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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040967
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】筒形防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/38 20060101AFI20240318BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
F16F1/38 S
F16F15/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145644
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】縄司 睦
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭宣
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BA19
3J048EA01
3J048EA15
3J059AD02
3J059AD05
3J059AE04
3J059AE05
3J059BA42
3J059BC06
3J059CC01
3J059EA02
3J059EA03
3J059GA01
3J059GA09
(57)【要約】
【課題】インナ軸部材の両端部において各種の機能を実現可能な外径寸法を確保しながら、インナ軸部材の軸方向中間部分において小径化や製造の容易化を実現することができる、新規な構造の筒形防振装置を提供すること。
【解決手段】インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16で連結された筒形防振装置10であって、インナ軸部材12を構成するインナ本体18が一定の断面形状で軸方向に延びる筒状とされており、インナ本体18の軸方向両端面には、インナ本体18よりも大径とされた第一のプレート部材32と第二のプレート部材34とが重ね合わされて、それら第一のプレート部材32と第二のプレート部材34とがインナ本体18の内周面に固定されており、インナ本体18に取り付けられた第一のプレート部材32と第二のプレート部材34とが相互に異なる形状とされている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結された筒形防振装置であって、
前記インナ軸部材を構成するインナ本体が一定の断面形状で軸方向に延びる筒状とされており、
該インナ本体の軸方向両端面には、該インナ本体よりも大径とされた第一のプレート部材と第二のプレート部材とが重ね合わされて、それら第一のプレート部材と第二のプレート部材とが該インナ本体の内周面に固定されており、
該インナ本体に取り付けられた該第一のプレート部材と該第二のプレート部材とが相互に異なる形状とされている筒形防振装置。
【請求項2】
前記インナ本体が鍛造又は引抜きによって形成された金属製の部材とされており、
前記第一のプレート部材及び前記第二のプレート部材がプレス金具とされている請求項1に記載の筒形防振装置。
【請求項3】
前記第一のプレート部材及び前記第二のプレート部材として同一のプレス金具が採用されている請求項2に記載の筒形防振装置。
【請求項4】
前記第一のプレート部材及び前記第二のプレート部材は、前記インナ本体から外周へ突出した部分において相互に形状が異なっている一方、該インナ本体に取り付けられた内周部分では相互に同一形状とされている請求項3に記載の筒形防振装置。
【請求項5】
前記インナ本体には内周面に開口して軸方向に直線的に延びる凹溝が形成されており、
前記第一のプレート部材と前記第二のプレート部材は、該インナ本体の該凹溝に差し入れられる固定片を備えており、
該固定片は先端部分が基端部分よりも幅広の嵌合部とされて、該幅広部が該凹溝に嵌め合わされて固定されている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【請求項6】
前記第一のプレート部材が前記インナ軸部材に挿通されるボルトの座面を形成する座面部材とされており、
前記第二のプレート部材は、外周面に軸方向外側へ向けて小径となるガイド面が設けられて、該インナ軸部材の取付対象部材に対する取付け位置を案内するガイド部材とされている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウント等に用いられる筒形防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンマウントやサブフレームマウント、サスペンションブッシュ等として、筒形防振装置が採用されている。筒形防振装置は、特開2010-203526号公報(特許文献1)等に開示されているように、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結された構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-203526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インナ軸部材は、軸方向に貫通するボルト孔が形成されて、ボルト孔に挿通されるボルトによって取付対象部材に固定される場合がある。このような場合に、インナ軸部材の軸方向一方の端面は、ボルトの頭部が重ね合わされる座面を構成し、インナ軸部材の軸方向他方の端部には、取付対象部材の取付位置へ案内するための先細テーパ形状が設定される場合がある(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、インナ軸部材の軸方向両端部にボルトの座面やガイドのための先細テーパ形状等を設けようとすると、インナ軸部材の小径化が難しく、防振特性や耐久性に関する設計自由度が制限されたり、軽量化のニーズに対応することが難しくなることも考えられた。
【0006】
本発明の解決課題は、インナ軸部材の両端部において各種の機能を実現可能な外径寸法を確保しながら、インナ軸部材の軸方向中間部分において小径化や製造の容易化を実現することができる、新規な構造の筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で連結された筒形防振装置であって、前記インナ軸部材を構成するインナ本体が一定の断面形状で軸方向に延びる筒状とされており、該インナ本体の軸方向両端面には、該インナ本体よりも大径とされた第一のプレート部材と第二のプレート部材とが重ね合わされて、それら第一のプレート部材と第二のプレート部材とが該インナ本体の内周面に固定されており、該インナ本体に取り付けられた該第一のプレート部材と該第二のプレート部材とが相互に異なる形状とされているものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、インナ軸部材の中間部分を構成するインナ本体を軸方向に一定断面形状とされた簡単な構造で小径の筒状体としながら、インナ本体の軸方向両端部に取り付けられる第一,第二のプレート部材によって、インナ軸部材の軸方向両端部をインナ本体よりも大径とすることができる。また、第一のプレート部材と第二のプレート部材とが相互に異なる形状でインナ本体の軸方向両側に設けられていることから、それら第一,第二のプレート部材によってインナ軸部材の軸方向両端部に相互に異なる機能を設定することができる。なお、第一,第二のプレート部材が相互に異なる形状とされているとは、例えば、相互に相似形状等、大きさが異なる場合を含む。
【0010】
第二の態様は、第一の態様に記載された筒形防振装置において、前記インナ本体が鍛造又は引抜きによって形成された金属製の部材とされており、前記第一のプレート部材及び前記第二のプレート部材がプレス金具とされているものである。
【0011】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、インナ本体を小径とすることが可能であることから、インナ本体を鍛造又は引抜きによって形成することが容易である。また、プレス金具によって各種形状の第一のプレート部材及び第二のプレート部材を容易に得ることができる。
【0012】
第三の態様は、第二の態様に記載された筒形防振装置において、前記第一のプレート部材及び前記第二のプレート部材として同一のプレス金具が採用されているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、第一,第二のプレート部材を構成するプレス金具を共通化することで、製造する部品の種類を少なくすることができる。なお、第一,第二のプレート部材として同一のプレス金具を採用する場合には、少なくとも一方のプレス金具をインナ本体への取付け前又は取付け後に加工することによって、相互に形状の異なる第一,第二のプレート部材とすることができる。
【0014】
第四の態様は、第三の態様に記載された筒形防振装置において、前記第一のプレート部材及び前記第二のプレート部材は、前記インナ本体から外周へ突出した部分において相互に形状が異なっている一方、該インナ本体に重ね合わされた内周部分では相互に同一形状とされているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、第一,第二のプレート部材において、相互に形状が異なる外周部分によって相互に異なる機能が実現されると共に、インナ本体への取付部分である内周部分を同一形状とすることによって、インナ本体への取付構造の共通化が図られる。
【0016】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、記インナ本体には内周面に開口して軸方向に直線的に延びる凹溝が形成されており、前記第一のプレート部材と前記第二のプレート部材は、該インナ本体の該凹溝に差し入れられる固定片を備えており、該固定片は先端部分が基端部分よりも幅広の嵌合部とされて、該嵌合部が該凹溝に嵌め合わされて固定されているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、第一,第二のプレート部材の固定片が周方向で部分的にインナ本体に対して固定されることから、全周に亘って圧入する場合に比して、固定作業が容易になる。また、固定片の先端部分の嵌合部がインナ本体の凹溝に嵌め合わされて固定されることから、固定片を基端部分で曲げ変形させ易く、例えば、平板状とされた第一,第二のプレート部材をインナ本体に重ね合わせた状態で、固定片の基端部分を曲げ変形させて嵌合部をインナ本体の凹溝に嵌め入れる固定作業が容易になる。
【0018】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記第一のプレート部材が前記インナ軸部材に挿通されるボルトの座面を形成する座面確保部材とされており、前記第二のプレート部材は、外周面に軸方向外側へ向けて小径となるガイド面が設けられて、該インナ軸部材の取付対象部材に対する取付け位置を案内するガイド部材とされているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、インナ本体の小径化を図りながら、ボルトの座面に必要なインナ軸部材の軸方向端面の面積を第一のプレート部材によって確保することができると共に、第二のプレート部材によってインナ軸部材の軸方向端部の外周面にテーパ状のガイド面を設定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、インナ軸部材の両端部において各種の機能を実現可能な外径寸法を確保しながら、インナ軸部材の軸方向中間部分において小径化や製造の容易化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第一の実施形態としての筒形防振装置を示す正面図
図2図1に示す筒形防振装置の背面図
図3図1のIII-III断面図
図4図1のIV-IV断面図
図5図3のV-V断面図
図6図1の筒形防振装置を構成する本体ゴム弾性体の一体加硫成形品の正面図
図7図6のVII-VII断面図
図8図7のVIII-VIII断面図
図9図1の筒形防振装置を構成するプレス金具を拡大して示す正面図
図10】本発明の第二の実施形態としての筒形防振装置を示す正面図
図11図10のXI-XI断面図
図12図10の筒形防振装置を構成するプレス金具を拡大して示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1図5には、本発明の第一の実施形態としての筒形防振装置10が示されている。筒形防振装置10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって連結された構造を有している。以下の説明では、原則として、上下方向とは図1中の上下方向を、左右方向とは図1中の左右方向を、前後方向とは図3中の上下方向を、それぞれ言う。
【0024】
インナ軸部材12は、筒状とされたインナ本体18を備えている。インナ本体18は、図6図8にも示すように、例えば金属によって形成されて、略一定の断面形状で軸方向に連続して延びており、好適には鍛造又は引抜きによって形成されている。インナ本体18は、略円筒形状の外周面を有している。インナ本体18は、軸方向に貫通する中心孔20を備えており、本実施形態の中心孔20は左右方向が長軸とされた略楕円形断面とされている。インナ本体18には、一対の凹溝22,22が形成されている。凹溝22は、インナ本体18の内周面に開口して軸方向に直線的に延びている。本実施形態では、中心孔20の短軸方向の両側に各1つの凹溝22が設けられている。
【0025】
インナ本体18には、アウタ筒部材14が外挿されている。アウタ筒部材14は、例えば金属や合成樹脂等によって形成されており、内径寸法がインナ本体18の外径寸法よりも大きくされていると共に、インナ本体18よりも軸方向で短くされている。アウタ筒部材14の軸方向一方の端部には、外周へ突出するフランジ部23が形成されている。なお、アウタ筒部材14は、全体として筒状であればよく、例えば周方向の一部で分割されたC字環状体や周方向の複数箇所で分割された分割構造体であってもよい。
【0026】
アウタ筒部材14がインナ本体18に対して外挿状態で配されて、それらインナ本体18とアウタ筒部材14の径方向間には、本体ゴム弾性体16が形成されている。本体ゴム弾性体16は、全体として略円筒形状とされている。本体ゴム弾性体16は、内周面がインナ本体18の外周面に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材14の内周面に加硫接着されており、インナ本体18とアウタ筒部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。本体ゴム弾性体16の軸方向端面には、周方向に環状に延びるすぐり溝24が形成されている。本体ゴム弾性体16におけるインナ本体18の上下両側部分には、軸方向に貫通する一対のすぐり孔26,26が形成されている。すぐり孔26は、略左右方向に延びて、左右両端部がインナ本体18よりも左右方向の外側まで達している。本体ゴム弾性体16における一対のすぐり孔26,26の上下間には、左右方向に延びてインナ本体18とアウタ筒部材14とを左右方向で連結する一対のゴム腕28,28が形成されている。本体ゴム弾性体16における一対のすぐり孔26,26よりも上下外側には、アウタ筒部材14からインナ本体18に向けて上下内側へ突出する一対のストッパゴム30,30が形成されており、インナ本体18とアウタ筒部材14との上下方向での相対変位量が、ストッパゴム30とインナ本体18との当接によって制限される。
【0027】
本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品を構成するインナ本体18には、第一のプレート部材32と第二のプレート部材34とが取り付けられる。第一のプレート部材32と第二のプレート部材34は、図9に示す共通のプレス金具36によって構成されている。
【0028】
プレス金具36は、全体として略円板状とされており、外径寸法がインナ本体18の外径寸法よりも大きくされている。プレス金具36には、中央部分を厚さ方向に貫通する貫通孔38が形成されている。本実施形態の貫通孔38は、略円形断面とされており、直径がインナ本体18の中心孔20の短軸半径と略同じとされている。貫通孔38の上下両側には、部分的に拡径された拡径部40,40が設けられている。プレス金具36には、各拡径部40において内周側へ突出する固定片42が設けられている。固定片42は、拡径部40の左右中央から上下方向で貫通孔38の内周側へ向けて直線的に突出している。固定片42の基端部分は、上下方向に略一定の左右幅で直線的に延びる変形許容部44とされている。固定片42の先端部分は、変形許容部44に比して幅広の嵌合部46とされている。嵌合部46は、変形許容部44よりも上下方向の長さが短くされている。嵌合部46の左右幅寸法は、変形許容部44の左右幅寸法の1.2倍以上且つ2倍以下とされていることが望ましい。
【0029】
プレス金具36は、インナ本体18の軸方向端面に重ね合わされて、固定片42,42がインナ本体18の中心孔20に入り込むように変形許容部44において曲げ変形させられる。そして、各固定片42がインナ本体18の内周面に開口する各凹溝22に差し入れられて、固定片42の嵌合部46が凹溝22の左右内面に嵌め合わされることにより、プレス金具36がインナ本体18の内周面に固定されて取り付けられている。
【0030】
インナ本体18の軸方向一方の端面(前端面)に取り付けられたプレス金具36は、インナ本体18への取付けをもって第一のプレート部材32とされている。一方、インナ本体18の軸方向他方の端面(後端面)に取り付けられたプレス金具36は、図3図4に示すように、インナ本体18への取付後に、インナ本体18よりも外周へ突出した外周端部が、軸方向他方(後方)へ向けて小径となるテーパ形状のガイド部48とされることで、第二のプレート部材34とされている。
【0031】
このように、本実施形態の第一のプレート部材32と第二のプレート部材34は、同じプレス金具36によって構成されていると共に、インナ本体18に取り付けられた状態において、第二のプレート部材34にガイド部48が形成されることで、相互に異なる形状とされている。本実施形態の第一のプレート部材32と第二のプレート部材34は、インナ本体18から外周へ突出した外周部分において、相互に異なる形状とされていると共に、インナ本体18に取り付けられた内周部分において、相互に同じ形状とされている。
【0032】
インナ本体18に第一のプレート部材32と第二のプレート部材34とが取り付けられることによって、インナ軸部材12が構成されている。従って、筒形防振装置10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって連結された構造を有している。
【0033】
本実施形態において、インナ本体18は、一定の断面形状でストレートに延びている。また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品を構成するインナ本体18にプレス金具36,36が固定されることによって、第一,第二のプレート部材32,34が形成されることから、本体ゴム弾性体16の加硫成形時には、第一,第二のプレート部材32,34のないインナ本体18が本体ゴム弾性体16の加硫成形用金型にセットされる。これらによって、インナ本体18を本体ゴム弾性体16の加硫成形用金型にセットする際に、インナ本体18は、周方向の向きだけを適切な向きに設定すればよく、軸方向の向きが制限されない。それゆえ、インナ本体18が本体ゴム弾性体16に対して誤った軸方向の向きで配されるのを防ぐことができる。特に、インナ本体18を単一断面で延びる簡単な構造とすることで、インナ本体18の軸方向での向きを特定不要としたことにより、本体ゴム弾性体16に対する特別な位置決め構造をインナ本体18に形成することなく、インナ本体18の軸方向での向きの誤りを簡単な構造で安価に防ぐことができる。
【0034】
インナ軸部材12は、例えば、インナ本体18の中心孔20と第一,第二のプレート部材32,34の貫通孔38,38とに挿通されるボルト50によって、取付対象部材としての車両ボデー52に固定される。本実施形態では、第一,第二のプレート部材34の貫通孔38,38が円形断面とされていることから、ボルト50が貫通孔38,38に挿通されることによって、インナ軸部材12に対して左右方向で位置決めされる。
【0035】
インナ軸部材12に挿通されたボルト50は、頭部54がインナ軸部材12の軸方向一方の端面に重ね合わされる。インナ軸部材12の軸方向一方の端部は第一のプレート部材32によって構成されていることから、第一のプレート部材32の軸方向外面がボルト50の頭部54の座面を構成する。インナ軸部材12は、第一のプレート部材32がインナ本体18よりも大径とされてインナ本体18よりも外周へ突出していることから、インナ本体18を大径とすることなく軸方向一方の端面の面積が大きく確保されており、ボルト50の頭部54の座面を十分に大きな面積で構成することができる。
【0036】
第二のプレート部材34で構成されたインナ軸部材12の軸方向他方の端部は、車両ボデー52に設けられたガイド凹所56に挿入される。第二のプレート部材34の外周端部にはテーパ形状のガイド面を外周面とするガイド部48が設けられていることから、ガイド凹所56への挿入によってインナ軸部材12が車両ボデー52に対して位置決めされる。
【0037】
このように、インナ軸部材12は、軸方向両端部が相互に異なる形状の第一のプレート部材32と第二のプレート部材34で構成されていることにより、軸方向両端部に相互に異なる機能が設定されている。即ち、本実施形態において、第一のプレート部材32で構成されたインナ軸部材12の軸方向一方の端部には、ボルト50の頭部54の座面を設ける機能が設定されており、第一のプレート部材32が座面を形成する座面部材とされている。第二のプレート部材34で構成されたインナ軸部材12の軸方向他方の端部には、車両ボデー52に対する位置決め機能が設定されており、第二のプレート部材34がガイド部材とされている。
【0038】
インナ軸部材12の軸方向両端部の機能が第一,第二のプレート部材32,34で実現されることから、それら第一,第二のプレート部材32,34の軸方向間に位置するインナ本体18は、一定断面で軸方向に延びる簡単な構造とすることができると共に、小径化を図ることも容易である。それゆえ、本体ゴム弾性体16の自由長の確保による耐久性の向上やばね特性のチューニング自由度の確保等を実現し易くなると共に、インナ本体18を鍛造や引抜きによって安価に得ることも可能となる。
【0039】
第一,第二のプレート部材32,34は、共通のプレス金具36によって構成されており、部品の共通化による製造コストの削減や生産効率の向上、部品管理の容易化等が図られる。特に、プレス金具36は、プレス加工によって容易に且つ低コストで製造可能である。また、共通のプレス金具36,36がインナ本体18の軸方向両端部に取り付けられた後に、それらプレス金具36,36が第一,第二のプレート部材32,34の機能を実現し得る形状に加工されるようにすれば、第一,第二のプレート部材32,34がインナ本体18に対して誤った軸方向端部に設けられるのを防ぐことができる。
【0040】
なお、アウタ筒部材14は、ホルダ58に形成された装着用孔60に圧入されるなどして、ホルダ58に取り付けられている。ホルダ58は、例えば、サブフレームやパワーユニット等、車両ボデー52に対する防振連結対象に設けられた筒状部分とされており、装着用孔60を備えている。従って、インナ軸部材12が車両ボデー52に取り付けられると共に、アウタ筒部材14がホルダ58に取り付けられることにより、サブフレームやパワーユニット等のホルダ58が車両ボデー52に対して筒形防振装置10を介して防振連結される。
【0041】
図10図11には、本発明の第二の実施形態としての筒形防振装置70が示されている。筒形防振装置70は、インナ軸部材72とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。なお、第二の実施形態の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0042】
インナ軸部材72は、第一の実施形態と共通のインナ本体18の軸方向両端部に対して、第一のプレート部材74と第二のプレート部材76とが取り付けられた構造とされている。第一のプレート部材74と第二のプレート部材76は、共通のプレス金具78で構成されており、第二のプレート部材76は、外周部分に第一の実施形態の第二のプレート部材34と同様のガイド部48を備えている。
【0043】
プレス金具78は、図12にも示すように、全体として略円板状とされており、厚さ方向に貫通する貫通孔80が中央部分に設けられている。貫通孔80は、インナ本体18の中心孔20と対応する略長円形断面とされており、左右方向(図12中、左右方向)が長軸とされている。また、プレス金具78は、上下方向で貫通孔80内へ突出する一対の固定片42,42を備えており、第一の実施形態のプレス金具36と同様に、固定片42,42によってインナ本体18の内周面に固定されることで、第一,第二のプレート部材74,76を構成する。
【0044】
このような長円形断面の貫通孔80を備えたプレス金具78で第一,第二のプレート部材74,76を構成すれば、ボルト50のインナ軸部材72に対する挿通位置を左右方向で調節することが可能とされて、インナ軸部材72の車両ボデーに対するボルト固定に際して寸法誤差等を許容し易くなる。
【0045】
この場合に、第一の実施形態と共通のインナ本体18が採用されることから、単一構造のインナ本体18にプレス金具36とプレス金具78を選択的に取り付けることによって、ボルト50の挿通孔の断面形状が異なるインナ軸部材12又はインナ軸部材72を選択的に得ることが可能となる。特に、インナ本体18を備えた本体ゴム弾性体16の加硫成形品において、インナ本体18にプレス金具36(78)を取り付けることにより、インナ本体18とアウタ筒部材14とを備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品を共通構造としながら、上記複数種類のインナ軸部材12(72)の選択的な形成が可能になる。従って、上記複数種類のインナ軸部材12(72)を製造するに際して、構造が異なる複数種類のインナ本体(中心孔20が長円形断面のものと円形断面のもの等)を得るための金型や製造設備が不要になると共に、本体ゴム弾性体16の加硫成形用の金型を複数種類準備する必要もなくなって、製造コストの大幅な削減や製造工程の簡略化等を実現可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、第一のプレート部材と第二のプレート部材のインナ本体への取付構造は、前記実施形態の具体的な構造に限定されるものではない。例えば、第一,第二のプレート部材の内周端部に軸方向に突出する筒状部が設けられており、当該筒状部がインナ本体の中心孔へ圧入されていることによって、第一,第二のプレート部材がインナ本体の内周面に固定されていてもよい。
【0047】
第一のプレート部材と第二のプレート部材は、インナ本体への取付け前の形状が相互に異なっていてもよい。また、第一のプレート部材と第二のプレート部材は、例えば第一のプレート部材と第二のプレート部材とが相互に大きさの異なる相似形状の場合にも、相互に異なる形状とみなすことができる。
【0048】
第一のプレート部材と第二のプレート部材は、ボルトの座面を確保するための座面部材と、インナ軸部材を取付対象部材に対して位置決めするためのガイド部材に限定されるものではない。具体的には、例えば、第一のプレート部材をアウタ筒部材14のフランジ部23と軸方向で対向する位置まで延び出させて、それら第一のプレート部材とアウタ筒部材14のフランジ部23との当接によってインナ軸部材12とアウタ筒部材14の軸方向の相対変位量を制限するストッパを構成することもできる。
【0049】
例えば、図9に示すプレス金具36を第一のプレート部材として用いると共に、図12に示すプレス金具78を第二のプレート部材として用いることもできる。この場合には、例えば、第一のプレート部材と第二のプレート部材が相互に異なる形状のプレス金具36,78によって構成されることから、第一の実施形態に示したようなプレス金具36に対するインナ本体18への取付後の外周部分の曲げ加工等を加えることなく、相互に形状の異なる第一のプレート部材と第二のプレート部材を得ることもできる。要するに、第一のプレート部材と第二のプレート部材の形状が相互に異なる部分は、必ずしもインナ本体18から外周へ突出した外周部分に限定されず、内周部分であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 筒形防振装置(第一の実施形態)
12 インナ軸部材
14 アウタ筒部材
16 本体ゴム弾性体
18 インナ本体
20 中心孔
22 凹溝
23 フランジ部
24 すぐり溝
26 すぐり孔
28 ゴム腕
30 ストッパゴム
32 第一のプレート部材
34 第二のプレート部材
36 プレス金具
38 貫通孔
40 拡径部
42 固定片
44 変形許容部
46 嵌合部
48 ガイド部
50 ボルト
52 車両ボデー(取付対象部材)
54 頭部
56 ガイド凹所
58 ホルダ
60 装着用孔
70 筒形防振装置(第二の実施形態)
72 インナ軸部材
74 第一のプレート部材
76 第二のプレート部材
78 プレス金具
80 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12