(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040807
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】内燃機関の燃料噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/12 20060101AFI20240318BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
F02D41/12
F02D41/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145402
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 建仁
【テーマコード(参考)】
3G301
【Fターム(参考)】
3G301HA01
3G301HA04
3G301JA21
3G301KA05
3G301KA16
3G301KA26
(57)【要約】
【課題】ファーストアイドルの燃焼安定性と燃費率の低下を抑制しつつ、燃料カットからの復帰時の排出粒子数を低減させることができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関1の燃料噴射制御装置は、燃料タンク4内の燃料を燃料噴射弁2a,2b,2c,2dに供給する燃料供給装置3と、この燃料供給装置を制御して、燃料噴射弁に供給する燃料と燃圧を制御する燃料制御装置20とを備える。燃料制御装置は、燃料噴射弁の燃料噴射をカットする燃料カット条件が成立したときに燃料ポンプの燃料供給能力を低下させ、燃料供給能力の低下の後、所定時間経過してから燃料カットを実行させる、ことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内の燃料を燃料噴射弁に供給する燃料供給装置と、
前記燃料供給装置を制御して前記燃料噴射弁に供給する燃料と燃圧を制御する燃料制御装置と、を備えた内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記燃料制御装置は、前記燃料噴射弁の燃料噴射をカットする燃料カット条件が成立したときに前記燃料供給装置の燃料供給能力を低下させ、
前記燃料供給能力の低下の後、所定時間経過してから燃料カットを実行させる、ことを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記燃料制御装置は、前記燃料カットから復帰するときに、前記燃料噴射弁に供給する燃圧を標準の燃圧より低い値に設定するように前記燃料供給装置を制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
燃焼室の壁温を推定する推定手段を更に備え、
前記標準の燃圧より低い値は、前記壁温に基づいて設定する、ことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記燃料制御装置は、前記燃料カットから復帰するときに、燃料カット時間と現状のエンジン回転数から推定した空気流速に基づいて燃料噴射タイミングを制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関し、更に詳しくは、内燃機関へ供給する燃料をカットした後、燃料供給の復帰を行う際の燃圧制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料カット条件の成立後に、所定のディレイ時間が経過するまで燃料供給を復帰せずに、燃料ポンプの回転数を徐々に低下させるようにした内燃機関の燃料供給装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、燃料カットが長時間続くと受熱による圧力上昇などに適切に対応しきれず、燃料供給の復帰時の燃圧が過大となる可能性がある。また、燃料カットから燃料供給の復帰までに筒内温度が低下したり、高い燃圧状態となったりするにも拘わらず、標準的な燃圧と燃料噴射タイミングで制御するため、直噴エンジンでは壁面付着量が増加してPN(Particulate Number)が多量に排出される、という課題がある。
【0005】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ファーストアイドルの燃焼安定性と燃費率の低下を抑制しつつ、燃料カットからの復帰時の排出粒子数を低減させることができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る内燃機関の燃料噴射制御装置は、燃料タンク内の燃料を燃料噴射弁に供給する燃料供給装置と、前記燃料供給装置を制御して前記燃料噴射弁に供給する燃料と燃圧を制御する燃料制御装置と、を備えた内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記燃料制御装置は、前記燃料噴射弁の燃料噴射をカットする燃料カット条件が成立したときに前記燃料供給装置の燃料供給能力を低下させ、前記燃料供給能力の低下の後、所定時間経過してから燃料カットを実行させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、内燃機関の燃料カット中の燃圧を標準よりも低い圧力に設定し、燃料カット中は低圧状態を維持することで、燃料供給の復帰時の燃圧を低くし、相対的に長く弱い燃料の噴射を行うことで粒子状物質の生成を抑制する構成とした。
従って、本発明によれば、ファーストアイドルの燃焼安定性と燃費率の低下を抑制しつつ、燃料カットからの復帰時の排出粒子数を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図1に示した燃料噴射制御装置において、燃料カットの直前から燃料供給の復帰までの動作を示すフローチャートである。
【
図3】従来と本発明を対比し、燃料カットの直前から燃料供給の復帰までの各部の第1の動作を示すタイミングチャートである。
【
図4】従来と本発明を対比し、燃料カットの直前から燃料供給の復帰までの各部の第2の動作を示すタイミングチャートである。
【
図5】従来と本発明を対比し、燃料カットの直前から燃料供給の復帰までの各部の第3の動作を示すタイミングチャートである。
【
図6】従来と本発明を対比し、燃料カットの直前から燃料供給の復帰までの各部の第4の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関の燃料噴射制御装置について説明するためのもので、関係する要部を抽出して示している。
エンジン(内燃機関、本例では4気筒)1は、筒内噴射式エンジンと呼ばれるもので、燃料であるガソリンを燃焼室であるシリンダー1a,1b,1c,1d内に高圧で直接噴射する燃料噴射弁(インジェクタ)2a,2b,2c,2dを備えている。これらの燃料噴射弁2a,2b,2c,2dは、例えば電磁コイルへの通電によって磁気吸引力が発生すると、スプリングによって閉弁方向に付勢されている弁体がリフトして開弁し、燃料を噴射する電磁式の噴射弁である。
【0010】
燃料噴射弁2a,2b,2c,2dは、各気筒のシリンダー1a,1b,1c,1dに対応して設置され、燃焼室内にガソリンをそれぞれ噴射供給するものである。燃焼室には、各吸気ポートから吸気バルブを介して吸引された空気が導入され、燃料噴射弁2から噴射されたガソリンが送り込まれて混ぜ合わされた後、点火プラグによる火花点火によって着火燃焼する。燃焼室内の燃焼ガスは、排気バルブを介して排気通路に排出される。
【0011】
エンジン1には、燃料供給装置3からガソリンが供給される。この燃料供給装置3は、燃料タンク4、燃料ポンプ(FP)5、プレッシャレギュレータ(圧力調整弁)6、オリフィス7、燃料供給配管8、燃料ギャラリー配管9、燃料戻し配管10、ジェットポンプ11、燃料移送管12及び逆止弁13などで構成されている。
燃料タンク4には、給油キャップで閉塞される給油口が開口されており、この給油キャップを外して給油口から燃料が補給される(図示せず)。
【0012】
燃料ポンプ5は、例えばモータでポンプインペラを回転駆動する電動式ポンプであり、燃料タンク4内に配置されている。燃料ポンプ5の吐出口には燃料供給配管8の一端が接続され、この燃料供給配管8の他端は燃料ギャラリー配管9に接続される。この燃料ギャラリー配管9には、その延設方向に沿って気筒数と同数の噴射弁接続部9a,9b,9c,9dが形成されており、各噴射弁接続部9a,9b,9c,9dに燃料噴射弁2a,2b,2c,2dの燃料取入口が接続されている。
【0013】
また、燃料供給配管8には、燃料ポンプ5から燃料ギャラリー配管9へと向かうガソリンの流れを通過させ、燃料ギャラリー配管9から燃料ポンプ5へと向かうガソリンの流れ(逆流)を阻止する逆止弁13が配設されている。そして、燃料ポンプ5により、燃料タンク4内のガソリンを燃料供給配管8、逆止弁13、燃料ギャラリー配管9及び噴射弁接続部9a,9b,9c,9dをそれぞれ介して燃料噴射弁2a,2b,2c,2dに圧送する。
【0014】
燃料戻し配管10は、燃料タンク4内で燃料供給配管8から分岐延設され、この燃料戻し配管10の他端は燃料タンク4内に開口される。この燃料戻し配管10には、上流側から順に、プレッシャレギュレータ6、オリフィス7及びジェットポンプ11が介装されている。
プレッシャレギュレータ6は、燃料戻し配管10を開閉する弁体6aと、該弁体6aを燃料戻し配管10の上流側の弁座に向けて押圧するコイルスプリングなどの弾性部材6bとから概略構成されている。このプレッシャレギュレータ6は、燃料噴射弁2a,2b,2c,2dに供給される燃料圧力が最小圧力FPMINを超えたときに開弁し、燃料圧力が最小圧力FPMIN以下であるときに閉弁する。
【0015】
前述のように、プレッシャレギュレータ6は、燃料噴射弁2a,2b,2c,2dに供給される燃料の圧力(燃圧)が最小圧力FPMINよりも高くなると開弁するが、プレッシャレギュレータ6の下流側に設けられるオリフィス7によって、燃料戻し配管10を介して燃料タンク4内に戻される燃料流量が絞られるようになっている。このため、燃料ポンプ5からの燃料の吐出量を、戻し流量以上に増やすことで、最小圧力FPMINを超える圧力にまで燃圧を昇圧できる。
【0016】
換言すれば、プレッシャレギュレータ6で調整される最小圧力FPMINをベースに、燃料ポンプ5の吐出量を制御することで、燃圧を機関運転状態に応じて要求される目標燃圧(目標燃圧≧FPMIN)にまで昇圧できるようになっている。
なお、燃料ポンプ5の吐出量の制御によって、最小圧力FPMINを超える燃圧にまで昇圧できる程度に、燃料戻し配管10によって燃料タンク4内に戻される燃料量(リリーフ流量)が絞られるようになっていれば良い。よって、上記オリフィス7を設けずに、例えばプレッシャレギュレータ6が流量(リリーフ流量)を絞る機能を備える構成であっても良い。
【0017】
ジェットポンプ11は、プレッシャレギュレータ6、オリフィス7を介して燃料タンク4内に戻されるガソリンの流れによって、燃料移送管12を介してガソリンを移送させるものである。燃料タンク4は、本例においては底面の一部が盛り上がって、底部空間を2つの領域4a,4bに隔てている所謂鞍型の燃料タンクであり、燃料ポンプ5の吸い込み口は領域4a内に開口する。このため、領域4b内の燃料を領域4a側に移送させないと、領域4b内の燃料が残存することになってしまう。
【0018】
そこで、ジェットポンプ11は、プレッシャレギュレータ6及びオリフィス7を介して燃料タンク4の領域4a内に戻されるガソリンの流れによって、燃料移送管12内に負圧を作用させ、燃料移送管12が開口する領域4b内のガソリンを、燃料移送管12を介してジェットポンプ11まで導き、戻し燃料と共に領域4a内に排出させている。
【0019】
マイクロコンピュータを内蔵したECU(エンジン・コントロール・ユニット)21は、燃料噴射弁2a,2b,2c,2dによる燃料噴射、点火プラグによる点火動作、電子制御スロットルの開度などを制御するものである。また、同じくマイクロコンピュータを内蔵したFPCM(フューエル・ポンプ・コントロール・モジュール)22は、燃料ポンプ5の駆動信号を出力して燃料ポンプ5を制御する。
【0020】
ECU21とFPCM22は相互に信号の送受信が可能に構成され、燃料供給装置3を制御して燃料噴射弁2a,2b,2c,2dに供給する燃料と燃圧を制御する燃料制御装置20として機能する。ECU21は、燃料ポンプ5の駆動デューティ・駆動周波数の指示信号である方形波のパルス信号PINS(駆動指示信号)をFPCM22に向けて送信する。一方、FPCM22は、パルス信号PINSの入力異常の有無などの診断を実施し、診断結果を示す診断信号(方形波パルス信号)DIAGをECU21に向けて送信する。
【0021】
ECU21には、エンジン1の運転状態を検出する各種センサからの検出信号が入力され、これらの検出信号に基づいて燃料圧力の目標値(目標燃圧)を演算する。また、このECU21は、算出した目標燃圧と実燃圧とから燃圧の規範応答モデル値を演算する。
上記各種センサとしては、負荷を検出する負荷センサ23、エンジン1の回転速度を検出する回転速度センサ24、エンジン1の冷却水温度(水温)を検出する水温センサ25、排気中の空燃比を検出する空燃比センサ26、及び燃料ギャラリー配管9における燃圧、換言すれば燃料噴射弁2a,2b,2c,2dへの燃料供給圧を検出する燃圧センサ27などが設けられている。
【0022】
ここで、負荷としては、例えば吸気流量、吸気負圧、スロットル開度及び過給圧力など、エンジン1のトルクと密接に関連する状態量を用いることができる。また、空燃比センサ26に代えて、排気中の酸素濃度に応じてエンジン1の空燃比の理論空燃比(目標空燃比)に対するリッチ・リーンRLを検出する酸素センサを設けても良い。
【0023】
ECU21は、燃圧センサ27により検出された燃圧値(実燃圧)が目標燃圧に近づくように、燃料ポンプ5の通電制御デューティ(操作量)をフィードフォワード制御及びフィードバック制御することで、燃料ギャラリー配管9における燃圧を可変制御する。
【0024】
また、このECU21は、例えば負荷センサ23、回転速度センサ24、水温センサ25、空燃比センサ26及び燃圧センサ27からの各出力信号に基づいて、要求燃料量が噴射されるように、目標空燃比の混合気を形成する燃料に見合った噴射パルス幅(噴射時間)を演算する。
そして、このECU21から各燃料噴射弁2a,2b,2c,2dに対して、個別に噴射パルス幅に相当する開弁制御パルスを適宜出力することで、燃料噴射弁2a,2b,2c,2dによる燃料噴射量及び燃料噴射タイミングを制御する。
【0025】
更に、ECU21は、燃圧センサ27で検出した燃圧(検出燃圧)及びエンジン1の運転条件に基づいて、燃料ポンプ5の駆動デューティDUTY(駆動電圧)及び駆動周波数fを決定し、この駆動デューティDUTY(%)及び駆動周波数f(Hz)に対応するデューティ(デューティ比)及び周波数の方形波パルス信号PINSを、燃料ポンプ5の駆動指示信号としてFPCM22に送信する。
【0026】
FPCM22は、ECU21から受信したパルス信号PINSに基づいて、燃料ポンプ5の駆動信号(駆動デューティDUTY及び駆動周波数f)を決定して出力する。すなわち、ECU21とFPCM22とで燃料ポンプ5の駆動を制御している。そして、このECU21とFPCM22で制御される燃料供給装置3、例えば燃料噴射弁2a,2b,2c,2dに燃料を送る燃料ポンプ5や、燃料噴射弁2a,2b,2c,2dに送られるガソリンを途中から燃料タンクに戻す経路を開閉するプレッシャレギュレータ6などで可変燃圧機構を構成している。
【0027】
また、ECU21は、エンジン1の負荷を示す基本噴射パルス幅やエンジン回転速度などに基づいて点火時期(点火進角値)を演算し、該点火時期において点火プラグによる火花放電がなされるように、点火コイルへの通電を制御する。
更に、このECU21は、アクセル開度ACCなどから電子制御スロットルの目標開度を演算し、電子制御スロットルの実開度が目標開度に近づくようにスロットルモータを駆動制御する。
【0028】
次に、上述した燃料噴射制御装置の動作を、
図2のフローチャートにより詳しく説明する。まず、ECU21で燃料カット(F/C)の条件が成立したか否か判定し(ステップST1)、成立した場合にはECU21で燃料カットディレイ(F/Cディレイ)が成立したか否か判定する(ステップST2)。燃料カットは、例えばスロットル開度が全閉で、エンジン1の回転数が所定値以上の場合に成立し、高速回転での燃料カットと、低速回転から中速回転での燃料カットの2パターンがある。上記燃料カット条件が成立しても、触媒温度が閾値以上の高温状態である場合は燃料カットを禁止し、吸気弁を閉じてタンブル流を生成して燃料カット禁止に伴う減速感の損失や燃料消費量の増大を抑制すると良い。
【0029】
そして、燃料カットディレイが成立すると、FPCM22により燃料供給装置3を制御して実燃圧を低下させる(ステップST3)。具体的には、燃料ポンプ5のポンプインペラを回転駆動するモータの回転数を低下させ、燃料ポンプ5の燃料供給能力を低下させて実燃圧を下げる。本例では、燃圧は水温の高低に応じた2つのマップで決定し、これらのマップはエンジン回転数と目標基本シリンダー空気量(TTPST)で決まる。
一方、ステップST1で燃料カットが成立しなかったと判定された場合には、成立するまでこのステップST1を繰り返す。同様に、ステップST2で燃料カットディレイが成立しなかったと判定された場合には、成立するまでこのステップST3を繰り返す。
【0030】
次のステップST4では、FPCM22により燃料供給装置3を制御して燃料カットを開始する。続いて、燃料カットからの即復帰か否か判定し(ステップST5)、即復帰であると判定されると、目標燃料噴射タイミング(目標IT)は現状値に設定し、目標燃圧は燃料カット時間と現状のエンジン回転数から空気流速の推定値を算出して設定する(ステップST6)。次に、燃料カットから燃料供給の復帰(F/Cリカバリ)を指示(ステップST7)した後、目標燃料噴射タイミングは現状値を維持し、燃圧設定は復帰後速やかにファーストアイドル、すなわちエンジン冷間始動後の回転保持の燃圧設定に戻して終了する(ステップST8)。
【0031】
一方、ステップST5で燃料カットからの即復帰ではないと判定されると、エンジン停止からの復帰か否か判定する(ステップST9)。このステップST9で、エンジン停止からの復帰と判定されると、目標燃料噴射タイミングを燃料カット時間と現状のエンジン回転数から空気流速の推定値を算出して設定し、目標燃圧も燃料カット時間と現状のエンジン回転数から空気流速の推定値を算出して設定する(ステップST10)。
【0032】
次のステップST11では、アクセルを踏んだことによる減速中からの復帰(アクセル復帰)か否か判定し、アクセル復帰と判定されるとステップST10に移動して目標燃料噴射タイミングと目標燃圧を設定する。この目標燃圧は、燃料カット時間と燃焼室の壁温の推定値から設定する。燃焼室の壁温の推定は、例えば燃料カット中の吸入空気量の積算値、エンジン回転数、外気温、水温などから算出できる。燃焼室の壁温の推定値は、アイドル状態や通常運転よりも低い設定となる。
続くステップST12では、自然復帰による減速中からの復帰(自然復帰)か否か判定し、自然復帰と判定されるとステップST10に移動して目標燃料噴射タイミングと目標燃圧を設定する。この目標燃圧も、燃料カット時間と燃焼室の壁温の推定値から設定する。自然復帰ではないと判定されると、何もせずに終了する。
【0033】
ステップST10で目標燃料噴射タイミングと目標燃圧が設定されると、燃料カットから燃料供給の復帰(F/Cリカバリ)を指示(ステップST13)した後、目標燃料噴射タイミングは現状値を維持し、燃圧設定は復帰後速やかにファーストアイドルの燃圧設定に戻して終了する(ステップST14)。
【0034】
図3乃至
図5はそれぞれ、従来と本発明を対比し、燃料カットの直前から燃料供給の復帰までの各部の動作を示すタイミングチャートである。
図3及び
図5はそれぞれ直噴エンジンで燃料カット時間が5秒以上の場合、
図4は直噴エンジンで燃料カット時間が5秒以内の場合を示している。
図3(a)に示すように、まず、時刻t0に燃料カットを行う条件が成立すると、Δt時間(F/Cインディレイ)経過後の時刻t1に燃料カットを開始する。燃料カットによって、エンジン回転数は徐々に低下し、これに伴って排気温度も低下していく。また、排気中のPNも低下する。
【0035】
このような状況では、従来は実燃圧が受熱による圧力上昇などにより目標燃圧に対して徐々に上昇していた。また、燃料噴射の復帰までに筒内温度が低下して排気温度が低下する。そして、時刻t2(時刻t1から5秒以上経過)にエンジンが燃料カットから復帰(F/Cリカバリ)すると、実燃圧が高くシリンダーの壁温が低い状態から始動するためPNが一気に上昇する。このときの目標燃圧は、マップやメモリに予め記憶された標準の目標燃圧を用いていた。
【0036】
これに対し、本発明では、
図3(b)に示すように、燃料カットを行う条件が成立すると、燃料カットを開始する前の時刻t0に実燃圧を低下させる。このため、Δt時間(F/Cインディレイ)経過後の時刻t1に燃料カットを開始すると、実燃圧は低下した圧力から目標燃圧に向かって徐々に上昇していく。また、エンジン回転数は徐々に低下し、これに伴って排気温度も低下して排気ガス中のPNも低下する。
【0037】
そして、時刻t2(時刻t1から5秒以上経過)に、エンジンが燃料カットから復帰(F/Cリカバリ)すると、目標燃圧を燃焼室内の温度低下分、燃料カット時間、及び空気流量の推定値などを考慮して設定する。この燃圧は、標準の目標燃圧よりも低い値となる。また、燃料噴射タイミングは、時刻t2に燃料カット時間と現状のエンジン回転数から推定した空気流速に基づいて制御する。
このように、燃料カットからの復帰時に、目標燃圧が低い状態から上昇を始めるので、実燃圧も同様に低い状態からアイドル状態、または通常運転に至るように上昇するので、PNのピークを抑えることができる。
【0038】
また、燃料カットからの復帰時には、単段噴射より多段噴射の方がPNが悪化するため、多段噴射を行わないようにすると良い。更に、アイドル状態や通常運転よりも高い燃圧で復帰するとPNが悪化するため、燃料カット中に実燃圧がアイドル状態や通常運転の燃圧設定になる場合は、燃料カットから強制的に復帰させるようにしても良い。
このようにして、ファーストアイドルの燃焼安定性と燃費率の低下を抑制しつつ、燃料カットからの復帰時の排出粒子数を低減させることができる。
【0039】
図4は、燃料カット直前から燃料供給の復帰までの各部の動作であり、燃料カット時間が5秒以内の場合を示している。
図4(a),(b)に示すように、時刻t10に燃料カットを行う条件が成立すると、Δt時間(F/Cインディレイ)経過後の時刻t11に燃料カットを開始する。燃料カットによって、エンジン回転数は徐々に低下し、これに伴って排気温度も低下していく。また、排気中のPNも低下する。そして、時刻t2にエンジンが燃料カットから復帰(F/Cリカバリ)する。
このように、燃料カットから燃料供給を復帰するまでの時間が短く、例えば5秒以下であった場合には、燃料噴射タイミングは変更しない。また、復帰するまでの時間が長い場合に比べてPNのピークも低くなるので、復帰時には燃圧を下げなくても構わない。
【0040】
図5は、燃料カット直前から燃料供給の復帰までの各部の動作であり、燃料カット時間が5秒以上の場合を示している。
図5(a),(b)に示すように、基本的な動作は
図3(a),(b)と同様であるが、燃圧を戻す際に燃焼室内の温度が復帰してから、燃圧をアイドルまたは通常運転に戻している。
このような制御動作を行っても、
図3の制御動作と実質的に同様な効果が得られる。
【0041】
なお、上述した実施形態で説明された構成や制御方法等については、本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものに過ぎない。従って、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0042】
例えば、フューエルカット・イン・ディレイ制御を行う場合を例に取って説明したが、
図6に示すような通常の燃料カット時においても適用できる。すなわち、
図6(a),(b)に示すように、時刻t21にスロットルが全閉で燃料カットを行う直前の時刻t20に、アイドル状態や通常運転よりも低い目標燃圧に設定してから燃料カットを行う。
これによって、燃圧が上昇しても時刻t22に燃料供給を復帰する時点で燃圧が低くなる。この結果、従来は
図6(a)に示すように燃料供給の復帰直後に多量のPNが発生したが、
図6(b)に示すように低い燃圧から燃料供給を復帰させることで、フューエルカット・イン・ディレイ制御と同様にPNを抑制できる。
【0043】
また、燃料カットからの復帰を例に取って説明したが、アイドリングストップ(ISS)からの再始動時にも適用できる。
更に、ガソリンエンジンを例に取って説明したが、軽油を燃料とするディーゼルエンジンや、バイオエタノールを混合するなどした他の燃料を用いるエンジンにも同様にして適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…エンジン(内燃機関)、1a,1b,1c,1d…シリンダー、2a,2b,2c,2d…燃料噴射弁、3…燃料供給装置、4…燃料タンク、5…燃料ポンプ、6…プレッシャレギュレータ、20…燃料制御装置、21…ECU、22…FPCM、23…負荷センサ、24…回転速度センサ、25…水温センサ、26…空燃比センサ、27…燃圧センサ