(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040878
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】無人航空機及びそのフロート
(51)【国際特許分類】
B64C 35/00 20060101AFI20240318BHJP
B64C 27/08 20230101ALI20240318BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20240318BHJP
G01S 5/22 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B64C35/00
B64C27/08
B64C39/02
G01S5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145518
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】小島 淳一
(72)【発明者】
【氏名】川田 亮一
(72)【発明者】
【氏名】西谷 明彦
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA05
5J083AD02
5J083AE03
5J083AF18
(57)【要約】
【課題】着水及び離水自在に自律飛行する無人航空機の限られたスペースに複数のハイドロフォンを分散配置できるようにしてSBLによる音響測位を実現する無人航空機及びそのフロートを提供する。
【解決手段】水空合体ドローン1の胴体部分から放射状に延びた6本のアーム11の下部には、着水時に水面下に沈んで水空合体ドローン1に浮力を生じさせて水面に留まらせるためのフロート部14が連結具16を介してそれぞれ設けられている。フロート部14は円柱状の本体部14a及びその下方に延設されたキャップ上ないしは円錐状の突起部14bから構成され、突起部14bの内部にはハイドロフォン20が実装されている。ハイドロフォン20は、その端部に装着された感圧素子20aが空合体ドローン1/空中ドローン1Aの着水時に水中の音波を検知できる位置、姿勢で固定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着水及び離水自在に自律飛行する無人航空機において、
着水時の航空機に浮力を生じさせる少なくとも3つのフロート部が水平方向に分散して装備され、
各フロート部内にハイドロフォンが、その感圧部が着水時に水中の音波に対して露出するようにそれぞれ実装されたことを特徴とする無人航空機。
【請求項2】
前記無人航空機が水空合体ドローンであり、前記少なくとも3つのフロート部が空中ドローンに装備されたことを特徴とする請求項1に記載の無人航空機。
【請求項3】
ハイドロフォンが実装されたフロート部が少なくとも4か所に装備され、少なくとも4個のハイドロフォンの少なくとも3個を選択的に稼働させる手段を具備したことを特徴とする請求項1に記載の無人航空機。
【請求項4】
前記無人航空機の胴体部と各フロート部との相対位置が遠隔操作により可変であることを特徴とする請求項1に記載の無人航空機。
【請求項5】
前記各フロート部が航空機の胴体部から放射状に延設されたアーム部の下方に設けられ、
前記アーム部が遠隔操作により伸張自在であることを特徴とする請求項4に記載の無人航空機。
【請求項6】
前記各フロート部が航空機の胴体部から放射状に延設されたアーム部の下方に連結具を介して設けられ、
前記連結具が遠隔操作により鉛直方向に伸張自在であることを特徴とする請求項4に記載の無人航空機。
【請求項7】
前記少なくとも3個のハイドロフォンが検知した音響信号に基づいてSBL方式の測位を行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の無人航空機。
【請求項8】
着水する無人航空機に対して浮力を生じさせる無人航空機用のフロートにおいて、
フロート部内にハイドロフォンが、その感圧部が着水時に水中の音波に対して露出するように実装されたことを特徴とする無人航空機用フロート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律飛行可能な無人航空機及びそのフロートに係り、特に、着水及び離水自在に自律飛行する無人航空機及びそのフロートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び非特許文献1には、
図7に示すように、空中ドローンが水中ドローンを抱えて飛行し、目的水域に着水後、水中ドローンを分離・潜航させ、作業終了後に回収・離水する「水空合体ドローン」が開示されている。
【0003】
水中ドローンは目的水域に潜航後、装着した発信器から音波を発信し、空中ドローン側の水中マイク(ハイドロフォン)で受信、それを自動解析して、水中ドローンの位置を算出する「音響測位」の技術を搭載している。
【0004】
算出された位置情報は、
図8に示すように、空中ドローンのカメラ映像[同図(a)]や水中ドローンのカメラ映像[同図(b)]等と共に陸上の拠点に送られ、地図上に位置が表示される。非特許文献2には音響測位技術が開示されている。
【0005】
従来の水空合体ドローンの音響測位技術にはSSBL(Super Short Base Line)方式が採用されており、茶筒状の容器に3個以上のハイドロフォンをまとめて収容し、各ハイドロフォンが受信した音響信号の時間差を求めて発信元の位置を計算する。
【0006】
これとは別にSBL(Short Base Line)という音響測位方式が非特許文献2に開示されており、SBLでは3個以上のハイドロフォンを離間配置する必要があるもののSSBLよりも精度の高い測位が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】KDDI/KDDI総合研究所/プロドローン、ニュースリリース「世界初の水空合体ドローン、遠隔での水中撮影に成功~船を出さずに洋上風力発電設備の安全・効率的な点検を実施~」、2021年12月14日https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2021/12/14/5593.html
【非特許文献2】海洋音響学会「海洋音響の基礎と応用」、成山堂書店、P.236-245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
着水及び離水可能に設計される空中ドローン、特に水空合体ドローンには、複数のハイドロフォンをある程度の距離を保って分散配置するだけのスペースを確保することが難しかった。そのため、複数のハイドロフォンを1か所にまとめて配置できるSSBL方式を採用せざるを得なかった。
【0010】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、着水及び離水自在に自律飛行する無人航空機の限られたスペースに複数のハイドロフォンを分散配置できるようにしてSBLによる音響測位を実現する無人航空機及びそのフロートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、着水及び離水自在に自律飛行する無人航空機において、以下の構成を具備した点に特徴がある。
【0012】
(1) 着水時の航空機に浮力を生じさせる少なくとも3つのフロート部を水平方向に分散して配置し、各フロート部内にハイドロフォンが、その感圧部が着水時に水中の音波に対して露出するようにそれぞれ実装した。
【0013】
(2) 無人航空機の胴体部と各フロート部との相対位置を遠隔操作により可変とした。
【0014】
(3) 着水する無人航空機に対して浮力を生じさせる無人航空機用のフロートにおいて、フロート部内にハイドロフォンを、その感圧部が着水時に水中の音波に対して露出するように実装した。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
【0016】
(1) 水空合体ドローン/空中ドローンにおいて水平方向に分散、離間配置されるフロート内部のデッドスペースにハイドロフォンを設けたので、複数のハイドロフォンを離間配置するためのスペースを別途に確保することなくSBL方式による正確な音響測位を実現できるようになる。
【0017】
(2) 各フロート部とアームとの連結具やアーム自身を伸縮自在構造とすることで各フロート(各ハイドロフォン)間の相対位置を任意に調整可能とすれば、荒天下でも水空合体ドローン/空中ドローンの安定飛行や高精度な音響測位を実現できるようになる。
【0018】
(3) 無人航空機用のフロート内にハイドロフォンを、その感圧部が着水時に水中の音波に対して露出するように実装したので、既存のフロートと置き換えることでSBL方式による正確な音響測位を実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水空合体ドローンの斜視図である。
【
図2】水空合体ドローンの正面図及び上面図である。
【
図3】フロート部の構造を示した一部破断図(その1)である。
【
図4】フロート部の構造を示した一部破断図(その2)である。
【
図5】水空合体ドローンの胴体部と各フロート部との相対位置を可変とする例(その1)を示した図である。
【
図6】水空合体ドローンの胴体部と各フロート部との相対位置を可変とする例(その2)を示した図である。
【
図7】水空合体ドローンの活用シーンの例を示した図である。
【
図8】空中ドローン及び水中ドローンの各カメラによる撮影画像の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る水空合体ドローン1の斜視図であり、
図2は、その正面図[同図(a)]及び上面図[同図(b)]である。
【0021】
水空合体ドローン1は、空中ドローン1A及び水中ドローン1Bから構成され、水中ドローン1Bは空中ドローン1Aの機体下方に設けられた格納ゲージ10内に格納されている。空中ドローン1Aと水中ドローン1Bとは十分に長い信号ケーブル(図示省略)を介して連結されている。
【0022】
水中ドローン1Bは、水空合体ドローン1が目的水域に着水した後、格納ゲージ10から水中に発進して潜航し、作業終了後に信号ケーブルをウィンチ15で巻き取ることで再び格納ゲージ10内に回収される。
【0023】
空中ドローン1Aは、その胴体部分から放射状に延びた6本のアーム11を具備し、各アーム11の先端部には回転翼12及びその駆動用モータ13が設けられている。各アーム11の下部には、着水時に水面下に沈んで水空合体ドローン1/空中ドローン1Aに浮力を生じさせて水面に留まらせるためのフロート部14が連結具16を介してそれぞれ設けられている。
【0024】
図3は、前記フロート部14の断面構造を示した図である。前記フロート部14は円柱状の本体部14a及びその下方に延設されたキャップ上ないしは円錐状の突起部14bから構成され、突起部14bの内部にはハイドロフォン20が実装されている。
【0025】
前記ハイドロフォン20は、その端部に装着された感圧素子20aが空合体ドローン1/空中ドローン1Aの着水時に水中の音波を検知できる位置、姿勢で固定されている。本実施形態では、感圧素子20aが突起部14bの先端部から水中に露出する位置、姿勢で固定されている。感圧素子20aは水中に直接露出する必要はなく、
図4に示すように、緩衝用樹脂等を介して水中の音波に対して間接的に露出するようにしても良い。
【0026】
なお、本実施形態では6か所のフロート部14の全てにハイドロフォン20を設けたが、フロート部14が4か所以上に設けられている場合は、その一部であって少なくとも3か所以上にハイドロフォン20を設ければ良い。その際、各ハイドロフォン20間の距離が長くなるように、例えば円周上の6か所にフロート部14が設けられているのであれば、1つおきにハイドロフォン20を実装することが望ましい。
【0027】
また、SSBL用のハイドロフォンを別途に設け、SBL方式及びSSBL方式を併用又は選択的に利用できるようにしても良い。
【0028】
一方、本実施形態では複数のフロート部14の内部にハイドロフォン20を設けたことにより、空中ドローン1Aと各ハイドロフォン20(フロート部14)との相対位置を可変とすることが可能となり、その結果、波が高い、あるいは風が強いなどの悪環境下でも正確な音響測位を実現できるようになる。
【0029】
例えば、各アーム11を伸縮自在構造として遠隔操作により長さを調整可能とすれば、
図5に示すように、強風下ではアーム11を縮めて飛行することにより風の影響を抑える一方、着水後はアーム11を延ばすことで波高の影響を抑えて空中ドローン1Aの姿勢を安定させ、高精度はSBL測位を実現できるようになる。ただし、アーム11を伸縮自在構造とする場合は伸縮量が測位結果に影響を及ぼすので、伸縮量を把握して測位計算に反映させることが望ましい。
【0030】
更に、各フロート部14とアーム11との連結具16を垂直方向に伸縮自在構造として遠隔操作により長さを調整可能とすれば、
図6に示すように、飛行時には連結具16を縮めることで空気抵抗を抑える一方、着水後は連結具16を延ばすことで波高の影響を抑えて空中ドローン1Aの姿勢を安定させ、高精度はSBL測位を実現できるようになる。
【0031】
本実施形態によれば、水空合体ドローン1/空中ドローン1Aにおいて水平方向に分散、離間配置されるフロート14内部のデッドスペースにハイドロフォン20を設けたので、複数のハイドロフォン20を離間配置するためのスペースを別途に確保することなくSBL方式による正確な音響測位を実現できるようになる。
【0032】
また、各フロート部14とアーム11との連結具16やアーム11自身を伸縮自在構造とすることで空中ドローン1Aと各フロート部14との相対位置を任意に調整可能とすれば、荒天下でも水空合体ドローン1/空中ドローン1Aの安定飛行や高精度な音響測位を実現できるようになる。
【0033】
なお、上記の実施形態では本発明を水空合体ドローン1を例にして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、独立した水中移動体のビンガー又はトランスポンダが発する音響信号を検知して位置を測位するための、着水及び離水自在に自律飛行するドローン以外の各種の無人航空機、例えばヘリコプターやマルチコプターにも同様に適用できる。
【0034】
更に、上記の実施形態では本発明を各フロート部14が予め装着されている水空合体ドローン1を例にして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、着水及び離水自在に自律飛行する無人航空機用のフロートとしても実現できる。
【0035】
更に、上記の実施形態では6か所のフロート部14のそれぞれに計6個のハイドロフォン20を設けたが、常に全てのハイドロフォン20を稼働させて測位する必要はなく、ハイドロフォン20を4個以上設け、省電力が要請される環境、高精度な測位が要請されていない環境、あるいは水中ドローンとの距離が短い環境等では、その一部であって少なくとも3個のハイドロフォン20のみを選択的に稼働させるようにしても良い。
【0036】
そして、上記の実施形態によれば、水空合体ドローン1/空中ドローン1AにおいてSBL方式による正確な音響測位を実現できるようになり、また、空中ドローン1Aと各フロート部14との相対位置を任意に調整可能とすることで、荒天下でも安定飛行や高精度な音響測位を実現できるようになるので、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、包括的で持続可能な産業化を推進する」や目標11「都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
1…水空合体ドローン,1A…空中ドローン,1B…水中ドローン,10…格納ゲージ,11…アーム,12…回転翼,13…駆動用モータ,14…フロート部,15…ウィンチ,16…連結具,20…ハイドロフォン,20a…感圧部