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特開2024-40883層形成方法、基材再生方法、及び印刷物製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040883
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】層形成方法、基材再生方法、及び印刷物製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20240318BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 112
B41J2/01 123
B41J2/01 125
B41J2/01 129
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145524
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】川上 剛史
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
【Fターム(参考)】
2C056EA19
2C056EC14
2C056EC29
2C056EC37
2C056FB02
2C056HA42
2C056HA44
2C056HA46
2H186AA12
2H186AA15
2H186AB11
2H186AB12
2H186AB23
2H186BA11
2H186BB05X
2H186BB22X
2H186BC05X
2H186BC51X
2H186BC54X
2H186DA09
(57)【要約】
【課題】基材の再利用が容易であり、しかも人や環境へのリスクを小さくできる層形成方法を提供する。
【解決手段】層形成方法は、紫外線硬化剤と水とを含有する水性組成物を基材に塗布または吐出する塗布工程と、上記基材に塗布又は吐出された上記水性組成物を乾燥する乾燥工程と、を備え、上記水性組成物による剥離可能な塗膜層を上記基材に形成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化剤と水とを含有する水性組成物を基材に塗布または吐出する塗布工程と、
上記基材に塗布又は吐出された上記水性組成物を乾燥する乾燥工程と、を備え、
上記水性組成物による剥離可能な塗膜層を上記基材に形成する層形成方法。
【請求項2】
インクジェットヘッドにより上記水性組成物を上記基材に吐出する請求項1に記載の層形成方法。
【請求項3】
上記塗膜層は、印刷層であることを特徴とする請求項1に記載の層形成方法。
【請求項4】
上記水性組成物は、色材を含む水性インクであり、
上記塗布工程は、上記基材に上記水性インクを塗布又は吐出する印刷工程である請求項1に記載の層形成方法。
【請求項5】
上記基材に塗布又は吐出された上記塗膜層上に印刷インクを吐出又は塗布する印刷工程を更に備え、
上記乾燥工程は、上記印刷工程の後または上記塗布工程と上記印刷工程との間に実行する請求項1に記載の層形成方法。
【請求項6】
上記乾燥工程は、上記塗布工程において上記基材に塗布又は吐出された上記水性組成物を50℃から220℃の範囲内の温度で乾燥させる工程である請求項1から5のいずれかに記載の層形成方法。
【請求項7】
上記乾燥工程は、上記塗布工程において上記基材に塗布又は吐出された上記水性組成物を50℃から150℃の範囲内の温度で乾燥させる工程である請求項1から5のいずれかに記載の層形成方法。
【請求項8】
上記水性組成物は、上記紫外線硬化剤として光重合開始剤及び重合性化合物を含んでおり、上記光重合開始剤と上記重合性化合物とが上記水に溶解した状態である請求項1から5のいずれかに記載の層形成方法。
【請求項9】
上記水性組成物は、上記塗膜層を形成する樹脂成分を含んでおり、上記樹脂成分が上記水に分散したエマルジョンの状態である請求項1から5のいずれかに記載の層形成方法。
【請求項10】
上記基材は、非浸透性基材である請求項9に記載の層形成方法。
【請求項11】
上記基材は、透明基材である請求項10に記載の層形成方法。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載の層形成方法により形成された塗膜層に対し、ピーク波長が200nmから400nmの範囲内である紫外線を照射する照射工程を備える基材再生方法。
【請求項13】
請求項1から5のいずれかに記載の層形成方法により形成された塗膜層に対し、ピーク波長が350nmから400nmの範囲内である紫外線を照射する照射工程を備える基材再生方法。
【請求項14】
上記照射工程は、上記基材の上記塗膜層が形成された表面に上記紫外線を照射する工程である請求項12または13に記載の基材再生方法。
【請求項15】
上記照射工程において、上記基材の上記塗膜層が形成された表面とは反対の裏面に上記紫外線を照射する請求項12または13に記載の基材再生方法。
【請求項16】
紫外線硬化剤と水とを含有する水性組成物を基材に塗布または吐出する塗布工程と、
上記基材に塗布又は吐出された上記水性組成物を乾燥する乾燥工程と、を備え、
上記水性組成物による剥離可能な印刷層を基材に形成する印刷物製造方法。
【請求項17】
上記水性組成物は、上記紫外線硬化剤として光重合開始剤及び重合性化合物を含んでおり、上記光重合開始剤と上記重合性化合物とが上記水に溶解した状態である請求項16に記載の印刷物製造方法。
【請求項18】
上記水性組成物は、樹脂成分を含んでおり、上記樹脂成分が上記水に分散したエマルジョンの状態である請求項17に記載の印刷物製造方法。
【請求項19】
上記基材は、非浸透性の透明基材である請求項16から18のいずれかに記載の印刷物製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離可能な塗膜層を基材に形成する層形成方法、基材再生方法、及び印刷物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりによりリサイクルが注目されている。印刷分野ではパッケージ等に印刷が施された商品の使用後に、パッケージ等からインクを取り除き、パッケージ等を構成する基材をリサイクルする必要性が叫ばれている。一例として、プラスチックを使用したパッケージ又はプラスチックボトル等のプラスチック製品は海洋における環境汚染問題となっている。例えば、プラスチックは自然界で分解しにくいことから、一部は分別・回収されており、リサイクルされている。しかしながら、印刷等が施されたプラスチック製品がリサイクル過程において混入すると、リサイクル品が着色されることから、再利用できないケースが存在する。このような印刷等が施されたプラスチック製品は、再利用されず廃棄されることがある。廃棄されたプラスチック製品が最終的に海洋に行き着いた場合、プラスチック製品は海水中で分解されてマイクロプラスチックとなる。魚類などの海洋生物がマイクロプラスチックを摂取すれば、海洋生物の体内中で濃縮される。このとき、人間がこのような海洋生物を食料として摂取すると、人間の健康にも影響することが懸念される。このような問題はプラスチックに限らず、印刷が施される他の素材の基材に対しても言える問題と考えられる。
【0003】
印刷等が施された基材をリサイクルする観点から、基材から印刷物を除去する方法が従来から検討されている。例えば、特許文献1の記録媒体形成方法は、透明な記録媒体の表面に、紫外線硬化型の成分を含有する粘着剤層と基材層とからなる除去可能な膜を形成する工程と、除去可能な膜の基材層の表面上に画像を形成する工程と、を備える。上記記録媒体形成方法では、作業者は、透明な記録媒体を再利用する際に、除去可能な膜に紫外線を照射して除去可能な膜を硬化させることにより、除去可能な膜の透明な記録媒体への密着力を低下させて、除去可能な膜を透明な記録媒体から除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-98648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記記録媒体形成方法では、油系の組成物が作業者に暴露するリスクや、油系の組成物が環境に悪影響を及ぼすリスクがある。また、除去可能な膜の粘着剤層が油系の組成物で構成されているため、透明樹脂フィルムからなる透明な記録媒体と粘着剤層との密着性は高くなる。その一方で、リサイクル過程において紫外線を照射しても、粘着剤層が透明な記録媒体から除去し難くなるおそれがあり、仮に除去できたとしても、粘着剤層成分の透明な記録媒体への浸食等により基材特性を変化させやすく、透明な記録媒体を再利用できなくなるおそれがあった。
【0006】
本発明の目的は、基材の再利用が容易であり、しかも人や環境へのリスクを小さくできる層形成方法、基材再生方法、及び印刷物製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る層形成方法は、紫外線硬化剤と水とを含有する水性組成物を基材に塗布又は吐出する塗布工程と、上記基材に塗布又は吐出された上記水性組成物を乾燥する乾燥工程と、を備え、上記水性組成物による剥離可能な塗膜層を上記基材に形成する層形成方法である。
【0008】
本発明によれば、基材に形成された塗膜層中には紫外線硬化剤が存在するので、作業者は、塗膜層に紫外線を照射して層を硬化させることができる。その結果、層の基材への密着力が低下するので、作業者は、層を基材から剥離させて基材を再利用することができる。剥離可能な塗膜層は水性組成物の層であることから、人や環境へのリスクを小さくできる。しかも、プラスチックのような基材に塗膜層が形成された場合であっても、塗膜層及び基材間の密着性を適切に制御でき、過度な密着を低減できる。このため、当該層形成方法により基材に印刷をした後のリサイクル過程において、当該層に紫外線を照射することで、層を基材から容易に剥離することができる。したがって、基材の再利用が容易である。また、基材の特性の変化が抑制されるので、層を基材から剥離した後の基材の再利用性を向上させることができる。従って、プラスチックを含め、多種多様な基材に対する印刷を可能とし、印刷後のリサイクル性を向上させることができる。
【0009】
(2)上記層形成方法は、インクジェットヘッドにより上記水性組成物を上記基材に吐出してもよい。
【0010】
塗膜層を基材に容易に形成することができる。
【0011】
(3)塗膜層は、印刷層であってもよい。
【0012】
基材への塗膜層の形成によって印刷層が形成されるので、余分な塗膜層を削減することができる。また、局所的に塗膜層を形成することが出来るため、水性組成物の跡残りを削減することができる。
【0013】
(4)上記水性組成物は、色材を含む水性インクであってもよい。上記塗布工程は、上記基材に上記水性インクを塗布又は吐出する印刷工程であってもよい。
【0014】
水性組成物は、色材を含む水性インクであるので、塗布工程は、水性インクによる印刷を実行する役割を果たす。このため、基材への塗膜膜の形成によって画像が形成されるので、塗膜層を基材の表面に形成する工程の後に、画像を形成する工程が行われる場合に比べて、印刷が容易である。そして、水性組成物は、リサイクル時において、紫外線照射により基材から剥離されることにより、印刷インクを基材から除去する役割を果たす。このため、印刷時間を短縮しつつ、基材のリサイクルを可能とした、環境性の高い層形成方法を提供できる。
【0015】
(5)上記層形成方法は、上記基材に塗布又は吐出された上記塗膜層上に印刷インクを吐出又は塗布する印刷工程を更に備えてもよい。上記乾燥工程は、上記印刷工程の後または上記塗布工程と上記印刷工程との間に実行してもよい。
【0016】
水性組成物は、印刷工程において、印刷インクによる印刷の下地になる役割を果たす。そして、水性組成物は、リサイクル時において、紫外線照射により印刷インクの層ごと基材から剥離されることにより、印刷インクの層を基材から除去する役割を果たす。このため、基材のリサイクルを可能とした、環境性の高い層形成方法を提供できる。
【0017】
(6)上記乾燥工程は、上記塗布工程において上記基材に塗布又は吐出された上記水性組成物を50℃から220℃の範囲内の温度で乾燥させる工程であってもよい。
【0018】
水性組成物の基材への密着性を向上させることができる。
【0019】
(7)上記乾燥工程は、上記塗布工程において上記基材に塗布又は吐出された上記水性組成物を50℃から150℃の範囲内の温度で乾燥させる工程であってもよい。
【0020】
乾燥工程において水性組成物内の樹脂成分の造膜性を高めて基材への密着性を適切に制御し、紫外線硬化成分の硬化性能を保つことができる。このため、その後のリサイクル過程における当該水性組成物による層の剥離性を向上させることができる。
【0021】
(8)上記水性組成物は、上記紫外線硬化剤として光重合開始剤及び重合性化合物を含んでいてもよい。上記光重合開始剤と上記重合性化合物とが上記水に溶解した状態であってもよい。
【0022】
光重合開始剤と重合性化合物とが水に溶解した状態であるので、水に溶解しない油系の紫外線硬化剤が用いられる場合に比べて、人や環境へのリスクを低減することができる。
【0023】
(9)上記水性組成物は、上記層を形成する樹脂成分を含んでいてもよい。上記水性組成物は、上記樹脂成分が上記水に分散したエマルジョンの状態であってもよい。
【0024】
乾燥工程において水性組成物を乾燥させたときに、樹脂成分が基材に均一に定着しやすくなる。
【0025】
(10)上記基材は、非浸透性基材であってもよい。
【0026】
塗布工程が実行されたときに、水性組成物の樹脂成分が基材に浸透することが抑制される。このため、上記層形成方法によって形成された印刷物のリサイクル過程において、当該印刷物に紫外線を照射することで容易に塗膜層を除去することができる。
【0027】
(11)上記基材は、透明基材であってもよい。
【0028】
塗布工程が実行されたときに、水性組成物の樹脂成分が透明基材に浸透することが抑制される。このため、上記層形成方法によって形成された印刷物のリサイクル過程において、当該印刷物に紫外線を照射することで容易に塗膜層を除去することができる。
【0029】
(12)本発明に係る基材再生方法は、上記層形成方法により形成された塗膜層に対し、ピーク波長が200nmから400nmの範囲内である紫外線を照射する照射工程を備える。
【0030】
基材上の膜中に存在する紫外線硬化剤が膜を硬化させることにより、塗膜層の基材への密着力を低下させるので、塗膜層が基材から容易に剥離される。このため、基材を容易にリサイクルすることが可能となる。また、物理的な方法又は化学的な方法で基材をリサイクルする従来の方法と比して、リサイクル過程における基材の損傷を抑制することができ、基材を再生できる回数を向上させることができる。
【0031】
(13)本発明に係る基材再生方法は、上記層形成方法により形成された塗膜層に対し、ピーク波長が350nmから400nmの範囲内である紫外線を照射する照射工程を備える。
【0032】
基材上の膜中に存在する紫外線硬化剤が膜を硬化させることにより、塗膜層の基材への密着力を低下させるので、塗膜層が基材から容易に剥離される。このため、基材を容易にリサイクルすることが可能となる。物理的な方法又は化学的な方法で基材をリサイクルする従来の方法と比して、リサイクル過程における基材の損傷を抑制することができ、基材を再生できる回数を向上させることができる。
【0033】
(14)上記照射工程において、上記基材の上記塗膜層が形成された表面に上記紫外線を照射してもよい。
【0034】
膜中に存在する紫外線硬化剤が膜を硬化しやすくなるので、膜の基材からの剥離性を向上させることができる。
【0035】
(15)上記照射工程において、上記基材の上記塗膜層が形成された表面とは反対の裏面に上記紫外線を照射してもよい。
【0036】
基材の塗膜層が形成される表面の劣化を抑制しつつ、膜中に存在する紫外線硬化剤が膜を硬化させることができる。
【0037】
(16)本発明に係る印刷物製造方法は、紫外線硬化剤と水とを含有する水性組成物を基材に塗布又は吐出する塗布工程と、上記基材に塗布又は吐出された上記水性組成物を乾燥する乾燥工程と、を備え、上記水性組成物による剥離可能な印刷層を基材に形成する方法である。
【0038】
本発明によれば、基材に形成された印刷層中には紫外線硬化剤が存在するので、作業者は、印刷層に紫外線を照射して印刷層を硬化させることができる。その結果、印刷層の基材への密着力が低下するので、作業者は、印刷層を基材から剥離させて基材を再利用することができる。剥離可能な印刷層は水性組成物により形成されることから、人や環境へのリスクを小さくできる。しかも、プラスチックのような基材に印刷層が形成された場合であっても、印刷層及び基材間の密着性を適切に制御でき、過度な密着を低減できる。このため、当該印刷物製造方法により印刷層を基材に形成した後のリサイクル過程において、当該印刷層に紫外線を照射することで、印刷層を基材から容易に剥離することができる。したがって、基材の再利用が容易である。また、基材の特性の変化を抑制できることから、印刷層を基材から剥離した後の基材の再利用性を向上させることができる。従って、プラスチックを含め、多種多様な基材に対する印刷を可能とし、印刷後のリサイクル性を向上させることができる。なお、「紫外線硬化剤と水とを含有する水性組成物により、剥離可能な印刷層を基材に形成する」とは、水性組成物に色材が含有され、水性組成物の印刷層を基材に形成する形態、及び色材が含有されない水性組成物の塗膜層を基材に形成し、当該塗膜層の上に色材を含有するインクの色材層を形成し、塗膜層及び色材層で形成される印刷層を基材に形成する形態の両方を含む。
【0039】
(17)上記水性組成物は、上記紫外線硬化剤として光重合開始剤及び重合性化合物を含んでいてもよい。上記光重合開始剤と上記重合性化合物とが上記水に溶解した状態であってもよい。
【0040】
光重合開始剤と重合性化合物とが水に溶解した状態であるので、水に溶解しない油系の紫外線硬化剤が用いられる場合に比べて、人や環境へのリスクを低減することができる。
【0041】
(18)上記水性組成物は、樹脂成分を含んでおり、上記樹脂成分が上記水に分散したエマルジョンの状態であってもよい。
【0042】
樹脂成分が基材に均一に定着しやすくなる。
【0043】
(19)上記基材は、非浸透性の透明基材であってもよい。
【0044】
印刷過程において水性組成物が透明基材に浸透することを抑制することができ、その後のリサイクル過程において、当該印刷物製造方法により製造された印刷物に紫外線を照射することで容易に水性組成物を除去することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る層形成方法、基材再生方法、及び印刷物製造方法は、基材を容易に再利用でき、しかも基材の再利用性を向上させることができるとともに、人や環境へのリスクを小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る層形成方法が使用される画像記録装置10の簡略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る層形成方法によって形成された塗膜層7の模式図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る基材再生方法により紫外線が印刷物9に照射されることで塗膜層7とシート6との間の密着性が低下した状態になることを説明する図である。
図4図4は、本発明の変形例に係る層形成方法によって形成された塗膜層12及び色材層11の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様を変更できることは言うまでもない。
【0048】
[画像記録装置10の内部構成]
図1に示されるように、本発明に係る層形成方法及び印刷物製造方法に使用される画像記録装置10は、供給ロール23、複数の搬送軸26、ウェブクリーナ27、テンションコントロール28、記録ユニット29、ヒータ35、テンションコントロール36、及びリワインダ24を筐体(図示省略)内に備える。画像記録装置10は、シート6に画像を記録する。
【0049】
シート6は基材の一例である。シート6は、所定の寸法にカットされたシートである。シート6は、透明な非浸透性基材である。非浸透性基材は、水透過性が低い表面を有する基材である。具体的には、非浸透性基材は、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である基材をいう。また、「非浸透性又は低浸透性」とは、ASTM D570に準拠して測定された24時間での吸水率が0.5%未満であることを指してもよい。より詳細には、「非浸透性」とは、上記吸水率が0.2%未満であることを指し、「低浸透性」とは、上記吸水率が0.2%以上0.5%未満であることを指してもよい。なお、吸水率の単位である「%」は、質量基準である。透明な非浸透性基材の材質としては、例えば、プラスチック(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート等)などを挙げることができる。透明な非浸透性基材の形状は、フィルム状又は板状が好適である。なお、非浸透性基材は透明でなくてもよい。
【0050】
シート6は、浸透性基材であってもよい。この場合、シート6は、シートが円筒形状に巻かれたロールから引き出されるものであってもよいし、ファンフォールドタイプのものであってもよい。浸透性基材としては、例えば、普通紙やコート紙が挙げられる。「コート紙」とは、例えば、上級印刷紙、中級印刷紙等のパルプを構成要素とした普通紙に、平滑性、白色度、光沢度等の向上を目的として、コート剤を塗布したものをいい、具体的には、上質コート紙、中質コート紙等が挙げられる。
【0051】
供給ロール23は筐体の下部に位置する。供給ロール23にはシート6が巻回されている。供給ロール23は、不図示のモータによって回転される。回転する供給ロール23は、シート6を複数の搬送軸26に送り出す。
【0052】
複数の搬送軸26は、不図示のモータによって回転される。回転する複数の搬送軸26は、供給ロール23から送り出されたシート6を搬送する。
【0053】
ウェブクリーナ27は、シート6の搬送向きにおける、記録ユニット29の上流に位置している。ウェブクリーナ27は、ゴムローラ27A及び粘着ローラ27Bを備える。ウェブクリーナ27は、シート6に付着したゴミをゴムローラ27Aで捕捉し、粘着ローラ27Bに転写することにより、シート6を清掃する。
【0054】
テンションコントロール28は、シート6の搬送向きにおける、記録ユニット29の上流に位置している。テンションコントロール28は、シート6に付与するテンションを調整する。
【0055】
記録ユニット29は、印刷ヘッド34(インクジェットヘッドの一例)及び印刷ヘッド33を有する。印刷ヘッド34は、シート6の搬送向きにおけるテンションコントロール28の下流に位置している。印刷ヘッド34は、いわゆるシリアルヘッドであってもよいし、いわゆるラインヘッドであってもよい。印刷ヘッド34は、後述の水性組成物が流通する流路を内部に有する。当該流路は、チューブによって、タンクと連通されている。すなわち、チューブを通じて、タンクが貯留する水性組成物が印刷ヘッド34に供給される。印刷ヘッド33は、シート6の搬送向きにおける印刷ヘッド34の下流に位置している。印刷ヘッド33は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクジェットヘッドを備える。
【0056】
ヒータ35は、シート6の搬送向きにおける印刷ヘッド33の下流に位置する。ヒータ35は、所謂ハロゲンヒータである。ヒータ35は、赤外線を放射する発熱体であるハロゲンランプ、反射板、及び筐体を有する。筐体の開口を通じて、ハロゲンランプや反射板からの熱が外部へ放射されたり、遮断されたりする。
【0057】
ヒータ35は、ヒータ35近傍を通過するシート6、またはシート6に付着した水性組成物の少なくとも一方を加熱する。本実施形態では、ヒータ35は、シート6及び水性組成物の双方を加熱する。水性組成物が加熱されることによって、水性組成物の後述の樹脂成分が軟化し、シート6上に膜を形成する。そして、ヒータ35近傍を通過したシート6及び樹脂成分が冷えることによって樹脂成分が固化する。これにより、シート6に樹脂成分が定着される。なお、ヒータ35は、シート6又は水性組成物を加熱可能なものであれば、ハロゲンヒータに限らない。例えば、ヒータ35は、カーボンヒータ、ドライヤー、オーブン、ベルトコンベアオーブン等であってもよい。
【0058】
テンションコントロール36は、シート6の搬送向きにおける、ヒータ35の下流に位置している。テンションコントロール36は、シート6に付与するテンションを調整する。
【0059】
リワインダ24は、搬送路の最下流に位置する。リワインダ24は、複数の搬送軸26によって搬送されたシート6を巻き取る。
【0060】
[水性組成物の組成]
以下、水性組成物の詳細が説明される。水性組成物は、紫外線硬化剤、樹脂成分、色材、有機溶剤、界面活性剤、及び水を有する。水性組成物は、紫外線硬化剤、樹脂成分、色材、及び有機溶剤が水に溶けた水性インクである。紫外線硬化剤は、光重合開始剤と重合性化合物とを含む。
【0061】
光重合開始剤は、紫外線の照射によって重合性化合物を重合反応させる水溶性の化合物である。光重合開始剤は、水に溶解した状態である。光重合開始剤が水に溶解した状態とは、水100gに対して1wt%以上の光重合開始剤が溶解した状態をいう。光重合開始剤は、例えば、フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウムが挙げられる。その他の光重合開始剤の例としては、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ヒドロキシアルキルフェノン系開始剤、アセトフェノン系開始剤、ベンゾフェノン系開始剤、ベンゾイン系開始剤、ベンゾインエーテル系開始剤、アミノアルキルフェノン系開始剤、キサントン系開始剤、オキシム系開始剤等が挙げられる。例えば、ヒドロキシアルキルフェノン系開始剤の例としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン等が挙げられる。アセトフェノン系開始剤の例としては、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン等が挙げられる。ベンゾフェノン系開始剤の例としては、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ジクロロベンゾフェン、p,p’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン等が挙げられる。ベンゾイン系開始剤及びベンゾインエーテル系開始剤の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル等が挙げられる。インク全量における光重合開始剤の固形分含有量は、例えば、0.1wt%以上10.0wt%以下の範囲内が好ましく、更に好ましくは0.5wt%以上5.0wt%以下の範囲内であり、特に好ましくは0.8wt%以上2.5wt%以下の範囲内である。
【0062】
重合性化合物は、紫外線が照射された光重合開始剤によって重合反応する水溶性の化合物である。重合性化合物は、水に溶解した状態である。重合性化合物が水に溶解した状態とは、水100gに対して1wt%以上の重合性化合物が溶解した状態をいう。重合性化合物は、例えば、N,N’-1,2-エタンジイルビス{N-[2-(アクリロイルアミノ)エチル]アクリルアミド}、N,N’-(((2-アクリルアミド-2((3-(ブタ-1,3-ジエン-2-イラミノ)プロポキシ-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ビス(プロパン-3,1-ジイル))ジアクリルアミド、N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド、N,N’-{オキシビス(2,1-エタンジイルオキシ-3,1-プロパンジイル)}ビスアクリルアミドが挙げられる。インク全量における重合性化合物の固形分含有量は、例えば、1.0wt%以上40.0wt%以下の範囲内が好ましく、更に好ましくは2.5wt%以上40.0wt%以下の範囲内であり、特に好ましくは5.0wt%以上40wt%以下の範囲内である。
【0063】
樹脂成分としては、例えば、市販品を用いることができる。樹脂成分は、例えば、モノマーとして、スチレン、塩化ビニル等を含んでもよい。樹脂成分は、水性組成物中で溶解した状態であっても、樹脂粒子として分散したエマルジョンの状態であってもよい。また、これらの樹脂成分は1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。樹脂成分としては、例えば、アクリル酸系樹脂、マレイン酸系エステル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、カーボネート型樹脂、ポリカーボネート型樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂及びこれらの共重合体樹脂等が挙げられる。
【0064】
樹脂成分としては、例えば、-30℃以上200℃以下の範囲内においてガラス転移温度(Tg)を有する樹脂が用いられる。より好ましくは、ガラス転移温度(Tg)は、-30℃以上180℃以下であり、さらに好ましくは、-30℃以上150℃以下である。
【0065】
エマルジョンとしては、例えば、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス(登録商標)870」(Tg:71℃)、「スーパーフレックス(登録商標)150」(Tg:40℃)、ジャパンコーティングレジン(株)製の「モビニール(登録商標)6760」(Tg:-28℃)、「モビニール(登録商標)DM774」(Tg:33℃)、昭和電工(株)製の「ポリゾール(登録商標)AP-3270N」(Tg:27℃)、星光PMC(株)製の「ハイロース-X(登録商標)KE-1062」(Tg:112℃)、「ハイロース-X(登録商標)QE-1042」(Tg:69℃)等が挙げられる。
【0066】
樹脂成分の平均粒子径は、例えば、30nm以上200nm以下の範囲内である。平均粒子径は、例えば、(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB-550」を用いて、算術平均径として測定可能である。
【0067】
インク全量における樹脂成分の含有量(R)は、例えば、0.1wt%以上30wt%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは0.5wt%以上20wt%以下の範囲内であり、特に好ましくは1.0wt%以上15.0wt%以下の範囲内である。樹脂成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
色材は、例えば、顔料分散用樹脂(樹脂分散剤)によって、水に分散可能な顔料である。色材としては、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等が挙げられる。
【0069】
インク全量における色材の固形分含有量は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は彩度等により、適宜決定できる。色材の固形分含有量は、例えば、0.1wt%以上20.0wt%以下の範囲内が好ましく、更に好ましくは1.0wt%以上15.0wt%以下の範囲内である。色材の固形分含有量は、顔料のみの重量であり、樹脂成分の重量は含まない。色材は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0070】
有機溶剤は、溶剤と水とを1:1で混合した際に、均一に混ざり合う溶剤である。有機溶剤としては、特に限定はなく、任意のものが使用できる。有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,2-ブタンジオール、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられ、プロピレングリコール又は1,2-ブタンジオールが好ましい。その他の有機溶剤の例としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコールなどの炭素数1~4のアルキルアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルキレン基が2~6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン、エチレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル、ヘキシル)エーテル、テトラエチレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル、ヘキシル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(またはエチル、プロピル、ブチル)エーテル、テトラプロピレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテルなどのアルキレングリコール類の低級アルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが挙げられる。
【0071】
インク全量における有機溶剤の含有量は、例えば、1wt%以上70wt%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは3wt%以上50wt%以下の範囲内である。
【0072】
水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。インク全量における水の含有量は、例えば、15wt%以上95wt%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは25wt%以上85wt%以下の範囲内である。水の含有量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0073】
水性組成物は、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防腐剤、防黴剤、レベリング剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤、ノズル乾燥防止剤、エマルジョンなどのポリマー成分、染料等が挙げられる。界面活性剤は、さらに、ノニオン性界面活性剤を含んでもよい。ノニオン性界面活性剤は、例えば、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、日信化学工業(株)製の「オルフィン(登録商標)E1010」、「オルフィン(登録商標)E1006」及び「オルフィン(登録商標)E1004」等が挙げられる。インク全量におけるノニオン性界面活性剤の含有量は、例えば、5重量%以下、3重量%以下、0.1重量%~2重量%である。粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等が挙げられる。
【0074】
水性組成物は、例えば、紫外線硬化剤と、樹脂成分と、色材と、有機溶剤と、水と、必要に応じて他の添加剤とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0075】
次に、画像記録装置10を使用した層形成方法及び印刷物製造方法について説明する。層形成方法及び印刷物製造方法では、塗布工程と乾燥工程とが順に行われる。以下では、図1図2が参照される。
【0076】
塗布工程では、水性組成物がシート6に吐出される。具体的には、塗布工程では、テンションコントロール28によってテンションが調整されたシート6の上面6aに向けて印刷ヘッド34から水性組成物が液滴として吐出される印刷工程が実行される。これにより、シート6の上面6aに塗膜層が形成される。なお、塗布工程では、水性組成物がシート6に塗布されてもよい。
【0077】
塗布工程の後、乾燥工程が実行される。乾燥工程では、シート6に吐出された水性組成物が乾燥される。具体的には、乾燥工程では、ヒータ35の開口43の下方を通過するシート6及び水性組成物の双方がヒータ35の放射熱によって乾燥される。乾燥温度は、40℃から230℃の範囲である。より好ましくは、乾燥温度は、50℃から220℃の範囲である。特に好ましくは、乾燥温度は、50℃から150℃の範囲である。乾燥工程が実行されると、水性組成物の樹脂成分が造膜し、その後、シート6及び樹脂成分が冷えることによって、樹脂成分が固化する。その結果、図2に示されるように、樹脂成分からなる透明なクリア層と色材とからなる塗膜膜7(印刷層の一例)がシート6の上面6aに定着する。塗膜層7中には、紫外線硬化剤が含まれている。なお、乾燥工程は省略されてもよい。また、図2では、図示簡略化のためシート6を省略している。
【0078】
なお、本開示において、「印刷」とは、インクの選択的な塗布または吐出により、文字・絵・写真等を再現することを言う。「印刷」には、いわゆるインクジェット印刷だけでなく、スクリーン印刷等も含まれる。「印刷層」とは、インクの選択的な塗布または吐出により形成された層を言う。
【0079】
次に、上記層形成方法および上記印刷物製造方法によって製造された印刷物9(図3参照)から塗膜層7を剥離する基材再生方法について説明する。基材再生方法は、上記層形成方法および上記印刷物製造方法によって印刷物9が製造された後、シート6をリサイクルするときに行われる。基材再生方法では、照射工程が行われる。
【0080】
照射工程では、シート6の塗膜層7が形成された上面6a(表面の一例)に紫外線が照射される。なお、シート6の上面6aとは反対の下面6b(裏面の一例)に紫外線が照射されてもよい。このようにすると、シート6の塗膜層7が形成される上面6aの劣化を抑制しつつ、塗膜層7中に存在する紫外線硬化剤によって塗膜層7を硬化させることができる。
【0081】
シート6の上面6aに照射される紫外線は、ピーク波長が200nmから400nmの範囲内のものである。より好ましくは、紫外線のピーク波長は、300nmから400nmの範囲である。特に好ましくは、紫外線のピーク波長は、350nmから400nmの範囲である。図3に示されるように、紫外線照射装置の光源115から紫外線が塗膜層7に照射されると、塗膜層7に含まれる紫外線硬化剤の光重合開始剤によって重合性化合物が重合反応する。その結果、塗膜層7が硬化することによって塗膜層7とシート6との間の密着力が低下し、塗膜層7がシート6から容易に剥離する。
【0082】
紫外線を照射する紫外線照射装置としては、特定波長の紫外線を照射できるものであれば、特に限定されることはない。紫外線照射装置としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ディープ紫外線ランプ、紫外線レーザ、キセノンランプ、UV-LED(紫外線発光ダイオード)等の光源を有するものが挙げられる。紫外線照射装置としては、消費電力の観点からUV-LEDの光源を有するものが好ましい。
【0083】
[実施形態の作用効果]
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、シート6の上面6aに形成された塗膜層7には紫外線硬化剤が存在するので、作業者は、塗膜層7に紫外線を照射して塗膜層7を硬化させることができる。その結果、塗膜層7のシート6への密着力が低下するので、作業者は、塗膜層7をシート6から剥離させてシート6を再利用することができる。剥離可能な塗膜層7は水性組成物の塗膜層7であることから、人や環境へのリスクを小さくできる。しかも、プラスチックのようなシート6に塗膜層7が形成された場合であっても、塗膜層7及びシート6間の密着性を適切に制御でき、過度な密着を低減できる。このため、当該層形成方法および上記印刷物製造方法によりシート6に印刷をした後のリサイクル過程において、当該塗膜層7に紫外線を照射することで、塗膜層7をシート6から容易に剥離することができる。したがって、シート6の再利用が容易である。また、シート6の特性の変化を抑制できることから、塗膜層7をシート6から剥離した後のシート6の再利用性を向上させることができる。従って、プラスチックを含め、多種多様な基材に対する印刷を可能とし、印刷後のリサイクル性を向上させることができる。
【0084】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、印刷ヘッド34により水性組成物をシート6に吐出するので、塗膜層7をシート6に容易に形成することができる。
【0085】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、シート6への塗膜層7の形成によって印刷層が形成されるので、余分な塗膜層を削減することができる。また、局所的に塗膜層を形成することが出来るため、水性組成物の跡残りを削減することができる。
【0086】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、水性組成物をシート6に吐出する塗布工程の後に、水性組成物を乾燥する乾燥工程が行われるので、水性組成物がシート6に定着しやすい。このため、水性組成物のシート6への密着性が高い。
【0087】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、水性組成物は、色材を含む水性インクであるので、塗布工程は、水性インクによる印刷を実行する役割を果たす。このため、シート6への塗膜層7の形成によって画像が形成されるので、塗布工程および乾燥工程を含む工程の後に、画像を形成する印刷工程が行われる場合に比べて、印刷が容易である。そして、水性組成物は、リサイクル時において、紫外線照射によりシート6から剥離されることにより、印刷インクを基材から除去する役割を果たす。このため、印刷時間を短縮しつつ、基材のリサイクルを可能とした、環境性の高い層形成方法を提供できる。
【0088】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法において、塗布工程の後、塗膜層上に印刷インクを吐出又は塗布する印刷工程が実行される場合、水性組成物は、印刷工程において、印刷インクによる印刷の下地になる役割を果たす。そして、水性組成物は、リサイクル時において、紫外線照射により印刷インクの層ごと基材から剥離されることにより、印刷インクの層を基材から除去する役割を果たす。このため、基材のリサイクルを可能とした、環境性の高い層形成方法を提供できる。
【0089】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、光重合開始剤と重合性化合物とが水に溶解した状態であるので、水に溶解しない油系の紫外線硬化剤が用いられる場合に比べて、人や環境へのリスクが低減される。
【0090】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、水性組成物は、樹脂成分が水に分散したエマルジョンの状態であるので、乾燥工程において水性組成物を乾燥させたときに、樹脂成分がシート6に均一に定着しやすい。
【0091】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、シート6は、非浸透性基材であるので、塗布工程が実行されたときに、水性組成物の樹脂成分がシート6に浸透することが抑制される。このため、上記層形成方法および上記印刷物製造方法によって印刷物が製造された後のリサイクル過程において、当該印刷物に紫外線を照射することで容易に塗膜層7を除去することができる。
【0092】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、シート6は、透明基材であるので、塗布工程が実行されたときに、水性組成物の樹脂成分がシート6に浸透することが抑制される。このため、上記層形成方法および上記印刷物製造方法によって印刷物が製造された後のリサイクル過程において、当該印刷物に紫外線を照射することで容易に塗膜層7を除去することができる。
【0093】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、塗布工程においてシート6に吐出された水性組成物が乾燥工程において水性組成物を50℃から220℃の範囲内の温度で乾燥される場合、樹脂成分が造膜してシート6に付着するので、樹脂成分のシート6への密着性が高い。
【0094】
上記層形成方法および上記印刷物製造方法では、塗布工程においてシート6に吐出された水性組成物が、乾燥工程において50℃から150℃の範囲内の温度で乾燥される場合、乾燥工程において、水性組成物の樹脂成分の造膜性を高めて基材への密着性を適切に制御し、紫外線硬化成分の硬化性能を保つことができる。このため、塗膜層7のシート6への密着性が高く、しかも上記層形成方法および上記印刷物製造方法によって印刷物が製造された後のリサイクル過程における塗膜層7の剥離性が高い。
【0095】
上記基材再生方法では、照射工程において、上記層形成方法により形成された印刷物に対し、ピーク波長が350nmから400nmの範囲内である紫外線が照射されるので、シート6の上面6aの塗膜層7中に存在する紫外線硬化剤によって塗膜層7が硬化される。その結果、塗膜層7のシート6への密着力が低下して塗膜層7がシート6から容易に剥離される。このため、シート6を容易にリサイクルすることが可能となる。また、シート6に照射される紫外線は、可視光寄りのピーク波長を有するので、シート6への損傷が抑制される。物理的な方法又は化学的な方法でシート6をリサイクルする従来の方法と比して、リサイクル過程におけるシート6の損傷が抑制され、シート6を再生できる回数を向上させることができる。
【0096】
上記基材再生方法では、照射工程において、シート6の塗膜層7が形成された表面に紫外線が照射されるので、塗膜層7中に存在する紫外線硬化剤によって塗膜層7が硬化されやすい。このため、塗膜層7のシート6からの剥離性が高い。
【0097】
[変形例]
上記層形成方法では、塗布工程においてシート6の上面6aに向けて印刷ヘッド34から水性組成物が液滴として吐出される印刷工程が実行されたが、塗膜層層上に印刷インクが吐出される印刷工程が更に実行されてもよい。この場合、印刷インクは、印刷ヘッド33から塗膜層上に吐出され、水性インクが印刷インクによる印刷の下地となる。印刷インクは、塗膜層層上に画像を形成できれば、特に限定されない。
【0098】
また、この場合、乾燥工程は、1回目の印刷工程後に実行されてもよく、2回目の印刷工程後に実行されてもよい。また、1回目の印刷工程後と2回目の印刷工程後の両方において実行されてもよい。例えば、印刷インクが乾燥工程を要しないものである場合、水性組成物の塗布または吐出後に乾燥工程を実行し、その後に印刷工程を実行するだけでもよい。一方、印刷インクが乾燥工程を要するものである場合、水性組成物の塗布または吐出後、印刷工程の実行後に乾燥工程を実行してもよいし、水性組成物の塗布または吐出後に乾燥工程を実行し、その後印刷工程を実行して、再度乾燥工程を実行してもよい。
【0099】
上記水性組成物は、色材を含んだが、色材を省略してもよい。この場合、塗布工程において、樹脂成分からなる透明な塗膜層がシート6に形成される。そして、塗布工程の後に、塗膜層上に印刷インクが吐出される印刷工程が実行されてもよい。水性組成物は、印刷インクによる印刷の下地となる役割を果たす。印刷工程が実行されると、図4に示されるように、色材を含まない透明な塗膜層12の上面12aに、印刷インクに含まれる色材からなる色材層11が形成される。この場合、塗膜層12及び色材層11により印刷層が形成される。なお、図4では、図示簡略化のため、シート6を省略している。
【実施例0100】
以下、本発明の実施例が示される。
【0101】
(実施例1)
水性組成物としては、光重合開始剤として1.0wt%のフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム、重合性化合物として5.0wt%のN,N’1,2-エタンジイルビス{N-[2-(アクリロイルアミノ)エチル]アクリルアミド}、樹脂成分として5.0wt%のモビニール6760、有機溶剤として10.0wt%のプロピレングリコール、及び溶媒であるイオン交換水を残部として含むものを用いた。乾燥工程における乾燥温度は90℃とした。照射工程において紫外線を照射した。
【0102】
(実施例2)
色材として5.0wt%のカーボンブラック顔料分散液、及び界面活性剤として0.5wt%のオルフィンE1010が水性組成物に更に含まれる点で実施例1と相違している。その他の条件は、実施例1と同一である。なお、カーボンブラック顔料分散液は、次のようにして調整した。まず、三菱化学(株)製のカーボンブラック「#2650」40gをイオン交換水200gに混合して、ビーズミルにて粉砕した。これにカルボキシル基剤を添加して、加熱撹拌を行い、酸化処理を行った。次いで、得られた液を溶剤にて数回洗浄後、水中に注ぎ、再度水洗を繰り返した後フィルタにてろ過処理し、カーボンブラック顔料分散液を得た。
【0103】
(実施例3)
ブラックインク(ブラザー工業社製 LC3139)が用いられる点で実施例1と相違している。実施例3では、水性組成物をシート(基材)に塗布する塗布工程の後、塗膜層上にブラックインクを印刷インクとして塗布する印刷工程を実行した。なお、水性組成物としては、実施例1と同一のものが用いられた。
【0104】
(実施例4)
乾燥工程における乾燥温度を50℃とした点で、実施例1と相違している。その他の条件は、実施例1と同一である。
【0105】
(実施例5)
乾燥工程における乾燥温度を60℃とした点で実施例4と相違している。その他の条件は、実施例4と同一である。
【0106】
(実施例6)
乾燥工程における乾燥温度を120℃とした点で実施例4と相違している。その他の条件は、実施例4と同一である。
【0107】
(実施例7)
乾燥工程における乾燥温度を150℃とした点で実施例4と相違している。その他の条件は、実施例4と同一である。
【0108】
(比較例1)
照射工程を行わなかった点を除いて実施例1と同一である。
【0109】
(比較例2)
色材として5.0wt%のカーボンブラックが水性組成物に更に含まれる点、及び界面活性剤として0.5wt%のオルフィンE1010が水性組成物に更に含まれる点で比較例1と相違している。イオン交換水は残部である。その他の条件は、比較例1と同一である。
【0110】
(比較例3)
シート6として、印刷用普通紙(Askulマルチペーパースーパーホワイト+)を用いた点で実施例1と相違している。その他の条件は、実施例1と同一である。
【0111】
[層形成方法]
以下では、水性組成物を用いてシートに形成した塗膜層の定着性および剥離性を試験した。
【0112】
[定着性試験]
塗布工程においてシートの上面に50mg/cm2となるように水性組成物をスポイトで滴下し、乾燥工程においてシートの上面の水性組成物を所定の乾燥温度で3時間乾燥することにより、シートの上面に水性組成物による塗膜層を形成した。シートの塗膜層の表面に粘着テープを貼り付けて、粘着テープを塗膜層から引き剥がす定着性試験を行った。シートとして、実施例1~7及び比較例1及び2では、PETフィルムを用いた。シートとして、比較例3では、印刷用普通紙(Askulマルチペーパースーパーホワイト+)を用いた。粘着テープとしては、セロハンテープ[セロテープ(登録商標)CT-12(ニチバン)]を用いた。塗膜層のシートに対する定着性を、以下の評価基準で評価した。
A:剥離しなかった
B:剥離した
【0113】
[剥離性試験]
照射工程において紫外線照射装置にてシートから100mm離して10秒間紫外線を照射した。紫外線照射装置としては、UV-LEDライト[印刷用UV-LEDシリーズE075Z HC(ウシオ電機製)、395nm]を用いた。その後、下記の2条件にて剥離試験を行った。
条件1: 紫外線照射後のシートと塗膜層の表面に粘着テープを付着させ、粘着テープを塗膜層から剥離させた。
条件2: 紫外線照射後のシートおよび塗膜層を二つ折りにして元に戻した後、シートと塗膜層の表面に粘着テープを付着させ、粘着テープを塗膜層から剥離させた。なお、条件2にて二つ折りにすることで塗膜層にクラックが入るため、剥離性を高めることができる。粘着テープとしては、セロハンテープ[セロテープ(登録商標)CT-12(ニチバン)]を用いた。塗膜層のシートに対する剥離性を、以下の評価基準で評価した。
A :条件1及び条件2のいずれでも剥離した
B :条件1では剥離せず、条件2で剥離した
C :条件1及び条件2のいずれでも剥離しなかった
【0114】
【表1】
【0115】
[定着性試験評価]
表1に示されるように、実施例1から実施例3、実施例5から実施例7、比較例1から比較例3では、いずれも、剥離しなかったため、Aの評価であった。これは、乾燥工程における乾燥温度がいずれも90℃以上であったので、水性組成物の樹脂成分の造膜がより進行し、シートの上面との密着性が高まったためであると考えられる。
【0116】
実施例4では、剥離したため、Bの評価であった。これは、実施例4の乾燥温度が他の実施例および比較例1,2よりも低い50℃であったので、樹脂成分の造膜性が実施例1から実施例3、実施例5から実施例7および比較例1、2より低く、シートの上面と樹脂成分との密着性が低くなったためであると考えられる。
【0117】
[剥離性試験評価]
表1に示されるように、実施例1から実施例7では、いずれも、条件1及び条件2のいずれでも剥離したので、Aの評価であった。これは、照射工程において、シートの塗膜層が形成された上面に紫外線が照射された結果、膜中の重合性化合物が光重合開始剤によって重合反応が促進されて膜が硬化することにより、塗膜層とシートとの間の密着力が十分に低下したためであると考えられる。
【0118】
これに対して、比較例1及び比較例2では、いずれも、条件1及び条件2のいずれでも剥離しなかったので、Cの評価であった。これは、照射工程において、シートの上面の塗膜層に紫外線が照射されなかったため、膜中の重合性化合物の重合反応が全く進まず、シートと塗膜層との間の密着性が低下しなかったためであると考えられる。
【0119】
比較例3では、条件1及び条件2のいずれでも剥離しなかったので、Cの評価であった。これは、シートが浸透性基材である印刷用普通紙であったので、水性組成物がシートへ浸透したためであると考えられる。
【0120】
以上より、乾燥工程における乾燥温度が60℃から150℃の範囲に設定され、照射工程において紫外線がシートの上面の塗膜層に照射された場合、定着性においてAの評価が得られ、剥離性においてAの評価が得られることが分かる。また、乾燥温度が50℃から150℃の範囲であれば、定着性の観点では、十分な乾燥温度であることから、塗膜を形成し、密着性を確保でき、リサイクル時にUV光を照射すれば容易に塗膜層をシートから剥離でき、シートをリサイクルできる。
【符号の説明】
【0121】
6・・・シート
6a・・・上面
6b・・・下面
7・・・塗膜層(塗膜層及び印刷層の一例)
34・・・印刷ヘッド(インクジェットヘッドの一例)

図1
図2
図3
図4