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特開2024-40979生体情報推定装置、生体情報推定方法、及び生体情報推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040979
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】生体情報推定装置、生体情報推定方法、及び生体情報推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20240318BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20240318BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20240318BHJP
   A61B 5/021 20060101ALI20240318BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
A61B5/11 110
A61B5/113
A61B5/02 310Z
A61B5/02 310V
A61B5/021
A61B5/0245 100Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145658
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】坪田 和也
(72)【発明者】
【氏名】志賀 駿也
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA08
4C017AA09
4C017AA14
4C017AB04
4C017AC20
4C017BC11
4C017FF05
4C038VA04
4C038VB32
4C038VB33
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】簡便な構成で生体情報の推定精度を向上できる生体情報推定装置、生体情報推定方法、及び生体情報推定プログラムを提供する。
【解決手段】生体情報推定装置10は、被検者40の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するインタフェース14と、チャネル状態情報に基づいて被検者40の生体情報を推定する制御部12とを備える。制御部12は、チャネル状態情報に含まれる少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって被検者40の生体情報に対応する信号を抽出する。制御部12は、被検者40の生体情報に対応する信号に基づいて被検者40の生体情報を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するインタフェースと、
前記チャネル状態情報に基づいて前記被検者の生体情報を推定する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記チャネル状態情報に含まれる少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって前記被検者の生体情報に対応する信号を抽出し、
前記被検者の生体情報に対応する信号に基づいて前記被検者の生体情報を推定する、
生体情報推定装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記チャネル状態情報に含まれる複数のサブキャリアの信号のうち、前記複数のサブキャリアそれぞれの信号の自己相関関数の分散の値が最も大きいサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって前記被検者の呼吸に対応する信号を抽出し、前記被検者の呼吸に対応する信号に基づいて前記被検者の呼吸に関する情報を推定する、請求項1に記載の生体情報推定装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記チャネル状態情報に含まれる少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して離散ウェーブレット変換を実行し、
離散ウェーブレット変換を実行した少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって前記被検者の心拍に対応する信号を抽出し、前記被検者の心拍に対応する信号に基づいて前記被検者の心拍に関する情報を推定する、請求項1に記載の生体情報推定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記被検者の心拍に対応する信号に基づいて前記被検者の脈波伝搬時間を算出し、前記脈波伝搬時間に基づいて前記被検者の血圧を推定する、請求項3に記載の生体情報推定装置。
【請求項5】
被検者の生体情報を推定する生体情報推定方法であって、
前記被検者の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するステップと、
前記チャネル状態情報に含まれる少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって前記被検者の生体情報に対応する信号を抽出するステップと、
前記被検者の生体情報に対応する信号に基づいて前記被検者の生体情報を推定するステップと
を含む、生体情報推定方法。
【請求項6】
プロセッサに被検者の生体情報を推定させる生体情報推定プログラムであって、
前記被検者の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するステップと、
前記チャネル状態情報に含まれる少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって前記被検者の生体情報に対応する信号を抽出するステップと、
前記被検者の生体情報に対応する信号に基づいて前記被検者の生体情報を推定するステップと
を前記プロセッサに実行させる、生体情報推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体情報推定装置、生体情報推定方法、及び生体情報推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信を用いた生体センシングに関する研究が広く行われている。例えば、ドップラーレーダ、UWB(Ultra Wide Band)レーダ、又はFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ等を用いた生体センシングが行われている。無線LAN(Local Area Network)を用いた生体センシングは、特殊な機器を必要としない点、又は、機器が普及している点から注目されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載されているように、無線通信のパケットに生じた被検者のバイタル情報に基づく変調を抽出し、呼吸数及び心拍数を推定する装置が知られている。例えば非特許文献1に記載されているように、無線LANを用いた呼吸数又は心拍数の取得が知られている。例えば非特許文献2及び3に記載されているように、脈波伝達時間(PTT)の推定値に基づく血圧の算出が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-124337号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】X. Wang, C. Yang and S. Mao, “PhaseBeat: Exploiting CSI Phase Data for Vital Sign Monitoring with Commodity WiFi Devices," 2017 IEEE 37th International Conference on Distributed Computing Systems (ICDCS), 2017, pp. 1230-1239, DOI: 10.1109/ICDCS.2017.206.
【非特許文献2】D. Buxi, J. -M. Redoute and M. R. Yuce, "Blood Pressure Estimation Using Pulse Transit Time From Bioimpedance and Continuous Wave Radar," in IEEE Transactions on Biomedical Engineering, vol. 64, no. 4, pp. 917-927, April 2017, DOI: 10.1109/TBME.2016.2582472.
【非特許文献3】S. Ishizaka, K. Yamamoto and T. Ohtsuki, "Non-contact Blood Pressure Measurement using Doppler Radar based on Waveform Analysis by LSTM," ICC 2021 - IEEE International Conference on Communications, 2021, pp. 1-6, DOI: 10.1109/ICC42927.2021.9500857.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている構成において、サブキャリアの電波強度データの波形自体が心拍に類似する波形である前提で、サブキャリアの電波強度データの波形のピーク同士から心拍が推定されている。しかし、サブキャリアの電波強度データの波形自体は心拍に無関係な成分も含み得るものである。したがって、サブキャリアの電波強度データの波形自体から生体情報を推定する場合、推定精度が低下し得る。
【0007】
また、特許文献1に記載される構成において、呼吸数及び心拍数を推定するために用いるサブキャリアの電波強度データが平均値に基づいて選択される。平均値に基づいてデータが選択される場合、ノイズを多く含むデータが選択されるおそれがある。ノイズを多く含むデータが選択された場合、推定精度が低下し得る。
【0008】
非特許文献1に記載されている構成において、無線LANから得られたチャネル状態情報(以下、CSIとも称される。)のデータ校正を実行し、生体情報を多く含んだサブキャリアを信号の平均絶対偏差に基づいて選択し、離散ウェーブレット変換を用いて生体情報として呼吸又は心拍を表す信号に分解している。しかし、サブキャリアを選択するために平均絶対偏差を用いる場合、信号の大きさしか判断されず、生体情報に含まれる周期性が評価されない。周期性が評価されないことによって、大きなノイズが複数載った信号が選択されるおそれがある。したがって、平均絶対偏差を用いてサブキャリアを選択することは、信号処理方法として適していない。また、離散ウェーブレット変換を用いて信号を分解する場合に、事前に選択した基底関数を用いる必要があるが、生体情報が時系列で変化していることによって基底関数の選択が難しくなり、推定精度を高めることが難しい。
【0009】
非特許文献2に記載されている構成において、心電図(ECG)と連続波レーザ(CWレーザ)とを用いて脈波を計測することによってPTTが推定される。非特許文献3に記載されている構成において、ドップラーレーザを用いて脈波を計測することによってPTTが推定される。非特許文献2及び3に記載されている構成において、PTTの推定値に基づいて血圧が算出される。しかし、これらの手法は、電極又はセンサを体の多くの箇所に装着する必要があって煩わしさを感じる点、又は、特殊な計測機器を必要とする点等によって、日常的な計測に適していない。
【0010】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、簡便な構成で生体情報の推定精度を向上できる生体情報推定装置、生体情報推定方法、及び生体情報推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一実施形態に係る生体情報推定装置は、被検者の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するインタフェースと、前記チャネル状態情報に基づいて前記被検者の生体情報を推定する制御部とを備える。前記制御部は、前記チャネル状態情報に含まれる少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって前記被検者の生体情報に対応する信号を抽出する。前記制御部は、前記被検者の生体情報に対応する信号に基づいて前記被検者の生体情報を推定する。
【0012】
また、本開示の一実施形態に係る生体情報推定装置において、前記制御部は、前記チャネル状態情報に含まれる複数のサブキャリアの信号のうち、前記複数のサブキャリアそれぞれの信号の自己相関関数の分散の値が最も大きいサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって前記被検者の呼吸に対応する信号を抽出してよい。前記制御部は、前記被検者の呼吸に対応する信号に基づいて前記被検者の呼吸に関する情報を推定してよい。
【0013】
また、本開示の一実施形態に係る生体情報推定装置において、前記制御部は、前記チャネル状態情報に含まれる少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して離散ウェーブレット変換を実行してよい。前記制御部は、離散ウェーブレット変換を実行した少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって前記被検者の心拍に対応する信号を抽出してよい。前記制御部は、前記被検者の心拍に対応する信号に基づいて前記被検者の心拍に関する情報を推定してよい。
【0014】
また、本開示の一実施形態に係る生体情報推定装置において、前記制御部は、前記被検者の心拍に対応する信号に基づいて前記被検者の脈波伝搬時間を算出してよい。前記制御部は、前記脈波伝搬時間に基づいて前記被検者の血圧を推定してよい。
【0015】
本開示の一実施形態に係る生体情報推定方法は、被検者の生体情報を推定するステップを含む。前記生体情報推定方法は、前記被検者の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するステップを含む。前記生体情報推定方法は、前記チャネル状態情報に含まれる少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって前記被検者の生体情報に対応する信号を抽出するステップを含む。前記生体情報推定方法は、前記被検者の生体情報に対応する信号に基づいて前記被検者の生体情報を推定するステップを含む。
【0016】
本開示の一実施形態に係る生体情報推定プログラムは、プロセッサに被検者の生体情報を推定させる。前記生体情報推定プログラムは、前記被検者の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するステップを前記プロセッサに実行させる。前記生体情報推定プログラムは、前記チャネル状態情報に含まれる少なくとも1つのサブキャリアの信号に対して変分モード分解を実行することによって前記被検者の生体情報に対応する信号を抽出するステップを前記プロセッサに実行させる。前記生体情報推定プログラムは、前記被検者の生体情報に対応する信号に基づいて前記被検者の生体情報を推定するステップを前記プロセッサに実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る生体情報推定装置、生体情報推定方法、及び生体情報推定プログラムによれば、簡便な構成で生体情報の推定精度が向上され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態に係る生体情報推定システムの構成例を示すブロック図である。
図2】送信装置から受信装置まで伝搬する電磁波が被検者の影響を受けることを説明する模式図である。
図3】チャネル状態情報から被検者の生体情報を抽出する原理を説明するI-Qプロットのグラフである。
図4A】あるサブキャリアのCSIの信号の位相の時間変化の波形の一例を示すグラフである。
図4B】他のサブキャリアのCSIの信号の位相の時間変化の波形の一例を示すグラフである。
図5A図4Aの位相の時間変化の波形の自己相関値を表すグラフである。
図5B図4Bの位相の時間変化の波形の自己相関値を表すグラフである。
図6】チャネル状態情報に含まれる複数のサブキャリアから選択した1つのサブキャリアの波形例を示すグラフである。
図7図6のサブキャリアの波形に対する変分モード分解によって得られた各モードの波形例を示すグラフである。
図8】本実施形態の推定方法による呼吸の推定誤差と、比較例の推定方法による呼吸の推定誤差との差の一例を累積分布関数で表したグラフである。
図9】心拍に対応するサブキャリアの波形に対する変分モード分解によって得られた各モードの波形例を示すグラフである。
図10】本実施形態の推定方法による心拍の推定誤差と、比較例の推定方法による心拍の推定誤差との差の一例を累積分布関数で表したグラフである。
図11】脈波の一例を示すグラフである。
図12】一実施形態に係る生体情報推定方法の手順例を示すフローチャートである。
図13】生体情報として呼吸を推定する方法の手順例を示すフローチャートである。
図14】生体情報として心拍及び血圧を推定する方法の手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(生体情報推定システム1の概要)
図1に示されるように、本開示の一実施形態に係る生体情報推定システム1は、生体情報推定装置10と、送信装置20と、受信装置30とを備える。受信装置30は、第1アンテナ31、第2アンテナ32及び第3アンテナ33を含む。
【0020】
送信装置20は、例えば無線LAN(Local Area Network)等の無線通信の電磁波を送信する。受信装置30は、送信装置20から送信された電磁波を受信する。無線通信において送受信する電磁波は、搬送波(キャリア)とも称される。無線通信において、基本信号としての搬送波に情報又はデータを載せた変調信号が生成される。変調信号に対応する電磁波は、変調波とも称される。無線通信において、変調波が送信装置20から送信されて受信装置30で受信される。以下の説明において、説明の簡略化のために、搬送波と変調波とを区別せず、搬送波が送信装置20から送信されて受信装置30で受信されるとする。
【0021】
図2に示されるように、搬送波の一部は、第1アンテナ31に向けて伝搬し、第1アンテナ31で受信され得る。搬送波の一部は、第2アンテナ32に向けて伝搬し、第2アンテナ32で受信され得る。搬送波の一部は、第3アンテナ33に向けて伝搬し、第3アンテナ33で受信され得る。
【0022】
送信装置20から送信された搬送波は、受信装置30まで伝搬し得る。搬送波は、送信装置20と受信装置30との間に、又は、送信装置20若しくは受信装置30の周囲に位置する被検者40によって反射して受信装置30まで伝搬し得る。搬送波は、送信装置20と受信装置30とを直線で結ぶ経路と、送信装置20から搬送波を反射する被検者40を経由して受信装置30まで伝搬する経路とを含む、少なくとも2つの伝搬路に分かれて伝搬し得る。つまり、搬送波は、複数の伝搬路に分かれて伝搬し得る。複数に分かれた伝搬路はマルチパスとも称される。
【0023】
マルチパスの各伝搬路を伝搬した搬送波を受信装置30で受信して合成した信号は、マルチパス信号とも称される。マルチパス信号は、異なる位相の信号を含み得る。つまり、マルチパス信号に含まれる個々の信号は、互いに位相差を有し得る。
【0024】
無線通信においてマルチキャリア伝送方式が採用される場合、搬送波は、複数のサブキャリアを合成して多重化した電磁波として構成される。各サブキャリアは、互いに異なる周波数を有することによって、又は、互いに直交性を有することによって、互いに分離可能となる。
【0025】
<チャネル状態情報(CSI)>
受信装置30は、搬送波を受信することによって、搬送波のチャネル状態情報を生成する。チャネル状態情報は、CSI(Channel State Information)とも称される。CSIは、無線通信の物理層(PHY層)における電力特性を表し、マルチパス信号の特性の詳細な識別を可能にする。CSIは、送信装置20から受信装置30までマルチパスで伝搬した搬送波の振幅及び位相の変化を表す情報を含む。
【0026】
比較例として、データリンク層(MAC層)で得られる受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)によって搬送波が表されるとする。RSSIは、マルチパス信号の重畳であるため、マルチパスフェージングによる影響を受けやすい。その結果、RSSIは、伝搬路に多数の物体が存在する等の複雑な環境において劣化しやすく、CSIと比較してマルチパス信号の特性を表しにくい。
【0027】
本実施形態において、受信装置30で搬送波を受信して得られた信号を表す情報としてCSIが用いられるとする。
【0028】
CSIは、各サブキャリアについて生成され得る。例えば、i番目のサブキャリアに関するCSIは、以下の式(1)で表され得る。
【数1】
ここで、Kはマルチパスの数を表す。r及びτはそれぞれk番目のマルチパスからの複素減衰量及び伝搬遅延を表す。fはi番目のサブキャリアの中心周波数を表す。
【0029】
<CSIと生体情報との関係>
搬送波が被検者40の影響を受けてマルチパスで伝搬することによって、CSIは、被検者40に起因するマルチパスの情報を含み得る。生体情報推定装置10は、CSIに含まれるマルチパスの情報を解析することによって、被検者40の生体情報を推定できる。以下、CSIを解析することによって被検者40の生体情報を推定できる原理が説明される。
【0030】
CSIは、動的成分と静的成分とを含む。動的成分は、マルチパスのうち被検者40の身体の少なくとも一部で反射する伝搬路を伝搬した搬送波から得られた成分である。静的成分は、送信装置20から受信装置30までの直線距離に対応する伝搬路であるLoS(Line of Sight)を伝搬した搬送波、及び、マルチパスのうち被検者40の身体の少なくとも一部で反射する伝搬路以外の伝搬路を伝搬した搬送波のそれぞれから得られた成分の和である。
【0031】
CSIの全成分と静的成分と動的成分との関係の一例が、図3に示される。図3は、I-Qプロットである。図3の横軸のIは、同相の位相(In-Phase)を表す。縦軸のQは、直交する位相(Quadrature-Phase)を表す。
【0032】
CSIの静的成分は、ベクトルOSで表される。また、CSIの動的成分は、ベクトルSDで表される。CSIの静的成分と動的成分とを合成した全成分は、ベクトルOS及びSDを合成したベクトルODで表される。静的成分の大きさは、ベクトルOSの長さに対応し、|CSI |と表される。動的成分の大きさは、ベクトルSDの長さに対応し、|CSI |と表される。CSIは、静的成分と動的成分とに分けて、以下の式(2)で表され得る。
【数2】
ここで、dは、動的成分に寄与するマルチパスを表す自然数であり、1以上K以下である。r及びτは、それぞれd番目のマルチパスからの複素減衰量及び伝搬遅延を表す。
【0033】
図3において、ベクトルOSを延長した直線に対して点Dから垂線を下したときの垂線の足は点Tと表される。点O、点D及び点Tを頂点とする三角形は、直角三角形となる。ベクトルOSを延長した直線(線分OT)に対するベクトルSDの角度は、I軸に対するベクトルOSの角度(∠CSI )からI軸に対するベクトルSDの角度(∠CSI )を引いた値として算出される。そうすると、直角三角形の辺を構成する線分OT及びTDの長さは以下の式(3)で算出される。
【数3】
【0034】
式(3)で算出される線分OT及びTDの長さの比のarctanを計算することによって、ベクトルODと線分OTとの角度、つまりベクトルODとベクトルOSとの角度が算出される。動的成分と静的成分とを合わせた全成分の位相(∠CSI)は、静的成分の位相(∠CSI )からベクトルODとベクトルOSとの角度を引いた値であり、以下の式(4)で算出される。
【数4】
【0035】
ここで、動的成分は、被検者40の生体情報による影響を受ける。動的成分は、例えば、被検者40の呼吸又は心拍による動きの影響を受ける。通常、被検者40の呼吸又は心拍の動きは周期的である。そうすると、動的成分の位相(∠CSI )は周期的に変化し得る。また、動的成分の位相を含む上述の式(4)で算出されるCSIの全成分の位相は、周期的に変化し得る。したがって、CSIの位相を解析することによって、被検者40の呼吸又は心拍等を含む生体情報が推定され得る。
【0036】
<概要の小括>
以上述べてきたように、生体情報推定システム1において、生体情報推定装置10は、被検者40の影響を受けた搬送波のCSIを解析することによって、被検者40の生体情報を推定できる。
【0037】
以下、生体情報推定システム1の構成例及び動作例が詳細に説明される。
【0038】
(生体情報推定システム1の構成例)
上述したように、本開示の一実施形態に係る生体情報推定システム1は、生体情報推定装置10と、送信装置20と、受信装置30とを備える。
【0039】
<生体情報推定装置10>
図1に示されるように、生体情報推定装置10は、制御部12と、インタフェース14とを備える。
【0040】
制御部12は、生体情報推定装置10の少なくとも1つの構成部を制御する。制御部12は、1つ以上のプロセッサを含んで構成されてよい。プロセッサは、CPU(central processing unit)又はGPU(graphics processing unit)等を含んで構成されてよい。制御部12は、FPGA(field-programmable gate array)等のプログラマブル回路、又は、ASIC(application specific integrated circuit)等の専用回路を含んで構成されてよい。制御部12は、これらを任意に組み合わせて構成されてよい。
【0041】
生体情報推定装置10は、記憶部を更に備えてよい。記憶部は、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等を含んで構成されてよいが、これらに限られない。記憶部は、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。記憶部は、磁気ディスク等の電磁記憶媒体を含んで構成されてよい。記憶部は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体を含んで構成されてよい。記憶部は、生体情報推定装置10の動作に用いられる任意の情報又はプログラムを格納する。記憶部は、例えばシステムプログラム又はアプリケーションプログラム等を格納してよい。記憶部は、制御部12に含まれてもよいし、制御部12と別体で構成されてもよい。
【0042】
インタフェース14は、制御部12から情報又はデータ等を出力したり、制御部12に情報又はデータ等を入力したりする。インタフェース14は、受信装置30からCSIを取得するネットワークアダプタ等を含んで構成されてよい。インタフェース14は、CSIを取得するネットワークアダプタ等を接続可能なコネクタを含んで構成されてもよい。
【0043】
インタフェース14は、例えば被検者40の生体情報の推定結果を収集する機器等の他の機器と通信可能に構成される通信モジュールを含んでよい。通信モジュールは、例えば4G(4th Generation)又は5G(5th Generation)等の移動体通信規格に対応してよい。通信モジュールは、LAN(Local Area Network)等の通信規格に対応してもよい。通信モジュールは、有線又は無線の通信規格に対応してもよい。通信モジュールは、これらに限られず、種々の通信規格に対応してよい。インタフェース14は、通信モジュールに接続可能に構成されてもよい。
【0044】
インタフェース14は、ユーザから情報又はデータ等の入力を受け付ける入力デバイスを含んで構成されてよい。入力デバイスは、例えば、タッチパネル若しくはタッチセンサ、又はマウス等のポインティングデバイスを含んで構成されてよい。入力デバイスは、物理キーを含んで構成されてもよい。入力デバイスは、マイク等の音声入力デバイスを含んで構成されてもよい。
【0045】
インタフェース14は、ユーザに対して情報又はデータ等を出力する出力デバイスを含んで構成されてよい。出力デバイスは、例えば、画像又は文字若しくは図形等の視覚情報を出力する表示デバイスを含んでよい。表示デバイスは、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ若しくは無機ELディスプレイ、又は、PDP(Plasma Display Panel)等を含んで構成されてよい。表示デバイスは、これらのディスプレイに限られず、他の種々の方式のディスプレイを含んで構成されてよい。表示デバイスは、LED(Light Emitting Diode)又はLD(Laser Diode)等の発光デバイスを含んで構成されてよい。表示デバイスは、他の種々のデバイスを含んで構成されてよい。出力デバイスは、例えば、音声等の聴覚情報を出力するスピーカ等の音声出力デバイスを含んでよい。出力デバイスは、これらの例に限られず、他の種々のデバイスを含んでよい。
【0046】
生体情報推定装置10は、例えばノートPC(Personal Computer)又はタブレットPC等のPCとして構成されてよい。生体情報推定装置10は、スマートフォン又はタブレット等の携帯端末として構成されてもよい。生体情報推定装置10は、1つ又は互いに通信可能な複数のサーバ装置を含んで構成されてもよい。生体情報推定装置10は、これらの例に限られず、他の種々の形態で構成されてよい。
【0047】
<送信装置20及び受信装置30>
送信装置20は、少なくとも1本の送信アンテナを備える。送信装置20は、送信アンテナで送信する搬送波の信号を生成する信号生成装置を備えてよい。送信装置20は、搬送波に情報又はデータを載せるように変調する変調装置を備えてよい。送信装置20は、外部の信号生成装置から搬送波又は変調波の信号を取得して送信アンテナから送信するように構成されてよい。
【0048】
搬送波は、複数のサブキャリアを含んでよい。送信装置20は、複数のサブキャリアそれぞれの信号を生成し、送信アンテナから送信してよい。
【0049】
送信装置20は、送信した搬送波の振幅に関する情報を生体情報推定装置10に出力してよい。搬送波が複数のサブキャリアを含む場合、送信装置20は、各サブキャリアの振幅に関する情報を生体情報推定装置10に出力してよい。
【0050】
受信装置30は、少なくとも1本の受信アンテナを備える。受信装置30は、送信装置20から送信された搬送波を受信アンテナで受信する。受信装置30は、第1アンテナ31、第2アンテナ32及び第3アンテナ33を含んでよい。つまり、図1及び図2に例示される構成において、受信装置30は、3本の受信アンテナを備える。受信装置30が備える受信アンテナの数は、3本に限られず、1本であってもよいし2本であってもよいし4本以上であってもよい。
【0051】
受信装置30は、受信した搬送波又は変調波に載せられている情報又はデータを取得するように、搬送波又は変調波を復調する復調装置を備えてよい。受信装置30は、受信した搬送波又は変調波の信号を外部の復調装置に出力するように構成されてもよい。
【0052】
受信装置30は、マルチパスで伝搬してきた搬送波について、マルチパスの各伝搬路に分けて受信してよい。搬送波が複数のサブキャリアを含む場合、受信装置30は、各サブキャリアを受信アンテナで受信してよい。
【0053】
受信装置30は、受信した搬送波の信号をそのまま生体情報推定装置10に出力してよい。受信装置30は、受信した搬送波の信号からCSIを生成し、生成したCSIを生体情報推定装置10に出力してよい。
【0054】
具体的に、受信装置30は、各伝搬路を伝搬してきた搬送波の位相に関する情報を生成してよい。受信装置30は、送信装置20から送信されたときの搬送波の振幅に関する情報と実際に受信した搬送波の振幅とに基づいて、各伝搬路における搬送波の減衰率に関する情報を生成してよい。受信装置30は、各伝搬路における減衰率及び位相の情報を含むCSIを生成してよい。搬送波が複数のサブキャリアを含む場合、受信装置30は、各サブキャリアについてCSIを生成してよい。
【0055】
受信装置30は、複数の受信アンテナを備える場合、各受信アンテナについてCSIを生成し、生体情報推定装置10に出力してよい。受信装置30は、各受信アンテナで受信した搬送波をそのまま生体情報推定装置10に出力してよい。
【0056】
送信装置20及び受信装置30は、例えば、IEEE802.11n規格の無線通信で用いられる搬送波のCSIを取得できるように構成されてよい。送信装置20又は受信装置30は、他の種々の規格の無線通信で用いられる搬送波のCSIを取得できるように構成されてよい。
【0057】
送信装置20及び受信装置30は、例えば、OFDM(直交周波数分割多重方式)の複数のサブキャリアの全部又は少なくとも一部のサブキャリアのCSIを取得できるように構成されてよい。
【0058】
送信装置20及び受信装置30は、受信装置30がM本の受信アンテナを有し、かつ、搬送波がN個のサブキャリアを含む場合、M×N通りの組み合わせのそれぞれについてCSIを取得できるように構成されてよい。送信装置20及び受信装置30は、M×N通りの組み合わせのうち全部又は少なくとも一部の組み合わせについてCSIを取得できるように構成されてよい。
【0059】
(被検者40の生体情報を推定する動作例)
生体情報推定装置10の制御部12は、CSIに基づいて被検者40の生体情報を推定する。以下、被検者40の生体情報を推定する動作例が説明される。
【0060】
<CSIの取得>
制御部12は、CSIを取得する。制御部12は、受信装置30からCSIを取得してよい。制御部12は、受信装置30で受信した搬送波の信号を受信装置30から取得してCSIを制御部12自身で生成することによってCSIを取得してもよい。
【0061】
具体的に、制御部12は、受信装置30で受信した搬送波の信号を受信装置30から取得するとともに送信時の搬送波の振幅に関する情報を送信装置20から取得し、送信時の振幅と受信時の振幅とに基づいて各伝搬路の減衰率に関する情報を生成してよい。また、制御部12は、受信装置30で受信した搬送波の信号に基づいて各伝搬路における位相の情報を生成してよい。制御部12は、各伝搬路の減衰率及び位相に関する情報を含むCSIを生成してよい。
【0062】
受信装置30で受信した搬送波の位相は、送信装置20から受信装置30までの伝搬路の長さに対応し得る。したがって、搬送波の位相の変化は、伝搬路の長さの変化に対応し得る。送信装置20から受信装置30までの伝搬路が被検者40の身体の少なくとも一部における反射を含む場合、伝搬路の長さは、被検者40の動きによって変化し得る。被検者40の動きは、被検者40の呼吸による動き又は被検者40の心拍による動きを含み得る。制御部12は、後述するように、搬送波の位相の変化に基づいて被検者40の呼吸又は心拍を含む生体情報を推定してよい。
【0063】
<位相差の検出>
制御部12は、マルチパス信号に含まれる各伝搬路を伝搬してきた搬送波のCSIの位相差を検出してよい。
【0064】
マルチパスの各伝搬路を伝搬してきた搬送波のCSIの位相差は、送信装置20から受信装置30まで搬送波が伝搬する伝搬路の長さの違いを表し得る。送信装置20から受信装置30までの伝搬路が被検者40の身体の少なくとも一部における反射を含む場合、伝搬路の長さは、被検者40の動きによって変化し得る。被検者40の動きは、被検者40の呼吸による動き又は被検者40の心拍による動きを含み得る。制御部12は、後述するように、マルチパスの各伝搬路を伝搬してきた搬送波のCSIの位相差の変化に基づいて被検者40の呼吸又は心拍を含む生体情報を推定してよい。
【0065】
CSIに含まれる位相の情報は、様々なオフセットを含み得る。一方で、マルチパスの各伝搬路を伝搬してきた搬送波のCSI同士の位相差を検出することによってオフセットの影響が低減され得る。つまり、位相差の情報は位相の情報よりも安定し得る。その結果、位相差の情報に基づく生体情報の推定精度は、位相の情報だけに基づく生体情報の推定精度よりも高められ得る。
【0066】
<データキャリブレーション>
CSIは、直流成分又は外れ値等のノイズとなる情報を含み得る。制御部12は、CSIに対してフィルタを適用することによって、ノイズとなる情報を除去してよい。制御部12は、フィルタとして、例えばHampelフィルタを適用してよい。制御部12は、一度大きな窓サイズでスライディングウィンドウ付きのHampelフィルタを適用した後で、トレンド除去を行ってよい。制御部12は、窓サイズを小さくして再度Hampelフィルタを適用し、最初に除去しきれなかったノイズを除去してよい。制御部12は、後工程における計算の複雑さを軽減するためにダウンサンプリングを行ってもよい。
【0067】
<サブキャリアの選択>
搬送波に含まれる複数のサブキャリアのそれぞれは、被検者40の生体情報の影響を受け得る。その結果、各サブキャリアのCSIは、被検者40の生体情報を含み得る。複数のサブキャリアのうち、一部のサブキャリアは、被検者40の生体情報を多く含む。一方で、他の一部のサブキャリアは、被検者40の生体情報をほとんど含まないことがある。また、被検者40の生体情報を多く含むサブキャリアのうち、一部のサブキャリアは、被検者40の呼吸に関する情報を多く含み得る。一部のサブキャリアは、被検者40の心拍に関する情報を多く含み得る。
【0068】
後述する生体情報の推定において、被検者40の生体情報を多く含むサブキャリアのCSIに基づく生体情報の推定精度は、被検者40の生体情報をあまり含まないサブキャリアのCSIに基づく生体情報の推定精度よりも高められ得る。制御部12は、被検者40の生体情報を多く含むサブキャリアを選択し、選択したサブキャリアのCSIに基づいて生体情報を推定してよい。
【0069】
<<呼吸に関する情報を含むサブキャリアの選択>>
制御部12は、複数のサブキャリアの中から、被検者40の呼吸に関する情報を含むサブキャリアを選択してよい。
【0070】
例えば、制御部12は、各サブキャリアのCSIを自己相関関数で評価し、自己相関値の分散を用いて被検者40の呼吸に関する情報に対するサブキャリアのCSIの感度を評価してよい。制御部12は、図4A及び図4Bに示される、2つのサブキャリアのそれぞれのCSIの信号の位相の時間変化の波形を、自己相関関数で評価してよい。図4A及び図4Bにおいて、横軸は時刻を表す。縦軸は位相を表す。制御部12は、図4A及び図4Bに例示される位相の時間変化の波形を自己相関関数で評価することによって、図5A及び図5Bに示される、ラグと自己相関値との関係を取得できる。図5A及び図5Bにおいて、横軸はラグを表す。縦軸は自己相関値を表す。図5Aから算出した自己相関値の分散は0.0022である。図5Bから算出した自己相関値の分散は0.0089である。
【0071】
図4Aの波形と図4Bの波形との比較において、図4Bの波形を自己相関関数で評価したときの自己相関値の分散は、図4Aの波形を自己相関関数で評価したときの自己相関値の分散よりも大きい。図4Aの波形と図4Bの波形とを見た目で比較した場合、図4Bの波形は、図4Aの波形よりも高い周期性を有するように見える。つまり、波形の周期性が高く見えるほど、自己相関値の分散が大きい。
【0072】
上述したように、被検者40の呼吸に関する情報は、高い周期性を有する。したがって、制御部12は、自己相関値の分散が大きいサブキャリアのCSIを、高い周期性を有するCSIであると判定し、被検者40の呼吸に関する情報を多く含むCSIとして選択してよい。
【0073】
被検者40の呼吸に関する情報は、被検者40の胸等の動きを反映するので、CSIの中に多く含まれ得る。したがって、被検者40の呼吸に関する情報は、1つのサブキャリアのCSIから抽出され得る。そこで、制御部12は、自己相関値の分散が最大となる1つのサブキャリアのCSIを選択してよい。制御部12は、自己相関値の分散が選択閾値以上となる1つ又は複数のサブキャリアのCSIを選択してもよい。
【0074】
<<心拍に関する情報を含むサブキャリアの選択>>
制御部12は、複数のサブキャリアの中から、被検者40の心拍に関する情報を含むサブキャリアを選択してよい。
【0075】
被検者40の心拍に関する情報は、呼吸に関する情報よりも小さい信号である。制御部12は、被検者40の心拍に関する情報を大きい信号を用いて推定するために、選択するサブキャリアのCSIの数を増やして各サブキャリアのCSIを加算してよい。
【0076】
制御部12は、例えば、各サブキャリアのCSIの信号の心拍対ノイズ比(HNR)を算出してよい。制御部12は、CSIの位相差データに対して高速フーリエ変換(FFT)を実行し、FFTによって得られた周波数スペクトルにおける一般的な心拍の周波数である1~3Hzのビンと全体のビンとの比率としてHNRを算出してよい。
【0077】
制御部12は、HNRが高い信号を選択して加算してよい。制御部12は、HNRが判定閾値以上である信号を選択してよい。
【0078】
HNRが高い複数の信号を選択して加算することによって、信号が大きくなり得る。また、複数の信号の加算によって各サブキャリアの伝搬路における心拍の影響の違いが平準化され得る。その結果、心拍の推定精度が高められ得る。
【0079】
<生体情報の推定>
制御部12は、選択したサブキャリアのCSIに基づいて生体情報を推定してよい。
【0080】
<<呼吸に関する情報の推定>>
制御部12は、上述したサブキャリアの選択において、自己相関値の分散が最大となる1つのサブキャリアのCSIを選択した場合、選択したCSIを、被検者40の呼吸に関する情報を推定するための信号として用いてよい。制御部12は、自己相関値の分散が選択閾値以上となる複数のサブキャリアのCSIを選択した場合、選択した複数のCSIを加算又は平均した信号を、被検者40の呼吸に関する情報を推定するための信号として用いてよい。被検者40の呼吸に関する情報を推定するための信号は、呼吸推定信号とも称される。本実施形態において、制御部12は、図6に例示される、位相差の時間変化の信号を呼吸推定信号として用いるとする。図6において、横軸は時刻を表す。縦軸は位相差を表す。
【0081】
制御部12は、呼吸推定信号を、変分モード分解(VMD)によって複数のモードの信号に分解する。変分モード分解は、複数の固有モードを特定する固有モード関数(IMF)として信号を分離する。IMFは、以下の特徴を有する。
(1)IMFは、振幅変調及び周波数変調された信号である。
(2)IMFは、正でゆっくりと変化する包絡線を有する。
(3)IMFは、非減少で緩やかに変化し、中央値付近に集中する瞬時周波数を有する。
【0082】
変分モード分解は、全てのIMFとその中心周波数とを同時に計算し、制約のある変分問題を最小化する信号と中心周波数との組み合わせを見つける手法である。
【0083】
本実施形態において、制御部12は、図7に例示されるように、呼吸推定信号を6つのIMFに分解する。図7に示されるIMF1~6の各グラフにおいて、横軸は時刻を表す。縦軸は位相差を表す。変分モード分解によって分解されるIMFの数は6つに限られず、5つ以下であってよいし7つ以上であってもよい。
【0084】
制御部12は、分解したIMF1~6の中から、被検者40の呼吸に関する情報を表す信号として尤もらしい信号を選択する。例えば、成人の呼吸数の正常値は、1分間に12回~20回であり得る。この場合、正常な呼吸の周波数は、0.2Hz~0.33Hzである。したがって、制御部12は、IMF1~6のうち、正常な呼吸の周波数の範囲に含まれる周波数成分が大きいIMFを選択してよい。制御部12は、IMF1~6のうち、正常な呼吸の周波数の範囲の中央値に近い周波数成分が大きいIMFを選択してもよい。制御部12は、正常な呼吸の周波数の範囲に含まれる周波数成分が大きいIMFが複数個存在する場合、複数個のIMFのそれぞれの標準偏差を算出してよい。呼吸に関する情報を表す信号の標準偏差は、突発的なノイズを含む信号の標準偏差よりも小さくなるので、制御部12は、標準偏差が最小となるIMFを選択してよい。制御部12は、図7に示されるIMF1~6のうち、IMF5が呼吸に関する情報を表す信号として最も尤もらしいと判定して選択してよい。被検者40の呼吸に関する情報を表す信号として尤もらしい信号は、被検者40の呼吸に対応する信号であり、呼吸信号とも称される。
【0085】
制御部12は、選択したIMF5の波形のピークの間隔を被検者40の呼吸の間隔として、被検者40の呼吸数又は呼吸数の変化等を含む呼吸に関する情報を推定してよい。
【0086】
呼吸に関する情報の推定における処理の比較例として、離散ウェーブレット変換(DWT)を用いた呼吸推定信号の処理が説明される。DWTは、あらかじめ選択したマザーウェーブレットを信号に適用することによって信号を変換する。しかし、あらかじめ選択したマザーウェーブレットは、被検者40の呼吸が経時的に変化する場合に適応できないことがある。マザーウェーブレットが適応できない場合、呼吸の推定精度が低下する。
【0087】
一方で、本実施形態において呼吸に関する情報を推定するために用いられる変分モード分解(VMD)は、被検者40の呼吸が経時的に変化する場合に適応し得る。したがって、呼吸の推定精度が高められ得る。具体的に、図8に示されるように、比較例に係るDWTを用いた場合の推定誤差と、本実施形態に係るVMDを用いた場合の推定誤差とが比較される。図8のグラフにおいて、横軸は推定誤差の大きさを表す。縦軸は累積分布関数(CDF)を表す。図8に示されるように、VMDを用いた場合の推定誤差は、DWTを用いた場合の推定誤差よりも小さい。つまり、本実施形態においてVMDを用いることによって呼吸の推定精度が高められ得る。
【0088】
<<心拍に関する情報の推定>>
制御部12は、被検者40の心拍に関する情報を推定するために用いる信号を取得する。被検者40の心拍に関する情報を推定するために用いる信号は、心拍推定信号とも称される。本実施形態において、制御部12は、複数のサブキャリアのCSIの中から、HNRが高い信号を選択して加算した信号を、心拍推定信号として取得する。
【0089】
制御部12は、心拍推定信号を、変分モード分解(VMD)によって複数のIMFに分解する。本実施形態において、制御部12は、図9に例示されるように、心拍推定信号を6つのIMFに分解する。図9に示されるIMF1~6の各グラフにおいて、横軸は時刻を表す。縦軸は位相差を表す。変分モード分解によって分解されるIMFの数は6つに限られず、5つ以下であってよいし7つ以上であってもよい。
【0090】
制御部12は、分解したIMF1~6の中から、被検者40の心拍に関する情報を表す信号として尤もらしい信号を選択する。例えば、成人の安静時の心拍数の正常値は、1分間に60回~90回であり得る。この場合、成人の安静時の正常な心拍の周波数は、1.0Hz~1.5Hzである。したがって、制御部12は、IMF1~6のうち、成人の安静時の正常な心拍の周波数の範囲に含まれる周波数成分が大きいIMFを選択してよい。制御部12は、IMF1~6のうち、成人の安静時の正常な心拍の周波数の範囲の中央値に近い周波数成分が大きいIMFを選択してもよい。制御部12は、成人の安静時の正常な心拍の周波数の範囲に含まれる周波数成分が大きいIMFが複数個存在する場合、複数個のIMFのそれぞれの標準偏差を算出してよい。心拍に関する情報を表す信号の標準偏差は、突発的なノイズを含む信号の標準偏差よりも小さくなるので、制御部12は、標準偏差が最小となるIMFを選択してよい。制御部12は、図9に示されるIMF1~6のうち、IMF5が心拍に関する情報を表す信号として最も尤もらしいと判定して選択してよい。被検者40の心拍に関する情報を表す信号として尤もらしい信号は、被検者40の心拍に対応する信号であり、心拍信号とも称される。
【0091】
制御部12は、選択したIMF5の波形のピークを検出し、被検者40の心拍間隔(IBI)を算出してよい。制御部12は、心拍間隔に基づいて、被検者40の心拍数又は心拍数の変化等を含む心拍に関する情報を推定してよい。制御部12は、任意のピーク検出アルゴリズムを用いてピークを検出してよい。制御部12は、偽ピークを除去するために、正常なRR間隔の範囲内でピークを検出してもよい。
【0092】
心拍に関する情報を表す信号の波形は、心拍に特徴的な波形を有する。心拍に特徴的な波形は経時的に変化しにくい。そこで、制御部12は、心拍推定信号に対してVMDの処理を実行する前に、マザーウェーブレットとして心拍に特徴的な波形を適用した離散ウェーブレット変換(DWT)を、心拍推定信号に対して実行してよい。心拍推定信号に対してDWTを実行することによって、心拍に関する情報以外のノイズとなる情報が除外され得る。また、DWTを実行した場合に信号のピークが平滑化されない。心拍推定信号に対してVMDを実行する前にDWTを実行することによって、VMDを実行して得られるIMFに基づく心拍に関する情報の推定精度が高められ得る。
【0093】
心拍に関する情報の推定における処理の比較例として、バタワースフィルタを用いた心拍推定信号の処理が説明される。バタワースフィルタは、信号のシャープな部分まで除去してしまい、心拍変動の情報を必要以上に除去してしまうことがある。そうすると、バタワースフィルタを適用して抽出した信号に基づく心拍に関する情報の推定精度が低下し得る。また、バタワースフィルタは、信号を順方向及び逆方向から処理する必要があるため、リアルタイム処理に適用できない。
【0094】
一方で、本実施形態において心拍に関する情報を推定するために用いられる変分モード分解(VMD)によれば、心拍推定信号が複数のIMFに分解される。複数のIMFのうち心拍に対応するIMFとして選択したIMFに基づいて心拍に関する情報を推定することによって、推定精度が高められ得る。具体的に、図10に示されるように、比較例に係るバタワースフィルタを用いた場合の推定誤差と、本実施形態に係るVMDを用いた場合の推定誤差とが比較される。図10のグラフにおいて、横軸は推定誤差の大きさを表す。縦軸は累積分布関数(CDF)を表す。図10に示されるように、VMDを用いた場合の推定誤差は、バタワースフィルタを用いた場合の推定誤差よりも小さい。つまり、本実施形態においてVMDを用いることによって呼吸の推定精度が高められ得る。
【0095】
また、VMDは、リアルタイムに、かつ、適応的に信号を分解できる点で、バタワースフィルタよりも高い利便性を有する。
【0096】
また、本実施形態において、心拍推定信号に対してVMDを実行する前に離散ウェーブレット変換(DWT)を実行することによって、心拍推定信号から高周波のノイズが除去され得る。DWTを用いてノイズを除去した信号に含まれる心拍変動の情報は、バタワースフィルタを用いてノイズを除去した信号に含まれる心拍変動の情報よりも多くなり得る。その結果、心拍に関する情報の推定精度が高められ得る。
【0097】
<<血圧の推定>>
制御部12は、被検者40の心拍信号に基づいて、被検者40の血圧を推定してもよい。以下、血圧を推定する動作例が説明される。
【0098】
心拍信号は、被検者40の脈波に対応する。心拍信号は、VMDを実行して抽出されており、除去しきれなかった雑音による歪みを含むことがある。制御部12は、歪みを含む心拍信号に対して長短期記憶(LSTM)のモデルを適用することによって、歪みを減らしたきれいな脈波を表す信号を生成してよい。脈波を表す信号は、脈波信号とも称される。
【0099】
制御部12は、図11に例示される、LSTMのモデルを適用したきれいな脈波信号を取得してよい。図11において、横軸は時刻を表す。縦軸は規格化された振幅を表す。Tは心拍の周期を表す。τは心臓の拡張期間を表す。τは心臓の収縮期間を表す。EDは脈波の立ち上がりから最大振幅直後のピークまでの時間を表す。Tは脈波の立ち上がりから最大振幅直前のピークまでの時間を表す。
【0100】
制御部12は、脈波信号に基づいて、被検者40の脈波伝搬時間(PTT)を推定してよい。脈波伝搬時間は、血管内の2点の間を脈波が伝搬する時間であり、脈波信号から算出されるED及びTを含む数式(ED-T)/2によって推定され得る。
【0101】
ここで、PTTと血圧との間に反比例の関係又は負の相関が存在することが知られている。具体的に、血圧が高いほど動脈壁の張力及び剛性が大きくなり動脈内において脈波の伝搬が速くなる。つまり、血圧が高いほど脈波伝搬時間が短くなる。逆に血圧が低いほど動脈壁の張力及び剛性が小さくなり動脈内において脈波の伝搬が遅くなる。つまり、血圧が低いほど脈波伝搬時間が長くなる。制御部12は、PTTと血圧との相関関係と、PTTの推定値とに基づいて、被検者40の血圧を推定してよい。
【0102】
制御部12は、脈波信号から心臓の収縮期血圧(SBP)及び拡張期血圧(DBP)を算出してよい。SBPは、例えば、a×PTT+bという数式で算出され得る。a及びbは回帰で得られるパラメータである。また、DBPは、例えば、以下の式(5)で算出され得る。
【数5】
SBP、DBP、及びPTTは、それぞれ事前に測定した基準値である。Aは被検者40毎の個人パラメータである。
【0103】
血圧の推定精度は、PTTの推定精度に依存する。PTTの推定精度は、脈波信号の精度に依存する。脈波信号の精度は、被検者40の心拍信号の精度に依存する。したがって、血圧の推定精度は、被検者40の心拍信号の精度に依存する。
【0104】
ここで、心拍推定信号から心拍信号を抽出する際にノイズが除去される割合が高いほど、心拍信号の精度が高くなる。また、心拍推定信号から心拍信号を抽出する際に心拍に対応する情報が失われる割合が低いほど(心拍に対応する情報が残る割合が高いほど)、心拍信号の精度が高くなる。本実施形態に係る生体情報推定システム1によれば、VMDを実行して心拍推定信号から心拍信号を抽出することによって、心拍信号の精度が高められ得る。その結果、血圧の推定精度が高められ得る。
【0105】
<フローチャート例>
本実施形態に係る生体情報推定装置10の制御部12は、被検者40の生体情報を推定するために、例えば図12に示されるフローチャートの手順を含む生体情報推定方法を実行してよい。生体情報推定方法は、制御部12に実行させる生体情報推定プログラムとして実現されてもよい。生体情報推定プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体に格納されてよい。
【0106】
制御部12は、CSIを取得する(ステップS1)。制御部12は、マルチパスの各伝搬路を伝搬してきた搬送波のCSIの位相差を検出する(ステップS2)。制御部12は、位相差データに対してデータキャリブレーションを実行する(ステップS3)。制御部12は、位相差データに対して変分モード分解を実行する(ステップS4)。制御部12は、変分モード分解を実行することによって生成した複数のIMFの中から呼吸信号又は心拍信号等の生体情報信号を抽出する(ステップS5)。制御部12は、生体情報信号に基づいて、被検者40の呼吸又は心拍に関する情報を含む生体情報を推定する(ステップS6)。制御部12は、ステップS6の手順の実行後、図12のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0107】
制御部12は、生体情報として呼吸を推定するために、例えば図13に示されるフローチャートの手順を含む生体情報推定方法を実行してよい。
【0108】
制御部12は、CSIを取得する(ステップS11)。制御部12は、マルチパスの各伝搬路を伝搬してきた搬送波のCSIの位相差を検出する(ステップS12)。制御部12は、位相差データに対してデータキャリブレーションを実行する(ステップS13)。制御部12は、複数のサブキャリアの中から自己相関値の分散が最大になるサブキャリアを選択する(ステップS14)。制御部12は、選択したサブキャリアの位相差データに対して変分モード分解を実行する(ステップS15)。制御部12は、変分モード分解を実行することによって生成した複数のIMFの中から呼吸信号を抽出する(ステップS16)。制御部12は、呼吸信号に基づいて、被検者40の呼吸に関する情報を推定する(ステップS17)。制御部12は、ステップS17の手順の実行後、図13のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0109】
制御部12は、生体情報として心拍を推定するために、例えば図14に示されるフローチャートの手順を含む生体情報推定方法を実行してよい。
【0110】
制御部12は、CSIを取得する(ステップS21)。制御部12は、マルチパスの各伝搬路を伝搬してきた搬送波のCSIの位相差を検出する(ステップS22)。制御部12は、位相差データに対してデータキャリブレーションを実行する(ステップS23)。制御部12は、位相差データに対して離散ウェーブレット変換を実行する(ステップS24)。制御部12は、離散ウェーブレット変換を実行した位相差データに対して変分モード分解を実行する(ステップS25)。制御部12は、変分モード分解を実行することによって生成した複数のIMFの中から心拍信号を抽出する(ステップS26)。制御部12は、心拍信号に基づいて、被検者40の心拍に関する情報を推定する(ステップS27)。制御部12は、心拍信号又は脈波信号に基づいて脈波伝搬時間を推定する(ステップS28)。制御部12は、脈波伝搬時間の推定値に基づいて被検者40の血圧を推定する(ステップS29)。制御部12は、ステップS29の手順の実行後、図14のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0111】
(まとめ)
以上述べてきたように、本実施形態に係る生体情報推定システム1において、生体情報推定装置10の制御部12は、被検者40の影響を受けたCSIを取得し、CSIに対して変分モード分解を実行して生体情報信号を抽出する。制御部12は、生体情報信号に基づいて被検者40の生体情報を推定する。上述したように、CSIに対して変分モード分解を実行することによって、生体情報信号が被検者40の生体情報を高精度で表し得る。その結果、生体情報信号に基づく生体情報の推定精度が高められ得る。
【0112】
また、本実施形態に係る生体情報推定システム1において、制御部12は、呼吸信号を抽出するために、複数のサブキャリアのCSIの中から、自己相関値の分散が大きいCSIを選択する。このようにすることで、CSIに含まれる生体情報の成分量及び周期性が評価され得る。その結果、生体情報の推定精度が高められ得る。一方、比較例として、CSIを平均絶対偏差に基づいてサブキャリアのCSIを選択する手法が考えられる。しかし、平均絶対偏差に基づく評価は、周期性を考慮していない。したがって、平均絶対偏差に基づいて選択されたサブキャリアのCSIは、自己相関値の分散に基づいて選択されたサブキャリアのCSIよりも、外部ノイズを含む可能性が高まり得る。したがって、本実施形態に係る生体情報推定システム1において、自己相関値の分散が大きいCSIが選択されることによって、生体情報の推定精度が高められ得る。
【0113】
また、本実施形態に係る生体情報推定システム1において、制御部12は、CSIに対して変分モード分解を実行することによって呼吸信号と心拍信号とを分解できる。変分モード分解によって、CSIが、呼吸及び心拍のそれぞれに関する信号として尤もらしい信号を含む複数のIMFに分解され得る。その結果、生体情報の推定精度が高められ得る。
【0114】
また、本実施形態に係る生体情報推定システム1は、無線LANを含む汎用的な無線通信の搬送波を利用して被検者40の生体情報を推定できる。このようにすることで、被検者40の生体情報が簡便に取得され得る。その結果、簡便な構成で生体情報の推定精度が高められ得る。
【0115】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0116】
1 生体情報推定システム
10 生体情報推定装置(12:制御部、14:インタフェース)
20 送信装置
30 受信装置(31~33:第1~第3アンテナ)
40 被検者
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
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図14