(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041084
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】音響整合層の製造方法、及び、音響整合層
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20240319BHJP
G01F 1/66 20220101ALI20240319BHJP
G01F 1/667 20220101ALI20240319BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
G01F1/66 101
G01F1/667 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145706
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 大雅
【テーマコード(参考)】
2F035
5D019
【Fターム(参考)】
2F035DA14
5D019GG01
5D019HH03
(57)【要約】
【課題】従来に対し、音響整合層における密度のばらつきを抑制可能とする。
【解決手段】音響整合板2の密度を測定する測定ステップと、測定ステップにおける測定結果に基づいて、音響整合板2から、同一密度の部分である音響整合部材1221を複数切り取る切り取りステップと、切り取りステップにおいて切り取られた複数の音響整合部材1221を、結合材1222を用いて貼り付ける貼り付けステップとを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響整合板の密度を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおける測定結果に基づいて、前記音響整合板から、同一密度の部分である音響整合部材を複数切り取る切り取りステップと、
前記切り取りステップにおいて切り取られた複数の音響整合部材を、結合材を用いて貼り付ける貼り付けステップと
を有する音響整合層の製造方法。
【請求項2】
前記結合材は、前記切り取りステップにおいて切り取られた複数の音響整合部材と同一の密度である
ことを特徴とする請求項1記載の音響整合層の製造方法。
【請求項3】
前記音響整合板は、中空部材を含み、
前記結合材は、前記音響整合部材に含まれる中空部材と同一の中空部材を含む
ことを特徴とする請求項2記載の音響整合層の製造方法。
【請求項4】
同一の密度である複数の音響整合部材と、
前記音響整合部材を貼り付ける結合材と
を備えた音響整合層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響整合層の製造方法、及び、音響整合層に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を用い、計測対象である流体の流量計測を行う超音波センサシステムが知られている。
この超音波センサシステムでは、一対の超音波センサにより送受信される超音波の伝搬時間差に基づいて、計測対象である流体の流量を計測する。
【0003】
そして、例えば
図7に示すように、超音波センサは、圧電素子、音響整合層、及び、ケースを備えている。
図7において、真ん中の図は超音波センサの側面図であり、左側の図は超音波センサの一方の面を示す図であり、右側の図は超音波センサの他方の面を示す図である。また、
図7において、符号12bは超音波センサを示し、符号121bは圧電素子を示し、符号122bは音響整合層を示し、符号123bはケースを示している。
【0004】
なお、ケースは、金属又は樹脂により構成された板状部材である。
そして、ケースにおける一方の面に圧電素子が接着され、他方の面に音響整合層が接着されている。
【0005】
また、圧電素子には、電圧がかけられるよう、リード線がはんだ付けされている。
図7において、符号124bはリード線を示している。
【0006】
また、音響整合層は、複数の音響整合部材が、結合材を介して貼り合わされることで、構成されている。
【0007】
ここで、音響整合層における密度のばらつきは、音響整合層における音速又は音響インピーダンス、或いは、超音波の透過率等の超音波センサにおける特性ばらつきに大きく影響する。
【0008】
図8は、音響整合層を構成する音響整合部材の構成例を示すイメージ図である。この
図8において、符号1221bは音響整合部材を示している。また、
図8において、符号81は中空部材を示し、符号82は割れた中空部材を示している。
この
図8に示すように、音響整合部材は、中空部材の粒径分布にばらつきがある。そのため、この音響整合部材では、密度にばらつきが生じている。
【0009】
また、音響整合部材の密度と、当該音響整合部材を結合するための結合材の密度も異なる。
【0010】
ここで、超音波センサシステムによる流量計測において、音響インピーダンスは、重要な特性である。この音響インピーダンスは、音響整合層の密度×音速により表すことができる。
【0011】
そして、音響整合層は、製造した時点で、音響整合部材に含まれる中空部材の粒径分布、及び、結合材の密度分布によって、密度にばらつきが生じる。
図9は、製造された音響整合層における密度分布の一例を示す図である。なお、密度分布は、音響整合部材に含まれる中空部材の粒径分布、及び、結合材の密度分布によって生じた音響整合層としての密度分布である。
図9では、色の濃淡によって密度の違いを示している。
図9に示す音響整合層では、中央が高い密度(密度A)の部分であり、両側が低い密度(密度B)の部分であり、密度にばらつきが生じている。
【0012】
そして、音響整合部材に含まれる中空部材の粒径、又は、結合材の密度分布の影響によって、音響整合層における密度にばらつきが生じると、流量計測で使用する超音波センサペアの特性差となって流量計測の伝搬時間差に異常が発生する。
したがって、超音波センサペアを使用した流量計測では、計測不良を避けるため、音響インピーダンス特性が近い超音波センサペア同士が選ばれる。この場合、ペアリング工程が必要になり、超音波センサシステムとしての製造コストが大きくなる。
【0013】
なお、例えば特許文献1のように、予め強度の弱い中空部材を破壊し選別することで、密度分布を安定化させる方法も知られている。
しかしながら、この特許文献1に開示された方法であっても、音響整合部材に含まれる中空部材の粒径分布、及び、結合材の密度分布による影響は生じる。そのため、この方法であっても、音響整合層における密度のばらつきは避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように、従来では、音響整合部材に含まれる中空部材の粒径、又は、結合材の密度分布の影響によって、音響整合層における密度にばらつきが生じてしまう。そして、この密度のばらつきが、流量計測で使用する超音波センサペアの特性差となって流量計測の伝搬時間差に異常が発生する原因になっていた。
【0016】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、従来に対し、音響整合層における密度のばらつきを抑制可能となる音響整合層の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示に係る音響整合層の製造方法は、音響整合板の密度を測定する測定ステップと、測定ステップにおける測定結果に基づいて、音響整合板から、同一密度の部分である音響整合部材を複数切り取る切り取りステップと、切り取りステップにおいて切り取られた複数の音響整合部材を、結合材を用いて貼り付ける貼り付けステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、上記のように構成したので、従来に対し、音響整合層における密度のばらつきを抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態1に係る超音波センサシステムの構成例を示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る超音波センサの構成例を示す図である。
【
図3】実施の形態1に係る音響整合層の構成例を示す図である。
【
図4】実施の形態1に係る音響整合層の製造方法例を示すフローチャートである。
【
図5】実施の形態1に係る音響整合層の製造方法例を示す図である。
【
図6】
図6A、
図6Bは、実施の形態1に係る音響整合層の製造方法による効果を示す図であって、
図6Aは従来の超音波センサシステムの製造工程例を示す図であり、
図6Bは実施の形態1に係る超音波センサシステムの製造工程例を示す図である。
【
図7】従来の超音波センサの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係る超音波センサシステム1の構成例を示す図である。
超音波センサシステム1は、超音波を用いて計測対象である流体の流量を計測する。この超音波センサシステム1は、
図1に示すように、計測管11、一対の超音波センサ12(第1の超音波センサ12-1及び第2の超音波センサ12-2)、及び、演算部13を備えている。
【0021】
計測管11は、内部に超音波流量計が計測対象とする流体が流れる管である。
【0022】
第1の超音波センサ12-1は、計測管11の側壁における上流側に取付けられ、計測管11内で第2の超音波センサ12-2との間で超音波の送受信を交互に繰り返す超音波振動子である。すなわち、第1の超音波センサ12-1は、演算部13による制御に応じて計測管11内で下流側(第2の超音波センサ12-2)に対して超音波を送信し、また、下流側(第2の超音波センサ12-2)からの超音波を受信信号として受信する。
この第1の超音波センサ12-1により受信された受信信号は、演算部13に出力される。
【0023】
第2の超音波センサ12-2は、計測管11の側壁における下流側に取付けられ、計測管11内で第1の超音波センサ12-1との間で超音波の送受信を交互に繰り返す超音波振動子である。すなわち、第2の超音波センサ12-2は、演算部13による制御に応じて計測管11内で上流側(第1の超音波センサ12-1)に対して超音波を送信し、また、上流側(第1の超音波センサ12-1)からの超音波を受信信号として受信する。
この第2の超音波センサ12-2により受信された受信信号は、演算部13に出力される。
【0024】
なお、第1の超音波センサ12-1及び第2の超音波センサ12-2の位置関係は、第1の超音波センサ12-1及び第2の超音波センサ12-2で用いられる超音波の伝搬経路に応じて適宜設計される。
【0025】
この超音波センサ12(第1の超音波センサ12-1及び第2の超音波センサ12-2)の構成例については、後述する。
【0026】
演算部13は、第1の超音波センサ12-1による送受信結果、及び、第2の超音波センサ12-2による送受信結果に基づいて、計測対象である流体の流量を演算する。なお、演算部13による流量の演算方法については、既存技術を適用可能であり、その説明を省略する。
【0027】
また、演算部13は、システムLSI(Large Scale Integration)等の処理回路、又はメモリ等に記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等により実現される。
【0028】
次に、超音波センサ12(第1の超音波センサ12-1及び第2の超音波センサ12-2)の構成例について、
図2を参照しながら説明する。
図2において、真ん中の図は超音波センサ12の側面図であり、左側の図は超音波センサ12の一方の面を示す図であり、右側の図は超音波センサ12の他方の面を示す図である。
超音波センサ12は、
図2に示すように、圧電素子121、音響整合層122、及び、ケース123を備えている。
【0029】
圧電素子121は、入力された高周波(例えば500kHz)の電圧に応じた超音波を出力し、また、入力された超音波に応じた高周波の電圧を出力する。
また、圧電素子121には、電圧の入出力が可能なよう、リード線124がはんだ付けされている。
【0030】
音響整合層122は、圧電素子121により出力された超音波を外部に送り、また、外部からの超音波を圧電素子121に送る。
【0031】
この音響整合層122の構成例については、後述する。
【0032】
ケース123は、圧電素子121と音響整合層122とを固定する部材であり、金属又は樹脂により構成された板状部材である。このケース123には、一方の面に圧電素子121が接着され、他方の面に音響整合層122が接着されている。
【0033】
次に、音響整合層122の構成例について、
図3を参照しながら説明する。
音響整合層122は、
図3に示すように、複数の音響整合部材1221、及び、結合材1222を備えている。
【0034】
複数の音響整合部材1221は、互いに同一(略同一の意味を含む)の密度である部材である。
この音響整合部材1221としては、例えば、樹脂系の接着剤を母材とし、そこに中空部材をフィラーとして混ぜ合わせて硬化させた材料が挙げられる。樹脂系の接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤が挙げられる。また、中空部材としては、例えば、微細中空ガラス球が挙げられる。
【0035】
結合材1222は、複数の音響整合部材1221同士を貼り付ける接着剤である。
この結合材1222としては、例えば、樹脂系の接着剤が挙げられる。樹脂系の接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤が挙げられる。
【0036】
また、結合材1222は、上記複数の音響整合部材1221と同一(略同一の意味を含む)の密度であることが望ましい。
この際、例えば、上記音響整合部材1221に含まれる中空部材と同一(略同一の意味を含む)の中空部材が混ぜられた結合材1222を用いることで、結合材1222を当該音響整合部材1221と同一の密度とすることが可能である。
【0037】
なお、
図3では、3枚の音響整合部材1221を重ね合わせて結合材1222で結合することで、音響整合層122が構成された場合を示した。しかしながら、音響整合層122を構成する音響整合部材1221の積層数はこれに限らず、音響整合部材1221は2枚以上であればよい。
【0038】
次に、音響整合層122の製造方法について、
図4を参照しながら説明する。
音響整合層122の製造方法では、
図4に示すように、まず、製造された音響整合板2の密度を測定する(ステップST401、測定ステップ)。ここで、例えば
図5に示すように、音響整合板2では、音響整合板2に含まれる中空部材の粒径によって、密度にばらつきが生じている。
図5では、色の濃淡によって密度の違いを示している。
図5に示す音響整合板2では、中央が高い密度(密度A)の部分であり、両側が低い密度(密度B)の部分であり、密度にばらつきが生じている。
【0039】
なお、音響整合板2における密度の確認方法としては、例えば非特許文献1に示されるような、X線CT観察による中空部材の分布の画像処理に基づいて、音響整合板2における密度分布の情報を得る方法が挙げられる。
また、音響整合板2における密度の別の確認方法としては、例えば、音速と密度の関係に基づいて、音響整合板2の局所的な音速を測定することで、音響整合板2における密度分布の情報を得る方法が挙げられる。
【非特許文献1】https://www.mirrorcle-analysis.co.jp/j/service/density.htm
【0040】
次いで、測定ステップにおける測定結果に基づいて、上記音響整合板2から、同一密度の部分である音響整合部材1221を複数切り取る(ステップST402、切り取りステップ)。すなわち、上記音響整合板2から、音響整合層122を構成するために必要な寸法、且つ、同一密度の部分である音響整合部材1221を複数切り取る。この際、切り取り対象となる音響整合部材1221の密度は、任意の密度でよい。
図5では音響整合板2から、密度Aの部分を音響整合部材1221として複数切り取った場合を示している。
【0041】
次いで、切り取りステップにおいて切り取られた複数の音響整合部材1221を、結合材1222を用いて貼り付ける(ステップST403、貼り付けステップ)。
また、結合材1222は、上記複数の音響整合部材1221と同一(略同一の意味を含む)の密度であることが望ましい。この際、例えば、上記音響整合部材1221に含まれる中空部材と同一(略同一の意味を含む)の中空部材が混ぜられた結合材1222を用いることで、結合材1222を当該音響整合部材1221と同一の密度とすることが可能である。
【0042】
このように、実施の形態1に係る音響整合層122の製造方法では、製造された音響整合板2から任意の密度の層を切り取り、同じ密度で切り取った層同士を結合材1222を用いて貼り合わせる。これにより、実施の形態1に係る音響整合層122の製造方法では、均一の密度、すなわち均一の音響インピーダンスを保った音響整合層122を得ることができる。
【0043】
また、実施の形態1に係る音響整合層122の製造方法において、切り取った音響整合部材1221を貼り付ける結合材1222は、当該音響整合部材1221と同じ中空部材を混ぜることで、貼り合わせる音響整合部材1221と同じ密度にしたものを用いてもよい。これにより、実施の形態1に係る音響整合層122の製造方法では、より均一の密度、つまり均一の音響インピーダンスを保った音響整合層122を得ることができる。
【0044】
そして、実施の形態1に係る音響整合層122の製造方法では、均一の音響インピーダンスを保った音響整合層122を得ることができるため、超音波センサシステム1の製造において、ペアリング工程が不要となる。
【0045】
すなわち、
図6Aに示すように、従来では、音響整合層に生じる密度のばらつきによって超音波センサ毎に特性が異なる。そのため、従来では、計測不良を回避するために、音響インピーダンス特性が近い超音波センサペアを選択するペアリング工程が必要であった。
それに対し、実施の形態1に係る音響整合層122の製造方法では、音響整合層122における密度のばらつきを回避でき、超音波センサ12毎の特性差を回避できる。すなわち、実施の形態1に係る音響整合層122では、どの音響整合部材1221を使用しても同じ密度であるため、その音響整合部材1221を用いて構成された超音波センサ12は全て同じ特性を持ったものとなる。そのため、
図6Bに示すように、この超音波センサ12を備えた超音波センサシステム1は、計測精度が向上し、上記のようなペアリング工程が不要となる。その結果、従来に対し、超音波センサシステム1としての製造コストを抑制可能となる。
【0046】
以上のように、この実施の形態1によれば、音響整合層122の製造方法は、音響整合板2の密度を測定する測定ステップと、測定ステップにおける測定結果に基づいて、音響整合板2から、同一密度の部分である音響整合部材1221を複数切り取る切り取りステップと、切り取りステップにおいて切り取られた複数の音響整合部材1221を、結合材1222を用いて貼り付ける貼り付けステップとを有する。これにより、実施の形態1に係る音響整合層122の製造方法では、従来に対し、音響整合層122における密度のばらつきを抑制可能となる。
【0047】
また、実施の形態1において、結合材1222は、切り取りステップにおいて切り取られた複数の音響整合部材1221と同一の密度である。また、実施の形態1において、音響整合板2は、中空部材を含み、結合材1222は、音響整合部材1221に含まれる中空部材と同一の中空部材を含む。これにより、実施の形態1に係る音響整合層122の製造方法では、音響整合層122における密度のばらつきを更に抑制可能となる。
【0048】
なお、実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 超音波センサシステム
2 音響整合板
11 計測管
12 超音波センサ
12-1 第1の超音波センサ
12-2 第2の超音波センサ
13 演算部
121 圧電素子
122 音響整合層
123 ケース
124 リード線
1221 音響整合部材
1222 結合材