(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041012
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】セルロースシート製造装置及びセルロースシート製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/31 20190101AFI20240318BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20240318BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20240318BHJP
B29K 1/00 20060101ALN20240318BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
B29C48/31
B29C48/88
B29C48/08
B29K1:00
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022159806
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】507050001
【氏名又は名称】平井工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 昌夫
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AA01
4F207AG01
4F207AJ02
4F207KA04
4F207KA17
4F207KK54
4F207KL74
4F207KL84
(57)【要約】
【課題】セルロースシート製造装置のダイスの材料として採用されていたスウェーデン鋼に代わる、スウェーデン鋼と同等の耐食性を有する腐食・酸化に強い、新たな構成のダイスを開発すること。
【解決手段】ダイスはダイス本体の下部にリップ部として、1対のリップバーを取り付け、リップバーはリップバー本体と、リップバー本体の少なくとも凝固液側の面をニッケル基合金又はコバルト基合金からなる合金粉末をHIP処理して直接拡散接合させて覆ったHIP層と、で構成し、1対のリップバーはそれぞれ複数の固定ネジによりダイス本体の下部に固定し、1対のリップバーの少なくとも一方は固定ネジ挿入口を長穴に構成し、ダイス本体に設けた複数の調整ネジにより長孔を設けたリップバーをスライドさせて吐出口の間隔を調整できるように構成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、セルロースを含む溶融物をシート状に押し出すダイスと、前記ダイスから連続的に押し出されたシート状の前記溶融物を凝固再生させる酸を含んだ凝固液の槽と、からなるセルロースシート製造装置であって、
前記ダイスはダイス本体の下部に、リップ部として1対のリップバーを取り付け、1対の前記リップバーによって設定された吐出口からシート状の前記溶融物を押し出すように構成し、
前記リップバーはリップバー本体と、前記リップバー本体の少なくとも凝固液側の面をニッケル基合金又はコバルト基合金からなる合金粉末をHIP処理して直接拡散接合させたHIP層と、で構成し、
1対の前記リップバーはそれぞれ複数の固定ネジ挿入口を有し、複数の固定ネジ挿入口に挿入した複数の固定ネジにより前記ダイス本体の下部に固定し、
1対の前記リップバーの少なくとも一方は固定ネジ挿入口を長穴に構成し、前記ダイス本体側に設けた複数の調整ネジにより、長孔を設けた前記リップバーをスライドさせて吐出口の間隔の設定を調整できるように構成した、
ことを特徴とするセルロースシート製造装置。
【請求項2】
リップバー本体はクロムモリブデン鋼からなることを特徴とする請求項1に記載のセルロースシート製造装置。
【請求項3】
リップバー本体はステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1に記載のセルロースシート製造装置。
【請求項4】
リップバー本体はステンレス鋼と、それを覆うクロムモリブデン鋼からなることを特徴とする請求項1に記載のセルロースシート製造装置。
【請求項5】
1対のリップバーはいずれも固定ネジ挿入口を長穴に構成するとともに、リップバーの形状を同一形状としたことを特徴とする請求項1に記載のセルロースシート製造装置。
【請求項6】
請求項1の溶融物は、セロファンを製造するために、パルプを10質量%~30質量%の水酸化アルカリ金属水溶液でアルカリ処理しアルカリセルロースとし、前記アルカリセルロースと二硫化炭素とを反応させてセルロースザンテートし、前記セルロースザンテートを水酸化アルカリ金属水溶液に溶解させて作成したスラリーを少なくとも含む溶融物である、ことを特徴とする請求項1に記載のセルロースシート製造装置。
【請求項7】
請求項1の溶融物は、セルロースナノファイバーを製造するために、パルプを4質量%~9質量%の水酸化アルカリ金属水溶液でアルカリ処理しアルカリセルロースとし、前記アルカリセルロースと二硫化炭素とを反応させてセルロースザンテートし、前記セルロースザンテートを水酸化アルカリ金属水溶液に溶解させて作成したスラリーを少なくとも含む溶融物である、ことを特徴とする請求項1に記載のセルロースシート製造装置。
【請求項8】
請求項1の溶融物は、セルロースナノファイバーを含有したセロファンを製造するために、請求項6で作成した溶融物に、請求項7で作成した溶融物を混合させて作成したスラリーを少なくとも含む溶融物である、ことを特徴とする請求項1に記載のセルロースシート製造装置。
【請求項9】
セルロースを含む溶融物をダイスからシート状に押し出し、前記ダイスから連続的に押し出されたシート状の前記溶融物を、酸を含んだ凝固液により凝固再生させてセルロースシートを製造するセルロースシート製造方法であって、
前記ダイスは、ダイス本体の下部に、リップ部として1対のリップバーを取り付け、
前記リップバーはリップバー本体と、前記リップバー本体の少なくとも凝固液側の面をニッケル基合金又はコバルト基合金からなる合金粉末をHIP処理して直接拡散接合させたHIP層と、で構成し、
1対の前記リップバーの少なくとも一方は前記ダイス本体側に設けた複数の調整ネジによりスライドさせて吐出口の間隔を調整できるように構成し、
間隔が調整された前記ダイスの吐出口からセルロース樹脂を含む前記溶融物をシート状に押し出してセルロースシートを製造する
ことを特徴とするセルロースシート製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はセルロースシート製造装置のダイスに係るものであり、そのダイスを使用したセルロースシート製造装置及びセルロースシート製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックごみを海岸、路上、公園、山中等で廃棄することが常態化し、そのため環境を著しく悪化させ、社会問題化している。ほとんどのプラスチックは生分解されることなく、そのままの形でゴミとして残り、それらが消滅することなくどんどん蓄積されていっているのが現状である。
【0003】
そこで、最近は生分解されるシート(フィルムも含む、以下シートと記載)が注目されるようになった。古くから製品化されている、一般的にはセロファン(セロハン)として知られているセルロースシートもその中の一つである。
社会的な注目に対応させて、新たなセルロースシートの開発も進んでいる。
例えば、特許文献1(特許6254335号公報)には、セルロースナノファイバーや、セルロースナノファイバーを含有させたセロファンなどが記載されている。
したがって、セルロースシートは今まで以上に量産化が期待されていて、安定した供給が要望されている。
【0004】
セルロースシートの製造について、
図6を用いて説明する。
図6は特許文献2(特開平11-60778号公報)に
図1として図示されているものであって、セロファンシートの製造工程が図示されている。
【0005】
図6の液溜槽102にはセルロースを含む溶融物101が供給されている。セルロースを含む溶融物101は、例えば、パルプ、綿、麻等をセルロースの原料として使用したセルロース溶液に添加剤や発泡剤等を加えたものである。セルロースを含む溶融物101は供給ポンプ103によってダイス104に送られる。
【0006】
ダイス104に送られたセルロースを含む溶融液101はダイス104のリップ部の吐出口からシート状に成形されて連続的に押し出され、押し出されたシート状の溶融液は凝固槽106内の凝固液107に浸漬されシート105として凝固再生される。凝固液107は塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸、安息香酸等の有機酸等が使用されるが、この中でも、凝固や発泡が速やかに進行する等の点で塩酸や硫酸が最も使用されている。
【0007】
凝固液107により凝固されたシート105は、駆動ローラ113及びニップローラ114で再生槽109の再生液110の中に送られる。再生槽109はシート105を完全にセルロースに再生するために設けられている。再生液は凝固液107で示した酸類が使用される。やはり、塩酸や硫酸が最も使用されている。尚、凝固槽と再生槽との間には液循環ポンプ108が設けられている。
【0008】
再生されたシート105は、駆動ローラ113及びニップローラ114によって水洗槽111の水112内に送られる。ここで十分に水洗され、次に乾燥工程に送られて、最終的にセルロースシートが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許6254335号公報
【特許文献2】特開平11-60778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のようなセルロースシートの製造において、ダイス104のリップ部は特許文献1の[0033]にも記載されているように一般的にステンレス鋼が採用されている。特に、塩酸や硫酸に強いと言われているSUS316が採用されている場合が多い。あるいは、特殊で高価なスェーデン鋼が採用されている場合もある。そして、ダイス104は凝固液107の飛沫がかかったりしないように、或いは溶融液101が流れ落ちることによりシート105の形状を損なわないように、凝固液の上部にダイスのリップ部の吐出口を向け、その吐出口と凝固液面との距離を調整して設けられている。
【0011】
しかし、現実の問題として、塩酸や硫酸に強いSUS316で作成されたダイス104のリップ部の吐出口が、凝固液として好まれる塩酸や硫酸を含んだ凝固液107の上部に長時間さらされると、塩酸や硫酸によるダイス104の吐出口への影響は避けられず、吐出口は腐食し、キズが形成され、摩耗し、その結果、連続的にシート状に成形して押し出す機能は短期間に障害を起こし、そのため頻繁に製造装置の停止を余儀なくされるという問題があった。また、特殊で高価なスェーデン鋼は手に入れることが困難な場合あり、今後常に入手できる保証がない。
【0012】
本発明の課題は、ステンレス製リップ部に代わる、耐酸性を有する新たなリップ部を開発し、連続的にシート状に成形して押し出す機能の持続性を高め、頻繁に製造装置の停止を余儀なくされることがないセルロースシート製造装置のダイスを開発し、セルロースシート製造装置に採用することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明が新たに開発したセルロースシート製造装置は、新たにセルロースシート製造装置のダイスを開発し、ダイス本体の下部に、リップ部として1対のリップバーを取り付け、1対の前記リップバーにより設定された吐出口からシート状の前記溶融物を押し出すように構成し、前記リップバーはリップバー本体と、リップバー本体の少なくとも凝固液側の面をニッケル基合金又はコバルト基合金からなる合金粉末をHIP処理して直接拡散接合させたHIP層と、で構成し、1対の前記リップバーはそれぞれ複数の固定ネジ挿入口を有し、複数の固定ネジ挿入口に挿入した複数の固定ネジにより前記ダイス本体の下部に固定し、前記1対の前記リップバーの少なくとも一方は固定ネジ挿入口を長穴に構成し、前記ダイス本体側に設けた複数の調整ネジにより、長穴を設けた前記リップバーをスライドさせて吐出口の間隔の設定を調整できるようにしたダイスを採用した、ことを特徴とする。
【0014】
また、リップバー本体はクロムモリブデン鋼からなるセルロースシート製造装置のダイスである。
【0015】
また、リップバー本体はステンレス鋼からなるセルロースシート製造装置のダイスである。
【0016】
また、リップバー本体はステンレス鋼と、それを覆うクロムモリブデン鋼からなるセルロースシート製造装置のダイスである。
【0017】
また、1対のリップバーはいずれも固定ネジ挿入口を長穴に構成するとともに、リップバーの形状を同一形状としたセルロースシート製造装置のダイスである。
【発明の効果】
【0018】
ダイスのリップ部を1対のリップバーで構成し、それぞれのリップバーはリップバー本体の少なくとも凝固液側の面をニッケル基合金又はコバルト基合金からなる合金粉末をHIP処理して直接拡散接合させたHIP層と、で構成しているので、ステンレス鋼以上に硬度がある構成となり、また、ステンレス鋼以上に塩酸や硫酸に対する耐酸性、耐腐食性を有する構成になった。その結果、吐出口にキズが発生することや塩酸や硫酸によって腐食することを抑えることができるので、溶融物を連続的にシート状に成形して押し出すリップ部の機能に障害を起こすことが減少し、リップ部の機能を長期間維持できるから、頻繁にセルロースシート製造装置の停止を余儀なくされるということも少なくなった。なお、リップバー本体の全体をニッケル基合金又はコバルト基合金からなる合金粉末をHIP処理して直接拡散接合させたHIP層の場合は、よりリップ部の機能を長期間維持できる。
【0019】
また、リップバーは一対のリップバーで構成し、リップバー本体の少なくとも凝固液側の面をニッケル基合金又はコバルト基合金からなる合金粉末をHIP処理したHIP層で構成したので、吐出口を構成する一対のリップバーのそれぞれにおいて、吐出口のエッジ部分を均一に構成することができるようになった。そのため、押し出されるシート状の溶融物は高品質になり、その結果、製造されたセルロースシートの不良率をステンレス鋼の場合よりもさらに下げることができるようになった。なお、HIP層は研削加工性にも優れているので、エッジ部分を均一の構成とすることが容易となる。
【0020】
さらに、1対のリップバーはそれぞれ複数の固定ネジによりダイス本体の下部に固定し、1対のリップバーの少なくとも一方は固定ネジ挿入口を長穴に構成し、ダイス本体側に設けた複数の調整ネジにより、長穴を設けたリップバーをスライドさせて吐出口の間隔を調整できるように構成したので、多種にわたるシートの製品に必要な厚さに対応させて吐出口の間隔を調整することができるようになり、吐出口のエッジを均一にできる構成と相まって、現在開発が進んでいるセルロースナノファイバーからなるセルロースシート等や、セルロースナノファイバーを含有したセロファン、あるいは今後さらに新たなセルロースを含むシートが開発されたとしても、多種の製品用の高品質のセルロースシートを多量に製造することが可能となった。
【0021】
また、リップバー本体をステンレス鋼で構成すれば、一般的に3m以上で構成されるリップバーの保形性(湾曲しにくい状態)に優れたリップバーとすることができるが、リップバー本体をクロムモリブデン鋼で構成するよりは高価となる。一方、リップバー本体をクロムモリブデン鋼で構成すれば、リップバー本体をステンレス鋼で構成するよりは相当に安価に製造することができ、また、HIP層との接着性も優れているが、保形性が少し劣ることとなる。これらに対して、リップバー本体をステンレス鋼とそれを覆うクロムモリブデン鋼の二層構成にすれば、HIP層との接着性を優れた状態に保持しながら、ステンレス鋼単体の場合に比べて安価に製造することができるとともに、クロムモリブデン鋼単体の場合に比べて保形性が優れているリップバーを製造することができる。
【0022】
また、1対のリップバーをいずれも固定ネジ挿入口を長穴に構成するとともに、リップバーの形状を同一形状とした構成にすれば、1種類のリップバーを製造すればよいので、製造が効率的になり、また、ダイス本体の下部に1対のリップバーを取り付ける際にも長孔があるかどうかでリップバーを選択する必要もなくなり、取り付けも効率的にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】リップバーの一部を表した図であり、その断面図
【
図4】リップバーの構造を説明するための概略的な断面図
【
図5】HIP層を形成した試作品を硫酸に浸漬させた結果の写真
【
図6】セルロースシートの製造について説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のセルロースシート製造装置のダイスについて、図面を用いて説明する。
【0025】
図1にはダイス1の一部分が図示されていて、ダイス1の構成が分かりやすいように断面図で示している。ダイス1は、ダイス本体2と、ダイス本体2の下部にリップ部3として取り付けられた一対のリップバー4-1,4-2と、から構成されている。
【0026】
ダイス本体2は一般的にFCD(球状黒鉛鋳鉄)、例えばFCD40で構成されるが限定されるものではない。ダイス本体2にはその側面に、液溜槽から供給ポンプにより供給されるセルロースを含む溶融液を受け入れるための供給口8が設けられている。ダイス本体2の下部にはリップ部3として一対のリップバー4-1、4-2がそれぞれ固定ネジ6-1、6-2によって固定され、リップバー4-1とリップバー4-2によってセルロースを含む溶融液の吐出口が形成されている。
【0027】
図2はダイス1の一部を下から見た斜視図であるが、
図2に図示されているように、リップ部3としての一対のリップバーは、第1リップバー4-1,第2リップバー4-2からなり、それぞれのリップバーにはリップバーをダイス本体2の下部に固定するための固定ネジの挿入穴11(
図3参照)が複数形成されていて、第1リップバー4-1は複数の第1固定ネジ6-1によってダイス本体2の下部に固定され、第2リップバー4-2は複数の第2固定ネジ6-2によってダイス本体2の下部に固定される。
【0028】
第1リップバー4-1と第2リップバー4-2とにより、供給口8から取り入れられたセルロースを含む溶融液をシート状にして連続的に押し出すための吐出口7が形成されているが、吐出口の間隔を調整するために、少なくとも第1リップバー4-1の第1固定ネジ6-1の挿入穴11は長穴として形成されている。長穴に形成されているので、第1リップバー4-1はダイス本体2の下部側面に設けられている複数の調整ネジ5によって第2リップバー4-2側にスライドさせることができ、吐出口7の間隔を調整するように構成されている。
【0029】
なお、
図1に図示されているリップバー4-1、4-2のように、いずれも固定ネジ挿入口11を長穴に構成するとともに、リップバー4―1、4-2の形状を同一形状に構成すれば、1種類のリップバーを製造するだけで良いので、リップバーの製造が効率的になり、また、ダイス本体の下部に1対のリップバーを取り付ける際にも長孔があるかどうかでリップバーを選択する必要もなくなり、取り付けも効率的にすることができるようになる。
【0030】
図3はリップバーの一部の斜視図であって、リップバー4の構成を断面図で表している。リップバー4は、一般的には縦40mm、横80mm、長さ3200mm~3500mmで作成される。したがって、ダイス本体2はヒップバー4の大きさに合わせて作成されている。リップバー4の構成はリップバー本体9の全体をHIP層10で覆っている構成である。
【0031】
図4にリップバーの構成を(A)(B)(C)として図示している。
図4はリップバー本体の構成を分かり易く説明するための図であって、厚さやサイズバランスは適当である。(A)として図示されている構成は、リップバー本体9-1としてクロムモリブデン鋼を採用し、その全体をHIP層10で覆っている構成である。(B)として図示されている構成は、リップバー本体9-2としてステンレス鋼を採用し、その全体をHIP層10で覆っている構成である。(C)として図示されている構成は、リップバー本体としてステンレス鋼9-1をクロムモリブデン鋼9-2で被覆している構成を採用し、その全体をHIP層10で覆っている構成である。なお、以下、リップバー本体9の全体をHIP層10で覆っている構成で説明するが、リップバー本体の少なくとも凝固液側の面をニッケル基合金又はコバルト基合金からなる合金粉末をHIP処理して直接拡散接合させたHIP層でもかまわない。
【0032】
(A)として図示されているリップバーの構成では、リップバー本体としてクロムモリブデン鋼を採用しているので、安価にリップバーを製造することができ、またHIP層との接着性が良い。(B)として図示されているリップバーの構成では、リップバー本体としてステンレス鋼を採用しているので、保形性がよく、ダイス本体への取り付けが容易となる。(C)として図示されている構成では、リップバー本体としてステンレス鋼をクロムモリブデン鋼で被覆している構成を採用しているので、(B)の構成より安価にリップバーを製造することができ、またHIP層との接着性が良い。そして、(A)の構成よりも保形性に優れているので、ダイス本体への取り付けが容易となる。
【0033】
リップバーの保形性に関して、リップバー4をダイス本体2の下部に取り付ける容易性で言えば、例えばダイス本体2がFCD40で構成されているのであれば、リップバー本体9に鉄を含有させていれば、リップバー4をダイス本体2に磁気固定が可能になるので取り付けが容易となる。
【0034】
なお、リップバー4をハステロイ、例えば塩酸や硫酸に強いハステロイC-276で構成することも考えられるが、加工性が悪く、吐出口のエッジ部分を均一に作成するのが難しく、また硬度も低いので傷つきやすく、本発明のリップバーとしては採用しない。
【0035】
HIP層10はニッケル基合金又はコバルト基合金からなる合金粉末をHIP処理してリップバー本体に直接拡散接合させて形成する。その厚さは3mm~5mm程度である。例えば、HIP層を形成する合金粉末は、Ni-Cr-Si-B系ニッケル基合金からなる合金粉末、又はCo-Cr-Si-B系コバルト基合金からなる合金粉末である。このような合金粉末をHIP処理により直接拡散接合させてHIP層を形成している。このような合金粉末よってできたHIP層はHRC57-62であった。
【0036】
また、HIP層を形成する合金粉末は、Ni-Cr-Mo-Si-B系ニッケル基合金、又はCo-Cr-Mo-Si-B系コバルト基合金からなる合金粉末を使用しても良い。これらの合金粉末をHIP処理によって直接拡散接合させてHIP層を形成する。このような合金粉末によって形成されたHIP層はHRC60-65であった。
【0037】
図5は、ステンレス鋼(S)にHIP層(H)を形成した試作品を1か月硫酸に浸漬させた結果を写真に撮ったものである。試作品のステンラス鋼はステンレス鋼の中では酸に強いと言われている329J1を使用しており、HIP層を形成する合金粉末は、Ni-Cr-Si-B系ニッケル基合金からなる合金粉末を使用している。このような試作品を1か月間硫酸に浸漬した結果、
図5の通り、ステンレス鋼は真っ黒になり、ボロボロの状態であったが、HIP層にはほとんど影響はなく、浸漬前の光り輝いた状態が維持されていた。また、Ni-Cr-Si-B系ニッケル基合金からなる合金粉末をHIP処理して作成したHIP体を50°Cの塩酸に30時間浸漬させた実験したところ、0.1g腐食により減量しているだけであった。ちなみに、同じ実験で、硬度HRC58の窒化鋼は3.0g、Crメッキ材では2.0g腐食により減量した。
【0038】
以上の通り、ニッケル基合金又はコバルト基合金からなる合金粉末をHIP処理により直接拡散接合させて形成したHIP層は硬度がHRC60前後であり、耐酸性、耐腐食性に非常に優れているので、全体をHIP層で覆われたリップバーからなるリップ部3をセルロースシートの製造において好まれる凝固液としての塩酸や硫酸を含んだ凝固液の上部に長時間さらしても、塩酸や硫酸によるダイス1の吐出口7への影響を長期間抑えることができ、吐出口が腐食し、キズが形成され、摩耗することを防ぐことができる。しかも、本発明のHIP層は加工性に優れているので、吐出口7を構成する一対のリップバー4-1、4-2のそれぞれにおいて、吐出口のエッジ部分を均一に加工しやすい。
【0039】
本発明のダイス1を使用したセルロースシート製造装置ではダイス1のダイス本体2に設けられた供給口8から供給されたセルロースを含む溶融物をリップ部3の吐出口からシート状にして連続的に押し出されるが、本発明のリップ部3は、リップバー4-1とリップバー4-2の一対のリップバーで構成し、それぞれのリップバーがHIP層で覆われ、一方のリップバー4-1をスライドさせて吐出口8の間隔を調整するように構成しているので、多種にわたるシートの製品に必要な厚さに対応させることができるようになり、吐出口のエッジを均一にできる構成と相まって、多種の製品用の高品質のセルロースシートを多量に製造することが可能である。
【0040】
また、今後どのような新たなセルロースを含む溶融物が開発されたとしても、一対のそれぞれのリップバー4-1、4-2がHIP層で覆われ、一方のリップバー4-1をスライドさせて吐出口8の間隔を調整するように構成しているので、本発明のダイスの構成を特に変更することなく対応できる。
【0041】
以上、本発明の1実施例を説明してきたが、ダイスの形状、リップ部の形状あるいはリップバーの形状は説明した実施例の形状に限定されるわけではないし、例えば、リップバーの固定ネジに関して特に説明していないが、塩酸や硫酸から固定ネジを保護するために、例えば、固定ネジをHIP体にすることやそれ以外の構成も考えられるが、固定ネジでリップバーを固定する構成であれば、どのような構成でも構わない。
【0042】
本発明で採用される溶融物は、パルプを10質量%~30質量%の水酸化アルカリ金属水溶液でアルカリ処理しアルカリセルロースとし、アルカリセルロースと二硫化炭素とを反応させてセルロースザンテートし、セルロースザンテートを水酸化アルカリ金属水溶液に溶解させて作成したスラリーを少なくとも含む溶融物であって、この溶融物を使用してセルロースシート(セロファン)を製造する。
【0043】
本発明で採用する溶融物として、パルプを4質量%~9質量%の水酸化アルカリ金属水溶液でアルカリ処理しアルカリセルロースとし、アルカリセルロースと二硫化炭素とを反応させてセルロースザンテートし、セルロースザンテートを水酸化アルカリ金属水溶液に溶解させて作成したスラリーを少なくとも含む溶融物であれば、セルロースナノファイバーシートを製造することができる。
【0044】
また、本発明で採用する溶融物として、[0042]で説明した溶融物に、[0043]で説明した溶融物を混合させて作成したスラリーを少なくとも含む溶融物であれば、セルロースナノファイバーを含有したセロファンを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のHIP層で覆われた一対のリップバーを有するリップ部によって構成されたダイスにより製造されたセルロースシートは、包装材料、特に食料品用の包装材料、ごみ袋や買い物袋用の材料、おむつ用のフィルム、農業用のフィルム、事務所用のフィルム、家庭用のフィルム、分離膜等、様々な種類の製品として使用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ダイス
2 ダイス本体
3 リップ部
4 リップバー
4-1 第1リップバー
4-2 第2リップバー
5 調整ネジ
6―1 第1固定ネジ
6-2 第2固定ネジ
7 吐出口
8 供給口
9 リップバー本体
9-1 クロムモリブデン鋼からなるリップバー本体
9-2 ステンレス鋼からなるリップバー本体
10 HIP層
11 固定ネジ挿入口
101 成形用混合物
102 液留槽
103 供給ポンプ
104 ダイス
105 シート
106 凝固槽
107 凝固液
108 液循環ポンプ
109 再生槽
110 再生液
111 水洗槽
112 水
113 駆動ローラ
114 ニップローラ