(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040881
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】電動車両の走行経路選定システム及び走行経路選定方法
(51)【国際特許分類】
G01C 21/34 20060101AFI20240318BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240318BHJP
B60L 58/16 20190101ALI20240318BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240318BHJP
【FI】
G01C21/34
B60L50/60
B60L58/16
B60L3/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145522
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】矢口 健司
(72)【発明者】
【氏名】井上 喜博
【テーマコード(参考)】
2F129
5H125
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129DD13
2F129DD15
2F129DD19
2F129DD21
2F129DD39
2F129DD46
2F129DD49
2F129DD62
2F129DD70
2F129EE02
2F129EE53
2F129EE78
2F129EE79
2F129EE81
2F129EE94
2F129FF02
2F129FF20
2F129FF71
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC22
5H125BC09
5H125CA18
5H125EE01
5H125EE22
5H125EE23
5H125EE24
5H125EE25
5H125EE29
(57)【要約】
【課題】走行エネルギー量をより正確に推定できると共に、バッテリの劣化を考慮した走行経路を選定する。
【解決手段】電動車両2の走行に関連する地図情報に基づき複数の走行経路候補を設定する候補設定部10と、走行経路候補毎の走行時間及び走行速度の情報を取得する第一取得部11と、走行時間及び走行速度の情報に基づき、モータを駆動するために消費される走行エネルギー量を走行経路候補毎に算出する算出部12と、走行経路候補毎に、予め用意されたバッテリ劣化情報に基づき、バッテリの劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得する第二取得部13と、分析情報に基づき、走行経路候補毎にバッテリの劣化に対する劣化因子の影響度の大きさを表す劣化因子レベルを予測する劣化予測部14と、走行エネルギー量と劣化因子レベルとに基づき、複数の走行経路候補の中から最適経路を決定する決定部15と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリを走行エネルギー源としてモータの駆動力によって走行する電動車両の走行経路選定システムであって、
前記電動車両の走行に関連する地図情報に基づき、出発地から目的地までの複数の走行経路候補を設定する候補設定部と、
前記候補設定部で設定された前記走行経路候補毎の走行時間及び走行速度の情報を取得する第一取得部と、
前記第一取得部で取得された前記走行時間及び前記走行速度の情報に基づき、前記モータを駆動するために消費される走行エネルギー量を前記走行経路候補毎に算出する算出部と、
前記走行経路候補毎に、前記バッテリが劣化した状態を示すデータとして予め用意されたバッテリ劣化情報に基づき、前記バッテリの劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得する第二取得部と、
前記第二取得部で取得された前記分析情報に基づき、前記走行経路候補毎に前記バッテリの劣化に対する前記劣化因子の影響度の大きさを表す劣化因子レベルを予測する劣化予測部と、
前記算出部で算出された前記走行エネルギー量と前記劣化予測部で予測された前記劣化因子レベルとに基づき、前記複数の前記走行経路候補の中から最適経路を決定する決定部と、を備えた
ことを特徴とする、電動車両の走行経路選定システム。
【請求項2】
前記決定部は、前記劣化因子レベルが所定の閾値以上である場合に、前記劣化予測部で予測された前記劣化因子レベルが最小となる走行経路を最適経路として決定する
ことを特徴とする、請求項1に記載の電動車両の走行経路選定システム。
【請求項3】
前記決定部は、前記劣化因子レベルが所定の閾値以上である場合、複数の前記走行経路候補を再設定したうえで、再設定された前記複数の前記走行経路候補の中から前記劣化因子レベルが最小となる走行経路を最適経路として決定する
ことを特徴とする、請求項2に記載の電動車両の走行経路選定システム。
【請求項4】
前記決定部は、前記劣化因子レベルが所定の閾値未満の場合、前記算出部で算出された前記走行エネルギー量が最小となる走行経路を最適経路として決定する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の電動車両の走行経路選定システム。
【請求項5】
前記バッテリ劣化情報は、電流値、電圧値、温度、内部抵抗及びバッテリ容量の各測定値からなるデータセットを時系列で記録した走行履歴データである
ことを特徴とする、請求項1に記載の電動車両の走行経路選定システム。
【請求項6】
前記第二取得部は、前記走行履歴データに基づく機械学習により、前記バッテリの容量劣化及び内部抵抗の劣化を推定するための係数と、前記電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布データとを前記分析情報として取得する
ことを特徴とする、請求項5に記載の電動車両の走行経路選定システム。
【請求項7】
前記劣化予測部は、前記劣化因子レベルに加えて、機械学習的手法を用いた学習処理により、前記バッテリの容量劣化を予測するための容量劣化予測モデルと前記バッテリの内部抵抗劣化を予測するための抵抗劣化予測モデルとを生成する
ことを特徴とする、請求項6に記載の電動車両の走行経路選定システム。
【請求項8】
前記決定部は、前記劣化因子レベルに基づいて前記バッテリの将来の予測された劣化度を算出するとともに、前記劣化度が低いほど前記走行エネルギー量が最小となる走行経路を優先的に最適経路として決定し、前記劣化度が高いほど前記劣化因子レベルが最小となる走行経路を優先的に最適経路として決定する
ことを特徴とする、請求項1に記載の電動車両の走行経路選定システム。
【請求項9】
バッテリを走行エネルギー源としてモータの駆動力によって走行する電動車両の走行経路選定方法であって、
前記電動車両の走行に関連する地図情報に基づき、出発地から目的地までの複数の走行経路候補を設定する候補設定工程と、
前記候補設定部で設定された前記走行経路候補毎の走行時間及び走行速度の情報を取得する第一取得工程と、
前記第一取得部で取得された前記走行時間及び前記走行速度の情報に基づき、前記モータを駆動するために消費される走行エネルギー量を前記走行経路候補毎に算出する算出工程と、
前記走行経路候補毎に、前記バッテリが劣化した状態を示すデータとして予め用意されたバッテリ劣化情報に基づき、前記バッテリの劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得する第二取得工程と、
前記第二取得部で取得された前記分析情報に基づき、前記走行経路候補毎に前記バッテリの劣化に対する前記劣化因子の影響度の大きさを表す劣化因子レベルを予測する劣化予測工程と、
前記算出部で算出された前記走行エネルギー量と前記劣化予測部で予測された前記劣化因子レベルとに基づき、前記複数の前記走行経路候補の中から最適経路を決定する決定工程と、を備えた
ことを特徴とする、電動車両の走行経路選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、電動車両の走行経路選定システム及び電動車両の走行経路選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両駆動用のエネルギー源としてバッテリを搭載した電動車両(以下、単に「車両」とも言う)として、電気自動車やハイブリッド自動車が知られる。
かかる車両において出発地から目的地までの走行経路を選定する技術では、エネルギーコストの低減及び航続可能距離確保の観点から、バッテリの電力消費量を最小に抑える走行経路を選定することが検討されている(例えば、下記の特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に開示される技術では、エネルギーコストを低減するとともに航続可能距離を確保する観点から、出発地から目的地まで車両が走行したときに実質的に必要となる走行エネルギー量をより正確に推定することが求められる。
ところで、バッテリの寿命は、車両の使用用途や走行経路などの影響を受ける。そのため、バッテリのライフサイクルにおける航続可能距離を確保する観点からは、走行経路の選定においてバッテリの劣化への影響を考慮する必要がある。
【0005】
しかし、特許文献1に開示されるような従来の技術では、走行エネルギー量の推定精度と、バッテリの劣化抑制への考慮とが不十分だった。
したがって、特許文献1に開示されるような従来の技術は、目的地まで走行したときに必要となる走行エネルギー量をより正確に推定するとともに、バッテリの劣化を抑制するうえで、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件は上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
【0007】
(1)本適用例に係る電動車両の走行経路選定システムは、バッテリを走行エネルギー源としてモータの駆動力によって走行する電動車両の走行経路選定システムであり、前記電動車両の走行に関連する地図情報に基づき、出発地から目的地までの複数の走行経路候補を設定する候補設定部と、前記候補設定部で設定された前記走行経路候補毎の走行時間及び走行速度の情報を取得する第一取得部と、前記第一取得部で取得された前記走行時間及び前記走行速度の情報に基づき、前記モータを駆動するために消費される走行エネルギー量を前記走行経路候補毎に算出する算出部と、前記走行経路候補毎に、前記バッテリが劣化した状態を示すデータとして予め用意されたバッテリ劣化情報に基づき、前記バッテリの劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得する第二取得部と、前記第二取得部で取得された前記分析情報に基づき、前記走行経路候補毎に前記バッテリの劣化に対する前記劣化因子の影響度の大きさを表す劣化因子レベルを予測する劣化予測部と、前記算出部で算出された前記走行エネルギー量と前記劣化予測部で予測された前記劣化因子レベルとに基づき、前記複数の前記走行経路候補の中から最適経路を決定する決定部と、を備えている。
本適用例に係る電動車両の走行経路選定システムによれば、第一取得部で算出した走行速度及び走行距離に基づき走行エネルギー量を推定しているので、複数の走行経路候補のそれぞれで実質的に必要となる走行エネルギー量をより正確に推定できる。また、走行経路毎にバッテリの劣化因子を分析したうえで劣化因子レベルを予測することができる。そして、走行エネルギー量と劣化因子レベルとに基づき、複数の走行経路候補の中から最適経路を決定できる。
そのため、目的地までに実質的に必要となる総消費エネルギーをより正確に推定できると共に、走行によるバッテリの劣化を考慮した走行経路を選定することができる。
【0008】
(2)本適用例に係る電動車両の走行経路選定システムにおいて、前記決定部は、前記劣化因子レベルが所定の閾値以上である場合に、前記劣化予測部で予測された前記劣化因子レベルが最小となる走行経路を最適経路として決定してもよい。
(3)本適用例に係る電動車両の走行経路選定システムにおいて、前記決定部は、前記劣化因子レベルが所定の閾値以上である場合、複数の前記走行経路候補を再設定したうえで、再設定された前記複数の前記走行経路候補の中から前記劣化因子レベルが最小となる走行経路を最適経路として決定してもよい。
(4)本適用例に係る電動車両の走行経路選定システムにおいて、前記決定部は、前記劣化因子レベルが所定の閾値未満の場合、前記走行エネルギー量算出部で算出された前記走行エネルギー量が最小となる走行経路を最適経路として決定してもよい。
【0009】
(5)本適用例に係る電動車両の走行経路選定システムにおいて、前記バッテリ劣化情報は、電流値、電圧値、温度、内部抵抗及びバッテリ容量の各測定値からなるデータセットを時系列で記録した走行履歴データであってもよい。
(6)本適用例に係る電動車両の走行経路選定システムにおいて、前記第二取得部は、前記走行履歴データに基づく機械学習により、前記バッテリの容量劣化及び内部抵抗の劣化を推定するための係数と、前記電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布データとを前記分析情報として取得してもよい。
(7)本適用例に係る電動車両の走行経路選定システムにおいて、前記劣化予測部は、前記劣化因子レベルに加えて、機械学習的手法を用いた学習処理により、前記バッテリの容量劣化を予測するための容量劣化予測モデルと前記バッテリの内部抵抗劣化を予測するための抵抗劣化予測モデルとを生成してもよい。
【0010】
(8)本適用例に係る電動車両の走行経路選定システムにおいて、前記決定部は、前記劣化因子レベルに基づいて前記バッテリの将来の予測された劣化度を算出するとともに、前記劣化度が低いほど前記走行エネルギー量が最小となる走行経路を優先的に最適経路として決定し、前記劣化度が高いほど前記劣化因子レベルが最小となる走行経路を優先的に最適経路として決定してもよい。
【0011】
(9)本適用例に係る電動車両の走行経路選定法方法は、バッテリを走行エネルギー源としてモータの駆動力によって走行する電動車両の走行経路選定方法であって、前記電動車両の走行に関連する地図情報に基づき、出発地から目的地までの複数の走行経路候補を設定する候補設定工程と、前記候補設定部で設定された前記走行経路候補毎の走行時間及び走行速度の情報を取得する第一取得工程と、前記第一取得部で取得された前記走行時間及び前記走行速度の情報に基づき、前記モータを駆動するために消費される走行エネルギー量を前記走行経路候補毎に算出する算出工程と、前記走行経路候補毎に、前記バッテリが劣化した状態を示すデータとして予め用意されたバッテリ劣化情報に基づき、前記バッテリの劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得する第二取得工程と、前記第二取得部で取得された前記分析情報に基づき、前記走行経路候補毎に前記バッテリの劣化に対する前記劣化因子の影響度の大きさを表す劣化因子レベルを予測する劣化予測工程と、前記算出部で算出された前記走行エネルギー量と前記劣化予測部で予測された前記劣化因子レベルとに基づき、前記複数の前記走行経路候補の中から最適経路を決定する決定工程と、を備えている。
本適用例によれば、(1)で上述した電動車両の走行経路選定システムと同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0012】
本件によれば、目的地到着までに実質的に必要となる走行エネルギー量をより正確に推定できると共に、走行によるバッテリの劣化を考慮した走行経路を選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】電動車両の走行経路選定システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1の走行経路選定システムに用いられる電動車両の概略的な上面図である。
【
図3】(a)~(c)は、電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布を走行パターン毎に示すグラフの一例である。
【
図4】(a)は容量劣化予測モデルの一例であり、(b)は抵抗劣化予測モデルの一例である。
【
図6】走行経路選定システムの処理手順(走行経路選定方法)を示すフローチャートである。
【
図7】変形例であって、バッテリの劣化度に応じて最適経路の決定に重みづけをするテーブルの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、本件の実施形態について説明する。以下の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。下記の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせられる。
【0015】
[1.構成]
<車両>
図1は、本実施形態に係る電動車両の経路選定システム1の構成例を示すブロック図である。
図2は、
図1に用いる電動車両2の構成例を説明する概略的な上面図である。
まず、
図1及び
図2を参照して電動車両2について説明する。それから、
図1を参照して経路選定システム1について説明する。
【0016】
図2に示すように、電動車両2は、走行用の駆動源として電動モータ23(単に「モータ」と称する)を備えた車両(以下、電動車両を単に「車両」とも言う)である。車両2には、モータ23のみを駆動源として搭載した電気自動車や、図示しないエンジンを駆動源として搭載するハイブリッド型の電動車両が含まれる。車両2の車種は特に限定されないが、車種の一例として、キャブ21及びシャシフレーム22を備えた電動トラックが挙げられる。
【0017】
モータ23はインバータ24を介して複数の車両用バッテリ(以下単に「バッテリ」とも称する)25に接続されている。
図2のモータ23は、バッテリ25に蓄えられた電力で駆動される。モータ23は電動機(駆動源)及び発電機の双方として機能する。モータ23が駆動源、電動機として機能する力行時には駆動輪を回転駆動するための駆動トルクを発生させ、発電機として機能する回生時には駆動輪の回転力で発電するための回生トルクを発生させる。
【0018】
バッテリ25は、車両2の走行駆動に用いる高電圧の二次電池である。バッテリ25の例として、リチウムイオンバッテリやニッケル水素電池等の高電圧バッテリモジュールが挙げられる。
バッテリ25には、上記のインバータ24のほか、車載充電器26や各種電動コンポーネントが接続されている。車載充電器26は、図示しない外部電源によりバッテリ25を充電するための電気装置である。
各種電動コンポーネントとしては、例えばDC-DCコンバータ27や、ePTO28(electric Power Take Offの略),各種補機29が挙げられる。
【0019】
DC-DCコンバータ27は、バッテリ25から供給された高電圧(例えば360V)の直流電力を低電圧(例えば12V)の直流電力に変換する電力変換装置である。DC-DCコンバータ27は図示しない低電圧バッテリに低電圧の直流電力を供給する。
ePTO28は、クレーンや油圧装置等の作業用装置の動力をバッテリ25の電力から取り出すための動力取出機構である。
各種補機29は、例えば車内空調機や、ワイパー,電灯類,カーナビ装置など、低電圧の電力で動作する各種機器である。
【0020】
VCU20は、車両2が備える各種装置を統括制御するための電子制御装置であり、例えばマイクロプロセッサやROM、RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成されている。
VCU20は、通信ラインを介して車両2に搭載された各種装置に接続されている。
【0021】
<経路選定システム>
図1及び
図2に示すように、車両2のキャブ21内にはナビゲーション装置3と、無線通信装置4、制御装置5とが設けられている。
これらの装置3~5のそれぞれは、例えばマイクロプロセッサやROM、RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成されている。各装置3~5は、互いにデータ通信可能に接続されている。
【0022】
ナビゲーション装置3は、車両2の測位情報と地図情報とに基づいて、車両2の走行経路を案内する電子制御装置である。ナビゲーション装置3は、図示しない測位アンテナ(いわゆるGPSアンテナ)に接続され、図示しない測位衛星から送信された測位情報を取得可能である。
ナビゲーション装置3には、乗員(ユーザ)の操作により車両2の出発地点および目的地点の入力を受け付ける入力機構や、走行経路を示すマップ画面を表示するディスプレイ装置、及び、走行経路に関する案内音声を出力する音声出力機構が設けられている。
【0023】
地図情報は、車両2が走行可能な道路の配置、形状、車線などを示す地図の情報(経路情報)である。この地図情報には、経路情報だけでなく、地図上の道路における制限速度、勾配、信号機の配置、並びに、道路及び道路周囲の状況に関する付加的情報が含まれてよい。付加的情報の例としては、路面状況、渋滞発生状況、冠水発生状況、交通事故発生状況、工事状況、そのほか各種イベント発生状況などに関する情報(オンタイム情報)が挙げられる。
地図情報は、例えばナビゲーション装置3内の記憶装置(図示省略)に記憶されたものを用いることができるが、これに限られない。地図情報は、ナビゲーション装置3で読み取り可能な記憶媒体やネットワーク(
図1の符号6)上のコンピュータなど、ナビゲーション装置3外部に保存されたものであってもよい。
【0024】
無線通信装置4は、車両2の外部のネットワーク6(
図1参照)を介して無線通信を行うための電子制御装置である。無線通信装置4の具体例として、移動体通信装置、路車間通信装置、車車間通信装置などが挙げられる。
制御装置5は、本実施形態に係る電動車両の走行経路の選定機能を実施する電子制御装置(ECU;Electronic Control Unitの略称)である。
本実施形態の制御装置5は、制御装置5内のメモリ装置に記憶されたソフトウェアプログラムを実行することにより、本実施形態に係る電動車両の経路選定機能を実現する。
【0025】
図1に示すように車両2の外部のネットワーク6上にはデータサーバ7が設けられている。データサーバ7は、後述するバッテリ劣化情報として用いられる走行履歴データを多数格納した記憶装置(図示省略)を含むサーバコンピュータである。
車両2の制御装置5は、ネットワーク6を介してデータサーバ7に格納された走行履歴データを取得できる。データサーバ7に格納された走行履歴データは、いわゆる「ビッグデータ」として扱われるデータである。データサーバ7は、車両2を含む多数の車両で計測済みの走行履歴データを収集し、収集した走行履歴データを記憶装置(図示省略)に格納している。
【0026】
本実施形態で走行履歴データには、バッテリの電流、電圧、温度、内部抵抗及びバッテリ容量の各測定値が含まれる。走行履歴データは、車両2を含む多数の車両のバッテリで逐次測定された上記の各測定値のセットを時系列で記憶したものである。また、バッテリ容量や内部抵抗などからSOH(State of Health)も推定される。SOHは、二次電池の健全度や劣化状態を表す指標であって、初期(未劣化時)の満充電容量を100%として、この初期状態に対する劣化時の満充電容量の割合(%)を表すデータである。
本実施形態の走行履歴データには、車両が過去に走行した走行経路の情報,車両の使用用途の情報が付随して記憶される。
【0027】
[2.制御]
図1に示すように、制御装置5内には、走行経路の選定機能を実施するための機能要素として、候補設定部10、第一取得部11、算出部(走行エネルギー量算出部)12、第二取得部13、劣化予測部14及び決定部15が設けられている。これらの機能要素10~15は、制御装置5の機能を便宜的に分類して示したものであり、制御装置5のハードウェア資源を用いて実行されるソフトウェアとして設けられている。
【0028】
機能要素10~15のうち、候補設定部10は複数の走行経路候補を設定するための要素である。
第一取得部11と算出部12とは、走行経路候補毎に走行エネルギー量を推定するための要素である。第二取得部13と劣化予測部14とは、バッテリ25の劣化について分析及び予測するための要素である。
決定部15は、推定した走行エネルギー量と、バッテリ25の劣化についての分析及び予測結果とに基づいて、複数の走行経路候補のうち1つを最適候補として決定するための要素である。
【0029】
候補設定部10は、車両2の走行に関連する地図情報に基づき、出発地から目的地までの複数の走行経路候補を設定する。複数の走行経路候補は、出発地から目的地へ至る経路のうち任意の複数の走行経路である。任意の複数の走行経路は、距離の短さ(最短)、エネルギー消費量が少ない、電費が良いなどの指標により選別されたものである。
候補設定部10で設定された複数の走行経路候補は、第一取得部11に伝達される。
地図情報に基づき複数の走行経路候補を設定する方法は、周知の技術を利用すればよく、特に限定されない。
【0030】
候補設定部10で用いる地図情報と出発地及び目的地の情報とは、例えば制御装置5がナビゲーション装置3から取得する。なお、地図情報の別の例として、制御装置5に保存されたものや、記憶媒体やネットワーク6上の任意のコンピュータなどから取得したものが挙げられる。出発地及び目的地の別の例として、例えば制御装置5や図示しない情報端末装置など、ナビゲーション装置3以外の機器から入力されたものが挙げられる。出発地及び目的地は、乗員により入力されたものに限らず、予め決められたものでもよい。
【0031】
車両2が荷物の集荷や配送を行う物流用のトラック車両である場合、出発地となる場所の具体例としては、輸送会社の営業所や倉庫の場所,取引先会社の所在地,現在地などが挙げられる。
また、目的地となる場所の具体例としては、荷物の配送先倉庫の場所,待機場所,指定駐車場,パーキングエリアなどが挙げられる。
【0032】
第一取得部11は、候補設定部10で候補として設定された複数の走行経路毎に、走行距離、走行時間及び走行速度の情報を取得(算出)する。
経路毎の走行距離は、その経路に沿って出発地から目的地まで移動した場合の移動距離を示す情報である。走行距離は、地図情報に基づき地図上の経路の長さに基づいて算出される。
【0033】
走行速度は、その経路を走行した場合の車両速度を示す情報である。走行速度としては、その経路を走行した場合の平均車速情報や、その経路を走行した場合の速度変化情報である速度プロファイル(速度と位置または時間との対応関係、あるいはその対応関係を表すグラフや表や数式)が挙げられる。
走行時間は、その経路を走行した場合に必要となる時間を示す情報である。
【0034】
走行時間及び走行速度の情報を取得する方法は公知の技術を利用すればよく、特に限定されない。例えば、走行時間及び走行速度の情報は、過去の走行履歴データからの推定値であってもよいし、リアルタイムデータから推定される推定値であってもよい。走行時間及び走行速度の情報は、地図情報に含まれる制限速度、勾配、信号機の配置、並びに、道路及び道路周囲の状況に関する付加的情報を加味して算出されてもよい。
【0035】
走行速度として平均車速情報を算出する場合、後述の算出部12での演算プロセスが簡易化されるため、演算負荷の低減に寄与する。演算負荷の低減により、車載ECUでの演算処理が可能になる。そのため、車外の演算処理装置との通信が不要となり通信コスト低減にも寄与する。
一方、走行速度として速度プロファイルを算出する場合、平均車速情報を用いる場合に比べて、後述の算出部12による走行エネルギー量の算出精度を向上させることができる。
【0036】
算出部12は、候補として設定された走行経路毎に、車両2がその経路を走行した場合の走行エネルギー量を算出する。走行エネルギー量は、車両2がその経路を走行した場合にモータ23(
図1参照)や補機29を駆動するために消費されるエネルギー量の推定値(計算値)である。これにより、候補として設定された走行経路のうち走行エネルギー量が最も少ない走行経路を特定することができる。
【0037】
走行エネルギー量は、公知の算出方法を用いて算出することができる。例えば、算出部12は、第一取得部11で取得された走行時間及び走行速度と、地図情報に含まれる勾配、信号機の配置等の付加的情報とに基づき、かつ、走行抵抗を考慮して走行エネルギー量を算出する。走行抵抗は、走行時の空気抵抗変動、及び加速抵抗変動、及び勾配抵抗変動、車輪の転がり抵抗からなっている。
【0038】
第二取得部13は、バッテリ劣化情報に基づきバッテリの劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得する。
バッテリ劣化情報とは、バッテリが実際に劣化した状態についての測定データとして、予め用意されたデータである。
本実施形態ではバッテリ劣化情報として、データサーバ7に格納された走行履歴データ群が用いられる。制御装置5は、過去の或る期間にわたりデータサーバ7に蓄積された走行履歴データ群を、バッテリ劣化情報として予め取得する。走行履歴データは、上記のように、バッテリの電流、電圧、温度、内部抵抗及びバッテリ容量の各測定値を時系列で記憶したものである。この走行履歴データには、様々な車両が様々な走行パターンで走行した際の走行履歴データが含まれる。
【0039】
第二取得部13は、バッテリ劣化情報として用いる走行履歴データから、機械学習によりバッテリ25の劣化に起因する劣化因子(劣化要因)を分析して、劣化因子に関する分析情報を得る。
本実施形態の第二取得部13では、機械学習のベースデータとして上記の走行履歴データと、バッテリの基本特性データとが与えられる。基本特性データはバッテリの電流、電圧、温度、内部抵抗及びバッテリ容量を含む。機械学習による分析は、走行履歴データとして与えられたバッテリ容量の劣化(実際に生じたSOHの劣化)に対する電流、電圧及び温度の影響を分析するものと言える。
【0040】
本実施形態の第二取得部13では、第一に、走行履歴データと基本特性データとを用いた機械学習により、バッテリ25の容量の劣化(容量の時間的推移)と内部抵抗の劣化(内部抵抗の時間的推移)とのそれぞれを推定するための計算モデルを作成する。
すなわち、バッテリ25の容量及び内部抵抗の時間的推移を推定するための係数(目的変数)が算出される(第一の分析情報)。
【0041】
本実施形態の第二取得部13では、第二に、走行履歴データと基本特性データとを用いた機械学習により、電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布データを、いくつかの代表温度毎に算出する(第二の分析情報)。
電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布は、走行履歴データの中で或る電流値及び或る電圧値の組み合わせで使用されていた時間(滞在時間)を代表温度毎に分析した情報である。電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布により、バッテリ25の容量劣化及び内部抵抗の劣化を推定することが可能になる。
【0042】
電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布は、電流値及び電圧値の組み合わせ毎の使用頻度によって走行パターン毎の特徴を捉えるものである。
なお、第二取得部13では、電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布に、試験データや経験に基づき、劣化速度の温度依存性や、容量及び抵抗の温度依存性に関する特性、べき乗則などの経験則を加味することができる。これは、劣化予測精度向上に寄与する。
【0043】
図3(a)~(c)は、電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布の一例である。
図3(a)~(c)で縦軸が電流値を示し、横軸が電圧値を示す。使用頻度の高い電流値及び電圧値のエリアがメッシュ入りのブロックで描かれている。図上でメッシュの密度が濃いほど、滞在時間が長いことを示す。
図3(a)~(c)のうち(c)の電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布に特徴づけられた走行パターンは、急速充電や急速放電が含まれた走行パターンであり、劣化を促進しやすいパターンと言える。
【0044】
本実施形態の第二取得部13は、候補設定部10で候補として設定した複数の走行経路毎のバッテリ劣化情報に基づきバッテリの劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得(算出)する。すなわち、第二取得部13では、複数の走行経路毎のバッテリ劣化情報に基づきバッテリの劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得する。複数の走行経路毎のバッテリ劣化情報とは、走行履歴データのうち、これらの走行経路を走行した際の走行履歴データを抽出したものである。これにより、候補として設定された走行経路毎に、バッテリの劣化に起因する劣化因子の分析結果(分析情報)を得ることができる。
【0045】
劣化予測部14は、第二取得部13で取得された劣化因子の分析情報に基づき、劣化因子レベルを予測する。
本実施形態の劣化予測部14では、第二取得部13で取得されたバッテリの容量及び内部抵抗の時間的推移を推定するための係数(目的変数,第一の分析情報)と、流値及び電圧値ごとの滞在時間分布(説明変数,第二の分析情報)とに基づく学習処理により、バッテリの容量の劣化及び内部抵抗の劣化を予測する予測モデルを構築する。
【0046】
本実施形態の劣化予測部14では、ペイズ推定などの機械学習的手法を用いた学習処理により、上記の予測モデルを構築する。具体的に言えば、第一に、任意の走行条件、使用温度、使用期間および測定温度における容量劣化予測モデルと抵抗劣化予測モデルとが予測結果(出力)として生成される。機械学習的手法を用いた学習処理は、経験や知見を予測モデルに利用できる。そのため、学習処理に用いるデータ量が少ない場合であっても、精度の良い予測モデルを構築することが可能である。
図4(a)は容量劣化予測モデルの一例であり、
図4(b)は抵抗劣化予測モデルの一例である。
図4(a),(b)において横軸は時間を示す。
図4(a)の縦軸は容量を、(b)の縦軸は抵抗をそれぞれ示す。
【0047】
この容量劣化予測モデルと抵抗劣化予測モデルとにより、劣化推移の予測範囲が推定可能になる。なお、劣化推移の予測は、容量劣化予測モデルと抵抗劣化予測モデルとの両方を用いても可能であるし、一方だけを用いても可能である。すなわち、車両2の走行条件、使用温度、使用期間および測定温度などから、容量劣化予測モデル及び/又は抵抗劣化予測モデルに基づき、バッテリ25の将来の劣化が予想されるか否か判定できる。ここで、走行条件として、走行経路を加味すれば走行経路毎に将来の劣化が予想されるか否か判定できる。
【0048】
本実施形態の劣化予測部14では、第二に、電流値及び電圧値の組み合わせ毎にバッテリの劣化に対する影響度の大きさを、代表温度毎にプロットしたヒートマップが予測結果(出力)として生成される。代表温度は例えば0度、25度、45度及び55度の四通りある。
図5は代表温度毎のヒートマップの一例である。
図5で縦軸が電流値を示し、横軸が電圧値を示す。バッテリの劣化に対する影響度の大きい電流値及び電圧値の組み合わせのエリアがメッシュ入りのブロックで描かれている。図上でメッシュの密度が濃いほど、影響度が大きいことを示す。このヒートマップより、任意の走行条件として与えられた電流値及び電圧値の組み合わせのうち、組み合わせが劣化に対する影響が大きいのかが分かる。
【0049】
本実施形態では、バッテリの劣化に対する劣化因子の影響度の大きさを「劣化因子レベル」と称する。例えば、図上でメッシュの密度が濃い電流値及び電圧値の組み合わせほど、劣化因子レベルが高いと言える。
図5のヒートマップは、電流値及び電圧値の組み合わせ毎の劣化因子レベルを予測するものと言える。
上記より、車両2の走行経路候補毎に電流値及び電圧値を得ることができれば、走行経路候補毎の劣化に対する影響を評価することが可能となる。すなわち、劣化因子レベルの低い電流値及び電圧値の組み合わせを使用する走行経路ほど、バッテリ25の劣化を抑制しやすい。反対に劣化因子レベルの高い電流値及び電圧値の組み合わせを使用する走行経路ほど、バッテリ25の劣化を促しやすい。
【0050】
決定部15は、算出部12で算出した経路毎の走行エネルギー量と劣化予測部14での予測結果とに基づき、候補設定部10で設定された複数の走行経路候補の中から最適経路を決定する。
決定部15は、経路毎の走行エネルギー量に基づき、複数の走行経路候補の中から走行エネルギー量が最小となる走行経路を選定することができる。走行エネルギー量が最小となる走行経路は、候補に設定された走行経路の中でバッテリ25の電力消費量を最小に抑える走行経路である。
【0051】
決定部15は、経路毎の劣化因子レベルに基づき、複数の走行経路候補の中から劣化因子レベルが最小の走行経路を選定することができる。劣化因子レベルが最小の走行経路は、複数の走行経路候補の中でバッテリ25の劣化を最小に抑える走行経路であり、いわば「バッテリにやさしい」走行経路である。
【0052】
本実施形態の決定部15は、将来バッテリ25の劣化が予想されるか否かを第一の条件として、走行経路候補の中から、電力消費量が最小の走行経路又は劣化因子レベルが最小の走行経路を選択する。将来バッテリ25の劣化が予想されるか否かは、劣化予測部14で予測した容量劣化予測モデルと抵抗劣化予測モデルとに基づき判断できる。
第一の条件は、将来バッテリ25の劣化のおそれがない状態では、エネルギーコストを低減するとともに航続可能距離を確保(言い換えれば電力消費量を抑制)する観点から設定されている。
【0053】
将来バッテリ25の劣化が予想される場合には、走行エネルギー量が最小となる走行経路を走行した場合の劣化因子レベルが閾値以上か否かを第二の条件として、電力消費量が最小の走行経路又は劣化因子レベルが最小の走行経路を選択する。
第二の条件は、将来バッテリ25の劣化が予想される場合であっても劣化因子レベルが小さい場合にはエネルギーコストの低減と航続可能距離の確保を優先する観点から設定されている。劣化因子レベルの閾値は、劣化因子レベルによるバッテリ劣化の影響の大小を判断する基準値として任意に設定された値である。
【0054】
決定部15では、第二の条件の判断のため、走行エネルギー量が最小の走行経路について、この走行経路を走行した場合の電流値及び電圧値を算出する。
決定部15は、上記の算出した電流値及び電圧値について、
図5のヒートマップを用いて劣化因子レベルを特定する。具体的には、バッテリ25の測定温度に応じて
図5のヒートマップの一つを選択し、選択したヒートマップに上記の電流値及び電圧値を当てはめることで、劣化因子レベルを算出できる。
劣化因子レベルは、影響度の重みに時間を乗じた数値で表すことができる。
【0055】
走行エネルギー量が最小の走行経路について、電流値及び電圧値を算出する手法の一例を説明する。
算出部12で算出した走行エネルギー量が既知であるため、決定部15は、走行エネルギー量が最小の走行経路を走行する場合の時間毎における電力(パワー)[kW]を取得できる。この電力から走行エネルギー量が最小の走行経路を走行する場合の電流値及び電圧値を推定することができる。
【0056】
具体的に言えば、算出部12は、本走行経路の探索開始時のバッテリ25の初期SOC[%]を取得するとともに、本走行経路の走行エネルギー量に基づいて時間毎の電力消費量[kWh]を取得する。次に、決定部15は、既知のSOCと容量の関係から時系列のSOCを求めるとともに、既知のSOCと電圧の関係から時系列の電流値を算出する。かくして、本走行経路の電流値及び電圧値を算出することができる。
【0057】
上記のように算出した電流値及び電圧値(劣化因子)の劣化因子レベルが閾値未満である場合、決定部15は、エネルギーコストを低減するとともに航続可能距離を確保する観点から、走行エネルギー量が最小となる走行経路を最適経路として決定する。
この場合、バッテリ25の劣化の懸念が少ないため、電力消費量の抑制を優先できるからである。
【0058】
一方、算出した電流値及び電圧値(劣化因子)の劣化因子レベルが閾値以上である場合、決定部15は、バッテリ25のライフサイクルにおける航続可能距離を確保する観点(言い換えればバッテリ25の劣化を抑制する観点)から、複数の走行経路候補の中から劣化因子レベルの最も低い走行経路を最適経路として決定する。
この場合、バッテリ25の劣化が懸念されるので、電力消費量の抑制よりもバッテリ25の劣化の抑制を優先するためである。
【0059】
ここで、劣化因子レベルが最小の走行経路を選定するにあたり、本実施形態の決定部15は、走行経路候補を再設定(再探索)したうえで、劣化因子レベルが最小の走行経路を最適経路として決定している。すなわち、決定部15は、候補設定部10での候補の設定に比べて、最小エネルギーとなる走行経路をベースに、劣化因子が低い経路を選定して、複数の走行経路候補を再設定する。
そして、決定部15は、再設定した走行経路の中から、劣化因子レベルが最小の走行経路を最適経路として決定している。これにより、走行エネルギー量が最小の走行経路を加味して劣化因子レベルが最小の走行経路を、最適経路として決定するためである。
【0060】
[3.方法]
次に、本実施形態に係る電動車両2の走行経路選定方法について説明する。
この走行経路選定方法は、上述した制御装置5内の機能要素10~15が実施する各種工程を備えたものである。すなわち、方法には、機能要素10~15のそれぞれに対応する候補設定工程と、第一取得工程と、算出工程と、第二取得工程と、劣化予測工程と、決定工程とが含まれている。
【0061】
図6は、上述した制御装置5内の機能要素10~15が実施する走行経路選定システムの処理手順(すなわち上記の走行経路選定方法)の一例を示すフローチャートである。
本フローチャートは、例えば車両2の乗員が走行経路の選定を指示(出発地と目的地とを入力)したときに起動する。
【0062】
ステップS1において、候補設定部10は出発地から目的地までの複数の走行経路候補を設定する(候補設定工程)。ステップS2において、第一取得部11は走行経路候補毎の走行時間及び走行速度の情報を取得する(第一取得工程)。ステップS3において、算出部12は走行経路候補毎の走行エネルギー量を算出する(算出工程)。
ステップS4において、決定部15はステップS3で算出した走行経路候補毎の走行エネルギー量に基づいて走行エネルギー量が最小の走行経路を選定できる(決定工程の一部)。
【0063】
ステップS5において、第二取得部13は、走行経路候補毎に、バッテリが劣化した状態を示すデータとして予め用意されたバッテリ劣化情報に基づき、バッテリ25の劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得する(第二取得工程)。
ステップS6において、劣化予測部14は、第二取得工程で取得された分析情報に基づき、走行経路候補毎にバッテリ25の劣化に対する劣化因子の影響度の大きさを表す劣化因子レベルを予測する(劣化予測工程)。本実施形態の方法では、本ステップS6において、劣化因子レベルとともに容量劣化予測モデルと抵抗劣化予測モデルとを得ている。
【0064】
ステップS7~S12において決定部15は、ステップS3で算出された走行エネルギー量とステップS6で予測された劣化因子レベルとに基づき、複数の走行経路候補の中から最適経路を決定する(決定工程)。
具体的には、ステップS7において、決定部15は、容量劣化予測モデルと抵抗劣化予測モデルとに基づきバッテリ25の将来の劣化が予測されるか否か判断する。
【0065】
将来の劣化が予測される場合(ステップS7のYes)、ステップS8において、決定部15は、ステップS4で選定した走行エネルギー量が最小の走行経路を走行する場合の電流値及び電圧値を算出する。ステップS9において、決定部15は、算出した電流値及び電圧値を、劣化予測部14で算出したヒートマップ(
図5参照)に当て嵌めて、算出した電流値及び電圧値に対応する劣化因子レベルの値を取得する。
ステップS9で取得した劣化因子レベルが閾値以上の場合(ステップS10のYes)、決定部15は、ステップS11において複数の走行経路候補を再設定(再探索)し、ステップS12において再設定された複数の走行経路候補の中から、劣化因子レベルが最小の走行経路を選定する。
【0066】
そして、バッテリ25のSOHが所定値より大きい健全な状態であれば(ステップS13のNo)、処理をリターンする。そのため、劣化因子レベルが最小の走行経路が最適経路として決定される。
一方、将来の劣化が予測されない場合(ステップS7のNo)、又は、ステップS9で取得した劣化因子レベルが閾値未満の場合(ステップS10のNo)、ステップS11及びS12の処理を行わずに、ステップS4で選定された走行エネルギー量が最小の走行経路が最適経路として決定される。
なお、
図6のフローチャートではステップS13でバッテリ25のSOHを確認している。バッテリ25のSOHが所定値より大きい健全な状態であれば(ステップS13のNo)、そのまま処理をリターンする。バッテリ25のSOHが所定値以下の不健全な状態(劣化した状態)であれば(ステップS13のYes)、ステップS14においてバッテリ交換の警告が出力される。
【0067】
[4.作用効果]
以上説明した本実施形態の経路選定システム1及び経路選定方法は以下のような作用効果を奏する。
(1)本件の経路選定システム1(経路選定方法)は、候補設定部10、第一取得部11、算出部12を備えており、第一取得部11で算出した走行速度及び走行距離に基づき走行エネルギー量を推定しているので、複数の走行経路候補のそれぞれで実質的に必要となる走行エネルギー量をより正確に推定できる。また、第二取得部13及び劣化予測部14により、走行経路毎にバッテリの劣化因子を分析したうえで劣化因子レベルを予測することができる。そして、決定部15により走行エネルギー量と劣化因子レベルとに基づき、複数の走行経路候補の中から最適経路を決定できる。そのため、目的地までに実質的に必要となる総消費エネルギーをより正確に推定できると共に、走行によるバッテリ25の劣化を考慮した走行経路を選定することができる。
【0068】
(2)決定部15では劣化因子レベルが所定の閾値以上である場合に劣化因子レベルが最小となる走行経路を最適経路として選定するため、バッテリ25の劣化を抑制しうる。
(3)決定部15では劣化因子レベルが所定の閾値以上である場合に、複数の走行経路候補を再設定したうえで、再設定された複数の走行経路候補の中から劣化因子レベルが最小となる走行経路を最適経路として決定する。走行経路候補を再設定する際に走行経路候補設定に劣化度合も考慮できるので、走行エネルギー量が最小の走行経路を加味して劣化因子レベルが最小の走行経路を決定しやすくなる。
(4)決定部15は、劣化因子レベルが所定の閾値未満の場合、算出部12で算出された走行エネルギー量が最小となる走行経路を最適経路として選定するため、エネルギーコストを低減するとともに航続可能距離を確保することができる。
【0069】
(5)バッテリ劣化情報は、電流、電圧温度、内部抵抗及びバッテリ容量の各測定値からなるデータセットを時系列で記録した走行履歴データである。
(6)第二取得部13は、走行履歴データに基づく機械学習により、バッテリの容量劣化及び内部抵抗の劣化を推定するための係数と、電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布データとを前記分析情報として取得する。を示す第二の分析情報とを取得する。
(7)劣化予測部14は、劣化因子レベルに加えて、機械学習的手法を用いた学習処理により、バッテリの容量劣化を予測するための容量劣化予測モデルとバッテリの内部抵抗劣化を予測するための抵抗劣化予測モデルとを生成する。
(5)~(7)によれば、走行履歴データに基づいて精度よく劣化因子の分析をしたり、バッテリの劣化を予測したりできる。
【0070】
[5.その他]
変形例として、決定部15において、バッテリ25の将来の予測された劣化度に応じて最適経路の決定に重みづけがされてもよい。
図7は、バッテリ25の将来の予測された劣化度に応じて最適経路の決定に重みづけするテーブルの構成例である。劣化度は、健全な状態を0%とし劣化の進行に応じて数値が増加するパラメータである。バッテリ25の劣化度は、劣化予測部14で予測した劣化因子レベル等に基づき取得される。
図7に示すように、劣化度が低い(健全な)状態では電力消費量の優先度が高い(数値が大きい)、すなわち、走行エネルギー量が最小の走行経路が優先的に選定される。反対に、劣化度が高くなるほど(劣化が進むほど)劣化抑制の優先度が高くなる(数値が大きい)、すなわち、劣化因子レベルが最小の走行経路が優先的に選定されやすくなる。
これにより、将来の予測された劣化度を考慮した最適経路の決定ができる。
【0071】
また、決定部15において、走行経路候補のうち一定の劣化要因が含まれる走行経路については、走行エネルギー量に関わらず候補から除外するようにしてもよい。一定の劣化要因は、例えばバッテリ25の劣化に対する影響が甚大な劣化要因である。このような劣化要因を含む走行経路を除外することで、より劣化抑制性に考慮した走行経路の選定が可能となる。
【0072】
上述した実施形態では、制御装置5の各種機能要素10~15が走行経路選定システムの処理を実施する構成例を説明したが、これに限らず、例えばナビゲーション装置3などなど制御装置5以外の電子制御装置に走行経路選定システムの処理を実施する機能要素が設けられていてもよい。
【0073】
[6.付記]
上記の変形例を含む実施形態に関し、以下の付記を開示する。
(付記1)
バッテリを走行エネルギー源としてモータの駆動力によって走行する電動車両の走行経路選定システムであって、
前記電動車両の走行に関連する地図情報に基づき、出発地から目的地までの複数の走行経路候補を設定する候補設定部と、
前記候補設定部で設定された前記走行経路候補毎の走行時間及び走行速度の情報を取得する第一取得部と、
前記第一取得部で取得された前記走行時間及び前記走行速度の情報に基づき、前記モータを駆動するために消費される走行エネルギー量を前記走行経路候補毎に算出する算出部と、
前記走行経路候補毎に、前記バッテリが劣化した状態を示すデータとして予め用意されたバッテリ劣化情報に基づき、前記バッテリの劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得する第二取得部と、
前記第二取得部で取得された前記分析情報に基づき、前記走行経路候補毎に前記バッテリの劣化に対する前記劣化因子の影響度の大きさを表す劣化因子レベルを予測する劣化予測部と、
前記算出部で算出された前記走行エネルギー量と前記劣化予測部で予測された前記劣化因子レベルとに基づき、前記複数の前記走行経路候補の中から最適経路を決定する決定部と、を備えた
ことを特徴とする、電動車両の走行経路選定システム。
(付記2)
前記決定部は、前記劣化因子レベルが所定の閾値以上である場合に、前記劣化予測部で予測された前記劣化因子レベルが最小となる走行経路を最適経路として決定する
ことを特徴とする、付記1に記載の電動車両の走行経路選定システム。
(付記3)
前記決定部は、前記劣化因子レベルが所定の閾値以上である場合、複数の前記走行経路候補を再設定したうえで、再設定された前記複数の前記走行経路候補の中から前記劣化因子レベルが最小となる走行経路を最適経路として決定する
ことを特徴とする、付記2に記載の電動車両の走行経路選定システム。
(付記4)
前記決定部は、前記劣化因子レベルが所定の閾値未満の場合、前記走行エネルギー量算出部で算出された前記走行エネルギー量が最小となる走行経路を最適経路として決定する
ことを特徴とする、付記1~3の何れか1項に記載の電動車両の走行経路選定システム。
(付記5)
前記バッテリ劣化情報は、電流値、電圧値、温度、内部抵抗及びバッテリ容量の各測定値からなるデータセットを時系列で記録した走行履歴データである
ことを特徴とする、付記1~4の何れか1項に載の電動車両の走行経路選定システム。
(付記6)
前記第二取得部は、前記走行履歴データに基づく機械学習により前記分析情報として、前記バッテリの容量劣化及び内部抵抗の劣化を推定するための係数を第一の分析情報と、前記電流値及び電圧値ごとの滞在時間分布データを示す第二の分析情報とを取得する
ことを特徴とする、付記5に記載の電動車両の走行経路選定システム。
(付記7)
前記劣化予測部は、前記劣化因子レベルに加えて、機械学習的手法を用いた学習処理により、前記バッテリの容量劣化を予測するための容量劣化予測モデルと前記バッテリの内部抵抗劣化を予測するための抵抗劣化予測モデルとを生成する
ことを特徴とする、付記6に記載の電動車両の走行経路選定システム。
(付記8)
前記決定部は、前記劣化因子レベルに基づいて前記バッテリの将来の予測された劣化度を算出するとともに、前記劣化度が低いほど前記走行エネルギー量が最小となる走行経路を優先的に最適経路として決定し、前記劣化度が高いほど前記劣化因子レベルが最小となる走行経路を優先的に最適経路として決定する
ことを特徴とする、付記1~7の何れか1項に記載の電動車両の走行経路選定システム。
(付記9)
バッテリを走行エネルギー源としてモータの駆動力によって走行する電動車両の走行経路選定方法であって、
前記電動車両の走行に関連する地図情報に基づき、出発地から目的地までの複数の走行経路候補を設定する候補設定工程と、
前記候補設定部で設定された前記走行経路候補毎の走行時間及び走行速度の情報を取得する第一取得工程と、
前記第一取得部で取得された前記走行時間及び前記走行速度の情報に基づき、前記モータを駆動するために消費される走行エネルギー量を前記走行経路候補毎に算出する算出工程と、
前記走行経路候補毎に、前記バッテリが劣化した状態を示すデータとして予め用意されたバッテリ劣化情報に基づき、前記バッテリの劣化に起因する劣化因子を分析した分析情報を取得する第二取得工程と、
前記第二取得部で取得された前記分析情報に基づき、前記走行経路候補毎に前記バッテリの劣化に対する前記劣化因子の影響度の大きさを表す劣化因子レベルを予測する劣化予測工程と、
前記算出部で算出された前記走行エネルギー量と前記劣化予測部で予測された前記劣化因子レベルとに基づき、前記複数の前記走行経路候補の中から最適経路を決定する決定工程と、を備えた
ことを特徴とする、電動車両の走行経路選定方法。
【符号の説明】
【0074】
1 経路選定システム
2 電動車両
3 ナビゲーション装置
4 無線通信装置
5 制御装置
6 ネットワーク
7 データサーバ
10 候補設定部
11 第一取得部
12 算出部
13 第二取得部
14 劣化予測部
15 決定部
21 キャブ
22 シャシフレーム
23 電動モータ
24 インバータ
25 バッテリ
26 車載充電器
27 DC-DCコンバータ
29 補機