IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ダイセルの特許一覧

<>
  • 特開-貴金属吸着材及び貴金属回収方法 図1
  • 特開-貴金属吸着材及び貴金属回収方法 図2
  • 特開-貴金属吸着材及び貴金属回収方法 図3
  • 特開-貴金属吸着材及び貴金属回収方法 図4
  • 特開-貴金属吸着材及び貴金属回収方法 図5
  • 特開-貴金属吸着材及び貴金属回収方法 図6
  • 特開-貴金属吸着材及び貴金属回収方法 図7
  • 特開-貴金属吸着材及び貴金属回収方法 図8
  • 特開-貴金属吸着材及び貴金属回収方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041093
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】貴金属吸着材及び貴金属回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/28 20060101AFI20240319BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20240319BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240319BHJP
   D04H 1/4258 20120101ALI20240319BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20240319BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B01J20/28 A
B01J20/26 E
B01D15/00 N
D04H1/4258
C22B11/00 101
C22B3/24
C22B3/24 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145728
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】坂田 祐未
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 真実
(72)【発明者】
【氏名】關 好恵
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4K001
4L047
【Fターム(参考)】
4D017AA13
4D017BA13
4D017CA13
4D017CB03
4D017CB05
4D017DA01
4D017DA05
4D017EA01
4D017EA03
4G066AC01B
4G066AC02B
4G066BA01
4G066BA03
4G066BA16
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA46
4G066DA08
4K001AA01
4K001AA04
4K001AA41
4K001BA19
4K001DB35
4K001DB37
4L047AA12
4L047AB02
4L047CA01
4L047CC12
4L047CC14
(57)【要約】
【課題】水を含み膨張しても容器を傾けることで容易に取り出すことができる貴金属吸着材を提供する。
【解決手段】本開示の吸着材は、貴金属の吸着材であって、前記吸着材は、一部に異形状部を有する繊維体を含み、前記繊維体の含有量は前記吸着材全量の90重量%以上である。
前記繊維体としては、綿状又はシート状繊維体であって、その一部が2重以上の積層状態で固定されてなる繊維体であることが好ましい。
本開示の貴金属回収方法は、貴金属が溶解した溶液に、前記貴金属吸着材を接触させて、前記吸着材に溶解した貴金属を回収する工程を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属の吸着材であって、
前記吸着材は、一部に異形状部を有する繊維体を含み、
前記繊維体の含有量は前記吸着材全量の90重量%以上である、貴金属吸着材。
【請求項2】
前記一部に異形状部を有する繊維体が、綿状又はシート状繊維体であって、その一部が2重以上の積層状態で固定されてなる繊維体である、請求項1に記載の貴金属吸着材。
【請求項3】
前記一部に異形状部を有する繊維体が、少なくとも1カ所に結び目を有する綿状又はシート状繊維体である、請求項1に記載の貴金属吸着材。
【請求項4】
前記繊維体が、糖骨格を有するエステルからなる繊維体である、請求項1~3の何れか1項に記載の貴金属吸着材。
【請求項5】
前記繊維体が、多糖アシレートからなる繊維体である、請求項1~3の何れか1項に記載の貴金属吸着材。
【請求項6】
貴金属吸着材が金吸着材である、請求項1~3の何れか1項に記載の貴金属吸着材。
【請求項7】
貴金属が溶解した溶液に、請求項1~3の何れか1項に記載の貴金属吸着材を接触させて、溶解した貴金属を前記貴金属吸着材に吸着させて回収する、貴金属回収方法。
【請求項8】
カラム容器と、前記カラム容器に充填された請求項1~3の何れか1項に記載の貴金属吸着材を含む貴金属回収用カラム。
【請求項9】
請求項8に記載の貴金属回収用カラムと、前記貴金属回収用カラムに貴金属イオンを含有する液体を送液する送液手段とを有する貴金属回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、新規な繊維体、前記繊維体を含む貴金属吸着材、前記貴金属吸着材を用いた貴金属の回収方法、前記貴金属吸着材を備えた貴金属回収用カラム、及び前記貴金属吸着材を用いた貴金属回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
金、白金、パラジウム等の貴金属は、電子部品や半導体、自動車の排気ガスの浄化に不可欠な触媒、液晶ガラス、LED等の最先端分野において極めて重要な物質である。
【0003】
日本では貴金属を多量に消費するにもかかわらず、ほとんどを輸入に依存している。そのため、資源の有効利用の観点から、電気・電子機器廃棄物(e-waste)や工場排水に含まれる貴金属を回収し、再利用することが望まれている。
【0004】
特許文献1には、貴金属が溶解した溶液を入れた吸着処理容器内に、吸着材としての粉末状又は長繊維束状の繊維体(具体的には、酢酸セルロース)を投入し、撹拌して、溶液中に溶解する貴金属イオンを繊維体に吸着させて捕捉する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-109064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
貴金属イオンが吸着した繊維体は、その後、吸着処理容器から取り出され、貴金属が繊維体から分離・回収される。しかし、粉末状や長繊維束状の繊維体は、吸着処理容器の壁面に張り付きやすく、取り出し難いことが問題であった。
【0007】
より詳細には、吸着処理容器内に繊維体を投入すると、繊維体は吸水して膨張するが、膨張した粉末状又は長繊維束状の繊維体は吸着処理容器の壁面に特に付着し易い。このため、内壁に付着した繊維体を掻き出す作業が必要であった。
【0008】
また、内壁に付着した繊維体を、洗浄液を使用して流し出すことも考えられるが、洗浄液のpH等によっては繊維体に吸着していた貴金属イオンが剥離して洗浄液中に流出することがある。さらに、洗浄液を使用することで繊維体は余分に水分を含むようになるため、焼成処理に要する熱エネルギーが上昇して費用が嵩む。
【0009】
従って、本開示の目的は、水を含み膨張しても容器を傾けることで容易に取り出すことができる繊維体を提供することにある。
本開示の他の目的は、水を含み膨張しても容器を傾けることで容易に取り出すことができる貴金属吸着材を提供することにある。
本開示の他の目的は、貴金属が溶解した溶液から、安価且つ簡便な方法で、効率良く貴金属を回収することができる吸着材を提供することにある。
本開示の他の目的は、貴金属が溶解した溶液から貴金属を、安価、簡便、且つ効率良く回収する方法を提供することにある。
本開示の他の目的は、貴金属が溶解した溶液から、簡便且つ効率良く貴金属を回収するための貴金属回収用カラムを提供することにある。
本開示の他の目的は、貴金属が溶解した溶液から、効率良く貴金属を回収する貴金属回収システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の形状又は特定の保水倍率を有する繊維体は、水を含み膨張すると容器壁面に張り付くが、容器を傾けると容易に剥がれるので取り出し易いこと、前記繊維体を貴金属吸着材として用いると、貴金属を吸着させた後は、処理容器から容易に取り出すことができるので、簡便な処理で効率よく貴金属を回収できることを見いだした。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本開示は、貴金属の吸着材であって、
前記吸着材は、一部に異形状部を有する繊維体を含み、
前記繊維体の含有量は前記吸着材全量の90重量%以上である、貴金属吸着材を提供する。
【0012】
本開示は、また、前記一部に異形状部を有する繊維体が、綿状又はシート状繊維体であって、その一部が2重以上の積層状態で固定されてなる繊維体である前記貴金属吸着材を提供する。
【0013】
本開示は、また、前記一部に異形状部を有する繊維体が、少なくとも1カ所に結び目を有する綿状又はシート状繊維体である前記貴金属吸着材を提供する。
【0014】
本開示は、また、前記繊維体が糖骨格を有するエステルからなる繊維体である前記貴金属吸着材を提供する。
【0015】
本開示は、また、前記繊維体が多糖アシレートからなる繊維体である前記貴金属吸着材を提供する。
【0016】
本開示は、また、貴金属吸着材が金吸着材である前記貴金属吸着材を提供する。
【0017】
本開示は、また、貴金属が溶解した溶液に、前記貴金属吸着材を接触させて、溶解した貴金属を前記貴金属吸着材に吸着させて回収する、貴金属回収方法を提供する。
【0018】
本開示は、また、カラム容器と、前記カラム容器に充填された前記貴金属吸着材を含む貴金属回収用カラムを提供する。
【0019】
本開示は、また、前記貴金属回収用カラムと、前記貴金属回収用カラムに貴金属イオンを含有する液体を送液する送液手段とを有する貴金属回収システムを提供する。
【発明の効果】
【0020】
本開示の繊維体は水を含んで膨張しても容器の壁面に密着しにくく、容器を傾けると前記繊維体は壁面から容易に剥がれ落ちるので、掻き出す等の煩雑な作業を必要せず、簡便な作業で容器から取り出すことができる。
また、前記繊維体は容器を傾けると壁面から容易に剥がれ落ちるので、洗浄液で流し出す必要がなく、前記繊維体が洗浄水を含んで保水量が増加するのを防止することができる。そして、保水量の増加を防止することで、その後、焼成処理を施す際に要する熱エネルギー量が上昇するのを防止することができる。
更に、前記繊維体に貴金属を吸着させた後で洗浄水を使用すると貴金属が流出する恐れがあるが、本開示の繊維体は洗浄液で流し出す必要が無いので、吸着した貴金属が洗浄液中に流出するのを防止することができ、貴金属を効率よく回収することができる。
従って、前記繊維体は、水溶液に溶解した貴金属を簡便に回収するための貴金属吸着材に好適に使用することができる。
【0021】
そして、前記繊維体を含む貴金属吸着材を使用すれば、貴金属が溶解した溶液から安価且つ簡便な方法で効率的に貴金属を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1繊維体と第2繊維体を重ね合わせて積層状態の部分を設ける方法を示す概略図である。
図2】1個の繊維体を一部分で重ね合わせて積層状態の部分を設ける一の方法を示す概略図である。
図3】1個の繊維体を一部分で重ね合わせて積層状態の部分を設ける他の方法を示す概略図である。
図4】1個の結び目を有する繊維体の一例を示す概略図(a)と、1個の結び目を有する繊維体の他の一例を示す概略図(b)である。
図5】結び目がゆるいものから固いものまで、種々の固さの結び目を有する繊維体を示す概略図(a)(b)(c)である。
図6】紐で縛って固定された繊維体を示す概略図である。
図7】接着・固定された繊維体を示す概略図である。
図8】本開示の貴金属回収方法の一例を示す概略フロー図である。
図9】本開示の貴金属回収方法の他の一例を示す概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[繊維体]
本開示の繊維体は、例えば複数の繊維で形成された構造体(例えば、繊維同士が絡み合わさった構造体、繊維が束ねられた構造体、繊維が積層された構造体、又はこれらが組み合わさってなる構造体等)である。
【0024】
前記繊維体を構成する繊維の太さ(単繊度)は、例えば0.05~10デニール、好ましくは0.5~5.0デニール、特に好ましくは1~5デニールである。
【0025】
前記繊維体は、下記保水性試験による保水倍率が5~20であることが、水切れが良好な点で好ましい。前記保水倍率の上限値は、容器の壁面への密着しやすさがより一層低減される観点から、好ましくは18、特に好ましくは15、最も好ましくは13である。
【0026】
(保水性試験)
25℃、1気圧下において、100mLのビーカーに前記繊維体0.5gを入れ、純水40gを加えて前記繊維体全体を浸漬させ、1分間静置し、その後、ビーカーを1秒当たり5度の速度で135度傾けて水を流出させ、水の流出が連続的な流出から、3秒以上の間隔を置く断続的な流出に変化した時点を終点として、終点までに流出した水の重量(g)を測定して、下記式から保水倍率を算出することができる。
保水倍率=[繊維体初期重量+純水添加量-流出水重量]/繊維体初期重量
【0027】
前記繊維体は親水性に優れ、且つ水切れが良好であるため、水溶液中に溶解した貴金属を吸着して回収する吸着材として好適に使用することができる。
【0028】
前記繊維体の一実施形態として、一部に異形状部を有する繊維体が挙げられる。前記異形状部は、その他の部分(すなわち、定形部)とは異なる形状及び/又は異なる性状を有する。
【0029】
前記繊維体の定形部形状は、例えば、綿状、シート状等が挙げられる。シート状には、例えば、ウェブ状、織布状、不織布状、編物状、織編物状等が含まれる。また、シート状にはテープ状等の細長い形状のものも含まれる。
【0030】
前記繊維体の定形部形状としては、貴金属の吸着効率に優れる点で、シート状が好ましい。また、水切れが良い点では綿状が好ましい。
【0031】
前記異形状部の形状としては、特に制限がないが、例えば、略球体形状、瘤状、凹凸形状、ふくらんだ形状、しぼんだ形状、隆起、陥没等が挙げられる。前記繊維体が、一部にこのような形の異形状部を有すると、水切れが良くなり、その上、吸着処理容器の壁面と繊維体の接触面積が減少するので、繊維体が吸着処理容器の壁面に張り付き難くなり、吸着処理容器から容易に取り出すことができるようになる。
【0032】
前記繊維体全体積に占める前記異形状部の割合は、例えば10~90体積%である。貴金属の吸着量を向上する観点から、前記割合の上限値は好ましくは80体積%、特に好ましくは70体積%である。吸着処理容器の壁面からの剥がれやすさを向上する観点から、前記割合の下限値は好ましくは20体積%、特に好ましくは30体積%、最も好ましくは40体積%である。
【0033】
前記異形状部は、定形部に比べて繊維密度が高いことが、水切れが良くなり、吸着処理容器の壁面と繊維体の接触面積が減少する点において好ましく、例えば定形部の繊維密度の1.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは2倍以上である。
【0034】
前記繊維体が一部に前記異形状部を有すると、前記異形状部を有さない繊維体に比べて水切れが良くなり、保水率は、前記異形状部を有さない繊維体の保水率の例えば80%以下、好ましくは70%以下、特に好ましくは60%以下、最も好ましくは40%以下である。尚、前記保水率の下限値は、例えば20%である。
【0035】
繊維体が水分を含んで膨張すると吸着処理容器の壁面に付着し易くなるが、本開示の繊維体は上述の通り水切れが良く保水量が少ない。そのため、吸着処理容器の壁面から剥がれやすく、容易に取り出すことができる。また、焼成処理に要する熱エネルギーを低減する効果も得られる。
【0036】
また、本開示における繊維体が前記異形状部を有すると、水分を含有した際には、前記異形状部に重心が偏り、重りの役目を有するためか、吸着処理容器を傾けると前記繊維体は容易に壁面から剥がれて落下するので、取り出すのが極めて容易になる。
【0037】
前記一部に異形状部を有する繊維体の具体例としては、綿状又はシート状繊維体であって、その一部が2重構造以上の積層状態で固定されてなる繊維体が挙げられる。この場合、2重構造以上の積層状態で固定された部位が前記異形状部に該当する。
【0038】
前記繊維体において、2重構造以上の積層状態で固定された部位の数は1個以上であり、好ましくは1~3個である。前記数の上限値は、貴金属の吸着量を向上する観点から、好ましくは2個である。
【0039】
前記繊維体(好ましくは、綿状又はシート状繊維体)の一部を2重構造以上の積層状態とする方法としては、例えば、図1に示す様な、第1繊維体(1-1)と第2繊維体(1-2)を重ね合わせて、積層状態の部分(3)を設ける方法や、図2に示す様な、1個の繊維体(1)の一端側の一部と他端側の一部を重ね合わせて、積層状態の部分(3)を設ける方法や、図3に示す様な、1個の繊維体(1)の一部分を折り曲げ、重ね合わせて、積層状態の部分(3)を設ける方法等が挙げられる。
【0040】
そして、前記繊維体の一部を2重構造以上の積層状態で固定する方法としては、特に制限がなく、例えば、[I]繊維体自体を結ぶ方法、[II]紐状物で縛る方法、[III]接着する方法等が挙げられる。
【0041】
前記[I]の方法で得られる繊維体としては、図4(a)、図5(a)(b)(c)に示す様な、1個の繊維体を結んだものや、図4(b)に示す様な、第1繊維体と第2繊維体が結び合わせられたものが例示できる。結ぶ回数は、図4図5では1回であるが、好ましくは1~3回、特に好ましくは1又は2回である。また、結ぶ位置は、図4図5では中央付近であるが、端部でも良い。
【0042】
前記繊維体の結び方は特に制限がなく、図4(a)や図5(a)(b)(c)に示す様な片結びや、図4(b)に示す様な本結びであっても良いし、蝶結びなどであっても良い。また、繊維体を結ぶ強さは、貴金属の吸着工程においてほどけない程度であれば良く、図5(a)(b)に示す様にゆるく結んでも良いし、図5(c)に示す様にきつく結んでも良い。
【0043】
前記[II]の方法で得られる繊維体としては、図6に示す様な、第1繊維体と第2繊維体がその一部を紐状物で縛ることで固定されたものが例示できる。尚、紐状物を構成する繊維状物質の原料としては特に制限されることがなく、例えば、セルロース繊維、綿、絹、麻、毛、レーヨン、ポリエステル、アクリル、ナイロン、アラミド繊維等の有機繊維;カーボン繊維、ガラス繊維、ステンレス繊維等の無機繊維が挙げられる。
【0044】
前記[III]の方法で得られる繊維体としては、図7に示す様な、第1繊維体と第2繊維体がその一部を接着剤や糊等で接着・固定されたものが例示できる。その他、繊維体の一部が、2重構造以上の積層状態で融着されたものも例示できる。
【0045】
前記[I]~[III]の方法で得られる繊維体の中では、簡便に調製することができ且つ焼成後に余分な残渣が混入しない点において、前記[I]の方法で得られる繊維体が好ましい。
【0046】
すなわち、前記繊維体としては、少なくとも1カ所に結び目を有する繊維体であることが好ましく、図4図5に示す様な、少なくとも1カ所に結び目を有する綿状又はシート状繊維体が好ましい。
【0047】
前記結び目の数は1個以上であり、好ましくは1~3個、特に好ましくは1又は2個である。結び目を設ける位置は、中央付近でも良いし、端部でも良い。
【0048】
前記繊維体が、綿状又はシート状繊維体であって、その一部が2重構造以上の積層状態で固定されてなる繊維体である場合、繊維体がまとまり、遊離する繊維が減少する。また、水分を含有した際には、固定部分において前記繊維体と吸着処理容器の壁面との接触面積が減少する上、前記固定部分に重心が偏り、重りの役目を有するためか、吸着処理容器を傾けると前記繊維体は壁面から容易に剥がれて落下するため、容易に取り出すことができる。
【0049】
(繊維体の製造方法)
前記一部に異形状部を有する繊維体は、例えば、異形状部形成前の繊維体(これを「定形繊維体」と称する)を製造し、得られた定形繊維体に異形状部を付与することにより製造することができる。
【0050】
定形繊維体は、公知慣用の方法により作成することができる。不織布状の定形繊維体は、例えば、短繊維を集積し、繊維同士を結合させることにより製造することができる。織布状又は編物状の定形繊維体は、例えば、繊維を束ねて撚りをかけて紡ぐことにより紡績糸とし、これを織る又は編むことで製造することができる。
【0051】
このようにして形成された定形繊維体を、その一部を2重構造以上に積層した状態で、紐などで縛る方法、接着する方法、融着する方法、又は前記定形繊維体の1つを結ぶ、或いは前記定形繊維体の2つ以上が互いに結合するように結ぶ方法等に付すことにより、前記一部に異形状部を有する繊維体が得られる。
【0052】
前記繊維体を構成する繊維原料としては、用途に応じて選択することが好ましい。
【0053】
例えば前記繊維体が、溶液に溶解した貴金属(例えば、金、銀、白金、銅、イリジウム、パラジウムから選択される貴金属(M))を吸着して回収する貴金属吸着材である場合、前記貴金属(M)は、溶液に溶解すると、対応するn価の貴金属イオン(Mn+)(nは1以上の整数であり、好ましくは1~4の整数)を生成するので、前記繊維原料としては、貴金属イオン(Mn+)を吸着する特性を有するものを選択して使用することが好ましい。
【0054】
前記繊維体が貴金属吸着材(特に、金イオン(Au+及び/又はAu3+)を吸着する金吸着材)である場合、前記繊維体を構成する繊維原料としては、糖骨格を有するエステル(糖骨格を備える化合物であって、上記化合物が有する水酸基の少なくとも1つがエステル化された化合物。以後、「糖エステル」と称する場合がある)が好ましい。
【0055】
上記糖エステルは、好ましくは多糖エステルである。
【0056】
上記多糖は、1種又は2種以上の単糖がグリコシド結合によって重合してなる化合物である。そして、上記単糖には、例えば、グルコース、マンノース、キシロース、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、フコース等が含まれる。
【0057】
上記多糖としては、例えば、セルロース、アミロース、アミロペクチン、デキストラン、ヘミセルロース、キチン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン等が挙げられる。
【0058】
上記多糖としては、なかでも、吸着処理溶液への溶解性が低い多糖が、貴金属イオンを吸着後に、濾過等により容易に分取することができる点において好ましい。
【0059】
上記多糖としては、なかでも、セルロース、アミロース、デキストランなどの、グルコースの(単独)重合体、より詳細には、グルコース(特に、α-グルコース、若しくはβ-グルコース)のみがグルコシド結合によって重合してなる化合物であり、分子式[(C6105n](式中のnはグルコース単位の繰り返しの数を示し、2以上の整数である)で表される化合物、が好ましい。
【0060】
上記多糖エステルには、上記多糖が有する水酸基の1つ又は2つ以上が、カルボン酸、硫酸、ヒドロキシ酸、リン酸等から選択される少なくとも1種のオキソ酸と縮合反応することにより形成される化合物が含まれる。
【0061】
上記多糖エステルとしては、なかでも、貴金属イオン(特に、金イオン)を優れた吸着力で吸着する点、及び吸着処理溶液への溶解性が低く、水分による膨張が抑制され、吸着処理容器の壁面から剥がれ易く、取り出し易い点で、多糖とカルボン酸との縮合反応物である多糖アシレートが好ましい。
【0062】
上記多糖アシレートは、分子式[(C6105n]で表される化合物の水酸基の少なくとも一部がアシル基(RC(=O)基)によりエステル化された化合物である。
【0063】
上記RC(=O)基におけるRは炭化水素基である。上記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの結合した基が含まれる。
【0064】
上記炭化水素基としては、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、へキシル基等の炭素数1~10(好ましくは、炭素数1~5)の脂肪族炭化水素基(特に、アルキル基);フェニル基等の芳香族炭化水素基である。
【0065】
上記多糖アシレートとしては、特に、下記式(1)で表される繰り返し単位を有するセルロースアシレートや、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するアミロースアシレートが好ましい。下記式(1)(2)中、Xは同一又は異なって、アシル基(RC(=O)基:Rは上記に同じ)又は水素原子を示す。但し、全てのXが水素原子である場合は除く。
【0066】
【化1】
【0067】
上記セルロースアシレートとしては、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等が挙げられる。
【0068】
上記アミロースアシレートとしては、例えば、アミロースアセテート、アミロースプロピオネート、アミロースブチレート等が挙げられる。
【0069】
糖エステルのエステル基総置換度(若しくは、多糖アシレートのアシル基総置換度)は、例えば1.0~3.0、好ましくは2.0~3.0、特に好ましくは2.2~2.7である。上記置換度を有する糖エステル(若しくは、多糖アシレート)は、貴金属イオン(特に、金イオン)が優れた吸着力で吸着するため、貴金属イオン(特に、金イオン)を含む吸着処理溶液に接触させると貴金属イオン(特に、金イオン)を効率よく吸着させて回収することができる。
【0070】
上記糖エステルのうちセルロースアセテートは、下記手塚(Tezuka,Carbonydr.Res.273,83(1995))の方法に従ってアセチル基総置換度を求めることができる。
1.セルロースアセテート試料の未置換の水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。
2.得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C-NMRスペクトルを測定する。
3.アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、そして、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチル基とプロピオニル基の存在比から、元のセルロースアセテートにおけるグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度を求めることができる。
【0071】
上記糖エステル(若しくは、多糖アシレート)の重量平均分子量(Mw)は、例えば100000~1000000、好ましくは100000~500000、特に好ましくは100000~300000である。
【0072】
上記糖エステル(若しくは、多糖アシレート)の分散度(重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した分子量分布:Mw/Mn)は、例えば2~10、好ましくは2~8、特に好ましくは2~5である。
【0073】
上記糖エステル(若しくは、多糖アシレート)の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分散度(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)を用いて公知の方法で求めることができる。
【0074】
上記糖エステル(若しくは、多糖アシレート)を原料とする前記繊維体は貴金属イオンの吸着力に優れ、貴金属吸着率は、吸着処理溶液に含まれる貴金属イオン全量(100重量%)の例えば55重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは65重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは73重量%以上、最も好ましくは75重量%以上、とりわけ好ましくは80重量%以上である。尚、貴金属吸着率の上限値は100重量%である。
【0075】
尚、前記貴金属吸着率は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0076】
[貴金属吸着材]
本開示の貴金属吸着材は、貴金属を吸着させて固定する作用を有する吸着材であって、前記繊維体を含む。
【0077】
前記吸着材は、好ましくは金吸着材である。
【0078】
前記貴金属吸着材は、前記繊維体以外にも他の成分を有していてもよいが、前記繊維体の含有量は前記吸着材全量の90重量%以上であることが好ましく、より好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上、とりわけ好ましくは99.5重量%以上である。尚、前記繊維体の含有量の上限値は100重量%である。
【0079】
前記貴金属吸着材は貴金属イオンの吸着力に優れ、貴金属吸着率は、吸着処理溶液に含まれる貴金属イオン全量(100重量%)の例えば55重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは65重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは73重量%以上、最も好ましくは75重量%以上、とりわけ好ましくは80重量%以上である。尚、貴金属吸着率の上限値は100重量%である。
【0080】
尚、前記貴金属吸着率は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0081】
[貴金属回収方法]
本開示の貴金属回収方法は、貴金属イオンを含む溶液(本明細書では、「吸着処理溶液」と称する場合がある)に、前記繊維体(若しくは、前記貴金属吸着材)を接触させて、貴金属イオンを前記繊維体(若しくは、前記貴金属吸着材)に吸着させる工程を含む。
【0082】
前記貴金属回収方法は、前記工程以外にも、例えば、吸着処理溶液調製工程、貴金属イオンが吸着した前記繊維体(若しくは、前記貴金属吸着材)を処理容器から取り出す工程(取出工程)、貴金属イオンを吸着した前記繊維体(若しくは、前記貴金属吸着材)から貴金属イオンを分離する工程(分離工程)を有していてもよい。
【0083】
これらの工程は、バッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0084】
(吸着処理溶液調製工程)
本工程は、貴金属を溶解して、吸着処理溶液を調製する工程である。貴金属を溶解する溶液は、貴金属の種類に応じて適宜選択することができる。
【0085】
例えば、金を溶解する場合には、溶液として王水[濃塩酸と濃硝酸を含む溶液であり、濃塩酸と濃硝酸のモル比(前者/後者)は3:1]を使用することが好ましい。
【0086】
金の溶解は、例えば、王水中に金を浸漬し、25~100℃の温度で、1~100時間程度撹拌することにより行うことができる。王水の使用量は、金1重量部に対して、例えば、1000~10万重量部、好ましくは1000~1万重量部である。これにより、金王水溶液が得られる。
【0087】
金王水溶液は、希釈液(例えば、水)を添加して、溶液中の硝酸濃度を、前記繊維体が溶解しない程度まで低減することが好ましい。
【0088】
(吸着工程)
吸着工程は、吸着処理容器の中で前記繊維体を吸着処理溶液と接触させて、吸着処理溶液中の貴金属イオンを前記繊維体に吸着させる工程である。
【0089】
前記繊維体に接触させる際の吸着処理溶液のpHは、例えば0~2.5である。貴金属イオンの吸着率を向上する観点から、pHの上限値は、好ましくは2、特に好ましくは1.5、最も好ましくは1である。
【0090】
吸着処理溶液に前記繊維体を接触させる時間は、例えば10分以上であり、好ましくは30分~300分である。また、吸着処理溶液に前記繊維体を接触させる際の溶液温度は、例えば5~60℃、好ましくは5~30℃である。
【0091】
吸着処理溶液に前記繊維体を接触させる方法としては特に限定されず、例えば、吸着処理溶液が入ったタンク等の容器に前記繊維体を投入して、前記繊維体を吸着処理溶液に浸漬する方法が挙げられる。この方法ではタンク等の容器が吸着処理容器に該当する。その他、前記繊維体をカラムに充填し、そこに吸着処理溶液を流通させる方法でもよい。この方法ではカラムが吸着処理容器に該当する。
【0092】
(取出工程)
取出工程は、吸着工程を経て得られた、貴金属イオンが吸着した前記繊維体を吸着処理容器から取り出す工程である。
【0093】
本工程において、貴金属イオンが吸着した前記繊維体を吸着処理容器から取り出す方法は特に限定されないが、前記繊維体は、吸着処理容器の壁面から剥がれやすい性質を有するため、例えば、吸着処理容器から吸着処理溶液をデカンテーション等により除去した後、吸着処理容器の開口部が下を向くよう反転させて前記繊維体を落下させる方法等により容易に取り出すことができる。
【0094】
(分離工程)
分離工程は、取出工程を経て得られる貴金属イオンを吸着した前記繊維体から貴金属又は貴金属イオンを分離する工程である。
【0095】
前記繊維体から貴金属を分離する方法としては、例えば、還元処理法や焼成処理法等が挙げられる。還元処理法は、貴金属イオンが吸着した前記繊維体と還元剤とを接触させることで貴金属イオンを還元し、貴金属を分離する方法である。焼成処理法は、貴金属イオンが吸着した前記繊維体を焼成して貴金属を分離する方法である。
【0096】
前記繊維体に吸着した貴金属イオンに還元剤を接触させる方法としては、還元剤を溶解した溶液中に、貴金属イオンが吸着した前記繊維体を浸漬する方法や、還元剤を含まない洗浄液を用いて、貴金属イオンが吸着した前記繊維体を洗浄することで貴金属イオンを脱離させたところに、還元剤を添加して貴金属イオンをコロイド化して回収する方法等が挙げられる。前記繊維体がカートリッジ用充填剤である場合には、貴金属イオンが吸着した前記繊維体を充填したカートリッジを備えたモジュールに、還元剤を溶解した溶液を流通させる方法や、上記モジュールに洗浄液を流通させて貴金属イオンを脱離させ、脱離した貴金属イオンに還元剤を反応させる方法を採用することができる。
【0097】
前記繊維体に吸着した貴金属イオンに還元剤を接触させる際の温度は、例えば80~120℃である。接触させる時間は、例えば10分~30分程度である。
【0098】
上記還元剤としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、及び窒素原子を含む基から選択される基から選択される少なくとも1種を有する化合物が挙げられる。上記還元剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0099】
上記水酸基を有する化合物としては、例えば、1,4-ブタンジオール、グリセロール、ポリエチレングリコール等のアルコール;ヒドロキノン等のフェノール;グルコース等の単糖;セルロース、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリン、キチン、キトサン等の多糖等が挙げられる。
【0100】
上記チオール基を有する化合物としては、例えば、ベンゼンチオール、メタンチオ―ル、エタンチオ―ル、プロパンチオ―ル、システイン、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール等が挙げられる。
【0101】
上記カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸などのポリカルボン酸;乳酸、グリコール酸等のヒドロキシモノカルボン酸;クエン酸、酒石酸等のヒドロキシポリカルボン酸;N,N-ジメチルアミノ酢酸、N,N-ジメチルアミノプロピオン酸等のアミノカルボン酸;アスコルビン酸等のラクトンが挙げられる。
【0102】
上記窒素原子を含む基を有する化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン等のアミン;アセトアミド、プロピオン酸アミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルプロピオン酸アミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミドが挙げられる。
【0103】
上記還元剤としては、また、ホルムアルデヒド、アセトアルデド等のアルデヒド等も挙げられる。
【0104】
上記還元剤としては、なかでも、貴金属イオンに対する配位性を有し、前記繊維体に吸着した貴金属イオンに配位して錯体を形成し、貴金属イオンを還元して、安定な貴金属を形成することができる点で、水酸基、チオール基、カルボキシル基、及び窒素原子を含む基から選択される基を、1分子中に2個以上有する化合物が好ましく、特に好ましくは1分子中に3個以上有する化合物である。
【0105】
上記還元剤としては、なかでも、前記繊維体に接触させる反応系のpHが10以下(好ましくはpH10~2、より好ましくはpH9~3)となる化合物が、前記繊維体の分解を抑制しつつ前記繊維体に吸着した貴金属イオンを粒子化することができる点で好ましく、水酸基及び/又はカルボキシル基を有する化合物が好ましい。
【0106】
上記還元剤としては、ヒドロキシカルボン酸が特に好ましく、ヒドロキシポリカルボン酸がとりわけ好ましい。
【0107】
上記還元剤の使用量は、前記繊維体1重量部に対して、例えば0.1~0.5重量部、好ましくは0.1~0.3重量部である。
【0108】
上記還元処理を経て、貴金属を含む溶液(好ましくは、貴金属が溶液中に分散してなるコロイド)が得られる。そして、貴金属を含む溶液を、例えば、遠心分離、限外濾過、蒸発、濃縮等の方法に付すと、貴金属を回収することができる。
【0109】
上記分離工程において焼成処理法を採用する場合、貴金属イオンが吸着した前記繊維体を、例えば300~1000℃の温度で、0.1~100時間焼成することにより、貴金属を回収することができる。前記繊維体は水切れが良く、保水倍率が低いので、焼成処理に要する熱エネルギーを抑制することができ、焼成処理に要するコストを削減することができる。
【0110】
前記貴金属回収方法の一実施形態である概略フロー図を図8及び図9に示す。
図8は、吸着工程において、吸着処理容器であるカラムに繊維体を充填し、繊維体が充填されたカラムに、吸着処理溶液を流通させる場合の概略フロー図である。
図9は、吸着工程において、吸着処理容器であるタンクに、吸着処理溶液と繊維体を投入して、繊維体を吸着処理溶液に浸漬する場合の概略フロー図である。
【0111】
前記貴金属回収方法によれば、溶液中に溶解した貴金属(特に、金)を、安価、簡便、且つ効率よく回収することができる。従って、前記貴金属回収方法は、特に好ましくは金回収方法である。前記貴金属回収方法は、また、電気・電子機器廃棄物(e-waste)等の金属二次資源や工場排水に含まれる上記貴金属を回収する方法であっても良い。
【0112】
[貴金属回収用カラム]
本開示の貴金属回収用カラムは、カラム容器と前記繊維体(若しくは、前記貴金属吸着材)を含み、前記繊維体(若しくは、前記貴金属吸着材)が前記カラム容器に充填された構成を有する。
【0113】
前記貴金属回収用カラムは、前記繊維体(若しくは、前記貴金属吸着材)が充填されたカートリッジカラムと、カートリッジホルダーで構成されていても良い。
【0114】
前記貴金属回収用カラムは、前記構成以外にも他の構成(例えば、フィルターなど)を有していても良い。
【0115】
前記貴金属回収用カラムを使用すれば、溶液中に溶解した貴金属(例えば、金)を簡便且つ効率よく回収することができる。
【0116】
前記カラム容器の形状としては、例えば円筒型が挙げられるが、特に限定されない。前記カラム容器の上部及び下部にはそれぞれ開口を有しており、一方の開口から他方の開口へと貴金属イオンを含有する液体を通液することで、前記液体をカラム容器に充填された前記繊維体に接触させることができ、前記液体に含まれる貴金属イオンを前記繊維体に吸着させることができる。
【0117】
[貴金属回収システム]
本開示の貴金属回収システムは、前記貴金属回収用カラムと、前記貴金属回収用カラムに貴金属イオンを含有する液体を送液する送液手段を少なくとも有する。
【0118】
前記貴金属回収システムは、その他にも必要に応じて他の手段を備えていても良く、例えば、ポンプ等の貴金属回収用カラムに送液する送液手段、貴金属回収用カラムから貴金属が吸着した前記繊維体(若しくは、前記貴金属吸着材)を取り出す取出手段、取り出した前記繊維体(若しくは、前記貴金属吸着材)から貴金属を回収する貴金属回収手段、貴金属回収用カラムを通過した廃液を処理する廃液処理手段等を備えていても良い。
【0119】
前記貴金属が吸着した前記繊維体から貴金属を回収する貴金属回収手段としては、例えば、貴金属が吸着した前記繊維体に還元剤(例えば、ヒドロキシポリカルボン酸等)を反応させる還元処理手段や、貴金属が吸着した前記繊維体に焼成処理を施す手段等が挙げられる。
【0120】
前記貴金属回収システムによれば、溶液中に溶解した貴金属(例えば、金)を簡便且つ効率よく回収することができる。
【0121】
以上、本開示の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。
【実施例0122】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【0123】
以下に金属イオン濃度単位として記載する「ppm」は、重量換算での値である。
【0124】
実施例1
長繊維束状の酢酸セルロース(アセチル基総置換度:2.5、繊維太さ:3.0デニール)を束ねて、縦3cm×横5cmの綿状繊維体を作成した。
得られた綿状繊維体を、対角方向でなく長さ方向に引張り、片結びを1回行って、結び目を1つ形成した。結び目の繊維密度は、結び目以外の部分の繊維密度の2倍以上であった。これを吸着材1とした。吸着材1のサイズは縦2cm×横4cmであった。
【0125】
実施例2
長繊維束状の酢酸セルロース(アセチル基総置換度:2.5、繊維太さ:3.0デニール)を細かくカットして集め、不織布状の繊維体を作成した。
得られた不織布状の繊維体を縦4cm×横4cmにカットし、対角方向でなく左右に引っ張り、片結びを1回行って、結び目を1つ形成した。結び目の繊維密度は、結び目以外の部分の繊維密度の2倍以上であった。これを吸着材2とした。吸着材2のサイズは縦1cm×横3cmであった。
【0126】
比較例1
粉末状の酢酸セルロース(置換度:2.5、重量平均分子量(Mw):200000、分子量分布(Mw/Mn):5.0、商品名「L-50」、(株)ダイセル製)を吸着材3とした。
【0127】
比較例2
長繊維束状の酢酸セルロース(アセチル基総置換度:2.5、繊維太さ:3.0デニール)を束ねて、縦3cm×横5cmの綿状繊維体を作成した。結び目を形成せず、このままを吸着材4とした。
【0128】
比較例3
長繊維束状の酢酸セルロース(アセチル基総置換度:2.5、繊維太さ:3.0デニール)を細かくカットして集め、縦4×横4cmの不織布状の繊維体を作成した。結び目を形成せず、このままを吸着材5とした。
【0129】
(評価)
実施例及び比較例で得られた吸着材(酢酸セルロースの繊維体又は粉末)について、取出しやすさ、保水性、及び貴金属吸着力を下記方法で評価した。
【0130】
(取出しやすさの評価)
25℃、1気圧下において、100mLのガラス製ビーカーに吸着材を0.5g入れ、純水を40mL添加し、1分静置した後、ビーカーの開口部を、1秒あたり5度の速度で135度までを傾けて水を排出した。
水が流出しなくなった後、ビーカーの開口部が真下を向くよう上下を反転させて、吸着材の様子を観察し、下記基準で取出しやすさを評価した。
<評価基準>
○(良好):吸着材は、ビーカーの壁面に張り付かず、ビーカー外に自然に落下した
×(不良):吸着材の一部又は全部がビーカーの壁面に張り付いたまま剥がれなかった
【0131】
(保水性試験)
25℃、1気圧下において、100mLのガラス製ビーカーに吸着材を0.5g入れ、純水を40g添加した。吸着材は純水中に完全に浸漬した。
純水添加から1分経過後に、ビーカーの口が真上を向いた状態から、1秒あたり5度の速度で135度までビーカーを傾けて水を流出させた。水の流出は初期には連続的に流出するが、次第に断続的になり、3秒以上の間隔を置いて断続的に流出するようになった時点を終点とした。そして、終点までに流出した水の重量[x(g)]を測定し、下記式から保水倍率を算出した。
保水倍率=[吸着材初期重量+純水添加量-流出水重量]/吸着材初期重量
【0132】
(貴金属吸着試験)
貴金属イオンとして金イオンを含む吸着処理溶液(金イオン濃度10ppm(=初期貴金属イオン濃度)、塩酸濃度2M、pH<1)250mLに、吸着材0.5gを添加し、室温下にて3時間撹拌して吸着試験を行った。
次に、試験後の吸着処理溶液を濾過処理に付して、吸着材を含む濾物を除去し、濾液中の貴金属イオン量(=吸着試験後貴金属イオン濃度)をICP発光分光分析装置(商品名「Agilent5110」、アジレント・テクノロジー(株)製)を用いて測定し、吸着材による貴金属イオンの吸着率を下記式から算出した。
吸着率(%)=[(初期貴金属イオン濃度-吸着試験後貴金属イオン濃度)/初期貴金属イオン濃度]×100
【0133】
結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0134】
(他の金属吸着試験1)
吸着処理溶液として、鉄イオンを含む吸着処理溶液(鉄イオン濃度13ppm、塩酸濃度2M、pH<1)を使用した以外は上記貴金属吸着試験と同様に行って鉄イオンの吸着率を算出した。
その結果、実施例及び比較例の全ての吸着材において、鉄イオンの吸着率はゼロであった。
【0135】
(他の金属吸着試験2)
吸着処理溶液として、亜鉛イオンを含む吸着処理溶液(亜鉛イオン濃度20ppm、塩酸濃度2M、pH<1)を使用した以外は上記貴金属吸着試験と同様に行って亜鉛イオンの吸着率を算出した。
その結果、実施例及び比較例の全ての吸着材において、亜鉛イオンの吸着率はゼロであった。
【0136】
上記表1から、本開示の吸着材(或いは、繊維体)は、効率よく且つ選択的に貴金属を吸着させて回収することができ、その上、吸着処理容器の壁面から剥がれやすく、取り出し易いことが分かる。
また、本開示の吸着材(或いは、繊維体)は水切れが良いので、吸着処理容器から取り出した後に、焼成処理に付す場合には、熱エネルギーにかかるコストを削減できることが分かる。
以上より、本開示の吸着材(或いは、繊維体)によれば、水溶液に溶解した貴金属を効率よく、且つ簡便、安価に回収できることが分かる。
【0137】
以上のまとめとして、本開示の構成及びそのバリエーションを以下に付記する。
[1] 貴金属の吸着材であって、
前記吸着材は、一部に異形状部を有する繊維体を含み、
前記繊維体の含有量は前記吸着材全量の90重量%以上である、貴金属吸着材。
[2] 前記一部に異形状部を有する繊維体が、綿状又はシート状繊維体であって、その一部が2重以上の積層状態で固定されてなる繊維体である、[1]に記載の貴金属吸着材。
[3] 前記一部に異形状部を有する繊維体が、少なくとも1カ所に結び目を有する綿状又はシート状繊維体である、[1]に記載の貴金属吸着材。
[4] 前記繊維体が、糖骨格を有するエステルからなる繊維体である[1]~[3]の何れか1つに記載の貴金属吸着材。
[5] 前記繊維体が、多糖アシレートからなる繊維体である、[1]~[3]の何れか1つに記載の貴金属吸着材。
[6] 貴金属吸着材が金吸着材である、[1]~[5]の何れか1つに記載の貴金属吸着材。
[7] 貴金属が溶解した溶液に、[1]~[6]の何れか1つに記載の貴金属吸着材を接触させて、溶解した貴金属を前記貴金属吸着材に吸着させて回収する、貴金属回収方法。
[8] カラム容器と、前記カラム容器に充填された[1]~[6]の何れか1つに記載の貴金属吸着材を含む貴金属回収用カラム。
[9] [8]に記載の貴金属回収用カラムと、前記貴金属回収用カラムに貴金属イオンを含有する液体を送液する送液手段とを有する貴金属回収システム。
【符号の説明】
【0138】
1,1-1,1-2 繊維体
2 定形部
3 2重構造以上の積層状態の部分
4 結び目
5 紐状物で縛った部分
6 接着・固定した部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9