(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040869
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】光角度変調器及び光送信装置
(51)【国際特許分類】
H04B 10/548 20130101AFI20240318BHJP
【FI】
H04B10/548
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145504
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石村 昇太
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA51
5K102AH02
5K102AH27
5K102AK02
5K102PA02
5K102PB11
5K102PC11
5K102PC13
5K102PC16
5K102PH01
5K102PH15
5K102PH50
5K102RB01
(57)【要約】
【課題】角度変調光の帯域幅をより広くできる技術を提供する。
【解決手段】光角度変調器は、電気信号により連続光を角度変調した第1角度変調光及び第2角度変調光を生成する生成手段と、前記第1角度変調光と前記第2角度変調光との四光波混合により、前記第1角度変調光及び前記第2角度変調光より帯域幅の広い1つ以上の第3角度変調光を生成する第1非線形媒体と、第1処理手段と、を備え、前記第1処理手段は、前記第1処理手段に入力される光に含まれる3つ以上の角度変調光それぞれの位相を個別に調整する調整手段と、前記調整手段による位相調整後の前記3つ以上の角度変調光の四光波混合により、前記3つ以上の角度変調光より帯域幅の広い1つ以上の第4角度変調光を生成する第2非線形媒体と、を含み、前記第1処理手段には、前記第1角度変調光、前記第2角度変調光及び前記1つ以上の第3角度変調光を含む光が入力される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号により連続光を角度変調した第1角度変調光及び第2角度変調光を生成する生成手段と、
前記第1角度変調光と前記第2角度変調光との四光波混合により、前記第1角度変調光及び前記第2角度変調光より帯域幅の広い1つ以上の第3角度変調光を生成する第1非線形媒体と、
第1処理手段と、
を備え、
前記第1処理手段は、前記第1処理手段に入力される光に含まれる3つ以上の角度変調光それぞれの位相を個別に調整する調整手段と、前記調整手段による位相調整後の前記3つ以上の角度変調光の四光波混合により、前記3つ以上の角度変調光より帯域幅の広い1つ以上の第4角度変調光を生成する第2非線形媒体と、を含み、
前記第1処理手段には、前記第1角度変調光、前記第2角度変調光及び前記1つ以上の第3角度変調光を含む光が入力される、光角度変調器。
【請求項2】
前記第1処理手段の出力に接続されるフィルタ手段をさらに有し、
前記フィルタ手段の通過帯域は、前記1つ以上の第4角度変調光の内の1つの第4角度変調光の帯域を含む、請求項1に記載の光角度変調器。
【請求項3】
第2処理手段から第N処理手段(Nは2以上の整数)をさらに備え、
を備え、
第n処理手段(nは2からNまでの整数)は、前記第n処理手段に入力される光に含まれる3つ以上の角度変調光それぞれの位相を個別に調整する調整手段と、前記第n処理手段の前記調整手段による位相調整後の前記3つ以上の角度変調光の四光波混合により、前記第n処理手段に入力される光に含まれる前記3つ以上の角度変調光より帯域幅の広い1つ以上の第4角度変調光を生成する第2非線形媒体と、を含み、
前記第n処理手段には、第(n-1)処理手段の前記第2非線形媒体からの光が入力される、請求項1に記載の光角度変調器。
【請求項4】
前記第N処理手段の出力に接続されるフィルタ手段をさらに有し、
前記フィルタ手段の通過帯域は、前記第N処理手段の前記第2非線形媒体で生成された前記1つ以上の第4角度変調光の内の1つ第4角度変調光の帯域を含む、請求項3に記載の光角度変調器。
【請求項5】
前記調整手段における前記3つ以上の角度変調光それぞれの位相シフト量を制御する制御手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記調整手段又は前記第2非線形媒体の出力に基づき前記調整手段における前記3つ以上の角度変調光それぞれの位相シフト量を決定する、請求項1に記載の光角度変調器。
【請求項6】
前記制御手段は、前記第2非線形媒体の出力に含まれる角度変調光の数を監視し、前記第2非線形媒体の出力に含まれる角度変調光の数が前記3つ以上の角度変調光の数より多くなる様に、前記3つ以上の角度変調光それぞれの位相シフト量を決定する、請求項5に記載の光角度変調器。
【請求項7】
前記調整手段は、前記3つ以上の角度変調光それぞれが前記調整手段から出力されることを個別に阻止するためのフィルタ手段を備え、
前記制御手段は、
前記3つ以上の角度変調光から3つの制御対象角度変調光を選択し、前記3つの制御対象角度変調光のみが前記調整手段から出力される様に前記フィルタ手段を制御した状態において、前記第2非線形媒体の出力に含まれる角度変調光の数に基づき前記3つの制御対象角度変調光の位相シフト量を決定する第1処理を行い、
前記第1処理の後、前記3つ以上の角度変調光の内の位相シフト量を決定済の処理済角度変調光から選択した2つの処理済角度変調光と、前記3つ以上の角度変調光の内の位相シフト量が未決定の未処理角度変調光から選択した1つの制御対象角度変調光と、のみが前記調整手段から出力される様に前記フィルタ手段を制御した状態において、前記第2非線形媒体の出力に含まれる角度変調光の数に基づき前記1つの制御対象角度変調光の位相シフト量を決定する第2処理を、前記未処理角度変調光がなくなるまで繰り返すことで、前記3つ以上の角度変調光それぞれの位相シフト量を決定する、請求項6に記載の光角度変調器。
【請求項8】
前記制御手段は、前記第1処理において、前記3つの制御対象角度変調光の内の1つの制御対象角度変調光の位相シフト量を所定値に決定し、前記第2非線形媒体の出力に含まれる角度変調光の数に基づき前記3つの制御対象角度変調光の内の残りの2つの制御対象角度変調光の位相シフト量を決定する、請求項7に記載の光角度変調器。
【請求項9】
前記制御手段は、前記調整手段から出力される光のレベルを監視し、前記レベルのピークを最大化する様に、前記3つ以上の角度変調光それぞれの位相シフト量を決定する、請求項5に記載の光角度変調器。
【請求項10】
前記調整手段は、前記3つ以上の角度変調光それぞれが前記調整手段から出力されることを個別に阻止できるフィルタ手段を備え、
前記制御手段は、
前記3つ以上の角度変調光から3つの制御対象角度変調光を選択し、前記3つの制御対象角度変調光のみが前記調整手段から出力される様に前記フィルタ手段を制御した状態において、前記調整手段から出力される光のレベルに基づき前記3つの制御対象角度変調光の位相シフト量を決定する第1処理を行い、
前記第1処理の後、前記3つ以上の角度変調光の内の位相シフト量を決定済の処理済角度変調光から選択した2つの処理済角度変調光と、前記3つ以上の角度変調光の内の位相シフト量が未決定の未処理角度変調光から選択した1つの制御対象角度変調光と、のみが前記調整手段から出力される様に前記フィルタ手段を制御した状態において、前記調整手段から出力される光のレベルに基づき前記1つの制御対象角度変調光の位相シフト量を決定する第2処理を、前記未処理角度変調光がなくなるまで繰り返すことで、前記3つ以上の角度変調光それぞれの位相シフト量を決定する、請求項9に記載の光角度変調器。
【請求項11】
前記制御手段は、前記第1処理において、前記3つの制御対象角度変調光の内の1つの制御対象角度変調光の位相シフト量を所定値に決定し、前記調整手段から出力される光のレベルに基づき前記3つの制御対象角度変調光の内の残りの2つの制御対象角度変調光の位相シフト量を決定する、請求項10に記載の光角度変調器。
【請求項12】
前記第1角度変調光及び前記第2角度変調光は、前記電気信号の振幅の変化による角度の変化方向が互いに異なる、請求項1に記載の光角度変調器。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の光角度変調器を備える、光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光角度変調技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光角度変調は、ライダ(LiDAR)装置といったセンシング装置や、情報を送信又は配信するための通信装置等において使用される。光角度変調は、光周波数変調と、光位相変調と、を含む。通信分野への利用において、角度変調光の信号対雑音比は、その帯域幅を広くする程小さくすることができる。また、センシング分野への利用において、分解能は、角度変調光の帯域幅を広くする程高くすることができる。非特許文献1は、広帯域な周波数変調光を生成するための構成を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Shota Ishimura,Hidenori Takahashi,Takehiro Tsuritani,and Masatoshi Suzuki,"Optical parametric wideband frequency modulation",APL Photonics 7,066106,2022年6月16日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、非特許文献1に記載の構成の説明図である。まず、同じ電気信号を使用して第1連続光及び第2連続光を光角度変調することで、角度変調光91及び角度変調光92を生成する。なお、電気信号の振幅の変化による第1連続光の角度(周波数又は位相)の変化方向については、第2連続光の角度(周波数又は位相)の変化方向に対して逆向きにする。例えば、角度変調光91の電界成分と角度変調光92の電界成分とを複素共役の関係にする。そして、角度変調光91及び角度変調光92を分散シフトファイバ(DSF)といった非線形媒体に入力し、非線形媒体において角度変調光91及び角度変調光92の四光波混合(一部縮退四光波混合を含む)を再帰的に生じさせることで、角度変調光91及び角度変調光92の帯域幅より広い角度変調光を生成することを非特許文献1は開示している。
【0005】
例えば、角度変調光91及び角度変調光92の一部縮退四光波混合により、2次の角度変調光である角度変調光93及び角度変調光94が生じる。角度変調光91及び角度変調光92の帯域幅を共にBとすると、角度変調光93及び角度変調光94の帯域幅は3Bである。3次の角度変調光である角度変調光95は、例えば、角度変調光91、角度変調光92及び角度変調光93の四光波混合や、角度変調光91及び角度変調光93の一部縮退四光波混合により生じ、その帯域幅は5Bとなる。同様に、3次の角度変調光である角度変調光96は、例えば、角度変調光91、角度変調光92及び角度変調光94の四光波混合や、角度変調光92及び角度変調光94の一部縮退四光波混合により生じ、その帯域幅は5Bとなる。
【0006】
なお、
図1には示していないが、例えば、角度変調光96が関与する四光波混合や一部縮退四光波混合(以下、四光波混合や一部縮退四光波混合を纏めて四光波混合と表記する。)により、角度変調光96より帯域幅の大きい4次の角度変調光も生じ得る。この様に、非特許文献1は、再帰的な四光波混合により、元の帯域幅より大きい角度変調光を生成できることを開示している。
【0007】
上記の通り、四光波混合により生成される角度変調光の次数が高くなる程、その帯域幅は広くなる。四光波混合により生成される角度変調光の次数を高くする方法の1つは、非線形媒体に入力する複数の角度変調光それぞれのパワーを強くすることである。しかしながら、一般的に、非線形媒体に入力できる周波数成分毎のパワーには制限がある。例えば、DSFにおいては誘導ブリルアン散乱により入力可能な周波数成分毎のパワーは制限される。したがって、DSFに入力可能な角度変調光それぞれのパワーは制限され、この制限により、DSFにおいて四光波混合により生成される角度変調光の次数も制限される。
【0008】
本開示は、角度変調光の帯域幅をより広くできる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様によると、光角度変調器は、電気信号により連続光を角度変調した第1角度変調光及び第2角度変調光を生成する生成手段と、前記第1角度変調光と前記第2角度変調光との四光波混合により、前記第1角度変調光及び前記第2角度変調光より帯域幅の広い1つ以上の第3角度変調光を生成する第1非線形媒体と、第1処理手段と、を備え、前記第1処理手段は、前記第1処理手段に入力される光に含まれる3つ以上の角度変調光それぞれの位相を個別に調整する調整手段と、前記調整手段による位相調整後の前記3つ以上の角度変調光の四光波混合により、前記3つ以上の角度変調光より帯域幅の広い1つ以上の第4角度変調光を生成する第2非線形媒体と、を含み、前記第1処理手段には、前記第1角度変調光、前記第2角度変調光及び前記1つ以上の第3角度変調光を含む光が入力される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によると、角度変調光の帯域幅をより広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】一実施形態による生成部が生成する角度変調光を示す図。
【
図7】一実施形態による調整処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうちの二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
<第一実施形態>
図2は、本実施形態による光角度変調器の構成図である。生成部100は、電気信号に基づき、
図1に示す角度変調光91及び角度変調光92を生成して非線形媒体200に出力する。光角度変調器を通信装置に使用する場合、電気信号は、搬送する情報に対応する信号である。光角度変調器をセンシング装置に使用する場合、電気信号は、振幅が時間と共に変化する信号であり、その変化の態様は、センシング対象及び方法に応じて決定される。
【0014】
角度変調光91と角度変調光92は同じ電気信号に基づき生成されたものであるが、角度変調光91の電界成分と角度変調光92の電界成分は、例えば、互いに複素共役の関係となる様に生成部100は、角度変調光91及び角度変調光92を生成する。つまり、例えば、電気信号の振幅が正である場合に連続光の位相を進め、電気信号の振幅が負である場合に連続光の位相を遅らせることで角度変調光91が生成されているのであれば、電気信号の振幅が負である場合に連続光の位相を進め、電気信号の振幅が正である場合に連続光の位相を遅らせることで角度変調光92は生成される。同様に、例えば、電気信号の振幅が正である場合に連続光の周波数を増加させ、電気信号の振幅が負である場合に連続光の周波数を減少させることで角度変調光91が生成されているのであれば、電気信号の振幅が負である場合に連続光の周波数を増加させ、電気信号の振幅が正である場合に連続光の周波数を減少させることで角度変調光92は生成される。なお、以下の説明においては、角度変調光91と、角度変調光92の帯域幅を共にBとする。
【0015】
非線形媒体200は、角度変調光91と角度変調光92との四光波混合を生じさせる。非線形媒体200は、例えば、分散シフトファイバ等の光ファイバにより構成することができる。四光波混合は、光ファイバに入力される光の周波数(波長)が、当該光ファイバの波長分散値が零となる周波数(波長)に近い場合に強く発生する。また、非線形媒体200は、半導体光増幅器で構成することができる。半導体光増幅器の非線形性により、四光波混合を生じさせることができる。その他、非線形媒体200は、四光波混合を生じさせる任意の光デバイスを使用して実現することができる。
【0016】
上述した様に、非線形媒体200に入力可能な光パワーの制限により、角度変調光91と角度変調光92との四光波混合により生じる角度変調光の次数も制限される。以下の説明においては、
図1に示す様に、非線形媒体200における四光波混合により2次及び3次の角度変調光93~96が生成されたものとする。したがって、非線形媒体200は、角度変調光91~96を含む光を処理部300に出力する。なお、上述した様に、角度変調光93及び94の帯域幅は3Bであり、角度変調光95及び96の帯域幅は5Bである。
【0017】
処理部300に入力された角度変調光91~96は、位相調整部30を介して非線形媒体31に入力される。非線形媒体31は、非線形媒体200と同様である。位相調整部30は、角度変調光91~96それぞれの位相を個別に制御できるデバイスである。例えば、位相調整部30は、LCoS(Liquid crystal on silicon)と呼ばれる液晶ベースのデバイスを利用して実現することができる。より具体的には、位相調整部30に入力された光は周波数成分毎に分離される。各周波数成分の光は、個別に液晶を通過した後に合波される。各周波数成分の光の位相は、液晶を通過する際に調整され得る。なお、位相調整部30は、液晶ベースのデバイスを利用することに限定されず、周波数成分毎に個別に位相シフト量を制御できる任意のデバイスを使用することができる。
【0018】
監視制御部32は、非線形媒体31における角度変調光91~96の四光波混合により、角度変調光91~96に加えて4次以上の角度変調光が非線形媒体31から出力される様に、位相調整部30が角度変調光91~96それぞれに与える位相のシフト量を設定する。なお、角度変調光の歪を抑えるため、1つの角度変調光の帯域内の各周波数成分の位相のシフト量は同じとする。つまり、位相シフト量は角度変調光を単位として設定される。以下では、角度変調光91~96それぞれの位相を調整することで、非線形媒体31に入力される角度変調光91~96それぞれのパワーを強くすることなく、より高次の角度変調光が非線形媒体31で生じる理由について説明する。
【0019】
様々な周波数成分を含む信号においては、各周波数成分の信号の振幅の大きい部分が重なることで非常に振幅が大きくなることが知られている。したがって、角度変調光91~96それぞれの位相を調整することで、角度変調光91~96を含む光の時間領域における振幅のピークを大きくすることができる。非線形媒体においては、この振幅のピークにより非線形効果が誘起されるため、角度変調光91~96それぞれの位相を調整することで、より高次の角度変調光を非線形媒体31で生じさせることができる。
【0020】
非線形媒体31は、角度変調光91~96に加えて、非線形媒体31で生じた4次以上の角度変調光をフィルタ400に出力する。なお、4次以上の角度変調光の帯域幅は5Bより大きい。例えば、4次の角度変調光の帯域幅は7Bであり、5次の角度変調光の帯域幅は9Bである。より詳しくは、n次(nは2以上の整数)の角度変調光の帯域幅は(2n-1)Bである。フィルタ400は、非線形媒体31で生成された1つ以上の角度変調光の内の1つの角度変調光、つまり、4次以上の1つの角度変調光を通過させ、残りの角度変調光を減衰させて阻止する。これにより、光角度変調器は、非線形媒体200が出力する角度変調光の最大帯域幅である5Bより大きい帯域幅の角度変調光を出力する。
【0021】
監視制御部32は、非線形媒体31から4次以上の角度変調光が出力される様に、角度変調光91~96それぞれの位相シフト量を調整して設定する"調整処理"を行う。なお、調整処理の間、非線形媒体31の出力は、フィルタ400ではなく監視制御部32に接続される。本実施形態において、監視制御部32は、まず、非線形媒体31から入力される入力光の周波数成分に基づき、非線形媒体200から6つの角度変調光91~96が出力されていることを判定する。そして、監視制御部32は、6つの角度変調光91~96それぞれの位相シフト量を様々な値に変化させながら、入力光に含まれる角度変調光の数が6より大きくなる、或いは、入力光に含まれる角度変調光の数が最大化される角度変調光91~96それぞれの位相シフト量を決定する。そして、監視制御部32は、決定した位相シフト量を位相調整部30に設定する。
【0022】
なお、監視制御部32は、位相調整部30が出力する光のレベル(振幅)のピークを最大化する様に、角度変調光91~96それぞれの位相シフト量を調整する構成とすることもできる。この場合、監視制御部32は、位相調整部30が出力する光のレベルのピークを最大化する様に、つまり、光のピークパワーが最大となる様に角度変調光91~96それぞれの位相シフト量を決定して位相調整部30に設定する。なお、この場合、調整処理の間、位相調整部300の出力が監視制御部32に入力される様にする。
【0023】
調整処理が完了すると、監視制御部32は、角度変調光91~96それぞれの位相シフト量が調整処理で決定した位相シフト量となる様に位相調整部30を制御する。また、非線形媒体31の出力又は位相調整部30の出力は、フィルタ400又は非線形媒体31に接続される。なお、調整処理の際に非線形媒体31及び/又は位相調整部30の出力の出力先を切り替えるのではなく、非線形媒体31及び/又は位相調整部30の出力に分岐を設け、非線形媒体31及び/又は位相調整部30の出力の一部を監視制御部32に出力しておく構成であっても良い。
【0024】
なお、本実施形態では、非線形媒体200において3次までの角度変調光が生成されるものとした。このため、監視制御部32は、4次以上の角度変調光が生成される様に位相調整部30を制御していた。しかしながら、非線形媒体200において3次までの角度変調光が生成されることに本実施形態は限定されない。一般的に述べると、非線形媒体200においてp次(pは2以上の整数)の角度変調光が生成される場合に本実施形態を適用することができる。この場合、監視制御部32は、(p+1)次以上の角度変調光が生成される様に位相調整部30を制御する。
【0025】
さらに、本実施形態では、2次以上の各次数について、2つの角度変調光が生成されるものとしたが、2次以上の各次数について、1つの角度変調光しか生成されない場合であっても問題はない。つまり、例えば、非線形媒体200において、2次の角度変調光94は生成されるが2次の角度変調光93が生成されない場合や、2次の角度変調光94及び3次の角度変調光96は生成されるが、2次の角度変調光93及び3次の角度変調光95が生成されない場合であっても本実施形態を適用することができる。言い換えると、角度変調光91と、角度変調光92と、角度変調光91及び角度変調光92の四光波混合により生じた少なくとも1つの角度変調光との、少なくとも3つの角度変調光が処理部300に入力されれば良い。
【0026】
続いて、生成部100の構成例について説明する。
図3は、生成部100の構成例を示している。電気信号は、光変調部12に入力されると共に、反転部15に入力される。反転部15は、当該電気信号の振幅を反転させた反転電気信号を光変調部13に出力する。光源10は、周波数f
1の連続光を生成し、光源11は、周波数f
2の連続光を生成する。
【0027】
光変調部12は、光源10が生成した周波数f
1の連続光を、電気信号により光角度変調し、角度変調光91を出力する。一方、光変調部13は、光源11が生成した周波数f
2の連続光を、反転電気信号により光角度変調し、角度変調光92を出力する。なお、光変調部12及び光変調部13は、電気信号の振幅の正負に応じて連続光の角度を変化させる方向(増加又は減少)が同じであるものとする。
図3の例では、光変調部12に電気信号を入力し、光変調部13には、電気信号の振幅を反転させた反転電気信号を入力しているため、角度変調光91の電界成分と角度変調光92の電界成分の位相又は周波数の増減方向は互いに逆方向となる。なお、反転部15を省略し、代わりに、電気信号の振幅の正負に応じて連続光の角度を変化させる方向(増加又は減少)を光変調部12と光変調部13とで異ならせる構成とすることもできる。
【0028】
カップラ14は、光変調部12からの角度変調光91と光変調部13からの角度変調光92を合波し、中心周波数がf1の角度変調光91と中心周波数がf2の角度変調光92を含む信号光を出力する。
【0029】
なお、角度変調光91及び角度変調光92の帯域幅は、光変調部12及び光変調部13における光角度変調の変調指数に依存する。本実施形態では、光変調部12及び光変調部13の変調指数を同じとし、よって、角度変調光91及び角度変調光92の帯域幅が同じであるものとしていた。しかしながら、角度変調光91及び角度変調光92の帯域幅が同じである必要はない。例えば、角度変調光91の帯域幅がB1であり、角度変調光92の帯域幅がB2であると、角度変調光93の帯域幅は2B1+B2となり、角度変調光94の帯域幅は2B2+B1となるのみであり、四光波混合により生成される角度変調光の帯域幅が元の角度変調光の帯域幅より大きくなることには変わりはない。
【0030】
図4は、生成部100の他の構成例を示している。角度変調器16は、周波数f
Cの正弦波信号を生成する発振器を有し、当該正弦波信号を電気信号で角度変調して角度変調信号を出力する。光源17は、周波数f
3の連続光を生成する。光変調部18は、周波数f
3の連続光を角度変調器16からの角度変調信号で光強度(振幅)変調し、強度変調光を出力する。
【0031】
図5は、光変調部18が出力する強度変調光を示している。
図5において、参照符号80は、周波数f
3の光キャリア成分(搬送波)である。光強度変調により、角度変調信号に対応する上側波帯及び下側波帯が生じる。上側波帯及び下側波帯それぞれの中心周波数と、光キャリア成分80との周波数差は、正弦波信号の周波数に等しいf
Cになる。したがって、下側波帯の中心周波数f
1は、f
3-f
cになり、上側波帯の中心周波数f
2は、f
3+f
cになる。また、上側波帯と下側波帯は複素共役の関係となる。したがって、下側波帯は角度変調光91に対応し、上側波帯は角度変調光92に対応する。
【0032】
図4に戻り、帯域阻止フィルタ(BSF)19は、光変調部18が出力する強度変調光の光キャリア成分80を減衰させて阻止する。したがって、BSF19が出力する信号光は、
図3のカップラ14が出力する信号光と同様になる。なお、
図3及び
図4は生成部100の例示的な構成を示すものであり、生成部100の構成は、
図3及び
図4に示すものに限定されない。
【0033】
<第二実施形態>
続いて、第二実施形態について第一実施形態との相違点を中止に説明する。
図6は、本実施形態による光角度変調器の構成図である。本実施形態では、N個(Nは2以上の整数)の処理部300を直列に接続する。以下では、N個の処理部300をその接続順に第1処理部300~第N処理部300と表記する。
【0034】
第k処理部300(kは1~Nまでの整数)の位相調整部30には3つ以上の角度変調光が入力される。第k処理部300の位相調整部30は、この3つ以上の角度変調光それぞれの位相を個別に調整する。第k処理部300の非線形媒体31においては、第k処理部300の位相調整部30による位相調整後の3つ以上の角度変調光の四光波混合により、3つ以上の角度変調光より帯域幅の大きい1つ以上の角度変調光が生成される。
【0035】
なお、第1処理部300には、第一実施形態で説明した様に、少なくとも3つの角度変調光を含む光が非線形媒体200から入力される。第n処理部300(nは、2~Nまでの整数)には、第(n-1)処理部300の非線形媒体31からの光が入力される。第N処理部300の非線形媒体31の出力はフィルタ400に入力される。フィルタ400は、第N処理部300の非線形媒体31での四光波混合で生じた角度変調光の内の1つの角度変調光の帯域を含む通過帯域を有し、当該角度変調光を通過させ、残りの角度変調光を減衰させて阻止する。
【0036】
以上、処理部300を直列に複数接続することで、より広い帯域幅の角度変調光を生成することが可能になる。なお、本実施形態において、調整処理は、第1処理部300~第N処理部300の順で個別に実施される。
【0037】
<第三実施形態>
続いて、第三実施形態について第一実施形態及び第二実施形態との相違点を中止に説明する。第一実施形態において、監視制御部32は、6つの角度変調光91~96それぞれの位相シフト量を決定するために、位相調整部30を制御して6つの角度変調光91~96それぞれの位相シフト量を様々な値に変化させていた。しかしながら、その様な方法では調整処理に要する時間が長くなる。本実施形態では、より効率的な調整処理について説明する。なお、本実施形態でも、非線形媒体200から角度変調光91~96が出力されるものとする。また、以下の説明において、監視制御部32は、位相調整部30からの光を監視しながら角度変調光91~96それぞれの位相シフト量を決定するものとするが、非線形媒体31からの光を監視しながら角度変調光91~96それぞれの位相シフト量を決定する構成であっても良い。
【0038】
本実施形態において、位相調整部30は可変フィルタ機能を有するものとする。第一実施形態で述べた様に、位相調整部30としてLCoSと呼ばれる液晶ベースのデバイスを利用する場合、位相調整部30に入力された光は周波数成分毎に分離され、各周波数成分の光は、個別に液晶を通過した後に合波される。通常、この様なデバイスは、液晶により特定の周波数成分の光をブロックできる様に構成される。つまり、この様なデバイスは、任意の角度変調光をブロックするフィルタ機能も有する。なお、位相調整部30は、液晶ベースのデバイスを利用することに限定されず、通過帯域を可変にできる任意のフィルタと、周波数成分毎に個別に位相シフト量を制御できる任意のデバイスを組み合わせたものとすることもできる。
【0039】
本実施形態の調整処理において、監視制御部32は、まず、6つの角度変調光91~96の内の3つの角度変調光を選択し、選択した3つの角度変調光のみが位相調整部30を通過する様に位相調整部30を制御する。以下では、角度変調光95、93及び91が選択されたものとする。監視制御部32は、位相調整部30が出力する光のレベルを最大化する角度変調光95、93及び91の位相シフト量を決定して位相調整部30に設定する。なお、位相調整部30が出力する光のレベルは、角度変調光95、93及び91の相対的な位相差に基づくため、監視制御部32は、3つの角度変調光95、93及び91の内の1つの角度変調光の位相シフト量を所定値、例えば、0に設定する。そして、監視制御部32は、残りの2つの角度変調光の位相シフト量を様々な値に変化させることで、位相調整部30が出力する光のレベルを最大化する角度変調光95、93及び91の位相シフト量を決定すれば良い。
【0040】
続いて、監視制御部32は、先に選択した3つの角度変調光95、93及び91の内の2つと、先に選択しなかった角度変調光92、94及び96の内の1つとの計3つの角度変調光を選択し、選択した3つの角度変調光のみが位相調整部30を通過する様に位相調整部30を制御する。ここでは、この3つの角度変調光を、角度変調光93、91及び92とする。角度変調光93及び91の位相シフト量は既に決定されているため、監視制御部32は、追加した角度変調光92の位相シフト量を様々な値に変化させることで、位相調整部30が出力する光のレベルを最大化する角度変調光92の位相シフト量を決定する。
【0041】
以後、監視制御部32は、位相シフト量を決定した2つの角度変調光と、位相シフト量を決定していない1つの角度変調光との3つの角度変調光のみが位相調整部30を通過する様に位相調整部30を制御し、位相シフト量が未決定の角度変調光の位相シフト量を決定することを、位相シフト量が未決定の角度変調光が無くなるまで繰り返す。上記例で述べると、監視制御部32は、角度変調光92の位相シフト量を決定した後の繰り返しにおいて、例えば、まず角度変調光94の位相シフト量を決定し、その次の繰り返しにおいて、角度変調光96の位相シフト量を決定する。これにより、角度変調光91~96それぞれの位相シフト量が決定される。なお、3つの角度変調光を単位として繰り返しを行ったのは、位相の制御により振幅のピークを得るには最低でも3つの角度変調光が必要となるからである。
【0042】
図7は、上述した調整処理のフローチャートである。監視制御部32は、S10で、位相シフト量を決定していない角度変調光である未処理角度変調光から3つの角度変調光を制御対象角度変調光として選択する。選択方法は任意である。監視制御部32は、S11で、まず、3つ制御対象角度変調光のみが位相調整部30から出力される様に位相調整部30を制御する。その状態において、監視制御部32は、位相調整部30の出力に基づき3つの制御対象角度変調光の位相シフト量を決定する。なお、上述した様に、監視制御部32は、3つの制御対象角度変調光の内の1つの制御対象角度変調光の位相シフト量を所定値に決定して位相調整部30に設定する。その状態で、監視制御部32は、残りの2つの制御対象角度変調光の位相シフト量を様々な値に変化させながら位相調整部30の出力を監視することで、残りの2つの制御対象角度変調光の位相シフト量を決定する。
【0043】
S11の処理が終了すると、監視制御部32は、S12で、未処理角度変調光の数が0であるか否かを判定する。未処理角度変調光の数が0ではないと、監視制御部32は、未処理角度変調光の数が0になるまでS13及びS14の処理を繰り返す。一方、未処理角度変調光の数が0であると、監視制御部32は調整処理を終了する。
【0044】
S13において、監視制御部32は未処理角度変調光から1つの角度変調光を制御対象角度変調光として選択する。選択方法は任意である。監視制御部32は、S14で、まず、1つ制御対象角度変調光と、位相シフト量を既に決定した角度変調光である処理済角度変調光から選択した2つの角度変調光との計3つの角度変調光のみが位相調整部30から出力される様に位相調整部30を制御する。なお、処理済角度変調光からの2つの角度変調光の選択方法は任意である。その状態において、監視制御部32は、位相調整部30の出力に基づき1つ制御対象角度変調光の位相シフト量を決定する。
【0045】
以上、本実施形態では、最初の繰り返しにおいて位相を制御する角度変調光の数は2であり、2回目以降の繰り返しにおいて位相を制御する角度変調光の数は1である。光のレベルを最大化する位相シフト量を見つけるために変化させる角度変調光の数を絞り込むことで、各繰り返しにおいて最適な位相シフト量を見つけるのに要する時間を短くでき、よって、調整処理に要する時間を短くすることができる。なお、本実施形態において非線形媒体200が出力する角度変調光の数を6としたため繰り返し回数は4であった。一般的に述べると、繰り返し回数は、位相調整部30に入力される角度変調光の数より2だけ少ない数となる。なお、第二実施形態の構成の場合、調整処理は、第1処理部300~第N処理部300の順で個別に実施される。
【0046】
なお、本開示によると、上記各実施形態で説明した光角度変調器を有する光送信装置が提供される。光送信装置は、角度変調光を送信するものであり、例えば、通信やセンシングの分野で使用され得る。
【0047】
以上の構成により、角度変調光の帯域幅をより広くすることができる。したがって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【0048】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
100:生成部、200、31:非線形媒体、30:位相調整部、300:処理部