(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041115
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】連結函体せん断補強構造、及び連結函体構築方法
(51)【国際特許分類】
E21D 13/02 20060101AFI20240319BHJP
E21D 9/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
E21D13/02
E21D9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145760
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】509200613
【氏名又は名称】株式会社横河NSエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】粥川 幸司
(72)【発明者】
【氏名】野口 真未
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐磨
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄一
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊孝
(72)【発明者】
【氏名】松村 卓
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 正佳
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155AA10
2D155BB03
2D155BB04
2D155GC04
(57)【要約】
【課題】 本願発明の課題は、隣接する函体間が狭隘であっても、その接続部に生ずるせん断に対して有効に補強することができる技術を提供することである。
【解決手段】本願発明の連結函体せん断補強構造は、地中に構築され2以上の個別函体が横断方向に連結された連結函体のうち、隣接する別函体間に生ずるせん断力に対して補強する構造であって、隣接する個別函体に取り付けられる連結するせん断補強材を備えたものである。なお個別函体は、断面視した中央に開口部が設けられるとともに、開口部の周囲に配置される主桁を有している。またせん断補強材は、隣接する一方の個別函体の主桁に取り付けられるとともに、隣接する他方の個別函体の主桁にも取り付けられる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に構築された2以上の個別函体が連結された連結函体のうち、隣接する該個別函体間に生ずるせん断力に対して補強する構造であって、
隣接する前記個別函体に取り付けられるせん断補強材を、備え、
前記個別函体は、断面視した中央に開口部が設けられるとともに、該開口部の周囲に配置される主桁を有し、
隣接する前記個別函体のうち対向する前記側部主桁に、それぞれ前記せん断補強材が取り付けられた、
ことを特徴とする連結函体せん断補強構造。
【請求項2】
前記せん断補強材は、形鋼からなる細幅部材であって、相互に交差して配置される1組の第1せん断補強材及び第2せん断補強材によって形成され、
前記第1せん断補強材は、前記主桁に対して傾斜して配置されたたうえで、該主桁のうちトンネル軸方向における前方側に取り付けられ、
前記第2せん断補強材は、前記主桁に対して傾斜して配置されたたうえで、該主桁のうちトンネル軸方向における後方側に取り付けられ、
同一の前記主桁に、1又は2組以上の前記せん断補強材が取り付けられた、
ことを特徴とする請求項1記載の連結函体せん断補強構造。
【請求項3】
前記せん断補強材は、鋼板であり、
同一の前記主桁に、1又は2以上の前記せん断補強材が取り付けられた、
ことを特徴とする請求項1記載の連結函体せん断補強構造。
【請求項4】
前記主桁は、前記個別函体のうちトンネル軸方向における中間に配置される中央主桁と、を含み、
前記せん断補強材が、前記中央主桁に取り付けられた、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の連結函体せん断補強構造。
【請求項5】
前記主桁は、前記個別函体のうちトンネル軸方向における前方と後方に配置される側部主桁を含み、
トンネル軸方向に隣接する前記個別函体のうち、前後に対向する前記側部主桁どうしを連結する縦断連結ボルトを、さらに備え、
前記せん断補強材が、前記側部主桁に取り付けられ、
前記縦断連結ボルトは、前方側の前記せん断補強及び前記側部主桁、並びに後方側の前記せん断補強及び前記側部主桁を、縫い付けて連結する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の連結函体せん断補強構造。
【請求項6】
2以上の個別函体が連結された連結函体を、地中に構築する方法であって、
前記個別函体は、断面視した中央に開口部が設けられるとともに、該開口部の周囲に配置される主桁を有し、
地盤を掘削しながら、先行の前記個別函体を設置していく先行個別函体設置工程と、
地盤を掘削しながら、先行の前記個別函体に併設されるように、後続の前記個別函体を設置していく後続個別函体設置工程と、
隣接する先行の前記個別函体と後続の前記個別函体に、せん断補強材を取り付けるせん断補強工程と、を備え、
前記せん断補強工程では、隣接する先行の前記個別函体と後続の前記個別函体のうち対向する前記側部主桁に、それぞれ前記せん断補強材を取り付けることによって、隣接する該個別函体間に生ずるせん断力に対して補強する、
ことを特徴とする連結函体構築方法。
【請求項7】
異なる寸法で形成された2種類以上の前記せん断補強材を用意し、
隣接する先行の前記個別函体の位置と後続の前記個別函体の位置との離隔を計測する測量工程を、さらに備え、
前記せん断補強工程では、前記測量工程によって得られた前記離隔に応じて、2種類以上の前記せん断補強材の中から1の該せん断補強材を選択するとともに、選択された該せん断補強材を前記主桁に取り付ける、
ことを特徴とする請求項6記載の連結函体構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、複数の函体からなる覆工体によって地下空間を形成する技術に関するものであり、より具体的には、連結された函体間に生ずるせん断力に対する補強を行う連結函体せん断補強構造と、その構造を用いて連結函体を構築する連結函体構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市部における道路トンネルや地下鉄道トンネル、電力線等をまとめて収容する共同溝などは、通常、道路の地下に設置される。この道路トンネルなどは、あらかじ地中発進部や地中到達部を設置したうえで推進工法やシールド工法により掘進したトンネルを利用して構築するのが一般的である。そして道路トンネルなどは、1本のトンネルを掘進することで、換言すれば地中に1本の貫通孔を設けることで構築されることが多い。
【0003】
これに対して大径の道路トンネル(特に分岐合流部)や地下街、地下鉄の駅部などは、歩行者用の通路のほか店舗やホームといった様々な施設を配置するための相当の地下空間が必要とされ、したがって大規模な内空断面を有するトンネルの構築が求められる。しかしながら、推進工法やシールド工法によって掘削できる断面積には限界があり、1本のトンネル掘進のみでは地下街のような大規模空間を確保することは難しい。
【0004】
そこで、このように大規模な空間を地下に形成する場合、
図13に示すようなトンネル構造が採用されることがある。この図に示すトンネル構造では複数(図では19)の函体PBからなる覆工体LNが形成されており、この覆工体LNが地山からの荷重を支持することによって安定した地下空間USを確保している。以下、
図13に示すような覆工体LNを形成する手順について説明する。
【0005】
まず
図14(a)に示すように、推進工法やシールド工法によって掘進しながら、トンネル軸方向に並ぶように複数の函体PBを設置することで第1のトンネルを構築する。なお、函体PBは四角形(特に、長方形)とされることが多いことから、四角形断面の掘削が可能な掘削マシンを利用して掘進するとよい。第1のトンネルが構築されると、これに隣接する位置に第1のトンネルと同様の要領で第2のトンネルを構築する。このとき第2のトンネルの函体PBは、第1トンネルの函体PBに連結しながら(あるいは、後でまとめて連結して)設置される。そして、所定の数(
図13の場合は19)だけこのトンネル構築を繰り返すことによって、複数(
図13では19)の函体PBからなるいわばリング状の覆工体LNを形成する。さらに、
図14(b)に示すように函体PBの内側には空間SPが形成されているため、この空間SPに主筋と配力筋を設置したうえでコンクリートを打込む。以上の工程を経ることで、鉄筋コンクリート造の覆工体LNが形成され、安定した地下空間USが確保されるわけである。
【0006】
上記したとおり覆工体LNを形成するにあたっては、隣接するトンネルの函体PBどうしを連結する必要があるが、地盤内のしかも狭隘な空間での作業が強いられることから、その連結に係る作業は相当に手間がかかる煩雑なものであった。そのため、これまでもこの連結作業に関する種々の改良技術が提案されており、例えば特許文献1では、先行函体の溝部2に後続函体の突条部3を挿入させた状態でこの後続函体を設置していく技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、完成した覆工体LNには地山からの荷重(特に、鉛直荷重)が作用し、函体PBどうしが連結された接続部にはせん断力が生じる。そして、函体PBが構築された環境(土被り圧や地下水圧等)によっては、この接続部に相当のせん断力が作用することもある。しかしながら従来の技術では、大規模な地下空間USを形成するための覆工体LNに作用するせん断力、すなわち函体PB間の接続部に生ずるせん断力に対して、特段の補強技術が提案されることがあまりなかった。
【0009】
例えば特許文献1の場合、溝部2に突条部3を挿入することによって隣接する函体どうしを連結する構成であり、そのため函体間に生ずるせん断力は突条部3(特に、そのウェブ32)が負担することになるが、相当のせん断強度を想定すると十分なせん断補強構造とは言えない。そこで
図15に示すように、隣接する函体PB間にせん断補強筋STを配置した接続部コンクリートCNを構築することが考えられる。
図15は函体PB間に構築された接続部コンクリートCNとせん断補強筋STを模式的に示す図であり、(a)は横断方向に見た(つまり、トンネル軸方向の鉛直断面で切断した)断面図、(b)はトンネル軸方向に見た(つまり、横断方向の鉛直断面で切断した)断面図である。なお、ここでトンネル軸方向とは文字どおりトンネル軸の方向(いわゆる、縦断方向)であり、横断方向はトンネル軸に直交する水平方向のことである。すなわちこの図の例では、「口字」状のせん断補強筋(ループ筋)をトンネル軸方向に並ぶように配置している。
【0010】
図15に示すせん断補強構造を採用すれば、せん断補強筋STの配筋間隔(密度)を調整することによって、ある程度のせん断力に対抗し得ることが期待できる。しかしながら、隣接する函体PBの離隔(つまり、接続部コンクリートCNの幅)が狭隘とされる場合、配置できるせん断補強筋STの数量が制限され、その結果、相当のせん断強度に対しては十分なせん断補強構造とならないことも考えられる。加えて、隣接する函体PB間が狭隘であれば、接続部コンクリートCNが一面せん断に近い状況になる可能性もあり、この場合、
図15に示す配置のせん断補強筋STではその役割を果たさない。接続部コンクリートCNが一面せん断になることを想定すれば、例えば横断方向に配置する鋼材(鉄筋や形鋼など)をせん断補強として利用することも考えられるが、この場合は、その鋼材を函体PB内のコンクリートに定着させるためある程度の長さが必要となり、その結果、著しく施工性(定着の確保、コンクリート打込み前の鋼材の支持等)が悪化するという問題が生じることとなる。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、隣接する函体間が狭隘であっても、その接続部に生ずるせん断に対して有効に補強することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、隣接する一方の個別函体の主桁と他方の個別函体の主桁に、それぞれせん断補強材を取り付けることによって、個別函体間に生ずるせん断力に対する補強を行う、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0013】
本願発明の連結函体せん断補強構造は、地中に構築された2以上の個別函体が横断方向に連結された連結函体のうち、隣接する別函体間に生ずるせん断力に対して補強する構造であって、隣接する個別函体に取り付けられる連結するせん断補強材を備えたものである。なお個別函体は、断面視した中央に開口部が設けられるとともに、開口部の周囲に配置される主桁を有している。またせん断補強材は、隣接する一方の個別函体の主桁に取り付けられるとともに、隣接する他方の個別函体の主桁にも取り付けられる。
【0014】
本願発明の連結函体せん断補強構造は、せん断補強材として形鋼からなる細幅部材を利用したものとすることもできる。この場合のせん断補強材は、相互に交差して配置される1組の「第1せん断補強材と第2せん断補強材」によって形成される。そして、第1せん断補強材が、主桁に対して傾斜して配置されたたうえで主桁のうちトンネル軸方向における前方側に取り付けられ、一方の第2せん断補強材が、主桁に対して傾斜して配置されたたうえで、主桁のうちトンネル軸方向における後方側に取り付けられる。なお同一の主桁には、1又は2組以上のせん断補強材を取り付けることができる。
【0015】
本願発明の連結函体せん断補強構造は、せん断補強材として鋼板を利用したものとすることもできる。なお同一の主桁には、1又は2以上のせん断補強材を取り付けることができる。
【0016】
本願発明の連結函体せん断補強構造は、主桁が中央主桁を含むものとすることもできる。なお中央主桁は、個別函体のうちトンネル軸方向における中間に配置される。この場合、せん断補強材は中央主桁に取り付けられる。
【0017】
本願発明の連結函体せん断補強構造は、縦断連結ボルトをさらに備えたものとすることもできる。この場合、主桁は個別函体のうちトンネル軸方向における前方と後方に配置される側部主桁を含む者とされ、せん断補強材は側部主桁に取り付けられる。そして縦断連結ボルトは、前方側のせん断補強と側部主桁、並びに後方側のせん断補強と側部主桁を、それぞれ縫い付けて連結する。
【0018】
本願発明の連結函体構築方法は、本願発明の連結函体せん断補強構造を用いて連結函体を地中に構築する方法であって、先行個別函体設置工程と後続個別函体設置工程、せん断補強工程を備えた方法である。先行個別函体設置工程では、地盤を掘削しながら先行の個別函体を設置していき、後続個別函体設置工程では、地盤を掘削しながら先行の個別函体に併設されるように後続の個別函体を設置していく。またせん断補強工程では、隣接する先行の個別函体と後続の個別函体に、せん断補強材を取り付けることでせん断補強を行う。またせん断補強工程では、隣接する先行の個別函体と後続の個別函体のうち対向する側部主桁にそれぞれせん断補強材が取り付けることによって、隣接する個別函体間に生ずるせん断力に対して補強する。
【0019】
本願発明の連結函体構築方法は、測量工程をさらに備えた方法とすることもできる。この測量工程では、隣接する先行の個別函体の位置と後続の個別函体の位置との離隔を計測する。この場合、異なる寸法で形成された2種類以上のせん断補強材があらかじめ用意される。そしてせん断補強工程では、測量工程によって得られた離隔に応じて、2種類以上のせん断補強材の中から1種類のせん断補強材を選択するとともに、選択されたせん断補強材を主桁に取り付ける。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の連結函体せん断補強構造、及び連結函体構築方法には、次のような効果がある。
(1)隣接する函体間が狭隘であっても、その接続部に生ずるせん断力に対して有効に補強することができる。
(2)また、狭隘な空間に鉄筋等を配置するなど煩雑な施工手間を回避することができ、その結果、迅速施工と省人化を図ることができる。
(3)せん断補強材や縦断連結ボルトなど本願発明に必要な部材は、概ね工場製作で対応することができることから、溶接など現場における作業を低減することができる。
(4)せん断補強材や縦断連結ボルトは接続部コンクリートに埋設されるため、腐食等による強度劣化を回避することが期待できる。
(5)個別函体を構成する鋼材を適切に設計することで、すなわち適切な材質(例えば、SM570など)や形状、寸法の鋼材を採択することで、目的の剛性や強度を有する個別函体を得ることができる。その結果、複数の個別函体からなる連結函体せん断補強構造を本設構造として評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)は連結函体を模式的に示す断面図、(b)は連結函体の一部を模式的に示す縦断図。
【
図2】(a)は個別函体をトンネル軸方向に見た正面図、(b)は個別函体の壁体の一部を示すA-A矢視断面図、(c)は個別函体の壁体の一部を示すB-B矢視断面図。
【
図3】(a)はスキンプレートが設置された個別函体を横断方向に見た側面図、(b)はスキンプレートが取り外された個別函体を横断方向から見た側面図。
【
図4】(a)は横断方向で隣接する個別函体にせん断補強材が取り付けられた状態を示す断面図、(b)は横断方向で隣接する個別函体にせん断補強材が取り付けられた状態を示す平面図。
【
図5】1の主桁に対して2組のせん断補強材が取り付けられた状態を模式的に示す断面図。
【
図6】(a)は片側につき1個所でボルト接合されたせん断補強材と中央主桁を模式的に示す断面図、(b)は片側につき2個所でボルト接合されたせん断補強材と中央主桁を模式的に示す断面図。
【
図7】縦断連結ボルトによって、前後に対向する側部主桁212にせん断補強材230が取り付けられた状況を模式的に示す上から見た平面図。
【
図8】(a)は隣接する個別函体に鋼板からなるせん断補強材が取り付けられた状態を示す断面図、(b)は隣接する個別函体に鋼板からなるせん断補強材が取り付けられた状態を示す平面図。
【
図9】1の主桁に対して2枚の鋼板からなるせん断補強材が取り付けられた状態を模式的に示す断面図。
【
図10】本願発明の連結函体構築方法の主な工程を示すフロー図。
【
図11】地盤改良が施された接続部をトンネル軸方向に見た断面図。
【
図12】継手材によって連結された個別函体を模式的に示す断面図。
【
図13】19の函体からなる覆工体と覆工体によって確保された地下空間を模式的に示す断面図。
【
図14】(a)はトンネル軸方向に並ぶように設置された複数の函体を模式的に示す縦断図、(b)は横断方向に隣接する函体を模式的に示す斜視図。
【
図15】(a)は函体間に構築された接続部コンクリートとせん断補強筋を模式的に示す横断方向に見た鉛直断面図、(b)は函体間に構築された接続部コンクリートとせん断補強筋を模式的に示すトンネル軸方向に見た鉛直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の連結函体せん断補強構造、及び連結函体構築方法の例を図に基づいて説明する。
【0023】
1.全体概要
本願発明は、地下空間を形成するための連結函体を補強する構造と、補強された連結函体を構築する方法である。
図1は、連結函体100を模式的に示す図であり、(a)は鉛直面で切断した断面図、(b)は連結函体100の一部を示す縦断図である。この
図1(a)に示すように連結函体100は、複数(図では19)の函体(以下、便宜上ここでは「個別函体200」という。)が連結された構造であり、周辺地山からの荷重を支持することで(つまり、覆工体として機能することで)安定した地下空間USを形成することができるものである。
【0024】
また
図1(b)に示すように、複数の個別函体200が連続配置されることによってトンネル構造(以下、便宜上ここでは「単位トンネル110」という。)が形成される。この単位トンネル110は、地中発進部(例えば、発進立坑)や地中到達部(例えば、到達立坑)を設けたうえで地中発進部から推進工法やシールド工法により掘進し、中空の個別函体200を連続配置していくことで構築される。つまり、連結函体100は複数(
図1では19)の単位トンネル110によって構成される立体的な構造であり、地下空間USはいわば大規模断面のトンネルとして形成されるわけである。なお便宜上ここでは、
図1に示すように、トンネル(単位トンネル110や地下空間US)の軸方向のことを「トンネル軸方向」、このトンネル軸方向に直交する水平方向のことを「横断方向」ということとする。
【0025】
2.連結函体せん断補強構造
本願発明の連結函体せん断補強構造について説明する。なお、本願発明の連結函体構築方法は、本願発明の連結函体せん断補強構造によって補強された連結函体100を構築する方法である。したがって、まずは本願発明の連結函体せん断補強構造について説明し、その後に本願発明の連結函体構築方法について説明することとする。
【0026】
(個別函体)
図2は、個別函体200を模式的に示す図であり、(a)はトンネル軸方向に見た正面図、(b)は個別函体200を構成する壁体の一部を示すA-A矢視(
図1(a))の断面図、(c)は壁体の一部を示すB-B矢視(
図1(a))の断面図である。また
図3は、個別函体200を横断方向に見た側面図であり、(a)はスキンプレート220が設置された状態を示し、(b)はスキンプレート220が取り外された状態を示している。
【0027】
図2(a)や
図3に示すように個別函体200は、断面視が略四角形(四角形を含む)であり、その内部に空間(以下、「開口部」という。)が設けられた概ね箱型の形状である。より詳しくは、上下左右に配置された4つの壁体をそれぞれ端部で連結することによって個別函体200が形成されており、これら4つの壁体によってトンネル軸方向に貫通する開口部が形成される。換言すれば、開口部の周囲には4つの壁体が配置されているわけである。個別函体200の形状として一例を挙げれば、長さ(横断方向)寸法を5m、幅(トンネル軸方向)寸法を1m、高さ寸法を2.5mなどとすることができる。
【0028】
開口部の周囲に配置されるそれぞれの壁体は、主桁210とスキンプレート220によって形成される。例えば、左右に配置される左壁体や右壁体は、
図2(b)に示すように主桁210とスキンプレート220によって形成され、概ね左壁体(右壁体)の全長にわたって配置される主桁210にスキンプレート220が溶接等によって取り付けられた構成とされる。上下に配置される上壁体や下壁体も、
図2(c)に示すように左壁体や右壁体と同様の構成とされる。なお、主桁210は、例えば鋼板などの鋼材を利用することができ、一方のスキンプレート220も鋼板などの鋼材を利用することができる。また、後述するようにスキンプレート220は施工中に取り外される(
図3(b))ため、比較的取り外しやすい手法によってスキンプレート220を主桁210に取り付けるとよい。
【0029】
壁体を構成する主桁210は、中央主桁211と側部主桁212によって形成することができる。例えば
図3(b)に示すように、トンネル軸方向における前方と後方にそれぞれ配置される側部主桁212と、これら側部主桁212に挟まれた位置(つまり、トンネル軸方向における中間付近)に配置される中央主桁211によって、主桁210を形成することができる。あるいは、中央主桁211のみによって主桁210を形成したり、前後の側部主桁212のみによって主桁210を形成したりするなど、中央主桁211と側部主桁212からなる種々の組み合わせ(中央主桁211や側部主桁212の配置数など)によって主桁210を形成することができる。
【0030】
当然ながら個別函体200は、想定される種々の荷重に耐え得るように設計される。具体的には、個別函体200の長さ寸法や幅寸法、高さ寸法が設計計算に基づいて決定され、壁体(左壁体と右壁体、上壁体、下壁体)の材料や寸法といった仕様も設計計算に基づいて決定される。特に、壁体を構成する主桁210は、供用時における外力を主に負担する部材とされることから、利用する鋼材の材質(SM570など)と、肉厚寸法や幅寸法などが詳細に設計される。例えば、主桁210を相当な剛性や強度を有するものとして設計することで、最終的に開口部内にコンクリートを充填した連結函体100を、構造鉄筋の配置を省略した無筋のコンクリート造としたり、あるいは構造鉄筋のうちせん断補強筋のみを配置したコンクリート造としたりすることができる。
【0031】
(せん断補強材)
図4は、隣接する個別函体200にせん断補強材230が取り付けられた状態を模式的に示す図であり、(a)はトンネル軸方向に見た断面図、(b)は接続部を上方から見た平面図である。連結函体100を構成する個別函体200は、
図1に示すように左右に隣接することもあれば、上下あるいは斜方向に隣接することもあるが、便宜上ここでは個別函体200が左右に隣接する例で説明する。そこで
図4に示すように、隣接する2つの個別函体200のうち左側に配置されたもの(例えば、先行の個別函体200)を左個別函体200L、右側に配置されたもの(例えば、後続の個別函体200)を右個別函体200Rということとする。
【0032】
せん断補強材230は、隣接する個別函体200のうち対向配置された主桁210の一部に取付られ、これにより個別函体200間に生ずるせん断力に対する補強機能を果たす。より詳しくは、左個別函体200Lを構成する主桁210のうち右壁体の主桁210にせん断補強材230を取り付けるとともに、右個別函体200Rを構成する主桁210のうち左壁体の主桁210にせん断補強材230を取り付けるわけである。なお、せん断補強材230を主桁210に取り付けるにあたっては、ボルトによる接合(つまり、ボルト接合)とすることもできるし、溶接による接合とすることもできる。また、主桁210が中央主桁211と側部主桁212によって形成されている場合、中央主桁211にせん断補強材230を取り付けることもできるし、中央主桁211に加えて(あるいは、代えて)側部主桁212にせん断補強材230を取り付けることもできる。
【0033】
せん断補強材230は、幅寸法に比して長さが卓越したいわゆる細幅部材とすることができ、例えば山形鋼やCT形鋼といった形鋼を利用することができる。
図4の例では、せん断補強材230として溝形鋼を利用しており、略鉛直(鉛直を含む)姿勢の中央主桁211に対して傾斜するように配置されたうえでその中央主桁211に取り付けられている。
【0034】
また、せん断補強材230を細幅部材とする場合、2つの細幅部材を1組として構成するとよい。便宜上ここでは、2つの細幅部材のうち一方を「第1せん断補強材230L」、他方を「第2せん断補強材230R」ということとする。そして、第1せん断補強材230Lと第2せん断補強材230Rは、いわばX字状に交差配置されたうえで主桁210に取り付けられる。例えば
図4では、左端が斜め上で右端が斜め下となる姿勢にされた第1せん断補強材230Lが、その左側で左中央主桁211L(右個別函体200Rの中央主桁211)に取り付けられるとともに、その右側で右中央主桁211R(右個別函体200Rの中央主桁211)に取り付けられている。一方、第2せん断補強材230Rは、右端が斜め上で左端が斜め下となる姿勢にされ、その左側で左中央主桁211Lに取り付けられ、その右側で右中央主桁211Rに取り付けられている。
【0035】
第1せん断補強材230Lと第2せん断補強材230Rは、主桁210を挟むように、つまり一方を主桁210の片面(表面)側に取り付け、他方を主桁210の他面(裏面)側に取り付けるとよい。例えば
図4(b)では、中央主桁211(左中央主桁211Lや右中央主桁211R)のうち前方(ただし、トンネル軸方向における方向)に第1せん断補強材230Lを配置するとともに、中央主桁211のうち後方(ただし、トンネル軸方向における方向)に第2せん断補強材230Rを配置したうえで、これらせん断補強材230(第1せん断補強材230Lと第2せん断補強材230R)をそれぞれ中央主桁211に取り付けている。なお
図4(b)では、ボルトで縫い付けることによってせん断補強材230と中央主桁211を接合しているが、上方のボルトのみを示しており、第1せん断補強材230Lの左端(上端)と左中央主桁211Lを接合し、第2せん断補強材230Rの右端(上端)と右中央主桁211Rを接合している状況を示しているのであって、第1せん断補強材230Lと中央主桁211、第2せん断補強材230Rをすべて貫通するようにボルト接合しているわけではない。
【0036】
第1せん断補強材230Lと第2せん断補強材230Rを1組とするせん断補強材230は、
図4に示すように1の主桁210に対して1組のみ取り付けることもできるし、
図5に示すように1の主桁210に対して2組のせん断補強材230を取り付けることもできる。あるいは、1の主桁210に対して3組以上のせん断補強材230を取り付けることもできる。1の主桁210に対して2組以上のせん断補強材230を取り付けるときも、第1せん断補強材230Lと第2せん断補強材230RをX字状に交差配置し、しかも
図4(b)に示すように主桁210を挟むように配置したうえで、それぞれ主桁210に取り付けるとよい。
【0037】
ボルトBNで縫い付けることによってせん断補強材230と主桁210を接合する場合、
図6(a)に示すようにせん断補強材230の片側につき1個所でボルト接合することもできるし、
図6(b)に示すようにせん断補強材230の片側につき2個所以上(図では2個所)でボルト接合することもできる。1本のボルトBNが有するせん断耐力で充足するときは
図6(a)のようにボルト接合することができるが、1本のボルトBNのせん断耐力で不足するときは
図6(b)のようなボルト接合を採用することになる。なお、
図6(a)に示すボルト接合とすると全体としてはトラス構造とされ、一方、
図6(b)に示すボルト接合とすると全体としてはラーメン構造とされる。
【0038】
ところで連結函体100は、
図1(a)に示すように横断方向に隣接する個別函体200どうしが連結され、さらに
図1(b)に示すようにトンネル軸方向に隣接する個別函体200どうしが連結されることによって構築される。そして、トンネル軸方向に隣接する個別函体200どうしを連結するにあたっては、前後(ただし、トンネル軸方向における方向)に対向する主桁210どうしをボルト(以下、特に「縦断連結ボルト240」という。)を用いて連結することが主流とされている。より詳しくは、後方の個別函体200を構成する主桁210のうち前方の主桁210(特に、側部主桁212)と、前方の個別函体200を構成する主桁210のうち後方の主桁210(特に、側部主桁212)を、それぞれ貫通するように縦断連結ボルト240で縫い付けてボルト接合するわけである。
【0039】
本願発明の連結函体せん断補強構造においてこの縦断連結ボルト240は、せん断補強材230を主桁210に取り付けるための接合用ボルトとしても利用することができる。
図7は、縦断連結ボルト240によって、前後に対向する側部主桁212にせん断補強材230が取り付けられた状況を模式的に示す上から見た平面図である。なおこの図ではトンネル軸方向に連続する3つの個別函体200を示しており、またこの図に示す個別函体200はいずれも中央主桁211と、前方の側部主桁212(以下、「前方側部主桁212F」という。)、後方の側部主桁212(以下、「後方側部主桁212B」という。)からなる主桁210を有している。そして
図7では、連続する3つの個別函体200のうち主桁210(中央主桁211と側部主桁212)のみを示している。便宜上ここでは、トンネル軸方向における最後方にある個別函体200に係る主桁210のことを「後方主桁210B」、最前方にある個別函体200に係る主桁210のことを「前方主桁210F」、後方主桁210Bと前方主桁210Fの間に配置される主桁210のことを「中間主桁210M」ということとする。
【0040】
図7に示すように、後方主桁210Bのうち前方側部主桁212Fと中間主桁210Mのうち後方側部主桁212Bは前後に対向配置され、中間主桁210Mのうち前方側部主桁212Fと前方主桁210Fのうち後方側部主桁212Bは前後に対向配置されている。また、後方主桁210Bの前方側部主桁212Fには後方せん断補強材230B(後方主桁210B用のせん断補強材230)が配置され、中間主桁210Mの後方側部主桁212Bには中央せん断補強材230M(中間主桁210M用のせん断補強材230)が配置されている。同様に、前方主桁210Fの後方側部主桁212Bには前方せん断補強材230F(前方主桁210F用のせん断補強材230)が配置され、中間主桁210Mの前方側部主桁212Fの前方にも中央せん断補強材230Mが配置されている。なおこの図では、中間主桁210Mの中央主桁211にのみせん断補強材230が取り付けられているが、後方主桁210Bと前方主桁210Fに関しては便宜上省略しただけであって、もちろんこれらの中央主桁211にもせん断補強材230を取り付けることができる。
【0041】
縦断連結ボルト240は、前後に対向する主桁210どうしを縫い付けるととともに、前後に対向するせん断補強材230どうしを縫い付けたうえで、これらをボルト接合する。より詳しくは、後方主桁210Bの前方側部主桁212Fと後方せん断補強材230B、そして中間主桁210Mの後方側部主桁212Bと中央せん断補強材230Mを、すべて貫通するように縦断連結ボルト240が縫い付けてボルト接合する。同様に、前方主桁210Fの後方側部主桁212Bと前方せん断補強材230F、そして中間主桁210Mの前方側部主桁212Fと中央せん断補強材230Mを、すべて貫通するように縦断連結ボルト240が縫い付けてボルト接合する。
【0042】
この場合も、
図4(a)に示すように2つのせん断補強材230をX字状に交差配置し、しかも
図4(b)に示すように2つの側部主桁212を挟むように配置したうえで、それぞれ側部主桁212に取り付けるとよい。つまり、後方主桁210B(そのうちの前方側部主桁212F)と中間主桁210M(そのうちの後方側部主桁212B)が対向するところでは、後方せん断補強材230Bを第2せん断補強材230Rとし、中央せん断補強材230Mを第1せん断補強材230Lとし、後方せん断補強材230B(つまり第2せん断補強材230R)を後方主桁210B(そのうちの前方側部主桁212F)の後方に配置するとともに、中央せん断補強材230M(つまり第1せん断補強材230L)を中間主桁210M(そのうちの後方側部主桁212B)の前方に配置したうえで、それぞれ側部主桁212に取り付ける。同様に、中間主桁210M(そのうちの前方側部主桁212F)と前方せん断補強材230F(そのうちの後方側部主桁212B)が対向するところでは、中央せん断補強材230Mを第2せん断補強材230Rとし、前方せん断補強材230Fを第1せん断補強材230Lとし、中央せん断補強材230M(つまり第2せん断補強材230R)を中間主桁210M(そのうちの前方側部主桁212F)の後方に配置するとともに、後方せん断補強材230B(つまり第1せん断補強材230L)を前方せん断補強材230F(そのうちの後方側部主桁212B)の前方に配置したうえで、それぞれ側部主桁212に取り付ける。
【0043】
せん断補強材230は、形鋼などの細幅部材のほか、
図8に示すように鋼板を利用することもできる。鋼板からなるせん断補強材230は、例えば
図8(a)に示すように、せん断補強材230の一端側(図では左側)をボルトで左中央主桁211Lに取り付け、せん断補強材230の他端側(図では右側)をボルトで右中央主桁211Rに取り付けることによって、隣接する個別函体200に取り付けることができる。この場合、
図8(b)に示すように、2枚のせん断補強材230で主桁210(図では、中央主桁211)を挟むように配置するとよい。つまり、一方のせん断補強材230を中央主桁211の前方面(表面)に取り付け、他方のせん断補強材230を主桁210の後方面(裏面)側に取り付けるわけである。
【0044】
鋼板を利用したせん断補強材230は、
図8に示すように1の主桁210に対して1枚のみ取り付けることもできるし、
図9に示すように1の主桁210に対して2枚のせん断補強材230を取り付けることもできる。あるいは、1の主桁210に対して3枚以上のせん断補強材230を取り付けることもできる。1の主桁210に対して2枚以上のせん断補強材230を取り付けるときも、
図8(b)に示すように主桁210を挟むように配置したうえで、それぞれ主桁210に取り付けるとよい。
【0045】
3.連結函体構築方法
続いて、本願発明の連結函体構築方法ついて説明する。なお、本願発明の連結函体構築方法は、本願発明の連結函体せん断補強構造によって補強された連結函体100を構築する方法である。したがって、本願発明の連結函体せん断補強構造について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の連結函体構築方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.連結函体せん断補強構造」で説明したものと同様である。
【0046】
図10は、本願発明の連結函体構築方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すように、本願発明に係る連結函体100を構築するにあたっては、まず地中発進部(例えば、発進立坑)と地中到達部(例えば、到達立坑)を構築する(
図10のStep301)。また、計画された他の仮設備や装置を設置し、その後、最初の単位トンネル110を構築していく(
図10のStep302)。以下、単位トンネル110を構築する手順について説明する。なお、単位トンネル110の掘進は、推進工法やシールド工法、その他の従来工法によって実施することができるが、便宜上ここでは推進工法によって掘進する例で説明する。
【0047】
単位トンネル110を構築するには、まず地中発進部内に推力設備を設置する。そして、地中発進部内に降ろされた推進機によって地盤を掘削していく。ただし、連結函体100を構成する個別函体200が断面視で略四角形であることから、矩形断面用の推進機(矩形推進機)を利用するとよい。推進機が地盤を掘進していくと、同時に推力設備が個別函体200を切羽方向(トンネル軸方向)に押していく。なお個別函体200は、推進機の坑口(地中発進部)側からトンネル軸方向に並ぶように設置され、掘進が進むたびに地中発進部から個別函体200が供給されながら、推力設備が個別函体200全体を押していく。このように、推進機が地中到達部に到達するまで「地盤の掘進~個別函体200の推進」を繰り返すことで、単位トンネル110が構築される(
図10のStep305)。
【0048】
最初の単位トンネル110が構築されると、その隣接する位置に後続の単位トンネル110を構築していく。具体的には、上記したように推進機(矩形推進機)によって地盤を掘進し(
図10のStep303)、推力設備によって個別函体200を切羽方向に移動させる(
図10のStep304)。この一連の工程(地盤の掘進~個別函体200の推進)を、推進機が地中到達部に到達するまで繰り返し行うことで後続の単位トンネル110を構築する(
図10のStep305)。
【0049】
後続の単位トンネル110が構築され、すなわち先行の単位トンネル110と後続の単位トンネル110が併設されると、
図11に示すように2つの単位トンネル110の間には地山部分(以下、「接続部分」という。)が残される。最終的には、この接続部分にもコンクリートが充填されるため接続部分を掘削する必要があるが、掘削作業を行う者の安全を図るため、さらには止水のために周辺地盤の地盤改良を行う(
図10のStep306)。例えば
図11では、接続部分の上方箇所と下方箇所に対して薬液注入を行うことで当該地盤を改良している。
【0050】
接続部分の地盤改良を行うと、個別函体200の開口部側からスキンプレート220を取り外す。このとき、個別函体200が向かい合っている壁体のスキンプレート220のみを取り外す。例えば、2つの個別函体200が左右に隣接している場合、左個別函体200Lの右壁体のスキンプレート220を取り外し、右個別函体200Rの左壁体のスキンプレート220を取り外すわけである。所定のスキンプレート220を取り外すと、開口部側から接続部分の地盤を掘削する(
図10のStep307)。
【0051】
接続部分の地盤掘削を行うと、先行の個別函体200(便宜上ここでは、左個別函体200Lとする。)と後続の個別函体200(便宜上ここでは、右個別函体200Rとする。)の配置位置を確認するための測量を行う(
図10のStep308)。ここでの測量としては、トータルステーション(TS:Total Station)を用いた計測など、従来用いられている種々の測量技術を利用することができる。
【0052】
個別函体200の測量を行うことで、計画どおりに配置されているか、あるいは計画位置とどの程度の誤差があるかを把握すると、隣接する左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結する。左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結するにあたっては、例えば
図12に示す継手材250を利用するとよい。この継手材250は、腹板とその両側に配置されたフランジを有する部材であり、個別函体200の一部に設けられた溝部に継手材250のフランジを挿入することによって、左個別函体200Lと右個別函体200Rが連結される。なお継手材250は、それぞれの個別函体200ごとに設置され、つまり単位トンネル110全体にわたって設置される。そのため、地中発進部あるいは地中到達部にウィンチなどの牽引装置を設置し、この牽引装置を利用して継手材250を設置するとよい。
【0053】
隣接する左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結すると(
図10のStep309)、それぞれの主桁210の一部にせん断補強材230を取り付ける(
図10のStep310)。このせん断補強材230を取り付けることによって、左個別函体200Lと右個別函体200Rの間に生じるせん断力に対して補強を行うことができるわけである。
【0054】
ところで、個別函体200の測量(
図10のStep308)を行った結果、計画位置と誤差がある場合、計画寸法のせん断補強材230では設置できないケースもある。例えば左個別函体200Lと右個別函体200R間の距離(以下、「離隔」という。)が計画値よりも大きい場合、計画寸法のせん断補強材230では左個別函体200Lから右個別函体200Rまで届かないことも考えられる。そこで、計画寸法のせん断補強材230のほか種々の寸法の計画寸法のせん断補強材230をあらかじめ用意しておくとよい。個別函体200の測量の結果に応じて、複数種類のせん断補強材230の中から適切なものを選定するとともに、その選定されたせん断補強材230を主桁210に取り付けるわけである。また、せん断補強材230と主桁210をボルト接合するケースでは、せん断補強材230に複数のボルト孔を設けておくとよい。これにより、個別函体200の測量の結果に応じて適切なボルト孔を選定したうえで、せん断補強材230を主桁210に取り付けることができる。さらに、左個別函体200Lと右個別函体200Rに、トンネル軸方向(縦断方向)の「ずれ」が生じたときは、ボルト接合を行うときにワッシャなどのスペーサー等を挟んだうえで締め付けるとよい。
【0055】
ここまで説明した一連の工程(
図10のStep303~Step310)を行うことによって先行の単位トンネル110と後続の単位トンネル110が連結されるとともにせん断補強が施されると、さらにこの一連の工程を繰り返し行うことによって例えば
図1に示すような連結函体100が構築される(
図10のStep311)。なお、この段階では連結函体100を構成する個別函体200の開口部は中空のままであり、連結函体100はいわば「外郭体」である。設計条件等によってはこの外郭体を連結函体100の完成形とすることもできるが、通常は個別函体200の開口部や、隣接する個別函体200間の接続部にはコンクリートが充填される。この場合、まずは必要な鉄筋(例えば、せん断補強筋)を配置し(
図10のStep312)、開口部と接続部に所定強度を有するコンクリート(例えば、高強度コンクリート)を充填する(
図10のStep313)。
【0056】
充填したコンクリートが十分硬化するとコンクリート造の連結函体100が完成し(
図10のStep314)、連結函体100の内部を掘削する(
図10のStep315)ことによって、地下空間USが形成される(
図10のStep316)。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本願発明の連結函体せん断補強構造、及び連結函体構築方法は、地下街や地下鉄の駅舎のほか、地下に構築される道路トンネルや鉄道トンネル、上下水道用のトンネル、共同溝や電力通信用のトンネルの構築に際して利用することができる。本願発明によれば効率的にトンネル構造物という社会基盤(社会インフラストラクチャ)を構築することができることを考えると、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0058】
100 連結函体
110 単位トンネル
200 個別函体
200L (個別函体のうちの)左個別函体
200R (個別函体のうちの)右個別函体
210 (個別函体の)主桁
210B (主桁のうちの)後方主桁
210M (主桁のうちの)中間主桁
210F (主桁のうちの)前方主桁
211 (主桁のうちの)中央主桁
211L (中央主桁のうちの)左中央主桁
211R (中央主桁のうちの)右中央主桁
212 (主桁のうちの)側部主桁
212B (側部主桁のうちの)後方側部主桁
212F (側部主桁のうちの)前方側部主桁
220 スキンプレート
230 せん断補強材
230B (側せん断補強材のうちの)後方せん断補強材
230M (側せん断補強材のうちの)中央せん断補強材
230F (側せん断補強材のうちの)前方せん断補強材
230L (側せん断補強材のうちの)第1せん断補強材
230R (側せん断補強材のうちの)第2せん断補強材
240 縦断連結ボルト
250 継手材
BN ボルト
CN 接続部コンクリート
LN 覆工体
PB 函体
SP 空間
ST せん断補筋
US 地下空間