(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041158
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】テレスコピック構造体
(51)【国際特許分類】
G01P 15/00 20060101AFI20240319BHJP
G01B 5/00 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
G01P15/00 D
G01B5/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145810
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】509206039
【氏名又は名称】株式会社大産エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 和人
【テーマコード(参考)】
2F062
【Fターム(参考)】
2F062AA01
2F062EE01
2F062EE62
2F062GG04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】測定に誤差をより少なくし、かつ、使用を継続しても、比較的簡単な整備によって、当初のさらに正確な測定結果を長期にわたって得ること。
【解決手段】2つ以上の互いに内径及び外径が異なる筒状体からなり、隣接する筒状体を挿入可能に取り付け、これを順に繰り返して最小の外径の筒状体を挿入可能に取り付ける、先端に接触子を有する多段のシリンダユニット。最小の外径の筒状体以外の全ての筒状体は各筒状体の長さ方向に設けられ、周方向に傾斜した複数のスリットを有し、複数のスリットは各筒状体の胴部の周方向に間隔を設けて複数形成され、最大の内径及び外径の筒状体以外の筒状体は、胴部に複数の凸部を有し、隣接する次に外径が大きい筒状体に形成されたスリットに凸部が摺動可能に挿入されており、凸部は樹脂により形成された凸部の頂部に凸部の下方に向けて形成された穴が設けられ、その穴を拡張する部材が挿入された、テレスコピック構造体。
【選択図】
図3(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の互いに内径及び外径が異なる筒状体からなり、最大の内径及び外径の筒状体に対して、次に大きい内径及び外径を有し、かつ隣接する筒状体を挿入可能に取り付け、これを順に繰り返して最小の外径の筒状体又は棒状体を挿入可能に取り付けてなる、先端に接触子を有する多段のシリンダユニットから構成され、
最小の外径の筒状体又は棒状体以外の全ての筒状体は、各筒状体の長さ方向に設けられ、かつ周方向に傾斜した複数のスリット及び/又は溝を有し、この複数のスリット及び/又は溝は、各筒状体の胴部の周方向に間隔を設けて複数形成され、
さらに、最大の内径及び外径の筒状体以外の筒状体又は棒状体は、その胴部に複数の凸部を有し、隣接する次に外径が大きい筒状体に形成された上記スリット及び/又は溝に、該凸部が摺動可能に挿入されており、
該凸部は、樹脂により形成された該凸部の頂部に該凸部の下方に向けて形成された穴が設けられ、その穴を拡張する部材が挿入された、
テレスコピック構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定子に最適なテレスコピック構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
テレスコピック構造体自体は各種装置に使用されるものとして知られている。例えば工作機械のカバー部材として伸縮させることが必要となる場合、自動車のステアリングコラムの位置調整機構、スタンドの足や支柱等の構造として活用されている。
このような用途のテレスコピック構造体は、内径および外径が異る複数の筒状物等が互いにスライドをしながら伸縮できる構造であるが、例えば隣合った一方の円筒が他方の円筒の内部に一部挿入された状態において、それらの円筒状物同士がその円の中心軸を中心にして角度が変位することが通常である。一方の円筒が他方の円筒の内部に一部挿入された状態で、一方の円筒が有する凸部が他方の円筒の例えば高さ方向に伸びるスリット内をスリットの長さ方向に移動できるような構造のとき、該スリットの幅方向に対して該凸部が多少のガタツキを発生させることが通常である。そのため、テレスコピック構造体に付随するものとして、円筒状物同士を固定させるためのクリップやネジ等の公知の固定部材を別に設けている。
このような従来の用途にテレスコピック構造体を使用する場合には、上記の多少のガタツキを有していても、全く問題はなく、テレスコピック構造体とはそのようなガタツキを有するものとされていた。
さらに、特許文献1に示すように変位計測用装置の測定子として、単にテレスコピック構造体を使用することまでは知られていたが、多少なりともガタツキを残していた。また、特に車両衝突用の測定子としたときに、その測定子には、一瞬のうちに大きな力が加わる。その結果として、テレスコピック構造体を構成するスリット内を移動する凸部にも力が加わるので何回も測定するうちに、スリット内壁と凸部の間の間隔が大きくなる傾向が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変位計測用装置の測定子として、単にテレスコピック構造体を使用するのみでは、上記のように通常のテレスコピック構造体が有するガタツキのために、測定子としてより正確に測定をすることが困難になる。つまり、一つ一つの円筒体が有するガタツキが、複数の円筒体を経ることにより増幅されるので、最後にテレスコピック構造体の全長の変化と、その変化に要した時間を計測するときには、そのガタツキを反映して、誤差が目立つ結果になる。そのため、一瞬の全長の変化をより正確に測定する際には、まだまだ不十分であった。さらに、何回も測定するうちに、スリット内壁と凸部の間の間隔が大きくなる傾向が生じることになり、この事象は、テレスコピック構造体を調整しても解消しなかった。
わずかにでも、スリット内壁と凸部の間に空間が存在すると、特に車の衝突試験の測定子に使用した場合に、その衝撃の強さの測定値が10%以上の誤差を有するとされている。
本発明はこのような測定に誤差をより少なくし、かつ、使用を継続しても、比較的簡単な構成によって、当初のさらに正確な測定結果を長期にわたって得ることができるテレスコピック構造体にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のテレスコピック構造体は以下のとおりである。
1.2つ以上の互いに内径及び外径が異なる筒状体からなり、最大の内径及び外径の筒状体に対して、次に大きい内径及び外径を有し、かつ隣接する筒状体を挿入可能に取り付け、これを順に繰り返して最小の外径の筒状体又は棒状体を挿入可能に取り付けてなる、先端に接触子を有する多段のシリンダユニットから構成され、
最小の外径の筒状体又は棒状体以外の全ての筒状体は、各筒状体の長さ方向に設けられ、かつ周方向に傾斜した複数のスリット及び/又は溝を有し、この複数のスリット及び/又は溝は、各筒状体の胴部の周方向に間隔を設けて複数形成され、
さらに、最大の内径及び外径の筒状体以外の筒状体又は棒状体は、その胴部に複数の凸部を有し、隣接する次に外径が大きい筒状体に形成された上記スリット及び/又は溝に、該凸部が摺動可能に挿入されており、
該凸部は、樹脂により形成された該凸部の頂部に該凸部の下方に向けて形成された穴が設けられ、その穴を拡張する部材が挿入された、
テレスコピック構造体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、測定子用テレスコピック構造体として、さらにより正確な測定ができ、かつ、使用を継続しても、比較的簡単な整備によって、当初のより正確な測定結果を長期にわたって得ることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】ダミー人形の胴部下方からみた本発明のテレスコピック構造体の設置状況の図
【
図3(a)】本発明のテレスコピック構造体の全体図
【
図3(b)】本発明のテレスコピック構造体の断面図
【
図5】本発明及び比較例のテレスコピック構造体を構成する筒状体を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のテレスコピック構造体について、図面を参照しながら説明する。なお、伸縮作業装置の構成を分かり易く説明するため、一部の構成部材に関してその図示を省略した図面を用いている。また、以下の説明により本発明を限定せず、その他の要件を加えることもできる。
【0009】
(テレスコピック構造体の設置)
本発明のテレスコピック構造体は、専ら車両の衝突試験用ダミー人形に設置されるものであり、衝突時にダミー人形が受ける衝撃を瞬時かつ正確にセンサが検知できるように構成されるものであって、測定子として使用される。この測定子は車両の衝突試験において、衝突による一瞬の衝撃の程度を、テレスコピック構造体が縮む距離及び速度の測定結果により求めるためのものである。以下に実施態様を示して説明する。
【0010】
図1に示すダミー人形(場合により、全体重量、各部位毎の重量、各部位や骨の強度等を人に近づけたもの)の内部において、体内から胸部表面や助骨に相当する部材を設けた各部位に向けて、先端の接触子が向くように伸長したテレスコピック構造体を測定子として配置する。そのテレスコピック構造体の根元の外筒は回転角度の変化及び変化の速度を検知できるセンサが接続される。車両の衝突試験時にダミー人形の胸部が衝撃を受けて、テレスコピック構造体が縮むときに、その動きをセンサが検知をして、人体の上記各部位が受ける損傷の程度を、その縮んだ程度(変位量)や速度等を他の検知結果とともに分析して得る。
【0011】
本発明のテレスコピック構造体を設けたセンサは胸部のみではなく胴体の側面や顔面、腰部、四肢等、ダミー人形の衝撃を測定する任意の箇所に、先端の接触子が体表面に向くようにして、又は任意の方向に向けて設置できる。またテレスコピック構造体を設けたセンサは大人を模したダミー人形のみではなく、子供を含む年齢別、男女別等の各ダミー人形にも設置できる。
例えば、
図2は胴部内部に本発明のテレスコピック構造体Aを設けた場合の図である。胸部内部を下からみたときを示す。テレスコピック構造体の先端は胸部の助骨を模した骨格Bの下に位置し、テレスコピック構造体の根元には角度の変化を測定するセンサC(回転角を測定する装置等)が接続されている。テレスコピック構造体A及びセンサC等を1つのユニットとして、1つ以上のユニットを、1体のダミー人形の胸部の複数箇所に設けた基板Dに対して、それぞれボルト等の公知の手段により設置し、衝突時に受ける衝撃の強さ、骨格への衝撃の強さ等を人体の各部位毎に測定する。
ここで該角度の変化を測定するセンサとしては特に限定されず、公知のものを使用できる。そして、テレスコピック構造体の瞬時の長さの変化が回転角として出力されたものを、ダミー人形が受ける衝撃下でも、正確に測定できるものであれば良い。
【0012】
(テレスコピック構造体の全体構造)
図3(a)に示すように、本発明のテレスコピック構造体は最大の内径及び外径の筒状体である外筒と、次に大きい内径及び外径を有し、かつ隣接する外筒内部に挿入され得る筒状体である内筒、さらにその内筒内に挿入され得るさらに次に大きい内径及び外径を有し、かつさらに隣接する別の筒状体である内筒を、必要なだけくり返して組み合わせることにより形成される。そして、結果的には、多段のシリンダユニットから構成されたテレスコピック構造体であるため、筒状体である外筒の内径は隣接する筒状体である内筒の外径よりも少し大きく、自由自在に内筒が外筒に対して移動可能である。このような組み合わせを順次行い、最後に接触子Tを接続等して、本発明のテレスコピック構造体とすることができる。
図3(a)においては各筒状体をE1~E6とした。筒状体E1は筒状体E2に対して外筒であり、逆に筒状体E2は筒状体E1に対して内筒であり、筒状体E3は筒状体E2に対して内筒である。このように、筒状体E1内に筒状体E2の少なくとも一部が挿入された状態であり、順に筒状体E2内に筒状体E3の少なくとも一部が挿入された状態である。なお、外筒に挿入されている内筒は、内筒の全てが外筒から分離してはずれないように、外筒の端部内壁に凸面を設け、及び内筒の端部外壁に凸面を設けて、これらの凸面が噛み合う等して筒状体が分離しないようにする等の公知の規制構造を有する。
なお、設ける筒状体の数(段数)は特に限定されず、使用する態様等に応じて任意に設定できる。
【0013】
図3(a)における接触子Tは、その先端部が衝突試験時においてその衝撃を検知する部材である。接触子Tの軸T1は筒状体E6に対して摺動可能に挿入されており、そのとき軸T1は棒状体であっても良い。又は、接触子Tは円筒体E6に一体に形成されているか、又は、E6に対して固定されてもよい。接触子Tの一例としては、軸T1とそれに接続した接触子先端部T2を有する。
これらの軸T1と接触子先端部T2はいずれも伸縮する構造ではなく、接触子Tが受けた衝撃を直に筒状体E6に伝達する役割を有する。ここで、筒状体E6はテレスコピック構造体を構成する筒状体の中で最小の内径及び最小の外径を有するものである。なお、T1は各筒状体と同じ回転軸で回転するが、T2は、その先端が例えば人体でいう助骨等に相当する部材に固定されるため、各筒状体と同じ回転軸で回転することはない。
【0014】
そして、
図3(a)における筒状体E1は、テレスコピック構造体の中で最大の内径及び外径を有するものである。この筒状体E1は図示しないものの、回転角を測定するセンサと接続されている。
図3(b)は
図3(a)のテレスコピック構造体を、その長さ方向の軸と含む平面で切断してなる断面図である。この図(b)においてユニットUは、E1を基にするテレスコピック構造体を、E1を長さ方向の軸を中心としてた回転軸により回転自在に支持する部材であり、かつ回転角を電圧に変換する等して、回転角を検知するポテンションメーターPを含むものである。換言すれば、ポテンションメーターPが直接角度を検知するのは筒状体E1の回転角である。そのため、ポテンションメーターPが検知対象となる回転角は回転軸P1の回転角であり、その回転軸P1は筒状体E1と一体化されているので、E1の回転角を回転軸P1を介してポテンションメーターPで検知することになる。そして、予め求めておいた、E1の回転角とテレスコピック構造体が縮んだ長さとの関係と照合して、E1の回転角の測定値に基づきテレスコピック構造体が縮んだ長さを求める。そしてこのテレスコピック構造体が縮んだ長さを基にして、衝突試験においてダミー人形の
なお、本発明による効果を毀損しない範囲において、ポテンションメーターに代えて、公知の回転角の計測装置を採用してもよい。
また、
図2を詳細にみると、最大の外径を有する円筒体には隣接する円筒体の多くの部分が挿入され、その他の一部は表面がから見て取れる。このように、測定前において、テレスコピック構造体の各円筒体が均一に伸縮している必要はなく、また
図3に示すように全体が完全に伸びた状態でも良く、図示はしないが、全体がある程度縮んだ状態であっても良い。いずれの状態であっても、測定の精度には影響しない。さらに、テレスコピック構造体を中間の長さになるように調整しておき、その長さを基準として、伸縮する長さを測定しても良い。このようにして、伸縮による長さの変化を回転角度に変換して、その回転角度をポテンションメーターで計測できる。
【0015】
(スリット及び/又は溝と、スリット及び/又は溝に挿入される、接触子や内筒の凸部の概要)
本発明のテレスコピック構造体は、
図3(a)に示すように、その筒状体E1~E6の側面に形成されたスリットS又は溝に、隣接する筒状体である内筒の側面に形成された凸部H又は接触子Tが有する凸部Hが挿入されている。及び、接触子Tの軸T1が筒状体E6に対して摺動可能に挿入されたときには、この軸T1の筒状体E6に挿入された部分にも、各筒状体と同様に凸部が形成される。このようにして、複数の筒状体等からなる構造を多段のシリンダユニットとした。ここで、該スリットS又は溝は、
図3(a)に示されるようにテレスコピック構造体の長さ方向Lに対して角度θにより傾斜して設けられている。
該凸部Hを有する側の筒状体En及び接触子Tは、それらのテレスコピック構造体の長さ方向Lを回転軸として回転することができる。なお、各筒状体はその胴部の周方向に一定間隔で、構造や設けられた角度が同じスリットS又は溝を、2つ、3つ、又は4つ以上設けることができる。中でも2つ又は3つが筒状物の強度及び円滑に伸縮させる上で好ましく、これらを等間隔で設けることが好ましい。そしてそれぞれのスリットS又は溝内に挿入できるように、同じ数の凸部Hが、筒状体E1~E5及び接触子Tの側面に設けられる。このような構造を備えることにより、本発明のテレスコピック構造体は、少なくともその一部でも伸縮をすると、接触子Tは筒状体E1に対して回転動作をすることになる。但し、一つのテレスコピック構造体を構成する筒状体E1~E6の径が大きい程、上記角度θは大であり、径が小さい程上記角度θは小であることが好ましい。そのとき、上記の長さ方向Lに対する角度θは筒状物により異なる。
【0016】
(テレスコピック構造体の動き)
ダミー人形内に設置し、センサに接続をした本発明のテレスコピック構造体Aは、車両の衝突時の衝撃を受けて、伸長していた多段の円筒体の少なくとも一部が一瞬のうちに縮むことになる。その縮む過程において、まず、接触子である先端部Tが一つ筒状体E1よりの筒状体E6内に挿入されるように移動をする。このとき、筒状体E6が有する複数のスリット/又は溝に挿入されていた該接触子Tの複数の凸部が、筒状体E6のスリット及び/又は溝に沿って動く。その凸部の動きは、スリット及び/又は溝が周方向に傾斜してるために、その内筒の周方向に移動する。その結果として該接触子T全体がテレスコピック構造体の中心の長さ方向を回転軸にして回転運動をする。
【0017】
接触子である接触子Tが一つ筒状体E1よりの筒状体E6内への挿入及び回転が開始されると同時に、挿入された筒状体E6も、さらに筒状体E1方向に隣接する筒状体E5に挿入及び回転が開始される。順に、該筒状体E5は筒状体E4に挿入及び回転が開始され、これが順になされて、筒状体E2は筒状体E1内に挿入されながら、筒状体E1も回転し、結果的に全筒状体が回転する。
車両の衝突の衝撃により、テレスコピック構造体Aに力が加わったときには、各筒状体それぞれが、筒状体E1方向に隣接する筒状体に挿入される。その結果、各筒状体はそれぞれ筒状体E1方向に隣接する筒状体に同程度の移動距離になるように挿入されて、テレスコピック構造体A全体はある程度の長さが短い状態となる。その結果であるテレスコピック構造体Aの長さの変化を、図示しない回転角センサにより、回転軸を中心とした回転角の大きさや回転速度として検知して測定が終了する。
車両の衝突の状況により、筒状体E2からE6までの全てが筒状体E1内に挿入されず、テレスコピック構造体が縮む動きが途中で停止されたとき、筒状体E2~E6はそれぞれ隣接する筒状体E1~E5に対して、同じ長さとなるように挿入されている。このようなときでも、テレスコピック構造体の全体の縮む長さ、つまり、スリットSに合わせて各筒状体が回転をしながら、隣接する筒状体の中に挿入した長さを、各筒状体について合計した長さと、筒状体E1の回転角は比例する。そして、例えば筒状体E6が筒状体E5内に全て挿入され、筒状体E5は筒状体E4内に半分程度しか挿入されているということは発生しない。
【0018】
本発明は、このようなテレスコピック構造体Aにおいて、特に凸部Hと該スリットS又は溝という特別な構造を備える。
図4は比較例である測定子用の従来のテレスコピック構造の、凸部H1を含む断面図である。従来のテレスコピック構造筒状体の一つの筒状体アに他の筒状体イの一部が挿入された状態で、筒状体アが有する3つのスリットSを含む箇所で、筒状体イの凸部H1が存在する位置を、テレスコピック構造体の長さ方向に垂直に切断した断面を示す図とする。他の筒状体同士も同様の断面を有する。
図4では3つのスリットSには筒状体イの凸部H1がある。筒状体イが筒状体アの内部にさらに挿入されるときには、
図4において筒状体イが移動する。
このとき、
図4に示す例は、該スリットの幅は3.00mmであり、該凸部の径は2.98mmである(なお、
図4に示すスリットの形状は、正確にはそのスリット幅を示していない。
図4に示すスリットは、スリットの幅に対して、ある角度をもって傾斜して切断した断面におけるスリットの形状を示す)。
このように、例えばスリットと凸部が円滑に動くための公差が0.02mmのクリアランスがあると、テレスコピック構造体の最大の円筒体の根元から10cmの位置において、片側で0.06°のガタツキが発生し、他側へのガタツキを考慮すると、テレスコピック構造体は±0.12°のガタツキが1段に付き発生する(例えば
図3(a)のように6段であるとその6段分が累積したガタツキになり、そのテレスコピック構造体の最も根元で直径20cmであるときには0.3~0.36°のガタツキ(誤差)が発生する)。
つまり、上記比較例にて示すスリットSと凸部H1との関係は、凸部H1がスリットS内に対して、若干の遊びを持った状態で入っている。
【0019】
図5に基づいて、本発明のテレスコピック構造体Aにおける凸部HとスリットS又は溝との関係を説明する。
図5(a)はいずれもスリットが筒状体の長さ(高さ)方向に並行に形成された例である。比較例は従来のテレスコピック構造であり、実施例は本発明テレスコピック構造体Aにおいてスリットの形成方向のみを変えた例である。
比較例は凸部を構成するガイド部材H1の頂点からネジ又はセットビスH2で、該ガイド部材H1を内部に挿入された筒状体の外面に固定をした例である。実施例はガイド部材H3の頂点から平ネジH4で、該ガイド部材H3を内部に挿入された筒状体の外面に固定をした例である。この比較例は上記
図4に関連してガタツキを説明した比較例に相当する。
【0020】
図5(b)は、上記の比較例と実施例の図において、線Aにて切断をしたときの断面を示す図である。この図において比較例は筒状体に凸部を固定させるためのネジ又はセットビスH2は、全体としてストレート形状であって、ネジを使用する場合でもその頭部(ネジでいう頭部にあたる箇所)もその他の箇所と同じ径である。又はネジの頭部がガイド部材H1内に入らない形状である。それに対して実施例では、凸部を筒状体に固定させるためのネジは、その頭部が拡張した部材である、所謂平ネジのような形状である。これにより平ネジH4の頭部(ネジの先に向けてテーパー状である)がガイド部材H3内に入ることになり、その頭部がガイド部材H3の上部内面を外面に向けて押す作用を有して、ガイド部材H1の外面を拡張させる作用を有する。ネジを横から見た場合、特にネジの頭部外周からネジ山にかけてテーパー状等に拡がるように形成されている場合には、より確実にガイド部材H3の上部外面を拡張させる作用を発揮する。
【0021】
図5(b)の円C及び円Bの範囲を拡大した図を
図5(c)として示す。この図の比較例における凸部を形成させるためのセットビスは、依然としてストレート形状であって、そのビスの機能はガイドローラである凸部のガイド部材H1を内部の筒状体に単に固定することに留まる。ガイド部材H1の内面を拡げるように力が加わるのではない。そして、スリットと凸部には、上記
図4において従来技術として説明したような0.02mmのクリアランスが存在して、このクリアランスが減少することはない。それに対して実施例では、上記のとおり、凸部を形成させるためのネジH4は、その頭部が拡張した、所謂平ネジのような形状であるために、凸部のガイド部材H3の内面及び外面を拡げるように作用する。つまり、樹脂により形成された該凸部の頂部に該凸部の下方に向けて形成された穴が設けられ、その穴を内径を拡張する部材が挿入された構造を有し、穴の内径が拡張された結果、穴を有する凸部の外径も大きくなる。その結果、凸部であるガイド部材H3の外面と、スリット内面との間のクリアランスは実質的に0になり、その凸部であるガイド部材H3は、外部の筒状体のスリットに対して、よりガタツキがなく固定・摺動する機能を発揮できる。それに加えて、該ガイド部材H3が特に樹脂等で構成されているときには、該ガイド部材H3の特に上部(外側の筒状体の表面によリ近い部分)を、特にその周方向に膨出させる機能をさらに有する。
例えば上記の凸部に設けた穴に挿入され、穴の内径を拡張する部材は、穴の中に入る部分の少なくとも一部がテーパー形状を有すると、その穴の内径を拡張する部材を穴の中に入れる程度により、穴の内径の拡張の程度を調整できる。
【0022】
具体的には、穴の内径を拡張する部材として、平ネジのように、ネジ穴にネジの頭を全て埋め込むことができるネジを使用して、ガイド部材H3のネジ穴を用いて、内部の筒状体に凸部を固定するときに、ガイド部材H3の特に上部は、そのネジの頭の拡径した部分によりその内部から外部に向けて押されることになる。その結果として、ガイド部材H3の特に上部の外径が大きくなる。
つまり、ガイド部材H1の上部の外径を拡径しない比較例によれば、その凸部外周とスリット内面との間に無視できない間隔(例えば上記のように0.02mm)が残存する。
しかしながら実施例によれば、少なくともガイド部材H3の上部の外径が拡径されるので、その凸部外周とスリット内面とは密着をして、スリットに対して凸部が移動する際にはスリット内面の両壁を摺動するので、凸部外周とスリット内面の間隔は実質的に無くなる。
この結果として、本発明のテレスコピック構造体は伸縮する際のガタツキを明らかに低減させることができる。その結果として、衝突実験におけるセンサの接触子として使用しても、より正確な測定結果を得ることができる。
【0023】
なお、本発明において筒状体は、これまで衝突試験で使用されたテレスコピック構造体の筒状部を形成してきた材料でよい。鉄や鉄合金、ステンレス、アルミニウムやアルミニウム合金等を採用できる。
そして凸部のガイド部材H3の材料は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂等の公知のエンジニアリング樹脂を採用できる。本発明のテレスコピック構造体自体にも衝突試験時において大きな力がかかり、凸部を構成するこれらの樹脂の急激な摺動等により大きな力がかかる。そのため、上記のようなエンジニアリング樹脂を採用することが好ましい。またこのようなエンジアリング樹脂に必要な特性としては、成形品が剛直過ぎず、その硬度は下記に示すネジにより凸部が拡径されるように変形できる程度であることが必要である。
【0024】
このように、本発明のテレスコピック構造体は、筒状体に設けたスリットとその中を移動する凸部を有し、その凸部の頂部から内部に形成された穴に、その穴の内径を拡張する部材が挿入されたものである。その穴を拡張する部材はネジ等であり、特に上記のエンジアリング樹脂からなる凸部用成形品に設けたネジ穴に装着されるものである。そしてこのネジ等が必要とする性質は、このネジ穴に装着されて、ネジの頭部がネジ穴に入ることであり、かつ、その入ことにより、そのネジ頭がネジ穴の内壁面を凸部の少なくとも上部の直径を拡径させる作用を発揮させることである。つまり上記のように、特にネジの頭部外周からネジ山にかけてテーパー状形成されている場合には、十分にガイド部材H3の特に上部の外径を大きくできる。
テレスコピック構造体は、通常ダミー人形に装着された状態で何回も衝突試験に使用される。何回も衝突試験に使用されるうち、従来のテレスコピック構造体の凸部の側面が、仮に摩耗等すると上記に記載の公差がさらに大となり、凸部を交換するという比較的大掛かりな補修をしない限り、さらにおおきなバラツキが発生して、ますます正確な測定ができない。これに対して、本発明においては凸部とスリットにわずかでもクリアランスが生じたときには、ネジを調整して、ガイド部材H3内にネジをさらに押し込むことにより、凸部を形成するエンジニアリング樹脂の成形体の外径を更に拡げるという比較的簡便な方法により、再びクリアランスがなく、より正確な測定結果を得るためのテレスコピック構造体にすることができる。
【符号の説明】
【0025】
A:テレスコピック構造体
B:骨格
C:センサ
D:基板
E1~6:筒状体
P:ポテンションメーター
P1:回転軸
U:ユニット
T:接触子
T1:軸
T2:接触子先端部
H:凸部
H1:ガイド部材
H2:ネジ又はセットビス
H3:ガイド部材
H4:平ネジ
S:スリット又は溝