(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041117
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】函体連結構造、及び連結函体構築方法
(51)【国際特許分類】
E21D 13/02 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
E21D13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145762
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】509200613
【氏名又は名称】株式会社横河NSエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 真未
(72)【発明者】
【氏名】粥川 幸司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐磨
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄一
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊孝
(72)【発明者】
【氏名】松村 卓
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 正佳
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA01
2D155BB03
2D155BB04
(57)【要約】
【課題】 本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、隣接するトンネルの函体の相対配置にある程度の相当のズレが生じたとしても、連結ボルトによってこれらの函体を連結することができる技術を提供することである。
【解決手段】 本願発明の函体連結構造は、地中に構築され2以上の個別函体が横断方向に連結された連結函体のうち、隣接する個別函体どうしを連結する構造であって、連結ボルトとテーパー座金、継手板を備えたものである。テーパー座金に係る傾斜と挿通孔のクリアランスによって、先行個別函体と後続個別函体との相対配置が計画と異なるときであっても、角度調整された連結ボルトをナットで締め付けることができ、すなわち先行個別函体と後続個別函体を連結することができる。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に構築され2以上の個別函体が連結された連結函体のうち、隣接する該個別函体どうしを連結する構造であって、
隣接する先行個別函体と後続個別函体とを連結する連結ボルトと、
テーパー座金挿通孔が設けられ、底面に対して上面が傾斜したテーパー座金と、
継手板挿通孔が設けられた継手板と、を備え、
前記先行個別函体と前記後続個別函体は、断面視した中央に開口部が設けられるとともに、該開口部の周囲に配置される主桁を有し、
前記継手板は、前記先行個別函体と前記後続個別函体の前記主桁に取り付けられ、
前記継手板挿通孔は、挿通された前記連結ボルトの周囲にクリアランスが設けられる孔径で形成され、
前記先行個別函体の前記継手板挿通孔と前記後続個別函体の前記継手板挿通孔に前記連結ボルトを挿通し、該連結ボルトに前記テーパー座金挿通孔を嵌め込んで該先行個別函体の内部側に前記テーパー座金を配置するとともに、該連結ボルトに前記テーパー座金挿通孔を嵌め込んで該後続個別函体の内部側に前記テーパー座金を配置したうえで、該連結ボルトをナットで締め付けることによって該先行個別函体と該後続個別函体が連結され、
前記先行個別函体と前記後続個別函体との相対配置が計画と異なるときであっても、前記テーパー座金に係る傾斜によって角度調整された前記連結ボルトをナットで締め付けることができる、
ことを特徴とする函体連結構造。
【請求項2】
固定座挿通孔が設けられる固定座と、可動座挿通孔が設けられる可動座と、からなる球面座金を、さらに備え、
前記固定座の上面には、前記固定座挿通孔に連通する椀形に窪んだ湾曲凹部が形成され、
前記可動座は、底面と、該底面より大きい上面と、側壁面と、を含む円錐台の形状とされ、
前記可動座の前記底面が前記固定座側となるように、かつ該可動座の前記側壁面の一部が前記湾曲凹部内に収まるように、該可動座が配置されたうえで、前記球面座金が前記テーパー座金と重なるように配置され、
前記連結ボルトに前記可動座挿通孔と前記固定座挿通孔を嵌め込んで前記先行個別函体の内部側に前記球面座金を配置するとともに、該連結ボルトに前記可動座挿通孔と前記固定座挿通孔を嵌め込んで前記後続個別函体の内部側に前記球面座金を配置したうえで、該連結ボルトをナットで締め付けることによって該先行個別函体と該後続個別函体が連結され、
前記先行個別函体と前記後続個別函体との前記相対配置が計画と異なるときであっても、前記可動座の回転によって角度調整された前記連結ボルトをナットで締め付けることができる、
ことを特徴とする請求項1記載の函体連結構造。
【請求項3】
前記主桁は、トンネル軸方向における前方と後方に配置される側部主桁と、前方の該側部主桁と後方の該側部主桁に挟まれて配置される中央主桁と、を含み、
前記継手板が、前記中央主桁と前記側部主桁との間に取り付けられた、
ことを特徴とする請求項1記載の函体連結構造。
【請求項4】
前記テーパー座金挿通孔の軸方向が、前記底面に対して垂直又は略垂直な前記テーパー座金の側壁面と平行又は略平行となるように、該テーパー座金挿通孔が形成された、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の函体連結構造。
【請求項5】
前記テーパー座金挿通孔の軸方向が、前記底面に対して垂直又は略垂直な前記テーパー座金の側壁面と傾斜するように、該テーパー座金挿通孔が形成された、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の函体連結構造。
【請求項6】
2以上の個別函体が連結された連結函体を、地中に構築する方法であって、
地盤を掘削しながら、先行個別函体を設置していく先行個別函体設置工程と、
地盤を掘削しながら、前記先行個別函体に併設されるように、後続個別函体を設置していく後続個別函体設置工程と、
隣接する前記先行個別函体と前記後続個別函体を、函体連結構造によって連結する連結工程と、を備え、
前記先行個別函体と前記後続個別函体は、断面視した中央に開口部が設けられるとともに、該開口部の周囲に配置される主桁を有し、
前記函体連結構造は、連結ボルトと、テーパー座金挿通孔が設けられ底面に対して上面が傾斜したテーパー座金と、継手板挿通孔が設けられ前記主桁に取り付けられる継手板と、を含んで構成され、
前記継手板挿通孔は、挿通された前記連結ボルトの周囲にクリアランスが設けられる孔径で形成され、
前記連結工程では、前記先行個別函体の前記継手板挿通孔と前記後続個別函体の前記継手板挿通孔に前記連結ボルトを挿通し、該連結ボルトに前記テーパー座金挿通孔を嵌め込んで該先行個別函体の内部側に前記テーパー座金を配置するとともに、該連結ボルトに前記テーパー座金挿通孔を嵌め込んで該後続個別函体の内部側に前記テーパー座金を配置したうえで、該連結ボルトをナットで締め付けることによって該先行個別函体と該後続個別函体を連結し、
前記先行個別函体と前記後続個別函体との相対配置が計画と異なるときであっても、前記テーパー座金に係る傾斜によって角度調整された前記連結ボルトをナットで締め付けることができる、
ことを特徴とする連結函体構築方法。
【請求項7】
前記底面に対する前記上面の傾斜角が異なる2種類以上の前記テーパー座金を用意し、
前記先行個別函体と前記後続個別函体との前記相対配置を計測する測量工程を、さらに備え、
前記連結工程では、前記測量工程によって得られた前記相対配置に応じて、2種類以上の前記テーパー座金の中から1の該テーパー座金を選択するとともに、選択された該テーパー座金を使用して前記先行個別函体と前記後続個別函体を連結する、
ことを特徴とする請求項6記載の連結函体構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、複数の函体からなる覆工体によって地下空間を形成する技術に関するものであり、より具体的には、隣接する函体どうしを連結する構造と、その構造を用いて連結函体を構築する連結函体構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市部における道路トンネルや地下鉄道トンネル、電力線等をまとめて収容する共同溝などは、通常、道路の地下に設置される。この道路トンネルなどは、あらかじめ地中発進部や地中到達部を設置したうえで推進工法やシールド工法により掘進したトンネルを利用して構築するのが一般的である。そして道路トンネルなどは、1本のトンネルを掘進することで、換言すれば地中に1本の貫通孔を設けることで構築されることが多い。
【0003】
これに対して大径の道路トンネル(特に分岐合流部)や地下街、地下鉄の駅部などは、歩行者用の通路のほか店舗やホームといった様々な施設を配置するための相当の地下空間が必要とされ、したがって大規模な内空断面を有するトンネルの構築が求められる。しかしながら、推進工法やシールド工法によって掘削できる断面積には限界があり、1本のトンネル掘進のみでは地下街のような大規模空間を確保することは難しい。
【0004】
そこで、このように大規模な空間を地下に形成する場合、
図18に示すようなトンネル構造が採用されることがある。この図に示すトンネル構造では複数(図では19)の函体PBからなる覆工体LNが形成されており、この覆工体LNが地山からの荷重を支持することによって安定した地下空間USを確保している。以下、
図18に示すような覆工体LNを形成する手順について説明する。
【0005】
まず
図19(a)に示すように、推進工法やシールド工法によって掘進しながら、トンネル軸方向に並ぶように複数の函体PBを設置することで第1のトンネルを構築する。なお、函体PBは四角形(特に、長方形)とされることが多いことから、四角形断面の掘削が可能な掘削マシンを利用して掘進するとよい。第1のトンネルが構築されると、これに隣接する位置に第1のトンネルと同様の要領で第2のトンネルを構築する。このとき第2のトンネルの函体PBは、第1トンネルの函体PBに連結しながら(あるいは、後でまとめて連結して)設置される。そして、所定の数(
図18の場合は19)だけこのトンネル構築を繰り返すことによって、複数(
図18では19)の函体PBからなるいわばリング状の覆工体LNを形成する。さらに、
図19(b)に示すように函体PBの内側には空間SPが形成されているため、この空間SPに主筋と配力筋を設置したうえでコンクリートを打込む。以上の工程を経ることで、鉄筋コンクリート造の覆工体LNが形成され、安定した地下空間USが確保されるわけである。
【0006】
上記したとおり覆工体LNを形成するにあたっては、隣接するトンネルの函体PBどうしを連結する必要がある。従来、函体PBどうしを連結するにあたっては、
図20に示すように長ボルトLBを利用した連結構造が主流とされていた。長ボルトLBを双方のトンネルの函体PBに挿通するとともに、長ボルトLBの両端に配置された支圧板(プレート)をナットで締め付けることによって、これらの函体PBを連結するわけである。例えば特許文献1では、函体PBどうしが接しているものの、
図20と同様、鉄筋等で接合面を接続する構造について提案している。また非特許文献1では、「MMST工法(Multi-Micro Shield Tunneling Method)」について開示しており、このMMST工法もやはり
図20と同様の構造であって、函体PBどうしが離れた状態で接続する構造とされている。なお、特許文献1では接合面の主桁の位置で接続しているのに対して、MMST工法では主桁ではなく隅角部において接続している。
【0007】
図20に示す連結技術のほかにも、函体PBどうしを連結するための種々の技術がこれまで提案されている。例えば特許文献2では、先行函体の溝部2に後続函体の突条部3を挿入させることによって双方の函体を連結する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5351676号公報
【特許文献2】特開2011-256538号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「MMST工法によるトンネル構造の部材実験(土木学会第58回年次学術講演会 平成15年9月)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1や非特許文献1に開示される連結技術(
図20)や、特許文献2に開示される連結技術など従来の連結技術は、隣接するトンネルの函体PBの相対的な配置(以下、単に「相対配置」という。)に依存していた。すなわち、相対配置が計画どおり(あるいは、計画との誤差が極めて小さいケース)であれば、鉄筋等の鋼材を挿通することが可能となり、あるいは突条部3を挿入させることが可能になり、その結果、双方の函体を連結することができる。一方、計画に対して大きな誤差をもって隣接するトンネルの函体PBが配置されたとき、つまり相対配置に相当の「ズレ」が生じているときは、長ボルトLBを挿通することができず、あるいは突条部3を挿入させることができず、その結果、双方の函体PBを連結することができない。双方の函体PBを連結することができない場合、いずれかの函体PBの位置を調整する必要があるが、地中のしかも著しく狭隘な環境下でこのような調整作業を行うことは、相当の労力と時間を要し、想像以上に困難を極める作業である。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、隣接するトンネルの函体の相対配置にある程度の相当のズレが生じたとしても、連結ボルトによってこれらの函体を連結することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、隣接するトンネル函体の相対配置のズレに対応し得るテーパー座金や球面座金を利用することによって、ナットと支圧板による連結ボルトの緊結を可能にする、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0013】
本願発明の函体連結構造は、地中に構築され2以上の個別函体が横断方向に連結された連結函体のうち、隣接する個別函体どうしを連結する構造であって、連結ボルトとテーパー座金、継手板を備えたものである。このうちテーパー座金は、テーパー座金挿通孔が設けられるとともに底面に対して上面が傾斜した板状部材であり、継手板は、継手板挿通孔が設けられた板状部材である。なお個別函体(先行個別函体と後続個別函体)は、断面視した中央に開口部が設けられるとともに、開口部の周囲には主桁が配置される。また継手板は、個別函体(先行個別函体と後続個別函体)の主桁に取り付けられ、継手板挿通孔は、挿通された連結ボルトの周囲にクリアランス(余裕)が設けられる孔径で形成される。そして、先行個別函体と後続個別函体それぞれの継手板挿通孔に連結ボルトを挿通し、連結ボルトにテーパー座金挿通孔を嵌め込んで先行個別函体の内部側にテーパー座金を配置するとともに、連結ボルトにテーパー座金挿通孔を嵌め込んで後続個別函体の内部側にテーパー座金を配置したうえで、連結ボルトをナットで締め付けることによって先行個別函体と後続個別函体が連結される。テーパー座金に係る傾斜、及び継手板挿通孔のクリアランスによって、先行個別函体と後続個別函体との相対配置が計画と異なるときであっても、角度調整された連結ボルトをナットで締め付けることができ、すなわち先行個別函体と後続個別函体を連結することができる。
【0014】
本願発明の函体連結構造は、球面座金をさらに備えたものとすることもできる。この球面座金は、固定座挿通孔が設けられる固定座と、可動座挿通孔が設けられる可動座とを含む部材である。なお、固定座の上面には椀形に窪んだ湾曲凹部が形成され、この湾曲凹部は固定座挿通孔に連通している。また可動座は、底面と上面(ただし、底面より面積が大きい)、側壁面を含む円錐台の形状とされる。そして、テーパー座金と重なるように、しかもテーパー座金よりも個別函体の内部側となるように、球面座金を配置する。このとき可動座は、その底面が固定座側となるように、しかも可動座の側壁面の一部が湾曲凹部内に収まるように配置される。これにより、連結ボルトに可動座挿通孔と固定座挿通孔を嵌め込んで先行個別函体の内部側に球面座金を配置するとともに、連結ボルトに可動座挿通孔と固定座挿通孔を嵌め込んで後続個別函体の内部側に球面座金を配置したうえで、連結ボルトをナットで締め付けることによって先行個別函体と後続個別函体が連結される。可動座の回転によって、先行個別函体と後続個別函体との相対配置が計画と異なるときであっても、角度調整された連結ボルトをナットで締め付けることができ、すなわち先行個別函体と後続個別函体を連結することができる。
【0015】
本願発明の函体連結構造は、主桁が側部主桁と中央主桁を含んだものとすることもできる。この側部主桁は、トンネル軸方向における前方と後方に配置され、中央主桁は、前方の側部主桁と後方の側部主桁に挟まれて配置される。この場合の継手板は、中央主桁と側部主桁との間に取り付けられる。
【0016】
本願発明の連結函体構築方法は、テーパー座金挿通孔の軸方向がテーパー座金の側壁面と略平行(平行を含む)となるように、テーパー座金挿通孔が形成されたものとすることもできる。なお、テーパー座金の側壁面は、底面に対して略垂直(垂直を含む)とされる。
【0017】
本願発明の連結函体構築方法は、テーパー座金挿通孔の軸方向がテーパー座金の側壁面と傾斜するように、テーパー座金挿通孔が形成されたものとすることもできる。この場合も、テーパー座金の側壁面は、底面に対して略垂直(垂直を含む)とされる。
【0018】
本願発明の連結函体構築方法は、2以上の個別函体が連結された連結函体を地中に構築する方法であって、先行個別函体設置工程と後続個別函体設置工程、連結工程を備えた方法である。このうち先行個別函体設置工程では、地盤を掘削しながら先行個別函体を設置していき、後続個別函体設置工程では、地盤を掘削しながら後続個別函体を設置していき、連結工程では、本願発明の函体連結構造によって先行個別函体と後続個別函体を連結する。なお連結工程では、先行個別函体と後続個別函体それぞれの継手板挿通孔に連結ボルトを挿通し、連結ボルトにテーパー座金挿通孔を嵌め込んで先行個別函体の内部側にテーパー座金を配置するとともに、連結ボルトにテーパー座金挿通孔を嵌め込んで後続個別函体の内部側にテーパー座金を配置したうえで、連結ボルトをナットで締め付けることによって先行個別函体と後続個別函体を連結する。
【0019】
本願発明の連結函体構築方法は、先行個別函体と後続個別函体との相対配置を計測する測量工程をさらに備えた方法とすることもできる。この場合、連結工程では、測量工程によって得られた相対配置に応じて、あらかじめ用意された2種類(底面に対する上面の傾斜角が異なる)以上のテーパー座金の中から1のテーパー座金を選択するとともに、選択されたテーパー座金を使用して先行個別函体と後続個別函体を連結する。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の函体連結構造、及び連結函体構築方法には、次のような効果がある。
(1)テーパー座金に傾斜を設けるとともに、継手板挿通孔にクリアランスを設けた効果で、先行個別函体と後続個別函体の相対配置にある程度のズレが生じたとしても、角度を調整したうえで連結ボルトを挿通することができ、すなわち先行個別函体と後続個別函体を連結することができる。
(2)個別函体を構成する鋼材を適切に設計することで、すなわち適切な材質(例えば、SM570など)や形状、寸法の鋼材を採択することで、目的の剛性や強度を有する個別函体を得ることができる。その結果、複数の個別函体からなる函体連結構造を本設構造として評価することができる。
(3)また、函体連結構造の剛性(特に、鋼製部材)を適正に評価することによって、個別函体内の空間に配置される主筋を省略することもでき、この場合は従来技術に比して作業性が大幅に向上する。
(4)連結するためのほとんどの作業を個別函体内で行い、しかも連結ボルトなど本願発明で使用される部材の多くが軽量であることから、安全かつ容易に連結作業を行うことができる。
(5)連結するための複雑な構造を必要としないため、充填するコンクリートやモルタルが細部に行き届かないといった不具合が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)は連結函体を模式的に示す断面図、(b)は連結函体の一部を模式的に示す縦断図。
【
図2】(a)は個別函体をトンネル軸方向に見た正面図、(b)は個別函体の壁体の一部を示すA-A矢視断面図、(c)は個別函体の壁体の一部を示すB-B矢視断面図。
【
図3】(a)はスキンプレートが設置された個別函体を横断方向に見た側面図、(b)はスキンプレートが取り外された個別函体を横断方向から見た側面図。
【
図4】(a)は本願発明の函体連結構造によって連結された左個別函体と右個別函体を概ねトンネル軸方向に見た斜視図、(b)は本願発明の函体連結構造の一部を示す部分斜視図。
【
図5】(a)はテーパー座金を模式的に示す平面図、(b)はテーパー座金を模式的に示す側面図。
【
図6】(a)は軸方向が側壁面に対して略平行となるようにテーパー座金挿通孔が形成された垂直式テーパー座金を示す断面図、(b)は軸方向が側壁面に対して傾斜するようにテーパー座金挿通孔が形成された傾斜式テーパー座金を示す断面図。
【
図7】(a)は個別函体の主桁に取り付けられた継手板を横断方向に見た側面図、(b)は継手板の一部を示すC-C矢視の水平断面図、(c)は継手板の一部を示すD-D矢視の鉛直断面図、(d)は連結ボルトの径と継手板挿通孔の径の大小関係を示す平面図。
【
図8】(a)は鉛直方向のズレが生じた左個別函体と右個別函体を函体連結構造によって連結した状態を模式的に示す斜視図、(b)は鉛直方向のズレが生じた左個別函体と右個別函体を連結した函体連結構造の一部を示す部分斜視図。
【
図9】鉛直方向のズレが生じた左個別函体と右個別函体を連結した函体連結構造の一部を示す部分鉛直断面図。
【
図10】(a)は固定座と可動座からなる球面座金を模式的に示す側面図、(b)はテーパー座金に重なるように配置された球面座金を模式的に示す斜視図。
【
図11】(a)は固定座を模式的に示す平面図、(b)は固定座を模式的に示す側面図。
【
図12】(a)は可動座を模式的に示す平面図、(b)は可動座を模式的に示す側面図。
【
図13】可動座が固定座に対して回転可能であることを説明する側面図。
【
図14】球面座金を含む函体連結構造の一部を示す部分鉛直断面図。
【
図15】本願発明の連結函体構築方法の主な工程を示すフロー図。
【
図16】地盤改良が施された接続部をトンネル軸方向に見た断面図。
【
図17】(a)は傾斜角が比較的大きいテーパー座金を示す側面図、(b)は傾斜角が比較的小さいテーパー座金を示す側面図。
【
図18】19の函体からなる覆工体と覆工体によって確保された地下空間を模式的に示す断面図。
【
図19】(a)はトンネル軸方向に並ぶように設置された複数の函体を模式的に示す縦断図、(b)は断面方向に隣接する函体を模式的に示す斜視図。
【
図20】連結ボルトを利用して隣接する函体どうしを連結した状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の函体連結構造、及び連結函体構築方法の例を図に基づいて説明する。
【0023】
1.全体概要
図1は、連結函体100を模式的に示す図であり、(a)は鉛直面で切断した断面図、(b)は連結函体100の一部を示す縦断図である。この
図1(a)に示すように連結函体100は、複数(図では19)の函体(以下、便宜上ここでは「個別函体200」という。)が連結された構造であり、周辺地山からの荷重を支持することで(つまり、覆工体として機能することで)安定した地下空間USを形成することができるものである。
【0024】
また
図1(b)に示すように、複数の個別函体200が連続配置されることによってトンネル構造(以下、便宜上ここでは「単位トンネル110」という。)が形成される。この単位トンネル110は、地中発進部(例えば、発進立坑)や地中到達部(例えば、到達立坑)を設けたうえで地中発進部から推進工法やシールド工法により掘進し、中空の個別函体200を連続配置していくことで構築される。つまり、連結函体100は複数(
図1では19)の単位トンネル110によって構成される立体的な構造であり、地下空間USはいわば大規模断面のトンネルとして形成されるわけである。なお便宜上ここでは、
図1に示すように、トンネル(単位トンネル110や地下空間US)の軸方向のことを「トンネル軸方向」、このトンネル軸方向に直交する水平方向のことを「横断方向」ということとする。
【0025】
2.函体連結構造
本願発明の函体連結構造について説明する。なお、本願発明の連結函体構築方法は、本願発明の函体連結構造を用いて連結函体100を構築する方法である。したがって、まずは本願発明の函体連結構造について説明し、その後に本願発明の連結函体構築方法について説明することとする。
【0026】
図2は、個別函体200を模式的に示す図であり、(a)はトンネル軸方向に見た正面図、(b)は個別函体200を構成する壁体の一部を示すA-A矢視(
図1(a))の断面図、(c)は壁体の一部を示すB-B矢視(
図1(a))の断面図である。また
図3は、個別函体200を横断方向に見た側面図であり、(a)はスキンプレート220が設置された状態を示し、(b)はスキンプレート220が取り外された状態を示している。
【0027】
図2(a)や
図3に示すように個別函体200は、断面視が略四角形(四角形を含む)であり、その内部に空間(以下、「開口部」という。)が設けられた概ね箱型の形状である。より詳しくは、上下左右に配置された4つの壁体をそれぞれ端部で連結することによって個別函体200が形成されており、これら4つの壁体によってトンネル軸方向に貫通する開口部が形成される。換言すれば、開口部の周囲には4つの壁体が配置されているわけである。個別函体200の形状として一例を挙げれば、長さ(横断方向)寸法を5m、幅(トンネル軸方向)寸法を1m、高さ寸法を2.5mなどとすることができる。
【0028】
開口部の周囲に配置されるそれぞれの壁体は、主桁210とスキンプレート220によって形成される。例えば、左右に配置される左壁体や右壁体は、
図2(b)に示すように主桁210とスキンプレート220によって形成され、概ね左壁体(右壁体)の全長にわたって配置される主桁210にスキンプレート220が溶接等によって取り付けられた構成とされる。上下に配置される上壁体や下壁体も、
図2(c)に示すように左壁体や右壁体と同様の構成とされる。なお主桁210は、例えば鋼板などの鋼材を利用することができ、一方のスキンプレート220も鋼板などの鋼材を利用することができる。また、後述するようにスキンプレート220は施工中に取り外される(
図3(b))ため、比較的取り外しやすい手法によってスキンプレート220を主桁210に取り付けるとよい。
【0029】
壁体を構成する主桁210は、中央主桁211と側部主桁212によって形成することができる。例えば
図3(b)に示すように、トンネル軸方向における前方と後方にそれぞれ配置される側部主桁212と、これら側部主桁212に挟まれた位置(つまり、トンネル軸方向における中間付近)に配置される中央主桁211によって、主桁210を形成することができる。あるいは、中央主桁211のみによって主桁210を形成したり、前後の側部主桁212のみによって主桁210を形成したりするなど、中央主桁211と側部主桁212からなる種々の組み合わせ(中央主桁211や側部主桁212の配置数など)によって主桁210を形成することができる。
【0030】
当然ながら個別函体200は、想定される種々の荷重に耐え得るように設計される。具体的には、個別函体200の長さ寸法や幅寸法、高さ寸法が設計計算に基づいて決定され、壁体(左壁体と右壁体、上壁体、下壁体)の材料や寸法といった仕様も設計計算に基づいて決定される。特に、壁体を構成する主桁210は、供用時における外力を主に負担する部材とされることから、利用する鋼材の材質(SM570など)と、肉厚寸法や幅寸法などが詳細に設計される。例えば、主桁210を相当な剛性や強度を有するものとして設計することで、最終的に開口部内にコンクリートを充填した連結函体100を、構造鉄筋の配置を省略した無筋のコンクリート造としたり、あるいは構造鉄筋のうちせん断補強筋のみを配置したコンクリート造としたりすることができる。
【0031】
図4は、隣接する個別函体200が本願発明の函体連結構造300によって連結された状態を模式的に示す図であり、(a)は概ねトンネル軸方向に見た斜視図、(b)は函体連結構造300の一部を示す部分斜視図である。連結函体100を構成する個別函体200は、
図1に示すように左右に隣接することもあれば、上下あるいは斜方向に隣接することもあるが、便宜上ここでは個別函体200が左右に隣接する例で説明する。そこで
図4に示すように、隣接する2つの個別函体200のうち左側に配置されたもの(例えば、先行の個別函体200)を左個別函体200L、右側に配置されたもの(例えば、後続の個別函体200)を右個別函体200Rということとする。
【0032】
本願発明の函体連結構造300は、
図4(b)に示すように連結ボルト310とテーパー座金320、継手板330を含んで構成され、さらに後述する球面座金を含んで構成することもできる。継手板330は、連結ボルト310を挿通するための貫通孔(以下、「継手板挿通孔330H」という。)を有しており、隣接する個別函体200のうち対向配置された主桁210の一部に取り付けられる。より詳しくは、左個別函体200Lを構成する主桁210のうち右壁体の主桁210に継手板330が取り付けられるとともに、右個別函体200Rを構成する主桁210のうち左壁体の主桁210に継手板330が取り付けられる。
【0033】
以下、本願発明の函体連結構造300を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0034】
(テーパー座金)
図5は、テーパー座金320を模式的に示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその側面図である。テーパー座金320は、
図5(a)に示すように連結ボルト310を挿通するための貫通孔(以下、「テーパー座金挿通孔320H」という。)を有しており、
図5(b)に示すように上面320Tと底面320B、側壁面320Sによって形成される。便宜上ここでは、側壁面320Sに対して略垂直(垂直を含む)となる面を底面320Bとする。なおこの図では、テーパー座金320の平面形状が円形の例を示しており、そのため全体的にはいわばドーナツ状とされ、側壁面320Sが曲面とされている。もちろん、テーパー座金320の平面形状は円形に限らず、角形(四角形や他の多角形)や長円形など他の形状とすることもできる。
【0035】
図6(a)に示すようにテーパー座金挿通孔320Hは、その軸方向が側壁面320Sに対して略平行(平行を含む)となるように、つまりその軸方向が底面320Bに対して略垂直(垂直を含む)となるように形成することができる。あるいは
図6(b)に示すように、その軸方向が側壁面320Sや底面320Bに対して傾斜するように、テーパー座金挿通孔320Hを形成することもできる。
図6(a)に示すテーパー座金320(以下、「垂直式テーパー座金320V」という。)は、中空の円柱体を切断するだけで製作することができるため容易かつ低コストで製作することができる。これに対して
図6(b)に示すテーパー座金320(以下、「傾斜式テーパー座金320D」という。)は、中実の円柱体を斜めに切断した後、切断面(テーパー面)に対して略垂直(垂直を含む)に削孔することでテーパー座金挿通孔320Hを設ける必要があり、 垂直式テーパー座金320Vに比べ製作に手間やコストがかかる。
【0036】
一方、後述するように継手板330には補強材331が取り付けられることもあるが、この場合、垂直式テーパー座金320Vは、その側壁面320Sと補強材331とのスペースが狭隘となり、このスペースで行う作業の施工性は低下する。これに対して傾斜式テーパー座金320Dは、その側壁面320Sと補強材331とのスペースを比較的大きく確保することができ、このスペースで行う作業の施工性は垂直式テーパー座金320Vに比べ向上する。
【0037】
上面320Tは底面320Bに対して傾斜した姿勢とされ、側面視するといわゆるテーパー形状とされる。本願発明は、左個別函体200Lと右個別函体200Rの「相対配置」が計画と相当程度異なり、すなわち左個別函体200Lと右個別函体200Rとの間に相当の「ズレ」が生じたときであっても、左個別函体200L(あるいは、右個別函体200R)の位置を再調整することなく、連結ボルト310によって双方の個別函体200を連結することができる。なおここでいう「ズレ」には、左個別函体200Lと右個別函体200Rとの間に生ずるトンネル軸方向の較差(つまり、水平方向のズレ)や、高さ方向の較差(つまり、鉛直方向のズレ)などが含まれる。例えば、左個別函体200Lと右個別函体200Rとの間に鉛直方向のズレが生じた場合、連結ボルト310は鉛直方向に傾斜して配置されることになり、つまり略鉛直となる個別函体200側面に対して連結ボルト310は垂直に配置することができず、その結果、通常の支圧板(プレート)を使用したのではナットを締め付けることができない。そこで本願発明では、個別函体200間に生ずるズレに対応し得るように、換言すればこのズレを吸収することができるように、テーパー座金挿通孔320Hをその上面320Tが底面320Bに対して傾斜したテーパー形状としたわけである。
【0038】
(継手板)
図7は、継手板330を模式的に示す図であり、(a)は個別函体200の主桁210に取り付けられた継手板330を横断方向に見た側面図、(b)は継手板330の一部を示すC-C矢視(
図7(a))の水平断面図、(c)は継手板330の一部を示すD-D矢視(
図7(a))の鉛直断面図、(d)は連結ボルト310の径と継手板挿通孔330Hの径の大小関係を示す平面図である。
【0039】
既述したとおり継手板330は、継手板挿通孔330Hを有しており、隣接する個別函体200のうち対向配置された主桁210の一部に取り付けられる。例えば
図4(a)では、1の側壁体(左壁体や右壁体)に対して上下左右の4箇所に継手板330が取り付けられており、継手板330にはそれぞれ4箇所の継手板挿通孔330Hが設けられている。もちろん継手板挿通孔330Hの数は任意に設計することができ、継手板330に1つの継手板挿通孔330Hを設けることもできるし、継手板330に2以上の継手板挿通孔330Hを設けることもできる。
【0040】
個別函体200の主桁210が中央主桁211と側部主桁212によって構成される場合、
図7(b)に示すように継手板330は、主桁210が中央主桁211と側部主桁212との間であって、スキンプレート220側(
図2)となるように取り付けるとよい。継手板330を主桁210に取り付けるにあたっては、溶接など従来用いられている種々の接合技術を採用することができる。
【0041】
内部に継手板挿通孔330Hを設けることから、その板厚や材質によるものの継手板330には補強材331を取り付けるとよい。例えば
図7(c)では、鋼板からなる補強材331を上下3段で配置して継手板330を補強している。もちろん補強材331は、1段配置とすることもできるし、2段以上で配置することもできる。また補強材331を継手板330に取り付けるにあたっては、溶接など従来用いられている種々の接合技術を採用することができる。
【0042】
上記したとおり本願発明は、連結ボルト310が鉛直方向(あるいは、水平方向)に傾斜して配置されたとしても適切にナットを締め付けることができるものであり、換言すれば傾斜配置された連結ボルト310を許容するものである。そのため継手板330に設けられる継手板挿通孔330Hは、連結ボルト310の断面寸法(径)よりも大きな孔径で形成するとよい。具体的には
図7(d)に示すように、継手板挿通孔330Hに対して略垂直(垂直を含む)に挿通された連結ボルト310の周囲に、所定のクリアランスCLが設けられる孔径で継手板挿通孔330Hを形成する。これにより、ある程度傾斜した状態の連結ボルト310であっても、継手板挿通孔330Hに挿通することができるわけである。
【0043】
(テーパー座金による連結構造)
図8は、鉛直方向のズレが生じた左個別函体200Lと右個別函体200Rを、本願発明の函体連結構造300によって連結した状態を模式的に示す図であり、(a)は概ねトンネル軸方向に見た斜視図、(b)は函体連結構造300の一部を示す部分斜視である。この図に示すように、左個別函体200Lと右個別函体200Rとの間に鉛直方向のズレが生じ、連結ボルト310が鉛直方向に傾斜して配置されても、クリアランスCLが設けられる孔径とした効果で連結ボルト310を継手板挿通孔330Hに挿通することができ、しかもテーパー座金挿通孔320Hをテーパー形状(ただし側面視)とした効果でナットによって連結ボルト310を締め付けることができ、すなわち左個別函体200Lと右個別函体200Rが適切に連結されている。なお連結ボルト310の傾斜に応じて、より詳しくは連結ボルト310の傾斜に対して略垂直(垂直)となるようなテーパー形状のテーパー座金320を選定して使用するとよい。
【0044】
図9は、
図8(b)に示す部分をトンネル軸方向に見た(つまり、横断方向の鉛直面で切断した)断面図である。以下、
図9に示す函体連結構造300を構築する主な手順について説明する。左個別函体200Lと右個別函体200Rの主桁210にはそれぞれ継手板330が取り付けられており、まずは右個別函体200R側の継手板330の継手板挿通孔330Hに連結ボルト310を挿通し、その後に左個別函体200L側の継手板330の継手板挿通孔330Hに連結ボルト310を挿通する。このとき、連結ボルト310の周囲にクリアランスCLが設けられる孔径で継手板挿通孔330Hが形成されている効果で、鉛直方向に傾斜する連結ボルト310も容易に継手板挿通孔330Hに挿通することができる。
【0045】
左個別函体200Lの内部側では、継手板330から突出した連結ボルト310にテーパー座金挿通孔320Hを嵌め込んでテーパー座金320を配置し、さらに支圧板PLとナットNTも配置する。同様に、右個別函体200Rの内部側でも、継手板330から突出した連結ボルト310にテーパー座金挿通孔320Hを嵌め込んでテーパー座金320を配置し、さらに支圧板PLとナットNTも配置する。そして、両側のナットNTを締め込むことによって連結ボルト310に引張力を与えながら、左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結する。このとき、テーパー座金320をテーパー形状とした効果で、確実にナットNTを締め付けることができる。
【0046】
(球面座金)
既述したとおり本願発明の函体連結構造300は、球面座金340をさらに含んだ構成とすることもできる。
図10は球面座金340を模式的に示す図であり、(a)は固定座341と可動座342からなる球面座金340を示す側面図、(b)はテーパー座金320に重なるように配置された球面座金340を示す斜視図である。
図10(a)に示すように、球面座金340は固定座341と可動座342からなり、また
図10(b)に示すように、球面座金340はテーパー座金320に重なるように配置される。
【0047】
図11は、固定座341を模式的に示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその側面図である。固定座341は、
図11(a)に示すように連結ボルト310を挿通するための貫通孔(以下、「固定座挿通孔341H」という。)を有しており、
図11(b)に示すように上面341Tと底面341B、側壁面341Sによって形成される。そして固定座341の上面341Tには、椀形に窪んだ(図では、下方に窪んだ)湾曲凹部341Dが形成されており、この湾曲凹部341Dは固定座挿通孔341Hに連通している。なおこの図では、固定座341の平面形状が円形の例を示しており、そのため全体的にはいわばドーナツ状とされ、側壁面341Sが曲面とされている。もちろん、固定座341の平面形状は円形に限らず、角形(四角形や他の多角形)や長円形など他の形状とすることもできる。
【0048】
図12は、可動座342を模式的に示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその側面図である。可動座342は、
図12(a)に示すように連結ボルト310を挿通するための貫通孔(以下、「可動座挿通孔342H」という。)を有しており、
図12(b)に示すように上面342Tと底面342B、側壁面342Sによって形成される。可動座342の上面342Tは、底面342Bよりも大きな平面寸法(径)とされる。また可動座342の外形は、球体を平行な2面で切断した「円錐台」の形状とされ、つまり側壁面342Sは曲面とされる。なおこの図では、可動座342の平面形状が円形の例を示しているが、もちろん可動座342の平面形状は円形に限らず、角形(四角形や他の多角形)や長円形など他の形状とすることもできる。
【0049】
図13は、可動座342が固定座341に対して回転可能であることを説明する側面図である。この図に示すように可動座342は、その底面342Bが固定座341側となるように、しかも固定座341よりも個別函体200の内部側(つまり中央側)となるように配置される。また可動座342は、その側壁面342Sの一部が固定座341の湾曲凹部341D内に収まるように、固定座341と重ねて配置される。したがって、曲面(球面の一部)の湾曲凹部341Dと、同じく曲面(球面の一部)の側壁面342Sが当接することとなり、その結果、可動座342は固定座341に対して回転可能とされる。なお便宜上この図では、紙面内(いわば2次元平面内)で回転するような矢印を示しているが、球面の側壁面342Sが球面の湾曲凹部341Dに接しているため、固定座341は紙面奥行方向を含めいわば3次元空間内で任意に回転することができる。
【0050】
(球面座金とテーパー座金による連結構造)
図14は、球面座金340を含む函体連結構造300の一部をトンネル軸方向に見た(つまり、横断方向の鉛直面で切断した)断面図である。なおこの図に示す左個別函体200Lと右個別函体200Rは、
図9と同様、鉛直方向のズレが生じている。以下、
図14に示す函体連結構造300を構築する主な手順について説明する。左個別函体200Lと右個別函体200Rの主桁210にはそれぞれ継手板330が取り付けられており、まずは右個別函体200R側の継手板330の継手板挿通孔330Hに連結ボルト310を挿通し、その後に左個別函体200L側の継手板330の継手板挿通孔330Hに連結ボルト310を挿通する。このとき、連結ボルト310の周囲にクリアランスCLが設けられる孔径で継手板挿通孔330Hが形成されている効果で、鉛直方向に傾斜する連結ボルト310も容易に継手板挿通孔330Hに挿通することができる。
【0051】
左個別函体200Lの内部側では、継手板330から突出した連結ボルト310に、テーパー座金挿通孔320Hを嵌め込んでテーパー座金320を配置するとともに、固定座挿通孔341Hを嵌め込んで固定座341を配置し、さらに可動座挿通孔342Hを嵌め込んで可動座342を配置したうえで、最後にナットNTを配置する。同様に、右個別函体200Rの内部側でも、継手板330から突出した連結ボルト310に、テーパー座金挿通孔320Hを嵌め込んでテーパー座金320を配置するとともに、固定座挿通孔341Hを嵌め込んで固定座341を配置し、さらに可動座挿通孔342Hを嵌め込んで可動座342を配置したうえで、最後にナットNTを配置する。そして、両側のナットNTを締め込むことによって連結ボルト310に引張力を与えながら、左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結する。このとき、可動座342が固定座341に対して回転するため連結ボルト310の角度を調整することができ、さらにテーパー座金320をテーパー形状とした効果もあって、確実にナットNTを締め付けることができる。
【0052】
3.連結函体構築方法
続いて、本願発明の連結函体構築方法ついて説明する。なお、本願発明の連結函体構築方法は、本願発明の函体連結構造300を用いて連結函体100を構築する方法である。したがって、函体連結構造300について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の連結函体構築方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.函体連結構造」で説明したものと同様である。
【0053】
図15は、本願発明の連結函体構築方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すように、本願発明に係る連結函体100を構築するにあたっては、まず地中発進部(例えば、発進立坑)と地中到達部(例えば、到達立坑)を構築する(
図15のStep401)。また、計画された他の仮設備や装置を設置し、その後、最初の単位トンネル110を構築していく(
図15のStep402)。以下、単位トンネル110を構築する手順について説明する。なお、単位トンネル110の掘進は、推進工法やシールド工法、その他の従来工法によって実施することができるが、便宜上ここでは推進工法によって掘進する例で説明する。
【0054】
単位トンネル110を構築するには、まず地中発進部内に推力設備を設置する。そして、地中発進部内に降ろされた推進機によって地盤を掘削していく。ただし、連結函体100を構成する個別函体200が断面視で略四角形であることから、矩形断面用の推進機(矩形推進機)を利用するとよい。推進機が地盤を掘進していくと、同時に推力設備が個別函体200を切羽方向(トンネル軸方向)に押していく。なお個別函体200は、推進機の坑口(地中発進部)側からトンネル軸方向に並ぶように設置され、掘進が進むたびに地中発進部から個別函体200が供給されながら、推力設備が個別函体200全体を押していく。このように、推進機が地中到達部に到達するまで「地盤の掘進~個別函体200の推進」を繰り返すことで、単位トンネル110が構築される(
図15のStep405)。
【0055】
最初の単位トンネル110が構築されると、その隣接する位置に後続の単位トンネル110を構築していく。具体的には、上記したように推進機(矩形推進機)によって地盤を掘進し(
図15のStep403)、推力設備によって個別函体200を切羽方向に移動させる(
図15のStep404)。この一連の工程(地盤の掘進~個別函体200の推進)を、推進機が地中到達部に到達するまで繰り返し行うことで後続の単位トンネル110を構築する(
図15のStep405)。
【0056】
後続の単位トンネル110が構築され、すなわち先行の単位トンネル110と後続の単位トンネル110が併設されると、
図16に示すように2つの単位トンネル110の間には地山部分(以下、「接続部分」という。)が残される。最終的には、この接続部分にもコンクリートが充填されるため接続部分を掘削する必要があるが、掘削作業を行う者の安全を図るため、さらには止水のために周辺地盤の地盤改良を行う(
図15のStep406)。例えば
図16では、接続部分の上方箇所と下方箇所に対して薬液注入を行うことで当該地盤を改良している。
【0057】
接続部分の地盤改良を行うと、個別函体200の開口部側からスキンプレート220を取り外す。このとき、個別函体200が向かい合っている壁体のスキンプレート220のみを取り外す。例えば、2つの個別函体200が左右に隣接している場合、左個別函体200Lの右壁体のスキンプレート220を取り外し、右個別函体200Rの左壁体のスキンプレート220を取り外すわけである。所定のスキンプレート220を取り外すと、開口部側から接続部分の地盤を掘削する(
図15のStep407)。
【0058】
接続部分の地盤掘削を行うと、先行の個別函体200(便宜上ここでは、左個別函体200Lとする。)と後続の個別函体200(便宜上ここでは、右個別函体200Rとする。)の配置位置(つまり、相対配置)を確認するための測量を行う(
図15のStep408)。ここでの測量としては、トータルステーション(TS:Total Station)を用いた計測など、従来用いられている種々の測量技術を利用することができる。
【0059】
個別函体200の測量を行うと、隣接する左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結する。以下、左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結する主な手順について詳しく説明する。まずは右個別函体200R側の継手板330の継手板挿通孔330Hに連結ボルト310を挿通し、その後に左個別函体200L側の継手板330の継手板挿通孔330Hに連結ボルト310を挿通する。次いで、左個別函体200Lの内部側において、継手板330から突出した連結ボルト310に、テーパー座金挿通孔320Hを嵌め込んでテーパー座金320を配置するとともに、固定座挿通孔341Hを嵌め込んで固定座341を配置し、さらに可動座挿通孔342Hを嵌め込んで可動座342を配置したうえで、最後にナットNTを配置する。同様に、右個別函体200Rの内部側においても、継手板330から突出した連結ボルト310に、テーパー座金挿通孔320Hを嵌め込んでテーパー座金320を配置するとともに、固定座挿通孔341Hを嵌め込んで固定座341を配置し、さらに可動座挿通孔342Hを嵌め込んで可動座342を配置したうえで、最後にナットNTを配置する。そして、両側のナットNTを締め込むことによって連結ボルト310に引張力を与えながら、左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結する。
【0060】
ところで、個別函体200の測量(
図15のStep408)を行うと、左個別函体200Lと右個別函体200Rとの相対配置を把握することができ、すなわち配置する連結ボルト310の傾斜を推測することができる。一方、ここで用いるテーパー座金320は、連結ボルト310の傾斜に対して略垂直(垂直)となるようなテーパー形状のものが望ましい。とはいえ、連結ボルト310の傾斜は左個別函体200Lと右個別函体200Rとの組合わせごとに異なるため、1種類のテーパー座金320ではそのテーパー形状が必ずしも連結ボルト310に対して略垂直とはならない。
【0061】
そこで、底面320Bに対する上面320Tの傾斜角がそれぞれ異なる2以上の種類のテーパー座金320をあらかじめ用意しておくとよい。例えば、
図17では傾斜角が異なる2種類のテーパー座金320を示しており、(a)は傾斜角が比較的大きい(急な)テーパー座金320、(b)は傾斜角が比較的小さい(緩やかな)テーパー座金320をそれぞれ示している。もちろん、用意するテーパー座金320は2種類に限らず状況に応じて所望の種類だけ用意することができる。この場合、個別函体200の測量により連結ボルト310の傾斜を推測すると、その傾斜角度に応じて、すなわち連結ボルト310の傾斜に対して略垂直となるような(その角度に最も近い)テーパー形状のテーパー座金320を選択し、その選択されたテーパー座金320を使用して左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結する。
【0062】
ここまで説明した一連の工程(
図15のStep403~Step409)を行うことによって先行の単位トンネル110と後続の単位トンネル110が連結されると、さらにこの一連の工程を繰り返し行うことによって例えば
図1に示すような連結函体100が構築される(
図15のStep410)。なお、この段階では連結函体100を構成する個別函体200の開口部は中空のままであり、連結函体100はいわば「外郭体」である。設計条件等によってはこの外郭体を連結函体100の完成形とすることもできるが、通常は個別函体200の開口部や、隣接する個別函体200間の接続部にはコンクリートが充填される。この場合、まずは必要な鉄筋(例えば、せん断補強筋)を配置し(
図15のStep411)、開口部と接続部に所定強度を有するコンクリート(例えば、高強度コンクリート)を充填する(
図15のStep412)。
【0063】
充填したコンクリートが十分硬化するとコンクリート造の連結函体100が完成し(
図15のStep413)、連結函体100の内部を掘削する(
図15のStep414)ことによって、地下空間USが形成される(
図15のStep415)。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本願発明の函体連結構造、及び連結函体構築方法は、地下街や地下鉄の駅舎のほか、地下に構築される道路トンネルや鉄道トンネル、上下水道用のトンネル、共同溝や電力通信用のトンネルの構築に際して利用することができる。本願発明によれば効率的にトンネル構造物という社会基盤(社会インフラストラクチャ)を構築することができることを考えると、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0065】
100 連結函体
110 (函体連結構造の)単位トンネル
200 (函体連結構造の)個別函体
200L (個別函体のうちの)左個別函体
200R (個別函体のうちの)右個別函体
210 (個別函体の)主桁
211 (主桁のうちの)中央主桁
212 (主桁のうちの)側部主桁
220 (個別函体の)スキンプレート
300 本願発明の函体連結構造
310 (函体連結構造の)連結ボルト
320 (函体連結構造の)テーパー座金
320B (テーパー座金の)底面
320D (テーパー座金のうちの)傾斜式テーパー座金
320H (テーパー座金の)テーパー座金挿通孔
320S (テーパー座金の)側壁面
320T (テーパー座金の)上面
320V (テーパー座金のうちの)垂直式テーパー座金
330 (函体連結構造の)継手板
330H (継手板の)継手板挿通孔
331 (継手板の)補強材
340 (函体連結構造の)球面座金
341 (球面座金の)固定座
341B (固定座の)底面
341D (固定座の)湾曲凹部
341H (固定座の)固定座挿通孔
341S (固定座の)側壁面
341T (固定座の)上面
342 (球面座金の)可動座
342B (可動座の)底面
342H (可動座の)可動座挿通孔
342S (可動座の)側壁面
342T (可動座の)上面
BN ボルト
CL クリアランス
LB 長ボルト
LN 覆工体
PB 函体
PL 支圧板
SP 空間
US 地下空間