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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004096
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】押え装置及びミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 29/02 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
D05B29/02 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103570
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100143960
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 早百合
(72)【発明者】
【氏名】森 弘樹
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150CB26
3B150CE23
3B150EA10
3B150JA20
3B150JA28
(57)【要約】
【課題】従来よりも簡単な構成で、押え足が被縫製物に加える押圧力を変更できる押え装置及びミシンを提供すること。
【解決手段】押え装置9は、第一部材7、第二部材6、第三部材4、変更部材88、付勢部材65、及び案内部67を備える。第一部材7は、装着部73を有し、押え棒に装着された状態で押え棒と共に上下方向に移動する。第二部材6は、押え足5を支持する。第三部材4は、装着状態において、押え棒の長手方向における第一部材7と第二部材6との間に、長手方向に移動できる。変更部材88は、第三部材4と当接し、第一部材7と、第三部材4との間隔を変更できる。付勢部材65は、第二部材6と第三部材4とが離れる方向に、押え棒による押圧力よりも小さい付勢力で第二部材6と第三部材4とを付勢する。案内部67は、第一部材7に対する第二部材6及び第三部材4の移動を案内する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンの押え棒に装着される装着部を有し、前記押え棒に装着された装着状態で、下方に付勢された前記押え棒と共に上下方向に移動する第一部材と、
前記ミシンのベッド部に載置された被縫製物を前記下方に押圧する押え足を支持する第二部材と、
前記装着状態において、前記押え棒の長手方向における前記第一部材と前記第二部材との間に、前記長手方向に移動可能に設けられた第三部材と、
前記第一部材と前記第三部材との少なくとも一方に当接し、前記第一部材と、前記第三部材との間隔を変更可能に構成された変更部材と、
前記第二部材と前記第三部材とが離れる方向に、前記押え棒による押圧力よりも小さい付勢力で前記第二部材と前記第三部材とを付勢する付勢部材と、
前記第一部材に対する前記第二部材及び前記第三部材の移動を案内する案内部と
を備えることを特徴とする押え装置。
【請求項2】
前記装着状態において、前記ミシンの針棒が前記上下方向に一往復する間に、前記ミシンの前記押え棒と連結された押え棒抱きが前記ミシンの他の部材に当接して、前記他の部材により前記押え棒の移動範囲の下端が規定される前記上下方向の位置に前記第三部材の位置が前記変更部材により変更された場合、前記第二部材は、前記ミシンの前記針棒が前記上下方向に一往復する間に、前記第一部材に対し、
前記押え棒からの前記押圧力を前記押え足に伝達する第一位置と、
前記押圧力を前記押え足に伝達しない第二位置との間を移動することを特徴とする請求項1に記載の押え装置。
【請求項3】
前記案内部は前記第二部材に固定された軸状又は筒状であり、
前記第一部材は、前記案内部を挿通することで、前記第二部材の前記上下方向に交差する方向の移動を制限する第一挿通部を備え、
前記第三部材は、前記案内部を挿通することで、前記第二部材の前記上下方向に交差する方向の移動を制限する第さ二挿通部を備え、
前記付勢部材は、前記案内部に外挿又は内挿されるコイルバネであり、前記変更部材により、前記第三部材と、前記第一部材との間の前記間隔が変更されることで、前記コイルバネの収縮状態が変更されることを特徴とする請求項2に記載の押え装置。
【請求項4】
前記装着状態における前記長手方向に垂直な方向のうちの、前記装着部に対して前記案内部がある側とは反対側において前記第二部材に固定され、前記第一部材に対して、前記第二部材が前記案内部を中心に回動することを制限する規制部を更に備え、
前記第一部材には、前記規制部を挿通する第三挿通部が形成されており、
前記変更部材は、前記規制部よりも、前記案内部の近くに設けられることを特徴とする請求項3に記載の押え装置。
【請求項5】
前記変更部材は、前記第一部材と、前記第三部材との間の前記間隔を多段階に変更可能なカムであり、
前記付勢部材は、前記間隔に応じて圧縮量が変更されるバネであることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の押え装置。
【請求項6】
前記変更部材は、前記第一部材に支持される回転軸を中心に回動可能な、前記第一部材と、前記第三部材との間の前記間隔を多段階に変更可能なカムを有することを特徴とする請求項1に記載の押え装置。
【請求項7】
前記装着状態において前記長手方向と直交する方向に延びる前記回転軸の一端部に取り付けられ、前記カムを回転させるダイヤルであって、前記カムの半径よりも大きい半径を有する前記ダイヤルを更に備えることを特徴とする請求項6に記載の押え装置。
【請求項8】
前記装着状態において、前記ミシンによる前記被縫製物の搬送方向を後方とした場合に、 前記回転軸は左右方向に延び、前記ダイヤルは前記回転軸の右端部に設けられることを特徴とする請求項7に記載の押え装置。
【請求項9】
ミシンモータと、
下端に縫針を装着可能であり、前記ミシンモータの駆動に応じて前記上下方向に移動する針棒と、
前記縫針を挿通する針穴が形成された針板と、
前記針板に形成された開口部から出没し、前記針板に載置した被縫製物を送る送り歯と、
前記ミシンモータの駆動に応じて前記送り歯を駆動する送り機構と、
前記送り歯の駆動に同期して、前記上下方向に移動する押え棒と、
前記押え棒の下端部に装着される、請求項1から4の何れかの押え装置と
を備えることを特徴とするミシン。
【請求項10】
前記押え棒の前記上下方向の位置を手動で切り替えるレバーと、
前記押え棒を前記下方に付勢する押えバネと、
前記押え棒に固定され、前記押えバネの下端位置を規定する押え棒抱きと
を更に備え、
前記縫針の前記下端が前記針板の前記下方にある時、前記押え棒抱きは、前記レバーと当接して、前記押えバネの付勢力を前記第二部材に伝達せず、前記縫針の前記下端が前記針板の上方にある所定時、前記押え棒抱きは、前記レバーと離隔して、前記押えバネの前記付勢力を前記第二部材に伝達することを特徴とする請求項9に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押え装置及びミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンの押え装置は、連結部材、移動部材、及び弾性部材を備える(例えば、特許文献1参照)。連結部材は、ミシン主軸に連結され、揺動する。移動部材は、連結部材の揺動に伴い上下動する。弾性部材は、移動部材と押え棒との間に配置され、移動部材の移動により押え棒に付与する弾性力を変化させる。押え装置は、送り歯が針板より下面に位置する時よりも、送り歯が針板より上昇している時に、弾性部材の付勢力が大きくなるように、移動部材を移動させることで、ミシン主軸に連動して、押え棒の下端に設けた押え足に加える付勢力を変化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-187288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のミシンの押え装置では、押え足が被縫製物に加える押圧力を変更するための構成が複雑である。
【0005】
本発明の目的は、従来よりも簡単な構成で、押え足が被縫製物に加える押圧力を変更できる押え装置及びミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一態様に係る押え装置は、ミシンの押え棒に装着される装着部を有し、前記押え棒に装着された装着状態で、下方に付勢された前記押え棒と共に上下方向に移動する第一部材と、前記ミシンのベッド部に載置された被縫製物を前記下方に押圧する押え足を支持する第二部材と、前記装着状態において、前記押え棒の長手方向における前記第一部材と前記第二部材との間に、前記長手方向に移動可能に設けられた第三部材と、前記第一部材と前記第三部材との少なくとも一方に当接し、前記第一部材と、前記第三部材との間隔を変更可能に構成された変更部材と、前記第二部材と前記第三部材とが離れる方向に、前記押え棒による押圧力よりも小さい付勢力で前記第二部材と前記第三部材とを付勢する付勢部材と、前記第一部材に対する前記第二部材及び前記第三部材の移動を案内する案内部とを備える。第一態様の押え装置は、押え棒の上下方向の位置に応じて、第一部材に対する第二部材の位置を変更できる。押え装置は、ミシンにリンク機構等の連結部材といった複雑な機構を要せず、従来のよりも簡単な構成で、押え足が被縫製物に加える押圧力を変更できる。押え装置は、変更部材を有するので、押え装置をミシンの押え棒に装着後に、第一部材と第三部材との間隔を容易に変更できる。
【0007】
本発明の第二態様に係るミシンは、ミシンモータと、下端に縫針を装着可能であり、前記ミシンモータの駆動に応じて前記上下方向に移動する針棒と、前記縫針を挿通する針穴が形成された針板と、前記針板に形成された開口部から出没し、前記針板に載置した被縫製物を送る送り歯と、前記ミシンモータの駆動に応じて前記送り歯を駆動する送り機構と、前記送り歯の駆動に同期して、前記上下方向に移動する押え棒と、前記押え棒の下端部に装着される、第一態様の押え装置とを備える。ミシンは、第一態様の押え装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】押え装置9が装着されたミシン1の斜視図である。
図2】押え棒8の下端部に押え装置9が装着された針棒機構30及び釜機構20の正面図である。
図3】押え足5を装着した押え装置9の斜視図である。
図4】押え足5及び押え装置9の分解斜視図である。
図5】変更部材88の第一部分96が第三部材4の当接部46に当接した状態F1における押え足5及び押え装置9の断面図、変更部材88の第二部分97が第三部材4の当接部46に当接した状態F2における押え足5及び押え装置9の断面図、変更部材88の第三部分98が第三部材4の当接部46に当接した状態F3における押え足5及び押え装置9の断面図、及び変更部材88の第四部分99が第三部材4の当接部46に当接した状態F4における押え足5及び押え装置9の断面図である。
図6】(A)は、縫針35の下端が針板3よりも上方にあり、送り歯19の上端が、針板3の上面よりも下方に退避した状態の、変更部材88の第三部分98が第三部材4の当接部46に当接した押え装置9、針棒機構30及び釜機構20の正面図であり、(B)は、縫針35の下端が針板3よりも上方にあり、送り歯19の上端が、針板3の上面よりも上方に突出した状態の、変更部材88の第三部分98が第三部材4の当接部46に当接した押え装置9、針棒機構30及び釜機構20の正面図である。
図7】(A)は、縫針35の下端が針板3よりも上方にあり、送り歯19の上端が、針板3の上面よりも下方に退避した状態の、変更部材88の第三部分98が第三部材4の当接部46に当接した押え装置9、針棒機構30及び釜機構20の右側面図であり、(B)は、縫針35の下端が針板3よりも上方にあり、送り歯19の上端が、針板3の上面よりも上方に突出した状態の、変更部材88の第三部分98が第三部材4の当接部46に当接した押え装置9、針棒機構30及び釜機構20の右側面図である。
図8】ミシンモータ2の回転角度に応じた、針棒31の上下位置と、送り歯19の上下位置と、押え棒抱き82の上下位置と、押え足5が被縫製物Cに加える押圧力と、第二部材6と第三部材4との上下方向の間隔との説明図である。
図9】(A)は、変更部材88の第三部分98が第三部材4の当接部46に当接し、第二部材6が第一部材7に対し第二位置に配置され、押えバネ81から付勢力が押え足5に伝達されない状態の断面図であり、(B)は、変更部材88の第三部分98が第三部材4の当接部46に当接し、第二部材6が第一部材7に対し第一位置に配置され、押えバネ81から付勢力が押え足5に伝達される状態の断面図である。
図10】押え足5を装着した変形例の押え装置109の斜視図である。
図11】(A)は、針板3と押え足5の間に被縫製物Cを配置せずに、送り歯19の上端が針板3よりも上方にある条件の、ロック前の押え装置109の右側面図であり、(B)は、針板3と押え足5の間に被縫製物Cを配置せずに、送り歯19の上端が針板3よりも上方にある条件の、ロック後の押え装置109の右側面図である。
図12】押え足5を装着した押え装置209の斜視図である。
図13】押え足5及び押え装置209の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1及び図2を参照して、押え装置9が装着されたミシン1の物理的構成を説明する。本実施形態の押え装置9は曲線縫いを可能にする押え装置であって、通常縫いを容易に切り替え可能な押え装置である。図1の上下方向、右下方、左上方、左下方、右上方が、各々、押え装置9が装着されたミシン1の上下方向、右方、左方、前方、及び後方である。ベッド部11及びアーム部13の長手方向がミシン1の左右方向である。脚柱部12が配置されている側が右側である。脚柱部12の伸長方向がミシン1の上下方向である。
【0010】
図1及び図2に示すように、ミシン1は、ベッド部11、脚柱部12、アーム部13、及び頭部14を備える。ベッド部11は、左右方向に延びるミシン1の土台部であり上面に針板3を備える。ベッド部11は針板3の下方に、釜機構20、送り歯19、送り機構23、及び送り歯ドロップ機構24を備える。釜機構20は、下軸21及び水平釜22を備える。水平釜22は、下軸21の回動に応じて回動し、針板3の下方において上糸(図示略)を下糸(図示略)に絡ませる。針板3は水平に延びる板状であり、縫針35を挿通する針穴25と、前後方向に延びる開口部26とが形成される。送り歯19は、針板3に形成された開口部26から出没し、針板3に載置した被縫製物C(図7(A)、図7(B)参照)を送る。送り機構23は、ミシンモータ2の駆動に応じて、送り歯19を駆動することで被縫製物Cを後方又は前方に搬送する。送り歯ドロップ機構24は、ミシンモータ2の駆動とは独立して、送り歯19のみを針板3の下方に移動させるよう構成されている。ユーザはタッチスクリーン16を操作して、送り歯ドロップ機構24により送り歯19を所定位置に移動する指示を入力し、ミシン1は指示に基づき送り歯ドロップ機構24の動力を制御して送り歯ドロップ機構24により、ミシンモータ2の駆動とは独立して、送り歯19の位置を変更できる。脚柱部12は、ベッド部11の右端部から上方へ立設される。脚柱部12の上部内部には、ミシンモータ2が設けられる。脚柱部12の前面には、LCD15が設けられる。LCD15の前面にはタッチスクリーン16が設けられる。脚柱部12の右面には、プーリ28が設けられている。
【0011】
アーム部13は、ベッド部11に対向して脚柱部12の上端から左方へ延びる。頭部14は、アーム部13の左先端部に連結する部位である。頭部14には、針棒31、針棒機構30、糸通し機構37、及び押え棒8等が設けられる。針棒31の下端には、針抱き36が固定されている。針抱き36は、縫針35を取り外し可能に固定する。針棒31は、針抱き36を介して、下端に縫針35を装着可能である。針棒機構30は、ミシンモータ2、主軸27、リンク機構33、及び針棒抱き32を備える。主軸27は、ミシンモータ2の駆動に応じて回転し、ミシンモータ2の動力を、図2に示すリンク機構33及び針棒抱き32を介して針棒31に伝達する。針棒抱き32は、針棒31に固定される。針棒機構30は、ミシンモータ2の駆動に応じて針棒31を上下方向に移動する。主軸27は、ユーザによりプーリ28が回動された場合にも回動する。糸通し機構37は、上糸を縫針35の目孔(図示略)に通すよう構成されている。
【0012】
図2に示すように、押え棒8は、針棒31の後方において上下方向に延び、ミシンモータ2、より詳細には送り歯19の駆動に同期して、上下方向に移動する。押え棒8には、押えバネ81、押え棒抱き82、及びレバー90が設けられる。押えバネ81は、押え棒8を下方に付勢する。押えバネ81は、押え棒8に外挿されたコイルバネである。押え棒抱き82は、押え棒8に固定され、押えバネ81の下端と接触して押えバネ81の下端位置を規定する。
【0013】
レバー90は、押え棒8の上下方向の位置を手動で切り替える。レバー90は、軸部91、凸部92、93、当接部95、及び操作部94を備える。軸部91は、頭部14の内部に設けられる。凸部92、93は、軸部91の近傍において、軸部91から離れる側に突出した部分である。当接部95は凸部92の左方、且つ、軸部91の周囲に設けられた、軸部91から離れる側に突出する凸部である。
【0014】
操作部94は、軸部91から最も離れた部位である。ユーザは、操作部94を指等の操作体で操作することで、レバー90を、軸部91を中心に平面視時計回り又は反時計回りに回動し、押え棒8を上昇位置と、下降位置とに切り替えることができる。図2は、操作部94が軸部91に対し下方に配置され、押え棒8が下降位置にある状態を示す。押え棒8が下降位置にある時、当接部95は軸部91の上方に位置する。図2の状態から操作部94が正面視反時計回りに回動され、軸部91に対し操作部94が右下方に配置された場合、レバー90の凸部92は押え棒抱き82の下面83に当接して、押え棒8を上昇位置に移動させる。押え棒8が上昇位置にある時、レバー90は、凸部92と凸部93の間で、押え棒抱き82の下面83と当接する。ユーザは、押え棒8を上昇位置に配置した状態で、被縫製物Cを配置する作業、又は回収する作業を行う。
【0015】
ミシン1は、押え棒8の下端に押え装置9又は従来の押え装置を取り外し可能に装着できる。押え棒8に従来の押え装置が装着され、押え棒8が下降位置にある場合、押え足5は針板3に載置された被縫製物Cと接触し、被縫製物Cを下方に押圧する。従来の押え装置が押え棒8に装着された場合、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間に、ミシン1の押え棒8と連結された押え棒抱き82がミシン1のレバー90と当接することはない。つまり、従来の押え装置が押え棒8に装着され、押え棒8が下降位置に配置された場合、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間、押え棒抱き82はレバー90と離隔し、押え足5には、常に押えバネ81からの付勢力が伝達される。一方、本実施形態の押え装置9が押え棒8に装着され、押え棒8が下降位置に配置された場合、押え装置9は、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間、押え足5に常に押えバネ81からの付勢力が伝達されるか否かを切り替えることができる。
【0016】
図3及び図4に示すように、押え足5は、平面視前後方向に長い矩形板状である。押え足5の前端部と後端部とは各々上方に湾曲している。押え足5の前部には、切欠き部59が形成される。押え足5の後部には、切欠き部56が形成される。切欠き部59は、押え足5の左右方向の中心Mにおいて、押え足5の前端から後方に向かって平面視R字状に形成される。押え足5を支持する押え装置9が押え棒8の下端に装着され、ミシン1が駆動された場合、切欠き部59の後端部には、縫針35が挿通される。切欠き部56は、押え足5の左右方向の中心Mにおいて、押え足5の後端から前方に向かって平面視矩形状に形成される。押え足5は一対の軸支持部51、及び左右方向に延びる軸53を備える。一対の軸支持部51は、切欠き部59の後方、且つ切欠き部56の前方において、押え足5の上面から上方に突出する部分である。一対の軸支持部51は、互いに左右方向に離隔して、前後方向に延びる。一対の軸支持部51には各々左右方向に貫通する孔52が形成され、軸53は孔52に挿通された状態で、一対の軸支持部51によって保持される。
【0017】
図3及び図4に示すように、押え装置9は、第一部材7、第二部材6、第三部材4、変更部材88、付勢部材65、及び案内部67を備える。第一部材7は、ミシン1の押え棒8に装着される装着部73を有し、押え棒8に装着された装着状態で、下方に付勢された押え棒8と共に上下方向に移動する。第一部材7は、本体部75、前部71を備える。本体部75は、本体部75の右面から左方に凹む装着部73が形成された平面視C状の部分である。本体部75の左面には、左右方向に貫通し、装着部73と連通する丸孔74が形成されている。丸孔74は側面視円状である。本体部75は、装着部73の後方に上下方向に貫通する挿通部76が形成されている。前部71は、本体部75の前面下部から前方に突出した部分である。前部71には、上下方向に貫通する挿通部72が形成される。挿通部72は、平面視円状である。本体部75の後下部には、前上方に凹む支持部70が設けられる。支持部70の左壁部701の後部及び右壁部702の後部の各々には、左右方向に貫通する挿通部77が形成される。各挿通部77には、後述の回転軸87が挿通される。
【0018】
第二部材6は、ミシン1のベッド部11に載置された被縫製物Cを下方に押圧する押え足5を支持する。第二部材6は、平面視矩形板状である。第二部材6は、本体部63、凹部69、案内部67、当接部66、規制部62、及び前部60を備える。本体部63は前後方向に長い水平に延びる板状である。第二部材6の本体部63の上下方向の長さは、第一部材7の上下方向の長さよりも短い。凹部69は、本体部63の前後方向の中心部において、下方に凹んだ部分である。
【0019】
案内部67は、第一部材7に対する第二部材6の移動を案内する。案内部67は、第二部材6に固定された軸状である。案内部67は、凹部69の後方において、本体部63の上面から上方に円柱状に突出する。案内部67の上下方向の長さは、第一部材7の本体部75の上下方向の長さよりも長い。案内部67は、付勢部材65が外挿された状態で、後述の第三部材4の挿通部45に挿通される。案内部67は、更に、挿通部45が形成された本体部44よりも上方において、第一部材7の挿通部76に挿通される。案内部67は、第一部材7と第三部材4との各々を上下方向に貫通し、案内部67の上端には止め輪78が装着される。止め輪78は、第二部材6に対する第一部材7の上下方向の移動範囲を規定する。第一部材7の挿通部76は、案内部67を挿通することで、第二部材6に対する第一部材7の水平方向の移動を制限する。第三部材4の挿通部45は、案内部67を挿通することで、第二部材6に対する第三部材4の水平方向の移動を制限する。当接部66は、凹部69の後方において、案内部67を囲う平面視リング状に設けられた、本体部63の上面から上方に円柱状に突出する凸部である。
【0020】
付勢部材65は、コイルバネである。図5に示すように、付勢部材65の上端は、挿通部76に設けられた当接部761に当接し、付勢部材65の下端は第二部材6の当接部66に当接する。付勢部材65は、第一部材7がミシン1の押え棒8に装着された状態において、第二部材6と第三部材4とが離れる方向に、押え棒8による押圧力、つまり、押えバネ81の付勢力よりも小さい付勢力で第二部材6と第三部材4とを付勢する。
【0021】
規制部62は、凹部69の前方、且つ、前部60の後方において、本体部63の上面から上方に円柱状に突出する。規制部62は、案内部67と平行に延びる。規制部62の上下方向の長さは、案内部67の上下方向の長さよりも短い。規制部62は、後述の第三部材4の挿通部42と、第一部材7の挿通部72との各々に挿通される。規制部62は、第一部材7と第三部材4との各々を上下方向に貫通し、規制部62の上端には止め輪79が装着される。止め輪79は、第二部材6に対する第一部材7の上下方向の移動範囲を規定する。規制部62と案内部67とは、第一部材7がミシン1の押え棒8に装着された場合に、押え棒8の長手方向に交差する前後方向において、装着部73を間にして、配置される。規制部62と案内部67とは、何れも第二部材6に固定される。
【0022】
前部60は、本体部63の前面から前方に突出した部分である。前部60は、左右方向に貫通する孔61が形成される。第二部材6に押え足5が装着される場合、第二部材6は、左右方向において、押え足5の一対の軸支持部51の間に配置され、孔61には軸53が挿通される。押え足5は、第二部材6によって、軸53周りに揺動可能に支持される。
【0023】
第三部材4は、上下方向において、第一部材7と、第二部材6との間に配置される。第三部材4は、本体部44と、前板部47とを備える。本体部44は右側面視逆L字状である。本体部44の前部には前後方向に貫通する挿通部45が形成される。挿通部45は、平面視円状である。本体部44の上面のうちの、挿通部45の後方の部分は、変更部材88と当接する当接部46である。
【0024】
前板部47は、本体部44の前下端部から前方に延びる板状である。前板部47には、上下方向に貫通する挿通部42、43が形成される。挿通部42は、前板部47の前部に形成された平面視円状の孔であり、規制部62を挿通する。挿通部43は、挿通部42と本体部44との間に形成された、平面視右方に凸の半円状の孔である。挿通部43には、押え棒8が挿通される。第三部材4が第二部材6の上方に配置された状態で、平面視挿通部43の孔の下方に、第二部材6の凹部69の一部が配置される。
【0025】
変更部材88は、第三部材4の当接部46と当接し、第一部材7と、第三部材4との間隔を変更可能に構成される。変更部材88は、左右方向に貫通する、側面視楕円状の挿通部89が形成されている。回転軸87は、右壁部702の挿通部77、挿通部89、及び左壁部701の挿通部77の各々に挿通され、案内部67を挿通する挿通部76よりも後方において、第一部材7の支持部70に支持される。回転軸87の左端部には止め輪80が装着される。左右方向において、変更部材88は、支持部70の左壁部701と、右壁部702との間に配置される。変更部材88は、規制部62よりも、案内部67の近くに設けられる。つまり、前後方向において、変更部材88と規制部62との間の距離は、変更部材88と案内部67との間の距離よりも長い。押え装置9が押え棒8の下端部に装着された状態において、案内部67と、変更部材88とは、押え棒8に対し同じ側、つまり、案内部67と、変更部材88とは何れも、押え棒8に対し後方に設けられる。一方、規制部62、変更部材88とは、押え棒8に対し互いに異なる側、つまり、規制部62は押え棒8に対し前方に設けられ、変更部材88は押え棒8に対し後方に設けられる。変更部材88は、変更部材88と当接部46との当接位置と、挿通部89に挿通される回転軸87の軸心とを結ぶ直線が当接部46に対して直角であり、押え棒8に平行である。このため、変更部材88は、押えバネ81からの力を受けても意図しない回転をしない。
【0026】
本実施形態の変更部材88は、第一部材7に支持される回転軸87を中心に回動可能な、第一部材7と、第三部材4との間隔を多段階に変更可能なカムである。変更部材88は、部分96から99を備える。部分96から99は各々、回転軸87の回転中心と平行な曲面を有する。部分96から99は各々、回転軸87の回転中心からの距離が互いに異なる。回転軸87の回転中心からの距離は、部分96から99の順に長い。付勢部材65は、第二部材6の当接部66と第三部材4の当接部761との上下方向の間隔に応じて圧縮量が変更される。回転軸87の一端部には、カムを回転させるダイヤル86が設けられる。ダイヤル86は、押え装置9が押え棒8に装着された装着状態において、回転軸87の右端部に取り付けられる。ダイヤル86の半径R1は、変更部材88の最大半径R2よりも大きい。回転軸87の回転中心に平行な方向から見た場合に、ダイヤル86の輪郭の内側に、変更部材88が収まる。ダイヤル86には、第三部材4の当接部46に当接する部分を示すメモリ等が設けられてもよい。回転軸87と、ダイヤル86とを軸部85とも言う。
【0027】
第一部材7に対する第三部材4の上下方向の位置は、第三部材4の当接部46に当接する変更部材88の部分に応じて状態F1からF4のように互いに異なる。押えバネ81からの付勢力が押え足5に伝達される伝達時には、第三部材4は第二部材6と上下方向に当接する。換言すると、状態F1からF4に示される伝達時は、ミシン1の送り歯19の上端が針板3よりも上方に上昇している状態である。具体的には、状態F1に示すように、変更部材88の部分96が当接部46と当接している時の伝達時には、第一部材7の前部71と、第三部材4の前板部47との上下方向の間隔量は状態F1からF4の中で最も大きい。また、第一部材7の本体部75は、止め輪78に当接し、第一部材7の前部71は、止め輪79に当接することが好ましいが、少なくとも本体部75と止め輪78、又は、前部71と止め輪79の何れかの上下方向の離隔量がゼロに近くなるように組付けられている。つまり、状態F1では、送り歯19の上昇/下降にかかわらず、第二部材6と第三部材4とが常に上下方向に接触しており、押えバネ81からの付勢力が押え足5に伝達される。これにより、押え装置9は、従来の押え装置と同様に布の回転運動を抑制する。状態F2に示すように、変更部材88の部分97が当接部46と当接している時の伝達時には、第一部材7の前部71と、第三部材4の前板部47との上下方向の間隔量は状態F1からF4の中で二番目に大きい。状態F3に示すように、変更部材88の部分98が当接部46と当接している時の伝達時には、第一部材7の前部71と、第三部材4の前板部47との上下方向の間隔量は状態F1からF4の中で三番目に大きい。第一部材7の本体部75は、止め輪78と上下方向に離隔し、第一部材7の前部71は、止め輪79と上下方向に離隔する。状態F4に示すように、変更部材88の部分99が当接部46と当接している時の伝達時には、第一部材7の前部71と、第三部材4の前板部47との上下方向の間隔量は状態F1からF4の中で四番目に大きい。第一部材7の前部71と、第三部材4の前板部47とは上下方向に僅かに離隔する。第一部材7の前部71と、第三部材4の前板部47とは上下方向に当接してもよい。状態F2からF4では、第一部材7の本体部75は、止め輪78と上下方向に離隔し、第一部材7の前部71は、止め輪79と上下方向に離隔する。状態F1からF4のうち、第一部材7の本体部75は、止め輪78との上下方向の間隔量は、状態F4が最も大きく、第一部材7の前部71と、止め輪79との上下方向の間隔量は、状態F4が最も大きい。
【0028】
ユーザは、従来の押え装置と同様に、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間、押え足5に常に押えバネ81からの付勢力を伝達させる場合、状態F1に示すように、変更部材88の部分96を当接部46と当接させる。ユーザは、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間の内の、送り歯19の上端が針板3よりも上方にある所定期間のみに、押え足5に押えバネ81からの付勢力を伝達させ、所定期間以外は、押え足5に押えバネ81からの付勢力を伝達させず、付勢部材65の付勢力を押え足5に伝達させる場合は、被縫製物Cの厚さに応じて、状態F2からF4に示すように、変更部材88の部分97から99の何れかを当接部46と当接させる。本実施形態の変更部材88の部分97は、厚みが1mm以下の被縫製物Cに適している。変更部材88の部分98は、厚みが1mm以上、2mm以下の被縫製物Cに適している。変更部材88の部分99は、厚みが2mm以上、3mm以下の被縫製物Cに適している。変更部材88により変更される第一部材7に対する第三部材4の上下方向の変更量は、適宜変更されてよい。
【0029】
押え装置9が押え棒8の下端部に装着された状態において、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間に、ミシン1の押え棒8と連結された押え棒抱き82がレバー90に当接して、レバー90により押え棒8の移動範囲の下端が規定される上下方向の位置に第三部材4の位置が変更部材88により被縫製物Cの厚みに応じて変更された場合、第二部材6は、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間に、第一部材7に対し、第一位置と、第二位置とに移動する。第一位置は、押え棒8からの押圧力、つまり押えバネ81の付勢力を押え足5に伝達する位置である。第二位置は、押え棒8からの押圧力を押え足5に伝達しない位置である。具体的には、変更部材88の部分98が当接部46と当接している時において、図9(B)に示すように、第一位置は、第三部材4の前板部47が、第二部材6の前部60と当接する位置である。図9(A)に示すように、第二位置は、第三部材4の前板部47が、第二部材6の前部60から離隔した位置である。変更部材88の部分97又は部分99が当接部46と当接している場合も、第二部材6は、第一部材7に対し、第一位置と第二位置との各々に移動できる。
【0030】
押え装置9の装着方法について説明する。押え装置9の装着方法では、図6(A)及び図7(A)に示すように、ミシン1は、ユーザの指示に応じて、送り歯ドロップ機構24を駆動して、縫針35の下端が針板3の上方に配置した状態で、送り歯19の端が針板3の上面よりも下方に退避させる。ユーザは、押え棒8のネジ孔84(図7参照)にネジ41を締結し、押え棒8の下端に押え装置9の第一部材7を装着する。ユーザは、被縫製物Cの厚みに応じてダイヤル86を操作して、第一部材7に対する第三部材4の上下位置を調整する。
【0031】
押え棒抱き82及び押え棒8の上下位置は、送り歯19の上下位置に応じて変更される。押え装置9は、ダイヤル86を操作することで、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間に、押え棒抱き82の下面83がレバー90の当接部95に当接して、レバー90により押え棒8の移動範囲の下端が規定される上下方向の位置とするか否かを切り替えられる。つまり、上記押え装置9の装着方法に従って装着された押え装置9では、送り歯19の上端の位置に応じて、押え棒抱き82がレバー90の当接部95と当接するか、押え棒抱き82がレバー90の当接部95と離隔するかが切り替えられる位置に設定される。この時、図6(B)、図7(B)、及び図9(B)に示すように、縫針35の下端が針板3の上方にある所定時、第二部材6は第一位置にある。所定時は、送り歯19の上端が針板3よりも上側に配置されることで、押え足5及び押え装置9を介して押え棒8が送り歯19により上側に持ち上げられ、押え棒抱き82がレバー90の当接部95と離隔する期間である。図8に示すように、本例の所定時は、期間P1で示す期間である。第一位置にある第二部材6は、押え棒8からの下方に向かう押圧力を押え足5に伝達する。
【0032】
一方、縫針35の下端が針板3の下方にある時、図9(A)に示すように、第二部材6は第二位置にある。第二位置にある第二部材6は、押え棒8からの押圧力を押え足5に伝達しない。縫針35の下端が針板3の下方にある時、送り歯19の上端は針板3の上面よりも下側に配置されるので、押え棒8が送り歯19により持ち上げられることはない。このため、押え棒8は、押え棒抱き82の下面83がレバー90の当接部95に当接する位置にあり、針棒31の上下位置によらずそれ以上下降しない。この状態では、図8に示すように、押えバネ81の付勢力は、レバー90に付与され、押え装置9を介して押え足5に付与されることはない。
【0033】
図8では、期間P1において押え足5に加えられる押圧力を100として、期間P2において押え足5に加えられる押圧力を表している。ただし、図8の「押え足押圧力」では、送り歯19の上下方向の移動に伴う付勢部材65の変位量による微小な変化量及び押えバネ81の変位量による微小な変化量は無視している。期間P2において押え足5に加えられる押圧力は、期間P1において押え足5に加えられる押圧力に比べ小さい。第二部材6は、押え棒抱き82の下面83がレバー90の当接部95に当接する時の送り歯19の位置から送り歯19の上端が針板3の下方に位置する迄の間、付勢部材65の付勢力により押え足5が被縫製物Cに当接する位置迄下降する。これにより、第三部材4の前板部47が、第二部材6の前部60と上下方向に離隔する。第一部材7がミシン1の押え棒8に装着され、且つ、第二部材6が第二位置にある状態において、第二部材6は、押え足5に付勢部材65による付勢力を伝達する。このように、第一部材7がミシン1の押え棒8に装着され、且つ、第二部材6が押え足5を支持した場合に、押え棒抱き82がレバー90の当接部95と当接している期間P2では、第二部材6は第二位置に配置され、押え棒抱き82がレバー90の当接部95と離隔している期間P1では、第二部材6は第一位置に配置される。つまり、第二部材6の位置は、送り歯19の上端の上下位置に応じて切り替えられる。
【0034】
本例の押え装置9を用いた場合と、従来の押え装置を用いた場合とについて行った、縫製中の被縫製物Cの針板3に対する向きの変更しやすさに関する評価試験結果について説明する。評価試験では、本例の押え装置9を用いて、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間に、押え足5に加わる押圧力が変更される場合と、従来の押え装置を用いた場合との各々について、十六人の評価者に、任意の円及び曲線を縫製してもらい、針棒31に対する被縫製物Cの方向の替えやすさについて五段階で評価してもらった。ミシン1は、ブラザー工業株式会社製CP100Xを用い、縫製速度は、420rpmとした。押えバネ81の押圧力は、約15.7Nとし、付勢部材65の付勢力は、約4.9Nとした。従来の押え装置を用いた場合、縫製途中で、押え棒抱き82がレバー90の当接部95に当接することはなく、押え足5から被縫製物Cに加えられる圧力はほぼ一定であった。押え装置9を用いた場合、縫製途中で、押え棒抱き82がレバー90の当接部95に当接し、図8の期間P2では押え足5から被縫製物Cに加えられる押圧力が期間P1に比べ低減した。
【0035】
従来の押え装置を用いた場合に比較しての押え装置9を用いた場合の、曲線部分の縫製のしやすさを、「良い」を5、「やや良い」を4、「普通」を3、「やや悪い」を2、「悪い」を1とした場合の評価値の平均は4.38であった。以上から、本例の押え装置9は、被縫製物Cが送り歯19により搬送されている時は、従来と同様に被縫製物Cに押えバネ81の押圧力を押え足5に伝達しつつ、縫針35が被縫製物Cに刺さっている期間P2の押え足5に加わる力を従来の押え装置よりも小さくすることで、従来の押え装置よりも、縫製中の被縫製物Cの針板3に対する向きを変更しやすくできることが確認された。
【0036】
図10及び図11を参照して変形例の押え装置109を説明する。図10から図11において、上記実施形態と同様の構成については同じ符号を付与している。図10から図11に示すように、押え装置109は、第一部材170、第二部材160、第三部材140、変更部材150、付勢部材65、案内部167、及び規制部179を備える。
【0037】
第一部材170は、本体部176、及び前部171を備える。本体部176は、本体部176の右面から左方に凹む装着部173が形成された部分である。第一部材170の装着部173には、第一部材170を押え棒8の下端部にネジ41(図7(A)参照)で固定するための孔174が形成される。押え装置109は、上記実施形態の押え装置9と同様の手順で、孔174に挿通されたネジ41により押え棒8の下端部に装着される。孔174は、左右方向に貫通し、装着部173と連通する。本体部176は、装着部173の後方に上下方向に貫通する挿通部177が形成されている。前部171は、本体部176の前面下部から前方に板状に突出した部分である。前部171には、前部171の下面から下方に延びる円柱状の規制部179が固定されている。
【0038】
第二部材160は、上記実施形態と同様の押え足5を支持する。第二部材160は、平面視矩形板状であり、第二部材160は、本体部163、案内部167、前部161を備える。本体部163は前後方向に長い板状である。本体部163の上下方向の長さは、第一部材170の上下方向の長さよりも短い。本体部163の後部は、上下方向に貫通する挿通部168が形成されている。本体部163の前部は、上下方向に貫通する挿通部165が形成されている。凹部164は、本体部163の前後方向の中心右部において、下方に凹んだ部分である。凹部164は、挿通部168よりも前方、且つ挿通部165よりも後方に位置する。
【0039】
案内部167は、上下方向に延びる円柱軸状である。案内部167は、第一部材170に対する第二部材160の移動を案内する。案内部167は、第一部材170の挿通部177と、第二部材160の挿通部168と、第三部材140の挿通部144との各々に挿通される。図11(A)及び図11(B)に示すように、案内部167は、第一部材170の前部171と、第三部材140の前板部142とを上下方向に貫通し、案内部167の上端部には止め輪178が装着される。止め輪178は、第一部材170に対する案内部167の移動範囲を規定する。案内部167の下端部には止め輪169が装着される。止め輪169は、第二部材160に対する案内部167の移動範囲を規定する。平面視において、装着部173に対応する位置には、第三部材140の挿通部143、及び第二部材160の凹部164が配置される。規制部179は、上下方向に延びる円柱軸状である。規制部179は、第一部材170に対して、第二部材160が案内部167を中心に回動することを制限する。規制部179は、第二部材160の挿通部165と、第三部材140の挿通部145との各々に挿通される。
【0040】
第三部材140は、本体部141、及び前板部142を備える。本体部141は、直方体状であり、上下方向に貫通する挿通部145が形成されている。挿通部144には、付勢部材65が外挿された案内部167が挿通される。第三部材140は、第二部材160から離れる方向、つまり上方に向かう付勢力を付勢部材65から受ける。前板部142は、本体部141の前面下部から前方に突出した板状部分である。前板部142には、上下方向に貫通する挿通部143、145が形成されている。挿通部143は、平面視右方に凸の半円状である。挿通部145は、挿通部143の前方に形成された、平面視円状の孔である。挿通部145には、規制部179が挿通される。
【0041】
変更部材150は、第三部材140と当接し、第一部材170と、第三部材140との間隔を変更可能に構成される。変更部材150は、本体部151、レバー152、及びダイヤル155を備える。本体部151は、案内部167に挿通され、案内部167に固定された、平面視矩形板状である。本体部151は、左右方向に延びる回転軸153によりレバー152を回動可能に支持する。レバー152の前端下部には、下方に凸となる半球状の凸部154が設けられる。ダイヤル155は、筒状であり、内周面に雌ネジが形成されている。一方、変更部材150よりも上方となる部分において、案内部167の外周面の一部には、ダイヤル155の雌ネジと噛み合う雄ネジが形成されている。故に、ダイヤル155は、案内部167周りに回転された場合に、ダイヤル155に対する案内部167の上下位置を変更し、これにより、第一部材170に対する本体部151の上下位置を変更する。
【0042】
図11を参照して、ダイヤル155と、本体部151とが上下方向に離隔した条件で、変更部材150により、第一部材170の前部171と第三部材140の前板部142との上下方向の間隔を変更する手順について説明する。ユーザは、レバー152を水平に延びる姿勢で、押え装置109を押え棒8の下端に装着する。ユーザは、縫針35の下端を針板3よりも上方に配置する。この時、送り歯19の上端は針板3よりも上方に位置する。状態F5のように、ユーザは、押え足5と針板3との間に被縫製物Cを配置した後、ダイヤル155を操作して押え足5を被縫製物に接触させる。その後、状態F6のように、ユーザは、レバー152を右側面視時計回りに回転させる。レバー152の回転により、凸部154が、第三部材140の本体部141の上面に当接し、第三部材140と、第二部材160とが、押えバネ82の付勢力に抗して、第一部材170に対し下方に押し下げられる。この状態では、押え棒8からの押圧力が押え足5に伝達されていない期間、第三部材140に対して、第二部材160は下方に移動し、付勢部材65の付勢力が押え足5に伝達される。変形例の押え装置109では、ユーザは、送り歯ドロップ機構24で送り歯19の上端を針板3の上面よりも下方に配置した条件で、ダイヤル155を調整する作業を行ってもよい。この場合は、ユーザは、ダイヤル155を調整後にレバー152を右側面視時計回りに回転させず、レバー152が水平に延びる姿勢のままにする。
【0043】
上記実施形態及び変形例において、ミシン1、ミシンモータ2、針板3、送り歯19、開口部26、送り機構23、押え棒8、ベッド部11、針棒31、縫針35、押えバネ81、及び押え棒抱き82は各々、本発明のミシン、ミシンモータ、針板、送り歯、開口部、送り機構、押え棒、ベッド部、針棒、縫針、押えバネ、及び押え棒抱きの一例である。押え装置9、109は、本発明の押え装置の一例である。付勢部材65、規制部62、及び押え足5は各々、本発明の付勢部材、規制部、及び押え足の一例である。第一部材7、170は各々、本発明の第一部材の一例である。第二部材6、160は本発明の第二部材の一例である。第三部材4、140は各々、本発明の第三部材の一例である。装着部73、173は、本発明の装着部の一例である。案内部67、167は、本発明の案内部の一例である。変更部材88、150は、本発明の変更部材の一例である。回転軸87、及びダイヤル86は各々、本発明の回転軸、及びダイヤルの一例である。挿通部76、177は、本発明の第一挿通部の一例である。挿通部45、144は、本発明の第二挿通部の一例である。挿通部72は、本発明の第三挿通部の一例である。
【0044】
上記実施形態のミシン1は、ミシンモータ2と、針棒31と、針板3と、送り歯19と、送り機構23と、押え棒8と、押え装置9とを備える。針棒31は、下端に縫針35を装着可能であり、ミシンモータ2の駆動に応じて上下方向に移動する。針板3は、縫針35を挿通する針穴が形成される。送り歯19は、針板3に形成された開口部26から出没し、針板3に載置した被縫製物を送る。送り機構23は、ミシンモータ2の駆動に応じて送り歯19を駆動する。押え棒8は、ミシンモータ2の駆動に同期して、上下方向に移動する。押え装置9は、押え棒8の下端部に装着される。押え装置9は、第一部材7、第二部材6、第三部材4、変更部材88、付勢部材65、及び案内部67を備える。第一部材7は、ミシン1の押え棒8に装着される装着部73を有し、押え装置9が押え棒8に装着された状態で、下方に付勢された押え棒8と共に上下方向に移動する。第二部材6は、ミシン1のベッド部11に載置された被縫製物Cを下方に押圧する押え足5を支持する。第三部材4は、押え装置9が押え棒8に装着された装着状態において、押え棒8の長手方向、つまり上下方向における第一部材7と第二部材6との間に、上下方向に移動可能に設けられる。変更部材88は、第三部材4と当接し、第一部材7と、第三部材4との間隔を変更可能に構成される。付勢部材65は、第二部材6と第三部材4とが離れる方向に、押え棒8による押圧力よりも小さい付勢力で第二部材6と第三部材4とを付勢する。案内部67は、第一部材7に対する第二部材6及び第三部材4の移動を案内する。
【0045】
ミシン1の押え装置9は、押え棒8に装着された状態において、押え棒8の上下方向の位置に応じて、第一部材7に対する第二部材6の位置を変更できる。押え装置9は、ミシン1にリンク機構等の連結部材といった複雑な機構を要せず、従来のよりも簡単な構成で、装着状態において、押え足5が被縫製物Cに加える押圧力を変更できる。押え装置9は、変更部材88を有するので、押え装置9をミシン1の押え棒8に装着後に、第一部材7と第三部材4との間隔を容易に変更できる。押えバネ81の付勢力が押え足5に伝達される時、第二部材6は、第三部材4と上下方向に当接する。つまり、第一部材7に対する第三部材4の上下位置は、押えバネ81の付勢力が押え足5に伝達される時の第一部材7に対する第二部材6の上下位置を規定する。押え棒8に対する第一部材7の上下位置は、ネジ41を挿通される丸孔74により規定される。押え装置9は、変更部材88を有するので、押え装置9をミシン1の押え棒8に装着後に、押えバネ81の付勢力が押え足5に伝達される時、第一部材7と第三部材4との間隔、つまり、押え棒8に対する第二部材6、及び第二部材6に支持された押え足5の上下位置を容易に変更できる。
【0046】
押え装置9が押え棒8に装着された状態において、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間に、ミシン1の押え棒8と連結された押え棒抱き82がミシン1のレバー90に当接して、他の部材により押え棒8の移動範囲の下端が規定される上下方向の位置に第三部材4の位置が変更部材88により変更できる。この場合、第二部材6は、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間に、第一部材7に対し、第一位置と、第二位置との間を移動できる。第一位置は、押え棒8からの押圧力を押え足5に伝達する位置である。第二位置は、押え棒8からの押圧力を押え足5に伝達しない位置である。故に押え装置9は、装着状態において、第一部材7に対する第二部材6の位置を変更することで、押え棒8からの下方に向かう押圧力を第二部材6が支持する押え足5に伝達するかを切り替えることができる。押え装置9は、押え装置9を押え棒8の下端部に装着した後に、第一部材7と第三部材4との間隔を変更することで、被縫製物Cの厚さを考慮して、第二位置を設定しやすい。
【0047】
案内部67は第二部材6に固定された軸状である。第一部材7は、案内部67を挿通することで、第二部材6の上下方向に交差する方向の移動を制限する挿通部76を備える。第三部材4は、案内部67を挿通することで、第二部材6の上下方向に交差する方向の移動を制限する挿通部45を備える。付勢部材65は、案内部67に外挿又は内挿されるコイルバネであり、変更部材88により、第三部材4と、第一部材7との間隔が変更されることで、コイルバネの収縮状態が変更される。押え装置9は、案内部67及び付勢部材65の構成を比較的簡単にでき、装着状態において、第一部材7に対し第二部材6及び第三部材4が安定して上下方向に移動できる。
【0048】
押え装置9は、規制部62を備える。規制部62は、押え装置9が押え棒8に装着された状態における、押え棒8の長手方向に垂直な方向のうちの、装着部73に対して案内部67がある側とは反対側において第二部材6に固定される。規制部62は、第一部材7に対して、第二部材6が案内部67を中心に回動することを制限する。第一部材7には、規制部62を挿通する挿通部72が形成されている。変更部材88は、規制部62よりも、案内部67の近くに設けられる。押え装置9の規制部62は、第一部材7に対して第二部材6が案内部67を中心に回動することを抑制できる。変更部材88は、第二部材6と第三部材4とを付勢する付勢部材65の比較的近くに設けられるので、変更部材88が案内部67よりも規制部62の近くに設けられる場合に比べ、変更部材88により第二部材6と第三部材4との間隔を変更する操作が容易である。
【0049】
変更部材88は、第一部材7と、第三部材4との間隔を多段階に変更可能なカムである。付勢部材65は、間隔に応じて圧縮量が変更されるバネである。押え装置9の変更部材88は、第二部材6と第三部材4との間隔をカムという簡単な構成で変更できる。
【0050】
変更部材88は、第一部材7に支持される回転軸87を中心に回動可能な、第一部材7と、第三部材4との間隔を多段階に変更可能なカムを有する。押え装置9の変更部材88は、第一部材7に支持される回転軸87を中心に回動可能であるので、カムにより第二部材6と第三部材4との間隔を変更するための操作を簡単にできる。
【0051】
押え装置9は、押え装置9が押え棒8に装着された状態において、押え棒8の長手方向、つまり上下方向と直交する方向に延びる回転軸87の一端部に取り付けられ、カムを回転させるダイヤル86を備える。ダイヤル86は、変更部材88のカムの半径よりも大きい半径を有する。押え装置9のダイヤル86は、カムにより第二部材6と第三部材4との間隔を変更するための操作を簡単にできる。
【0052】
押え装置9が押え棒8に装着された状態において、ミシン1による被縫製物Cの搬送方向を後方とした場合に、回転軸87は左右方向に延び、ダイヤル86は回転軸87の右端部に設けられる。押え装置9のダイヤル86は、ユーザの利き手によらず、カムにより第二部材6と第三部材4との間隔を変更するための操作を簡単にすることに貢献する。
【0053】
ミシン1は、レバー90、押えバネ81、及び押え棒抱き82を備える。レバー90は、押え棒8の上下方向の位置を手動で切り替える。押えバネ81は、押え棒8を下方に付勢する。押え棒抱き82は、押え棒8に固定され、押えバネ81の下端位置を規定する。縫針35の下端が針板3の下方にある時、押え棒抱き82は、レバー90と当接して、押えバネ81の付勢力を第二部材6に伝達せず、縫針35の下端が針板3の上方にある所定時、押え棒抱き82は、レバー90と離隔して、押えバネ81の付勢力を第二部材6に伝達する。押え装置9は、押え装置9が押え棒8に装着された状態において、第一部材7に対する第二部材6の位置を変更することで、押え棒8からの下方に向かう押圧力を第二部材6が支持する押え足5に伝達するかを切り替えることができる。押え装置9は、押え装置9を押え棒8の下端部に装着した後に、第一部材7と第三部材4との間隔を変更することで、被縫製物Cの厚さを考慮して、第二位置を設定できる。
【0054】
図12及び図13を参照して変形例の押え装置209を説明する。本実施形態は、図3及び図4に示す実施形態と同様の構成については説明を簡略化又は省略し、図3図12または図4図13を対比しながら説明をする。図12に示す押え装置209は、主に図3の規制部62に対応する規制部267の配置と、図3に示す変更部材88に対応する一対の変更部材288とが互いに異なっている。押え装置209は、第一部材270、第二部材260、第三部材240、一対の変更部材288、軸部85、付勢部材65、及び案内部262を備える。また、図13に示すように第一部材270は、図4に示す第一部材7に対応し、上下方向に貫通する挿通部272、276と、左右方向に貫通する挿通部277とが形成された本体部275を有する。本体部275の前部は。左右方向に貫通する丸孔274が形成された装着部273を備える。
【0055】
第二部材260は、図3に示す第二部材6に対応し、前部268、段部264、及び本体部263を備える。前部268には、左右方向に貫通する孔261が形成される。段部264は、前後方向において、前部268と、本体部263との間に設けられ、本体部263よりも上方に突出した部分である。段部264には、下方に凹む凹部269が形成されている。凹部269は装着部273の下方に位置する。本体部263は、段部264の後方に設けられ、上下方向に延びる軸状の案内部262、規制部267が固定される。案内部262の下部には、本体部263の上面から上方に平面視リング状に突出した当接部266が設けられる。規制部267は、凹部269及び案内部262よりも後方に位置する。規制部267の上下方向の長さと、案内部262の上下方向の長さとは互いに同じである。
【0056】
第三部材240は、第三部材4に対応し、上下方向に延びる挿通部242、245が形成された本体部244を備える。本体部244は、前上部に平面視矩形状の支持台部247を備える。支持台部247の左端は、挿通部242よりも左方に位置し、支持台部247の右端は、挿通部242よりも右方に位置する。支持台部247の上面の内、挿通部242の左後方は、左側の変更部材288と当接する当接部251であり、挿通部242の右後方は、右側の変更部材288と当接する当接部252である。当接部251の前方には、上方に突出する突起部253が形成され、当接部252の前方には、上方に突出する突起部254が形成される。突起部253、254は、各々右側面視半角形状である。挿通部242は、突起部253、254の間に形成される。
【0057】
案内部262は付勢部材65が外挿された状態で第三部材240の挿通部242に挿通され、第一部材270の挿通部272に挿通される。付勢部材65の下端は、当接部266に当接する。案内部262の上端部には止め輪279が装着される。規制部267は第三部材240の挿通部245に挿通され、第一部材270の挿通部276に挿通される。規制部267の上端部には止め輪278が装着される。このように、図3に示す実施形態の規制部62は、装着部73よりも前方に備えられていたが、図12においては後述の案内部262を挿通する挿通部272よりも後方に挿通部276が形成される。
【0058】
一対の変更部材288は、変更部材88に対応し、第一部材270に支持される回転軸87を中心に回動可能であり、第一部材270と、第三部材240との間隔を多段階に変更可能なカムである。一対の変更部材288は、第一部材270の本体部275の左方と右方との各々に配置される。各変更部材288は、左右方向に貫通する挿通部289が形成され、部分291から298を備える。図12及び図13に示す各変更部材288は各々、例示として部分291から部分298の八段階の部分を含むが、変更部材288の部分については何段階で設計されていてもよい。回転軸87は、各変更部材288の挿通部289と、第一部材270の挿通部277とに挿通され、第一部材270に回転可能に支持される。回転軸87の左端部には図示しない止め輪が装着される。回転軸87は、前後方向において、規制部267と、案内部262との間に配置される。部分291から298は各々、回転軸87の回転中心と平行な曲面を有し、回転軸87の回転中心からの距離は、部分291から298の順に短い。部分291から298の何れかは、対応する当接部251、252に当接する。変形例の押え装置209では、押え装置9と同様に、ダイヤル86を操作することで、第一部材270と、第三部材240との間隔を多段階に変更される。各変更部材288は、変更部材288と当接部251、252との当接位置と、挿通部289に挿通される回転軸87の軸心とを結ぶ直線が当接部251、252に対して直角であり、かつ、押え棒8に平行であるため、押えバネ81からの力を受けても意図しない回転をしない。故に、押え装置209は、上下方向に加わる押圧力に抗した力だけでは、部分291から298のうち、当接部251、252と当接する部位を変更できない。また、第三部材240の突起部253、254は、2つの変更部材288が回転軸87を中心に回転し、部分291から298のうち、当接部251、252と当接する部位が変更される過程で、変更部材288と当接することがある。例えば、部分291が対応する当接部251、252と当接する場合、部分291と部分298とを繋ぐ壁部299は、対応する突起部253、254の前面に当接する。壁部299は、回転軸87から離れる方向に延びる面状の部分である。これにより、突起部253、254は、部分291が対応する当接部251、252と当接する状態から、更に変更部材288が右側面視反時計回りに回転することを規制し、変更部材288の回転終端を定める。他の例では、部分298が対応する当接部251、252と当接する場合、対応する突起部253、254の背面に当接する。故に、押え装置209は、突起部253、254が変更部材288と当接する場合には、上下方向に加わる押圧力に抗した力だけでは、部分291から298のうち、当接部251、252と当接する部位を変更することを更に好適に抑制する。突起部253、254は、部分291から298のうちの何れかが、対応する当接部251、252と当接している場合には、変更部材288と離隔する場合と、変更部材288と当接する場合とがある。突起部253、254は、変更部材288と当接した場合に、変更部材288が意図せずに回転することを規制する規制部材として機能してもよい。
【0059】
上記変形例の押え装置209は、第一部材270の装着部273を押え棒8に装着した際、押え棒8よりも前方の構造が押え装置9に比べ簡略化され、被縫製物C及び縫針35の視認性が高くなるので、縫製作業の作業性が押え装置9に比べ高い。押え装置209では、規制部62のように、押え棒8の前方の視認性を確保するために上下方向の延設範囲を抑制する必要が無い。このため、押え装置209は、規制部62よりも規制部267の上下方向の長さを確保しやすいため、押え装置209が案内部262を中心に回転する力を好適に抑制できる。また、押え装置209は、規制部267が押え棒8の後方に設けられているので、押え棒8の前方に備えられる縫針35に対する糸通し機構37(図2参照)と規制部267との干渉を回避でき、縫針35への糸通しを確実に行うことを可能にする。図3に示す実施形態の押え装置9では変更部材88が第一部材7の左壁部701と右壁部702との間に備えられていたが、図12においては第一部材7を挟んで2つの変更部材288が備えられている。押え装置209は、上下方向から変更部材288にかかる押圧力により変更部材288が意図せずに回動して第一部材270と第三部材240との間隔が変更されることを防ぐことができる。
【0060】
本発明の押え装置及びミシンは、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更が加えられてもよい。例えば、以下の変形が適宜加えられてもよい。
【0061】
ミシン1及び押え装置9、109の構成は適宜変更してよい。ミシン1は、工業用ミシンであってもよい。ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間に押え棒抱き82が当接する部材は、レバー90以外の部材であってもよい。押え棒抱き82は、ミシン1の針棒31が上下方向に一往復する間に、レバー90等の他の部材と当接しなくてもよい。押え装置9を押え棒8に固定する固定部材は、適宜変更されてよく、ネジ41の他、ボルト及びナット等でもよい。ミシン1による被縫製物Cの搬送方向は適宜変更されてよい。ミシン1は、送り歯ドロップ機構24を備えなくてもよい。送り歯ドロップ機構24は、手動で駆動される構成でもよい。
【0062】
案内部67、167、262、規制部62、179、267は、円柱軸状でなくてもよい。案内部67、規制部62の各々が、第一部材7に固定されなくてもよい。案内部67は、第一部材7に対する第二部材6、第三部材4の移動を案内する構成を有すればよく、例えば、第一部材7、第二部材6、及び第三部材4の内の何れかを固定部材として固定され、第一部材7、第二部材6、及び第三部材4の内の固定部材以外の部材に係合するレール状であってもよい。挿通部72、76、276は、上下方向に貫通する、平面視円状孔である他、上下方向に形成された切欠き等であってもよい。案内部67は第二部材6に固定された筒状であってもよく、付勢部材65は、コイルバネ状であり、筒状の案内部67に内挿されてもよい。付勢部材65の種類、配置等は適宜変更されてよい。
【0063】
押え装置9が押え棒8に装着された状態において、ミシン1による被縫製物の搬送方向を後方とした場合の、回転軸87の延設方向は左右方向以外の方向でもよい。回転軸87が左右方向に延びる場合、ダイヤル86は、回転軸87の左端部に設けられてもよい。回転軸87が前後方向に延びる場合、ダイヤル86は、回転軸87の後端部に設けられてもよいし、前端部に設けられてもよい。変更部材88の構成は適宜変更されてよい。ダイヤル86は、変更部材88の最大半径以下の半径を有してもよい。変更部材88は、第一部材7に支持される回転軸87を中心に回動可能であり、第一部材7と、第三部材4との間隔を二段階又は四段階以上に変更可能であってもよい。変更部材88の外周は、曲線状に形成され、第一部材7と、第三部材4との間隔をリニアに変更可能であってもよい。押え装置9は、ダイヤル86に替えて、回転軸87の端部に連結されたレバー等の他の操作部材を備え、回転軸87は当該操作部材が操作されることにより回転されてもよい。実施形態の押え装置9の装着方法は適宜変更されてよい。押え装置9は、送り歯19の上端が針板3の上端よりも下方にある条件で押え棒8に装着されてもよい。この場合、ユーザは、押え足5と針板3との間に被縫製物Cを配置した後、ダイヤル86を操作して押え足5を被縫製物Cに接触させた後、現在の被縫製物Cの厚みよりももう一段階厚い場合となるようにダイヤル86を再操作してもよい。この操作を実現する場合、変更部材88の部分97から99のそれぞれの厚み変更量が一例としてミシン1の送り歯19の上昇量よりも小さく定めなければならない。実施形態の押え装置9は、変更部材88に加え、変更部材150を備えてもよい。この場合、ユーザは、以下の手順で、第一部材7と第三部材4との間隔を調整してもよい。ユーザは、縫針35の下端を針板3よりも上方に配置し、送り歯19の上端を針板3よりも上方に位置させる。ユーザは、押え足5と針板3との間に被縫製物Cを配置した後、ダイヤル86を調整して押え足5を被縫製物に接触させる。ユーザは、変更部材150のレバー152を右側面視時計回りに回転させ、第一部材7と第三部材4との間隔を広げる。
【0064】
変更部材88は、第一部材7と第三部材4との少なくとも一方に当接すればよい。第三部材4の当接部46に、互いに異なる突出量で上方に突出する複数の凸部を設け、第一部材7に支持される変更部材88が、複数の凸部の内の当接する凸部を変更することで、第一部材7と、第三部材4との間隔を多段階で変更してもよい。同様に、押え装置9は、第一部材7の下面に、互いに異なる突出量で上方に突出する複数の凸部を設け、第三部材4に支持される変更部材88が、複数の凸部の内の当接する凸部を変更することで、第一部材7と、第三部材4との間隔を多段階で変更してもよい。ミシン1は、被縫製物Cの厚みを検出するセンサと、モータの動力で回転軸87を所定量回転する駆動機構とを備え、ミシン1は、センサの検出値に応じて、変更部材88を回転軸87に自動で回転してもよい。このようにすればミシン1は、ユーザが変更部材88を操作する手間を省くことに貢献する。変形例の押え装置209において、規制部267の上下方向の長さと、案内部262の上下方向の長さとは互いに異なっていてもよい。規制部267は、前後方向において、案内部262よりも装着部273の近くに設けられてもよい。上記変形例は、矛盾のない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1:ミシン、2:ミシンモータ、3:針板、4、140、240:第三部材、5:押え足、6、160、260:第二部材、7、170、270:第一部材、8:押え棒、9、109、209:押え装置、31:針棒、35:縫針、45、144、242:挿通部(第二挿通部)、62、179、267:規制部、65:付勢部材、67、167、262:案内部、72、276:挿通部(第三挿通部)、73、173、273:装着部、76、177、272:挿通部(第一挿通部)、81:押えバネ、86:ダイヤル、87:回転軸、88、288:変更部材、90:レバー
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