(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040870
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】変成器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/28 20060101AFI20240318BHJP
H01F 27/12 20060101ALI20240318BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H01F27/28 176
H01F27/12 Z
H01F30/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145505
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】下村 好亮
(72)【発明者】
【氏名】大久保 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】林 弘樹
【テーマコード(参考)】
5E043
5E050
【Fターム(参考)】
5E043DB08
5E050CA02
(57)【要約】
【課題】コイルが冷却されやすい変成器を提供する。
【解決手段】本開示に係る変成器は、上下に延びる縦辺部を有する環状をなし、全周にわたる溝21が外周に設けられている枠体2と、周方向の一部が前記縦辺部に沿うようにして前記溝21に収容されているコイルと、前記溝21の内底面2aから前記コイルの前記一部に向けて突出しており、前記内底面2aと前記コイルの前記一部との間に空隙を形成しているスペーサ41とを備える変成器であって、絶縁油が通流する通流路51が、前記縦辺部に設けられており、通流路51は、少なくとも前記内底面2aと前記コイルの前記一部と前記スペーサ41とに囲まれていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に延びる縦辺部を有する環状をなし、全周にわたる溝が外周に設けられている枠体と、
周方向の一部が前記縦辺部に沿うようにして前記溝に収容されているコイルと、
前記溝の内底面から前記コイルの前記一部に向けて突出しており、前記内底面と前記コイルの前記一部との間に空隙を形成しているスペーサと
を備える変成器であって、
絶縁油が通流する通流路が、前記縦辺部に設けられており、
通流路は、少なくとも前記内底面と前記コイルの前記一部と前記スペーサとに囲まれていることを特徴とする変成器。
【請求項2】
前記スペーサは複数設けられており、前記溝の幅方向に延びる凸条状をなし、
前記スペーサの延設方向の少なくとも一端部は、前記溝の内側面及び他の前記スペーサ夫々から離隔しており、
前記スペーサの前記一端部と前記内側面及び他の前記スペーサ夫々との間に形成される離隔空間は、前記通流路の少なくとも一部を構成していることを特徴とする請求項1に記載の変成器。
【請求項3】
前記コイルを構成する導線は前記内底面に整列巻きされており、
複数の前記スペーサが前記縦辺部における前記内底面に上下に並設されており、
各離隔空間の上側又は下側に前記スペーサが位置していることを特徴とする請求項2に記載の変成器。
【請求項4】
前記溝の内側面から前記コイルの前記一部に向けて突出しており、前記内側面と前記コイルの前記一部との間に第2の空隙を形成している第2のスペーサを更に備え、
前記絶縁油が通流する第2の通流路が、前記縦辺部に設けられており、
前記第2の通流路は、少なくとも前記内側面と前記コイルの前記一部と前記第2のスペーサとに囲まれており、
該第2の通流路の少なくとも上下両端部は前記溝の開口に連通しており、
前記通流路の少なくとも上下両端部は前記第2の通流路に連通していることを特徴とする請求項1に記載の変成器。
【請求項5】
前記内底面又は前記溝の内側面に、前記絶縁油が通流する貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の変成器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変成器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変圧又は変流を目的として、変成器が用いられている。
特許文献1に記載の変成器は枠体とコイルとを備える。枠体は環状をなす。枠体の外周には、コイルが収容されている溝が全周にわたって設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コイルを構成する導線の電気抵抗によってコイルが発熱するので、コイルの冷却を図る必要がある。枠体及びコイルが絶縁油に浸漬されている場合、コイルが発した熱が絶縁油に伝わって絶縁油が自然対流することにより、コイルが効率よく冷却される。
しかしながら特許文献1に記載の変成器の場合、溝の内底面とコイルの内周との間に位置する絶縁油が通流しにくいので、コイルが冷却されにくい。
【0005】
本開示の目的は、コイルが冷却されやすい変成器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る変成器は、上下に延びる縦辺部を有する環状をなし、全周にわたる溝が外周に設けられている枠体と、周方向の一部が前記縦辺部に沿うようにして前記溝に収容されているコイルと、前記溝の内底面から前記コイルの前記一部に向けて突出しており、前記内底面と前記コイルの前記一部との間に空隙を形成しているスペーサとを備える変成器であって、絶縁油が通流する通流路が、前記縦辺部に設けられており、通流路は、少なくとも前記内底面と前記コイルの前記一部と前記スペーサとに囲まれていることを特徴とする。
【0007】
本開示にあっては、枠体が環状をなし、上下に延びる縦辺部を有する。枠体の外周には全周にわたって溝が設けられる。溝にはコイルが収容される。コイルの周方向の一部は枠体の縦辺部に沿う。
スペーサは溝の内底面とコイルの周方向の一部との間に空隙を形成する。
通流路は、少なくとも溝の内底面とコイルの周方向の一部とスペーサとに囲まれている。通流路に位置している絶縁油は、コイルが発した熱を受けて、通流路を上向きに自然に通流する。故に、絶縁油の自然対流が促進される。従って、コイルが冷却されやすい。
【0008】
本開示に係る変成器は、前記スペーサは複数設けられており、前記溝の幅方向に延びる凸条状をなし、前記スペーサの延設方向の少なくとも一端部は、前記溝の内側面及び他の前記スペーサ夫々から離隔しており、前記スペーサの前記一端部と前記内側面及び他の前記スペーサ夫々との間に形成される離隔空間は、前記通流路の少なくとも一部を構成していることを特徴とする。
【0009】
本開示にあっては、複数のスペーサが設けられる。スペーサは凸条状をなし、溝の幅方向に延びる。即ち、スペーサの延設方向は溝の幅方向である。
スペーサの延設方向の少なくとも一端部は、溝の内側面及び他のスペーサ夫々から離隔する。換言すれば、スペーサは溝の全幅にわたるものではない。スペーサの一端部と溝の内側面又は他のスペーサとの間に形成される離隔空間は、通流路の少なくとも一部を構成する。故に、絶縁油は離隔空間を通流し得る。つまり、スペーサが絶縁油の流れを完全にせき止めることはない。
【0010】
スペーサに下側から接した絶縁油は、スペーサに案内されて、溝の幅方向に通流する。即ち、絶縁油には、コイルからの熱による上向きの流れに加えて、スペーサによる溝の幅方向の流れも生じ得る。故に、コイルは溝の幅方向に満遍なく冷却されやすい。
【0011】
本開示に係る変成器は、前記コイルを構成する導線は前記内底面に整列巻きされており、複数の前記スペーサが前記縦辺部における前記内底面に上下に並設されており、各離隔空間の上側又は下側に前記スペーサが位置していることを特徴とする。
【0012】
本開示にあっては、コイルを構成する導線が、溝の内底面に整列巻きされる。枠体の縦辺部における溝の内底面には、複数のスペーサが上下に並設される。導線とスペーサ及び離隔空間夫々とは、枠体の径方向に対向する。
各離隔空間の上側又は下側にはスペーサが位置するので、離隔空間同士が上下に隣り合うことはない。故に、第1層n巻き目(nは自然数)の導線が離隔空間に対向した場合、この導線は、離隔空間の上側又は下側に隣り合うスペーサによって、枠体の径方向の外向きに支持される。従って、隣り合う複数の離隔空間に第1層n巻き目の導線が落ち込むことがないので、整列巻きが乱れることを防止することができる。
【0013】
本開示に係る変成器は、前記溝の内側面から前記コイルの前記一部に向けて突出しており、前記内側面と前記コイルの前記一部との間に第2の空隙を形成している第2のスペーサを更に備え、前記絶縁油が通流する第2の通流路が、前記縦辺部に設けられており、前記第2の通流路は、少なくとも前記内側面と前記コイルの前記一部と前記第2のスペーサとに囲まれており、該第2の通流路の少なくとも上下両端部は前記溝の開口に連通しており、前記通流路の少なくとも上下両端部は前記第2の通流路に連通していることを特徴とする。
【0014】
本開示にあっては、第2のスペーサが溝の内側面とコイルの周方向の一部との間に第2の空隙を形成する。
第2の通流路は、少なくとも溝の内底面とコイルの周方向の一部と第2のスペーサとに囲まれている。第2の通流路に位置している絶縁油は、コイルが発した熱を受けて、第2の通流路を上向きに自然に通流する。第2の通流路の少なくとも上下両端部は溝の開口に連通する。故に、枠体の外部空間から溝の開口を通って第2の通流路の下端部に温度が低い絶縁油が流入し、第2の通流路の上端部から溝の開口を通って枠体の外部空間に温度が高い絶縁油が流出する。
【0015】
また、通流路の少なくとも上下両端部は第2の通流路に連通する。故に、枠体の外部空間から溝の開口及び第2の空隙を通って通流路の下端部に温度が低い絶縁油が流入し、通流路の上端部から第2の空隙及び溝の開口を通って枠体の外部空間に温度が高い絶縁油が流出する。
以上の結果、絶縁油の自然対流が更に促進される。
【0016】
本開示に係る変成器は、前記内底面又は前記溝の内側面に、前記絶縁油が通流する貫通孔が設けられていることを特徴とする。
【0017】
本開示にあっては、溝の内底面又は内側面に貫通孔が設けられる。
溝の内底面に設けられた貫通孔を通流する絶縁油は、コイルの、溝の内底面に対向する部分の冷却に寄与する。同様に、溝の内側面に設けられた貫通孔を通流する絶縁油は、コイルの、溝の内側面に対向する部分の冷却に寄与する。
【発明の効果】
【0018】
本開示の変成器によれば、コイルが冷却されやすい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態に係る変成器の分解斜視図である。
【
図3】
図2におけるIII-III線による拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施の形態について説明する。以下の説明では、図において矢符で示す上下、前後、及び左右を使用する。
【0021】
図1は実施の形態に係る変成器の分解斜視図である。
図中1は変成器である。変成器1は変圧器であり、変成器1はコイルボビン11、2つの二次コイル12,13、カバー14、及び図示しない2つの巻鉄心を備える。
コイルボビン11は枠体2を備え、枠体2には一次コイル3が巻回されている。
【0022】
枠体2は矩形環状をなす。枠体2の四隅は円弧形に湾曲している。枠体2は絶縁体であり、例えば合成樹脂製である。
枠体2の左辺部及び右辺部は枠体2の2つの長辺部であり、枠体2の上辺部及び下辺部は枠体2の2つの短辺部である。枠体2の長辺部は、上下に延びる縦辺部である。枠体2の長辺部に平行な方向は上下方向に対応し、枠体2の短辺部に平行な方向は左右方向に対応する。枠体2の軸長方向は前後方向に対応する。
【0023】
枠体2の外周には3つの溝21~23が設けられている。溝21~23夫々は枠体2の全周にわたる。溝21~23は、前から後に向けてこの順に並んでいる。
枠体2の上辺部及び下辺部夫々において、溝21の前側壁には窓部20が設けられている。窓部20は、溝21の前側壁を頂部から底部に向けて切り欠いたような矩形状をなす。同様に、溝23の後側壁にも、枠体2の上辺部及び下辺部夫々において窓部20が設けられている。
【0024】
一次コイル3は3つのコイル31~33を有し、コイル31~33夫々は矩形環状をなす。コイル31~33は、前から後に向けてこの順に並んでおり、互いに直列に接続されている。
コイル31は、コイル31の2つの長辺部が枠体2の2つの長辺部に沿うようにして、溝21に収容されている。コイル31は、導線が溝21の内底面に枠体2の周方向に巻き付けられることによって形成されている。コイル31を構成する導線は、整列巻きされている。
同様に、コイル32,33は、導線が溝22,23の内底面に枠体2の周方向に巻き付けられることによって形成されている。コイル32,33を構成する導線は、整列巻きされている。
【0025】
二次コイル12は矩形環状をなし、コイルボビン11の径方向の内側に収められる。二次コイル13は矩形環状をなす。二次コイル13の径方向の内側にコイルボビン11が収められる。二次コイル12,13夫々は、例えば平角線を折り曲げることによって形成されている。
【0026】
カバー14は2つのカバー部材141を備える。各カバー部材141は、互いに左右に隣り合う2つの半円筒を一体に有し、各半円筒の軸長方向は上下に延びる。2つのカバー部材141を組み合わせることによって、2つの円筒を有するカバー14が形成される。
カバー14の左側の円筒は、二次コイル12の内側を通るようにしてコイルボビン11及び二次コイル12,13夫々の左辺部を覆う。同様に、カバー14の右側の円筒は、コイルボビン11及び二次コイル12,13夫々の右辺部を覆う。
カバー14の2つの円筒夫々の外周面に、円筒状の巻鉄心(不図示)が設けられる。
【0027】
一次コイル3と二次コイル12,13とを絶縁及び冷却するために、変成器1は、図示しないタンクに貯留された絶縁油に沈められている。変成器1の周囲は絶縁油で満たされている。絶縁油は変成器1を構成する部材同士の間隙(例えば枠体2とコイル31~33夫々との間隙)に浸入している。
【0028】
図2は枠体2の側面図である。
図3は
図2におけるIII-III線による拡大断面図である。
図3には枠体2の左辺部が示されている。枠体2の右辺部の構成は、枠体2の左辺部の構成と左右対称である。以下では枠体2の左辺部を例示して説明する。
枠体2の左辺部における溝21の内底面には凹部24が設けられている。凹部24は、溝21の上下方向の全長にわたり、且つ溝21の全幅にわたる。
【0029】
枠体2の左辺部における溝21の後内側面には凹部25が設けられている。凹部25は、溝21の上下方向の全長にわたり、且つ溝21の左右方向の全長にわたる。凹部25の左側部は溝21の開口に、凹部25の右側部は凹部24の開口に、夫々連通している。
枠体2の左辺部における溝21の前内側面には凹部26が設けられている。凹部26の構成は、凹部25の構成と前後対称である。
【0030】
換言すれば、枠体2の左辺部における溝21の内底面は、枠体2の上辺部及び下辺部夫々における溝21の内底面よりも枠体2の径方向の内側に位置している。また、枠体2の左辺部における溝21の後内側面は、枠体2の上辺部及び下辺部夫々における溝21の後内側面よりも後側に位置している。同様に、枠体2の左辺部における溝21の前内側面は、枠体2の上辺部及び下辺部夫々における溝21の前内側面よりも前側に位置している。
以下では、凹部24の内底面を内底面2aといい、凹部25の内底面を後内側面2bといい、凹部26の内底面を前内側面2cという。
【0031】
内底面2aには8つのスペーサ41~48が設けられている。スペーサ41~43は下側から上側に向けてこの順に千鳥状に(ジグザグに)並んでおり、これらの上側にてスペーサ44,45が後側から前側に向けてこの順に並んでおり、これらの上側にてスペーサ46~48が下側から上側に向けてこの順に千鳥状に並んでいる。スペーサ41~43夫々とスペーサ44,45とスペーサ46~48とは概ね等間隔に配されている。
【0032】
スペーサ41~48夫々は内底面2aから左向きに突出しており、前後方向に延びる凸条状をなす。スペーサ41~48夫々の内底面2aからの突出量(左右方向の長さ)は、凹部24の深さに等しい。スペーサ41~48夫々の幅(上下方向の長さ)は、互いに等しい。スペーサ41~48夫々の先端部は、コイル31の左辺部の内周に接している。スペーサ41~48の介在により、内底面2aとコイル31の左辺部の内周との間には空隙が形成されている。
【0033】
内底面2aとコイル31の左辺部の内周との間の空隙は、通流路51として機能する。通流路51は、少なくとも内底面2aとコイル31の左辺部の内周とスペーサ41~48と溝21の前後両内側面と凹部24の上下両内側面に囲まれており、枠体2の左辺部の上下方向の全長にわたっている。通流路51は絶縁油で満たされている。
【0034】
スペーサ41,43,47夫々は、前端部が前内側面2cに連続している。また、後端部が後内側面2b、前内側面2c、及び他のスペーサ夫々から離隔しているので、スペーサ41,43,47夫々の後端部と後内側面2bとの間には離隔空間が形成されている。各離隔空間は通流路51の一部を構成している。
スペーサ42,46,48夫々は、後端部が後内側面2bに連続している。また、前端部が後内側面2b、前内側面2c、及び他のスペーサ夫々から離隔しているので、スペーサ42,46,48夫々の前端部と前内側面2cとの間には離隔空間が形成されている。各離隔空間は通流路51の他の一部を構成している。
【0035】
スペーサ41~43,46~47夫々の前後方向の長さは、例えば溝21の全幅の長さの2/3程度である。
スペーサ44はスペーサ42,46,48夫々と同様の構成を有し、且つ、これらよりも左右方向に短い(例えばこれらの長さの半分程度)。スペーサ45はスペーサ41,43,47夫々と同様の構成を有し、且つ、これらよりも左右方向に短い(例えばこれらの長さの半分程度)。スペーサ44の前端部とスペーサ45の後端部との間には離隔空間が形成されている。この離隔空間は通流路51の更に他の一部を構成している。
【0036】
なお、スペーサの構成は上述したものに限定されず、例えばスペーサの前後両端部が後内側面2b、前内側面2c、及び他のスペーサ夫々から離隔しており、スペーサの前後両端部と後内側面2b及び前内側面2cとの間に離隔空間が形成されている構成でもよい。
【0037】
通流路51において、各離隔空間の上側又は下側には、スペーサ41~48、凹部24の下内側面、及び凹部24の上内側面の何れかが位置している。
更に詳細には、スペーサ41の後端部と後内側面2bとの間の離隔空間の上側にはスペーサ42が位置している。スペーサ41の後端部と後内側面2bとの間の離隔空間の下側には凹部24の下内側面が位置している。
スペーサ42の前端部と前内側面2cとの間の離隔空間の場合、下側にはスペーサ41が位置しており、上側にはスペーサ43が位置している。
スペーサ43の後端部と後内側面2bとの間の離隔空間の場合、下側にはスペーサ42が位置しており、上側にはスペーサ44が位置している。
【0038】
スペーサ44,45間の離隔空間の場合、下側にはスペーサ43が位置しており、上側にはスペーサ46が位置している。
スペーサ46の前端部と前内側面2cとの間の離隔空間の場合、下側にはスペーサ45が位置しており、上側にはスペーサ47が位置している。
スペーサ47の後端部と後内側面2bとの間の離隔空間の場合、下側にはスペーサ46が位置しており、上側にはスペーサ48が位置している。
スペーサ48の前端部と前内側面2cとの間の離隔空間の下側にはスペーサ47が位置している。スペーサ48の前端部と後内側面2bとの間の離隔空間の上側には凹部24の上内側面が位置している。
【0039】
後内側面2bには8つのスペーサ61~68が設けられている。スペーサ61~68夫々は第2のスペーサである。スペーサ61~63は下側から上側に向けてこの順に千鳥状に並んでおり、これらの上側にてスペーサ64,65が右側から左側に向けてこの順に並んでおり、これらの上側にてスペーサ66~68が下側から上側に向けてこの順に千鳥状に並んでいる。スペーサ61~63夫々とスペーサ64,65とスペーサ66~68とは概ね等間隔に配されている。
【0040】
スペーサ61~68夫々は後内側面2bから前向きに突出しており、左右方向に延びる凸条状をなす。スペーサ61~68夫々の後内側面2bからの突出量(前後方向の長さ)は、凹部25の深さに等しい。スペーサ61~68夫々の幅(上下方向の長さ)は、互いに等しい。スペーサ61~68夫々の先端部は、コイル31の左辺部の後端に接している。スペーサ61~68の介在により、後内側面2bとコイル31の左辺部の後端との間には第2の空隙が形成されている。
【0041】
後内側面2bとコイル31の左辺部の後端との間の第2の空隙は、通流路52として機能する。通流路52は、少なくとも後内側面2bとコイル31の左辺部の後端とスペーサ61~68と内底面2aと凹部25の上下両内側面に囲まれており、枠体2の左辺部の上下方向の全長にわたっている。通流路52の左側部は溝21の開口に連通している。通流路52の右側部は通流路51に連通している。通流路52は絶縁油で満たされている。
【0042】
スペーサ61,63,67夫々は、左端部が溝21の後側壁の頂部に位置している。また、右端部が内底面2a及び他のスペーサ夫々から離隔しているので、スペーサ61,63,67夫々の右端部と内底面2aとの間には離隔空間が形成されている。各離隔空間は通流路52の一部を構成している。
スペーサ62,66,68夫々は、右端部が内底面2aに連続している。また、左端部が内底面2a及び他のスペーサ夫々から離隔しているので、スペーサ62,66,68夫々の左端部の左側には溝21の開口に連通する離隔空間が形成されている。各離隔空間は通流路52の他の一部を構成している。
【0043】
スペーサ61~63,66~67夫々の前後方向の長さは、例えば溝21の深さの2/3程度である。
スペーサ64はスペーサ62,66,68夫々と同様の構成を有し、且つ、これらよりも左右方向に短い(例えばこれらの長さの半分程度)。スペーサ65はスペーサ61,63,67夫々と同様の構成を有し、且つ、これらよりも左右方向に短い(例えばこれらの長さの半分程度)。スペーサ64の左端部とスペーサ65の右端部との間には離隔空間が形成されている。この離隔空間は通流路52の更に他の一部を構成している。
【0044】
本実施の形態においてはスペーサ61~68の上下方向の位置はスペーサ41~48の上下方向の位置に等しい。故にスペーサ62はスペーサ42に連続している。同様に、スペーサ64,66,68はスペーサ44,46,48に連続している。
通流路51の場合と同様に、通流路52において、各離隔空間の上側又は下側には、スペーサ61~68、凹部25の下内側面、及び凹部25の上内側面の何れかが位置している。
【0045】
前内側面2cには8つのスペーサ61~68が設けられている。前内側面2cにおけるスペーサ61~68の構成は後内側面2bにおけるスペーサ61~68の構成と前後対称である。前内側面2cにおける前内側面2cにおけるスペーサ61~68夫々の先端部は、コイル31の左辺部の前端に接している。スペーサ61~68の介在により、前内側面2cとコイル31の左辺部の前端との間には第2の空隙が形成されている。
【0046】
前内側面2cとコイル31の左辺部の前端との間の第2の空隙は、通流路53として機能する。通流路53は、少なくとも前内側面2cとコイル31の左辺部の前端と前内側面2cに設けられたスペーサ61~68と内底面2aと凹部26の上下両内側面に囲まれており、枠体2の左辺部の上下方向の全長にわたっている。通流路53の左側部は溝21の開口に連通している。通流路53の右側部は通流路51に連通している。通流路53は絶縁油で満たされている。
【0047】
枠体2の左辺部における溝22,23内の構成は枠体2の左辺部における溝21内の構成と同様であり、溝22,23夫々の内面には凹部24~26が設けられている。また、内底面2aにスペーサ41~48が設けられており、後内側面2b及び前内側面2c夫々にスペーサ61~68が設けられている。この結果、枠体2の左辺部における溝22及びコイル32についても通流路51~53が設けられ、枠体2の左辺部における溝23及びコイル33についても通流路51~53が設けられる。
【0048】
以上のような変成器1によれば、一次コイル3及び二次コイル12,13を構成する導線の電気抵抗によって熱が生じるので、これらの冷却が図られる。変成器1は絶縁油に浸漬されているので、一次コイル3及び二次コイル12,13が発した熱は絶縁油に伝わる。一次コイル3及び二次コイル12,13からの熱を受けた絶縁油は自然対流し、例えば絶縁油を貯留しているタンクに設けられた放熱器との間で熱交換する。この結果、一次コイル3及び二次コイル12,13が効率よく冷却される。
【0049】
以下では、一次コイル3の冷却について、溝21に収容されているコイル31を例示して詳述するが、溝22,23に収容されているコイル32,33の場合も同様である。
前述したように、コイル31の左辺部と溝21の内底面2aとの間に設けられている通流路51は絶縁油で満たされている。通流路51に位置している絶縁油は、コイル31が発した熱を受けて、通流路51を上向きに自然に通流する。
【0050】
通流路51を上向きに通流する絶縁油は、スペーサ41~48の何れかに下側から接触し得る。スペーサ41~48夫々は溝21の全幅にわたるものではないので、スペーサ41~48夫々が絶縁油の流れを完全にせき止めることはない。
スペーサ41~48夫々に下側から接した絶縁油は、スペーサ41~48夫々に案内されて、前後方向に通流する。即ち、絶縁油には、コイル31からの熱による上向きの流れに加えて、スペーサ41~48夫々による前後方向の流れも生じ得る。換言すれば、通流路51は上下方向の直線状ではなくジグザグ状をなし、絶縁油は通流路51をまっすぐ上向きに通流するのではなく上向きにジグザグに通流する。故に、コイル31は前後方向に満遍なく冷却されやすい。
【0051】
スペーサ41~48について、一のスペーサの前後に隣接している離隔空間の上側又は下側には他のスペーサが位置しているので、離隔空間同士が上下に隣り合うことはない。コイル31を構成する導線は内底面2aに整列巻きされているので、第1層n巻き目の導線が離隔空間に対向した場合、この導線は、離隔空間の上側又は下側に隣り合うスペーサによって、枠体2の径方向の外向きに支持される。スペーサ41の後側に隣接している離隔空間の下側には、枠体2の左辺部と下辺部との境界部分における溝21の内底面が位置している。また、スペーサ48の前側に隣接している離隔空間の上側には、枠体2の左辺部と上辺部との境界部分における溝21の内底面が位置している。故に、導線は、離隔空間の上側又は下側に隣り合う溝21の内底面によって、枠体2の径方向の外向きに支持される。
【0052】
以上の結果、隣り合う複数の離隔空間に第1層n巻き目の導線が落ち込むことがないので、整列巻きが乱れることを防止することができる。
なお、溝21の全幅にわたって延びるスペーサが設けられてもよい。この場合、スペーサには、上下方向に貫通する貫通孔、又はスペーサの頂部に位置する切り欠き等が設けられる。スペーサに設けられた貫通孔又は切り欠き等の内側の空間は、通流路の一部を構成する。
【0053】
同様に、コイル31の左辺部と溝21の後内側面2b及び前内側面2c夫々との間に設けられている通流路52,53も絶縁油で満たされている。通流路52,53に位置している絶縁油は、コイル31が発した熱を受けて、通流路52,53を上向きに自然に通流する。
スペーサ41~48の場合と同様に、スペーサ61~68夫々が絶縁油の流れを完全にせき止めることはない。また、絶縁油には、コイル31からの熱による上向きの流れに加えて、スペーサ61~68夫々による左右方向の流れも生じ得る。故に、コイル31は左右方向に満遍なく冷却されやすい。
【0054】
通流路51~53夫々にて絶縁油の上向きの流れが生じることにより、溝21の外部から溝21の開口を通して通流路52,53の下端部に絶縁油が流入し、通流路52,53の下端部から通流路51の下端部に絶縁油が流入する。また、通流路51の下端部から通流路52,53の下端部に絶縁油が流出し、通流路52,53の下端部から溝21の開口を通して溝21の外部に絶縁油が流出する。溝21の外部から通流路51~53に流入する絶縁油の温度は低く、通流路51~53から溝21の外部に流出する絶縁油の温度は高い。しかも、通流路51~53夫々は枠体2の左辺部の全長にわたる。
以上の結果、絶縁油の自然対流が促進される。従って、コイル31が冷却されしやすい。
【0055】
通流路51に対する絶縁油の流入出を促進するために、内底面2aに貫通孔が設けられてもよい。
図4は他の構成を有する枠体2の断面図である。
図4には枠体2の左辺部が示されている。
図4には2つの貫通孔50が内底面2aに設けられている場合が例示されている。一方の貫通孔50は、通流路51の下端部に配されており、他方の貫通孔50は、通流路51の上端部に配されている。溝21の外部から下側の貫通孔50を通して通流路51に温度が低い絶縁油が流入し、通流路51から上側の貫通孔50を通して溝21の外部に温度が高い絶縁油が流出する。
【0056】
貫通孔50は、通流路51の上下方向の中途に設けられてもよい。貫通孔50の個数、配置、開口面積等は、コイル31の冷却に寄与するように、且つ、枠体2の強度に悪影響を及ぼさないように、適切に設計される。
溝21においては、通流路53に対する絶縁油の流入出を促進するために、前内側面2cに貫通孔50が設けられてもよい。溝23においては、通流路52に対する絶縁油の流入出を促進するために、後内側面2bに貫通孔50が設けられてもよい。
【0057】
なお、変成器1は電力用でも計器用でもよい。変成器1は変流器でもよい。
通流路51~53夫々は、枠体2の左辺部の全長にわたることが望ましいが、これに限定されない。通流路51~53夫々の上下方向の長さは枠体2の左辺部の全長未満(例えば枠体2の左辺部の全長の8割~9割程度)でもよい。また、通流路51~53夫々は、複数の流路が上下に並設された構成でもよい。例えば通流路51は、枠体2の左辺部の下端から上下方向の中途までの第1流路と、枠体2の左辺部の上下方向の中途から上端からまでの第2流路とを有してもよい。
【0058】
本実施の形態では、スペーサ41~48について、一のスペーサの前後に隣接している離間距離の前後方向の長さは、溝21の全幅の長さの1/3程度である。各離間距離の前後方向の長さはこれに限定されず、例えば絶縁油の流動性に応じて適切に設計される。各離間距離の前後方向の長さが短すぎる場合、絶縁油が上向きに通流しにくくなる。一方、各離間距離の前後方向の長さが長すぎる場合、絶縁油が前後方向に通流しにくくなる。
同様に、スペーサ61~68について、一のスペーサの左右に隣接している離間距離の左右方向の長さは、溝21の深さの1/3程度であるが、これに限定されない。
【0059】
各スペーサは上下方向に直交する向きに延びる構成に限定されず、絶縁油の上向きの流れを案内するように傾斜していてもよい。例えば、スペーサ41は前後方向に延びるのではなく前下側から後上側に向けて延びる。この場合、離隔空間の前後方向の長さは溝21の全幅の長さの1/3よりも短いことが望ましい。
本実施の形態の各スペーサは凸条状に限定されない。
【符号の説明】
【0060】
1 変成器; 2 枠体; 2a 内底面; 2b 後内側面(内側面); 2c 前内側面(内側面); 21~22 溝; 31~33 コイル; 41~48 スペーサ; 50 貫通孔; 51 通流路; 52,53 通流路(第2の通流路); 61~68 スペーサ(第2のスペーサ)