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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040898
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】紙コップ用原紙およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/10 20060101AFI20240318BHJP
   D21H 21/14 20060101ALI20240318BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20240318BHJP
   A47G 19/22 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
D21H19/10 Z
D21H21/14 Z
B32B27/10
A47G19/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145547
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】加藤 美沙紀
【テーマコード(参考)】
3B001
4F100
4L055
【Fターム(参考)】
3B001AA02
3B001CC36
4F100AK26A
4F100AK70B
4F100BA02
4F100DG02A
4F100DG10A
4F100EH46
4F100EJ86
4F100JB07
4F100JK06
4F100JL12B
4F100YY00A
4F100YY00B
4L055AA02
4L055AC06
4L055AG50
4L055AG56
4L055AG59
4L055AG71
4L055AG72
4L055AG89
4L055AH01
4L055AH10
4L055BE08
4L055CH13
4L055EA04
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA13
4L055EA14
4L055EA32
4L055FA19
4L055FA30
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、プラスチックの使用量を低減し、リサイクル性に優れ、コップや食料用カップなどの立体的な紙容器に好適な加工適性を有する紙コップ用原紙を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙に関し、前記紙基材の灰分が2.0質量%以下であり、前記紙基材がパルプ100質量部に対して固形分換算で0.05~1.0質量部のポリアクリルアミドを含み、前記ヒートシール層がアイオノマーを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙であって、前記紙基材の灰分が2.0質量%以下であり、前記紙基材がパルプ100質量部に対して固形分換算で0.05~1.0質量部のポリアクリルアミドを含み、前記ヒートシール層がアイオノマーを含むことを特徴とする、紙コップ用原紙。
【請求項2】
前記ヒートシール層の乾燥塗工量が紙基材の片面あたり1~20g/mの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の紙コップ用原紙。
【請求項3】
前記紙基材に含まれるパルプ中に1~50質量部の針葉樹パルプが含まれることを特徴とする、請求項1または2に記載の紙コップ用原紙。
【請求項4】
前記紙基材に填料が含まれないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の紙コップ用原紙。
【請求項5】
前記紙コップ用原紙の耐折回数が200回以上であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一つに記載の紙コップ用原紙。
【請求項6】
坪量が100g/m~450g/mであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一つに記載の紙コップ用原紙。
【請求項7】
パルプとポリアクリルアミドを含むパルプスラリーを用いて、灰分2.0%以下であり、パルプ100質量部に対して固形分換算で0.05~1.0質量%のポリアクリルアミドを含む紙基材を抄紙する抄紙工程と、
抄紙工程で得られた紙基材にアイオノマーを含むヒートシール層用塗工液を塗工することで紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を設ける塗工工程を有することを特徴とする、紙コップ用原紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックの使用量を低減した紙コップ用原紙に関する。また、リサイクル性に優れ、コップやトレーなどの立体的な紙容器に好適な加工適性を有する紙コップ用原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックゴミ問題が深刻化している。世界のプラスチックの生産量は4億トン/年を超えると言われ、その中でも包装容器セクターでのプラスチック生産量が多く、プラスチックゴミの原因になっている。プラスチックは半永久的に分解せず、そのゴミは自然環境下でマイクロプラスチック化し、生態系に深刻な悪影響を与えている。特に海洋の汚染は著しく、そのプラスチックゴミは回収不可能と言われている。今後、プラスチックの使用を低減することが地球環境にとって必要である。
【0003】
一方で、プラスチックゴミ対策として微生物によって完全に分解され得る生分解性プラスチックの応用が世界中で提案されている。生分解プラスチックは自然界で一定期間の内に分解されるが、分解されるまではやはりゴミであり、それらの使用量および廃棄量が低減されない限りにおいては、即効性のある対策とは言えない(特許文献1、2参照)。
【0004】
即効性のある対策手段として、例えば、プラスチックを紙に代替することが提案されており、紙コップにおいても広く使用されている。しかしながら、紙を紙コップに加工する際には、ヒートシール剤として、ポリエチレンやポリプロピレンが多量にラミネートされて使用される。これらプラスチックのラミネート量は、商品コンセプトによって様々だが、概ね片面あたり30~50g/mであり、300g/mと多量になる場合もある。従って、プラスチックを紙に代替した紙コップにおいても、依然としてプラスチックの使用量は十分に低減されないという問題があり、早急に、直接的にプラスチックの使用を低減する手段が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-148444号公報
【特許文献2】特開2013-141763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プラスチックの使用量を低減でき、リサイクル性に優れ、コップやトレーなどの立体的な紙容器に好適な加工適性を有する紙コップ用原紙に関する。ここでいう加工適性とは、ヒートシール性、紙コップのトップカール部の加工適性、折り曲げ部における耐水性(以降、「耐折性」と略称する場合がある)のことを指す。
【0007】
本発明の他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、従来のプラスチックラミネート紙(以降、ポリラミ紙と略称する場合がある)のポリエチレンやポリプロピレンの使用量を低減するために、アイオノマーを使用する。すなわち、本発明による紙コップ用原紙は、パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙であって、前記紙基材の灰分が2.0質量%以下であり、前記紙基材がパルプ100質量部に対して固形分換算で0.05~1.0質量部のポリアクリルアミドを含み、前記ヒートシール層がアイオノマーを含むことを特徴とする。アイオノマーはヒートシール性に優れた樹脂であるため、ヒートシール層の塗布量を減らすことが可能となり、従来のポリラミ紙のヒートシール層に使用されているポリエチレンやポリプロピレンと比較してプラスチックの使用量を削減することができる。また、従来のポリラミ紙に比べて離解性が良く、リサイクル性に優れる。ここでアイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた合成樹脂である。例えば、アクリル系高分子とエチレンを、ナトリウムや亜鉛などの金属カチオンを加え分子間結合させて製造される。また、灰分が2.0%以下の紙基材とするためには無機鉱物の由来である填料を少量とするか、填料を含まない構成とするほかなく、それによって、紙コップ用原紙をトップカール加工する際の割れ(以下、「トップカール割れ」と言うことがある)が発生しにくく、美粧性や折り曲げ部の耐水性が保たれる。さらに、パルプ100質量部に対して固形分換算で0.05~1.0質量部のポリアクリルアミドを含むことで、ポリアクリルアミドがパルプ繊維の絡み合いを補強し紙基材の密度を上げ、その結果ヒートシール層用塗工液が紙基材に浸透することを抑制でき、その結果、耐水性に優れたヒートシール層を付与できる。
【0009】
本発明においては、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が紙基材の片面あたり1~20g/mの範囲であることが好ましい。このような構成であれば、一方ではヒートシール適性を保持しつつも、プラスチックの使用量が片面あたり30g/m、両面で60g/mを超える従来のポリラミ紙と比較して、ヒートシール層に含まれるプラスチックの使用量を従来の約3~67%にまで削減することができる。また、さらに離解性が良く、リサイクル性により優れた紙コップ用原紙を得ることができる。
【0010】
本発明においては、前記紙基材に含まれるパルプ中に1~50質量部の針葉樹パルプが含まれることが好ましい。このような構成とすることで、紙基材に適度な強度を付与でき、加工適性がさらに優れ、さらにトップカール割れが発生しにくい紙コップ用原紙を得ることができる。
【0011】
本発明においては、前記紙基材に填料が含まれないことが好ましい。このような構成とすることで、紙基材の灰分がより小さくなり、よりトップカール割れが発生しにくく、より美粧性に優れ折り曲げ部の耐水性がより優れた紙コップ用原紙を得ることができる。なお、填料としては、汎用される填料はすべて含まれるが、例えば、これに限定されることはないが、シリカ、炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、カオリンクレー(カオリン、クレーを含む)、焼成クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウムなどが例示できる。
【0012】
本発明においては、前記紙コップ用原紙の耐折回数が200回以上であることが好ましい。このような構成とすることで、さらにトップカール割れが発生しにくく、より美粧性に優れ折り曲げ部の耐水性がより優れた紙コップ用原紙を得ることができる。
【0013】
本発明においては、紙コップ用原紙の坪量が100g/m~450g/mであることが好ましい。このような構成とすることで、立体的な紙容器としてより適切な剛度を持つ紙コップ用原紙を得ることができる。
【0014】
また、本発明は紙コップ用原紙の製造方法に関する発明としても捉えることができる。本発明にかかる紙コップ用原紙の製造方法は、パルプとポリアクリルアミドを含むパルプスラリーを用いて、灰分2.0%以下であり、パルプ100質量部に対して固形分換算で0.05~1.0質量部のポリアクリルアミドを含む紙基材を抄紙する抄紙工程と、前記紙基材にアイオノマーを含むヒートシール層用塗工液を塗工することで紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を設ける塗工工程とを有することを特徴とする。本発明の紙コップ用原紙の製造方法であれば、プラスチックの使用量を低減でき、リサイクル性に優れ、コップやトレーなどの立体的な紙容器に好適な加工適性を有する紙コップ用原紙を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、プラスチック使用量が低減でき、リサイクル性に優れ、コップやトレーなどのトップカール加工を行う立体的な紙容器に好適な加工適性を有する紙コップ用原紙を製造することが可能である。本発明の紙コップ用原紙であれば、仮に自然界にゴミとして不適切に放出された場合であっても、自然環境に与えるプラスチックゴミとしての悪影響を小さくすることが可能であり、プラスチックゴミ問題の解決の一助となる。なお、本発明における紙コップ用原紙は、例えば、ホット・アイス飲料用の紙コップ、アイスクリーム等の食料用カップ、ホットスナック等の食料用カップおよびトレー等のトップカール加工を行う紙製容器全般として好適に加工可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明について実施形態の一例を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0017】
本実施形態において、ヒートシール層は、アイオノマーを含むことを特徴とする。ここでアイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂のことを指し、樹脂と金属カチオンが分子間結合して凝集体となるものすべてを含む。例えば、エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、エチレン・アクリル酸共重合物の金属塩、エチレン・ウレタン系共重合物の金属塩、エチレン・フッ素系高分子共重合物の金属塩等である。本発明においては、乾燥塗工量が比較的少なくとも低温でのヒートシール強度を付与できることから、アイオノマーの中でもエチレン・アクリル酸またはエチレン・メタクリル酸の共重合物の金属塩が好ましい。塩を形成する金属としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、具体的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛の各イオンなどである。本発明においては、前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である自己乳化型エマルジョンであることが好ましい。ヒートシール層の塗工量が比較的少なくとも、十分なヒートシール強度を有するヒートシール層を設けることができる。本発明の紙コップ用原紙においては、ヒートシール性能に影響を及ぼさない限り、これら以外の樹脂を含んでも良く、さらに複数の樹脂を混合しても良い。ヒートシール層に占めるアイオノマーの割合は、特に限定するものではないが、低塗工量でもヒートシール性を良好とできることから、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0018】
本発明の実施形態においては、紙基材の少なくとも一方の面に、アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を塗工し、乾燥することでヒートシール層を設けることができる。ヒートシール層に用いるアイオノマーが水系エマルジョンであることが好ましい。水系エマルジョンを用いることにより、塗工量を比較的低くコントロールすることができ、さらにVOC排出が無くなることで自然環境に対する負荷をより小さくすることができる。
【0019】
本発明の実施形態においては、ヒートシール層用塗工液には、アイオノマーを含む水系エマルジョンの他に、各種助剤を本発明の目的とする効果を損なわない範囲で添加してもよい。例えば、粘度調整剤、消泡剤、界面活性剤やアルコールなどのレベリング剤、着色顔料、着色染料、ワックスなどの滑剤、クレーや炭酸カルシウムなどの顔料、ポリビニルアルコールやでんぷんなどのバインダー、などである。しかしながら、これらの助剤の添加はヒートシール強度の低下を招きやすいことから添加する場合には少量であることが好ましく、ヒートシール層用塗工液がアイオノマーを含む水系エマルジョンのみからなることがより好ましい。なお、本発明の目的とする効果を損なわない範囲で上述以外の助剤を含んでもよい。
【0020】
本発明においてヒートシール層の塗工量は、紙基材の片面あたり固形分換算で1~20g/mとすることが好ましい。より好ましくは2~10g/mである。紙基材の少なくとも一方の面に設けるヒートシール層の塗工量をこの範囲とすることで十分なヒートシール性と耐水性を得ることができる。塗工量が1g/m未満の場合には、十分なヒートシール強度と耐水性が得られないおそれがある。逆に20g/mを超える場合には、十分なヒートシール強度は得られるが、プラスチックの使用量も増えるためプラスチック削減効果に乏しく、またヒートシール層が厚いので離解しにくく、リサイクル性に劣る紙コップ用原紙となるおそれがある。なお、ヒートシール層を紙基材の両面に設ける場合は、紙基材の両面に設けたヒートシール層の塗工量の合計が固形分換算で3~25g/mであることが好ましく、4~20g/mであることがより好ましい。十分なヒートシール強度と耐水性を得つつ、プラスチックの削減効果に優れる。
【0021】
ヒートシール層を紙基材の両面に設ける場合、紙コップの内容物と接触する側の面(以降、「内面」と略称する場合がある)の塗工量を2.5g/m以上とし、外側の手で触れる面(以降、「外面」と略称する場合がある)の塗工量を0.5g/m以上とすることが好ましい。また、外面に対する内面のヒートシール層の塗工量の割合を1.5~20倍の範囲内とすることが好ましい。内面は内容物の種類によるが、ヒートシール層にはヒートシール性のほかに耐水性が求められる場合があり、その場合は固形分換算で2.5g/m以上のヒートシール層用塗工液を紙基材の内面の全面に均一に形成することでより良好な耐水性を付与することができる。外面はヒートシールの補助としての役割が大きいため、比較的少量の塗工量でもよく、また、紙基材の全面に塗布されていても良いが、紙基材の内面と外面とのヒートシールによる接着に必要な部分にのみ網状、島状、線状などの状態で設けられていても良い。
【0022】
本発明の実施形態においては、ヒートシール層が各面に2層以上で形成されていても良い。ヒートシール層を2層以上とすることにより紙コップ用原紙の透気度を高くすることができ、さらに耐水性、耐油性、防湿性も付与してポリラミ紙と同レベルのバリア性を得ることができる。ヒートシール層を2層以上とする場合には、紙基材に最も近いヒートシール層最下層の塗工量が他のヒートシール層上層の合計塗工量よりも多い方が好ましい。このように構成することで、包装用紙の透気度をさらに高くすることができ、耐水性、耐油性、防湿性がさらに向上する。ヒートシール層が2層以上である場合にも、紙基材の片面あたりの塗工量は固形分換算で1~20g/mとすることが好ましく、2~10g/mであることがより好ましい。また、紙基材の両面の塗工量を合計して固形分換算で3~25g/mであることが好ましく、4~20g/mとすることがより好ましい。
【0023】
本発明におけるヒートシール層用塗工液を塗工する方式としては、特に限定するものではなく、一般に使用されている塗工装置が使用できる。例えばエアーナイフコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、ロッドブレードコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、チャンプレックスコーター、メータリングブレード式のサイズプレスコーター、ショートドウェルコーター、スプレーコーター、ゲートロールコーター、リップコーター等の公知の各種塗工装置を用いることができる。
【0024】
本発明の実施形態においては、紙基材とヒートシール層以外に、任意の層を設けても良い。例えば紙基材とヒートシール層の間にアンダー層を設けても良く、ヒートシール層の反対面に印刷層や接着補助層を設けても良い。
【0025】
本発明の実施形態においては、バインダーを含むアンダー層を紙基材とヒートシール層の間に設けてもよい。アンダー層を紙基材とヒートシール層の間に設けることで、ヒートシール層用塗工液が紙基材に浸透することを防ぐ目止め効果が生じるので、少ない塗工量のヒートシール層でも欠点の少ない樹脂膜が形成しやすくなり、プラスチックの使用量を増やすことなくより良好な耐折性を有する紙コップ用原紙を得ることができる。アンダー層の構成としては、顔料とバインダーの併用、若しくはバインダーのみであることが好ましい。例えば、顔料100質量部に対して、5~50質量部のバインダーを含むことができる。アンダー層中の顔料およびバインダーとしては、一般の印刷用塗工紙の塗工層に使用される公知の顔料とバインダーを用いることができるほか、アンダー層には、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で各種助剤を含んでもよく、例えば、粘度調節剤、柔軟剤、光沢付与剤、耐水化剤、分散剤、流動変性剤、紫外線吸収剤、安定化剤、帯電防止剤、架橋剤、サイズ剤、蛍光増白剤、着色剤、pH調節剤、消泡剤、可塑剤、防腐剤が含まれていてもよい。アンダー層に用いられる顔料の一例としては、例えば、カオリンクレー、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム等)、焼成クレー、タルク、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪藻土、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機顔料、またはアクリル、スチレン、塩化ビニル、ナイロンそのものや、これらを共重合して得られる有機顔料(いわゆるプラスチックピグメント(以降、「PP粒子」と略称する場合がある))などが挙げられる。アンダー層に用いられるバインダーの一例としては、ブタジエン系共重合ラテックス、架橋剤変性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉などの澱粉類、ゼラチン、カゼイン、大豆タンパク、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂等の合成樹脂類等を例示できる。具体的なアンダー層の構成例としては、顔料として、カオリンクレーを5~35質量部および重質炭酸カルシウムを65~95質量部含み、バインダーとして、リン酸エステル化澱粉を1~5質量部およびスチレンブタジエン共重合ラテックスを15~45質量部含む構成等が挙げられる。
【0026】
本発明の実施形態においては、紙基材のヒートシール層を設けた面の反対側の面に印刷層を設けてもよい。紙コップ用原紙を紙コップや器として加工した際に、容器の外側面には内容物の表示や宣伝として印刷が行われることがあるが、印刷層を設けることによって良好な印刷適性を与えることができる。また、印刷層の上に印刷を施してからさらにその上にヒートシール層を設けることも可能である。印刷層の構成としては特に限定するものではなく、前述のアンダー層と同様に顔料とバインダーおよび各種助剤を含有させることができ、また、公知の印刷用塗工紙の塗工層と同様の構成とすることができる。
【0027】
本発明の実施形態においては、紙コップの胴部分のように1枚の紙コップ用原紙を筒状にヒートシールする場合を想定すると、ヒートシール層とその反対面との接着が良好でなくてはならないが、ヒートシール層を紙基材の片面にのみ設ける場合、ヒートシール層の反対面に接着補助層が設けられていることで、良好なヒートシール性を付与できる。接着補助層中には公知のバインダーを用いることができる。このようなバインダーとしては、ブタジエン系共重合ラテックス、架橋剤変性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉などの澱粉類、ゼラチン、カゼイン、大豆タンパク、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、ポリエチレンイミン、酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂等の合成樹脂類等を例示できる。これら例示した樹脂は、接着特性に優れるため、アイオノマーとの接着補助剤のように働き、良好なヒートシール性とヒートシール強度を付与できる。これらの樹脂は単独で使用してもよく、複数の樹脂を組み合わせても良い。また、接着補助層にはバインダーの他に、本発明の目的とする効果を損なわない範囲で各種助剤を添加してもよい。各種助剤としては、例えば、粘度調整剤、消泡剤、界面活性剤やアルコールなどのレベリング剤、着色顔料、着色染料、耐水化剤、ワックスなどの滑剤、クレーや炭酸カルシウムなどの顔料など公知の製紙薬品である。
【0028】
本発明の実施形態においては、紙基材を平滑化処理する工程を含んでも良い。紙基材を平滑化処理する方式としては、特に限定するものではなく、一般に使用されているカレンダー装置が使用できる。例えば、マシンカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダー、グロスキャレンダー、シューニップキャレンダー等の公知の各種平滑化装置を用いることができる。また、片艶クラフト紙などに用いられるような、ヤンキードライヤーの鏡面を転写し平滑化処理する工程を含んでも良い。平滑化処理を行った面にヒートシール層を塗工することで、ヒートシール層用塗工液が紙基材表面に均一に塗工されやすくなることで高い目止め効果も得られ、良好な耐水性を有する紙コップ用原紙を得ることができる。また、紙基材のヒートシール層を設けた面の反対側の面を平滑化することで、ヒートシール時にヒートシール層面と反対面の密着性が増し、ヒートシール強度に優れた紙コップ用原紙を得ることができる。本実施形態においては、紙基材のヒートシール層面および/またはヒートシール層を設けた面の反対側の面の平滑度が5秒以上であることが好ましい。より好ましくは10秒以上である。本実施形態において、平滑度はJIS P 8119:1998に準拠して、ベック平滑度試験機(NKE-A1272)にて測定した。
【0029】
本発明の目的は、プラスチックの使用量を低減することにある。本発明の実施形態においては、プラスチック樹脂であるアイオノマーで構成されたヒートシール層の塗工量が少ないほど、プラスチック量の低減効果が得られる。しかし、ヒートシール層の塗工量を減らすことでヒートシール層は薄く脆くなるので加工工程においてヒートシール層が折れや破けにより欠けが生じて耐水性が低下するおそれがあり、従来のポリラミ紙に使われていた紙基材よりも折れ割れしにくい紙基材を選定しなければならない。
【0030】
そこで、本発明の実施形態においては、紙基材にポリアクリルアミドを含有させる。ポリアクリルアミドは、紙基材に強度を与える紙力剤としての目的とヒートシール層の耐水性の付与の2つの目的で含まれる。ポリアクリルアミドは紙力剤として用いる際に、パルプとの水素結合が可能なアミノ基が多く含まれるため、少ない添加量で紙力を発揮できる。澱粉などの天然多糖類を紙力剤として使用する場合、ポリアクリルアミドと同等の紙力を発揮するのに添加量が多く必要であり、その結果澱粉樹脂が繊維間を過剰に覆って剛直な紙基材となってしまう。剛直な紙基材は、トップカール加工や折り曲げ加工する際にも割れが発生しやすくなるおそれがあるため不適である。また、ポリアクリルアミドを含有する紙基材は、ポリアクリルアミドがパルプ繊維間の絡み合いを補強することで紙基材の密度が上がり、密度の高い紙基材はヒートシール層用塗工液を吸液しにくくなるので、ヒートシール層が紙基材表面に均一に塗工されやすくなり、良好な耐水性を有する紙コップ用原紙を得ることができる。
【0031】
本発明の実施形態においては、紙基材がパルプ100質量部に対して固形分換算で0.05~1.0質量部のポリアクリルアミドを含むことを特徴とする。好ましくは、紙基材はパルプ100質量部に対して0.05~0.80質量部、さらには、0.10~0.50質量部のポリアクリルアミドを含むとよい。紙基材中のポリアクリルアミドの含有量が0.05質量部未満の場合、紙基材に十分な強度が付与されず折れ割れが生じやすくなる。。逆に1.0質量部を超える場合、強度は充分に付与されるが離解が困難となる。離解しにくい紙コップ用原紙は、使用後に離解して再利用することが難しくなるため、リサイクルが難しい紙コップ用原紙しか得られない。また、紙料中へのポリアクリルアミドの添加量が多くなりすぎることで抄紙系内が泡立ちやすくなるため、紙基材に欠点や紙切れが発生しやすくなり、操業性が悪化するばかりか、紙力の低下によるトップカール割れが発生するおそれもある。
【0032】
本発明の実施形態において、ポリアクリルアミドとしては、特に限定するものではないが、例えばカチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、両性(共重合)ポリアクリルアミド、ノニオン性ポリアクリルアミド、ホフマン変性ポリアクリルアミドが挙げられる。また、ポリアクリルアミドのグラフト重合澱粉を含んでも良い。
【0033】
本発明の実施形態において、ポリアクリルアミドの配合方法としては、パルプスラリー中に含んでもよく、または製紙後にサイズプレスやゲートロール等で紙基材の内部に含浸させても良い。
【0034】
本発明の実施形態においては、紙基材の灰分が2.0質量%以下であることを特徴とする。好ましくは紙基材の灰分は1.5質量%以下であるとよい。下限は特に限定するものではなく、0質量%であってもよいが、パルプや抄紙に用いる水に含まれる無機物が混入するため、例えば0.1質量%以上となることが一般的である。紙基材の灰分を2.0質量%以下とする方法としては、紙基材に填料を含ませないことや、パルプ原料や使用水をクリーナー等の異物除去装置で処理して無機物を除去することで達成できる。紙基材の灰分が2.0質量%を超えると、トップカール割れが発生しやすい。これは紙基材中の無機物が増えることでパルプの繊維間結合が阻害されて紙基材の紙力が低下することも原因であるが、無機物(特に汎用の填料としても使用されるシリカ、タルク、炭酸カルシウムなど)は、抄紙工程で添加されたポリアクリルアミドを吸着してしまい、ポリアクリルアミドによって得られる紙力向上や耐水性などの効果が発現しにくくなるためと考えられる。前述の通り、従来のポリラミ紙はプラスチックの使用量が多く、ラミネート部分での強度確保が可能であることから紙基材の強度については重要視されていなかった。しかし、本発明の実施形態においてはアイオノマーで構成されたヒートシール層の塗工量を少なくすることができる反面、トップカール割れを抑制できる紙基材の選定が必要となるため、ポリアクリルアミドと灰分の組み合わせが重要となる。紙基材に十分な強度がなく折れ割れが発生すると、紙基材表面に設けられていたヒートシール層も追従して折れ割れを起こし、割れた箇所では耐水性や美粧性が損なわれてしまう。なお、本実施形態において、灰分はJIS P 8251:2003「紙、板紙-灰分試験方法-525℃燃焼法」に準拠して測定される。
【0035】
本発明の実施形態において用いる紙基材としては、パルプを主成分とする公知の紙基材を用いることができる。紙基材の主成分となるパルプとしては、LBKP(広葉樹晒しクラフトパルプ)、NBKP(針葉樹晒しクラフトパルプ)などの化学パルプ、GP(砕木パルプ)、PGW(加圧式砕木パルプ)、RMP(リファイナーメカニカルパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、CMP(ケミメカニカルパルプ)、CGP(ケミグランドパルプ)などの機械パルプ、DIP(脱インキパルプ)などの木材パルプおよびケナフ、バガス、竹、コットンなどの非木材パルプを用いることができる。これらは、単独で使用するか、または任意の割合で混合して使用することが可能である。例えば、パルプとして、LBKP(広葉樹晒しクラフトパルプ)をパルプ中70~100質量部使用することができる。また、本発明の目的とする効果を損なわない範囲において、合成繊維をさらに配合することができる。環境保全の観点から、ECF(Elemental Chlorine Free)パルプ、TCF(Total Chlorine Free)パルプ、古紙パルプ、植林木から得られるパルプが好ましい。古紙パルプを用いる場合、古紙には填料を多く含むものも存在するので、紙基材全体として灰分が2.0%を超えないように、古紙を配合する割合に注意する必要がある。古紙の種類により推奨される割合は異なる。紙基材の灰分が2.0%を超えない限り、どの種類の古紙を使用してもよい。また、例えば、適切なパルプの叩解度としては、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、200~700mlCSF、好ましくは、250~620mlCSF、さらには、400~580mlCSFである。
【0036】
本実施形態において、パルプ主成分としてはLBKP(広葉樹晒しクラフトパルプ)を使用することが好ましく、さらに、LBKPに加えて、NBKP(針葉樹晒しクラフトパルプ)を全パルプ100質量部に対して1~50質量部使用することが好ましい。より好ましくは70~95質量部のLBKPおよび5~30質量部のNBKP、例えば、85~95質量部のLBKPおよび5~15質量部のNBKPを使用することが好ましい。また、場合によっては古紙パルプを1~25質量部使用することもできる。NBKPがパルプ中に含まれることで紙基材に適度な強度を付与でき、トップカール割れが発生しにくく、美粧性や折り曲げ部の耐水性が保たれた加工適性の良い紙コップ用原紙を得ることができる。また、紙コップ用原紙を紙コップや容器として加工した際に内容物の重さや容器を握る力に対する強度も付与できる。
【0037】
また、紙基材には、パルプとポリアクリルアミドに加えて、各種公知の製紙用添加剤が含まれていてもよい。製紙用添加剤としては、例えば、ポリアクリルアミド以外の内添紙力増強剤、サイズ剤、嵩高剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、蛍光消色剤、ピッチコントロール剤などがある。また、紙基材に湿潤紙力増強剤が含まれている場合は、紙コップ用原紙のリサイクル性が劣るので、紙基材には、湿潤紙力剤が含まれないことが好ましい。各種公知の製紙用添加剤の配合方法としては、パルプスラリー中に含んでもよく、または製紙後にサイズプレスやゲートロール等で紙基材の内部に含浸させても良い。例えば、紙基材には、パルプ100質量部に対して、0.05~1.0質量部のサイズ剤を含むことができ、さらには、パルプ100質量部に対して、0.1~0.4質量部のロジンサイズ剤を含むことができる。
【0038】
紙基材の抄紙方法は、特に限定されるものではなく、長網抄紙機、長網多層抄紙機、円網抄紙機、円網多層抄紙機、長網円網コンビ多層抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの各種抄紙機で製造できる。また、本発明においては、紙基材としては単層抄きでも多層抄きでも、複数層の貼合品であってもよい。
【0039】
本発明の実施形態において、紙コップ用原紙の耐折回数が200回以上であることが好ましい。より好ましくは250回以上である。耐折回数はJIS P 8115:2001に準拠して、抄紙のMD方向(Machine Direction;抄紙機の進行方向)とCD方向(Cross Direction;抄紙機の幅方向)の両方を測定し、その両方とも200回以上であることが好ましい。紙コップ用原紙の耐折回数をMD方向とCD方向共に200回以上とすることで、トップカール割れが発生しにくく、美粧性や折り曲げ部の耐水性が保たれた紙コップ用原紙となる。なお、本実施形態において、耐折回数はJIS P 8115:2001「紙及び板紙-耐折強さ試験方法MIT試験機法」に準拠して測定される。
【0040】
本発明の実施形態において、紙コップ用原紙の坪量は特に限定するものではないが、例えば100~450g/mであることが好ましい。この範囲の坪量であれば、紙コップ用原紙により適度な強度を与えつつ、折り曲げ加工を行った際にも割れにくくすることができる。本発明の紙コップ用原紙においては、加工適性に影響を及ぼさない限り、これら以外の坪量の紙コップ用原紙を用いても良い。
【実施例0041】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0042】
(実施例1)
(紙基材の作製)
カナディアンスタンダードフリーネス450mlcsfの広葉樹晒クラフトパルプ90部、カナディアンスタンダードフリーネス520mlcsfの針葉樹晒クラフトパルプ10部、カチオン性ポリアクリルアミド(商品名:ポリストロン705、荒川化学工業社製)0.3部、中性ロジンサイズ剤(商品名:CC167、星光PMC社製)0.2部に水を加えて紙料を調製し、長網多筒式抄紙機を用いて基紙を作製し、キャレンダーによる平滑化処理を行い坪量が250g/m、灰分0.8%である紙基材を得た。
【0043】
(紙コップ用原紙の作製)
上記で得られた紙基材の片面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩)を乾燥塗工量が5.0g/mになるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層を設け、坪量255g/mの紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向760回、CD方向380回であった。
【0044】
(実施例2)
実施例1で得られた紙コップ用原紙のヒートシール層面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩)を用いて2層目のヒートシール層を乾燥塗工量が5.0g/mとなるようにエアーナイフコーターを用いて塗工して乾燥し、2層合わせた合計の乾燥塗工量が10.0g/mになるように2層目のヒートシール層を設けた以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向781回、CD方向403回であった。
【0045】
(実施例3)
実施例1において、ヒートシール層の塗工量を3.0g/mに変更した以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向757回、CD方向349回であった。
【0046】
(実施例4)
実施例1において、カチオン性ポリアクリルアミドの添加量を0.1部に変更した以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向598回、CD方向253回であった。
【0047】
(実施例5)
実施例1において、カチオン性ポリアクリルアミドの添加量を0.8部に変更した以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向1031回、CD方向918回であった。
【0048】
(実施例6)
実施例1において、紙料に使用する水をクリーナーに通して水中の無機鉱物を取り除いた水に変更し、灰分が0.4%である紙基材を得た以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向805回、CD方向424回であった。
【0049】
(実施例7)
実施例1において、紙料の広葉樹晒クラフトパルプの配合量を90部から70部に変更し、さらに古紙パルプ20部を配合して紙料を調整し、灰分1.5%である紙基材を使用した以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向610回、CD方向309回であった。
【0050】
(実施例8)
実施例1で得られた紙コップ用原紙のヒートシール層の反対面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩)を用いてヒートシール層を乾燥塗工量が3.0g/mとなるようにエアーナイフコーターを用いて塗工して乾燥し、両面合わせた合計の乾燥塗工量が8.0g/mになるように反対面にもヒートシール層を設けた以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向832回、CD方向441回であった。
【0051】
(実施例9)
(アンダー層用塗工液の調製)カオリンクレー(商品名:コンツアー1500、イメリス社製)20部および重質炭酸カルシウム(商品名:カービラックス、イメリス社製)80部に分散剤(商品名:アロンT-50、東亜合成社製)0.2部を加え、加水してコーレス分散機を用いて水分散し、顔料スラリーを作製した。この顔料スラリーに、バインダーとしてリン酸エステル化澱粉(商品名:MS4600、日本食品加工社製)2部およびスチレンブタジエン共重合ラテックス(商品名:L-1432X、旭化成ケミカルズ社製、粒子径182nm)30部を添加し、さらに水を加えて分散させ、固形分濃度50%のアンダー層用塗工液を調製した。
【0052】
(アンダー層付き紙基材の作製)
実施例1で得られた紙基材の片面に、アンダー層用塗工液を乾燥塗工量が20g/mになるようにブレードコーターを用いて塗工、乾燥し、キャレンダーによる平滑化処理を行い坪量が270g/mのアンダー層付き紙基材を作製した。
【0053】
(紙コップ用原紙の作製)
上記で得られたアンダー層付き紙基材のアンダー層面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製)を乾燥塗工量が5.0g/mになるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層を設け、坪量275g/mの紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向790回、CD方向388回であった。
【0054】
(実施例10)
実施例1において、紙料の広葉樹晒クラフトパルプの配合量を90部から100部に変更し、針葉樹晒クラフトパルプを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向570回、CD方向233回であった。
【0055】
(比較例1)
実施例1において、ヒートシール層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向741回、CD方向357回であった。
【0056】
(比較例2)
実施例1において、カチオン性ポリアクリルアミド(商品名:ポリストロン705、荒川化学工業社製)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向512回、CD方向166回であった。
【0057】
(比較例3)
実施例1において、カチオン性ポリアクリルアミド(商品名:ポリストロン705、荒川化学工業社製)を1.2%に変更した以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向1377回、CD方向1121回であった。
【0058】
(比較例4)
実施例1において、紙基材のための紙料に軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-121、奥多摩工業社製)を8.5部添加し、灰分5.0%である紙基材を使用した以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向684回、CD方向304回であった。
【0059】
(比較例5)
実施例1において、ヒートシール層に使用する樹脂を水系スチレン・アクリル共重合物エマルジョン(商品名:サイビノール EK-754、サイデン化学社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして紙コップ用原紙を作製した。当該紙コップ用原紙の耐折回数はMD方向763回、CD方向385回であった。
【0060】
各実施例および比較例で得られた紙コップ用原紙について、以下に示す方法により評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0061】
(1)灰分
JIS P 8251:2003「紙、板紙-灰分試験方法-525℃燃焼法」に準拠して、ヒートシール層を設ける前の紙基材の灰分を測定した。
【0062】
(2)ヒートシール強度
得られた紙コップ用原紙を、幅15mm、長さ15cmのサイズに2枚カットし、紙コップ用原紙の一方の面ともう一方の面(実施例1~7、実施例9、比較例1~5においてはヒートシール層と紙基材表面、実施例8においてはヒートシール層面同士)とを重ね合わせ、ホットタック試験機(Labthink社製、型番:HTT-L1)で、一定条件(接着幅:15mm、温度:180℃、圧力0.2MPa、押し当て時間1.0秒)にてヒートシールした。次いで、ヒートシールしたサンプルを、剥離強度試験機(島津製作所製、型番:オートグラフAGS-X)にて、一定条件(剥離速度:300mm/分)で剥離して、ヒートシール強度を測定した。数値が大きいほどヒートシール強度が高いことを示す。本発明においては、ヒートシール強度が3.00N/15mm以上で良好なヒートシール強度があると判定した。
【0063】
(3)トップカール適性
得られた紙コップ用原紙をヒートシール式紙コップ成型機で、100個/分の速度で紙コップを成型し、トップカール部の割れを目視で調べ、以下の3段階で評価した。
○:割れが全くなく、実用できる。
△:微小な割れがあるが目立たない程度なので、実用できる。
×:大きく目立つ割れがあり、実用できない。
【0064】
(4)折り曲げ部耐水性
得られた紙コップ用原紙を、幅5cm、長さ10cmのサイズにカットし、ヒートシール層側を外側に二つ折りにして(実施例8においては塗工量の多い方を外側にした)、折り目部分に沿って5kgの金属製ロールを押し当てて1往復通過させた。折り部は抄紙のMD方向(Machine Direction;抄紙機の進行方向)が折り目となるようにした。折り曲げ部を開いて、ヒートシール層側の折り曲げ部に、メチレンブルー水溶液(メチレンブルー染料4g/L)を塗り、1分後に拭き取り、折り曲げ部の染色具合を目視で確認して以下の3段階で評価を行った。
○:折り曲げ部が染色しておらず、実用できる。
△:折り曲げ部の一部が染色しているが、実用できる。
×:折り曲げ部の半分以上が染色している、またはヒートシール層の反対面までメチレンブルー液が浸透しているため、実用できない。
【0065】
(5)離解性
得られた紙コップ用原紙を5cm角に断裁したものを30g準備し、離解機に水温20℃±5の水2Lと一緒に入れ、20分間離解した(サンプル濃度1.5%)。水を入れたビーカーに離解後のスラリー1gを溶かし、紙コップ用原紙の離解具合を目視で評価した。
○:パルプ成分の未離解物がなく、実用できる。
△:パルプ成分の一部が未離解であるがほとんどは離解しており、実用できる。
×:パルプ成分の多くが未離解である、もしくは紙の状態を保持しており、実用できない。
【0066】
(6)紙コップ用原紙の耐折回数
JIS P 8115:2001「紙及び板紙-耐折強さ試験方法MIT試験機法」に規定される方法によって紙コップ用原紙の耐折回数を測定した。
【0067】
【表1】
【0068】
表1より明らかなように、実施例1~10による紙コップ用原紙は比較例1~5で得られた紙コップ用原紙と比較して、ヒートシール強度トップカール適性、折り曲げ部耐水性、離解性に優れていた。この結果が示す様に、本発明によれば、従来のポリエチレンラミネート量と比較してプラスチックの使用量を低減し、離解性に優れることからリサイクル性に優れ、コップやトレーなどの立体的な紙容器に好適な加工適性を有する紙コップ用原紙を提供することができる。