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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040848
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】無機酸化物中空粒子
(51)【国際特許分類】
   C01B 35/10 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
C01B35/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145472
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
(72)【発明者】
【氏名】松下 修也
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
(72)【発明者】
【氏名】徳田 秀樹
(57)【要約】
【課題】粒子径が小さく、かつ誘電正接が従来よりも低い無機酸化物中空粒子を提供すること。
【解決手段】平均粒子径が5.1μm以下であり、
誘電正接が0.0020未満であり、
含水率が3.0質量%以下であり、かつ
ラマン分光スペクトルにおいて、3000~4000cm-1の範囲にO-H伸縮振動に由来するピークを有しない、無機酸化物中空粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が5.1μm以下であり、
誘電正接が0.0020未満であり、
含水率が3.0質量%以下であり、かつ
ラマン分光スペクトルにおいて、3000~4000cm-1の範囲にO-H伸縮振動に由来するピークを有しない、
無機酸化物中空粒子。
【請求項2】
外殻が無気孔である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項3】
空洞率が70%以上である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項4】
粒子密度が1.00g/cm3以下である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項5】
10質量%以下の周期表第1族元素酸化物と、25質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、60質量%以下の周期表第13族元素酸化物と、35質量%以上の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項6】
請求項1記載の無機酸化物中空粒子の製造方法であって、
平均粒子径が5.1μm以下である無機酸化物粒子を、180~600℃で0.5~15時間加熱する、
無機酸化物中空粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物中空粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5Gや6G等の高速通信規格の普及に伴い、電子材料分野における低誘電フィラー材の需要が増加している。5G, 6G等の高い周波数帯での通信においては、回路信号の伝送損失が大きくなるため、より誘電正接の低い材料が望まれている。
【0003】
従来、低誘電フィラー材として、例えば、25℃から30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に、500℃~1000℃における脱離する水分子数が0.01mmol/g以下であり、比表面積が1~30m2/gである球状シリカ粉末が知られている(特許文献1)。また、平均円形度が0.85以上、比表面積が1~30m2/gである原料溶融球状シリカ粉末を、500~1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000~26400(℃・h)とする所定時間、加熱処理することで、誘電正接が低減された溶融球状シリカ粉末を製造できるとの報告もある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-178770号公報
【特許文献2】特許第6814906号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、球状シリカ粉末とは異なり、内部に空洞を有する無機酸化物中空粒子が、断熱性、軽量性に優れるだけなく、樹脂への分散性に優れる微小な粒子であることに着目し、低誘電フィラー材への適用を検討した。無機酸化物中空粒子の誘電正接を下げるためには、粒子の空洞率を上げることが有効であるが、空洞率を上げようとすると、粒子径の小さな粒子を得難くなるという課題を見出した。
本発明の課題は、粒子径が小さく、かつ誘電正接が従来よりも低い無機酸化物中空粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討したところ、含水率が特定値以下であり、かつラマン分光スペクトルにおいて3000~4000cm-1の範囲にO-H伸縮振動に由来するピークを有しない粒子とすることで、粒子径が小さくとも、誘電正接が従来よりも低い無機酸化物中空粒子が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔6〕を提供するものである。
〔1〕平均粒子径が5.1μm以下であり、
誘電正接が0.0020未満であり、
含水率が3.0質量%以下であり、かつ
ラマン分光スペクトルにおいて、3000~4000cm-1の範囲にO-H伸縮振動に由来するピークを有しない、無機酸化物中空粒子。
〔2〕外殻が無気孔である、前記〔1〕記載の無機酸化物中空粒子。
〔3〕空洞率が70%以上である、前記〔1〕又は〔2〕記載の無機酸化物中空粒子。
〔4〕粒子密度が1.00g/cm3以下である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
〔5〕10質量%以下の周期表第1族元素酸化物と、25質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、60質量%以下の周期表第13族元素酸化物と、35質量%以上の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子の製造方法であって、
平均粒子径が5.1μm以下である無機酸化物中空粒子を、180~600℃で0.5~15時間加熱する、無機酸化物中空粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粒子径が小さく、かつ誘電正接が従来よりも低い無機酸化物中空粒子を提供することができる。また、本発明によれば、このような無機酸化物中空粒子を簡便な操作で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔無機酸化物中空粒子〕
本明細書において「中空粒子」とは、外殻の内部に空洞を有する粒子をいう。本明細書において「外殻」とは、粒子の最も表面側に位置する壁であって、粒子内部の1つの独立気泡のみ接する壁をいう。また、本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻に開口がなく、無気孔であるため、独立気泡は完全に閉じられている。本発明の無機酸化物中空粒子は、このような中空構造を有し、かつ無気孔であることにより、低誘電正接化だけでなく、優れた断熱性、遮熱性を発現することができる。更に、本発明の無機酸化物中空粒子は、低誘電正接化の観点から、凝集していない一次粒子であることが好ましい。なお、外殻が無気孔であることは、走査型電子顕微鏡(SEM)像や、水に浮かぶことにより確認できる。したがって、本発明の無機酸化物中空粒子は、粒子表面から内部へ延びる複数の細孔を有する多孔質粒子とは異なる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)像により、多孔質粒子や二次粒子と明確に区別することが可能である。
【0010】
本発明の無機酸化物中空粒子は、平均粒子径が5.1μm以下であるが、より一層の微小化の観点から、好ましくは4.8μm以下であり、更に好ましくは4.5μm以下である。なお、かかる平均粒子径の下限値は、空洞を十分確保する観点から、0.3μm以上が好ましく、0.4μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(D50)を意味する。なお、粒子径分布測定には、例えば、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置を使用することができる。
【0011】
本発明の無機酸化物中空粒子は、誘電正接が0.0020未満であるが、より一層の低誘電正接化の観点から、好ましくは0.0019以下であり、より好ましくは0.0017以下であり、更に好ましくは0.0015以下である。なお、誘電正接の下限値は特に限定されず、0であってもよい。ここで、本明細書において「誘電正接」とは、1GHzにおける誘電正接をいい、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定するものとする。なお、誘電正接は、例えば、摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用いて測定することができる。
【0012】
本発明の無機酸化物中空粒子は、含水率が3.0質量%以下であるが、より一層の低誘電正接化の観点から、好ましくは2.5質量%以下であり、より好ましくは2.0質量%以下であり、更に好ましくは1.0質量%以下である。なお、含水率の下限値は特に限定されず、0質量%であってもよい。ここで、本明細書において「含水率」とは、加熱乾燥式水分計を用いて後掲の実施例に記載の方法により測定した値をいう。なお、加熱乾燥式水分計として、例えば、エー・アンド・デイ社製の加熱乾燥式水分計を使用することができる。
【0013】
本発明の無機酸化物中空粒子は、ラマン分光スペクトルにおいて、3000~4000cm-1の範囲にO-H伸縮振動に由来するピークを有しないものである。なお、ラマン分光スペクトルは、例えば、in Via Reflex/StreamLine顕微ラマン分光光度計(レニショー社製)を用いて測定することができる。
【0014】
本発明の無機酸化物中空粒子は、空洞率が、より一層の低誘電正接化の観点から、通常70%以上であり、好ましくは73%以上であり、より好ましくは75%以上であり、更に好ましくは77%以上である。なお、かかる空洞率の上限値は、十分な強度を確保する観点から、95%以下が好ましく、90%以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「空洞率」は、乾式自動密度計を使用して粒子の嵩密度と真密度とを測定し、その値から下記式により算出される値である。なお、個々の粒子について計測することが難しいため、粒子群としての空洞割合である。ここで、本明細書において「嵩密度」は、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定するものとする。また、「真密度」は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定するものとする。なお、密度測定装置として、例えば、乾式自動密度計であるアキュピック(島津製作所製)を使用し、また乾式自動密度計として、例えば、アキュピック(島津製作所)を使用することができる。
【0015】
空洞率=(真密度-嵩密度)×100/真密度
【0016】
本発明の無機酸化物中空粒子は、粒子密度が、より一層の低誘電正接化の観点から、通常1.00g/cm3以下であり、好ましくは0.90g/cm3以下であり、より好ましくは0.80g/cm3以下であり、更に好ましくは0.70g/cm3以下であり、より更に好ましくは0.60g/cm3以下である。なお、粒子密度の下限値は、十分な強度確保の観点から、通常0.20g/cm3以上が好ましく、0.30g/cm3以上がより好ましく、0.40g/cm3以上が更に好ましい。本明細書において「粒子密度」とは、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定した値をいう。粒子密度測定装置として、例えば、乾式自動密度計「アキュピック(島津製作所製)」を使用することができる。
【0017】
本発明の無機酸化物中空粒子の形状は、真球状、扁楕円体や長楕円体等の略球状のいずれであってもよい。平均円形度は、低誘電正接化の観点から、好ましくは0.85以上であり、更に好ましくは0.90以上である。ここで、「円形度」は、走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定し、周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の周囲長および面積は、それぞれPM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、この粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)2として算出される。100個の粒子について円形度を測定し、その平均値でもって平均円形度とする。
【0018】
本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻に覆われた空洞が更に1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した空間を有し、この独立した空間はそれぞれ隔壁によって隔てられた互いに連通しない気泡(以下、「独立気泡」ともいう。)によって形成されていてもよい。このような独立気泡を有することにより、粒子強度をより一層高めることができる。ここで、本明細書において「隔壁」とは、粒子内の隣接する独立気泡を互いに区画する壁をいう。
【0019】
本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻、好ましくは外殻及び隔壁が、無機酸化物により構成されている。
無機酸化物としては、中空粒子の外殻を構成することができれば特に限定されないが、周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第4族元素、周期表第8族元素、周期表第9族元素、周期表第10族元素、周期表第11族元素、周期表第12族元素、周期表第13族元素、周期表第14族元素及び周期表第15族元素から選択される元素を含む1又は2以上の無機酸化物を挙げることができる。
【0020】
周期表第1族元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムを挙げることができる。周期表第2族元素としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。周期表第4族元素としては、例えば、チタン、ジルコニウムが挙げられる。周期表第8族元素としては、例えば、鉄、ルテニウムを挙げることができる。周期表第9族元素としては、例えば、コバルト、ロジウム、イリジウムが挙げられる。周期表第10族元素としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金を挙げることができる。周期表第11族元素としては、例えば、銅、銀、金が挙げられる。周期表第12族元素としては、例えば、亜鉛、カドミウムが挙げられる。周期表第13族元素としては、例えば、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムが挙げられる。周期表第14族元素としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛が挙げられる。周期表第15族元素としては、例えば、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマスを挙げることができる。
【0021】
無機化合物の具体例としては、例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ケイ素、アルミノシリケート、アルミノホウケイ酸、バリウムホウケイ酸等が挙げられ、これら酸化物を組み合わせた複合酸化物も挙げることができる。
【0022】
中でも、本発明の効果を享受しやすい点で、周期表第1族元素、周期表第2族元素、周周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選ばれる元素を含む1又は2以上の無機酸化物が好ましく、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選ばれる元素を含む1又は2以上の無機酸化物がより好ましく、マグネシウム、カルシウム、ホウ素、アルミニウム及びケイ素から選ばれる元素を含む1又は2以上の無機酸化物が更に好ましい。
【0023】
好適な無機酸化物中空粒子の組成としては、次の態様を挙げることができる。このような組成により、外殻、好ましくは外殻及び隔壁を構成することにより、粒子径が小さく、かつ誘電正接が従来よりも低い無機酸化物中空粒子を得やすくなる。
(i)10質量%以下の周期表第1族元素酸化物と、25質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、60質量%以下の周期表第13族元素酸化物と、35質量%以上の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている無機酸化物中空粒子。
(ii)25質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、60質量%以下の周期表第13族元素酸化物と、35質量%以上の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている無機酸化物中空粒子。
(iii)15質量%以下の酸化カルシウムと、5質量%以下の酸化マグネシウムと、35質量%以下の酸化ホウ素と、30質量%以下の酸化アルミニウムと、35質量%以上の酸化ケイ素を含む無機酸化物により構成されている無機酸化物中空粒子。
【0024】
(i)の態様において、周期表第1族元素酸化物の含有量は、好ましくは5質量%以下であり、0質量%であっても構わない。
(i)及び(ii)の態様において、周期表第2族元素酸化物の含有量は、好ましくは20質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以下であり、そして好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上である。周期表第13族元素酸化物の含有量は、好ましくは55質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、更に好ましくは45質量%以下であり、そして好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、更に好ましくは30質量%以上である。周期表第14族元素酸化物の含有量は、好ましくは40質量%以上であり、更に好ましくは45質量%以上であり、そして好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは55質量%以下である。
(iii)の態様において、酸化カルシウムの含有量は、好ましくは18質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは12質量%以下であり、そして好ましくは2質量%以上であり、更に好ましくは4質量%以上である。酸化マグネシウムの含有量は、好ましくは3質量%以下であり、更に好ましくは2質量%以下であり、そして好ましくは0.05質量%以上であり、更に好ましくは0.1質量%以上である。酸化ホウ素の含有量は、好ましくは33質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、更に好ましくは28質量%以下であり、そして好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上であり、更に好ましくは20質量%以上である。酸化アルミニウムの含有量は、好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、更に好ましくは25質量%以下であり、そして好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは15質量%以上である。酸化ケイ素の含有量は、好ましくは40質量%以上であり、更に好ましくは45質量%以上であり、そして好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは55質量%以下である。
【0025】
本明細書において、上記において説明した無機酸化物の各含有量は、蛍光X線分析法にて酸化物換算で測定し化学成分を算出した値である。分析対象である元素の酸化物の合計値が100%となるよう、下記式により補正することで、各々の化学成分を算出する。
化学組成(補正後)(%)=化学組成(補正前)×100/(100-不純物(%))
不純物(%)は100から上述した酸化物の化学組成の合計値を差し引いたものである。
【0026】
本発明の無機酸化物中空粒子は、断熱材料、遮熱材料、触媒担体、建築材料、電子材料等に適用することができるが、粒子径が小さく、誘電正接が従来よりも低い粒子であることから、電子材料、とりわけ配線回路基板、半導体封止材等に有用である。
【0027】
また、本発明の無機酸化物中空粒子は、微小な粒子であるため、媒体への分散性にも優れる。
媒体としては特に限定されないが、本発明の効果を享受しやすい点で、例えば、樹脂、塗料、ゴム、溶剤を挙げることができる。
媒体として樹脂を用いた場合には、電子材料、例えば、配線回路基板や半導体封止材等を形成するための樹脂組成物とすることができる。なお、樹脂としては、配線回路や半導体封止材の分野において一般的に使用されているものであれば、特に限定されない。
【0028】
樹脂組成物中の無機酸化物中空粒子の含有量は、その用途により適宜選択可能であるが、通常1~97質量%であり、好ましくは5~60質量%であり、更に好ましくは15~40質量%である。
【0029】
また、樹脂組成物は、有機溶媒に溶解又は分散したワニスの形態であってもよく、該ワニスを基材に含浸させてプリプレグとすることもできる。
ワニス中の固形分(不揮発分)濃度は、その用途に応じて適宜選択可能であるが、通常5~80質量%であり、好ましくは10~70質量%である。
ワニスを含浸させる基材としては特に限定されず、例えば、無機繊維、有機繊維、炭素繊維等が挙げられる。なお、含浸は、浸漬(ディッピング)や塗布等によって行うことができる。
【0030】
更に、例えば、金属箔付基板上に、上記したワニスを塗布した後、加熱・硬化を行って金属箔付基板上に樹脂層を形成した後、金属箔をエッチングにより除去して導体パターンを形成することにより配線回路基板を製造することもできる。なお、ワニスを基材上に塗布する際には、スプレー法、ロールコート法、回転塗布法(スピンコート法)、スリットダイ塗布法(スリット塗布法)、バー塗布法等の適宜の塗布法を採用することができる。
【0031】
媒体と無機酸化物中空粒子との混合方法は特に限定されないが、例えば、各成分をミキサー等によって十分に均一に撹拌及び混合した後、ミキシングロール、押出機、ニーダー、ロール、エクストルーダー等を用いて混練すればよい。なお、混合条件は、混合方法により適宜設定することができる。
【0032】
〔無機酸化物中空粒子の製造方法〕
本発明の無機酸化物中空粒子の製造方法は、平均粒子径が5.1μm以下である無機酸化物粒子を、180~600℃で0.5~15時間加熱する方法である。これにより、粒子の外殻中に存在する水酸基や付着水、結合水を除去することができるため、粒子径が小さく、かつ誘電正接が従来よりも低い無機酸化物中空粒子を得ることができる。
【0033】
無機酸化物中空粒子は、平均粒子径が5.1μm以下であれば、商業的に入手したものでも、公知の合成法により製造したものを使用してもよい。合成法は特に限定されないが、例えば、ゾル-ゲル法、噴霧熱分解法を挙げることができる。ゾル-ゲル法による無機酸化物中空粒子の製造は、例えば、特開2015-044987号公報、特開2013-193950号公報を参照することが可能であり、また噴霧熱分解法による無機酸化物中空粒子の製造は、例えば、特開2003-019427号公報、特開2013-220967号公報を参照することができる。中でも、噴霧熱分解法が、中空構造を有する無機酸化物粒子を得やすい点で好ましい。なお、平均粒子径の好適な態様は、上記において説明したとおりである。
【0034】
噴霧熱分解法により製造した無機酸化物粒子は、例えば、原料化合物としては、上記した無機酸化物を構成する元素を含有する化合物の被噴霧液体を、噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴を熱分解する工程を含む方法により製造することができる。
【0035】
噴霧熱分解装置は、熱分解炉の形状が堅型円筒状であることが好ましく、熱分解炉の大きさは、製造スケールにより適宜選択することができる。
【0036】
噴霧装置としては、例えば、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズル等の流体ノズルを挙げることができる。ここで、流体ノズルの方式には、気体と原料溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で気体と原料溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。なお、噴霧装置は、1基又は2基以上設置することができる。
【0037】
被噴霧液体の流量は、通常1~100L/hであり、好ましくは3~80L/hであり、更に好ましくは5~60L/hである。
液滴の噴出速度は、通常1~50m/sであり、好ましくは5~35m/sであり、更に好ましくは10~20m/sである。
【0038】
熱分解炉の加熱装置は、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータ等を挙げることができる。加熱装置は、1基又は2基以上設置することが可能である。なお、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものであれば、いずれも使用することができる。
加熱装置の温度は、通常400~1800℃であり、好ましくは600~1500℃であり、より好ましくは700~1400℃であり、更に好ましくは800~1200℃である。このような温度であれば、熱分解が十分となり、また粒子が熱分解炉外に排出されたときに粒子同士が凝集し難くなる。
【0039】
(加熱)
無機酸化物中空粒子の加熱方法は、無機酸化物中空粒子を所定の温度に加熱することができれば特に限定されない。例えば、無機酸化物中空粒子を加熱装置に収容し、それを所定の温度に保持された加熱装置内で加熱すればよい。
加熱装置としては、加熱温度に耐え得る装置であれば特に限定されないが、例えば、電気炉、ガス炉、オイル炉を挙げることができる。
加熱は、常圧で行えばよく、加圧又は真空とすることを要しない。
加熱する際の雰囲気は、大気雰囲気下でも、不活性ガス雰囲気下でもよく、これらの混合ガスの雰囲気下でも構わない。不活性ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンが挙げられる。
【0040】
無機酸化物中空粒子の加熱温度は、180~600℃であるが、低誘電正接化の観点から、250℃以上が好ましく、330℃以上がより好ましく、380℃以上が更に好ましく、そして580℃以下が好ましく、550℃以下が更に好ましい。
無機酸化物中空粒子の加熱時間は、0.5~15時間であるが、低誘電正接化の観点から、1時間以上が好ましく、2時間以上が更に好ましく、そして10時間以下が好ましく、7時間以下が更に好ましい。
中でも、好ましくは330~580℃、更に好ましくは380~550℃で、好ましくは0.5~7時間、更に好ましくは1~5時間加熱する態様が、低誘電正接化及び生産効率の観点から望ましい。
【0041】
加熱後、無機酸化物中空粒子を冷却することで、上記した特性を具備する無機酸化物中空粒子を製造することができる。
【実施例0042】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
1.化学組成の分析
無機酸化物中空粒子をプレス機で成型してブリケットを作製し、そのブリケットを蛍光X線分析装置(ZSX primus II、リガク社製)にて酸化物換算で測定し、分析対象である元素の酸化物(SiO2、Al23、CaO、MgO、B23、Na2O)の合計値が100%となるよう、下記式により補正することで、各々の化学成分を算出した。
【0044】
化学組成(補正後)(%)=化学組成(補正前)×100/(100-不純物(%))
〔式中、不純物(%)は、100から上述した酸化物の化学組成の合計値を差し引いたものである。〕
【0045】
2.平均粒子径の測定
粒子径分布測定装置(MT3000II、マイクロトラックベル社製)を用い、JIS R 1629に準拠して体積基準の粒度分布を作成し、積算分布曲線の50%に相当する粒子径(D50)を求めた。
【0046】
3.空洞率の測定
乾式自動密度計としてアキュピック(島津製作所製)を使用し、粒子の嵩密度と真密度を測定し、下記式により算出した。なお、「嵩密度」は、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定した。また、真密度は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定した。
【0047】
空洞率=(真密度-嵩真密度)×100/真密度
【0048】
4.誘電正接の測定
誘電正接は摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用い、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定した。
【0049】
5.含水率の測定
加熱乾燥式水分計(エー・アンド・デイ社製)を用い、粒子5gを105℃で5分間加熱し、含水率を測定した。
【0050】
6.O-H伸縮振動に由来するピークの有無
in Via Reflex/StreamLine顕微ラマン分光光度計(レニショー社製)を用いてラマン分光スペクトルを測定し、3000~4000cm-1の範囲にO-H伸縮振動に由来するピークの有無を確認した。
【0051】
7.粒子密度の測定
乾式自動密度計(アキュピック1340、島津製作所製)を用いて、気体置換法により測定した。即ち、セル内にサンプルを投入した後、これに不活性ガスを充填してサンプルの体積を測定し、この体積と予め測定しておいたサンプル質量より粒子密度を求めた。
【0052】
製造例1
原料化合物(コロイダルシリカ、オルトケイ酸テトラエチル、硝酸アルミニウム九水和物、硝酸マグネシウム六水和物、ホウ酸)をイオン交換水250kg中に、表1のモル濃度となるように溶解させ、原料混合水溶液を溶液タンクに投入した。投入された水溶液を送液ポンプにより、2流体ノズルに送った。2流体ノズルの噴霧条件は、ノズルエアー量500L/min、送液量470mL/minとした。2流体ノズルから原料混合水溶液を噴霧熱分解炉に噴霧し、1100℃で加熱した。反応ゾーン出口に設置した冷却機構にて急冷し、その後バグフィルターを用いて無機酸化物中空粒子を回収した。得られた無機酸物中空粒子の組成を表2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
実施例1
製造例1で得られた無機酸物中空粒子を、電気炉にて200℃で1時間加熱し、冷却後に分析を行った。その結果を表3に示す。
【0056】
実施例2~9及び比較例2~4
実施例1と同様の手順で、表3に示す温度及び時間にて加熱し、冷却後に分析を行った。その結果を表3に示す。
【0057】
比較例1
製造例1で得られた無機酸物中空粒子を加熱せずに、分析を行った。その結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表1から、含水率が3.0質量%以下であり、かつラマン分光スペクトルにおいて、3000~4000cm-1の範囲にO-H伸縮振動に由来するピークを有しない無機酸化物中空粒子は、いずれも誘電正接が0.0020未満であり、従来に比べて低いことがわかる。また、このような特性を具備する無機酸化物中空粒子は、平均粒子径が5.1μm以下である無機酸化物粒子を、180~600℃で0.5~15時間加熱することで簡便に得られることがわかる。