(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041052
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用負極組成物及びリチウムイオン電池用負極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240318BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240318BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240318BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143436
(22)【出願日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2022145196
(32)【優先日】2022-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石賀 絢香
(72)【発明者】
【氏名】磯村 省吾
(72)【発明者】
【氏名】森 悠輔
(72)【発明者】
【氏名】石賀 渉
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA09
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB20
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA23
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA11
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】電解液浸透性が高く、かつ充放電効率(クーロン効率)に優れた負極を製造可能なリチウムイオン電池用負極組成物を提供すること。
【解決手段】バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質を含むリチウムイオン電池用負極組成物であって、前記バインダー樹脂は、50℃で3日間、電解液に浸漬した際の吸液率が10~40%であり、50℃で3日間、前記電解液に浸漬した際のイオン伝導度が1×10-6~1×10-8S/cmである電池用負極組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質を含むリチウムイオン電池用負極組成物であって、
前記バインダー樹脂は、50℃で3日間、電解液に浸漬した際の吸液率が10~40%であり、50℃で3日間、前記電解液に浸漬した際のイオン伝導度が1×10-6~1×10-8S/cmであり、
前記電解液は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=3:7で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液であり、
前記吸液率は、以下の式
吸液率(%)=[(電解液浸漬後のバインダー樹脂の重量-電解液浸漬前のバインダー樹脂の重量)/電解液浸漬前のバインダー樹脂の重量]×100
で求められ、
前記イオン伝導度は、交流インピーダンス法による25℃のイオン伝導度であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂に対する前記電解液の接触角が30°未満である請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極組成物。
【請求項3】
前記バインダー樹脂の重量平均分子量が、95,000~200,000である請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極組成物。
【請求項4】
前記リチウムイオン電池用負極組成物における前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の重量を基準として1~5重量%であり、
前記リチウムイオン電池用負極組成物における前記負極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の重量を基準として90~98重量%である請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極組成物。
【請求項5】
前記バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質と、水性溶媒とを含むスラリーを作製する混合工程と、前記スラリーを集電体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程後にスラリーを乾燥して前記集電体上に負極活物質層を形成する乾燥工程とを含むリチウムイオン電池用負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用負極組成物及びリチウムイオン電池用負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度という特長を持つことから、携帯情報機器分野などにおいて広く利用され、携帯電話、ノート型パソコンを始めとする携帯端末用標準電池としての地位が確立されている。その用途は拡大する一方で、従来用途に加えてハイブリッド自動車や電気自動車などへの適用も検討されており一部では既に実用化されている。これらの更なる普及のためにもリチウムイオン電池の高容量化、高出力化が求められており様々な技術の適用が試みられている。
【0003】
二次電池の容量を向上させる一つの手法として電極密度の向上がある。活物質を密に充填することでより多くの容量を得ることができる。しかし、電極の密度を上げると電解液が電極中に浸透しにくくなり、理論値よりも少ない容量しか取り出せなくなったり、出力特性が悪化したりするという問題点があった。
【0004】
このような課題を解決するために、特許文献1では電極表面に溝を設けることで電解液浸透性を改良できるという技術が開示されている。特許文献2では活物質の粒径や形状を工夫することで電解液の浸透性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献3では電極密度を調整することで電解液の浸透性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-27633号公報
【特許文献2】特開2012-151088号公報
【特許文献3】特開2020-053282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1の手法では電極表面に溝を設けるために凹凸のついたローラーでプレスするという工程があり新たな設備を導入する必要があるという問題点があった。
また特許文献2及び3の手法では浸透性に一定の改善がみられるもののその効果は充分ではなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、電解液浸透性が高く、かつ充放電効率(クーロン効率)に優れた電極を製造可能なリチウムイオン電池用電極組成物、特に負極組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明は、バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質を含むリチウムイオン電池用負極組成物であって、前記バインダー樹脂は、50℃で3日間、電解液に浸漬した際の吸液率が10~40%であり、50℃で3日間、前記電解液に浸漬した際のイオン伝導度が1×10-6~1×10-8S/cmであり、前記電解液は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=3:7で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液であり、
前記吸液率は、以下の式
吸液率(%)=[(電解液浸漬後のバインダー樹脂の重量-電解液浸漬前のバインダー樹脂の重量)/電解液浸漬前のバインダー樹脂の重量]×100
で求められ、
前記イオン伝導度は、交流インピーダンス法による25℃のイオン伝導度であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極組成物、及び、前記バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質と、水性溶媒とを含むスラリーを作製する混合工程と、前記スラリーを集電体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程後にスラリーを乾燥して前記集電体上に負極活物質層を形成する乾燥工程とを含むリチウムイオン電池用負極の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解液浸透性が高く、かつ充放電効率(クーロン効率)に優れた負極を製造可能なリチウムイオン電池用負極組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[リチウムイオン電池用負極組成物]
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物は、バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質を含むリチウムイオン電池用負極組成物である。
前記バインダー樹脂は、50℃で3日間、電解液に浸漬した際の吸液率が10~40%である。
電解液に浸漬した際の吸液率は、電解液に浸漬する前、浸漬した後のバインダー樹脂の重量を測定して、以下の式で求める。
吸液率(%)=[(電解液浸漬後のバインダー樹脂の重量-電解液浸漬前のバインダー樹脂の重量)/電解液浸漬前のバインダー樹脂の重量]×100
【0011】
吸液率を求めるための電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=3:7で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液を用いる。
【0012】
吸液試験用サンプル作製は以下の通り作製する。
樹脂濃度30重量%のバインダー樹脂溶液(溶媒にはN’-ジメチルホルムアミド(以下、DMF)を使用)をPPトレイ(14cm×10cm)に約3mmの高さになるように注ぎ込み、70℃順風乾燥機で3時間、さらに減圧(>-90kPa)乾燥機で3時間減圧乾燥させ、樹脂シートを作製した。
この樹脂シートを1.5cm角に切り出し、サンプルの厚みをハンディの膜厚計(ミツトヨ製)で計測して、約1mmであることを確認して、試験に供した。
【0013】
吸液率を求める際の電解液への浸漬は、50℃、3日間行う。電解液への浸漬は、スクリュー管(No.7、容量50mL)に前記樹脂シートを入れ、樹脂シートが完全に前記電解液に浸る状態で行った。50℃、3日間の浸漬を行うことによりバインダー樹脂が飽和吸液状態となる。なお、飽和吸液状態とは、それ以上電解液に浸漬してもバインダー樹脂の重量が増えない状態をいう。
なお、本発明のバインダー樹脂を用いてリチウムイオン電池を製造する際に使用する電解液は、上記電解液に限定されるものではなく、他の電解液を使用してもよい。
【0014】
前記吸液率が10%未満であると、電解液がバインダー樹脂内に浸透しにくいためにリチウムイオンの伝導性が低くなり、リチウムイオン電池としての性能が充分に発揮されないことがある。前記吸液率が40%を超えると、電極中でバインダー樹脂が過度に膨張するため電極構造が破壊されやすく、また導電パスが切断されることでリチウムイオン電池の劣化が進むことがある。
前記吸液率は20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
【0015】
前記バインダー樹脂の、50℃で3日間、電解液に浸漬した際の吸液率は、前記バインダー樹脂のSP値によって調整することができる。バインダー樹脂のSP値を大きくする(電解液とのSP値差を小さくする)ことで、前記バインダー樹脂の電解液吸液率を上げることができる。
バインダー樹脂のSP値は、10.0~15.0が好ましく、12.5~14.0がより好ましい。
なお、本発明におけるSP値(溶解度パラメータ)[単位は(cal/cm3)1/2]は、Fedors法(Polymer Engineering and Science,February,1974,Vol.14、No.2 P.147~154)の152頁(Table.5)に記載の数値(原子又は官能基の25℃における蒸発熱及びモル体積)を用いて、同153頁の数式(28)に記載の方法で算出される値である。
【0016】
前記バインダー樹脂は、50℃で3日間、前記電解液に浸漬した際のイオン伝導度が1×10-6~1×10-8S/cmである。
前記イオン伝導度は、50℃で3日間、前記電解液に浸漬した際のバインダー樹脂の25℃での伝導度を交流インピーダンス法で測定することによって求める。
【0017】
イオン伝導度を求めるための電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=3:7で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液を用いる。
【0018】
本願においては、前記バインダー樹脂の前記リチウムイオン伝導度を、モジュール式充放電測定システム[東洋テクニカ(株)]を用いて交流インピーダンス法で測定することによって求める。
リチウムイオン伝導度測定用サンプルの準備及び電解液への浸漬は、前記吸液試験用サンプルと同様の手順で行う。
交流インピーダンス測定は、25℃下、周波数2.0×104Hz~1.0×10-1Hzとし、電圧振れ幅は1000mAと、実数インピーダンス成分R(Ω)を求める。樹脂シートのイオン伝導性σ(S/cm)は、インピーダンス成分R(Ω)、樹脂シートの厚さd(cm)、及び電極と樹脂シートの接触面積A(cm2)から求める。
イオン伝導性σ(S/cm)=d/(R×A)
【0019】
バインダー樹脂の50℃で3日間、前記電解液に浸漬した際のイオン伝導度が1×10-6S/cm未満であると、バインダー樹脂が電解液で膨潤しすぎて集電体との接着が悪くなりサイクル特性に影響することがある。また、バインダー樹脂の前記イオン伝導度が1×10-8S/cmを超えると活物質と電解液の間でのリチウムイオンの移動が妨げられてリチウムイオン電池としての性能が充分に発揮されないことがある。
イオン伝導度は、1×10-7~9×10-7S/cmであることが好ましく、2×10-7~5×10-7S/cmであることがより好ましい。
【0020】
前記バインダー樹脂は、前記電解液にエチレンカーボネート(EC)、ポリカーボネート(PC)を体積割合でEC:PC=1:1で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液を使用した場合も、飽和吸液状態でのイオン伝導度が1×10-6~1×10-8S/cmであることが好ましい。
また、前記バインダー樹脂は、電解液を含侵させない場合でも、イオン伝導度が1×10-6~1×10-8S/cmであることがより好ましい。
【0021】
前記バインダー樹脂の50℃で3日間、前記電解液(エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=3:7で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液)に浸漬した際のイオン伝導度は、前記バインダー樹脂のSP値によって調整することができる。バインダー樹脂のSP値を大きくする(電解液とのSP値差を小さくする)ことで電解液吸液率が上昇し、イオン伝導度を大きくすることができる。
バインダー樹脂のSP値は、10.0~15.0が好ましく、12.5~14.0がより好ましい。
【0022】
前記バインダー樹脂は、前記バインダー樹脂に対する前記電解液の接触角が30°未満であることが好ましい。前記バインダー樹脂に対する前記電解液の接触角が30°未満であると電解液のバインダー樹脂への浸透性が良くリチウムイオンの伝導性が高くなり電池性能が向上する。前記バインダー樹脂に対する前記電解液の接触角はより好ましくは10~25°である。
前記バインダー樹脂に対する前記電解液の接触角は、前記バインダー樹脂のSP値によって調整することができる。バインダー樹脂のSP値を大きくする(電解液とのSP値差を小さくする)ことで、前記バインダー樹脂に対する前記電解液の接触角を小さくすることができる。
【0023】
前記バインダー樹脂に対する前記電解液の接触角は、協和界面化学(株)製動的接触角測定器「DMo-701」を用いて測定する。
本願においては、前記バインダー樹脂に対する前記電解液の接触角は以下の通り測定する。
バインダー樹脂3.0gをDMF30gに溶解した後、水平なガラス板上に塗布して室温で半日自然乾燥を行った。次に160℃に加熱した減圧乾燥機中に-90~-100kMPaで3時間静置した後、25℃まで冷却して測定用試料を作製した。続いて、測定装置として協和界面化学(株)製 動的接触角測定器「DMo-701」を用いて、25℃下、2.5μLの電解液滴が試料に着滴してから30秒後の値を接触角(°)として測定した。
【0024】
バインダー樹脂がDMFに不溶である場合は、バインダー樹脂3.0gをイソプロパノール30gに溶解すること、減圧乾燥温度を80℃に変更する以外は上記と同様の方法でバインダー樹脂に対する前記電解液の接触角(°)を測定した。
【0025】
前記バインダー樹脂は、前記バインダー樹脂に対する水の接触角が40°未満であることが好ましい。前記バインダー樹脂に対する水の接触角が40°未満であるとバインダー樹脂と水とのなじみが良くなり、特に負極の電極作製時に均一な水系スラリーを作製しやすくなる。前記バインダー樹脂に対する水の接触角はより好ましくは10~25°である。
前記バインダー樹脂に対する水の接触角は、前記バインダー樹脂の重量平均分子量及び/又はSP値で調整することができる。バインダー樹脂の重量平均分子量を小さくすればバインダー樹脂に対する水の接触角は小さくなる傾向があり、また、バインダー樹脂のSP値を大きくする(水とのSP値差を小さくする)ことで、前記バインダー樹脂に対する水の接触角を小さくすることができる。
【0026】
前記バインダー樹脂に対する水の接触角は、協和界面化学(株)製動的接触角測定器「DMo-701」を用いて測定する。
本願においては、前記バインダー樹脂に対する水の接触角は以下の通り測定する。
バインダー樹脂に、イオン交換水を添加して固形分濃度を5重量%に調整した。固形分濃度調整後のバインダー樹脂水溶液を銅箔上に塗布し、オーブン中において50℃で10分乾燥させ、厚さ100μmのバインダーフィルムを作製した。得られたバインダーフィルムの上にイオン交換水を1μL滴下して、温度25℃、湿度50%の条件下、着滴から1分経過後のバインダーフィルム上の水滴を写真撮影し、その接触角をθ/2法によって測定した。バインダーフィルムの異なる箇所で、蒸留水の滴下から接触角測定までの操作を合計5回行い、得られた5つの測定値の平均値を、そのバインダー樹脂に対する水の接触角とした。
【0027】
バインダー樹脂がイオン交換水に不溶である場合は、バインダー樹脂水溶液を作製する際のイオン交換水をイソプロパノールに変更する以外は上記と同様の方法でバインダー樹脂に対する水の接触角(°)を測定した。
【0028】
前記バインダー樹脂の重量平均分子量は、95,000~200,000であることが好ましい。前記バインダー樹脂の重量平均分子量が95,000~200,000であると得られる電極の強度が優れる。前記バインダー樹脂の重量平均分子量は、より好ましくは120,000~140,000である。
【0029】
前記バインダー樹脂の重量平均分子量は、以下の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。なお、試料となる重合体をオルトジクロロベンゼン、N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒に溶解して0.25重量%の溶液を調製し、不溶解分を口径1μmのPTFEフィルターで濾過したものを試料溶液とする。
装置:Alliance GPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン、DMF、THF
標準物質:ポリスチレンサンプル
濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10um,MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0030】
前記バインダー樹脂は、単量体(a1)を構成単量体として前記バインダー樹脂の構成単量体の合計重量を基準として90重量%以上含み、かつ、前記単量体(a1)が、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸及びメタクリル酸メチルからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。前記組成であると負極活物質及び導電助剤との馴染みがよく、電極強度が向上する。
【0031】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物は、導電助剤を含む。導電助剤としては、導電性を有する材料であれば特に制限はない。
導電助剤としては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト(薄片状黒鉛(UP))、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)及びカーボンナノファイバー(CNF)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物が用いられてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアセチレンブラックが好ましい。
【0032】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物は、負極活物質を含む。
負極活物質としては、炭素系材料[黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
電池容量の観点から、負極活物質としては黒鉛又はハードカーボンが好ましい。
【0033】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物における前記バインダー樹脂の重量割合は、結着性能と電気特性の観点の観点から、前記リチウムイオン電池用負極組成物の重量を基準として1~5重量%であることが好ましい。
また、前記リチウムイオン電池用負極組成物における前記負極活物質の重量割合は、電池性能の観点から、前記リチウムイオン電池用負極組成物の重量を基準として90~98重量%であることが好ましい。
【0034】
[リチウムイオン電池用負極の製造方法]
本発明は、前記バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質と、水性溶媒とを含むスラリーを作製する混合工程と、前記スラリーを集電体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程後にスラリーを乾燥して前記集電体上に負極活物質層を形成する乾燥工程とを含むリチウムイオン電池用負極の製造方法である。
【0035】
(混合工程)
本発明は、前記バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質と、水性溶媒とを含むスラリーを作製する混合工程を含む。
混合工程では、前記バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質と、水性溶媒とを含むスラリーを作製する。前記バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質と水性溶媒とを混合する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
また、混合する順序にも制限はなく、前記バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質と水性溶媒とを、どの順序で混合してもよい。
【0036】
水性溶媒としては、水を必須構成成分とする液体であれば制限なく使用でき、後述する、水、有機溶剤の水溶液、界面活性剤の水溶液、水溶性ポリマーの水溶液及びこれらの2以上の混合物等が用いることができる。
【0037】
(塗布工程)
本発明は、前記混合工程で得た前記スラリーを集電体に塗布する塗布工程を含む。
塗布する方法としては、特に限定されず、公知の、バーコーター等の塗工装置を用いることができる。
【0038】
集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子材料、導電性ガラス等が挙げられる。
集電体の形状は特に限定されず、上記の材料からなるシート状の集電体、及び、上記の材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。
集電体の厚さは、特に限定されないが、50~500μmであることが好ましい。
【0039】
(乾燥工程)
本発明は、前記塗布工程後にスラリーを乾燥して前記集電体上に負極活物質層を形成する乾燥工程を含む。
乾燥工程で前記スラリーに含まれる水性溶媒を除去することが好ましい。水性溶媒を除去する方法としては、オーブンや真空オーブンを用いた乾燥が好ましい。水性溶媒を除去する雰囲気としては、空気、不活性ガス、真空状態などが挙げられる。また、水性溶媒を除去する温度は、60~250℃が好ましい。
【0040】
本明細書には、以下の事項が開示されている。
【0041】
本開示(1)は、
バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質を含むリチウムイオン電池用負極組成物であって、前記バインダー樹脂は、50℃で3日間、電解液に浸漬した際の吸液率が10~40%であり、50℃で3日間、前記電解液に浸漬した際のイオン伝導度が1×10-6~1×10-8S/cmであり、前記電解液は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=3:7で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液であり、
前記吸液率は、以下の式
吸液率(%)=[(電解液浸漬後のバインダー樹脂の重量-電解液浸漬前のバインダー樹脂の重量)/電解液浸漬前のバインダー樹脂の重量]×100
で求められ、
前記イオン伝導度は、交流インピーダンス法による25℃のイオン伝導度であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極組成物である。
【0042】
本開示(2)は、前記バインダー樹脂に対する前記電解液の接触角が30°未満である本開示(1)に記載のリチウムイオン電池用負極組成物である。
【0043】
本開示(3)は、前記バインダー樹脂の重量平均分子量が、95,000~200,000である本開示(1)又は(2)に記載のリチウムイオン電池用負極組成物である。
【0044】
本開示(4)は、前記リチウムイオン電池用負極組成物における前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の重量を基準として1~5重量%であり、前記リチウムイオン電池用負極組成物における前記負極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の重量を基準として90~98重量%である本開示(1)~(3)のいずれかに記載のリチウムイオン電池用負極組成物である。
【0045】
本開示(5)は、前記バインダー樹脂、導電助剤及び負極活物質と、水性溶媒とを含むスラリーを作製する混合工程と、前記スラリーを集電体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程後にスラリーを乾燥して前記集電体上に負極活物質層を形成する乾燥工程とを含むリチウムイオン電池用負極の製造方法である。
【実施例0046】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。
【0047】
(製造例1:バインダー樹脂(A-1)の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF150重量部を仕込み、75℃に昇温した。次いで、アクリル酸90重量部、メタクリル酸10重量部及びDMF50重量部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.5重量部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.5重量部をDMF30部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで、80℃に昇温して反応を3時間継続し、樹脂濃度30重量%のバインダー樹脂溶液を得た。このバインダー樹脂溶液を160℃、0.01MPで3時間減圧乾燥して、DMFを留去してバインダー樹脂(A-1)(Mw:70,000)を得た。
【0048】
(製造例2:バインダー樹脂(A-2)の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF150重量部を仕込み、75℃に昇温した。次いで、アクリル酸90重量部、メタクリル酸10重量部及びDMF50重量部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.2部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.5重量部をDMF30重量部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで、80℃に昇温して反応を3時間継続し、樹脂濃度30重量%のバインダー樹脂溶液を得た。このバインダー樹脂溶液を160℃、0.01MPで3時間減圧乾燥して、DMFを留去してバインダー樹脂(A-2)(Mw:120,000)を得た。
【0049】
(製造例3:バインダー樹脂(A-3)の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF150重量部を仕込み、75℃に昇温した。次いで、アクリル酸90重量部、メタクリル酸10重量部及びDMF50重量部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.2重量部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.3重量部をDMF30重量部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで、80℃に昇温して反応を3時間継続し、樹脂濃度30重量%のバインダー樹脂溶液を得た。このバインダー樹脂溶液を160℃、0.01MPで3時間減圧乾燥して、DMFを留去してバインダー樹脂(A-3)(Mw:250,000)を得た。
【0050】
(製造例4~7及び比較製造例3,4:バインダー樹脂(A-4)~(A-7)及び(AX-4)、(AX-5)の製造)
モノマーの種類、仕込み重量部数を表1に示すように変更した他は製造例1と同様にしてバインダー樹脂(A-4)~(A-7)及び(AX-4)、(AX-5)を製造した。
なお、バインダー樹脂(AX-1)としては、スチレンーブタジエンゴム(以下 SBR)[日本ゼオン(株)、商標 BM-400B,固形分40重量%、Tg-5℃]を100℃、0.01MPで3時間減圧乾燥したものを使用した。
【0051】
(製造例8:バインダー樹脂(A-8)の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにイオン交換水300重量部を仕込み、70℃に昇温した。次いで、アクリル酸90重量部、メタクリル酸メチル10重量部及びイオン交換水50重量部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩2.5重量部をイオン交換水50重量部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで3時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、80℃で反応を2時間継続した。樹脂濃度20重量%のバインダー樹脂溶液を得た。このバインダー樹脂溶液を100℃、0.01MPで1時間減圧乾燥して、イオン交換水を留去してバインダー樹脂(A-8)(Mw:130,000)を得た。
【0052】
(製造例9:バインダー樹脂(A-9)の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにイオン交換水300重量部を仕込み、70℃に昇温した。次いで、アクリル酸90重量部、メタクリル酸メチル10重量部及びイオン交換水50重量部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩2.0重量部をイオン交換水50重量部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで3時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、80℃で反応を2時間継続した。樹脂濃度20重量%のバインダー樹脂溶液を得た。このバインダー樹脂溶液を100℃、0.01MPで1時間減圧乾燥して、イオン交換水を留去してバインダー樹脂(A-9)(Mw:180,000)を得た。
【0053】
(製造例10:バインダー樹脂(A-10)の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにイオン交換水300重量部を仕込み、70℃に昇温した。次いで、アクリル酸90重量部、メタクリル酸メチル10重量部及びイオン交換水50重量部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩1.5重量部をイオン交換水50重量部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで3時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、80℃で反応を2時間継続した。樹脂濃度20重量%のバインダー樹脂溶液を得た。このバインダー樹脂溶液を100℃、0.01MPで1時間減圧乾燥して、イオン交換水を留去してバインダー樹脂(A-10)(Mw:240,000)を得た。
【0054】
(製造例11:バインダー樹脂(A-11)の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにイオン交換水300重量部を仕込み、70℃に昇温した。次いで、アクリル酸50重量部、アクリル酸ヒドロキシエチル50重量部及びイオン交換水50重量部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩2.5重量部をイオン交換水50重量部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで3時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、80℃で反応を2時間継続した。樹脂濃度20重量%のバインダー樹脂溶液を得た。このバインダー樹脂溶液を100℃、0.01MPで1時間減圧乾燥して、イオン交換水を留去してバインダー樹脂(A-11)(Mw:150,000)を得た。
【0055】
(比較製造例1:バインダー樹脂(AX-2)の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにイソプロパノール150重量部を仕込み、70℃に昇温した。次いで、2-エチルヘキシルメタクリレート65重量部、2-エチルヘキシルアクリレート30重量部、アクリル酸4.6重量部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.4重量部及びイソプロパノール50重量部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.2重量部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.3重量部をイソプロパノール30重量部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、70℃で反応を3時間継続した。次いで、80℃に昇温して反応を3時間継続し、樹脂濃度30重量%のバインダー樹脂溶液を得た。このバインダー樹脂溶液を100℃、0.01MPで3時間減圧乾燥して、イソプロパノールを留去してバインダー樹脂(AX-2)(Mw:150,000)を得た。
【0056】
(比較製造例2:バインダー樹脂(AX-3)の製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにイソプロパノール150重量部を仕込み、70℃に昇温した。次いで、2-エチルヘキシルメタクリレート65重量部、2-エチルヘキシルアクリレート30重量部、アクリル酸5重量部及びイソプロパノール50重量部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.2重量部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.3重量部をイソプロパノール30重量部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、70℃で反応を3時間継続した。次いで、80℃に昇温して反応を3時間継続し、樹脂濃度30重量%のバインダー樹脂溶液を得た。このバインダー樹脂溶液を100℃、0.01MPで3時間減圧乾燥して、イソプロパノールを留去してバインダー樹脂(AX-2)(Mw:120,000)を得た。
【0057】
【0058】
(実施例1~11、比較例1、4、5:リチウムイオン電池用負極組成物の作製及び負極の作製)
バインダー樹脂をイオン交換水に10重量%の濃度で溶解して樹脂溶液を得た。
黒鉛94重量部、アセチレンブラック(AB)[デンカ(株)DENKA BLACK Li-100]3重量部カルボキシメチルセルロースナトリウム1.5重量部、前記樹脂溶液1.5重量部及びイオン交換水100重量部を仕込み、あわとり練太郎による攪拌を2000rpmで1分間行い、負極用スラリー組成物を調整した。この負極用スラリー組成物をアプリケーターで厚み30μmの銅箔に乾燥後の膜厚が100μm程度になるように塗布し、100℃で2時間乾燥させ、電極シートを得た。この電極シートをΦ16mmに打ち抜いて、リチウムイオン電池用負極を作製した。
【0059】
(比較例2、3:リチウムイオン電池用負極組成物の作製及び負極の作製)
バインダー樹脂をイソプロパノールに10重量%の濃度で溶解して樹脂溶液を得た以外は実施例1と同様にリチウムイオン電池用負極を作製した。
【0060】
<電解液浸透性(電解液浸透時間:注液速度)の評価>
作製した電解液浸透性評価用負極に電解液を5μL垂らし、電解液が電極にしみこむまでの時間(秒)を測定した。しみこむまでの時間が短いほど浸透性に優れていることを示す。
電解液を電解液浸透性評価用負極に垂らすと、電解液を垂らした部分の色が濃くなる。電解液が電極にしみこむと色が元に戻るので、電解液浸透性評価用負極の色が元に戻るまでの時間を計測した。
測定結果を表2に示した。
なお、電解液浸透性評価用負極は、作製したリチウムイオン電池用負極を所定の空隙(15%)になるように、加圧プレスでプレスして得た。なお、電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(体積比率3:7)にLiPF6を1mol/Lの割合で溶解させたものを用いる。
【0061】
(性能評価用電池の作製)
作製したリチウムイオン電池用負極を、Φ15mmに打ち抜いたリチウムイオン電池用正極と共に2032型コインセル内の両端に配置した。正極側の集電体としては、厚さ20μmのアルミ箔を用いた。電極間にセパレータ(セルガード3501)を挿入し、評価用電池セルを作製した。
評価用電池セルに上記電解液を注液密封し、実施例及び比較例に係る評価用電池をそれぞれ作製した。
【0062】
<電池評価>
室温下、充放電測定装置[HJ0501SM8A][北斗電工(株)製]を用いて、0.1Cで4.2CまでCC-CV(カットオフ電流0.01C)で充電を行い、1時間休止した後、0.1Cで2.5Vまで放電を行った。この時の充電容量を初回充電容量X0とし、放電容量を初回容量Y0とした。その後、充放電を繰り返し、50サイクル目の放電容量Y1を得た。
以下の式で初回クーロン効率を算出し、結果を表2に示した。
初回クーロン効率(%)=初回放電容量(Y0)/初回充電容量(X0)×100
【0063】
50サイクル放電容量維持率(%)=Y1 /Y0×100として、サイクル特性を測定した。結果を表2に示した。
【0064】
<レート試験評価>
室温下、充放電測定装置[HJ0501SM8A][北斗電工(株)製]を用いて、0.05Cで4.2VまでCC-CV(カットオフ電流0.005C)で充電を行い、1時間休止した後、0.05Cで2.5Vまで放電を行った。1時間休止した後、0.1Cで4.2VまでCC-CV(カットオフ電流0.01C)で充電を行い、1時間休止した後、0.1Cで2.5Vまで放電を行った。その後も充電速度は0.1Cで同じ条件の下、放電速度を0.2C、0.33C、0.5C、1C、2C、3C、5Cと1サイクルごとにCレートを上げて試験を実施した。このとき、0.1Cでの放電容量をZ(0.1C)、1C、3C、5Cで得られた放電容量をZ(1C)、Z(3C)、Z(5C)とそれぞれ置き、以下の式で1C、3C、5Cの放電レート(%)を算出した。結果を表2に示した。
放電レート(1C)=Z(1C)/Z(0.1C)×100(%)
放電レート(3C)=Z(3C)/Z(0.1C)×100(%)
放電レート(5C)=Z(5C)/Z(0.1C)×100(%)
【0065】
【0066】
表2から、各実施例の電極では、各比較例の電極に比べて電解液浸透時間が短く、初回クーロン効率が高くなっていることが分かる。
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物から得られるリチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池として有用である。