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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040984
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20240318BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20240318BHJP
   H01J 49/24 20060101ALI20240318BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20240318BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H01J49/04
H01J49/40
H01J49/24
H01J49/16 400
H01J49/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145665
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】古田 匡智
【テーマコード(参考)】
5C038
【Fターム(参考)】
5C038HH03
(57)【要約】
【課題】
質量分析部とロードロックとの間を仕切る仕切ドアを、弱い力で開くと共に、強い力で閉じることが可能な質量分析装置を提供すること。
【解決手段】
真空状態で質量分析を行う質量分析部と、該質量分析部に対し試料プレートを搬入又は搬出するロードロックとを備えた質量分析装置において、該質量分析部と該ロードロックとを連通し、該試料プレートを搬送するための開口部OP1を有し、該開口部を開閉する仕切ドアD1と、該仕切ドアに対向し該開口部を形成する壁面W1との少なくとも一方には、該仕切ドアによる該開口部の閉状態を補助するため電磁石MGが設けられ、該電磁石への通電を制御する制御手段CUを備えた。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空状態で質量分析を行う質量分析部と、該質量分析部に対し試料プレートを搬入又は搬出するロードロックとを備えた質量分析装置において、
該質量分析部と該ロードロックとを連通し、該試料プレートを搬送するための開口部を有し、
該開口部を開閉する仕切ドアと、該仕切ドアに対向し該開口部を形成する壁面との少なくとも一方には、該仕切ドアによる該開口部の閉状態を補助するため電磁石が設けられ、
該電磁石への通電を制御する制御手段を備えた質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置において、該質量分析部には、マトリクス支援レーザ脱離イオン質量分析装置が組み込まれている質量分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の質量分析装置において、該制御手段は、該ロードロックの内部が大気圧状態の場合は、該電磁石への通電を停止するよう制御する質量分析装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の質量分析装置において、該試料プレートを載置し、該質量分析部側から該開口部を経て該ロードロック側に入出するホルダを備え、
該仕切ドアの該開口部を塞ぐ封止面には、該開口部の周囲に沿ってOリングが配置され、
該封止面は、該ホルダに載置された試料プレートには接触せず、該ホルダの一部と接触する位置に設けられた当接部を備え、
該ホルダは、該当接部と接触する位置にガイド部を設け、該ホルダの移動に伴い、該仕切ドアの開閉状態を変化させると共に、該ホルダが該Oリングに接触しないよう構成している質量分析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の質量分析装置において、該壁面を構成する部材には、該仕切ドアと該ホルダ並びに該ホルダの駆動機構とが一体的に組み込まれている質量分析装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の質量分析装置において、該仕切ドアと該壁面とを連結するヒンジを有し、該ヒンジと該壁面との結合部分には、該仕切ドアが該壁面の法線方向に移動可能にするための遊びが形成されている質量分析装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の質量分析装置において、
該ロードロックは、該ロードロックの内部と外部とを連通する外部用開口部と、該外部用開口部を開閉する外ドアとを備え、
該外ドアの該外部用開口部を塞ぐ封止面又は該外部用開口部を形成する壁面のいずれか一方には、該第2開口部の周囲に沿ってOリングが配置され、
該外ドアは、該ロードロックに設けられた開閉機構にボールジョイントを介して連結されている質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に関し、特に、真空状態で質量分析を行う質量分析部と、該質量分析部に対し試料プレートを搬入又は搬出するロードロックとを備えた質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリクス支援レーザ脱離イオン(MALDI)質量分析装置などの質量分析装置では、試料プレートに収容された試料を真空状態で分析する。特許文献1に示すように、質量分析装置にはロードロックを備えたものが提案されている。
【0003】
図1は、MALDI質量分析装置などを組み込んだ質量分析部Aに対し、ロードロックBを接続した状態を示したものである。装置の外部にから試料プレートC0を質量分析部A内に搬入するには、ロードロックB内を大気圧に開放し、ドアD2を開けてロードロック内に試料プレートを搬入する(符号C1の状態)。次に、ロードロックB内を真空状態にして、ドアD1を開けて、質量分析部A内に試料プレートを搬入する(符号C2の状態)。
【0004】
また、質量分析部Aから試料プレートC2を搬出するには、上述した手順を逆にして行う。このように、大気圧に開放される部分がロードロックBの領域のみであるため、質量分析部A内の真空状態を安定的に維持することが出来ると共に、質量分析部A内が汚染されることも抑制される。
【0005】
図2は、質量分析部Aの一例であるMALDI質量分析装置の概略を示す図である。真空処理容器1内では、試料プレートC2は2方向に移動できるXYステージ2に載置されている。レーザ照射部3からレーザ光が出射し、反射鏡4を介して、試料プレートに配置された試料に照射される。レーザ光が照射された試料は気化すると共にイオン化する。
【0006】
イオン化した試料は、アパーチャ5やアインツェルレンズ6などのイオン輸送光学系を通過し、質量分析器7に入射し、質量電荷比(M/Z)に応じて各種イオンが分離されイオン検出器8に到達する。質量分析器には、四重極型分析器、イオントラップ、飛行時間型分析器、磁場セクタ型分析器等が用いられる。
【0007】
一つの試料の分析が終了すれば、XYステージ2が移動し、レーザ光の照射位置に次の試料を配置する。
【0008】
真空処理容器1を開閉するドアD1は、ドアの周囲の1辺にヒンジを配置し、例えば図1の矢印α方向に開閉可能に設定される。さらに、ドアD1を確実に閉じることを可能とするため、ドアの回転軸部分に戻りバネなどの付勢手段を配置し、ドアD1を真空処理容器1の開口部に押さえ付けるよう構成している。
【0009】
試料プレートC2の交換のため、ドアD1を開閉するには、XYステージ2をドアD1の方向に移動し、XYステージ2の一部でドアD1を押して開ける。また、図1の試料プレートC1と交換した後、XYステージ2を真空処理容器1内に引き込むことで、ドアD1に取り付けられたバネ等により、ドアD1は自然に閉じる。このようなドアの開閉機構は、ロードロックを単純な構成にでき、部品点数の削減ができ開閉機構もシンプルなものとなるため、コスト削減や信頼性向上に寄与する。
【0010】
一方、質量分析部とロードロックとの間の仕切ドアは、真空漏れを防ぐため、開口部を取り囲むOリングを配置し、ドアをOリングに対して、強い力で均等に押し当てることが必要となる。
【0011】
他方、XYステージが仕切ドアを開ける力には限界があり、XYステージの耐久性を考慮すると、出来る限り弱い力で仕切ドアを開けることが好ましい。このため、従来のドアの開閉機構ではこれらの課題を共に解決することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公表2004-532996号公報
【特許文献2】実用新案登録第3208331号公報
【特許文献3】特願2021-141441号(出願日:2021年8月31日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、質量分析部とロードロックとの間を仕切る仕切ドアを、弱い力で開くと共に、強い力で閉じることが可能な質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置の一態様は、次のとおりである。
真空状態で質量分析を行う質量分析部と、該質量分析部に対し試料プレートを搬入又は搬出するロードロックとを備えた質量分析装置において、該質量分析部と該ロードロックとを連通し、該試料プレートを搬送するための開口部を有し、該開口部を開閉する仕切ドアと、該仕切ドアに対向し該開口部を形成する壁面との少なくとも一方には、該仕切ドアによる該開口部の閉状態を補助するため電磁石が設けられ、該電磁石への通電を制御する制御手段を備えた質量分析装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る質量分析装置の上記態様によれば、仕切ドアによる開口部の閉状態を補助するため電磁石が設けられ、該電磁石への通電を制御する制御回路を備えているため、電磁石の吸引力により、仕切ドアをOリングに強く押し付け、真空漏れを防止する。しかも、電磁石の電流を遮断することで、仕切ドアを弱い力で開くことも可能となり、XYステージなどの試料プレートを載置したホルダに大きな力を加える必要もない。また、仕切ドアとホルダとの接触力も小さくなるため、接触面の耐久性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】質量分析部にロードロックを接続した様子を示す概略図。
図2】MALDI質量分析装置の概略を示す図。
図3】本発明の質量分析装置に使用される仕切ドアの開閉機構を説明する図。
図4図3の仕切ドアをロードロック側から見た斜視図。
図5図3の仕切ドアを真空処理容器側から見た斜視図。
図6図3の仕切ドアの開閉機構の動きを説明する図。
図7図3の仕切ドアのヒンジ部分の構成を説明する図。
図8】本発明の質量分析装置に使用される外ドアの概略を示す図。
図9図8の外ドアに使用されるボールジョイントの構成を説明する図。
図10図8の矢印E-E’における断面図の一部を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の質量分析装置について、図3乃至図10を用いて詳細に説明する。
本発明の質量分析装置の基本的構造は、図1と同様に、質量分析部AとロードロックBとを備えたものであり、質量分析部Aには、図2を用いて説明したように、MALDI質量分析装置が使用できることは言うまでもない。
【0018】
本発明の質量分析装置では、質量分析部とロードロックとを連通する開口部を開閉する仕切ドアに特徴がある。図3は、仕切ドアD1の開閉機構を説明する側面図である。仕切ドアD1は開口部OP1を形成する壁Wの壁面W1に稼働可能に取り付けられている。
【0019】
図3の壁Wは、図1の質量分析部A又はロードロックBを構成する容器の壁の一部であっても良いし、質量分析部AとロードロックBとを結合する際に両者の間に介在するフランジ等の部材であっても良い。
【0020】
仕切ドアD1は、その周囲の一辺がヒンジHN1を介して、壁Wに取り付けられる。ヒンジHN1を介してドアD1は開閉するが、ヒンジHN1を図3のようにドアの上辺に配置することで、ドアD1が閉まる際は自重により自然と閉じることが可能となる。なお、本発明の質量分析装置では、ドアD1の側辺又は下辺にヒンジを配置し、上述した戻りバネ等の付勢手段を用いてドアが閉まるよう構成することも可能である。
【0021】
図3及び図5に示すように、ドアD1と壁Wの壁面W1との間には、真空漏れを防ぐためのOリングO1が配置される。OリングO1は、ドアD1の封止面(開口部を塞ぐ側の面)に配置されているが、これに限定されず、壁面W1側に配置することも可能である。
【0022】
本発明では、仕切ドアD1の開閉力を調整するため、図3乃至5に示すように、仕切ドアD1に電磁石MGを複数配置している。図では、2個の電磁石MGを配置しているがこれに限定されず、より多くの電磁石を配置することも可能である。ただし、電磁石の力を利用して仕切ドアを壁面W1に均等に押す必要があるため、OリングO1の配置の中心点に対して対称な位置に電磁石を配置することが好ましい。
また、図3乃至5では、仕切ドアD1に電磁石MGを配置しているが、壁Wに電磁石MGを配置することも可能である。
【0023】
電磁石MGの通電の制御は、図3に示すように、制御手段CUによって行っている。制御手段CUでは、基本的な制御として、仕切ドアを開ける際には、電磁石MGへの通電を遮断し、仕切ドアを壁面W1に強く押し付ける際には、電磁石MGへの通電を行う。電磁石MGへの通電により、仕切ドアは数十N、例えば50N以上の力が加わる。
【0024】
制御手段CUでは、これ以外に、ロードロック内の気圧を検知したり、ロードロックと外部とを繋ぐ外部用開口部に設けられた外ドアD2の開閉状態を検知することで、ロードロック内の気圧が大気圧状態に近い場合には、電磁石MGの通電を遮断することも可能である。これは、ロードロック内が大気圧であり、質量分析部内が真空の場合には、仕切ドアD1には大気圧により約100Nの力が加わっているためである。このような場合のように、電磁石の通電を遮断しても、仕切ドアD1が壁面W1に強い力で押されている場合には、通電を遮断し、電力消費を少なくすることができる。
【0025】
また、質量分析部内で、MALDI質量分析装置が稼働している間は、真空漏れを確実に防ぐため、電磁石MGを常に通電状態にするよう制御することも可能である。MALDI質量分析装置における一連の処理フローの例を示す。
(1)質量分析部内へ試料プレートを引込み、仕切ドアを閉じる
(2)質量分析部内を高真空状態とする
(3)試料にレーザを照射してイオン化し、M/Z毎の信号強度(電圧)を検出する
(4)試料プレート上の全ての試料に上記(4)を繰り返す
(5)仕切ドアを開き、質量分析部内から試料プレートを搬出する
【0026】
MALDI質量分析装置が稼働している期間となる、上述した処理フロー中の(1)の仕切ドアを閉じてから、(5)の仕切ドアを開くまでの期間は、電磁石MGを通電状態にすることが可能である。また、質量分析を行っている(3)及び(4)の期間のみ電磁石MGに通電することも可能である。
当然、これらの通電制御に加えて、上述したロードロック内が大気圧に変化した場合の遮断処理を組み合わせることも可能である。また、ロードロック内が大気圧に変化した場合の遮断処理中であっても、上記(3)及び(4)の質量分析を行う期間だけは電磁石に通電することも可能である。
また、ロードロック内の気圧と、質量分析部内の気圧との差をモニタし、所定の気圧差以上となった場合に電磁石への通電を遮断し、当該所定の気圧差以下となった場合には電磁石に通電する制御を、更に組み合わせることも可能である。
【0027】
質量分析装置の中で、試料プレートを質量分析部内から搬出する段階では、まず、電磁石MGの通電を遮断し、その後、XYステージなどのホルダHを移動させるよう制御することも可能である。これにより、ホルダHに強い力が加わることを防止することが可能となる。
【0028】
また、ホルダHが移動している時や、仕切ドアを開けてホルダHがロードロック内に突出している場合には、ホルダや試料プレートの破損等を防止するため、電磁石MGに通電がされないよう制御する。
【0029】
仕切ドアD1の開閉には、ホルダHの動きを利用している。図3に示すように、ホルダHはホルダ駆動機構Mにより図面の左右方向に移動可能なように構成される。また、ホルダHの一部は、試料プレートC2を載置することが可能なように構成されている。
【0030】
ホルダHが図3の左方向に移動することにより、仕切ドアD1にホルダHが接触することになるが、仕切ドアD1のホルダHと接触する位置には、図3及び図5に示すように、ボールベアリングなどの当接部Rが設けられている。また、ホルダHには、当接部Rと接触する部分に、ホルダHの動きに合わせて当接部Rを案内するためのガイド部H1が形成されている。
【0031】
図6の(a)~(c)は、ホルダHの動きに合わせて、仕切ドアD1が開閉する様子を説明したものである。(a)の位置からホルダHが左方向に移動すると、(b)に示すように、ホルダHのガイド部H1が当接部Rと接触し、ドアを押し上げる。さらに、ホルダHが左方向に移動すると、(c)のように、ドアがさらに上方に押し上げられ、ホルダHがロードロック側に突出することを可能とする。
【0032】
このような一連の動きを可能にするには、当接部Rの配置位置や、ガイド部H1の配置位置及び形状が重要となる。当接部RはホルダHが保持した試料プレートに接触せず、ガイド部H1のみ接触するよう構成することが必要である。またガイド部H1の形状も、ホルダHが移動することで、仕切ドアD1の封止面(質量分析部側の面)にホルダHの一部が接触しないよう構成することが好ましい。特に、仕切ドアD1側にOリングO1を配置する場合には、ホルダHがOリングO1に接触し、Oリングを破損すると、真空漏れの原因となる。このため、このような不具合が生じないよう、ガイド部H1の形状が設定される。
【0033】
このように、仕切ドアD1の当接部RとホルダHのガイド部H1とは、互いに精確に位置決めすることが必要である。このため、壁面W1(壁W)を構成する部材に、仕切ドアとホルダHを含むホルダ駆動機構Mとを一体的に組み込むことで、質量分析装置を組み立てる際の位置調整を簡略化することも可能となる。当然、壁Wは、質量分析部又はロードロックを構成する壁であっても良いし、別の部材として構成し、質量分析部とロードロックとの間に挟むように配置することも可能である。また、ホルダHは、MALDI質量分析装置のXYステージを兼用することも可能であるが、XYステージとは別の試料プレートの搬送手段として構成することも可能である。
【0034】
また、電磁石MGで仕切ドアD1を壁面W1に均等に押し付けるためには、仕切ドアD1のヒンジ部分(ヒンジNH1と壁面W1との結合部分)に遊びを設けることが効果的である。図7に示すように、ヒンジHN1と壁面W1とをネジSC1で接続した部分に遊びを持たせ、隙間には必要に応じて板バネなどのバネ部材SPを配置する。これにより、電磁石MGに通電した際には、仕切ドアD1が壁面W1の法線方向(図7の左右方向)に若干移動でき、均等に押し付けられる。また、バネ部材SPで仕切ドアd1が必要以上にガタつくことも無い。
【0035】
本発明の質量分析装置では、さらに図8乃至10に示すように、ロードロックと外部とを繋ぐ外部用開口部OP2を塞ぐ外ドアD2についても改良を施している。ロードロックの外ドアは、試料プレートを外部から搬入したり、外部へ搬出するため、操作者のオペレーションが行い易いように、また、特許文献3に示すような自動搬入・搬出装置の作業が可能なように、大きな開口部となっている。
【0036】
また、大きな開口部を塞ぐ外ドアD2にもロードロック内の真空漏れを抑制するため、外ドアD2の外部用開口部OP2を塞ぐ封止面又は外部用開口部OP2を形成する壁面(ロードロックの容器を構成する壁面)のいずれか一方には、外部用開口部OP2の周囲に沿ってOリングを配置する必要がある。そのため、外ドアとOリング面の角度を一致させ、外ドアを均等に壁面側に押し付けることが必要となる。
【0037】
特許文献2では、真空漏れを抑制したドアとして、2自由度の回転が可能な構造が提案されている。確かに当該構造を採用することで、ドアの封止面をOリング面に適正に合わせることが可能となるが、2自由度のため、ドアが回転し、ドアを開口部に位置合わせする作業が必要となる。また、特許文献3のような自動搬入・搬出装置を使用する場合は、開閉の頻度が増加するだけでなく、開閉時にドアが回転し、自動搬入・搬出装置の一部と接触するなどの不具合も発生する。
【0038】
本発明の質量分析装置では、外ドアD2と開閉機構13とを連結する部分にボールジョイントを採用している。図8乃至10は、ロードロックを構成する容器10を示し、容器10の上面には、外ドアD2を配置している。ボールジョイントは、ボールジョイントの球状(ボール)部分11を支持する支持板12が外ドアに固着されている。また、外ドアを開閉する開閉機構13は、容器10の一部にヒンジHN2により連結されている。開閉機構13には、図10に示すように、ハンドル19を設けることも可能である。外ドアD2は、矢印β方向に開閉される。
【0039】
基本的に、ボールジョイントでは、外ドアは3軸方向に自由な回転を行うことが出来る。しかしながら、外ドアが大きく回転すると上述のような不具合を生じるため、外ドアの移動を制限する機構を設けることが必要である。
【0040】
図9はボールジョイントの構成を説明する図である。球状部分11の表面の一部に凹部18を形成し、該凹部18に係合するピン17が挿入されている。ピン17は、開閉機構13側に固定されており、開閉機構13に対する球状部材11の相対的な移動範囲(動作角度)が制限される。これにより、外ドアD2が大きく回転することなどが抑制され、上述したような不具合を解消することが可能となる。
【0041】
また、凹部18やピン17のみでは、開閉機構13が移動する際に、外ドアの自重等によりドアがバタつき、不安定な状態となる。これを抑制するため、開閉機構13側に、球状部材11を挟むようにボール受け14とボール押圧手段15を配置し、例えば、ボール押圧手段に設けられた調整ネジ16を回して、球状部材11を挟み込む力を調整可能にしている。球状部材11を挟み込む力が強くなると、ボール受け14と球状部材11との間とボール押圧手段15と球状部材11との間に発生する摩擦力が大きくなる。このため、開閉機構13の動きに伴い、外ドアD2のバタつき具合を調整することが可能となる。
【0042】
本発明の質量分析装置に関する上述の説明は、実施形態の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、追加、修正を行っても本発明の技術的範囲に属することは明らかである。
また、上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが、当業者により理解される。
【0043】
(第1項)
真空状態で質量分析を行う質量分析部と、該質量分析部に対し試料プレートを搬入又は搬出するロードロックとを備えた質量分析装置において、該質量分析部と該ロードロックとを連通し、該試料プレートを搬送するための開口部を有し、該開口部を開閉する仕切ドアと、該仕切ドアに対向し該開口部を形成する壁面との少なくとも一方には、該仕切ドアによる該開口部の閉状態を補助するため電磁石が設けられ、該電磁石への通電を制御する制御手段を備えた質量分析装置である。
【0044】
本発明のように、電磁石を用いると共に、電磁石への通電を制御することで、質量分析部とロードロックとの間を仕切る仕切ドアを、弱い力で開けたり、強い力で閉じることが可能となる。しかも試料プレートを載置したホルダに大きな力を加える必要もない。さらに、仕切ドアとホルダとの接触力も小さくなるため、接触面の耐久性も向上する。
【0045】
(第2項)
上記第1項に記載の質量分析装置において、該質量分析部には、マトリクス支援レーザ脱離イオン質量分析装置が組み込まれている。
【0046】
MALDI質量分析装置においても、上記第1項で説明した優れた効果を付与することが可能となる。
【0047】
(第3項)
上記第1項又は第2項に記載の質量分析装置において、該制御手段は、該ロードロックの内部が大気圧状態の場合は、該電磁石への通電を停止するよう制御する。
【0048】
大気圧を用いて仕切ドアを強く押圧している場合には、電磁石への通電を遮断しても問題はなく、むしろ消費電力の削減が期待できる。
【0049】
(第4項)
上記第1項乃至第3項のいずれかに記載の質量分析装置において、該試料プレートを載置し、該質量分析部側から該開口部を経て該ロードロック側に入出するホルダを備え、該仕切ドアの該開口部を塞ぐ封止面には、該開口部の周囲に沿ってOリングが配置され、該封止面は、該ホルダに載置された試料プレートには接触せず、該ホルダの一部と接触する位置に設けられた当接部を備え、該ホルダは、該当接部と接触する位置にガイド部を設け、該ホルダの移動に伴い、該仕切ドアの開閉状態を変化させると共に、該ホルダが該Oリングに接触しないよう構成している。
【0050】
本発明により、ホルダの移動に合わせて仕切ドアを適正に開閉でき、特にホルダの移動により仕切ドアのOリングが損傷したり、ホルダに載置され試料プレートが破損するなどの不具合を解消することが可能となる。
【0051】
(第5項)
上記第4項に記載の質量分析装置において、該壁面を構成する部材には、該仕切ドアと該ホルダ並びに該ホルダの駆動機構とが一体的に組み込まれている。
【0052】
仕切ドアとホルダ並びに該ホルダの駆動機構を、壁面を構成する同一の部材に一体的に組み込むことで、仕切ドアとホルダの位置決めを事前に行うことができ、質量分析装置を組み立てる際の調整を簡略化することが可能となる。
【0053】
(第6項)
上記第1項乃至第5項のいずれかに記載の質量分析装置において、該仕切ドアと該壁面とを連結するヒンジを有し、該ヒンジと該壁面との結合部分には、該仕切ドアが該壁面の法線方向に移動可能にするための遊びが形成されている。
【0054】
本発明により、仕切ドアを壁面に対して適切に配置でき、両者に挟まれたOリングを均等に押圧することが可能となる。
【0055】
(第7項)
上記第1項乃至第6項のいずれかに記載の質量分析装置において、該ロードロックは、該ロードロックの内部と外部とを連通する外部用開口部と、該外部用開口部を開閉する外ドアとを備え、該外ドアの該外部用開口部を塞ぐ封止面又は該外部用開口部を形成する壁面のいずれか一方には、該外部用開口部の周囲に沿ってOリングが配置され、該外ドアは、該ロードロックに設けられた開閉機構にボールジョイントを介して連結されている。
【0056】
本発明により、ロードロックの内部と外部とを繋ぐ開口部を開閉する外ドアについても、両者の間に配置されたOリングを均等に押圧できる。しかも、外ドアの開閉時に外ドアが大きく回転するなどの不具合も抑制が可能である。
【符号の説明】
【0057】
A 質量分析部(MALDI質量分析装置)
B ロードロック
C0,C1,C2 試料プレート
D1 仕切ドア
D2 外ドア
MG 電磁石
CU 制御手段
H ホルダ(XYステージ)
H1 ガイド部
OP1,OP2 開口部
W 壁(部材の一部)
W1 壁面
HN1,HN2 ヒンジ
R 当接部(ボールベアリング)
SP バネ部材
図1
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図8
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図10