(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040880
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】結晶欠陥評価装置、結晶欠陥評価方法、結晶欠陥評価のためのコンピュータプログラムおよびインライン結晶欠陥評価システム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20 20180101AFI20240318BHJP
G01N 23/205 20180101ALI20240318BHJP
【FI】
G01N23/20
G01N23/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145521
(22)【出願日】2022-09-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0088701、令和4年5月3日 https://aip.scitation.org/doi/pdf/10.1063/5.0088701、令和4年5月3日 AIP Publishing,LLC.、Applied Physics Letters,第121巻,第1号,第012105-1~012105-6頁、令和4年7月4日 https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0098942、令和4年7月5日 https://aip.scitation.org/doi/pdf/10.1063/5.0098942、令和4年7月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100126170
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 義之
(72)【発明者】
【氏名】姚 永昭
(72)【発明者】
【氏名】石川 由加里
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001BA18
2G001CA01
2G001DA09
2G001GA06
2G001GA13
2G001HA13
2G001KA08
2G001LA11
2G001MA05
2G001SA07
(57)【要約】
【課題】非破壊的な手法により、単結晶基板内部の結晶欠陥を評価する技術を提供する。
【解決手段】
結晶欠陥評価装置100は、発散X線をμtが10程度となる波長に単色化して射出するX線源101と、X線源101と対向するようにX線Ioの射出方向に固定的に配置され、試料SPCを透過したX線Itの強度分布を画像として取得可能なカメラ150と、X線源101とカメラ150との間に配置され、X線源101から射出されたX線Ioが通過するように構成され、基板固定面141で基板SPCを固定的に保持する基板保持部と、を有している。基板保持部は、基板固定面141の互いに2方向への直線移動と、一点で交差する3軸を中心とする基板固定面141の回転とが可能となるように構成されている。回転の角度は、基板SPCの結晶面とX線Ioとが、ブラッグ条件を満たすように調整可能となっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶基板の結晶欠陥を評価する結晶欠陥評価装置であって、
X線発生装置から放射された発散X線を、前記単結晶基板の線吸収係数μと前記単結晶基板の厚さtとの積μtが10程度となる波長に単色化して所定の方向に射出するX線源と、
前記X線源から前記所定の方向に、前記X線源と対向するように、前記X線源に対して固定的に配置され、到達したX線の強度を取得可能なX線検出器と、
前記X線源と前記X線検出器との間に配置され、前記X線源から射出されたX線が通過するように構成され、基板固定面において前記単結晶基板を固定的に保持する基板保持部と、
を備え、
前記基板保持部は、所定の平面に平行な互いに直交する2方向への前記基板固定面の直線移動と、前記所定の平面に平行な第1軸、前記基板固定面に平行な第2軸および前記基板固定面と直交する第3軸の一点で交差する3軸のそれぞれを中心とする前記基板固定面の回転と、が可能となるように構成されており、
前記回転の角度は、前記単結晶基板の選択された結晶面と、前記射出されたX線と、がブラッグ条件を満たすように調整可能となっている、
結晶欠陥評価装置。
【請求項2】
請求項1記載の結晶欠陥評価装置であって、
前記所定の平面は、水平面もしくは鉛直面であり、
前記所定の方向は、前記所定の平面と直交する方向に固定されている、
結晶欠陥評価装置。
【請求項3】
請求項1記載の結晶欠陥評価装置であって、
前記所定の平面は、水平面であり、
前記X線源および前記X線検出器は、前記第1軸を中心に回転可能となっている、
結晶欠陥評価装置。
【請求項4】
前記X線検出器は、前記到達したX線の強度分布を画像として取得可能なカメラである、請求項1ないし3のいずれか記載の結晶欠陥評価装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか記載の結晶欠陥評価装置を制御して、単結晶基板の結晶欠陥を評価するためのコンピュータプログラムであって、
(a)前記基板保持部に固定された前記単結晶基板の前記結晶面と、前記射出されたX線と、がブラッグ条件を満たすように、前記回転の角度を調整するステップと、
(b)前記単結晶基板において前記射出されたX線が照射された照射領域から射出され、前記X線検出器に到達したX線の強度を取得するステップと、
(c)前記基板保持部を前記2方向に移動させることにより、前記照射領域を走査するステップと、
(d)前記ステップ(c)において走査された各照射領域における前記到達したX線の強度に基づいて、前記単結晶基板の少なくとも一部の領域における結晶欠陥の分布を表す画像を取得するステップと、
をコンピュータに実行させる、
コンピュータプログラム。
【請求項6】
請求項5記載のコンピュータプログラムであって、
(b1)前記ステップ(b)は、前記照射領域における前記到達したX線の強度の取得に先立って、前記結晶面と前記射出されたX線とがブラッグ条件を満たすように、前記第1軸および前記第2軸のそれぞれを中心とする回転の角度を調整するステップを含んでいる、
コンピュータプログラム。
【請求項7】
請求項5記載のコンピュータプログラムであって、
前記X線検出器は、前記到達したX線の強度分布を画像として取得可能なカメラであり、
前記ステップ(b)は、前記到達したX線の強度分布を画像として取得することによって、前記照射領域におけるトポグラフィ像を撮影するステップであり、
前記ステップ(d)は、各照射領域におけるトポグラフィ像を合成して、前記少なくとも一部の領域におけるトポグラフィ像を取得するステップである、
コンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項1ないし3のいずれか記載の結晶欠陥評価装置を用いて、単結晶基板の結晶欠陥を評価する結晶欠陥評価方法であって、
(1)前記基板保持部の基板固定面に前記単結晶基板を固定する工程と、
(2)前記結晶面と前記射出されたX線とがブラッグ条件を満たすように、前記回転の角度を調整する工程と、
(3)前記単結晶基板において前記射出されたX線が照射された照射領域から射出され、前記X線検出器に到達したX線の強度を取得する工程と、
(4)前記基板保持部を前記2方向に移動させることにより、前記照射領域を走査する工程と、
(5)前記工程(4)において走査された各照射領域における前記到達したX線の強度に基づいて、前記単結晶基板の少なくとも一部の領域における結晶欠陥の分布を表す画像を取得する工程と、
を備える、
結晶欠陥評価方法。
【請求項9】
インライン結晶欠陥評価システムであって、
請求項1ないし3のいずれか記載の結晶欠陥評価装置と、
前記結晶欠陥評価装置の全体を覆うように設置され、X線を透過しない材質で形成された遮蔽ボックスと、
複数の単結晶基板を搬送する搬送機構と、
前記結晶欠陥評価装置に近接した前記搬送機構上の近接部と、前記基板保持部と、の間で、前記複数の単結晶基板のうちで、現に前記欠陥評価装置による評価の対象となっている評価対象基板を移送する移送機構と、
を備え、
前記遮蔽ボックスには、前記評価対象基板を移送するための開口部が設けられている、
インライン結晶欠陥評価システム。
【請求項10】
単結晶基板の結晶欠陥を評価する結晶欠陥評価方法であって、
前記単結晶基板の線吸収係数μと、評価対象領域における前記単結晶基板の厚さtとの積μtが10程度となるように、X線の波長を選択する工程と、
前記波長の特性X線を発生するX線発生装置から放射された発散X線を、前記波長に単色化して所定の方向に射出するX線源を準備する工程と、
前記X線源から射出されたX線を、前記単結晶基板に照射する工程と、
前記評価対象領域において、前記射出されたX線と前記単結晶基板の選択された結晶面とがブラッグ条件を満たすように、前記単結晶基板の方位を設定する工程と、
前記X線源から前記所定の方向の位置において、前記評価対象領域に照射された前記X線が前記単結晶基板を透過してきたX線の強度分布を画像として取得する工程と、
を備える、
結晶欠陥評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、単結晶基板の結晶欠陥を評価する技術に関し、特に、X線の吸収が大きい単結晶基板の結晶欠陥を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(β-Ga2O3)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウムヒ素(GaAs)等の半導体は、MOSFET等のバワーデバイスや、HEMT等の高速通信デバイス、発光ダイオードや半導体レーザ等の発光素子、PINフォトダイオード等の光検出素子等の各種電子デバイスの製造に重要な材料である。電子デバイスの製造に使用されるこれらの半導体の単結晶基板に欠陥が存在すると、製造された電子デバイスの特性に影響が生じるため、非破壊的な手法によって、単結晶基板内部の結晶欠陥の分布等を評価する技術の確立が強く要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、単結晶基板の結晶欠陥の分布を評価する非破壊的な手法としては、X線トポグラフィ等のX線イメージング技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、GaやGe等の原子番号が比較的大きい元素を含む上記半導体においては、X線の線吸収係数μが高いため、X線の侵入深さが浅くなる。そのため、基板表面から約20μm以内に位置する欠陥しか検出することができず、単結晶基板内部の結晶欠陥を的確に評価することができない。
【0005】
この問題は、半導体の単結晶基板に限らず、強誘電性メモリの製造に使用されるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Ti,Zr)O3)や表面弾性波フィルタの製造に使用されるタンタル酸リチウム(LiTaO3)等の、原子番号が比較的大きい元素を含み、電子デバイスの製造に使用される種々の単結晶基板に共通する。また、同様の問題は、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)等の原子番号が比較的大きい元素を含まない半導体や誘電体等の厚い単結晶基板にも存在し、アルミニウム(Al)の厚い単結晶基板や銅(Cu)の単結晶基板等の金属の単結晶基板にも存在する。
【0006】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、非破壊的な手法により、単結晶基板内部の結晶欠陥をより的確に評価する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
単結晶基板の結晶欠陥を評価する結晶欠陥評価装置であって、X線発生装置から放射された発散X線を、前記単結晶基板の線吸収係数μと前記単結晶基板の厚さtとの積μtが10程度となる波長に単色化して所定の方向に射出するX線源と、前記X線源から前記所定の方向に、前記X線源と対向するように、前記X線源に対して固定的に配置され、到達したX線の強度を取得可能なX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器との間に配置され、前記X線源から射出されたX線が通過するように構成され、基板固定面において前記単結晶基板を固定的に保持する基板保持部と、を備え、前記基板保持部は、所定の平面に平行な互いに直交する2方向への前記基板固定面の直線移動と、前記所定の平面に平行な第1軸、前記基板固定面に平行な第2軸および前記基板固定面と直交する第3軸の一点で交差する3軸のそれぞれを中心とする前記基板固定面の回転と、が可能となるように構成されており、前記回転の角度は、前記単結晶基板の選択された結晶面と、前記射出されたX線と、がブラッグ条件を満たすように調整可能となっている、結晶欠陥評価装置。
【0009】
この適用例によれば、単結晶基板を透過したX線により結晶欠陥の分布を表す画像が取得できるので、単結晶基板内部の結晶欠陥をより的確に評価することができる。さらに、X線発生装置として、大規模な装置であるシンクロトロン放射光源等ではなく、一般的なX線管等を用いることができるので、実験室や工場の生産ライン等において、結晶欠陥の評価を行うことができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載の結晶欠陥評価装置であって、前記所定の平面は、水平面もしくは鉛直面であり、前記所定の方向は、前記所定の平面と直交する方向に固定されている、結晶欠陥評価装置。
【0011】
この適用例によれば、X線の進行方向の変化によって予期しない散乱X線が生じることを抑制することができるので、より容易にX線の遮蔽を行うことができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1記載の結晶欠陥評価装置であって、前記所定の平面は、水平面であり、前記X線源および前記X線検出器は、前記第1軸を中心に回転可能となっている、結晶欠陥評価装置。
【0013】
この適用例によれば、結晶欠陥の分布を表す画像を取得する際に、基板固定面を略水平に維持することができるので、基板固定面への単結晶基板の載置がより容易となる。
【0014】
[適用例4]
前記X線検出器は、前記到達したX線の強度分布を画像として取得可能なカメラである、適用例1ないし3のいずれか記載の結晶欠陥評価装置。
【0015】
この適用例によれば、基板の少なくとも一部のトポグラフィ像を取得することができるので、結晶欠陥の種類を特定し、より詳細に結晶欠陥の評価を行うことができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、単結晶基板の結晶欠陥を評価する評価装置、単結晶基板の結晶欠陥を評価する評価方法、その装置や方法を用いたインライン評価システム、それらの装置やシステムを制御して単結晶基板の結晶欠陥を評価するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、そのコンピュータプログラムを含み搬送波内に具現化されたデータ信号、等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】単結晶基板の結晶欠陥の評価に使用されるトポグラフィ像撮影装置の構成を示す説明図。
【
図2】結晶によってX線が回折する際の入射X線、回折X線および透過X線の関係を示す説明図。
【
図3】結晶によってX線が回折する際の入射X線、回折X線および透過X線の関係を示す説明図。
【
図4】本実施形態のトポグラフィ像撮影装置を用いてトポグラフィ像を撮影する様子を示す説明図。
【
図5】トポグラフィ像の撮影に対して結晶面の湾曲が与える影響を示す説明図。
【
図7】本検証において回折波と前方回折波とを観測した結果を示す説明図。
【
図8】回折面と回折波の強度との関係を評価した結果を示す説明図
【
図9】基板全体について取得されたトポグラフィ像を示す説明図。
【
図10】基板全体のトポグラフィ像を取得する処理の流れを示すフローチャート。
【
図11】本実施形態の一応用例としてのインライン結晶欠陥評価システムの構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.実施形態:
A1.トポグラフィ像撮影装置の構成:
A2.回折がX線に与える影響:
A3.トポグラフィ像の撮影:
A4.結晶面の湾曲の影響:
B.トポグラフィ像取得の検証例:
B1.異常透過の発生の検証:
B2.トポグラフィ像の取得結果:
C.基板全体のトポグラフィ像の取得処理:
D.インライン結晶欠陥評価システム:
E.変形例:
【0019】
A.実施形態:
A1.トポグラフィ像撮影装置の構成:
図1は、単結晶基板SPC(以下、単に「基板SPC」と呼ぶ)の結晶欠陥の評価に使用されるトポグラフィ像撮影装置100の構成を示す説明図である。
図1に示すように、トポグラフィ像撮影装置100は、X線発生装置110と、反射鏡120と、コリメータ130と、ステージ140と、カメラ150とを備えている。
【0020】
X線発生装置110は、X線発生装置110に設けられた窓119から、進行方向に向かって拡がるX線(発散X線)を放射する。このようなX線発生装置110としては、例えば、電極間の高電圧で加速された電子をターゲットに照射することによりX線を発生する一般的なX線管を用いることができる。また、X線発生装置としては、一般的なX線管のほか、焦電結晶の温度変化で発生する高電圧を利用した焦電型のX線発生器を用いることも可能である。なお、このようなX線発生装置から放射されるX線には、ターゲットの構成元素に固有な波長の線スペクトルを有する特性X線と、連続スペクトルを有する連続X線とが含まれる。
【0021】
反射鏡120は、回転放物面形状の反射面に多層膜が形成されたX線反射鏡である。反射鏡120にX線発生装置110から放射された発散X線が到達すると、反射面に形成された多層膜で特定の波長のX線のみがブラッグ反射されることによって、X線が単色化する。具体的には、X線発生装置から放射されたX線に含まれる特性X線(通常、複数存在する)と連続X線とから、選択された特性X線のみをブラッグ反射させることによって、X線は単色化される。また、反射鏡120は、その反射面が回転放物面形状に形成されていることにより、発散するX線が集光されて平行化される。このように、単色化および平行化されたX線は、反射鏡120からコリメータ130に到達する。コリメータ130は、反射鏡120において平行化および単色化されたX線の発散角をさらに縮小し、略平行なX線Ioを射出する。
【0022】
なお、単色化されたX線の波長は、基板SPCの線吸収係数μと基板SPCの厚さtとの積μt(以下、単に「μt」ともいう)が10程度となるように設定される。具体的には、種々のターゲットにおける特性X線として得られる波長のうちから、μtが10程度となる波長が選択される。そして、X線発生装置110として、選択された波長の特性X線を放射するターゲットのものを使用し、反射鏡120において、X線発生装置110から放射されたX線が、選択された波長に単色化される。
【0023】
また、以上の説明から判るように、X線発生装置110、反射鏡120およびコリメータ130は、全体として、μtが10程度となる波長に単色化された略平行なX線Ioを射出するように構成されている。そのため、X線発生装置110、反射鏡120およびコリメータ130を併せて、X線源101とも呼ぶことができる。
【0024】
ステージ140は、基板SPCが固定される基板固定面141を有する環状の部材であり、X線源101側からカメラ150側に向かう貫通穴149が形成されている。ステージ140は、貫通穴149を閉塞しないように構成されたゴニオメータ(図示しない)に固定されている。ゴニオメータが貫通穴149を閉塞しないように構成されていることにより、ステージ140およびステージ140が固定されたゴニオメータ(併せて、「ゴニオステージ」と呼ぶ)は、X線源101から射出されたX線Ioを通過させる。
【0025】
ゴニオメータの操作により、ステージ140は、X方向およびY方向に直線移動し、また、φ方向、χ方向およびω方向に回転する。
図1に示すように、本実施形態において、X方向およびY方向は、互いに直交する水平面に平行な方向となっている。また、φ方向の回転軸(φ軸)は、基板固定面141に直交し、χ方向の回転軸(χ軸)およびω方向の回転軸(ω軸)は、それぞれ、基板固定面141および水平面と平行となっている。これらφ軸、χ軸およびω軸の3軸は、一点で交差している。なお、ステージ140を駆動するゴニオメータは、X方向およびY方向の位置と、φ方向、χ方向およびω方向の回転の角度とが、いずれもトポグラフィ像の撮影に十分な精度で調整可能となるように構成されている。
【0026】
結晶欠陥の評価対象である基板SPCは、ステージ140の基板固定面141に載置された状態で、基板固定面141に固定される。基板固定面141(ステージ140)への基板の固定は、固定部材による取付や、負圧による吸着等の種々の方法によって行うことができる。なお、このように、ステージ140を有するゴニオステージは、基板SPCを固定的に保持することができるので、基板保持部とも呼ぶことができる。
【0027】
基板SPCの固定の後、ステージ140は、X方向およびY方向のそれぞれの位置(以下、単に「X,Y」とも謂う)が所定の位置に設定されるとともに、基板SPCにおいてX線Ioが所定の回折条件(後述する)を満たすように、ステージ140のφ方向、χ方向およびω方向のそれぞれの角度(以下、単に「φ,χ,ω」とも謂う)が適宜設定される。
【0028】
基板SPCに照射されたX線Ioは、基板SPC内を伝播する際に、基板SPCを構成する原子と相互作用する。この相互作用により基板SPCの影響を受けたX線Itは、基板SPCに入射したX線Ioと同一方向に射出され、カメラ150に到達する。
【0029】
カメラ150は、その受光面に到達したX線Itの強度分布を画像として取得する。このようなカメラ150としては、例えば、受光面にシンチレータを配置して、X線Itによってシンチレータが発するシンチレーション光を画像として取得するシンチレータ型カメラが使用される。また、カメラとしては、シンチレータ型カメラのほか、X線Itから直接変換された電気信号を画像として取得する直接変換型カメラ等の種々のX線カメラを使用することもできる。なお、カメラ150は、到達したX線Itの強度分布を画像として取得する機能を有しているが、これは、到達したX線Itの強度を取得する機能を有しているものと捉えることもできる。そのため、カメラ150は、到達したX線Itの強度を取得可能なX線検出器とも謂うことができる。
【0030】
図1に示すように、本実施形態のトポグラフィ像撮影装置100では、X線源101からは、鉛直上方にX線Ioが射出される。そして、基板SPCを透過したX線Itは、鉛直上方に基板SPCから射出される。そこで、基板SPCを透過したX線Itがカメラ150に到達するように、カメラ150は、X線源101と対向するように、X線源101の鉛直上方に固定的に配置されている。
【0031】
なお、
図1においては図示を省略しているが、トポグラフィ像撮影装置100には、通常、トポグラフィ像撮影装置100の各部を操作し、また、カメラ150等が出力する信号を取得する制御装置が取り付けられる。このような制御装置は、各部とのインタフェースを有するコンピュータとして構成される。そして、トポグラフィ像撮影装置100の各部の操作、出力信号の取得、および、取得した出力信号に対する演算処理等の各種処理は、当該コンピュータがコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0032】
A2.回折がX線に与える影響:
図2および
図3は、結晶によってX線が回折する際の入射X線Io、回折X線Ihおよび透過X線Itの関係を示す説明図である。
図2(a)は、X線の回折条件を示し、
図2(b)および
図2(c)は、薄い基板SP1における入射X線Io、回折X線Ihおよび透過X線Itのそれぞれの強度Iと入射角θとの関係を示している。ここで、入射角θとは、結晶欠陥の評価のために回折を生じさせるように選択された特定の結晶面(以下、回折が生じているか否かにかかわらず「回折面」とも呼ぶ)と入射X線Ioとのなす角度をいう。
【0033】
また、
図3(a)および
図3(b)は、結晶内部において入射波Koおよび回折波Khが干渉している状態を示し、
図3(c)および
図3(d)は、厚い基板SP2における入射X線Io、回折X線Ihおよび透過X線Itのそれぞれの強度Iと入射角θとの関係を示している。なお、入射波Koと回折波Khとは、波動として捉えた入射X線Ioおよびその延長としての透過X線Itと、回折X線Ihとをいう。
【0034】
入射波Koや回折波Kh等の波動は、波数ベクトルによって特徴付けられる。そのため、以下の説明では、入射波Koや回折波Kh等と、それらを特徴付ける波数ベクトルとを区別せず、入射波Koや回折波Kh等の波数ベクトルも、波数ベクトルKo,Khのように表記する。また、波動として捉えた場合、入射波Koは、入射X線Ioと透過X線Itとで区別されないので、o波Koとも呼ばれる。一方、回折波Khは、o波Koに対応してh波Khとも呼ばれる。
【0035】
図2(a)に示すように、結晶におけるX線の回折条件は、エワルド球ESを用いて説明される。エワルド球ESは、具体的には、逆格子空間において、入射波の波数ベクトルKoの終点を原点Oにとり、当該波数ベクトルKoの始点からその長さ(すなわち、入射波Koの波数)を半径とする球面として描かれる。そして、エワルド球ES上に逆格子点が位置する場合、エワルド球ESの中心を始点とし、その逆格子点を終点とするベクトルが波数ベクトルとなる回折波Khが生じる。
【0036】
図2(a)の例で示すように、面間隔dの回折面(hkl)に入射波Ko(入射X線Io)がブラッグ角θbで入射した場合、原点Oを始点とするgベクトル(g=hkl)の終点H、すなわち、原点Oから回折面(hkl)の法線方向に1/d離れた逆格子点H(hkl)がエワルド球ES上に位置することとなる。そのため、回折面(hkl)において入射波Koが回折し、入射波Koがあたかも回折面(hkl)で鏡面反射したような回折波Kh(回折X線Ih)が生じる。なお、gベクトルとは、回折面(
図2(a)の例では、面(hkl))の逆格子ベクトルであり、その方向は、当該回折面(hkl)の法線方向となる。そのため、回折面(hkl)は、gベクトルを用いて回折面g=hklと表すこともできる。
【0037】
このように入射波Koがブラッグ角θbで回折面(hkl)に入射すると、入射波(o波)Koと回折波(h波)Khとが回折面(hkl)において反射(散乱)を繰り返す。そして、o波Koおよびh波Khの位相は、周期的な回折面(hkl)上に位置する原子での散乱により変化し、o波Koおよびh波Khの進行に伴って揃っていく。
【0038】
しかしながら、
図2(b)に示すようにμtが1程度の薄い基板SP1では、o波Koやh波Khは、位相が十分に揃っていない(コヒーレンシが低い)状態で基板SP1から射出される。そのため、薄い基板SP1におけるX線の回折は、異なる位置で散乱されたX線がコヒーレントでなく、o波Koとh波Khとの干渉がないものとした、運動学的回折理論で説明される。
【0039】
この運動学的回折理論によれば、入射X線Ioの強度が、吸収による低下分を除いて、基板SP1内において一定であるものと扱われる。そのため、基板SP1から射出される透過X線Itおよび回折X線Ihの強度の和が一定となるので、
図2(c)に示すように入射角θがブラッグ角θbとなる状態において、回折X線Ihの強度が上昇するのに伴い、透過X線Itの強度が低下する。
【0040】
一方、
図3(c)に示すように厚い(μt~10)基板SP2においては、o波Koおよびh波Khのコヒーレンシが高くなる。そのため、厚い基板SP2におけるX線の回折は、o波Koとh波Khとの干渉を考慮した動力学的回折理論で説明される。
【0041】
動力学的回折理論によれば、ブラッグ条件(Kh-Ko=g)が満たされると、結晶内部ではo波Koとh波Khとが干渉し、
図3(a)および
図3(b)に示すように、原子面を腹あるいは節とし、gベクトルの方向に進行しない定常波が発生し得る。しかしながら、X線の吸収は原子の存在によって生じるため、
図3(a)に示す原子面を腹とする定常波は、急速に吸収される。そのため、結晶内部においては、
図3(b)に示す原子面を節とする定常波のみが存在する。
【0042】
そして、結晶に入射したo波Koは、結晶内部において原子面を節とする定常波(
図3(b))として伝播し、結晶から射出される際にo波Koとh波Khとに分離する。そのため、
図3(d)に示すように入射角θがブラッグ角θbとなる状態において、透過X線Itおよび回折X線Ihの強度は、同時に上昇する。
【0043】
また、この状態において、
図3(b)に示す定常波では、X線を吸収する原子の位置(原子面)に節が位置するため、X線の吸収量が著しく減少する(通常、数千分の1程度))。そのため、透過X線Itの強度は、入射角θがブラッグ角θbとなっていない状態、すなわち、回折が生じていない状態よりも顕著に高くなる。このように、入射波Koと回折波Khと回折面(gベクトル)とがブラッグ条件(Kh-Ko=g)を満たす状態において、X線が厚い基板SP2を透過する現象は、異常透過現象、あるいは、単に異常透過と呼ばれる。
【0044】
なお、一般的に、基板SP2の内部におけるo波Koおよびh波Khは、完全にコヒーレントな状態になっていない。そのため、異常透過が生じている状態においても、基板SP2を透過するX線Itには、o波Koとh波Khとの干渉で生じる定常波として基板SP2を伝播してきたX線(前方回折波)に加え、回折とは関係なく基板SP2を伝播してきた純粋な透過波とが含まれる。しかしながら、厚い基板SP2を透過してくることによって、純粋な透過波は著しく減衰するのに対し、前方回折波の減衰は純粋な透過波と比べて極端に少なくなる。そのため、異常透過が生じている状態において観測される透過X線Itは、その大部分が前方回折波となる。
【0045】
一方、上述のように、前方回折波は、o波Koとh波Khと回折面(結晶面)とがブラッグ条件を満たす状態において、o波Koとh波Khとが干渉し、
図3(b)に示すように結晶中に定常波が発生することにより発生する。そのため、結晶中に結晶欠陥によってブラッグ条件を満足しない領域が存在すれば、その領域を伝播する前方回折波の強度が低下する。従って、異常透過を発生させた状態で透過X線Itの強度分布を観測すれば、結晶中の結晶欠陥を評価することができる。
【0046】
以上の説明から判るように、μtを大きくすると、o波Koとh波Khとのコヒーレンシが高くなるとともに、純粋な透過波の減衰が大きくなる。そのため、透過X線Itにおける前方回折波の割合が高くなり、結晶欠陥による前方回折波の強度の低下をより明瞭に観測することができる。しかしながら、異常透過が発生している状態においても、μtが大きくなると透過X線Itの強度が低下するため、透過X線Itの強度分布の観測が難しくなる。
【0047】
一方、μtを小さくすると、透過X線Itの強度の低下は抑制されるものの、o波Koとh波Khとのコヒーレンシが低くなるとともに、純粋な透過波の減衰が小さくなる。そのため、透過X線Itにおける前方回折波の割合が低くなり、結晶欠陥による前方回折波の強度の低下を明瞭に観測することが難しくなる。
【0048】
これらの特性を考慮して、μtは、好適には5~20に設定され、より好適には10程度に設定される。このようにμtを10程度、あるいは、合理的に設定可能な範囲で10に近い値に設定することにより、透過X線Itの強度分布の観測を容易にするとともに、結晶欠陥による前方回折波の強度の低下を明瞭に観測することができる。
【0049】
A3.トポグラフィ像の撮影:
図4は、本実施形態のトポグラフィ像撮影装置100を用いてトポグラフィ像を撮影する様子を示す説明図である。なお、
図4において破線で示すカメラ950は、回折X線Ihを用いてトポグラフィ像を撮影するとした場合に、回折X線Ihが到達するように配置されるカメラの位置を示している。
【0050】
トポグラフィ像の撮影では、まず、基板SPCに入射する入射波(o波)Koと、回折波(h波)Khと、回折面(gベクトル)とが、ブラッグ条件(Kh-Ko=g)を満たすように、すなわち、回折面へのX線(入射X線)Ioの入射角が当該回折面におけるブラッグ角と一致するように、φ、χおよびωが適宜調整される。
【0051】
φ、χおよびωが調整された状態において、X線源101からX線Ioが鉛直上方に射出されると、
図4に示すように、X線源101から射出されたX線Io(入射波/o波Ko)が基板SPCの一部分(照射領域)に照射される。そして、ブラッグ条件が満たされていることにより、回折面において入射波Koが回折し、異常透過が発生する。
【0052】
異常透過が発生することにより、基板SPCを透過したo波Koは、透過X線Itとして、入射X線Ioと同様に、基板SPCから鉛直上方に射出される。射出された透過X線Itは、X線源101と対向するようにX線源101の鉛直上方に配置されたカメラ150に到達する。
【0053】
上述のように、カメラ150に到達した透過X線Itは、回折の影響を受けた状態となっているので、カメラ150において、基板SPCを透過したX線Itの強度分布を画像として取得することにより、照射領域における基板SPCのトポグラフィ像が得られる。
【0054】
基板SPC全体のトポグラフィ像は、ステージ140をX方向およびY方向に移動させて照射領域を走査し、各照射領域において撮影されたトポグラフィ像を合成することによって得ることができる。
【0055】
A4.結晶面の湾曲の影響:
ここで、トポグラフィ像の撮影における結晶面の湾曲の影響を考える。本実施形態においては、
図4に示すように、異常透過が発生して回折の影響を受けた透過X線It(透過波/o波Ko)を用いて基板SPCのトポグラフィ像を得ているが、回折X線Ih(回折波/h波Kh)も、当然、回折の影響を受けている。そのため、カメラ950によって回折X線Ih(h波Kh)の強度分布を画像として取得することによっても、基板SPCのトポグラフィ像を得ることができる。
【0056】
しかしながら、以下で説明するように、基板SPCに結晶面の湾曲が存在する場合、湾曲の影響は、透過X線It(o波Ko)と比べて、回折X線Ih(h波Kh)に、より強く現れる。そのため、本実施形態のように、透過X線It(o波Ko)を用いてトポグラフィ像を撮影することにより、湾曲等の影響を抑制することができる。
【0057】
図5は、トポグラフィ像の撮影に対して結晶面Sの湾曲が与える影響を示す説明図である。
図5(a)は、基板SPCにおいて結晶面Sが湾曲している状態を示している。また、
図5(b)および
図5(c)は、それぞれ、結晶面Sが湾曲した基板SPCの中央部RGCにおける入射X線Ioと回折X線Ihとの関係、および、入射X線Ioと透過X線Itとの関係を示している。同様に、
図5(d)および
図5(e)は、基板SPCの左端部RGLにおける入射X線Ioと、回折X線Ihおよび透過X線Itとの関係を示し、
図5(f)および
図5(g)は、基板SPCの右端部RGRにおける入射X線Ioと、回折X線Ihおよび透過X線Itとの関係を示している。
【0058】
図5(a)の例では、基板SPCの主面と略平行な結晶面Sが、一方の主面(紙面における上方の主面)に向かって凸となるように湾曲している。このように結晶面Sが湾曲していると、主面に沿った位置が異なる場合、回折面(紙面において略上下方向に延びる細線で示す)およびgベクトルの方向が変化する。
【0059】
この状態においても、中央部RGCでは、回折面が基板SPCの厚さ方向と略平行となり、gベクトルが主面と略平行となる。そして、
図5(b)に示すように、ブラッグ条件を満たすように結晶面に入射した入射X線Io(入射波/o波Ko)は、破線で示す湾曲がない場合における回折X線と同様に回折され、回折X線Ih(回折波/h波Kh)の進行方向は、湾曲がない場合の進行方向から大きく外れない。
【0060】
一方、
図5(c)に示すように、透過X線It(o波Ko)は、強度分布等において回折の影響を受けているものの、その波数ベクトルKoは、入射X線Ioと同一となる。そのため、結晶面Sに湾曲があり、回折面(gベクトル)の方向が変化しても、透過X線Itの進行方向は、入射X線Ioと一致したままとなる。同様に、
図5(e)および
図5(g)に示すように、湾曲によって回折面が大きく傾く両端部RGL,RGRにおいても、透過X線Itの進行方向は、入射X線Ioと一致する。
【0061】
これに対し、
図5(d)および
図5(f)に示すように、回折X線Ih(回折波Kh)は、回折面において入射X線Io(入射波Ko)をあたかも鏡面反射したように生じる。そのため、湾曲によって回折面が大きく傾く両端部RGL,RGRにおいて、回折X線Ihの進行方向は、破線で示す湾曲がない場合の回折X線の進行方向から大きく外れる。
【0062】
さらに、左端部RGLと右端部RGRとでは、回折X線Ihの進行方向のずれが互いに逆方向となる。そのため、結晶面Sが湾曲している基板SPCの場合、ステージ140(
図4)をX方向およびY方向に移動して、入射X線Ioが照射される照射領域を走査すると、回折X線Ihの進行方向が大きく変化する。
【0063】
このように、回折X線Ihの進行方向が変化するため、結晶面Sが湾曲している基板SPC全体のトポグラフィ像を、回折X線Ih(回折波/h波Kh)を用いて取得する場合、回折X線Ihが到達するように配置されたカメラ950(
図4)の位置を、照射領域における回折面(gベクトル)の方向の変化に合わせて調整することが必要となる。
【0064】
なお、
図5(d)ないし
図5(g)に示すように、基板SPCの両端部RGL,RGRでは、回折面が大きく傾くことにより、入射X線Io(入射波Ko)の回折面への入射角が厳密なブラッグ角からずれてくる。しかしながら、入射角の厳密なブラッグ角からのずれが十分に小さければ(数十秒角(arcsec)程度以下)、異常透過が発生する。そのため、湾曲している結晶面Sの曲率半径が数十m程度以上であれば、基板SPC全体のトポグラフィ像を得ることができる。
【0065】
以上の説明から判るように、透過X線Io(透過波/o波Ko)を用いてトポグラフィ像を撮影する本実施形態によれば、結晶面Sが湾曲している基板SPCであっても、X線源101(
図4)に対して固定的に配置されたカメラ150を用いて、基板SPC全体のトポグラフィ像を取得できる。そのため、結晶面Sの湾曲に合わせてX線源とカメラとの位置関係を調整することを省略することができるので、基板全体のトポグラフィ像を取得することがより容易となる。
【0066】
このように、本実施形態によれば、X線源101と対向するように、カメラ150をX線源101の鉛直上方に固定的に配置している。また、基板SPCを透過したX線Itは、基板SPCの結晶面Sに湾曲があっても、X線源101から射出されたX線Ioと同じ鉛直上方に、基板SPCから射出されるので、カメラ150には、基板SPCを透過したX線Itが到達する。
【0067】
そして、X線源101から射出されたX線Ioと、基板SPCの回折面とがブラッグ条件を満たすように、基板SPCの方位を調整することで、μtが10程度となる基板SPCにおいて通常ではほとんど吸収されるX線Ioが、回折によって生じる前方透過波として基板SPCを透過する。
【0068】
そのため、基板SPCを透過し、カメラ150に到達したX線Itの強度分布を画像として取得することにより、基板SPCのトポグラフィ像を得ることができるので、基板SPCの結晶欠陥を評価することができる。なお、このように、トポグラフィ像撮影装置100を用いることにより、基板SPCの結晶欠陥を評価することができるので、トポグラフィ像撮影装置100は、結晶欠陥を評価する結晶欠陥評価装置とも呼ぶことができる。
【0069】
さらに、本実施形態のトポグラフィ像撮影装置100では、X線発生装置110として、大規模な装置であるシンクロトロン放射光源等ではなく、一般的なX線管等を用いることができる。そのため、トポグラフィ像撮影装置100は、実験室や工場の生産ラインで使用することが容易である。
【0070】
また、本実施形態では、カメラ150がX線源101に対して固定的に配置されるので、結晶欠陥の評価に使用される一般的なX線回折装置等のように、基板に対するX線源とカメラとの位置関係を別個に調整する必要がない。そのため、本実施形態によれば、結晶欠陥を評価するための結晶欠陥評価装置(トポグラフィ像撮影装置100)の構成をより簡単にすることができる。
【0071】
さらに、本実施形態のトポグラフィ像撮影装置100では、X線源101からX線Ioが鉛直上方に射出され、ステージ140を通過した後、基板SPCを透過したX線Itが、X線源101の鉛直上方に配置されたカメラ150に到達するように構成されている。そのため、X線源101とステージ140(ゴニオステージ)とカメラ150とが鉛直方向に配列されるため、トポグラフィ像撮影装置100の占める床面積を縮小することができ、トポグラフィ像撮影装置100の設置する際の自由度をより高くすることができる。
【0072】
加えて、本実施形態では、X線源101からは、鉛直上方にX線Ioが射出される。そして、異常透過が発生している状態において、基板SPCからは、鉛直上方にX線Itが射出されるとともに、回折したX線Ihが射出される。異常透過が発生していない状態において、X線源101から射出されたX線Ioは、そのほとんどが基板SPCにより吸収される。そのため、ビームストッパ等を用いて回折したX線Ihの進行を止めれば、トポグラフィ像撮影装置100におけるX線の主な進行方向は、X線Io,Itの鉛直上方に限定される。このように、本実施形態では、X線の主な進行方向を1方向に限定することができるので、X線の進行方向の変化によって予期しない散乱X線が生じることを抑制し、より容易にX線の遮蔽を行うことができる。
【0073】
B.トポグラフィ像取得の検証例:
本実施形態を適用することによってトポグラフィ像を取得し得ることの検証を行った。具体的には、X線の線吸収係数μが大きい単結晶基板として、比較的原子番号が大きい元素であるGaを含む安定相の酸化ガリウム(β-Ga2O3)の基板を準備した。具体的には、主面の面方位が(001)の長方形のβ-Ga2O3基板を用意した。用意した基板は、大きさが10mm×15mmで、厚みが680μmであり、基板の短辺と長辺とは、それぞれ、[010]軸(b軸)と[100]軸(a軸)に平行である。また、基板には、その両主面を平坦化するため、化学機械研磨を施した。そして、準備した基板を用いて、異常透過が発生することを検証し、トポグラフィ像の撮影を行った。
【0074】
B1.異常透過の発生の検証:
図6は、検証の概要を示す説明図である。
図6(a)に示すように、検証においては、X線発生装置としてシンクロトロン放射光源SRS(以下、単に「放射光源SRS」とも呼ぶ)を用いた。そして、放射光源SRSから放射された略白色のX線をモノクロメータMMXによって単色化し、単色化されたX線(入射波Ko)を基板SPXに照射した。なお、
図6において破線で示すカメラCMZは、回折波(h波)Khを用いてトポグラフィ像を撮影するとした場合において、回折波Khが到達するように配置されるカメラの位置を示している。
【0075】
この入射波Koの回折面(g=020,022)への入射角がブラッグ角となるように、基板SPXの方位をゴニオメータによって調整し、異常透過を発生させた。そして、異常透過によって基板SPXを透過した前方回折波Kfの進行方向にカメラCMXを配置した。なお、前方回折波Kfは、o波Ko、すなわち、入射波Koおよび回折の影響を受けない純粋な透過波Koと区別することができないが、説明の便宜上、ここでは、前方回折波Kfとo波Koとを別個のものとして扱っている。
【0076】
入射波Koの波長λは、
図6(b)に示す、X線の波長λと、β-Ga
2O
3におけるX線の線吸収係数μとの関係に基づいて決定することができる。
図6(b)のグラフにおいて、丸いマークは、線吸収係数μを表し、三角のマークは、μtが10となる厚さを表している。
【0077】
図6(b)に示すように、β-Ga
2O
3の線吸収係数μは、矢印で示すK吸収端(λ=1.196Å)を境に長波長側で急激に減少する。そのため、入射波Koの波長λをK吸収端よりもやや長波長とすることにより、500~800μmの厚さの基板において、μtを、前方回折波Kfを用いたトポグラフィ像の撮影に適した10程度にすることができる。そして、本検証において用いたβ-Ga
2O
3基板の厚さが680μmであるため、入射波Koの波長λは、1.25Åに設定した。
【0078】
図7は、本検証において回折波Khと前方回折波Kfとを観測した結果を示す説明図である。
図7(a)は、回折面g=020により入射波Koの回折を生じさせた際の、基板SPXと、回折波Khおよび前方回折波Kfを観測するための蛍光スクリーンFLSとの配置を示している。
図7(a)に示すように、回折面g=020で回折を生じさせた際には、入射波Koを(001)面の一方から基板SPXに入射させ、o波Ko(前方回折波Kfあるいは透過波Ko)を他方の(001)面から射出させた。なお、
図7(a)における破線は、前方回折波Kfを用いてトポグラフィ像を撮影する際の、カメラCMXとカメラCMXに到達する前方回折波Kfとを示している。
【0079】
そして、回折が発生して異常透過が発生している状態(異常透過あり)と、回折が発生せず異常透過が発生しない状態(異常透過なし)とのそれぞれの状態で、蛍光スクリーンFLSに到達するX線の観測を行った。なお、「異常透過あり」の状態は、ωを調整することによりブラッグ条件ωを満たした状態であり、「異常透過なし」の状態は、「異常透過あり」の状態から、ωを180秒角(arcsec)変化させた状態である。
【0080】
図7(b)および
図7(c)は、「異常透過なし」および「異常透過あり」のそれぞれ状態における、回折波Khと、前方回折波Kfあるいは透過波Koとの観測結果を示している。
図7(b)に示すように、異常透過が発生していない状態では、蛍光スクリーンFLSには、矢印で示す透過波Koの極めて暗いスポットが現れた。一方、異常透過が発生している状態では、
図7(c)に示すように、蛍光スクリーンFLSには、回折波Khと前方回折波Kfとの2つの極めて明るいスポットが現れた。これらの結果から、回折面g=020によって入射波Koを回折させることにより、X線の吸収を顕著に抑制できることが判った。
【0081】
図7(d)および
図7(e)は、回折面g=022で回折を生じさせた際の、回折波Khと、前方回折波Kfあるいは透過波Koとの観測結果を示している。
図7(d)に示すように、異常透過が発生していない状態では、
図7(b)と同様に、蛍光スクリーンFLSには、矢印で示す透過波Koの極めて暗いスポットが現れた。これに対し、異常透過が発生している状態では、
図7(e)に示すように、蛍光スクリーンFLSには、回折波Khと前方回折波Kfとの2つの明るいスポットが現れた。
【0082】
しかしながら、回折面g=022で入射波Koを回折させた場合、回折面g=020で回折させた場合に比べ、蛍光スクリーンFLSに現れる回折波Khと前方回折波Kfとのスポットは暗くなった。これらの結果から、回折面g=022によって入射波Koを回折させることにより、X線の吸収を十分に抑制できるものの、回折面g=020で入射波Koを回折させた場合ほどには吸収が抑制されないことが判った。
【0083】
また、
図7(c)および
図7(e)から判るように、異常透過が発生している場合、回折波Khと前方回折波Kfとのスポットの明るさが略同一となっている。このことから、異常透過が発生している場合、入射面から結晶に入射した入射波Koが定常波として結晶内部を射出面まで伝播し、射出面において回折波Khと前方回折波Kfとに分離しているものと考えられる。そのため、回折波Khと前方回折波Kfとのいずれか一方の状態を観測することにより、他方の状態を把握することが可能であることが判る。
【0084】
図8は、回折面と回折波Khの強度Iとの関係を評価した結果を示す説明図である。
図8(a)は、2つの回折面g=020,022のそれぞれにおける、ω方向の角度の変化Δω、すなわち、入射角の厳密なブラッグ角からのずれと、回折波Khの強度Iとの関係を示している。
図8(a)から判るように、回折面が異なっていても、回折波Khの強度Iは、入射角が厳密なブラッグ角となるΔω=0において最大となった。また、半値全幅(FWHM)等のΔωの変化に対する強度Iの変化の形態(ロッキングカーブ)も、回折面によらず同様であった。
【0085】
しかしながら、
図7において示した結果と同様に、回折面g=022で回折させた場合、Δω=0における回折波Khの強度Iは、回折面g=020で回折させた場合よりも低くなっていた(約1/80)。これは、
図8(b)に示すように、[001]方向が[100]方向と直交しない([001]方向は、紙面の裏側方向に約14°傾いている)単斜晶系のβ-Ga
2O
3においては、すべてのGaが結晶学的に等価な(020)面上に存在し、X線の吸収が大きいGaの位置に定常波の節が来るようにできるため、異常透過が強くなったのに対し、(022)面には、結晶学的に等価でない2種類の面(
図8(b)の(022)
I面と(022)
II面)が存在し、一方の(022)面で生ずる定常波が、他方の(022)面上に位置するGaによって減衰させられるため、異常透過が弱くなったことが原因と考えられる。
【0086】
B2.トポグラフィ像の取得結果:
図9は、基板全体について取得されたトポグラフィ像を示す説明図である。
図9(a)および
図9(b)は、2つの回折面g=020,022のそれぞれにおける回折で生じた前方回折波(すなわち、o波)を用いて取得した基板全体のトポグラフィ像、すなわち、照射領域毎に撮影したトポグラフィ像の合成画像を示している。なお、
図9(a)および
図9(b)において、符号SCMが付された矢印は、基板面内における位置を特定するために形成された、スクラッチマークを指示している。
【0087】
詳細については説明を省略するが、
図9(a)に示すように、回折面g=020の回折で生じるo波を用いて撮影したトポグラフィ像には、g=020とした際に検出可能な結晶欠陥が暗線として現れた。また、
図9(b)に示すように、異常透過が弱くなる回折面g=022で回折を生じさせた場合においても、回折で生じるo波を用いてトポグラフィ像を撮影することができた。このトポグラフィ像においては、g=020で検出された結晶欠陥に加え、g=020では検出できない結晶欠陥も暗線として現れた。
【0088】
以上の結果から、基板SPXにμtが10程度となる波長のX線を照射し、照射されたX線を回折させることで異常透過を発生させた状態において、透過X線の強度分布を画像として取得することにより、トポグラフィ像を撮影することが可能であることが確認できた。また、回折をさせる結晶面(回折面)は、異常透過が発生する限りにおいて、異常透過の強弱にかかわらず選択可能であることが判った。さらに、必要に応じて、回折面を選択することにより、基板中の結晶欠陥をより確実に検出することが可能であることが判った。
【0089】
C.基板全体のトポグラフィ像の取得処理:
図10は、基板全体のトポグラフィ像(トポグラフィ全面像)を取得する処理(全面像取得処理)の流れを示すフローチャートである。上述のように、入射角の厳密なブラッグ角からのずれが十分に小さければ、異常透過が発生する。そのため、
図5に示すように、基板SPCの結晶面Sが湾曲した状態においても、X線Ioが照射されている各照射領域におけるトポグラフィ像を撮影し、撮影したトポグラフィ像から基板SPC全体のトポグラフィ像を取得することができる。
【0090】
しかしながら、結晶面が大きく湾曲した基板の場合、照射領域の位置によっては異常透過が発生せず、その照射領域におけるトポグラフィ像を撮影できない可能性がある。また、基板全体において各照射領域のトポグラフィ像の撮影が可能であっても、入射角の厳密なブラッグ角からのずれに伴って、透過X線の強度の低下が発生する。この場合、撮影したトポグラフィ像のS/N比が低下し、良好なトポグラフィ像が撮影できない虞がある。また、照射領域毎に透過X線の強度が変動することによって、トポグラフィ全面像の画質が低下し、結晶欠陥の評価が適切に行えなくなる可能性がある。
【0091】
そこで、
図10のフローチャートで示す全面像取得処理を実行することにより、基板全体の各照射領域において良好なトポグラフィ像を撮影し、より確実にトポグラフィ全面像を取得するとともに、より良好なトポグラフィ全面像を得る。なお、この全面像取得処理は、トポグラフィ像撮影装置100に取り付けられた制御装置(図示しない)として構成されたコンピュータが、コンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0092】
全面像取得処理では、まず、ステージ140(
図4)をX方向およびY方向に移動させ、照射領域を走査の開始位置に設定する(ステップS101)。次いで、φ,χ,ωをブラック条件の理論値に設定する(ステップS102)。
【0093】
この状態において、基板表面の面方位に仕様からのずれがなく、また、基板に結晶面の湾曲が全くなければ、ブラッグ条件が満たされる。しかしながら、実際の基板においては、基板表面の面方位には公差の範囲でのずれがある。また、大部分の基板においては、程度の大小はあっても、結晶面が湾曲している。従って、ブラッグ条件を厳密に満たし、異常透過を最も強く発生させるためには、φ,χ,ωを最適値に調整(最適化)する必要がある。
【0094】
一方、φ,χ,ωの各角度の変化が回折面(gベクトル)の方向に与える影響は、等しくない。そのため、
図10に示す全画像取得処理においては、まず、最も影響の大きいωの最適化を行っている(ステップS103~S105)。
【0095】
ステップS103では、ωを±Δωの範囲で変化させ(ωロッキング)、変化させられたωのそれぞれにおける、透過波Ko(
図4の透過X線It)の強度I(ω)を取得する。なお、変化させるωの変化幅Δωは、基板の結晶性や湾曲の程度等の結晶品質に基づいて、実験的に設定できる。
【0096】
透過波Ko(透過X線It)の強度Iは、例えば、カメラ150を用いて、積分強度、すなわち、カメラ150の各画素において測定されるX線の強度を全画素にわたって積算したものを使用することができる。カメラ150として、シンチレータを用いたカメラを使用している場合、当該シンチレータが発するシンチレーション光の強度を測定することによって取得することもできる。また、透過波Koの強度Iは、カメラ150の後方に配置されたX線計数器を用いて取得し、あるいは、
図7(a)に示すように蛍光スクリーンFLS上に現れる透過波Koあるいは前方回折波Kfのスポットの輝度を測定することによって取得することもできる。
【0097】
ステップS104では、ステップS103で取得された透過波の強度変化I(ω)を、所定のフィッティング関数にフィッティングする。そして、フィッティングの結果から透過波の強度Iのピーク値Ixおよびピーク位置ωx(すなわち、ピークに対応するω)を推定して取得する。フィッティング関数としては、強度変化I(ω)の物理的な特性に適合したフォークト関数を使用するのが好ましいが、ガウシアンやローレンツィアン等の他のフィッティング関数を用いることも可能である。
【0098】
ステップS105では、ωをステップS104で得られたωxに設定する。これにより、ωは、χの最適化を行っていない状態における暫定的な最適値に調整される。暫定的なωの最適化の後、ωに次いで影響の大きいχの最適化が行われる(ステップS106~S111)。
【0099】
ステップS106では、χを±Δχ、±2Δχ、±3Δχの6点の変化量で変化させる。そして、6点の異なるχにおいてピーク値Ixが取得されるまで(ステップS109)、ステップS106~S109が繰り返し実行される。なお、χの変化ステップΔχは、基板の結晶性や湾曲の程度等の結晶品質に基づいて、実験的に設定できる。
【0100】
ステップS107,S108では、ステップS103,S104と同様に、透過波の強度のピーク値Ixが取得される。なお、χの最適化が行われるステップS106~S111では、ピーク位置ωxが使用されないので、ステップS108ではピーク位置ωxの取得をしていないが、ステップS104と同様にピーク位置ωxを取得しても良い。
【0101】
ステップS110では、ステップS103,S104で取得した、χを変化させていない状態におけるピーク値Ixと、ステップS106~S109で取得されたピーク値Ixとの、計7点の異なるχについて取得したピーク値Ixを、所定のフィッティング関数にフィッティングする。そして、フィッティングの結果から透過波の強度のピーク位置χx(すなわち、ピークに対応するχ)を推定して取得する。
【0102】
次いで、ステップS111において、χをステップS110で得られたχxに設定することにより、χは最適値に調整される。このχの最適化の後、ステップS103~S105と同様に、ステップS112~S114においてωの最適化が行われる。なお、ステップS112~S114は、ステップS113でピーク値Ixが取得されない点を除いて、ステップS103~S105と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0103】
ステップS114において、χ,ωの最適化が終了した後、ステップS115では、上述のように、照射領域のトポグラフィ像が撮影される。そして、ステップS116において、基板全体においてトポグラフィ像の撮影が完了したか否かが判断される。
【0104】
ステップS116で、基板全体の撮影が完了していないと判断された場合、ステップS117で、基板を走査するように、照射領域は次の位置に設定される。そして、ステップS116で、基板全体の撮影が完了したと判断されるまで、ステップS103~S117が繰り返し実行される。
【0105】
なお、以上の説明から判るように、ステップS117で照射領域が次の位置に設定された際、χおよびωは、それぞれ、移動前の照射領域における最適値χxおよびωxに設定されている。そのため、ステップS117で照射領域が次の位置に設定される際の移動距離が十分に短ければ、設定された最適値χxおよびωxと実際の照射領域におけるχおよびωとの差が十分に小さくなるので、結晶面の湾曲が大きい場合においても、ステップS103,S104におけるωの暫定的な最適値の取得と、ステップ、S106~S110におけるχの最適値の取得とを、より確実に行うことができる。
【0106】
一方、ステップS116で、基板全体の撮影が完了したと判断された場合、ステップS118において、各照射領域において撮影されたトポグラフィ像を合成し、トポグラフィ全面像が取得され、
図10に示す全面像取得処理が終了する。
【0107】
なお、
図10に示す全面像取得処理では、ステップS104,S108,S113において、フィッティングを行っているが、ωロッキングのステップ(すなわち、ωを±Δωの範囲で変化させる際のωの変化ステップ)が十分に小さい場合には、フィッティングを行うことなく、透過波の強度の最大値をピーク値Ixとし、最大値に対応するωをピーク位置ωxとすることもできる。この場合、フィッティングに要する演算処理量を低減することができる。一方、
図10に示す全面像取得処理では、フィッティングを行うことにより、ωロッキングのステップを大きくとって、透過波の強度の測定回数を低減することができるので、測定に要する時間を短縮することができる。
【0108】
また、
図10に示す全面像取得処理では、ステップS106~S109において、6点の変化量でχを変化させ、ステップS110において、計7点の異なるχについて取得したピーク値Ixのフィッティングを行っているが、χの変化量の点数は、適宜増減することができる。但し、変化量の点数を多くすれば、最適値χxの推定精度をより高くすることができるが、強度の測定に要する時間が長くなるとともに、演算処理量が増加する。一方、変化量の点数を少なくすれば、強度の測定に要する時間を短縮するとともに、演算処理量を低減することができるが、χの最適値χxの推定精度が低くなる虞がある。χの変化量の点数は、これらの特性を考慮して、適宜設定される。
【0109】
図10に示す全面像取得処理では、ステップS110において、7点の異なるχについて取得したピーク値Ixをフィッティングしている。しかしながら、フィッティングができない(フィッティング関数のパラメータが収束しない)時に、χの変化ステップΔχや変化量の点数を適宜変更するものとしても良い。この場合、変化ステップΔχや変化量の点数の変更後、ステップS106~S110が繰り返し実行される。
【0110】
また、
図10に示す全面像取得処理では、χの最適化(ステップS106~S111)を繰り返し行っている。しかしながら、上述の通り、χの変化が回折面(gベクトル)の方向に与える影響はωよりも小さいため、照射領域が移動してもχの最適値χxが変化しない場合がある。そのため、照射領域を移動してもχxが変化しない場合、χの最適化(ステップS106~S111)と、その後のωの最適化(ステップS112~S114)とを省略することも可能である。
【0111】
具体的には、ステップS101において照射領域を走査開始位置に設定した後、最初に取得したχの最適値χxを記憶する。その後、照射領域を移動して、X方向およびY方向の移動距離があらかじめ設定された距離に到達するまで、χの最適値χxが変化しない場合、その後のχおよびωの最適化(ステップS106~S114)が省略される。
【0112】
図10に示す全面像取得処理では、φの変化が回折面(gベクトル)の方向に与える影響が通常は十分に小さいため、φの最適化を省略している。しかしながら、より高い精度で回折面の方向を設定する必要がある場合、あるいは、基板の方位を特定するために基板に形成される構造(オリエンテーションフラット等)の形成精度が十分に高くない場合等、φの最適化が必要な場合には、φの最適化に必要なステップが追加される。
【0113】
この場合、φの最適化は、χの最適化と同様に行うことができる。また、φの最適化は、φ、χ,ωのうちでφの変化が最も影響が小さいため、χの最適化(ステップS106~S111)の後に行われる。そして、φを最適化した後、再度χの最適化が行われ、再度のχの最適化の後にωの最適化(ステップS112~S114)が行われる。
【0114】
なお、φの最適化は、必ずしも、照射領域の移動のたびに行う必要はない。例えば、オリエンテーションフラット等の形成精度が十分に高くない場合においては、ステップS101において照射領域を走査開始位置に設定した後、最初の1回のみ、φの最適化を行うようにしても良い。この場合、再度のχの最適化も最初の1回のみ行えば良い。
【0115】
D.インライン結晶欠陥評価システム:
図11は、本実施形態の一応用例としてのインライン結晶欠陥評価システム10(以下、単に「結晶欠陥評価システム10」とも呼ぶ)の構成を示す説明図である。なお、
図11は、トポグラフィ像撮影装置100aにより、単結晶基板であるウェハWF[M]の欠陥の評価、すなわち、ウェハWF[M]のトポグラフィ像全面像の取得を行っている状態を示している。
【0116】
図11に示すように、結晶欠陥評価システム10は、トポグラフィ像撮影装置100aと、遮蔽ボックス200と、上流側搬送機構310および下流側搬送機構320(以下、併せて「搬送機構」とも呼ぶ)とを備えている。ウェハWFは、搬送方向(黒塗り矢印で示す)に順次搬送される。なお、
図11および
図11を参照する説明では、順次搬送される複数のウェハWFにおいて、個々のウェハWFを区別するため、符号の末尾に大括弧で括った符号を付加する。
【0117】
結晶欠陥評価システム10に使用されるトポグラフィ像撮影装置100aは、X線源101aが、その鉛直上方端部(すなわち、X線Ioの射出方向の端部)に配置されたシャッタ106aを有している点で、
図1に示すトポグラフィ像撮影装置100と異なっている。他の点は、
図1に示すトポグラフィ像撮影装置100と同一である。
【0118】
シャッタ106aは、X線の線吸収係数μが高く、機械的に十分な強度を有する材料(例えば、白金イリジウム合金やタングステン)で形成された板状の部材である。シャッタ106aは、白抜きの矢印で示すように移動させることにより開閉される。シャッタ106aを、X線Ioの経路上から外す(開状態にする)ことにより、X線Ioは、X線源101aから射出される。一方、シャッタ106aを、X線Ioの経路上に配置する(閉状態にする)ことにより、X線源101aからのX線Ioの射出が止められる。
【0119】
シャッタ106aは、トポグラフィ像撮影装置100aのステージ140と、搬送機構310,320との間での、ウェハWFの移送(後述する)の際等、ステージ140上にウェハWFがない状態において、X線Ioがカメラ150に直接到達しないように閉じられる。このように、シャッタ106aを閉じて、X線源101aから射出されたX線Ioがカメラ150に直接到達しないようにすることにより、シンチレータ等のカメラ150の受光面に配置される素子に焼付等の問題が発生することを抑制することができる。
【0120】
但し、シャッタ106aを省略することも可能である。例えば、X線発生装置110におけるX線の放射を制御することができれば、シャッタ106aを省略しても、X線発生装置110を制御することにより、X線源101から射出されたX線Ioがカメラ150に直接到達しないようにすることができる。また、カメラ150が、X線源101から射出され、直接到達するX線Ioの影響を受けにくいものであれば、シャッタ106aを省略するとともに、X線発生装置110におけるX線の放射の制御も省略することができる。
【0121】
遮蔽ボックス200は、X線を透過しない材質で形成された箱状の構造物であり、トポグラフィ像撮影装置100aの全体を覆うように設置される。この遮蔽ボックス200には、上流側搬送機構310からステージ140にウェハWFを移送するための開口部291と、ステージ140から下流側搬送機構320にウェハWFを移送するための開口部292とが設けられている。
【0122】
図11の例では、搬送機構310,320として、ベルト311,321を使用するベルトコンベアを使用している。そして、ベルト311,321の上面に載置されたウェハWF[B],WF[A]が、搬送方向に搬送される。上流側搬送機構310によって搬送されてきた欠陥評価前のウェハWF[B]は、図示しない移送機構によって、上流側搬送機構310の下流側端部から、トポグラフィ像撮影装置100aのステージ140上に移送される。
【0123】
トポグラフィ像撮影装置100aのステージ140上に載置されたウェハWF[M]は、基板固定面141に固定される。そして、上述の通り、そのトポグラフィ全面像がトポグラフィ像撮影装置100aによって取得され、結晶欠陥が評価される。
【0124】
結晶欠陥が評価されたウェハWFは、図示しない移送機構によって、トポグラフィ像撮影装置100aのステージ140上から、下流側搬送機構320の上流側端部に移送される。下流側搬送機構320に移送された欠陥評価済のウェハWF[A]は、下流側搬送機構320によって搬送されていく。
【0125】
なお、これまでの説明から判るように、結晶欠陥の評価のために、トポグラフィ像を撮影し、トポグラフィ全面像を取得するためには、ステージ140に対するウェハWF[M]の方位を特定する必要がある。ウェハWFの方位は、通常、ウェハWFに形成されるオリエンテーションフラットOFによって特定される。そのため、ウェハWF[M]の方位は、例えば、ステージ140上に、オリエンテーションフラットOFと接触する突起を設け、当該突起にオリエンテーションフラットOFが突き当たるようにすれば、特定することができる。また、移送機構にオリエンテーションフラットOFが突き当たる部材を設けることによって、ウェハWF[M]の方位を特定することもできる。
【0126】
これらの手段のほか、機械的あるいは光学的な種々の手段を用いて、ウェハWF[M]の方位を特定することも可能である。例えば、上流側搬送機構310による搬送中、上流側搬送機構310からステージ140への移送中、あるいは、ステージ140上への載置の際に、ウェハWFの画像を取得し、取得した画像に基づいて、ウェハWF[M]の方位を特定することもできる。
【0127】
なお、
図11の例では、ベルトコンベアとして構成された搬送機構310,320を用いてウェハWFを搬送しているが、搬送機構は、ウェハの搬送方式や生産ラインの構成等によって、適宜変更される。また、
図11の例では、2つの搬送機構310,320を用いてウェハWFを搬送しているが、単一の搬送機構を用いてウェハを搬送することも可能である。この場合、ウェハは、搬送機構上におけるトポグラフィ像撮影装置100aに近接した部分(近接部)と、ステージ140との間で移送される。このようにすれば、ウェハの移送のために設けられる遮蔽ボックスの開口部を1つにすることができるので、遮蔽ボックス外部へのX線の漏洩をより容易に抑制することができる。
【0128】
このようにして、複数のウェハWFについて取得されたトポグラフィ全面像は、ウェハWFを用いて製造されるデバイスの選別に応用することができる。この場合、ウェハWF毎にトポグラフィ全面像に画像処理が施され、各ウェハWFにおける結晶欠陥の位置や種類が特定される。そして、特定された結晶欠陥の位置や種類に基づいて、ウェハWF毎に、デバイスを形成した際に不適合となる領域(不適合領域)が記録され、あるいは、不適合領域にマーキングがなされる。これにより、加工済ウェハの段階で、デバイスが結晶欠陥に由来する不適合となるか否かが判断できるので、個別のデバイスについて特性等を評価する工程を簡略化することができる。
【0129】
E.変形例:
本発明は上記実施形態および上記応用例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0130】
E1.変形例1:
上記実施形態では、X線発生装置110から放射された発散X線を略平行なX線Ioとするため、平行化光学系として、反射鏡120と、コリメータ130とを用いている。しかしながら、X線源から射出され、試料に照射されるX線は、単色化されていれば、必ずしも略平行とする必要がなく、平行化光学系の少なくとも一部を省略することも可能である。
【0131】
この場合、試料に照射されるX線がある程度の発散角で発散するが、試料に入射するX線と回折面とがブラッグ条件を満たさない限り異常透過が発生せず、カメラには発散しているX線のうち略平行な部分のみが到達するため、上記実施形態と同様にX線トポグラフィ像を撮影することができる。但し、カメラに到達するX線の強度の低下を抑制するため、X線源に平行化光学系を設け、略平行なX線を射出するようするのが好ましい。なお、平行化光学系のうち、反射鏡120を省略する場合、X線の単色化は、二結晶型モノクロメータ等の一般的なモノクロメータによって行われる。
【0132】
また、上記実施形態では、平行化光学系において、反射面が回転放物面形状の反射鏡120を使用しているが、一般的には、反射面に多層膜が形成された、集光性のX線反射鏡を用いることもできる。このようなX線反射鏡としては、例えば、回転放物面形状を球面形状で近似した反射面に多層膜を形成したものを使用することができる。このようにしても、X線反射鏡において、単色化と平行化とを同時に行うことができるので、カメラに到達するX線の強度の低下を抑制するとともに、トポグラフィ像撮影装置の構造を簡略化することができる。
【0133】
E2.変形例2:
上記実施形態では、カメラ150を、鉛直上方にX線Ioを射出するX線源101の鉛直上方に配置しているが、カメラが、X線源と対向するように、X線源からのX線の射出方向にX線源に対して固定的に配置されていれば、X線源とカメラとの位置関係を種々変更することができる。例えば、鉛直下方にX線を射出するようにX線源を配置し、X線源の鉛直下方にカメラを配置するものとしても良い。
【0134】
また、水平方向にX線を射出するようにX線源を配置し、X線源からのX線の射出方向にカメラを配置するものとしても良い。この場合、基板を保持する基板保持部は、X線の射出方向と直交する鉛直面に平行な互いに直交する2方向への基板固定面の直線移動が可能なように構成される。なお、このようにX線の射出方向を水平方向とした場合、基板保持部において基板が固定される基板固定面は、ωおよびχ方向に回転していない状態において、鉛直方向に立った状態となる。そのため、基板保持部には、基板固定面から基板が脱落することを抑制するための手段が設けられる。このように水平方向にX線を射出するようにX線源を配置した場合においても、X線の進行方向の変化によって予期しない散乱X線が生じることを抑制し、より容易にX線の遮蔽を行うことができる。但し、トポグラフィ像撮影装置の占める床面積を縮小することができ、トポグラフィ像撮影装置の設置の際の自由度をより高くすることができる点で、上記実施形態のように、X線源は、鉛直方向にX線を射出するように配置し、鉛直方向にX線源とカメラとを配列するように配置するのが好ましい。
【0135】
さらに、上記実施形態のように、基板保持部を互いに直交する水平面に平行な2方向(X、Y方向)に基板固定面の直線移動が可能なように構成されている場合において、X線源とカメラとをω軸を中心に回転可能とすることも可能である。この場合、X線源とカメラとは、例えば、ω軸を中心に回転可能なアーム上に固定される。このようにすれば、
図4に示すようにトポグラフィ像を撮影する際においても、基板固定面(上記実施形態の基板固定面140)を略水平に維持することができるので、基板固定面に単結晶基板を載置して固定することがより容易となる。
【0136】
但し、トポグラフィ像撮影装置の構造をより簡単にするとともに、X線の進行方向の変化によって予期しない散乱X線が生じることを抑制し、より容易にX線の遮蔽をできる点で、上述のように、X線源から射出されるX線の方向は、鉛直方向あるいは水平方向に固定するのが好ましい。
【0137】
E3.変形例3:
上記実施形態および変形例では、照射領域のトポグラフィ像を基板の全面において撮影し、撮影されたトポグラフィ像を合成することにより基板全面のトポグラフィ像を得ているが、照射領域のトポグラフィ像の撮影は、必ずしも、基板の全面において行う必要はなく、基板の少なくとも一部におけるトポグラフィ像を得るものとしても良い。例えば、基板上において評価対象とする数箇所の評価領域において、複数の照射領域(例えば、隣接する5×5の照射領域)で撮影したトポグラフィ像を合成し、当該評価領域全体のトポグラフィ像(上記の例では、5×5連結像等)を得るようにしても良い。このようにすれば、結晶欠陥を評価すべき領域が限定されている場合において、トポグラフィ像の撮影に要する時間を短縮することができる。
【0138】
E4.変形例4:
上記実施形態および変形例では、カメラ150を用いて到達したX線の強度分布を画像として取得することにより、照射領域のトポグラフィ像を撮影しているが、基板の少なくとも一部の領域における結晶欠陥の分布を表す画像が取得可能であれば、トポグラフィ像の撮影に替えて、到達したX線の強度のみを取得するようにしても良い。この場合、カメラ150において取得された積分強度を使用するものとしても良く、また、カメラ150に替えて、X線計数器等の種々のX線検出器を使用するものとしても良い。
【0139】
このようにしても、照射領域を走査して、各照射領域についてその位置と透過X線Itの強度とを対応づけることにより、基板の少なくとも一部の領域における結晶欠陥の分布を表す画像を取得することができる。なお、このように結晶欠陥の分布を表す画像を取得する場合、
図10の全面像取得処理で示すように、χやωの最適化を行うのが好ましい。
【0140】
一方、カメラ150を用いて照射領域のトポグラフィ像を撮影し、撮影された複数のトポグラフィ像を合成して、基板のトポグラフィ像を取得する上記実施形態は、結晶欠陥の種類を特定し、より詳細に結晶欠陥の評価を行うことができる点で、好ましい。
【符号の説明】
【0141】
10…インライン結晶欠陥評価システム
100,100a…トポグラフィ像撮影装置
101,101a…X線源
106a…シャッタ
110…X線発生装置
119…窓
120…反射鏡
130…コリメータ
140…ステージ
141…基板固定面
149…貫通穴
150,950…カメラ
200…遮蔽ボックス
291,292…開口部
310…上流側搬送機構
320…下流側搬送機構
311,321…ベルト
CMX,CMZ…カメラ
FLS…蛍光スクリーン
MMX…モノクロメータ
OF…オリエンテーションフラット
RGC…中央部
RGL…左端部
RGR…右端部
SP1,SP2…基板
SPC…基板
SPX…基板
SRS…シンクロトロン放射光源
WF…ウェハ