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特開2024-40988位置推定装置、位置推定方法、及び位置推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040988
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】位置推定装置、位置推定方法、及び位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20240318BHJP
   G01S 5/12 20060101ALI20240318BHJP
   G01S 13/46 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
G01S5/12
G01S13/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145674
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】坪田 和也
(72)【発明者】
【氏名】志賀 駿也
【テーマコード(参考)】
5J062
5J070
【Fターム(参考)】
5J062CC14
5J062CC18
5J062DD23
5J062EE01
5J062GG02
5J070AB15
5J070AC01
5J070AC02
5J070AC11
5J070AD06
5J070AF01
5J070BD02
(57)【要約】
【課題】位置情報の推定精度を向上できる位置推定装置、位置推定方法、及び位置推定プログラムを提供する。
【解決手段】位置推定装置10は、位置推定対象の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するインタフェース14と、チャネル状態情報に基づいて、無線通信の送信装置20及び受信装置30の位置に基づいて定まるフレネルゾーンの境界から位置推定対象までの距離を推定する制御部12とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置推定対象の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するインタフェースと、
前記チャネル状態情報に基づいて、前記無線通信の送信装置及び受信装置の位置に基づいて定まるフレネルゾーンの境界から前記位置推定対象までの距離を推定する制御部と
を備える、位置推定装置。
【請求項2】
前記インタフェースは、前記チャネル状態情報として、前記無線通信の第1受信装置で搬送波を受信して生成された第1チャネル状態情報と、前記無線通信の第2受信装置で搬送波を受信して生成された第2チャネル状態情報とを取得し、
前記制御部は、前記第1チャネル状態情報及び前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記位置推定対象の位置を推定する、請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1チャネル状態情報及び前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記位置推定対象が前記フレネルゾーンの境界に対して内側又は外側のどちらに位置するか推定する、請求項2に記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記第1チャネル状態情報に基づいて、前記第1受信装置のフレネルゾーンの境界から前記位置推定対象までの第1距離を推定し、
前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記第2受信装置のフレネルゾーンの境界から前記位置推定対象までの第2距離を推定し、
前記第1距離と前記第2距離との差に基づいて、前記位置推定対象が前記受信装置又は前記送信装置のどちらに近いかを推定する、請求項2に記載の位置推定装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記フレネルゾーンの境界が移動するように、前記無線通信の送信装置又は受信装置の位置を制御する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の位置推定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記フレネルゾーンの境界が移動するように、前記無線通信の搬送波の波長を制御する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の位置推定装置。
【請求項7】
位置推定対象の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するステップと、
前記チャネル状態情報に基づいて、前記無線通信の送信装置及び受信装置の位置に基づいて定まるフレネルゾーンの境界から前記位置推定対象までの距離を推定するステップと
を含む、位置推定方法。
【請求項8】
位置推定対象の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するステップと、
前記チャネル状態情報に基づいて、前記無線通信の送信装置及び受信装置の位置に基づいて定まるフレネルゾーンの境界から前記位置推定対象までの距離を推定するステップと
をプロセッサに実行させる、位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、位置推定装置、位置推定方法、及び位置推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線信号の減衰量に基づくモデルを用いて人間の位置を推定するシステムが知られている(例えば特許文献1等)。また、無線通信のチャネル状態情報から人間の存在による減衰を機械学習で生成した学習済みモデルで識別することによって人間の位置を推定する手法が知られている(例えば非特許文献1等)。
【0003】
他に、無線通信のチャネル状態情報から搬送波の到達角度(AoA)と伝搬時間(ToF)とを算出することによって人間の位置を推定する手法が知られている(例えば非特許文献2等)。複数の受信機による受信信号の位相差に基づいて人間の位置を推定する手法が知られている(例えば非特許文献3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-139930号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】X. Wang, L. Gao, S. Mao and S. Pandey, "CSI-Based Fingerprinting for Indoor Localization: A Deep Learning Approach," in IEEE Transactions on Vehicular Technology, vol. 66, no. 1, pp. 763-776, Jan. 2017, DOI: 10.1109/TVT.2016.2545523.
【非特許文献2】Deepak Vasisht, Swarun Kumar, and Dina Katabi. 2016. Decimeter-level localization with a single WiFi access point. In Proceedings of the 13th Usenix Conference on Networked Systems Design and Implementation (NSDI'16). USENIX Association, USA, 165-178.
【非特許文献3】Hao Wang、Daqing Zhang、Kai Niu、Qin Lv、Yuanhuai Liu、Dan Wu、 Ruiyang Gao、Bing Xie: MFDL: A Multicarrier Fresnel Penetration Model based Device-Free Localization System leveraging Commodity Wi-Fi Cards. arXiv:1707.07514 [cs.NI] 21 Jul. 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1又は非特許文献1に記載されている構成は、位置の推定に使用するモデルとして、位置推定を実行する空間の形状又は物体の配置等のパターン毎に異なるモデルを必要とする。非特許文献2に記載されている構成において、ToFの推定精度が無線通信の帯域幅の制限によって低下し得る。非特許文献3に記載されている構成において、サブキャリアの選択のための評価が難しい。また、非特許文献3に記載されている構成は、複数の受信機を必要とする。
【0007】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、簡便な構成で位置情報の推定精度を向上できる位置推定装置、位置推定方法、及び位置推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態に係る位置推定装置は、インタフェースと制御部とを備える。前記インタフェースは、位置推定対象の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得する。前記制御部は、前記チャネル状態情報に基づいて、前記無線通信の送信装置及び受信装置の位置に基づいて定まるフレネルゾーンの境界から前記位置推定対象までの距離を推定する。
【0009】
また、本開示の一実施形態に係る位置推定装置において、前記インタフェースは、前記チャネル状態情報として、前記無線通信の第1受信装置で搬送波を受信して生成された第1チャネル状態情報と、前記無線通信の第2受信装置で搬送波を受信して生成された第2チャネル状態情報とを取得してよい。前記制御部は、前記第1チャネル状態情報及び前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記位置推定対象の位置を推定してよい。
【0010】
また、本開示の一実施形態に係る位置推定装置において、前記制御部は、前記第1チャネル状態情報及び前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記位置推定対象が前記フレネルゾーンの境界に対して内側又は外側のどちらに位置するか推定してよい。
【0011】
また、本開示の一実施形態に係る位置推定装置において、前記制御部は、前記第1チャネル状態情報に基づいて、前記第1受信装置のフレネルゾーンの境界から前記位置推定対象までの第1距離を推定してよい。前記制御部は、前記第2チャネル状態情報に基づいて、前記第2受信装置のフレネルゾーンの境界から前記位置推定対象までの第2距離を推定してよい。前記制御部は、前記第1距離と前記第2距離との差に基づいて、前記位置推定対象が前記受信装置又は前記送信装置のどちらに近いかを推定してよい。
【0012】
また、本開示の一実施形態に係る位置推定装置において、前記制御部は、前記フレネルゾーンの境界が移動するように、前記無線通信の送信装置又は受信装置の位置を制御してよい。
【0013】
また、本開示の一実施形態に係る位置推定装置において、前記制御部は、前記フレネルゾーンの境界が移動するように、前記無線通信の搬送波の波長を制御してよい。
【0014】
本開示の一実施形態に係る位置推定方法は、位置推定対象の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するステップと、前記チャネル状態情報に基づいて、前記無線通信の送信装置及び受信装置の位置に基づいて定まるフレネルゾーンの境界から前記位置推定対象までの距離を推定するステップとを含む。
【0015】
本開示の一実施形態に係る位置推定プログラムは、位置推定対象の影響を受けた無線通信の搬送波のチャネル状態情報を取得するステップと、前記チャネル状態情報に基づいて、前記無線通信の送信装置及び受信装置の位置に基づいて定まるフレネルゾーンの境界から前記位置推定対象までの距離を推定するステップとをプロセッサに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本開示に係る位置推定装置、位置推定方法、及び位置推定プログラムによれば、簡便な構成で位置情報の推定精度が向上され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る位置推定システムの構成例を示すブロック図である。
図2】フレネルゾーンの概略説明図である。
図3】推定対象がフレネルゾーンの境界を横切る位置を示す図である。
図4】推定対象の位置と回折損失との関係の一例を示すグラフである。
図5】アレイアンテナの構成例を示す模式図である。
図6】1本の送信アンテナに対して複数の受信アンテナが位置する場合のフレネルゾーンの境界の位置の一例を示す図である。
図7】複数の受信アンテナのそれぞれのフレネルゾーンの境界に対して交差する方向に推定対象が動くことを示す図である。
図8】フレネルゾーンの境界に対して交差する方向に推定対象が振動した場合の各受信アンテナに到達する搬送波のCSIの強度の一例を示すグラフである。
図9図7に示される各受信アンテナのCSIの強度の極値と、フレネルゾーンの境界に対する位置とを対応づけるグラフである。
図10】一実施形態に係る位置推定方法の手順例を示すフローチャートである。
図11】1本の受信アンテナのCSIの強度の極値及び一定値と、フレネルゾーンの境界に対する位置とを対応づけるグラフである。
図12図6に例示される構成においてフレネルゾーンの境界から送信装置に近い側に位置する物体及び受信装置に近い側に位置する物体それぞれまでの距離を示す図である。
図13A】送信装置に近い側に位置する物体に対応するCSIの強度の一定値と、フレネルゾーンの境界に対する位置とを対応づけるグラフである。
図13B】受信装置に近い側に位置する物体に対応するCSIの強度の一定値と、フレネルゾーンの境界に対する位置とを対応づけるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(位置推定システム1の概要)
図1に示されるように、本開示の一実施形態に係る位置推定システム1は、位置推定装置10と、送信装置20と、受信装置30とを備える。受信装置30は、第1アンテナ31、第2アンテナ32及び第3アンテナ33を含む。
【0019】
送信装置20は、例えば無線LAN(Local Area Network)等の無線通信の電磁波を送信する。受信装置30は、送信装置20から送信された電磁波を受信する。無線通信において送受信する電磁波は、搬送波(キャリア)とも称される。無線通信において、基本信号としての搬送波に情報又はデータを載せた変調信号が生成される。変調信号に対応する電磁波は、変調波とも称される。無線通信において、変調波が送信装置20から送信されて受信装置30で受信される。以下の説明において、説明の簡略化のために、搬送波と変調波とを区別せず、搬送波が送信装置20から送信されて受信装置30で受信されるとする。
【0020】
送信装置20から送信された搬送波は、受信装置30まで伝搬し得る。搬送波は、送信装置20と受信装置30との間に、又は、送信装置20若しくは受信装置30の周囲に位置する物体によって反射して受信装置30まで伝搬し得る。搬送波は、図2に示されるように、点Q1に存在する物体によって反射される場合、送信装置20の点Tと受信装置30の点Rとを直線で結ぶ経路と、点Tから点Q1を通って点Rに至る経路とを含む、少なくとも2つの伝搬路に分かれて伝搬し得る。つまり、搬送波は、複数の伝搬路に分かれて伝搬し得る。複数に分かれた伝搬路はマルチパスとも称される。
【0021】
受信装置30は、マルチパスで伝搬した搬送波を受信し、マルチパスの各伝搬路を伝搬してきた搬送波の信号の成分を合成する。マルチパスで伝搬した搬送波の、各伝搬路を伝搬してきた搬送波の信号の成分を合成した信号は、マルチパス信号とも称される。マルチパス信号に含まれる各伝搬路を伝搬してきた搬送波の信号の成分の位相は、互いに異なり得る。つまり、マルチパス信号に含まれる信号の成分は、互いに位相差を有し得る。
【0022】
受信装置30が複数のアンテナを含む場合、送信装置20から送信された搬送波は、各アンテナまでマルチパスで伝搬し得る。受信装置30は、各アンテナで受信した搬送波についてマルチパス信号を生成する。各アンテナで受信した搬送波のマルチパス信号は、互いに異なり得る。したがって、受信装置30は、各アンテナに対応するマルチパス信号を生成し得る。つまり、受信装置30が生成するマルチパス信号の数は、受信装置30が備えるアンテナの数に一致し得る。
【0023】
無線通信においてマルチキャリア伝送方式が採用される場合、搬送波は、複数のサブキャリアを合成して多重化した電磁波として構成される。各サブキャリアは、互いに異なる周波数を有することによって、又は、互いに直交性を有することによって、互いに分離可能となる。各サブキャリアの搬送波は、送信装置20から受信装置30までマルチパスで伝搬し得る。受信装置30は、各サブキャリアの搬送波に対応するマルチパス信号を生成しる。受信装置30が1本のアンテナを備える場合、受信装置30が生成するマルチパス信号の数は、受信装置30が受信するサブキャリアの搬送波の数に一致し得る。受信装置30が複数のアンテナを備える場合、受信装置30が生成するマルチパス信号の数は、受信装置30が受信するサブキャリアの搬送波の数とアンテナの数との積に一致し得る。
【0024】
<チャネル状態情報(CSI)>
受信装置30は、搬送波を受信することによって、搬送波のチャネル状態情報を生成する。チャネル状態情報は、CSI(Channel State Information)とも称される。CSIは、無線通信の物理層(PHY層)における電力特性を表し、マルチパス信号の特性の詳細な識別を可能にする。CSIは、送信装置20から受信装置30までマルチパスで伝搬した搬送波の振幅及び位相の変化を表す情報を含む。
【0025】
比較例として、データリンク層(MAC層)で得られる受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)によって搬送波が表されるとする。RSSIは、マルチパス信号の重畳であるため、マルチパスフェージングによる影響を受けやすい。その結果、RSSIは、伝搬路に多数の物体が存在する等の複雑な環境において劣化しやすく、CSIと比較してマルチパス信号の特性を表しにくい。
【0026】
本実施形態において、受信装置30で搬送波を受信して得られた信号を表す情報としてCSIが用いられるとする。
【0027】
CSIは、各サブキャリアについて生成され得る。例えば、i番目のサブキャリアに関するCSIは、以下の式(1)で表され得る。
【数1】
ここで、Kはマルチパスの数を表す。r及びτはそれぞれk番目のマルチパスからの複素減衰量及び伝搬遅延を表す。fはi番目のサブキャリアの中心周波数を表す。
【0028】
<CSIと位置情報との関係>
上述したように、マルチパスは、搬送波が物体で反射することによって生じ得る。また、CSIは、マルチパスの情報を含む。したがって、マルチパスの情報を含むCSIに基づいて、搬送波を反射した物体の位置が推定され得る。位置を推定する対象となる物体は、位置推定対象とも称される。位置推定対象の位置は、受信装置30から位置推定対象までの距離と、受信装置30から見た位置推定対象の方向とに基づいて特定される。
【0029】
<<フレネルゾーン>>
受信装置30から位置推定対象までの距離を推定するために、フレネルゾーンと位置推定対象との関係が用いられ得る。フレネルゾーンは、無線通信の搬送波が送信装置20から受信装置30まで電力損失をすることなく到達するために必要となる空間に対応する。言い換えれば、フレネルゾーンの中に障害物が存在する場合、送信装置20から受信装置30まで搬送波が伝搬する際に電力損失が生じる。その結果、搬送波の信号強度が確保されなくなる。
【0030】
フレネルゾーンは、送信装置20と受信装置30とを焦点とする回転楕円体として表され得る。図2に示されるように、搬送波は、点Qに障害物が存在する場合、送信装置20の点Tから受信装置30の点Rまで直線で到達する伝搬路と、点Tから点Qで反射して点Rまで到達する伝搬路とに分かれて伝搬する。
【0031】
ここで、点Tから点Rまで直線で結ぶ距離と、点Tから点Qまでの距離と点Qから点Rまでの距離との和との差によって、点Tから点Rまで直線で到達する搬送波と、点Tから点Qで反射して点Rまで到達する搬送波との間に位相差が生じる。伝搬路の距離の差に基づく位相差は、2π×(|TQ|+|QR|-|TR|)/λという式で表される。|TQ|+|QR|は、点Tから点Qを経由して点Rまで到達する伝搬路の距離を表す。|TR|は、点Tから点Rまで直線で結ぶ伝搬路の距離を表す。
【0032】
また、搬送波が点Q1に存在する障害物で反射したときに搬送波の位相がπだけ変化することによって、点Tから点Rまで直線で到達する搬送波と、点Tから点Q1で反射して点Rまで到達する搬送波との位相差がπだけ生じる。
【0033】
以上のことから、点Tから点Rに直接到達する搬送波と、点Tから点Qで反射して点Rに到達する搬送波との位相差は、2π×(|TQ|+|QR|-|TR|)/λ+πという式で表される。位相差が2πの自然数倍(πの偶数倍)になった場合、2つの伝搬路で点Rに到達する搬送波は互いに強め合う。その結果、受信装置30で搬送波を受信して得られるCSIの強度が大きくなる。一方で、位相差が2πの自然数倍にπを加えた値(πの奇数倍)になった場合、2つの伝搬路で点Rに到達する搬送波は互いに弱め合う。その結果、受信装置30で搬送波を受信して得られるCSIの強度が小さくなる。言い換えれば、回転楕円面の長軸方向の径が|TR|+nλ/2となる回転楕円面の上に点Qが位置する場合に、搬送波が強め合ったり弱め合ったりし得る。nが奇数である場合、搬送波が強め合う。nが偶数である場合、搬送波が弱め合う。
【0034】
nが1である場合の回転楕円面の内側の領域は、第1フレネルゾーンとも称される。送信装置20から受信装置30まで伝搬する搬送波のエネルギーのうち70%以上のエネルギーが第1フレネルゾーンの中だけを通って伝搬される。図2において、nが1である場合の回転楕円面は、境界301として表される。第1フレネルゾーンは、境界301の内側の領域301Zとして表される。
【0035】
nが2である場合の回転楕円面の内側、かつ、nが1である場合の回転楕円面よりも外側の領域は、第2フレネルゾーンとも称される。nがmである場合の回転楕円面の内側、かつ、nがm-1である場合の回転楕円面よりも外側の領域は、第mフレネルゾーンとも称される。図3に示されるように、第1フレネルゾーンに対応する領域301Zの外側に、第2フレネルゾーンに対応する領域302Zが存在する。また、第2フレネルゾーンに対応する領域302Zの外側に、第3フレネルゾーンに対応する領域303Zが存在する。さらに外側に、第mフレネルゾーンに対応する領域30mZが存在する。第1フレネルゾーンは、外側の境界301で特定される。第2フレネルゾーンは、外側の境界302で特定される。第mフレネルゾーンは、外側の境界30mで特定される。
【0036】
図3に例示される配置において、物体40が第mフレネルゾーンから第1フレネルゾーンに向けて移動すると仮定する。受信装置30が搬送波を受信して得られるCSIの強度は、図4のグラフに例示されるように、物体40の位置に応じて変化する。図4のグラフにおいて縦軸はCSIの強度を表す。横軸は物体40の位置を表す。横軸の左側は第mフレネルゾーンが位置する外縁の側に対応する。横軸の右側は第1フレネルゾーンが位置する中心の側に対応する。例えば、物体40が図3の第2フレネルゾーンの外側の境界302の上の点P2に位置する場合、搬送波が弱め合うことによって、CSIの強度が極小値となっている。物体40が図3の第1フレネルゾーンの外側の境界301の上の点P1に位置する場合、搬送波が強め合うことによって、CSIの強度が極大値となっている。
【0037】
後述するように、物体40を位置対象推定物として、物体40の影響を受けた搬送波のCSIの強度の大きさに基づいて、各フレネルゾーンの境界と物体40の位置との関係が推定され得る。つまり、位置推定対象の影響を受けた搬送波のCSIに基づいて位置推定対象の位置が推定され得る。
【0038】
<<搬送波の到来角度(AoA)>>
受信装置30から見た位置推定対象の方向は、位置推定対象の影響を受けた搬送波の到来角度(AoA)として推定され得る。図5に例示されるように、受信装置30は、第1アンテナ31、第2アンテナ32、及び第Mアンテナ3Mを含むアンテナアレーを備えてよい。アンテナアレーの各アンテナは、同一直線上に配置されている。第1アンテナ31と第2アンテナ32との間隔はdであるとする。また、他の隣接するアンテナの間隔は同様にdであるとする。ここで、アンテナアレーが配置されている直線を含む平面の法線に対してθだけ傾斜した方向から搬送波が入射する場合、第2アンテナ32に入射する搬送波は、第1アンテナ31に入射する搬送波よりもdsinθだけ長い距離を伝搬する。伝搬する距離の違いによって、第2アンテナ32で受信した搬送波の位相は、第1アンテナ31で受信した搬送波の位相よりもdsinθ/λだけ遅れる。λは搬送波の波長を表す。したがって、各アンテナのCSIに含まれる位相の情報に基づいて、搬送波がアンテナアレーに入射する角度が推定され得る。
【0039】
d及びλの値は固定値である。k番目のマルチパスは、複素減衰量aと、アンテナアレーに入射する角度θとによって一意に特定される。M個のアンテナを備えるアンテナアレーにおける位相シフトベクトルは、以下の式(2)で表される。
【数2】
ここでΛ(θ)=exp(-2πdcosθ/λ)である。
【0040】
搬送波がマルチパスでアンテナアレーに入射する場合、マルチパスの各伝搬路について位相シフトベクトルが定まる。マルチパスの全ての伝搬路の位相シフトベクトルを結合することによって、以下の式(3)で表される行列式が与えられる。
【数3】
ここで、s(θ)はステアリングベクトルとも称される。Sはステアリング行列とも称される。
【0041】
全ての伝搬路で伝搬してきた搬送波をアンテナアレーで受信したときの受信信号ベクトルyは、重ね合わせの原理によって、y=Saと表される。ここで、a=[a,a,・・・,aである。
【0042】
以上の内容を3本のアンテナを有する受信装置30に当てはめた場合、各アンテナで受信した各サブキャリアについて減衰と位相シフトとを反映したCSIが取得される。例えば3本のアンテナで30個のサブキャリアを受信する場合、以下の式(4)で表されるCSI行列が取得される。
【数4】
ここで、csi1,1は、1番目のアンテナの1番目のサブキャリアにおけるCSIの値を表す。csi3,30は、3番目のアンテナの30番目のサブキャリアにおけるCSIの値を表す。1番目、2番目又は3番目のアンテナは、第1アンテナ31、第2アンテナ32又は第3アンテナ33のいずれに対応してもよい。
【0043】
上述の式(4)の各列は、受信信号ベクトルを表すy=Saに対応づけられ得る。つまり、実際に取得した式(4)のようなCSIに受信信号ベクトルを当てはめ、MUSICアルゴリズムに基づいて信号と雑音空間との直交性を利用して固有値展開問題を解くことによって、搬送波の到来方向(AoA)が推定され得る。
【0044】
以上のことから、位置推定対象の影響を受けた搬送波のCSIに基づいて、受信装置30から見た位置推定対象の方向が推定され得る。
【0045】
<概要の小括>
以上述べてきたように、位置推定システム1において、位置推定装置10は、位置推定対象の影響を受けた搬送波のCSIに基づいて、フレネルゾーンの境界に対する位置推定対象の位置関係と受信装置30から見た位置推定対象の方向とを推定し、位置推定対象の位置を推定できる。
【0046】
以下、位置推定システム1の構成例及び動作例が詳細に説明される。
【0047】
(位置推定システム1の構成例)
上述したように、本開示の一実施形態に係る位置推定システム1は、位置推定装置10と、送信装置20と、受信装置30とを備える。
【0048】
<位置推定装置10>
図1に示されるように、位置推定装置10は、制御部12と、インタフェース14とを備える。
【0049】
制御部12は、位置推定装置10の少なくとも1つの構成部を制御する。制御部12は、1つ以上のプロセッサを含んで構成されてよい。プロセッサは、CPU(central processing unit)又はGPU(graphics processing unit)等を含んで構成されてよい。制御部12は、FPGA(field-programmable gate array)等のプログラマブル回路、又は、ASIC(application specific integrated circuit)等の専用回路を含んで構成されてよい。制御部12は、これらを任意に組み合わせて構成されてよい。
【0050】
位置推定装置10は、記憶部を更に備えてよい。記憶部は、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等を含んで構成されてよいが、これらに限られない。記憶部は、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。記憶部は、磁気ディスク等の電磁記憶媒体を含んで構成されてよい。記憶部は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体を含んで構成されてよい。記憶部は、位置推定装置10の動作に用いられる任意の情報又はプログラムを格納する。記憶部は、例えばシステムプログラム又はアプリケーションプログラム等を格納してよい。記憶部は、制御部12に含まれてもよいし、制御部12と別体で構成されてもよい。
【0051】
インタフェース14は、制御部12から情報又はデータ等を出力したり、制御部12に情報又はデータ等を入力したりする。インタフェース14は、受信装置30からCSIを取得するネットワークアダプタ等を含んで構成されてよい。インタフェース14は、CSIを取得するネットワークアダプタ等を接続可能なコネクタを含んで構成されてもよい。
【0052】
インタフェース14は、例えば物体40の位置情報の推定結果を収集する機器等の他の機器と通信可能に構成される通信モジュールを含んでよい。通信モジュールは、例えば4G(4th Generation)又は5G(5th Generation)等の移動体通信規格に対応してよい。通信モジュールは、LAN(Local Area Network)等の通信規格に対応してもよい。通信モジュールは、有線又は無線の通信規格に対応してもよい。通信モジュールは、これらに限られず、種々の通信規格に対応してよい。インタフェース14は、通信モジュールに接続可能に構成されてもよい。
【0053】
インタフェース14は、ユーザから情報又はデータ等の入力を受け付ける入力デバイスを含んで構成されてよい。入力デバイスは、例えば、タッチパネル若しくはタッチセンサ、又はマウス等のポインティングデバイスを含んで構成されてよい。入力デバイスは、物理キーを含んで構成されてもよい。入力デバイスは、マイク等の音声入力デバイスを含んで構成されてもよい。
【0054】
インタフェース14は、ユーザに対して情報又はデータ等を出力する出力デバイスを含んで構成されてよい。出力デバイスは、例えば、画像又は文字若しくは図形等の視覚情報を出力する表示デバイスを含んでよい。表示デバイスは、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ若しくは無機ELディスプレイ、又は、PDP(Plasma Display Panel)等を含んで構成されてよい。表示デバイスは、これらのディスプレイに限られず、他の種々の方式のディスプレイを含んで構成されてよい。表示デバイスは、LED(Light Emitting Diode)又はLD(Laser Diode)等の発光デバイスを含んで構成されてよい。表示デバイスは、他の種々のデバイスを含んで構成されてよい。出力デバイスは、例えば、音声等の聴覚情報を出力するスピーカ等の音声出力デバイスを含んでよい。出力デバイスは、これらの例に限られず、他の種々のデバイスを含んでよい。
【0055】
位置推定装置10は、例えばノートPC(Personal Computer)又はタブレットPC等のPCとして構成されてよい。位置推定装置10は、スマートフォン又はタブレット等の携帯端末として構成されてもよい。位置推定装置10は、1つ又は互いに通信可能な複数のサーバ装置を含んで構成されてもよい。位置推定装置10は、これらの例に限られず、他の種々の形態で構成されてよい。
【0056】
<送信装置20及び受信装置30>
送信装置20は、少なくとも1本の送信アンテナを備える。送信装置20は、送信アンテナで送信する搬送波の信号を生成する信号生成装置を備えてよい。送信装置20は、搬送波に情報又はデータを載せるように変調する変調装置を備えてよい。送信装置20は、外部の信号生成装置から搬送波又は変調波の信号を取得して送信アンテナから送信するように構成されてよい。
【0057】
搬送波は、複数のサブキャリアを含んでよい。送信装置20は、複数のサブキャリアそれぞれの信号を生成し、送信アンテナから送信してよい。
【0058】
送信装置20は、送信した搬送波の振幅に関する情報を位置推定装置10に出力してよい。搬送波が複数のサブキャリアを含む場合、送信装置20は、各サブキャリアの振幅に関する情報を位置推定装置10に出力してよい。
【0059】
受信装置30は、少なくとも1本の受信アンテナを備える。受信装置30は、送信装置20から送信された搬送波を受信アンテナで受信する。受信装置30は、第1アンテナ31、第2アンテナ32及び第3アンテナ33を含んでよい。つまり、図1及び図2に例示される構成において、受信装置30は、3本の受信アンテナを備える。受信装置30が備える受信アンテナの数は、3本に限られず、1本であってもよいし2本であってもよいし4本以上であってもよい。
【0060】
受信装置30は、受信した搬送波又は変調波に載せられている情報又はデータを取得するように、搬送波又は変調波を復調する復調装置を備えてよい。受信装置30は、受信した搬送波又は変調波の信号を外部の復調装置に出力するように構成されてもよい。
【0061】
受信装置30は、マルチパスで伝搬してきた搬送波について、各伝搬路を伝搬してきた搬送波が混じったままで受信してもよいし、各伝搬路を伝搬してきた搬送波に分けて受信してもよい。搬送波が複数のサブキャリアを含む場合、受信装置30は、複数のサブキャリアをまとめて受信してもよいし、各サブキャリアを分けて受信してもよい。
【0062】
受信装置30は、受信した搬送波の信号をそのまま位置推定装置10に出力してよい。受信装置30は、受信した搬送波の信号からCSIを生成し、生成したCSIを位置推定装置10に出力してよい。
【0063】
具体的に、受信装置30は、各伝搬路を伝搬してきた搬送波の位相に関する情報を生成してよい。受信装置30は、送信装置20から送信されたときの搬送波の振幅に関する情報と実際に受信した搬送波の振幅とに基づいて、各伝搬路における搬送波の減衰率に関する情報を生成してよい。受信装置30は、各伝搬路における減衰率及び位相の情報を含むCSIを生成してよい。搬送波が複数のサブキャリアを含む場合、受信装置30は、各サブキャリアについてCSIを生成してよい。
【0064】
受信装置30は、複数の受信アンテナを備える場合、各受信アンテナについてCSIを生成し、位置推定装置10に出力してよい。受信装置30は、各受信アンテナで受信した搬送波をそのまま位置推定装置10に出力してよい。
【0065】
送信装置20及び受信装置30は、例えば、IEEE802.11n規格の無線通信で用いられる搬送波のCSIを取得できるように構成されてよい。送信装置20又は受信装置30は、他の種々の規格の無線通信で用いられる搬送波のCSIを取得できるように構成されてよい。
【0066】
送信装置20及び受信装置30は、例えば、OFDM(直交周波数分割多重)の複数のサブキャリアの全部又は少なくとも一部のサブキャリアのCSIを取得できるように構成されてよい。
【0067】
送信装置20及び受信装置30は、受信装置30がX本の受信アンテナを有し、かつ、搬送波がY個のサブキャリアを含む場合、X×Y通りの組み合わせのそれぞれについてCSIを取得できるように構成されてよい。送信装置20及び受信装置30は、X×Y通りの組み合わせのうち全部又は少なくとも一部の組み合わせについてCSIを取得できるように構成されてよい。
【0068】
受信装置30は、上述したフレネルゾーンの境界と物体40との位置関係を推定するための受信アンテナと、上述した到来角度(AoA)を推定するための受信アンテナとを共通の受信アンテナとして備えてよい。受信装置30は、フレネルゾーンの境界と物体40との位置関係を推定するための受信アンテナと、到来角度(AoA)を推定するための受信アンテナとを別々の受信アンテナとして備えてもよい。
【0069】
(位置推定の動作例)
位置推定装置10の制御部12は、CSIに基づいて位置推定対象の位置を推定する。以下、位置推定の動作例が説明される。
【0070】
<CSIの取得>
制御部12は、CSIを取得する。制御部12は、受信装置30からCSIを取得してよい。制御部12は、受信装置30で受信した搬送波の信号を受信装置30から取得してCSIを制御部12自身で生成することによってCSIを取得してもよい。
【0071】
具体的に、制御部12は、受信装置30で受信した搬送波の信号を受信装置30から取得するとともに送信時の搬送波の振幅に関する情報を送信装置20から取得し、送信時の振幅と受信時の振幅とに基づいて各伝搬路の減衰率に関する情報を生成してよい。また、制御部12は、受信装置30で受信した搬送波の信号に基づいて各伝搬路における位相の情報を生成してよい。制御部12は、各伝搬路の減衰率及び位相に関する情報を含むCSIを生成してよい。
【0072】
<データキャリブレーション>
CSIは、直流成分又は外れ値等のノイズとなる情報を含み得る。制御部12は、CSIに対してフィルタを適用することによって、ノイズとなる情報を除去してよい。制御部12は、フィルタとして、例えばHampelフィルタを適用してよい。制御部12は、一度大きな窓サイズでスライディングウィンドウ付きのHampelフィルタを適用した後で、トレンド除去を行ってよい。制御部12は、窓サイズを小さくして再度Hampelフィルタを適用し、最初に除去しきれなかったノイズを除去してよい。制御部12は、Savitzky-Golayフィルタを更に適用して外れ値の平滑化を実行してもよい。制御部12は、後工程における計算の複雑さを軽減するためにダウンサンプリングを行ってもよい。
【0073】
<サブキャリアの選択>
搬送波に含まれる複数のサブキャリアのそれぞれは、位置推定対象の影響を受け得る。その結果、各サブキャリアのCSIは、位置推定対象の位置情報を含み得る。複数のサブキャリアのうち、一部のサブキャリアは、位置推定対象の位置情報を多く含む。一方で、他の一部のサブキャリアは、位置推定対象の位置情報をほとんど含まないことがある。
【0074】
後述する位置情報の推定において、位置推定対象の位置情報を多く含むサブキャリアのCSIに基づく位置推定対象の位置の推定精度は、位置推定対象の位置情報をあまり含まないサブキャリアのCSIに基づく位置推定対象の位置の推定精度よりも高められ得る。制御部12は、位置推定対象の位置情報を多く含むサブキャリアを選択し、選択したサブキャリアのCSIに基づいて位置推定対象の位置を推定してよい。
【0075】
例えば、制御部12は、各サブキャリアのCSIを自己相関関数で評価し、自己相関値の分散を用いて位置推定対象の位置情報に対するサブキャリアのCSIの感度を評価してよい。位置推定対象が周期的に動いている場合に、制御部12は、高い周期性を有するサブキャリアのCSIを用いて位置推定対象の位置を推定してよい。制御部12は、CSIの周期性を評価するために、CSIの自己相関値を算出し、自己相関値の分散が大きいCSIを、位置推定対象の位置情報を多く含むサブキャリアのCSIとして選択してよい。
【0076】
<フレネルゾーンの境界に対する位置推定対象の位置の推定>
制御部12は、選択したサブキャリアのCSIに基づいてフレネルゾーンの境界に対する物体40(位置推定対象)の位置を推定してよい。制御部12は、フレネルゾーンの境界から位置推定対象までの距離を推定してよい。制御部12は、位置推定対象がフレネルゾーンの境界に対して内側又は外側のどちらに位置するか推定してよい。以下、具体的な推定動作例が説明される。
【0077】
受信装置30は、第1アンテナ31と、第2アンテナ32と、第3アンテナ33とを備えるとする。フレネルゾーンの境界の位置は、各受信アンテナに対応して定まる。例えば図6に示されるように、第1アンテナ31の位置に基づく第2フレネルゾーンの境界312と、第2アンテナ32の位置に基づく第2フレネルゾーンの境界322と、第3アンテナ33の位置に基づく第2フレネルゾーンの境界332とが定まる。境界312に対応する回転楕円面の長軸は、送信装置20と第1アンテナ31とを結ぶ直線31Lに対応する。境界322に対応する回転楕円面の長軸は、送信装置20と第2アンテナ32とを結ぶ直線32Lに対応する。境界332に対応する回転楕円面の長軸は、送信装置20と第3アンテナ33とを結ぶ直線33Lに対応する。
【0078】
制御部12は、送信装置20と受信装置30との位置関係で定まる、フレネルゾーンの境界に対する物体40(位置推定対象)の位置とCSIの強度との関係(図4のグラフ参照)を取得する。物体40の位置とCSIの強度との関係は、第1アンテナ31、第2アンテナ32及び第3アンテナ33のそれぞれにおいて共通しているとする。制御部12は、各受信アンテナで取得したCSIの強度を、図4に例示されるグラフに当てはめ、各受信アンテナのフレネルゾーンの境界から物体40までの距離を算出してよい。
【0079】
ここで、位置推定対象である物体40は、例えば図7に例示されるように、第1アンテナ31の第2フレネルゾーンの境界312、第2アンテナ32の第2フレネルゾーンの境界322、及び第3アンテナ33の第2フレネルゾーンの境界332のそれぞれに対して、交差する方向に移動すると仮定する。この場合、各受信アンテナの第2フレネルゾーンの境界から物体40までの距離は、物体40の移動に伴って変化する。距離の変化によって、図8に示されるように各受信アンテナのCSIの強度が変化する。図8のグラフにおいて横軸は時刻を表す。縦軸はCSIの強度を表す。制御部12は、CSIの強度の波形の振幅を、CSIの強度が変化する範囲として算出する。第1アンテナ31のCSIの強度の波形は実線で表される。第1アンテナ31のCSIの強度の極大値及び極小値は31U及び31Lと表される。第2アンテナ32のCSIの強度の波形は破線で表される。第2アンテナ32のCSIの強度の極大値及び極小値は32U及び32Lと表される。第3アンテナ33のCSIの強度の波形は一点鎖線で表される。第3アンテナ33のCSIの強度の極大値及び極小値は33U及び33Lと表される。
【0080】
制御部12は、物体40の位置とCSIの強度との関係に基づいて、CSIの強度の極大値から極小値までの範囲に対応する物体40の位置を算出する。ここで、図9として、図4のグラフのうち第2フレネルゾーンの境界に対応する点P2の付近を拡大したグラフが示される。図9のグラフにおいて縦軸はCSIの強度を表す。横軸は物体40の位置を表す。横軸の右側は第1フレネルゾーンの境界に近づく側に対応する。第1アンテナ31のCSIの強度の変動幅は、31Rで表される。第2アンテナ32のCSIの強度の変動幅は、32Rで表される。第3アンテナ33のCSIの強度の変動幅は、33Rで表される。
【0081】
図9のグラフにおいて、第2フレネルゾーンの境界に対応する点P2から第1アンテナ31のCSIの強度の極小値である31Lに対応する点までの距離は、D11で表される。点P2から第1アンテナ31のCSIの強度の極大値である31Uに対応する点までの距離は、D12で表される。制御部12は、第1アンテナ31のCSIの強度の振幅に基づいて、D11及びD12を算出できる。制御部12は、算出したD11及びD12を図7の位置関係に当てはめて、第1アンテナ31の第2フレネルゾーンの境界312から物体40までの距離を算出できる。第1アンテナ31の第2フレネルゾーンの境界312から物体40の移動範囲の中心位置までの距離は、(D11+D12)/2で算出される。
【0082】
また、点P2から第2アンテナ32のCSIの強度の極小値である32Lに対応する点までの距離は、D21で表される。点P2から第2アンテナ32のCSIの強度の極大値である32Uに対応する点までの距離は、D22で表される。制御部12は、第2アンテナ32のCSIの強度の振幅に基づいて、D21及びD22を算出できる。制御部12は、算出したD21及びD22を図7の位置関係に当てはめて、第2アンテナ32の第2フレネルゾーンの境界322から物体40までの距離を算出できる。第2アンテナ32の第2フレネルゾーンの境界322から物体40の移動範囲の中心位置までの距離は、(D21+D22)/2で算出される。
【0083】
また、点P2から第3アンテナ33のCSIの強度の極小値である33Lに対応する点までの距離は、D31で表される。点P2から第3アンテナ33のCSIの強度の極大値である33Uに対応する点までの距離は、D32で表される。制御部12は、第3アンテナ33のCSIの強度の振幅に基づいて、D31及びD32を算出できる。制御部12は、算出したD31及びD32を図7の位置関係に当てはめて、第3アンテナ33の第2フレネルゾーンの境界332から物体40までの距離を算出できる。第3アンテナ33の第2フレネルゾーンの境界332から物体40の移動範囲の中心位置までの距離は、(D31+D32)/2で算出される。
【0084】
制御部12は、第1アンテナ31、第2アンテナ32又は第3アンテナ33のうち1つのアンテナについて第2フレネルゾーンの境界から物体40までの距離を算出してよい。制御部12は、第1アンテナ31、第2アンテナ32又は第3アンテナ33のうち2つ以上のアンテナについて第2フレネルゾーンの境界から物体40までの距離を算出してよい。制御部12は、各アンテナについての第2フレネルゾーンの境界から物体40までの距離の算出結果に基づいて、物体40の位置を、第2フレネルゾーンの境界に交差する方向の座標として算出してよい。制御部12は、各アンテナについて算出した物体40の座標の平均値、中央値、又は、最小値若しくは最大値等を物体40の座標の推定値として決定してよい。
【0085】
制御部12は、2つ以上のアンテナについてCSIの強度の変化を取得することによって、物体40が第2フレネルゾーンの境界に対して中心側に位置するか外縁側に位置するか推定できる。制御部12は、例えば、第1アンテナ31のCSIの強度の位相と第2アンテナ32のCSIの強度の位相とが逆になっている場合(πだけずれている場合)、物体40が、第1アンテナ31の第2フレネルゾーンの境界312と第2アンテナ32の第2フレネルゾーンの境界322との間に位置すると推定してよい。制御部12は、例えば、第1アンテナ31のCSIの強度の位相と第2アンテナ32のCSIの強度の位相とが同じ場合、物体40が第1アンテナ31の第2フレネルゾーンの境界312よりも外縁側、又は、第2アンテナ32の第2フレネルゾーンの境界322よりも中心側のいずれかに位置すると推定してよい。
【0086】
制御部12は、2つ以上のアンテナについて第2フレネルゾーンの境界から物体40までの距離を算出することによって、物体40が第2フレネルゾーンの境界に対して中心側に位置するか外縁側に位置するか推定できる。制御部12は、例えば、境界312から物体40までの距離と境界322から物体40までの距離との差の絶対値が境界312と境界322との間隔よりも小さい場合、物体40が境界312と境界322との間に位置すると推定してよい。制御部12は、例えば、境界312から物体40までの距離と境界322から物体40までの距離との差の絶対値が境界312と境界322との間隔に略一致し、かつ、境界312から物体40までの距離が境界322から物体40までの距離より短い場合、物体40が境界312よりも外縁側に位置すると推定してよい。
【0087】
以上述べてきたように、制御部12は、少なくとも2つのアンテナのCSIの強度に基づいて、位置推定対象の位置を推定できる。言い換えれば、位置推定装置10のインタフェース14は、無線通信の第1受信装置で搬送波を受信して生成された第1チャネル状態情報を取得してよい。第1受信装置は、第1アンテナ31、第2アンテナ32又は第3アンテナ33のうちいずれかの受信アンテナに対応する。また、インタフェース14は、無線通信の第2受信装置で搬送波を受信して生成された第2チャネル状態情報を取得してよい。第2受信装置は、第1アンテナ31、第2アンテナ32又は第3アンテナ33のうち、第1受信装置に対応する受信アンテナ以外のいずれかの受信アンテナに対応する。
【0088】
位置推定装置10の制御部12は、第1チャネル状態情報及び第2チャネル状態情報に基づいて、位置推定対象の位置を推定してよい。また、制御部12は、第1チャネル状態情報及び第2チャネル状態情報に基づいて、位置推定対象がフレネルゾーンの境界に対して内側又は外側のどちらに位置するか推定してよい。
【0089】
<受信装置30から見た位置推定対象の方向の推定>
制御部12は、選択したサブキャリアのCSIに基づいて、受信装置30から見た位置推定対象の方向を推定してよい。制御部12は、位置推定対象の方向として、送信装置20から位置推定対象を経由して受信装置30に到達する搬送波の到来角度(AoA)を推定してよい。
【0090】
受信装置30が第1アンテナ31と第2アンテナ32と第3アンテナ33とを備える場合、制御部12は、CSIに基づいて各受信アンテナで受信したサブキャリアの位相差を算出してよい。制御部12は、各受信アンテナで受信したサブキャリアの位相差と、各受信アンテナの間隔とに基づいて、サブキャリアの到来角度を算出してよい。
【0091】
受信アンテナが一直線上に並ぶ場合、受信アンテナが並ぶ直線に沿ってサブキャリアが到来する場合に、到来角度の変化に対するサブキャリアの位相差の感度が低くなる。受信装置30は、受信アンテナが格子状に並ぶアレーアンテナとして構成されてよい。受信アンテナが格子状に並ぶことによって、サブキャリアが到来する方向にかかわらず、受信アンテナが並ぶ方向に対するサブキャリアの到来角度が45度以上になり得る。サブキャリアの到来角度が45度以上となることによって、到来角度の変化に対するサブキャリアの位相差の感度が低下しにくくなる。
【0092】
<フローチャート例>
本実施形態に係る位置推定装置10の制御部12は、物体40(位置推定対象)の位置を推定するために、例えば図10に示されるフローチャートの手順を含む位置推定方法を実行してよい。位置推定方法は、制御部12に実行させる位置推定プログラムとして実現されてもよい。位置推定プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体に格納されてよい。
【0093】
制御部12は、CSIを取得する(ステップS1)。制御部12は、CSIに対してデータキャリブレーションを実行する(ステップS2)。制御部12は、サブキャリアを選択する(ステップS3)。
【0094】
制御部12は、選択したサブキャリアのCSIに基づいて、フレネルゾーンの境界から物体40(位置推定対象)までの距離を推定する(ステップS4)。制御部12は、選択したサブキャリアのCSIに基づいて、物体40(位置推定対象)から受信装置30へのサブキャリアの到来角度(AoA)を推定する(ステップS5)。制御部12は、フレネルゾーンの境界から物体40(位置推定対象)までの距離の推定結果と、物体40(位置推定対象)から受信装置30へのサブキャリアの到来角度(AoA)の推定結果とに基づいて物体40(位置推定対象)の位置を推定する(ステップS6)。制御部12は、物体40(位置推定対象)の位置の推定結果を外部装置へ出力する(ステップS7)。制御部12は、ステップS7の手順の実行後、図10のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0095】
<小括>
以上述べてきたように、本実施形態に係る位置推定システム1において、位置推定装置10の制御部12は、物体40(位置推定対象)の影響を受けたCSIを取得し、CSIの振幅に基づいてフレネルゾーンの境界に対する物体40(位置推定対象)の位置を推定する。また、制御部12は、CSIの位相差に基づいて受信装置30から見た物体40(位置推定対象)の方向を推定する。制御部12は、物体40(位置推定対象)のフレネルゾーンの境界に対する距離と、受信装置30から見た物体40(位置推定対象)の方向とに基づいて、物体40(位置推定対象)の位置を推定する。
【0096】
比較例として、位置推定対象までの距離をToFで測定する手法が考えられる。しかし、ToFによる距離測定の精度は、無線通信で用いる搬送波の周波数帯域幅に依存する。一方で、本実施形態に係る位置推定システム1は、周波数帯域幅が狭い無線通信方式であってもフレネルゾーンの境界に対する位置推定対象の位置を推定できる。その結果、搬送波の周波数帯域幅にかかわらず位置推定対象の位置が推定され得る。
【0097】
また、他の比較例として、サブキャリア毎に全体の減衰量と位相差とを推定することによって位置推定対象からの搬送波の到来角度(AoA)を推定する手法が考えられる。しかし、AoAのみで位置を推定するために複数の受信デバイスが必要となる。複数の受信デバイスを備えるシステムは、限られた場面でしか使用できなかったり高価になりすぎたりし得る。一方で、本実施形態に係る位置推定システム1は、フレネルゾーンの境界に対する位置推定対象の位置の推定結果と、AoAの推定結果とを組み合わせることによって、簡便な構成で位置推定対象の位置の推定精度を高め得る。
【0098】
(他の実施形態)
以下、他の実施形態に係る位置推定システム1が説明される。
【0099】
<1本の受信アンテナのCSIに基づく位置推定>
受信装置30が1本の受信アンテナを備える場合、送信装置20から受信装置30まで搬送波が伝搬する場合のフレネルゾーンの境界の位置は、図3に例示されるように、送信装置20及び受信装置30の位置を焦点とする回転楕円面として定まる。
【0100】
制御部12は、図4に例示されるように、CSIの強度と位置推定対象となる物体40の位置との関係を取得する。制御部12は、受信装置30で取得したCSIの強度を、図4に例示されるグラフに当てはめ、CSIの強度に対応する物体40の位置を算出してよい。制御部12は、例えば第2フレネルゾーンの境界に対応する点P2から物体40の位置までの距離を算出してよい。
【0101】
ここで、図11として、図4のグラフのうち第2フレネルゾーンの境界に対応する点P2の付近を拡大したグラフが示される。図11のグラフにおいて縦軸はCSIの強度を表す。横軸は物体40の位置を表す。横軸の右側は第1フレネルゾーンの境界に近づく側に対応する。受信装置30が備える1本の受信アンテナは、第4アンテナとも称される。第4アンテナのCSIの強度の変動幅は、34Rで表される。
【0102】
図11のグラフにおいて、第2フレネルゾーンの境界に対応する点P2から第4アンテナのCSIの強度の極小値である34Lに対応する点までの距離はD41で表される。点P2から第4アンテナのCSIの強度の極大値である34Uに対応する点までの距離はD42で表される。制御部12は、第4アンテナのCSIの強度の振幅に基づいてD41及びD42を算出できる。制御部12は、算出したD41及びD42に基づいて、第4アンテナの第2フレネルゾーンの境界から物体40の移動範囲の中心位置までの距離を、(D41+D42)/2で算出できる。
【0103】
物体40がフレネルゾーンの境界に対して静止している場合、物体40の影響を受けた搬送波のCSIの強度は一定になったりほとんど変動しなかったりする。制御部12は、第4アンテナのCSIの強度の一定又は略一定の値を取得してよい。図11のグラフにおいて、第4アンテナのCSIの強度の一定値は34Cで表される。点P2から第4アンテナのCSIの強度の一定値である34Cに対応する点までの距離はD43で表される。制御部12は、第4アンテナのCSIの強度の一定値に基づいてD43を算出し、第2フレネルゾーンの境界から物体40までの距離をD43と推定してよい。
【0104】
制御部12は、1本の受信アンテナのCSIだけに基づいて物体40の位置を推定する場合、物体40がフレネルゾーンの境界の内側又は外側のどちらの側に位置するかを推定するために、他の情報を必要とする。例えば、制御部12は、物体40からの搬送波の到来角度(AoA)の情報を取得し、物体40がフレネルゾーンの境界のどちら側に位置するか推定してよい。
【0105】
<複数の受信アンテナのCSIの強度変化量に基づく位置推定>
1台の送信装置20に対して複数の受信アンテナが用いられる場合、各受信アンテナのフレネルゾーンの境界が定まる。図12に例示されるように、第1アンテナ31、第2アンテナ32及び第3アンテナ33が用いられる場合、各受信アンテナの第2フレネルゾーンの境界312、322及び332を表す回転楕円面の長軸に対応する直線31L、32L及び33Lは互いに傾く。
【0106】
ここで、送信装置20に近い側に位置する物体40Aから各受信アンテナの第2フレネルゾーンの境界までの距離の差は、受信装置30に近い側に位置する物体40Bから各受信アンテナの第2フレネルゾーンの境界までの距離の差よりも小さい。具体的に、図13A及び図13Bとして、図4のグラフのうち第2フレネルゾーンの境界に対応する点P2の付近を拡大したグラフが示される。図13A及び図13Bのグラフにおいて縦軸はCSIの強度を表す。横軸は物体40の位置を表す。横軸の右側は第1フレネルゾーンの境界に近づく側に対応する。
【0107】
ここで、物体40A及び40Bはフレネルゾーンの境界に対して静止しているとする。図13Aに示されるように、物体40Aに対応する第1アンテナ31、第2アンテナ32及び第3アンテナ33のそれぞれのCSIの強度の一定値は31A、32A及び33Aで表される。図13Bに示されるように、物体40Bに対応する第1アンテナ31、第2アンテナ32及び第3アンテナ33のそれぞれのCSIの強度の一定値は31B、32B及び33Bで表される。
【0108】
制御部12は、各受信アンテナのCSIの強度の一定値に基づいて各受信アンテナのフレネルゾーンの境界から物体40A又は物体40Bまでの距離を算出する。図13Aにおいて、制御部12は、第1アンテナ31、第2アンテナ32及び第3アンテナ33のそれぞれの第2フレネルゾーンの境界から物体40Aまでの距離を、D1A、D2A及びD3Aとして算出する。図13Bにおいて、制御部12は、第1アンテナ31、第2アンテナ32及び第3アンテナ33のそれぞれの第2フレネルゾーンの境界から物体40Bまでの距離を、D1B、D2B及びD3Bとして算出する。
【0109】
制御部12は、物体40が物体40Aの位置に存在するか物体40Bの位置に存在するかを、各受信アンテナのフレネルゾーンの境界から物体40までの距離に基づいて推定できる。制御部12は、各受信アンテナのフレネルゾーンの境界から物体40までの距離として算出した値の間隔が小さい場合に、物体40が物体40Aに近い側(送信装置20に近い側)に位置すると推定してよい。制御部12は、各受信アンテナのフレネルゾーンの境界から物体40までの距離として算出した値の間隔が大きい場合に、物体40が物体40Bに近い側(受信装置30に近い側)に位置すると推定してよい。
【0110】
言い換えれば、制御部12は、第1チャネル状態情報に基づいて第1受信装置のフレネルゾーンの境界から位置推定対象までの第1距離を推定してよい。制御部12は、第2チャネル状態情報に基づいて第2受信装置のフレネルゾーンの境界から位置推定対象までの第2距離を推定してよい。制御部12は、第1距離と第2距離との差に基づいて、位置推定対象が送信装置20又は受信装置30のどちらに近いかを推定してよい。
【0111】
以上述べてきたように、制御部12は、到来角度(AoA)の情報を用いずに、物体40が送信装置20に近い側に位置するか受信装置30に近い側に位置するかを推定できる。その結果、簡便な構成で物体40(位置推定対象)の位置が推定され得る。
【0112】
<フレネルゾーンを動かす構成例>
上述したように、フレネルゾーンの境界に対して位置推定対象が動いている場合、制御部12は、CSIの強度の振幅の情報を取得できる。位置推定対象が静止している場合であっても、制御部12は、フレネルゾーンの境界を動かすことによって、位置推定対象を相対的に動かしてよい。
【0113】
例えば、送信装置20の位置が動くことによって、フレネルゾーンの境界が移動する。また、受信装置30の位置が動くことによっても、フレネルゾーンの境界が移動する。制御部12は、フレネルゾーンの境界が移動するように、送信装置20又は受信装置30の少なくとも一方の位置を制御してよい。
【0114】
フレネルゾーンの境界の位置は、送信装置20及び受信装置30の位置に対して、搬送波の波長に基づいて定まる。例えば、第1フレネルゾーンの境界は、送信装置20及び受信装置30の位置に対して波長の1/2だけ外側に位置する。したがって、搬送波の波長が変化した場合、フレネルゾーンの境界が移動する。
【0115】
制御部12は、フレネルゾーンの境界が移動するように、無線通信の搬送波の波長を制御してよい。例えば、制御部12は、無線通信として無線LANを用いる場合、搬送波の周波数を2.4GHzと5GHzとで切り替えることによって搬送波の波長を2通りに変化させてよい。また、位置推定システム1において、送信装置20は、少なくとも2種類の波長の搬送波を送信するように構成されてよい。送信装置20は、波長が連続的に変化するように搬送波を送信可能に構成されてもよい。
【0116】
以上述べてきたように、制御部12は、位置推定対象が静止している場合であっても、位置推定対象が動いている場合と同様にCSIの強度の振幅の情報を取得し得る。その結果、簡便な構成で位置推定対象の位置の推定精度が高められ得る。
【0117】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0118】
1 位置推定システム
10 位置推定装置(12:制御部、14:インタフェース)
20 送信装置
30 受信装置(31~33:第1~第3アンテナ)
40(40A、40B) 物体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B