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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040837
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
A61B18/14
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145456
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】榊 航平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】石田 亮
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160KK47
(57)【要約】
【課題】カテーテルの性能向上を図る。
【解決手段】カテーテルは、少なくとも先端側が体内に挿入される長尺体と、長尺体の軸周りに設けられて軸と交わる方向に拡張可能な電極4と、を備える。拡張した状態にある電極4は、素線14が網状に広がる部分を少なくとも一部に有する中間部8、中間部8より長尺体の基端側に位置して素線14が集合する基端部10、および中間部8より先端側に位置して素線14が集合する先端部12を有する。中間部8は、電極4の外寸が最大となる最大部16を有する。最大部16は、長尺体の軸方向における電極4の中心Cより基端側に位置する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも先端側が体内に挿入される長尺体と、
前記長尺体の軸周りに設けられて軸と交わる方向に拡張可能な電極と、を備え、
拡張した状態にある前記電極は、素線が網状に広がる部分を少なくとも一部に有する中間部、前記中間部より前記長尺体の基端側に位置して前記素線が集合する基端部、および前記中間部より前記先端側に位置して前記素線が集合する先端部を有し、
前記中間部は、前記電極の外寸が最大となる最大部を有し、
前記最大部は、前記長尺体の軸方向における前記電極の中心より前記基端側に位置する、
カテーテル。
【請求項2】
前記最大部から前記先端部までの先端側領域において、前記長尺体の軸方向の第1位置における前記電極の外寸は、前記第1位置より基端側の第2位置における前記電極の外寸より小さい、
請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記電極は、外寸が前記先端部に近づくにつれて漸減するテーパ部を前記先端側領域に有する、
請求項2に記載のカテーテル。
【請求項4】
少なくとも先端側が体内に挿入される長尺体と、
前記長尺体の軸周りに設けられて軸と交わる方向に拡張可能な電極と、を備え、
拡張した状態にある前記電極は、素線が網状に広がる部分を少なくとも一部に有する中間部、前記中間部より前記長尺体の基端側に位置して前記素線が集合する基端部、および前記中間部より前記先端側に位置して前記素線が集合する先端部を有し、
前記中間部は、前記電極の外寸が最大となる最大部を有し、
前記電極は、前記基端部から前記最大部までの基端側領域、および前記最大部から前記先端部までの先端側領域を含み、
前記基端側領域内で前記基端部から前記長尺体の軸方向に連続する第1領域と、前記先端側領域内で前記最大部から前記軸方向に連続する第2領域とにおいて、前記第1領域における前記素線の数は前記第2領域における前記素線の数より少なく、前記第1領域における前記素線の太さは前記第2領域における前記素線の太さより太い、
カテーテル。
【請求項5】
前記電極は、前記素線で区画される複数の開口部を有し、
前記基端側領域に位置する少なくとも一部の前記開口部は、前記基端部まで延びて前記基端部に開放端を有する、
請求項4に記載のカテーテル。
【請求項6】
パルス電界アブレーション用のカテーテルであって、
少なくとも先端側が体内に挿入される長尺体と、
前記長尺体に設けられてパルス電界を発生させる電極と、を備え、
前記電極は、芯線と、前記芯線を被覆する被膜と、を有し、
前記芯線は、標準電極電位が水素の標準電極電位より低い第1金属を含み、
前記被膜は、標準電極電位が水素の標準電極電位より高く前記第1金属より水素を吸蔵し難い第2金属を含む、
カテーテル。
【請求項7】
前記第1金属は、NiおよびTiの少なくとも一方を含み、
前記第2金属は、AuおよびPtの少なくとも一方を含む、
請求項6に記載のカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、診断や処置のために体内に挿入される部材である。例えば特許文献1には、シャフトに球状のアブレーション電極を設けたカテーテルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-60361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アブレーション用のカテーテルは、使い勝手や耐久性といった性能の向上が常に求められる。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、カテーテルの性能向上を図る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様は、カテーテルである。このカテーテルは、少なくとも先端側が体内に挿入される長尺体と、長尺体の軸周りに設けられて軸と交わる方向に拡張可能な電極と、を備える。拡張した状態にある電極は、素線が網状に広がる部分を少なくとも一部に有する中間部、中間部より長尺体の基端側に位置して素線が集合する基端部、および中間部より先端側に位置して素線が集合する先端部を有する。中間部は、電極の外寸が最大となる最大部を有する。最大部は、長尺体の軸方向における電極の中心より基端側に位置する。
【0007】
本開示の他の態様も、カテーテルである。このカテーテルは、少なくとも先端側が体内に挿入される長尺体と、長尺体の軸周りに設けられて軸と交わる方向に拡張可能な電極と、を備える。拡張した状態にある電極は、素線が網状に広がる部分を少なくとも一部に有する中間部、中間部より長尺体の基端側に位置して素線が集合する基端部、および中間部より先端側に位置して素線が集合する先端部を有する。中間部は、電極の外寸が最大となる最大部を有する。電極は、基端部から最大部までの基端側領域、および最大部から先端部までの先端側領域を含み、基端側領域内で基端部から長尺体の軸方向に連続する第1領域と、先端側領域内で最大部から軸方向に連続する第2領域とにおいて、第1領域における素線の数は第2領域における素線の数より少なく、第1領域における素線の太さは第2領域における素線の太さより太い。
【0008】
本開示のさらに他の態様も、カテーテルである。このカテーテルは、パルス電界アブレーション用のカテーテルであって、少なくとも先端側が体内に挿入される長尺体と、長尺体に設けられてパルス電界を発生させる電極と、を備える。電極は、芯線と、芯線を被覆する被膜と、を有する。芯線は、標準電極電位が水素の標準電極電位より低い第1金属を含む。被膜は、標準電極電位が水素の標準電極電位より高く第1金属より水素を吸蔵し難い第2金属を含む。
【0009】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、カテーテルの性能向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(A)および図1(B)は、実施の形態に係るカテーテルの側面図である。
図2】電極の斜視図である。
図3】電極の側面図である。
図4】カテーテルの使用状態を示す図である。
図5】電極を構成する素線の断面図である。
図6図6(A)~図6(F)は、電極の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、本開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
図1(A)および図1(B)は、実施の形態に係るカテーテル1の側面図である。図1(A)では、電極4が畳まれた状態を図示している。図1(B)では、電極4が拡張した状態を図示している。カテーテル1は、長尺体としてのシャフト2と、電極4と、ハンドル6とを備える。本実施の形態における「長尺」とは、長手方向の第1長さと長手方向に垂直な方向の第2長さとの比(第1長さ/第2長さ)が一例として5以上であることをいう。なお、本実施の形態では、長尺体の例としてシャフト2を挙げているが、長尺体は操作用ワイヤ等であってもよい。
【0014】
シャフト2は、可撓性を有する管状体で構成され、少なくとも先端側が体内に挿入される。シャフト2は、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルブロックアミド、ポリアミドといった樹脂を含む、公知の可撓性材料で構成される。シャフト2の第1長さは、例えば600mm~1800mmである。シャフト2は、筒状のインナーシャフト2aと、筒状のアウターシャフト2bとを有する。インナーシャフト2aは、アウターシャフト2bの内部に摺動可能に挿入される。インナーシャフト2aの内部には、ガイドワイヤー(図示せず)等が挿入される。
【0015】
電極4は、シャフト2における先端側(遠位端側)の領域、つまりシャフト2の体内に挿入される部分において、シャフト2の軸周りに設けられる。電極4は、おおよそ球形である。以下では適宜、カテーテル1あるいはシャフト2における電極4が設けられる側を単に「先端側」という。インナーシャフト2aの先端は、アウターシャフト2bの先端から突出する。電極4は、インナーシャフト2aにおけるアウターシャフト2bの先端から突出した部分に配置される。より詳細には、電極4の先端部はインナーシャフト2aの先端に固定され、電極4の基端部はアウターシャフト2bの先端に固定される(図2,3も参照)。電極4の形状および材質等については、後に詳細に説明する。
【0016】
ハンドル6は、シャフト2の基端側(近位端側)に設けられる。以下では適宜、カテーテル1あるいはシャフト2におけるハンドル6が設けられる側を単に「基端側」という。ハンドル6は、カテーテル1の使用時に体外に配置され、操作者によって把持あるいは操作される。ハンドル6は、偏向操作部6aと、拡張操作部6bとを有する。操作者が偏向操作部6aを操作することで、シャフト2の先端側の向きを変えることができる。偏向操作部6aの構造は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0017】
操作者が拡張操作部6bを操作することで、畳まれた状態にある電極4をシャフト2の軸と交わる方向に拡張あるいは展開することができる。また、拡張操作部6bの操作により、拡張した状態にある電極4を畳むことができる。拡張操作部6bは、インナーシャフト2aに接続されるとともに、ガイドレール6cに沿ってシャフト2の軸方向(シャフト2の軸が延びる方向あるいはシャフト2の長さ方向、以下では適宜、単に「軸方向」という)にスライド可能である。図1(A)に示すようにガイドレール6cの先端側に位置する拡張操作部6bを図1(B)に示すように基端側にスライドさせると、インナーシャフト2aがアウターシャフト2bに対して基端側に変位する。これにより、電極4の先端部が基端部に接近し、電極4がシャフト2の軸と交わる方向に膨らむ。つまり、電極4が拡張する。また、逆の操作、つまり拡張操作部6bを先端側にスライドさせると、インナーシャフト2aがアウターシャフト2bに対して先端側に変位し、電極4の先端部が基端部から離間して電極4がすぼむ。つまり、電極4が畳まれる。
【0018】
続いて、電極4について詳細に説明する。図2は、電極4の斜視図である。図3は、電極4の側面図である。図2および図3には、電極4が拡張した状態を図示している。拡張した状態にある電極4は、中間部8と、基端部10と、先端部12とを有する。中間部8は、素線14が網状に広がる部分を少なくとも一部に有する。本実施の形態の中間部8は、全体が素線14の網で構成される。基端部10は、中間部8よりシャフト2の基端側に位置して素線14が集合する部分である。基端部10は、アウターシャフト2bに固定される。先端部12は、中間部8より先端側に位置して素線14が集合する部分である。先端部12は、インナーシャフト2aに固定される。
【0019】
中間部8は、電極4の外寸が最大となる最大部16を有する。電極4の外寸とは、シャフト2の軸と直交する方向における電極4の寸法である。シャフト2の軸に直交する電極4の断面において、各素線14が真円上に位置する場合は、この真円の直径が電極4の外寸に相当する。各素線14が真円上に位置しない場合は、任意の2つの素線14を結ぶ直線のうち最も長い直線の長さが電極4の外寸に相当する。
【0020】
最大部16は、軸方向における電極4の中心Cより基端側に位置する。また、電極4は、基端部10から最大部16までの基端側領域18と、最大部16から先端部12までの先端側領域20とに区分けされる。そして、先端側領域20において、軸方向の第1位置P1における電極4の外寸D1は、第1位置P1より基端側の第2位置P2における電極4の外寸D2より小さい。第1位置P1および第2位置P2は、設計者により適宜設定することが可能である。
【0021】
また、本実施の形態の電極4は、外寸が先端部に近づくにつれて漸減するテーパ部22を先端側領域20に有する。テーパ部22は、シャフト2の軸周りの全周に設けられている。したがって、本実施の形態の電極4は、底面が基端側に膨らんだ略円錐状である。つまり電極4の直径は、最大部16から先端部12に向かうにつれて徐々に小さくなっていく。一例として、テーパ部22は、軸方向において先端側領域20の2/3以上の範囲を占める。なお電極4は、長球状等であってもよい。
【0022】
また、基端側領域18内で基端部10から軸方向に連続する第1領域R1と、先端側領域20内で最大部16から軸方向に連続する第2領域R2とにおいて、第1領域R1における素線14の数は、第2領域R2における素線14の数より少ない。つまり、第1領域R1でシャフト2の軸と直交する断面に現れる素線14の数は、第2領域R2でシャフト2の軸と直交する断面に現れる素線14の数より少ない。また、第1領域R1における素線14の太さT1は、第2領域R2における素線14の太さT2より太い。図3に示す第1領域R1は基端側領域18の一部であり、第2領域R2は先端側領域20の一部である。しかしながら、この構成に限定されず、第1領域R1および第2領域R2の範囲は、設計者により適宜設定することが可能である。また、図3では第2領域R2の先端が第2位置P2と一致しているが、特にこの構成に限定されない。
【0023】
また、電極4は、素線14で区画される複数の開口部24を有する。複数の開口部24は、網の目に相当する。基端側領域18に位置する少なくとも一部の開口部24aは、基端部10まで延びる。そして、この開口部24aは、基端部10に開放端25を有する。つまり、開口部24aは、全周が素線14で囲まれておらず、基端側が開放されている。
【0024】
先端部12には、絶縁キャップ26が被せられる。また、電極4における基端部10から連続する一部の領域と、先端部12から連続する一部の領域は、絶縁被膜(図示せず)で覆われる。中間部8における最大部16およびテーパ部22を含む領域は、絶縁被膜で覆われずに露出する。
【0025】
図4は、カテーテル1の使用状態を示す図である。なお、図4では、電極4のみを図示している。本実施の形態のカテーテル1は、パルス電界アブレーション(PFA)用のカテーテルである。カテーテル1は、血管を通して患者の体内、例えば心臓の内部に挿入され、不整脈の治療等に用いられる。一例として電極4は、奥に進むにつれて径が細くなる先細りの処置部位28の入口に配置され、主に先端側領域20が処置部位28に差し込まれる。処置部位28としては、肺静脈や上大静脈等の血管、心耳等の袋状部(凹部)が例示される。
【0026】
電極4は、シャフト2内に挿通された、あるいはシャフト2の外表面に敷設された、導線(図示せず)を介して外部電源(図示せず)に接続される。外部電源から電極4に電力が供給されると、電極4がパルス電界を発生させる。これにより、電極4の近傍に位置する細胞が死滅して、心房細動等の治療がなされる。PFAの場合、従来のラジオ波アブレーション(RFA)に比べて出力が短時間であるため、過剰な熱が処置部位28を介して他の組織に伝わることを抑制できる。したがって、処置部位28以外の組織の損傷を抑制することができる。この結果、横隔神経麻痺や食道瘻等の併発を抑制することができる。
【0027】
また、本実施の形態の電極4は、最大部16が中心Cよりも基端側にずれている。したがって、先端側領域20を大きくすることができる。これにより、先細り形状の処置部位28に電極4を挿入した際に、電極4と処置部位28の内壁との接触面積を増やすことができる。この結果、カテーテル1で処置できる領域を増やすことができる。よって、カテーテル1の性能向上を図ることができる。
【0028】
また、先端側領域20において、第1位置P1の外寸D1は第2位置P2の外寸D2より小さくなっている。さらに、先端側領域20には、テーパ部22が設けられている。これらにより、電極4が処置部位28の内壁に面接触しやすくなる。この結果、カテーテル1の使い勝手をより向上させることができる。
【0029】
また、本実施の形態の電極4では、第2領域R2よりも第1領域R1において素線14の数が少なく、太さが太い。第1領域R1の素線14を第2領域R2の素線14より太くすることで、基端側領域18の剛性を高めることができる。また、第1領域R1の素線14を第2領域R2の素線14より減らすことで、電極4が畳まれた状態において基端側領域18の外寸が大きくなることを抑制しながら、素線14を太くすることができる。カテーテル1の挿抜操作によって電極4の位置を調整する際や、処置部位28に電極4を押し付ける際、基端側領域18には大きな負荷がかかるため、基端側領域18は変形しやすい。これに対し、基端側領域18の剛性を高めて変形を抑制することで、電極4の位置調整や処置部位28への押し付けを実施しやすくすることができる。よって、カテーテル1の性能向上を図ることができる。
【0030】
図5は、電極4を構成する素線14の断面図である。なお、素線14の断面形状は、矩形に限定されない。電極4を構成する素線14は、芯線14aと、芯線14aを被覆する被膜14bとを有する。芯線14aは、第1金属を含む。第1金属は、標準電極電位が水素の標準電極電位より低い。被膜14bは、第2金属を含む。第2金属は、標準電極電位が水素の標準電極電位より高く、且つ第1金属より水素を吸蔵し難い。好ましくは、芯線14aは第1金属を主成分として含み、被膜14bは第2金属を主成分として含む。本実施の形態における「主成分として含む」とは、芯線14aを構成する全成分に対し、第1金属が50原子%以上、好ましくは70原子%以上であることをいう。同様に、被膜14bを構成する全成分に対し、第2金属が50原子%以上、好ましくは70原子%以上であることをいう。芯線14aおよび被膜14bのそれぞれにおける各成分の含有量は、任意の複数個所の測定点における含有量の平均値とされる。
【0031】
また、本実施の形態における「水素を吸蔵し難い」とは、第1金属の水素吸蔵量(質量%)よりも第2金属の水素吸蔵量の方が小さいことをいう。
【0032】
本実施の形態において、第1金属は、NiおよびTiの少なくとも一方を含む。また、第2金属は、AuおよびPtの少なくとも一方を含む。例えば、芯線14aはNi-Ti合金からなり、被膜14bはAuめっき層またはPtめっき層である。
【0033】
PFAでは、バイフェージック波形の電流が電極4に通電される。このため、電極4の極性は、マイクロ秒単位(例えば1μs)で交互に切り替わる。また、PFAでは、RFAに比べて高い電圧(例えば2000V)が電極4に印加される。本発明者らは、PFA用のカテーテル1について鋭意検討を重ねた結果、PFAにおいて印加される高電圧によって電極が腐食し得ることを見出した。すなわち、標準電極電位が水素の標準電極電位より低い第1金属を含む芯線14aのみからなる電極の場合、電極が陽極となるとき、電極の構成金属が電気分解によって溶出し得る(減肉化)。また、電極が陰極となるとき、電気分解によって生成された水素が電極の構成金属に侵入し、これにより金属が脆弱化し得る(水素脆化)。
【0034】
電極の減肉化や水素脆化が起こると、電極の強度が低下してしまう。これに対し、本実施の形態の電極4では、標準電極電位が水素の標準電極電位より高い第2金属を含む被膜14bで芯線14aを被覆している。これにより、電極4の減肉化を抑制することができる。また、第2金属は、第1金属より水素を吸蔵し難い。これにより、電極4の水素脆化を抑制することができる。したがって、電極4ひいてはカテーテル1の耐久性を向上でき、カテーテル1の性能向上を図ることができる。
【0035】
図6(A)~図6(F)は、電極4の製造工程を示す図である。まず、レーザーカット処理等により、第1金属を含むパイプ30(例えばNi-Tiパイプ)に格子状の切り込みを入れる。そして、図6(A)に示すようにパイプ30を拡張して、略円錐状の第1金型32をパイプ30に挿入する。これにより、パイプ30は、拡張された状態に維持される。
【0036】
次に、図6(B)に示すように、パイプ30および第1金型32を第2金型34のキャビティ内に配置する。この結果、図6(C)および図6(D)に示すように、拡張されたパイプ30が第1金型32および第2金型34で挟まれた状態となる。この状態で、例えば500℃程度の高温で所定時間だけパイプ30を加熱する。これにより、パイプ30に形状記憶処理が施される。その後、図6(E)に示すように第2金型34が外される。続いて、パイプ30から第1金型32が抜き取られ、パイプ30に第2金属の被覆処理が施される。この結果、図6(F)に示すように、拡張形状に記憶された電極4が得られる。
【0037】
基端側領域18に位置する開口部24aは、基端部10に開放端25を有する。したがって、基端部10は、先端部12に比べて大きく開くことができる。これにより、第1金型32を電極4から容易に抜き取ることができる。よって、電極4をより簡単に製造することができる。また、開放端25を有する開口部24aを基端側領域18に設けることで、開口部24aを先端側領域20に設ける場合に比べて、処置部位28と電極4との接触面積を増やすことができる。
【0038】
以上説明した電極4の形状は、素線14で構成される部分の形状、つまり素線14そのものの形状を意味する。したがって、造影マーカー等の部材が素線14に接合された電極4においては、接合された部材を除いた部分の形状が、本実施の形態における電極4の形状に相当する。
【0039】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本開示を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本開示の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された本開示の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。各実施の形態に含まれる構成要素の任意の組み合わせも、本開示の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0040】
実施の形態は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[第1項目]
少なくとも先端側が体内に挿入される長尺体(2)と、
長尺体(2)の軸周りに設けられて軸と交わる方向に拡張可能な電極(4)と、を備え、
拡張した状態にある電極(4)は、素線(14)が網状に広がる部分を少なくとも一部に有する中間部(8)、中間部(8)より長尺体(2)の基端側に位置して素線(14)が集合する基端部(10)、および中間部(8)より先端側に位置して素線(8)が集合する先端部(12)を有し、
中間部(8)は、電極(4)の外寸が最大となる最大部(16)を有し、
最大部(16)は、長尺体(2)の軸方向における電極(4)の中心(C)より基端側に位置する、
カテーテル(1)。
[第2項目]
最大部(16)から先端部(12)までの先端側領域(20)において、長尺体(2)の軸方向の第1位置(P1)における電極(4)の外寸(D1)は、第1位置(P1)より基端側の第2位置(P2)における電極(4)の外寸(D2)より小さい、
第1項目に記載のカテーテル(1)。
[第3項目]
電極(4)は、外寸が先端部(12)に近づくにつれて漸減するテーパ部(22)を先端側領域(20)に有する、
第2項目に記載のカテーテル(1)。
[第4項目]
少なくとも先端側が体内に挿入される長尺体(2)と、
長尺体(2)の軸周りに設けられて軸と交わる方向に拡張可能な電極(4)と、を備え、
拡張した状態にある電極(4)は、素線(14)が網状に広がる部分を少なくとも一部に有する中間部(8)、中間部(8)より長尺体(2)の基端側に位置して素線(14)が集合する基端部(10)、および中間部(8)より先端側に位置して素線(14)が集合する先端部(12)を有し、
中間部(8)は、電極(4)の外寸が最大となる最大部(16)を有し、
電極(4)は、基端部(10)から最大部(16)までの基端側領域(18)、および最大部(16)から先端部(12)までの先端側領域(20)を含み、
基端側領域(18)内で基端部(10)から長尺体(2)の軸方向に連続する第1領域(R1)と、先端側領域(20)内で最大部(16)から軸方向に連続する第2領域(R2)とにおいて、第1領域(R1)における素線(14)の数は第2領域(R2)における素線(14)の数より少なく、第1領域(R1)における素線(14)の太さは第2領域(R2)における素線(14)の太さより太い、
カテーテル(1)。
[第5項目]
電極(4)は、素線(14)で区画される複数の開口部(24)を有し、
基端側領域(18)に位置する少なくとも一部の開口部(24a)は、基端部(10)まで延びて基端部(10)に開放端(25)を有する、
第4項目に記載のカテーテル(1)。
[第6項目]
パルス電界アブレーション用のカテーテル(1)であって、
少なくとも先端側が体内に挿入される長尺体(2)と、
長尺体(2)に設けられてパルス電界を発生させる電極(4)と、を備え、
電極(4)は、芯線(14a)と、芯線(14a)を被覆する被膜(14b)と、を有し、
芯線(14a)は、標準電極電位が水素の標準電極電位より低い第1金属を含み、
被膜(14b)は、標準電極電位が水素の標準電極電位より高く第1金属より水素を吸蔵し難い第2金属を含む、
カテーテル(1)。
[第7項目]
第1金属は、NiおよびTiの少なくとも一方を含み、
第2金属は、AuおよびPtの少なくとも一方を含む、
第6項目に記載のカテーテル(1)。
【符号の説明】
【0041】
1 カテーテル、 2 シャフト、 4 電極、 8 中間部、 10 基端部、 12 先端部、 14 素線、 14a 芯線、 14b 被膜、 16 最大部、 18 基端側領域、 20 先端側領域、 22 テーパ部、 24,24a 開口部、 25 開放端。
図1
図2
図3
図4
図5
図6