(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041091
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】成形燃料及びガス化方法
(51)【国際特許分類】
C10L 10/04 20060101AFI20240319BHJP
C10L 5/44 20060101ALI20240319BHJP
C10J 3/02 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C10L10/04
C10L5/44
C10J3/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145722
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(71)【出願人】
【識別番号】500004461
【氏名又は名称】シン・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143410
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】二宮 善彦
(72)【発明者】
【氏名】乾 正博
(72)【発明者】
【氏名】角間 隆司
(72)【発明者】
【氏名】藤元 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】尾形 直亮
(72)【発明者】
【氏名】奥野 滉一朗
【テーマコード(参考)】
4H015
【Fターム(参考)】
4H015AA13
4H015AA25
4H015AB01
4H015AB07
4H015BA01
4H015BA13
4H015CB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低コストで、ガス化装置におけるクリンカの発生を抑制することが可能な成形燃料及び成形燃料の製造方法を提供する。
【解決手段】スギなどの木質バイオマス原料にCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相発生を抑制する成分を含むクリンカ生成抑制剤を添加して成形した成形燃料である。クリンカ生成抑制剤は、シリカ系成分及びマグネシウム系成分を含み、(1)ケイ酸マグネシウム鉱物、滑石、苦土カンラン石、頑火輝石、クリソタイル、リザード石、(2)制酸剤や医薬品添加物としての三ケイ酸マグネシウム(無水物の化学式はMg
2(Si
3O
8)などのケイ酸マグネシウム、(3)シリカ系化合物(例えばSiO
2、石英)及びマグネシウム系化合物(例えば、MgO、Mg(OH)
2、MgCO
3など)を混合調製した資材、を有効成分として含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISO 18122:2015に準拠した灰化方法で得られる灰分の組成の酸化物換算で算出したときに、酸化カリウムが20wt%以上となる木質バイオマス原料、または前記灰分をISO 21404:2020に準拠し、酸化性雰囲気(CO2)あるいは還元性雰囲気(CO 60%-CO2 40%)において軟化点(DT)を測定したときに735 ~950℃に軟化点を有する木質バイオマス原料からなり、固定床方式または固気移動床方式のガス化炉で用いられる成形燃料であって、
1000℃以下のガス化雰囲気となる領域において、CaCO3-K2CO3系共晶による液相の生成を抑制することによりクリンカの生成を抑制するクリンカ生成抑制剤を含有し、
前記クリンカ生成抑制剤は、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム鉱物(xMgO・ySiO2・nH2O)、シリカ系化合物とマグネシウム系化合物との混合物のうち、少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とする成形燃料。
【請求項2】
前記添加剤を、添加後の成形燃料中の無機質の成分割合が、酸化物の質量割合で下記の関係を充足するように含有することを特徴とする請求項1に記載の成形燃料。
TE=(SiO2+MgO)/(CaO+K2O)
BA=(Fe2O3+CaO+MgO+Na2O+K2O)/(SiO2+Al2O3)
0.6≦TE
BA≦2.6
【請求項3】
前記ケイ酸マグネシウム鉱物として、滑石(Mg3Si4O10(OH)2)、苦土カンラン石(Mg2SiO4)、頑火輝石(Mg2Si2O6)、クリソタイル(Mg3Si2O5(OH)4)及びリザード石(Mg3Si2O5(OH)4)のうち、少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の成形燃料。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の成形燃料を用意する工程と、
前記成形燃料を1000℃以下のガス化雰囲気下でガス化する工程と、
を含むことを特徴とする成形燃料のガス化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えばバイオマス発電等に用いられる成形燃料及びガス化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では木質バイオマス発電所が急増している。特に、小規模バイオマス発電は、比較的小規模な範囲(地域内)で集荷が可能であることや熱電併給(CHP)による総合エネルギー効率を高めることができる点で地域電源として注目されている。小型 CHPを実現する方法の1つが小型ガス化炉とガスエンジンなどの発電システムとを組み合わせた木質バイオマス燃料のガス化発電システムである。このガス化発電システムは、小型ガス化炉に木質バイオマスを投入し、部分酸化方式で得られた合成ガスを燃料として発電システムで電力を得るものである。
【0003】
ここで、木質バイオマスのガス化において、ガス化炉中で木質バイオマス中の無機物質に起因したクリンカ生成がおこり、安定した操業を阻害する要因になっている。例えば、固気上向き並流型移動層ガス化炉において、炉下からペレットが上に移動し、熱分解によりチャーになる。その後、温度帯が800~900℃前後になる部分酸化層と熱分解層付近において液相(融液)が発生し、それがバインダーとなってチャー同士の付着・凝集が始まり、クリンカの生成にいたる。下から移動してきたチャーが次々とクリンカに付着・凝集することでクリンカが成長し、最終的にはガス化炉を覆いつくすようになる。
【0004】
このクリンカ形成は、カリウム含有率の高いスギ材をガス化炉の原料としたときに生じやすい。発明者らは、カリウム含有率の高いスギ材をガス化炉の原料としたときに、原料中のカルシウムがCaCO3として安定に存在する温度・圧力領域におけるCaCO3-K2CO3系共晶による液相発生がクリンカトラブルの原因であることを明らかにした(非特許文献1)。空気吹きの通常の木質バイオマスのガス化では、CO2が数~数十%存在することから、CaCO3が安定な温度領域(900℃以下)において、CaCO3-K2CO3系共晶による液相が発生するからである。
【0005】
そこで、発明者らは、CaCO3-K2CO3系共晶による液相発生を低減する技術として、木質バイオマス原料にAl2O3系の添加剤を加えて成形燃料を作製する技術を創出した(特許文献1)。基本的な原理は、K2CO3をAl2O3と反応させてKAlO2に変換してK2CO3含有率を低下させ、CaCO3-K2CO3系共晶による液相発生を低減させることにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】佐藤 龍磨, 角間 隆司, 藤元 祐輔, 尾形 直亮, 籔内 一博, 二宮 善彦, 堀尾 正靭:スギペレットを燃料とした固気上向き並流型移動層ガス化炉におけるクリンカの生成挙動の解明、日本エネルギー学会誌、100 巻 (2021) 10 号p. 236-244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液相発生の低減を効果的に行うには、添加剤の微粉砕を行う必要があるが、Al2O3系の添加剤は硬いため、粉砕コストが高い。また、成形燃料としてペレット状に成形するための金型などの成形治具の損耗が早い。いずれもコスト高につながるため、更に低コストの添加剤を使用することの要請があった。
【0009】
本願発明では、低コストで、CaCO3-K2CO3系共晶による液相の生成を減少させてガス化装置におけるクリンカの発生を抑制することが可能な成形燃料を提供することを目的とする。また、当該成形燃料を用いたガス化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、ISO 18122:2015に準拠した灰化方法で得られる灰分の組成の酸化物換算で算出したときに、酸化カリウムが20wt%以上となる木質バイオマス原料、または前記灰分をISO 21404:2020に準拠し、酸化性雰囲気(CO2)あるいは還元性雰囲気(CO 60%-CO2 40%)において軟化点(DT)を測定したときに735 ~950℃に軟化点を有する木質バイオマス原料からなり、固定床方式または固気移動床方式のガス化炉で用いられる成形燃料であって、1000℃以下のガス化雰囲気となる領域において、CaCO3-K2CO3系共晶による液相の生成を抑制することによりクリンカの生成を抑制するクリンカ生成抑制剤を含有し、前記クリンカ生成抑制剤は、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム鉱物(xMgO・ySiO2・nH2O)、シリカ系化合物とマグネシウム系化合物との混合物のうち、少なくとも1つを有効成分として含有する、という技術的手段を用いる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の成形燃料において、前記添加剤を、添加後の成形燃料中の無機質の成分割合が、酸化物の質量割合で下記の関係を充足するように含有する、という技術的手段を用いる。
TE=(SiO2+MgO)/(CaO+K2O)
BA=(Fe2O3+CaO+MgO+Na2O+K2O)/(SiO2+Al2O3)
0.6≦TE
BA≦2.6
【0012】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の成形燃料において、前記ケイ酸マグネシウム鉱物として、滑石(Mg3Si4O10(OH)2)、苦土カンラン石(Mg2SiO4)、頑火輝石(Mg2Si2O6)、クリソタイル(Mg3Si2O5(OH)4)及びリザード石(Mg3Si2O5(OH)4)のうち、少なくとも1つを含有する、という技術的手段を用いる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、成形燃料のガス化方法であって、請求項1または請求項2に記載の成形燃料を用意する工程と、 前記成形燃料を1000℃以下のガス化雰囲気下でガス化する工程と、 を含む、という技術的手段を用いる。
【発明の効果】
【0014】
本願発明の成形燃料によれば、木質バイオマス原料の成分に応じて、カリウム含有化合物に加えカルシウム含有化合物に作用するクリンカ生成抑制剤が添加されているので、ガス化雰囲気におけるCaCO3-K2CO3系の共晶による液相の発生を抑制することができ、クリンカの発生を効果的に防止することができる。また、この成形燃料を用いたガス化方法によれば、クリンカの発生を防止してガス化が可能であるので、安定した操業が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図2】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図3】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図4】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図5】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図6】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図7】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図8】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図9】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図10】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図11】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図12】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図13】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図14】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図15】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図16】多成分系熱力学的平衡状態の計算によるCaCO
3-K
2CO
3系共晶による液相の発生率を示す説明図である。
【
図17】融点の測定における試験片面積の温度変化を示す説明図である。
【
図18】融点の測定における試験片面積の温度変化を示す説明図である。
【
図19】融点の測定における試験片面積の温度変化を示す説明図である。
【
図20】融点の測定における試験片面積の温度変化を示す説明図である。
【
図21】融点の測定における試験片面積の温度変化を示す説明図である。
【
図22】融点の測定における試験片面積の温度変化を示す説明図である。
【
図23】融点の測定における試験片面積の温度変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して成形燃料及びガス化方法の実施形態について説明する。
【0017】
発明者らは、ガス化炉内におけるクリンカ生成挙動を検討し、ガス化炉で発生するクリンカはCaCO3-K2CO系の液相が無機物を取り込んで成長した塊であることを明らかにした(非特許文献1)。CO2分圧の高いガス化炉では CaCO3-K2CO3系共晶により 735 ℃からCaCO3-K2CO3からなる液相が発生し、これがクリンカ発生の主原因である。特に主なガス化領域温度が1000℃以下である固定床方式または固気移動床方式のガス化炉において、クリンカの発生が問題となる。特許文献1に記載の技術では、Al含有材料をクリンカ生成抑制剤として用い、カリウム含有化合物に作用させて液相の生成を抑制してクリンカの生成を抑制したが、よりコストが低く成形燃料を製造できる材料を用い、より効果的にクリンカの生成を抑制するクリンカ生成抑制剤を探索し、本願発明に想到した。
【0018】
本願発明の成形燃料は、スギなどの木質バイオマス原料にCaCO3-K2CO3系の液相の発生を抑制する有効成分を含むクリンカ生成抑制剤を添加して成形した成形燃料である。
【0019】
クリンカ生成抑制剤は、シリカ系成分及びマグネシウム系成分を含んでいる。具体的には、(1)ケイ酸マグネシウム鉱物(xMgO・ySiO2・nH2O):滑石(タルク、tarc、Mg3Si4O10(OH)2)、苦土カンラン石(forstrite、Mg2SiO4)、頑火輝石(メタ珪酸マグネシウムまたはエンスタタイト、enstatite,Mg2Si2O6)、クリソタイル(chrysotile, Mg3Si2O5(OH)4 - アスベストの一種)、リザード石(lizardite, Mg3Si2O5(OH)4)、(2)制酸剤や医薬品添加物としての三ケイ酸マグネシウム(無水物の化学式はMg2(Si3O8)などのケイ酸マグネシウム、(3)シリカ系化合物(例えばSiO2、石英)及びマグネシウム系化合物(例えば、MgO、Mg(OH)2、MgCO3など)を混合調整した資材、を有効成分として含んでいる。
【0020】
これにより、ガス化炉において液相が生成される温度以下で、クリンカ生成抑制剤の有効成分であるシリカ系成分及びマグネシウム系成分がカリウム含有化合物に加えカルシウム含有化合物と反応して、K2MgSiO4、Ca3MgSi2O8、KAlSiO4などのK-Mg-Si-O系、Ca-Mg-Si-O系、K-Al-Si-O系の複合化合物を生成することによってCaCO3-K2CO3系共晶による液相発生を低減させることができるので、クリンカの発生を抑制することができる。
【0021】
クリンカ生成抑制剤の木質バイオマス原料への添加量は灰分含有率によって異なるが、CaCO3-K2CO3系共晶による液相発生を十分に抑制できる量を添加する必要があり、例えば0.1~0.6wt%である。
【0022】
本願発明の成形燃料は、公知の方法を用いて例えばペレットとして製造することができる。例えば、木質バイオマス原料として燃料として調達された原木を、おが粉にして乾燥させた後に、所定量のクリンカ生成抑制剤を添加して造粒機に投入しペレット状に成形する。ペレットに成形された成形燃料は、製造及び取り扱いが容易であり、ガス化炉においてガス化させるのに適している。
【0023】
CaCO3-K2CO3系共晶による液相は735℃から950℃付近で発生することから、主なガス化領域温度が1000℃以下であるガス化炉について、顕著にクリンカ生成抑制効果が発揮される。部分酸化層等において、微視的には1000℃を超える場合があるが、そのようなガス化炉も主なガス化領域温度が1000℃以下であるガス化炉に含まれるものとする。
【0024】
木質バイオマス原料として利用されるスギ(特に、日本のスギ)は、カリウム化合物の含有率が高い。このため、スギを主成分とする木質バイオマス原料を使用する成形燃料では、上述のクリンカ生成抑制剤を含有させることが特に有効である。
【0025】
熱力学的平衡計算及び測定(実施例)には、日本産のスギ材として、バークを含む全木原料のK-6試料、バークを除いたおが粉であるK-7試料の灰分を用いた。ISO18122:2015に準拠して550℃の燃焼温度で作製した、木質バイオマス原料の灰分のXRF測定結果を表1に示す。
【0026】
【0027】
バークを含むK-6試料は、SiO2及びAl2O3がK-7試料に比べて多少高くなっているが、主な元素は酸化物表示で示すとK2O及びCaOである。
【0028】
DIN51730法に基づき、酸化性(空気)、還元性(CO 60%-CO2 40%)およびCO2雰囲気で灰の溶融特性温度測定を行った結果を表2に示す。溶融特性は、DT(Deformation temperature、 軟化点)及びHT(Hemisphere temperature、溶融点)で示す。
【0029】
【0030】
酸化雰囲気では、すべての試料においてDTが1300℃以上となった。しかし、還元雰囲気及びCO2雰囲気では 790℃以下となり、大きく低下した。
【0031】
クリンカ生成抑制剤の効果を確認するために、K-6試料、バークを除いたおが粉であるK-7試料の灰分に、タルク、水酸化マグネシウム、焼成カオリンを添加して各種組成の試料を作製した。
【0032】
クリンカ生成抑制剤の例として用いたタルク、水酸化マグネシウム及び焼成カオリンの組成(化学分析値)を表3に示す。
【0033】
【0034】
熱力学的平衡計算及び測定に用いたた灰分の化学組成を表4に示す。表中には、後述するパラメータTE及びBAも併記した。ここで、試料-1,6,10,11,13,16は、K-6、K-7及びこれらに試薬を混合して作製したものであり、その他は計算に使用するために設定した組成である。
【0035】
【0036】
ガス化雰囲気 735~950℃で灰分からの液相発生を確認するために、FactSage8 .1(GTT Technologies、https: /gtt-technologies. de/)を使用して多成分系熱力学的平衡状態を計算した 。計算に使用したスラグモデルは FToxide、SlagAモデル及び数種類の固溶体モデルを使用した。ここで、CaCO3 -K2CO3 系における液相の熱力学データは、Arefiev, A. V.; Shatskiy, A.; Podborodnikov, I. V.; Rashchenko, S. V.; Chanyshev, A. D.; Konstantin, D. L., Physics and Chemistry of Minerals, 46, 229-244 (2019)の Fig.1 (a) に示された CaCO3-K2CO3系平衡状態図の液相線を再現するように、液相のギブズエネルギーをRedlich-Kister多項式を用いた正則溶体近似により求めて熱力学データベースに追加した。計算に使用したガスの雰囲気は、液相が最も発生しやすい条件であるCO2雰囲気とした。
【0037】
図1-17に、木質バイオマス灰にタルクなどのクリンカ生成抑制剤を加えたときの多成分系熱力学的平衡状態の計算による液相の発生率を示す。ここで、liqはCaCO
3-K
2CO
3系の共晶による液相、slagはSiO
2-Al
2O
3-CaO-MgO-K
2O系のガラス状物質の溶融状態を示す。735~950℃において、CaCO
3- K
2CO
3系の共晶による液相(liq)がほとんど発生しないときがクリンカ生成抑制剤としての効果があることになる。なお、SiO
2-Al
2O
3-CaO-MgO-K
2O系のガラス状物質の液相(slag)は1000℃以下では粘度が高く、クリンカ形成にほとんど影響を及ぼさない。
【0038】
試料1-5では、735~950℃において、CaCO3-K2CO3系の共晶による液相(liq)がほとんど発生せず、クリンカ生成抑制剤としての効果がある。一方、試料6-16では、液相(liq)が多量に発生し、クリンカ生成抑制剤としての効果が認められない。
【0039】
上記の結果を、下記パラメータを用いて、クリンカ生成抑制剤を添加後の成形燃料中の無機質の成分割合と、酸化物の質量割合とで整理する。
【0040】
(数1)
TE=(SiO2+MgO)/(CaO+K2O) (1)
【0041】
(数2)
BA=(Fe2O3+CaO+MgO+Na2O+K2O)/(SiO2+Al2O3) (2)
【0042】
TEは、CaCO3-K2CO3系の共晶成分に対するケイ酸マグネシウム成分の比を表している。この値が大きいほどクリンカ生成抑制剤を多く添加していることになり、灰分は溶融しにくくなるため、0.6以上となることが好ましい。
【0043】
BAは、酸性成分に対する塩基性成分の比を表している。この値が大きいと灰分が溶融しやすくなるため、2.6以下となることが好ましい。
【0044】
ここで、試料1-16を、0.6≦TE及びBA≦2.6を充足する場合を○、充足しない場合を×として整理すると、表5のようになる。
【0045】
【0046】
以上より、本願発明のクリンカ生成抑制剤を0.6≦TE及びBA≦2.6の関係を充足するように、木質バイオマス原料に添加することにより、CaCO3-K2CO3系の共晶による液相(liq)の発生を抑止し、クリンカの生成を防止することができる。
【0047】
試料1のときに、FactSageで計算した加熱過程において生成する化合物を示す。FactSage によって計算される化合物は、それぞれの温度において化合物が固相・気相系あるいは非理想溶液のスラグを含む固相・気相系の平衡状態にある理想的な化合物となっている。700~1000℃に生成する主な化合物は、Ca3MgSi2O8、KAlSiO4、K2CaSiO4、KAlO2、MgO、K2MgSiO4、Na2CaAl4O8、Bredigite(Ca2Mg(SiO4)4) などK-Mg-Si-O系、Ca-Mg-Si-O系、K-Al-Si-O系の複合化合物と、CaCO3-K2CO3系の共晶物である。
【0048】
つまり、クリンカ生成抑制剤は、1000℃以下において上述の固体化合物を生成することにより、CaCO3-K2CO3系の共晶成分による液相が生じることを防ぐことができる。
【0049】
本願発明の成形燃料は、クリンカ生成抑制剤により、シリカ系成分及びマグネシア系成分をカリウム含有化合物に加えカルシウム含有化合物と反応させることにより、CaCO3-K2CO3系の共晶による液相(liq)の発生を抑制させることから、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム鉱物(xMgO・ySiO2・nH2O)、シリカ系化合物とマグネシウム系化合物との混合物を添加した場合でも同様の効果が得られる。更に、これらのクリンカ生成抑制剤を単一で添加してもよいし、複数混合して添加してもよい。
【0050】
また、木質バイオマス原料中の灰分組成、特にカリウムは、樹種やサンプル箇所によって大きく異なる。木質バイオマス原料として利用される日本の木材、例えば、スギは、他の地域の木材、例えば欧州のトウヒ、と比較してカリウム化合物の含有率が高いことが知られている。本願発明の効果が特に有効となる木質バイオマス原料のカリウムを酸化物換算した酸化カリウムの重量割合は20wt%以上であり、本願発明は、スギに対して特に有効である。
【0051】
以下に、本願発明の成形燃料を用いてガス化方法について示す。
【0052】
本願発明の成形燃料をガス化する方法として、公知のガス化方法を用いることができる。代表的なガス化方法として、例えば非特許文献1に記載されているような、木質ペレットをガス化炉下部からスクリューで供給する固気上向き並流型移動層ガス化炉を用いたガス化方法がある。このガス化方法において、ガス化剤は空気であり、燃料と同様に炉下部から供給される。通常炉底から高さ方向の中央付近で熱分解と部分酸化が行われる。熱分解により生成したチャーはあまり粉化せずにペレット状の形状を保ったまま還元層を形成し、上部に移動するにつれガス化反応が進行する。生成されたガスは、ガス化炉上方から回収され、発電設備などに送られる。なお、ガス化反応は吸熱反応であるため、部分燃焼ゾーンの温度領域が最も高い温度となり、ガス化反応の進行とともに炉内温度は徐々に低下する。還元層最上部付近では、チャーによる生成ガス中のタール分の2次分解が促進される。また層上部では、衝突や摩耗により粉化したチャーの流動層が形成されている。生成ガスに同伴されるまで微細化したチャーは炉外にフライアッシュとして排出され、後段のバグフィルターにて回収される。
【0053】
その他、本願発明の成形燃料は、固定床方式のガス化炉など空気吹きのガス化炉で、1000℃以下のガス化雰囲気となる領域においてCO2が数~数十%存在するガス化炉を用いたガス化に好適に用いることができる。
【0054】
(実施形態の効果)
本願発明の成形燃料によれば、木質バイオマス原料の成分に応じて、カリウム含有化合物に加えカルシウム含有化合物に作用するクリンカ生成抑制剤が添加されているので、ガス化雰囲気におけるCaCO3-K2CO3系の共晶による液相の発生を抑制することができ、クリンカの発生を効果的に防止することができる。また、この成形燃料を用いたガス化方法によれば、クリンカの発生を防止してガス化が可能であるので、安定した操業が可能である。
【実施例0055】
木質バイオマス原料に含まれる無機物質の化学分析には、木質試料を0.5 mm以下まで粉砕し、ISO 18122:2015に準拠し、最高温度 550℃で灰化した試料を作製した。灰の化学分析には蛍光X線分析装置(XRF、リガク Primus IV)を使用してスタンダードレスFP分析した。
【0056】
(融点測定)
試料-1,6,10,11,13,16について、ISO 21404:2020に基づき、灰分の融点測定を行った。成形圧 1.5N/mm2で直径3mm、高さ3mmの円柱試験片を作製し、測定に供した。溶融温度の測定には、試験片を側面から観察可能な高温加熱顕微鏡を使用し、酸化性雰囲気(CO2)で測定した。試料-1については、還元性雰囲気(CO 60%-CO2 40%)でも測定した。加熱時の試験片の形状を、望遠レンズを装着したUSBカメラにより撮影した画像をパソコンに取り込み、画像解析処理プログラムによりその形状変化を解析した。灰の溶融温度は、下記の形状の軟化点(DT)及び融解点(HT)の温度を測定した。ここで、735 ~950℃に生じる軟化点(DT)は、CaCO3-K2CO3系共晶による液相の生成に対応している。
DT:試料の端部が丸みを生じ始める温度、試料が膨張し始める温度等(ISO 21404:2020の判定法に準拠)
HT:幅Dに対し高さがD/2になり、その形状がほぼ半球になる温度
【0057】
測定結果を表6に示す。表中TE,BAについては、本願発明で規定する範囲を充足している場合は○、充足していない場合は×とした。
【0058】
【0059】
融点の測定においては、試験片面積(pixel)の温度変化を同時に測定した。
図17-23に温度上昇とともなう試験片面積の変化を示す。
【0060】
試料-1(TE○、BA○)では、CO
2雰囲気(
図17)および還元雰囲気(CO 60%-CO
2 40%(JIS還元雰囲気)において1200℃以上までは試験片の面積変化はほとんどなく、溶融していない。CaCO
3-K
2CO
3系の共晶においては、CaCO
3の分解に及ぼすCO
2分圧の影響が重要であるため、CO
2 100%雰囲気の方が顕著に共晶による溶融の影響が現れやすい。また、還元雰囲気での測定は、ガス化条件において影響を及ぼす試料中の鉄化合物の影響を調べるためである。試料-6,10(TE○、BA×)及び試料-11(TE×、BA○)では、750~800℃で低粘度の液相が発生し、試験片が収縮して試験片面積が低下した。その後、取り残された残渣固体によってその形状が維持された。試料-13,16(TE×、BA×)では、750℃で低粘度の液相が発生し、780℃近傍で気体が液相を発泡させながら放出している様子が観察された。発泡の原因はCaCO
3-K
2CO
3系の共晶による液相(liq)中において、温度上昇に伴うCaCO
3の分解に伴うCO
2の発生に起因する液相が増大したことであると考えられる。
【0061】
これにより、本願発明は、灰分をISO 21404:2020に準拠し、酸化性雰囲気(CO2)あるいは還元性雰囲気(CO 60%-CO2 40%)において軟化点(DT)を測定したときに735 ~950℃に軟化点を有する木質バイオマス原料を用いた成形燃料に好適にもちいることができ、CaCO3-K2CO3系の共晶による液相の発生を抑制することができることが確認された。
【0062】
(生成物の確認)
試料1をCO2雰囲気 900℃で30分加熱し、その後に急冷した試料を作製した。XRD結晶相の定性分析とリードベルト解析により鉱物相の定量を行った。X線回折による測定においては、測定試料がすべて結晶化しておらず一部が非晶質となっているため、すべての化合物を検出・同定することは困難であるが、CaMgSiO4、Mg(SiO3) 、Ca3(SiO4)O、K2Ca3(Si3O10)、K2MgSiO4、CaAl2O4の生成が確認された。
【0063】
これにより、クリンカ生成抑制剤の有効成分がシリカ系成分及び酸素含有マグネシウム系成分がカリウム含有化合物に加えカルシウム含有化合物と反応して、K-Mg-Si-O系、Ca-Mg-Si-O系などの複合化合物を生成することが確認された。