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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040818
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】内燃機関の失火検出装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145415
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 慎一郎
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384AA01
3G384AA07
3G384DA54
3G384FA01Z
3G384FA04Z
3G384FA14Z
3G384FA56Z
3G384FA73Z
(57)【要約】
【課題】内燃機関の回転変動量から求められた判定パラメータに基づく失火検出の信頼性が、変速機の変速比や内燃機関の運転状態によって低下することを抑止できる、内燃機関の失火検出装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る内燃機関の失火検出装置は、その一態様において、内燃機関の回転速度の変動量に基づき求められた判定パラメータに基づき失火の有無を判定する、内燃機関の失火検出装置であって、変速機における変速比及び前記内燃機関の運転状態に基づき前記判定パラメータを補正し、補正後の前記判定パラメータに基づき失火の有無を判定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備えられる内燃機関であって、複数気筒を有し、回転エネルギーが変速機を介して前記車両の車輪に伝達される前記内燃機関に適用され、
前記内燃機関の回転速度の変動量に基づき求められた判定パラメータに基づき失火の有無を判定する、内燃機関の失火検出装置であって、
前記変速機における変速比に関する情報、及び、前記内燃機関の運転状態に関する情報を取得し、
前記変速比及び前記運転状態に基づき前記判定パラメータを補正し、
補正後の前記判定パラメータに基づき失火の有無を判定する、
内燃機関の失火検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の失火検出装置であって、
燃焼行程が連続する2つの気筒間での回転速度の変動量である第1回転速度変動量を求め、
前記第1回転速度変動量を求めた2つの気筒の燃焼行程よりもそれぞれ360deg前で燃焼行程が連続する2つの気筒間での回転速度の変動量である第2回転速度変動量を求め、
前記第1回転速度変動量と前記第2回転速度変動量との差分に基づき前記判定パラメータを求める、
内燃機関の失火検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の失火検出装置であって、
所定クランク角範囲の通過時間に基づき気筒毎に回転速度を求め、
前記通過時間に基づき求めた回転速度に基づき、前記第1回転速度変動量及び前記第2回転速度変動量を求め、
1サイクル中で前記通過時間が最大となった気筒の失火判定に用いる前記判定パラメータを補正する、
内燃機関の失火検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関の失火検出装置であって、
1サイクル中で前記通過時間の最大値及び最小値を求め、
前記最大値と前記最小値との差が設定値を超えるときに、1サイクル中で前記通過時間が最大となった気筒の失火判定に用いる前記判定パラメータを補正する、
内燃機関の失火検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関の失火検出装置であって、
前記内燃機関の運転状態は、機関負荷及び機関回転速度を含み、
前記機関負荷及び機関回転速度が所定運転領域にあるときに、1サイクル中で前記通過時間が最大となった気筒の失火判定に用いる前記判定パラメータを補正し、
前記所定運転領域を前記変速比に応じて変更する、
内燃機関の失火検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の失火検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される内燃機関の失火検出装置は、各気筒の燃焼行程毎に検出したエンジン回転速度から、失火検出の対象となる今回の燃焼行程の気筒とその1燃焼行程前の気筒との間の回転速度変動量(以下「第1の回転速度変動量」という)を演算すると共に、この第1の回転速度変動量を演算した2つの気筒の燃焼行程よりもそれぞれ360deg前の燃焼行程が連続する2つの気筒間の回転速度変動量(以下「第2の回転速度変動量」という)を演算し、第1の回転速度変動量と第2の回転速度変動量との差分値に基づいて失火検出対象となる気筒の失火の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-138663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関の回転エネルギーが変速機を介して車両の車輪に伝達される場合、内燃機関の回転変動量に基づき求められる失火検出のための判定パラメータのレベルが、変速機の変速比に応じて異なる特定の運転領域において駆動系のねじれや共振の影響を受けて変化し、失火検出の信頼性が低下することを、本発明者は見出した。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の回転変動量から求められた判定パラメータに基づく失火検出の信頼性が、変速機の変速比や内燃機関の運転状態によって低下することを抑止できる、内燃機関の失火検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る内燃機関の失火検出装置は、その一態様において、内燃機関の回転速度の変動量に基づき求められた判定パラメータに基づき失火の有無を判定する、内燃機関の失火検出装置であって、変速機における変速比及び前記内燃機関の運転状態に基づき前記判定パラメータを補正し、補正後の前記判定パラメータに基づき失火の有無を判定する。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によると、内燃機関の回転変動量から求められた判定パラメータに基づく失火検出の信頼性が、変速機の変速比や内燃機関の運転状態によって低下することを抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】内燃機関と自動変速機とを備える車両のシステム図である。
図2】失火検出における検出ウィンドウを示す図である。
図3】回転速度変動量に基づく失火検出の様子を示すタイムチャートである。
図4】失火検出に対する駆動系のねじれや共振の影響を示すタイムチャートである。
図5】失火検出処理の流れを示すフローチャートである。
図6】ねじれや共振が発生する運転領域を示す線図である。
図7】判定パラメータを補正する補正値のマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付した図面を参照して、本発明を実施するための実施形態を説明する。
図1は、車両1のシステム図である。
車両1は、内燃機関2と、内燃機関2の回転エネルギーを駆動輪である車輪7a,7bに伝達する動力伝達系とを搭載する。
【0010】
前記動力伝達系は、トルクコンバータ3、自動変速機4、プロペラシャフト5、及び、ディファレンシャルギア6を備えている。
そして、内燃機関2のクランク軸2aは、トルクコンバータ3を介して自動変速機4の入力軸4aに連結され、自動変速機4の出力軸4bは、プロペラシャフト5及びディファレンシャルギア6を介して車輪7a,7bの車軸8a,8bに連結されている。
【0011】
内燃機関2は、複数気筒を有した内燃機関であり、本実施形態では、一態様として直列4気筒内燃機関とする。
内燃機関2は、吸入空気量を調整する電子制御スロットル9、各気筒の燃焼室に燃料を供給する燃料噴射装置10、及び、火花放電によって各気筒の燃焼室内の混合気に着火する点火装置11を有している。
【0012】
電子制御スロットル9は、吸気管を開閉するスロットル弁9aと、スロットルモータ9bとを有し、スロットルモータ9bが発生する開閉駆動力によりスロットル弁9aが開閉動作する。
点火装置11は、点火プラグ、点火コイル、パワートランジスタを備える。
【0013】
そして、スロットルモータ9b、燃料噴射装置10、点火装置11は、ECM(Engine Control Module)15により制御される。
ECM15は、CPU(Central Processing Unit)、揮発性メモリであるRAM(Random Access Memory)、不揮発性メモリであるROM(Read Only Memory)、入出力インタフェースなどを備えたマイクロコンピュータを内蔵している。
【0014】
ECM15は、入力インタフェースを介して各種センサの出力信号を取得する。
車両1、内燃機関2、及び自動変速機4は、各種センサとして、アクセル開度センサ16、クランク角センサ17、エアフローセンサ18、カム角センサ19、車輪速センサ20a,20b,20c,20d(以下、車輪速センサ20a-20dと記す)、変速段センサ21を備える。
【0015】
アクセル開度センサ16は、車両1の運転者によるアクセルの操作量の検出信号ACCを出力するセンサである。
クランク角センサ17は、内燃機関2のクランク軸2aが単位クランク角だけ回転する毎のパルス信号である単位クランク角信号POSを出力するセンサである。
エアフローセンサ18は、電子制御スロットル9の上流に配され、内燃機関2の吸入空気流量の検出信号Qを出力するセンサである。
【0016】
カム角センサ19は、4気筒機関における各気筒の行程位相差に相当するクランク角180deg毎のパルス信号である基準クランク角信号REFを出力するセンサである。
なお、ECM15が、基準クランク角信号REFに基づき基準ピストン位置の気筒を識別できるように、クランク角180deg毎の基準クランク角信号REFのパルス数(又はパルス幅)が設定されている。
【0017】
車輪速センサ20a-20dは、車輪7a,7b,7c,7d(以下、車輪7a-7dと記す)毎に設けられ、車輪7a-7dの車輪速の検出信号NWA,NWB,NWC,NWD(以下、検出信号NWa-NWdと記す)を出力するセンサである。
変速段センサ21は、自動変速機4における変速段(換言すれば、変速比)の検出信号GSを出力するセンサである。
【0018】
ECM15が内蔵するマイクロコンピュータは、ROMに格納されている制御プログラムを実行することで、車両1の運転を制御する。
詳細には、ECM15は、アクセルの操作量の検出信号ACCなどに基づいて、内燃機関2の目標トルクを設定し、目標トルクに応じて電子制御スロットル9の目標スロットル開度を設定する。
そして、ECM15は、電子制御スロットル9の開度が目標スロットル開度となるように、スロットルモータ9bへ制御信号を出力する。
【0019】
また、ECM15は、単位クランク角信号POSに基づき求めた機関回転速度の情報や、検出信号Qに基づく吸入空気流量の情報などに基づいて、燃料噴射装置10の燃料噴射量を設定する。
また、ECM15は、目標トルクなどの機関負荷を示す物理量や機関回転速度に応じて点火装置11による点火時期を設定する。
【0020】
そして、ECM15は、燃料噴射量の設定値を反映した制御信号を燃料噴射装置10に出力することで、燃料噴射装置10による燃料噴射量を制御する。
また、ECM15は、点火時期の設定値を反映した制御信号を点火装置11へ出力することで、点火装置11による点火時期を制御する。
【0021】
また、ECM15は、内燃機関2における失火の発生を検出する機能を備える。
つまり、ECM15は、内燃機関2の運転を制御する運転制御装置としての機能と、内燃機関2における失火の発生を検出する失火検出装置としての機能とを、ソフトウェア的に実装している。
【0022】
ECM15は、失火検出において、内燃機関2の回転速度に関する情報を取得し、失火検出のための判定パラメータを、回転速度の変動量に基づいて気筒毎に求める。
そして、ECM15は、判定パラメータと閾値とを比較することで、気筒毎に失火の有無を判別する。
さらに、ECM15は、失火の有無に関する信号を出力することで、内燃機関2における失火発生(換言すれば、内燃機関2の異常)をランプ点灯や液晶表示などを介して車両1の運転者に警告したり、内蔵するROMに失火発生の履歴を保存したりする。
【0023】
ECM15は、気筒毎の失火検出のための判定パラメータを以下のようにして求める。
ECM15は、まず、燃焼行程(膨張行程、爆発行程)が連続する2つの気筒間での回転速度の変動量である第1回転速度変動量を求め、さらに、第1回転速度変動量を求めた2つの気筒の燃焼行程よりもそれぞれ360deg前で燃焼行程が連続する2つの気筒間での回転速度の変動量である第2回転速度変動量を求める。
そして、ECM15は、第1回転速度変動量と第2回転速度変動量との差分に基づき、判定パラメータを求める。
【0024】
以下では、ECM15による、判定パラメータの算出処理、及び、判定パラメータに基づく失火診断を、より詳細に説明する。
図2は、失火検出に用いる回転速度の検出ウィンドウを例示する。
検出ウィンドウとして、たとえば、各気筒の燃焼行程の後期となる所定クランク角範囲が設定される。
そして、ECM15は、各気筒の燃焼行程に設定されるウィンドウの通過時間を逐次計測し、計測した通過時間を、検出ウィンドウのクランク角度に基づき回転数[rpm]に変換することで、気筒毎の回転速度の情報を取得する。
【0025】
図3は、ECM15が、第1気筒が常時失火している状態で、判定パラメータに基づき第1気筒における失火の発生を検出する様子を示す図である。
ECM15は、検出ウィンドウを、クランク角センサ17及びカム角センサ19の出力信号に基づき検出し、検出ウィンドウの通過時間Tmwin[ms]を、検出ウィンドウ毎に逐次計測する。
【0026】
また、ECM15は、計測した通過時間Tmwinを、検出ウィンドウのクランク角度[deg]に基づいて回転数変換値MNX[rpm]に変換し、検出ウィンドウ毎の回転数変換値MNX(n)として時系列に記憶する。
さらに、ECM15は、回転数変換値MNXを求める毎に、今回値MNX(0)と前回値MNX(1)との差分DELNE(0)(DELNE(0)=MNX(0)-MNX(1))を演算し、差分DELNE(n)を時系列に保存する。
【0027】
次いで、ECM15は、差分DELNE(n)が更新される毎に、判定パラメータとしての回転変動差分値DON360D(0)を、下記の数式(1)にしたがって算出し、回転変動差分値DON360D(n)を時系列に保存する。
DON360D(0)={(DELNA(0)-DELNE(2))-(DELNA(2)-DELNA(4))}/2…(1)
【0028】
ここで、DELNA(n)は、DELNE(n)をクランク角偏差(公差)の学習値で補正した値、換言すれば、検出ウィンドウ毎のクランク角度の違いに応じて補正した値である。
また、差分DELNE(n)は、燃焼行程が連続する2つの気筒間での回転速度の変動量(第1回転速度変動量)であり、差分DELNE(n+2)は、差分DELNE(n)を求めた2つの気筒の燃焼行程よりもそれぞれ360deg前で燃焼行程が連続する2つの気筒間での回転速度の変動量(第2回転速度変動量)である。
つまり、ECM15は、燃焼行程が連続する2つの気筒間での回転速度の変動量である第1回転速度変動量と、第1回転速度変動量を求めた2つの気筒の燃焼行程よりもそれぞれ360deg前で燃焼行程が連続する2つの気筒間での回転速度の変動量である第2回転速度変動量との差分に基づき判定パラメータとしての回転変動差分値DON360D(n)を求める。
【0029】
次いで、ECM15は、回転変動差分値DON360D(n)と失火判定閾値とを比較し、回転変動差分値DON360D(n)が失火判定閾値を超えていれば、失火診断サイクルに基づき特定される気筒の失火を判定する。
ここで、図3の最下段に示した失火診断サイクルの2気筒後の回転変動差分値DON360D(n)が、失火診断サイクルで失火診断の対象とする気筒における失火の有無を示す判定パラメータとなる。
【0030】
なお、本実施形態において、4気筒である内燃機関2の点火順を、第1気筒→第3気筒→第2気筒→第4気筒とする。
したがって、図3において、#1と表記した判定パラメータに基づき、第1気筒における失火の有無が診断され、#1と表記した判定パラメータは、第1気筒の失火診断のタイミングから2気筒後である第2気筒の回転速度が求められるタイミングで算出される。
【0031】
上記の回転変動量に基づく失火診断においては、判定パラメータとしての回転変動差分値DON360D(n)が、自動変速機4の変速比(変速段)に応じた特定の運転領域において駆動系のねじれや共振の影響を受けて変化し、失火検出の信頼性が低下する。
図4は、第1気筒が常時失火している状態で、判定パラメータとしての回転変動差分値DON360D(n)が、駆動系のねじれや共振の影響を受けたときの失火判定の様子を示す。
【0032】
図4に示した例では、常時失火している第1気筒の失火の有無を示す判定パラメータが、駆動系のねじれや共振の影響を受けて低くなって失火判定閾値を超えず、第1気筒の失火が検出されないことになる。
ここで、駆動系のねじれや共振の影響によって判定パラメータが低く算出されることがあっても失火が検出されるように失火判定閾値を低く設定すると、第1気筒の失火を検出できても、他の失火が発生していない気筒について失火を誤検出する確率が高くなる。
【0033】
そこで、ECM15は、判定パラメータを、駆動系のねじれや共振の影響を抑止した値に補正し、補正後の判定パラメータと失火判定閾値とを比較することで、駆動系のねじれや共振の影響による失火検出精度の低下を抑止する。
つまり、ECM15は、失火判定閾値を、駆動系のねじれや共振の影響を考慮して低く設定する代わりに、駆動系のねじれや共振が発生するときに判定パラメータを補正することで、失火気筒を的確に検出しつつ、失火が発生していない気筒について失火を誤検出することを抑止する。
【0034】
図5は、ECM15による判定パラメータの補正処理の流れを示すフローチャートである。
ECM15は、ステップS101で、クランク角センサ17の出力信号或いはカム角センサ19の出力信号から、機関回転数NE[rpm]の情報を取得する。
【0035】
また、ECM15は、ステップS102で、機関負荷ELの情報を取得する。
なお、ECM15は、機関負荷ELの情報として、たとえば、吸入空気量、燃料噴射量、電子制御スロットル9の開度の情報などを取得する。
さらに、ECM15は、ステップS103で、自動変速機4の変速段GSの情報を、変速段センサ21の出力信号から取得する。
【0036】
次いで、ECM15は、ステップS104で、判定パラメータに影響を与えるような駆動系のねじれや共振が発生する運転領域で、内燃機関2が運転されているか否かを判断する。
図6は、判定パラメータに影響を与えるような駆動系のねじれや共振が発生する所定運転領域は、機関負荷及び機関回転数で特定される領域であって、変速段に影響されて変化することを示す。
そこで、ECM15は、ステップS104で、内燃機関2が、そのときの変速段GS、機関回転数NE及び機関負荷ELに基づき定められる所定運転領域で運転されているか否かを判断する。
【0037】
ここで、内燃機関2が駆動系のねじれや共振が発生する運転領域で運転されていない場合、判定パラメータ(回転変動差分値DON360D(n))が駆動系のねじれや共振に影響されて変化することもない。
そこで、ECM15は、内燃機関2が駆動系のねじれや共振が発生する運転領域で運転されていない場合、ステップS105以降に進むことなく、ステップS101に戻る。
【0038】
この場合、ECM15は、前述した数式(1)にしたがって求めた判定パラメータ(回転変動差分値DON360D(n))を補正することなく用いて、失火診断を行う。
一方、ECM15は、内燃機関2が駆動系のねじれや共振が発生する運転領域で運転されている場合、つまり、駆動系のねじれや共振に影響されて判定パラメータ(回転変動差分値DON360D(n))が変化する条件である場合、ステップS105に進む。
【0039】
ECM15は、ステップS105で、直近の1サイクルで求められた通過時間Tmwin(n)のうちの最大値Tmwin_MAXを求める。
また、ECM15は、次のステップS106で、直近の1サイクルで求められた通過時間Tmwin(n)のうちの最小値Tmwin_MINを求める。
【0040】
そして、ECM15は、ステップS107で、最大値Tmwin_MAXと最小値Tmwin_MINとの差分ΔTmwin(ΔTmwin=Tmwin_MAX-Tmwin_MIN)が、判定値ΔTTH(ΔTTH>0)よりも大きいか否かを判断する。
つまり、全気筒で失火が発生していないときは、1サイクル中に通過時間Tmwinが大きく変動することはなく、いずれかの気筒で失火が発生すると1サイクル中での通過時間Tmwinの変動が大きくなる。
【0041】
そこで、ECM15は、差分ΔTmwinと判定値ΔTTHとを比較することで、失火発生の可能性がある回転変動が発生している状態と、失火が発生していないと推定できる回転変動の状態とを切り分ける。
なお、ECM15は、通過時間Tmwin(n)に代えて、回転数変換値MNX(n)の1サイクル中での最大値、最小値を求め、これらの差分と閾値とを比較することができる。
【0042】
ECM15は、差分ΔTmwinが判定値ΔTTH以下である場合、つまり、1サイクル中での回転変動の状態から失火が発生していないと推定できる場合、ステップS101に戻り、判定パラメータ(回転変動差分値DON360D(n)))の補正は実施しない。
一方、ECM15は、差分ΔTmwinが判定値ΔTTHよりも大きい場合、つまり、1サイクル中での回転変動の状態から、いずれかの気筒で失火が発生している可能性があると推定できる場合、ステップS108に進む。
【0043】
ECM15は、ステップS108で、判定パラメータ(回転変動差分値DON360D(n))を補正するための補正値HOS360Dを、機関負荷EL、機関回転数NE、及び変速段GSに基づいて設定する。
たとえば、ECM15は、ROMに格納されている補正値マップを参照して、そのときの機関負荷EL、機関回転数NE、及び変速段GSに相応する補正値HOS360Dを求める。
【0044】
図7は、補正値マップの一態様を示す。
図7に示す補正値マップは、機関負荷EL及び機関回転数NEの条件毎に補正値を記憶したマップであって、変速段GS毎に個別の補正値マップが設定されている。
ECM15は、そのときの変速段GSに基づき参照する補正値マップを選択し、選択した補正値マップにおいて、そのときの機関負荷EL及び機関回転数NEに対応する補正値HOS360Dを検索する。
【0045】
詳細には、補正値マップは、駆動系のねじれや共振が発生する所定運転領域内で、機関負荷EL及び機関回転数NEに相応する補正値HOS360Dを設定するものである。
そして、補正値HOS360Dは、駆動系のねじれや共振に影響されて変化する判定パラメータ(回転変動差分値DON360D(n))を、駆動系のねじれや共振の影響がない状態でのレベルに近づけるように、ECM15の設計、開発段階での実験やシミュレーションによって適合されている。
【0046】
ECM15は、ステップS108で補正値HOS360Dを求めた後、ステップS109に進み、最大値Tmwin_MAXに相当する通過時間Tmwinを計測したときに燃焼行程であった気筒CYLMFを判別する。
次いで、ECM15は、ステップS110で、気筒CYLMFから2気筒後(クランク角360deg後)の失火診断サイクルで算出される回転変動差分値DON360D(n)に補正値HOS360Dを乗算して補正し、補正後の回転変動差分値DON360DH(n)と失火判定閾値を比較して失火の有無を診断する。
【0047】
つまり、気筒CYLMFは、失火している可能性がある気筒であって、当該気筒CYLMFの失火診断に用いる回転変動差分値DON360D(n)は、2気筒後(クランク角360deg後)に算出される(図3参照)。
さらに、回転変動差分値DON360D(n)は、駆動系のねじれや共振が発生する運転領域で内燃機関2が運転されている状態で算出されており、駆動系のねじれや共振の影響で本来よりも小さく算出されていると見込まれる。
【0048】
そこで、ECM15は、気筒CYLMFから2気筒後(クランク角360deg後)の失火診断サイクルで算出される回転変動差分値DON360D(n)に補正値HOS360Dを乗算することで、補正後の回転変動差分値DON360DH(n)を、駆動系のねじれや共振の影響がないときのレベルに近づくように増加させる。
したがって、ECM15は、補正後の回転変動差分値DON360DH(n)と失火判定閾値とを比較して失火の有無を診断することで、駆動系のねじれや共振の影響を抑止した診断が行え、駆動系のねじれや共振が発生する運転領域での失火診断の精度が向上する。
【0049】
ここで、駆動系のねじれや共振の影響によって回転変動差分値DON360D(n)が小さくなることを対応して失火判定閾値のレベルを低下させた場合、実際には失火していない気筒での失火を誤検出する可能性が高まる。
これに対し、失火している可能性がある気筒の失火診断に用いる回転変動差分値DON360D(n)を、駆動系のねじれや共振が発生する運転領域で増大補正する構成であれば、実際には失火していない気筒での失火を誤検出する可能性を抑えつつ、失火が発生している気筒を高い精度で検出できる。
【0050】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0051】
たとえば、自動変速機4は、有段変速機に限定するものではなく、無段変速機であってもよく、また、変速機は手動変速機であってもよい。
また、ECM15は、失火を検出したときに、内燃機関2の空燃比や点火時期を変更したり、燃料噴射装置10による燃料噴射を停止させたりすることができる。
また、失火検出装置としての機能を、内燃機関2の運転を制御する電子制御装置にソフトウェア的に実装する構成に限定されず、失火検出装置としての機能のみを備える電子制御装置としたり、内燃機関2の運転制御以外の機能と組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1…車両、2…内燃機関、4…自動変速機、15…ECM(失火検出装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7