(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040900
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/073 20060101AFI20240318BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20240318BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240318BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B23K26/073
B23K26/064 A
B23K26/53
H01L21/78 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145550
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
(72)【発明者】
【氏名】荻原 孝文
(72)【発明者】
【氏名】小柳津 雅輝
【テーマコード(参考)】
4E168
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CB07
4E168CB15
4E168DA33
4E168DA39
4E168DA60
4E168EA23
4E168JA12
5F063AA21
5F063CB02
5F063CB07
5F063DD27
5F063DD31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】加工に応じて適切な改質領域及び亀裂を対象物に形成することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】レーザ加工装置は、対象物11を支持する支持部2と、レーザ光Lを出射する光源31と、変調パターンを表示することでレーザ光Lを変調する空間光変調器7と、レーザ光Lを対象物11に集光する集光部33と、支持部2及び集光部33の少なくとも一方を駆動する駆動部と、制御部と、を備える。制御部は、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状が、中心部並びに中心部から放射状に延在する第1延在部、第2延在部及び第3延在部を含み且つ中心部において最も高い強度を有するビーム形状となるように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。制御部は、ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動するように、支持部2及び集光部33の少なくとも一方を駆動部に駆動させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を支持する支持部と、
レーザ光を出射する光源と、
変調パターンを表示することで、前記光源から出射された前記レーザ光を変調する空間光変調器と、
前記空間光変調器によって変調された前記レーザ光を前記対象物に集光する集光部と、
前記支持部及び前記集光部の少なくとも一方を駆動する駆動部と、
少なくとも前記空間光変調器及び前記駆動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記レーザ光の集光スポットにおける前記レーザ光のビーム形状が、中心部並びに前記中心部から放射状に延在する第1延在部、第2延在部及び第3延在部を含み且つ前記中心部において最も高い強度を有するビーム形状となるように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを前記空間光変調器に表示させ、
前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させた状態で、前記対象物に設定されたラインに沿って前記集光スポットが相対的に移動するように、前記支持部及び前記集光部の少なくとも一方を前記駆動部に駆動させる、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記ラインに沿って前記対象物に改質領域を形成すると共に、前記改質領域から前記レーザ光の入射方向及び前記ラインの延在方向の両方向に平行な第1面に沿って前記対象物に亀裂を形成する場合には、
前記制御部は、前記ライン上に前記第1延在部が位置し且つ前記ラインに対して一方の側に前記第2延在部が位置し且つ前記ラインに対して他方の側に前記第3延在部が位置するように、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させる、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ラインに沿って前記集光スポットが相対的に移動する向きの前側に前記第1延在部が位置し且つ前記向きの後側に前記第2延在部及び前記第3延在部が位置するように、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させる、請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記ラインとして前記対象物に設定された第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる場合において、前記第1ラインに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる向きと、前記第2ラインに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる向きとが異なるときには、
前記制御部は、前記第1ライン及び前記第2ラインのそれぞれに沿って前記集光スポットが相対的に移動する向きの前側に前記第1延在部が位置し且つ前記向きの後側に前記第2延在部及び前記第3延在部が位置するように、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンの向きを切り替える、請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記レーザ光の前記入射方向における前記改質領域及び前記亀裂の少なくとも一方の幅を第1幅とする場合には、第1トレフォイル収差強度の前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させ、
前記少なくとも一方の幅を前記第1幅よりも小さい第2幅とする場合には、前記第1トレフォイル収差強度よりも強い第2トレフォイル収差強度の前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させる、請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記ラインに沿って前記対象物に改質領域を形成すると共に、前記改質領域から前記レーザ光の入射方向及び前記ラインの延在方向の両方向に平行な第1面に対して傾斜する第2面に沿って前記対象物に亀裂を形成する場合において、前記レーザ光の入射側とは反対側の領域が前記第1面に垂直な方向における一方の側に位置するように前記第2面が傾斜しているときには、
前記制御部は、前記ラインに対して前記一方の側に前記第1延在部が位置し且つ前記ラインに対して他方の側に前記第2延在部及び前記第3延在部が位置するように、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させる、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記ラインとして前記対象物に設定された第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる場合において、前記第1ラインに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる向きと、前記第2ラインに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる向きとが異なるときには、
前記制御部は、前記第1ライン及び前記第2ラインのそれぞれに対して前記一方の側に前記第1延在部が位置し且つ前記第1ライン及び前記第2ラインのそれぞれに対して他方の側に前記第2延在部及び前記第3延在部が位置するように、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンの向きを切り替える、請求項6に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記第1面と前記第2面との間の角度を第1角度とする場合には、第1トレフォイル収差強度の前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させ、
前記角度を前記第1角度よりも大きい第2角度とする場合には、前記第1トレフォイル収差強度よりも強い第2トレフォイル収差強度の前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させる、請求項6に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
対象物を支持する支持部と、
レーザ光を出射する光源と、
変調パターンを表示することで、前記光源から出射された前記レーザ光を変調する空間光変調器と、
前記空間光変調器によって変調された前記レーザ光を前記対象物に集光する集光部と、
前記支持部及び前記集光部の少なくとも一方を駆動する駆動部と、を備えるレーザ加工装置において実施されるレーザ加工方法であって、
前記レーザ光の集光スポットにおける前記レーザ光のビーム形状が、中心部並びに前記中心部から放射状に延在する第1延在部、第2延在部及び第3延在部を含み且つ前記中心部において最も高い強度を有するビーム形状となるように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを前記空間光変調器に表示させる工程と、
前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させた状態で、前記対象物に設定されたラインに沿って前記集光スポットが相対的に移動するように、前記支持部及び前記集光部の少なくとも一方を前記駆動部に駆動させる工程と、を備える、レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を支持する支持部と、レーザ光を出射する光源と、光源から出射されたレーザ光を変調する空間光変調器と、空間光変調器によって変調されたレーザ光を対象物に集光する集光部と、空間光変調器におけるレーザ光の像を集光部の入射瞳面に転像する転像部と、を備えるレーザ加工装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなレーザ加工装置は、改質領域及び亀裂を対象物に形成することができる。そのような改質領域及び亀裂の形成は、対象物を複数のチップに分割するのダイシング加工、対象物から不要部分を除去するトリミング加工等、様々な加工に応用可能である。
【0005】
本発明は、加工に応じて適切な改質領域及び亀裂を対象物に形成することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ加工装置は、[1]「対象物を支持する支持部と、レーザ光を出射する光源と、変調パターンを表示することで、前記光源から出射された前記レーザ光を変調する空間光変調器と、前記空間光変調器によって変調された前記レーザ光を前記対象物に集光する集光部と、前記支持部及び前記集光部の少なくとも一方を駆動する駆動部と、少なくとも前記空間光変調器及び前記駆動部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記レーザ光の集光スポットにおける前記レーザ光のビーム形状が、中心部並びに前記中心部から放射状に延在する第1延在部、第2延在部及び第3延在部を含み且つ前記中心部において最も高い強度を有するビーム形状となるように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを前記空間光変調器に表示させ、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させた状態で、前記対象物に設定されたラインに沿って前記集光スポットが相対的に移動するように、前記支持部及び前記集光部の少なくとも一方を前記駆動部に駆動させる、レーザ加工装置」である。
【0007】
上記[1]に記載のレーザ加工装置では、集光スポットにおけるレーザ光のビーム形状が、中心部並びに中心部から放射状に延在する第1延在部、第2延在部及び第3延在部を含み且つ中心部において最も高い強度を有する状態で、当該集光スポットが、対象物に設定されたラインに沿って相対的に移動させられる。このとき、ラインに対するビーム形状の向き等を調整することで、対象物に形成される改質領域及び亀裂の少なくとも一方の状態を調整することができる。よって、上記[1]に記載のレーザ加工装置によれば、加工に応じて適切な改質領域及び亀裂を対象物に形成することができる。
【0008】
本発明のレーザ加工装置は、[2]「前記ラインに沿って前記対象物に改質領域を形成すると共に、前記改質領域から前記レーザ光の入射方向及び前記ラインの延在方向の両方向に平行な第1面に沿って前記対象物に亀裂を形成する場合には、前記制御部は、前記ライン上に前記第1延在部が位置し且つ前記ラインに対して一方の側に前記第2延在部が位置し且つ前記ラインに対して他方の側に前記第3延在部が位置するように、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させる、上記[1]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[2]に記載のレーザ加工装置によれば、例えば変調パターンがトレフォイル収差パターンを含まない場合に比べ、レーザ光の入射方向における亀裂の幅を小さくすることができる。
【0009】
本発明のレーザ加工装置は、[3]「前記制御部は、前記ラインに沿って前記集光スポットが相対的に移動する向きの前側に前記第1延在部が位置し且つ前記向きの後側に前記第2延在部及び前記第3延在部が位置するように、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させる、上記[2]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[3]に記載のレーザ加工装置によれば、レーザ光の入射方向における亀裂の幅だけでなく、レーザ光の入射方向における改質領域の幅も小さくすることができる。また、ラインに対して亀裂が蛇行するのを確実に抑制することができる。
【0010】
本発明のレーザ加工装置は、[4]「前記ラインとして前記対象物に設定された第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる場合において、前記第1ラインに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる向きと、前記第2ラインに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる向きとが異なるときには、前記制御部は、前記第1ライン及び前記第2ラインのそれぞれに沿って前記集光スポットが相対的に移動する向きの前側に前記第1延在部が位置し且つ前記向きの後側に前記第2延在部及び前記第3延在部が位置するように、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンの向きを切り替える、上記[3]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[4]に記載のレーザ加工装置によれば、第1ラインに沿って集光スポットを相対的に移動させる向きと、第2ラインに沿って集光スポットを相対的に移動させる向きとが異なる場合にも、第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って集光スポットが相対的に移動する向きの前側に第1延在部が位置し且つ当該向きの後側に第2延在部及び第3延在部が位置する状態を容易に且つ確実に実現することができる。
【0011】
本発明のレーザ加工装置は、[5]「前記制御部は、前記レーザ光の前記入射方向における前記改質領域及び前記亀裂の少なくとも一方の幅を第1幅とする場合には、第1トレフォイル収差強度の前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させ、前記少なくとも一方の幅を前記第1幅よりも小さい第2幅とする場合には、前記第1トレフォイル収差強度よりも強い第2トレフォイル収差強度の前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させる、上記[2]~[4]のいずれか一つに記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[5]に記載のレーザ加工装置によれば、レーザ光の入射方向における改質領域及び亀裂の少なくとも一方の幅を、加工に応じて適切な幅にすることができる。
【0012】
本発明のレーザ加工装置は、[6]「前記ラインに沿って前記対象物に改質領域を形成すると共に、前記改質領域から前記レーザ光の入射方向及び前記ラインの延在方向の両方向に平行な第1面に対して傾斜する第2面に沿って前記対象物に亀裂を形成する場合において、前記レーザ光の入射側とは反対側の領域が前記第1面に垂直な方向における一方の側に位置するように前記第2面が傾斜しているときには、前記制御部は、前記ラインに対して前記一方の側に前記第1延在部が位置し且つ前記ラインに対して他方の側に前記第2延在部及び前記第3延在部が位置するように、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させる、上記[1]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[6]に記載のレーザ加工装置によれば、改質領域から延在する亀裂を所望の側に傾斜させることができる。
【0013】
本発明のレーザ加工装置は、[7]「前記ラインとして前記対象物に設定された第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる場合において、前記第1ラインに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる向きと、前記第2ラインに沿って前記集光スポットを相対的に移動させる向きとが異なるときには、前記制御部は、前記第1ライン及び前記第2ラインのそれぞれに対して前記一方の側に前記第1延在部が位置し且つ前記第1ライン及び前記第2ラインのそれぞれに対して他方の側に前記第2延在部及び前記第3延在部が位置するように、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンの向きを切り替える、上記[6]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[7]に記載のレーザ加工装置によれば、第1ラインに沿って集光スポットを相対的に移動させる向きと、第2ラインに沿って集光スポットを相対的に移動させる向きとが異なる場合にも、第1ライン及び第2ラインのそれぞれに対して一方の側に第1延在部が位置し且つ第1ライン及び第2ラインのそれぞれに対して他方の側に第2延在部及び第3延在部が位置する状態を容易に且つ確実に実現することができる。
【0014】
本発明のレーザ加工装置は、[8]「前記制御部は、前記第1面と前記第2面との間の角度を第1角度とする場合には、第1トレフォイル収差強度の前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させ、前記角度を前記第1角度よりも大きい第2角度とする場合には、前記第1トレフォイル収差強度よりも強い第2トレフォイル収差強度の前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させる、上記[6]又は[7]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[8]に記載のレーザ加工装置によれば、改質領域から延在する亀裂が傾斜する角度を、加工に応じて適切な角度にすることができる。
【0015】
本発明のレーザ加工方法は、[9]「対象物を支持する支持部と、レーザ光を出射する光源と、変調パターンを表示することで、前記光源から出射された前記レーザ光を変調する空間光変調器と、前記空間光変調器によって変調された前記レーザ光を前記対象物に集光する集光部と、前記支持部及び前記集光部の少なくとも一方を駆動する駆動部と、を備えるレーザ加工装置において実施されるレーザ加工方法であって、前記レーザ光の集光スポットにおける前記レーザ光のビーム形状が、中心部並びに前記中心部から放射状に延在する第1延在部、第2延在部及び第3延在部を含み且つ前記中心部において最も高い強度を有するビーム形状となるように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを前記空間光変調器に表示させる工程と、前記トレフォイル収差パターンを含む前記変調パターンを前記空間光変調器に表示させた状態で、前記対象物に設定されたラインに沿って前記集光スポットが相対的に移動するように、前記支持部及び前記集光部の少なくとも一方を前記駆動部に駆動させる工程と、を備える、レーザ加工方法」である。
【0016】
上記[9]に記載のレーザ加工方法では、集光スポットにおけるレーザ光のビーム形状が、中心部並びに中心部から放射状に延在する第1延在部、第2延在部及び第3延在部を含み且つ中心部において最も高い強度を有する状態で、当該集光スポットが、対象物に設定されたラインに沿って相対的に移動させられる。このとき、ラインに対するビーム形状の向き等を調整することで、対象物に形成される改質領域及び亀裂の少なくとも一方の状態を調整することができる。よって、上記[9]に記載のレーザ加工方法によれば、加工に応じて適切な改質領域及び亀裂を対象物に形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加工に応じて適切な改質領域及び亀裂を対象物に形成することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態のレーザ加工装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1に示される照射部の構成を示す図である。
【
図3】
図2に示される4fレンズユニットを示す図である。
【
図4】
図2に示される空間光変調器を示す図である。
【
図5】トレフォイル収差パターンの一例を示す図である。
【
図6】レーザ光の集光状態の一例、及び集光スポットにおけるレーザ光のビーム形状の一例を示す図である。
【
図7】トレフォイル収差強度ごとのレーザ光のビーム形状の一例を示す図である。
【
図8】トレフォイル収差パターンによって変調されたレーザ光のビーム形状の一例を示す図である。
【
図9】トレフォイル収差パターン及び非点収差パターンによって変調されたレーザ光のビーム形状の一例を示す図である。
【
図10】トレフォイル収差パターン、非点収差パターン及び球面収差パターンによって変調されたレーザ光のビーム形状の一例を示す図である。
【
図11】トレフォイル収差パターンによって変調されたレーザ光のビーム形状の一例を示す図である。
【
図12】レーザ光の集光状態の一例、及びレーザ光の抜け光によるダメージの一例を示す図である。
【
図13】レーザ加工条件ごとの対象物の切断面の第1例を示す図である。
【
図14】レーザ加工条件ごとの対象物の切断面の第1例を示す図である。
【
図15】トレフォイル収差強度と改質領域及び亀裂のそれぞれの幅との関係を示す図である。
【
図16】レーザ加工条件ごとの対象物の切断面の第2例を示す図である。
【
図17】レーザ加工条件ごとの対象物の切断面の第2例を示す図である。
【
図18】トレフォイル収差強度と亀裂が傾斜する角度との関係を示す図である。
【
図19】トレフォイル収差強度と亀裂が傾斜する角度との関係を示す図である。
【
図20】レーザ加工方法の第1例が適用される対象物を示す図である。
【
図21】レーザ加工方法の第1例の一工程を示す図である。
【
図22】抜け光ダメージ抑制加工による対象物の切断面の例を示す図である。
【
図23】レーザ加工方法の第2例が適用される対象物を示す図である。
【
図24】レーザ加工方法の第2例の一工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[レーザ加工装置の構成]
【0020】
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、支持部2と、照射部3と、駆動部4,5と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することで、対象物11に改質領域12を形成する。
【0021】
支持部2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを保持することで、対象物11を支持する。本実施形態では、支持部2は、X方向及びY方向のそれぞれの方向に移動可能であり、Z方向に平行な軸線を回転軸として回転可能である。一例として、X方向及びY方向は、互いに垂直な第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は、鉛直方向である。
【0022】
照射部3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。本実施形態では、照射部3は、Z方向に移動可能である。支持部2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光スポットCに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。なお、集光スポットCは、集光領域又は集光点とも称される。
【0023】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12からは、レーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が形成される。そのような改質領域12及び亀裂は、対象物11の切断に利用される。
【0024】
一例として、対象物11に設定されたX方向に平行なラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動させられると、ラインAに沿って複数の改質スポット12sが1列に並ぶように形成される。一つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光スポットCの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合もあるし、互いに離れる場合もある。
【0025】
駆動部4は、支持部2を支持しており、支持部2を駆動する。本実施形態では、駆動部4は、X方向及びY方向のそれぞれの方向に支持部2を移動させ、Z方向に平行な軸線を回転軸として支持部2を回転させる。駆動部5は、照射部3を支持しており、照射部3を駆動する。本実施形態では、駆動部5は、Z方向に照射部3を移動させる。一例として、レーザ加工装置1では、ラインAがX方向に平行となるように駆動部4が支持部2を回転させ、集光スポットCがラインA上に位置するように駆動部4が支持部2をY方向に移動させ、集光スポットCが対象物11の内部に位置するように駆動部5がZ方向に照射部3を移動させ、更に、ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動するように駆動部4が支持部2を移動させる。
【0026】
制御部6は、支持部2、照射部3及び駆動部4,5を制御する。制御部6は、処理部、記憶部及び入力受付部を有している(図示省略)。処理部は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信が制御される。記憶部は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。入力受付部は、例えば、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0027】
図2に示されるように、照射部3は、光源31と、空間光変調器7と、集光部33と、4fレンズユニット34と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出射する。空間光変調器7は、変調パターンを表示することで、光源31から出射されたレーザ光Lを変調する。集光部33は、少なくとも一つのレンズによって構成されており、空間光変調器7によって変調されたレーザ光Lを対象物11に集光する。4fレンズユニット34は、空間光変調器7の変調面でのレーザ光Lの像を集光部33の入射瞳面に転像する。なお、光源31が照射部3の外部に設けられており、光源31から出射されたレーザ光Lが照射部3に導光されてもよい。また、照射部3は、他の光学系を備えていてもよい。一例として、照射部3は、光源31と空間光変調器7との間の光路上に配置された光学系(例えば、アッテネータ、ビームエキスパンダ等)を備えていてもよい。
【0028】
図3に示されるように、4fレンズユニット34は、一対のレンズ34A,34Bを有している。一対のレンズ34A,34Bは、空間光変調器7から集光部33に進行するレーザ光Lの光路上に配置されている。一対のレンズ34A,34Bは、空間光変調器7の変調面7aと集光部33の入射瞳面33aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。これにより、空間光変調器7の変調面7aでのレーザ光Lの像(空間光変調器7において変調されたレーザ光Lの像)が集光部33の入射瞳面33aに転像(結像)される。なお、
図3において、f1,f2はそれぞれレンズ34A,34Bの焦点距離を示し、Fsはフーリエ面を示す。
【0029】
図4に示されるように、空間光変調器7は、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。空間光変調器7は、半導体基板71上に、駆動回路層72、画素電極層73、反射膜74、配向膜75、液晶層76、配向膜77、透明導電膜78及び透明基板79がこの順序で積層されることで、構成されている。
【0030】
半導体基板71は、例えば、シリコン基板である。駆動回路層72は、半導体基板71上において、アクティブ・マトリクス回路を構成している。画素電極層73は、半導体基板71の表面に沿ってマトリックス状に配列された複数の画素電極73aを含んでいる。各画素電極73aは、例えば、アルミニウム等の金属材料によって形成されている。各画素電極73aには、駆動回路層72によって電圧が印加される。
【0031】
反射膜74は、例えば、誘電体多層膜である。配向膜75は、液晶層76における反射膜74側の表面に設けられており、配向膜77は、液晶層76における反射膜74とは反対側の表面に設けられている。各配向膜75,77は、例えば、ポリイミド等の高分子材料によって形成されており、各配向膜75,77における液晶層76との接触面には、例えば、ラビング処理が施されている。配向膜75,77は、液晶層76に含まれる液晶分子76aを一定方向に配列させる。
【0032】
透明導電膜78は、透明基板79における配向膜77側の表面に設けられており、液晶層76等を挟んで画素電極層73と向かい合っている。透明基板79は、例えば、ガラス基板である。透明導電膜78は、例えば、ITO等の光透過性且つ導電性材料によって形成されている。透明基板79及び透明導電膜78は、レーザ光Lを透過させる。
【0033】
以上のように構成された空間光変調器7では、変調パターンを示す信号が制御部6から駆動回路層72に入力されると、当該信号に応じた電圧が各画素電極73aに印加され、各画素電極73aと透明導電膜78との間に電界が形成される。当該電界が形成されると、液晶層76において、各画素電極73aに対応する領域ごとに液晶分子76aの配列方向が変化し、各画素電極73aに対応する領域ごとに屈折率が変化する。この状態が、空間光変調器7が変調パターンを表示した状態である。
【0034】
空間光変調器7が変調パターンを表示した状態で、レーザ光Lが、外部から透明基板79及び透明導電膜78を介して液晶層76に入射し、反射膜74で反射されて、液晶層76から透明導電膜78及び透明基板79を介して外部に出射させられると、液晶層76に表示された変調パターンに応じて、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等が変調される。なお、
図3に示される変調面7aは、液晶層76に対応する。
[トレフォイル収差パターンを用いたレーザ加工方法]
【0035】
レーザ加工装置1において、制御部6は、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させることができる。
図5は、トレフォイル収差パターンの一例を示す図である。トレフォイル収差は、ゼルニケの三次収差の一つである。なお、球面収差及び非点収差はゼルニケの二次収差に含まれ、コマ収差及びトレフォイル収差はゼルニケの三次収差に含まれる。
【0036】
トレフォイル収差パターンを表示した空間光変調器7によって変調されたレーザ光Lが集光部33によって集光されると、
図6の(a)に示されるように、レーザ光Lは、集光スポットCにおいて最も絞られる。このとき、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9(すなわち、「レーザ光Lの光軸(
図6の(a)に示される一点鎖線)に垂直であり且つ集光スポットCを含む面」内でのレーザ光Lの強度分布)は、
図6の(b)に示されるように、中心部90並びに中心部90から放射状に延在する第1延在部91、第2延在部92及び第3延在部93を含み且つ中心部90において最も高い強度を有するビーム形状となる。一例として、第1延在部91、第2延在部92及び第3延在部93のそれぞれの幅は、中心部90から離れるほど小さくなっており、第1延在部91、第2延在部92及び第3延在部93のそれぞれの強度は、中心部90から離れるほど低くなっている。一例として、レーザ光Lのビーム形状9は、三角形の各辺が内側に湾曲したような形状である。
【0037】
なお、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンには、トレフォイル収差パターンのみを含む変調パターンは勿論、トレフォイル収差パターン及びそれ以外のパターンを含む変調パターンも含まれる。変調パターンがトレフォイル収差パターン以外のパターンを含んでいる場合にも、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを表示した空間光変調器7によって変調されたレーザ光Lが集光部33によって集光されると、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9が、中心部90並びに中心部90から放射状に延在する第1延在部91、第2延在部92及び第3延在部93を含み且つ中心部90において最も高い強度を有するビーム形状となる。一例として、トレフォイル収差パターン及び非点収差パターンを含む変調パターンを表示した空間光変調器7によって変調されたレーザ光Lが集光部33によって集光されると、複数の集光スポットCが現れる場合があるが、そのような場合にも、各集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9(この場合、「集光スポットCに集光されるレーザ光Lの光軸に垂直であり且つ集光スポットCを含む面」内でのレーザ光Lの強度分布)は、中心部90並びに中心部90から放射状に延在する第1延在部91、第2延在部92及び第3延在部93を含み且つ中心部90において最も高い強度を有するビーム形状となる。
【0038】
図7は、トレフォイル収差強度ごとのレーザ光Lのビーム形状の一例を示す図である。トレフォイル収差強度の絶対値はトレフォイル収差の強さを示し、トレフォイル収差強度の絶対値が大きくなるほどトレフォイル収差が強くなる(したがって、「トレフォイル収差強度が強い」とは、トレフォイル収差強度の絶対値が大きいこと意味する)。トレフォイル収差強度の正負の符号はトレフォイル収差の向きを示し、正の符号を有するトレフォイル収差と負の符号を有するトレフォイル収差とではトレフォイル収差の向きが180度異なる。
図7には、レーザ光Lのビーム形状として、カメラによって撮像されたカメラ像が示されている。
【0039】
図7に示されるように、いずれのトレフォイル収差強度を有するトレフォイル収差パターンによってレーザ光Lが変調された場合にも、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9は、中心部90並びに第1延在部91、第2延在部92及び第3延在部93を含み且つ中心部90において最も高い強度を有するビーム形状となる(
図6の(b)参照)。このとき、-20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状、及び+20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状も、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9と同様の形状及び向きを有するビーム形状となる。集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9は、カメラ像を一見すると、-20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状、及び+20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状とは逆側に向いているように見える場合があるが、そのような場合にも、強度が高い部分だけでなく強度が低い部分まで含めると、それらのビーム形状と同じ側に向いていることが分かる。なお、「-20μmの位置」は、集光スポットCから集光部33側に20μm離れた位置であり、「+20μmの位置」は、集光スポットCから集光部33とは反対側に20μm離れた位置である。
【0040】
図8は、トレフォイル収差パターンによって変調されたレーザ光Lのビーム形状の一例を示す図である。
図9は、トレフォイル収差パターン及び非点収差パターン(すなわち、それらが重畳された変調パターン)によって変調されたレーザ光Lのビーム形状の一例を示す図である。
図10は、トレフォイル収差パターン、非点収差パターン及び球面収差パターン(すなわち、それらが重畳された変調パターン)によって変調されたレーザ光Lのビーム形状の一例を示す図である。
図8、
図9及び
図10には、レーザ光Lのビーム形状として、シミュレーションによって取得されたシミュレーション像、及びカメラによって撮像されたカメラ像が示されている。なお、
図8、
図9及び
図10のいずれの場合も、トレフォイル収差パターンのトレフォイル収差強度は-0.6である。
【0041】
図8、
図9及び
図10に示されるように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンによってレーザ光Lが変調されると、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9は、中心部90並びに第1延在部91、第2延在部92及び第3延在部93を含み且つ中心部90において最も高い強度を有するビーム形状となる(
図6の(b)参照)。このとき、-20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状、及び+20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状も、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9と同様の形状及び向きを有するビーム形状となる。集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9は、カメラ像を一見すると、-20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状、及び+20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状とは逆側に向いているように見える場合があるが、そのような場合にも、強度が高い部分だけでなく強度が低い部分まで含めると、それらのビーム形状と同じ側に向いていることが分かる。
【0042】
図11は、トレフォイル収差パターンによって変調されたレーザ光Lのビーム形状の一例を示す図である。この場合、トレフォイル収差パターンのトレフォイル収差強度は-0.5である。
図11に示されるように、-100μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状、及び+100μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状は、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9とは逆側に向いたビーム形状となる。なお、「-100μmの位置」は、集光スポットCから集光部33側に100μm離れた位置であり、「+100μmの位置」は、集光スポットCから集光部33とは反対側に100μm離れた位置である。
【0043】
これに対し、上述したように、-20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状、及び+20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状は、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9と同様の形状及び向きを有するビーム形状となる(
図7、
図8、
図9及び
図10参照)。特に、-20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状は、+20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状に比べ、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9を顕著に示している。したがって、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンによって変調されたレーザ光Lが集光されている場合に、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9を推定するためには、-20μmの位置におけるレーザ光Lのビーム形状をカメラによって撮像し、そのカメラ像を観察すればよい。
【0044】
また、
図12の(a)に示されるように、シリコンウェハである対象物11の第2表面11bに金属膜8を形成し、対象物11の第1表面11aをレーザ光Lの入射面として且つ第2表面11bから20~30μmの位置であって対象物11の内部の位置に集光スポットCを合わせて、対象物11にレーザ光Lを照射すると、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンによって変調されたレーザ光Lが集光されている場合には、
図12の(b)に示されるように、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9と同様の形状及び向きを有するダメージが金属膜8に形成される。したがって、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンによって変調されたレーザ光Lが集光されている場合に、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9を推定するためには、上述のように金属膜8にダメージを形成し、そのダメージを観察すればよい。
【0045】
以上を踏まえ、トレフォイル収差パターンを用いたレーザ加工方法によって形成される改質領域及び亀裂(改質領域の形成時に改質領域から延在する亀裂)の第1例について説明する。
図13及び
図14は、レーザ加工条件ごとの対象物11の切断面の第1例を示す図である。
図13及び
図14には、「シリコンウェハである対象物11の内部に、シリコンウェハの厚さ方向に並ぶ二列の改質領域がラインAに沿って形成され、その後に、対象物11がエキスパンドによってラインAに沿って切断された場合」における対象物11の切断面が示されている。
【0046】
図13及び
図14において、「条件A」は、「ラインA上の矢印で示される向き」(
図13では右向き、
図14では左向き)に集光スポットCが相対的に移動させられ、その際に、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9が、(1)「ラインA上に中心部90及び第1延在部91が位置し且つラインAに対して第1の側(
図13では上側、
図14では下側)に第2延在部92が位置し且つラインAに対して第2の側(
図13では下側、
図14では上側)に第3延在部93が位置する状態」となり、且つ、(2)「ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの前側に第1延在部91が位置し且つ当該向きの後側に第2延在部92及び第3延在部93が位置する状態」となるレーザ加工条件である。
【0047】
また、「条件B」は、「ラインA上の矢印で示される向き」(
図13では左向き、
図14では右向き)に集光スポットCが相対的に移動させられ、その際に、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9が、(1)「ラインA上に中心部90及び第1延在部91が位置し且つラインAに対して第2の側(
図13では上側、
図14では下側)に第2延在部92が位置し且つラインAに対して第1の側(
図13では下側、
図14では上側)に第3延在部93が位置する状態」となり、且つ、(3)「ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの後側に第1延在部91が位置し且つ当該向きの前側に第2延在部92及び第3延在部93が位置する状態」となるレーザ加工条件である。
【0048】
なお、「条件A」の段における「標準」は、変調パターンがトレフォイル収差パターンを含んでいない点のみが「条件A」と相違するレーザ加工条件である。また、「条件B」の段における「標準」は、変調パターンがトレフォイル収差パターンを含んでいない点のみが「条件B」と相違するレーザ加工条件である。
【0049】
図13及び
図14に示される対象物11の切断面の状態から得られる知見について、
図15を参照しつつ説明する。
【0050】
まず、
図15に示されるように、ラインAに沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、改質領域12からレーザ光Lの入射方向(Z方向)及びラインAの延在方向(X方向)の両方向に平行な第1面P1に沿って対象物11に亀裂13を形成する場合において、レーザ光Lの入射方向における亀裂13の幅を小さくするときには、ラインA上に第1延在部91が位置し且つラインAに対して一方の側に第2延在部92が位置し且つラインAに対して他方の側に第3延在部93が位置するように(
図13及び
図14では「条件A」及び「条件B」)、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させればよい。
【0051】
なお、
図13及び
図14に示される対象物11の切断面において、レーザ光Lの入射方向における亀裂の幅が小さくなっていることは、左右方向に延在する黒色の筋が二列の改質領域(左右方向に延在する黒色の帯状領域)の間に形成されていることから分かる。その理由は、二列の改質領域の形成時に各改質領域から延在した亀裂が二列の改質領域の間で繋がっていない状態で、エキスパンドによる対象物11の切断が実施された場合に、左右方向に延在する黒色の筋が形成され得るからである。
【0052】
また、
図15に示されるように、ラインAに沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、第1面P1に沿って対象物11に亀裂13を形成する場合において、レーザ光Lの入射方向における亀裂13の幅だけでなく、レーザ光Lの入射方向における改質領域12の幅も小さくし、且つ、ラインAに対して亀裂13が蛇行するのを抑制するときには、ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの前側に第1延在部91が位置し且つ当該向きの後側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように(
図13及び
図14では「条件A」)、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させればよい。なお、
図13及び
図14に示される対象物11の切断面において、ラインAに対する亀裂13の蛇行が抑制されていることは、二列の改質領域から上下方向に延在する黒色の筋(ツイストハックルと称される)が、「標準」及び「条件B」よりも「条件A」において減少していることから分かる。
【0053】
なお、ラインAとして対象物11に設定された第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って集光スポットCを相対的に移動させる場合において、第1ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きと、第2ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きとが異なるときには、第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの前側に第1延在部91が位置し且つ当該向きの後側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、空間光変調器7において、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンの向きを切り替えればよい。
【0054】
また、
図15に示されるように、レーザ光Lの入射方向(Z方向)における改質領域12及び亀裂13の少なくとも一方の幅を第1幅とする場合には、第1トレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させ、当該少なくとも一方の幅を第1幅よりも小さい第2幅とする場合には、第1トレフォイル収差強度よりも強い第2トレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させればよい。なお、
図15に示される例では、レーザ光Lの入射方向における改質領域12及び亀裂13のそれぞれの幅が、第1トレフォイル収差強度よりも第2トレフォイル収差強度において小さくなっている。
【0055】
次に、トレフォイル収差パターンを用いたレーザ加工方法によって形成される改質領域及び亀裂(改質領域の形成時に改質領域から延在する亀裂)の第2例について説明する。
図16及び
図17は、レーザ加工条件ごとの対象物11の切断面の第2例を示す図である。
図16及び
図17には、「シリコンウェハである対象物11の内部に、シリコンウェハの厚さ方向に並ぶ二列の改質領域がラインAに沿って形成され、その後に、対象物11がエキスパンドによってラインAに沿って切断された場合」における対象物11の切断面が示されている。
【0056】
図16及び
図17において、「条件C」は、「ラインA上の矢印で示される向き」(
図16では右向き、
図17では左向き)に集光スポットCが相対的に移動させられ、その際に、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9が、(4)「ラインA上に中心部90が位置し且つラインAに対して第1の側(
図16では上側、
図17では下側)に第1延在部91が位置し且つラインAに対して第2の側(
図16では下側、
図17では上側)に第2延在部92及び第3延在部93が位置する状態」となるレーザ加工条件である。
【0057】
また、「条件D」は、「ラインA上の矢印で示される向き」(
図16では左向き、
図17では右向き)に集光スポットCが相対的に移動させられ、その際に、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9が、(5)「ラインA上に中心部90が位置し且つラインAに対して第2の側(
図16では上側、
図17では下側)に第1延在部91が位置し且つラインAに対して第1の側(
図16では下側、
図17では上側)に第2延在部92及び第3延在部93が位置する状態」となるレーザ加工条件である。
【0058】
なお、「条件C」の段における「標準」は、変調パターンがトレフォイル収差パターンを含んでいない点のみが「条件C」と相違するレーザ加工条件である。また、「条件D」の段における「標準」は、変調パターンがトレフォイル収差パターンを含んでいない点のみが「条件D」と相違するレーザ加工条件である。
【0059】
【0060】
まず、
図18に示されるように、ラインAに沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、改質領域12からレーザ光Lの入射方向(Z方向)及びラインAの延在方向(X方向)の両方向に平行な第1面P1に対して傾斜する第2面P2に沿って対象物11に亀裂13を形成する場合において、レーザ光Lの入射側とは反対側の領域が第1面P1に垂直な方向(Y方向)における一方の側(
図18では左側)に位置するように第2面P2が傾斜しているときには、ラインAに対して一方の側(
図18では左側)に第1延在部91が位置し且つラインAに対して他方の側(
図18では右側)に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させればよい。
【0061】
また、
図19に示されるように、ラインAに沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、改質領域12からレーザ光Lの入射方向(Z方向)及びラインAの延在方向(X方向)の両方向に平行な第1面P1に対して傾斜する第2面P2に沿って対象物11に亀裂13を形成する場合において、レーザ光Lの入射側とは反対側の領域が第1面P1に垂直な方向(Y方向)における他方の側(
図19では右側)に位置するように第2面P2が傾斜しているときには、ラインAに対して他方の側(
図19では右側)に第1延在部91が位置し且つラインAに対して一方の側(
図19では左側)に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させればよい。
【0062】
なお、ラインAとして対象物11に設定された第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って集光スポットCを相対的に移動させる場合において、第1ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きと、第2ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きとが異なるときには、第1ライン及び第2ラインのそれぞれに対して一方の側に第1延在部91が位置し且つ第1ライン及び第2ラインのそれぞれに対して他方の側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、空間光変調器7において、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンの向きを切り替えればよい。
【0063】
また、
図18及び
図19に示されるように、第1面P1と第2面P2との間の角度(すなわち、第1面P1と第2面P2とが成す鋭角側の角度)を第1角度とする場合には、第1トレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させ、当該角度を第1角度よりも大きい第2角度とする場合には、第1トレフォイル収差強度よりも強い第2トレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させればよい。なお、
図16及び
図17に示される対象物11の切断面において、トレフォイル収差強度が強くなるほど亀裂が傾斜する角度が大きくなっていることは、トレフォイル収差強度が強くなるほど黒色の領域が増加していることから分かる。
図16及び
図17に示される対象物11の切断面は、黒色の領域が増加する側が紙面の手前側に位置するように傾斜している。
[レーザ加工方法の第1例]
【0064】
図20は、レーザ加工方法の第1例が適用される対象物11を示す図である。
図20に示されるように、対象物11は、第1表面11a及び第2表面11bを有する半導体ウェハである。一例として、対象物11は、シリコンウェハと、当該シリコンウェハの第1表面11a側に形成された複数の機能素子(図示省略)と、を備えている。複数の機能素子は、対象物11に形成されたノッチ11cを基準として、第1表面11aに沿ってマトリックス状に配置されている。各機能素子は、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。各機能素子は、複数の層がスタックされて三次元的に構成される場合もある。なお、対象物11には、ノッチ11cの替わりに、オリエンテーションフラットが形成されていてもよい。
【0065】
レーザ加工方法の第1例は、上述したレーザ加工装置1において実施される。レーザ加工方法の第1例では、
図20に示される対象物11が、格子状に延在する複数の加工面P10のそれぞれに沿って機能素子ごとに切断される。各加工面P10は、第1表面11a及び第2表面11bに垂直な平面である。レーザ加工方法の第1例では、
図21の(a)及び(b)に示されるように、加工面P10が、レーザ光Lの入射方向(Z方向)及びラインAの延在方向(X方向)の両方向に平行な第1面P1に合わされた状態で、対象物11の内部に、対象物11の厚さ方向に並ぶ二列の改質領域12がラインAに沿って形成される。
【0066】
レーザ加工方法の第1例では、加工面P10内において延在するラインAに沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、第1面P1に沿って対象物11に亀裂13を形成したい。また、レーザ加工方法の第1例では、対象物11が薄いため、レーザ光Lの入射方向における改質領域12及び亀裂13のそれぞれの幅を小さくし、且つ、ラインAに対して亀裂13が蛇行するのを抑制したい。
【0067】
そこで、レーザ加工方法の第1例では、ラインA上に第1延在部91が位置し且つラインAに対して一方の側に第2延在部92が位置し且つラインAに対して他方の側に第3延在部93が位置するように、且つ、ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの前側に第1延在部91が位置し且つ当該向きの後側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、制御部6が、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。このとき、レーザ光Lの入射方向における改質領域12及び亀裂13のそれぞれの幅をより小さくしたい場合には、制御部6が、より強いトレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。続いて、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させた状態で、ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動するように、制御部6が、支持部2を駆動部4に駆動させる。以上の工程が全ての加工面P10に対して実施された後に、例えば対象物11の第2表面11bに貼られたダイシングテープの拡張によって、
図20に示される対象物11が機能素子ごとに切断される。
【0068】
なお、レーザ加工方法の第1例では、レーザ光Lが対象物11の第1表面11a側から入射させられてもよいし、レーザ光Lが対象物11の第2表面11b側から入射させられてもよい。また、一列の改質領域12がラインAに沿って対象物11の内部に形成されてもよいし、対象物11の厚さ方向に並ぶ三列以上の改質領域12がラインAに沿って対象物11の内部に形成されてもよい。対象物11の厚さ方向に並ぶ複数列の改質領域12がラインAに沿って対象物11の内部に形成される場合、複数の集光スポットCを有するようにレーザ光Lが空間光変調器7によって変調されて、一回のレーザ光Lのスキャン(ラインAに沿ったレーザ光Lの相対的な移動)によって複数列の改質領域12がラインAに沿って対象物11の内部に形成されてもよい。また、レーザ加工時に、レーザ光Lが入射させられる表面とは反対側の第1表面11a又は第2表面11bにダイシングテープが貼られていてもよいし、レーザ光Lが入射させられる第1表面11a又は第2表面11bに、レーザ光Lに対して透過性を有するダイシングテープが貼られていてもよい。また、レーザ加工後であってダイシングテープの拡張前に、対象物11の第2表面11bが研削されて、対象物11が薄くされてもよい。その際に、対象物11に形成された改質領域12が除去されてもよい。
【0069】
また、レーザ加工方法の第1例では、レーザ光Lの出射側の表面(
図21に示される例では、第2表面11b)に近い改質領域12(以下、「第1改質領域」という)を形成する際に、第1改質領域からレーザ光Lの出射側の表面に亀裂13が到達しないように第1改質領域を形成し、第1改質領域とレーザ光Lの入射側の表面(
図21に示される例では、第1表面11a)との間に改質領域12(以下、「第2改質領域」という)を形成する際に、第1改質領域と第2改質領域との間で亀裂13を繋げると共に、第1改質領域からレーザ光Lの出射側の表面に亀裂13を到達させてもよい(以下、「抜け光ダメージ抑制加工」という)。その場合において、第1改質領域を形成する際には、ラインA上に第1延在部91が位置し且つラインAに対して一方の側に第2延在部92が位置し且つラインAに対して他方の側に第3延在部93が位置するように、制御部6が、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させ、第2改質領域を形成する際には、制御部6が、トレフォイル収差パターンを含まない変調パターン(或いは、第1改質領域を形成する際よりも弱いトレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターン)を空間光変調器7に表示させることが好ましい。このようなレーザ加工法によれば、第1改質領域を形成する際にレーザ光Lの抜け光の散乱が抑制されるため、レーザ光Lの出射側の表面に抜け光によるダメージが生じるのを抑制することができる。それ以外にも、端面の品質を向上させることができ(すなわち、切断面の凹凸を低減することができ)、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを利用してツイストハックルを抑制することで、そのような効果を更に向上させることができる。
【0070】
なお、第1改質領域を形成する際に、ラインA上に第1延在部91が位置し且つラインAに対して一方の側に第2延在部92が位置し且つラインAに対して他方の側に第3延在部93が位置するように、且つ、ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの前側に第1延在部91が位置し且つ当該向きの後側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、制御部6が、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させると、第1改質領域からレーザ光Lの出射側の表面に亀裂13が到達するのをより確実に防止することができる。
【0071】
以上の知見は、対象物11の厚さ方向に並ぶ「少なくとも一列の第1改質領域」及び「少なくとも一列の第2改質領域」をラインAに沿って対象物11の内部に形成する場合に適用可能である。なお、この場合において、第1改質領域の列数と第2改質領域の列数とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0072】
対象物11の厚さ方向に並ぶ複数列の第1改質領域をラインAに沿って対象物11の内部に形成する場合には、レーザ加工に要する時間を短縮化するために(すなわち、いわゆるタクトアップのために)、複数の集光スポットCを有するようにレーザ光Lが空間光変調器7によって変調されて、一回のレーザ光Lのスキャンによって複数列の第1改質領域がラインAに沿って対象物11の内部に形成されてもよい。この場合にも、ラインA上に第1延在部91が位置し且つラインAに対して一方の側に第2延在部92が位置し且つラインAに対して他方の側に第3延在部93が位置するように、制御部6が、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。或いは、ラインA上に第1延在部91が位置し且つラインAに対して一方の側に第2延在部92が位置し且つラインAに対して他方の側に第3延在部93が位置するように、且つ、ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの前側に第1延在部91が位置し且つ当該向きの後側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、制御部6が、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。勿論、複数回のレーザ光Lのスキャンのそれぞれによって複数列の第1改質領域のそれぞれがラインAに沿って対象物11の内部に形成されてもよい。なお、一回のレーザ光Lのスキャンによって複数列の第1改質領域がラインAに沿って対象物11の内部に形成される場合にも、複数回のレーザ光Lのスキャンのそれぞれによって複数列の第1改質領域のそれぞれがラインAに沿って対象物11の内部に形成される場合にも、複数列の第1改質領域のそれぞれから伸びる亀裂は、互いに繋がらないことが好ましい。
【0073】
また、対象物11の厚さ方向に並ぶ複数列の第2改質領域をラインAに沿って対象物11の内部に形成する場合には、タクトアップのために、複数の集光スポットCを有するようにレーザ光Lが空間光変調器7によって変調されて、一回のレーザ光Lのスキャンによって複数列の第2改質領域がラインAに沿って対象物11の内部に形成されてもよい。勿論、対象物11の厚さ方向に並ぶ複数列の第2改質領域をラインAに沿って対象物11の内部に形成する場合に、複数回のレーザ光Lのスキャンのそれぞれによって複数列の第2改質領域のそれぞれがラインAに沿って対象物11の内部に形成されてもよい。なお、一回のレーザ光Lのスキャンによって複数列の第2改質領域がラインAに沿って対象物11の内部に形成される場合にも、複数回のレーザ光Lのスキャンのそれぞれによって複数列の第2改質領域のそれぞれがラインAに沿って対象物11の内部に形成される場合にも、複数列の第2改質領域のそれぞれから伸びる亀裂は、互いに繋がることが好ましい。
【0074】
図22は、抜け光ダメージ抑制加工による対象物11の切断面の例を示す図である。
図22の(a)及び(b)に示される切断面の例は、対象物11の厚さ方向に並ぶ「三列の第1改質領域」及び「三列の第2改質領域」をラインAに沿って対象物11の内部に形成することで、得られたものである。
図22の(a)及び(b)のいずれにおいても、一回のレーザ光Lのスキャンによって三列の第1改質領域をラインAに沿って対象物11の内部に形成し、その後に、一回のレーザ光Lのスキャンによって三列の第2改質領域をラインAに沿って対象物11の内部に形成した。
図22の(a)では、三列の第1改質領域を形成する際に、トレフォイル収差パターンを含まない変調パターンを空間光変調器7に表示させた。
図22の(b)では、三列の第1改質領域を形成する際に、ラインA上に第1延在部91が位置し且つラインAに対して一方の側に第2延在部92が位置し且つラインAに対して他方の側に第3延在部93が位置するように、且つ、ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの前側に第1延在部91が位置し且つ当該向きの後側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させた。その結果、
図22の(a)では、三列の第1改質領域が形成されている領域において、ツイストハックルが発生し、亀裂の伸び方も安定しなかった。一方、
図22の(b)では、三列の第1改質領域が形成されている領域において、ツイストハックルの発生が抑制され、亀裂の伸び方も安定した。
[レーザ加工方法の第2例]
【0075】
図23の(a)及び(b)は、レーザ加工方法の第2例が適用される対象物100を示す図である。
図23の(a)及び(b)に示されるように、対象物100は、対象物11と、対象物11とは別部材である対象物11Rと、を備えている。各対象物11,11Rは、例えば、シリコンウェハである。対象物11の第2表面11bには、複数の機能素子(図示省略)を含むデバイス層110が形成されている。対象物11Rの一方の表面には、複数の機能素子(図示省略)を含むデバイス層110Rが形成されている。デバイス層110とデバイス層110Rとは、互いに接合されている。
【0076】
レーザ加工方法の第2例は、上述したレーザ加工装置1において実施される。レーザ加工方法の第2例では、
図23の(a)及び(b)に示される対象物11が、加工面P11、加工面P12、及び複数の加工面P13のそれぞれに沿って切断され、対象物11の外縁部分が除去される(トリミング加工)。加工面P11は、Z方向に平行な中心線を有する円柱面である。加工面P12は、加工面P11におけるデバイス層110側の端部からデバイス層110Rの外縁に向かって拡がる円錐台状のテーパ面である。複数の加工面P13は、加工面P11から対象物11の外縁に延在する平面である。レーザ加工方法の第2例では、
図24の(a)及び(b)に示されるように、加工面P12が、レーザ光Lの入射方向(Z方向)及びラインAの延在方向(X方向)の両方向に平行な第1面P1に対して傾斜する第2面P2に合わされた状態で、対象物11の内部のうち加工面P12に沿った部分に、対象物11の厚さ方向に並ぶ二列の改質領域12がラインAに沿って形成される。なお、レーザ加工方法の第2例では、加工面P12内においてラインAが円周状に延在することになるが、ラインAが曲線である場合におけるラインAの延在方向とは、当該曲線の接線方向を意味する。
【0077】
レーザ加工方法の第2例では、加工面P12内において延在するラインAに沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、第2面P2に沿って対象物11に亀裂13を形成したい。また、レーザ加工方法の第2例では、レーザ光Lの入射側とは反対側の領域が第1面P1に垂直な方向(Y方向)における外側に位置するように第2面P2が傾斜している。
【0078】
そこで、レーザ加工方法の第2例では、ラインAに対して外側に第1延在部91が位置し且つラインAに対して内側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、制御部6が、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。このとき、第1面P1と第2面P2との間の角度をより大きくしたい場合には、制御部6が、より強いトレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。続いて、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させた状態で、ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動するように、制御部6が、支持部2を駆動部4に駆動させる。続いて、加工面P11、及び複数の加工面P13のそれぞれに沿って、対象物11の厚さ方向に並ぶ複数の改質領域12が形成される。以上の工程が実施された後に、対象物11の外縁部分が除去され、更に、対象物11の第1表面11aの研磨によって、加工面P11が設定されていた部分が除去される。
[作用及び効果]
【0079】
レーザ加工装置1(及びレーザ加工装置1において実施されるレーザ光方法)では、集光スポットCにおけるレーザ光Lのビーム形状9が、中心部90並びに中心部90から放射状に延在する第1延在部91、第2延在部92及び第3延在部93を含み且つ中心部90において最も高い強度を有する状態で、当該集光スポットCが、対象物11に設定されたラインAに沿って相対的に移動させられる。このとき、ラインAに対するビーム形状9の向き等を調整することで、対象物11に形成される改質領域12及び亀裂13の少なくとも一方の状態を調整することができる。よって、レーザ加工装置1によれば、加工に応じて適切な改質領域12及び亀裂13を対象物11に形成することができる。
【0080】
レーザ加工装置1では、ラインAに沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、改質領域12からレーザ光Lの入射方向及びラインAの延在方向の両方向に平行な第1面P1に沿って対象物11に亀裂13を形成する場合には、制御部6が、ラインA上に第1延在部91が位置し且つラインAに対して一方の側に第2延在部92が位置し且つラインAに対して他方の側に第3延在部93が位置するように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。これにより、例えば変調パターンがトレフォイル収差パターンを含まない場合に比べ、レーザ光Lの入射方向における亀裂13の幅を小さくすることができる。
【0081】
レーザ加工装置1では、制御部6が、ラインAに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの前側に第1延在部91が位置し且つ向きの後側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。これにより、レーザ光Lの入射方向における亀裂13の幅だけでなく、レーザ光Lの入射方向における改質領域12の幅も小さくすることができる。また、ラインAに対して亀裂13が蛇行するのを確実に抑制することができる。
【0082】
レーザ加工装置1では、ラインAとして対象物11に設定された第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って集光スポットCを相対的に移動させる場合において、第1ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きと、第2ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きとが異なるときには、制御部6が、第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの前側に第1延在部91が位置し且つ当該向きの後側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンの向きを切り替える。これにより、第1ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きと、第2ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きとが異なる場合にも、第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って集光スポットCが相対的に移動する向きの前側に第1延在部91が位置し且つ当該向きの後側に第2延在部92及び第3延在部93が位置する状態を容易に且つ確実に実現することができる。
【0083】
レーザ加工装置1では、制御部6が、レーザ光Lの入射方向における改質領域12及び亀裂13の少なくとも一方の幅を第1幅とする場合には、第1トレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させ、当該少なくとも一方の幅を第1幅よりも小さい第2幅とする場合には、第1トレフォイル収差強度よりも強い第2トレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。これにより、レーザ光Lの入射方向における改質領域12及び亀裂13の少なくとも一方の幅を、加工に応じて適切な幅にすることができる。
【0084】
レーザ加工装置1では、ラインAに沿って対象物11に改質領域12を形成すると共に、改質領域12からレーザ光Lの入射方向及びラインAの延在方向の両方向に平行な第1面P1に対して傾斜する第2面P2に沿って対象物11に亀裂13を形成する場合において、レーザ光Lの入射側とは反対側の領域が第1面P1に垂直な方向における一方の側に位置するように第2面P2が傾斜しているときには、制御部6が、ラインAに対して一方の側に第1延在部91が位置し且つラインAに対して他方の側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。これにより、改質領域12から延在する亀裂13を所望の側に傾斜させることができる。
【0085】
レーザ加工装置1では、ラインAとして対象物11に設定された第1ライン及び第2ラインのそれぞれに沿って集光スポットCを相対的に移動させる場合において、第1ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きと、第2ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きとが異なるときには、制御部6が、第1ライン及び第2ラインのそれぞれに対して一方の側に第1延在部91が位置し且つ第1ライン及び第2ラインのそれぞれに対して他方の側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンの向きを切り替える。これにより、第1ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きと、第2ラインに沿って集光スポットCを相対的に移動させる向きとが異なる場合にも、第1ライン及び第2ラインのそれぞれに対して一方の側に第1延在部91が位置し且つ第1ライン及び第2ラインのそれぞれに対して他方の側に第2延在部92及び第3延在部93が位置する状態を容易に且つ確実に実現することができる。
【0086】
レーザ加工装置1では、制御部6が、第1面P1と第2面P2との間の角度を第1角度とする場合には、第1トレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させ、当該角度を第1角度よりも大きい第2角度とする場合には、第1トレフォイル収差強度よりも強い第2トレフォイル収差強度のトレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させる。これにより、改質領域12から延在する亀裂13が傾斜する角度を、加工に応じて適切な角度にすることができる。
[変形例]
【0087】
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば、空間光変調器7は、反射型に限定されず、透過型であってもよい。また、空間光変調器7の変調面7aでのレーザ光Lの像を集光部33の入射瞳面33aに転像する光学系は、一対のレンズ34A,34Bを有する4fレンズユニット34に限定されず、空間光変調器7側の第1レンズ系(例えば、接合レンズ、三つ以上のレンズ等)及び集光部33側の第2レンズ系(例えば、接合レンズ、三つ以上のレンズ等)を含むもの等であってもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、駆動部4が支持部2を駆動するものであり、駆動部5が照射部3を駆動することで集光部33を駆動するものであったが、本発明の駆動部は、そのようなものに限定されない。一例として、駆動部4が、Z方向、X方向及びY方向のそれぞれの方向に支持部2を移動させ、Z方向に平行な軸線を回転軸として支持部2を回転させてもよい。或いは、駆動部5が、Z方向、X方向及びY方向のそれぞれの方向に集光部33を移動させ、Z方向に平行な軸線を中心線として集光部33を移動させてもよい。つまり、本発明の駆動部は、支持部及び集光部の少なくとも一方を駆動するものであればよい。
【0089】
また、上記実施形態では、制御部6が、支持部2、照射部3及び駆動部4,5を制御するものであったが、本発明の制御部は、そのようなものに限定されない。本発明の制御部は、少なくとも空間光変調器及び駆動部を制御するものであればあればよい。
【0090】
また、ラインAに対して一方の側に第1延在部91が位置し且つラインAに対して他方の側に第2延在部92及び第3延在部93が位置するように、トレフォイル収差パターンを含む変調パターンを空間光変調器7に表示させるレーザ加工方法は、ウェハを複数の四角錘台状のチップに切断する場合、ウェハから複数の円錐台状のウェハを切り出す場合等にも有効である。
【符号の説明】
【0091】
1…レーザ加工装置、2…支持部、4,5…駆動部、6…制御部、7…空間光変調器、9…ビーム形状、11…対象物、12…改質領域、13…亀裂、31…光源、33…集光部、90…中心部、91…第1延在部、92…第2延在部、93…第3延在部、A…ライン、C…集光スポット、L…レーザ光、P1…第1面、P2…第2面。