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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041157
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】オイルダイリューション解消装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240319BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20240319BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20240319BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
F02D45/00 366
F16H59/74
F16H61/02
F16H63/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145808
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】萩原 直範
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢羽
(72)【発明者】
【氏名】杉江 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亘佑
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠真
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晶吾
【テーマコード(参考)】
3G384
3J552
【Fターム(参考)】
3G384BA43
3G384DA44
3G384EA11
3G384FA01B
3G384FA06Z
3G384FA28Z
3G384FA37Z
3J552MA01
3J552MA07
3J552MA12
3J552NB01
3J552PA21
3J552TA10
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VB01W
3J552VC01W
3J552VC02W
3J552VD02W
(57)【要約】
【課題】燃料がエンジンオイルに混ざることにより生じるオイルダイリューションを迅速に解消することが可能なオイルダイリューション解消装置を提供する。
【解決手段】ECU80は、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量に基づいて、エンジン20のフリクションを推定し、当該アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量が所定のしきい値以下に低下した場合に、オイルダイリューションが生じていると判断して、エンジン20をより高回転で運転するため、TCU50に対して、エンジン20がより高回転で運転されるように、自動変速機30の変速制御を行うよう要求する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料がエンジンオイルに混ざることにより生じるオイルダイリューションを解消するオイルダイリューション解消装置であって、
エンジンのフリクションを推定し、該エンジンのフリクションが所定のしきい値以下に低下した場合に、オイルダイリューションが生じていると判断して、前記エンジンをより高回転で運転するように制御を行うコントロールユニットを備えることを特徴とするオイルダイリューション解消装置。
【請求項2】
前記コントロールユニットは、
アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量に基づいて、前記エンジンのフリクションを推定し、
当該アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量が所定のしきい値以下に低下した場合に、オイルダイリューションが生じていると判断して、前記エンジンをより高回転で運転するように制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のオイルダイリューション解消装置。
【請求項3】
前記コントロールユニットは、前記エンジンをより高回転で運転するように制御を行う際に、前記エンジンが発生するトルクを変換して出力する自動変速機の変速比を、前記エンジンがより高回転で運転されるように制御することを特徴とする請求項2に記載のオイルダイリューション解消装置。
【請求項4】
前記コントロールユニットは、前記アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量の低下が大きくなるほど、前記エンジンがより高回転で運転されるように、前記自動変速機の変速比を制御することを特徴とする請求項3に記載のオイルダイリューション解消装置。
【請求項5】
前記コントロールユニットは、前記エンジンの暖機完了後に前記オイルダイリューションの解消を図る制御を実行することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のオイルダイリューション解消装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料がエンジンオイルに混ざることにより生じるオイルダイリューションを解消するオイルダイリューション解消装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンでは、燃料がエンジンオイルと混ざることにより、エンジンオイルが希釈される所謂オイルダイリューション(オイル希釈)が生じることがある。特に、燃料がシリンダ内に直接噴射される筒内噴射エンジンにおいては、例えば、燃料がシリンダの内周面に付着し、その燃料がエンジンオイルと混ざり合うことにより、燃料によるエンジンオイルの希釈(オイルダイリューション)が生じやすくなる。
【0003】
そして、オイルダイリューションが生じた場合、例えば、エンジンオイルに混入した燃料が揮発して、多量の燃料を含んだブローバイガスが吸気系に導入(吸入)されることにより、空燃比に乱れ(例えばリッチ化)が生じることがある。
【0004】
ここで、特許文献1には、エンジンオイル中の燃料の揮発による空燃比の乱れをより速やかに抑える技術が開示されている。より詳細には、この技術では、吸気中へのブローバイガスの放出量に比例する値として反映率REFが設定され、その反映率REFを希釈学習値LDILに乗算した積を補正値として燃料噴射量が補正され、エンジンオイルの燃料希釈量が既定値以上であることを条件に、空燃比F/B補正値FAFの値が0に近づくように希釈学習値LDILの値が更新される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-131940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1の技術によれば、エンジンオイル中の燃料の揮発による空燃比の乱れをより速やかに抑えることができる。しかしながら、特許文献1の技術では、空燃比の乱れの原因であるオイルダイリューションを迅速に解消することは考慮されていない。そのため、オイルダイリューションによるエンジンオイルの性能低下(機能低下)等を防止することができなかった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、燃料がエンジンオイルに混ざることにより生じるオイルダイリューションを迅速に解消することが可能なオイルダイリューション解消装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るオイルダイリューション解消装置は、燃料がエンジンオイルに混ざることにより生じるオイルダイリューションを解消するオイルダイリューション解消装置であって、エンジンのフリクションを推定し、該エンジンのフリクションが所定のしきい値以下に低下した場合に、オイルダイリューションが生じていると判断して、エンジンをより高回転で運転するように制御を行うコントロールユニットを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃料がエンジンオイルに混ざることにより生じるオイルダイリューションを迅速に解消することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るオイルダイリューション解消装置、及び、該オイルダイリューション解消装置が適用されたエンジン並びに自動変速機の構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係るオイルダイリューション解消装置によるオイルダイリューション解消制御の処理手順を示すフローチャートである。
図3】オイルダイリューション解消制御で用いられる自動変速機(ステップAT)の変速線図の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0012】
まず、図1を用いて、実施形態に係るオイルダイリューション解消装置1の構成について説明する。図1は、オイルダイリューション解消装置1、及び、オイルダイリューション解消装置1が適用されたエンジン20並びに自動変速機30の構成を示すブロック図である。
【0013】
エンジン20は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン20では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)87により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン20に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ81により検出される。さらに、スロットルバルブ87には、該スロットルバルブ87の開度を検出するスロットル開度センサ82が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン20の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
【0014】
上述したエアフローメータ81、スロットル開度センサ82に加え、エンジン20のカムシャフト近傍には、エンジン20の気筒判別を行うためのカム角センサ86が取り付けられている。また、エンジン20のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサ85が取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)80に接続されている。また、ECU80には、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダル開度センサ83、及び、エンジン20の冷却水の温度を検出する水温センサ84等の各種センサも接続されている。
【0015】
エンジン20の出力軸(クランクシャフト)21には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ22を介して、エンジン20からの駆動力(トルク)を変換して出力する有段自動変速機(ステップAT)30(特許請求の範囲に記載の自動変速機に相当、以下、単に「自動変速機」ともいう)が接続されている。
【0016】
トルクコンバータ22は、主として、ポンプインペラ23、タービンランナ24、及びステータ25から構成されている。出力軸21に接続されたポンプインペラ23がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ23に対向して配置されたタービンランナ24がオイルを介してエンジン20の動力を受けて出力軸27を駆動する。両者の間に位置するステータ25は、タービンランナ24からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ23に還元することでトルク増幅作用を発生させる。また、トルクコンバータ22は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ26を有している。トルクコンバータ22は、非ロックアップ状態のときはエンジン20の駆動力をトルク増幅して自動変速機30に伝達し、ロックアップ時はエンジン20の駆動力を自動変速機30に直接伝達する。
【0017】
自動変速機30は、変速ギヤ列を含む変速機構31を有して構成されている。より詳細には、変速機構31は、例えば、サンギヤ、リングギヤ、ピニオンギヤ等で構成されるプラネタリギヤを複数有して構成される複数のプラネタリギヤセット32と、該複数のプラネタリギヤセット32の動力伝達経路を切り替える(すなわち変速する)ためのクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素33とを有して構成されている。よって、自動変速機30の変速は、クラッチ等の摩擦係合要素(以下、単に、「クラッチ等」又は「クラッチ」という)33を締結又は解放することにより行われる。なお、変速機構31のハードウェアとしては、公知の機構を用いることができる。
【0018】
なお、自動変速機30としては、プラネタリギヤ式の自動変速機に代えて、例えば、平行に配置された一対の軸それぞれに設けられたギヤ列の組み合わせを、複数の湿式クラッチの締結・解放により選択的に切り替えて有限段数の変速段を得る平行二軸式の有段自動変速機を用いてもよい。また、有段自動変速機(ステップAT)に代えて、例えば、チェーン式やベルト式等の無段変速機(CVT)や、奇数段と偶数段それぞれの変速用ギヤセットに独立したクラッチを有し、これらを順次切替えて変速を行うDCT(Dual Clutch Transmission)等を用いることもできる。
【0019】
エンジン20から入力された駆動力(トルク)は、自動変速機30で変換された後、自動変速機30の出力軸35から、例えば、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ、ドライブシャフト等(図示省略)を介して車両の駆動輪に伝達される。
【0020】
エンジン20は、ECU80により制御される。ECU80は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。ECU80には、上述したように、エアフローメータ81、スロットル開度センサ82、アクセルペダル開度センサ83、水温センサ84、クランク角センサ85、カム角センサ86等の各種センサが接続されている。
【0021】
ECU80では、カム角センサ86の出力から気筒が判別され、クランク角センサ85の出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU80では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及び、水温等の各種情報が取得される。そして、ECU80は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びに、スロットルバルブ87等の各種デバイスを制御することによりエンジン20を総合的に制御する。
【0022】
ここで、ECU80は、CAN(Controller Area Network)100を介して、自動変速機30を制御するトランスミッション・コントロールユニット(以下「TCU」という)50等と相互に通信可能に接続されている。
【0023】
ECU80は、CAN100を介して、エンジン回転数、アクセルペダル開度、エンジントルク、及び、エンジン水温(冷却水温度)、等の情報をTCU50等に対して送信する。
【0024】
自動変速機30を変速させるための油圧、すなわち、上述したクラッチ等33の締結・解放は、バルブボディ(コントロールバルブ)60によってコントロールされる。バルブボディ60は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ60内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプから吐出された油圧を調整して、クラッチ等33に該クラッチ等33を締結・解放するための油圧を供給する。
【0025】
自動変速機30の変速制御は、TCU50によって実行される。すなわち、TCU50は、上述したバルブボディ60を構成するソレノイドバルブの駆動を制御することにより、クラッチ等33に供給する油圧を調節して、自動変速機30の変速段を変更する。
【0026】
TCU50には、自動変速機30の出力軸35近傍に取り付けられ、出力軸35の回転数を検出する出力軸回転センサ53が接続されている。また、TCU50には、シフトレバーの選択位置を検出するレンジスイッチ54等が接続されている。さらに、TCU50は、CAN100を介して、車輪速(車速)、エンジン回転数、アクセルペダル開度、エンジントルク等の情報を受信する。
【0027】
TCU50は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラムや変速マップ等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。
【0028】
TCU50は、取得した出力軸回転数(車速)、アクセルペダル開度、シフトレバーのシフトポジション(レンジスイッチ54の状態)等の各種情報に基づいて、自動変速機30の変速制御を行う。その際に、TCU50は、変速線図(変速マップ)に従い、車両の運転状態(例えばアクセルペダル開度や車速)に応じて自動で変速段を変更する。なお、変速線図(変速マップ)はTCU50内のEEPROMなどに格納されている。また、TCU50は、ECU80の要求に応じて、エンジン20をより高回転で運転するように、自動変速機30の変速比(変速段)を制御する(詳細については後述する)。
【0029】
特に、ECU80とTCU50は、協調して、燃料(ガソリン)がエンジンオイルに混ざることにより生じるオイルダイリューションを迅速に解消する機能を有している。ECU80及びTCU50それぞれでは、EEPROM等に記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、当該機能が実現される。ECU80及びTCU50は、特許請求の範囲に記載のコントロールユニットとして機能する。
【0030】
ECU80は、エンジン20のフリクションを推定する。そして、ECU80は、エンジン20のフリクションが所定のしきい値以下に低下した場合に、オイルダイリューションが生じていると判断して、オイルダイリューションが生じていない場合と比較して、エンジン20をより高回転で運転するように制御を行う。
【0031】
ところで、オイルダイリューションが生じると、エンジンオイルの動粘度が低下して、エンジンフリクションが低下し、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量(アイドリング回転維持必要吸入空気量)が減少する。すなわち、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量は、エンジン20のフリクション(ひいては、オイルダイリューションの有無)と相関を有する指標値となる。そこで、より具体的には、ECU80は、例えば、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量(アイドリング時の吸入空気量)の基準値とのずれ(偏差)を学習する。例えば、ECU80は、アイドリング時の吸入空気量(スロットルバルブ開度)の基準値(目標開度)に対するずれを補正するためのフィードバック値(スロットルバルブ87を開方向に補正するフィードバック値)を用いて(基準値とのずれを)学習する。
【0032】
そして、ECU80は、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量が所定のしきい値以下に低下(減少)した場合に、エンジン20のフリクションが低下していると判断、すなわち、オイルダイリューションが生じていると判断して、エンジン20をより高回転で運転するように制御を行う。
【0033】
なお、ECU80は、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量の低下が大きいほど、エンジン20のフリクションの低下が大きく、オイルダイリューションの程度が大きい(エンジンオイルに混入している燃料量が多い)と判断する。一方、ECU80は、ECU80は、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量が所定のしきい値以下に低下(減少)していないときには、オイルダイリューションが生じていない、又は、オイルダイリューションが解消されたと判断する。
【0034】
ECU80は、オイルダイリューションが生じていると判断して、エンジン20をより高回転で運転するように制御を行う際に、自動変速機30の変速比(変速段)を、エンジン20がより高回転で運転されるように制御する(変速線図をローギヤ化する)よう、TCU50に対して要求する(CAN100を介して要求情報を送信する)。
【0035】
一方、TCU50は、CAN100を介して、ECU80からの上記要求を受信した場合に、ECU80の要求に応じ、エンジン20がより高回転で運転されるように、変速制御で用いる自動変速機30の変速線図をローギヤ化する。
【0036】
ここで、オイルダイリューション解消制御で用いられる自動変速機(ステップAT)30の変速線図の一例を図3に示す。図3の横軸は車速(km/h)であり、縦軸はアクセル開度(%)である。図3では、通常の変速制御時に用いられる変速線図を実線で示し、オイルダイリューション解消制御時に用いられる変速線図を点線で示した。図3に示されるように、オイルダイリューション解消制御時は、いずれの変速段においても、車速が通常制御時よりも高くなったときに変速(シフトアップ)が実行される(シフトアップポイントの高車速化)。すなわち、車速が通常制御時よりも高くなるまで変速(シフトアップ)されなくなる(ローギヤ化)。その結果、エンジン20の運転領域が通常制御時よりも高回転側に移り又は拡がり、エンジンオイルの昇温が促進される。
【0037】
なお、ECU80及びTCU50は、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量の低下(減少幅)が大きくなるほど、エンジン20がより高回転で運転されるように、自動変速機30の変速比(変速段)を制御する(変速線図をよりローギヤ化する)ことが好ましい。
【0038】
また、ECU80及びTCU50は、エンジンオイルの温度(油温)を考慮して、エンジン20の暖機が完了した後(すなわち、エンジンオイルの動粘度が低下して安定した後)に、上述したオイルダイリューションの解消を図る制御(処理)を実行することが好ましい。なお、ECU80は、エンジン20の冷却水温度や油温等から暖機が完了したか否かを判断することができる。
【0039】
次に、図2を参照しつつ、オイルダイリューション解消装置1の動作について説明する。図2は、オイルダイリューション解消装置1によるオイルダイリューション解消制御の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、主としてECU80及びTCU50において、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0040】
エンジン20の暖機が完了した後、ステップS100では、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量が取得(学習)される。なお、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量の取得(学習)方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0041】
次に、ステップS102では、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量が所定のしきい値以下に低下したか否かについての判断が行われる。ここで、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量が所定のしきい値以下に低下した場合(オイルダイリューションが生じていると判断される場合)には、ステップ104に処理が移行する。一方、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量が所定のしきい値以下に低下していないとき(オイルダイリューションが生じていない、又は、オイルダイリューションが解消されたと判断されるとき)には、本処理から一旦抜ける。そして、通常制御時の変速線図を用いた通常の変速制御が実行される。
【0042】
ステップS104では、エンジン20がより高回転で運転されるように、自動変速機30の変速比(変速段)が制御される(変速線図がローギヤ化される)。当該制御の詳細については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。そして、その結果、エンジンオイルが昇温されて、エンジンオイルに混入している燃料(ガソリン)が揮発し、オイルダイリューションが解消される。その後、本処理から抜ける。
【0043】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量が所定のしきい値以下に低下(減少)した場合に、エンジン20のフリクションが低下していると判断、すなわち、オイルダイリューションが生じていると判断されて、エンジン20がより高回転で運転されるように制御が行われる。そのため、オイルダイリューションが生じているときに、エンジン20の運転領域が高回転化されて、エンジンオイルの昇温が促進される。そして、それに伴い、エンジンオイルに混ざっている燃料(ガソリン)の揮発が促進され、オイルダイリューションが速やかに解消される。その結果、燃料(ガソリン)がエンジンオイルに混ざることにより生じるオイルダイリューションを迅速に解消することが可能となる。
【0044】
また、本実施形態によれば、エンジン20がより高回転で運転されるように制御される際に、自動変速機30の変速比(変速段)が、エンジン20がより高回転で運転されるように制御される(変速線図がローギヤ化される)。そのため、エンジン20の運転領域が高回転化され、エンジンオイルの昇温を促進することができる。よって、エンジンオイルに混入している燃料の揮発を促進することができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、アイドリング回転を所定の回転数に維持するために必要な吸入空気量の低下(減少幅)が大きくなるほど、エンジン20がより高回転で運転されるように、自動変速機30の変速比(変速段)が制御される(変速線図がよりローギヤ化される)。そのため、オイルダイリューションの程度(度合い)に応じて、自動変速機30の変速比(変速段)のローギヤ化(シフトアップポイントの高車速化)を図ることができる。よって、オイルダイリューションの程度が酷くなるほど(エンジンオイルに混入する燃料の量が多くなるほど)、エンジン20の運転領域をより高回転領域に移して又は拡げて、エンジンオイルの昇温をより促進(すなわち、混入している燃料の揮発をより促進)することができる。
【0046】
本実施形態によれば、エンジン20の暖機完了後に、上述したオイルダイリューションの解消を図る制御(処理)が実行される。そのため、エンジンオイルの動粘度が低下して安定した後に、オイルダイリューションの有無を判断することができ、より適確にオイルダイリューションの有無を判断するができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明をプラネタリギヤ式の有段自動変速機(ステップAT)30に適用した場合を例にして説明したが、プラネタリギヤ式の有段自動変速機30に代えて、例えば、平行二軸式の有段自動変速機に適用してもよい。また、有段自動変速機(ステップAT)30に代えて、例えば、チェーン式やベルト式等の無段変速機(CVT)や、DCT等に適用してもよい。なお、無段変速機(CVT)に適用する場合には、例えば、同一車速において、エンジン20の回転数が上昇するように、変速比をロー側に変速することが好ましい。
【0048】
また、上記実施形態では、本発明を、駆動力源としてガソリンエンジン20を用いるガソリンエンジン車に適用した場合を例にして説明したが、本発明は、駆動力源としてガソリンエンジン20に加えて電動モータなどを用いるHEV(ハイブリッド車)や、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)などにも適用可能である。
【0049】
また、システム構成は、上記実施形態の構成には限られない、例えば、上記実施形態では、エンジン20を制御するECU80と、自動変速機30を制御するTCU50とを別々のハードウェアで構成したが、一体のハードウェアで構成してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 オイルダイリューション解消装置
20 エンジン
22 トルクコンバータ
30 自動変速機
31 変速機構
32 プラネタリギヤセット
33 クラッチ
35 出力軸
50 TCU
53 出力軸回転センサ
54 レンジスイッチ
60 バルブボディ
80 ECU
81 エアフローメータ
82 スロットル開度センサ
83 アクセルペダル開度センサ
84 水温センサ
85 クランク角センサ
86 カム角センサ
87 電子制御式スロットルバルブ
100 CAN
図1
図2
図3