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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041103
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】スラリー含浸シートの製造装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 9/06 20060101AFI20240319BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20240319BHJP
   D06B 1/08 20060101ALI20240319BHJP
   D06B 5/02 20060101ALI20240319BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20240319BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20240319BHJP
   B05C 5/02 20060101ALI20240319BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
B05C9/06
B29B11/16
D06B1/08
D06B5/02
B05C11/10
B05C11/00
B05C5/02
B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145743
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 聡
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 広平
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 潔
【テーマコード(参考)】
3B154
4F041
4F042
4F072
【Fターム(参考)】
3B154AA14
3B154AB09
3B154AB19
3B154AB27
3B154BA14
3B154BB39
3B154BB47
3B154BB76
3B154BC07
3B154BC22
3B154BC48
3B154BD06
3B154BE07
3B154CA03
3B154CA33
3B154DA24
4F041AA12
4F041AB01
4F041BA05
4F041BA34
4F041BA35
4F041BA59
4F041CA03
4F041CA17
4F041CA28
4F042AA22
4F042BA06
4F042BA08
4F042BA09
4F042BA12
4F042BA16
4F042CB02
4F042CB08
4F042CB11
4F042CB20
4F042CC09
4F042CC30
4F042DF23
4F042DH09
4F072AA04
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD04
4F072AD37
4F072AD44
4F072AD46
4F072AG03
4F072AH03
4F072AH12
4F072AH13
4F072AH18
4F072AH19
4F072AH25
4F072AH49
4F072AL01
4F072AL02
4F072AL16
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】スラリーの含浸量が均一なスラリー含浸シートを、生産性よく製造可能なスラリー含浸シートの製造装置を提供する。
【解決手段】本発明のスラリー含浸シートの製造装置は、繊維シートまたは多孔質シートを搬送する搬送装置と、前記繊維シートまたは多孔質シートに溶媒または第1のスラリーを塗布する第1塗布装置と、前記繊維シートまたは多孔質シートに第2のスラリーを計量塗布する第2塗布装置と、前記繊維シートまたは多孔質シートに外力を与えて粒子を前記繊維シートまたは多孔質シートの内部に含浸する含浸装置と、前記繊維シートまたは多孔質シートに外力を与えて余分な溶媒またはスラリーを絞る絞り装置と、前記絞り装置でシートから絞られた溶媒またはスラリーを、前記第1塗布装置に還流する還流装置と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を溶媒に分散させたスラリーを繊維シートまたは多孔質シートに含浸させたスラリー含浸シートの製造装置であって、
前記繊維シートまたは多孔質シートを搬送する搬送装置と、
前記繊維シートまたは多孔質シートに溶媒または第1のスラリーを塗布する第1塗布装置と、
前記第1塗布装置よりもシートの搬送方向下流側にあり、前記繊維シートまたは多孔質シートに第2のスラリーを計量塗布する第2塗布装置と、
前記第2塗布装置よりもシートの搬送方向下流側にあり、前記繊維シートまたは多孔質シートに外力を与えて粒子を前記繊維シートまたは多孔質シートの内部に含浸する含浸装置と、
前記含浸装置よりもシートの搬送方向下流側にあり、前記繊維シートまたは多孔質シートに外力を与えて余分な溶媒またはスラリーを絞る絞り装置と、
前記絞り装置でシートから絞られた溶媒またはスラリーを、前記第1塗布装置に還流する還流装置と、
を有する、スラリー含浸シートの製造装置。
【請求項2】
前記含浸装置から前記絞り装置までのシートの搬送経路のうち、
前記含浸装置の入口のシート幅方向中央と出口のシート幅方向の中央とを結ぶ仮想直線と水平方向のなす角度、および
前記含浸装置の出口のシート幅方向中央と、前記絞り装置の入口のシート幅方向中央とを結ぶ仮想直線と水平方向のなす角度が、30゜以上90゜以下である、
請求項1に記載のスラリー含浸シートの製造装置。
【請求項3】
前記還流装置は、前記絞り装置で絞られた溶媒またはスラリーを貯留するスラリー槽を有し、
前記第1塗布装置は、前記スラリー槽と、前記繊維シートまたは多孔質シートを前記スラリー槽に浸漬する機構と、からなり、
前記第2塗布装置がダイを有する、
請求項1または2に記載のスラリー含浸シートの製造装置。
【請求項4】
前記スラリー槽は、底面に沈降した粒子を排出する排出機構を有し、
前記第1塗布装置の浸漬機構は、前記スラリー槽の液面付近に配置される、
請求項3に記載のスラリー含浸シートの製造装置。
【請求項5】
前記還流装置は、
前記絞り装置で絞られた溶媒またはスラリーを貯留するスラリー槽と、
前記スラリー槽から前記第1塗布装置に溶媒またはスラリーを送液する第1ポンプと、を有し、
前記第1塗布装置および前記第2塗布装置がダイを有する、
請求項1または2に記載のスラリー含浸シートの製造装置。
【請求項6】
前記スラリー槽は、
前記スラリー槽に貯留する溶媒またはスラリーの液面を計測する液面計を有し、
前記スラリー含浸シートの製造装置は、前記液面計の信号をもとに前記第1ポンプの流量を制御する第1制御装置を有する、請求項5に記載のスラリー含浸シートの製造装置。
【請求項7】
前記還流装置は、
送液する溶媒またはスラリーの濃度を測定する濃度計と、
送液する溶媒またはスラリーの流量を測定する流量計と、を有し、
前記スラリー含浸シートの製造装置は、前記濃度計と流量計の信号をもとに前記第2塗布装置での第2のスラリーの塗布量を制御する第2制御装置を有する、
請求項5に記載のスラリー含浸シートの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー含浸シートの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含むマトリックス樹脂を強化繊維で補強した繊維強化複合材料(FRP)は、航空・宇宙用材料、自動車材料、産業用材料、圧力容器、建築材料、筐体、医療用途、スポーツ用途など様々な分野で用いられている。FRPは強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸して中間基材を得、これを積層、成形し、さらにマトリックス樹脂に熱硬化樹脂を用いた場合には熱硬化させて、FRPからなる部材を製造している。前記用途では平面状物やそれを折り曲げた形態のものが多く、FRPの中間基材として、部材を作製する際の積層効率や成形性の観点から2次元のシート状物が幅広く使用されている。
【0003】
2次元のシート状中間基材としては、強化繊維を一方向に配列させたシート状強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグが使用されている。プリプレグの製造方法の一つであるホットメルト法は、マトリックス樹脂を溶融した後、離型紙上にコーティングし、これをシート状強化繊維束の上面、下面でサンドイッチした積層構造を作製後、熱と圧力でマトリックス樹脂をシート状強化繊維束内部に含浸するものである。本方法は工程数が多く、また生産速度も上げられず、高コストとなる問題があった。
【0004】
また、ホットメルト法以外のプリプレグの製造方法として、樹脂を粉末化して溶媒に分散させたスラリーを、シート状強化繊維束に含浸後、溶媒を除去するスラリー含浸法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-255927号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、熱可塑性樹脂の粉末をアルコール等の有機溶媒に分散させたスラリー中に、ストランドの幅を調整した強化繊維シートを浸漬して、樹脂粉末をシートに付着させた後加熱して有機溶媒を乾燥させ、さらに高温で加熱して熱可塑性樹脂を溶融し、強化繊維シートを一体化することにより均一性に優れたプリプレグを製造している。しかしながら、ストランドを構成する繊維には、撚りや交絡があるため、ストランド幅を一定に制御するのは困難である。また、強化繊維シートに付着させる樹脂粒子の目付量は、ストランドの幅のみならず、ストランドの搬送張力や開繊状態、スラリー槽の粒子濃度によっても変動するため、強化繊維シートに付着させる樹脂粒子の目付量を精度よく制御することは実質的に困難であった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、スラリーの含浸量が均一なスラリー含浸シートを、生産性よく製造可能なスラリー含浸シートの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するための本発明のスラリー含浸シートの製造装置は、粒子を溶媒に分散させたスラリーを繊維シートまたは多孔質シートに含浸させたスラリー含浸シートの製造装置であって、前記繊維シートまたは多孔質シートを搬送する搬送装置と、前記繊維シートまたは多孔質シートに溶媒または第1のスラリーを塗布する第1塗布装置と、前記第1塗布装置よりもシートの搬送方向下流側にあり、前記繊維シートまたは多孔質シートに第2のスラリーを計量塗布する第2塗布装置と、前記第2塗布装置よりもシートの搬送方向下流側にあり、前記繊維シートまたは多孔質シートに外力を与えて粒子を前記繊維シートまたは多孔質シートの内部に含浸する含浸装置と、前記含浸装置よりもシートの搬送方向下流側にあり、前記繊維シートまたは多孔質シートに外力を与えて余分な溶媒またはスラリーを絞る絞り装置と、前記絞り装置でシートから絞られた溶媒またはスラリーを、前記第1塗布装置に還流する還流装置と、を有する。
【0009】
また、本発明に係るスラリー含浸シートの製造装置は、上記発明において、前記含浸装置から前記絞り装置までのシートの搬送経路のうち、前記含浸装置の入口のシート幅方向中央と出口のシート幅方向の中央とを結ぶ仮想直線と水平方向のなす角度、および前記含浸装置の出口のシート幅方向中央と、前記絞り装置の入口のシート幅方向中央とを結ぶ仮想直線と水平方向のなす角度が、30゜以上90゜以下である。
【0010】
また、本発明に係るスラリー含浸シートの製造装置は、上記発明において、前記還流装置は、前記絞り装置で絞られた溶媒またはスラリーを貯留するスラリー槽を有し、前記第1塗布装置は、前記スラリー槽と、前記繊維シートまたは多孔質シートを前記スラリー槽に浸漬する機構と、からなり、前記第2塗布装置がダイを有する。
【0011】
また、本発明に係るスラリー含浸シートの製造装置は、上記発明において、前記スラリー槽は、底面に沈降した粒子を排出する排出機構を有し、前記第1塗布装置の浸漬機構は、前記スラリー槽の液面付近に配置される。
【0012】
また、本発明に係るスラリー含浸シートの製造装置は、上記発明において、前記還流装置は、前記絞り装置で絞られた溶媒またはスラリーを貯留するスラリー槽と、前記スラリー槽から前記第1塗布装置に溶媒またはスラリーを送液する第1ポンプと、を有し、前記第1塗布装置および前記第2塗布装置がダイを有する。
【0013】
また、本発明に係るスラリー含浸シートの製造装置は、上記発明において、前記スラリー槽は、前記スラリー槽に貯留する溶媒またはスラリーの液面を計測する液面計と、前記液面計の信号をもとに前記第1ポンプの流量を制御する第1制御装置と、を有する。
【0014】
また、本発明に係るスラリー含浸シートの製造装置は、上記発明において、前記還流装置は、送液する溶媒またはスラリーの濃度を測定する濃度計と、送液する溶媒またはスラリーの流量を測定する流量計と、前記濃度計と流量計の信号をもとに前記第2塗布装置での第2のスラリーの塗布量を制御する第2制御装置と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスラリー含浸シートの製造装置によれば、まず溶媒または低濃度のスラリーを第1塗布装置で繊維シート等に含浸させることで繊維シート等への粒子の含浸を行いやすくし、その後高濃度のスラリーを第2塗布装置で繊維シート等に含浸させ、最後に絞り装置で余分な溶媒を除去するため、最終的に繊維シート等に塗布される溶媒量を低減しながら、粒子が内部まで含浸したスラリー含浸シートを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係るスラリー含浸シートの製造装置の概略図である。
図2図2は、本発明の実施の形態2に係るスラリー含浸シートの製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るスラリー含浸シートの製造装置について詳細に説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るスラリー含浸シート1の製造装置100の概略図である。本発明のスラリー含浸シート1の製造装置100は、繊維シート1aを巻き出す巻出し装置10と、繊維シート1aおよびスラリー含浸シート1を搬送する搬送装置20と、繊維シート1aに溶媒または第1のスラリーを塗布する第1塗布装置30Aと、第1塗布装置30Aよりもシートの搬送方向下流側にあり、繊維シート1aに第2のスラリーを計量塗布する第2塗布装置30Bと、第2塗布装置30Bよりもシートの搬送方向下流側にあり、繊維シート1aに外力を与えて粒子を繊維シート1aの内部に含浸する含浸装置40と、含浸装置40よりも繊維シート1aの搬送方向下流側にあり、繊維シート1aに外力を与えて余分な溶媒またはスラリーを絞る絞り装置50と、絞り装置50でシートから絞られた溶媒またはスラリーを、第1塗布装置30Aに還流する還流装置60と、スラリー含浸シート1を巻き取る巻取り装置70と、を有する。
【0019】
<繊維シート>
繊維シート1aは、繊維を一方向に配列させシート状としたUD基材や、多方向に配列させた織物である繊維ファブリックが例示される。力学特性が優先される場合にはUD基材が好ましく使用できる。一方、複雑形状のFRPを作製する場合には賦形性に優れ形状追従性のある織物が好ましく使用できる。
本実施の形態1では、繊維シート1aを例として説明しているが、本実施の形態1に係るスラリー含浸シート1の製造装置100では、多孔質シートにスラリーを含浸させる際にも使用することができる。多孔質シートとしては、不織布や紙、メッシュ、スポンジ、発泡ゴムなどが例示され、スラリーが含浸するものであれば、材質は問わない。
【0020】
繊維シート1aを構成する繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、金属酸化物繊維、金属窒化物繊維、有機繊維(アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維など)などを例示することができる。スラリー含浸シート1をFRPに使用する場合、炭素繊維を用いることが、FRPの力学特性、軽量性の観点から好ましい。
【0021】
繊維シート1aとして使用するUD基材とは、複数本の繊維を一方向に面上で配列させたものを言い、必ずしも複数の繊維は相互に絡み合う等して一体化している必要は無い。本発明のスラリー含浸シート1の製造装置100により製造されるスラリー含浸シート1は、スラリーの塗布後にスラリーが含浸されたシート状物として得られることから、繊維が配列された状態であって一体化されていないものも便宜上繊維シートと称している。ここで、繊維シート1aは、厚み、幅には特に制限は無く、目的、用途に応じ適宜選択することができる。炭素繊維の場合には、通常、1,000本~1,000,000本程度の単繊維がテープ状に集合したものを「トウ」と呼んでおり、このトウを配列させて繊維シートを得ることができる。なお、繊維シート1aは、その幅/厚みで定義されるアスペクト比は10以上であると、取り扱い易く好ましい。
【0022】
繊維シート1aを形成する方法は公知の方法を用いることができ、特に制限は無いが、単繊維をあらかじめ配列させた繊維束を形成し、この繊維束を更に配列させて繊維シート1aを形成することが、工程効率化、配列均一化の観点から好ましい。例えば炭素繊維では、テープ状の繊維束である「トウ」がボビンに巻かれているが、ここから引き出されたテープ状の繊維束を配列させてUD基材としての繊維シート1aを得ることができる。また、繊維シート1aを形成する工程において、クリールにかけられたボビンから引き出された繊維束を整然と並べ、繊維シート1aの繊維束の望ましくない重なりや折りたたみを無くすための開繊装置を用いることが好ましい。繊維配列機構としては公知のローラやくし型配列装置などを用いることができる。開繊装置としては、例えば、特開2005-163223号公報、特開2004-225222号公報、特開2004-225183号公報等に記載されるものを使用することができる。なお、クリールには繊維を引き出す際に張力制御機構が付与されていることが好ましい。張力制御機構としては、公知のものを使用可能であるが、ブレーキ機構などが挙げられる。また、糸道ガイドの調整などによっても張力を制御することができる。
【0023】
また、繊維シート1aとしての繊維ファブリックは、繊維を多軸で配列させる、またはランダム配置してシート化したものである。具体的には、織物や編物などの他、繊維を2次元で多軸配置したものや、不織布やマット、紙など繊維をランダム配向させたものを挙げることができる。この場合、強化繊維はバインダー付与、交絡、溶着、融着などの方法を利用してシート化することもできる。織物としては、平織、ツイル、サテンの基本織組織の他、ノンクリンプ織物やバイアス構造、絡み織、多軸織物、多重織物などを用いることができる。バイアス構造とUD基材を組み合わせた織物は、UD構造により塗布・含浸工程での引っ張りでの織物の変形を抑制するだけでなく、バイアス構造による擬似等方性も併せ持っており、好ましい形態である。また、多重織物では織物上面/下面、また織物内部の構造・特性をそれぞれ設計できる利点がある。編物では塗布・含浸工程での形態安定性を考慮すると経編が好ましいが、筒状編み物であるブレードを用いることもできる。
【0024】
<スラリー>
本発明で用いるスラリーは、付与する目的に応じ適宜選択することができるが、例えばシート状プリプレグの製造に適用する場合には、粒子化したマトリックス樹脂と分散媒との混合物、サスペンジョン等が例示される。
【0025】
マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などを用いることができる。
【0026】
熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素・炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、カルボニル結合から選ばれる結合を有するポリマーを用いることができる。具体的には、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエー
テルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリアミドイミド(PAI)などを例示できる。航空機用途などの耐熱性が要求される分野では、PPS、PES、PI、PEI、PSU、PEEK、PEKK、PAEKなどが好適である。一方、産業用途や自動車用途などでは、成形効率を上げるため、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンやPA、ポリエステル、PPSなどが好適である。これらはポリマーでも良いし、低粘度、低温塗布のため、オリゴマーやモノマーを用いても良い。もちろん、これらは目的に応じ、共重合されていても良いし、各種を混合しポリマーブレンド・アロイとして用いることもできる。
【0027】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アセチレン末端を有する樹脂、ビニル末端を有する樹脂、アリル末端を有する樹脂、ナジック酸末端を有する樹脂、シアン酸エステル末端を有する樹脂があげられる。これらは、一般に硬化剤や硬化触媒と組合せて用いることができる。また、適宜、これらの熱硬化性樹脂を混合して用いることも可能である。
【0028】
またマトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物を用いることも好適である。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の混合物は、熱硬化性樹脂を単独で用いた場合より良好な結果を与える。これは、熱硬化性樹脂が、一般に脆い欠点を有しながらオートクレーブによる低圧成形が可能であるのに対して、熱可塑性樹脂が、一般に強靭である利点を有しながらオートクレーブによる低圧成形が困難であるという二律背反した特性を示すため、これらを混合して用いることで物性と成形性のバランスをとることができるためである。混合して用いる場合は、力学特性の観点から熱硬化性樹脂を50質量%より多く含むことが好ましい。
【0029】
粒子は、繊維シート1aへの付着性や取り扱い性の観点から、粒子径が0.1μm以上、1mm以下のものを使用することができ、粒子の取り扱い性や樹脂への付着を考慮すると、1μm以上50μm以下のものが好適に使用することができる。
【0030】
スラリーの分散媒は、アルコール類、グリコール類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素等の有機溶媒や、水が例示される。有機溶媒と水との混合物も使用することができる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等、グリコール類としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等、ハロゲン化炭化水素としては、塩化メチレン、ジクロロエタン等を例示することができる。
【0031】
本実施の形態1に係るスラリー含浸シート1の製造装置100において、第1塗布装置30Aでは、溶媒または第1のスラリーを繊維シート1aに塗布し、第2塗布装置30Bで第2のスラリーを繊維シート1aに塗布する。第1塗布装置30Aでは、繊維シート1aへの含浸が容易な、溶媒または粒子濃度が低い第1のスラリーを塗布する。まず第1塗布装置30Aにより溶媒または粒子濃度が低い第1のスラリーを繊維シート1aに塗布することにより、第2塗布装置による第1のスラリーより粒子濃度が高い第2のスラリーの、含浸装置40による繊維シート1aへの粒子の含浸が容易となる。
第1塗布装置30でスラリーを塗布する場合、第1のスラリー中の粒子の割合は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下とすることがさらに好ましい。これは第1塗布装置30Aで繊維シート1aに付与される粒子の目付を最小限に抑えることで、第2塗布装置30Bにおける粒子目付の制御性が向上するためである。
第2塗布装置30Bで塗布する第2のスラリー中の粒子の割合は、第1のスラリーより粒子の割合を高くすることが好ましい。特に、第2のスラリー中の粒子の割合を、絞り装置50を通過したスラリー含浸シート1に含まれるスラリー中の粒子の割合に可能な限り近づけることが好ましい。係る場合、第2塗布装置30Bで塗布されるスラリーの量と、最終的にスラリー含浸シート1が持ち出すスラリーの量が等しくなり、結果的に絞り装置50で絞られる溶媒またはスラリーの量と第1塗布装置30Aで塗布される溶媒またはスラリーの量が等しくなるため、スラリー槽61の貯留量が経時変化せず、管理が容易となる。絞り装置50を通過したスラリー含浸シート1に含まれるスラリー中の粒子の割合は、スラリー含浸シート1の一部を切り取り、含まれる粒子の質量と溶媒の質量を測定することで求められる。第2塗布装置30Bで塗布する第2のスラリー中の粒子の割合は、具体的には1質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上30質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
スラリー中には、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。特に、粒子の凝集を防止し、スラリーの流動性を確保するための添加剤としては、一般に界面活性剤が用いられる。具体例としては、アニオン性界面活性剤として、オレイン酸ナトリウム等に代表される脂肪酸塩、アルキルスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ジアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩、アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ノニオンセイ界面活性剤として、酸化エチレン重付加型のアルキルフェニルエーテル、アルキルエーテル、ソルビタン酸エステルエーテル、ポリオキシプロピレンエーテル、脂肪酸ジエタノールアマイド、多価アルコール脂肪酸エステル系のポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレングリコールジステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、カチオン性界面活性剤として、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライドが例示され、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、水溶性セルロースエーテル、カゼイン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド等の保護コロイドとして作用する各種天然あるいは合成高分子等を分散剤として単独であるいは混合して使用する事もできる。
【0033】
また、スラリー中には、金属粒子や無機粒子を添加してもよい。金属粒子としては、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、ニッケル、鉄が例示され、無機粒子としては、シリカ、セラミックスが例示さる。金属粒子や無機粒子の平均粒径は5~50μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは7~40μmの範囲、さらに好ましくは10~30μmの範囲である。
【0034】
<巻出し装置>
巻出し装置10は、繊維シート1aを巻き出す。巻き出し装置10に代えて、繊維束を巻き出す複数のクリールと、巻き出された複数の繊維束を一方向に配列させて繊維シート1aを得る配列装置を使用してもよい。
【0035】
<搬送装置>
搬送装置20は、繊維シート1を搬送する。搬送装置20は、搬送ローラ21および搬送ローラ22を有する。搬送ローラ21および搬送ローラ22は、それぞれ第1塗布装置30Aおよび第2塗布装置30Bに対して対向するように配置される。搬送ローラ21および搬送ローラ22は、公知のローラを使用することができる。
【0036】
<塗布装置>
塗布装置30は、第1塗布装置30Aおよび第2塗布装置30Bからなる。第1塗布装置30Aは、繊維シート1aに溶媒または第1のスラリーを塗布し、第2塗布装置30Bは、繊維シート1aに第2のスラリーを計量塗布する。第2塗布装置30Bは、繊維シート1aにスラリーを計量塗布できるものが好ましく使用され、ダイコーター、ロールコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、バーコーター等を使用することができる。第1塗布装置30Aとしては、第2塗布装置30Bとして使用するもののほか、ディップコーター、ディップニップコーター等を使用することもできる。図1の製造装置100では、第1塗布装置30Aおよび第2塗布装置30Bとしてダイコーターを使用している。第2塗布装置30Bは、ダイ31と、図示しない定量ポンプと、スラリータンクと、を有する。第1塗布装置30Aは、ダイ31と、定量ポンプとしての第1ポンプ62と、スラリータンクとしてのスラリー槽61と、を有する。第1塗布装置30Aおよび第2塗布装置30Bは、定量ポンプにより繊維シート1aへの溶剤量および/またはスラリーの塗布量を制御できるため、繊維シート1aの長手方向(搬送方向)に均一な量の粒子を塗布できる。
【0037】
使用する定量ポンプとしては、例えば、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ、スクリューポンプ、スネークポンプ等を例示することができる。
【0038】
ダイ31は、スラリーを供給するスラリー供給流路(図示しない)と、スラリー供給流路に連通し、スラリーを繊維シート1aの幅方向(搬送方向と直交する方向)に拡幅するマニホールド32と、マニホールド32に連通し、供給されたスラリーを幅方向に均一に吐出するスリット33と、を有する。塗布装置30は、スラリーをダイ31のスリット33から繊維シート1aの幅方向に均一に塗布することができる。図1では、ダイ31は繊維シート1aに近接させてスラリーを直接塗布しているが、ローラやスロープなどを介して間接的に塗布してもよい。
【0039】
第1塗布装置30Aおよび第2塗布装置30Bでは、スリット33を通過する溶剤および/またはスラリーの流れ方向が鉛直下向き方向となるようにダイ31が配置されているが、スリット33を通過するスラリーの流れ方向が、鉛直方向との角度が45°以下の下向き方向となるように、ダイ31を設置すればよい。スラリーの流れ方向を鉛直下向き方向とすることにより、マニホールド32からスリット33にスラリーを供給する際、スラリー中の粒子が沈降したとしても、粒子が速やかにスリット33から排出される。その結果、沈降した粒子がマニホールド32内に滞留することが抑制でき、スリット33を閉塞することなく、長時間にわたって安定してスラリーを供給することができる。
【0040】
また、スリット33の間隔は、粒子の平均粒子径の2倍以上とすることが好ましい。これにより、スリット33への粒子の詰まりを防止して、繊維シート1aへの塗布量を制御可能となる。
【0041】
<含浸装置>
含侵装置40は、ローラ41、ローラ42、ローラ43、ローラ44およびローラ45からなる。ローラ41、ローラ42、ローラ43、ローラ44およびローラ45は、スラリーが塗布された繊維シート1aがS字型に走行するように配置されている。スラリーが塗布された繊維シート1aがローラ41、ローラ42、ローラ43、ローラ44およびローラ45の間を搬送することで、スラリー中の粒子が繊維シート1aに含浸する。本実施の形態1では、ローラ41、ローラ42、ローラ43、ローラ44、ローラ45はS字型の配置であるが、スラリーの含浸が可能であれば、U字型やV字型となるようにシートとローラの接触長を調整してもよい。ローラ41、ローラ42、ローラ43、ローラ44、ローラ45は、フリーロールまたはフィードロールとして回転させてもよいし、固定のバーとしてもよい。あるいは、含浸装置を1以上のニップロールで構成し、繊維シート1aにさらに圧力を加えて含浸を行ってもよい。また、スラリーの含浸圧を高め含浸度をさらに向上させる場合には、対向するコンタクトロールを付加してもよい。さらに、国際公開2015/076981号の図4に記載のように、S字型に配置したローラに対向してコンベヤーベルトを配置することで含浸効率を向上させてもよい。さらにまた、特開2017-154330号公報に記載の超音波発生装置を備えたしごき刃の間を、スラリーを塗布した複数の繊維シート1aを通すことにより繊維シート1aへの粒子の含浸を行ってもよい。
【0042】
<絞り装置>
絞り装置50は、繊維シート1aに外力を与えて余分な溶媒またはスラリーを絞る。絞り装置50は、ニップロール51およびニップロール52を有する。絞り装置50としては、ニップロール以外にS字ロールやS字バー等を使用することもできる。ニップロール51およびニップロール52のロール間隔または接触圧力を変えることで、繊維シート1aに塗布するスラリー量、すなわち絞り取るスラリー量を調節することができる。なお、含浸装置40としてニップロールを使用する場合、ニップロールの設置個数を増やすことで、繊維シート1aへのスラリーの含浸と余分な溶媒またはスラリーの絞りとを同時に行うこともできる。このとき、絞られた溶媒またはスラリーは含浸装置40の最下段のニップロールから繊維シート1aの外部に垂れ落ちるため、これをスラリー槽61で受けるようにすればよい。絞り装置50で余分な溶媒またはスラリーを絞ることで、後工程での繊維シート1aからのスラリーの垂れ落ちを防止し、粒子目付の制御性を維持することが可能となるほか、後工程で溶媒を乾燥する場合に乾燥負荷を低減することが可能となる。
【0043】
<含浸装置および絞り装置の配置>
含浸装置40および絞り装置50は、含浸装置40から絞り装置50までのシートの搬送経路のうち、含浸装置40の入口Aのシート幅方向中央と出口Bのシート幅方向の中央とを結ぶ仮想直線ABと水平方向のなす角度、および含浸装置40の出口Bのシート幅方向中央と、絞り装置50の入口Cのシート幅方向中央とを結ぶ仮想直線BCと水平方向のなす角度が、30゜以上90゜以下となるように配置されることが好ましい。ここで含浸装置40の入口Aとは粒子の含浸のために繊維シート1aに最初に外力が与えられる位置を指し、含浸装置40の出口Bとは粒子の含浸のために繊維シート1aに最後に外力が与えられる位置を指す。また絞り装置50の入口Cとは、繊維シート1aから溶媒またはスラリーを絞るために繊維シート1aに絞り装置50と繊維シート1aが最初に接触する位置を指す。含浸装置40内での繊維シート1aと水平方向のなす角度、すなわち含浸装置40の入口Aのシート幅方向中央と出口Bのシート幅方向の中央とを結ぶ仮想直線ABと水平方向のなす角度、および含浸装置40の出口Bのシート幅方向中央と絞り装置50入口Cのシート幅方向中央とを結ぶ仮想直線BCと水平方向のなす角度が、ともに30゜以上90゜以下となるように含浸装置40および絞り装置50を配置することにより、繊維シート1aの表面に染み出したスラリーは重力の作用によって垂れ落ちることなく、繊維シート1a表面上に留まり、絞り装置50以外でのスラリーの垂れ落ちを防止できる。さらにスラリーが繊維シート1aに留まったまま絞り装置50に入ることにより、垂れ落ちたスラリーの全量をスラリー槽61で回収することが可能となる。
【0044】
図1に示すスラリー含浸シート1の製造装置100では、含浸装置40の入口Aのシート幅方向中央と出口Bのシート幅方向の中央とを結ぶ仮想直線ABと水平方向のなす角度、および含浸装置40の出口Bのシート幅方向中央と、絞り装置50の入口Cのシート幅方向中央とを結ぶ仮想直線BCと水平方向のなす角度が、ともに略90°になるように含浸装置40および絞り装置50が配置されているが、30゜以上90゜以下であれば、絞り装置50以外でのスラリー含浸シート1からのスラリーのたれ落ちを防止することができる。
【0045】
<還流装置>
還流装置60は、絞り装置50でシートから絞られた溶媒またはスラリーを、第1塗布装置30Aに還流する。還流装置60は、絞り装置50で絞られた溶媒またはスラリーを貯留するスラリー槽61と、スラリー槽61から第1塗布装置30Aに溶媒またはスラリーを送液する第1ポンプ62と、送液する溶媒またはスラリーの濃度を測定する濃度計63を有する。
【0046】
スラリー槽61は、スラリー槽61に貯留する溶媒またはスラリーの液面を計測する液面計64を有する。製造装置100は、図示しない第1制御装置を備え、第1制御装置は
、液面計64の信号をもとに第1ポンプ62の流量、すなわち第1塗布装置30Aでの溶媒または第1のスラリーの塗布量を制御する構成とすることもできる。具体的には、スラリー槽61の液面高さが一定になるように、第1ポンプ62の流量すなわち第1のスラリーの塗布量を制御すると、スラリー槽61の溶媒またはスラリーが枯渇したり、あふれたりすることを防止できる。または、第1のスラリー塗布量に応じてスラリー槽61の溶媒またはスラリーが不足(または超過)する場合は、液面計64の信号をもとにスラリー槽61に溶媒またはスラリーを補充(除去)してもよい。
【0047】
第1ポンプ62は、流量計を有する。製造装置100は、図示しない第2制御装置を備え、第2制御装置は、濃度計63と流量計の信号をもとに第2塗布装置30Bでの第2のスラリーの塗布量を制御する構成とすることもできる。具体的には、液面計64の信号をもとに第1制御装置で制御された溶媒またはスラリーの流量と、濃度計63の信号をもとに、第1塗布装置30Aで繊維シート1aに塗布される粒子の目付を計算し、目標の粒子目付になるように第2制御装置によって第2のスラリーの塗布量を制御することができる。もし絞り装置50で絞られるスラリーの量や粒子濃度が経時的に変化したとしても、液面計64および濃度計63、第1ポンプ62の流量計によって経時変化を測定できるため、第2制御装置によって繊維シート1aへの粒子の塗布量を制御することができる。このように第1制御装置および第2制御装置により、第1塗布装置30Aおよび第2塗布装置30Bでの第1のスラリーおよび第2のスラリーの塗布量を制御することにより、繊維シート1aへの単位面積当たりのスラリー塗布量の精度をさらに向上することができる。
【0048】
また、製造装置100は、還流装置60により、絞り装置50で絞られた溶媒またはスラリーを第1塗布装置30Aで再利用するため、溶媒またはスラリーの使用量および廃棄量を低減することが可能となる。
【0049】
<その他の機構>
本実施の形態に係るスラリー含浸シート1の製造装置100は、絞り装置50の後に、乾燥装置や溶融装置を備えていてもよい。
【0050】
乾燥装置と溶融装置は、空気加熱、赤外線加熱、遠赤外線加熱、レーザ―加熱、接触加熱、熱媒加熱(スチームなど)等、多様な手段を用いることができる。溶融温度は乾燥温度よりも高いことが好ましい。本実施の形態1では、絞り装置50で余分な溶剤を除去するため、乾燥負荷を低減することができる。
【0051】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2に係るスラリー含浸シート1の製造装置200の概略図である。本発明のスラリー含浸シート1の製造装置200は、繊維シート1aを巻き出す巻出し装置10と、繊維シート1aおよびスラリー含浸シート1を搬送する搬送装置20と、繊維シート1aに溶媒または第1のスラリーを塗布する第1塗布装置30A’と、第1塗布装置30A’よりもシートの搬送方向下流側にあり、繊維シート1aに第2のスラリーを計量塗布する第2塗布装置30Bと、第2塗布装置30Bよりもシートの搬送方向下流側にあり、繊維シート1aに外力を与えて粒子を繊維シート1aの内部に含浸する含浸装置40と、含浸装置40よりも繊維シート1aの搬送方向下流側にあり、繊維シート1aに外力を与えて余分な溶媒またはスラリーを絞る絞り装置50と、絞り装置50でシートから絞られた溶媒またはスラリーを、第1塗布装置30Aに還流する還流装置60’と、スラリー含浸シート1を巻き取る巻取り装置70と、を有する。以下の説明において、実施の形態1と同様の構成については、同一の番号を付し、説明を省略する。また、使用するスラリーも同様のものを使用するため、説明を省略する。
【0052】
<第1塗布装置30A’>
第1塗布装置30A’は、ディップニップコーターであり、ローラ34、ローラ35と、ニップローラ36と、ニップローラ37と、スラリー槽61とからなる。ローラ34およびローラ35は、繊維シート1aをスラリー槽61に浸漬する機構を構成する。絞り装置50で絞られた溶媒またはスラリーは、スラリー槽61に貯留された後、スラリー槽61に浸漬されたローラ34、ローラ35で繊維シート1aに塗布されるため、スラリー槽61は第1塗布装置30Aと還流装置60’を兼ねている。図2ではスラリー槽61に浸漬されているローラが2本の例を示したが、1本あるいは3本以上としても良い。またローラ34、ローラ35は従動ローラでも駆動ローラでもよいし、繊維シート1aとローラの擦過が問題にならない場合は、回転しないバーを用いてもよい。ニップローラ36およびニップローラ37は、繊維シート1aを挟んで対向して配置され、ニップローラ36およびニップローラ37のローラ間の距離または接触圧力を調整することにより、繊維シート1aに付着した溶媒またはスラリーの量を調整する。あるいは、第1塗布装置30A’での繊維シート1aへの溶媒またはスラリーの塗布量を調整する必要がない場合は、ニップローラ36およびニップローラ37は省略しても良い。第1塗布装置30A’のような構成では、塗布装置としてダイやポンプを用いずに溶媒または低濃度のスラリーを繊維シート1aに塗布、含浸させることができるため、図1の第1塗布装置30Aよりも簡単な装置構成とすることができる。
【0053】
第2塗布装置30Bでは、繊維シート1aに含まれる粒子の目付が目標とする値になるよう、繊維シート1aに高濃度のスラリーを塗布する。第1塗布装置30A’で繊維シート1aに低濃度のスラリーが塗布される場合には、目標の粒子目付に対して不足する粒子を補うように、第2塗布装置30Bの塗布量を制御すればよい。このとき、絞り装置50と巻き取り装置70の間に、粒子の目付を測定する目付計(不図示)を設けてもよい。
【0054】
第2塗布装置30Bの塗布量でスラリー含浸シート1に含まれる粒子の目付を高精度に制御したい場合は、第1塗布装置30A’で繊維シート1aに塗布される粒子の目付を可能な限り小さくすることが好ましい。具体的には、ローラ34およびローラ35を、スラリー槽61の液面付近に配置することで、スラリー槽61内の上澄み、すなわち粒子を含まない溶媒を選択的に繊維シート1aに塗布することができる。このときスラリー槽61は、底面に沈降した粒子を排出する排出機構を有することが好ましい。また、スラリー槽61内は撹拌を行わず、粒子のスラリー槽61内への沈降を促進させることが好ましい。スラリー槽61内に沈降した粒子を排出機構により定期的に排出し、スラリー槽61内の粒子濃度を低減することで、第1塗布装置30A’で繊維シート1aに塗布される粒子の目付を極小化し、第2塗布装置30Bの塗布量のみでスラリー含浸シート1に含まれる粒子の目付を制御することが可能となる。これにより、繊維シート1aへの粒子塗布量の制御がさらに向上する。
【0055】
以上、本発明に係るスラリー含浸シートの製造装置によれば、繊維シートに樹脂等の粒子が均一に含浸したスラリー含浸シートを、生産性よく製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、航空・宇宙用途や自動車・列車・船舶などの構造材や内装材、圧力容器、産業資材用と、スポーツ材料用と、医療機器用と、土木・建築用途などに使用されるFRPの製造に有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 スラリー含浸シート
1a 繊維シート
10 巻出し装置
20 搬送装置
21、22 搬送ローラ
30 塗布装置
30A、30A’ 第1塗布装置
30B 第2塗布装置
31 ダイ
32 マニホールド
33 スリット
34、35 ローラ
36、37 ニップローラ
40 含浸装置
41、42、43、44、45 ローラ
50 絞り装置
51、52 ニップローラ
60、60’ 還流装置
61 スラリー槽
62 第1ポンプ
63 濃度径
64 液面計
100、200 製造装置
図1
図2