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特開2024-40796上下動低減装置、作業船および作業船の上下動低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040796
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】上下動低減装置、作業船および作業船の上下動低減方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 39/00 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
B63B39/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145382
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】高村 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】経塚 雄策
(57)【要約】
【課題】 瀬取り作業の稼働率を向上させることができる装置、作業船および方法を提供すること。
【解決手段】 作業船の上下動低減装置は、作業船の外舷の水中に配設される没水平板40と、作業船の所定位置における上下動を検出するセンサ41と、センサ41の検出結果に基づき、没水平板40の上下動を制御するコントローラ43とを含む。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業船の上下動低減装置であって、
前記作業船の外舷の水中に配設される没水平板と、
前記作業船の所定位置における上下動を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づき、前記没水平板の上下動を制御する制御手段と
を含む、上下動低減装置。
【請求項2】
前記没水平板は、前記作業船の外舷の一方側からのみ突出するように配設される、請求項1に記載の上下動低減装置。
【請求項3】
前記没水平板に接続され、該没水平板を上下動させる動力手段を含み、
前記制御手段は、前記動力手段の動作を制御することにより前記没水平板の上下動を制御する、請求項1または2に記載の上下動低減装置。
【請求項4】
前記作業船は、前記外舷の一方側に、前記没水平板を上下動可能に収容する凹部を有する、請求項2に記載の上下動低減装置。
【請求項5】
上下動低減装置を備える作業船であって、
前記上下動低減装置が、
前記作業船の外舷の水中に配設される没水平板と、
前記作業船の所定位置における上下動を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づき、前記没水平板の上下動を制御する制御手段と
を含む、作業船。
【請求項6】
前記作業船の外舷もしくは船底またはその両方に、該作業船の水平方向へ移動させるための1以上の推進手段を含み、
前記1以上の推進手段は、前記作業船の水平方向の位置を保持する、請求項5に記載の作業船。
【請求項7】
前記没水平板は、前記作業船の外舷の一方側からのみ突出するように配設される、請求項5または6に記載の作業船。
【請求項8】
作業船の上下動を低減する方法であって、
検出手段により前記作業船の所定位置における上下動を検出するステップと、
前記検出手段の検出結果に基づき、制御手段により前記作業船の外舷の水中に配設される没水平板の上下動を制御するステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業船の上下動低減装置、作業船および作業船の上下動低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電施設等の洋上構造物の海上施工を行う場合、作業船として、自己昇降式作業台船(SEP船)を使用し、岸壁で建設資材を積み込み、設置海域へ移動して設置作業を行う。このとき、SEP船が、設置海域に留まり、別の作業船である運搬台船等を使用して建設資材を運搬し、瀬取りによってSEP船上または現地に設置することができれば、高価なSEP船の占有時間が減り、施工費の低減に寄与する。ここで、瀬取りとは、海上で行う船舶同士の楊重作業のことである。
【0003】
ただし、海上において運搬台船から建設資材等の重量物を吊り上げる場合、SEP船が固定されていても、波浪により運搬台船が常時動揺しているため、非常に危険な作業となる。
【0004】
運搬台船は、箱型の積載能力に優れた形状を有する船舶であるが、波浪による動揺が大きい。このため、瀬取り作業で利用する場合、アンカーにより複数箇所で係留するか、船底に設けられたプロペラを制御して位置を保持する機能を有する自動船位保持装置(DPS)を利用して、運搬台船の動揺を低減させることができる。
【0005】
このような方法では、海面に平行な水平方向の変位については、アンカー係留やDPSによる推進力によって十分に低減させることができるが、海面に対して垂直な上下方向の動揺については、低減効果が小さいという問題がある。
【0006】
そこで、上下方向の動揺を低減する技術として、船首に取り付けたフィンをアクティブに駆動する技術(非特許文献1参照)、6本の油圧シリンダからなるパラレルメカニズム装置により船体の運動を吸収する技術(非特許文献2参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】金本 真美子、芳村 康男、「アクティブフィンによる減揺と推進性能への効果」、平成28年11月22日、日本船舶海洋工学会講演会論文集、第23号、p.389-392
【非特許文献2】田中 豊、“油圧モーションベースを用いた動揺吸収装置”、[online]、2018年11月、計測と制御、第57巻、第11号、[令和4年7月22日検索]、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl/57/11/57_803/_pdf/-char/ja>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
瀬取り作業の稼働率を向上させるためには、クレーンで吊り上げる吊り荷がある場所の動揺が出来るだけ小さい方が望ましい。しかしながら、非特許文献1の従来技術では、船体全体の回転運動を含めた上下動を低減することを目的としている。また、非特許文献2の従来技術では、装置の上だけを対象とした装置であり、クレーン作業の対象となる重量物の制御を実施するために非常に大きな装置を必要とする問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、作業船の上下動低減装置であって、
作業船の外舷の水中に配設される没水平板と、
作業船の所定位置における上下動を検出する検出手段と、
検出手段の検出結果に基づき、没水平板の上下動を制御する制御手段と
を含む、上下動低減装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、瀬取り作業の稼働率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】SEP船による風車部材の瀬取りの概念図。
図2】起伏式クレーン船によるジャケット基礎の瀬取りの概念図。
図3】運搬台船の一例を示した図。
図4】上下動低減装置の構成例を示した図。
図5】上下動低減装置の別の構成例を示した図。
図6】数値解析を行う解析モデルの一例を示した図。
図7】運搬台船のP1~P5の位置での上下揺れ応答特性を示した図。
図8】運搬台船のS1~S5の位置での上下揺れ応答特性を示した図。
図9】月別平均有義波高と平均有義周期の関係を示した図。
図10】有義波高・波向別出現頻度分布を示した図。
図11】5年間の有義波高・有義周期別の出現頻度分布を示した表。
図12】5月から9月の5年間の有義波高・有義周期別の出現頻度分布を示した表。
図13】運搬台船のP1~P5の位置での月別稼働率を示した図。
図14】運搬台船のS1~S5の位置での月別稼働率を示した図。
図15】各位置での5月~9月の平均稼働率を示した図。
図16】上下動低減装置による上下動を低減する動作の流れを示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の上下動低減装置、作業船および作業船の上下動低減方法について説明する前に、洋上構造物の海上施工について説明する。図1は、洋上構造物の一例として、洋上風力発電施設を構成する風車部材の瀬取りの概念図である。なお、洋上構造物は、洋上風力発電施設に限定されるものではない。SEP船10は、作業船の1つで、台船11と、昇降用脚12と、クレーン13とを有する。SEP船10は、昇降用脚12を海底まで降下させることにより設置海域に固定され、台船11を海面上に上昇させた後、クレーン13等を使用して風車部材の設置作業等を行う。
【0013】
SEP船10は、岸壁で数基分の風車部材等を搭載し、設置海域に移動して設置作業を行うことができる。しかしながら、SEP船10に建設資材を積み、岸壁から設置海域へ移動し、再び建設資材を積むために、岸壁を戻ることを繰り返すと、高価なSEP船10の占有時間が長くなり、施工費が高くなる。このため、SEP船10は、昇降用脚12を降ろし、台船11を水面上に上昇させた状態で維持し、建設資材は、作業船の1つである運搬台船14を使用して運搬することができる。これにより、SEP船10の移動がなくなり、高価なSEP船10の占有時間が減少し、施工費の低減につなげることができる。
【0014】
風力発電設備は、図2に示すように、起伏式クレーン船20により風力発電設備の土台部分となるジャケット基礎21がクレーンで吊り上げられ、海底に設置される。起伏式クレーン船20は、クレーン作業等を行うとき、アンカーを投錨して設置海域に固定される。
【0015】
ジャケット基礎21および杭22は、起伏式クレーン船20で岸壁から設置海域へ運び、貫入および設置することができる。しかしながら、起伏式クレーン船20で運搬まで行うと、海上施工の期間が長くなり、施工費が高くなる。このため、起伏式クレーン船20も、SEP船10と同様に、アンカーを投錨して設置海域に固定した状態で維持し、運搬台船14を使用してジャケット基礎21を安価に設置することができる。
【0016】
図2に示す例では、起伏式クレーン船20は、運搬台船14が甲板上に2基のジャケット基礎21を載せてきた1基を吊り上げている(瀬取りしている)状況を示している。なお、基礎形式は、ジャケット基礎21を用いたジャケット式に限定されるものではなく、モノパイル式、トリポッド式であってもよい。
【0017】
図1に示す例では、SEP船10によりタワー15を設置し、甲板式の運搬台船14が甲板上に風車部材16を載せて運搬している。風車部材16は、風車を構成する3枚のブレードと、3枚のブレードが接続されるハブを有するロータ軸と、ロータ軸に接続され、ロータ軸の回転により発電する発電機と、ロータ軸に接続され、ロータ軸の回転を停止させるブレーキ装置と、風車の回転を発電に必要な回転数まで高める増速機と、ロータ軸の向きを風向に追従させるヨー制御装置と、風向・風速計とを含む。発電機やブレーキ装置等は、筐体としてのナセル内に収納される。ナセルは、防水・防音の役割も果たす。
【0018】
図1では、運搬台船14の甲板上に、発電機等を収納したナセルにロータ軸を介して2枚のブレードが接続された部材と、1枚のブレードとが、風車部材16として運搬されている。SEP船10は、クレーン13を使用し、風車部材16を吊り上げ、既に設置したタワー15上に風車部材16を設置する。具体的には、2枚のブレードが接続された部材を先にタワーの頂部に設置し、ハブに残りの1枚のブレードを取り付ける。このようにして、海上施工により風力発電設備を設置することができる。
【0019】
ところで、海上において運搬台船14から風車部材16等の重量物を吊り上げる場合、SEP船10が固定されているとしても、運搬台船14は、波浪等により常時動揺している。このため、重量物が水平方向および上下方向に変位し、そのまま引き上げると近隣の作業員や他の重量物への衝突等の可能性があり、非常に危険な作業となる。重量物を吊り上げる楊重作業は、作業限界波高等の海象条件が重要となり、海象条件が良好で瀬取り作業を安全・効率的に行える、瀬取り作業が実施できる時間(例えば、波が穏やかな時間)に行う必要がある。
【0020】
作業限界波高は、作業船で作業を行える限界の波高である。海象条件は、波高のほか、波向き、波長、周期等がある。ここで、全体時間をx時間とし、x時間のうちの船体の動揺が小さく瀬取り作業が実施できる時間をy時間とした場合、時間yを全体時間xで除算し、100を掛けた値を稼働率(%)として表す。稼働率は、全体時間に対する瀬取り作業を実施できる時間の割合を示し、稼働率が大きいほど、瀬取り作業を実施できる時間が長いことを示す。
【0021】
太平洋側では、年間を通じてうねりの出現頻度が高く、うねりの影響で稼働率が非常に小さくなる。クレーン作業が可能なように運搬台船14の船体の動揺を低減させることができれば、瀬取り作業の稼働率を向上させることができる。このため、運搬台船14の船体の動揺を低減させることが重要となる。
【0022】
図3を参照して、運搬台船14について説明する。図3(a)は、運搬台船14の一例を示した側面図で、図3(b)は、その平面図である。運搬台船14は、船体の前後(船首と船尾)にテーパが形成され、水平方向に面積が大きい箱型の台船であり、積載能力に優れている。運搬台船14は、甲板上に建築資材等を載せて運搬することができる。運搬台船14は、クレーン車両等の重機を載せていてもよく、岸壁等に係留する際に使用されるウィンチや、錨を引き上げる揚錨機(ウィンドラス)等を搭載していてもよい。
【0023】
運搬台船14は、水平方向に面積が大きい箱型の台船であるため、波浪による揺動が大きい。このため、瀬取り作業で利用する場合、アンカーにより複数箇所で係留するか、DPSにより船底に設置されたプロペラを制御して位置を保持し、クレーン作業が可能な限り船体の動揺を低減させる必要がある。図3に示す運搬台船14は、船底に旋回式の推力発生装置(スラスタ)30を備えている。スラスタ30は、360°旋回可能で、船体の長手方向の前後の所定位置の船底に4つ設けられている。運搬台船14は、これら4つのスラスタ30のプロペラの向きや回転数等を制御し、船体を所定の方向へ移動させ、波浪による動揺を低減させることができる。なお、スラスタ30は、一隻の運搬台船14に対して4つに限定されるものではない。
【0024】
スラスタ30による運搬台船14の動揺を低減させる効果については、水平方向に対して高い効果を有するが、上下方向に対してはその効果はない。
【0025】
そこで、運搬台船14に上下動低減装置を設置し、上下動低減装置により波浪による運搬台船14の上下方向の動揺を低減させる。すなわち、運搬台船14は、DPSと、上下動低減装置とを備え、DPSにより水平方向の動揺を低減させた上で、上下動低減装置により上下方向の動揺を低減させる。
【0026】
上下動低減装置は、瀬取り作業の稼働率向上を目的とするため、運搬台船14全体の上下動を低減させることを目的とはせず、吊り荷の場所(船体の一部)に限定した上下動の低減を目的とする。このような特定の箇所に限定した上下動の低減を実現するため、上下動低減装置は、図4に示すように、運搬台船14の外舷(船体の側面)から突出するように水中に配設されたり、船形を工夫して曳船などが運搬台船14に近接しても問題ない位置に設置した没水平板40を含む。運搬台船14を新造する場合、接岸時などでも邪魔にならない場所に没水平板40が設置されるように、台船の形状を変更してもよい。没水平板40は、限りなく船の側壁に近隣していてもよいし、少し離れていてもよい。
【0027】
船体の上下方向の動揺は、船体重心位置(中心)の上下動と、船体の回転動との相互影響により大きく変化する。船体の動揺は、船首から船尾へ向かう波向き0°の縦波時に比べ、右舷から左舷もしくは左舷から右舷へ向かう波向き90°の横波時の方が大きくなる。したがって、船体の上下方向の動揺は、横波時の船体の回転動揺を低減させることにより、低減させることができるものと考えられる。
【0028】
横波時の船体の回転動揺は、船体の船首から船尾へと延び、船体の左舷および右舷の両方から突出するように張り出したフィンを設けることで低減させることができる。これは、船体全体の上下動を低減するものである。瀬取り作業の稼働率向上を目的とする場合、吊り荷の場所に限定して上下動を低減できればよい。
【0029】
図4に示すように、運搬台船14の外舷の一方側(左舷側:紙面に向かって上側)の甲板上であって、運搬台船14の長手方向の略中央位置を吊り荷の場所とした場合、吊り荷の場所における回転動揺を低減させるため、吊り荷の場所に近隣した位置の左舷とその反対側の右舷とに没水平板40を設けることができる。
【0030】
しかしながら、左舷側に吊り荷がある場合、運搬台船14は、左舷側をSEP船10に近づけて配置することになる。このとき、左舷側に没水平板40が設置されていると、クレーン作業の邪魔になったり、船体同士の接触による損傷が懸念される。このため、図4に示すように、吊り荷がある左舷側とは逆の右舷側にのみ、没水平板40を設けることができる。
【0031】
没水平板40は、波向きを変化させるものであり、片側に設置するのみでも、片側の上下動を抑制し、その結果として、その反対側の上下動も抑制することができる。
【0032】
既存の運搬台船14に対しては、没水平板40を後から設置可能な位置であれば、吊り荷の場所を考慮し、外舷の一方のいずれの位置に設置してもよい。一方、新しく運搬台船14を建造する場合は、船体を、図5(a)に示すように、没水平板40の大きさだけ凹ませるなどして凹部50を形成し、施工時の不便さを解消させる位置として凹部50内に収納された形で設置することも可能である。なお、没水平板40は、図4および図5(a)に示すように、船体の片側に1箇所だけの設置に限定されるものではない。したがって、図5(b)に示すように、船体の片側に2枚など、複数枚設置してもよく、図5(c)に示すように、船体の片側に複数の凹部50を形成し、複数の凹部50内に複数枚の没水平板40を設置してもよい。
【0033】
再び図4を参照して、吊り荷の場所は、常に一定の場所とは限らない。このため、吊り荷の場所に応じて没水平板40を上下動させる制御(アクティブコントロール)が必要となる。
【0034】
上下動低減装置は、アクティブコントロールによって没水平板40を水面方向に向けて上下動させるべく、船体の所定位置における上下動を検出する検出手段(センサ)41と、没水平板40を上下動させる動力手段(アクチュエータ)42と、センサ41の検出結果に基づき、アクチュエータ42の動作を制御することにより没水平板40の上下動を制御する制御手段(コントローラ)43とを含むことができる。
【0035】
センサ41は、変位センサ、速度センサ、加速度センサ等であり、船体の所定位置の上下動を検知する。また、センサ41は、GPS(Global Positioning System)などの測位機と組み合わせて利用してもよい。センサ41は、吊り荷の場所に応じて1つのセンサを移動させて使用してもよいし、予め複数のセンサを設置し、吊り荷の場所に応じて検出結果を取得するセンサを切り替えてもよい。アクチュエータ42は、例えば伸縮可能なアームを有し、アームを伸縮させ、没水平板40を水面方向へ上下動させる。コントローラ43は、プロセッサおよびメモリ等を備え、センサ41の検知結果に基づき、アクチュエータ42の動作を制御する。センサ41とコントローラ43とは、有線、無線のいずれで通信可能に接続されていてもよい。
【0036】
コントローラ43は、吊り荷の場所の上下動をなくすようにアクチュエータ42に対して指示し、没水平板40を上下動させる。没水平板40を上下動させることにより、所定位置の上下動を相殺して、当該所定位置における上下動を低減させることができる。
【0037】
コントローラ43による具体的な制御について説明すると、左舷側の略中央位置Pに吊り荷があり、位置Pが沈む方向に変位しようとする場合、船体の重心を中心として回転し、その反対側である右舷側が上方へ変位しようとする。没水平板40により、その上方への変位が抑制されるが、その変位を抑制するべく、コントローラ43は、没水平板40を下方に移動させ、位置Sが浮き上がろうとするのを抑制し、位置Pの沈む方向への変位を抑制する。位置Pが浮き上がる方向に変位しようとする場合は、反対に、没水平板40を上方に移動させるように制御する。なお、吊り荷の場所が、左舷側の略中央位置以外であっても、没水平板40を上下動させる量や速度等を制御することで、吊り荷の場所の上下動を低減させることができる。
【0038】
没水平板40の大きさと制御に必要なエネルギー(アクチュエータ42の性能)には相関があり、没水平板40の大きさとアクチュエータ42の性能を変更することで、様々な形態での利用が可能となる。
【0039】
図6は、数値解析を行う解析モデルを例示した図である。図6に示す解析モデルを使用し、波周期および波向きの変化に伴う運搬台船14上の各位置(P1~P5、S1~S5)における波浪応答特性を求めた。波浪応答特性は、周期ごとの応答関数である。
【0040】
図7は、位置P1~P5における波浪応答特性を表した図であり、図8は、位置S1~S5における波浪応答特性を表した図である。図7および図8の横軸は、各周期を示し、縦軸は、波浪応答特性として、波高1mに対する上下方向の変位振幅の大きさ(上下揺れ波浪応答関数)を示す。
【0041】
S1~S5で示す位置の側(S側)を波上側とし、P1~P5で示す位置の側(P側)を波下側とすると、波向き0°では、波上側と波下側とで、各周期の応答特性がほとんど変化しないが、波向き45°では少し変化している。横揺れの影響を受けた波向き90°では、その変化が大きくなり、上下方向の動揺において横揺れの影響が大きいことが分かる。
【0042】
図9は、秋田県沖(北緯40度12分38秒、東経139度39分40秒の位置)で計測された2015~2019年の5年分の波浪観測データから算出された各月で平均した有義波高と有義周期の関係を示した図である。観測地点で連続する波を1つずつ観測し、波高の高い方から順に全体の1/3の個数を選び、その波高と周期を平均化した結果を有義波高ならびに有義周期と称している。
【0043】
図9を参照すると、5~9月が、月平均の有義波高が1m以下であり、波が穏やかで瀬取り作業に適した時期であることが分かる。
【0044】
図10は、上記の5年分の波浪観測データから算出された年間、5~9月、10~4月の有義波高・波向別出現頻度分布を示した図である。図10では、各期間において、各波高・波向の有義波がどの程度の頻度で出現しているかの分布を示している。図10からも分かるように、5m以上の波高の有義波は存在しないが、年間、10~4月の期間においては、1.5m未満および1.5~5m未満の波高の有義波が存在し、5~9月の期間においては、1.5m未満の波高の有義波のみとなっている。また、波向は、南西(SW)から北北東(NNE)の範囲の方向となっている。
【0045】
図11は、年間の有義波高・有義周期別の出現頻度分布を示した図で、図12は、5~9月の有義波高・有義周期別の出現頻度分布を示した図である。図11図12の表中の縦欄は周期の範囲を示し、横欄は波高の範囲を示す。年間では、波高は0.00~11.00mの範囲、周期は3~13sの範囲に分布している。
【0046】
5~9月の期間に絞って見てみると、波高は0.00~5.50mの範囲、周期は3~12sの範囲に分布し、その範囲が狭くなっている。年間では、波高1.5m未満が約60%であるが、5~9月では、波高1.5m未満が約85%であり、波高1.5m未満の時間が多いことが分かる。
【0047】
図13は、運搬台船14のP1~P5の位置での月別稼働率を示した図で、図14は、運搬台船14のS1~S5の位置での月別稼働率を示した図である。横軸は月を示し、縦軸は稼働率(%)を示す。稼働率は、波浪観測データと波浪応答特性から算出した各位置での上下揺れ応答が10cm未満となる時間を、瀬取り作業が実施できる時間とし、その瀬取り作業が実施できる時間を、全体時間(1か月単位)で除し、100倍した値として算出される。
【0048】
ここで、上下揺れ応答を10cm未満となる時間を代表して稼働率とした理由は、船体の上下揺れの動揺速度がクレーンの巻き上げ速度より遅くなっている状態が想定できるためである。船体の動揺速度がクレーンの巻き上げ速度より遅い場合、吊り荷の地切り時に、船体からの偏芯荷重を吊り荷に与えることなく、安全に作業を実施することができる。地切りは、荷を吊り上げて地上から離すことであり、偏芯荷重は、船体の質量の中心(重心)が剛性の中心(剛心)から離れた位置にかかる荷重である。
【0049】
図13および図14を参照してみると、波向き0°の縦波時は、波向き90°の横波時に比較して、全ての月にわたって稼働率が高くなっている。施工時の波向きは、作業の種類等によって、必ずしも制御することができるとは限らず、風向きの変化によって、波向きが多少変化することを考慮すると、横波時の稼働率を向上させることができれば、全体の稼働率も向上することが分かる。
【0050】
図15は、没水平板40なしの場合、および没水平板40を設置し、P1で示す位置、P3で示す位置、P5で示す位置を制御した場合における各位置での各波向の稼働率を示した図である。没水平板40をS3で示す位置に近隣した外舷に設置し、コントローラ43により没水平板40の上下動を制御し、任意の吊り荷の位置における上下動を低減させると、解析上、上下動を0にすることができ、稼働率は100%にすることと同意となる。したがって、図15に示す解析結果でも、P1で示す位置を制御した場合、P1で示す位置の稼働率が100%となり、P3で示す位置を制御した場合、P3で示す位置の稼働率が100%となり、P5で示す位置を制御した場合、P5で示す位置の稼働率が100%となる。
【0051】
P1で示す位置を制御した場合、制御した稼働率100%となる左舷側船体位置であるP1に近隣したP2で示す位置の稼働率も、没水平板40なしの場合より高くなっている。このことは、P3で示す位置を制御した場合、P3に近隣したP1、P2およびP4で示す位置の稼働率も、没水平板40なしの場合より高くなっている。P5で示す位置を制御した場合、P5に近隣したP4で示す位置の稼働率も、没水平板40なしの場合より高くなっている。
【0052】
図15に示す結果は、解析結果であり、実際には、稼働できる没水平板40の上下変位幅等で、全ての応答をなくすことはできない。したがって、実際には、稼働率を100%にすることはできない。ただし、稼働率が100%に近いことは、対象の吊り荷がある位置の上下変位を10cm以下にできる時間が、5~9月の期間においては、ほとんどの時間であることを意味する。したがって、5~9月の期間におけるほとんどの海象条件で瀬取り作業を実施できることから、海象条件をかなり広く設定することができ、瀬取り作業が大きくしやすくなることが分かる。
【0053】
ただし、没水平板40を設置する右舷側船体位置S1~S5では、当然のことながら稼働率が大きく低下する。吊り荷が没水平板40側にある場合は、制御効率は左舷側船体位置P1~P5より悪くなるが、右舷側船体位置S1~S5の稼働率を向上させるように上下動低減装置を制御すればよい。
【0054】
図16は、上下動低減装置による上下動を低減する動作の流れを示したフローチャートである。上下動低減装置による上下動を低減する動作は、運搬台船14が目的の海域に到着し、DPSにより船底に設置されたプロペラを制御し、水平方向の位置を保持した状態で、ステップ100から開始する。
【0055】
ステップ101では、センサ41が、運搬台船14の吊り荷がある所定位置における上下動を検出する。
【0056】
ステップ102では、コントローラ43が、センサ41の検出結果をセンサ41から取得し、検出結果に基づき、アクチュエータ42の制御方向(上方向か、下方向か)、制御量を算出し、アクチュエータ42に対して制御方向、制御量を通知し、制御を指令する。ステップ103で、アクチュエータ42が、コントローラ43からの指令に基づき、アクチュエータ42の伸縮動作により没水平板40を上下動させる。
【0057】
ステップ104では、瀬取り作業が終了したかを判断し、終了していない場合、ステップ101へ戻り、上下動の制御を継続する。一方、瀬取り作業が終了した場合、ステップ105へ進み、上下動の制御を終了する。運搬台船14は、DPSによる水平方向の位置を保持する動作から次の施工場所や岸壁等へ移動する動作に切り替え、移動を開始させることができる。
【0058】
以上に説明してきたように、運搬台船14等の作業船の上下動を低減させ、瀬取り作業の稼働率を向上させることができる。また、没水平板40を外舷の片側のみに設置することができるため、クレーン作業の邪魔になることや、船体同士の接触による損傷を防止することができる。
【0059】
これまで本発明の上下動低減装置、作業船および上下動低減方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0060】
10…SEP船
11…台船
12…昇降用脚
13…クレーン
14…運搬台船
15…タワー
16…風車部材
20…起伏式クレーン船
21…ジャケット基礎
22…杭
30…スラスタ
40…没水平板
41…センサ
42…アクチュエータ
43…コントローラ
図1
図2
図3
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図5
図6
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図16