(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040891
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】水電解一体型メタネーションセルおよびそれを用いた電解メタネーション装置
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20240318BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20240318BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20240318BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240318BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240318BHJP
C25B 9/15 20210101ALN20240318BHJP
【FI】
C25B9/00 G
C25B3/03
C25B3/26
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B9/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145536
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】柁山 航介
(72)【発明者】
【氏名】飯田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆平
(72)【発明者】
【氏名】梅村 友章
(72)【発明者】
【氏名】馬場 広太郎
(72)【発明者】
【氏名】久保田 純
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AC02
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA05
4K021CA09
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カソードとアノードに流す電力原単位を小さくし、効率よくCO
2ガスから炭素化合物を生成できる水電解一体型メタネーションセルおよび電解メタネーション装置を提供すること。
【解決手段】水を電気分解して酸素と水素イオンを生成するアノード5、及び、アノードに水を供給する第一流路6を備える、アノード部2と、水素イオン伝導性を有する電解質4と、水素イオンを還元して水素を生成するカソード7、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成する触媒層13、触媒層に二酸化炭素を供給する第二流路8、及び、生成された炭素化合物を排出する第三流路9を備える、カソード部3とを備え、カソード部において、第二流路および第三流路がいずれもカソード部の一方の側面に設けられ、触媒層が第二流路と第三流路とを隔てる幅方向の仕切り板10を有し、かつ、仕切り板の一部に第四流路11が設けられている、水電解一体型メタネーションセル1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を電気分解して酸素と水素イオンを生成するアノード、及び、前記アノードに水を供給する第一流路を備える、アノード部と、
水素イオン伝導性を有する電解質と、
水素イオンを還元して水素を生成するカソード、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成する触媒層、前記触媒層に二酸化炭素を供給する第二流路、及び、生成された前記炭素化合物を排出する第三流路を備える、カソード部と
を備え、
前記カソード部において、第二流路および第三流路がいずれも前記カソード部の一方の側面に設けられ、前記触媒層が第二流路と第三流路とを隔てる幅方向の仕切り板を有し、かつ、前記仕切り板の一部に第四流路が設けられている、
水電解一体型メタネーションセル。
【請求項2】
前記仕切り板の面積が、前記触媒層の幅方向の断面積の1/3以上である、請求項1記載の水電解一体型メタネーションセル。
【請求項3】
第四流路が、第二流路および第三流路から離れた位置に設けられている、請求項1記載の水電解一体型メタネーションセル。
【請求項4】
第四流路の流路面積が、第二流路の入り口の流路面積と同等またはそれ以上である、請求項1記載の水電解一体型メタネーションセル。
【請求項5】
前記仕切り板が、凹凸形状、波板形状、及び、上下方向に突出している凸部を備える形状から選択される少なくとも一つの形状を有する、請求項1記載の水電解一体型メタネーションセル。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の水電解一体型メタネーションセルと、前記アノード部と前記カソード部との間に電流を流す電源とを備える、電解メタネーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水電解一体型メタネーションセルおよびそれを用いた電解メタネーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石資源の代替製法として、二酸化炭素のマテリアル化が注目されている。具体的には、二酸化炭素(CO2)を還元し、一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)、メタン(CH4)、酢酸(CH3COOH)、エタノール(C2H5OH)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)等の炭素化合物のような化学物質に変換する技術が研究されている。
【0003】
二酸化炭素の電解(変換)装置としては、例えば、カソード溶液とCO2ガスを接触させるカソードと、水(水蒸気)とアノード溶液を接触させるアノードを有する電解セルを備えた電解装置が検討されている。このような電解装置では、カソードとアノードに定電流を流して二酸化炭素から炭素化合物を生成するが、これまでの技術では使用する電力に対して十分な二酸化炭素転化率を得られていないという問題がある。
【0004】
これまでに、二酸化炭素電解装置において、カソードにおけるCO2ガス流路を蛇行させることで、カソードとCO2ガス流路を構成する流路板との接触面積を増やし、CO2の還元反応効率等を向上させることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1記載の技術では、ある程度、CO2の還元反応効率等を向上させることができると考えられるが、例えば都市ガス等に使用する場合、合成メタン濃度が不十分になるおそれがある。
【0007】
カソードとアノードに流す電力原単位(kWh/Nm3-CH4)を小さくする、および/または、二酸化炭素転化率を大きくすることで、上述の問題を解決することができると考えられる。電力原単位を小さくするためには、電解セルのカソード側に化学量論比のCO2ガス流量を設定すればよいが、その場合、CO2ガスの流入口から遠い触媒層にCO2ガスが十分に行き渡らず、未反応のH2が生成されてしまう。これは電気エネルギーが副生成物であるH2の生成に使われたことを意味し、電力原単位を大きくする原因ともなる。
【0008】
したがって、本開示の主な課題は、カソードとアノードに流す電力原単位を小さくし、効率よくCO2ガスから炭素化合物を生成できる水電解一体型メタネーションセルおよび電解メタネーション装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一局面は、
水を電気分解して酸素と水素イオンを生成するアノード、及び、前記アノードに水を供給する第一流路を備える、アノード部と、
水素イオン伝導性を有する電解質と、
水素イオンを還元して水素を生成するカソード、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成する触媒層、前記触媒層に二酸化炭素を供給する第二流路、及び、生成された前記炭素化合物を排出する第三流路を備える、カソード部とを備え、
前記カソード部において、第二流路および第三流路がいずれも前記カソード部の一方の側面に設けられ、前記触媒層が第二流路と第三流路とを隔てる幅方向の仕切り板を有し、かつ、前記仕切り板の一部に第四流路が設けられている、
水電解一体型メタネーションセルに関する。
【0010】
本開示の他の局面に関する電解メタネーション装置は、上述の水電解一体型メタネーションセルと、前記アノード部と前記カソード部との間に電流を流す電源とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、カソードとアノードに流す電力原単位を小さくし、効率よくCO2ガスから炭素化合物を生成できる水電解一体型メタネーションセルおよび電解メタネーション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本実施形態の水電解一体型メタネーションセルの一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、比較例の水電解一体型メタネーションセルにおけるカソード部(触媒層)を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施例の水電解一体型メタネーションセルにおけるカソード部(触媒層)を示す概略図である。
【
図4】
図4は、実施例において、空塔速度と圧力損失を実験的に求めたグラフを示す。
【
図5】
図5は、比較例のカソード部におけるCO
2ガスの拡散状態を示すコンター図である。
【
図6】
図6は、実施例のカソード部におけるCO
2ガスの拡散状態を示すコンター図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示に係る実施形態について具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0014】
[水電解一体型メタネーションセル]
本実施形態の水電解一体型メタネーションセルは、メタネーション装置に用いられる、水電解とメタネーションが一体型となったメタネーションセルである。本実施形態の水電解一体型メタネーションセルにより、二酸化炭素と水を原料として水電解とメタネーションを行い、所望の炭素化合物を得ることができる。
【0015】
図1は、本開示の一実施形態による水電解一体型メタネーションセル(以下、単に「メタネーションセル」とも称す)の構成を示す図である。本実施形態の水電解一体型メタネーションセル1は、少なくとも、アノード部2と電解質4とカソード部3とを備える。メタネーションセル1は、特に限定されないが、一対の支持板(図示せず)で固定されていてもよいし、筺体(図示せず)等で覆われていてもよい。前記支持板や筺体は、化学反応性が低く、導電性の高い材料で構成されていることが好ましい。そのような材料としては、SUS等の金属材料、もしくはカーボン等が挙げられる。また、メタネーションセル1の形状は特に限定されず、箱形でもよいし、円筒状でもよい。
【0016】
前記アノード部2は、水を電気分解して酸素と水素イオンを生成するアノード5、及び、前記アノードに水を供給する第一流路6を備える。電解質4は水素イオン伝導性を有する。また、前記カソード部3は、水素イオンを還元して水素を生成するカソード7、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成する触媒層13、前記触媒層13に二酸化炭素を供給する第二流路8、及び、生成された前記炭素化合物を排出する第三流路9を備える。さらに、前記カソード部3においては、第二流路および第三流路がいずれも前記カソード部3の一方の側面に設けられている。前記触媒層13は、第二流路8と第三流路9とを隔てる幅方向の仕切り板10を有する。また、前記仕切り板10の一部には第四流路11が設けられている。
【0017】
このような構成のメタネーションセル1を用いることにより、二酸化炭素をカソード部3の触媒層13表面の広範囲に接触させることができ、効率よくCO2ガスから炭素化合物を生成できる。また、電解反応の副生成物(H2)の生成に電気エネルギーが使用されることを抑制でき、電力原単位を小さくできるという利点がある。
【0018】
アノード部2において、アノード5は水(H2O)の酸化反応を生起し、酸素(O2)及び水素イオン(H+)を生成する電極(酸化電極)である。
【0019】
アノード5は、水を電気分解して酸素及び水素イオンを生成することが可能な触媒材料(アノード触媒材料)とで構成されていることが好ましい。具体的な触媒材料としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等の金属、それらの金属を含む合金や金属間化合物、酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O)、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)、酸化リチウム(Li-O)、酸化ランタン(La-O)等の二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等の三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等の四元系金属酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体が挙げられる。その中でも、過電圧が小さくできるという観点から、Ptや酸化イリジウムなどを使用することが好ましい。
【0020】
アノード5は上述したアノード触媒材料のみで構成されていてもよいが、さらに基材を備えていてもよい。アノード5の基材としては、カソード7との間でイオン等を移動させることが可能な構造、例えばメッシュ材、パンチング材、多孔体、金属繊維焼結体等の多孔構造を有する基材が好適である。また、前記基材は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の金属やこれら金属を少なくとも1つ含む合金(例えばSUS)等の金属材料で構成されていることが好ましい。
【0021】
アノード5のアノード触媒材料として、上述したような酸化物を用いる場合には、上記した金属材料からなる基材の表面にアノード触媒材料を付着もしくは積層してアノード5を形成することが好ましい。
【0022】
アノード部2は、アノード5に水を供給する第一流路6を備える。第一流路に供給される水はそのまま用いてもよいが、メタネーション反応の温度制約から、水蒸気の状態であることが好ましい。第一流路6は、アノード5に水(水蒸気)を供給できる流路であれば特に限定はされない。例えば、
図1では、第一流路6はアノード5に接する面積が広くなるように、アノード5に沿って設けられており、その入り口から水蒸気を導入し出口から排出することによって、アノード5に水(水蒸気)を効率よく供給できる。
【0023】
第一流路6は、化学反応性が低く、導電性の高い材料で構成されていることが好ましい。そのような材料としては、SUS等の金属材料、もしくはカーボン等が挙げられる。
【0024】
アノード5と後述するカソード7との間には、電解質4を設ける。用いる電解質としては、特に制限はないが、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、のような高分子電解質やリン酸水素セシウム、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液などを用いることができる。なお、図示はしていないが、電解質4は膜式であってもよく、その場合は電解質膜を設けてもよい。
【0025】
次に、本実施形態のメタネーションセル1が備えるカソード部3について説明する。カソード部3は、前記電解質4を隔てて上述のアノード部の反対側に備えられている。このカソード部3において、二酸化炭素(CO2)の還元反応を生起し、メタン(CH4)、一酸化炭素(CO))、メタノール等の炭素化合物を生成する。
【0026】
カソード部3におけるカソード7では、主に、水素イオン還元反応が行われる。カソード7は、パラジウム-銀、白金、イリジウムなどによって構成されていることが好ましい。
【0027】
また、カソード部3は、カソード7で発生する水素を利用し二酸化炭素(CO2)を還元して炭素化合物を生成することが可能な触媒層13を有する。前記触媒層13はカソード7と接しており、カソード触媒材料で構成されている。触媒材料としては、具体的には例えば、ジルコニウム(Zr)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)、錫(Sn)等の金属、前記金属を少なくとも1つ含む合金や金属間化合物等の金属材料、前記金属の酸化物、炭素(C)、グラフェン、CNT(カーボンナノチューブ)、フラーレン、ケッチェンブラック等の炭素材料、Ru錯体又はRe錯体等の金属錯体が挙げられる。
【0028】
前記触媒層13の形状は特に限定されないが、粉末状、板状、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状等の各種形状を適用することができる。
【0029】
カソード部3は、上述の触媒層13に二酸化炭素を供給する第二流路8と、上述の触媒層13で生成された炭素化合物を排出する第三流路9を備える。第二流路8及び第三流路9はいずれも、カソード部3(触媒層13)の同じ側面に設けられた開口部である。
【0030】
触媒層13には、第二流路8を介して、二酸化炭素が供給される。具体的には、例えば、流量コントローラ(図示せず)によって、二酸化炭素を含むガス(以下、単に二酸化炭素ガスとも称す)が導入される。導入された二酸化炭素は、触媒層13に触れることによって還元され、メタン等の炭素化合物が生成される。生成された炭素化合物を含むガス(例えば、メタンガス)は、第三流路9から排出される。
【0031】
従来の電解セルでは、通常、二酸化炭素ガスの導入口もメタンガスの排出口も、カソード(触媒層)の底面、すなわち、アノード(またはセパレータ)と接している面とは反対側の面に設けられていたが、そのような構成では、二酸化炭素ガスを触媒層全体に効率よく触れさせることが困難であった。つまり、触媒層における二酸化炭素の拡散が不十分であり、二酸化炭素の転化率を十分に上げることが難しいという問題があった。
【0032】
本実施形態のメタネーションセル1では、第二流路8及び第三流路9をカソード部3(触媒層13)の側面に設け、これらの流路を隔てる幅方向の仕切り板10を設け、かつ、その仕切り板10に第四流路を設けることによって、上記問題を解決した。メタネーションセル1において、仕切り板10は、
図1に示すように、第二流路8及び第三流路9を隔てる幅方向に設けられる。つまり、第二流路8と第三流路9との間に仕切り板10が存在する。このような構成により、第二流路8から導入された二酸化炭素ガスが、触媒層13のより広範囲に拡散されることになる。また、二酸化炭素ガスが触媒層13中に留まる時間がより長くなるため、十分な反応時間を確保できるという利点もある。したがって、本実施形態のメタネーションセルによれば、効率よくメタンなどの炭素化合物が生成され、二酸化炭素の転化率を向上させることができる。
【0033】
仕切り板10の形状は特に限定されず、触媒層13の形状に応じて適宜設定できる。また、仕切り板10の面積は、触媒層13の幅方向の断面積の1/3以上であることが好ましい。それにより、二酸化炭素ガスが触媒層13のより確実に広範囲に拡散され、二酸化炭素ガスが触媒層中に留まる時間がより長くなる。より好ましくは、仕切り板10の面積は、触媒層13の幅方向の断面積の1/2以上、さらに好ましくは2/3以上である。仕切り板10の面積は、触媒層13の幅方向の断面積以下であれば特に限定はされないが、触媒層13の幅方向の断面積から後述する第四流路11の流路面積を引いた面積となる。第四流路11の流路面積は第二流路8の流路面積と同等かそれ以下であることが好ましいため、仕切り板10の面積は、第四流路11として第二流路8の断面積と同等かそれ以下の断面積が確保されている程度の断面積であることが好ましい。それにより、圧力損失をより低減できるという利点がある。
【0034】
仕切り板10は、化学反応性が低く、耐熱性を有し、ある程度剛性のある材料で構成されていることが好ましい。当該材料は導電性であっても非導電性であってもよい。そのような材料としては、SUS等の金属材料、もしくはカーボン等が挙げられる。また、仕切り板10の形は板状であることが好ましいが、平坦であっても凹凸形状を有していてもよい。好ましくは、凹凸形状、波板形状、上下方向に突出している凸部を有する形状等から選択される少なくとも一つの形状(例えば、仕切り板から上下方向に板を突き出した仕切り板)等から選択される少なくとも一つの形状を有する仕切り板10として用いる。それにより、第二流路8から導入される二酸化炭素ガスの流れが妨げられ、当該ガスが触媒層中に留まる時間がより長くなると考えられる。
【0035】
また、仕切り板10の厚みについては、特に限定されず、メタネーションセル1の大きさ、仕切り板を構成する材料などを考慮して適宜決めればよい。例えば、仕切り板10がSUS等の金属材料で構成されている場合、仕切り板10の厚みは0.数mm~数mm(例えば、0.1mm以上、10mm未満)程度とすることができる。
【0036】
仕切り板10における第四流路11は、第二流路から供給される二酸化炭素ガス、または、カソード7の触媒層で生成されたメタンガス等が通過し、第三流路へ向かうための流路である。この第四流路11は、第二流路8および第三流路9から離れた位置に設けられていることが好ましい。それにより、第二流路8から導入された二酸化炭素ガスがより長く、より広範囲にカソード7の触媒層と接することになり、より効率よくメタン等の炭素化合物が生成され、二酸化炭素の転化率をより確実に向上させることができる。
【0037】
第二流路8および第三流路9から離れた位置とは、特に限定されないが、例えば、第二流路8および第三流路9があるカソード部3の側面とは反対側の側面の方に近い位置を意味する。つまり、第二流路8および第三流路9の存在する側面から、少なくとも触媒層13の幅方向の長さの1/2以上距離の離れた位置に第四流路が設けられることが好ましい。さらに二酸化炭素ガスと触媒層との接触を促進する観点から、
図1に示すように、第四流路11は、第二流路8および第三流路9が存在するカソード部3の側面とは反対側の側面に接するように設けられていてもよい。
【0038】
第四流路11の流路面積は、触媒層13の幅方向の断面積から、上述したような仕切り板10の面積を引いた面積となる。さらに、この第四流路11の流路面積は、第二流路8の流路面積と同等またはそれ以上であることが好ましい。それにより、二酸化炭素ガスを触媒層13に導入するための圧力の損失を抑えることができると考えられる。より好ましくは、第四流路11の流路面積Aと、第二流路の流路面積Bの比(A/B)は1~5程度であることが望ましい。なお、本実施形態において、流路面積とは流路の太さ(流路の断面積)を意味する。
【0039】
[二酸化炭素電解装置]
次に、上述した水電解一体型メタネーションセルを備える電解メタネーション装置について説明する。
【0040】
本実施形態の電解メタネーション装置は、上述の水電解一体型メタネーションセルと、前記アノード部と前記カソード部との間に電流を流す電源とを備える、電解メタネーション装置である。
【0041】
本実施形態で使用できる電源としては、通常の市販電源、電池などが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。その他にも、太陽電池等の再生可能エネルギーを電力として供給できる装置を電源として用いることができる。
【0042】
本実施形態の電解メタネーション装置は、上述の水電解一体型メタネーションセルと電源を備える電解装置であれば、その他の構成については特に限定はされない。公知の二酸化炭素電解装置等の構成を必要に応じて適宜採用できる。本実施形態の装置では、水電解一体型メタネーションセル自体が集電板の役割を果たしているため、アノード集電板およびカソード集電板は不要である。また、アノード部2とカソード部3との間には、短絡を防ぐために、
図1に示すような絶縁シート12を設けてもよい。
【0043】
本実施形態の電解メタネーション装置では、二酸化炭素から炭素化合物を生成できるが、具体的な一例としてメタンを合成する場合について説明する。まず、水電解一体型メタネーションセル1において、アノード部2とカソード部3との間に電源から電流が供給され、かつ、第一流路6から水蒸気(H2O)が供給されると、H2Oと接するアノード5でH2Oの酸化反応が生じる。具体的には、H2Oが酸化されて酸素(O2)と水素イオン(H+)が生成する。アノード5で生成された水素イオン(H+)は、アノードおよび電解質を移動し、カソード7の方へ移動する。アノード5で生成した酸素を含むガスは、第一流路6の出口から排出される。
【0044】
そして、電源からカソード7に供給される電流由来の電子とアノード5からカソード7の方に移動してきた水素イオンによって、カソード7と接する触媒層13に第二流路8から供給される二酸化炭素が還元される。この還元反応で、二酸化炭素および水素からメタンおよび水が合成される。
【0045】
つまり、メタン合成の場合、本実施形態の電解メタネーション装置では以下の酸化反応および還元反応が生じる。
アノード部:
H2O→2H++1/2O2+2e-
カソード部:
CO2+4H2→CH4+2H2O
2H++2e-→H2
【0046】
本実施形態の電解メタネーション装置では、カソード部3の触媒層13に仕切り板10が備えられているため、第二流路8から供給される二酸化炭素が第四流路11を通って、第三流路9から排出されるまでの時間がかかる。よって、従来よりも長く二酸化炭素が触媒層13に留まることができ、十分な反応時間を確保することができる。また、仕切り板10が存在することによって、触媒層13内に広く二酸化炭素が拡散するので、二酸化炭素が効率よく還元され、二酸化炭素の転化率が向上する。
【0047】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0048】
第1の態様における水電解一体型メタネーションセルは、
水を電気分解して酸素と水素イオンを生成するアノード、及び、前記アノードに水を供給する第一流路を備える、アノード部と、
水素イオン伝導性を有する電解質と、
水素イオンを還元して水素を生成するカソード、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成する触媒層、前記触媒層に二酸化炭素を供給する第二流路、及び、生成された前記炭素化合物を排出する第三流路を備える、カソード部とを備え、
前記カソード部において、第二流路および第三流路がいずれも前記カソード部の一方の側面に設けられ、前記触媒層が第二流路と第三流路とを隔てる幅方向の仕切り板を有し、かつ、前記仕切り板の一部に第四流路が設けられている。
【0049】
第2の態様における水電解一体型メタネーションセルは、第1の態様におけるメタネーションセルにおいて、前記仕切り板の面積が、前記触媒層の幅方向の断面積の1/3以上である。
【0050】
第3の態様における水電解一体型メタネーションセルは、第1または第2の態様におけるメタネーションセルにおいて、第四流路が、第二流路および第三流路から離れた位置に設けられている。
【0051】
第4の態様における水電解一体型メタネーションセルは、第1から第3の態様におけるメタネーションセルにおいて、第四流路の流路面積が、第二流路の入り口の流路面積と同等またはそれ以上である。
【0052】
第5の態様における水電解一体型メタネーションセルは、第1から第4の態様におけるメタネーションセルにおいて、前記仕切り板が、凹凸形状、波板形状、及び、上下方向に突出している凸部から選択される少なくとも一つの形状を有する。
【0053】
第6の態様における電解メタネーション装置は、第1から第5の態様における水電解一体型メタネーションセルと、前記アノード部と前記カソード部との間に電流を流す電源とを備える。
【実施例0054】
以下に、実施例により本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は実施例により何ら限定されない。
【0055】
(試験例)
CO2とH2を化学量論比1:4で、触媒反応器に導入し、数値流体解析により混合割合(CO2の拡散状態)を検討した。本試験において、触媒反応器は、水電解一体型メタネーションセルのカソード部(触媒層)を模した反応器である。
【0056】
比較例の触媒反応器(カソード部3)は、
図2に示すように、触媒層13の底部に第二流路8と第三流路9を設けている。
【0057】
これに対し、実施例の触媒反応器(カソード部3)は、
図3に示すように、触媒層13の側面に第二流路8と第三流路9を設け、かつ、触媒層13には仕切り板10(厚み0mmの仮想壁)を設けた。また仕切り板10には第四流路11(幅1.77cm)を、第二流路8と第三流路9のある側面とは反対側の側面に接するようにして設けた。なお、比較例および実施例の触媒反応器において、カソード7の大きさ(高さ、直径)、及び、第二流路8と第三流路9の大きさ(流路面積)は同一にした。
【0058】
・数値流体解析
実施例および比較例の触媒反応器の触媒層13内の流れを、多孔質層内の流れをモデル化し、触媒層13内における流れの数値解析することにより、分析した。前記多孔質層内流れにおける支配方程式は以下の通りである。
【0059】
【0060】
【0061】
ρ:密度、v:流速ベクトル、p:圧力、τ:応力テンソル、μ:粘性係数、α:透過率、C2:慣性抵抗係数
vは物理流速ではなく、みかけ速度である。よって、多孔質層モデルは通常の質量保存則(式(1))、運動量保存則(式(2))のうち、運動量保存則のソース項(式(2)の右辺最後の項)として充填物が流体に作用する抗力を付加している。さらに、本試験の解析ではCO2/H2の2成分系を扱うため、以下の式(3)の化学種の輸送方程式も連成した。
【0062】
【0063】
ここでYはCO2の質量分率であり、JはCO2の拡散による質量流束ベクトルである。JはFickの法則から、Dを拡散係数として式(4)とした。
【0064】
【0065】
多孔質層モデルの使用には2式の係数(α,C2)の決定が必要である。この抗力は単位体積あたりに働く力、つまり単位体積・時間あたりの運動量損失であり、触媒を充填したカラムに通気した場合の単位長さあたり圧力損失dp/dxに等しく、以下の式(5)が成立する。
【0066】
【0067】
実施例および比較例ともに反応器における触媒としてZrO
2粉末をペレット化し、粒径0.5~0.8mmとした触媒粒子をカラムに充填した。そして、空塔速度と圧力損失を実験的に求めると
図4に示すグラフが得られた。
図4から、圧損は空塔速度に比例しており、式(5)右辺は第1項のみで表せるため、C
2=0[m-1]とし、近似直線の傾きから1/α=2.229e9[m-2]を求めた。
【0068】
多孔質層モデルにおける拡散係数は自由空間における分子拡散係数とは異なるため、補正が必要である。そこで、以下の流れで多孔質層モデル内の有効拡散係数を推算した。
【0069】
まず自由空間におけるCO2/H2系の拡散係数をGillilandの半経験式[1]に従い求めた。
【0070】
【0071】
D:拡散係数[cm2/s]、T:温度[K]、P:全圧[Pa]、V:分子A,Bの経験定数で14.3,34.0(H2/CO2の場合)、M:分子A,Bの分子量[g/mol]。T=543K、P=1.013e5Paとした。これよりD=1.225cm2/sとなる。
【0072】
さらに粒子充填層内の有効拡散係数は、Ar-He系において、流速が十分に小さい範囲では分子拡散係数の0.256倍になっていることから[2]、CO2-H2系でも有効拡散係数De=0.256*1.225=0.314cm2/sと推算した。
【0073】
試験の解析モデルに入れ込むパラメータ、境界条件としては表1に示す値を使用した。
【0074】
【0075】
(結果および考察)
比較例と実施例におけるCO
2モル分率の分布(断面コンター図)をそれぞれ
図5(比較例)および
図6(実施例)に示す。CO
2モル分率X=0.2となる場所が化学量論比であり、完全混合された位置を表すが、比較例では触媒反応器を斜めに横断するようにX=0.2の等値面があり、X=0.2付近の領域は狭いことがわかる。一方、実施例の触媒反応器では、仕切り板による折り返しより後半部分ではほぼ全ての領域でX=0.2となっており、混合が促進されている結果となった。また、触媒充填層体積のうち、化学両論比に近い0.18~0.20の範囲にある体積は、それぞれ表2の通りとなり、反応に望ましい領域が増加していることが確認できた。
【0076】
【0077】
以上から、本試験により、実施例のように触媒層に仕切り板を設けることでCO2が触媒層内に分散し、メタネーション反応に望ましい化学量論比の領域が増え、カソード部における触媒が有効に使われるため、二酸化炭素の転化率を改善できることが確認できた。