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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040809
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】送電装置及び非接触給電システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/90 20160101AFI20240318BHJP
   H02J 50/05 20160101ALI20240318BHJP
【FI】
H02J50/90
H02J50/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145404
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】521487580
【氏名又は名称】株式会社パワーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100174757
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】水谷 豊
(57)【要約】
【課題】負荷状態及び移動体の位置の変化による高周波電源から見た入力インピーダンスの影響を抑制できる送電装置及び非接触給電システムを提供すること。
【解決手段】高周波電源12は、その高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの実部が変化しても、その入力インピーダンスZinの虚部が略ゼロである場合に、定電圧又は定電流を出力するものが用いられる。送電装置10には、高周波電源12と送電電極11との間に可変移相部13が設けられている。可変移相部13では、位相検出器15によって検出された電圧と電流との位相に基づき、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinが、負荷としてのバッテリ31のインピーダンスZlの変化及び移動体30の位置の変化に対して略実部上を変化するように、位相制御器16によって可変移相器14が制御され、高周波電源から供給される電力の位相を変化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に設けられた負荷に対して給電する電力を受信するための受電電極を有して前記移動体に設けられた受電装置に対し、電界結合方式により非接触にて電力を送信する送電装置であって、
前記受電電極と対向することにより形成される電界結合によって電力を送信する送電電極と、
その送電電極に高周波電力を供給する高周波電源と、
その高周波電源と前記送電電極との間に設けられ、前記高周波電源から供給される電力の位相を変更可能な可変移相部と、を備え、
前記高周波電源は、その高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が変化しても、その入力インピーダンスの虚部が略ゼロである場合に、定電圧又は定電流を出力するものであり、
前記可変移相部は、
前記高周波電源から供給される電力の位相を変更する可変移相器と、
前記可変移相器の前段又は後段に設けられ、位相を判断するための電圧及び電流を検出する位相検出器と、
その位相検出器の検出結果に基づき、前記高周波電源から見た入力インピーダンスが、前記負荷のインピーダンスの変化及び前記移動体の位置の変化に対して略実部上を変化するように、前記可変移相器を制御する位相制御器と、
を備えることを特徴とする送電装置。
【請求項2】
前記可変移相器は、リアクタンスを変化可能な可変リアクタを有し、その可変リアクタにてリアクタンスを変化させることで前記電力の位相を変更するものであることを特徴とする請求項1記載の送電装置。
【請求項3】
前記可変移相器は、リアクタンスを変化可能な可変リアクタを有する90°ハイブリッド回路により構成され、前記可変リアクタのリアクタンスを変化させることで前記電力の位相を変更するものであることを特徴とする請求項1記載の送電装置。
【請求項4】
前記高周波電源は、出力する電圧を一定に制御する定電圧電源であり、
前記位相制御器は、前記高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が前記伝送線路の特性インピーダンス以上となるように前記可変移相器を制御することを特徴とする請求項1記載の送電装置。
【請求項5】
前記高周波電源は、出力する電流を一定に制御する定電流電源であり、
前記位相制御器は、前記高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が前記伝送線路の特性インピーダンス以下となるように前記可変移相器を制御することを特徴とする請求項1記載の送電装置。
【請求項6】
移動体に設けられた負荷に対して非接触にて給電する非接触給電システムであって、
請求項1から5のいずれかに記載の送電装置と、
その送電装置の送電電極から送信される電力を電界結合方式により非接触にて受信する受電電極を有し、受信した電力を前記負荷に対して給電する前記移動体に設けられた受電装置と、を備えることを特徴とする非接触給電システム。
【請求項7】
前記送電電極において、前記受電電極と対向する位置から前記高周波電源と離れる側を開放状態に設定する開放状態設定部を備えることを特徴とする請求項6記載の非接触給電システム。
【請求項8】
移動体に設けられた負荷に対して給電する電力を受信するために前記移動体に設けられた受電装置に対し、非接触にて電力を送信する送電装置であって、
前記受電装置に対して電力を送信する送電部と、
その送電部に高周波電力を供給する高周波電源と、
その高周波電源と前記送電部との間に設けられ、前記高周波電源から供給される電力の位相を変更可能な可変移相部と、を備え、
前記高周波電源は、その高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が変化しても、その入力インピーダンスの虚部が略ゼロである場合に、定電圧又は定電流を出力するものであり、
前記可変移相部は、
前記高周波電源から供給される電力の位相を変更する可変移相器と、
前記可変移相器の前段又は後段に設けられ、位相を判断するための電圧及び電流を検出する位相検出器と、
その位相検出器の検出結果に基づき、前記高周波電源から見た入力インピーダンスが、前記負荷のインピーダンスの変化及び前記移動体の位置の変化に対して略実部上を変化するように、前記可変移相器を制御する位相制御器と、
を備えることを特徴とする送電装置。
【請求項9】
移動体に設けられた負荷に対して非接触にて給電する非接触給電システムであって、
請求項8記載の送電装置と、
その送電装置の送電部から送信される電力を非接触にて受信し、受信した電力を前記負荷に対して給電する前記移動体に設けられた受電装置と、を備えることを特徴とする非接触給電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に設けられた負荷に対して給電する電力を受信するために前記移動体に設けられた受電装置に対し、非接触にて電力を送信する送電装置と、その送電装置を備えた非接触給電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車や、無人で自動的に活動する電動ビークルが注目され、種々の研究開発がなされている。このような電気自動車、電動ビークルを普及させるために、搭載されるバッテリのコストや重量、給電時間の長さ、リサイクルの難度、人的コストの増加等が課題となっている。このような課題を解決するための方法の1つとして、無人かつ非接触で給電する技術が検討されている。
【0003】
このような非接触による給電方式として、電界結合方式がある(例えば、特許文献1、2)。電界結合方式は、送電電極と受電電極との間に形成されるコンデンサによって、高周波電源から送電電極に供給される電力が、電界エネルギーとして空間を伝わることで、非接触で受電電極に電力を伝送する。電界結合方式は、受電効率や電力量が大きく、また、低コストで実現が可能であり、広範囲に亘って送電設備が必要な非接触の給電に適している。よって、電界結合方式は、電気自動車や電動ビークルへの非接触給電の主流方式として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-3774号公報
【特許文献2】特開2017-34919号公報
【特許文献3】特開2022-86784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、受電電極に接続された給電対象である負荷は、その状態によってインピーダンスが変動する。例えば、負荷が給電された電力を蓄電するバッテリであれば、そのバッテリ残量によってインピーダンスは変化する。また、負荷がモータであれば、モータの加速度によってインピーダンスは変化する。負荷のインピーダンスが変動すると、高周波電源から見た入力インピーダンスの虚部が変動する。また、移動体が移動して、受電電極と送電電極との位置関係が変化する場合も、高周波電源から見た入力インピーダンスの虚部が変動する。
【0006】
このように、負荷のインピーダンスの変化や移動体の位置の変化に伴って、高周波電源から見た入力インピーダンスの虚部が変動すると、高周波電源においてエネルギー損失が発生し、供給電力の低下、高周波電源の効率低下、ひいてはスイッチング素子やその他の素子の熱破壊が生じる恐れがあるといった問題点があった。また、このような問題は、電界結合方式のみならず、送電装置側のコイルと受電装置側のコイルとを接近させて、電磁誘導により電力を非接触にて給電する磁界結合方式をはじめとして、その他の非接触給電方式においても同様に発生する。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、負荷状態及び移動体の位置の変化による高周波電源から見た入力インピーダンスの影響を抑制できる送電装置及び非接触給電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明の送電装置に係る第1の態様は、移動体に設けられた負荷に対して給電する電力を受信するための受電電極を有して前記移動体に設けられた受電装置に対し、電界結合方式により非接触にて電力を送信するものであって、前記受電電極と対向することにより形成される電界結合によって電力を送信する送電電極と、その送電電極に高周波電力を供給する高周波電源と、その高周波電源と前記送電電極との間に設けられ、前記高周波電源から供給される電力の位相を変更可能な可変移相部と、を備え、前記高周波電源は、その高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が変化しても、その入力インピーダンスの虚部が略ゼロである場合に、定電圧又は定電流を出力するものであり、前記可変移相部は、前記高周波電源から供給される電力の位相を変更する可変移相器と、前記可変移相器の前段又は後段に設けられ、位相を判断するための電圧及び電流を検出する位相検出器と、その位相検出器の検出結果に基づき、前記高周波電源から見た入力インピーダンスが、前記負荷のインピーダンスの変化及び前記移動体の位置の変化に対して略実部上を変化するように、前記可変移相器を制御する位相制御器と、を備える。
【0009】
本発明の送電装置に係る第2の態様は、第1の態様の送電装置において、前記可変移相器は、リアクタンスを変化可能な可変リアクタを有し、その可変リアクタにてリアクタンスを変化させることで前記電力の位相を変更するものである。
【0010】
本発明の送電装置に係る第3の態様は、第1又は第2の態様の送電装置において、前記可変移相器は、リアクタンスを変化可能な可変リアクタを有する90°ハイブリッド回路により構成され、前記可変リアクタのリアクタンスを変化させることで前記電力の位相を変更するものである。
【0011】
本発明の送電装置に係る第4の態様は、第1から第3のいずれかの態様の送電装置において、前記高周波電源は、出力する電圧を一定に制御する定電圧電源であり、前記位相制御器は、前記高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が前記伝送線路の特性インピーダンス以上となるように前記可変移相器を制御する。
【0012】
本発明の送電装置に係る第5の態様は、第1から第3のいずれかの態様の送電装置において、前記高周波電源は、出力する電流を一定に制御する定電流電源であり、
前記位相制御器は、前記高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が前記伝送線路の特性インピーダンス以下となるように前記可変移相器を制御する。
【0013】
本発明の非接触給電システムに係る第6の態様は、移動体に設けられた負荷に対して非接触にて給電するものであって、第1から第5のいずれかの態様の送電装置と、その送電装置の送電電極から送信される電力を電界結合方式により非接触にて受信する受電電極を有し、受信した電力を前記負荷に対して給電する前記移動体に設けられた受電装置と、を備える。
【0014】
本発明の非接触給電システムに係る第7の態様は、第6の態様の非接触給電システムにおいて、前記送電電極において、前記受電電極と対向する位置から前記高周波電源と離れる側を開放状態に設定する開放状態設定部を備える。
【0015】
本発明の送電装置に係る第8の態様は、移動体に設けられた負荷に対して給電する電力を受信するために前記移動体に設けられた受電装置に対し、非接触にて電力を送信するものであって、前記受電装置に対して電力を送信する送電部と、その送電部に高周波電力を供給する高周波電源と、その高周波電源と前記送電部との間に設けられ、前記高周波電源から供給される電力の位相を変更可能な可変移相部と、を備え、前記高周波電源は、その高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が変化しても、その入力インピーダンスの虚部が略ゼロである場合に、定電圧又は定電流を出力するものであり、前記可変移相部は、前記高周波電源から供給される電力の位相を変更する可変移相器と、前記可変移相器の前段又は後段に設けられ、位相を判断するための電圧及び電流を検出する位相検出器と、その位相検出器の検出結果に基づき、前記高周波電源から見た入力インピーダンスが、前記負荷のインピーダンスの変化及び前記移動体の位置の変化に対して略実部上を変化するように、前記可変移相器を制御する位相制御器と、を備える。
【0016】
本発明の非接触給電システムに係る第9の態様は、移動体に設けられた負荷に対して非接触にて給電するものであって、第8の態様の送電装置と、その送電装置の送電電極から送信される電力を非接触にて受信し、受信した電力を前記負荷に対して給電する前記移動体に設けられた受電装置と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の送電装置に係る第1の態様によれば、高周波電源から送電電極に高周波電力が供給され、その送電電極から移動体に設けられた受電装置の受電電極へ、電界結合方式により非接触にて電力が送信される。その受電電極にて受信した電力が移動体に設けられた負荷に給電される。ここで、高周波電源は、その高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が変化しても、その入力インピーダンスの虚部が略ゼロである場合に、定電圧又は定電流を出力するものが用いられる。一方、送電装置には、高周波電源と送電電極との間に、高周波電源から供給される電力の位相を変更可能な可変移相部が設けられている。その可変移相部には、高周波電源から供給される電力の位相を変更する可変移相器のほか、可変移相器の前段又は後段に位相検出器が設けられ、その位相検出器によって、電圧及び電流が検出される。また、可変移相部には、位相制御器が設けられており、位相検出器の検出結果に基づき、高周波電源から見た入力インピーダンスが、負荷のインピーダンスの変化及び移動体の位置の変化に対して略実部上を変化するように、可変移相器が制御され、高周波電源から供給される電力の位相が変化する。これにより、負荷のインピーダンス及び移動体の位置が変動しても、高周波電源からは、定電圧又は定電流が出力され、高周波電源においてエネルギー損失の発生を抑制でき、供給電力の低下、高周波電源の効率低下、及び、スイッチング素子やその他の素子の熱破壊を抑制できる。よって、負荷状態及び移動体の位置の変化による高周波電源から見た入力インピーダンスの影響を抑制できるという効果がある。
【0018】
本発明の送電装置に係る第2の態様によれば、第1の態様の送電装置が奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、可変移相器では、可変リアクタのリアクタンスを変化させることで電力の位相が変更される。これにより、簡易な回路構成で電力の位相を変更できるという効果がある。
【0019】
本発明の送電装置に係る第3の態様によれば、第1又は第2の態様の送電装置が奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、リアクタンスを可変する可変リアクタを有する90°ハイブリッド回路により可変移相器が構成され、可変リアクタのリアクタンスを変化させることで電力の位相が変更される。これにより、簡易な回路構成で電力の位相を変更できるという効果がある。
【0020】
本発明の送電装置に係る第4の態様によれば、第1から第3のいずれかの態様の送電装置が奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、高周波電源は定電圧電源であり、高周波電源より出力される電圧が一定に制御される。一方、可変移相器は、高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が伝送線路の特性インピーダンス以上となるように位相制御器によって制御される。これにより、高周波電源から大電流が出力されることを抑制し、ひいてはスイッチング素子やその他の素子が破壊されることを抑制できるという効果がある。
【0021】
本発明の送電装置に係る第5の態様によれば、第1から第3のいずれかの態様の送電装置が奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、高周波電源は定電流電源であり、高周波電源より出力される電流が一定に制御される。一方、可変移相器は、高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が前記伝送線路の特性インピーダンス以下となるように位相制御器によって制御される。これにより、高周波電源に高電圧が印加されることを抑制し、ひいてはスイッチング素子やその他の素子が破壊されることを抑制できるという効果がある。
【0022】
本発明の非接触給電システムに係る第6の態様によれば、第1から第5の態様のいずれかの送電装置が設けられ、その送電装置の送電電極から送信される電力が電界結合方式により非接触にて、移動体に設けられた受電装置の受電電極にて受信される。そして、受電装置によって、受信した電力が、その移動体に設けられた負荷に対して給電される。これにより、第1から第5の態様の対応する送電装置と同様の効果を奏することができる。
【0023】
本発明の送電装置に係る第7の態様によれば、第6の態様の非接触給電システムが奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、送電電極において、受電電極と対向する位置から高周波電源と離れる側が、開放状態設定部により開放状態に設定される。ここで、送電電極が高周波電源より出力される高周波電力の波長を無視できない程度の大きさになると,送電電極に電圧の定在波が発生する。これにより、移動体の受電電極が送電電極の電圧の節に位置した場合、受電電極は電力を受け取ることができなくなる。このように、電圧定在波の発生によって電力の伝送効率が低下する。これに対し、開放状態設定部によって、送電電極における受電電極と対向する位置から高周波電源と離れる側が開放状態に設定されると、受電電極と対向する位置の送電電極には、電圧の腹が常に存在することになる。よって、送電電極を、高周波電力の波長が無視できない程度に大きくしたとしても、電力の伝送効率を高くできるという効果がある。
【0024】
本発明の送電装置に係る第8の態様によれば、高周波電源から送電部に高周波電力が供給され、その送電部から移動体に設けられた受電装置へ、非接触にて電力が送信される。その受電電極にて受信した電力が移動体に設けられた負荷に給電される。ここで、高周波電源は、その高周波電源から見た入力インピーダンスの実部が変化しても、その入力インピーダンスの虚部が略ゼロである場合に、定電圧又は定電流を出力するものが用いられる。一方、送電装置には、高周波電源と送電部との間に、高周波電源から供給される電力の位相を変更可能な可変移相部が設けられている。その可変移相部には、高周波電源から供給される電力の位相を変更する可変移相器のほか、可変移相器の前段又は後段に位相検出器が設けられ、その位相検出器によって、電圧及び電流が検出される。また、可変移相部には、位相制御器が設けられており、位相検出器の検出結果に基づき、高周波電源から見た入力インピーダンスが、負荷のインピーダンスの変化及び移動体の位置の変化に対して略実部上を変化するように、可変移相器が制御され、高周波電源から供給される電力の位相が変化する。これにより、負荷のインピーダンス及び移動体の位置が変動しても、高周波電源からは、定電圧又は定電流が出力され、高周波電源においてエネルギー損失の発生を抑制でき、供給電力の低下、高周波電源の効率低下、及び、スイッチング素子やその他の素子の熱破壊を抑制できる。よって、負荷状態及び移動体の位置の変化による高周波電源から見た入力インピーダンスの影響を抑制できるという効果がある。
【0025】
本発明の非接触給電システムに係る第9の態様によれば、第8の態様の送電装置が設けられ、その送電装置の送電部から送信される電力が非接触にて、移動体に設けられた受電装置にて受信される。そして、受電装置によって、受信した電力が、その移動体に設けられた負荷に対して給電される。これにより、第8の態様の送電装置と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る送電装置及び非接触給電システムの概略平面図である。
図2】(a)は、同非接触システムにおいて、高周波電源からバッテリまでに位相差θが生じる系を概略的に示した回路図であり、(b)は、(a)における高周波電源からみた入力インピーダンスZinを、伝送線路の特性インピーダンスZ0で正規化したスミスチャートである。
図3】(a)は、図2(a)に示す系に対し、同非接触システムにおいて、高周波電源と送電電極等により形成される伝送線路との間に可変移相器を挿入した系を概略的に示す回路図であり、(b)は、(a)における高周波電源からみた入力インピーダンスZinを、伝送線路の特性インピーダンスZ0で正規化したスミスチャートである。
図4】(a)は、90°ハイブリッド回路を用いた同送電装置の可変移相器の回路図であり、(b)は、(a)に示す可変移相器の概略構成図である。
図5】(a)は、回路シミュレーションに用いた回路構成を概略的に示した図であり、(b)は、その回路シミュレーションにより得られた高周波電源から見た反射係数を示すスミスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。よって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であって本発明を限定する主旨ではない。従って、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0028】
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る送電装置10及び非接触給電システム1の概略構成について説明する。図1は、同送電装置10及び非接触給電システム1の概略平面図である。なお、図1は、移動体30が走行する走行路を省略して示してある。
【0029】
非接触給電システム1は、移動体30に設けられた負荷に対して非接触(無線)にて給電するシステムである。図1に示す例では、非接触給電システム1は、走行路を走行する移動体30に搭載されたバッテリ31を負荷とし、そのバッテリ31に対して非接触にて給電するものであり、走行路に固定して設置された送電装置10と、移動体30に設けられた受電装置20とにより構成される。
【0030】
移動体30は、電気自動車や、無人で自動的に活動する無人搬送車(AGV)といった電動ビークル等が例示され、受電装置20とバッテリ31との他に、駆動輪32と従動輪33とを有している。移動体30は、送電装置10から電界結合方式により非接触にて送信された電力を受電装置20にて受信し、その受信した電力をバッテリ31に給電することで、バッテリ31を充電する。移動体30は、充電されたバッテリ31の電力を用いて駆動輪32を駆動することで、走行路を走行する。
【0031】
なお、非接触給電システム1によって非接触にて給電される負荷は、バッテリ31の他、給電された電力によって動作するもの(例えば、モータ)等であってもよい。
【0032】
受電装置20は、受電電極21と、反射電極22とを少なくとも有している。受電電極21は、送電装置10の後述する送電電極11と対向することによって形成される電界結合により、送電電極11から非接触にて送信される電力を受信するものであり、平板状の導体により構成される。受電装置20は、少なくとも2つの受電電極21が対をなして存在し、同様に対をなす送電電極11と対向して電力を受信する。受電電極21にて受信した電力は、整流回路(図示せず)を介してバッテリ31に給電される。
【0033】
反射電極22は、特許文献1に記載されている通り、受電電極21と同様に、送電装置10の送電電極11と対向する位置に形成された、対をなす2つの平板状の導体により構成される。反射電極22は、送電電極11の一端11aから他端11bに向けて送られる高周波電力を反射して、送電電極11上にその一端11aに向かう反射波を生じさせる。これにより、送電電極11において、反射電極22と対向する位置から他端11bに向かう側(高周波電源12と離れる側)がショート状態となり、反射電極22と対向する位置には、電圧定在波の節を生じさせることができる。
【0034】
また、一の送電電極11と対向する受電電極21の略中心と反射電極22の略中心との間隔は、高周波電力の波長λの四分の一の長さ、即ち、λ/4に設定される。上述した通り、送電電極11において、反射電極22と対向する位置は電圧定在波の節となる。
【0035】
これにより、送電電極11は、受電電極21と対向する位置から他端11bに向かう側(高周波電源12と離れる側)は、オープン状態(開放状態)に設定される。なぜならば、送電電極11において、受電電極21と対向する位置は、反射電極22と対向する位置からλ/4離れており、それぞれの位置での位相差が常に90°生じるからである。
【0036】
よって、送電電極11において、受電電極21と対向する位置には、電圧定在波の腹を発生させることができる。従って、波長λが無視できない程度に大きくしたとしても、受電電極21では、送電電極11から送信される電力を効率よく受信できるので、電力の伝送効率を高くできる。なお、反射電極22が、本発明の開放状態設定部に相当する。
【0037】
送電装置10は、受電装置20に対して電力を電界結合方式により非接触にて送信(送電)する装置であり、高周波電源12と、送電電極11と、可変移相部13とを少なくとも有している。
【0038】
高周波電源12は、直流電力又は商用電力から高周波電力を生成する高周波インバータであり、走行路上に固着され、又は走行路に埋め込まれて設置される。高周波電源12は、その高周波電源12から見た入力インピーダンスZin(図2(a)、図3(a)参照)の実部が変化しても、その入力インピーダンスZinの虚部が略ゼロである場合に、定電圧又は定電流を出力するものが用いられる。また、高周波電源12は、そのような場合にインバータがゼロボルトスイッチング(ZVS)によって動作するものが用いられるのが好ましい。このような高周波電源12としては、特許文献3に記載のものが知られている。
【0039】
このような高周波電源12を用いることで、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの実部が変化しても、その入力インピーダンスZinの虚部が略ゼロである場合に、スイッチング動作におけるエネルギー損失が抑制される。高周波電源12により生成された高周波電力は、可変移相部13を介して、送電電極11に供給される。
【0040】
送電電極11は、受電装置20の受電電極21と対向することによって形成される電界結合によって、高周波電源12から供給された電力を受電電極21へ送信するものである。送電電極11は、平板状の導体により構成され、移動体30の進行方向に延在して、移動体30が走行する走行路の路面直下に埋め込まれている。これにより、移動体30が移動しても、その移動した位置において受電装置20の受電電極21が、送電電極11から電力を受電できる。
【0041】
また、送電装置10は、対をなす受電電極21のそれぞれと対向するように、少なくとも2つの送電電極11が対をなして存在しており、一方の送電電極11に高周波電源12の一端が可変移相部13を介して接続され、他方の送電電極11に高周波電源12の他端が可変移相部13を介して接続される。
【0042】
可変移相部13は、高周波電源12と送電電極11との間に設けられ、高周波電源12から送電電極11へ供給される電力の位相を変更可能にする部位である。可変移相部13は、可変移相器14と、位相検出器15と、位相制御器16とを少なくとも有している。
【0043】
可変移相器14は、高周波電源12から供給される電力の位相を変更するものである。位相検出器15は、可変移相器14の前段に設けられ、その位置における位相を判断するための電圧及び電流を検出するものである。
【0044】
位相制御器16は、例えばCPU(Cetral Processing Unit:中央演算処理装置)と記憶装置等により構成され、位相検出器15の検出結果に基づき、高周波電源12からみた入力インピーダンスZin(図3(a)参照)が、バッテリ31の負荷インピーダンスZl(本発明の「負荷のインピーダンス」に該当。図3(a)参照。)の変化、及び、移動体30の位置の変化に対して略実部上を変化するように、可変移相器14を制御する。
【0045】
なお、本実施形態では、図1に示す通り、可変移相器14の前段、即ち、高周波電源12の出力側に位相検出器15が接続され、その位相検出器15の出力と送電電極11の一端11aとの間に可変移相器14が設けられているが、位相検出器15と可変移相器14との相対的な位置関係が逆、即ち、高周波電源12の出力側に可変移相器14が接続され、可変移相器14の後段、即ち、可変移相器14の出力と送電電極11の一端11aとの間に位相検出器15が設けられるように構成されてもよい。
【0046】
ここで、図2及び図3を参照して、可変移相部13の機能について、その基本概念を説明する。まず、図2(a)は、高周波電源12からバッテリ31までに位相差θが生じる系を概略的に示した回路図であり、図2(b)は、図2(a)における高周波電源12からみた入力インピーダンスZinを、伝送線路41の特性インピーダンスZ0で正規化したスミスチャートである。
【0047】
高周波電源12からバッテリ31までには、送電電極11等によってバッテリ31に電力を伝送する伝送線路41が形成される。伝送線路41は、特性インピーダンスZ0を有しており、位相差θが生じる。
【0048】
ここで、伝送線路41の特性インピーダンスZ0とバッテリ31の負荷インピーダンスZlとが等しい場合、インピーダンス整合した状態となり、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinは、図2(b)に示すスミスチャートにおいて中央(実部1、虚部0)に位置する。このとき、入力インピーダンスZinは実部のみであるため、高周波電源12においてエネルギー損失が抑制される。
【0049】
しかしながら、バッテリ31の負荷インピーダンスZlは、バッテリ31のバッテリ残量によって変化する。本実施形態では、負荷としてバッテリ31を例示しているが、その他の負荷であっても負荷インピーダンスZlは、その負荷の状態によって変化する。例えば、負荷がモータであれば、そのモータの加速度によって負荷インピーダンスZlは変化する。負荷インピーダンスZlが変化すると、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinも変化し、図2(b)に示すスミスチャート上を移動する。
【0050】
ここで、図2(b)に示す通り、伝送線路41に生じる位相差θが45°(π/4)の場合、負荷インピーダンスZlの変化に伴って、入力インピーダンスZinは、スミスチャートの中央(実部1、虚部0)と、その中央から真下のスミスチャートの外周(実部0、虚部-1)との間を変動する。また、伝送線路41に生じる位相差θが135°(3π/4)の場合、負荷インピーダンスZlの変化に伴って、入力インピーダンスZinは、スミスチャートの中央(実部1、虚部0)と、その中央から真上のスミスチャートの外周(実部0、虚部+1)との間を変動する。
【0051】
つまり、伝送線路41に生じる位相差θが45°(π/4)や135°(3π/4)の場合、負荷インピーダンスZlの変化に応じて、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinに虚部が生じるため、高周波電源12にエネルギー損失が発生し、供給電力の低下、高周波電源12の効率低下、及び、スイッチング素子やその他の素子の熱破壊が生じる恐れがある。
【0052】
一方、伝送線路41に生じる位相差θが0°又は180°(π)の場合、負荷インピーダンスZlの変化に伴って、入力インピーダンスZinは、スミスチャートの中央(実部1、虚部0)と、その中央から右方向のスミスチャートの外周(実部∞、虚部0)との間を変動する。また、伝送線路41に生じる位相差θが90°(π/2)の場合、負荷インピーダンスZlの変化に伴って、入力インピーダンスZinは、スミスチャートの中央(実部1、虚部0)と、その中央から左方向のスミスチャートの外周(実部0、虚部0)との間を変動する。
【0053】
つまり、伝送線路41に生じる位相差θが0°若しくは180°(π)又は90°(π/2)の場合、負荷インピーダンスZlの変化に応じて、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinは実部のみが変化し、虚部は0に維持される。これにより、高周波電源12においてエネルギー損失の発生を抑制でき、供給電力の低下、高周波電源12の効率低下、及び、スイッチング素子やその他の素子の熱破壊を抑制できる。
【0054】
しかしながら、伝送線路41に生じる位相差θは、例えば走行する移動体30の位置(正確には、移動体30に設けられた受電電極21の位置)によって変化する。よって、負荷インピーダンスZlの変化と、移動体30の位置の変化とによって、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinには虚部が発生することになる。
【0055】
そこで、高周波電源12からバッテリ31までに生じる位相差が0°若しくは180°(π)又は90°(π/2)となるように、可変移相部13にて高周波電源12から供給される電力の位相を制御する。図3(a)は、図2(a)に示す系に対し、高周波電源12と送電電極11等により形成される伝送線路41との間に可変移相器14を挿入した系を概略的に示す回路図であり、図3(b)は、図3(a)における高周波電源12からみた入力インピーダンスZinを、伝送線路41の特性インピーダンスZ0で正規化したスミスチャートである。
【0056】
図3(a)に示す通り、可変移相部13が、高周波電源12から供給される電力の位相を位相差θ1だけ変更し、可変移相部13の出力から受電電極21までの間において送電電極11等により形成される伝送線路41において位相差θ2が生じるものとすると、次の式(1)又は(2)が成立するように、可変移相部13が、高周波電源12から供給される電力の位相を変更する。
【0057】
θ1+θ2=0° ・・・(1)
θ1+θ2=180° ・・・(2)
これにより、移動体30の位置等によって伝送線路41に生じる位相差θ2が変化したとしても、高周波電源12からバッテリ31までに生じる位相差(θ1+θ2)を、0°若しくは180°(π)とすることができる。
【0058】
これにより、バッテリ31の負荷インピーダンスZlが変化し、また、移動体30の位置が変化したとしても、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinは、図3(b)に示す通り、ほぼスミスチャートの中央(実部1、虚部0)と、その中央から右方向のスミスチャートの外周(実部∞、虚部0)との間を変動する。
【0059】
即ち、負荷インピーダンスZlの変化及び移動体30の位置の変化に応じて、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinは、伝送線路41の特性インピーダンスZ0以上でほぼ実部のみが変化し、虚部はほぼ0に維持される。これにより、高周波電源12においてエネルギー損失の発生を抑制でき、供給電力の低下、高周波電源12の効率低下、及び、スイッチング素子やその他の素子の熱破壊を抑制できる。
【0060】
ここで、図1に示すように、位相検出器15が可変移相器14の前段に設けられている場合、位相制御器16は次のようにして、可変移相器14を制御する。即ち、位相検出器15は、その位置における電圧及び電流、即ち、高周波電源12から入力される電圧及び電流を検出する。
【0061】
位相制御器16は、位相検出器15による検出の結果、電流が電圧よりも遅れている場合は、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinが誘導性に見えるので、可変移相器14の容量性リアクタンスを大きくするか、誘導性リアクタンスを小さくする。一方、位相制御器16は、位相検出器15による検出の結果、電圧が電流よりも遅れている場合は、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinが容量性に見えるので、可変移相器14の容量性リアクタンスを小さくするか、誘導性リアクタンスを大きくする。
【0062】
また、位相検出器15が可変移相器14の後段に設けられている場合、位相制御器16は次のようにして、可変移相器14を制御する。即ち、位相検出器15は、その位置における電圧及び電流、即ち、位相検出器15から送電電極11に対して出力される電圧及び電流を検出する。位相制御器16は、位相検出器15により検出された電圧及び電流から、反射係数の位相∠Γを算出し、反射係数の位相∠Γ分を0°とすべく打ち消すように、可変移相器14のリアクタンスを変化させる。
【0063】
位相制御器16のこのような動作により、負荷インピーダンスZlの変化及び移動体30の位置の変化に対して、高周波電源12からバッテリ31までに生じる位相差(θ1+θ2)が、0°若しくは180°(π)となるように、可変移相器14において電力の位相を変更できる。これにより、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの実部が、伝送線路41の特性インピーダンスZ0以上となり、虚部がほぼ0となるように、入力インピーダンスZinを収束させることができる。
【0064】
可変移相部13は、次の式(3)が成立するように、高周波電源12から供給される電力の位相を変更してもよい。
【0065】
θ1+θ2=90° ・・・(3)
この場合は、移動体30の位置等によって伝送線路41に生じる位相差θ2が変化したとしても、高周波電源12からバッテリ31までに生じる位相差(θ1+θ2)を、90°(π/2)とすることができる。これにより、バッテリ31の負荷インピーダンスZlが変化し、また、移動体30の位置が変化したとしても、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinが、スミスチャートの中央(実部1、虚部0)と、その中央から左方向のスミスチャートの外周(実部0、虚部0)との間を変動する。
【0066】
よって、この場合は、負荷インピーダンスZlの変化及び移動体30の位置の変化に応じて、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinは、伝送線路41の特性インピーダンスZ0以下でほぼ実部のみが変化し、虚部はほぼ0に維持される。これにより、高周波電源12においてエネルギー損失の発生を抑制でき、スイッチング素子やその他の素子の熱破壊を抑制できる。
【0067】
この場合、位相検出器15が可変移相器14の前段に設けられているときには、位相制御器16は次のようにして、可変移相器14を制御する。即ち、位相制御器16は、位相検出器15による、高周波電源12から入力される電圧及び電流の検出の結果、電流が電圧よりも遅れている場合は、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinが誘導性に見えるので、可変移相器14の容量性リアクタンスを小さくするか、誘導性リアクタンスを大きくする。一方、位相制御器16は、位相検出器15による電圧及び電流の検出の結果、電圧が電流よりも遅れている場合は、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinが容量性に見えるので、可変移相器14の容量性リアクタンスを大きくするか、誘導性リアクタンスを小さくする。
【0068】
また、位相検出器15が可変移相器14の後段に設けられているときには、位相制御器16は次のようにして、可変移相器14を制御する。即ち、位相制御器16は、位相検出器15による、位相検出器15から送電電極11に対して出力される電圧及び電流の検出の結果から、反射係数の位相∠Γを算出し、反射係数の位相∠Γ分を180°とすべく広げるように、可変移相器14のリアクタンスを変化させる。
【0069】
位相制御器16のこのような動作により、高周波電源12からバッテリ31までに生じる位相差(θ1+θ2)が、90°(π/2)となるように、可変移相器14において電力の位相を変更できる。これにより、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの実部が、伝送線路41の特性インピーダンスZ0以下となり、虚部がほぼ0となるように、入力インピーダンスZinを収束させることができる。
【0070】
なお、高周波電源12が出力する電圧を一定に制御する定電圧電源である場合、位相制御器16は、上記した式(1)又は(2)が成立するように、即ち、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの実部が、伝送線路41の特性インピーダンスZ0以上となるように可変移相器14を制御するとよい。これにより、バッテリ31の負荷インピーダンスZlが変化し、移動体30の位置が変化したとしても、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの実部が、伝送線路41の特性インピーダンスZ0以上となるように変化するので、高周波電源12から大電流が出力されることを抑制し、ひいてはスイッチング素子やその他の素子が破壊されることを抑制できる。
【0071】
一方、高周波電源12が出力する電流を一定に制御する定電流電源である場合、位相制御器16は、上記した(3)式が成立するように、即ち、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの実部が、伝送線路41の特性インピーダンスZ0以下となるように可変移相器14を制御するとよい。これにより、バッテリ31の負荷インピーダンスZlが変化し、移動体30の位置が変化したとしても、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの実部が、伝送線路41の特性インピーダンスZ0以下となるように変化するので、高周波電源12に高電圧が印加されることを抑制し、ひいてはスイッチング素子やその他の素子が破壊されることを抑制できる。
【0072】
ここで、図4を参照して、可変移相器14の回路構成の一例として、90°ハイブリッド回路を用いた可変移相器14を説明する。図4(a)は、90°ハイブリッド回路を用いた可変移相器14の回路図であり、図4(b)は、図4(a)に示す可変移相器14の概略構成図である。
【0073】
90°ハイブリッド回路は、図4(a)に示すように、特性インピーダンスをZ0として、インダクタンスがZ0/ωの2つのインダクタL1、L2と、インダクタンスがZ0/(ω・2^(1/2))の2つのインダクタL3、L4と、キャパシタンスが(1+2^(1/2))/(ω・Z0)の4つのキャパシタンスC1、C2、C3、C4と、容量が可変の2つの可変コンデンサCV1、CV2とにより構成される。可変コンデンサCV1、CV2が、本発明の可変リアクタに該当し、可変コンデンサCV1、CV2の容量が、本発明のリアクタンスに該当する。また、この可変コンデンサCV1、CV2の容量が、上記した可変移相器14の容量性リアクタンスに該当する。
【0074】
インダクタL1は、入力ポートIPにある接続点P1と出力ポートOPにある接続点P2の間に設けられ、インダクタL3は、接続点P1と接続点P3との間に設けられ、インダクタL4は、接続点P2と接続点P4との間に設けられ、インダクタL2は、接続点P3と接続点P4との間に設けられる。また、接続点P1~P4のそれぞれとグランドとの間に、キャパシタンスC1~C4のいずれかが設けられる。
【0075】
これにより、図4(b)に示す通り、接続点P1と接続点P2との間にはインピーダンスZ0で位相差が90°の伝送線路51が形成され、接続点P3と接続点P4との間にはインピーダンスZ0で位相差が90°の伝送線路52が形成され、接続点P1と接続点P3との間にはインピーダンスZ0/(2^(1/2))で位相差が90°の伝送線路53が形成され、接続点P2と接続点P4との間にはインピーダンスZ0/(2^(1/2))で位相差が90°の伝送線路54が形成され、90°ハイブリッド回路が構成される。この90°ハイブリッド回路によって、入力ポートIPから入力された電力の位相がシフトされて、出力ポートOPから出力される。
【0076】
また、90°ハイブリッド回路に対して、さらに、接続点P3とグランドとの間と、接続点P4とグランドとの間とのそれぞれに、可変コンデンサCV1又は可変コンデンサCV2が設けられる。位相制御器16が、この可変コンデンサCV1及び可変コンデンサCV2の容量を等しく変化させることで、可変移相器14によって生じさせる位相差θ1を変化させることができる。
【0077】
可変コンデンサCV1、CV2としては、例えば、機械的に電極対向面積を調整することで容量を可変にするバリコン、複数のキャパシタの接続をスイッチで切り替えることで容量を可変にするリアクタアレー、FET(Feild Effect Transistor)スイッチング用PWM(Pulse Width Modulation)波形のデューティ比を制御することにより並列接続したキャパシタに流れる電流量を制御することで、容量を可変にするPWM制御スイッチキャパシタ、直列に接続された2つのFETと、これら2つのFETと並列に接続されたキャパシタとを用いて、2つのFETを交互にオンオフし、その位相と電源電圧の位相との差によって容量を調整するATAC(Automatic Tuning Assist Circuit)等、電気的又は電子的に制御できる各種キャパシタを用いることができる。バリコン、PWM制御スイッチキャパシタ、ATACは、連続的に容量を可変にすることができるので、これらを可変コンデンサCV1、CV2として用いれば、可変移相器14によって生じさせる位相差θ1を連続的に変化させることもできる。また、90°ハイブリッド回路は、それ単体で電力の移相を所定の範囲で変化させることができるので、可変移相器14におけるエネルギー損失を小さく抑えることができる。
【0078】
なお、可変移相器14は、可変コンデンサCV1、CV2に代えて、本発明の可変リアクタとして、誘導性リアクタンスであるインダクタンスを変化可能な可変インダクタが設けられてもよい。位相制御器16は、可変インダクタのインダクタンスを変化させることで、可変移相器14によって生じさせる位相差θ1を変化させることができる。
【0079】
また、可変移相器14は、可変コンデンサCV1、CV2に加えて、誘導性リアクタンスであるインダクタンスを変化可能な可変インダクタが設けられてもよい。位相制御器16は、可変コンデンサCV1、CV2の容量と、可変インダクタのインダクタンスとを変化させることで、可変移相器14によって生じさせる位相差θ1を変化させることができる。この場合は、可変コンデンサCV1、CV2と可変インダクタとのいずれもが、本発明の可変リアクタに該当し、可変コンデンサCV1、CV2の容量と可変インダクタのインダクタンスとが、本発明のリアクタンスに該当する。
【0080】
次いで、図5を参照して、可変移相部13を設ける効果を回路シミュレーションによって確認する。図5(a)は、回路シミュレーションに用いた回路構成を概略的に示した図であり、図5(b)は、その回路シミュレーションにより得られた高周波電源12から見た反射係数を示すスミスチャートである。
【0081】
今回の回路シミュレーションでは、図5(a)に示す通り、出力インピーダンスが50Ωの高周波電源12に、可変移相器14として図4(a)に示す90°ハイブリッド回路により構成された可変移相器14を接続した。可変移相器14は、高周波電源12から供給される電力の位相に対して変更する位相差θ1を、後述の伝送線路41の位相差θ2に対して上記(1)又は(2)式となるように動作させた。
【0082】
可変移相器14の後段には、可変移相部13の出力から受電電極21までの間において送電電極11等により形成される、位相差θ2の伝送線路41を接続した。
【0083】
伝送線路41の後段には、負荷インピーダンスZlのバッテリ31を、直列接続されたキャパシタ及びインダクタを介して接続した。このキャパシタ及びインダクタは、送電電極11及び受電電極21により形成される電界結合と、受電電極21とバッテリ31との間の伝送線路とを等価的に表したものである。
【0084】
また、伝送線路41の後段には、図1に示す受電装置20に設けられた反射電極22を反映させるために、送電電極11において、受電電極21と対向する位置から反射電極22と対向する位置までに形成される伝送線路42を接続した。この伝送線路42の長さは、図1を参照して説明した通り、高周波電力の波長λの四分の一、即ちλ/4であり、伝送線路42に生じる位相差は90°である。
【0085】
伝送線路42の後段には、キャパシタとインダクタとを直列接続し、インダクタの一端をグランドに接続した。また、伝送線路42の後段には、伝送線路43も接続した。伝送線路43は、送電電極11において、反射電極22と対向する位置から送電電極11の他端11b(図1参照)までに形成される伝送線路である。この伝送線路43の位相差は、360°-θ2である。
【0086】
なお、伝送線路41,42,43の特性インピーダンスZ0は、50Ωとした。
【0087】
図5(a)に示す回路に対し、バッテリ31の負荷インピーダンスZlを50Ω~50000Ωまで、伝送線路41の位相差θ2を0°から360°まで可変させたときの高周波電源12から見た反射係数を求めた結果が図5(b)に示すスミスチャートである。この結果、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinは実数で、かつ、特性インピーダンスZ0よりも大きい値で推移することが分かる。よって、負荷インピーダンスZl及び移動体30の位置が変化する場合であっても、高周波電源12においてエネルギー損失の発生を抑制でき、供給電力の低下、高周波電源12の効率低下、及び、スイッチング素子やその他の素子の熱破壊を抑制できる。よって、負荷状態及び移動体30の位置の変化による高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの影響を抑制できる。
【0088】
以上説明した送電装置10及び非接触給電システム1によれば、次のような効果を奏する。
【0089】
(1)送電装置10において、高周波電源12から送電電極11に高周波電力が供給され、その送電電極11から移動体30に設けられた受電装置20の受電電極21へ、電界結合方式により非接触にて電力が送信される。その受電電極21にて受信した電力が移動体30に設けられた負荷としてのバッテリ31に給電される。
【0090】
ここで、高周波電源12は、その高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの実部が変化しても、その入力インピーダンスZinの虚部が略ゼロである場合に、定電圧又は定電流を出力するものが用いられる。一方、送電装置10には、高周波電源12と送電電極11との間に、高周波電源12から供給される電力の位相を変更可能な可変移相部13が設けられている。その可変移相部13には、高周波電源12から供給される電力の位相を変更する可変移相器14のほか、可変移相器14の前段(又は後段)に位相検出器15が設けられ、その位相検出器15によって、電圧及び電流が検出される。また、可変移相部13には、位相制御器16が設けられており、位相検出器15の検出結果に基づき、高周波電源12から見た入力インピーダンスZinが、負荷としてのバッテリ31の負荷インピーダンスZlの変化及び移動体30の位置の変化に対して略実部上を変化するように、可変移相器14が制御され、高周波電源12から供給される電力の位相が変化する。これにより、負荷インピーダンスZl及び移動体30の位置が変動しても、高周波電源12からは、定電圧又は定電流が出力され、高周波電源12においてエネルギー損失の発生を抑制でき、供給電力の低下、高周波電源12の効率低下、及び、スイッチング素子やその他の素子の熱破壊を抑制できる。よって、バッテリ31の状態(負荷状態)及び移動体30の位置の変化による高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの影響を抑制できる。
【0091】
(2)可変移相器14には、可変リアクタとしての可変コンデンサCV1、CV2が設けられており、可変コンデンサCV1、CV2の容量(リアクタンス)を変化させることで、高周波電源12から供給される電力の位相が変更される。これにより、簡易な回路構成で電力の位相を変更できる。
【0092】
(3)可変移相器14は、容量(リアクタンス)を可変する可変リアクタとしての可変コンデンサCV1、CV2を有する90°ハイブリッド回路により構成される。これにより、可変コンデンサCV1、CV2の容量を変化させることで電力の位相が変更される。よって、簡易な回路構成で電力の位相を変更できる。
【0093】
(4)送電電極11において、受電電極21と対向する位置から他端11b側(高周波電源12と離れる側)が、受電装置20の反射電極22の作用により開放状態に設定される。ここで、送電電極11が高周波電源12より出力される高周波電力の波長を無視できない程度の大きさになると,送電電極11に電圧の定在波が発生する。これにより、移動体30の受電電極21が送電電極11の電圧の節に位置した場合、受電電極21は電力を受け取ることができなくなる。このように、電圧定在波の発生によって電力の伝送効率が低下する。これに対し、反射電極22の作用により、送電電極11における受電電極21と対向する位置から他端11b側が開放状態に設定されると、受電電極21と対向する位置の送電電極11には、電圧の腹が常に存在することになる。よって、送電電極11を、高周波電力の波長が無視できない程度に大きくしたとしても、電力の伝送効率を高くできる。
【0094】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0095】
例えば、以下に説明する変形例を含む各実施形態は、それぞれ、他の実施形態が有する構成の一部又は複数部分を、その実施形態に追加し或いはその実施形態の構成の一部又は複数部分と交換等することにより、その実施形態を変形して構成するようにしても良い。また、上記実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0096】
上記実施形態では、可変移相器14の一例として90°ハイブリッド回路について説明したが、電力の位相を変更できるものであれば、その構成は任意のものであってよい。例えば、1/4波長の伝送線路の両端に1/4波長以上の線路を並列接続し、その1/4波長以上の線路の他端にそれぞれ設けられたFET(Field Effect Transistor)スイッチをオン/オフすることで移相量を変化させるローデッドライン型移相器を、複数段縦列に接続して、可変移相器14を構成してもよい。この場合、各段それぞれのローデッドライン型移相器のFETスイッチのオン/オフを制御することで、電力の位相を所望の移相量で変化させることができる。
【0097】
また、長さの異なる伝送線路の両端を、それぞれSPDT(Single-Pole Doulble-Throw)スイッチで接続し、スイッチにより使用する伝送線路を切り替えることで移相量を変化させる経路切替型移相器を、複数段縦列に接続して、可変移相器14を構成してもよい。この場合も、各段それぞれの経路切替型移相器のSPDTスイッチを制御することで、電力の位相を所望の移相量で変化させることができる。
【0098】
また、FETスイッチにより、ローパスフィルタとハイパスフィルタとを切り替えることで移送量を変化させるLP/HP切替型移相器を、複数段縦列に接続して、可変移相器14を構成してもよい。この場合も、各段それぞれのLP/HP切替型移相器のFETスイッチを制御することで、電力の位相を所望の移相量で変化させることができる。
【0099】
上記実施形態では、本発明の開放状態設定部として受電装置20に反射電極22を設け、その反射電極22の作用によって、送電電極11において受電電極21と対向する位置から他端11b側(高周波電源12と離れる側)を開放状態に設定する場合について説明したが、開放状態設定部の構成はこれに限られるものではない。例えば、特許文献2に記載される通り、送電電極11の他端11bに可変リアクタを設け、可変リアクタのリアクタンスを制御することで、送電電極11において受電電極21と対向する位置から他端11b側(高周波電源12と離れる側)を開放状態に設定してもよい。これによっても、受電電極21と対向する位置の送電電極11に、電圧の腹を常に発生させることができる。よって、送電電極11を、高周波電力の波長が無視できない程度に大きくしたとしても、電力の伝送効率を高くできる。
【0100】
上記実施形態では、高周波電源12から電力が供給される一対の送電電極11として、それぞれが線路長の長い一本の電極により構成される場合について説明した。しかしながら、上述した通り、送電電極11のサイズが、高周波電力の波長に対して無視できなくなるほど大きくなると、送電電極11の一端11aから供給された高周波電力の入射波と、送電電極11の他端11bによって反射された反射波とによって、送電電極11に電圧定在波が発生することになる。
【0101】
これに対し、送電電極11を複数に分割して縦続に接続しつつ、縦続接続された各送電電極11の間に高周波電力の位相を進める左手系回路(進相回路)を介在させてもよい。これにより、反射波における位相の遅延を、左手系回路による進相によって戻すことができ、入射波と反射波とが同位相となるため、送電電極11における電圧定在波の発生を抑制し、受電電極21に対して広範囲に亘って電力の送信を行うことができる。
【0102】
そして、このように構成された送電電極11に対して、本発明を適用することも可能である。即ち、左手系回路を介して縦続接続された送電電極11のうち一番端の送電電極11の一端と、その一端に高周波電力を供給する高周波電源12との間に、可変移相部13を設けてもよい。この場合も、バッテリ31の状態(負荷状態)及び移動体30の位置の変化による高周波電源12から見た入力インピーダンスZinの影響を抑制できる。
【0103】
上記実施形態では、非接触給電システム1として、電界結合方式によって非接触に電力を送信する場合について説明したが、必ずしも電界結合方式に限定されるものではなく、その他の非接触給電方式、例えば、送電装置側のコイルと受電装置側のコイルとを接近させて、電磁誘導により電力を非接触にて給電する磁界結合方式などにも適用可能である。即ち、コイル等で構成される送電部と、送電部に高周波電力を供給する高周波電源12との間に、可変移相部13を設けることで、バッテリ31の状態といった負荷状態及び移動体30の位置の変化による高周波電源12からみた入力インピーダンスZinの影響を抑制できる。
【符号の説明】
【0104】
10 送電装置
11 送電電極
12 高周波電源
13 可変移相部
14 可変移相器
15 位相検出器
16 位相制御器
20 受電装置
21 受電電極
22 反射電極(開放状態設定部)
30 移動体
31 バッテリ(負荷)
CV1 可変コンデンサ
CV2 可変コンデンサ
Zin 入力インピーダンス
Zl 負荷インピーダンス
図1
図2
図3
図4
図5