(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024041161
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】皮膚外用剤及び内用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240319BHJP
A61K 36/73 20060101ALI20240319BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240319BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240319BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20240319BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240319BHJP
A23G 3/48 20060101ALI20240319BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/73
A61P17/00
A61P43/00 105
A61P39/06
A61Q19/08
A61Q19/02
A23L33/10
A23G3/48
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145816
(22)【出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】瀬岡 真緒
(72)【発明者】
【氏名】村上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B117
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B014GB08
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4C088NA14
4C088ZA89
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4C088ZC37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】メラニン生成抑制作用、コラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用及び抗酸化作用に優れた新規な外用剤又は内用剤を提供する。
【解決手段】特定の方法による乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物は、優れたメラニン生成抑制作用、コラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用及び抗酸化作用を有し、安定性にも優れていた。このことから、乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物は、皮膚の老化予防といった美容分野だけでなく、老化による機能低下の抑制、ガンの予防、治療等といった医療分野にも利用でき、化粧品、医薬部外品、医薬品及び食品等への応用が期待される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするコラーゲン産生促進剤。
【請求項3】
水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするMMP阻害剤。
【請求項4】
水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項5】
水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とする細胞増殖促進剤。
【請求項6】
水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項7】
水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするシワ改善剤。
【請求項8】
水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするメラニン生成抑制剤。
【請求項9】
水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とする美白剤。
【請求項10】
水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするMMPの亢進が原因で起こる各種疾患の予防・改善用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン生成抑制剤、コラーゲン産生促進剤、MMP阻害剤、ヒアルロン酸産生促進剤、細胞増殖促進剤、抗酸化剤及び内用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シミ、ソバカス、日焼け等に見られる皮膚の色素沈着は、ホルモンの異常や紫外線の刺激により、皮膚内に存在するメラニン色素生成細胞がメラニン色素を過剰に生成し、これが皮膚内に沈着することが原因と考えられている。このような色素沈着を防ぐ方法の一つに、メラニンの過剰な生成を抑制する方法が知られている。従来、色素沈着の治療には、内用や外用において、アスコルビン酸(ビタミンC)等が美白剤として用いられてきた(特許文献1)。
【0003】
真皮には線維芽細胞やコラーゲンが存在し、I型コラーゲンが全体の80%を占める。I型コラーゲンの他には、III、V、XII及びXIV型コラーゲン等の存在が知られている。シワやたるみの原因の一つとして、I型コラーゲンの減少が挙げられる。従って、I型コラーゲンの産生を促進させることがシワやたるみの予防・改善に有効であると考えられる。また、I型コラーゲンの産生促進は皮膚の創傷治癒の改善にも有効である。
【0004】
また、皮膚は紫外線の他、乾燥、寒冷、熱、薬物等の様々な物理的及び化学的ストレスに日々曝されている。その結果、皮膚の機能低下が引き起こされ、様々な皮膚の老化現象が顕在化する。皮膚の老化現象の一つにシワがある。シワには、表皮性のシワと、真皮性のシワの2種類が存在することが知られている。表皮性のシワは小ジワと呼ばれ、皮膚の乾燥により、表皮角質中の水分量が低下することによって一時的に生じるシワである。一方、真皮性のシワは、太陽光線に含まれる紫外線や加齢によって形成されるシワである。その形成メカニズムとしては、紫外線や加齢による真皮線維芽細胞におけるコラーゲン合成能の低下や、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の増加によるコラーゲンの分解促進が挙げられる。
【0005】
乾燥に起因する表皮性のシワと真皮性のシワでは、組織学的形態、発症メカニズム、治療方法が異なり、紫外線や加齢により生じる真皮性のシワは、保湿効果を有する化粧品の使用によって改善することは困難である。
【0006】
これまでに、紫外線によって生じる真皮性のシワを改善することを目的として、加水分解アーモンドを有効成分とする皮膚のシワ形成防止・改善剤(特許文献2)、ジョチョウケイ、テンキシ及びキセンソウの抽出物を有効成分とする紫外線照射に起因するシワの改善剤(特許文献3)が報告されている。
【0007】
MMPはガン細胞の間質内湿潤、血管内への侵入及び血管新生に大きな役割を担っている。間質はI型コラーゲンを主体としており、ガン細胞の移動には間質コラゲナーゼ等による基質の破壊が必要となる。転移完成には血管内皮基底膜を破壊し間質内を移動することが必要で、この段階においてもMMPが関与している(非特許文献1)。従って、MMPに対して阻害活性を有する物質は、ガン組織における血管新生やガンの転移を抑制する効果が期待され、ガン疾患の予防、治療に有用であると考えられる。このようにMMPの阻害はガン疾患、潰瘍形成、動脈硬化、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、歯周炎等、MMPの亢進が原因で起こる各種疾患の予防、治療及び改善に有用である。
【0008】
MMPに属するコラゲナーゼ(MMP1)は、線維芽細胞や軟骨細胞等が産生する酵素であり、コラーゲンの分解促進に大きく関与している。コラーゲンは、哺乳動物組織の約1/3を占める主要な構造タンパク質であり、軟骨、骨、腱、歯茎及び皮膚等の多くのマトリックス組織の必須な成分である。コラゲナーゼにより一箇所を切断されると、通常の組織内では安定なコラーゲン分子は、変性して一本鎖のゼラチンとなり、他の様々なプロテアーゼにより分解されるようになる。その結果、マトリックス組織の構造の完全性が失われ、シワ、ガン疾患、潰瘍形成、骨粗鬆症及び歯周炎等の原因となる。
【0009】
コラゲナーゼの阻害活性を有する素材として、例えば、カカオ豆皮であるカカオハスク抽出物(特許文献4)、バラ科オニイチゴ抽出物(特許文献5)、ラクトフェリン(特許文献6)等が提案されている。皮膚老化や口腔衛生にますます関心が高まっている状況下で、副作用がなく、安全性が高い、コラゲナーゼ活性阻害作用の優れた素材を見出すことが求められている。
【0010】
MMPに属するゼラチナーゼ(MMP2)は、線維芽細胞や内皮細胞、ガン細胞等が産生する酵素であり、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン(動脈、腱、皮膚等の弾性組織の特殊成分をなす構造タンパク質)等の基質を分解する。従って、ゼラチナーゼによりエラスチンが分解されると、ガン疾患、動脈硬化、慢性関節リウマチ等の疾患や靭帯断裂等の怪我のリスクが高まる。
【0011】
また、線維芽細胞はコラーゲン等のタンパク質及びヒアルロン酸等のグリコサミノグリカンを産生して真皮結合組織を形成し、皮膚のハリを保っている。この結合組織が収縮力を失い、さらに弾性力を失う結果として、皮膚のシワやたるみが発生すると考えられている。
【0012】
特にヒアルロン酸は結合組織に広く分布する高分子多糖体として知られており、真皮中でゲル状の形態を呈し、肌の弾力を維持している。従って、ヒアルロン酸の変質や減少が皮膚老化において重要であると考えられている。また、ヒアルロン酸は高分子であるため、それを含有した化粧料を皮膚に直接塗布しても吸収されにくいという問題があった。そこで、これまで、線維芽細胞を活性化することで、細胞自らのコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進させることができる皮膚外用剤が模索されてきた(特許文献7)。
【0013】
また、ヒアルロン酸は関節にも存在しており、関節の荷重の衝撃を和らげたり、関節の動きを滑らかにしたりする機能を果たしていることが知られている。正常な人間の関節液中のヒアルロン酸濃度は約2.3mg/mLであるが、慢性関節リウマチの場合、関節液中のヒアルロン酸濃度は約1.2mg/mLと低下し、同時に関節液の粘度も著しく低下する(非特許文献2)。また、化膿性関節炎や痛風性関節炎等でも、慢性関節リウマチの場合と同様、ヒアルロン酸含量の低下が起こることが知られている(非特許文献3)。上記疾患において、潤滑機能の改善、関節軟骨の被覆・保護、疼痛抑制及び病的関節液の改善のために、関節液中のヒアルロン酸量を増加させることが考えられる。例えば、慢性関節リウマチの患者にヒアルロン酸ナトリウムの関節注入法を行うと、上記の症状の改善が認められることが知られている(非特許文献4)。しかしながら、上記疾患の治療は長期に渡る。従って、日常生活の中で手軽に予防や治療等ができるように、ヒアルロン酸産生促進剤を含有させた皮膚外用剤や医薬品、食品が望まれている。
【0014】
飛蚊症とは、視界内に糸くずや蚊のように見える薄い影が現れる症状で、目の内部を満たす硝子体内の混濁が網膜上に影を落とすことで発生する。飛蚊症は大きく2種類に分けることができ、加齢や紫外線、活性酸素等の影響で発症する生理的飛蚊症と、網膜剥離、網膜裂孔、硝子体出血、ぶどう膜炎等の疾患の一症状として現れる病的飛蚊症がある。生理的飛蚊症は、硝子体の主要成分であるヒアルロン酸の減少による液状化と、それに伴うコラーゲン線維の分解で硝子体内が混濁することで生じる。治療法として、硝子体切除手術やレーザー治療があるが、これらの施術は安全性の観点から日本ではあまり行われていないという実情があり、海外で治療を行うには多額の費用が必要となる。そのため、生理的飛蚊症を予防・改善するためには日常的に利用可能なヒアルロン酸産生促進剤を含有させた医薬品や食品が望まれている。
【0015】
一般に、加齢と共に表皮角化細胞の増殖・分裂能は低下し、表皮層自体は薄くなる(非特許文献5)。生体因子であるEpidermal Growth Factor(EGF/上皮細胞成長因子)や女性ホルモン(エストロゲン)は皮膚の表皮角化細胞増殖に働きかけるが、加齢と共にその分泌は低下する。このような加齢による表皮角化細胞代謝機能の低下は皮膚のターンオーバー速度を遅らせ、肌荒れや皮膚の老化の原因となる。また、角層表面から剥がれ落ちる角層細胞が滞留することで、表皮内のメラニンの排泄がスムーズに行われなくなり、色素沈着や肌のくすみの原因となる。さらに表皮の創傷治癒が遅くなること等も知られている。これらの現象の進行を防止あるいは改善するために、表皮角化細胞の増殖を促進させる成分の探索や、皮膚外用剤の提案が多くなされてきた。
【0016】
また、皮膚は生体の最外層に位置し、紫外線等の影響により活性酸素が発生しやすい臓器であり、絶えずその酸素ストレスに曝されている。一方、皮膚細胞内には活性酸素消去酵素が存在しており、その能力を超える活性酸素が発生しない限り活性酸素の傷害から皮膚細胞を防衛している。ところが、皮膚細胞内の活性酸素消去酵素の活性は加齢と共に低下することが知られており、活性酸素による傷害がその防御反応を凌駕した時、皮膚は酸化され、細胞機能が劣化して老化が進行すると考えられる。また、皮膚以外の臓器においても、その活性酸素消去能を超える活性酸素に曝された時、機能低下が起こり老化したり、ガンや心筋梗塞等様々な生活習慣病が発症したりすると考えられる。そこで、活性酸素による傷害から生体を防御することを目的として活性酸素消去剤や抗酸化剤が検討され、SODやカタラーゼ等の活性酸素消去酵素、SOD様活性物質等の活性酸素消去剤や抗酸化剤を含有した化粧品、医薬部外品、医薬品及び食品等が開発されている(特許文献8、9)。
【0017】
乾式加熱処理とは、素材に水を加えずに、火や空気、油、金属板等を媒介して熱を加える加工方法を指す。一般的には、乾式加熱処理によってタンパク質等の化学成分に変化が生じるとされていて、色味や味、香り等を変化させることが可能である。加熱する温度や時間によっても、化学成分の変化には違いが生じる。
【0018】
従来、バラ科バラ属の花及び蕾がコラーゲン合成促進効果を有していること(特許文献10)や、バラ科バラ属のダマスクバラ(Rosa damascena)が抗酸化効果、抗炎症効果及び美白効果を有していること(特許文献11)、イザヨイバラ(Rosa roxburghii)の果実の抽出物が保湿効果及び感触促進効果を有することが知られている(特許文献12)。しかしながら、バラ科バラ属の果実に乾式加熱処理を施すことで、乾式加熱処理を施していないバラ科バラ属の果実と比べて、その抽出物が顕著なメラニン生成抑制作用、コラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用及び抗酸化作用を示すことは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平5-229931号公報
【特許文献2】特開2000-119125号公報
【特許文献3】特開2006-199611号公報
【特許文献4】特開平3-44331号公報
【特許文献5】特開2003-137801号公報
【特許文献6】特開平5-186368号公報
【特許文献7】特開2007-1924号公報
【特許文献8】特開平2019-125060号公報
【特許文献9】特開2013-218808号公報
【特許文献10】特開2020-7363号公報
【特許文献11】特開2014-240375号公報
【特許文献12】特開2016-222612号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】「消化器癌におけるマトリックスメタロプロテアーゼ」、日本消化器病学会、100巻、152頁、2003年
【非特許文献2】“Arthritis Rheumatism”, Vol.10,pp 357,1967
【非特許文献3】「結合組成」、金原出版、481頁、1984年
【非特許文献4】「炎症」、日本炎症学会、11巻、16頁、1991年
【非特許文献5】Varani J et al., J Invest Dermatol, Vol.3,pp 57-60,1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
安全で安定性に優れ、メラニン生成抑制作用、コラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用及び抗酸化作用に優れた素材が望まれているが、未だ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
このような事情により、本発明者らは鋭意検討した結果、乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物が優れたメラニン生成抑制作用、コラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用及び抗酸化作用を持ち、安定性においても優れていることを見出した。さらに、その抽出物を含有する外用剤又は内用剤が、安全で安定であり、メラニン生成抑制作用、コラーゲン産生促進作用、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用及び抗酸化作用に優れており、多機能性美容・健康用素材、医薬品と成り得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(2)水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするコラーゲン産生促進剤。
(3)水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするMMP阻害剤。
(4)水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
(5)水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とする細胞増殖促進剤。
(6)水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とする抗酸化剤。
(7)水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするシワ改善剤。
(8)水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするメラニン生成抑制剤。
(9)水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とする美白剤。
(10)水を添加せずに100℃以上に加熱する乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有することを特徴とするMMPの亢進が原因で起こる各種疾患の予防・改善用食品組成物。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出物を含有するメラニン生成抑制剤(美白剤)、コラーゲン産生促進剤、MMP阻害剤、ヒアルロン酸産生促進剤、細胞増殖促進剤及び抗酸化剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明で用いるバラ科(Rosaceae)バラ属(rosa)の植物の種は、特に限定されるものではなく、例えば、イザヨイバラ(Rosa roxburghii)、イヌバラ(Rosa canina)、オオタカネバラ(Rosa acicularis)、カラフトイバラ(Rosa amblyotis)、サクラバラ(Rosa uchiyamana)、ノイバラ(Rosa multiflora)、ハマナス(Rosa rugosa)、モッコウバラ(Rosa banksiae)、モリイバラ(Rosa jasminoides)、ヤマイバラ(Rosa sambucina)、ロサ・ガリカ(Rosa gallica)、ロサ・カロリナ(Rosa carolina)、ロサ・キネンシス(Rosa chinensis)、ロサ・ゲンティリアナ(Rosa gentiliana)、ロサ・ダマスケナ(Rosa damascena)、ロサ・ピンピネリフォーリア(Rosa pimpinellifolia)、ロサ・ミヌティフォリア(Rosa minutifolia)、又はそれらバラ属植物の変種・交配種等を用いることもできる。これらのバラ属の植物には、多くの栽培品種が知られており、これらの栽培品種のバラの果実を用いても良い。本発明においては、その効果の高さから、原種として知られているバラ科バラ属の乾式加熱処理を施した果実を用いることが好ましい。
【0026】
バラ科バラ属の果実としては、その長径が1~10cmの範囲のものを使用するのが好ましい。それに加えて、その長径が1~4cmの範囲のものを使用するのが特に好ましい。また、使用する果実は、生でも良いし、自然乾燥品や天日乾燥品等の乾燥品を使用することもできる。
【0027】
前述のように、乾式加熱処理とは、素材に水を加えずに、火や空気、油、金属板等を媒介して熱を加える加工方法を指す。一般的には、乾式加熱処理によってタンパク質等の化学成分に変化が生じるとされていて、色味や味、香り等を変化させることが可能である。加熱する温度や時間によっても、化学成分の変化には違いが生じる。
【0028】
バラ科バラ属の果実の乾式加熱処理の温度は100℃以上が好ましく、120~300℃がより好ましい。さらに、150~250℃が特に好ましい。300℃以上では、植物の炭化が進みやすく、抽出に不向きである。乾式加熱処理の時間は、温度によっても異なるが10分以上が好ましく、15~60分がより好ましい。さらに、20~40分が特に好ましい。60分以上加熱すると、植物の炭化が進むことが多く、抽出に不向きなことが多い。また、これらの処理については、2回~5回等回数を分けて行っても良い。その際の合計時間は、前述の時間となることが好ましい。
【0029】
乾式加熱処理の方法としては、乾燥機、焙煎機、金属製のトレー、フライパン、金属鍋、圧力鍋、石鍋、鉄板、焙烙、ホットプレート、焼き石、アルミホイル、オーブントースター、グリル等を用いることができ、必要に応じて撹拌等を行うこともできる。また、乾式加熱処理を行った果実は、通常の加熱乾燥と比べて、果実の色がより濃くなり、状況によっては茶色~黒褐色に変化することが多い。
【0030】
乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実の抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであっても良いし、常温抽出したものであっても良い。また、抽出には、乾式加熱処理を施した果実をそのまま使用しても良く、乾燥、粉砕、細切等の処理を行っても良い。
【0031】
溶媒による抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出(例えば40~100℃)、常温抽出(例えば15~25℃)、低温抽出(例えば0~15℃)、撹拌抽出又はカラム抽出する方法等により行うことができる。抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良い。特に好ましい抽出溶媒としては、水、水-エタノールの混合極性溶媒又は水-1,3-ブチレングリコールの混合極性溶媒が挙げられる。低級アルコール類や液状多価アルコール類の濃度としては、目的とする有効性によって変わるが、5重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、50重量%以上が最も好ましい。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0032】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば乾式加熱処理を施したバラ科バラ属の果実(乾燥重量)に対し、5倍以上、好ましくは10倍以上であれば良いが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類や抽出時の圧力等によって適宜選択できる。
【0033】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良いが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いても良い。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0034】
本発明は、上記抽出物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は食品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤、甘味料、酸味料等の成分が含有されていても良い。
【0035】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品、食品のいずれにも用いることができ、その剤形としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、錠菓、チョコレート、ガム、飴、飲料、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、坐剤、注射用溶液等が挙げられる。
【0036】
外用の場合、本発明に用いる上記抽出物の含有量は、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。さらに、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を超えると、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0037】
内用の場合、摂取量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なる。通常、成人1人当たりの1日の摂取量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。さらに、20mg~2gが最も好ましい。
【0038】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、処方例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。製造例と処方例に示す含有量の%とは、重量%を示す。
【実施例0039】
イザヨイバラ果実(水分量80重量%)をステンレス製のトレーに均一に並べ、送風下、200℃の温度で30分間乾式加熱処理を施したものを製造例1~4に用いた。
【0040】
(製造例1)乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の熱水抽出物の調製
乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、凍結乾燥して乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の熱水抽出物を6.0g得た。
【0041】
(製造例2)乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の50%エタノール抽出物の調製
乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固し、乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の50%エタノール抽出物を2.4g得た。
【0042】
(製造例3)乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実のエタノール抽出物の調製
乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の乾燥物10gを200mLのエタノールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固し、乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実のエタノール抽出物を0.070g得た。
【0043】
(製造例4)乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の乾燥物10gを200mLの1,3-ブチレングリコールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過し、乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の1,3-ブチレングリコール抽出物を195g得た。
【0044】
(比較製造例1~4)乾式加熱処理を施していないイザヨイバラの果実の抽出物の調製
製造例1~4において、乾式加熱処理を施したイザヨイバラの果実の乾燥物を、乾式加熱処理を施していないイザヨイバラの果実の乾燥物に置き換えて、各抽出物をそれぞれ4.2g、1.1g、0.58g、190g得た。