定の流速で継続的に放出するような液体改質装置においては次のようにして、一次流路の容積に対する一次流路内の液体の体積の割合を規定できる。まず、一次流路への液体の供給量、気体の供給量、一次流路内の圧力及び温度から、細孔モジュールの直前における液体と気体の混合割合(体積%)を算出する。算出した液体の割合と、気体の割合の合計に対する液体の割合の合計を一次流路の容積とし、一次流路の容積に対する液体の割合を、一次流路内の液体の体積とする。
【0034】
制御部60は、調整部80の要部を構成し、各種センサからの情報を取得可能に構成され、調整部80における制御部60以外の要素の動作を制御する。具体的には、制御部60は、センサの検出値(例えば、流量センサ54の検出値)に基づいて、第2開閉弁53等の開閉動作を行い、一次流路70内の液体の量が規定量V2となるように制御する。
【0035】
(8)ウルトラファインバブルの発生
液質改良装置1は、差圧付与部10が差圧を付与しつつ割合が調整された混合流体を細孔モジュール33内に送ることにより、混合流体中にウルトラファインバブルを発生させる。液質改良装置1は、ウルトラファインバブル発生装置ともいえる。
【0036】
(9)液質改良装置1の動作
液質改良装置1の動作について説明する。液質改良装置1は、液体供給動作とガス供給動作とを行い得る。液体供給動作は、第2開閉弁53を開いて、第2パイプ51から第1タンク3内に液体を供給する動作である。液体供給動作は、例えば、第1開閉弁47、第3開閉弁57、及び噴射弁31を閉じた状態で、第2開閉弁53を開いて、第2パイプ51から第1タンク3内に液体を供給するように動作が行われる。調整部80は、一次流路70の容積を100%とした場合の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合を6%以下に調整するように上記液体供給動作を行う。
【0037】
調整部80の要部をなす制御部60は、液体供給動作を行う場合、例えば、一次流路70内が空の状態で液体供給停止状態から液体供給状態に切り替えるように上記液体供給動作を開始する。本実施形態において、空の状態とは、一次流路70内から外部空間63側へ液体が放出されなくなった状態を指し、一次流路70内部に多少液滴が残っている状態も含まれる。本実施形態において、液体供給停止状態は、第2開閉弁53が閉じた状態である。本実施形態において、液体供給状態は第2開閉弁53が開いた状態であって且つ第2パイプ51から第1タンク3内に液体が供給される状態である。例えば、制御部60は、上記の空の状態において上記液体供給動作を開始し、噴射弁31を閉じた状態を維持しながら、予め定められた規定量V2の液体が一次流路70内に供給されるまで上記液体供給状態を維持する。制御部60は、一次流路70内の液体が規定量V2に達した時点で第2開閉弁53を閉じ、上記液体供給状態から上記液体供給停止状態に切り替える。一次流路70内の液体が規定量V2に達した時点(液体供給状態から液体供給停止状態に切り替えた時点)で噴射弁31を閉じた状態が維持されている場合、一次流路70内に規定量V2の液体が存在するため、一次流路70の容積V1に対する一次流路70内の液体の体積の割合Xは、X=(V2/V1)×100%である。そして、上記割合Xは、0<X≦6の範囲内とされる。規定量V2は、0<(V2/V1)×100≦6となる値に予め定められている。
【0038】
調整部80は、このようにして噴射動作前の割合Xを、0<X≦6の範囲に調整する。調整部80は、割合Xを、0<X≦6の範囲に調整した後、後述の噴射動作が行われるまでは、調整した割合を維持しながら第1開閉弁47、第2開閉弁53、及び噴射弁31をいずれも閉じた密閉状態で維持してもよく、調整した割合を維持しながら第1開閉弁47を開放しつつ第2開閉弁53及び噴射弁31を閉じた状態で維持してもよい。調整部80の要部をなす制御部60は、このように割合Xが調整された後、一次流路70内が0<X≦6の条件を満たす状態で噴射弁31を開放するように制御する。
【0039】
調整部80は、上述の液体供給動作に加え、更にガス供給動作を行うことで、第1タンク3内の圧力を所望の値に調整することができる。ガス供給動作は、第1開閉弁47を開いてガスボンベ43から第1タンク3内にガスを供給する動作である。調整部80は、上述の液体供給動作の後に、液体供給動作で調整した割合を維持しながらガス供給動作を行ってもよく、上述の液体供給動作とガス供給動作とを並行して行ってもよい。
【0040】
ここで、調整部80による調整の具体例ついて、ガス供給部9から供給されるガスが酸素であり、液体供給部11から供給される液体が純水である場合を例に挙げて説明する。以下の具体例は、液体供給動作の後にガス供給動作が行われる例である。
【0041】
酸素は25℃、5.043MPa以下において気体として存在する。水は、25℃、0.1013MPa(1気圧)以上において液体として存在する。25℃であり、差圧付与部10によって一次流路70に付与される圧力が0.1013MPa以上5.043MPa以下の条件下において、一次流路70内の液体の体積は、液体供給部11から供給される液体の体積と略同じとみなし得る。このような条件下において調整部80は、上述の液体供給動作を行う。具体的には、調整部80は、上述の空の状態において、第1開閉弁47及び噴射弁31を閉じつつ第2開閉弁53を開く制御を行い、空の状態の第1タンク3内に液体の供給を開始する。調整部80は、このように液体の供給を開始した後、流量センサ54からの出力値を継続的に取得することで一次流路70に供給された液体の供給量を継続的に監視し、一次流路70に供給された液体の供給量が規定量V2に達した時点で第2開閉弁53を閉じるように制御する。以上により、調整部80による液体供給量の調整が完了する。
【0042】
次に、調整部80は、上述のガス供給動作を行う。具体的には、調整部80は、第2開閉弁53及び噴射弁31を閉じつつ第1開閉弁47を開く制御を行い、高圧の気体をガスボンベ43から第1タンク3内に供給する。調整部80は、第1タンク3内への高圧気体の供給を、供給開始から所定時間後に終了してもよく、第1タンク3内の圧力を監視しつつ第1タンク3内の圧力が第2タンク5内の圧力よりも高い所定値に達した場合に終了してもよい。調整部80は、第1タンク3内への高圧気体の供給を終了する場合、例えば、第1開閉弁47、第2開閉弁53、及び噴射弁31を全て閉じた密閉状態に切り替える。このような制御により、第1タンク3内の圧力が第2タンク5内よりも高い圧力となる。なお、上述の圧力調整方法が採用される場合でも、他の方法が採用される場合でも、第1タンク3内の圧力は第2タンク5内の圧力よりも高ければ特に限定されない。例えば、第1タンク3内の圧力は、第2タンク5内の圧力が0.1013MPa(1気圧)の場合に、好ましくは0.2MPa以上1MPa未満、より好ましくは0.4MPa以上0.6MPa以下とすることができる。
【0043】
このようにして液体供給動作及びガス供給動作が行われると、両動作がいずれも終了した時点では、一次流路70における混合流体中の液体の体積は、一次流路70の容積を100%とした場合に、0%よりも大きく調整され且つ6%以下に調整される。そして、第1タンク3内の圧力は、上記の所望の範囲に調整される。制御部60は、このように液体の割合及び圧力が調整された状態で噴射弁31を開く制御を行う。制御部60の制御によって噴射弁31が開放されると、混合流体は、連通パイプ27を介して、細孔モジュール33の内面によって囲まれた部位59に流入し、細孔モジュール33の細孔35を通過して、外部空間63に噴射される。
【0044】
このとき、一次流路70内の液体の体積が調整されていることによって、混合流体が細孔モジュール33を通過する際にTOC濃度を好適に低減できる。また、混合流体が細孔モジュール33を通過する際にマイクロファインバブルが発生する。すなわち、清浄なウルトラファインバブル含有液体が得られる。
【0045】
なお、差圧付与部10は、細孔モジュール33の上流側(第1タンク3側)の圧力が下流側(第2タンク5側)の圧力に対して一定値以上高くなる高差圧期間が1回設定されるように制御してもよく、上記の高差圧期間が断続的に設定されるように制御してもよい。いずれの場合でも、高差圧期間に、細孔モジュール33から混合流体が放出される。具体的には、例えば、調整部80は、噴射弁31を閉じた状態で上記の割合Xを0<X≦6の範囲に調整する調整動作と、調整動作の後、割合Xが0<X≦6の範囲とされた状態で噴射弁31を開放する噴射動作と、を交互に繰り返し行うことで、複数回の調整動作を断続的に行い、各々の調整動作の一部期間又は全部期間を高差圧期間とする。この場合、調整部80は、各々の噴射動作において、例えば一次流路70内が空になるまで噴射弁31を開放し続けることで、噴射動作中又は噴射動作後に、低差圧期間(細孔モジュール33の上流側(第1タンク3側)の圧力が下流側(第2タンク5側)の圧力に対して一定値未満となる期間)を設定することができる。以下、高差圧期間の回数をパス数とも称する。このように、高差圧期間が断続的に現れるように制御することで、さらに効率よくTOC濃度を低下させることができ、かつ、ウルトラファインバブル濃度を高くできる。
【0046】
(10)ウルトラファインバブル含有液体
ウルトラファインバブルは直径が1μm未満の気泡である(ISO 20298-1)。近年、「純水(ブランク水)の段階から、ファインバブル発生処理によって、気泡濃度を1桁以上上げられた水をファインバブル水とする」ということを、標準化する動向がある(FBIA(ファインバブル産業会)にて検討中の内容)。本開示の液質改良装置1において、この基準を満たすことができる装置がウルトラファインバブル発生装置として好適である。
【0047】
液質改良装置1を用いて得られるウルトラファインバブル含有液体のウルトラファインバブル濃度(以下、UFB濃度とも称する)は特に限定されない。UFB濃度は、好ましくは5×107個/mL以上であり、より好ましくは1×108個/mL以上、更に好ましくは2×108個/mL以上1×1014個/mL以下である。本開示において、UFB濃度は、ナノ粒子解析システムを用いて測定できる。ナノ粒子解析システムとしては、NanoSight(Spectris PLC製、NS-300、以下単にナノサイトと記す)が例示される。なお、ナノサイトで検出した全検出粒子中の気泡割合は、80%以上であることがより好ましい。なお、後述する実施例の実験5において確認したナノサイトで検出した全検出粒子中の気泡率が十分に高い(例えば80%以上)場合には、全検出粒子の濃度をUFB濃度とみなし得る。なお、上記の全検出粒子中の気泡率が所定値未満(例えば80%未満)の場合には、全検出粒子の濃度に気泡率を乗じて、UFB濃度を算出してもよい。
【0048】
液質改良装置1を用いて得られるウルトラファインバブル含有液体のTOC濃度は特に限定されない。TOC濃度は、500ppb以下が好ましく、100ppb以下がより好ましく、50ppb以下がさらに好ましい。本願発明者らは、1ppb台までTOC濃度を低下できることを確認している。なお、上記の処理において液体中のTOC濃度の下限値は特に限定されず、例えば、0ppb(検出限界)以上、1ppb以上であってもよい。日本薬局方では医薬品に使用する水はTOC濃度を500ppb以下に抑える事が規定されている。上記の目標値以下とすることができれば、例えば医薬品、医薬部外品、化粧品原料、培養液原料、食品原料、飲料原料、サプリメント原料などの液管理が重要な領域で応用が可能となる。
【0049】
液質改良装置1を用いて得られる液体の産業上の利用分野は特に限定されない。例えば、医薬品、化粧品、食品など、液体が清浄であることが求められる用途が挙げられる。なお、液質改良装置1を用いて得られたウルトラファインバブル含有液体をそのまま種々の用途に用いてもよく、超音波消泡、又は減圧処理等して、ウルトラファインバブルの濃度を下げて用いてもよい。
【0050】
(11)液質改良装置1の作用効果
本実施形態の液質改良装置1は、調整部80を備え、差圧付与部10が差圧を付与しつつ液体の割合が6%以下に調整された混合流体を細孔モジュール33内に送りこむことによって、細孔モジュール33を通過した後の混合流体中の全有機炭素濃度が通過前よりも減少する。このような構成によれば、一次流路70の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合が6%を超える混合液体を細孔モジュール33内に送りこむ装置に比して、TOC濃度が減少した清浄な液体を得ることができる。
【0051】
混合流体中の全有機炭素濃度が通過前よりも減少するメカニズムは定かではないが、次のように推測される。なお、本開示の技術は、この推測理由によって限定解釈されない。
混合流体が細孔モジュール33内に送りこまれると、一部の気体が液体に溶解すると考えられる。
図2及び
図3に示すように、混合液体が外部空間63に放出されて、減圧されると、キャビテーションが発生し、ウルトラファインバブル等の気泡が生成すると考えられる。このキャビテーションのエネルギーにより、有機物が分解されて、TOC濃度が低下すると推測される。液体の割合が一次流路70の容積の6%以下に調整されている場合には、液体の割合が一次流路70の容積の6%を超える場合に比して、キャビテーションの発生が促進され、キャビテーションのエネルギーによる有機物の分解が促進されている可能性がある。なお、キャビテーションの発生が促進されていることは、液体の割合が一次流路70の容積の6%以下に調整されている場合には、液体の割合が一次流路70の容積の6%を超える場合に比して、得られるウルトラファインバブル含有液体のウルトラファインバブル濃度が高いことからも伺える。
【0052】
従来、液体のTOCを低くする方法として、例えば加熱、紫外線、プラズマ等を使用する方法がある。しかし、加熱、紫外線、プラズマ等を使用する方法は、装置が複雑であり高額となる課題があった。また、加熱、紫外線、プラズマ等を使用する方法は、いずれも電力を消費する為コストが高くなる課題があった。さらに、加熱、紫外線、プラズマ等を使用する方法は、いずれも電力インフラを用意しなければいけないという課題があった。他方、本実施形態の液質改良装置1は、加熱、紫外線、プラズマ等を使用する方法に比して、簡便な装置であり、電力コスト、電力インフラ等の面でも有利である。
【0053】
また、現状において、TOC濃度を低下させることができるウルトラファインバブル発生装置は知られていない。ウルトラファインバブル発生装置は、ウルトラファインバブル発生のメカニズムの特性上、狭い流路や微細孔などを利用する装置が多く、装置自体の洗浄が難しく、処理前の液体よりも処理後の液体のTOC濃度が高くなる懸念もある。他方、本実施形態の液質改良装置1は、差圧付与部10が差圧を付与しつつ液体の割合が調整された混合流体を細孔モジュール33内に送ることにより、TOC濃度を低下させつつ、ウルトラファインバブルを発生させることができる。すなわち、本実施形態は、ウルトラファインバブル含有液体のTOC濃度を低下できる点において画期的である。特に、清浄なウルトラファインバブル含有液体が所望される産業での利用の可能性が高い。
【0054】
本実施形態において、細孔モジュール33は、細孔径1500nm以下の細孔35を少なくとも含む。この構成によれば、好適にTOC濃度を減少させることができる。
【0055】
本実施形態において、細孔モジュール33の気孔率は、30%以上である。この構成によれば、好適にTOC濃度を減少させることができる。
【0056】
本実施形態において、細孔モジュール33は、セラミックス又はガラスのいずれかであり、構成元素として、アルミニウム、ケイ素、及び酸素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含む。従って、ファインバブルが発生する液体中に含まれる不純物(いわゆるコンタミネーション)が少ないので、例えば医療分野など、不純物が少ない方が良い分野には好適である。また、細孔モジュール33がセラミックスである場合には、エロージョン(浸食)による劣化が少ないという利点もある。
【0057】
2.ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その1)
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その1)は、25℃1気圧の常温常圧状態において気体である流体と常温常圧状態において液体である流体との混合流体が流れる一次流路70と、一次流路70を流れる混合流体が通過する複数の細孔35を有し、一次流路70内から一次流路70外の外部空間63へと混合流体を放出する経路をなす細孔モジュール33と、一次流路70内と外部空間63との間に差圧を付与しつつ、一次流路70から細孔モジュール33内へ混合流体を送る差圧付与部10と、を備える液質改良装置1を用いる。
【0058】
なお、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その1)に用いる液質改良装置1は、上述の調整部80を備えていなくてもよい。すなわち、本方法の液質改良装置1は、例えば、調整部80に替えて、作業者が第2開閉弁53を手動で開閉して、一次流路70の容積に対する一次流路70内の液体の体積を調整してもよく、また、予め液体と気体の混合割合(体積%)が調整された混合流体を供給することによって、一次流路70の容積に対する一次流路70内の液体の体積を調整してもよい。本方法の液質改良装置1は、調整部80が任意の構成である他は、上記で説明した液質改良装置1と同様であり、液質改良装置1の説明をそのまま適用する。
【0059】
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その1)は、一次流路70の容積を100%とした場合の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合を6%以下に調整し、差圧付与部10によって差圧を付与しつつ割合が調整された混合流体を細孔モジュール33内に送ることにより、細孔モジュール33を通過した後の混合流体中の全有機炭素濃度を通過前よりも減少させ且つ混合流体中にウルトラファインバブルを発生させる。一次流路70内の液体の体積の割合は、6%以下であり、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。一次流路70の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合の下限値は特に限定されず、例えば、0%より大きければよい。全有機炭素濃度の減少、ウルトラファインバブルの発生等については、上記の液質改良装置1と同様であり、その説明を省略する。
【0060】
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その1)によれば、一次流路70の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合が6%を超える混合液体を細孔モジュール33内に送る方法に比して、TOC濃度が減少した清浄なウルトラファインバブル含有液体を得ることができる。その他にも、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その1)によれば、液質改良装置1で説明した作用効果と同様の作用効果を奏し得る。
【0061】
3.ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その2)
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その2)は、対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行い、液体中のウルトラファインバブルの平均気泡径が所定値以下であるウルトラファインバブル含有液体を得る。
【0062】
対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理の具体的な方法は特に限定されない。対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理は、例えば、上記の液質改良装置1を用いて行うことができる。各部の構成、動作、作用については、上記の液質改良装置1と同様であり、その説明を省略する。
【0063】
上記の処理において処理後の全有機炭素の濃度は特に限定されない。上記の処理において液体中の全有機炭素の濃度を、500ppb以下にすることが好ましく、100ppb以下にすることがより好ましく、50ppb以下にすることがさらに好ましい。なお、上記の処理において液体中の全有機炭素の濃度の下限値は特に限定されず、例えば、0ppb(検出限界)以上、1ppb以上であってもよい。日本薬局方では医薬品に使用する水は全有機炭素の濃度を500ppb以下に抑える事が規定されている。上記の目標値以下とすることができれば、例えば医薬品、医薬部外品、化粧品原料、培養液原料、食品原料、飲料原料、サプリメント原料などの液管理が重要な領域で応用が可能となる。
【0064】
処理前の対象液体の全有機炭素の濃度は特に限定されない。液体中の全有機炭素の濃度は、対象液体の全有機炭素の濃度に応じて小さくなる。対象液体の全有機炭素の濃度は、清浄なウルトラファインバブル含有液体を得る観点から、700ppb以下が好ましく、200ppb以下がより好ましく、100ppb以下がさらに好ましい。処理前の対象液体の全有機炭素の濃度は、通常0ppbよりも大きい。
【0065】
液体中のウルトラファインバブルの平均気泡径は特に限定されない。所定値としては、液質改良装置1において、一次流路70の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合を100%とした場合のウルトラファインバブルの平均気泡径とすることができ、さらに、一次流路70の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合を100%とした場合のウルトラファインバブルの平均気泡径としてもよい。具体的には、液体中のウルトラファインバブルの平均気泡径は200nm以下であることが好ましく、140nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。
【0066】
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その2)で得られるウルトラファインバブル含有液体のUFB濃度は特に限定されない。UFB濃度は、好ましくは5×107個/mL以上であり、より好ましくは1×108個/mL以上1×1014個/mL以下である。
【0067】
対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行い、液体中のウルトラファインバブルの平均気泡径を所定値以下に調整できる理由は定かではないが、次のように推測される。なお、本開示の技術は、この推測理由によって限定解釈されない。
ウルトラファインバブルはマイナスのゼータ電位を有しており、プラス帯電の物質を吸着する特性がある。一方、有機物コンタミなどの有機炭素(Organic Carbon)の多くはプラスのゼータ電位を有しており、ウルトラファインバブルに吸着する特性があることが知られている。ウルトラファインバブルが有機炭素と接触することで凝集した状態、また凝集したウルトラファインバブル同士が合体した状態では、ウルトラファインバブルの平均気泡径が大きく計測されると考えられる(
図4参照)。他方、対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行う本開示の技術によれば、有機炭素の濃度が小さくなり、有機炭素によるウルトラファインバブルの凝集を抑制でき、凝集に起因したウルトラファインバブルの平均気泡径の増大が抑制されると推測される。
【0068】
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その2)によれば、所望の平均気泡径のウルトラファインバブルを含有するウルトラファインバブル含有液体を得ることができる。例えば生体にウルトラファインバブルを利用する分野等では細胞にウルトラファインバブルを取り込ませるために、ウルトラファインバブルの気泡径をコントロールすることが求められ、本開示の技術が特に有効である。
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その2)は、簡便な方法でウルトラファインバブルの平均気泡径をコントロール可能であり、簡単に実現でき、画期的である。
【0069】
4.ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その3)
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その3)は、対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行い、液体中のウルトラファインバブルの減少速度を小さくしたウルトラファインバブル含有液体を得る。
【0070】
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その3)における、「対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理」、「処理後の全有機炭素の濃度」、「処理前の対象液体の全有機炭素の濃度」、「ウルトラファインバブル含有液体のUFB濃度」は、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その2)と同様であり、その説明を省略する。
【0071】
ウルトラファインバブル含有液体におけるウルトラファインバブルの減少速度は特に限定されない。ウルトラファインバブルの減少速度は、液質改良装置1において、一次流路70の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合を100%とした場合のウルトラファインバブルの減少速度よりも小さい減少速度であってもよく、さらに、一次流路70の容積に対する一次流路70内の液体の体積の割合を6%とした場合のウルトラファインバブルの減少速度よりも小さい減少速度であってもよい。具体的には、ウルトラファインバブル含有液体におけるウルトラファインバブルの減少速度は、ウルトラファインバブルの減少速度が1時間あたり15000000個/mL以下が好ましく、2200000個/mL以下がより好ましく、1000000個/mL以下が更に好ましい。
【0072】
対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行い、液体中のウルトラファインバブルの減少速度を小さくできる理由は定かではないが、次のように推測される。なお、本開示の技術は、この推測理由によって限定解釈されない。
ウルトラファインバブルはマイナスのゼータ電位を有しており、プラス帯電の物質を吸着する特性がある。一方、有機物コンタミなどの有機炭素(Organic Carbon)の多くはプラスのゼータ電位を有しており、ウルトラファインバブルに吸着する特性があることが知られている。有機炭素がウルトラファインバブルに吸着して、ウルトラファインバブルが消失する可能性がある。また、ウルトラファインバブルが有機炭素と接触することで凝集した状態、また凝集したウルトラファインバブル同士が合体した状態では、浮力が増加してバブルが浮上し消失すると考えられる(
図4参照)。
図4中、上向きの矢印は、合体したウルトラファインバブルの浮力を模式的に表している。他方、対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行う本開示の技術によれば、ウルトラファインバブル含有液体のTOC濃度が小さくなり、有機炭素のウルトラファインバブルへの吸着に起因したウルトラファインバブルの消失が抑制されると推測される。さらに、本開示の技術によれば、有機炭素によるウルトラファインバブルの凝集を抑制でき、凝集に起因したウルトラファインバブルの平均気泡径の増大が抑制されると推測される。
【0073】
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その3)によれば、ウルトラファインバブル含有液体におけるウルトラファインバブルの寿命を延ばすことができる。例えば医薬品、化粧品、食品などの用途で用いるなどを想定すると流通や保管が必要なため、ウルトラファインバブルを長期間保持することが求められ、ウルトラファインバブルの寿命を延ばす本開示の技術が特に有効である。
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その3)は、簡便な方法でウルトラファインバブルの寿命をコントロール可能であり、簡単に実現でき、画期的である。
ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その3)は、対象液体への添加物の添加や、ウルトラファインバブル含有液体を収容する容器の工夫等が不要であり、非常に画期的である。
【0074】
5.ウルトラファインバブル含有液体
本開示のウルトラファインバブル含有液体は、例えば、ウルトラファインバブル濃度が2×108個/mL以上であり、ウルトラファインバブルの平均気泡径が140nm以下であり、ウルトラファインバブルの減少速度が、1時間あたり2200000個/mL以下である。
上記のウルトラファインバブル含有液体の製造方法は特に限定されない。上記のウルトラファインバブル含有液体は、対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行うことで、好適に得られる。ウルトラファインバブル含有液体は、例えば、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その1)、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その2)、及びウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その3)に記載の方法で得ることができる。本開示のウルトラファインバブル含有液体の構成は、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その1)、ウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その2)、及びウルトラファインバブル含有液体の製造方法(その3)で得られるウルトラファインバブル含有液体と同様であり、その説明を省略する。
【実施例0075】
実施例により本開示を更に具体的に説明する。
【0076】
1.実験1
(1)サンプルの作製
上記の液質改良装置を用いて、気体(酸素)と液体(水)の混合流体を処理した。噴射弁を閉めた状態で液体を導入後、気体を導入して、一次流路内を下記の条件で加圧した。その後、噴射弁を開放して、細孔モジュールを通して混合流体を放出する操作を1回行って、サンプル1-1から1-4を得た。液質改良装置及び処理条件の詳細は、以下の通りである。サンプル1-2,1-3,1-4は実施例であり、原水、サンプル1-1は参考例である。
細孔モジュール:セラミック多孔体(素材:アルミナ、シリカ)、細孔径1500nm、気孔率31%
一次流路の容積:500mL
一次流路に印加する圧力:0.5MPa
1パス量(1パス当たりの液体の量):表1に記載の量
気体:酸素(3G グレード)
液体(原水):水(純水)。純水製造装置(クリタ製)を利用して得た。なお、純水装置は1週間稼働停止させ、自然に増加した有機炭素源を利用して高めの全有機炭素の濃度条件として用いた。
【0077】
原水と、サンプル1-1から1-4の全有機炭素の濃度(ppb)を測定した。測定には、Sievers TOC計(SUEZ社製、CheckPooint Pharma/e)を用いた。
【0078】
原水と、サンプル1-1から1-4のUFB濃度(個/ml)及び平均気泡径(nm)を測定した。測定には、ナノサイト(NanoSight NS-300)を用いた。測定条件は以下の通りとした。
[測定条件]
周波数:405nm
CameraLevel:15
Number of caputures:5
Capture duration:60
Detection Threshold:4
【0079】
(2)結果
結果を表1に示す。表1中、気泡径(nm)は平均気泡径を表す。TOC(ppb)は全有機炭素の濃度を表す。原水比(%)は、以下の式(1)に基づき算出した。TOC減少率(%)は、以下の式(2)に基づき算出した。TOC減少率(%)は、原水よりもTOCが減少したことの一つの指標となる。液体の割合(%)は、一次流路の容積を100%とした場合の前記容積に対する一次流路内の液体の体積の割合を表す。液体の割合(%)は、以下の式(3)に基づき算出した。判定は、液体の割合(%)が100%であるサンプル1-1を基準として、これよりもTOC濃度が低い場合を「合格」とした。
原水比(%)=(サンプルのTOC濃度/原水のTOC濃度)×100 ・・・(1)
TOC減少率(%) = 100-原水比(%) ・・・(2)
液体の割合(%) = (1パス量/500)×100 ・・・(3)
【0080】
【0081】
実験1における1パス量(水のパス量)と、TOC濃度の関係を
図5のグラフに示す。
図5のグラフにおいて点線は対数近似曲線である。対数近似曲線の式は、y=3.3529ln(x)+33.721であり、相関係数はR
2=0.9325であった。
実験1におけるTOC濃度と、UFB濃度の関係について、次数2の多項式近似曲線の式は、y=3E+06x
2-3E+08x+8E+09であり、相関係数はR
2=0.987であった。
実験1におけるTOC減少率と、UFB濃度の関係を
図6のグラフに示す。
図6のグラフにおいて点線は次数2の多項式近似曲線である。次数2の多項式近似曲線の式は、y=2E+06x
2-2E+08x+5E+09であり、相関係数はR
2=0.987であった。
【0082】
実験1の結果より、1パス量が30mL以下の条件(サンプル1-2,1-3,1-4)のTOC濃度が、1パス量が30mLを超える条件(サンプル1-1)のTOC濃度よりも低下していることが分かった。また、1パス量、すなわち液体の割合と、TOC濃度との間に、非常に高い相関があることが分かった。
実験1の結果より、TOC濃度とUFB濃度との間に相関があることが分かった。
実験1の結果より、TOC減少率とUFB濃度との間に相関があることが分かった。
【0083】
これらのことから、一次流路の容積を100%とした場合の容積に対する一次流路内の液体の体積の割合を6%以下に調整することによって、清浄な液体を得ることができることが示唆された。
【0084】
2.実験2
(1)サンプルの作製
実験1と同じ液質改良装置を用いて、気体(酸素)と液体(水)の混合流体を処理した。噴射弁を閉めた状態で液体を導入後、気体を導入して、一次流路内を下記の条件で加圧した。その後、噴射弁を開放して、細孔モジュールを通して混合流体を放出する操作を、表1に記載のパス数行ってサンプル2-1,2-2を得た。処理条件の詳細は、以下の点を除いて、実験1と同様である。サンプル2-2は実施例であり、原水、サンプル2-1は参考例である。
液体(原水):水(純水)。純水製造装置(クリタ製)を利用して得た。なお、純水装置は通常運転状態の条件として用いた。
【0085】
実験1と同様にして、原水の4つ試験水と、サンプル2-1,2-2における各累積水量の試験水の全有機炭素の濃度(ppb)を測定した。
【0086】
(2)結果
結果を表2に示す。表2中、原水の4試験水の累積水量は、いずれも0mLとした。平均値は、原水の4つ試験水、サンプル2-1,2-2における累積数量の異なる試験水のTOC濃度の平均値である。原水比(%)は、以下の式(4)に基づき算出した。判定は、液体の割合(%)が100%であるサンプル2-1の各累積水量の原水比を基準として、これよりもTOC濃度が低い場合を「合格」とした。
原水比(%)
=(サンプルのTOC濃度の平均値/原水のTOC濃度の平均値)×100・・・(4)
【0087】
【0088】
実験2における累積水量と、TOC濃度の関係を
図7のグラフに示す。なお、サンプル2-2における累積水量と、TOC濃度の関係について、点線は線形近似曲線である。線形近似曲線の式は、y=-0.0152x+8.5652であり、相関係数はR
2=0.7374であった。
【0089】
実験2の結果より、1パス量が3mLの条件(サンプル2-2)のTOC濃度が、原水及び1パス量が500mLの条件(サンプル2-1)のTOC濃度よりも著しく低下していることが分かった。
また、1パス量が3mLの条件(サンプル2-2)において、累積水量が増加するにつれて、TOC濃度が低下することが分かった。
【0090】
これらのことから、一次流路の容積を100%とした場合の前記容積に対する一次流路内の液体の体積の割合を6%以下に調整することによって、清浄な液体を得ることができることが示唆された。さらに、累積水量の増加、すなわち、パス数を増加させることで、より一層清浄な液体を得られることが示唆された。
【0091】
3.実験3(TOC濃度と気泡寿命との関係を示す実験)
(1)サンプルの作製
実験1と同じ液質改良装置を用いて、表3に記載のガス種の気体と液体(水)の混合流体を、サンプル1-4(液体の割合 1%)と同様に処理した。液質改良装置は、各混合流体を処理する前に、異なる条件で洗浄して用いた。各ガス種に関する実験データは、2020年2月から2020年9月までに行われた実験のデータを集めた非連続のデータである。各ガス種のウルトラファインバブル含有液体の保管には、ガラスバイアル瓶(容量:30mL、ビオラモねじ口バイアル、ビオラモ社製)を用いた。各ガス種のウルトラファインバブル含有液体を、ガラスバイアル瓶に30mLずつ封入し、環境試験機(エスペック社製、Bench-Top Type Temperature & Humidity Chamber、型番:SH-261)を用いて、定温運転 5℃にて保管した。保管時間は、表3に記載の保管時間とした。
【0092】
実験1と同様にして、各ガス種のウルトラファインバブル含有液体について、初期(保管前)のTOC濃度を測定した。測定は、各ガス種のウルトラファインバブル含有液体につき3回行い、その平均値を算出した。
【0093】
実験1と同様にして、各ガス種のウルトラファインバブル含有液体について、初期(保管前)のUFB濃度と、経時変化後(保管後)のUFB濃度を測定した。
【0094】
(2)結果
結果を表3に示す。表3中、減少量(変化量)は以下の式(5)に基づき算出した。減少速度(濃度変化速度)は以下の式(6)に基づき算出した。
減少量(個/mL)=初期のUFB濃度-経時変化後のUFB濃度 ・・・(5)
減少速度(個/mL/h)=減少量/保管時間 ・・・(6)
【0095】
【0096】
実験3におけるTOC濃度と、減少速度の関係を
図8に示す。なお、点線はTOC濃度と、濃度変化速度の関係についての線形近似曲線である。線形近似曲線の式は、y=42356x-2132.3であり、相関係数はR
2=0.9946であった。
【0097】
実験3の結果より、TOC濃度と、濃度変化速度の関係と間に、上記の線形近似曲線で近似される、高い相関があることが分かった。線形近似曲線の式(y=42356x-2132.3)より、TOC濃度が50ppbの場合の減少速度は1時間あたり2115667.7個/mLであることが読みとれる。
【0098】
本実験3の実施例によれば、対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行い、液体中のウルトラファインバブルの減少速度を小さくしたウルトラファインバブル含有液体を得ることができた。
【0099】
4.実験4(TOC濃度と平均気泡径との関係を示す実験)
(1)サンプルの作製
実験1と同じ液質改良装置を用いて、表4に記載のガス種の気体と液体(水)の混合流体を、サンプル1-4(液体の割合 1%)と同様に処理した。液質改良装置は、混合流体を処理する前に、異なる条件又は同様の条件で洗浄して用いた。各ガス種に関する実験データは、2020年2月から2020年9月までに行われた実験のデータを集めた非連続のデータである。
【0100】
実験1と同様にして、各ガス種のウルトラファインバブル含有液体について、TOC濃度を測定した。測定は、各ガス種のウルトラファインバブル含有液体につき3回行い、その平均値を算出した。
【0101】
実験1と同様にして、各ガス種のウルトラファインバブル含有液体について、UFB濃度及び平均気泡径、モード気泡径を測定した。
【0102】
(2)結果
結果を表4に示す。
【0103】
【0104】
実験4におけるTOC濃度と、平均気泡径の関係を
図9に示す。なお、点線はTOC濃度と、平均気泡径の関係についての線形近似曲線である。線形近似曲線の式は、y=0.183x+98.488であり、相関係数はR
2=0.8912であった。
なお、実験4におけるTOC濃度と、モード気泡径の関係についての線形近似曲線の式は、y=0.183x+75.355であり、相関係数はR
2=0.9922であった。
【0105】
実験4の結果より、TOC濃度と、平均気泡径の関係と間に、上記の線形近似曲線で近似される、高い相関があることが分かった。
【0106】
本実験4の実施例によれば、対象液体に対して液体中の全有機炭素の濃度を小さくする処理を行い、液体中のウルトラファインバブルの平均気泡径が所定値以下であるウルトラファインバブル含有液体を得ることができた。
【0107】
5.実験5
(1)サンプルの作製
ナノサイトで計測された粒子が固体粒子(有機物コンタミ等)ではないことを確かめるべく、超音波消泡前後の全粒子濃度(個/mL)と、平均粒子径を測定した。
【0108】
具体的には、実験1と同じ液質改良装置を用いて、表5に記載のガス種の気体と液体(水)の混合流体を、サンプル1-4(液体の割合 1%)と同様に処理した。その後、超音波消泡によりウルトラファインバブル含有液体中の気泡を消泡し、全検出粒子中の気泡の割合を算出した。超音波消泡の条件の詳細は、以下の通りである。
超音波印加条件:1.6MHz,50W,15min
【0109】
実験1と同様にして、各ガス種のウルトラファインバブル含有液体について、TOC濃度を測定した。測定は、各ガス種のウルトラファインバブル含有液体につき3回行い、その平均値を算出した。
【0110】
実験1と同様にして、各ガス種のウルトラファインバブル含有液体について、超音波消泡前後にナノサイトによる全検出粒子濃度(UFB濃度に相当)及び平均粒子径(平均気泡径に相当)を測定した。
【0111】
(2)結果
結果を表5に示す。表5中、NAは、測定していないことを表す。全粒子濃度は、全検出粒子濃度(UFB濃度に相当)を表す。気泡率は以下の式(7)に基づき算出した。
気泡率(%)
=100-((消泡後の全検出粒子濃度-消泡前の全検出粒子濃度)×100)
・・・(7)
【0112】
【0113】
実験5の結果より、UFB濃度消泡試験の結果ガス種による気泡率の差は大きくは見られなかった。
【0114】
6.実施例の効果
以上のように、本実施例によれば、好適にTOC濃度が低減された、清浄なウルトラファインバブル含有液体を得ることができた。
【0115】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0116】
以下、その他の実施形態を例示する。
細孔モジュール33は、少なくとも1つの細孔35を有していればよい。細孔モジュール33は、一次流路70内から一次流路70外の外部空間63へと混合流体を放出する経路をなす構成であればその形状は適宜変更可能である。例えば、細孔モジュール33は、先端が閉塞された筒状の部材以外にも、両端が開放された筒状の部材や、板状の部材などが挙げられる。
【0117】
細孔モジュール33の材料としては、セラミック(例えば、アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、シリカ、マグネシア、カルシアのうち、少なくとも1種以上)からなる材料以外にも、各種の樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン)や、金属(例えば、アルミニウム、チタン、鉄、金、銀、銅、ステンレス)等が挙げられる。
【0118】
上述の調整方法は、あくまで一例であり、一次流路70内に規定量V2の液体を供給する方法は上述の例に限定されない。例えば、一次流路70内の液体の割合を調整する際に一次流路70内の液体の水位を検出する水位センサが用いられてもよい。水位センサを用いて調整を行う場合、制御部60は、上述の液体供給動作において、上記水位センサによって検出される水位が所定水位(一次流路70内の液体の量が上記規定量V2のときの水位)となるまで上記液体供給状態を維持すればよい。そして、制御部60は、上記水位センサによって検出される水位が上記所定水位となった時点で上記液体供給状態から上記液体供給停止状態に切り替えればよい。この場合も、上記液体供給停止状態に切り替えられた時点での割合Xは、X=(V2/V1)×100%であり、割合Xは、0<X≦6の範囲であればよい。なお、水位センサが用いられる上述の例は、一次流路70内の温度及び圧力に応じてガス供給部9から供給された気体の一部が液化する場合等において有効である。
【0119】
液質改良装置は、一次流路に一定割合の液体を入れた状態で放出するような動作を間欠的に行う構成に限定されない。例えば、液体供給装置及びガス供給装置によって一次流路に対して液体及びガスを一定割合且つ一定圧で継続的に供給して一次流路の液体割合を所定範囲に保ちつつ、細孔モジュールから一定の流速で継続的に放出するような例も含む。
【0120】
また、液体や気体を供給する流路や液体を取り出す流路に開閉弁を設ける場合には、その開閉弁の動作をコンピュータ等によって制御してもよい。
例えば第1タンク3内に供給される液体の供給量をセンサにより計測し、第1タンク3内の圧力をセンサにより計測し、これらのセンサにより計測した値に基づいて、液体の流量等や第1タンク内の圧力が目的となる値となるように、前記開閉弁の開閉動作を制御してもよい。従って、ファインバブルを発生するための構成を、インライン化することもできる。
【0121】
液質改良装置1は、ガスボンベ等の具体的な構成を備えなくてもよい。例えば、空気を圧送して、ガス供給部9を構成してもよい。それ以外にも、一次流路70、差圧付与部10、調整部80の具体的な構成は適宜変更可能である。
【0122】
ウルトラファインバブル含有液体を製造する場合、割合Xを0<X≦6の範囲に調整する方法は、調整部80が上記割合Xを調整する方法に限定されない。例えば、作業者による人為的作業によって規定量V2の液体を一次流路70内に供給することで、一次流路70において上記割合Xを、0<X≦6の範囲としてもよい。
【0123】
本開示の液質改良装置1は、ウルトラファインバブル含有液体を得るために用いられなくてもよい。例えば、得られたウルトラファインバブル含有液体に対して超音波消泡等の消泡処理を行って、ウルトラファインバブルを含有しない液体を得てもよい。