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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000411
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】熱交換装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/427 20060101AFI20231225BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20231225BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
H01L23/46 A
H01L25/04 C
H05K7/20 N
H05K7/20 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099172
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】517018101
【氏名又は名称】公立大学法人山陽小野田市立山口東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】中岡 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 睦明
(72)【発明者】
【氏名】結城 和久
(72)【発明者】
【氏名】海野 ▲徳▼幸
(72)【発明者】
【氏名】木伏 理沙子
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA05
5E322AA11
5E322AB08
5E322DA04
5E322DB12
5E322FA01
5F136BB04
5F136CB06
5F136CB13
5F136CC34
5F136DA27
5F136FA03
5F136FA18
(57)【要約】
【課題】冷却性能が向上された熱交換装置を提供する。
【解決手段】
沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって発熱体を冷却する熱交換装置は、一面およびその反対側の冷却面を有する伝熱体と、伝熱体の一面に接続された発熱体と、伝熱体の冷却面を介して発熱体から受熱する液相の冷媒と、を備える。冷却面は、一面に対して垂直な方向で、発熱体を冷却面に投影したときの投影領域31の中央に位置する中央部35と、中央部35の周囲に位置する周辺部36と、を有する。冷却面には、冷却面の近傍に生じた過熱液を、中央部35から周辺部36に向かって冷却面に沿って流すための複数の溝33、34が設けられている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって前記発熱体を冷却する熱交換装置であって、
一面(121)および前記一面の反対側の冷却面(122)を有し、前記一面から前記冷却面への伝熱が可能な伝熱体(12)と、
前記伝熱体の前記一面に伝熱可能に接続され、発熱する前記発熱体(11)と、
前記伝熱体の前記冷却面側に配置され、前記冷却面を介して前記発熱体から受熱する液相の前記冷媒(13)と、
前記冷却面との間に、前記冷媒が流れる冷媒流路(141)を形成する構造体(14)と、を備え、
前記冷却面は、前記一面に対して垂直な方向で、前記発熱体を前記冷却面に投影したときの投影領域(31)を有し、
前記発熱体が発熱したときに、前記発熱体から液相の前記冷媒が受熱することによって前記冷却面の近傍に生じた過熱液が、前記投影領域の中央に位置する中央部(35)から前記中央部の周囲に位置する周辺部(36)に向かって、前記冷却面に沿って流れるように構成されている、熱交換装置。
【請求項2】
前記冷却面は、前記冷却面に設けられた溝(33、34、51、52、53、54)によって構成され、または、前記冷却面から突出するように設けられた隣り合う2つの板形状部の間に形成され、前記過熱液を流すための過熱液流路を有し、
前記過熱液流路は、前記中央部から前記周辺部に向かう方向(D1、D2、D11、D12、D13、D14)に連続して延びており、
前記過熱液は、前記中央部から前記周辺部に向かって、前記過熱液流路を流れるようになっている、請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項3】
前記周辺部での前記過熱液流路の幅は、前記中央部での前記過熱液流路の幅よりも小さい、請求項2に記載の熱交換装置。
【請求項4】
前記冷却面は、重力方向に沿う向きであり、
前記過熱液流路が延びている方向(D1、D2)は、反重力方向(F2)に対して鋭角をなしている、請求項2または3に記載の熱交換装置。
【請求項5】
前記構造体は、液相の前記冷媒が流入する入口部(142)と、液相の前記冷媒が流出する出口部(143)とを有し、
前記冷媒の主流は、前記入口部から前記出口部に向かって、前記冷媒流路を流れるようになっており、
前記過熱液流路が延びている方向(D1、D2)は、前記主流の流れの上流側から下流側に向かう方向であって、前記主流の流れ方向(F1)に対して鋭角をなす方向である、請求項2または3に記載の熱交換装置。
【請求項6】
前記冷却面は、前記冷却面に設けられた溝(61)によって構成され、または、前記冷却面から突出するように設けられた隣り合う2つの板形状部の間に形成されているとともに、前記過熱液流路の上流側に連なり、前記主流の流れ方向(F1)に沿って連続して延びる上流側流路を有する、請求項5に記載の熱交換装置。
【請求項7】
前記構造体は、前記冷却面に対して間をあけて対向し、前記冷却面との間に前記冷媒流路を形成する流路形成面(70)を有し、
前記流路形成面は、前記一面に対して垂直な方向で、前記発熱体を前記流路形成面に投影したときの投影領域(71)を有するとともに、前記流路形成面に設けられた溝(73、74)によって構成され、または、前記流路形成面から突出するように設けられた隣り合う2つの板形状部の間に形成され、前記流路形成面に沿って前記冷媒を流すための流路形成面側流路を有し、
前記流路形成面側流路は、前記主流の流れの上流側から下流側に向かうとともに、前記投影領域のうち中央部(75)の周囲に位置する周辺部(76)から前記中央部に向かう方向であって、前記主流の流れ方向に対して鋭角をなす方向に、連続して延びている、請求項5に記載の熱交換装置。
【請求項8】
前記構造体は、液相の前記冷媒が流入する入口部(142)と、液相の前記冷媒が流出する出口部(143)とを有し、
前記冷媒の主流は、前記入口部から前記出口部に向かって、前記冷媒流路を流れるようになっており、
前記発熱体は、第1発熱体(11a)であり、
前記熱交換装置は、前記一面のうち前記第1発熱体に対して前記主流の流れ方向(F1)の下流側の位置に伝熱可能に接続され、発熱する第2発熱体(11b)を備え、
前記冷却面は、前記一面に対して垂直な方向で、前記第1発熱体と前記第2発熱体とのそれぞれを、前記冷却面に投影したときの第1投影領域(31a)と第2投影領域(31b)とを有し、
前記冷却面のうち前記第1投影領域と前記第2投影領域との間に、凹部または凸部が設けられている、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の熱交換装置。
【請求項9】
前記発熱体は、電力変換用スイッチング素子であり、
前記伝熱体は、主表面(211)およびその反対側の裏面(212)を有する絶縁層(21)と、前記主表面に設けられた表面導体パターン(22)と、前記裏面に設けられた裏面導体パターン(23)とを含む、絶縁基板であり、
前記表面導体パターンの表面が前記一面を構成し、
前記裏面導体パターンの表面が前記冷却面を構成する、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の熱交換装置。
【請求項10】
沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって前記発熱体を冷却する熱交換装置であって、
一面(121)および前記一面の反対側の冷却面(122)を有し、前記一面から前記冷却面への伝熱が可能な伝熱体(12)と、
前記伝熱体の前記一面に伝熱可能に接続され、発熱する前記発熱体(11)と、
前記伝熱体の前記冷却面側に配置され、前記冷却面を介して前記発熱体から受熱する液相の前記冷媒(13)と、
前記冷却面との間に、前記冷媒が流れる冷媒流路(141)を形成する構造体(14)と、を備え、
前記冷媒流路に前記冷媒が存在しない状態で、前記発熱体が発熱した場合に、前記冷却面は、前記冷却面の温度が前記冷却面のなかで高い高温領域(35)と、前記冷却面の温度が前記高温領域よりも低い低温領域(36)とを有し、
前記冷媒流路に前記冷媒が存在する状態で、前記発熱体が発熱したときに、前記発熱体から液相の前記冷媒が受熱することによって前記冷却面の近傍に生じた過熱液が、前記高温領域から前記低温領域に向かって、前記冷却面に沿って流れるように構成されている、熱交換装置。
【請求項11】
沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって前記発熱体を冷却する熱交換装置であって、
一面(121)および前記一面の反対側の冷却面(122)を有し、前記一面から前記冷却面への伝熱が可能な伝熱体(12)と、
前記伝熱体の前記一面に伝熱可能に接続され、発熱する前記発熱体(11)と、
前記伝熱体の前記冷却面側に配置され、前記冷却面を介して前記発熱体から受熱する液相の前記冷媒(13)と、
前記冷却面との間に、前記冷媒が流れる冷媒流路(141)を形成する構造体(14)と、を備え、
前記冷媒流路に前記冷媒が強制的に流されずに存在する状態で、前記発熱体が発熱した場合に、前記冷却面は、前記冷却面近傍の前記冷媒の温度が前記冷却面近傍の前記冷媒のなかで高い高温領域(35)と、前記冷却面近傍の前記冷媒の温度が前記高温領域よりも低い低温領域(36)とを有し、
前記冷媒流路に前記冷媒が強制的に流される状態で、前記発熱体が発熱したときに、前記発熱体から液相の前記冷媒が受熱することによって前記冷却面の近傍に生じた過熱液が、前記高温領域から前記低温領域に向かって、前記冷却面に沿って流れるように構成されている、熱交換装置。
【請求項12】
沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって前記発熱体を冷却する熱交換装置であって、
一面(121)および前記一面の反対側の冷却面(122)を有し、前記一面から前記冷却面への伝熱が可能な伝熱体(12)と、
前記伝熱体の前記一面に伝熱可能に接続され、発熱する前記発熱体(11)と、
前記伝熱体の前記冷却面側に配置され、前記冷却面を介して前記発熱体から受熱する液相の前記冷媒(13)と、
前記冷却面との間に、前記冷媒が流れる冷媒流路(141)を形成する構造体(14)と、を備え、
前記構造体は、液相の前記冷媒が流入する入口部(142)と、液相の前記冷媒が流出する出口部(143)とを有し、
前記冷媒の主流は、前記入口部から前記出口部に向かって、前記冷媒流路を流れるようになっており、
前記冷却面は、前記冷却面に設けられた溝(33、34、51、52、53、54)によって構成され、または、前記冷却面から突出するように設けられた隣り合う2つの板形状部の間に形成され、前記発熱体から液相の前記冷媒が受熱することによって前記冷却面の近傍に生じた過熱液を流すための過熱液流路を有し、
前記過熱液流路は、前記主流の流れの上流側から下流側に向かう方向であって、前記主流の流れ方向(F1)に対して鋭角をなす方向(D1、D2)に連続して延びている、熱交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって発熱体を冷却する熱交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって発熱体を冷却する熱交換装置が特許文献1に開示されている。この熱交換装置は、一面および一面の反対側の冷却面を有する伝熱体と、一面に接続される発熱体と、冷却面側に配置される液相の冷媒と、を備える。伝熱体を介して、発熱体と液相の冷媒とが熱交換することによって、発熱体が冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2008/090726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した構造の熱交換装置では、発熱体が冷媒によって冷却されているとき、冷却面には、冷却面近傍の冷媒の過熱度が高い領域と、冷却面近傍の冷媒の過熱度が低い領域とが存在する。過熱度が高い領域では、沸騰が生じるが、過熱度が低い領域では、沸騰が生じ難い。過熱度が低い領域でも、沸騰を活性化させることができれば、冷却性能を向上させることができる。換言すると、過熱度が高い領域を拡大させることができれば、冷却面のうちの広範囲で沸騰が活性化され、冷却性能を向上させることができる。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、冷却性能が向上された熱交換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、
沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって発熱体を冷却する熱交換装置は、
一面(121)および一面の反対側の冷却面(122)を有し、一面から冷却面への伝熱が可能な伝熱体(12)と、
伝熱体の一面に伝熱可能に接続され、発熱する発熱体(11)と、
伝熱体の冷却面側に配置され、冷却面を介して発熱体から受熱する液相の冷媒(13)と、
冷却面との間に、冷媒が流れる冷媒流路(141)を形成する構造体(14)と、を備え、
冷却面は、一面に対して垂直な方向で、発熱体を冷却面に投影したときの投影領域(31)を有し、
発熱体が発熱したときに、発熱体から液相の冷媒が受熱することによって冷却面の近傍に生じた過熱液が、投影領域の中央に位置する中央部(35)から中央部の周囲に位置する周辺部(36)に向かって、冷却面に沿って流れるように構成されている。
【0007】
本発明と異なり、過熱液が、中央部から周辺部に向かって、冷却面に沿って流れるように構成されていない場合、中央部では、冷却面の過熱度(すなわち、冷媒の過熱度)が高く、周辺部では、冷却面の過熱度(すなわち、冷媒の過熱度)が低い。これに対して、本発明によれば、過熱度が高い領域である中央部から過熱度が低い領域である周辺部に、過熱度が高い過熱液が流れることで、中央部だけでなく周辺部においても、沸騰を活性化させることができる。換言すると、本発明と異なり、過熱液が、中央部から周辺部に向かって、冷却面に沿って流れるように構成されていない場合と比較して、過熱度が高い領域を拡大させることができ、冷却面のうち沸騰が活性化する領域を拡大させることができる。よって、熱交換装置の冷却性能を向上させることができる。さらに、過熱液の流れが沸騰冷却の最大性能である限界熱流束をも向上させることができる。
【0008】
また、請求項10に記載の発明によれば、
沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって発熱体を冷却する熱交換装置は、
一面(121)および一面の反対側の冷却面(122)を有し、一面から冷却面への伝熱が可能な伝熱体(12)と、
伝熱体の一面に伝熱可能に接続され、発熱する発熱体(11)と、
伝熱体の冷却面側に配置され、冷却面を介して発熱体から受熱する液相の冷媒(13)と、
冷却面との間に、冷媒が流れる冷媒流路(141)を形成する構造体(14)と、を備え、
冷媒流路に冷媒が存在しない状態で、発熱体が発熱した場合に、冷却面は、冷却面の温度が冷却面のなかで高い高温領域(35)と、冷却面の温度が高温領域よりも低い低温領域(36)とを有し、
冷媒流路に冷媒が存在する状態で、発熱体が発熱したときに、発熱体から液相の冷媒が受熱することによって冷却面の近傍に生じた過熱液が、前記高温領域から前記低温領域に向かって、冷却面に沿って流れるように構成されている。
【0009】
また、請求項11に記載の発明によれば、
沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって発熱体を冷却する熱交換装置は、
一面(121)および一面の反対側の冷却面(122)を有し、一面から冷却面への伝熱が可能な伝熱体(12)と、
伝熱体の一面に伝熱可能に接続され、発熱する発熱体(11)と、
伝熱体の冷却面側に配置され、冷却面を介して発熱体から受熱する液相の冷媒(13)と、
冷却面との間に、冷媒が流れる冷媒流路(141)を形成する構造体(14)と、を備え、
冷媒流路に冷媒が強制的に流されずに存在する状態で、発熱体が発熱した場合に、冷却面は、冷却面近傍の冷媒の温度が冷却面近傍の冷媒のなかで高い高温領域(35)と、冷却面近傍の冷媒の温度が高温領域よりも低い低温領域(36)とを有し、
冷媒流路に冷媒が強制的に流される状態で、発熱体が発熱したときに、発熱体から液相の冷媒が受熱することによって冷却面の近傍に生じた過熱液が、前記高温領域から前記低温領域に向かって、冷却面に沿って流れるように構成されている。
【0010】
請求項10、11に記載の発明における高温領域と低温領域とのそれぞれは、本発明と異なり、過熱液が冷却面に沿って流れるように構成されていない熱交換装置において、発熱体と液相の冷媒とが熱交換したときの冷媒の過熱度が高い領域と、冷媒の過熱度が低い領域とに相当する。本発明によれば、冷媒の過熱度が低い領域に、過熱度が高い過熱液が流れることで、過熱度が高い領域だけでなく、過熱度が低い領域においても、沸騰を活性化させることができる。換言すると、本発明と異なり、過熱液が冷却面に沿って流れるように構成されていない熱交換装置と比較して、過熱度が高い領域を拡大させることができ、沸騰が活性化する領域を拡大させることができる。よって、熱交換装置の冷却性能を向上させることができる。
【0011】
また、請求項12に記載の発明によれば、
沸騰現象を利用した冷媒と発熱体との熱交換によって発熱体を冷却する熱交換装置は、
一面(121)および一面の反対側の冷却面(122)を有し、一面から冷却面への伝熱が可能な伝熱体(12)と、
伝熱体の一面に伝熱可能に接続され、発熱する発熱体(11)と、
伝熱体の冷却面側に配置され、冷却面を介して発熱体から受熱する液相の冷媒(13)と、
冷却面との間に、冷媒が流れる冷媒流路(141)を形成する構造体(14)と、を備え、
構造体は、液相の冷媒が流入する入口部(142)と、液相の冷媒が流出する出口部(143)とを有し、
冷媒の主流は、入口部から出口部に向かって、冷媒流路を流れるようになっており、
冷却面は、冷却面に設けられた溝(33、34、51、52、53、54)によって構成され、または、冷却面から突出するように設けられた隣り合う2つの板形状部の間に形成され、発熱体から液相の冷媒が受熱することによって冷却面の近傍に生じた過熱液を流すための過熱液流路を有し、
過熱液流路は、主流の流れの上流側から下流側に向かう方向であって、主流の流れ方向(F1)に対して鋭角をなす方向(D1、D2)に連続して延びている。
【0012】
これによれば、発熱体から液相の冷媒が受熱することによって冷却面の近傍に生じた過熱液が過熱液流路を流れる。これにより、本発明と異なり、過熱液流路が冷却面に形成されていない場合と比較して、過熱度が高い領域を拡大させることができ、冷却面のうち沸騰が活性化する領域を拡大させることができる。よって、熱交換装置の冷却性能を向上させることができる。
【0013】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態の熱交換装置の上面図である。
図2図1のII-II線矢視断面図である。
図3図1のIII-III線矢視断面図である。
図4図3中の冷却面を図3の下側から見た図である。
図5図4中の溝形成領域の拡大図である。
図6図5に示される溝の横断面図である。
図7】第1実施形態の熱交換装置において、冷媒の主流の流れおよび過熱液の流れを模式的に示す図である。
図8】比較例1の熱交換装置の冷却面の拡大図である。
図9】半導体素子が発熱し、液相の冷媒が冷媒流路を流れているときの図8に示す冷却面の近傍の冷媒温度の解析結果を示す図である。
図10】冷却面の近傍の冷媒温度の解析に用いた第1実施形態の熱交換装置の冷却面の拡大図である。
図11】半導体素子が発熱し、液相の冷媒が冷媒流路を流れているときの図10に示す冷却面の近傍の冷媒温度の解析結果を示す図である。
図12】第1実施形態の熱交換装置と比較例1の熱交換装置とのそれぞれにおいて、素子温度と発熱量との関係を示す図である。
図13図12中の破線で囲まれた部分の拡大図である。
図14】第2実施形態の熱交換装置の断面図である。
図15】比較例2の熱交換装置の断面図である。
図16】第3実施形態の熱交換装置における冷却面の拡大図である。
図17図16の冷却面において、過熱液の流れを模式的に示す図である。
図18】第4実施形態の熱交換装置における冷却面の拡大図である。
図19図18の冷却面において、過熱液の流れを模式的に示す図である。
図20】第5実施形態の熱交換装置における冷却面の拡大図である。
図21】第6実施形態の熱交換装置を示す図であって、図3中の冷却器の流路形成面を図3の上側から見た図である。
図22図21中の溝形成領域の拡大図である。
図23】第6実施形態の熱交換装置を示す図であって、図2に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0016】
(第1実施形態)
図1~3に示すように、本実施形態の熱交換装置10は、電力変換装置に適用される。電力変換装置が備える電力変換用スイッチング素子は、発熱密度が高いため、本発明の熱交換装置の適用が有効である。熱交換装置10は、2つの半導体素子11と、絶縁基板12と、液相の冷媒13と、冷却器14と、を備える。
【0017】
2つの半導体素子11のそれぞれは、IGBT、SiCMOSFET等の電力変換用スイッチング素子であり、通電によって発熱する発熱体である。2つの半導体素子11の一方が第1半導体素子11aであり、2つの半導体素子11の他方が第2半導体素子11bである。第1半導体素子11aが第1発熱体に対応し、第2半導体素子11bが第2発熱体に対応する。図3に示すように、第2半導体素子11bは、第1半導体素子11aに対して、後述する冷媒13の主流の流れ方向の下流側に、間をあけて配置されている。
【0018】
絶縁基板12は、2つの半導体素子11が実装される基板である。絶縁基板12は、一面121および一面121の反対側の冷却面122を有し、一面121から冷却面122への伝熱が可能な伝熱体である。絶縁基板12の一面121に、2つの半導体素子11のそれぞれが伝熱可能に接続されている。絶縁基板12の冷却面122側に、冷媒13が配置される。
【0019】
詳細には、絶縁基板12は、主表面211およびその反対側の裏面212を有する絶縁層21と、絶縁層21の主表面211に設けられた2つの表面導体パターン22と、絶縁層21の裏面212に設けられた裏面導体パターン23とを含む。絶縁層21は、SiN等の電気絶縁性材料で構成される。
【0020】
2つの表面導体パターン22のそれぞれの表面が、絶縁基板12の一面121を構成している。2つの表面導体パターン22のそれぞれは、Cu等の導電性材料で構成される。2つの表面導体パターン22の一方が第1表面導体パターン22aであり、2つの表面導体パターンの他方が第2表面導体パターン22bである。第1表面導体パターン22aの表面には、図示しない半田を介して、第1半導体素子11aが接続されている。第2表面導体パターン22bの表面には、図示しない半田を介して、第2半導体素子11bが接続されている。
【0021】
裏面導体パターン23の表面が、絶縁基板12の冷却面122を構成している。裏面導体パターン23は、Cu等の導電性および伝熱性を有する材料で構成される。
【0022】
液相の冷媒13は、絶縁基板12の冷却面122側に配置される。液相の冷媒13は、冷却面122を介して各半導体素子11から受熱することにより、気相への相変化が可能である。液相の冷媒13としては、水、エチレングリコール系の不凍液を含む水等が用いられる。
【0023】
冷却器14は、絶縁基板12の冷却面122との間に、液相の冷媒13が流れる冷媒流路141を形成する構造体である。冷却器14は、金属材料、樹脂材料等で構成される。図2に示すように、絶縁基板12と冷却器14との間は、シール材15によってシールされている。
【0024】
図3に示すように、冷却器14は、冷媒が流入する入口部142と、冷媒が流出する出口部143とを有する。冷媒流路141では、図示しないポンプによって、液相の冷媒13が入口部142から出口部143に向かって強制的に流される。冷却面122に沿う方向であって、入口部142から出口部143に向かう冷媒の流れ方向が、冷媒の主流の流れ方向F1である。図3では、主流の流れ方向F1は、左から右に向かう横方向である。冷媒流路141を流れる液相の冷媒13が、各半導体素子11から受熱することで、沸騰現象が生じる。すなわち、液相の冷媒13は、気相へ相変化する。これによって、各半導体素子11が冷却される。沸騰は、冷媒の過熱度が正のときに生じる。過熱度は、100K以下である。
【0025】
図4に示すように、冷却面122は、絶縁基板12の厚さ方向で、冷却面122に対して半導体素子11を投影したときの投影領域31を有する。第1半導体素子11aを投影したときの投影領域31が第1投影領域31aであり、第2半導体素子11bを投影したときの投影領域31が第2投影領域31bである。絶縁基板12の厚さ方向は、一面121に垂直な方向である。
【0026】
また、冷却面122は、2つの溝形成領域32を有する。2つの溝形成領域32のそれぞれは、複数の溝が形成された領域である。溝は、冷却面122のうち溝が形成されていない領域よりも凹んでいる部分である。
【0027】
2つの溝形成領域32の一方は、第1溝形成領域32aである。第1溝形成領域32aは、冷却面122のうち第1投影領域31aを含む領域である。すなわち、第1溝形成領域32aは、冷却面122のうち絶縁基板12の厚さ方向で第1半導体素子11aと対向する領域を含む領域である。
【0028】
2つの溝形成領域32の他方は、第2溝形成領域32bである。第2溝形成領域32bは、冷却面122のうち第2投影領域31bを含む領域である。すなわち、第2溝形成領域32bは、冷却面122のうち絶縁基板12の厚さ方向で第2半導体素子11bと対向する領域を含む領域である。
【0029】
2つの溝形成領域32は、同じ構成であるため、以下では、第1溝形成領域32aについて説明する。第1溝形成領域32aを単に溝形成領域32と呼び、第1半導体素子11aを単に半導体素子11と呼ぶ。第1投影領域31aを投影領域31と呼ぶ。
【0030】
溝形成領域32の外郭は、半導体素子11の外郭よりも外側に広がった位置にある。図2または図3に示す断面図において、溝形成領域32の外郭の位置と半導体素子11の外郭の位置とを結ぶ方向は、絶縁基板12の一面121に対して45度をなす。これは、絶縁基板12の一面121側から冷却面122側へ、最大45度の角度で、熱が拡散することを考慮したためである。
【0031】
図5に示すように、溝形成領域32には、第1方向D1に連続して延びる複数の第1溝33と、第1方向D1とは異なる第2方向D2に連続して延びる複数の第2溝34とが、形成されている。複数の第1溝33は、溝形成領域32のうち図5の上側半分に形成されている。第1方向D1は、主流の流れの上流側から下流側に向かう方向であって、主流の流れ方向F1に対して、図5の上側に鋭角をなす方向である。複数の第2溝34は、溝形成領域32のうち図5の下側半分に形成されている。第2方向D2は、主流の流れの上流側から下流側に向かう方向であって、主流の流れ方向F1に対して、第1方向D1とは異なる側に、すなわち、図5の下側に、鋭角をなす方向である。換言すると、第1方向D1および第2方向D2は、主流の流れ方向F1に対して平行な方向および直交する方向の両方を除き、主流の流れの上流側から下流側に向かう方向であって、投影領域31の中央部35からその中央部35の周囲に位置する周辺部36に向かう方向である。
【0032】
図6に示すように、複数の第1溝33および複数の第2溝34のそれぞれは、溝33、34の横断面形状が四角形状であり、溝33、34の底部に2つの角部を有する。複数の第1溝33および複数の第2溝34のそれぞれにおいて、溝33、34の幅d1は均一であり、深さh1も均一である。溝33、34の幅d1は、例えば、10μm~1mmである。なお、溝33、34の横断面形状は、底部に角部を1つのみ有する形状であってもよい。角部の角度は、90度に限られない。角部を有することで、よどみが生じやすくなり、過熱液が生成されやすくなる。また、溝33、34の深さh1は、半導体素子11からの受熱によって液相の冷媒13に形成される温度境界層の厚みの一倍以上であることが好ましい。
【0033】
図7に示すように、複数の第1溝33および複数の第2溝34のそれぞれは、冷却面122に設けられた、過熱液が流れる過熱液流路を構成する。過熱液は、沸点よりも温度が高い状態の液相の冷媒であり、発熱した半導体素子11から液相の冷媒13が受熱することによって、冷却面122の近傍に生じる。沸点は、熱交換装置10の使用環境での冷媒の圧力に対応する飽和温度である。複数の第1溝33は、第1方向D1に連続して延びる第1流路群を構成する。複数の第2溝34は、第2方向D2に連続して延びる第2流路群を構成する。
【0034】
次に、本実施形態の効果について説明する。本実施形態と異なり、過熱液流路が冷却面122に形成されていない場合、半導体素子11が発熱し、液相の冷媒13が冷媒流路141を流れるとき、冷却面122には、冷却面122の過熱度(すなわち、冷却面122の近傍の冷媒の過熱度)が高い領域と、冷却面122の過熱度(すなわち、冷媒の過熱度)が低い領域とが存在する。一般的に、過熱度が高い領域は、投影領域31の中央部35であり、過熱度が低い領域は、中央部35の周囲に位置する周辺部36である。過熱度が高い領域では、沸騰が生じるが、過熱度が低い領域では、沸騰が生じ難い。過熱液流路が冷却面122に形成されていない場合とは、冷却面122が平坦面である場合、冷却面122に形成されている溝が延びる方向が主流の流れ方向に対して直交する方向である場合等である。
【0035】
これに対して、本実施形態によれば、半導体素子11が発熱し、液相の冷媒13が冷媒流路141を流れるとき、過熱液が、投影領域31の中央部35から周辺部36に向かって、過熱液流路を流れる。すなわち、過熱液が、投影領域31の中央部35から周辺部36に向かって、冷却面122に沿って流れるように構成されている。
【0036】
これにより、過熱液流路が冷却面に形成されていない場合に、過熱度が低い領域であった周辺部36に、過熱度が高い過熱液が流れることで、中央部35だけでなく周辺部36においても、沸騰を活性化させることができる。換言すると、過熱液流路が冷却面122に形成されていない場合と比較して、過熱度が高い領域を拡大させることができ、冷却面122のうち沸騰が活性化する領域を拡大させることができる。よって、冷却性能を向上させることができる。
【0037】
上記した本実施形態の効果を高めるためには、図3に示す冷媒流路141の高さh2は、10mm以下であることが好ましい。これは、冷媒流路141が狭隘化することで、過熱液流路内の流速成分が大きくなるからである。なお、図3に示すように、冷却器14は、冷却面122に対して間をあけて対向し、冷却面122との間に冷媒流路141を形成する流路形成面70を有する。冷媒流路141の高さh2とは、絶縁基板12の厚さ方向における流路形成面70と冷却面122との距離である。
【0038】
また、投影領域31の中央部35と周辺部36とのそれぞれは、本実施形態の熱交換装置10において、冷媒流路に液相の冷媒が存在しない状態で、半導体素子が発熱した場合に、冷却面の温度が冷却面のなかで高い高温領域と、冷却面の温度が高温領域よりも低い低温領域とに対応する。また、投影領域31の中央部35と周辺部36とのそれぞれは、本実施形態の熱交換装置10において、冷媒流路に液相の冷媒が強制的に流されずに存在する状態で、半導体素子が発熱した場合に、冷却面近傍の冷媒の温度が冷却面近傍の冷媒のなかで高い高温領域と、冷却面近傍の冷媒の温度が高温領域よりも低い低温領域とに対応する。冷却面温度および冷却面近傍の冷媒温度は、素子温度から推定することができる。
【0039】
ここで、本発明者が行った解析結果および実験結果について説明する。本発明者は、本実施形態の熱交換装置10と、比較例1の熱交換装置とのそれぞれについて、冷却面近傍の冷媒温度を解析した。
【0040】
図8に示すように、比較例1の熱交換装置は、冷却面122に形成されている複数の溝37のそれぞれが連続して延びる方向D3が、冷媒の主流の流れ方向F1に対して直交する方向である点で、本実施形態の熱交換装置10と相違する。比較例1の熱交換装置の他の構成は、本実施形態の熱交換装置10と同じである。
【0041】
図9は、半導体素子11が発熱し、液相の冷媒13が冷媒流路141を流れているときの図8に示す冷却面122の近傍の冷媒温度の解析結果である。比較例1では、冷却面122の近傍の冷媒のなかで温度が高い範囲A1は、投影領域31の中央部のみに位置していた。このように、過熱液流路が冷却面122に形成されていない場合、冷却面122のうち投影領域31の中央部では、過熱液の過熱度が高く、冷却面122のうち投影領域31の周辺部では、過熱液の過熱度が低い。
【0042】
図10に示すように、本実施形態の熱交換装置10では、冷却面122に形成されている複数の溝33、34のそれぞれが延びる方向が、冷媒の主流の流れ方向F1に対して鋭角をなす方向である。
【0043】
図11は、半導体素子11が発熱し、液相の冷媒13が冷媒流路141を流れているときの図10に示す冷却面122の近傍の冷媒温度の解析結果である。本実施形態では、冷却面122の近傍の冷媒の中で温度が高い範囲A2は、投影領域31のほぼ全体を含んでいた。このように、本実施形態では、冷媒温度が高い領域、すなわち、過熱度が高い領域が、投影領域31の中央部と周辺部の両方を含む領域に広がっていることが確認された。
【0044】
また、本発明者は、本実施形態の熱交換装置10と、比較例1の熱交換装置とのそれぞれについて、半導体素子11に種々の大きさの電流を流したときの半導体素子11の温度(すなわち、素子温度)と半導体素子11の発熱量とをそれぞれ測定した。図12は、その測定結果である。図13は、図12中の破線で囲まれた部分の拡大図である。
【0045】
図13に示すように、半導体素子の発熱量が同じ大きさのときの素子温度を比較すると、比較例1よりも本実施形態の方が、素子温度が低かった。一例を挙げると、ある発熱量のとき、比較例1よりも本実施形態の方が4.4%低かった。また、素子温度が同じ大きさのときの発熱量を比較すると、比較例1よりも本実施形態の方が、発熱量が大きかった。すなわち、本実施形態によれば、比較例1に対して、ある素子温度になるまでに許容される発熱量が増大した。一例を挙げると、ある素子温度のときの許容発熱量は、6.7%増大した。
【0046】
上記の通り、本実施形態の熱交換装置10では、冷却面122に設けられた溝33、34が連続して延びる方向は、冷媒の主流の流れ方向F1に対して鋭角をなす方向である。このため、図6中の矢印のように、溝33、34の内部に、バックステップ流れ(すなわち、渦流れ)が生じ、図6中の破線のように、溝33、34の内部の角部に、よどみが生じる。このよどみが受熱して過熱液が生じる。投影領域の中央部で生じた過熱液は、主流の流れを推進力として、溝33、34の内部を溝33、34が連続して延びる方向に流れる。このため、過熱度が高い領域が、投影領域31の中央部と周辺部の両方を含む領域に拡大される。溝部の内部に生じる過熱液のうち周辺部よりも中央部で生じる過熱液の方が過熱度が高い。過熱度が高い過熱液が周辺部に流れる。このため、周辺部でも沸騰が生じやすい。このように、投影領域の中央部および周辺部での冷媒の沸騰が促進される。この結果、熱交換装置10の冷却性能が向上する。
【0047】
これに対して、比較例1の熱交換装置では、冷却面122に設けられた溝37が連続して延びる方向D3は、冷媒の主流の流れ方向F1に対して直交する方向である。この場合、溝37の内部によどみが生じ、過熱液が生じる。しかし、投影領域の中央部で生じた過熱液は、溝37に沿って流れない。このため、冷却面122のうち投影領域31の中央部では、過熱液の過熱度が高く、冷却面122のうち投影領域31の周辺部では、過熱液の過熱度が低い。このため、周辺部では、中央部と比較して沸騰が生じ難い。なお、冷却面122に設けられた溝が連続して延びる方向が、冷媒の主流の流れ方向F1に対して、鈍角をなす方向の場合も、同様である。
【0048】
また、本実施形態と異なり、冷却面122に設けられた溝が連続して延びる方向が、冷媒の主流の流れ方向F1に対して平行である場合が考えられる。しかし、この場合、溝の内部に渦流れが生じないため、過熱液が生じない。または、過熱液が生じても、生じた過熱液の過熱度は、本実施形態よりも低い。このため、本実施形態と同じ効果は得られない。
【0049】
なお、本実施形態では、過熱液流路は、複数の第1溝33と、複数の第2溝34とによって構成されている。しかしながら、複数の第1溝33と、複数の第2溝34との一方のみによって、過熱液流路が構成されてもよい。すなわち、過熱液流路が連続して延びる方向は、一方向のみであってもよい。また、1つの第1溝33と1つの第2溝34との少なくとも一方によって、過熱液流路が構成されてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、過熱液流路は、冷却面122に対して凹んだ形状の溝33、34によって構成されている。しかしながら、過熱液流路は、冷却面122から突出するように設けられた隣り合う2つの板形状部の間に形成されたものでもよい。
【0051】
(第2実施形態)
図14に示すように、本実施形態の熱交換装置10では、冷却面122のうち第1投影領域31aと第2投影領域31bとの間の素子間領域に、溝41が設けられている。この溝41は、液相の冷媒13の主流の流れ方向F1に対して直交する方向に連続して延びている。この溝41は、液相の冷媒13の主流の一部を過熱液と混合させるための溝である。図14では、溝41は、1つであるが、複数であってもよい。熱交換装置10の他の構成は、第1実施形態と同じである。なお、図14図3に対応する断面図であるが、図14では、図3中の表面導体パターン22、裏面導体パターン23および冷却器14の図示が省略されている。
【0052】
図15に示すように、本実施形態と異なり、冷却面122の素子間領域が平坦面である場合、主流の流れ方向F1の下流側に進むにつれて、冷却面122の近傍の冷媒の温度が高い領域(すなわち、温度境界層)42の厚みが増大する。冷却面122の素子間領域は、半導体素子11から離れているため、沸騰が生じない領域である。このため、素子間領域に、温度境界層が存在することは、冷却性能の低下の原因となる。
【0053】
これに対して、本実施形態によれば、図14に示すように、溝41の内部に、渦流れが生じる。これにより、過熱液と、過熱液よりも冷却面122から離れている主流の一部とが混合する。主流の一部は、過熱液よりも温度が低い。このため、冷却面122の近傍の液相の冷媒13の温度を下げることができ、冷却面122の素子間領域に存在する温度境界層43を薄くすることができる。この結果、冷却性能を向上させることできる。
【0054】
本実施形態では、溝41が延びる方向は、主流の流れ方向F1に対して直交する方向であるが、これに限られない。溝41が延びる方向は、主流の流れ方向F1に対して交差する方向であればよい。換言すると、主流の流れ方向F1に対して交差する方向に、凹部が連続して延びていてもよい。この場合であっても、溝41が有する壁に過熱液が衝突して、渦流れが生じることで、過熱液と主流の一部とを混合させることができる。
【0055】
また、溝41に限られず、1つ以上の凹部が冷却面122の素子間領域に形成されてもよい。この場合、複数の凹部が主流の流れ方向F1に対して交差する方向に並んで配置されてもよい。また、凹部に限られず、1つ以上の凸部が冷却面122の素子間領域に形成されてもよい。これらの場合であっても、凹部または凸部が有する壁に過熱液が衝突して、渦流れが生じることで、過熱液と主流の一部とを混合させることができる。
【0056】
(第3実施形態)
本実施形態の熱交換装置10は、第1実施形態の熱交換装置10の姿勢を、冷却面122が重力方向に沿う向きの姿勢に変更するとともに、プール沸騰によって半導体素子11を冷却するものである。
【0057】
図16に示すように、本実施形態では、冷却面122の溝形成領域32において、複数の第1溝33が延びる第1方向D1は、反重力方向(すなわち、下から上に向かう方向)F2に対して、鋭角をなす方向である。複数の第2溝34が延びる第2方向D2は、反重力方向F2に対して、第1方向D1とは異なる側に、鋭角をなす方向である。換言すると、第1方向D1および第2方向D2は、反重力方向F2に対して平行な方向および直交する方向の両方を除き、投影領域31の中央部35から周辺部36に向かう方向であって、下側から上側に向かう方向である。
【0058】
冷媒流路141の液相の冷媒13の流れは、ポンプを用いずに、自然対流によって起きる。過熱液は、液相の冷媒13の温度の違いによる密度差によって、下側から上側に向かって流れる。このため、図17に示すように、半導体素子11が発熱したとき、過熱液が、投影領域の中央部から、第1方向D1および第2方向D2に、過熱液流路を流れる。よって、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0059】
(第4実施形態)
本実施形態の熱交換装置10では、冷却面122の溝形成領域32に形成される溝の向きが、第1実施形態と異なる。また、本実施形態の熱交換装置10では、液相の冷媒の流れ方向が、第1実施形態と異なる。
【0060】
図18に示すように、溝形成領域32には、投影領域31の中央部35から第1方向D11に連続して延びる複数の第1溝51と、中央部35から第2方向D12に連続して延びる複数の第2溝52と、中央部35から第3方向D13に連続して延びる複数の第3溝53と、中央部35から第4方向D14に連続して延びる複数の第4溝54と、が形成されている。第1方向D11、第2方向D12、第3方向D13、第4方向D14は、投影領域31の中央部35から周辺部36に向かう方向であって、互いに異なる方向である。より詳細には、第1方向D11、第2方向D12、第3方向D13および第4方向D14のそれぞれは、90度ずつ異なる方向を向いている。第1方向D11と第4方向D14は、平行である。第2方向D12と第3方向D13は、平行である。
【0061】
本実施形態の熱交換装置10は、衝突噴流冷却によって、発熱した半導体素子11を冷却する。図示しないが、液相の冷媒は、噴流となって、冷却面122の溝形成領域32に向かって、冷却面122に対して直交する方向に流れる。
【0062】
このとき、図19に示すように、冷却面122に生じた過熱液は、投影領域の中央部から、第1方向D11、第2方向D12、第3方向D13および第4方向D14に、過熱液流路を流れる。よって、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0063】
なお、冷却面122に、溝が設けられていなくてもよい。噴流の場合、冷却面122が平坦面であっても、過熱液を中央部から周辺部へ流すことができる。
【0064】
(第5実施形態)
図20に示すように、本実施形態の熱交換装置10では、第1実施形態の溝形成領域32において、冷媒の主流の流れ方向F1に沿って連続して延びる溝61が追加されている。この溝61は、投影領域31の中央部35の中心を通る位置に配置されている。なお、溝61が配置される位置は、中央部35の中心に限られず、中央部35を通る位置であればよい。溝61は、複数の第1溝33および複数の第2溝34のそれぞれの冷媒流れ上流側に連なっており、過熱液流路の上流側に連なる上流側流路を構成する。複数の第1溝33は、溝61から第1方向D1に連続して延びている。複数の第2溝34は、溝61から第2方向D2に連続して延びている。
【0065】
熱交換装置10の他の構成は、第1実施形態と同じである。このため、本実施形態によっても、第1実施形態と共通する構成によって、第1実施形態と同じ効果が得られる。さらに、本実施形態によれば、溝61を冷媒が流れることで、複数の第1溝33および複数の第2溝34のそれぞれを流れる過熱液の流れを速くすることができ、沸騰活性化する領域を拡大させることができる。なお、上流側流路は、溝61ではなく、冷却面122から突出するように設けられた2つの板形状部の間に形成されたものでもよい。
【0066】
(第6実施形態)
本実施形態の熱交換装置10は、第1実施形態の熱交換装置10において、冷却器14の流路形成面70に、溝が追加されたものである。
【0067】
具体的には、図21に示すように、冷却器14の流路形成面70は、絶縁基板12の厚さ方向で、流路形成面70に対して半導体素子11を投影したときの投影領域71を有する。第1半導体素子11aを投影したときの投影領域71が、流路形成面70の第1投影領域71aである。第2半導体素子11bを投影したときの投影領域71が、流路形成面70の第2投影領域71bである。
【0068】
また、流路形成面70は、2つの溝形成領域72を有する。2つの溝形成領域72のそれぞれは、複数の溝が形成された領域である。溝は、流路形成面70のうち溝が形成されていない領域よりも凹んでいる部分である。
【0069】
2つの溝形成領域72の一方は、第1溝形成領域72aである。第1溝形成領域72aは、流路形成面70のうち第1投影領域71aを含む領域である。すなわち、第1溝形成領域72aは、流路形成面70のうち絶縁基板12の厚さ方向で第1半導体素子11aと対向する領域を含む領域である。
【0070】
2つの溝形成領域72の他方は、第2溝形成領域72bである。第2溝形成領域72bは、流路形成面70のうち第2投影領域71bを含む領域である。すなわち、第2溝形成領域72bは、流路形成面70のうち絶縁基板12の厚さ方向で第2半導体素子11bと対向する領域を含む領域である。
【0071】
流路形成面70の2つの溝形成領域72は、同じ構成であるため、以下では、第1溝形成領域72aについて説明する。第1溝形成領域72aを単に溝形成領域72と呼び、第1半導体素子11aを単に半導体素子11と呼ぶ。第1投影領域71aを投影領域71と呼ぶ。
【0072】
図22に示すように、溝形成領域72には、第1方向D21に連続して延びる複数の第1溝73と、第1方向D21とは異なる第2方向D22に連続して延びる複数の第2溝74とが、形成されている。複数の第1溝73は、溝形成領域72のうち図22の上側半分に形成されている。流路形成面70の溝形成領域72のうち図22の上側半分は、冷却面122の溝形成領域32のうち図5の下側半分に対して、絶縁基板12の厚さ方向で対向する。第1方向D21は、主流の流れの上流側から下流側に向かう方向であって、投影領域71のうち中央部75の周囲に位置する周辺部76から中央部75に向かう方向であり、主流の流れ方向F1に対して、図22の上側に鋭角をなして交差する方向である。
【0073】
複数の第2溝74は、溝形成領域72のうち図22の下側半分に形成されている。流路形成面70の溝形成領域72のうち図22の下側半分は、冷却面122の溝形成領域32のうち図5の上側半分に対して、絶縁基板12の厚さ方向で対向する。第2方向D22は、主流の流れの上流側から下流側に向かう方向であって、投影領域71の周辺部76から中央部75に向かう方向であり、主流の流れ方向F1に対して、第1方向D21とは異なる側に、すなわち、図22の下側に鋭角をなして交差する方向である。
【0074】
換言すると、第1方向D1および第2方向D2は、主流の流れ方向F1に対して平行な方向および直交する方向の両方を除き、主流の流れの上流側から下流側に向かう方向であって、投影領域71の周辺部76から中央部75に向かう方向である。
【0075】
流路形成面70の複数の第1溝73および複数の第2溝74の断面形状は、冷却面122の複数の第1溝33および複数の第2溝34と同じ形状であるが、同じ形状でなくてもよい。
【0076】
熱交換装置10の他の構成は、第1実施形態と同じである。このため、本実施形態によっても、第1実施形態と共通する構成によって、第1実施形態と同じ効果が得られる。さらに、本実施形態によれば、下記の効果が得られる。
【0077】
半導体素子11が発熱し、液相の冷媒13が冷媒流路141を流れるとき、冷媒13の主流の一部が、複数の第1溝73を第1方向D21に流れるとともに、複数の第2溝74を第2方向D22に流れる。すなわち、冷媒13が、投影領域71の周辺部76から中央部75に向かって、流路形成面70に沿って流れる。これにより、図23に示すように、周辺部から中央部、中央部から周辺部へと向かう流れF3、F4が生じ、冷却面122の過熱液流路を第1方向D1および第2方向D2に流れる過熱液の流速成分を大きくし、沸騰伝熱をより促進させることができる。
【0078】
本実施形態では、複数の第1溝73および複数の第2溝74が、流路形成面に沿って冷媒を流すための流路形成面側流路を構成している。しかしながら、流路形成面側流路は、流路形成面70から突出するように設けられた隣り合う2つの板形状部の間に形成されてもよい。
(他の実施形態)
【0079】
(1)上記の各実施形態では、例えば、図5に示されるように、過熱液流路の幅は、均一であるが、周辺部36での過熱液流路の幅は、中央部35での過熱液流路の幅よりも小さいことが好ましい。ここで、特許文献1に記載されているように、冷媒の過熱度が大きいほど、沸騰核が小さいものが沸騰しやすいことが知られている。中央部35の過熱液が周辺部36に向かって過熱液流路を流れることで、中央部35よりも周辺部36の方が過熱度が大きくなる。このため、周辺部36での過熱液流路の幅を、中央部35での過熱液流路の幅よりも小さくすることで、周辺部36での沸騰を活性化させることができる。
【0080】
(2)第1実施形態では、熱交換装置10の使用時の姿勢は、半導体素子11が冷媒13の上側に位置する姿勢であったが、半導体素子11が冷媒13の下側に位置する姿勢等の他の姿勢であってもよい。
【0081】
(3)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0082】
10 熱交換装置
11 半導体素子
12 絶縁基板
13 液相の冷媒
14 冷却器
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