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  • 特開-水処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004090
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/76 20230101AFI20240109BHJP
【FI】
C02F1/76 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103560
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】閻 寧寧
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 啓佑
【テーマコード(参考)】
4D050
【Fターム(参考)】
4D050AA02
4D050AB55
4D050BB02
4D050BB04
4D050BB06
4D050BB09
4D050BD03
4D050BD06
4D050BD08
4D050CA09
4D050CA15
(57)【要約】
【課題】地下水の除鉄処理において、溶性ケイ酸の存在下で形成されたシリカ鉄の生成を充分に抑制できる水処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】原水槽と、地下水源と前記原水槽とを連結する送水管と、酸化剤注入設備と、を備えた水処理装置を用いる水処理方法において、前記送水管を流れる二価鉄及び溶性ケイ酸を含有する地下水に、酸素と接触する前に酸化剤を注入し、式(1):T=V/Q(ただし、前記式中、Vは前記送水管における前記酸化剤の注入位置から前記送水管の酸素と接触する位置までの容積(m)であり、Qは前記送水管内を流れる前記地下水の流速(m/秒)である。)によって算出される、酸素と接触する前の前記地下水と前記酸化剤との接触時間Tを1秒以上とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水槽と、地下水源と前記原水槽とを連結する送水管と、酸化剤注入設備と、を備えた水処理装置を用いる水処理方法であって、
前記送水管を通じて前記地下水源から前記原水槽へと送られる地下水は、二価鉄及び溶性ケイ酸を含有しており、
前記地下水が酸素と接触する前に、前記酸化剤注入設備から前記送水管を流れる前記地下水に酸化剤を注入し、
下記式(1)によって算出される、酸素と接触する前の前記地下水と前記酸化剤との接触時間Tを1秒以上とする、水処理方法。
T=V/Q ・・・(1)
(ただし、前記式中、Vは前記送水管における前記酸化剤の注入位置から酸素と接触する位置までの容積(m)であり、Qは前記送水管内を流れる前記地下水の流速(m/秒)である。)
【請求項2】
前記酸化剤が、標準電極電位0.77V以上を有するものである、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記酸化剤が塩素、次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩である、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記酸化剤に含まれる塩素原子の注入量が、前記地下水中の二価鉄1質量ppmに対して0.60質量ppm以上となるように、前記酸化剤を前記地下水に注入する、請求項3に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記地下水中の溶性ケイ酸の含有量が10質量ppm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水は、除鉄処理等の種々の処理を必要に応じて行うことで水資源として利用できる。地下水に含まれる鉄成分を除去する一般的な処理方法としては、揚水した地下水に次亜塩素酸等の酸化剤を注入し、それにより生じた水酸化鉄を含む凝集物を砂ろ過装置でろ過して除去する方法が知られている。
特許文献1には、硫酸等を用いて地下水のpHを7.0未満に制御しつつ、次亜塩素酸塩等の酸化剤を送水管に注入することにより、地下水中のFe2+をFe3+に酸化し、有機物や溶性ケイ酸と共に凝集して砂ろ過装置でろ過して除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-109163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、地下水には溶性ケイ酸が含まれ、酸化剤を注入する際に、空気混入による鉄の酸化を防ぐことが出来ておらず、特に地下水に含まれる溶性ケイ酸の濃度が高い場合(例えば30ppm以上)には、生成する水酸化鉄粒子は小さくなりやすく、コロイド状の水酸化鉄微粒子(以下、シリカ鉄と言う)が生成しやすい。シリカ鉄は粒径が通常の水酸化鉄より細かく、砂ろ過装置を通過するため、処理水に鉄成分のリークが発生して後段の膜処理に詰まりが発生する等、不具合の原因になる。
シリカ鉄による鉄成分のリークを抑制する方法としては、原水槽に多量の凝集剤を注入し、コロイド状のシリカ鉄を凝集剤のフロックと共に砂ろ過装置で除去する方法がある。しかし、この方法は、配管の増設、処理コストの高騰及び砂ろ過装置の負荷増加等のデメリットがある。
【0005】
本発明は、溶性ケイ酸の存在下であっても、シリカ鉄の生成を充分に抑制できる水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]原水槽と、地下水源と前記原水槽とを連結する送水管と、酸化剤注入設備と、を備えた水処理装置を用いる水処理方法であって、
前記送水管を通じて前記地下水源から前記原水槽へと送られる地下水は、二価鉄及び溶性ケイ酸を含有しており、
前記地下水が酸素と接触する前に、前記酸化剤注入設備から前記送水管を流れる前記地下水に酸化剤を注入し、
下記式(1)によって算出される、酸素と接触する前の前記地下水と前記酸化剤との接触時間Tを1秒以上とする、水処理方法。
T=V/Q ・・・(1)
(ただし、前記式中、Vは前記送水管における前記酸化剤の注入位置から酸素と接触する位置までの容積(m)であり、Qは前記送水管内を流れる前記地下水の流速(m/秒)である。)
[2]前記酸化剤が、標準電極電位0.77V以上を有するものである、[1]に記載の水処理方法。
[3]前記酸化剤が塩素、次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩である、[1]または「2」に記載の水処理方法。
[4]前記酸化剤に含まれる塩素原子の注入量が、前記地下水中の二価鉄1質量ppmに対して0.60質量ppm以上となるように、前記酸化剤を前記地下水に注入する、[3]に記載の水処理方法。
[5]前記地下水中の溶性ケイ酸の含有量が10質量ppm以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の水処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶性ケイ酸の存在下であっても、シリカ鉄の生成を充分に抑制できる水処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の一例の水処理方法に用いる水処理装置を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態例について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0010】
実施形態に係る水処理方法は、地下水源から揚水した地下水を処理する方法である。ただし、「地下水源」とは、地下に存在し、溶存酸素(DO)濃度が1.0ppm以下である地下水の供給源を意味する。
【0011】
(水処理装置)
以下、実施形態の水処理方法に好適に用い得る水処理装置の一例について説明する。
図1に示す例の水処理装置1は、原水槽10と、酸化剤注入設備12と、砂ろ過装置14と、膜ろ過装置16と、処理水槽18と、を備えている。
【0012】
原水槽10は、第1送水管21によって地下水源100と連結されている。この例では、地上に設置された原水槽10に第1送水管21の一端が接続され、第1送水管21の他端側部分が井戸110内に地下水源100まで到達するように配置されている。井戸110内の第1送水管21の他端には、地下水源100から地下水W1を汲み上げるための揚水手段30が設けられている。
【0013】
第1送水管21は、地下水W1が酸素に曝されない状態、すなわち酸素と接触しない状態で通水される配管である。第1送水管21の原水槽10側の端は原水槽10内の気相部分に通じるように接続されている。つまり、水処理装置1においては、第1送水管21を通じて地下水源100から原水槽10へと送られる地下水W1が原水槽10に到達したときに、初めて酸素と接触するようになっている。尚、本発明における酸素は、酸素を含む気体(例えば、空気)も含む。
【0014】
第1送水管21は、分岐を有し、2つ以上の地下水源100と原水槽10とを連結していてもよく、分岐を有さず、1つ地下水源100と原水槽10とを連結していてもよい。
揚水手段30としては、地下水W1を地上に汲み上げることができるものであればよく、例えば、汲み上げポンプを有する揚水装置がある。
【0015】
酸化剤注入設備12は第1送水管21の揚水手段30の近傍に設けられている。酸素と接触する前に、酸化剤に地下水と充分な反応時間を確保するため、酸化剤注入設備12の位置は揚水手段30に近ければ近いほど好ましい。
酸化剤注入設備12は、第1送水管21内を流れる酸素に曝されていない地下水W1、すなわち酸素と接触する前の地下水W1に酸化剤を注入する設備である。酸化剤注入設備12の態様は、第1送水管21内を流れる地下水W1が酸素に接触していない状態を維持しつつ、地下水W1に酸化剤を注入できる態様であれば特に限定されない。
【0016】
原水槽10と砂ろ過装置14は第2送水管22で連結されている。
砂ろ過装置14としては、特に限定されず、公知の水処理装置に用いられる砂ろ過装置を制限なく用いることができる。砂ろ過装置14は、1つを単独で使用してもよく、2つ以上を並列又は直列に組み合わせて用いてもよい。
【0017】
砂ろ過装置14と膜ろ過装置16は第3送水管23で連結されている。
膜ろ過装置16としては、特に限定されず、公知の水処理装置に用いられる膜ろ過装置を制限なく用いることができる。膜ろ過装置に用いる膜としては、例えば限外濾過(UF)膜、精密濾過(MF)膜、ナノ(NF)膜、逆浸透(RO)膜を例示できる。膜ろ過装置16は、1つを単独で使用してもよく、2つ以上を並列又は直列に組み合わせて用いてもよい。また、膜ろ過装置16は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
膜ろ過装置16と処理水槽18は第4送水管24で連結されている。
処理水槽18は、処理水を貯留できる水槽であれば特に限定されない。
【0019】
水処理装置1においては、揚水手段30の作用により、地下水源100から地下水W1が汲み上げられ、第1送水管21を通じて原水槽10へと送られる。
第1送水管21を流れる地下水W1には酸化剤注入設備12によって酸化剤が注入される。これにより、地下水W1中の二価鉄が三価鉄に酸化され、水酸化鉄(III)の凝集物が生成する。水酸化鉄(III)の凝集物を含む処理水W2は第2送水管22を通じて砂ろ過装置14へと送られる。砂ろ過装置14と膜ろ過装置16等によるろ過により、処理水W2中の凝集物が除去される。
【0020】
砂ろ過装置14でろ過された処理水W3は第3送水管23を通じて膜ろ過装置16へと送られ、膜ろ過装置16でさらにろ過される。これにより、処理水W3から濁質分や細菌、硬度成分、シリカ、塩類等が除去される。
【0021】
膜ろ過装置16でろ過された処理水W4は第4送水管24を通じて処理水槽18に送られて貯留される。処理水槽18においては、必要に応じて水質監視システムを設けて処理水W4の水質を監視してもよい。
処理水槽18の後段の態様は特に限定されず、適宜他の装置等に接続することができる。例えば処理水槽18を受水槽と接続し、当該受水槽で処理水W4に他の処理水や添加剤を配合して硬度等の水質を調整してもよい。
【0022】
(水処理方法)
以下、実施形態の水処理方法の一例として、前記した水処理装置1を用いる水処理について説明する。
【0023】
本発明が処理対象とする地下水は、二価鉄及び溶性ケイ酸を含有する地下水である。
地下水としては、二価鉄及び溶性ケイ酸を含有する以外は特に限定されず、不圧地下水でもよく、被圧地下水でもよい。地下水の具体例として、例えば、井戸水、温泉水、湧き水、鉱水、鉱泉水を例示できる。地下水は、マンガンイオン等の鉄以外の金属イオン、有機物等の負に帯電したコロイド状物質、カルシウム、マグネシウム、細菌等をさらに含むことがある。また、被圧地下水は、これらの成分に加えて、炭酸ガス(遊離炭酸)をさらに含むことがある。
【0024】
処理対象の地下水中の溶性ケイ酸の含有量は、0質量ppm超、10質量ppm以上、15質量ppm以上、20質量ppm以上、30質量ppm以上、又は40質量ppm以上であってよい。実施形態の水処理方法は、溶性ケイ酸の含有量が下限値以上の場合、鉄を酸化する際に形成され得るシリカ鉄の量が多いため、本発明の効果が特に得られやすい。溶性ケイ酸の含有量の上限値は特にないが、地下水中の溶性ケイ酸の含有量は、100質量ppm以下の場合が多い。地下水中の溶性ケイ酸の含有量の下限と上限は任意に組み合わせることができる。
【0025】
処理対象の地下水中の二価鉄の含有量は、0質量ppm超、0.03質量ppm以上、0.1質量ppm以上、又は1.0質量ppm以上であってよい。実施形態の水処理方法は、二価鉄の含有量が下限値以上であった場合、鉄を酸化する際に形成され得るシリカ鉄の量が多いため、本発明の効果が特に得られやすい。二価鉄の含有量の上限値は特にないが、地下水中の二価鉄の含有量は、30質量ppm以下である場合が多い。地下水中の二価鉄の含有量の下限と上限は任意に組み合わせることができる。
【0026】
水処理装置1を用いる方法では、まず揚水手段30を稼働させて地下水源100から地下水W1を汲み上げ、第1送水管21を通じて原水槽10へと送る。そして、第1送水管21を流れる地下水W1に酸化剤注入設備12から酸化剤を注入する。すなわち酸素と接触する前の地下水W1に酸化剤を注入する。酸化剤の注入後の処理水W2は第2送水管22を通じて砂ろ過装置14へと送り、砂ろ過装置14でろ過する。
【0027】
地下水W1への酸化剤の注入は、下記式(1)によって算出される、酸素と接触する前の地下水W1と酸化剤との接触時間Tが1秒以上となるように行う。
【0028】
T=V/Q ・・・(1)
ただし、前記式中、Vは第1送水管21における酸化剤の注入位置から第1送水管21の酸素と接触する位置までの容積(m)であり、Qは第1送水管21内を流れる地下水W1の流速(m/秒)である。
水処理装置1を用いる例では、第1送水管21を通じて送られる地下水W1が第1送水管21から出たときに酸素と接触する。そのため、Vは、第1送水管21における酸化剤の注入位置から第1送水管21出口までの容積(m)である。つまり、送水管の出口が大気解放されている場合は、「送水管における酸化剤の注入位置から送水管の酸素と接触する位置までの容積」は「送水管における酸化剤の注入位置から送水管の出口までの容積」となる。
【0029】
本実施形態においてシリカ鉄の形成が充分に抑制される理由について、より詳細に説明する。
二価鉄(Fe2+)が三価鉄(Fe3+)に酸化されると水酸化鉄(III)(Fe(OH))が生じ、それらが凝集すると砂ろ過装置14で除去され得るサイズの凝集物が形成される。しかし、地下水W1に酸素が接触すると、地下水W1中に含まれる二価鉄がきわめてゆっくりと酸化され、生じた水酸化鉄(III)同士が凝集しようとする時に水酸化鉄(III)表面にSiOが結合し、コロイド状の水酸化鉄微粒子、つまりシリカ鉄が生成しやすい。シリカ鉄は水酸化鉄(III)の凝集物に比べてサイズが小さく、砂ろ過装置14を通過し得るため、後段の膜ろ過装置16に詰まりが発生するといった不具合の原因になる。
【0030】
これに対し、地下水W1に次亜塩素酸等のような強い酸化剤を注入して接触時間Tを1秒以上にすることにより、二価鉄が速やかに三価鉄に酸化される。これにより、地下水W1中に多くの水酸化鉄(III)が速やかに生じるため、水酸化鉄(III)同士がくっ付き、より大きな粒子として成長しやすく、水酸化鉄(III)表面にSiOが結合することが抑制される。その結果、溶性ケイ酸の影響を抑えられるためにシリカ鉄の生成が抑制され、水酸化鉄(III)のコロイド微粒子化が防げる。
【0031】
接触時間Tは、1秒以上であり、好ましくは1.5秒以上、より好ましくは2秒以上である。接触時間Tが長いほど溶性ケイ酸の影響が抑制されやすく、水酸化鉄の微粒子化が生じにくくなる。接触時間の上限は特にないが、作業性の点では、接触時間Tは、好ましくは30秒以下であり、より好ましくは10秒以下である。接触時間Tの下限と上限は任意に組み合わせることができる。
【0032】
接触時間Tは、例えば酸化剤注入設備12から第1送水管21を流れる地下水W1への酸化剤の注入位置、及び第1送水管21を流れる地下水W1の流速を調節することによって調節することができる。この例では、例えば第1送水管21を流れる地下水W1の流速から1秒間に第1送水管21内を流れる距離を算出し、酸化剤の注入位置を原水槽10から当該距離以上離すことにより、接触時間Tを1秒以上にする。
第1送水管21を流れる地下水W1の流速は、第1送水管21に用いる配管の直径(断面積)と揚水量を調節することによって調節できる。
【0033】
酸化剤は、酸素以外の酸化剤であり、かつ、標準電極電位(酸化還元電位値ともいう)0.77V以上を有するものが好ましく、0.80V以上を有するものがより好ましく、0.85V以上を有するものがさらに好ましく、0.89V以上を有するものがさらに好ましい。鉄酸化に必要な標準電極電位は0.77Vであり、0.77V以上であれば、より短い時間で二価鉄を酸化できるため、シリカ鉄の生成を抑えられる。酸化剤の具体例としては、例えば、オゾン(標準電極電位:2.075V)、過酸化水素(標準電極電位:1.763V)、塩素(標準電極電位:1.396V)、次亜塩素酸(標準電極電位:1.630V)、次亜塩素酸ナトリウム(標準電極電位:0.890V)、次亜塩素酸カルシウム(標準電極電位:0.890V)等の次亜塩素酸塩を例示できる。鉄酸化、入手容易性及び飲料用途への適用の観点から、次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩が好ましい。酸化剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
標準電極電位は、「電気化学便覧(第5版)第3章(電気化学会出版)」の記載に従い、測定する。
【0034】
塩素原子を含む酸化剤の注入量は、酸化剤に含まれる塩素原子の注入量が地下水W1中の二価鉄1.0質量ppmに対して0.60質量ppm以上となる量が好ましく、0.63質量ppm以上となる量がより好ましく、1.0質量ppm以上となる量がさらに好ましい。前記塩素原子の注入量が前記下限値以上であれば、二価鉄の三価鉄への酸化が促進され、多くの水酸化鉄(III)が速やかに生じて凝集しやすくなるため、鉄成分のリークが生じにくくなる。コストを抑える点と、残留塩素を1.0質量ppm以下に制御する点では、前記酸化剤の注入量は、酸化剤に含まれる塩素原子の注入量が地下水W1中の二価鉄1.0質量ppmに対して10質量ppm以下となる量が好ましく、5.0質量ppm以下となる量がより好ましい。前記塩素原子の注入量の下限と上限は任意に組み合わせることができる。
地下水W1中に酸化剤に酸化されうる成分(マンガン、アンモニア、有機物など)が存在した場合、酸化剤の注入量にはそれらによる消耗量も加算する必要がある。
【0035】
水処理装置1を用いた方法では、砂ろ過装置14を通過した処理水W3を、第3送水管23を通じて膜ろ過装置16へと送ってさらにろ過し、濁質分や細菌、硬度成分、シリカ、塩類等を除去する。膜ろ過装置16によるろ過後の処理水W4は第4送水管24を通じて処理水槽18に送って貯留する。
【0036】
以上説明したように、実施形態の水処理方法では、地下水源から揚水した酸素と接触する前の地下水に酸化剤を注入し、接触時間Tを1秒以上に制御する。これにより、溶性ケイ酸の影響を抑えられるため、水酸化鉄の微粒子化を抑制し、鉄成分のリーク発生を充分に抑制することができる。
【0037】
なお、本発明の水処理方法は、前記した水処理装置1を用いる方法には限定されない。
例えば、本発明の水処理方法に用いる水処理装置の態様は、原水槽と、地下水源と原水槽とを連結する送水管と、酸化剤注入設備と、を備える以外は限定されない。
【0038】
本発明に用いる水処理装置は、砂ろ過装置及び膜ろ過装置の1つ以上を備えていないものであってもよく、活性炭槽、中間水槽、濃縮水槽等の他の設備をさらに備えているものであってもよい。
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0040】
[実施例1]
揚水した地下水(溶性ケイ酸含有量:37質量ppm、DO濃度:0ppm)を密閉容器内に保存し、酸素と接触しない状態で硫酸第一鉄を加えて二価鉄濃度を1.2質量ppmとした。前記地下水に対し、二価鉄濃度1質量ppmに対する塩素原子の注入量が0.63質量ppmとなるように酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム(標準電極電位:0.890V)を添加し、接触時間Tを1秒としてフィルター孔径0.45μmのろ過膜を用いてろ過した。溶性ケイ酸、ろ液中の鉄濃度は簡易水分析装置(HACH社製、製品名「DR-2010」)で測定した。DO濃度は、隔膜電極式DO濃度計(DKK社製)を用いて測定した。
【0041】
[実施例2~4、比較例1、2]
接触時間Tを表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして地下水を処理してろ液中の鉄濃度を測定した。
【0042】
[実施例5、比較例3]
二価鉄濃度1質量ppmに対する塩素原子の注入量、及び接触時間Tを表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして地下水を処理してろ液中の鉄濃度を測定した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、接触時間Tが1秒以上の実施例1~4では、接触時間Tが1秒未満の比較例1、2に比べてろ液中の鉄濃度が低かった。同様に、接触時間Tが1秒以上の実施例5では、接触時間Tが1秒未満の比較例3に比べてろ液中の鉄濃度が低かった。これらの結果は、溶性ケイ酸の影響を抑えるため水酸化鉄の微粒子化が抑制され、鉄のリーク発生が抑制されたためであると考えられる。
【符号の説明】
【0045】
1…水処理装置、10…原水槽、12…酸化剤注入設備、14…砂ろ過装置、16…膜ろ過装置、18…処理水槽、21…第1送水管、22…第2送水管、23…第3送水管、24…第4送水管、30…揚水手段、100…地下水源、110…井戸。
図1