(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041014
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】根管治療用のファイル
(51)【国際特許分類】
A61C 5/42 20170101AFI20240318BHJP
【FI】
A61C5/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022159810
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】504230246
【氏名又は名称】鈴木 計芳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 計芳
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA16
4C052BB14
4C052DD02
4C052DD05
(57)【要約】
【課題】 ファイルを下方向に落とし込んだ時にも、根管壁をやすることが出来れば、治療の効率が向上するものと考えた。
【解決手段】 Hファイル100は把持部101とその先の針部102とから成る。針部102の金属には、捻り加工後のテーパー角が凡そ2度となるように予め成形されたニッケルチタン(NiTi)の合金が用いられており、この表面に後にフルート104となる部位を除くようにして、ヤスリ面105が設けられている。針部102には捻り加工が施されたことによるカッティングエッジ103とフルート104とが形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
捻り加工を施して成る金属製の針部に付き、おおよそカッティングエッジとフルートとの間にヤスリ面を有する、根管治療用のファイル。
【請求項2】
捻り加工を施して成る金属製の針部に付き、おおよそカッティングエッジとフルートとの間にサンドブラスト面を有する、根管治療用のファイル。
【請求項3】
捻り加工を施して成る金属製の針部に付き、おおよそカッティングエッジとフルートとの間に粉末状の研磨材の付着面を有する、根管治療用のファイル。
【請求項4】
前記カッティングエッジにランドを有する、請求項1乃至請求項3の何れか一に記載の根管治療用のファイル。
【請求項5】
前記針部がオルタネーティングコンタクトポイント(Alternating Contact Point)を備えている、請求項1乃至請求項3の何れか一に記載の根管治療用のファイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、切削効率の高い根管治療用のファイル主としてHファイルに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科医師が患者の虫歯の根の壁面をこそぎ取ったり、根の先に詰まっている膿の塊や、以前の治療の跡である充填材を取り去ったり、神経を抜いたりするなどの根管等の治療を行う際に、リーマやファイルなどの器具が用いられる。リーマは捩る操作のリーミングで根管拡大や清掃を行うものである。Hファイルと呼ばれるものは上下方向に往復動させる操作のファイリングで根管壁をやすったり清掃を行ったりするものである。これ等の中間にKファイルと呼ばれるものがあり、リーミングとファイリングの両方の操作を行うことが出来る。
【0003】
なおガッタパーチャの除去に付いて、溶解剤による除去では、ガッタパーチャが根管に残ってしまいその後の治療に支障を来すことがある。このため一般的にはファイルによる丁寧な除去が行われている。
【0004】
Hファイルの金属製の針部に付いて、上述のように上下方向の往復動の操作を行うと、上方向に引いた時にカッティングエッジ部分が掻き上げ刃となって根管壁がやすられる。この時の削りかすを逃げ溝であるフルート部分に入り込ませることによって、削りかすにカッティングエッジの邪魔をさせることなく、カッティングエッジの切削能力を最大限に発揮させることが出来るようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなカッティングエッジ部分の動作を子細に観察してみると、往復動の操作の内で上方向に引いた時に根管壁がやすられることが分かる。すなわち下方向に押した時にはカッティングエッジ部分はまったく使用されていないことになる。カッティングエッジ部分はそのようには設計されていないためである。
【0006】
そこで当発明者は、Hファイルを下方向に落とし込んだ時にも、根管壁をやすることが出来れば、治療の効率が向上するものと考えた。この発明の課題は、上述したような根管治療をより手早く行えるようにすることにより、患者にとっても歯科医師にとっても疲労が少なく安楽であるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
当発明者は、Hファイルに着色を施してからリーミングの操作を行ってみた。仮に針のカッティングエッジ部分以外で根管壁に触れている箇所が存在するのであれば、この部位の着色が剥離して、金属の円滑な表面が現れているはずであると考えたからである。その結果は案の定根管壁に触れている箇所が存在していた。それが凡そカッティングエッジ部分からフルート部分までの間の金属表面なのであった。当発明者はここを根管壁をやすることに利用できるのではないかと思考した。またこのことはHファイル以外にも適用可能であるに違いない。
【0008】
上記課題は、捻り加工を施して成る金属製の針部に付き、おおよそカッティングエッジとフルートとの間にヤスリ面を有する、根管治療用のファイルとすることにより達成される。すなわちおおよそカッティングエッジ部分からフルート部分までの間の金属表面に、ヤスリ掛けを施してヤスリ面とするのである。ヤスリ掛けにはレーザ加工も含まれる。
【0009】
なお針部の金属にはニッケルチタン(NiTi)合金などで、身体に対するアレルギー等反応の少ないものを用いることが好ましい。このような細長い金属板に捻り加工を施してテーパー角がおおよそ2度となるように成型するのが一般的である。
【0010】
この発明の根管治療用のファイルで上下方向の往復動の操作を行うと、上方向に引いた時にカッティングエッジ部分が掻き上げ刃の作用を現すことは常のとおりである。これに対してファイルを下方向に落とし込んだ時には、上述のようにファイルに着色を施してからリーミングの操作を行った時のようにヤスリ面が根管壁をやするようになる。すなわちファイルを下方向に押した時にも根管の拡大や清掃を行うことが可能になり、治療の効率が向上する。なおこの際の削りかすの逃げ道として、上記カッティングエッジが使用するフルートの存在は好都合である。
【0011】
また上記の課題は、捻り加工を施して成る金属製の針部に付き、おおよそカッティングエッジとフルートとの間にサンドブラスト面を有する、根管治療用のファイルとすることによって達成される。おおよそカッティングエッジ部分からフルート部分までの間の金属表面に研磨剤を吹き付けてサンドブラスト面とするのである。
【0012】
上記金属表面に研磨剤が吹き付けられると、金属表面には細かな凹部が形成され、上記ヤスリ面と同様に根管壁をやすることが出来るようになる。
【0013】
また上記の課題は、捻り加工を施して成る金属製の針部に付き、おおよそカッティングエッジとフルートとの間に粉末状の研磨材の付着面を有する、根管治療用のファイルとすることにより達成される。おおよそカッティングエッジ部分からフルート部分までの間の金属表面に粉末状の研磨材を付着させた付着面とするのである。
【0014】
この研磨材には、ダイヤモンド粉末を用いることが可能である。ブラックダイヤモンドコーティングと呼ばれるものがこの一例である。あるいは研磨剤にカーボン粉末を用いてカーボンナノ皮膜などを形成することが可能である。ダイヤモンド粉末の場合とほぼ同様の作用が得られる。
【0015】
次に、上述したようなこの発明の根管治療用のファイルの、前記カッティングエッジにランドを有するものとしても良い。カッティングエッジを鋭角にではなく鈍角に設けて、カッティングエッジの裏側面が根管壁に向かうようにしたものがランド部分である。仮に根管壁が円筒形であるとした場合に、この円筒に接する部位のことである。
【0016】
カッティングエッジの裏側面すなわちランド部分が所定の幅を以て根管壁に接触することになる。このためカッティングエッジが根管壁に食い込んでファイルの回しが渋くなったり、カッティングエッジが破損したりすることが防止される。
【0017】
また前記針部がオルタネーティングコンタクトポイント(Alternating Contact Point)を備えているものとしても良い。1本の針部の中に根管壁に接触するカッティングエッジの部位が交互に現れるように形成されたものである。
【0018】
上下方向に往復動させる操作で根管壁をやすると、カッティングエッジで根管壁に食い込みそうになる部位が生じた時に、食い込む前にその部位を接触圧から逃がすことが出来るために、上述したランドと同じような効果が得られる。
【0019】
なおこの発明では、金属製の針部に、ヤスリ面やサンドブラスト面や粉末状の研磨材の付着面を設けるに先立ち、カッティングエッジにマスキングを施すなどしても良い。あるいはサンドブラスト面を形成する際に、金属表面に対して斜め下方から研磨剤を吹き付けるようにすることで、凹部の上側により深いエッジを形成させて、根管壁をやすることがより良く行え得るようにするのである。あるいはサンドブラスト面を形成するに際して、初めは比較的に粒子の大きな研磨剤を吹き付け、次に比較的に粒子の小さな研磨剤を吹き付けるようにして、大小の凹部を混在させて形成するようにしても良い。あるいはそもそも、捻り加工を施す前の細長い金属板に、ヤスリ面やサンドブラスト面や粉末状の研磨材の付着面を設けておくようにすることが出来る。この辺りのことは自由に設計して良い。
【発明の効果】
【0020】
この発明では、おおよそカッティングエッジとフルートとの間にヤスリ面やサンドブラスト面や粉末状の研磨材の付着面を設けたので、これ等の面にてファイルを下方向に落とし込んだ時にも根管壁をやすることが出来るようになった。従来は活用されていなかった部位を用いて、ファイルを下方向に押した時にも根管の拡大や清掃を行うことが可能になった。これにより根管治療の効率が向上して施術がより手早く行えるようになり、患者にとっても歯科医師にとっても疲労が少なく安楽となる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】 実施例1のファイル100の説明図である。
【
図2】 ファイル100の一部を拡大して模式的に表した説明図である。
【
図3】 実施例2のファイル200の説明図である。
【
図4】 ファイル200の一部を拡大して模式的に表した説明図である。
【
図5】 実施例3のファイル300の説明図である。
【
図6】 ファイル300の一部を拡大して模式的に表した説明図である。
【
図7】 実施例4のファイル400の断面を模式的に表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下ではこの発明の実施例を図面に基づいて説明するが、この発明はこれ等に限定されるものではない。
【実施例0023】
図1および
図2で表されたこの実施例は、Hファイル100が把持部101とその先の針部102とから構成され、この針部102の金属には、捻り加工後のテーパー角が凡そ2度となるように予め成形されたニッケルチタン(NiTi)の合金が用いられている。このニッケルチタン合金の表面に、フルート104となる部位を除くようにして、ヤスリ掛けを行ってヤスリ面105を設ける。次にこのニッケルチタン合金に捻り加工を施すことによって針部102が作られて、ここにカッティングエッジ103とフルート104とが形成される。
【0024】
このHファイル100を用いて根管内で上下方向の往復動の操作を行う。下方向に押し込んだ時にはヤスリ面105で根管壁をやする。上方向に引き上げた時には、従来通りにカッティングエッジ103が掻き上げ刃の作用を現して根管壁を掻き上げる。またこれ等の操作の際に出る削りかすはフルート104に逃れることが出来て、Hファイル100を上方向に引き上げた時に根管から排出される。