(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004080
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】鋳造用器具並びにこれを用いた鋳造方法および鋳物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 43/00 20060101AFI20240109BHJP
B22D 41/04 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B22D43/00 A
B22D41/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103547
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】原田 淳司
(72)【発明者】
【氏名】松原 直希
【テーマコード(参考)】
4E014
【Fターム(参考)】
4E014NA14
(57)【要約】
【課題】取鍋の鍋口にムシロを配置し、このムシロで不純物を堰き止めつつ鍋口から注湯を行う鋳込み法に使用する器具であって、ムシロのセットおよび保持を容易かつ適切に行うことができる鋳造用器具を提供する。
【解決手段】先端側に水平方向で二股状となった二股棒状部3を有し、支持体1に水平方向スライド可能に支持されるムシロ保持体2と、このムシロ保持体2の二股棒状部3に保持されるムシロを上から押さえるための部材であって、支持棒5を介して支持体1に支持される押さえ部材4を備え、筒状または袋状のムシロを、当該ムシロの筒または袋内に二股棒状部3を挿入することで、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部3に吊り下げ保持させるとともに、垂れ下がったムシロ幅方向中央部を押さえ部材4が上から押さえることができるよう構成した。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体(1)と、
先端側に水平方向で二股状となった二股棒状部(3)を有し、支持体(1)に水平方向スライド可能に支持されるムシロ保持体(2)と、
該ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に保持されるムシロを上から押さえるための部材であって、支持棒(5)を介して支持体(1)に支持される押さえ部材(4)を備え、
筒状または袋状のムシロを、当該ムシロの筒または袋内に二股棒状部(3)を挿入することで、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部(3)に吊り下げ保持させるとともに、垂れ下がったムシロ幅方向中央部を押さえ部材(4)が上から押さえることができるよう構成したことを特徴とする鋳造用器具。
【請求項2】
押さえ部材(4)は、支持棒(5)の基端部が支持体(1)に固定されることにより支持体(1)に支持され、
支持棒(5)を長手方向でしならせることによる弾性力により、押さえ部材(4)が、ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に吊り下げ保持されたムシロの幅方向中央部上面に押し付けられるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の鋳造用器具。
【請求項3】
押さえ部材(4)は、支持棒(5)の基端部が支持体(1)に枢支されることにより支持体(1)に上下回動可能に支持されるとともに、駆動手段(6)の駆動力で支持棒(5)が上下回動するように構成され、
支持棒(5)を上下回動させる駆動手段(6)の駆動力により、押さえ部材(4)が、ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に吊り下げ保持されたムシロの幅方向中央部上面に押し付けられるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の鋳造用器具。
【請求項4】
押さえ部材(4)は、支持棒(5)の基端部が支持体(1)に枢支されることにより支持体(1)に上下回動可能に支持され、
押さえ部材(4)と支持棒(5)の自重による回転モーメントにより、押さえ部材(4)が、ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に吊り下げ保持されたムシロの幅方向中央部上面に押し付けられるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の鋳造用器具。
【請求項5】
さらに、器具を移動させるために支持体(1)が搭載される台車(7)を備えることを特徴とする請求項1に記載の鋳造用器具。
【請求項6】
支持体(1)を伸縮させることによりムシロ保持体(2)と押さえ部材(4)を高さ調整可能としたことを特徴とする請求項1に記載の鋳造用器具。
【請求項7】
さらに、支持体(1)を保持するロボットアーム(17)を備え、該ロボットアーム(17)を動作させることで支持体(1)を位置調整可能としたことを特徴とする請求項1に記載の鋳造用器具。
【請求項8】
押さえ部材(4)は、その下端部にムシロに食い込むことができる突起(8)を有することを特徴とする請求項1に記載の鋳造用器具。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の鋳造用器具(A)を用いた鋳造方法であり、取鍋(B)に保持された金属溶湯を下記(i)~(iv)の手順で鋳型(C)に注湯することを特徴とする鋳造方法。
(i)鋳造用器具(A)が備えるムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に筒状または袋状のムシロ(x)を吊り下げ保持させる。その際、ムシロ(x)の筒または袋内に二股棒状部(3)を挿入することで、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部(3)に吊り下げ保持されるとともに、押さえ部材(4)が垂れ下がったムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態とする。
(ii)鋳造用器具(A)を移動させることにより、上記(i)の状態でムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に保持されたムシロ(x)を取鍋(B)の鍋口(b)の上に位置させる。
(iii)ムシロ保持体(2)を支持体(1)に対して水平方向にスライドさせることにより、ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)を筒状または袋状のムシロ(x)から引き抜き、ムシロ(x)が鍋口(b)の形状に沿って鍋口(b)の上に置かれるとともに、押さえ部材(4)がムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態とする。
(iv)取鍋(B)を傾動させることにより、ムシロ(x)により不純物を堰き止めつつ金属溶湯を鍋口(b)から鋳型(C)に注湯する。
【請求項10】
前記(i)の工程では、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部(3)に吊り下げ保持されたムシロ(x)の上に、さらに別のムシロ(y)が1枚以上重ねられ、押さえ部材(4)がその上からムシロ幅方向中央部を押さえた状態とすることを特徴とする請求項9に記載の鋳造方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の鋳造用器具(A)を用いた鋳物の製造方法であり、取鍋(B)に保持された金属溶湯を下記(i)~(iv)の手順で鋳型(C)に注湯することを特徴とする鋳物の製造方法。
(i)鋳造用器具(A)が備えるムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に筒状または袋状のムシロ(x)を吊り下げ保持させる。その際、ムシロ(x)の筒または袋内に二股棒状部(3)を挿入することで、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部(3)に吊り下げ保持されるとともに、押さえ部材(4)が垂れ下がったムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態とする。
(ii)鋳造用器具(A)を移動させることにより、上記(i)の状態でムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に保持されたムシロ(x)を取鍋(B)の鍋口(b)の上に位置させる。
(iii)ムシロ保持体(2)を支持体(1)に対して水平方向にスライドさせることにより、ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)を筒状または袋状のムシロ(x)から引き抜き、ムシロ(x)が鍋口(b)の形状に沿って鍋口(b)の上に置かれるとともに、押さえ部材(4)がムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態とする。
(iv)取鍋(B)を傾動させることにより、ムシロ(x)により不純物を堰き止めつつ金属溶湯を鍋口(b)から鋳型(C)に注湯する。
【請求項12】
前記(i)の工程では、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部(3)に吊り下げ保持されたムシロ(x)の上に、さらに別のムシロ(y)が1枚以上重ねられ、押さえ部材(4)がその上からムシロ幅方向中央部を押さえた状態とすることを特徴とする請求項11に記載の鋳物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物の少ない鋳物製品を製造するために鋳型への注湯時に使用する鋳造用器具と、これを用いた鋳造方法および鋳物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼から鋳物を製造する場合、溶鋼を保持した取鍋を傾動させ、溶鋼を鋳型に注湯して鋳込みを行う。取鍋に保持された溶鋼の浴面にはノロやスラグなどの不純物が浮遊しており、溶鋼を注湯する際には不純物の鋳型への混入防止を図る必要がある。このため従来では、溶鋼浴面に浮遊した不純物が鍋口から流れ出ないようにするため、鍋口にムシロを配置し、このムシロで不純物を堰き止めつつ溶鋼の注湯が行われている。このように不純物の堰き止めにムシロを使用するのは、(i)ムシロは比重が小さく、鍋口で溶鋼に浮いた状態で堰として機能するため、溶鋼の注湯を妨げることなく不純物のみを堰き止めることができること、(ii)ムシロは溶鋼と接触することで燃えるが、燃え尽きるのに少なくとも30分程度はかかるため、注湯時間(一般に15分程度)中は堰として機能することができること、(iii)仮にムシロの燃え残りが鋳型内に混入しても、鋳型内の溶鋼浴面に浮上するし、溶鋼の熱で燃えてしまうため、製品の品質に悪影響を及ぼすことがないこと、などの理由によるものである。
【0003】
取鍋の鍋口にムシロを当てて不純物を堰き止めながら溶鋼の注湯を行う場合、まず、手作業や器具を用いた作業によってムシロを鍋口にセット(配置)する作業が行われる。その後、鍋口にセットしたムシロを長尺の棒状器具などを用いて注湯のあいだ押さえておくムシロの押さえ作業が行われる。
このようにムシロで不純物を堰き止めながら溶鋼の注湯を行う方法に対して、特許文献1、2には、取鍋自体に工夫を施すことにより不純物の鋳型への混入防止を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-311385号公報
【特許文献2】特開2006-326646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2の技術は、取鍋の大改造を行う必要があるため大幅なコストアップを招く問題がある。また、不純物の混入防止のために、溶鋼の通過部が狭くなるために、鋳込み終了後に取鍋内部の耐火物の補修を行う場合、作業がしづらく、補修が困難であるという問題もある。
一方、上述したムシロで不純物を堰き止めながら溶鋼の注湯を行う方法では、鍋口にムシロをセットする作業と、セットしたムシロを注湯のあいだ押さえておくムシロ押さえ作業を順に行う必要がある。しかし、これらの作業において、ムシロを鍋口にうまくセットできなかったり、セットに時間がかかったりすることがあり、また、セットできたとしても、上記両作業の間にムシロが脱落してしまうこともある。このようなトラブルが生じると、鋳込み作業の作業性が低下するだけでなく、取鍋内の溶鋼温度が低下し、溶鋼の鋳造に支障をきたすことになる。
【0006】
したがって本発明の目的は、取鍋の鍋口にムシロを配置し、このムシロで不純物を堰き止めつつ鍋口から注湯を行う際に使用する鋳造用器具であって、取鍋の鍋口にムシロをセットする作業と、鍋口にセットしたムシロを注湯のあいだ押さえておく作業を、一連の操作によって円滑かつ効率的に実施できるとともに、それらの作業中や作業間でのムシロの脱落を防止することができる鋳造用器具を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのような鋳造用器具を用いて鋳込み作業を効率的に行うことができる鋳造方法および鋳物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]支持体(1)と、
先端側に水平方向で二股状となった二股棒状部(3)を有し、支持体(1)に水平方向スライド可能に支持されるムシロ保持体(2)と、
該ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に保持されるムシロを上から押さえるための部材であって、支持棒(5)を介して支持体(1)に支持される押さえ部材(4)を備え、
筒状または袋状のムシロを、当該ムシロの筒または袋内に二股棒状部(3)を挿入することで、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部(3)に吊り下げ保持させるとともに、垂れ下がったムシロ幅方向中央部を押さえ部材(4)が上から押さえることができるよう構成したことを特徴とする鋳造用器具。
[2]上記[1]の鋳造用器具において、押さえ部材(4)は、支持棒(5)の基端部が支持体(1)に固定されることにより支持体(1)に支持され、
支持棒(5)を長手方向でしならせることによる弾性力により、押さえ部材(4)が、ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に吊り下げ保持されたムシロの幅方向中央部上面に押し付けられるようにしたことを特徴とする鋳造用器具。
【0008】
[3]上記[1]の鋳造用器具において、押さえ部材(4)は、支持棒(5)の基端部が支持体(1)に枢支されることにより支持体(1)に上下回動可能に支持されるとともに、駆動手段(6)の駆動力で支持棒(5)が上下回動するように構成され、
支持棒(5)を上下回動させる駆動手段(6)の駆動力により、押さえ部材(4)が、ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に吊り下げ保持されたムシロの幅方向中央部上面に押し付けられるようにしたことを特徴とする鋳造用器具。
[4]上記[1]の鋳造用器具において、押さえ部材(4)は、支持棒(5)の基端部が支持体(1)に枢支されることにより支持体(1)に上下回動可能に支持され、
押さえ部材(4)と支持棒(5)の自重による回転モーメントにより、押さえ部材(4)が、ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に吊り下げ保持されたムシロの幅方向中央部上面に押し付けられるようにしたことを特徴とする鋳造用器具。
【0009】
[5]上記[1]~[4]のいずれかの鋳造用器具において、さらに、器具を移動させるために支持体(1)が搭載される台車(7)を備えることを特徴とする鋳造用器具。
[6]上記[1]~[5]のいずれかの鋳造用器具において、支持体(1)を伸縮させることによりムシロ保持体(2)と押さえ部材(4)を高さ調整可能としたことを特徴とする鋳造用器具。
[7]上記[1]~[4]のいずれかの鋳造用器具において、さらに、支持体(1)を保持するロボットアーム(17)を備え、該ロボットアーム(17)を動作させることで支持体(1)を位置調整可能としたことを特徴とする鋳造用器具。
[8]上記[1]~[7]のいずれかの鋳造用器具において、押さえ部材(4)は、その下端部にムシロに食い込むことができる突起(8)を有することを特徴とする鋳造用器具。
【0010】
[9]上記[1]~[8]のいずれかの鋳造用器具を用いた鋳造方法であり、取鍋(B)に保持された金属溶湯を下記(i)~(iv)の手順で鋳型(C)に注湯することを特徴とする鋳造方法。
(i)鋳造用器具(A)が備えるムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に筒状または袋状のムシロ(x)を吊り下げ保持させる。その際、ムシロ(x)の筒または袋内に二股棒状部(3)を挿入することで、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部(3)に吊り下げ保持されるとともに、押さえ部材(4)が垂れ下がったムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態とする。
(ii)鋳造用器具(A)を移動させることにより、上記(i)の状態でムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に保持されたムシロ(x)を取鍋(B)の鍋口(b)の上に位置させる。
(iii)ムシロ保持体(2)を支持体(1)に対して水平方向にスライドさせることにより、ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)を筒状または袋状のムシロ(x)から引き抜き、ムシロ(x)が鍋口(b)の形状に沿って鍋口(b)の上に置かれるとともに、押さえ部材(4)がムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態とする。
(iv)取鍋(B)を傾動させることにより、ムシロ(x)により不純物を堰き止めつつ金属溶湯を鍋口(b)から鋳型(C)に注湯する。
[10]上記[9]の鋳造方法において、前記(i)の工程では、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部(3)に吊り下げ保持されたムシロ(x)の上に、さらに別のムシロ(y)が1枚以上重ねられ、押さえ部材(4)がその上からムシロ幅方向中央部を押さえた状態とすることを特徴とする鋳造方法。
【0011】
[11]上記[1]~[8]のいずれかの鋳造用器具を用いた鋳物の製造方法であり、取鍋(B)に保持された金属溶湯を下記(i)~(iv)の手順で鋳型(C)に注湯することを特徴とする鋳物の製造方法。
(i)鋳造用器具(A)が備えるムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に筒状または袋状のムシロ(x)を吊り下げ保持させる。その際、ムシロ(x)の筒または袋内に二股棒状部(3)を挿入することで、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部(3)に吊り下げ保持されるとともに、押さえ部材(4)が垂れ下がったムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態とする。
(ii)鋳造用器具(A)を移動させることにより、上記(i)の状態でムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)に保持されたムシロ(x)を取鍋(B)の鍋口(b)の上に位置させる。
(iii)ムシロ保持体(2)を支持体(1)に対して水平方向にスライドさせることにより、ムシロ保持体(2)の二股棒状部(3)を筒状または袋状のムシロ(x)から引き抜き、ムシロ(x)が鍋口(b)の形状に沿って鍋口(b)の上に置かれるとともに、押さえ部材(4)がムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態とする。
(iv)取鍋(B)を傾動させることにより、ムシロ(x)により不純物を堰き止めつつ金属溶湯を鍋口(b)から鋳型(C)に注湯する。
[12]上記[11]の製造方法において、前記(i)の工程では、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部(3)に吊り下げ保持されたムシロ(x)の上に、さらに別のムシロ(y)が1枚以上重ねられ、押さえ部材(4)がその上からムシロ幅方向中央部を押さえた状態とすることを特徴とする鋳物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鋳造用器具は、取鍋の鍋口にムシロを配置し、このムシロで不純物を堰き止めつつ鍋口から注湯を行う際に使用した場合に、ムシロを押さえながら取鍋の鍋口にセットすることができ、かつ注湯のあいだムシロを押さえておくことができるので、取鍋の鍋口にムシロをセットする作業と、鍋口にセットしたムシロを注湯のあいだ押さえておく作業を、一連の操作によって円滑かつ効率的に実施できるとともに、それらの作業中や作業間でのムシロの脱落を防止することができる。また、作業者が取鍋との距離を保った状態で操作することができるため、作業者の安全を確保することができる。
また、そのような鋳造用器具を用いた本発明の鋳造方法および鋳物の製造方法によれば、鋳型に不純物を混入させることなく、鋳込み作業を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の鋳造用器具の一実施形態を模式的に示す平面図
【
図2】
図1の実施形態の鋳造用器具を模式的に示す側面図
【
図3】
図1の実施形態の鋳造用器具を模式的に示す正面図
【
図4】
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具を、ムシロを保持した状態で模式的に示す平面図
【
図5】
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具を、ムシロを保持した状態で模式的に示す側面図
【
図6】
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具を、ムシロを保持した状態で模式的に示す正面図
【
図7】
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具に保持されたムシロを取鍋の鍋口の上に置いた状態を、鋳造用器具の一部を断面した状態で模式的に示す図面(取鍋を鍋口側から見た正面図)
【
図8】
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具に保持されたムシロを取鍋の鍋口の上に置いた後、鋳造用器具を構成するムシロ保持体の二股棒状部をムシロから引き抜いた状態を模式的に示す平面図
【
図10】
図8の状態を、鋳造用器具の一部を断面した状態で模式的に示す図面(取鍋を鍋口側から見た正面図)
【
図11】取鍋の鍋口に配置されたムシロを
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具を構成する押さえ部材で抑えながら、溶鋼を鍋口から鋳型に注湯する状況を模式的に示す説明図
【
図12】本発明の鋳造用器具の他の実施形態を模式的に示す側面図
【
図13】
図12の実施形態の鋳造用器具を、ムシロを保持した状態で模式的に示す側面図
【
図14】本発明の鋳造用器具の他の実施形態を模式的に示す側面図
【
図15】
図14の実施形態の鋳造用器具を、ムシロを保持した状態で模式的に示す側面図
【
図16】本発明の鋳造用器具の他の実施形態を模式的に示す側面図
【
図17】本発明の鋳造用器具の他の実施形態を模式的に示す側面図
【
図18】本発明の鋳造用器具の他の実施形態を模式的に示すもので、
図18(A)は側面図、
図18(B)は背面図
【
図19】本発明の鋳造用器具を構成する押さえ部材とその支持棒の他の実施形態を模式的に示すもので、
図19(A)は正面図、
図19(B)は側面図
【
図20】本発明で使用する筒状のムシロと袋状のムシロを示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の鋳造用器具は、取鍋Bから鋳型Cに溶鋼などの金属溶湯(以下、金属溶湯が「溶鋼」である場合を例に説明する。)を注湯する際に、溶鋼浴面に浮遊する不純物(ノロ、スラグなど)を堰き止めるためのムシロxを取鍋Bの鍋口bの上にセット(配置)するとともに、注湯のあいだムシロxを鍋口bの位置に押えておくために使用する器具である。
図1~
図3は、本発明の鋳造用器具の一実施形態を模式的に示すもので、
図1は平面図、
図2は側面図、
図3は正面図である。
この鋳造用器具は、支持体1と、この支持体1に水平方向スライド可能に支持されるムシロ保持体2と、支持棒5を介して支持体1に支持される押さえ部材4と、器具を移動させるために支持体1が搭載される台車7などを備えている。これら器具の構成部材は、通常、金属製である。
【0015】
前記支持体1は柱状部材(支持柱)で構成され、台座部9を介して作業場所に配置されるが、本実施形態では、器具を移動させるために台車7に搭載されている。
前記ムシロ保持体2は、本体部10が略水平な棒状部材で構成されるとともに、先端側に水平方向で二股状となった二股棒状部3を有する。すなわち、この二股棒状部3は水平方向で平行な1対の棒状部30で構成される。
ムシロ保持体2は、その本体部10が支持体1に貫設された水平状のガイド孔11に挿通することで、支持体1に水平方向スライド可能に支持される。なお、鋳造用器具は、ムシロ保持体2を任意の若しくは所定のスライド位置において支持体1に脱着可能に固定できる固定手段を備えることができる。この固定手段としては、例えば、支持体1に取り付けられ、ボルトを締め込むことによってムシロ保持体2(本体部10)をガイド孔11内面に押し付け、支持体1に対して固定する手段などが例示できる。
ムシロ保持体2は、その二股棒状部3を筒状または袋状のムシロxの筒または袋内に挿入する(差し込む)ことで、ムシロxを吊り下げ保持するものである。
【0016】
前記押さえ部材4は、ムシロ保持体2の二股棒状部3に保持されるムシロxを上から押さえるための板状の部材である。この押さえ部材4は、二股棒状部3の下方位置(ムシロ保持体2がムシロxを保持するための位置にスライドした状態での二股棒状部3の下方位置)であってかつ棒状部30間の中央位置に、板面が器具幅方向に沿うように配され、その状態で略水平状の支持棒5を介して支持体1に支持されている。
したがって、この鋳造用器具は、筒状または袋状のムシロxを、当該ムシロの筒または袋内にムシロ保持体2の二股棒状部3を挿入する(差し込む)ことで、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部3に吊り下げ保持させるとともに、垂れ下がったムシロ幅方向中央部を押さえ部材4が上から押さえる(押さえ付ける)ことができるよう構成してある。なお、このように押さえ部材4がムシロ保持体2に吊り下げ保持されたムシロxを上から押さえることについては、
図4~
図6に基づいて後述する。
【0017】
押さえ部材4がムシロxを上から押さえる(押さえ付ける)ための構成としては種々の形態が考えられるが、本実施形態では、支持棒5を長手方向でしならせて、そのしなりの弾性力(復元力)により、押さえ部材4にムシロxを押さえる力を付与する。すなわち、押さえ部材4は、支持棒5の基端部が支持体1に固定されることにより支持体1に支持されており、支持棒5を長手方向でしならせることによる弾性力(復元力)により、押さえ部材4が、ムシロ保持体2の二股棒状部3に吊り下げ保持されたムシロxの幅方向中央部上面に押し付けられ、ムシロxを上から押さえる(押さえ付ける)ようにしてある。同様に、支持棒5を長手方向でしならせることによる弾性力(復元力)により、押さえ部材4が、取鍋Bの鍋口bに配置されたムシロxを上から押さえる(押さえ付ける)ようにしてある。
【0018】
このため支持棒5は、長手方向において上側に適度なしなりを生じることができるように構成され、その一端部(先端部)が押さえ部材4の背面上部に連結・固定され、他端部(基端部)が支持体1の側部に連結・固定されている。
上記のように、本実施形態では支持棒5を長手方向で上側にしならせる必要があり、また、注湯時の鍋口bの高さ変化に伴うムシロxの高さ変化に追従して支持棒5のしなりの度合いが変化するので、支持棒5は、長手方向で適度なしなりを生じるように断面2次モーメントや長さおよび太さなどが適宜選択される。
また、支持棒5を長手方向でしならせることによる弾性力(復元力)により、上記のように押さえ部材4がムシロxを上から押さえるようにするために、二股棒状部3に対する押さえ部材4の高さが適宜選択され、支持棒5が長手方向で上記のようなしなりを生じるようにする。
【0019】
台車7は、作業中に停車させておくためのブレーキ手段(図示せず)を有することが好ましい。本実施形態の台車7はキャスター付きの台車であるが、レールなどの軌道上を走行する台車でもよい。また、本発明の鋳造用器具は移動できればよいので、台車などを備えることなく、台座部9が作業場の基盤面などをスライドできるようにしてもよい。
本発明の鋳造用器具の各構成部分のサイズ・寸法は特に制限はなく、適用する取鍋Bや鍋口bのサイズ、使用するムシロxのサイズなどに応じて適宜決めればよいが、例えば、以下のようなサイズ・寸法を例示できる。すなわち、ムシロ保持体2の二股棒状部3の長さL1(
図1参照)を、使用するムシロxの長さL(
図4、
図18参照)に対してL×1.5~L×0.4程度とする。二股棒状部3を構成する1対の棒状部30の間隔L2(
図1参照)を、使用するムシロxの幅w(
図18参照)対してw×0.8~w×0.3程度とする。また、ムシロ保持体長手方向における二股棒状部3(ムシロ保持体2がムシロxを保持するための位置にスライドした状態での二股棒状部3)の先端と押さえ部材4との距離L3(
図1参照)を、使用するムシロxの長さL(
図4、
図18参照)に対してL×0.1~L×0.9程度とする。また、押さえ部材4の幅w1(
図1参照)を、1対の棒状部30の間隔L2に対してL2×0.1~L2×0.7程度とする。
【0020】
次に、
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具(ムシロ保持体2)にムシロxを保持させた状態および鋳造用器具(ムシロ保持体2)に対するムシロの取付方法を、
図4~
図6に基づいて説明する。
図4~
図6は、
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具を、ムシロを保持した状態で模式的に示すもので、
図4は平面図、
図5は側面図、
図6は正面図である。
ムシロ(莚)は、稲藁やイグサなどで編まれた編物(若しくは織られた織物)であり、通常は稲藁を材料とするものである。本発明で使用するムシロxは、筒状または袋状のものである。
図20は本発明で使用するムシロxを示すもので、
図20(ア)は筒状のムシロ、
図20(イ)が袋状のムシロを示している。
図20(ア)、
図20(イ)ともに、上段の図は平面図、下段の図が斜視図である。
図20(ア)の筒状のムシロは、平面状のムシロの一部を縫合して筒状としたものである。
図20(イ)の袋状のムシロとしては、いわゆるカマスを利用するのがよい。
本発明の鋳造用器具の各構成部材のサイズと同様、ムシロxのサイズも特に制限はなく、適用する取鍋Bや鍋口bのサイズ、器具の各構成部材のサイズなどに応じて適宜決めればよいが、例えば、幅w700~1000mm、長さL600~900mm程度のサイズを例示できる。
【0021】
ムシロ保持体2に筒状または袋状のムシロxを吊り下げ保持させる場合、ムシロxの筒または袋内に二股棒状部3を挿入することで、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部3に吊り下げ保持させる。この際、押さえ部材4を手で上方に持ち上げて支持棒5を上側にしならせ、この状態で、押さえ部材4がムシロxの上側に位置するようにして、二股棒状部3をムシロxの筒または袋内に挿入する。このとき、二股棒状部3はムシロxの全長にわたって挿入される必要はないが、ムシロxが二股棒状部3から抜け落ちたりしないようにするため、ムシロxの長さLの少なくとも1/2超の長さ部分に二股棒状部3が挿入されることが好ましい(
図4参照)。また、押さえ部材4は、なるべくムシロ長さ方向の中央部寄りの位置でムシロxを押さえるようにすることが好ましいので、保持されるムシロxの長さ方向において、その中央部からムシロ長さL×0.2以内の範囲に位置する(すなわち、その範囲内の位置でムシロxを押さえる)ことが好ましい(
図4参照)。
【0022】
上記のようにしてムシロxの筒または袋内に二股棒状部3を挿入し、ムシロxをムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部3に吊り下げ保持させることにより、押さえ部材4がムシロ幅方向中央部の上方に位置することになる。ここで、手で持ち上げていた押さえ部材4を解放することにより、しなりを生じている支持棒5の弾性力(しなりの復元力)によって、二股棒状部3から垂れ下がったムシロ幅方向中央部を押さえ部材4が上から押さえた状態(押さえ付けた状態)となる。これにより鋳造用器具に対するムシロの取り付けが完了し、鋳造用器具(ムシロ保持体2)にムシロを保持させた状態となる。
【0023】
押さえ部材4は、上述した
図1~
図6の実施形態とは異なる仕組み(機構)でムシロxを上から押さえる(押さえ付ける)ようにすることができる。
図12および
図13と、
図14および
図15は、それぞれ、そのような押さえ部材4を備えた鋳造用器具の実施形態を示している。
図12は、本発明の鋳造用器具の他の実施形態を模式的に示す側面図であり、
図13は、
図12の実施形態の鋳造用器具を、ムシロを保持した状態で模式的に示す側面図である。
この実施形態では、押さえ部材4は、支持棒5の基端部が支持体1に枢支されることにより支持体1に上下回動可能に支持されるとともに、駆動手段6の駆動力で支持棒5が上下回動するように構成されている。そして、この駆動手段6の駆動力により、押さえ部材4が、ムシロ保持体2の二股棒状部3に吊り下げ保持されたムシロxの幅方向中央部上面に押し付けられるようにしてある。
ここで、駆動手段6の駆動源としては、油圧シリンダなどの直動式アクチュエータ、ロータリアクチュエータ、モータなどが挙げられ、必要に応じて適宜な動力伝達機構を介在させることで、駆動手段6により支持棒5を上下回動させる。
【0024】
また、
図14は、本発明の鋳造用器具の他の実施形態を模式的に示す側面図であり、
図15は、
図14の実施形態の鋳造用器具を、ムシロを保持した状態で模式的に示す側面図である。
この実施形態では、押さえ部材4は、支持棒5の基端部が支持体1に枢支12されることにより支持体1に上下回動可能に支持されている。そして、押さえ部材4と支持棒5の自重による回転モーメントにより、押さえ部材4が、ムシロ保持体2の二股棒状部3に吊り下げ保持されたムシロxの幅方向中央部上面に押し付けられるようにしてある。
【0025】
図16は、本発明の鋳造用器具の他の実施形態を模式的に示す側面図であり、取鍋Bの鍋口bの高さに対応するために、ムシロ保持体2と押さえ部材4の高さ調整を可能としたものである。
この実施形態は、支持体1を伸縮させることによりムシロ保持体2と押さえ部材4を高さ調整可能としたものである。具体的には、支持体1を、下部部材13aと、この下部部材13aに対して上下昇降可能な上部部材13bで構成し、上部部材13bにムシロ保持体2をスライド可能に保持させるとともに、支持棒5を介して押さえ部材4を保持させたものである。上部部材13bは、例えば、手動で下部部材13aに対して上下にスライドさせ、適当な固定手段により任意の高さ位置で脱着可能に固定できるようにしてもよいし、適当な駆動手段で下部部材13aに対して上下にスライドさせ、任意の高さ位置で保持されるようにしてもよい。
【0026】
図17および
図18は、それぞれ本発明の鋳造用器具の他の実施形態を模式的に示す側面図であり、台車の代わりに支持体1(およびこれに支持されたムシロ保持体2と押さえ部材4)を取鍋Bに対して進退させたり、取鍋Bの鍋口bの高さなどに対応するために、支持体1(およびこれに支持されたムシロ保持体2と押さえ部材4)の高さ調整をしたりするために、支持体1をロボットアーム17(好ましくは3軸以上の自由度を有するロボットアーム17)に保持させ、このロボットアーム17を動作させることで支持体1を位置調整可能としたものである。
図17の実施形態は、支持体1を汎用6軸多関節型ロボットのロボットアーム17に保持させたものであり、ロボットアーム17の先端部170を支持体1の上端に連結することで、ロボットアーム17が支持体1(およびこれに支持されたムシロ保持体2と押さえ部材4)を保持している。当然にロボットアーム17を構成する各軸の部材(アーム部)は駆動機構で駆動する。
【0027】
図18の実施形態は、支持体1を3軸直交ロボットのロボットアーム17に保持させたものである。この実施形態のロボットアーム17は、器具幅方向に沿って設けられたレール21上を移動する第1スライダー18と、この第1スライダー18の上下方向に沿って設けられたレール22上を移動する第2スライダー19と、この第2スライダー19にシリンダ本体201が固定され、作動ロッド200がムシロ保持体2の長手方向に沿って進退するシリンダ装置20(油圧シリンダなど)を備え、ロボットアーム17の先端部170である作動ロッド200の先端部を支持体1の側部に連結することで、ロボットアーム17が支持体1(およびこれに支持されたムシロ保持体2と押さえ部材4)を保持している。第1スライダー18と第2スライダー19は、公知の駆動機構でスライド駆動する。
図17および
図18の実施形態のように支持体1(およびこれに支持されたムシロ保持体2と押さえ部材4)がロボットアーム17の保持されることにより、ロボットアーム17を動作させることで、支持体1(およびこれに支持されたムシロ保持体2と押さえ部材4)を取鍋Bに対して進退させることができ、また、取鍋Bの鍋口bの高さなどに対応するために、支持体1(およびこれに支持されたムシロ保持体2と押さえ部材4)の高さ調整を行うことができる。
ロボットアーム17は、作業者の操作に従い若しくは予めプログラムされた動作手順に従い所定の動作をし、上述したような支持体1(およびこれに支持されたムシロ保持体2と押さえ部材4)の位置調整を行う。
【0028】
図19は、押さえ部材4の他の実施形態を示すもので、
図19(A)は正面図、
図19(B)は側面図である。
この押さえ部材4は、ムシロxを上から安定して押さえることができるようにするために、その下端部にムシロに食い込むことができる突起8を有する。本実施形態では、押さえ部材4の下端部に沿って鋸歯状の突起8が設けられている。
また、この押さえ部材4は、ムシロxを上から押さえる際の押さえ力を調整するために、支持棒5の連結位置を高さ方向で調整し、支持棒5のしなりの大きさを変えられるようにしてある。押さえ部材4には、支持棒取付用の縦長の取付孔14が貫設され、一方、押さえ部材4に連結される支持棒5の先端部にはネジ部15が設けられている。この支持棒5の先端部が取付孔14に挿通されるとともに、そのネジ部15に押さえ部材4を挟むように1対のナット16が装着され、この1対のナット16を押さえ部材4を挟んで締め込むことにより、支持棒5が押さえ部材4に連結固定される。そして、縦長の取付孔14に対する支持棒5の先端部の挿通位置を選択することにより、押さえ部材4に対する支持棒5の連結位置を高さ方向で調整できるようにしてある。
【0029】
次に、上述した本発明の鋳造用器具Aを用いた鋳造方法(若しくは鋳型の製造方法)の一実施形態について、
図7~
図11に基づき説明する。以下、
図1~
図6の実施形態の器具を用いる場合について説明するが、他の実施形態の器具を用いる場合についても同様である。
ここで、
図7は、
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具に保持されたでムシロを取鍋の鍋口の上に置いた状態を、鋳造用器具の一部を断面した状態で模式的に示す図面(取鍋を鍋口側から見た正面図)である。
図8は、
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具に保持されたでムシロを取鍋の鍋口の上に置いた後、鋳造用器具を構成するムシロ保持体の二股棒状部をムシロから引き抜いた状態を模式的に示す平面図である。
図9は、
図8の状態を模式的に示す側面図、
図10は、
図8の状態を、鋳造用器具の一部を断面した状態で模式的に示す図面(取鍋を鍋口側から見た正面図)である。
図11は、取鍋の鍋口に配置されたムシロを
図1~
図3の実施形態の鋳造用器具を構成する押さえ部材で抑えながら、溶鋼を鍋口から鋳型に注湯する状況を模式的に示す説明図である。なお、
図7、
図9~
図11では、説明を分かりやすくするため、取鍋Bに溶鋼や不純物を表してある。
溶鋼の遠心鋳造では、溶解炉で合金や鉄スクラップを溶解させ、成分調整を実施する。その際には、発生した不純物(ノロ、スラグなど)を除去しておくが、溶解炉の溶鋼を取鍋に移す際にも、浴面に浮上してきた不純物を除去する。その後、取鍋をクレーンで遠心鋳造機に搬送し、注湯を実施する。この際、取鍋内の溶鋼浴面には除去しきれなかった不純物や新たに浮上しきてきた不純物が浮遊している。
【0030】
この鋳造方法では、本発明の鋳造用器具Aを用い、取鍋Bに保持された溶鋼を下記(i)~(iv)の手順で鋳型Cに注湯し、不純物の鋳型Cへの混入を防止しつつ溶鋼の鋳込みを行う(鋳物を製造する)。
(i) 鋳造用器具Aを取鍋Bからある程度離れた位置に置き、必要に応じてムシロ保持体2と押さえ部材4の高さ調整を行う(例えば
図16の実施形態の場合)。そして、鋳造用器具Aが備えるムシロ保持体2の二股棒状部3に、
図4~
図6に示すように筒状または袋状のムシロxを吊り下げ保持させる。その際、ムシロxの筒または袋内に二股棒状部3を挿入することで、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部3に吊り下げ保持されるとともに、押さえ部材4が垂れ下がったムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態(押さえ付けた状態)とする。すなわち、押さえ部材4が、しなりを生じた支持棒5の弾性力(しなりの復元力)によって、垂れ下がったムシロ幅方向中央部を上から押さえ付けた状態とする。その際の作業内容やムシロの好ましい保持条件などは、さきに説明した通りである。
(ii) 次いで、台車7により鋳造用器具Aを移動させ、上記(i)の状態でムシロ保持体2の二股棒状部3に保持されたムシロxを、
図7に示すように取鍋Bの鍋口bの上に位置させる。
【0031】
(iii) 次いで、
図8~
図10に示すように、ムシロ保持体2を支持体1に対して水平方向にスライドさせる(取鍋Bに対して後退させる)ことにより、ムシロ保持体2の二股棒状部3を筒状または袋状のムシロxから引き抜く(抜き出す)。これにより、ムシロxが鍋口bの形状に沿って鍋口bの上に置かれるとともに、しなりを生じた支持棒5の弾性力(しなりの復元力)によって、押さえ部材4がムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態(押さえ付けた状態)とする。これにより、ムシロxが鍋口bの上にセットされ、押さえ部材4により上から押さえられた状態となる。
(iv) その後、
図11に示すように取鍋Bを傾動させることにより、ムシロxにより不純物を堰き止めつつ溶鋼を鍋口bから鋳型Cに注湯し、鋳込みを行う。この注湯のあいだ、ムシロxは鍋口bの位置で溶鋼に浮いた状態で押さえ部材4で上から押さえられるため、不純物の堰として機能する。すなわち、ムシロxにより溶鋼の注湯を妨げることなく不純物のみが堰き止められ、不純物が鋳型Cに混入することが防止される。
なお、取鍋Bの傾動に伴う鍋口bの高さ変化に合わせて、必要に応じて、押さえ部材4の高さ位置を調整してもよい(例えば
図16の実施形態の場合)。
注湯終了後には、押さえ部材4を持ち上げてムシロx(燃え残ったムシロx)を解放し、ムシロxを不純物と一緒に取鍋Bに残し、鋳造用器具Aを後退させる。
【0032】
以上述べた鋳造方法(若しくは鋳型の製造方法)では、本発明の鋳造用器具Aを用いることにより、器具でムシロxを押さえながら取鍋Bの鍋口bにセットすることができ、かつ注湯のあいだムシロxを押さえておくことができる。したがって、取鍋Bの鍋口bにムシロxをセットする作業と、鍋口bにセットしたムシロxを注湯のあいだ押さえておく作業を、一連の操作によって円滑かつ効率的に実施でき、それらの作業中や作業間でのムシロxの脱落も適切に防止できる。
また、上記(ii)~(iv)の一連の工程を作業者が取鍋Bとの距離を保った状態で実施することができるため、作業者の安全を確保することができる。
【0033】
また、鋳造用器具Aとして
図12および
図13の実施形態のものを使用する場合には、上記(i)の工程では、支持棒5を上下回動させる駆動手段6の駆動力により、押さえ部材4が、ムシロ保持体2の二股棒状部3に吊り下げ保持されたムシロxの幅方向中央部上面に押し付けられる。また、上記(iii)の工程では、支持棒5を上下回動させる駆動手段6の駆動力により、押さえ部材4がムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態となる。
また、鋳造用器具Aとして
図14および
図15の実施形態のものを使用する場合には、上記(i)の工程では、押さえ部材4と支持棒5の自重による回転モーメントにより、押さえ部材4が、ムシロ保持体2の二股棒状部3に吊り下げ保持されたムシロxの幅方向中央部上面に押し付けられる。また、上記(iii)の工程では、押さえ部材4と支持棒5の自重による回転モーメントにより、押さえ部材4がムシロ幅方向中央部を上から押さえた状態となる。
また、鋳造用器具Aとして
図17や
図18の実施形態のものを使用する場合には、ロボットアーム17を動作させることにより、台車7の代わりに支持体1(およびこれに支持されたムシロ保持体2と押さえ部材4)を取鍋Bに対して進退させたり、取鍋Bの鍋口bの高さなどに対応するために、支持体1(およびこれに支持されたムシロ保持体2と押さえ部材4)の高さ調整をしたりする。
【0034】
また、溶鋼の注湯のあいだに、溶鋼との接触によりムシロxが燃えつきる懸念がある場合には、ムシロ保持体2に吊り下げ保持されたムシロxの上に追加のムシロyを1枚以上重ねるようにしてもよい。この場合には、前記(i)の工程において、ムシロ幅方向中央部が垂れ下がるように二股棒状部3に吊り下げ保持されたムシロxの上に、さらに別のムシロyを1枚以上重ね、押さえ部材4がその上からムシロ幅方向中央部を押さえた状態とする。ムシロyは、最初は溶鋼と接触しないため、長もちさせるために水に濡らしたものでもよい。
本発明の鋳造用器具とこれを用いた鋳造方法(若しくは鋳型の製造方法)は、溶鋼の鋳造だけでなく、各種金属溶湯の鋳造に適用できる。
また、本発明の鋳造方法(若しくは鋳型の製造方法)が適用される鋳造の種類や対象物も特に制限はなく、例えば、圧延ロール用のロール体を遠心鋳造する場合などが例示できるが、これに限定されない。
【符号の説明】
【0035】
1 支持体
2 ムシロ保持体
3 二股棒状部
4 押さえ部材
5 支持棒
6 駆動手段
7 台車
8 突起
9 台座部
10 本体部
11 ガイド孔
12 枢支部
13a 下部部材
13b 上部部材
14 取付孔
15 ネジ部
16 ナット
17 ロボットアーム
18 第1スライダー
19 第2スライダー
20 シリンダ装置
21,22 レール
30 棒状部
170 ロボットアーム先端部
200 作動ロッド
201 シリンダ本体
A 鋳造用器具
B 取鍋
C 鋳型
b 鍋口
x,y ムシロ