(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040923
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】齧歯類における胚の遺伝子型決定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240318BHJP
C12Q 1/6879 20180101ALI20240318BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6879 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145585
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】今井 啓之
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA20
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、胚に対して非侵襲的な遺伝子型決定方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、齧歯類から採取した脱落膜の核酸配列を解析することを特徴とする前記齧歯類における胚の遺伝子型決定方法を提供する。これにより、胚に対して非侵襲的な遺伝子型決定方法や雌雄判定方法を提供することができる。
【選択図】
図1D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
齧歯類から採取した脱落膜の核酸配列を解析することを特徴とする、前記齧歯類における胚の遺伝子型決定方法。
【請求項2】
前記脱落膜が、受精後8.5日齢以上11.0日齢以下の胚に接したものであることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子型決定方法。
【請求項3】
前記核酸配列が、Y染色体上の遺伝子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遺伝子型決定方法。
【請求項4】
前記核酸配列が、前記齧歯類のゲノムに含まれない遺伝子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遺伝子型決定方法。
【請求項5】
齧歯類から採取した脱落膜におけるY染色体上の遺伝子の核酸配列を解析し、当該遺伝子が検出された場合に胚が雄であると判定し、当該遺伝子が検出されない場合に胚が雌であると判定することを特徴とする前記齧歯類における胚の雌雄判定方法。
【請求項6】
前記脱落膜が、受精後8.5日齢以上11.0日齢以下の胚に接したものであることを特徴とする請求項5に記載の雌雄判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、齧歯類における胚の遺伝子型決定方法、齧歯類の雌雄判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
胚は、精子と卵子が受精した受精卵が子宮内膜に着床し、脱落膜化した子宮内膜内で発育する。発育過程の胚は、卵割により形成された割球が位置を変えることで細胞の配列を大幅に変化させた嚢胚形成、次いで器官形成の段階を経ることにより、多様な細胞から構成されるようになる。また、胚を構成する細胞は、発生段階により組織原基から生体組織を形成するために様々な分化段階にある細胞が経時的に複雑な配置をとる。そのため、胚における生命現象を理解するには胚を構成する細胞を精度よく解析することが求められる。
【0003】
胚の性別や遺伝子組み換えによる遺伝子導入の有無に着目して胚を解析する場合には、胚の遺伝子型を決定したうえで解析する必要がある。胚の遺伝子型を解析する一般的な方法としては、分割解析、特殊解析キットを使用した解析、プール解析が挙げられる。分割解析は、1つの胚を分割し、一方の分割した組織片から得たゲノムDNAにより遺伝子型を決定したうえで、他方の分割した組織片を用いて目的の解析を行う方法である。特殊解析キットを使用した解析は、1つの胚を溶解してRNA、DNA、タンパク質などの生体分子を得て解析を行う方法である。プール解析は、親の遺伝子型の組み合わせを変数として、理論上の胚の遺伝子型を推定する方法である。
【0004】
胚が発達した胎児になると胎児の遺伝子型を胎児の母親から採取した生物学的試料から解析することが可能となる。母親由来の試料から胎児に対して非侵襲的に遺伝子型を解析する方法として、例えば、特許文献1には、母親由来の血液試料から胎児核酸分率を決定することが記載されている。また、特許文献2には、母親由来の血液試料から胎児のDNAを分離して評価する方法が記載されている。特許文献3には、母親由来の血液試料から胎児のRhD遺伝子型を判別する方法が記載されている。
【0005】
ところで、着床後において栄養外胚葉の一部の細胞は、子宮内膜へ侵入することが記載されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2016-516449号公報
【特許文献2】特開2017-192383号公報
【特許文献3】特表2011-528554号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E. Dimitriadis et al., Placenta 31, Supplement A, Trophoblast Research, Vol. 24 (2010) S99-S104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発生や再生医療などの研究分野において、マウスの着床胚は研究対象として頻繁に用いられている。マウスの胚の遺伝子型を特定する従来の方法には次の問題点が存在する。分割解析では、小さな胚を分割することで分割後の胚を用いる下流実験の解析精度が低下することや、遺伝子型解析用の分割した組織片に含まれない細胞集団が存在する場合、正しい遺伝子型解析結果を得られないことなどが挙げられる。また、特殊解析キットを使用した解析では、胚全体を溶解するため形態学的解析ができなくなることや、溶解した胚からRNA、DNA、タンパク質の抽出や分離が不十分であると解析結果が不正確になることなどが挙げられる。プール解析では、親の遺伝子型から胚の遺伝子型を想定しているので実際の胚と遺伝子型を確定することができないことや、胚致死を考慮していないため正確な胚の解析ができない可能性が存在することなどが挙げられる。また、胎児に対して非侵襲的に遺伝子型を解析する公知の方法では、発生初期の胚における遺伝子型を解析することができない。以上のことから、胚の発育への影響を最小限とし、発育早期に胚の遺伝子型を決定する手段の確立が望まれている。
【0009】
したがって、本発明の課題は、胚に対して非侵襲的な遺伝子型決定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、母親の子宮内膜より採取した対象とする胚に接する脱落膜組織の核酸配列を解析することにより、胚の遺伝子型を決定できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供する。
[1]齧歯類から採取した脱落膜の核酸配列を解析することを特徴とする、前記齧歯類における胚の遺伝子型決定方法。
[2]前記脱落膜が、受精後8.5日齢以上11.0日齢以下の胚に接したものであることを特徴とする上記[1]に記載の遺伝子型決定方法。
[3]前記核酸配列が、Y染色体上の遺伝子であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の遺伝子型決定方法。
[4]前記核酸配列が、前記齧歯類のゲノムに含まれない遺伝子であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の遺伝子型決定方法。
[5]齧歯類から採取した脱落膜におけるY染色体上の遺伝子の核酸配列を解析し、当該遺伝子が検出された場合に胚が雄であると判定し、当該遺伝子が検出されない場合に胚が雌であると判定することを特徴とする前記齧歯類における胚の雌雄判定方法。
[6]前記脱落膜が、受精後8.5日齢以上11.0日齢以下の胚に接したものであることを特徴とする上記[5]に記載の雌雄判定方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、胚に対して非侵襲的な遺伝子型決定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1F】
図1は、胚と脱落膜におけるSry遺伝子の経時的な検出変化を示す。
図1Aは受精後7.5日齢、
図1Bは受精後8.0日齢、
図1Cは受精後8.25日齢、
図1Dは受精後8.5日齢、
図1Eは受精後9.5日齢、
図1Fは受精後10.5日齢の脱落膜におけるY遺伝子の検出結果を示す。
【
図2F】
図2は、胚と脱落膜におけるEGFP遺伝子の経時的な検出変化を示す。
図2Aは受精後7.5日齢、
図2Bは受精後8.0日齢、
図2Cは受精後8.25日齢、
図2Dは受精後8.5日齢、
図2Eは受精後9.5日齢、
図2Fは受精後10.5日齢の脱落膜におけるEGFP遺伝子の検出結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る齧歯類における胚の遺伝子型決定方法(以下、「本発明の遺伝子型決定方法」ともいう。)の実施形態を詳細に説明する。
なお、実施形態に記載する本発明の遺伝子型決定方法については、本発明を説明するために例示したに過ぎず、これに制限されるものではない。
【0015】
[定義]
本明細書中において、「胚」とは、齧歯類の発生初期の個体を意味する。また、「胚」には、動物の雌から回収した胚(受精卵)、体外受精などにより作製された胚、遺伝子操作された胚、及び凍結保存から融解した胚なども包含される。齧歯類としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、スナネズミ、ハムスター、リスなどが挙げられる。
本明細書中において、「着床」とは、成長した受精卵が子宮内膜に定着することを意味する。
本明細書中において、「着床胚」とは、子宮内膜に着床した胚を意味する。
本明細書中において、「脱落膜」とは、子宮内膜が増殖、肥厚して受精卵を着床できる状態に脱落膜化した組織を意味する。
【0016】
本明細書中において、「受精後」とは、交尾後を意味する。受精後の日数は交尾からの日数に相当する。また、受精卵や胚盤胞を子宮内胚移植や卵管内胚移植する場合は、移植を受ける偽妊娠レシピエント齧歯類の交尾処理時を受精後の日数の起算時とする。
本明細書中において、「妊娠」とは、子宮内、又は外への受精卵の着床を意味する。
本明細書中において、「母親」及び「母体」とは、妊娠させる齧歯類、又は妊娠した齧歯類を意味する。「父親」とは、母親の妊娠に必要な精子を提供する齧歯類を意味する。
本明細書中において、「胎児」とは、母胎内で生育中の幼体を意味する。
本明細書中において、「仔」とは、母親から生まれた子を意味し、母胎内の胎児と区別される。
【0017】
本明細書中において、「核酸配列」とは、核酸分子の塩基配列を意味する。核酸分子の塩基配列は、天然若しくは合成のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、及びその断片又は部分の塩基配列である。核酸分子としては、DNA、RNA、ペプチド核酸などが挙げられる。また、核酸分子は、一本鎖でもよいし、二本鎖でもよい。核酸分子の具体例としては、例えば、ゲノムDNA、プラスミドDNA、rRNA、tRNA、mRNAなどが挙げられる。
【0018】
[遺伝子型決定方法]
本発明の遺伝子型決定方法は、採取した脱落膜の核酸配列を解析することを特徴とする齧歯類における胚の遺伝子型を決定するためのものである。これにより、胚に対して非侵襲的に遺伝子型を決定する方法を提供することができる。
まず、本発明の遺伝子型決定方法を構成する各工程について、詳細に説明する。
【0019】
(脱落膜の採取)
本発明の遺伝子型決定方法における脱落膜の採取方法は、胚を侵襲せずに核酸配列解析が可能な組織量を得られるのであれば、特に制限されるものではない。
脱落膜の採取方法の具体例としては、例えば、安楽死した齧歯類から摘出した子宮の子宮壁を切開し、脱落膜を採取する方法、麻酔したマウスの背部を切開し、露出させた子宮を切開し、脱落膜を採取する方法、麻酔したマウスの背部を切開し、露出させた子宮からニードルを用いて脱落膜を採取する方法などが挙げられる。
【0020】
脱落膜の採取時期は、核酸配列解析が可能であれば、特に制限されるものではない。脱落膜の採取時期としては、例えば、胚齢として受精後8.0日齢以上11.0日齢以下である。下限値としては、好ましくは受精後8.0日齢以上、より好ましくは8.25日齢以上、更に好ましくは8.5日齢以上である。一方、上限値としては、好ましくは受精後10.75日齢以下、より好ましくは受精後10.5日齢以下である。
なお、脱落膜の採取時期は、齧歯類の種類により、適宜変更することができる。また、胚に接した脱落膜とは、胚に接したことがある脱落膜であればよく、胚に接した状態の脱落膜だけで無く、胚に接した状態から脱落膜と胚とを分離した場合の脱落膜も含まれる。上記脱落膜は、脱落膜全部であってもよいが、脱落膜のうち、胚に接した若しくは接していた領域の周辺を含む脱落膜の一部であってもよい。
【0021】
脱落膜の採取時期は、テイラーステージを指標にしてもよい。テイラーステージと受精後の日齢の関係は、受精後8.0日齢がテイラーステージ12、受精後8.5日齢がテイラーステージ13、受精後9.0日齢がテイラーステージ14、受精後9.5日齢がテイラーステージ15、受精後10.0日齢がテイラーステージ16、受精後10.5日齢がテイラーステージ17、受精後11.0日齢がテイラーステージ18、受精後11.5日齢がテイラーステージ19に相当する。
【0022】
(核酸配列の解析)
本発明の遺伝子型決定方法における脱落膜における核酸配列の解析方法は、遺伝子型を同定できるのであれば、特に制限されるものではない。なお、上記「胚の遺伝子型決定」には、「胚に所定の遺伝子を含有するか否かを決定する」という意味が含まれ、具体的には、性染色体関連遺伝子を含有するか否かによって雄雌を決定することのほか、導入した外来遺伝子(トランスジーン)の有無を決定することも含まれる。核酸配列の解析方法の具体例としては、例えば、PCR解析、RT-PCR解析、サザン解析、ノーザン解析、CGH(Comparative genomic hybridization)解析、ヘテロ二本鎖解析、PCR-DGGE(Denaturing gradient gel electrophoresis)解析、DNAシークエンス法、RNAシークエンス法、FISH(Fluorescence in situ hybridization)法、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphisms)法、SSCP(Single-strand conformation polymorphism)法、PRINS(Primed in situ)法などが挙げられる。
【0023】
解析する核酸配列は、目的とする遺伝子型を同定できるのであれば、特に制限されるものではない。
解析する核酸配列の具体例としては、例えば、Y染色体上の遺伝子などの性染色体関連遺伝子;Cre遺伝子、FLP遺伝子等のリコンビナーゼ触媒ドメインのアミノ酸をコードする遺伝子;Cas9遺伝子、Cas3遺伝子などのCas遺伝子;FLAGタグ配列、HAタグ配列、Mycタグ配列などのタンパク質追跡用タグをコードする遺伝子;ネオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性マーカーをコードする遺伝子;EGFP、GFPなどのレポーター遺伝子を挙げることができる。また、上記遺伝子は、齧歯類のゲノムに含まれない外来遺伝子、母親由来の遺伝子、父親由来の遺伝子、変異遺伝子、一塩基多型を有する遺伝子及びその断片又は部分の塩基配列などが挙げられる。さらに、これらの核酸配列は、単独で解析してもよいし、二種以上又は三種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
以上の特徴により、本発明の遺伝子型決定方法は、脱落膜の核酸配列を解析することにより、胚に対して非侵襲的に胚の遺伝子型を決定することが可能となる。
【0025】
[雌雄判定方法]
本発明の雌雄判定方法は、採取した脱落膜のY遺伝子に関する核酸配列を解析し、当該遺伝子が検出された場合に雄であると判定し、当該遺伝子が検出されない場合に雌であると判定することを特徴とする齧歯類における胚の雌雄を判定する方法を提供することができる。
本発明の雌雄判定方法における脱落膜の採取方法や核酸配列の解析方法は、[遺伝子型決定方法]の項の説明と重複するため、ここでは説明を省略する。
【0026】
(雌雄判定)
本発明の雌雄判定方法における雌雄の判定は、脱落膜においてY染色体上の遺伝子を解析し、当該遺伝子が検出された場合に雄であると判定し、当該遺伝子が検出されない場合に雌であると判定するものである。なお、胚の雄を判定する場合においては、採取した脱落膜のY遺伝子に関する核酸配列を解析し、当該遺伝子が検出された場合に雄であると判定することができる。
【0027】
Y染色体上の遺伝子の具体例としては、例えば、Sry遺伝子、Smcy遺伝子、Ddx3y遺伝子、Zfy1遺伝子などが挙げられる。また、これらの核酸配列は、単独で解析してもよいし、二種以上又は三種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
以上の特徴により、本発明の雌雄判定方法は、脱落膜のY遺伝子に関する核酸配列を解析することにより、胚に対して非侵襲的に胚の雌雄を判定することが可能となる。
【実施例0029】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【0030】
[実施例1]
(マウスの飼育)
成体のC57BL/6-Tg(CAG-EGFP)遺伝子改変マウス(日本エスエルシー社)及びC57BL/6N系統マウス(日本エスエルシー社)は、飼育繁殖用一般飼料(CE-2、日本クレア社)及び水を自由摂取できる環境で購入後1週間以上飼育室へ順化させたのちに実験に用いた。飼育環境は、12時間ごとの明暗周期、1時間あたり10回の換気、室温21℃~29℃に管理した。
【0031】
(交配)
交配は、雄マウスを飼育している飼育室に雌マウスを移すことにより行った。翌日雌マウスの膣栓が確認できた場合に妊娠が達成したとし、膣栓を確認した日の正午を妊娠0.5日目とした。
【0032】
(脱落膜の採取)
妊娠した雌マウスは、受精後7.5日齢、8.0日齢、8.25日齢、8.5日齢、9.5日齢、10.5日齢にて頸椎脱臼した後に子宮を摘出した。摘出した子宮から着床部位を単離し、顕微鏡下で着床部位を脱落膜と胚に分離した。なお、受精後7.5日齢以降、脱落膜は胚と接していた。
【0033】
(測定試料の作製)
分離した脱落膜と胚は、それぞれMonarch Genomic DNA Purification Kit(ニュー・イングランド・バイオラボ・ジャパン社)を用い、説明書に従ってゲノムDNAを抽出した。
【0034】
抽出したDNAは、DNAポリメラーゼ(BIOTAQ、Meridian Bioscience)を用い、説明書に従ってPCR反応液を表1のとおり調整した。
【0035】
【0036】
PCR反応は、BIOTAQの説明書に従い、PCR反応液を94℃で3分加熱処理した後、94℃で30秒加熱処理、58~62℃で30秒加熱処理及び72℃で20秒加熱処理を1サイクルとして35サイクル、その後72℃にて1分の加熱処理により行い、PCR産物を得た。
【0037】
PCR反応液の増幅処理で用いたプライマーは、表2に示す。
【0038】
【0039】
(測定)
PCR産物は、1.5%アガロースゲル(Invitrogen)にて電気泳動後、紫外線照射によりバンドを可視化した。
【0040】
(結果1:Sry遺伝子)
図1は、成体のC57BL/6N系統マウスを交配して妊娠した雌マウスにおける、Y染色体上の遺伝子であるSry遺伝子の胚と脱落膜における経時的な検出を示すアガロースゲルの電気泳動画像である。上段が胚(E)におけるSry遺伝子、下段が脱落膜(D)におけるSry遺伝子を示す。
図1Aの受精後受精後7.5日齢の胚でSry遺伝子を検出できたレーン3、4における脱落膜や、
図1Bの受精後8.0日齢の胚でSry遺伝子を検出できたレーン3における脱落膜、
図1Cの受精後8.25日齢の胚でSry遺伝子を検出できたレーン4における脱落膜ではSry遺伝子が検出できなかった。したがって、胚と脱落膜とで完全には一致しなかった。一方、
図1Dの受精後8.5日齢の胚でSry遺伝子を検出できたレーン2、4、10、11における脱落膜、
図1Eの受精後9.5日齢の胚でSry遺伝子を検出できたレーン2、3、
図1Fの受精後10.5日齢の胚でSry遺伝子を検出できたレーン2、4、5における脱落膜ではすべてSry遺伝子が検出できた。また、
図1Dの受精後8.5日齢の胚でSry遺伝子を検出できなかったレーン1、3、5-9、12における脱落膜、
図1Eの受精後9.5日齢の胚でSry遺伝子を検出できなかったレーン1、
図1Fの受精後10.5日齢の胚でSry遺伝子を検出できなかったレーン1、3における脱落膜ではすべてSry遺伝子が検出できなかった。なお、胚と脱落膜におけるアクチン遺伝子は同等であった。したがって、受精後8.5日齢、9.5日齢、10.5日齢であれば胚と脱落膜とのの遺伝子検出結果が完全に一致することが確認された。よって、8.5日齢~10.5日齢の採取した脱落膜の核酸配列を解析することで、齧歯類における胚の遺伝子型の雄雌の判定が可能であることが明らかとなった。なお、胚に接した脱落膜の遺伝子を解析して、受精後8.0日齢、8.25日齢であっても、一部はSyr遺伝子を検出できたことから、8.0日齢~8.25日齢の採取した脱落膜の核酸配列を解析し、Syr遺伝子を検出できた場合には、胚の遺伝子型として雄であると判定することが可能であることが明らかとなった。
【0041】
(結果2:EGFP遺伝子)
図2は、雄のC57BL/6-Tg(CAG-EGFP)遺伝子改変マウスとC57BL/6N系統マウスを交配して妊娠した雌マウスで発現する改変遺伝子であるEGFP遺伝子の胚と脱落膜における経時的な検出を示すアガロースゲルの電気泳動画像である。上段が胚におけるEGFP遺伝子、下段が脱落膜におけるEGFP遺伝子を示す。
図2Aの受精後7.5日齢の胚でEGFPを検出できたレーン4、5、
図2Bの受精後8.0日齢の胚でEGFP遺伝子を検出できたレーン1、2、
図2Cの受精後8.25日齢の胚でEGFPを検出できたレーン4、6における脱落膜ではEGFP遺伝子が検出できなかった。一方、
図2D~
図Fの受精後8.5日齢以降の胚でEGFP遺伝子を検出できた各レーンにおける脱落膜ではすべてEGFP遺伝子が検出できた。また、受精後8.5日齢以降の胚でEGFP遺伝子を検出できなかったレーンにおける脱落膜ではEGFP遺伝子が検出されなかった。なお、胚と脱落膜におけるアクチン遺伝子は同等であった。
【0042】
以上の結果1、2で示したとおり、8.5日齢以降であれば胚と胚に接する脱落膜の遺伝子型が一致していたことから、8.5日齢以降の胚に接した脱落膜の遺伝子を解析することにより胚の遺伝子型、特に導入した外来遺伝子の有無を決定できることが明らかとなった。なお、胚に接した脱落膜の遺伝子を解析して、受精後8.0日齢、8.25日齢であっても、一部はEGFP遺伝子を検出できたことから、8.0日齢~8.25日齢の採取した脱落膜の核酸配列を解析し、導入した外来遺伝子を検出できた場合には、胚の遺伝子型として、導入した外来遺伝子が有ると決定することが可能であることが明らかとなった。
本発明によって、齧歯類における胚に対して非侵襲的な遺伝子型決定方法及び胚の雌雄判定方法を提供することができる。これにより、本発明は、胚の発育への影響を最小限とし、発育早期に胚の遺伝型を決定することができるだけでなく、妊娠動物の胎児の遺伝子型を提示することで妊娠動物や出産される仔の商品価値を向上させることができる。