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特開2024-40810アノード触媒、水電解セル及び水電解セルスタック
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  • 特開-アノード触媒、水電解セル及び水電解セルスタック 図1
  • 特開-アノード触媒、水電解セル及び水電解セルスタック 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040810
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】アノード触媒、水電解セル及び水電解セルスタック
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/081 20210101AFI20240318BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240318BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240318BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240318BHJP
   C25B 11/093 20210101ALI20240318BHJP
   B01J 23/58 20060101ALI20240318BHJP
   B01J 23/62 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C25B11/081
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/052
C25B11/093
B01J23/58 M
B01J23/62 M
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145405
(22)【出願日】2022-09-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村越 莉帆
(72)【発明者】
【氏名】宇根本 篤
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA36A
4G169BC09B
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC13B
4G169BC22A
4G169BC22B
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169CC40
4G169DA06
4G169EB14X
4G169EC23
4K011AA32
4K011BA07
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
(57)【要約】
【課題】高触媒活性と長寿命とが両立されたアノード触媒を提供する。
【解決手段】Aサイトイオンに2価又は3価の金属イオンと、Bサイトイオンに4価又は3価の金属イオンとイリジウムイオンと、を含むペロブスカイト型構造を有する酸化物を含み、前記アルカリ土類金属イオンがストロンチウムイオンを含む場合、前記Bサイトイオンに少なくともスズイオンを含み、前記Bサイトイオンのイオン半径をr、前記Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのイオン半径をr、前記Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのモル濃度をm、イリジウムイオンのイオン半径をrIr、イリジウムイオンのモル濃度をmIrとした場合に、以下の式で定義されるBサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差(r-rIr)が、-0.0120~0.0700であるアノード触媒。
[数1]

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aサイトイオンに2価又は3価の金属イオンと、Bサイトイオンに4価又は3価の金属イオン(但し、イリジウムイオンを除く)とイリジウムイオンと、を含むペロブスカイト型構造を有する酸化物を含み、
前記Aサイトイオンがストロンチウムイオンを含む場合、前記Bサイトイオンに少なくともスズイオンを含み、
前記Bサイトイオンのイオン半径をr、前記Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのイオン半径をr、前記Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのモル濃度をm、イリジウムイオンのイオン半径をrIr、イリジウムイオンのモル濃度をmIrとした場合に、以下の式で定義されるBサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差(r-rIr)が、-0.0120~0.0700であるアノード触媒。
【数1】
【請求項2】
前記Aサイトイオンはカルシウムイオン及びバリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項3】
前記Bサイトイオンである前記4価又は3価の金属イオンは、チタンイオン、ジルコニウムイオン及びスズイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項2に記載のアノード触媒。
【請求項4】
前記Bサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差が0.0051~0.0432である請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項5】
前記Bサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差が0.0141~0.0314である請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項6】
アノードガス拡散層と、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のアノード触媒と、電解質膜と、カソード触媒と、カソードガス拡散層と、セパレータとを備える水電解セル。
【請求項7】
請求項6に記載の水電解セルを複数積層させた水電解セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アノード触媒、水電解セル及び水電解セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解(以下、「水電解」という場合がある。)は、電気分解によって水から水素及び酸素を生成する方法である。例えば、エネルギー源として水素を利用する技術において、水電解は、持続可能な水素生成のための有望な技術である。
【0003】
水電解に用いる水電解セルは、アノードセパレータ、アノードガス拡散層、アノード触媒、電解質膜、カソード触媒、カソードガス拡散層、カソードセパレータ等を備えている。アノード触媒及びカソード触媒については、水電解に適した触媒が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、パラジウム(Pd)とルテニウム(Ru)を含むPdRu固溶体ナノ粒子が開示され、このナノ粒子は、水電解反応用触媒として用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/159644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ルテニウム、イリジウム等のアノード活性を有する元素を含むアノード触媒は、高い触媒活性を有する。しかし、アノード触媒は、水電解中は強酸化雰囲気に晒されるため、例えば、ルテニウム、イリジウム等の元素は溶解しやすく、当該元素を含むアノード触媒は短寿命化しやすい。
【0007】
例えば、特許文献1のようなルテニウムを含む水電解反応用触媒では、ルテニウムが溶解しやすく、当該触媒は短寿命化するおそれがある。
【0008】
本開示の目的は、高触媒活性と長寿命とが両立されたアノード触媒、並びに、これを含む水電解セル及び水電解セルスタックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> Aサイトイオンに2価又は3価の金属イオンと、Bサイトイオンに4価又は3価の金属イオン(但し、イリジウムイオンを除く)とイリジウムイオンと、を含むペロブスカイト型構造を有する酸化物を含み、
前記Aサイトイオンがストロンチウムイオンを含む場合、前記Bサイトイオンに少なくともスズイオンを含み、
前記Bサイトイオンのイオン半径をr、前記Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのイオン半径をr、前記Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのモル濃度をm、イリジウムイオンのイオン半径をrIr、イリジウムイオンのモル濃度をmIrとした場合に、以下の式で定義されるBサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差(r-rIr)が、-0.0120~0.0700であるアノード触媒。
【0010】
【数1】
【0011】
<2> 前記Aサイトイオンはカルシウムイオン及びバリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>に記載のアノード触媒。
<3> 前記Bサイトイオンに含まれる前記4価又は3価の金属イオンは、チタンイオン、ジルコニウムイオン及びスズイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含む<2>に記載のアノード触媒。
<4> 前記Bサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差が0.0051~0.0432である<1>~<3>のいずれか1つに記載のアノード触媒。
<5> 前記Bサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差が0.0141~0.0314である<1>~<4>のいずれか1つに記載のアノード触媒。
<6> アノードガス拡散層と、<1>~<5>のいずれか1つに記載のアノード触媒と、電解質膜と、カソード触媒と、カソードガス拡散層と、セパレータとを備える水電解セル。
<7> <6>に記載の水電解セルを積層させた水電解セルスタック。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、高触媒活性と長寿命とが両立されたアノード触媒、並びに、これを含む水電解セル及び水電解セルスタックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、水電解セルの概略断面図である。
図2図2は、各実施例及び各比較例におけるBサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差と電流密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0015】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えられてもよく、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えられてもよい。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えられてもよい。
【0017】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0018】
<アノード触媒>
本開示のアノード触媒は、Aサイトイオンに2価又は3価の金属イオンと、Bサイトイオンに4価又は3価の金属イオン(但し、イリジウムイオンを除く)とイリジウムイオンと、を含むペロブスカイト型構造を有する酸化物を含み、前記Aサイトイオンがストロンチウムイオンを含む場合、前記Bサイトイオンに少なくともスズイオンを含み、前記Bサイトイオンのイオン半径をr、前記Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのイオン半径をr、前記Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのモル濃度をm、イリジウムイオンのイオン半径をrIr、イリジウムイオンのモル濃度をmIrとした場合に、以下の式で定義されるBサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差(r-rIr)が、-0.0120~0.0700である。
【0019】
【数2】
【0020】
本開示のアノード触媒は、ペロブスカイト型構造を有する酸化物を含むことで長寿命となる傾向にある。さらに、ペロブスカイト型構造のBサイトイオンとしてイリジウムイオンを組み込み、Bサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差を前述のような数値範囲に調整することで当該アノード触媒を備える水電解セルの電流密度を高めることが可能となる。そのため、本開示のアノード触媒は、高触媒活性を有する傾向にある。
【0021】
Aサイトイオンに2価又は3価の金属イオンと、Bサイトイオンに4価又は3価の金属イオンとイリジウムイオンと、を含むペロブスカイト型構造を有する酸化物については、従来公知の方法により製造することができる。例えば、従来公知の固相法、液相法等により当該ペロブスカイト型構造を有する酸化物を作製可能である。固相法としては、固体原料の直接反応による方法が挙げられ、液相法としては、ペッチーニ法、錯体重合法、水熱合成法等が挙げられる。
【0022】
本開示のアノード触媒は、ペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む。ペロブスカイト型構造を有する酸化物は、一般的にABOの化学式で表される。ペロブスカイト型構造の酸化物は酸素不定性を有するものもある。酸素量が3より欠損、あるいは過剰となっていてもよい。また、AサイトイオンとBサイトイオンは、それぞれ別の元素(それぞれ、A’サイト、B’サイト)に部分的に置換されていてもよい。
【0023】
ペロブスカイト型構造のAサイトとBサイト(A’サイト、B’サイトも同様)のホストイオンの価数はそれぞれ2価と4価、あるいは3価と3価の組み合わせとなっていればよい。Aサイトイオンとしては、例えば、2価のアルカリ土類金属イオン、3価の金属イオン等が挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオン等が挙げられる。3価の金属イオンとしては、アルミニウムイオン、クロムイオン、鉄イオン等が挙げられる。Aサイトイオンは、1種のアルカリ土類金属イオンであってもよく、2種以上のアルカリ土類金属イオンであってもよい。
【0024】
ペロブスカイト型構造のBサイトイオンは、4価又は3価の金属イオン(但し、イリジウムイオンを除く)及びイリジウムイオンである。4価又は3価の金属イオンは、イリジウムイオン以外であり、かつBサイトに位置することが可能なイオンであれば特に限定されない。Bサイトイオンである4価又は3価の金属イオンとしては、アルミニウム(Al)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)等の金属のイオンが挙げられる。
【0025】
Bサイトイオンである4価又は3価の金属イオンは、チタンイオン、ジルコニウムイオン及びスズイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの元素はいずれも安定な元素であり、アノード触媒の長寿命化が期待されるため好ましい。
【0026】
Aサイトイオンが、アルカリ土類金属イオンであるストロンチウムイオンを含む場合、ペロブスカイト型構造を有する酸化物は、Bサイトイオンに少なくともスズイオンを含む。この場合、ペロブスカイト型構造を有する酸化物では、Aサイトイオンであるアルカリ土類金属イオンがストロンチウムイオンであり、Bサイトイオンがスズイオン及びイリジウムイオンであることが好ましい。
【0027】
アルカリ土類金属イオンがストロンチウムイオンを含む場合、ペロブスカイト型構造を有する酸化物は、Bサイトイオンにスズイオンとともにスズ以外の前述の金属のイオンを含んでいてもよい。
【0028】
Aサイトイオンが、アルカリ土類金属イオンであるカルシウムイオン及びバリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいることが好ましく、さらに、Bサイトイオンである4価又は3価の金属イオンは、チタンイオン、ジルコニウムイオン及びスズイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいることがより好ましい。
【0029】
本開示のアノード触媒に含まれるペロブスカイト型構造を有する酸化物では、以下の式で定義されるBサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差(r-rIr)が、-0.0120~0.0700である。
【0030】
【数3】
【0031】
前述の式中、rがBサイトイオンのイオン半径であり、rIrがイリジウムイオンのイオン半径であり、rがBサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのイオン半径である。さらに、mがBサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのモル濃度であり、mIrがイリジウムイオンのモル濃度である。
【0032】
は、Bサイトイオンのモル基準での平均イオン半径(Å)を意味する。rIrは、0.6250Åである。前述の式の右辺は、4価又は3価の金属イオン(以下、単に「金属イオン」とも称する。)iの種類ごとに、金属イオンのイオン半径(Å)に当該金属イオンのモル濃度を乗じた値の合計から、イリジウムイオンのイオン半径(Å)にイリジウムイオンのモル濃度を乗じた値を引くことで算出される。ここで、金属イオンのモル濃度は、金属イオン及びイリジウムイオンの合計(金属イオンが2種以上の場合は、2種以上の金属イオン及びイリジウムイオンの合計)に対する金属イオン(金属イオンが2種以上の場合は、該当する1種の金属イオン)のモル比を意味する。イリジウムイオンのモル濃度は、金属イオン及びイリジウムイオンの合計(金属イオンが2種以上の場合は、2種以上の金属イオン及びイリジウムイオンの合計)に対するイリジウムイオンのモル比を意味する。
【0033】
前述の式で定義されるBサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差(r-rIr)は、アノード触媒の触媒活性の観点から、-0.0060~0.0595であることが好ましく、0.0051~0.0432であることがより好ましく、0.0141~0.0314であることがさらに好ましい。
【0034】
Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンのモル濃度(当該金属イオンが2種以上の場合は、2種以上の金属イオンの合計モル濃度)は、0.20mol/mol~0.80mol/molであってもよく、0.25mol/mol~0.65mol/molであってもよく、0.30mol/mol~0.50mol/molであってもよい。
【0035】
Bサイトイオンに含まれるイリジウムイオンのモル濃度は、0.20mol/mol~0.80mol/molであってもよく、0.35mol/mol~0.75mol/molであってもよく、0.50mol/mol~0.70mol/molであってもよい。
【0036】
本開示のアノード触媒は、Aサイトイオンに2価又は3価の金属イオンと、Bサイトイオンに4価又は3価の金属イオン(但し、イリジウムイオンを除く)とイリジウムイオンと、を含むペロブスカイト型構造を有する酸化物以外の成分を含んでいてもよい。例えば、ペロブスカイト型構造を有する酸化物以外の触媒活性を有する成分、ペロブスカイト型構造を有する酸化物の生成に用いた原料の未反応成分、副反応成分等が挙げられる。
【0037】
本開示のアノード触媒でのペロブスカイト型構造を有する酸化物の含有率は、特に限定されず、アノード触媒の全量に対して、50質量%~100質量%であることが好ましく、70質量%~100質量%であることがより好ましく、90質量%~100質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
<水電解セル>
本開示の水電解セルは、アノードガス拡散層と、前述の本開示のアノード触媒と、電解質膜と、カソード触媒と、カソードガス拡散層と、セパレータとを備える。
【0039】
前述のアノードガス拡散層、電解質膜、カソード触媒、カソードガス拡散層及びセパレータとしては、従来公知の水電解セルにて使用される部材を適用してもよい。
【0040】
水電解セルは、他の構成要素を更に含んでいてもよい。他の構成要素は、公知の水電解セルの構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、ガスケット、シール材等が挙げられる。
【0041】
例えば、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層としては、それぞれ独立に、多孔質体、粉末焼結体、繊維焼結体、金属メッシュ、フェルトなどの、層内を流体が流通可能とする物質を用いることができる。
【0042】
アノードガス拡散層は、酸化による高抵抗化を抑制する観点から、耐食性の導電性材料でコーティングされていてもよい。コーティング材としては、例えば、白金、金、銀、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン等が挙げられる。
【0043】
電解質膜は、水電解に使用される公知の電解質膜(イオン交換膜であってもよい)から選択されてもよい。電解質膜は、プロトン(H)を選択的に透過する性質を有することが好ましい。電解質膜としては、例えば、高分子電解質膜(PEM)が挙げられる。高分子電解質膜としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜等が挙げられる。スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜としては、例えば、ナフィオン膜が挙げられる。
【0044】
電解質膜は、イオン性基を有することによりプロトン伝導性を有するポリマーであり、例えば、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質のいずれであってもよい。
【0045】
ここで、フッ素系高分子電解質とは、ポリマー中のアルキル基及び/又はアルキレン基における水素の大部分又は全部がフッ素原子に置換されたものを意味する。イオン性基を有するフッ素系高分子電解質の代表例としては、“ナフィオン”(登録商標)(ケマーズ(株)製)、“アクイビオン”(登録商標)(ソルベイ社製)、“フレミオン”(登録商標)(AGC(株)製)及び“アシプレックス”(登録商標)(旭化成(株)製)などの市販品が挙げられる。
【0046】
炭化水素系電解質としては、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系ポリマーが好ましい。ここで、芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン骨格等の炭素原子と水素原子のみからなる炭化水素系芳香環だけでなく、ピリジン環、イミダゾール環、チオール環等のヘテロ環などを含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもよい。
【0047】
芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンオキシド、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合等を有している構造の総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む。芳香族炭化水素系ポリマーは、これらの構造を複数有していてもよい。これらのなかでも、芳香族炭化水素系ポリマーとして特にポリエーテルケトン骨格を有するポリマー、すなわちポリエーテルケトン系ポリマーが好ましい。
【0048】
電解質膜は、補強材と組み合わせてもよい。補強材を用いることで、例えば、ホットプレス法により電解質膜と電極を接合する際に膜が破損することによるガスのリーク、電極内の短絡等が生じにくくなる。
【0049】
補強材の具体例としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素系高分子又はPE(ポリエチレン),PP(ポリプロピレン)等の熱可塑性樹脂、PI(ポリイミド)、PSF(ポリスルホン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPSS(ポリフェニレンスルフィドスルホン)、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PEK(ポリエーテルケトン)、PBI(ポリベンズイミダゾール)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PPP(ポリパラフェニレン)、PPQ(ポリフェニルキノキサリン)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)等のエンジニアリングプラスチックなどからなる均質な多孔質膜が挙げられる。
【0050】
カソード触媒は、水電解に使用される公知の触媒から選択されてもよい。触媒の成分としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、バナジウム及びこれらの合金、これらの酸化物等が挙げられる。触媒の形態は、粒子であってもよい。また、アノード触媒は、担体に担持された触媒を含んでいてもよい。担体としては、例えば、酸化チタン、酸化スズ等が挙げられる。カソード触媒は、担体に担持された触媒を含んでいてもよい。担体としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。
【0051】
水電解セルは、アノード触媒(好ましくはアノード触媒粒子)及びアイオノマーを含むアノード触媒層を備えていてもよく、カソード触媒(好ましくはカソード触媒粒子)及びアイオノマーを含むカソード触媒層を備えていてもよい。これにより、触媒層内での触媒とアイオノマーとの接触面積が増えるため、反応が促進される傾向にある。
【0052】
アノード触媒の一次粒子径は1nm~10μmであることが好ましく、2nm~1μmであることがより好ましく、5nm~100nmであることがさらに好ましい。アノード触媒の一次粒子径が1nm以上であることにより、接触面積を増加させるために必要なアイオノマーの混合比が大きくなりすぎず、アノード触媒層内部での電子伝導パスを多く確保できるため、高抵抗化しにくくなる傾向にある。アノード触媒の一次粒子径が10μm以下であることにより、アイオノマーとの接触面積の低下が抑制されるため、高抵抗化しにくくなる傾向にある。
【0053】
セパレータとしては、アノードガス拡散層側に配置されるアノードセパレータ、及びカソードガス拡散層側に配置されるカソードセパレータが挙げられる。セパレータの材質としては、例えば、チタン、ステンレス、カーボン等が挙げられる。アノード側に発生する酸素による酸化抑制の観点から、アノードセパレータは、チタンを含むことが好ましい。
【0054】
アノードセパレータは、酸化による高抵抗化を抑制するため、耐食性の導電性材料でコーティングされていてもよい。コーティング材としては、例えば、白金、金、銀、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン等が挙げられる。
【0055】
水電解セルにおける各構成要素の配置は、公知の水電解セルを参考に決定されてもよい。水電解セルにおいて、電解質膜は、アノード触媒とカソード触媒との間に位置することが好ましい。水電解セルにおいて、電解質膜並びにアノード触媒及びカソード触媒は、アノードガス拡散層とカソードガス拡散層との間に位置することが好ましい。水電解セルにおいて、電解質膜、アノード触媒及びカソード触媒並びにアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層は、2つのセパレータの間に位置することが好ましい。
【0056】
水電解セルの一例を図1に示す。図1は、水電解セルの概略断面図である。図1に示すように、水電解セル100は、図1の上側から順にアノードセパレータ60と、アノードガス拡散層20と、アノード触媒12と、電解質膜11と、カソード触媒13と、カソードガス拡散層30と、カソードセパレータ70と、を備える。さらに、アノードセパレータ60と電解質膜11との間にガスケット40が配置されており、カソードセパレータ70と電解質膜11との間にガスケット50が配置されている。
【0057】
<水電解装置>
本開示の水電解装置は、前述の本開示の水電解セルを複数積層してなる水電解セルスタックであってもよく、当該水電解セルスタック又は本開示の水電解セルと他の構成要素とを備える装置であってもよい。
【0058】
他の構成要素は、公知の水電解装置の構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、パワーコンディショナー、水ポンプ、イオン交換樹脂、熱交換器及び除湿器などの補機類が挙げられる。
【実施例0059】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。以下の実施例に示される事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されてもよい。
【0060】
<実施例1>
ペッチーニ法により、イリジウムイオンをチタン酸バリウム(BaTiO)のBサイトに組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、炭酸バリウム(BaCO)、チタンテトラブトキシド(C1636Ti)及びヘキサクロロイリジウム酸カリウム(KIrCl)とした。BaCOを0.390g、KIrClを0.08g、クエン酸一水和物(C・HO)を0.28g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。C1636Tiを0.056g秤量して、4mLのエチレングリコール(C)ともに混合し、10分以上攪拌して混合した。この混合溶液を溶液Bとした。溶液Aを溶液Bに投入した後、ホットスターラーを使用し、70℃で3時間以上攪拌混合した。その後、混合溶液をジルコニア製るつぼに移し、180℃で12時間、200℃で6時間、300℃で6時間、500℃で3時間、600℃で6時間熱処理した。熱処理後の粉末を回収し、濃度1Mの塩酸水溶液50mLとともにビーカーに投入して3時間以上攪拌し、未反応成分を取り除いた。得られた混合溶液は、吸引ろ過器を使用して水洗し、オーブンにて60℃で乾燥した後、触媒粉末を得た。合成した触媒粉末に対して、X線回折測定を実施したところ、ペロブスカイト型構造に由来する回折パターンが得られた。得られた粉末を王水に溶解し、高周波誘導結合プラズマ(ICP)により分析したところ、Bサイトのイリジウムイオンのモル濃度は0.50mol/molであった。
Bサイトのイリジウムイオンのモル濃度(mIr)は、0.50mol/molであった。Bサイトのチタンイオンのイオン半径(Tiイオン半径、r)は0.6050Å、イリジウムイオンのイオン半径(Irイオン半径、rIr)は0.6250Åであり、Bサイトイオンのイオン半径(モル基準での平均イオン半径、r)は、0.6150Åであり、Bサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差(r-rIr)は-0.0100Åであった。
【0061】
<実施例2>
合成したチタン酸バリウム(BaTiO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が0.67mol/molとなるよう、C1636Tiの質量を0.028gに変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は、表1に示す通りであった。
【0062】
<実施例3>
合成したペロブスカイト構造を有するスズ酸ストロンチウム(SrSnO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度(mIr)が0.50mol/molとなるよう、出発原料と混合比を変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)、スズテトラブトキシド(C1636Sn)及びKIrClとした。Sr(NOを0.420g、KIrClを0.08g、C・HOを0.28gとし、実施例1に記載の方法で溶液Aを作製した。C1636Snを0.067g秤量し、実施例1に記載の方法で溶液Bを作製した。以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0063】
<実施例4>
合成したスズ酸ストロンチウム(SrSnO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が0.67mol/molとなるよう、C1636Snの質量を0.034gに変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0064】
<実施例5>
合成したペロブスカイト構造を有するスズ酸バリウム(BaSnO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度(mIr)が0.67mol/molとなるよう、出発原料と混合比を変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は酢酸バリウム((CHCOO)Ba)、C1636Sn及びKIrClとした。(CHCOO)Baを0.968g、KIrClを0.072g、C・HOを0.25gとして、実施例1に記載の方法で溶液Aを作製した。C1636Snを0.062g秤量し、実施例1に記載の方法で溶液Bを作製した。以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0065】
<実施例6>
ペッチーニ法により、イリジウムイオンをジルコン酸カルシウム(CaZrO)のBサイトに組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、炭酸カルシウム(CaCO)、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl・8HO)及びKIrClとした。CaCOを0.566g、ZrOCl・8HOを0.256g、C・HOを4.708g、硝酸(1.38)を2mL、純水を20mL、Cを8mL秤量した。ホットスターラーを使用し、75℃で3時間以上攪拌混合した。その後、混合溶液をジルコニア製るつぼに移し、180℃で12時間、200℃で6時間、300℃で6時間、500℃で3時間、600℃で6時間、700℃で6時間熱処理した。以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。合成した触媒粉末に対して、実施例1と同様の方法でX線回折測定を実施したところ、ペロブスカイト型構造に由来する回折パターンが得られた。得られた粉末を王水に溶解し、高周波誘導結合プラズマ(ICP)により分析したところ、イリジウムイオンのモル濃度(mIr)が0.33mol/molであった。求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0066】
<実施例7>
合成したペロブスカイト型構造を有するジルコン酸カルシウム(CaZrO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が0.40mol/molとなるよう、ZrOCl・8HOの質量を0.196gとした以外は、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0067】
<実施例8>
合成したペロブスカイト型構造を有するジルコン酸カルシウム(CaZrO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が0.50mol/molとなるよう、ZrOCl・8HOの質量を0.128gとした以外は、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0068】
<実施例9>
合成したペロブスカイト型構造を有するジルコン酸カルシウム(CaZrO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が0.67mol/molとなるよう、ZrOCl・8HOの質量を0.064gとした以外は、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0069】
<実施例10>
合成したペロブスカイト型構造を有するジルコン酸バリウム(BaZrO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度(mIr)が0.33mol/molとなるよう、出発原料と混合比を変更した以外は、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は硝酸バリウム(Ba(NO)、ZrOCl・8HO及びKIrClとした。Ba(NOを1.449g、KIrClを0.192g、C・HOを4.708g、ZrOCl・8HOを0.256gとして、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0070】
<実施例11>
合成したペロブスカイト型構造を有するジルコン酸バリウム(BaZrO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が0.50mol/molとなるよう、Ba(NOを1.464g、ZrOCl・8HOを0.128gとした以外は、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0071】
<実施例12>
合成したペロブスカイト型構造を有するジルコン酸バリウム(BaZrO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が0.67mol/molとなるよう、Ba(NOを1.457g、ZrOCl・8HOを0.064gとした以外は、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0072】
<比較例1>
チタン酸ストロンチウム(SrTiO)を合成した。出発原料と混合比を変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は硝酸ストロンチウム(Sr(NO)及びC1636Tiとした。Sr(NOを0.420g、C・HOを0.28gとし、実施例1に記載の方法で溶液Aを作製した。C1636Tiを0.225g秤量し、実施例1に記載の方法で溶液Bを作製した。以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。
【0073】
<比較例2>
合成したペロブスカイト構造を有するチタン酸ストロンチウム(SrTiO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が0.05mol/molとなるよう出発原料と混合比を変更した以外は実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、Sr(NO、C1636Ti及びKIrClとした。Sr(NOを0.42g、KIrClを0.08g、C・HOを0.28gとし、実施例1に記載の方法で溶液Aを作製した。C1636Tiを0.225g秤量し、実施例1に記載の方法で溶液Bを作製した。以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0074】
<比較例3>
合成したペロブスカイト構造を有するチタン酸ストロンチウム(SrTiO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が0.10mol/molとなるよう、C1636Tiの質量を0.51gに変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は、表1に示す通りであった。
【0075】
<比較例4>
合成したペロブスカイト型構造を有するジルコン酸カルシウム(CaZrO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が0.10mol/molとなるよう、ZrOCl・8HOの質量を1.200gとした以外は、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0076】
<比較例5>
合成したペロブスカイト構造を有するジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度(mIr)が0.10mol/molとなるよう、出発原料と混合比を変更した以外は、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は硝酸ストロンチウム(Sr(NO)、ZrOCl・8HO、KIrClとした。Sr(NOを1.184g、KIrClを0.192g、C・HOを4.708g、ZrOCl・8HOを1.200gとした以外は実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0077】
<比較例6>
合成したペロブスカイト構造を有するジルコン酸バリウム(BaZrO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度(mIr)が0.15mol/molとなるよう、出発原料と混合比を変更した以外は、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は炭酸バリウム(BaCO)、ZrOCl・8HO及びKIrClとした。BaCOを1.039g、KIrClを0.192g、C・HOを4.708g、ZrOCl・8HOを0.699g、硝酸(1.38)を2mLとして、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0078】
<比較例7>
合成したペロブスカイト構造を有するチタン酸カルシウム(CaTiO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度(mIr)が0.20mol/molとなるよう、出発原料と混合比を変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、CaCO、C1636Ti及びKIrClとした。CaCOを0.202g、KIrClを0.08g、C・HOを0.28g、硝酸(1.38)を0.3mLとして、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0079】
<比較例8>
合成したペロブスカイト構造を有するジルコン酸カルシウム(CaZrO)のBサイトに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度(mIr)が0.20mol/molとなるよう、ZrOCl・8HOの質量を1.200gとした以外は、実施例6と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は表1に示す通りであった。
【0080】
<比較例9>
市販のルチル型構造を有するRuOを使用した。
【0081】
各実施例及び各比較例にて得たペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末をアノード触媒として用いた。実施例1と同様にして求めたBサイトの各条件は、表1に示す通りであった。
【0082】
[電流密度の測定]
合成した触媒の電流密度と電圧の関係は、回転ディスク電極法により室温で評価した。触媒粉末を10mg、5質量%ナフィオン分散溶液を0.1mL、2-プロパノールを0.4mL、及び純水を1.5mLを秤量してガラス容器に移し、ホモジェナイザーにより30分以上混合した。得られた混合溶液を10μL取り分けて、直径5mmのグラッシーカーボン電極上に塗布した。乾燥後、回転ディスク電極装置によりセッティングし、作用極とした。対極は白金線、参照極は水溶媒系Ag/AgCl参照電極をそれぞれ使用し、これらと作用極を、0.5M硫酸水溶液を投入したビーカー内に配置した。開回路で10分以上保持した後、室温において水素可逆電極(RHE)基準で0.05V~1.4Vの範囲、掃引速度100mV/秒、回転速度1,600rpmでサイクリックボルタンメトリー測定を60サイクル実施し、触媒表面の電気化学的クリーニングを実施した。その後、電圧をRHE基準で2Vに12時間保持し、1.6Vにおける電流を計測した。グラッシーカーボン電極の面積で電流値を割り算して電流密度とした。なお、本測定中の回転数は1,600rpmとした。電流密度の測定結果を表1及び図2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、実施例1~12では、比較例1~9と比較して電流密度が高かった。比較例9では、電流密度が比較例1~8と比較しても大きく劣っていた。この理由としては、RHE基準で2Vという高電位では、ルチル型構造が不安定であるため、触媒成分が溶出して失活したことが原因として考えられる。これに対し、実施例1~12及び比較例1~8に示したペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒は、ルチル型構造を有する触媒よりも電流密度が高いことから安定であり、さらに、実施例1~12では、比較例1~8と比較して高触媒活性を有することがわかった。
【0085】
図2は、各実施例及び各比較例におけるBサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差と電流密度との関係を示すグラフである。図2に示すように、Bサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差を調整することで、高い電流密度が得られる傾向にあった。例えば、log{電流密度(mA/cm)}=1となる閾値1では、前述のイオン半径差は-0.0060~0.0595であり、log{電流密度(mA/cm)}=1.7となる閾値2では、前述のイオン半径差は0.0051~0.0432であり、log{電流密度(mA/cm)}=2となる閾値3では、前述のイオン半径差は0.0141~0.0314であった。前述のイオン半径差の数値範囲を徐々に狭めていくことで高い電流密度が得られることが分かった。一方、Bサイトイオンにてイリジウムイオン及び他の金属イオンを組み合わせ、かつ、イリジウムイオン及び他の金属イオンからなるBサイトイオンと、イリジウムイオンとのイオン半径差を調整することでアノード触媒が高性能となることが分かった。このようなイオン半径差を調整することでアノード触媒が高性能となる特長は、ペロブスカイト型構造を有する触媒特有であり、他の構造を有する触媒(例えば、ルチル型)では得られないものである。
【符号の説明】
【0086】
11:電解質膜
12:アノード触媒
13:カソード触媒
20:アノードガス拡散層
30:カソードガス拡散層
40:ガスケット
50:ガスケット
60:アノードセパレータ
70:カソードセパレータ
100:水電解セル
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-05-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
【数1】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
【数2】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
【数3】
【手続補正4】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aサイトイオンに2価又は3価の金属イオンと、Bサイトイオンに4価又は3価の金属イオン(但し、イリジウムイオンを除く)とイリジウムイオンと、を含むペロブスカイト型構造を有する酸化物を含み、
前記Aサイトイオンがストロンチウムイオンを含む場合前記Bサイトイオンに少なくともスズイオンを含み、あるいは、前記Aサイトイオンがカルシウムイオンを含む、又は前記Bサイトイオンがジルコニウムイオンを含み、
前記Bサイトイオンのイオン半径(Å)をr、前記Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのイオン半径(Å)をr、前記Bサイトイオンに含まれる4価又は3価の金属イオンiのモル濃度をm、イリジウムイオンのイオン半径(Å)をrIr、イリジウムイオンのモル濃度をmIrとした場合に、以下の式で定義されるBサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差(r-rIr)が、-0.0120~0.0700であるアノード触媒。
【数1】
【請求項2】
前記Aサイトイオンはカルシウムイオン及びバリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項3】
前記Bサイトイオンである前記4価又は3価の金属イオンは、チタンイオン、ジルコニウムイオン及びスズイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項2に記載のアノード触媒。
【請求項4】
前記Bサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差が0.0051~0.0432である請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項5】
前記Bサイトイオンとイリジウムイオンのイオン半径差が0.0141~0.0314である請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項6】
アノードガス拡散層と、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のアノード触媒と、電解質膜と、カソード触媒と、カソードガス拡散層と、セパレータとを備える水電解セル。
【請求項7】
請求項6に記載の水電解セルを複数積層させた水電解セルスタック。