(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040894
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】補強構造
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
E01D22/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145539
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】藤代 勝
(72)【発明者】
【氏名】喜多 俊介
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059AA08
2D059BB35
2D059BB39
2D059GG40
(57)【要約】
【課題】容易に施工できる補強構造等を提供する。
【解決手段】補強構造1は、橋脚110と上部工120とを剛結したラーメン橋を補強するものである。補強構造1は、橋脚110と上部工120の接合箇所を跨ぐように配置され、橋脚110に沿って露出するように鉛直方向に設けられた緊張材2と、緊張材2の上下の端部を橋梁に固定するブラケット3と、を有する。緊張材2の下端部は、ブラケット3により橋脚110に固定され、緊張材2の上端部は、ブラケット3により上部工120に固定される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の補強構造であって、
補強箇所を跨ぐように配置され、前記橋梁の橋脚に沿って露出するように鉛直方向に設けられた緊張材と、
前記緊張材の上下の端部を前記橋梁に固定する固定部と、
を有することを特徴とする補強構造。
【請求項2】
前記緊張材は、前記橋梁の橋脚と上部工との接合箇所を跨ぐように配置され、
前記緊張材の下端部は、前記固定部により前記橋脚の橋軸直交方向に沿った面に固定され、
前記緊張材の上端部は、前記固定部により前記上部工の橋軸直交方向に沿った面に固定されることを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項3】
前記上部工は箱桁を有し、
前記緊張材は、前記箱桁の下床版の孔に通して配置されることを特徴とする請求項2記載の補強構造。
【請求項4】
前記橋梁は、橋脚と上部工とを剛結したラーメン橋であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の補強構造。
【請求項5】
前記緊張材は、前記橋脚の段落とし部を跨ぐように配置されることを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の補強構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
地震や温度荷重など様々な要因で発生する曲げモーメントに対し、橋梁の補強が必要になることがある。例えば、上部工の拡幅工事により断面力が変化して補強が必要になる場合があり、橋梁の劣化によって外ケーブル補強を行うことで橋脚に付加断面力が発生する場合にも、このような補強が必要になる。特許文献1には、鋼管による橋脚と、上部工との接合箇所において、橋脚の内部に内筒を設けるとともに橋脚を外套で囲み、橋脚の内面と内筒との間にコンクリートを充填し、橋脚の外面と外套との間に高靱性セメント複合材料を充填することで、橋脚と上部工の接合箇所を補強することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の補強構造は、内筒や外套の設置、コンクリート等の充填など、施工に手間が掛かるという問題があった。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、容易に施工できる補強構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するための本発明は、橋梁の補強構造であって、補強箇所を跨ぐように配置され、前記橋梁の橋脚に沿って露出するように鉛直方向に設けられた緊張材と、前記緊張材の上下の端部を前記橋梁に固定する固定部と、を有することを特徴とする補強構造である。
【0007】
本発明では、橋脚に沿って配置された鉛直方向の緊張材により導入される圧縮力(プレストレス)を用いて、橋脚と上部工との接合箇所や橋脚の段落とし部など、橋梁において必要となる補強を行うことができる。この補強構造はコンクリートの充填等を必要としない簡易且つ軽量な構成であり、また緊張材が橋脚に沿って露出する外付けのものなので、施工に手間が掛かることもない。
【0008】
前記緊張材は、前記橋梁の橋脚と上部工との接合箇所を跨ぐように配置され、前記緊張材の下端部は、前記固定部により前記橋脚の橋軸直交方向に沿った面に固定され、前記緊張材の上端部は、前記固定部により前記上部工の橋軸直交方向に沿った面に固定されることが望ましい。例えば前記上部工は箱桁を有し、前記緊張材は、前記箱桁の下床版の孔に通して配置される。また、前記橋梁は、例えば橋脚と上部工とを剛結したラーメン橋である。
これにより、橋脚と上部工との接合箇所において、橋軸方向の鉛直面内の曲げモーメント等に対する補強を容易に行うことができる。上部工が箱桁の場合は、その下床版に形成した孔に緊張材を通せばよい。このような補強は、特に、橋脚と上部工とを剛結したラーメン橋において有効である。
【0009】
あるいは、前記緊張材は、前記橋脚の段落とし部を跨ぐように配置されてもよい。
この場合、地震等の水平力により橋脚に加わる曲げモーメントによって橋脚の段落とし部が損傷等するのを防止できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、容易に施工できる補強構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】橋脚110と上部工120の接合箇所を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る補強構造を適用する橋梁100を示す図である。この橋梁100は、橋脚110と上部工120を剛結したラーメン構造を有するラーメン橋である。
【0014】
図2(a)は、橋脚110と上部工120との接合箇所について、橋軸方向の鉛直断面を見たものである。本実施形態の橋梁100は、上部工120として箱桁を有する箱桁橋であり、コンクリート等によって形成された上床版121と下床版122を有する。
【0015】
橋脚110はコンクリート等により形成された柱部材であり、箱桁内の橋脚110に対応する位置には横桁123が形成される。
【0016】
本実施形態の補強構造1は、地震や温度荷重など様々な要因で上部工120に加わる橋軸方向の鉛直面内の曲げモーメントMに対し、既存の橋脚110と上部工120の接合箇所を補強するものであり、緊張材2とブラケット3とを有する。
【0017】
緊張材2は、橋脚110と上部工120の接合箇所(補強箇所)を跨ぐように配置され、橋脚110に沿って露出するように鉛直方向に設けられる。緊張材2は、緊張された状態で、その上下の端部がブラケット3により橋梁100の横桁123と橋脚110に固定される。緊張材2の上端部は横桁123の橋軸直交方向に沿った面に固定され、緊張材2の下端部は橋脚110の橋軸直交方向に沿った面に固定される。なお橋軸直交方向は平面視で橋軸方向と直交する方向であり、
図2(a)の紙面法線方向に対応する。
【0018】
図2(b)は、
図2(a)の線A-Aによる鉛直断面を示す図である。補強構造1は、橋軸直交方向(
図2(b)の左右方向に対応する)に間隔を空けて複数設けられる。各補強構造1の緊張材2は、下床版122に別途形成した孔124に通して配置される。補強構造1は外付けのものであり緊張材2やブラケット3が露出するが、緊張材2を被覆材(不図示)で被覆して耐久性を向上させることができる。また止水のため、孔124に止水材(不図示)を設けることもできる。
【0019】
図3は、ブラケット3を示す図である。ブラケット3は、緊張材2の上下の端部の固定を行う固定部であり、本実施形態では、一対のH形鋼31を部材軸方向を鉛直方向として並べ、これらのH形鋼31の上下の端面のそれぞれを一枚のプレート32に溶接等で固定した構成を有する。
【0020】
プレート32には孔321が形成されており、緊張材2の上端部は、ボルト等で横桁123に固定したブラケット3の上下のプレート32の孔321に通され、上側のプレート32に定着具(不図示)によって固定される。緊張材2の下端部は、同じくボルト等で橋脚110に固定したブラケット3の上下のプレート32の孔321に通され、下側のプレート32に定着具(不図示)によって固定される。
【0021】
こうして緊張された状態の緊張材2の両端部を橋脚110と上部工120の接合箇所を跨いで固定することで、その圧縮力(プレストレス)により橋脚110と上部工120の接合箇所を補強でき、接合箇所に埋設された鉛直鉄筋(不図示)の塑性化を制御し、橋脚110と上部工120の剛結状態を維持することができる。
【0022】
以上説明したように、本実施形態によれば、橋脚110に沿って配置された緊張材2により導入される圧縮力を用いて、橋脚110と上部工120との接合箇所において、前記の曲げモーメントMに対する補強を行うことができる。補強構造1はコンクリートの充填等を必要としない簡易且つ軽量な構成であり、また緊張材2が橋脚110に沿って露出する外付けのものなので、施工に手間が掛かることがなく、補修や維持管理のための点検等も簡単である。
【0023】
また本実施形態の橋梁100は箱桁橋であり、下床版122の孔124に通して緊張材2を配置できる。補強構造1は、特に、橋脚110と上部工120とを剛結したラーメン橋において有効であり、前記の曲げモーメントMに対し、橋脚110と上部工120との接合箇所を緊張材2の圧縮力により補強できる。
【0024】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば、ブラケット3は前記の構成に限定されず、緊張材2の上下の端部を橋脚110や上部工120に固定できるものであればよい。また上部工120も前記の箱桁に限定されず、橋脚110と剛結されるものであり、緊張材2の上端部を固定するための橋軸直交方向に沿った面を有していればよい。
【0025】
また橋脚110が空洞を有する筒状の柱部材である場合には、施工はやや難しくなるものの、橋脚110の外面の他、内面(橋軸直交方向に沿った内面)に補強構造1を設けることもできる。
【0026】
また、補強構造1による橋梁の補強箇所も、前記した橋脚110と上部工120の接合箇所に限ることはない。以下、補強箇所が異なる例を第2の実施形態として説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態と異なる点について主に説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付して説明を省略する。
【0027】
[第2の実施形態]
図4(a)、(b)は、補強構造1を適用する橋脚200を示す図であり、それぞれ、橋脚200の橋軸方向に沿った面と橋軸直交方向に沿った面を見たものである。橋脚200は、鉄筋コンクリート造の柱部材である。橋脚200は、先程説明したラーメン橋の橋脚であってもよいし、その他の橋梁の橋脚であってもよい。また上部工と剛結されていてもよいし、剛結されていなくてもよい。
【0028】
図5(a)は、橋脚200の橋軸方向の鉛直断面を見た図である。本実施形態において、補強構造1は、橋脚200の段落し部Bの補強のため設けられる。段落し部Bは、橋脚200の高さ方向の中間部等で、鉄筋210の本数(密度)を減らした部分である。
【0029】
図5(b)に示すように、地震時の水平力により橋脚200に加わる曲げモーメントMt(この例では、橋軸方向の鉛直面内の曲げモーメント)は、橋脚200の基部で最大となり、橋脚200の頂部に行くに従って減少する。
【0030】
鉄筋210は、このような曲げモーメントMtの分布に応じて、橋脚200の頂部側の本数を減らして配置される。ただしこの場合、橋脚200の降伏曲げ耐力Myは、鉄筋210の本数に応じて段状に変化するので、段落し部Bにおいて曲げモーメントMtが降伏曲げ耐力Myを上回りやすくなり、損傷等が発生しやすくなる。
【0031】
補強構造1は、このような段落し部Bを補強するものであり、緊張材2は、段落し部B(補強箇所)を跨ぐように配置され、橋脚200に沿って露出するように鉛直方向に設けられる。緊張材2は、緊張した状態で、上下の端部がブラケット3により橋脚200の橋軸直交方向に沿った面に固定される。
【0032】
図4(b)に示すように、補強構造1は、橋軸直交方向に間隔を空けて複数設けられる。補強構造1の数は、前記の曲げモーメントMtや降伏曲げ耐力Myに応じて定めることができる。
【0033】
本実施形態では、緊張された状態の緊張材2の両端部を、段落し部Bを跨いで固定することで、橋脚200の段落し部Bを補強することができ、地震等の水平力により橋脚200に加わる曲げモーメントMtによって橋脚200の段落し部Bが損傷等するのを防止できる。
【0034】
なお本実施形態では緊張材2の下端部をブラケット3により橋脚200の側面に固定しているが、緊張材2の下端部を橋脚基部のフーチング(不図示)に埋設し、当該下端部に設けた定着体(固定部)によりフーチングに固定することもできる。さらに、補強構造1は橋脚200の橋軸直交方向に沿った面に設けているが、場合によっては、橋脚200の橋軸方向に沿った面に設けることもできる。また前記と同様、橋脚200が空洞を有する筒状の柱部材である場合には、橋脚200の外面の他、内面に補強構造1を設けることもできる。
【0035】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0036】
1:補強構造
2:緊張材
3:ブラケット
100:橋梁
110、200:橋脚
120:上部工
121:上床版
122:下床版
123:横桁
124:孔
B:段落し部