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  • 特開-合成ガスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040892
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】合成ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/48 20060101AFI20240318BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240318BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20240318BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20240318BHJP
   C01B 32/40 20170101ALI20240318BHJP
【FI】
C01B3/48
C25B1/04
C25B3/03
C25B3/26
C01B32/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145537
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆平
(72)【発明者】
【氏名】馬場 広太郎
【テーマコード(参考)】
4G140
4G146
4K021
【Fターム(参考)】
4G140EA03
4G140EA06
4G140EA07
4G140EB01
4G140EB42
4G146JA01
4G146JB02
4G146JC02
4G146JC03
4G146JC22
4K021AA01
4K021AC02
4K021BA02
4K021BA17
(57)【要約】
【課題】空気分離を行わずに、二酸化炭素と水から合成ガスを得ることができる、合成ガスの製造方法を提供すること。
【解決手段】電解反応によって、水を酸化して酸素を生成し、二酸化炭素を還元してメタンを生成すること、並びに、前記電解反応によって得られた前記酸素と前記メタンとを用いて、オートサーマルリフォーミング法により、合成ガスを製造することを含む、合成ガスの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解反応によって、水を酸化して酸素を生成し、二酸化炭素を還元してメタンを生成すること、並びに、
前記電解反応によって得られた前記酸素と前記メタンとを用いて、オートサーマルリフォーミング法により、合成ガスを製造することを含む、
合成ガスの製造方法。
【請求項2】
前記電解反応において、水の酸化により生成した酸素を含む混合ガスを、露点以下の温度に冷却することによって、前記酸素を前記混合ガスから分離することを含む、請求項1記載の合成ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合成ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として、メタンなどの炭素化合物を改質して合成ガスや水素を製造する技術が検討されている。いくつかの方法が報告されているが、その中に、オートサーマルリフォーミング(ATR)法によって、メタンなどから一酸化炭素と水素を含む合成ガスを得る方法がある。ATR法とは、1つの反応器の中で部分酸化(部分燃焼)反応とスチームリフォーミング(水蒸気改質)反応の両反応を逐次的に起こさせることにより、部分酸化反応(発熱反応)で発生する反応熱を吸熱反応であるスチームリフォーミング反応に利用することを特徴とするガスの改質法である。
【0003】
例えば、特許文献1には、平面上に配列された複数の同心二重管ノズルからなるバーナーを有するオートサーマルリフォーミング反応器を用い、それらの同心二重管ノズルから酸素を含有する酸化ガスと上記低級炭化水素ガスとをその反応器の部分酸化領域に噴出して混合させることにより低級炭化水素ガスを部分酸化し、その部分酸化反応の生成物をさらに触媒層を通してスチームリフォーミングすることにより合成ガスを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-54909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オートサーマルリフォーミング(ATR)法による合成ガスの製造には、特許文献1に記載されているように、低級炭化水素ガスと、酸素を含有する酸化ガスとが原料として必要である。特許文献1記載の技術では、低級炭化水素ガスとして天然ガスを、酸化ガスとして純度99.5%の酸素ガスを実際に使用している(実施例など参照)。
【0006】
しかしながら、純度の高い酸素ガスは入手するのにコストがかかる。現在のところ、酸素については、大気から酸素を分離して用いられていることが多いが、酸素を大気から分離するためには空気分離設備(air-separation unit、ASU)が必要となる。この空気分離には大きな電力が使用されるため、地球温暖化や環境等の観点から問題となっている。
【0007】
したがって、本開示の主な課題は、空気分離を行わずに、二酸化炭素と水から合成ガスを得ることができる、合成ガスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一局面は、電解反応によって、水を酸化して酸素を生成し、二酸化炭素を還元してメタンを生成すること、並びに、前記電気分解により得られた前記酸素と前記メタンとを用いて、オートサーマルリフォーミング法により、合成ガスを製造することを含む、合成ガスの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、空気分離を行わずに、二酸化炭素と水から合成ガスを得ることができる、合成ガスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態の合成ガスの製造方法における各工程の主な化学反応を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る実施形態について具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0012】
本実施形態の合成ガスの製造方法は、少なくとも2つの工程を含む。つまり、本実施形態の製造方法は、図1に示すように、電解反応により二酸化炭素と水からメタンを生成する工程と、前記工程で得られたメタン及び前記工程の副生成物である酸素を用いてATR法で合成ガスを製造する工程とを含む。
【0013】
本実施形態では、合成ガスの製造工程の前工程としてメタン生成の工程を含むことによって、得られたメタンをそのまま原料にできるため、合成ガスの製造に天然ガスを用いる必要がない。また、メタン生成(電解反応)の副産物として得られる酸素は、これまであまり有効な使い道がなかったが、本実施形態ではこの酸素もATR法による合成ガス製造に利用できる。そのため従来のように空気分離によって酸素を得る必要がなくなり、電力のかかるASU等の設備が不要となる。したがって、本実施形態の合成ガスの製造方法ではコストおよび電力を抑えつつ、有用な合成ガスを製造することができる。
【0014】
[メタン生成]
メタン生成の工程においては、電解反応によって、水を酸化して酸素を生成し、二酸化炭素を還元してメタンを生成する。
【0015】
本実施形態の電解反応は、例えば、電解・還元装置を用いて行うことができる。具体的には、図1に示すように、水を酸化して酸素を形成するためのアノードと、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードを備える電解セルを有する、水電解・二酸化炭素還元装置などを使用することができる。
【0016】
本実施形態で使用できる水電解・二酸化炭素還元装置は、上述したような電解セルを備える電解装置であれば、その他の構成については特に限定はされず、例えば、公知の二酸化炭素電解装置等の構成を必要に応じて適宜採用できる。
【0017】
本実施形態において、メタン生成に使用する水電解・二酸化炭素還元装置は、通常は前記電解セルに加えて、前記アノードと前記カソードとの間に電流を流す電源を備えている。
【0018】
本実施形態で使用できる電源としては、通常の市販電源、電池などが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。その他にも、太陽電池等の再生可能エネルギーを電力として供給できる装置を電源として用いることができる。
【0019】
具体的な実施形態の一つとして、水電解・二酸化炭素還元装置を用いたメタンの生成について説明する。水電解・二酸化炭素還元装置の電解セルにおいて、アノードとカソードとの間に電源から電流が供給され、かつ、アノードに水蒸気(HO)が供給されると、HOと接するアノードでHOの酸化反応が生じる。つまり、HOが酸化されて酸素(O)と水素イオン(H)が生成する。アノードで生成された水素イオン(H)は、アノード(およびアノード内に存在する電解質)とセパレータを移動し、カソードの方へ移動する。そして、電源からカソードに供給される電流由来の電子とカソードの方に移動してきた水素イオンによって、カソードに供給される二酸化炭素の還元反応が生じる。この還元反応で、二酸化炭素および水素からメタンおよび水が合成される。
【0020】
本実施形態の電解セルの構成についてより具体的に説明する。まず、前記電解セルにおいて、アノードは水(HO)の酸化反応を生起し、酸素(O)及び水素イオン(H)を生成する電極(酸化電極)である。
すなわち、アノードでは、以下の酸化反応が行われる:
O→2H+1/2O+2e
【0021】
アノードは、水を酸化して酸素及び水素イオンを生成することが可能な触媒材料(アノード触媒材料)とで構成されていることが好ましい。具体的な触媒材料としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等の金属、それらの金属を含む合金や金属間化合物、酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O)、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)、酸化リチウム(Li-O)、酸化ランタン(La-O)等の二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等の三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等の四元系金属酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体が挙げられる。その中でも、過電圧が小さくできるという観点から、Ptや酸化イリジウムなどを使用することが好ましい。
【0022】
前記酸化反応において、アノードに供給される水はそのまま用いてもよいが、反応温度が高温であるという観点から、水蒸気の状態であることが好ましい。なお、アノードに供給する水の量を過剰にすると、得られる酸素濃度が減るので好ましくない。酸素濃度が減ると、前後の工程において必要なエネルギーまたは負荷が大きくなるおそれがある。そのため、アノードに供給する水量は、使用する電解装置、所望する酸素濃度などによって適宜調整することが好ましい。
【0023】
アノードにおける酸化反応で得られた酸素を含む混合ガスは、収集された後に、酸素とその他の成分に分離される。前記電解セルにおける酸化反応は、通常、200~300℃程度(280℃前後)で行われる。そのため、前記混合ガスには、酸素の他、酸化反応による副生成物である水(水蒸気)等が混ざっている。よって、酸化反応によって得られる、酸素を含む前記混合ガスを露点以下の温度、好ましくは20~95℃に冷却することによって、水を容易に分離することができ、前記混合ガスから高純度の酸素を得ることができる。ここで得られた酸素を、次の工程である合成ガスの製造に使用する。
【0024】
また、前記電解セルにおいて、カソードは二酸化炭素(CO)の還元反応を生起し、メタン(CH)を生成する電極(還元電極)である。前記アノードとカソードとの間は、通常、セパレータによって隔てられている。
カソードでは、以下の還元反応が行われる:
2H+2e→H
CO+4H→CH+2H
【0025】
カソードは、二酸化炭素を還元して炭素化合物(メタン)を生成することが可能な触媒層を有する。前記触媒層の材料としては、具体的には例えば、ジルコニウム(Zr)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)、錫(Sn)等の金属、前記金属を少なくとも1つ含む合金や金属間化合物等の金属材料、前記金属の酸化物、炭素(C)、グラフェン、CNT(カーボンナノチューブ)、フラーレン、ケッチェンブラック等の炭素材料、Ru錯体又はRe錯体等の金属錯体が挙げられる。その中でも、Pd-Ag、カーボン材をカソードの触媒層として使用することが好ましい。
【0026】
前記カソードに二酸化炭素を供給することによって、上述の通り、メタンと水が得られる。得られたメタンと水を含む混合ガスからは、混合ガスを冷却することによって、水を分離して、メタンガスを得ることができる。なお、得られた混合ガスに未反応の二酸化炭素が含まれている可能性があるが、その場合は、二酸化炭素除去装置(PSA)等を用いて、二酸化炭素とメタンを分離してもよい。
【0027】
本工程で得られたメタンと酸素は、それぞれ気液分離等の通常の回収手段によって回収され、次の合成ガスの製造に使用される。
【0028】
[合成ガスの製造]
本実施形態の製造方法では、上述したメタン生成工程で得られた前記メタン及び前記酸素を用いて、オートサーマルリフォーミング法(以下、単に「ATR法」とも称す)により、合成ガスを製造する。ATR法とは、メタン等の合成ガス製造原料を、酸素で部分酸化すると同時に水蒸気等のリフォーミングガスで改質することにより、反応熱のバランスを取りながら合成ガスを製造する方法である。酸素による部分酸化が発熱反応、水蒸気による改質反応が吸熱反応であるため、これらを組み合わせることで熱的に自立したオートサーマル反応となる。
【0029】
具体的には、本実施形態のATR法では、以下の反応が行われる。
CH+3/2O→CO+2H
2H+O→2H
CH+HO→CO+3H
CO+HO→CO+H
【0030】
ATR法の具体的な手段については特に限定はなく、公知の手段を用いて実施できる。例えば、ATR反応器に、原料となるメタンを含むガスと、リフォーミングガスとなる酸素と水(水蒸気)を含むガスとを導入し、酸素による部分酸化と水蒸気による改質反応を行う。
【0031】
ATR反応器は特に限定はないが、固定床式、移動床式、流動床式などの反応器を選択できる。ATR反応器は一般的に前段と後段に分かれており、前段では酸素を用いる部分酸化反応が行われ、後段では水蒸気による改質反応が行われる。
【0032】
ATR反応器には、メタン生成で得られたメタンを含むガスと、同じくメタン生成で副生成物として得られた酸素と水蒸気を混合したガスとを導入する。これらのガスは同時に導入しても、別々に導入しても、どちらでもよい。反応器に導入する各成分の比率は、製造する合成ガスに応じて適宜決定すればよい。
【0033】
反応器に導入されたメタン、酸素、水蒸気を含む混合ガスは、まず反応器の前段で部分酸化される。部分酸化は酸化触媒を用いて行ってもよいし、無触媒で行ってもよい。酸化触媒としては、例えば、白金パラジウム触媒等が挙げられる。
【0034】
次に反応器の後段で、触媒を用いて水蒸気による改質反応が行われる。ここで使用される触媒としては、例えば、ニッケル等が挙げられる。
【0035】
ATR反応器内の温度及び圧力については、特に限定はなく、所望の合成ガスによって適宜設定すればよい。
【0036】
ATR法によって得られる生成ガスは、一酸化炭素、水素、水蒸気および二酸化炭素を含んでいる。この生成ガスを冷却することにより、水蒸気を凝縮分離できる。また、生成ガスに含まれる二酸化炭素は、二酸化炭素除去装置(PSA)等を用いて分離できる。こうしてATR反応器から生成ガスを取り出した後、不要な各成分を除去することによって、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを得ることができる。
【0037】
得られた合成ガスはそのまま用いてもよいし、さらに過剰な一酸化炭素および/または水素を除去して、所望の水素/一酸化炭素比を有する合成ガスに調整することもできる。
【0038】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0039】
第1の態様における合成ガスの製造方法は、電解反応によって、水を酸化して酸素を生成し、二酸化炭素を還元してメタンを生成すること、並びに、前記電解反応によって得られた前記酸素と前記メタンとを用いて、オートサーマルリフォーミング法により、合成ガスを製造することを含む。
【0040】
また、第2の態様における合成ガスの製造方法は、前記電解反応において、水の酸化により生成した酸素を含む混合ガスを露点以下の温度に冷却することによって、前記酸素をその他の成分から分離することをさらに含む。
図1