(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004111
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】病原体不活化装置、病原体不活化方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/14 20060101AFI20240109BHJP
A61L 9/22 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
A61L2/14
A61L9/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103591
(22)【出願日】2022-06-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「中気圧プラズマによるラジカルフラックス向上を利用した布付着菌及びウイルスの高速不活化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】中川 雄介
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
4C058AA03
4C058AA05
4C058AA06
4C058AA12
4C058AA21
4C058BB02
4C058DD06
4C058DD07
4C058KK06
4C058KK23
4C180AA07
4C180AA10
4C180DD17
4C180EA16X
4C180EA54X
4C180HH02
4C180HH03
4C180LL11
(57)【要約】
【課題】ラジカルの無効消費を抑制することができ、処理のエネルギー効率に優れる病原体不活化装置、および病原体不活化方法を提供する。
【解決手段】プラズマ発生室10と、プラズマ発生室10内にて間隔を隔てて対向して配置される高圧電極20および接地電極30と、プラズマ発生室10内に流入するプラズマ原料ガスの流量を調整する流量調整器40と、プラズマ発生室10内の圧力を所定の圧力に調整する減圧ポンプ50および圧力調整器60と、高圧電極20と接地電極30の間に放電プラズマPを発生させる高圧電源70と、を備える、病原体不活化装置1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ発生室と、
前記プラズマ発生室内にて間隔を隔てて対向して配置される一対以上の電極と、
前記プラズマ発生室内に流入するプラズマ原料ガスの流量を調整する流量調整器と、
前記プラズマ発生室内の圧力を所定の圧力に調整する減圧ポンプおよび圧力調整器と、
対をなす前記電極の間に放電プラズマを発生させる高圧電源と、を備える、病原体不活化装置。
【請求項2】
前記プラズマ発生室内の一方の電極として病原体付着物を用い、他方の電極と前記病原体付着物との間に放電プラズマを発生させる機構を備える、請求項1に記載の病原体不活化装置。
【請求項3】
前記プラズマ発生室の壁面の一部を病原体付着物とし、前記壁面に放電プラズマを接触させる機構を備える、請求項1に記載の病原体不活化装置。
【請求項4】
病原体付着物へのラジカル作用量を極大化する条件を記憶する記憶装置と、前記プラズマ発生室内の圧力を計測する圧力計と、を備え、
前記記憶装置から出力される最適圧力条件を目標として、前記プラズマ発生室内の圧力を調整する機構を備える、請求項1に記載の病原体不活化装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の病原体不活化装置を用いた病原体不活化方法であって、
前記プラズマ発生室内に対象物を収容し、前記プラズマ発生室内の圧力を0.1気圧~0.9気圧に調整し、対をなす前記電極の間に放電プラズマを発生させ、前記プラズマ発生室内にプラズマを発生させて、酸化系ラジカルを生成し、前記対象物に付着している病原体を不活化する、病原体不活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原体不活化装置、および病原体不活化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉空間内の気相反応で菌やウイルス(以下、菌やウイルスを総称して「病原体」と言う。)を不活化する装置として、紫外光(UV)やオゾンを用いた処理装置が実用化されている。しかし、これらの装置では、不活化に要する時間が長く、処理の回転率を向上することが難しい。
【0003】
電離気体の集団であるプラズマは、核融合源の他に、半導体製造や環境浄化等の様々な分野へ適用する研究が進められてきた。特に近年では、熱エネルギーは小さいが、化学反応性の高い大気圧プラズマが着目されている。大気圧プラズマは、殺菌・滅菌や医療、材料表面改質等、従来の低圧プラズマでは適用不可能であった幅広い分野への展開が期待されている。大気圧プラズマは、対象に熱的ダメージを与えずに化学処理を施す技術として、殺菌等への応用が研究されている。特に水処理や除菌・滅菌等の分野では、実用装置の運転条件に制約があるため、簡便な装置で幅広い対象を処理できる大気圧プラズマは大きな利点を有する。プラズマを用いた殺菌装置としては、例えば、特許文献1~3に記載されているものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/190436号
【特許文献2】特開2008-188032号公報
【特許文献3】特開2006-239230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大気圧プラズマで生成される化学活性種(ラジカル)を用いると、より高速で病原体の不活化を実現できる可能性がある。しかしながら、大気圧プラズマは、高密度のラジカルを生成可能な一方で、ラジカルが大気中粒子との衝突で容易に失活する。そのため、大気圧プラズマ中のラジカルは、寿命が短いばかりでなく、無効消費(不活化のために用いられないこと)が多く、処理のエネルギー効率が悪いという課題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ラジカルの無効消費を抑制することができ、処理のエネルギー効率に優れる病原体不活化装置、および病原体不活化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]プラズマ発生室と、
前記プラズマ発生室内にて間隔を隔てて対向して配置される一対以上の電極と、
前記プラズマ発生室内に流入するプラズマ原料ガスの流量を調整する流量調整器と、
前記プラズマ発生室内の圧力を所定の圧力に調整する減圧ポンプおよび圧力調整器と、
対をなす前記電極の間に放電プラズマを発生させる高圧電源と、を備える、病原体不活化装置。
[2]前記プラズマ発生室内の一方の電極として病原体付着物を用い、他方の電極と前記病原体付着物との間に放電プラズマを発生させる機構を備える、[1]に記載の病原体不活化装置。
[3]前記プラズマ発生室の壁面の一部を病原体付着物とし、前記壁面に放電プラズマを接触させる機構を備える、[1]または[2]に記載の病原体不活化装置。
[4]病原体付着物へのラジカル作用量を極大化する条件を記憶する記憶装置と、前記プラズマ発生室内の圧力を計測する圧力計と、を備え、
前記記憶装置から出力される最適圧力条件を目標として、前記プラズマ発生室内の圧力を調整する機構を備える、[1]~[3]のいずれかに記載の病原体不活化装置。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の病原体不活化装置を用いた病原体不活化方法であって、
前記プラズマ発生室内に対象物を収容し、前記プラズマ発生室内の圧力を0.1気圧~0.9気圧に調整し、対をなす前記電極の間に放電プラズマを発生させ、前記プラズマ発生室内にプラズマを発生させて、酸化系ラジカルを生成し、前記対象物に付着している病原体を不活化する、病原体不活化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラジカルの無効消費を抑制することができ、処理のエネルギー効率に優れる病原体不活化装置、および病原体不活化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る病原体不活化装置を示す模式図である。
【
図2】実施例1において、ステンレス製の針の近傍にて、プラズマ発生室内の圧力が20kPa、30kPa、50kPa、70kPaまたは95kPaの場合のそれぞれにおいて、酸素原子の密度と放電後の時間との関係を示す図である。
【
図3】実施例1において、ホウケイ酸ガラス半球の近傍にて、プラズマ発生室内の圧力が20kPa、30kPa、50kPa、70kPaまたは95kPaの場合のそれぞれにおいて、酸素原子の密度と放電後の時間との関係を示す図である。
【
図4】実施例1において、プラズマ発生室内の圧力とステンレス製の針の近傍における酸素原子の密度の関係、およびプラズマ発生室内の圧力とホウケイ酸ガラス半球の近傍における酸素原子の密度の関係を示す図である。
【
図5】実施例1において、プラズマ発生室内の圧力とステンレス製の針の近傍における酸素原子フラックスの量の関係、およびプラズマ発生室内の圧力とホウケイ酸ガラス半球の近傍における酸素原子フラックスの量の関係を示す図である。
【
図6】実施例1、大気圧プラズマ処理、およびオゾン処理による大腸菌の殺菌率を測定した結果を示す図である。
【
図7】実施例2で用いた病原体不活化装置を示す模式図である。
【
図8】実施例3で用いた病原体不活化装置を示す模式図である。
【
図9】実施例3における病原体不活化処理のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る病原体不活化装置、および病原体不活化方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0011】
[病原体不活化装置]を示す模式図である。
図1は、本実施形態の病原体不活化装置を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の病原体不活化装置1は、プラズマ発生室10と、高圧電極20と、接地電極30と、流量調整器40と、減圧ポンプ50と、圧力調整器60と、高圧電源70とを備える。
【0012】
プラズマ発生室10は、0.1気圧~0.9気圧の準大気圧でプラズマを発生するための空間を有するものである。
プラズマ発生室10内には、プラズマによって不活化される対象である病原体付着物αを収容する。
プラズマ発生室10には、プラズマ発生室10内にプラズマ原料ガスを流入するための管状のガス流入路11が設けられている。ガス流入路11のプラズマ発生室10とは反対側の端は、流量調整器40を介して、純酸素ガス等のプラズマ原料ガス源80が接続されている。プラズマ原料ガス源80としては、例えば、ガスボンベ、PSA(Pressure Swing Adsorption)式ガス発生器、または大気が挙げられる。また、プラズマ発生室10には、プラズマ発生室10内のガスを吸引(排出)するための管状のガス排出路12が設けられている。
【0013】
高圧電極20と接地電極30は、プラズマ発生室10内に配置される。
高圧電極20としては、例えば、金属製の針、球、平板等が挙げられる。
接地電極30としては、例えば、ステンレス球等の金属が挙げられる。前記金属に誘電体(例えば、ホウケイ酸製のガラス)を被せたものを接地電極としてもよい。
高圧電極20と接地電極30は、対向するように配置される。高圧電極20と接地電極30の間隔は、特に限定されないが、例えば、0.5mm~2.0mmである。
【0014】
流量調整器40は、ガス流入路11の途中に設けられている。流量調整器40は、例えば、マスフローコントローラーやフロート式流量調整器が挙げられる。流量調整器40は、プラズマ原料ガス源80からのプラズマ原料ガス(例えば、純酸素ガス)の流量を調整して、プラズマ発生室10内にプラズマ原料ガスを流入させる。
【0015】
減圧ポンプ50は、ガス排出路12の途中に設けられている。減圧ポンプ50としては、例えば、ダイアフラムポンプが挙げられる。
また、ガス排出路12の途中で、プラズマ発生室10と減圧ポンプ50の間には、圧力調整器60が設けられている。
減圧ポンプ50と圧力調整器60(例えば、ニードルバルブ)により、プラズマ発生室10内の圧力を調整する。
【0016】
高圧電源70は、高圧電極20と接地電極30に接続されている。高圧電源70は、例えば、高電圧パルス発生器、高電圧波形増幅器等が挙げられる。
【0017】
本実施形態の病原体不活化装置1の動作について説明する。
プラズマ発生室10内に、流量調整器40を用いて所定の流量に調整したプラズマ原料ガスを流入する。
減圧ポンプ50と圧力調整器60により、プラズマ発生室10内の圧力を、0.1気圧~0.9気圧に調整する。プラズマ発生室10内の圧力は、0.4気圧~0.6気圧であることが好ましい。プラズマ発生室10内の圧力が0.1気圧未満では、生成されるラジカルの量が大気圧に比べて著しく減少する。プラズマ発生室10内の圧力が0.9気圧を超えると、ラジカルの寿命が大気圧と同程度になる。よって、前記0.1気圧~0.9気圧の範囲外では、病原体付着物に作用するラジカルの総量が減少し、病原体不活化の効果が低減する。
高圧電源70で発生した高電圧を、高圧電極20に印加する。これにより、高圧電極20と接地電極30の間に、放電プラズマPを発生させる。その結果、プラズマ発生室10内にプラズマを発生させて、酸化系ラジカルを生成し、対象物に付着している病原体を不活化する。
【0018】
本実施形態の病原体不活化装置1によれば、プラズマ発生室10内にて、0.1気圧~0.9気圧の準大気圧でプラズマを発生するため、ラジカルの無効消費を抑制することができ、処理のエネルギー効率に優れる。従って、病原体の不活化処理の回転率を向上することができる。
また、プラズマ発生室10を1つの部屋と見做せば、その部屋全体に存在する病原体を不活化することができる。
【0019】
[病原体不活化方法]
本実施形態の病原体不活化方法は、本実施形態の病原体不活化装置を用いた病原体不活化方法であって、プラズマ発生室内に対象物を収容し、プラズマ発生室内の圧力を0.1気圧~0.9気圧に調整し、高圧電極と接地電極の間に放電プラズマを発生させ、プラズマ発生室内にプラズマを発生させて、酸化系ラジカルを生成し、対象物に付着している病原体を不活化する方法である。
【0020】
本実施形態の病原体不活化方法では、例えば、上述の病原体不活化装置1を用いる。
病原体不活化の対象物としては、特に限定されず、例えば、衣類、寝具、医療器具、食器、食品等が挙げられる。
【0021】
本実施形態の病原体不活化方法では、まず、プラズマ発生室10内に対象物を収容する。
この状態で、減圧ポンプ50と圧力調整器60により、プラズマ発生室10内の圧力を0.1気圧~0.9気圧に調整する。プラズマ発生室10内の圧力は、0.4気圧~0.6気圧であることが好ましい。プラズマ発生室10内の圧力が0.1気圧未満では、生成されるラジカルの量が大気圧に比べて著しく減少する。プラズマ発生室10内の圧力が0.9気圧を超えると、ラジカルの寿命が大気圧と同程度になる。
なお、1気圧は、1013.25hPa(101.325kPa)である。言い換えれば、プラズマ発生室10内の圧力は、101.325hPa(10.1325kPa)~911.925hPa(91.1925kPa)であり、405.3hPa(40.53kPa)~607.95hPa(60.795kPa)であることが好ましい。
【0022】
なお、プラズマ発生室10内の雰囲気は、プラズマ原料ガス源80から供給されるプラズマ原料ガスから構成される。プラズマ原料ガスとしては、酸素(O2)、窒素(N2)等が挙げられる。プラズマ原料ガスは、ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)を含んでいてもよい。
【0023】
プラズマ発生室10内の圧力を0.1気圧~0.9気圧に調整した状態で、高圧電源70で発生した高電圧を、高圧電極20に印加し、高圧電極20と接地電極30の間に、放電プラズマPを発生させる。これにより、プラズマ発生室10内にプラズマを発生させて、酸化系ラジカルを生成し、対象物に付着している病原体を不活化する。
【0024】
ここで、不活化について説明する。
不活化とは、病原体を熱、紫外線、薬剤等で死滅させる(感染性を失わせる)ことを言う。病原体としては、例えば、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、病原性の菌(ボツリヌス菌や病原性大腸菌)等が挙げられる。
【0025】
大気圧プラズマおよび準大気圧プラズマで生成されるラジカルのうち、主要な酸化系ラジカルとして酸素原子およびOHラジカルが挙げられる。OHラジカルは、水分子の解離で生成される。しかしながら、プラズマ原料ガス中の水蒸気密度の上限値は数パーセントであり、準大気圧プラズマで生成されるOHラジカルの密度は、酸素原子の1/100~1/10程度である。よって、酸素原子が重要なラジカルであると言える。酸素原子は、酸素分子の解離で生じるため、プラズマ原料ガスに酸素分子を有意に含むことで、効率的に酸素原子を生成できる。
【0026】
オゾンは、酸素原子と酸素分子の反応で生成されるため、一定の投入エネルギーで生成される酸素原子とオゾンの密度はほぼ同等である(酸素原子の消費が無い場合)。よって、生成した酸素原子を無効消費なく、対象物に作用させることができれば、本実施形態の病原体不活化方法による処理に要するエネルギーをオゾン処理と同等の水準にできる。
【0027】
準大気圧プラズマにおいては、大気圧に比べて酸素原子の寿命が数倍に延長する一方、酸素原子の密度は0.3気圧~0.9気圧において大気圧とほぼ同等以上であることが実験により分かっている。このことから、準大気圧プラズマを用いた場合、大気圧プラズマ処理やオゾン発生と同等の投入エネルギーで、病原体に作用するラジカル量が数倍になり、不活化速度も大きく向上すると考えられる。よって、不活化速度で比較すると、準大気圧プラズマ>>大気圧プラズマ>>オゾン>>紫外線となり、高い回転率で病原体の不活化処理を行うことができる。
【0028】
本実施形態の病原体不活化方法によれば、プラズマ発生室10内にて、0.1気圧~0.9気圧の準大気圧でプラズマを発生するため、ラジカルの無効消費を抑制することができ、処理のエネルギー効率に優れる。従って、病原体の不活化処理の回転率を向上することができる。
【0029】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0030】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0031】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
図1に病原体不活化装置1を用いた。
プラズマ発生室10としては、幅150mm×奥行き150mm×高さ200mmの大きさのものを用いた。
プラズマ発生室10内には、高圧電極20として外径0.05mmのステンレス製の針と、接地電極30として直径15mmのステンレス球に厚さ0.5mm、半径10mmのホウケイ酸ガラス半球を被せたものを設置した。高圧電極20と接地電極30の間隔、すなわち、ステンレス製の針の先端とホウケイ酸製のガラス半球の間隔1.0mmとした。
プラズマ発生室10内には、流量調整器(マスフローコントローラー、型式名:MC-11RC、Lintec社製)40を用いて、流量2L/minに調整した純酸素ガスを流入した。
プラズマ発生室10内の圧力を、減圧ポンプ(型式名:DTC-60、アルバック機工社製)50と圧力調整器60を用いて、20kPa、30kPa、50kPa、70kPa、95kPaにそれぞれ調整した。
パルス幅が300nsの高電圧電源(型式名:MPC3010S-50SP、末松電子社製)70またはパルス幅が35nsの高電圧電源(型式名:CUS3000TT-1KESP、末松電子社製)70で発生した高電圧を、高圧電極20に印加した。
また、高圧電源70により、プラズマ発生室10内において、放電エネルギーを3mJとなるように調整した。
【0033】
ステンレス製の針の近傍(ステンレス製の針の先端からホウケイ酸ガラス半球に向かって0.2mmの位置)にて、プラズマ発生室10内の圧力が20kPa、30kPa、50kPa、70kPaまたは95kPaの場合のそれぞれにおいて、酸素原子の密度と放電後の時間との関係を調査した。結果を
図2に示す。また、ホウケイ酸ガラス半球の近傍(ステンレス製の針の先端からホウケイ酸ガラス半球に向かって0.8mmの位置)にて、プラズマ発生室10内の圧力が20kPa、30kPa、50kPa、70kPaまたは95kPaの場合のそれぞれにおいて、酸素原子の密度と放電開始からの経過時間との関係を調査した。結果を
図3に示す。
図2に示す結果から、ステンレス製の針の近傍では、プラズマ発生室10内の圧力が50kPa~95kPaの場合に、放電終了後3μsにおいて、酸素原子の密度が高くなることが分かった。また、
図3に示す結果から、ホウケイ酸ガラス半球の近傍では、プラズマ発生室10内の圧力が50kPa~70kPaの場合に終了後3μsにおいて、酸素原子の密度が高くなることが分かった。
【0034】
プラズマ発生室10内の圧力とホウケイ酸ガラス半球の近傍における酸素原子の密度の関係、およびプラズマ発生室10内の圧力とホウケイ酸ガラス半球の近傍における酸素原子の半減期の関係を
図4に示す。ホウケイ酸ガラス半球の近傍において、プラズマ発生室10内の圧力が50kPa~70kPaの場合に、酸素原子の密度が高くなることが分かった。また、プラズマ発生室10内の圧力が30kPa~95kPaでは、圧力が低くなるに伴って酸素原子の半減期が長くなることが分かった。
【0035】
プラズマ発生室10内の圧力とステンレス製の針の近傍における酸素原子フラックスの量の関係、およびプラズマ発生室10内の圧力とホウケイ酸ガラス半球の近傍における酸素原子フラックスの量の関係を
図5に示す。ステンレス製の針の近傍において、プラズマ発生室10内の圧力が高くなるに伴って酸素原子フラックスの量が少なくなることが分かった。一方、ホウケイ酸ガラス半球の近傍において、プラズマ発生室10内の圧力が20kPa~50kPaでは、プラズマ発生室10内の圧力が高くなるに伴って酸素原子フラックスの量が多くなり、プラズマ発生室10内の圧力が50kPa~95kPaでは、プラズマ発生室10内の圧力が高くなるに伴って酸素原子フラックスの量が少なくなることが分かった。なお、酸素原子フラックスの量が多いことは、酸素原子密度の時間積分値が大きいことを表し、酸素原子フラックスの量が少ないことは、酸素原子密度の時間積分値が小さいことを表す。
【0036】
図4と
図5の結果から、ステンレス製の針の近傍において、95kPaに比べて酸素原子フラックスの量が多くなるプラズマ発生室10内の圧力の範囲を、病原体不活化方法におけるプラズマ発生室10内の圧力の最適範囲とする。また、
図4と
図5の結果から、ホウケイ酸ガラス半球の近傍において、95kPaに比べて酸素原子フラックスの量が多くなるプラズマ発生室10内の圧力の範囲を、病原体不活化方法におけるプラズマ発生室10内の圧力の最適範囲とする。
【0037】
病原体不活化における、本実施例1と大気圧プラズマ処理、およびオゾン処理との比較のために、各処理による大腸菌の殺菌率を測定した。処理対象を、大腸菌を2×10
8CFU/mLの濃度に調整した懸濁液とした。本実施例1に基づく処理において、プラズマ発生室内の圧力を50kPaとし、放電エネルギーを2mJ、放電繰り返し周波数を10Hz、プラズマ原料ガスを純酸素とした。大気圧プラズマ処理において、プラズマ発生室内の圧力を101kPaとし、放電エネルギーを2mJ、放電繰り返し周波数を10Hz、プラズマ原料ガスを純酸素とした。オゾン処理において、オゾンガス濃度を3×10
16個/cm
3とした。本実施例1、大気圧プラズマ処理、およびオゾン処理における放電の消費電力は、それぞれ20mW、20mW、および200mWであった。各処理における処理時間と大腸菌生存率との関係を
図6に示す。
図6の結果から、大気圧プラズマ処理はオゾン処理のおよそ1/3の時間で大腸菌を不活化でき、本実施例1の準大気圧プラズマ処理はオゾン処理のおよそ1/5の時間で大腸菌を不活化できることが分かった。すなわち、本実施例1によれば、従来のオゾン処理の5倍の速度で病原体を不活化できる。
【0038】
[実施例2]
図7に示す病原体不活化装置100を用いた。
図7に示す病原体不活化装置100において、
図1に示す病原体不活化装置1における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
病原体不活化装置100では、壁面の一部(
図7では底面)が処理対象である病原体付着物αにより構成されている。病原体付着物αにおける、病原体が付着している部分(病原体付着部)βがプラズマ発生室10内に露出している。
本実施例2によれば、病原体付着物αが大きく、プラズマ発生室10内に病原体付着物αを収容できない場合であっても、病原体付着部βに対して準大気圧プラズマ処理を施して病原体を不活化できる。
病原体不活化装置100では、病原体付着物αを介して高圧電極20の反対側に金属電極を配置し、この金属電極を接地電極30として使用しているが、病原体付着物αが金属である場合、病原体付着物α自体を接地電極として使用してもよい。
図7では省略しているが、プラズマ発生室10と病原体付着物αとの間に、パッキン等を配置し、プラズマ発生室10と病原体付着物αとの間のガス漏洩を抑制してもよい。
【0039】
[実施例3]
図8に示す病原体不活化装置200を用いた。
図7に示す病原体不活化装置200において、
図1に示す病原体不活化装置1における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
病原体不活化装置200では、準大気圧プラズマ処理のラジカルフラックスが極大となる圧力条件を記憶する記憶装置210を備える。記憶装置210により、前記圧力条件を目標として圧力調整器60を制御する。圧力調整器60として、例えば、ニードルバルブを用いる場合、バルブの開度が一定では、目標圧力に到達するまでに長時間を要する。本実施例3によれば、バルブの開度を制御することで、目標圧力に到達するまでの時間を大きく短縮することができる。準大気圧プラズマ処理では、処理の前にプラズマ発生室10を減圧する工程(減圧工程)と、処理の後にプラズマ発生室10内の圧力を大気圧に回復する工程(大気圧回復工程)とが必要である(
図9)。本実施例3によれば、前記減圧工程および前記大気圧回復工程の所要時間を短縮し、処理1回あたりの所要時間を低減することで、処理の回転率を向上させることができる。