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特開2024-40876イオン交換膜の評価方法及び品質管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040876
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】イオン交換膜の評価方法及び品質管理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/10 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
B01D65/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145514
(22)【出願日】2022-09-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503361709
【氏名又は名称】株式会社アストム
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 充
(72)【発明者】
【氏名】土井 正一
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006LA06
4D006MA03
4D006MA13
4D006MA14
4D006MB07
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、上記問題点を解決し、イオン交換膜の1価イオン選択性を簡易に評価できる評価方法を提供することにある。
【解決手段】イオン交換膜の1価イオン選択性の評価方法であって、予め複数のイオン交換膜について電気透析試験による1価イオン選択性の評価と膜電位の測定を行い、前記電気透析試験による1価イオン選択性の評価と前記膜電位の測定による測定結果との相関関係を取得し、評価対象のイオン交換膜については、膜電位の測定のみを行い、その測定結果を前記相関関係と照合することにより、1価イオン選択性を評価する前記評価方法。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換膜の1価イオン選択性の評価方法であって、予め複数のイオン交換膜について電気透析試験による1価イオン選択性の評価と膜電位の測定を行い、前記電気透析試験による1価イオン選択性の評価と前記膜電位の測定による測定結果との相関関係を取得し、評価対象のイオン交換膜については、膜電位の測定のみを行い、その測定結果を前記相関関係と照合することにより、1価イオン選択性を評価する前記評価方法。
【請求項2】
膜電位の測定は、測定対象となるイオン交換膜を、イオン交換膜の一方の側が電解質の高濃度溶液に接し、他方の側が電解質の低濃度溶液に接するように配置し、両溶液間の電位差を測定することにより行うことを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
膜電位の測定における電解質として、KCl、NHCl又はKNOを使用することを特徴とする請求項2記載の評価方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか記載の評価方法を使用して、イオン交換膜の品質管理を行うイオン交換膜の品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜の1価イオン選択性の評価方法、及びこれを利用したイオン交換膜の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜を用いたイオン濃縮技術である電気透析(ED)、ドナン透析(DD)等において、Na、K、NH4+等の複数種の1価イオンの混合溶液、あるいは1価イオン及び2価イオン(いずれのイオンも単一種であっても複数種であってもよい)の混合溶液から目的とするイオンを分離して濃縮・脱塩することは製塩分野、水処理分野、排液処理分野、食品や医薬品原料の製造プロセス等で重要な技術である。イオン交換膜を用いたイオン濃縮技術である電気透析(ED)技術を応用して処理する処理水にはNa、K、NH4+等の1価カチオン、F、Cl、Br、NO 等の1価アニオン、Ca2+、Mg2+等の2価カチオン、SO 2-等の2価アニオンなど複数のイオン種が含まれている場合が多い。これらの中で、例えばCa2+、SO 2-等の2価イオンが共存している溶液を電気透析で濃縮する場合、スケールが発生して、膜を破壊する場合がある。また、特定の1価イオンを選択的に分離・濃縮することが必要な応用分野がある。このため、特定イオンの分離濃縮を行うために特定イオンの選択透過性を有するイオン交換膜が開発されている。特に1価イオンと2価イオンの混合溶液から1価イオンを選択的に透過する1価イオン選択性を有するイオン交換膜が開発されている。
【0003】
このような1価イオン選択性を有するイオン交換膜において、1価イオンの選択性を定量的に評価することは、膜の材料設計や、実際の製品の品質管理上重要である。しかしこれまで、選択透過性イオン交換膜のイオン選択性を定量的に評価するためには、実際に対称のイオン交換膜を用いて当該イオンが混在する溶液を使用した電気透析を行い、その透過比を測定する必要があった(特許文献1の段落[0049]参照)。しかし、この方法では、対象のイオン交換膜を用いた電気透析装置を作製するため多くの労力と費用が必要になるという問題点があった。また、選択性の指標が安定するためには多くの時間がかかるという問題点があった。指標が安定するために必要な時間については、例えば、Na、Caの選択性指標TNa Caの経時変化を示した非特許文献1の第40ページ図2.14では選択性指標が安定するのに24時間程かかることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-172559号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「イオン交換膜 基礎と応用」(田中 良修、丸善出版株式会社、平成28年12月20日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決し、イオン交換膜の1価イオン選択性を簡易に評価できる評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を解決するために、1価イオン選択性の評価方法の検討を開始した。検討を進めるなかで、膜電位の測定結果が電気透析試験による1価イオン選択性の評価結果と相関関係を有することを見いだし、このことを利用すれば、簡易にイオン交換膜の1価イオン選択性を評価できる評価方法を提供できることを見いだした。本発明は、こうして完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
(1)イオン交換膜の1価イオン選択性の評価方法であって、予め複数のイオン交換膜について電気透析試験による1価イオン選択性の評価と膜電位の測定を行い、前記電気透析試験による1価イオン選択性の評価と前記膜電位の測定による測定結果との相関関係を取得し、評価対象のイオン交換膜については、膜電位の測定のみを行い、その測定結果を前記相関関係と照合することにより、1価イオン選択性を評価する前記評価方法。
(2)膜電位の測定は、測定対象となるイオン交換膜を、イオン交換膜の一方の側が電解質の高濃度溶液に接し、他方の側が電解質の低濃度溶液に接するように配置し、両溶液間の電位差を測定することにより行うことを特徴とする上記(1)の評価方法。
(3)膜電位の測定における電解質として、KCl、NHCl又はKNOを使用することを特徴とする上記(2)の評価方法。
(4)上記(1)~(3)のいずれか記載の評価方法を使用して、イオン交換膜の品質管理を行うイオン交換膜の品質管理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の評価方法は、イオン交換膜の1価イオン選択性を簡易に評価でき、特に1価イオンと2価イオンの混合溶液から1価イオンを選択的に透過する1価イオン選択性を簡易に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例で使用した膜電位の測定装置を示す図である。
図2図2は、実施例で使用した電気透析試験装置を示す図である。
図3図3は、「FKS-20(ブランク)」の電気透析試験結果を示す図である。
図4図4は、「FKS-20(5)」の電気透析試験結果を示す図である。
図5図5は、「FKS-20(10)」の電気透析試験結果を示す図である。
図6図6は、「FKS-20(20)」の電気透析試験結果を示す図である。
図7図7は、実施例における膜電位と電気透析試験結果との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の評価方法は、イオン交換膜の1価イオン選択性の評価方法であって、予め複数のイオン交換膜について電気透析試験による1価イオン選択性の評価と膜電位の測定を行い、前記電気透析試験による1価イオン選択性の評価と前記膜電位の測定による測定結果との相関関係を取得し、評価対象のイオン交換膜については、膜電位の測定のみを行い、その測定結果を前記相関関係と照合することにより、1価イオン選択性を評価する評価方法である。本発明における1価イオンとしては、1価のカチオン及び1価のアニオンを挙げることができ、特に制限されるものではないが、1価のカチオンとしては、例えばNa、K、NH4+等を挙げることができ、1価のアニオンとしては、例えばF、Cl、Br、NO 等を挙げることができる。本発明におけるイオン交換膜としては、陽イオン交換膜でも陰イオン交換膜でもよい。
【0012】
本発明における膜電位の測定方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、測定対象となるイオン交換膜を、イオン交換膜の一方の側が電解質の高濃度溶液に接し、他方の側が電解質の低濃度溶液に接するように配置し、両溶液間の電位差を測定することにより膜電位を測定することができる。例えば、電解質の高濃度溶液を収容する容器と電解質の低濃度溶液を収容する容器とを備え、両容器の間にイオン交換膜の一方の側が電解質の高濃度溶液に接し、他方の側が電解質の低濃度溶液に接するようにイオン交換膜を配置できる拡散透析セルを使用して測定することができる。測定の際は、容器中の溶液を十分に攪拌しながら塩橋等を使用して電位計で電位を測定する。両溶液における電解質の濃度は、特に制限されるものではないが、高濃度溶液では0.001~1mol/L、低濃度溶液では0.00001~0.01mol/Lが好ましい。高濃度溶液では、浸透水の影響が無視できなくなる場合(特に膜厚が薄い又は高含水率の膜の場合)、0.1mol/L以下が好ましい。また、低濃度溶液では、あまり低い濃度ではコンタミ等や、高濃度溶液側からの塩の拡散から濃度を保持することが困難となるので、0.0001mol/L以上が好ましい。市販イオン交換膜の固定荷電密度は一般に1~10mol/Lであるため、使用するイオン交換膜に応じて高濃度溶液では電解質濃度が0.1~1mol/Lが好ましく、浸透水の影響が無視できない膜厚が薄い又は高含水率の膜の場合、0.3mol/L以下が好ましい。低濃度溶液ではコンタミ等や、高濃度側からの塩の拡散から濃度を保持することが困難となるとの観点から0.0001mol/L以上が望ましい。
【0013】
高濃度溶液と低濃度溶液の濃度比については、低すぎると発生する電位の絶対値が小さくなるため測定誤差が大きくなり、大きすぎると浸透水や塩拡散の影響が大きくなるので、低濃度溶液の電解質濃度に対する高濃度溶液の電解質濃度(高濃度溶液の電解質濃度/低濃度溶液の電解質濃度)は、5~1000が好ましく、10~300がより好ましい。また、両溶液における電解質濃度は、測定対象のイオン交換膜の固定荷電密度より10分の1以下が、電解質濃度比やイオン交換膜の固定荷電密度の差による基準電位の値が大きく変わらない点から好ましい。この条件を満たしている場合の膜電位は、溶液濃度には依存せずに溶液濃度比に依存して、常に基準電位に近い値となるためである。イオン交換膜の固定荷電密度が分からない場合は、実際に測定し、測定値が理論式により求められる基準電位に近い値であることを確認することにより、上記条件を満たしていることを判断できる。理論式による基準電位は以下のようにして求めることができる。電解質の高濃度溶液(L)と陽イオン交換膜が接する界面では、陽イオン交換膜中の陽イオン濃度(Cm,L)と高濃度溶液(L)中の陽イオン濃度(CS,L)との間でドナンの式(1)に従ってドナン電位(Δφdon,L)が生じる。式(1)中、z、R、T、Fはそれぞれ対イオンの価数、ガス定数、絶対温度、ファラディ定数である。
【0014】
[式1]
【0015】
一方、電解質の低濃度溶液(R)と陽イオン交換膜が接する界面では、陽イオン交換膜中の陽イオン濃度(Cm,R)と低濃度溶液(R)中の陽イオン濃度(CS,R)との間でドナンの式(2)に従って同様にドナン電位(Δφdon,R)が生じる
【0016】
[式2]
【0017】
上記式(1)及び(2)において、z、R、T、Fはそれぞれ対イオンの価数、ガス定数、絶対温度、ファラディ定数である。上記式(1)及び(2)から、高濃度溶液(L)側のドナン電位より低濃度溶液(R)側のドナン電位の絶対値が大きくなる。KClのように水中での陽イオンと陰イオンの移動度がほぼ等しい電解質を使用した場合には、膜内の拡散電位が無視できるとすると、高濃度溶液(L)側を基準に測定した膜電位(Δφ)は以下の式(3)で表わされる。膜中の対イオン濃度は、膜の固定荷電密度が十分に電解質溶液の電解質濃度よりも高い場合、膜中対イオン濃度が膜の固定荷電密度にほぼ等しくとなるため、この場合Cm,R≒Cm,Lとなり、式(3)は式(4)で表される。
【0018】
[式3]
【0019】
[式4]
【0020】
L側が高濃度であるため、CS,L>CS,Rであるから上記(4)式よりΔφは正の値となる。つまり、両溶液における電解質濃度が測定対象のイオン交換膜の固定荷電密度より10分の1以下のような、膜の固定荷電密度が十分に電解質溶液の電解質濃度よりも高い場合、膜電位は高濃度溶液(L)側と低濃度溶液(R)側の電解質濃度に依存せず、その濃度比の関数となる。厳密には活量の比の関数となるが、活量係数を1と仮定して概算を行うと、例えばKClを使用した場合、理論式から求められる膜電位(基準電位)は20℃で116mVとなる。実際に測定し、測定値が理論式により求められる基準電位に近い値であることを確認することにより、測定対象のイオン交換膜に対し使用する電解質溶液の濃度が適切かどうかを判断することができ、適切でない場合は、使用する電解質溶液の濃度を変更して適切な濃度にすることができる。また、陰イオン交換膜の場合も同様に理論式による膜電位(基準電位)を求めることができる。陰イオン交換膜の場合は、ドナン電位が陽イオン交換膜の場合と反対符号になるため膜電位(基準電位)及び測定値はマイナスの値となる。イオン交換膜の一方の表面又は両面に反対荷電層を形成したイオン交換膜の場合は、反対荷電層形成前のイオン交換膜(原膜)において上記のように計算式と測定値とを比較して、使用する電解質溶液の適切な濃度を判断することができる。陽イオン交換膜、陰イオン交換膜のいずれの膜の場合でも、測定誤差も考慮して膜電位の基準電位から膜電位の測定値を差し引いた値の絶対値が、基準電位の20%以上の値であれば、電解質溶液の濃度が適切でない、という判断ができる。本発明における膜電位の測定において使用する電解質としては、特に制限されるものではないが、解析が容易である観点から強電解質が望ましい。また特定イオン選択性層が反対荷電層であるイオン交換膜の1価イオン選択性を評価する場合には、拡散電位の影響を無視できるように、陽イオンと陰イオンの水中移動度が近い値を有する電解質が好ましい。このような電解質としては、例えば、KCl、NHCl、KNO等を挙げることができ、これらを1種又は2種以上使用してもよい。その中でも安定性がよく、広く塩橋等に使用されているKClが好ましい。
【0021】
イオン交換膜の高濃度溶液に接する部分の面積、及び低濃度溶液に接する部分の面積は、0.1cm以上が好ましい。小さいと膜表面での溶液の攪拌が不十分となる場合や、膜表面に付着した気泡を除くこと困難となる場合があり、大きすぎると膜コストや装置のコストが高くなるため、1~100cmが好ましく、3~10cmがより好ましい。使用する高濃度溶液及び低濃度溶液の体積は十分な量であることが好ましい。使用する両溶液の量としては、10~1000mLが好ましい。使用する溶液の量が少ないと、電解質溶液の濃度を保持することが難しくなるおそれがあるため、100~500mLがより好ましい。本発明における膜電位の測定においては、イオン交換膜のどちらの面を高濃度溶液側又は低濃度溶液側に向けてもよいが、必要に応じて、一度目の膜電位を測定した後、イオン交換膜の各面が接する溶液が一度目の測定時と反対になるようにして二度目の測定を行い、各膜における同じ溶液側を基準とした膜電位の値を比較して評価してもよい。イオン交換膜の一方の表面に反対荷電層を形成した場合等の膜の一方の面と他方の面とが非対称構造を有するイオン交換膜の膜電位を測定する場合は、反対荷電層が形成された面を高濃度溶液側又は低濃度溶液側のどちらに向けてもよく、一度目の膜電位を測定した後、膜の溶液に接する面を反対にして二度目の測定を行い、各膜における同じ溶液側を基準とした膜電位の値を比較して評価してもよい。一度目の測定のみで評価を行う場合は、陽イオン交換膜の一方の面に反対荷電層を形成したときは、反対荷電層が低濃度溶液に接するように測定するのが好ましく、陰イオン交換膜の一方の面に反対荷電層を形成したときは、同様に反対荷電層が低濃度溶液に接するように測定するのが好ましい。膜電位の測定時の温度は特に制限されないが、15~30℃が好ましい。膜電位の測定時間は、通常5~15分程度である。
【0022】
本発明における電気透析試験の方法は、特に制限されるものではなく、イオン交換膜の対を配置したセルを使用する方法等を使用することができ、従来から行われてきた方法を使用してもよい。例えば、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜の対を1対又は2対以上配置してイオン交換膜で区切られた室を設け、1価のイオンと2価のイオン又は2価以上のイオンを含む溶液を電気透析して、各室におけるイオン濃度をイオンクロマトグラフィ等で測定し、イオン濃度の変化からイオン交換膜を透過した1価イオンの割合を求めることにより1価イオン選択性を評価することができる。また、1価のイオンと2価のイオン又は2価以上のイオンを含む溶液を1枚のイオン交換膜で区切って電気透析を行い、所定時間毎にイオン交換膜で区切られた各室でのイオン濃度を測定し、1価のイオンと他のイオンの濃度-経過時間曲線の傾きから1価イオン選択性を評価することもできる。
【0023】
本発明のイオン交換膜の1価イオン選択性の評価方法は、予め複数のイオン交換膜について、上記のように電気透析試験と膜電位の測定を行う。そして、電気透析試験結果の異なる複数のイオン交換膜について、電気透析試験による1価イオン選択性の評価結果と膜電位の測定結果を得て、電気透析試験による1価イオン選択性の評価結果と膜電位の測定結果との相関関係を取得する。陽イオン交換膜の評価を行う場合には、予め複数の陽イオン交換膜について、電気透析試験と膜電位の測定を行い、両結果の相関関係を取得する。また、陰イオン交換膜の評価を行う場合には、予め複数の陰イオン交換膜について、電気透析試験と膜電位の測定を行い、両結果の相関関係を取得する。両結果の相関関係は、相関図として表してもよく、相関関係を示す式として表してもよい。この相関関係を得ておけば、新たに評価対象となるイオン交換膜については、膜電位を測定するのみで、測定された膜電位に対応する電気透析試験による1価イオン選択性の評価結果を把握することができる。そのため、電気透析試験を行うことなく、1価イオン選択性を評価することができる。相関関係を取得するために予め電気透析試験と膜電位の測定を行う複数のイオン交換膜は、異なる製造条件及び/又は材料から得られた電気透析試験結果の異なる陽イオン交換膜又は陰イオン交換膜でもよく、同じ製造条件及び材料から得られた陽イオン交換膜又は陰イオン交換膜でもよい。同じ製造条件及び材料でイオン交換膜を製造しても、特性には許容される一定のばらつきが生じ、時には許容される範囲をはずれた不良品が発生することがある。同じ製造条件及び材料で製造した複数のイオン交換膜により本発明における相関関係を取得しておき評価を行った場合、膜電位を測定するのみで、品質(特性)が許容される規定範囲内に入っているか否か、すなわち不良品でないか、あるいはロット毎のばらつきは規定範囲内に入っているか否かなどの評価を行うことができ、品質管理に有効に適用できる。
【実施例0024】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0025】
(反対荷電層を有するCEMの作製)
プラズマ照射グラフト重合を行う原膜として市販の陽イオン交換膜(CEM)であるFumasep(登録商標)FKS-20(FUMATECH BWT GmbH)を用いた。最初にアンプル管に原膜を入れ、アルゴン雰囲気下で、圧力10Pa、照射電力30Wにて1分間プラズマ照射を行った。この照射により原膜の表面にラジカルが形成される。プラズマ照射後の膜をvinylbenzyl trimethyl ammonium chloride(VBTAC)モノマー溶液に浸漬し、60℃で所定時間グラフト重合を行うことにより膜表面に反対荷電層を形成した。以下、原膜を「FKS-20(ブランク)」、重合時間を5分、10分、20分とした膜を、それぞれ「FKS-20(5)」、「FKS-20(10)」、「FKS-20(20)」とした。これらを試料膜として以下の膜電位の測定及び電気透析(ED)試験を行った。
【0026】
(膜電位の測定)
図1に測定装置を示す。まず各試料膜を装置の2つの容器の間にセットする。そして2つの容器の一方(高濃度側)に0.1mol/LのKCl水溶液を入れ、他方(低濃度側)に0.001mol/LのKCl水溶液を入れて、撹拌装置で溶液を攪拌させた。10分後に電位測定装置の塩橋を、高濃度側が電位の基準となるように、2つの溶液に約1秒つけて、電位を読み取ることにより膜電位[mV]を求めた。長く塩橋をつけると、塩橋からKClが流れて容器内、特に低濃度側のKCl濃度が変わるので、塩橋を溶液につけて電位を読み取るのは1秒程度が望ましい。表1に、グラフト重合により反対荷電層を形成した面(以下、選択処理面という。)を低濃度側に向けた場合の測定結果を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
(電気透析(ED)試験)
図2に示すような有効膜面積が4.0cm(2.0cm×2.0cm)の装置に各試料膜を挟み、25℃雰囲気下、NaClとCaClを溶解した混合塩水溶液(NaClとCaClの濃度は、それぞれ0.1mol/L)を2つのセルに入れ、Ag・AgCl電極の間に直流安定化電源(KIKUSUI PMC35-2A)を用いて300mAの定電流で約120分間電気透析を行い、所定時間毎にセル内の溶液をサンプリングした。その後、イオンクロマトグラフによりサンプリングした溶液中のNH 、Na、Ca2+の各イオンの濃度を定量することで、これらのイオンの濃度の時間変化を測定した。測定は、「FKS-20(ブランク)」、「FKS-20(5)」、「FKS-20(10)」及び「FKS-20(20)」の各膜について行い、グラフト重合した膜である「FKS-20(5)」、「FKS-20(10)」及び「FKS-20(20)」では、選択処理面を陽極側にセットして測定した。これらの値より以下の式を用いて、それぞれのイオンの流束を算出した。
【0029】
[式5]
【0030】
式(5)において、iはNa又はCa、JはiがNa又はCaのときの透過流束[mol・m-2・s-1]、Vは濃縮側溶液の体積[m]、Sは有効面積[m]、ΔC/ΔtはiがNa又はCaのときの初期濃度勾配[mol・m-3・s-1]、式(6)において、PNa CaはNaイオンのイオン選択透過係数である。
【0031】
図3~6に、電気透析試験結果を示す。図3は「FKS-20(ブランク)」の結果であり、図4は「FKS-20(5)」の結果であり、図5は「FKS-20(10)」の結果であり、図6は「FKS-20(20)」の結果である。「FKS-20(ブランク)」を使用した試験では、PNa Caが0.54となった。これはNaよりもCa2+が約2倍近く選択的に透過していることを示している。一般にドナン分配により、陽イオン交換膜は1価イオンよりも2価イオンを選択的に通すためである。図4~6に示すED試験では、選択処理面が陽極側を向くように膜を装置にセットして試験を行った。表2に試験結果を示す。「FKS-20(5)」を使用した試験では、PNa Caが0.97となった。これは反対荷電層の形成により2価イオンの透過性がある程度抑制された結果である。「FKS-20(10)」を使用した試験では、PNa Caが1.34となった。これは反対荷電層による2価イオンの透過性抑制効果が更に高まった結果と考えられる。「FKS-20(20)」を使用した試験では、PNa Caが1.90となり、試験したなかで最大の1価イオン選択透過性を示した。これは重合時間を増やしたことにより「FKS-20(5)」や「FKS-20(10)」よりも反対荷電層による2価イオンの透過性抑制効果が高まった結果と考えられる。
【0032】
【表2】
【0033】
膜電位測定結果と電気透析試験結果を対比させた結果を表3に示し、膜電位測定結果と電気透析試験結果の関係をグラフにしたもの図7に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
図7によると、膜電位の測定結果と電気透析試験によるPNa Caを比較すると、膜電位の絶対値が低下するほどPNa Caが増加するという相関が得られ、選択処理面の形成の度合い及び1価イオン選択性を定量的に評価することが可能であることを示している。「FKS-20(ブランク)」の膜電位は110.2mVであり、活量係数を1とした理論式による計算値116mVよりもやや低い値を示したが、この差異は活量係数を考慮しない結果と考えられる。この結果より、高濃度溶液側と低濃度溶液側の電解質濃度は膜の固定電荷密度よりも十分低い値と判断できるため、この濃度の電解質溶液を使用して膜電位測定を続けた。仮に、測定した膜電位が、例えば80mVなどのように計算値116mVとの差が大きく、低い値の場合には、使用した電解質溶液の濃度が膜に対して高すぎることになるので、両電解質溶液の濃度を低くして測定を行う。「FKS-20(5)」の膜電位は99.1mV、「FKS-20(10)」の膜電位は91.2mV、「FKS-20(5)」の膜電位は87.1mVであり、PNa Caの増加に伴って膜電位は減少しており、膜電位とPNa Caとの間に相関がみられ、両者の相関関係を取得することができる。したがって、新たにイオン交換膜の1価イオン選択性を評価する場合は、電気透析試験を行わなくても、膜電位を測定し、測定された膜電位を得られた相関関係と照合することにより、測定された膜電位に対応するPNa Caを把握することができる。例えば、表3から膜電位が91.2mVと87.1mVの間にあれば、PNa Caは1.34と1.90の間にあると評価することができる。また、図7の相関図又は相関関係を表した式を使用すれば、測定された膜電位に対応するPNa Caをより明確に把握することができる。さらに、そこから選択処理面の形成の度合を把握することができ、選択処理面が目標通りに形成されているかを判断することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の1価イオン選択性の評価方法は、イオン交換膜の1価イオン選択性を簡易に評価できるので、1価イオン選択性を有するイオン交換膜の品質管理等に好適に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7